前スレ
上条「俺がジャッジメント?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1310751369/)
~注意~
・二日、三日に一度という投下ペース
・上条×初春
・禁書の知識も曖昧
・多分シリアス
・>>1ロリコン
~ごくごく簡単な登場人物紹介~
上条当麻:晴れて第一七七支部の仲間入り。初春といい感じ。
初春飾利:上条大好き妄想っ娘。上条に対してはやたらと積極的。
白井黒子:上条さんに何やら想いが芽生え、初春と上条さんがいちゃいちゃしてるとぐぬぬしちゃう娘。
佐天涙子:初春の恋を応援する娘。ただ知り合った上条さんの交遊関係にびっくりしてる。
御坂美琴:上条さん大好きっ娘。最近素直になりつつあるけど、やっぱりまだ恥ずかしさが先行。初春と上条の仲の進展に驚いている。
固法美偉:年齢不詳のダイナマイトボディな第一七七支部長。初春の恋を応援してる。
次回は二日以内に投下しにきます!
>>1
スレ立て乙!
とりあえず前スレ↓
上条「俺がジャッジメント?」
上条「俺がジャッジメント?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1310751369/)
上条「…………………………っ!」
目の前まで迫った閃光が弾けて飛び散る。
異能の力を全て消し去る右手を背中に隠し、美琴の苦しみ、悲しみを全身で受け止めようとただじっと耐えるつもりであったのだが、雲散していく電撃を見て顔を歪めた。
上条「………………御坂」
美琴「どうして、右手を隠したの?」
今にも泣き出しそうな表情で美琴が呟く。
突き出した腕もそのままに、上条を睨みつけていた。
実際に、泣いているのかもしれない。
いや────泣いているのだろう。
美琴「戦えって言ってんでしょうが! 私の電撃の威力くらいわかるでしょ!? 無事じゃすまないわよ!?」
上条「………………俺は、戦わない」
美琴「あの時とは違う! 今度は本気なのよ!?」
上条「それでも、俺は戦わない」
美琴「何でよっ!!」
再び美琴の身体が帯電し、電気が美琴の身体に巻き付く。
美琴の激昂を表すかのように、激しく荒れながら迸り美琴の身体中を駆け巡っている。
そして突き出した腕に電気を集中させると、半歩踏み出して上条に指先を向け始めていた。
美琴「何でよ……………………」
上条「…………撃てよ。今度は外すなよ」
美琴「右手を、出しなさい。さもなくば………………死ぬわよ」
上条「…………………………俺は、知っている」
美琴「何を、よ………………」
───そうだ、俺は知っている。
目の前の少女の、大切な者を守ろうとする心を。
唐突に現れた自分と同じ姿をした、大事な家族の為に自身の命を投げ出してまでも救おうとしていた事を。
たかが知り合い程度の男にも、ロシアまで赴いて助力しようとしてくれた事も。
痛みを知った目の前の少女が、強き優しさを持っている事も。
上条「撃てよ! それで悲しみ、苦しみが紛れるってんならそんなんいくらでも受け止めてやる!」
美琴「……………………………っ」
上条「お前は一人なんかじゃねえ! 白井はお前を慕ってくれる大事な後輩じゃねえのか!?」
美琴「……………………さぃ……」
上条「初春さんはお前を大事にしてくれるかけがえのない友達じゃねえのか!?
佐天さんもそうだろ!? 今まで四人で頑張ってきたんだろ!?」
美琴「………………るさい……」
上条「妹達だってお前の事が大好きでしょうがねえんだぞ! 色々あったってのをお前に言わなかったのも、お前にこれ以上悲しくて苦しい思いをさせたくなかったっつってたんだよ!
お前だってあいつらの事大好きなんじゃねえのか!?」
美琴「……うるさい…………っ」
上条「俺だって俺の言う事が全てが正しいなんて思っちゃいないし、俺がどうこう言ったってしょうがねえかもしれねえ………………
ただ、お前を信じてるあいつらを、お前が信じられなくなってどうすんだよ!?」
美琴「うるさい………………っ!」
上条「許せとは言ってねえ! 俺だってあんな事があって、今でも許してねえさ! お前の許せない気持ちだってわかってるさ!
だからってあいつらまで信じられねえなんて事は違うんじゃねえのか!?
友達だろ!? 家族なんだろ!?」
美琴「うるさいっっ!!」
美琴の突き出した指先に、一際更に電気の量が増して閃光の塊のようなものへと収束されていく。
その相当な質量は熱を帯び、視界を揺らがせていた。
学園都市第三位のレベル5の美琴のその力は、間違いなく『一人で軍隊と戦える』ほどの能力者だ。
その美琴の全力で放つ電撃は、一瞬で物質を蒸発させてしまうのだろう。
ごちゃごちゃになった頭では、もう何も考えられない。
考えたくない。
信じられない。
全てが裏切られたような気がして、どこまでも孤独を感じて。
上条「なあ、御坂………………!」
美琴「ぃゃ………………、来ないで…………っ!」
だからこそ、上条は近付く。
それを撃ち込まれようが、何をされようが。
目の前の一人の人間を救えないで、何が『自分の掲げた正義を貫く』だ。
この右手なんざ使わなくとも、お前の幻想はぶち殺してやる。
美琴「いやああああああああぁぁぁぁっっっ!!」
上条「っ!!」
そして美琴の指先に集まった何億ボルトもの電気の塊は、幾千もの光の矢となってあらゆる所へと突き刺していった。
美鈴「………………………………」
一方通行「………………………………」
打ち止め「………………………………」
番外個体「………………………………」
あれから、美鈴は一言も発しない。
それは何かを考えているようで、思い詰めているようで。
娘の苦悩に気付けなかった悔しさか、娘が苦しんでいる事の悲しさか、ただ口をキュッと閉じていた。
その美鈴の様子を窺うように、一同もただじっと見ている。
計り知れない重みを背負わせてしまった。
絶望で塗り付けてしまった。
一方通行の赤い瞳が揺れる。
許しを乞おうなんて思っちゃいない。
許してほしい訳でもない。
オリジナルの美琴本人がどう思おうが、構わない。
一番に憎み、そして許せないのは自分自身だから。
打ち止め「………………………………」
打ち止めの右手を掴む感触に安心感の様な不思議な感覚を覚えてはいけないのに。
打ち止めに向けられる笑顔に癒されてはいけないのに。
生み出されて間もないクローン達だとはいえ、家族を失っていく憤りと悲しみは感覚的に残っているはず。
妹達の中で特別な意味を持つ最終個体の打ち止めは特にそうだろう。
妹達の負の感情を今でも拾い続けている番外個体もそうだ。
誰も、自分の事を許している者など一人もいない。
それでよかった。よかったはずだった。
だが打ち止めは、そんな自分と一緒にいる。
いてくれる。
口では憎まれ口ばかり吐いてばかりいるが、実際は違う。
『これ以上は、一人だって死んでやる事は出来ない』
自分だって、これ以上死なせてなるものか。
自分の身と引き替えにしてでも、妹達を守ると決めたのだ。
その行動を評価してもらおうなんてこれっぽっちも思っちゃいない。
ただそうしたかったから、そうするだけだ。
美鈴「………………なら、美琴ちゃんと。しっかり話し合ってきなさい。あの子も、きっとわかってくれるから。本当は、誰よりも優しい子、なんだから」
一方通行「………………………………あァ」
娘の事を大切に案じる美鈴の言葉に、一方通行は頷く。
罵ってくれるのならそれでいい。
殴られても、抵抗はしない。
美琴の心境が今、どれだけ荒れているのかはこの学園都市の街全体の電気系統に一瞬影響を及ぼしたその様子からはわかっている。
自分が向かうのはお門違いかもしれない。
ただ、じっとだってしれられなかった。
美鈴「あの子をよろしくね。………………それに
『私の娘達』を、守ってくれてありがとう」
一方通行「……………………ッ」
打ち止め「!」
番外個体「!」
そしてその美鈴の言葉を聞くや否や、言葉を詰まらせながらも一方通行はチョーカーのスイッチを入れてこの場から飛び去っていった。
その背中を目で追いながら、美鈴は軽く一息つき頭に手を置く。
被害者となった娘の親として、そんな事を言ったのは間違いなのかもしれない。
一万回以上娘が殺されたのも同意義な、そんな実験を無しにも勿論出来ようにもない。
ただ美鈴の怒りの矛先は、彼だけに向けるのも違う気がして。
まだ自分の中での答えは見つかりはしないのだが。
怒りを向けるのは、この学園都市──────そんな気がしていた。
美鈴「……………………打ち止め、ちゃん」
打ち止め「……………………はいって、ミサカは、ミサカは…………返事を、してみる」
その姿を見る度、美琴と過ごした日々を思い出す。
何かとつけて甘えてきた愛しくて仕方のない、大事な娘を。
カエルのぬいぐるみの糸がほつれただけで泣き出してしまう、優しい娘を。
直してあげた翌日の朝の嬉しそうな顔を見せた、愛しい娘を。
美鈴「そんな畏まらなくてもいいわよ。あなたも私の娘、なんだから、ね?」
打ち止め「………………っ」
美鈴「あなたもそうよ? 私の大事な、娘」
番外個体「………………ミサカは………」
美鈴「ほら、お母さんが抱きしめてあげる」ギュ
打ち止め「……………………わっ」
打ち止めの身体を抱きしめる。
小さいその身体は、クローンなんかではない。
生きている、確かな娘なのだ。
美鈴「ほら、あなたも」ギュ
番外個体「ちょ、ちょ………………」
美鈴「遠慮しないの。私の、大事な………………娘なんだから」
ほんの少しの抵抗を見せる番外個体だったが、打ち止め共々肩を抱き寄せると口にしかけた言葉を飲み込み、ただじっとしていた。
打ち止め「……………………えっと……、お母様……ってミサカはミサカは、遠慮がちに呼んでみる………」
番外個体「………………………………」
美鈴「ふふ、何?」
打ち止め「あったかい、お母様………………」
親の温もりを知らないこの子達にも温もりを与えるように、愛情を注ぐように。
ただ美鈴は、じっと二人の身体を抱きしめていた。
爆音と共に煙が遠くの方で上がっている。
学園都市の至る所を空間移動でくまなく探し回っていた初春と黒子の二人は、それに息を飲んだ。
初春「あ、あれは………………!?」
黒子「まさか………………!」
こちらは空間移動に対し、先に去っていた二人は自分の足。
それでも探せない、追いつけない状況に次第に焦りの様なものを感じてきた矢先の事であった。
ビルの屋上から街全体を見渡す様にしていた二人の目線は、ここから離れた所の河に架かる橋に止まる。
一際大きい爆音を轟かせ、そして青白い光が一瞬だけ瞬いて消える。
その青白い光は──────間違いなく、電撃だった。
初春「あれは、御坂さんの………………!?」
黒子「お姉様の、電撃………………!」
美琴の後を追って行った上条が彼女に追いつけたのかはわからない。
しかし今美琴があれだけの電撃を放つという事は、何かがあった証拠だ。
尋常ではない量の土煙が上がり、爆音がここまで聞こえる。
只事ではないその様子に、二人の手に汗を握らせていた。
初春「当麻さんは……………………!?」
黒子「行きますわよ、初春!」
初春「はい! どうか無事でいてください………………当麻さん、御坂さん…………!」
ただ、大切な二人の無事を願う。
こうして彼らに追い付くのも、黒子の力を借りるしかない自分の無力さを嘆くのだが、今はそれよりもとにかく二人がいるであろう場所へと向かうのが先決だ。
行ったとして、自分に何ができる?
事情も知らない、力もない自分に、一体何が?
でも、でも。
だからといって、ただじっとするだけなんて出来やしない。
彼に寄り添いたい。
少しだけでもいい、彼の力になりたい。
大事な友達の美琴も守りたい。
悲しみに暮れているのなら、励ましてあげたい。
そして初春の視界が、黒子の空間移動によって切り替わる。
目の前にあったのは、帯電して火花を散らす橋の鉄骨と。
現在進行形で崩れ落ちていく巨大な頑丈であるはずの陸橋と。
そして、立ち込める土煙の中で微かに見える──────
真っ逆さまに河へと落ちていく、二人の姿だった。
初春「当麻さんっ!! 御坂さん!!」
黒子「お姉様!! 当麻さん!!」
二人の目には、それがやたらとスローモーションに見えた。
上条「御坂っ!!」
突然、気が失ったように倒れていく美琴に上条は叫んだ。
美琴が放った最大級の電撃は、再度上条の目の前で雲散し橋に架かる鉄骨を溶かし。
そして、崩落させていった。
結局、美琴は自分に電撃を当てなかった。
美琴の戦いたくないという気持ちは十分わかっていたし、ならどうすればいいという苦悩も感じられた。
そんなの自分だってわかりはしない。
どうすれば美琴が救われるのか、誰もが笑えるハッピーエンドになれるのかなんてわからない。
ただ放っておく事など、出来もしなかった。
ズガアアアアアアァァァァンッッ!!
上条「ぐっ!?」
突如、自分と美琴の間の橋のコンクリートに亀裂が走り寸断させていく。
言いようもない危険を感じた。
だが、咄嗟に倒れ付した美琴に駆け寄ろうと足に力を入れた瞬間、その支点となった足に衝撃が走る。
上条「がぁっ!!」
行き場を失った電撃の残滓が、上条の足の勢いを殺し焦げ跡を作った。
電撃使い最強が放ったその電撃は、いくら残滓と言えども大の大人でも楽に卒倒させるほどだ。
上条とて例外ではなく、一瞬身体の自由を奪い上条を倒れさせる。
上条「く、クソ…………御坂!!」
亀裂はやがて地割れとなり、接点を失ったコンクリートは次々に河へと落ちていく。
美琴は動かない。
亀裂の軌道を見るに、美琴のいる場所が崩れ落ちるのにもう数秒も掛からないのだろう。
だが電撃を浴びて一時的に動かなくなったこの足では、美琴を連れ出す事も、美琴のいる場所に移動する事さえ出来やしない。
ただ、崩れ落ちるのを待つしか出来なかった。
完全に地面が割れ、倒れ伏した美琴の身体が傾く。
そして、自分の場所も一際大きな振動が起きると、途端に浮遊感を覚えた。
上条「があああああぁぁッッ!!」
足は痺れて動かない。しかし、幻想殺しを持つこの右手だけは、動く。
落ちていく身体の体勢を何とか整え、瓦礫に右腕を押し出して自身の身体を落ちていく美琴へと近付けた。
力無く頭から落ちていく美琴の身体をその右手で確かに掴むと、瓦礫から身を守るように自身の身体で包み込む。
上条「……………………くっ、どうしようも、ねえか…………!」
空など飛べやしないし、河に落ちた所でこの足では水気を含み重みが増す中、泳げもしないだろう。
ましてや気を失った美琴を抱えてで、岸までは何十メートルもの距離なのだ。
結局、幻想殺しがあったってこういう状況では使えもしない。
自分の無力さを感じながら、ただ着水するのを待つしかできなかった。
初春「当麻さああああああぁぁぁぁんっっ!!」
少女の叫ぶ声が聞こえる。
遠くに見えるその姿は、間違いなく彼女だ。
ジャッジメントになるのを手助けしてくれた少女。
同僚となった少女。
何かと慌てる少女、顔を赤くする少女。
胸の中で泣く少女、嬉しそうな表情をする少女。
大切だと、そう思える少女。
上条「………………はは、わり、初春さん。明日、飯行けそうにねえや」
落ち行く身体をそのままに、上条はそっと呟いていた。
そして。
大切な者を見付けたかつての敵は────────
一方通行「じっとしてろ、三下」
上条「………………っ、一方通行!!」
間違いなく、彼もまたヒーローだった。
みんないつもありがとう
2スレよかったら見てやってくれさい!
また次回!
2スレ → ×
2スレ目も → ○
ベクトル操作──────。
あらゆる運動量を解析し、操作する能力。
熱量であろうが光であろうが電気量であろうが、触れただけで自分の意のままに操る事ができる、学園都市最強の能力だ。
落ちていく二人の重力落下の運動量を変換し、岸の方へと向ける事も造作もない。
空中で瓦礫を静止させ、進路に邪魔なものをどかし二人を岸へと一方通行はただ無言で運んでいった。
上条「おぉ………………すげえな」
一方通行「下手に右手を動かすなよ。途中で落ちたくねェならな」
その最強の第一位を負かした右手に細心の注意を払いながら瓦礫が散乱する空中を抜けると、止まっていた瓦礫は本来の落下運動を取り戻し次々と水しぶきを上げて河へと落ちていった。
美琴を抱えている上条の背中を後ろから持ち上げるようにして、岸へと方向進路を進める。
段々と岸に近付くと、スピードを緩めてゆっくりと着地した。
上条「悪い、一方通行。助かった」
一方通行「………………………………ン」
上条の腕の中で気を失っている美琴に視線をやりながら一方通行はそれだけ返事をする。
いまだ崩落が続く鉄橋の轟音が轟く中、ただ黙ってその様子を見つめていた。
上条「おい、御坂、御坂! しっかりしろ!」
いまだ目を開けない美琴に上条が心配そうな声を掛ける。
肩を揺らしているのだが、起きる気配のない美琴に焦りの色を見せはじめていた。
一方通行「心配すンな、時間経てばじきに起きる。『電池切れ』みてェなもンだ」
上条「そ、そうなのか?」
恐らく、高ぶった感情の中で限界まで能力を出し過ぎた故の枯渇。
学園都市製の頑丈なあの鉄橋をあそこまで崩壊させたのだ、並大抵の出力ではなかったのだろう。
剥き出しになり溶けて形が変わった鉄骨、粉々に粉砕されたコンクリート。
あの鉄橋をここまで崩落させる事ができたのは、レベル5の力を持つ美琴であるからだった。
その一方通行の言葉に上条は胸を撫で下ろしたか、ホッとした様な一息を吐いていた。
初春「と、当麻さんっ!!」
黒子「と………………上条さん…………、お姉様…………」
すると、二人の少女の声が響き渡る。
駆け寄って来るその姿は、本当に心配して今にも泣きそうな表情だった。
上条「心配かけたな。大丈夫だ」
初春「当麻さぁん………………っ!」
上条「のわっ! ちょ、い、いきなり抱き着かないでー!?」
初春「よかった………………よかったぁ…………っ!」
膝の上に美琴の頭を乗せ、座った体勢の上条の首元に初春がしがみつく。
ふわっといい香りと柔らかい感触に襲われた上条は慌てふためくが、まだ痺れが残る身体を動かせずにただその感触を味わうだけであった。
初春「当麻さん………………ヒグッ、グスッ…………当麻さぁん………………」
上条「………………心配、かけちまったな」
初春の声に水気が混じり出した事に気が付くと、上条はもう一度安心させるように言う。
動かしにくい身体の中で一つだけ動かす事のできる右腕を初春の頭に置くと、そっと優しく撫ではじめた。
黒子「…………っ、あの……お姉様は………………?」
上条「ああ、御坂も大丈夫だ。電池切れのようなもんなんだってよ」
黒子「そう、ですの………………」
上条の膝の上の美琴の顔に黒子は目をやる。
苦しそうにも見えるその寝顔に黒子も憂いを秘め、しかし上条のその言葉に安堵の色も見せはじめていた。
その雰囲気から、本当に心底心配していた様子が窺える。
この場にいるその二人にとって、かけがえのない先輩で、親友で、仲間で。
こうして二人は追ってまで来てくれた。
悲しみに濡れた美琴を放っておけずに、慰める様に寄り添い合う様に。
───………………ったく。ほら、お前は一人なんかじゃねえぞ、御坂。
何もかも信じられない──────そんな苦痛、孤独などあってたまるか。
確かに繋がった絆は、そう簡単に切れるもんじゃない。
膝の上の美琴にもう一度目をやり、上条は静かに一息ついていた。
黒子「お姉様を助けてくださって、感謝致しますの」
一方通行「あァ?」
初春「本当にありがとうございました」
頭を下げた黒子と初春に、一方通行は怪訝そうに聞き返す。
いきなり何を言い出すのだ、と信じられない顔をするだけ。
この二人があの実験の事を知っているのかどうかは分からないのだが、あの時の美琴の言葉を確かに耳にしたはずだ。
『一万人以上の人間を殺した』
そんな人間に、感謝の念を告げる意味がわからない。
『普通』の世界の人間からしたら『闇』の中の畏怖の存在であるはずの自分。
美琴の言葉通り、血塗られた道を歩んできた。
オリジナルにあれだけの苦痛を与えてきたと言うのに。
それなのに、なぜこの二人はそんな事を言い出すのだ。
上条「ああ………………一方通行が来てくんなかったら、まじで死んじまうとこだったかもな」
黒子「わたくしもこのお二人に危険が迫ったというのに、冷静になれなくて………………演算もうまくできずにいて、空間移動能力者の端くれとして、ですが………………名折れですの」
初春「仕方ないですよ、白井さん…………私も、何もできませんでしたから………………」
一方通行「……………………………………」
黒子「貴方のお力があったからこそ、お二人は助かりましたの………………本当に、ありがとうございました」
初春「ありがとうございました…………っ」
上条「………………ありがとな、一方通行」
この壊す事しかできなかった能力が、打ち止めに会ってからは変わった。
守るべきものを守るという能力の使い方も知った。
知る人ぞ知る、最強最悪の第一位のこの存在が、意味が変わった。
一方通行「俺と超電磁砲の間に何があったのか………………知ってンのか?」
黒子「………………………………いえ、存じておりません。ですが」
初春「それは御坂さんの口から聞くまで、聞きません。きっと言ってくれなかったのは」
黒子「わたくし達の、信頼が足りなかったのかも知れませんの。ですので、お姉様からお話になるまでは」
初春「私達は、何も聞きません」
一方通行「……………………そォかい」
どこまでも仲間思いで、お人よし共。
だがそれは確かに信頼している大事な仲間だと言うことを覚らされる。
自分も、あの実験が始まる前に会っていたらどうなっていたのだろう。
上条「ん? どうした? 一方通行」
一方通行「なンでもねェよボケが」
上条「ぼ、ボケって………………そりゃ確かにお前に比べたら俺なんか頼りねえかもしんねえけどなぁ…………」
初春「お二人って、本当に仲がいいんですね」クス
黒子「ええ。お互いの事をわかり合っていらっしゃるみたいな」
上条「そうか? そう見えるか?」
一方通行「あァ? ンな訳ねェだろォが」
初春・黒子「ふふ……」クスクス
一方通行「……………………………………」
ああ、何でこの二人がさも普通に自分と接するのかがわかった。
上条が、自分にそう接しているから。
全てを救いしヒーローが、自分の様な『悪党』にも笑いかけてくれるから。
この二人も上条に無条件な信頼を寄せているのだろう。
その上条が信じている者は信じられる、といった具合にこの二人も自分に普通に接しているのだ。
一方通行「……………………チッ、おい、帰るぞ」
上条「おお、と言いたい所だけども」
一方通行「あン?」
上条「足、痺れて動かねえんだ。悪い一方通行、送ってってくんねえか?」
初春「と、当麻さん大丈夫ですかっ?」
上条「ん、多分すぐに治ると思う。御坂は空間移動で送ってってやってくれるか?」
黒子「ええ、了解致しましたの。先に寮に送り届けていきますわ」
上条「悪い、頼んだ」
初春「私も白井さんに着いていきます。一方通行さんすみません、お願いします」
一方通行「………………………………あァ」
やはり、コイツはどこまでもヒーローだ。
普通に接しているつもりが、それがクソッタレの悪党であるはずの自分さえ救い上げてしまうのだから。
「なんかすっげぇ音しなかったか?」
浜面「聞こえたか? やっぱ」
ファミレスから外に出ると、遥か遠くから何やら物騒な破壊音が響いていた事に三人は怪訝な声を上げていた。
何か、建物が崩れたか大型トラックが猛スピードで衝突事故を起こしたかの様な、そんな音。
夜の帳が下りるのが近い時間帯で、帰路に着く周りの学生達もその轟音にざわつきはじめている。
半蔵「大方、どっかの馬鹿が暴れてるんじゃねえの?」
まあしかし身内内の案件ならば、一応は半蔵の元に連絡やら何やらが来るのであろうが半蔵の持つ携帯電話は無反応を貫いており、そこまで心配するほどの事でもないのだろうと軽い口を叩いた。
浜面「ま、いっか」
「それより今日はこれからどうすんだ?」
あれから三人の間で様々な議論が交わされたのだが、効果的な結論は見出だせなかった。
何しろ、キーワードが少ない。
『DMリカバリデバイス』『研究者』『わかる者はわかる』
そもそもDMというものがわからないのだから仕方がない。
ダイレクトメールか? ダイレクトマーケティングか?
そうだとしてもリカバリデバイスというのがどうも繋がりにくい。
浜面も無い頭を振り絞り、何とか捻り出そうとうんうんと唸るのだが効果は無い。
やはり浜面は浜面という事なのだろう。
浜面「うるせえよ!?」
半蔵「あぁ? なんだいきなり、喧嘩売ってんのか?」
「ほう?」ポキポキ
浜面「だあああああ違う! すまん、なんか電波が入った」
浜面の言葉で眉間に皺を寄せた二人が浜面を睨みつけると、取り繕う様に弁解したがそれはまあいいだろう。
もう完全下校時刻は近いこの時間帯、冬の寒さもより厳しさを増してくる。
これから三人はどうしようかね、とお互い言い合いながら取り敢えずはスキルアウトのたまり場の所まで移動しようとしたのだが、何かを思い出したかの様に浜面は立ち止まった。
浜面「ん? ぬ、そういえば研究者と言えば」
半蔵「どうした?」
「んー?」
最近──────というか昨日知り合ったあの女性はそういえば『元』研究者か何かだったとか言ってなかったか。
黒髪の、首元までのセミロングが似合う結構綺麗なあの人。
浜面「……………………いたわ。一人、知ってる人が」
「まじか? おいこら、早く言えよ馬鹿面」
半蔵「ふーん、お前が研究者と知り合いなんて珍しいな」
二人の割と酷い言い草にブチ切れながら華麗にスルーしておき、浜面はどうしようか考える。
半蔵「んで。その研究者の名前は?」
浜面「ああ、芳川桔梗って人でな」
「キキョウ? 珍しい名前だな。女か?」
半蔵「ヨシカワ………………ヨミカワと語感が似てるな…………」
浜面「ああ、つってもその人、黄泉川の同居人だぞ。昨日黄泉川に飯を呼ばれてな、そこで知り合った」
半蔵「……………………………………は?」
浜面の言葉に半蔵の空気が変わった。
ピシッという凍り付いた様な音がここまで響いた気がする。
半蔵「黄泉川に飯を呼ばれたってどういう事だ………………?」ギラ
浜面「ああ、昨日帰ろうとしたら偶然鉢合わせてな。そしたらウチで飯を食っていかないk………………ってちょい待て半蔵! なに武器出そうとしてんだよ!?」
半蔵「なんで俺を呼ばなkいやぁ前から浜面とは決着を付けておかなきゃいけない気がしてねぇ?」
「途中まで心の声が出てんぞー」
ああ、そういえば半蔵はこういう奴だった。
大分前の話だが、浜面ともども黄泉川に捕まった事があり、その時に半蔵は黄泉川に恋心を抱いたという。
その様子を見るに、その想いは今だ萌え続けているようだ。
浜面「ま、駄目元で連絡取ってみるか?」
半蔵「おうおう、是非そうしよう!」
「ノリノリじゃねーか」
何とか半蔵を宥め、浜面は携帯を取り出す。
ピ、ピ、とボタンを押す浜面に目茶苦茶羨ましそうな視線を寄越す半蔵の視線を払い落とすと、携帯を耳に当てた。
trrrrrrrr──────trrrrrrrr──────
浜面「………………………………」
「………………………………」
半蔵「………………………………」ワクワク
trrrrrrrr──────trrrrrrrr──────
浜面「………………………………」
「………………………………」
半蔵「………………………………」テカテカ
trrrrrrrr──────trrrrrrrr──────
浜面「………………………………出ねえ」
半蔵「」ショボン
「めちゃめちゃ落ち込んでる……」
忙しいのか、浜面の携帯から聞こえる単調の機械音に変化はない。
半蔵のマジ泣きしそうなくらいの落ち込みに冷や汗を垂らしながら浜面は携帯の電源ボタンに指を置こうとすると、変化が起きた。
黄泉川『浜面? どうしたじゃん?』
浜面「あ、黄泉川。すまん、忙しかったか?」
半蔵「!」パァッ
「めちゃめちゃ喜んでる……」
電話口から黄泉川の声が聞こえたのだが、何やら騒がしい様な物音が混じっている事に浜面は怪訝そうな表情を浮かべた。
人混みの中なのか、色々な人の声が聞こえている。
黄泉川『んー、そうじゃん。ちょっと事件? 事故? その現場検証中でさ』
浜面「それってさっきのバカでけぇ音したやつ?」
黄泉川『そうじゃん。って浜面、なんか知ってるのか?』
浜面「いんや、ファミレスで駄弁ってたらその音がこっちまで響いてきてな。つー事は今は家にいねえのか」
黄泉川『いないけど、どうしたじゃん?』
浜面「あー…………いないんならいいや、悪かったな、忙しい時に」
黄泉川『いや、こっちこそ悪かったじゃん。なんか急用だったじゃん? 終わったら連絡するか?』
半蔵「」ブン、ブン!
浜面「(近ぇ…………)あ、ああ、頼むわ。それじゃ」pi
どうやら先程のあの轟音の案件で駆り出されているらしく、アンチスキル出動までの大事に何だろうと思いながら電話を切った。
っつーか半蔵、それだけ黄泉川に会えるのを楽しみにしているんだよというツッコミも入れたくなったのだが、まあ黄泉川からの連絡を待つ事にするかと浜面は二人を伴ってスキルアウトのたまり場で時間でも潰す事にした。
佐天「そうなんだ…………うんわかった、皆にもそう言っておくね」pi
絹旗「どうでしたって?」
佐天「うん、御坂さんは大丈夫だって。今日はもう寮に戻るらしいけど、心配いらないって言ってた」
インデックス「とうまは?」
佐天「一方通行さんと一緒に戻ってくるって言ってたよ」
インデックス「そっか、よかったんだよ」
セブンスミストに残った少女達にこの場を去って行った初春からの連絡を受け、無事だという事がわかると全員ほっと一息ついていた。
佐天も気が気ではなかった。
美琴のあんな高ぶった感情、悲愴めいた表情は見た事がなかった。
憧れとも言える能力者の第三位である前に、美琴はやはり佐天にとっても友達で、仲間で。
心配しない訳がなかった。
何が美琴をそうさせたのかはわからない。
一方通行にあの糾弾を浴びせ、走り去ったのを見て何かがあったのかはわかったのだが、その要因はわからない。
だが美琴が言うほど、一方通行は悪い人間ではないのではないかという気持ちが沸いて来る。
クレープを奢ってくれた────まあそれは抜きにして、インデックスや打ち止めに対する接し方、そして初春と上条の二人の仲を頭の中で思い浮かべて楽しそうな表情を見せた一方通行なのだ、それは普通の人間と大差なく感じ取れていた。
第一位という佐天にとって考えられない世界の人間であるのだが、いざ話してみるとそれはまあちょっぴり口は悪いが美琴の言う極悪人の印象はなかった。
絹旗「………………超災難でしたね、第一位も」
佐天「ん? もあいちゃん何か知ってるの?」
絹旗「もあい言わないで下さい」
インデックス「もっあっいー、もっあっいー♪」
絹旗「もあい言うなって言ってンじゃないですかァ!」
佐天「」
インデックス「」
窒素を纏めはじめた絹旗に地雷を踏んだとインデックスが少し反省していると、先程見た三人組が近付いてきた事に気が付いた。
長身のポニーテールの女性が何やら手招きをしているのだが、誰か知り合いなのだろうか。
インデックス「かおり、どうしたの?」
神裂「ええ、少しお話があります」
インデックス「うん、わかったんだよ。ちょっと行ってくるね、るいこ、もあい」
絹旗「」ピキッ
佐天「ど、どーどー」アタフタ
血管がキレそうな音がした事に佐天は冷や汗を隠しながら何とか絹旗を宥める。
しかし、一体何者なのだろう。
二人は日本人だろうと思われるのだが、もう一人は外国人、そしてインデックスと同じ修道服を着ている。
この学園都市ではコスプレじゃなければ見る事のないその恰好に、佐天と絹旗は気にかかっていた。
怪しい者達、なのだろうか。
しかしインデックスと彼女達はどうやら知り合いらしく、それがわかると行ってらっしゃいと手を振って送り出す事にした。
まあ名前で呼んでもいたし、恐らく大丈夫なのだろう。
佐天「あの人達は一体………………」
絹旗「ええ……………………、一体──────
超何CUPくらいあるんでしょうかね…………」
佐天「あ、そっち?」
胸に手を当ててワキワキとさせている絹旗に力無くツッコミを入れる。
というかその手の動きは何かイヤらしいからやめなさい。
インデックス「それで、どうしたの?」
神裂「ええ。実は私達が学園都市に来たのは、土御門からの要請なんですが………………」
インデックス「そうなの? 何かあった、とか」
五和「はい、実は………………今までにない、妙な魔力を感知した、という事で私達は調査に来たんですよ」
インデックス「……………………魔力? あれ、私は何も感知してないんだよ」
神裂「ええ。それがどうにも謎が多いようなんですよ」
インデックス「むむ………………そうなんだ。おるそらは?」
オルソラ「私も土御門さんにお呼ばれしたのでございますよ」
インデックス「おるそらも? そうなんだ………………何か私にも手伝える事、あるかな?」
そうして様々な事柄が、重なってゆく。
また次回!
初春「………………………………」
慣れない場所である常盤台女子寮の208号室にて、初春は目を覚まさない美琴の手を握り、じっと眺めていた。
基本的には部外者は立入禁止であるこの寮なのだが、厳格な風格を漂わせる寮監に誤魔化しながらもジャッジメントである事、そして美琴の友達である事を説明したら納得して受け入れてくれていた。
あれから黒子は橋の倒壊についてアンチスキルの現場検証について行き、この場にはいない。
どういう報告をするのかはわからないのだが、美琴の不利になるような証言はしないのだろう。
美琴「ぅ…………ん…………」
初春「御坂さん………………」
時折譫言のような声が美琴の口から漏れる度にその手を握り直す。
苦しんでいるような、何かに怯えているような、そんな美琴の様子に初春も痛々しい沈痛な表情になっていた。
あれほど強い、精悍な美琴をここまでにさせる『何か』は、一体何なのだろうか。
学園都市第一位の一方通行との間に、一体何があったのだろうか。
想像はできないが、きっと悲しく空しい事があったのだとは思う。
自分の想像も全くつかないような、『何か』が。
美琴「う………………うぅ、ん…………」
初春「あ…………御坂さん」
そうしている内に美琴のうなされる声に変化が起き、初春はそっと呼び掛ける。
そして美琴は、静かに目を開けた。
美琴「ん…………あれ…………、ここは…………」
初春「御坂さん…………、大丈夫、ですか?」
美琴「あれ、初春さん………………って私………………っつ……!」
初春「だ、大丈夫ですかっ?」
いまだに意識がはっきりしないか、半眼のまま初春に目を向けていたのだが、意識が覚醒するとガバッと身を起こそうとする。
しかしそこで頭痛に襲われたかのように頭を押さえ勢いを止めていた。
美琴「ここは………………私の部屋…………? なんでここに……」
初春「まだ起きちゃダメですよ。ほら、横になって下さい」
やがて自分に何があったのかを思い出したように呟いていたのだが、繋がれた手の感触とその言葉が美琴の耳に届くともう一度初春の顔に視線を向ける。
本当に心配そうな表情をしている初春に、美琴は少しずつ落ち着きを取り戻していった。
美琴「………………あれから。どうなった、の?」
初春「…………はい。その……、お二人が川に落ちそうになっていたのを」
美琴「……………………うん」
初春「一方通行さんが、助けました」
美琴「あ………………アイツが…………!?」
美琴の目が見開かれる。
まるで信じられないという風に、ありえないという風に美琴の瞳が大きく揺れていた。
美琴「………………本当、なの? それは…………」
初春「はい。私も白井さんも何もできずにいた所を、一方通行さんが」
美琴「………………………………」
何故自分を助けた。
美琴はそう言いたそうに唇を噛み締めている。
一方通行の行動の意味がわからないと思っているのであろうか。
何があった、とはとても言えなかった。聞けなかった。
あの場で一方通行に浴びせた糾弾は、事実なのか。
一方通行が美琴に、どんな苦しみを味わわせたのか。
美琴「……………………そうなんだ」
初春「はい」
確かめるような美琴の言葉に、初春は頷く。
それは確かにこの目で見たから。
川を飛び越えて二人を抱えて戻って来る一方通行の姿を、確かにこの目にしたのだ。
美琴に対してどんな感情を持っているのかは知らないが、いたわるような丁重な扱いにも感じるその一方通行の様子を見たのだ。
それは、紛れも無い事実だった。
美琴「ってそれじゃあ…………! アイツは、当麻はっ!?」
初春「はい、当麻さんも無事ですよ。一方通行さんとセブンスミストに戻るって言ってました」
美琴「! そっか…………無事、だったんだぁ…………」
彼の事が頭を過ぎると、美琴の顔は段々と青ざめはじめる。
必死の形相をして詰め寄った美琴に、初春がその返答をするや否や、心底安心したように表情を和らげて体勢を整えていた。
美琴「…………………………」
初春「…………………………」
沈黙が部屋を包み込む。
ただ初春は黙って美琴の手を握っており、美琴もそれを静かに受け入れるようにじっと佇んでいた。
ただ、まだ美琴には苦しそうな、ふさぎ込むような雰囲気が覆いかぶさっている。
それをそっと優しく見守るように、思いやるように初春はその握った手を強めていた。
美琴「……………………何も、聞かないの?」
初春「……………………」
ぽつんと呟いた言葉が、やけに弱々しく感じる。
はっきりとモノを言う美琴のいつもの声色とは全く違う、恐怖に震えている子供のような疑心暗鬼にも聞こえるその声。
それを言うと、美琴はただ初春の返事を待っているように口をつむんだ。
初春「……………………はい、聞きません」
美琴「どう、して………………?」
初春「……………………それは」
美琴「………………うん」
初春「御坂さんにとって、話し辛い事だと思いますから」
そうだけど、でも──────。
そう言いかけたのは美琴の口の動きでわかった。
しかしそれを喉の奥で飲み込んで美琴はじっと初春の顔を眺める。
初春は、そんな美琴に微笑みかけた。
初春「御坂さんに何かがあったのは、わかりました。でもそれを、無理して御坂さんに言ってもらおうとは思っていません」
美琴「……………………でも」
初春「私は」
美琴「……………………」
初春「大切な友達の御坂さんに、辛い思いはしてほしくないですから」
美琴「……………っ」
初春の言葉に、美琴の身体が一瞬震える。
どんな思いが今美琴の中を駆け巡っているのかはわからない。
当人にしかわからないのだろうとは思う。
でも、これだけは知ってほしかった。
初春「私も白井さんも佐天さんも………………当麻さんも、御坂さんを大切に思っています。
だから、大切な御坂さんの悲しい顔は、見たくないんです」
美琴「初春、さん……………………」
初春「悲しい時は傍にいてあげたいです。
泣いている時は慰めてあげたいです。
助けてほしい時は、助けてあげたいです。
辛い時は、支えてあげたいんです。
だってそれが、友達なんですから」
美琴「……………………っ」
初春「ですから、御坂さんが御坂さんから話してくれるまで。私達は聞かないって決めたんです。何でも話してくれる、その時まで。御坂さんは、一人じゃないですから」
それが、最上級の友達。
そんな仲になれるまで、まだ自分達、いや、自分は頼りないのだろう。
だから、何も言わず、何も聞かずに寄り添っていたい。
美琴「………………ごめんね。ありがとう、初春さん…………」
初春の手をキュッと美琴は握り返す。
朧げながらも耳に届いた彼の声と、初春の言葉が重なる。
『一人じゃない』
自分達がいる。
確かに思ってくれる、仲間が、友達がいる。
それがいつしか美琴の心を凍てつかせていた氷を溶かしはじめていた。
美琴「………………初春さん、アイツの事。名前で呼んでるんだ」
初春「あ………………」
落ち着きを取り戻した美琴がベッドの上で毛布を膝に掛けて体育座りの体勢のまま初春に尋ねる。
美琴の言葉に何となく視線を外しながら初春は、はい、と頷いた。
初春「でも、御坂さんも」
美琴「わ、私は………………ってその、無意識で」
初春「私も、そうですね」
言葉少なく、お互い言葉を選んでいるようにしてぽつぽつと口に出す。
もうお互いの気持ち、想いは完全に感づいているのだが。
ただ直接それを言った際、きっと気まずい空気が流れるんだろうなと相手方の様子を吟味するように窺い合っていた。
自分は彼が好き。
そして美琴も彼が好き。
あと黒子も何か怪しい──────あれ、四角関係?
ううん、インデックスもきっとそうだ。
初春「当麻さんって………………すっごいモテます?」
美琴「モテるっていうか多分アイツの事だから勝手にフラグが立つと言うか…………気付けばすぐどっかの女の子を助けてるんだもんね」
初春「…………それはもしかして、さっきセブンスミストにいたあの三人も…………」
美琴「それはわかんないけど。十分ありえる話、かもね。あれ、でもあの控え目の黒髪のコはもう既に立ってそうな…………」
初春「お知り合いなんですか?」
美琴「ううん、前にね、アイツと一緒にいたとこを見た事あるの。アイツその人の胸に顔埋めてたし…………」
初春「ななななななな何ですって!? あれ? でも私も前に…………」
美琴「ななななななな何ですって!? く、詳しく!」
顔埋めていた云々は上条のせいではないが。
そんな会話をしながら、初春は段々と美琴の調子が戻ってきた事に気付いた。
いまだ本調子、という訳でもなさそうなのだが美琴の顔にも段々と笑顔が戻ってきている。
やはり、美琴を元気付かせるのは──────彼なのだろう。
初春「御坂さん」
美琴「な、何?」
初春「私は、当麻さんの事が好きです。まだこの気持ちは当麻さんには言えてはいないですけど」
美琴「!」
初春「御坂さんの事も好きです。でも」
美琴「……………………うん」
初春「私、負けませんから」
美琴「………………そっか、まだ付き合ってる訳じゃないんだ…………なら。私も、負けないわよ。私も、アイツが、当麻が好きだから」
初春「ふふ、ライバルは多いですね」
美琴「ね。だからこそ、何としてもアイツを振り向かせたい」
初春「ええ」
まだ自分は頼りない。
精神的にも、強くはない。
それでも、この想いは負けたくない。
キュッと握っていた美琴の手を、もう一度強く握り直していた。
美琴「………………元気、出たよ。ありがとう、初春さん」
初春「…………よかったです、御坂さん」
全てをこの親友が話してくれないとしても、友達として、ライバルとして。
笑顔で支えてあげたい。そう思っていた。
prrrrrrrrrrr──────
「電話鳴ってるぞ?」
浜面「あ、俺か。誰だ………………あ、黄泉川だ」
半蔵「」ガタッ
「」
浜面「」
あれから暇潰しにとたまり場に持ち込まれた最新型の対戦型ゲームに白熱していた所で、着信を告げる電子音が響き渡っていた。
浜面が電話を取り出し、ディスプレイに表示された名前を告げると半蔵が息もつかせぬ早さで浜面の耳に当てた電話に己もと耳を近付けていた。
こんな所で忍の速さを発揮しなくともいいだろうに、と思いながら浜面は通話先の相手の声を待った。
黄泉川『もしもし、浜面? 今終わったじゃん』
浜面「お、もういいのか? 何だったんだ?」
黄泉川『んー、まあ色々とあった、みたいじゃん。それより浜面、用事って何だったじゃん?』
浜面「何だよその引っ掛かる言い方は。まあいいけどさ。用事っつか、ちょっと黄泉川の同居人に尋ね事があって」
黄泉川『んあ? 同居人って………………一方通行か? 一方通行達なら今一緒にいるけど』
浜面「いや違う違う、って一緒にいんのかよ」
黄泉川『一方通行じゃない? んじゃ誰じゃん…………ま、まさかとは思うが』
浜面「………………おい、ちょっと待て。お前は誰を想像している」
黄泉川『打ち止め、じゃないだろうな………………?』
『あァ?』『ほえ、ミサカ?』『電話の相手ってロリk』
浜面「違わいっ! 芳川サンの方だ芳川サン! っつか何か聞こえたぞ!」
黄泉川『あん? 桔梗? 桔梗なら家にいると思うけど…………』
浜面「家にいんのか。んー………………黄泉川いなきゃ行きづらいな…………」
黄泉川『何々? 何の話じゃん?』
浜面「すまん、ちょっとだけ待っててくれ」
浜面は一旦電話から耳を離し、半蔵達に相談する。
どうやら現場検証は終わったらしいのだが、家に戻るまでもう少し時間が掛かるのだろう。
どうする、と目で半蔵達に確認した。
半蔵「(黄泉川いなきゃ意味ねえ)」
「(別に聞きたい事聞きゃいいだろうがよ…………)」
半蔵はもう黄泉川にしか目がいっていないのか、黄泉川だけに会う前提の目をしている。
それを軽く聞き流して、もう一つの意見の方に耳を傾けた。
浜面「(まあそうだよな。んじゃまあ今から行きますか)」
「(終わったらすぐずらかりゃいいんじゃね? ………………俺は黄泉川に会いたくねえよ…………)」
浜面「(………………………………)」
半蔵とは全くの対照的な意見に軽く冷や汗を垂らしながら浜面は再び電話を耳に当て、口を開こうとする。
浜面「すまん黄泉川、待たせたn────」
『何ですかァ? ウチに何かご用件ですか浜面くゥン?』
浜面「んげ、一方通行………………」
電話先の相手が変わり、さも不機嫌そうな声が浜面の耳に飛び込んで来る。
その声に半蔵も「うっ」と退き何かトラウマでも思い出したかの様に苦い顔をしていた。
浜面「いや黄泉川家というか、ちょっと芳川サンに聞きたい事があってよ…………」
一方通行『………………あァ? 何の用事だ?』
独特な彼の発音に真剣さが混じった様な声色が混ざる。
電話先の向こうでは一方通行の眉間に皺が寄っていそうなのが容易に想像できた。
浜面「ああ、ちょっと研究職の人に教えてほしい事があってな。つっても俺には研究者の知り合いは芳川サンしかいなかったからさ」
一方通行『教えてほしい事って何だよ』
浜面「あー………………まあお前ならいいか。えっとだな」
一方通行『………………あァ? あァ…………いや、後で聞く。もう少し経ったらウチに来い』
浜面「一方通行?」
一方通行『『一方通行くん?』あァ…………チッ、電話切ンぞ』
浜面「あ、ああ………………わかっt……ってもう切りやがった」
「なんだって?」
浜面「んー、もう少ししたらウチに来いだってさ」
半蔵「よ、よし行くか」
浜面「ちょっと早ぇよ!?」
何やら電話先が騒がしくなったのを怪訝に思ったが、まあ気にする事でもないのだろう。
一方通行の周りは打ち止めから番外個体から、騒がしいコ達が多いしなぁと納得した頷きを見せると、浜面達はもう少し時間を潰してから黄泉川家に向かう事にした。
ピンポーン──────
そしてそれから数十分後、今まで見たことのないくらいの上機嫌の様子の半蔵を抱えて浜面達は黄泉川家のインターフォンを押す。
麦野「はーい、お帰りなさーい………………ってあれ、浜面?」
浜面「………………は? 麦野?」
半蔵「ん?」
「ぬお!? き、昨日のビーム砲さんじゃねえか………………」
思わぬ人物がドアからこんばんはした事に、浜面は思わず息を止めていた。
それは決して熊に出会った時の間違った対処法じゃない、うん。
ちょっと短いけどここまで
ダメだ、なんかスラスラ書けない
自分の無能さにほとほと呆れるわ、抜いてくる
また次回!
浜面「な、何で麦野がここにいるんだよ」
麦野「ああ? いちゃいけないって言うの?」ギロッ
「ヒッ…………」
昨日にも訪れたここは、黄泉川家であってアイテムの構成員の場所ではないはず。
それなのにこの玄関のドアを開けたのはアイテムのリーダーであり、上司である人物に浜面は目を丸くしていた。
上司は浜面のその言葉に機嫌を損ねたか、眉間に皺を寄せはじめている。
昨日のあの現場に居合わせた一名はその麦野の様子に心底怯えていたりしていたがそれは今は放っておいてもいいだろう。
麦野「私は買い物行ったらたまたま芳川さんに会って誘われただけだけど。それより浜面はどうしてここに? それに大勢で尋ねてきてさ」
浜面「そ、そうか。いや俺はその芳川サンに用事があってだな」
こりゃまた恐ろしい人物を誘ってくれたもんだ、と内心何してんじゃおいおい状態だったのだが、まあ芳川は恐らく鬼モードの麦野を知らないのだろう。
知っていたら呼ぶはずがない、と浜面は本気でそう思う。
麦野「芳川さんに? 一体何の用事よ」
芳川「なになに? 私の名前が聞こえてきたんだけど」スッ
浜面「あ、どもっす」
すると開いたドアの奥の方から目的の人物が顔を出す。
浜面は軽く会釈をすると、芳川は「あら」と少し驚いた様な顔をしていた。
浜面以外の二人の姿も目にすると、余計に?マークを顔に浮かべていたがまあそれも含めて説明しようではないか。
麦野「なんかこの三人が芳川さんに用事あるんだって」
芳川「私に? ………ふふ、いやね、こんな年増に若い男の子三人も寄ってくるなんて、困っちゃうわ。どうしよう」クス
知り合ったとはいえほとんど初対面のスキルアウト相手にうふふなんて微笑んでいる辺りきっと彼女も大物なのだろう。
でなければ一方通行やミサカズ、そして黄泉川と同居などできやしない。
芳川「まあいいわ。もうすぐ愛穂達も戻ってくるみたいだし、上がってって」
麦野「ええ、上げちゃってもいいの?」
芳川「別に構わないわ。悪いコトしに来た訳じゃないんでしょ?」
浜面「まあ、それは」
芳川「いざとなったら私も護身用に『色々特別なモノ』を準備してあるし、ね」
麦野「まあ悪さしに来たってんなら私も全力で壁のシミにしてあげるし」
浜面「」
半蔵「」
「」
浜面がいるとはいえ、見知らぬ人物もホイホイと上げてしまう芳川だが、彼女の言う撃退法が何やら嫌な予感がして三人は冷や汗を必死で隠しながらコクコクと頷く。
もし何らかの事柄が起きて黄泉川家と敵対する機会ができたとしても、相手方に麦野も加勢した以上絶対にここには攻め込みたくない気分になりながらも浜面達三人は黄泉川家の玄関をくぐっていった。
芳川「どうぞ」カチャ
浜面「どうもっす」
半蔵「あ、すみません」
「ああああありりりりがとうございますううすす」
若干一人の様子がおかしい事に気にかけながら出されたコーヒーを口にする。
ん? と飲んでみて浜面はまじまじとコーヒーを見つめた。
芳川「どうしたの? あ、もしかして口に合わなかったかしら?」
浜面「いや、逆っす。すげぇ美味いな、と思いまして」
家で出されるコーヒーといえば、大体はインスタント物でそこまで味を保証するものでもない。
コーヒーにうるさい人でなければ、飲めればいいと言った塩梅なのであろうが自家で豆から挽くといった手の掛かる事はほとんどの者はしないのであろう。
しかし今口にしたコーヒーは、まるで珈琲専門店で出される様な味わい深い口当たりの逸品ともいえるもの。
そんな美味のコーヒーを浜面は素直に讃えていた。
芳川「ふふ、ありがとう。とはいっても、あの子特製のコーヒーなんだけどね」
浜面「…………………………ああ、納得した」
アイツか、と頭に思い浮かべたコーヒー好きの少年を思い浮かんで苦笑いを浮かべる。
「うううううまいっす」
芳川「あら、でもそう言ってくれると嬉しいわ」クス
「」ポケー
浜面「……………………」
半蔵「……………………」
麦野「……………………」
妙に反応がおかしい様子の人物が一人いたが、まさか、ね。
彼の様子に浜面と半蔵と麦野は何だか冷ややかで暖かい視線を送っており、一先ずコーヒーカップを置く事にした。
芳川「それで。私に聞きたい事って何かしら?」
浜面「あ、そうっすね。あ………………でもアイツも話を聞きたいって言ってたっけ」
質疑応答は一応は知り合いの浜面が行う。
本題に入ろうとするのだが、浜面はちょっと考える素振りを見せていた。
ここに来る数十分前の電話にて、一方通行はその話に自分も居合わせると言っていた。
なら一方通行が帰って来るまで待った方がいいのだろうかと逡巡していると、麦野が何だか険しい表情を見せていた。
麦野「妙にもったいぶるわね。なんか大事な話なの?」
浜面「ん、んーまぁ、大事というか何と言うか」
果たして麦野もその話に参加させるべきか、と横の二人に目をやる………………のだが。
半蔵は半蔵で黄泉川家にいるという事からか妙にソワソワしているし、もう一人はずっと芳川を見ている。
お前らもはや目的が変わってきてないかというツッコミがちょっぴり湧いたが、それの喉の奥に押し込むと何やら玄関先が騒がしくなった事に気が付いた。
ガチャ────────
打ち止め「あれれ? なんかお客さんがいっぱいいるよってミサカはミサカは来客者達に驚いてみる」
一方通行「あァ? 誰だ…………って何だよ、もう来てやがったのか浜面ァ。あとは原子崩しと──────忍者ハットリくンと後は誰だァ?」
番外個体「お、しずりんいるよ。やっほーしずりん」フリフリ
黄泉川「ただいまじゃんよ。って浜面────達?」
麦野「やっほー、おかえりなさい」フリフリ
芳川「おかえりなさい」
半蔵「よ、黄泉川………………(キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
「ぬお、なんだこの子達!? つか半蔵、後の声もだだ漏れだ」
打ち止め「しずりんだー! ってミサカはミサカはしずりんにダイブしてみる!」バッ
麦野「わっ。こら、びっくりしたじゃないの」ギュッ
黄泉川家の全員が戻ってきた事で、一気に騒がしさが場を覆う。
こんな騒がしさが毎日黄泉川家で繰り広げられるのか、と浜面は改めて、他の二人はただ呆然としていた。
まあ、こっちも騒がしくなっておりますです、はい。
神裂「だからそういう事ではないですと言っているんです! それにもうあんな服は二度と乗せられて着ません!」
土御門「せっかくカミやんに恩返しできるチャンス逃すつもりかにゃーねーちん?」
五和「わ、私はっ、か、上条さんが喜んでくれるならゴニョゴニョ…………」
インデックス「ごっはっんー、ごっはっんー♪」
オルソラ「もう少しで出来るのでございますよー」
上条「………………もうちょい静かにしてくれ、また苦情が来る………」
あれからセブンスミストを後にし、自宅に戻ってきたのはいいのだがイギリス清教、天草式といった魔術世界の面々に占拠された部屋の片隅で上条はしみじみその騒ぎをとりあえず静かにさせようと奮闘していた。
美琴との間に起きたあの件の後、セブンスミストに戻れば何やらインデックス達から魔術の事件の匂いがすると言われ戻った上条宅の一室は作戦会議室となっていた。
痺れる足を何とか動かして自宅に戻ってきたはいいが、戻った矢先に土御門もこの中に加わり、今現在はこの狭い一室に六人という大人数で所狭しと一つのテーブルを囲んでいる。
いや、オルソラはただ今絶賛調理中にて厳密にはこの場には五人であるのだがそれでも狭く小さく感じるこの部屋をスフィンクスがどこに居座ろうかグルグル歩き回っている様子から、落ち着かぬ様子が窺えた。
それよりも今は話題の方向性に気を遣うべきか。
その魔術を感知したという事について話し合うべき場面であるはずなのだが、土御門得意の話術で今は神裂達を弄ぶようにして場を騒がせている。
話を戻した方がいいんじゃないかという疑問があるのだが、その和気藹々すぎる様子に上条はただたじろいでいるだけであった。
台所の方からいい匂いが漂ってくると、上条の腹の虫も鳴き出す。
時刻も19:00を回った所で、夕食の時間帯に差し掛かろうという所であった。
上条宅では決して香る事のない洋風の芳醇な匂いが居間の方にも漂い、ひとまずその騒ぎは中断する事となった。
しかしあの上条宅の尽きそうな食材と調味料でこんなにも食欲をそそる料理をさっと仕上げてしまうオルソラはさすがと言うべきか。
上条「すまん。手伝うか? それにしてもよくあれだけでこんな美味そうな物作れるなー」
オルソラ「ありあわせで作っただけでございますよ。お手伝いはお気になさらないでください、貴方様はまだ身体の痺れが取れないのでございましょう?」
ちょこちょことほんの少し足に気を使うような歩き方で台所に赴いた(退避した)上条にオルソラがやんわりと手伝いを拝辞する。
とは言いつつも、家主的に来客者をもてなさんばかりかこうしてわざわざ手を煩わせてしまうのは少し気の引ける所であったのだが、オルソラの言う事も尤もで少しばかり動きにくいこの身体。
もう一度「悪い、手間掛ける」と一言添えると、「うふふ、貴方様は座っていてくださいませ」と最上級とも言える労いが返ってきて上条はほっこりしていた。
ほっこり。
神裂「………………」ジト
五和「………………」ジト
土御門「………………」ニヤァ
上条「」
戻れば何やら意味深な視線を投げ掛けられたのだが頑張って無視しよう。
インデックスはご飯の方に気が向いていてある意味助かったかもしれないし。
オルソラの素敵な料理に舌鼓を打ち、しっかりと堪能し終わった後に土御門が「さて」と居座り直す様に一言呟くと、場の和やかな空気に緊張が走る。
その真面目な表情からするに、ようやく本題に入るのだろう。
土御門「今回ねーちん達に来てもらったのは他でもない。この学園都市から魔術を感知したんだぜい」
神裂「ええ」
五和「はい」
インデックス「うん」
オルソラ「魔術、でございますか」
上条「…………………………」
詳しい事は一度集まってから、との事で神裂達もどうやら詳細は聞かされてはいなかったらしく、これから土御門の吐く言葉を一字一句逃すまいと真剣な表情を作っていた。
土御門「実は俺もまだ詳細は掴み兼ねてるんだにゃー、誰が何の為に、どういう目的でその魔術を使ったのか」
神裂「謎が多い、と言っていましたね」
土御門「そうだにゃー」
五和「上条さんか、インデックスさんが狙い、という事なのでしょうか」
土御門「いや、まだそれもわからない。ただ御使堕しの時みたいな偶然に偶然を重ねすぎて発動した魔術である見方も出来そうにない。恐らく、誰かが意志を持って発動させている」
上条「それで、一体どんな魔術なんだ?」
土御門「カミやん、これ今日の学園都市の新聞だぜい」
上条の質問に返事をする変わりに土御門は新聞を手渡すと、ある一部分を指差す。
そこにはトップ記事ではないのだが、大々的に書かれた男子学生の『変死』の文字が書かれており、上条の目はそれに奪われていた。
上条「変死………………?」
土御門「被害者は第五学区の大学二年生の男。割と真面目な性格の所謂普通の大学生だったらしいんだが、昨日の晩に街中で死体で見つかったらしい」
顔をしかめる。
土御門の言う被害者という単語が指す意味は。
上条「つまり、その人は」
土御門「殺された、っていう事だ。それも無惨な死体だったらしい」
土御門の言葉に緊張が走る。
この学園都市は、一方通行の言う「裏」を除けば比較的平和な街である。
「裏」の詳しい事は知らないのだが、自分から関わろうとしなければ決して「表」に干渉する事はなかったと一方通行は言っていた。
そんな学園都市の中で起きた今回のこの件。
しかもその被害者は裏でもなんでもない「普通」の大学生であり、記事と一緒に掲載されている顔写真からもいかにも真面目そうな雰囲気が感じ取られ、被害者からはその「裏」の気配など微塵も感じられない。
「普通」の大学生だったのに、と上条は唇を軽く噛んでいた。
上条「だが土御門、これとその魔術の何の繋がりが?」
土御門「ああ、それがだな………………殺され方に問題があるんだ」
上条「どういう事だ?」
土御門「死亡推定時刻は昨日、夕方の完全下校時刻を少し過ぎた辺りの時間帯らしいんだが、問題は死因だ」
上条「死因?」
神裂「と、言いますと?」
土御門「記事にも少し書いてあるが、死因は血を流しすぎた事による失血死によるものだ。死体には無数の噛み傷の跡が残っていたらしい」
五和「無数の…………」
インデックス「………………噛み傷?」
土御門「それも、とびっきりでかく鋭い────────歯と言うより、猛獣の様な牙だな」
神裂「猛獣、ですか………………」
オルソラ「それはまあ…………恐ろしゅうございますね」
普段のおちゃらけた様子からいつの間にか口調が変わり、真剣そのものの表情で土御門は説明している。
その様子から今回の件はどうやら動向を注意しなければならないのだろう。
まだ誰が何の為に、どういう目的で動いているのかは全くわからない。
土御門「明日はねーちん達は現場付近を調べておいてほしい。俺は別の角度から当たってみるんだにゃー」
神裂「わかりました。この子に危害が降り懸かる危険があるのならば放っておけませんからね………………勿論上条とゴニョゴニョも…………」
五和「ぷ、女教皇様! 何を言っているんですか! 上条さんを守るのは私dゴニョゴニョ…………」
上条「ん? 二人ともなんてったの?」
神裂・五和「い、いえ………………///」
インデックス「とおおおおぉぉぉまああああぁぁぁ?」
上条「なんでお前は怒ってるんだよ!?」
まあそんなやり取りをしながら。
しばらくは気をつけておいた方がいいのだろうという事を頭に刻み込み、上条ははは、と頭をかいていた。
オルソラ「なら私は貴方様のお食事を支度する係に立候補するのでございますよ」
上条「おお、オルソラの料理ならいつでも大歓迎だぞ!」
神裂・五和・インデックス「」ゴゴゴゴ……
上条「ヒィッ!?」
まあそんなこんなでこの日の作戦会議はお開きとなっていた。
一方通行「で。教えてほしい事って何だァ?」
浜面「ああ」
一方通行の言葉に浜面が頷いて答える。
テーブルを挟んだ対面側のソファーには一方通行、芳川、麦野の三人が座っており、対するこちら側は(元含めた)スキルアウト三人が座っている何とも奇妙な図。
黄泉川は台所にて調理(?)中にてこの場にはいない。
何やら難しそうな話だからという理由で打ち止めと番外個体の二人も手伝わせているが、大人の話に子供がいちゃし辛いだろうという気遣いも含まれているようにも思える。
何から話そうと考えながら芳川に視線を送ると、浜面は口を開いた。
浜面「芳川サン。俺達は『DMリカバリデバイス』っての探してるんスけど、何か知ってるっスか?」
芳川「『DMリカバリデバイス』──────? それを貴方達が、どうして?」
芳川のその反応に、浜面達の口から「おお」という声が漏れる。
その様子から見るに、どうやら何か知っているのだろうと期待が高まっていた。
一方通行「何だァ? それは」
麦野「何々? 何なのよそれは」
レベル5’sの両方からほぼ同時に聞き返す声が出される。
レベル5である彼らでも知らない物なのかと思慮に更けながら芳川の質問に答えようとすると。
「いや、なんかある男の研究者が俺達の元を尋ねまして。それがどうしてもほしいって言ってたんスよー」
芳川「ある研究者?」
「眼鏡かけた黒髪の妙に長い髪をした人だったんスけど、芳川さんはその人の事知ってますかね?」
芳川「その研究者の名前は?」
「いや、それが名前も言わずにすぐ立ち去って行っちまいましたから、わかんないんスよ」
芳川「そうなんだ」
………………なぜお前は芳川に対してほんのり顔を赤らめて話をする、という質問を半蔵を挟んだ向こう側に送り込む。
しかしこちらの視線など気にしない様子でじっと芳川を見ていた。
芳川「でも、ジャッジメントとかじゃなくて貴方達に頼んできたの?」
「あー、ジャッジメントにも頼んだとかどうかもわかんないんスけど、でも俺達に頼み込んできましたね」
一方通行「……………………」
麦野「わからない事だらけって事ね」
「」グサ
浜面「うっ……………………だ、だからこうしてその筋の人に聞きに来たんだが」
半蔵「(俺も黄泉川の料理食えるのかな)」
一方通行からの視線がやけに痛く感じる。
テメェ手間かけさせるような事してンじゃねェだろォな?とでも言いたげなそのガン見から浜面は逃げ出したくなる気分満開であったが、何とか堪える事に成功した。
まあ一方通行の手を焼かせようとも思ってない。
芳川「うーん」
芳川が顎に手を当てて考え込む様に視線をテーブルに下げる。
何か言いにくい事なのか、聞いてはいけない事だったのだろうか、と少し不安にもなってくるのだがさあどうだろうか。
芳川「ごめんね、私も名前は耳にした事があるくらいで詳しい事はわからないの」
浜面「そ、そうなんスか………………」
申し訳なさそうに苦笑いをして頭をちょこんと下げる様子が見える。
別に隠し事をしている、という雰囲気でもなさそうな事に逆に浜面達はこちらが申し訳ない気分になってきてもいた。
「だだだ大丈夫っス、頭上げてください」
浜面「そうっス、突然来たのに応対してくれただけで十分っスよ」
麦野「へえ、あなた達でもそういう気を遣う様な言葉遣いできるんだ」
一方通行「気にくわねェ事があったら暴れて帰ると思ったンだがなァ?」
浜面「いやいや、お前達はどんな風に俺達の様な人間を見てんの!?」
半蔵「(帰る? い、いやだぜ黄泉川の飯を食うまでは俺は帰らないぞ!)」
特にお前らが何を言う、というツッコミをもって浜面は反論する。
実際に手がかり一つ目でビンゴなどという淡い期待など持ってもいなかったし、仕方のない事なのだろうと浜面達は思っていた。
見てくれの悪い不良三人を迎え入れてくれたという事だけで驚きものだったし。
芳川「名前は聞いた事のあるくらいのもので、私の専門外の分野なの。力になってあげたかったけど………………あ」
浜面「へ?」
言葉の途中で何かを思い出したかのように声を上げた芳川に浜面は素っ頓狂な声を出す。
一方通行と麦野もお互い真ん中に座る芳川を挟むように視線を向けていた。
芳川「そういえば、知ってるお医者さんにその分野の研究者がいるって言ってたわね」
「医者?」
半蔵「(黄泉川のナースプレイ…………」
浜面「半蔵お前一回病院行ってこい」
一体どういう分野なのかはわからないのだが、研究世界のけの字も知らない自分がそれを聞いてみても仕方ないだろうと思いながらも少し希望が見えてきた気がする、と浜面は感じた。
いやまあとりあえず半蔵は一回診てもらった方がいいのかもしれないが。
一方通行「……………………冥土帰しか」
芳川「うん、そうよ」
麦野「あの人どんだけ顔広いのよ………………」
浜面「ん? それって確かあのカエル顔したあの人か?」
とりあえずここで明日の行動は決まった。
その医者に聞きに行ってみよう、と浜面は計画を立てていた。
やけに熱心だな、と思ったそこの人、べ、別に100万(山分けして50万くらい?)がほしい訳じゃないんだからねっ?ただこのスキルアウト時代の仲間が困ってるからなんだからねっ。
と心の中で誰為フォローをしておきながら、結局その日は大勢で黄泉川家の食卓を囲う事になっていた。
ちなみにその時に感涙流しまくって黄泉川に逆に引かれていた半蔵についてはどんまいとしか言いようがなかったという。
また次回!
コンコン────────。
上条が寝床にしている浴室の扉に控え目なノックの音が響く。
いまだ上条は夢の中で、そのノックに対する返事をする事はなかった。
五和「お、おはようございます上条さん…………」
鍵が掛けられている為、その浴室のドアを開ける事はできずに仕方なく外から声をかける五和であったのだが。
もし鍵が掛かってなかったら即突撃されていたのだろうと、上条の普段の行動は体裁を守るという意味でも純情を守るという意味でも成果が上がっているのだろう。
さすがに想いを寄せている人の家のものを壊してまで突撃してしまおうという様な事はない。
驚かせては悪いという気を使って小声で扉の向こうの上条に声を届けるのだが、上条はやはりまだ夢の中から覚めない様だ。
五和「あう………………」
結局あれから神裂と五和とオルソラは上条宅に泊まる事となっていた。
さすがにそれはちょっと……という空気を出したのだが、「「いいですよね?」」と眼光を光らせた神裂と五和の二人によって採択議論開始の僅か二秒で根負けしたのは言うまでもない。
まあ上条としては男の部屋に女の子達が泊まりに来るのはどうかと思う、間違いがあったらどうするんだとあくまで彼女達の為を思ってそう言ったのだが。
ならインデックスはどうなんだという集中砲火を浴びた際に、ああそういえばインデックスも女の子なんだっけ?という解を示して噛み付かれたのは最早いつもの事である。
ちなみに神裂と五和はその間違いについて、寧ろ起きてほしかったなどとは考えては………………うん、考えてたのだろう。
五和「あう、どうしましょう…………」
インデックス「私に任せるんだよ!」
五和「あ、インデックスさん。おはようございます」
オルソラ特製の朝食の香りで目を覚ましたインデックスが、朝から妙に元気な声で張り切った様に胸を張る。
五和はそんな彼女に挨拶をすると、インデックスは浴室の扉を掌でバシバシと叩きはじめていた。
インデックス「とうまー。朝ー、朝だよー。朝ごはん食べて、学校行くよー」バシッ!バシッ!
五和「それ作品が違います」
それに本日は土曜日で学校休みだし。
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上条「…………んがっ?」
ゴンッ
上条「いてっ!?」
どこかで頭をぶつけたか、音からして痛そうな上条の悲鳴が届く。
さすがにあれだけバシバシ叩けば誰でも起きるのだろうが、そんなインデックスの様子を見て慣れてるなーと少し頬を膨らませてヤキモチを妬いている様な五和の姿があった。
神裂「起きましたか? 上条当麻」
上条「いてー…………起きたけどさ」
神裂「朝食の準備はできています。朝食にしましょう」
上条「ういー」
インデックス「ごっはんー♪」
五和「………………………………」
恥ずかしさから結局上条に声をかけられかった乙女、五和。
朝食ができているという報告も後からきた神裂に取られ、一体なにをしに来たんだろうと軽く涙を飲む五和の姿があった。
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上条「それにしても、あんな事件があったなんてなー…………ジャッジメントでも何も聞かされていなかったけど」
第一七七支部への道を歩く。
空の青も眩しいくらいのいい天気の日で、上着を着ていると少し暑いくらいの気温がちょうどいい。
しかしそんな陽気とは裏腹に、上条は昨日土御門が言っていたあの件について呟いていた。
男子大学生が変死体となって発見されたあの事件。
土御門が言うにはどうも魔術が絡んでいるらしく。
インデックス、神裂、五和、オルソラが調査すると言っていた。
上条「無数の噛み傷、か」
それも、人間では到底考えられないものらしい。
聞くからに凄惨なその事件に何かがあるという事を予感する。
なるべくなら彼女達には危険な事はしてほしくはなかったのだが、それが魔術ならやはり彼女達に任せるのが一番いいのだろう。
それに神裂と五和は戦闘面では無類の強さを誇る『聖人』と『聖人崩し』なのだ、そこはとりあえずは安心できるのだが。
それでも何か起きればすぐに駆け付けるつもりでもいた。
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するとそこで後ろからパタパタと駆け寄ってくる足音が上条の耳に届く。
初春「当麻さーん」タッタッ
上条「ん? おー、初春さん」
上条が振り向くと、ものすっごい嬉しそうな表情を見せた初春の姿が目に映る。
初春は上条に近付くと、キュッと正面から上条に抱き着いていた。
上条「のわっ、ちょ、う、初春さん」
初春「えへへ。おはようございます、当麻さん」キュッ
突然の状況に戸惑う上条だったのだが、まあ嫌ではないし初春の好きなようなさせておく。
胸の辺りにくる初春の頭に、そっと手を置いた。
初春が誘拐されたあの一件以来、なんだか彼女は積極的な気がする。
呼び方もいつの間にか下の名前になっているし、笑顔もより一層華やかさを増していて。
それは自分に向けられているのかな、と感慨深げに思慮にふける。
上条「これから支部に行くところ?」ナデナデ
初春「はいっ/// ご、ご一緒しましょう」
上条「ん。それじゃ行くか」
この陽気にも負けないくらいの暖かい何かを感じ、上条は初春と共に第一七七支部への道を歩き出す。
初春の顔を見た途端、先程まで上条を覆っていた緊張感がすっかり飛んでなんだか嬉しく思った自分に軽く苦笑いを飛ばしておいた。
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黒子「こんにちは、ですの」
上条「おう白井」
初春「白井さん、こんにちは」
第一七七支部があるビルの前で常盤台の制服に身を包んだ黒子の姿があった。
とはいえ、休みの日なのだが上条も初春も制服に身を包んでおり、ジャッジメントの仕事の時はこうしてその学校の学生服を着用する。
決まりという訳でもないのだが、そうしておいた方がいいのかななんていう上条の予測は間違ってはなかったようだ。
黒子「む、お二人揃っておいでですのね」
上条「道すがらでたまたま初春さんに会ってな」
黒子「……………………たまたま、ですか」
初春「……………………えへ」
たまたまじゃないですよという初春の雰囲気がまるわかりな事に少しむっとした黒子であったが、何やらその意味深な視線だけで会話をしている二人に上条はいつも通り「?」を頭に貼り付けていた。
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固法「あら皆早いわね。こんにちは」
上条「固法先輩、こんにちはっす」
初春「こんにちはー」
黒子「こんにちはですの」
第一七七支部に到着し、五分も経たない内に固法が顔を出す。
現在時刻は12:30過ぎを壁に掛けられたデジタル時計が示していて、この日の本来の集合時間の13:00よりもまだまだ早い事を告げていた。
固法「それじゃちょっと早いから、皆でお茶でもしようか」
初春「私煎れてきますよ。あ、当麻さん紅茶って飲みますか?」
上条「紅茶か、普段あんま飲まないなー……コーヒーとかはある?」
初春「あう…………そうなんですか。どうしよう、コーヒーない…………」
上条「あ、いや、紅茶も好きだぞ、うん」
給湯室へ向かおうとした初春が足を止めてちょっぴり顔を湿らす。
そんな顔を見た瞬間にフォローを入れる様に言う上条であったのだが、なんだか申し訳ない気持ちであった。
この第一七七支部ではコーヒーを好んで飲む者はなく、ここの冷蔵庫の中にあるのは紅茶の茶葉とムサシノ牛乳だけ。
来客者用に緑茶もあるにはあるのだが、長らく飲まれておらずまたこの支部にも飲む者はいないため何となく封を開けるのは躊躇われるとの事で初春の頭にはなかった。
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まあたまには紅茶もいいか、なんて上条が頷くと黒子ががさがさと鞄から何かを取り出していた。
黒子「ありますわよ、コーヒー」ガサ
初春「えっ」
固法「なんと」
上条「っておい、それって」
取り出した何やら高価そうな紙袋からもう一段階包まれていた紙袋を取り出すと、初春に手渡す。
「え?」という表情もそのままに初春はそれを受け取ると、まじまじと黒子の顔を観察する様に窺っていた。
初春「あの、白井さん。これって」
黒子「コーヒーですの。と…………上条さん、お紅茶はお召し上がりにならないかと思って」
上条「わ、わざわざ買ってきたのか?」
黒子「ええ」
初春「……………………」
と? 何を言いかけたの? という質問の視線を初春は投げ掛けるが、黒子はそれを右から左へと受け流す。
ほれ、煎れるんなら煎れて来なさいなと初春を給湯室に向かわせようとするその雰囲気を怪訝に感じながら初春は頬を膨らました。
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上条「そんな事せんでもよかったのに」
黒子「あら、わたくしの好意が受け取れないとでも?」
初春「!」
上条「いや、そんな事はないが」
黒子「ならいいじゃありませんの」
初春「む……………………」
なんか怪しい、と黒子に軽くジト目を送る。
最近というかあの一件以来、黒子の様子にも変化が起きた様な気がする。
黒子の上条に対する態度が、なんか違う。
以前は上条を類人猿だのあの男だの罵っていた黒子のはずだが。
だが上条の趣向を気にし、こうしてわざわざコーヒー豆を買ってきた。
どういう心境の変化なのかわからないのだが、初春が警戒するのには十分な、そんな様子である。
黒子「あ、初春。せっかくなのでわたくしも今日はコーヒーにしますわ」
初春「ふぁ」
その言葉が、「彼と同じモノがいい」という風に聞こえたのは初春の考えすぎなのだろうか。
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佐天「こんにちはーっ! 暇なんで遊びに来ちゃいました」
初春「あ、佐天さん」
固法「あら佐天さん。こんにちは」
黒子「ごきげんようですの、佐天さん」
完全に部外者であるはずの佐天がさも当たり前かの様に入室し、それを受け入れるこの第一七七支部の面々にも苦笑いをしながら上条は佐天に会釈を送る。
和やかな談笑ムードに一段と明るい空気が漂うと、壁にかかった時計からピピッと13:00を告げる短い電子音が響いていた。
黒子「そろそろ時間ですわね」
上条「今日はパトロール?」
黒子「ええ、そうですの。準備してくださいな」
上条「了解っと」
佐天「(ねえねえ。なんか白井さん、機嫌よさそうじゃない?)」
初春「(………………やっぱりそう見えます?)」
佐天「(うん)」コク
固法「(あら、あなた達もそう感じた?)」
時間になり、腕章を取り出した黒子のその様子を見て初春達はこそこそ話をする。
やっぱり黒子の様子がなんか違う、と初春の疑問も段々とその意味を理解しはじめてはいるがまだ確証的なものはない。
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初春「(うー私も仕事がなければ…………)」
固法「(それはダメよ。自分の仕事を放棄しちゃ)」
佐天「私もついて行こうかなーなんて」テヘッ
初春・黒子「さ、佐天さん!!」
初春「!?」
黒子「」グルル
佐天「」
上条「?」
ふと佐天が呟いた言葉に噛み付いたのは初春だけではなかった。
初春と共に噛み付いた黒子その人はきしゃーと威嚇するように佐天に視線を向けていて、さすがにそれに反抗というか言い返すというか何もできなかった佐天は冷や汗をかくだけであった。
冗談のつもりだったのにーとビクビクしながら紅茶を一気に喉に流し込むが、熱くはないのだろうか。
黒子「い、行きますわよ!」
上条「お、おお」
そんなこんなでタッタッと足早に支部から出ていく様子を、初春はぐぬぬ…………という視線をただ送っていた。
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上条「ちょ、ちょっと待ってくれー。どうしたんだよ?」
黒子「……………………」
早足で支部のあるビルから街中に出ると、黒子の背中に上条が声をかける。
なんか怒ってるような、そんな雰囲気になかなか声を掛けづらいものがあったがさすがに放っておく事もできないだろう。
上条の言葉に対して無言を貫いていたのだが、キョロキョロと周りを見渡してふぅ、と一息つくと黒子は振り返った。
黒子「いえ、なんでもありませんの」クス
上条「あれ…………?」
機嫌がいい?
先程の雰囲気とはまるで違う、かなりご機嫌そうなその黒子の表情に上条は首を捻った。
しかし黒子はその上条の走り方を見て少し表情を堅くする。
黒子「とう…………上条さん? どうされたんですの? その足…………」
上条「ん? あー、いや別に」
黒子「なんだか歩きにくそうにされていますが………………」
上条「はは、なんでもない。問題ない、大丈夫だ」
とは言うが。
実は昨日の美琴のあの一件で浴びた電撃の痺れは、まだ完全に取れてはいなかった。
意識を奪う様な出力ではなかったのだが、それでも翌日にまで残るような痺れはいまだ上条の足に影響を及ぼしていたのだ。
いや、実際にはそれは違う。
美琴も抑えたつもりでも、大の大人でも浴びれば一瞬で意識を飛ばしてしまう様な電撃であった。
浴びた箇所がどこであれ、レベル5の電撃は並大抵のものではない。
それでも上条が耐える事ができたのは、普段の美琴からの電撃を浴び慣れていたからかそれとも上条の肉体的なものだからかはわからないのだが、上条の意識は飛ばなかった。
ただこうして翌日にもまだ痺れを残すというその電撃の威力はやはり推して計るべきのものなのだろう。
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ただその理由を上条は言わない。
美琴の電撃を浴びて、というのは美琴のせいで、という言葉にも置き換えられるのかもしれない。
この黒子は美琴に対して無条件の信頼と情愛を持っているのは上条も知っている。
黒子が美琴に対して悪いという事は決して持つ事はないのだろうが、それでも言わないのが上条という男だった。
黒子「………………お姉様、ですのね」
上条「っ」
しかしそれを見透かしたかの様な黒子の言葉が上条の耳に届く。
やはりわかってしまわれたか、と上条は溜息を吐いた。
上条「御坂のせいじゃねえぞ? 俺が無茶してさ」
黒子「ええ………………でも、その」
上条「御坂を悪く思わんでやってくれ。あいつ、寂しそうにしてたからさ」
黒子「それは勿論ですの! お姉様は、わたくしの大事な、お姉様なんですから…………」
上条「……………………、そっか」
やはり、黒子は美琴を一番わかってて一番近くにいる親友なのだろう。
上条が危惧していた事は、いらぬ心配だったとホッとした様子を見せた。
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上条「………………それを聞いて安心した」
サンキュ、と黒子に軽く笑いかける。
黒子「────────!?///」
上条「ん? どうした?」
その瞬間黒子は顔を隠すように上条から背けた事に怪訝の言葉を聞かせるのだが、黒子は顔を見せようとはしない。ただ耳は赤くなっていたが。
ふと、黒子はそっと上条の横に添う様に立つ。
どうしたんだろうと上条は黒子の俯いた顔に視線を向けるが、どんな表情をしているのだろうか。
黒子「あ、歩き辛いのでしたら! ………………わたくしが支えますの///」グイ
上条「お、おい、白井…………?」
どうやらその赤いのは耳だけではなかったようだった。
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上条「御坂は?」
黒子「ええ。お姉様のお母様が寮まで迎えに来てまして。お二人で今日は夜までいらっしゃるようですの」
上条「そっか」
上条と黒子の二人が街中を警邏する。
二人の腕には腕章がついているのだが、その腕は組まれており。
上条からしてみれば歩きにくい所を支えてもらってるというのが弁なのだが、周りから見ればそれはとてもパトロール中には見えなかったらしいのだがいいのだろうか。
黒子「歩きにくいのならそうおっしゃってくれればよかったですのに」
上条「いやあ、なんか言いにくくてな。今日にはもう元に戻ってると思ったんだけど」
はは、と乾いた笑いを出す。
なんて事はない、すぐ治るさという軽口を叩くが、黒子の様子は少し重たげな雰囲気を持っていた。
あまりにも近距離の為、表情は窺えないが。
黒子「…………無理はなさらないでくださいの」
上条「ん? 無理なんかしてねえよ」
黒子「お姉様からいつも話はお伺いしてますの。人を助けては入院を繰り返しているそうではありませんの」
上条「繰り返しって。そんないつもいつも入院なんて事は……………………してんな、俺」
否定するつもりが逆に納得してしまい、反論する事もできなくただ苦笑いを浮かべる。
まあ確かに大体死にそうな目に合っている事は事実だし。
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それにしてもそんな言葉が黒子の口から聞かされた事に上条は少し驚いてもいた。
黒子から見た自分は、嫌いで敵で憎い者ではなかったのか。
上条「ありがとな。はは、いや白井って俺の事嫌っていたと思ってたんだけど」
黒子「………………………………」キュッ
上条「……………………し、白井?」
上条がそういうと、腕を組む力が強まる。
黒子のその身体が腕全体に当たる様な感触で上条はたじろいで情けない声が上がっていた。
黒子「前も言いましたが。嫌ってなどいませんわ……………………当麻、さんの事」
上条「そ、そうか? はは、よかった」
そんな黒子の雰囲気に、やっぱり上条は情けない声を上げるしかできなかった。
初春「………………なんか嫌な予感がしますぅ」
佐天「どうしたの? 初春ー」
初春「むむ………………これは早く仕事を終わらせる必要がありそうです!!」キュピーン バババババ!
佐天「ざ、残像が見える………………」
一方、支部内では妙な予感を感じた初春が少し多めの休日の仕事を倍速鬼モードで、だが確実に手早く済ませてしまおうと躍起になる初春の姿があった。
まあ早く終わらせた所で二人が戻ってくるまで待つしかないのに、という事も頭からすっ飛ばしていた事に佐天も固法もすっかり言葉を無くしていた。
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鯖移転、運営様お疲れ様でした!
また次回ー
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黒子の「かっこいい」は背伸びをしてる上での格好良さ
黒子の「かわいい」は歳相応の可愛さ
伝わり難いかも知れんが、そこが黒子の魅力なんじゃないかと
仕事であるはずのパトロールがこんな楽しい時間に変わろうとは。
上条「それでなー、青ピと土御門のせいで連帯責任っつって。俺まですけすけみるみるさせられる事になってな」
黒子「それは災難でしたのね。それですけすけみるみる、とは?」
上条「ああ。目隠ししてトランプを見ずに図柄と数字を10回当てるやつでさー…………」
黒子「それは透視能力のカリキュラムではありませんの?」
上条「小萌先生がさー、なんか『上条ちゃん達は努力が足りませーん』って言い出してさ、努力すれば見えるはずっつってもわかる訳ないっつの。できないから『ポーカー10回勝ったらにしてあげますぅ』ってそれも目隠しされたままで、当然勝てるはずもなく」
黒子「それはまた無茶な話ですわね」
上条「だろ? コロンブスの卵じゃなくともクリアなんかできなくてさ。結局完全下校時刻寸前まで捕縛くらっちまってたんだよな」
黒子「それにしても、小萌先生、とおっしゃいましたか。以前お見かけした時に教師とお伺いして、失礼ながらとてもそうには見えませんでしたが」
上条「だよな。あー、そういえば一方通行の奴も言ってたな。二五〇年法だったっけ、不老不死の研究がどうのこうのっての。それ小萌先生が対象者なんじゃないのかって」
黒子「いくら学園都市といえどもそのようなモノは…………いえ、確かにあのお姿を見ればそう言われても否定できませんわね」
二人で腕を組みながら街中を歩く。
それは警邏、というよりもまるで恋人同士が仲良く話し合いながら歩いているという図にしか見えなく、実際にこちらの様子をなんだか見る学生達の視線も暖かい。
それでも黒子は、嫌な気分など少しもしなかった。
以前ならば、首を振って彼を蹴飛ばしてでも否定して拒絶していたのだろう。
しかし、今は違う。
どちらかというと自分から望んで、またそう見られるのが心躍るような思いになっている。
彼の歩行を支えている、というのが名目なのだがこの自分の腕で包む彼の腕をギュッと抱き寄せる様に無意識でしていた。
上条「つさ、パトロールってこんなんでいいの?」
黒子「構いませんわ。ジャッジメントが見回っている、という状況だけでも大事な防犯に繋がりますの」
上条「これはただの談笑しながらの散歩にしか思えないんだけどな…………」
黒子「あら、意外と真面目ですのね。とはいっても四六時中周りを睨みをきかせるように歩いていても疲れてしまいますわ。適度に、というのが肝心ですの」
上条「そういうもんか」
黒子「そういうもんですの」
上条「なるほどですの」
黒子「真似しないで下さいまし」チク
上条「いてっ。悪かった、腕ちみくんないでくれー」
黒子「……………………ふふ」クスクス
異性など黒子にとってあまりよくは思わないものだったのに。
こうして男の腕を抱くなど、黒子は夢にも思っていなかった事だった。
犯罪者を捕縛する時も、大抵は男であるパターンが多く黒子も手心を加える様なことはしない。
先輩支部長から「やりすぎ」と言われようが、心の根っこの部分で男に対して嫌悪感を持っているのだからそれは仕方のない事だ。
触れる事も、近付く事でさえ身構えてしまうものなのに。
しかし、彼だけは例外だ。
寧ろ彼だけには触れてほしい、彼だけには関わりたいと思える。
この嫌なはずの男らしい肉付きの腕も、彼の腕ならば、と自分から手を引いていて。
その腕から感じる暖かさに、胸の心地好い高鳴りが響く。
彼の声と優しさと温かさと。
この自分の大切だと思える心音も彼に届いているのかもしれない。
しかしそれでも、黒子は離れる様な事はしなかった。
黒子「…………初春よりも先に、気付いていればよかったですの」
上条「ん? 初春さんがどうしたって?」
黒子「何でもありませんの。ほら、行きますわよ」
上条「引っ張んなって。足ももう多分大丈夫だし、そろそろ離れた方がいいんj
黒子「お断り致しますの。あなたは黙って引っ張られていなさいな」
上条「うぅ…………視線が気になるんだよ…………」
黒子「ジャッジメントの仕事と思わせれば問題ないのではありませんか」
上条「とてもそんな風に思わす事が出来るとは思わないんだけど」
黒子「職務を放棄して遊んでいる訳でもないんですの。そう言われたとしてもいくらでも状況説明して差し上げますわ」ギュ
上条「ダメだこりゃ、梃子でも動かねえ…………」
溜息を吐くようにして頂垂れる上条だったが、それでも黒子は離そうとはしない。
そうして一通り見回りが終わるまで、二人の腕はずっと組まれていたままであった。
「やぁ、今日は一体どうしたんだい? 怪我をしたようにも病気にかかったようにも見えないけど?」
浜面「ちわっす。いや、聞きたい事があって」
第七学区内にある病院にて、浜面達はカエル顔の医者を訪ねていた。
白衣を着、椅子に座りながらコーヒーを飲むその人物は不思議そうな顔をして浜面にそう問い掛ける。
ぱっと見、とても凄そうな人には見えないのだが、この人物がどんな大怪我や重病の死の淵からでも連れ戻してしまう「冥土帰し」という異名を持つ凄腕の医者だ。
その冥土帰しとは、麦野が入院した時期にお見舞いした際に何度か見掛け、お互い面識を持っていた。
独特のその雰囲気で浜面達を迎えると、とりあえずと冥土帰しは椅子に座らせる。
冥土帰し「聞きたい事ってなんだい?」
浜面「聞きたい事というか、紹介してほしい人がいて」
冥土帰し「ふむ、紹介してほしい人、とは?」
浜面「AIM拡散力場を専攻としてる研究者の人なんだが…………」
冥土帰し「AIM拡散力場専攻の研究者? 何人か知り合いはいるけど、急にどうしたのかな?」
目の前の冥土帰しが、自分達を見定める様にして疑問を投げ掛ける。
まあそれも当然だろう、突然スキルアウトの風貌した三人の男が訪ねてきて研究者を紹介しろというのもまた変わった話である。
やはりこれは説明せねばなるまいか、と浜面が口を開きかけた時、この診療室のドアがノックされた音が響き渡った。
コンコン、ガチャ。
「失礼するよ」
冥土帰し「おや? どうしたんだい?」
「教え子がちょっと怪我をしてしまってね。診てやってほしいんだ」
「痛いよぅ…………」
冥土帰し「何処を怪我したのかな?」
「えっと、ここ」
冥土帰し「ふむ、大丈夫だよ? すぐに治るんだね?」
浜面「むー…………俺達、ここにいてもいいんかな?」ボソ
半蔵「さあ? ま、いいんじゃないか?」ボソ
「この白衣着た人も綺麗だ………………」ボソ
「大丈夫そうなら安心した。それより、この少年達は?」
すると白衣を着た、目の隈が特徴的な女性が浜面達に一度目を向けて冥土帰しに聞いていた。
何となく居心地が悪そうな気がした浜面だったが、何となしにその場にいてその女性に目をやる。
ウェーブのかかった長い髪が似合う綺麗な人だなという印象は喉の奥で飲み込む事にしたが。
冥土帰し「これでよし、だよ? 包帯巻いたから今日一日は動かさないようにするんだね?」
「わぁ、ありがとうございます」
浜面「治療早っ!?」
ほんの少しの間、目を離したその一瞬の内に治療が終わった事を冥土帰しが言葉に出すと浜面は思わずそうツッコんでいた。
さすがは冥土帰しと言われる人物だ、あの状態の麦野の身体を治しただけの事はあった。
冥土帰し「そこの少年達、AIM拡散力場専攻の学者さんに用があるみたいだよ? 木山くんの事じゃないのかな?」
木山「そうなのかい?」
浜面「んあ?」
木山と呼ばれた女性がその言葉を耳にすると再び、今度はまじまじと浜面達の方に目を向ける。
それはまあ何と言うか、タイミングが良かったというか。
浜面達にとって願ってもない邂逅であった。
黒子「只今戻りましたの」
上条「戻りましたー」
初春「あっ! 戻ってきましt」
黒子「至って問題はありませんでしたの」
上条「平和な街でした」
黒子「学生達は皆笑っておりました」
上条「それぞれ休日を楽しんでいる様でした」
黒子「忙しそうな平日とは違い、緩やかな時間が流れておりました」
上条「蔓延る悪の気配はありませんでした」
黒子「伸び伸びと買い物に勤しむ女学生を見ました」
上条「本を読み歩きながらぶつぶつ独り言を言う受験生も見ました」
黒子「何やら女の子が描かれた紙袋を大事そうに抱える男子学生も見ました」
上条「ああ、父よ母よ」
上条・黒子「「今日も学園都市は平和です」」
初春「」
佐天「」
固法「」
帰ってきた矢先に何を言い出すんだこの二人は。
お互いを見合って、「ぷっ」と吹き出す上条と黒子に声をかける猛者はこの風紀委員第一七七支部の面子にはおらずただ言葉を無くしていた様だった。
初春「じゃなああああああぁぁぁいです! ってか白井さん! なに当麻さんと仲良さそうにしてしかも腕を組んでるんですか!」
黒子「あら? あらあら」
上条「ぬお。そうだ、もういいよな、白井?」
黒子「ダメです、とわたくしが言えばあなたはどうするおつもりで?」
上条「え、まだダメなの?」
黒子「ええ、わたくしがいいと言うまで、このままの状態ですの」
上条「いやもういいだろ…………女の子と腕を組むなんつー事、出来る事なら上条さんの精神的に擦り減る物が多くてご遠慮いただきたいのですが……」
黒子「……あなたはお嫌いなんですのね、わたくしの事…………」オヨヨ
上条「なんでそうなるんだ。そんなわけあるか」
黒子「なら先輩の言う事は黙ってお聞きなさいな?」キライジャナイ? ヤッター
初春「しいいいいぃぃぃぃらああああぁぁぁぁいいいいぃさああああぁぁぁんんんんんんん?」ゴゴゴゴゴ
黒子「う、初春から黒いオーラが…………!」
上条「ひいいいぃぃぃ、背景にどっかの怪獣映画に出てきた花の怪獣が見える!?」
これはやばいか、と上条は情けない悲鳴を上げながら何とか初春を宥める。
完全にノリで黒子との会話を深く意味も考えもせず合わせていたのだが、何かが覚醒してしまいそうな初春を見て
少しふざけすぎたなとちょっぴり反省していた。
佐天「い、いつの間にこんな仲良しに…………?」
初春「むー……………………」
完全に確信した。黒子はライバルだ。
黒子の様子を見れば一目瞭然である。
決して異性に対して気の許す事のない黒子が、ここまで彼に自分の方から近付くとは思いもしなかった。
黒子「ふざけが過ぎてしまいましたの。悪かったですわ、初春」
初春「」プイ
上条「ほ、ほら、初春さんごめんって。ふざけすぎた」
初春「当麻さん………………」
黒子「………………わたくしの事は完全無視ですの」
あれから目に涙さえ浮かべると、黒子と上条はようやく離れていた。
彼に自分以外の女の子が近付く事の悲しさと悔しさのような物を感じて初春はぷんすかとその頬を膨らましており、佐天もそんな初春を見て苦笑いを浮かべていた。
誰よりも好きなのは、自分なのに。
白井さん、応援してくれるって言ったじゃないですかーと怨みの様な感情も混ぜて黒子に鋭い視線を送る。
すると黒子はうっ、とたじろぎ、言葉少なげにしてすごすごと引き下がっていた。
どうやら黒子とは、もう一度しっかり話し合うべきなのではないかと思えてくるくらい、黒子の態度は一変していた。
初春「でも、当麻さん………………足は、大丈夫、ですか?」
上条「ん? ああ、もう大丈夫だぞ。明日になりゃ完全に治ってるって」
初春「…………白井さんは気付いたんですね、当麻さんの足のコト」
黒子「………………ええ、まあ」
少し落ち着いて彼を見てみれば自分も気付けた事のはず。
しかしここに来る際、彼に会えたという事で気分が喜びの最高潮で落ち着く事ができず、それに気付けないでいた。
自分の事ばかりで。
彼の様子も気にかけられなかった事が初春は悔やんでいた。
ましてや自分じゃない黒子が気付き、そして歩行を手助けしてあげるという事で腕も組んでいたというのだ。
彼を一番に見ているのは、自分ではないのではないかという思いさえ浮かんできて、またそれが初春の気分を沈ませる。
彼の目に一番に映る者はまだわからないのだが、彼を想う者では一番でありたかった。
彼を一番に気遣い、一番に想い、一番に好きで。
この確かな想いを自負していたいたのに、彼の身体の異常という非常事態に気付けなかったというのが、ひどく初春の気持ちを落ち込ませていた。
上条「ほら、もう大丈夫だって」ナデ
初春「え──────」フワ
しかし、初春のその思考は中断させられる事になる。
この頭に覆いかぶさる感触が、初春の心の涙を止めた。
グイ、と抱き寄せられるように彼の身体に自分の身体がぶつかる。
彼の胸元に顔を埋める様にして、初春はただ驚きながらもその暖かく優しい感触を噛み締める。
撫でられて、抱き寄せられて。
滲んだ心が、晴れ渡るかのよう。
上条「そんな泣きそうな顔しないでくれ。初春さんが泣きそうになると、こっちまで心が痛むぞ」ナデ
初春「当麻さん……………………」ギュ
黒子「くっ……………………!」
佐天「(わお……………………)」
固法「(私の知らない間に色々な事があったみたいね…………)」
どうしようもなく、温かい。
優しい、愛しい、好き。
一気に感情が押し寄せる様にして、初春は上条の背中に腕を回した。
身体を包む彼の匂いが、心地良い。
落ち着く、ずっと触れていたい、ずっとこうしていたい。
初春「あったかいです、当麻さん…………」
上条「はは、初春さんも。あったかいな」
胸の動悸も、彼に伝わっても良い。
それが彼の心に、少しでも届いてくれればいい。
だからしばらくそうして、自分の身体を重ねる様にして強く彼の身体を自分からも抱き寄せていた。
上条「元気になったか?」
初春「はいっ」
上条「そっか。よかった」
彼と接する度、彼の顔を見る度。
どんどん想いが膨れ上がっていくのがわかる。
風船で例えるならば、それはもう破裂寸前の所なのかもしれない。
もう声を大にして「大好きです」と言ってしまいたい気分。
上条「ほら、今日はご飯食べに行くだろ? せっかくだから、そういう良い顔してくれりゃ俺も嬉しいぞ」
初春「………………はいっ、そうですね」
黒子「ご飯………………だと………………?」
まあそんな言葉にピクリと眉を動かした少女が一人いたのだが。
浜面「という訳なんスけど。何か心当たりはないですかね?」
木山「ふーむ、なるほどね」
湯気が立ち込める紙コップに注がれたコーヒーを少しずつ口に含みながら木山が答える。
浜面達の話をしっかりと吟味するように十分に時間を置き、木山は言葉を選ぶようにしてそれだけ口に出していた。
病院で紙コップ──────それって、何だかなぁと浜面達はなんとなく遠慮しておき紙パックのジュースを購入していたのだがまあそれは完全に余談である。
木山「まあ、心当たりはないことはないが」
「まじっすか!」
浜面「おお」
木山が告げた言葉に浜面達は歓喜の様な声を上げる。
やったな、今度こそビンゴか、とお互いの顔を見合っていた。
木山「『DMリカバリディスク』。それは何の事かわかるかい?」
「………………いや、わかんねっス」
浜面「なんだろ」
木山「まあ実際にはあってないような物だからね」
「……………………えっ、どういう事っすか?」
浜面「あって、ないようなもの?」
木山「ふむ、そうだね。ヒントを上げるとすると、実際にはそのデータカードは“存在しない”んだ。普通の方法ではね」
浜面「ど、どういう事なんですか?」
木山の呟く言葉が何だかよくわからないという表情で浜面達は詰め寄る。
やはり研究者、学者達と自分達の頭の構造は違うのであろうか、イマイチ理解できない。
頭を必死に絞るが、やはりどうにもそれらを繋げて一本の線に結ぶ事はできなかった。
半蔵「ふむ、普通の方法、とは?」
木山「ああ。データカードというモノはコンピューターがあって初めて成り立つものさ。しかしそれが普通の方法では成り立たないのが『DMリカバリデバイス』というものなんだ」
半蔵「つまり、普通ではない方法を当て嵌めればいいという訳だな?」
木山「ほう、君は頭が切れるんだね」
浜面「おい、お前わかるか?」
「わかると思うか?」
浜面「全然」
「なら聞くな」
半蔵は何かを掴んでいるのか、掴みかけているのか。
わからないが何やら意味深な会話を木山と交わしており、一呼吸置いて頷くようにして紙パックのジュースに手をかける。
浜面達二人はただ横で聞いているだけの、傍観者に近いものになりつつあった。
半蔵「それで、方法とは一体?」
木山「データカードと言えばコンピューター。それに準ずるものを思い浮かべるといい──────ん?」
prrrrrrrrrrrrrrr────
またわかりにくいような言葉を残し、木山は着信を告げる電話を手に取り、確認するとポケットにもう一度しまう。
その一連の動作に、やけにインテリ感を感じながら浜面はじっと木山を見つめていた。
木山「おっと、そろそろ私はいかなければ」
浜面「ええっ? も、もう少しヒントを」
どうやら着信は呼び出しだったのだろうか、そうしている内に木山は席を立った。
木山「すまないね、そろそろ行かなくてはならなくなった」
「まじっすか………………まあそれなら仕方がないっすね」
その言葉に歩き出した背中越しに手を振りながら答える。
そして数瞬の逡巡の後、もう一度振り返って浜面達と視線を合わせた。
木山「残りのキーワードは、『別次元の構築プログラム』というもの。それもとびっきり頑丈な、きっと彼女にしか扱えないもの。彼女だけの構築プログラム、それはヒントだ」
半蔵「なるほどね」
浜面「どういう事だよ」
木山「中途半端ですまないね、それでは私は失礼するよ」
そういうと今度こそ木山は連れて来た小さい彼女の(教え子)?の手をひっぱり部屋を後にしていった。
半蔵「普通ではない、か。構築プログラムね」
浜面「どういう事だよ、教えろよ」
半蔵「確証はまだない。だがこれらの情報は決して無駄なんかじゃなかったな」
「もったいぶらずに言ってくれ…………」
半蔵「この街最強のネットワークシステム防衛者──────『守護神』の構築プログラムならばあるいは、という事なんだと思う」
浜面「……………………おい」
「……………………おい」
半蔵「……………………ん?」
「「ますますわかんねーよ」」
半蔵の名探偵ばりの推理の様な言葉に返せたのはかろうしてそれだけな二人であった。
時間空いてしまって焦りながら寝ぼけて書いた文章だから所々おかしいところがある
また次回!
>>167
腕抓(つね)らないで
で良いんじゃないかな?
17:00が今日のジャッジメントの仕事の終業時間。
残り10分まで迫った所で、初春はまだかまだかという思いで時計と睨めっこをしていた。
倍速鬼モードで自分の仕事は既に30分前に終わらせており、今現在は佐天と共にお茶を啜っている。
佐天「それにしても。今日だったんだ? 上条さんとの約束のお食事会は」
初春「えへ。そうなんですよー」
黒子「」ピク
初春「早く時間にならないかなー」
黒子「」ピクピク
佐天「…………なんか白井さんがぴくついてるよー」
まだ残っている仕事に手をつけながら初春が言葉を出す度に様子を窺うようにして妙な反応を示す黒子に佐天が取り敢えずツッコんでおく。
ぐぬぬ、と恨めしい様な視線を初春に送っているのだが、当の初春は可愛らしいカップを両手で口元に運びながら視線だけをずっと時計と上条の方向に行ったり来たりさせていて黒子の様子も視界に入れない。
現在固法が上条に付きっ切りで書類処理について教授をしており、上条もそれを真剣な表情で聞いている。
…………真剣な、とは少し違うか。
時々ちんぷんかんぷんそうに眉を引き攣らせていて、彼のこういう作業は苦手だーと訴える様なその表情を見て初春はクスッと柔らかい笑みを浮かべる。
確かにジャッジメントの書類処理等の作業は面倒で、また頭も使う。
事件や事故の首尾、また第一七七支部が受け持つ地域の治安の様子を逐一、上に報告する義務があり、その際には自分で言葉を考えて詳細まで書き記さなければならない。
事件が起きて犯人を捕まえるだけが仕事ではない。
初春も当初慣れるまで少し時間がかかったのだ、こういう分野が苦手な上条が大変そうにしているのは実によく分かった。
初春「……………………」ジー
佐天「…………ってさー、…………よね」
初春「……………………」ジー
佐天「だと……うぃ……してもさ、……………なのにね。って初春聞いてる?」
自由な方向に向いている髪の毛。
普段はそう見えなくても、いざという時には力強くなるその目。
シュッと整った鼻、形のいい口。
………………以前自分の頬に触れた、その唇。
初春「ふええっ///」
佐天「ええ!? いきなり煙が頭から出た!?」
黒子「何をしているんですの…………」
大好きな人の、顔。
見ていられるだけで幸せな気分にも陥ってしまう初春には、もはや他のものなど眼中にはないのだろう。
~~~♪ ~~~♪
初春「」ガタッ
上条「お、終わったぁ…………」
固法「ふふ、お疲れ様」
時計の時刻が変わった事を知らせる電子音が響くと、初春はその瞬間に席を立つ。
その身の早さ、恐らく早撃ち対決だったのならば誰にも初春に勝てる者はいなかったのだろう。
彼の間延びた声とそれを労うような固法の声が届くと、自分の鞄にちゃっちゃと荷物を仕舞う。
筆箱とレポート用紙とノートパソコンと、その他諸々。
もう見なくたってその一連の動作を手早く済ませてしまった初春は、タッタッと上条に駆け寄りその手を取った。
上条「わわっ」
初春「当麻さん、行きましょう!」
上条「ちょ、ちょっと待って荷物取ってくるから」
初春「らじゃです」バッ
佐天「くぅ、どんだけ楽しみにしてたかわかる動きだね」
黒子「………………………………む」
はは、と苦笑いして上条は鞄を手に取る。
というか、もう帰ってもいいの? という視線を固法に向けるが、固法がニヤニヤした頷きを見せると上条も納得して椅子を机の奥にしまった。
上条「それじゃ、お疲れ様っした。行くか、初春さん」
初春「はいっ。行きましょう当麻さん」ギュ
上条「……………………手の感触ががが」
初春「えへへ」ギュウ
小さく柔らかいその手の感触に上条がたじろぐが、初春はさっさと手を引っ張って支部室から出ていく。
一応「お疲れ様でした」という挨拶はしていたがそれはもう完全に流れ作業としてで心はもう彼との時間一直線であった。
佐天「お疲れ様ー、初春、後で聞かせてもらうからねー」ニヤ
固法「私もまた聞かせてもらうわ」ニヤ
黒子「………………………………ぅ」
バタン──────
佐天「さて、私達も帰りましょうか?」
固法「そうね。ねね、ケーキ屋寄って行かない?」
佐天「あ、いいですね。お供しまーす!」
固法「白井さんもどう………………って、白井s
黒子「うがあああああああぁぁぁぁ!!」ダンッ
佐天「」
固法「」
もし今ここにちゃぶ台があれば絶対にひっくり返しただろう。
そんな少女の咆哮が彼らが出て行った支部室で響いていた。
上条「さむっ」
初春「もう完全に冬の季節到来ですね」
上条「初春さん大丈夫? 寒くないか?」
初春「わ、私は………………ぁったかぃでしゅ……///」ギュギュゥ
上条「お、おう…………そっか」
ビルから出ると、秋から冬にかけての季節の夕暮れ時の一段と冷たい風が吹きすさび、上条はその寒さにちょっぴり身を震えさせる。
もう季節柄、陽ももう少しで完全に落ちてしまう時間帯でかろうじてその夕焼けがそびえ立つビルの間から覗かせていた。
知識としては知ってはいるのだが、実際には『初めて』味わうこの季節になんだか夏とは違う哀愁を感じ、毎年こんな感覚味わってたんかなと感想を抱く。
淋しいとは少し違う、人肌恋しくなる様なこの感覚。
だが、この右手を包む柔らかい温もりがそれを晴らしてくれていた。
自分の肩付近にあるその頭、柔らかそうな髪質、まっすぐ街に目をやるその大きな瞳。
それが妙に庇護欲というか、愛護心というかこう、ギュッとしたくなるというか…………何というか。
初春「………………? 当麻さん、どうしました?」
上条「………………っ、い、いやなんでもないぞー」
自分の視線に気付いたか、こちらに顔を向けてちょこんと首を捻る彼女の様子に。
上条は咄嗟に目を逸らしていた。
───今の可愛すぎだろ………………
自然と顔がなんだか熱くなっていた事に上条はそわそわしだす。
この感覚は、きっとこの季節感のせいだけではないのだろう。
右手に繋がれたこの少女の存在を、守りたい。
本気で、守り通したい。
上条「…………………………」ギュ
初春「と、当麻、さん………………///」
上条「どこ行くか、決めた?」
初春「は、はい、一応…………///」
自分からも強く、自然にその手を握り締めていた。
「いらっしゃいませ」
店内の暖かい空気が身体に染み渡ると、上条は縮こまらせていた身体を居直して寒さから肩に入っていた力を抜いた。
まあロシアの寒さよりはまだマシであったのだが、こっちでもそろそろマフラーがいるなぁなんて感想を漏らしながら店内の様子に視線を向ける。
「お客様、二名様でよろしいでしょうか?」
上条「あ、はい」
初春「中はあったかいですね、当麻さん」
上条「ん、そうだな」
それではこちらにどうぞ、という店員さんに導かれて奥のテーブル席まで向かう。
店内では流行りの音楽が掛かっており、また食欲をそそる芳醇な香りが漂っていて実に美味しそうなお店の雰囲気を醸し出していた。
初春が選んだお店は、前から一度行ってみたかったという洋食屋であった。
何かのグルメ雑誌で目にしたお店の様で、チェーン展開している大衆レストランよりもほんの少し上品で小洒落た印象の洋食屋だ。
上条としてはなるべくなら高価そうなものではない事を祈り、初春に導かれるがままについてきたはいいのだがそのお店の高価そうな印象を受けるその外観にかなり焦ったというのは彼だけの秘密。
ただ店のガラス張りで展示されていたサンプル品と書かれていた案外良心的な値段設定を見て、何とかなりそうだとほっと一息撫で下ろしてもいた。
こういうのは男が奢るものだろう。
後は初春が何を注文するかで自分の注文も変わってくるのだがそんな雰囲気は感じ取らせない。
「ご注文は後ほどお伺い致しますね」
上条「はい」
マニュアル通りにお冷やとおしぼりを二つテーブルに並べ、下がっていく店員さんを見て上条はメニューをテーブルの上に広げた。
初春「わぁ、どれも美味しそうです!」
上条「だな、何にしようかなー」
初春「むむー」
初春は楽しそうな表情でメニューの端から端へと目をやっている。
んー、どうしようかなと口元に指を当てて考え込む様子を見て上条はピク、と動きを止めていた。
また。
まただ。
こう、胸にキュンと来る様な、妙にギュッとしたくなる様な。
初春「パスタもいいなー。でもハンバーグも捨てがたいな、むむむ」ムー
上条「……………………」キュン
初春「デミグラスソースのオムライスもいいし、ピザも美味しそうですー……………………当麻さん?」
上条「ん? あ、いや、どした?」
初春「あっ、ごめんなさい、私ばっか見ちゃってました」アセ
上条「はは、いいぞ」
変な所を見られたか、と取り繕う言葉を出すがどうやら怪訝には思われなかったらしく上条は少し安堵していた。
すると初春が、テーブルの上の彼女よりにあったメニュー表を真ん中当たりまで移動させ、上条に微笑みかける。
上条「ん、決まったか?」
初春「いえ、まだですけど………………当麻さんと、一緒に見たいな、って…………///」
…………それは反則だろう。
その様子に照れ隠しで初春から真ん中に寄せられたメニュー表を覗き込む様にして視線を逸らす。
初春もメニュー選びを再開させ、二人でそれをじっと眺めていた。
───……………………ち、近い…………!
ふわ、と彼女の頭から甘い香りが漂う。
本日、実は彼女の頭にはいつもの花飾りではなくワンポイントの一輪の花が象られたヘアピンがついているだけ。
佐天がつけているそれとどうやら同じタイプの物で、それも実に彼女に似合っていると思う。
というか、あの花飾りでは無しに直に彼女の頭が僅か数cm目と鼻の先にあるものだから、彼女の使用しているシャンプーの甘い香りが息をするだけで入り込んでしまうのだ。
上条「……………………お、俺はもう決まったか?」
初春「は、はい?」
妙な緊張感から支離滅裂な文章が口から出たのは仕方のないこと…………かなぁ?
初春「そういえば、当麻さんっていつもご飯はどうされてるんですか?」
上条「ご飯? いつも作ってるぞ?」
初春「あれ、インデックスさんは料理は…………」
上条「あいつは作らない、というか作れないんだよなぁ」
初春「そ、そうなんですか? あれ、それじゃ今日はインデックスさんは」
上条「ああ、それなら大丈夫だ。代役頼んであるからなー」
午前中、出掛ける際に「今日俺の分のご飯はいらないから」と言うと妙に訝しげな視線を三つ投げ掛けられたがオルソラの「了解なのでございます」の声で何とか有耶無耶に薄められて難を逃れていた。
こういう時に妙に勘の働く少女達の様子にたじろぎながら逃げる様にして仕事場まで逃れた事はまあいいのだろう。
初春「あの、聞いてもいいですか?」
上条「ん? どした?」
初春「その…………インデックスさん、って」
上条「ああ、インデックスの事ね。んー、と…………」
何と説明したらいいのだろうか。
魔術の事はなるべくなら学園都市内ではおおっぴらにしたくないし、それに。
目の前の少女に、危険が迫るのだけは特に避けたい。
ただ魔術の事を口に出した所で初春がどういう行動に出るのかはわからないし、どうなるのかはわからない。
ただそれでも、やはり少しでも彼女に危機が降り懸かる可能性というのを無くしたい。
ましてや今、まだ詳細はわからないのだがこの学園都市でその魔術の事件が起きたばかりという状況なのだ、殊更中々に言いづらい事だ。
あの時、病院内で聞いたあの話。
打ち止めを守る為に、勇敢に学園都市第二位の男に立ち向かったというのだ。
ジャッジメントとしてというのもあるのだろうが、そんな正義感溢れる彼女の様子からこの事件の匂いを嗅ぎ付ければきっと彼女はそれに自分からも関わろうとしてしまうのだろう。
目の前の少女が傷付くのは、一番見たくない。
上条「そうだな、訳あってウチで預かってるだけなんだ。ほら、昨日のあの三人いただろ? あの三人はその、保護者みたいなもんでさ。あいつらから頼まれたんだよ」
初春「その、訳とは?」
上条「んー…………、なんつーか、その…………」
どうしよう。
何とかごまかしたいのだが。
ただ、上条は揺れている。
彼女を危険から遠ざけたい自分と………………隠し事をしたくない、自分と。
相手が美琴とかだったのならば問答無用で隠していた。
しかし、彼女は違う。
ありのままの自分で接したくて、ありのままの全てを知ってほしくて。
自分の知っている数少ない物を、共有したくもあって。
上条「…………………………っ」
言葉に、詰まった。
が。
初春「ぁ………………当麻さん、ごめんなさい」
上条「え────────」
ペコリと下げられた頭に、上条は戸惑った。
初春「言えない事、言いたくない事。誰にでもありますよね」
上条「……………………」
初春「御坂さんの事も、御坂さんから話してくれるまで私は聞かないって決めたんです」
上条「……………………ああ」
初春「全てを聞くだけが優しさ、親しい間柄じゃないってあの時知ったのに、また言いづらそうな事をつい当麻さんにも聞いてしまって。ダメだな、私って」
コツン、と自分の頭を叩くようにして自嘲した笑い顔を浮かべる初春を見て、胸がズキッと痛んだ。
痛い。
違う。
彼女にそんな顔をさせる為に、そうしたんじゃないのに。
上条「………………初春さん、ごめん。御坂と同じように、今は言えない。言えないけど」
初春「……………………はい」
上条「危ない事もあるから、言えないけど。でも、初春さんには何となく知ってほしい気もするんだ。だから、言うよ。いつか言えるようになったら、その時は聞いてほしい」
初春「……………………はいっ、当麻さん……」
気付けば、そんな言葉を呟いていた。
その時の少し寂しそうな笑顔が、やけに印象的に写った。それが、より一層上条の心を揺らす。
上条「……………………ダメだ、抱きしめてぇ」ボソッ
初春「え、え/// と、当麻さん………………?///」
上条「ぬああっ!? き、聞こえてた…………?」
初春「は、はい…………その、聞こえてしまいました……/// オ、オネガイシマシュ…………///」
上条「いいいいいいいいいいのか?」
初春「は、はい………………っ///」
上条「…………いや、でもお店の中だしお店の中じゃなくても抱きしめるというのはというか俺何言ってんだこの、このしっかりしろ当麻しっかりしなさいうわヒーハー」
初春「と、当麻さん………………その、来てくれないんですか…………?///」
赤い顔をして、上目遣いでおねだりするようなその初春の表情。
頬に手を当てて少々意識が飛びそうになっている所も…………やたらと、ギュッとしたくなった。
初春「抱きしめて、ください………………っ///」
その言葉ですぐさま初春の元に向かってギュッと抱きしめてしまったのは上条だけのせいではない。
上条「…………………………」ギュギュウ
初春「ふぁ……………………っ////////」
うん、きっとそうだ。
「お待たせ致s………………………………何をしているんですか? とミサカは目の前でいちゃつくバカップルの男性の方を見て驚きと苛立ちが隠せませんんんんんんん」
上条「」
初春「」
店員(?)「離れなさい」パシッ
上条「いてっ、ってみ、御坂妹!? な、何でこんな所に!?」パッ
初春「え、み、御坂さん………………の妹さん? ぁっ、でも当麻さん離れちゃ…………ヤデス///」ギュッ
上条「」ブハッ
御坂妹「」イライラッ
御坂妹の突然の登場も霞んでしまうくらいの。
なんだよこの可愛い生き物、もう。
>>186
えっ って思ってググったらちみくるって方言だったのか………指摘感謝!
>>191
愛知ー
>>193
その通りでございます、ご指摘本当にありがとうございます
また一つ俺かしこくなっちゃったよ、やったね>>1ちゃん!
また次回っすー
おいおいこんなんで落ちない男がいたらそれは男としてどうかと思うぞwwwwww
初春さん可愛すぎ!!
俺んとこの方言なんか「はよしねー」ってのがあって、無意識に他の地方の人に使ったら……
まあ「す」の連用形と「ぬ」の命令形で平安言葉そのままなだけなんだが
御坂妹「こんな所で何をされてるんですか何をとミサカはあなたにズイッと詰め寄ります」
上条「いや、べ、別に普通に飯食いに来ただけなんだが…………」
御坂妹「普通にご飯を食べにですか? あなたはご飯を食べる所で一々女の子を抱きしめる風習があるのですか? 何かの儀式なのですか? とミサカはあなたの言質を取ります」
上条「い、いや、それはだな…………」
御坂妹「大体あなたは少し目を離すとすぐに女の子を引っ掛けていますね。たまに会えば必ず違う女の子を…………ミサカだって…………」
上条「み、御坂妹………………?」
御坂妹「と、ミサカは恋する乙女のモノローグの雰囲気を醸し出します」
上条「あのなぁ…………」
あれから少し時間が経ち落ち着いた(?)頃に上条と初春は座り直し、店員扮する御坂妹にとりあえずと応対していた。
とは言ってもそのまま上条は初春が腰をかけている長椅子の横に座り、初春も上条の腕をその胸に抱いたままの状態であった。
上条「それで。御坂妹はここで何してるんだ?」
御坂妹「アルバイトですが、この恰好を見てもわかりませんか? とミサカはあなたの鈍感具合を心配します」
上条「アルバイトなんて始めてたのか」
御坂妹「カエル医者からの薦めです。社会勉強の一環としてミサカはここで働かせてもらっているのです、とミサカはあなたの質問に律儀にわざわざ答えます」
上条「そうなのか、はは……………………」
なぜか知らないがやけに突っ掛かるような言い方をする御坂妹に上条は顔を引き攣らせ、苦笑いを浮かべる。
確かに今現在の彼女はこの洋食屋の給仕服で身を包んでおり、デミグラスソースのオムライスを運んだそのお盆を抱えていた。
ただ視線は鋭い。
それは上条の…………いや、彼と初春とそして彼らの腕に行ったり来たりしていて、ピクピクと時折眉を動かしている様にも見えた。
御坂妹「…………………………」
初春「……………………あ、あの……御坂さんの妹さん……ですよね?」
少々声を掛けにくそうに恐る恐るといった感じで初春が声を出す。
御坂妹の目はなんだか焦点が合ってないような、それでいて見透かされているかのような気もした。
他人から見て、その少女の顔はまさに美琴本人だ。
余りにも似過ぎているその容姿、姿形。
初春の知る幼い打ち止めもそうだが、今回会ったその少女は肉体的にも美琴のそれである。
彼女を、上条は妹だと言っていたが。
御坂妹「……………………」
上条「御坂妹?」
御坂妹「え、あ、はい。ミサカはお姉様の妹のようなものです、とミサカは答えます」
初春「そ、そうなんですか」
何だか歯切れの悪い御坂妹の言い方に何だろうと思いながらとりあえずはそう返事をする。
何を考えているのかは全く掴めなくただじっと初春はその少女の方を見つめていた。
上条「どうしたんだ? 御坂妹、調子でも悪いのか?」
御坂妹「いえ、至って異常はありません、とミサカは健康である事を報告します」
上条「そっか、それならいいんだけど」
御坂妹はじっと初春を見ている。
その彼女の様子に、初春も何か顔についてるのかなと顔に手を当ててみるが異常はなさそうだ。
その視線に、どうにも落ち着けない。
初春「え、えと。その」
御坂妹「……………………以前、あなたは
「おーい、6番テーブルさんのこれ持っていって」
御坂妹「あ、申し訳ありません。すぐに向かいます、とミサカは答えます」
するとそこで厨房の奥の方からコックさんらしき声が響き、御坂妹はそちらの方に返事をする。
ただいま御坂妹は仕事中で時間帯も夕食時の忙しい頃だ、戻らなくてはなるまいだろう。
ペコリと上条と初春の方に一礼すると、御坂妹はたったっと厨房の方に戻って行った。
上条「…………どうしたんだろ? なんか様子が変だったけど」
初春「なにか私、悪い事しちゃったのかな」
上条「ん? どうしてだ?」
初春「いえ…………御坂さんの妹さんにずっと見られていた様な気がしまして」
それに。
『以前、あなたは────────』
何を言いかけたのだろう。
御坂妹とは会った事もなく、これが初対面であった。
しかし御坂妹のその言葉に、どうやら前から接点があったかの様な意味合いを感じさせられ初春を考えさせる。
上条「んー、まあでも初春さんは気にする事はないんじゃないか? 今日初めて会ったんだろ?」
初春「はい。初めて、ですね」
上条「何だろうな。聞いてみるか?」
初春「あ…………いえ、でも何でもないのでしたらいいんですけど」
初春「え、えと。その」
御坂妹「……………………以前、あなたは
「おーい、6番テーブルさんのこれ持っていって」
御坂妹「あ、申し訳ありません。すぐに向かいます、とミサカは答えます」
するとそこで厨房の奥の方からコックさんらしき声が響き、御坂妹はそちらの方に返事をする。
ただいま御坂妹は仕事中で時間帯も夕食時の忙しい頃だ、戻らなくてはなるまいだろう。
ペコリと上条と初春の方に一礼すると、御坂妹はたったっと厨房の方に戻って行った。
上条「…………どうしたんだろ? なんか様子が変だったけど」
初春「なにか私、悪い事しちゃったのかな」
上条「ん? どうしてだ?」
初春「いえ…………御坂さんの妹さんにずっと見られていた様な気がしまして」
それに。
『以前、あなたは────────』
何を言いかけたのだろう。
御坂妹とは会った事もなく、これが初対面であった。
しかし御坂妹のその言葉に、どうやら前から接点があったかの様な意味合いを感じさせられ初春を考えさせる。
上条「んー、まあでも初春さんは気にする事はないんじゃないか? 今日初めて会ったんだろ?」
初春「はい。初めて、ですね」
上条「何だろうな。聞いてみるか?」
初春「あ…………いえ、でも何でもないのでしたらいいんですけど」
うわ連投みすた
上条「そうかー、ってかそろそろ腕離してくれると嬉しいんですけど…………」
初春「あ…………それはまだ、このままでいさせてください…………その、当麻さんの料理が来るまで…………///」
上条「いや、でもだな…………初春さんのオムライスも来た訳なんだし冷めちゃう訳で」
初春「ダメ、ですか………………?」シュン
上条「」
上条「ダメじゃない」キリッ
初春「…………えへ。ありがとうございます」ギュウウ
上条(ふわぁぁああああぁぁっ!!)
上条の心の叫びもそこそこに。
結局は自分からもその感触を離すのが惜しくて上条の料理が運ばれてくるまでなすがままの状態であった。
上条「このハンバーグ美味いな。ソースどうやって作ってるんだろ」
初春「オムライスもすっごく美味しいですー」
和気藹々とした雰囲気が戻り、二人は雑誌にも載るほどの洋食屋の料理に舌鼓を打っていた。
なかなか雰囲気もいいお店だ、と思う。
目の前でスプーンでちょこちょこ口元にオムライスを運ぶ少女の笑顔にも癒されつつ、上条はお気に入りのお店認定しようとうんうんと頷いていた。
とは言え、金銭的な理由で次に来られるのがいつのなるのかは全く予想も出来ないのだが。
初春「卵ふわふわー♪」フワーン
食べ方も自分とはまるで違う、まさに女の子らしい食べ方。
申し訳なさ程度とも言えるその小さく開いた口の中に少しずつ入っていくオムライス、その唇。
整った綺麗なピンク色の、小さいそれ。
上条「……………………」
───何考えてんだよ俺…………。
何だか今日はずっとそわそわしていて妙に落ち着かない。
何かに心を掻き回されるかの様に…………いやそれは少々大袈裟であるのかも知れないが、心境的にはそんな気分だ。
目の前の少女がやけに気にかかる。
優しさと素直さを兼ね備えた、素直に可愛いと思える少女に。
初春「あの、当麻さん…………ど、どうしました?///」
上条「ん? あ、いや、ごめん。何でもない」
見とれてました、なんて気を抜いていれば恐らく言葉に出てしまっていたのだろう。
先程も抱きしめてぇ云々の失言があったばかりで、自分にブレーキをかけるが如く自制心と湧き出る感覚が激しく戦っていた。
上条「はは、オムライスも美味そうだなーって」
まあこういう時は誤魔化す様に吐く言葉が起爆剤となるのが常套句であるのだろう。
初春「と、当麻さん」
上条「んー?」
初春「はい、あ、あーん………………///」
上条「oh………………」
頬に手を当てて恥ずかしそうにはにかみながら、スプーンにオムライスを乗せて差し出すその姿には上条も思わずその声しか出なかった。
なんだ。なんだ。
一体何だというのだ、この胸の動悸は。
さっきから目の前の少女が可愛くて仕方がない。
その仕草、行動全てに目を心を奪われてしまうような、そんな感覚。
上条「えっと、でも、そのだな」
初春「た、食べてくだひゃい………………///」
噛んだ。今噛んだね。
その様子でさえも胸のきゅんきゅんが上条を襲う。
だがまあせっかくの申し出。
彼女がそうしてくれるのだ、甘えてもいいのだろう。
上条「………………ん」パク
初春「はぅ…………///」
上条「おお、う、美味い!」
初春「お、美味しいですよねっ、ねっ///」
美味しい、それは間違いない。
しかしそれ以上の甘味が感じられ、実のところしっかりと味わう所までは出来やしない。
普段は間接キスなど気にしない上条であるのだが、なぜかこの時ばかりは違う。
なんだかよくわかんなくなってきた。
こうなったら、もう開き直っちゃえばいいのではなかろうか。
上条「んじゃ初春さんも。ほい、あーん」
初春「え、え…………/// い、いいんですか?」
今度は自分の使っていたフォークに小さく切ったハンバーグを突き刺し、それに初春の口元へと運ぶ。
初春はそれを遠慮するように恥ずかしがるように両手で頬を覆いながら上目遣いで一度上条に視線を向けると、意を決して目をつむって控え目にその口を開けた。
下ろしたその手が覚悟を決めるようにぐっと小さな握り拳を作っていた所まで、可愛い。
初春「ん………………///」パク
上条「どう? 美味しいだろ?」
初春「は、はい、美味しいです///」モキュモキュ
上条「よかった」
とろーんとした様子で味の感想を告げた初春に、上条が笑って答える。
初春のその幸せそうな表情が、やけに嬉しかった。
そんな普通の食事風景でも、バカップルがイチャつきまくっている風景に見えるのはどうやら気のせいではないのだろうと思う。
上条「美味しかったなー」
初春「当麻さんすみません、ご馳走様でした」
上条「なんのなんの。また、食べに来ような」
初春「は、はいっ///」
店を出て、街を歩く。
もうすっかり夕暮れから夜の色に街並は変わり、もう冬ともいえる冷たい風はより一層身を縮こまらせる。
大切な時間は、やっぱり流れるのが早い。
冬の哀愁を感じる季節も相俟って、それが寂しく思えた。
上条「よし、んじゃ帰るか。送っていくぞ」
初春「え、そこまでしていただなくても…………」
上条「ダメ。………………もうちょい、一緒にいような」
初春「え────と、当麻さん…………///」
今日は、彼の言う言葉一つ一つが卒倒してしまいそうなほど初春の心を揺らしている。
手も繋いだし、腕も組んだし………………抱きしめてもらったし。
もうダメ。
彼が好きになりすぎて、今幸せ過ぎてどうにかなってしまいそうな、そんな心境。
初春「当麻さん、手を繋いでもいいですか?」
上条「おう」ギュ
初春「………………あったかいです」ギュ
上条「はは、俺も」
大好きな人の優しさ、暖かさ。
それが初春の心を満たしていて、嬉しさで涙さえ出てきてしまいそうなほど。
帰り道の途中にある公園に差し掛かる。
指を絡ませて繋いだ手もそのままに、二人は言葉静かに歩いていた。
でも気まずい空気はない。
公園内を吹き抜ける風が髪を揺らしたって、寒くも感じなかった。
上条「初春さん………………? ってど、どうした?」
初春「え────────あ」ポロポロ
気付けば、頬を涙が濡らしていた。
上条「どこか痛むのか!? 大丈夫なのか!?」
初春「え、全然そんな事ないです。どうして涙が出ちゃったんだろ」
上条「そ、そうなのか…………? それとも、なにか悲しい事でも……」
初春「えへ、そんな事全然ありません。当麻さんといられてそんな風に思う訳はありませんから」
上条「でも、なら何で泣いて…………」
初春「どっちかというと。嬉し泣き、です」グイ
目元を拭い、上条と向き合う。
なぜ自分が泣いたのかはわからないが、彼に心配を掛けさせてしまって申し訳なく思った。
上条「……………………」グイ
初春「ふぁ………………」
そっと微笑んで、彼は指で自分の目元を拭ってくれた。
彼が何度か自分にしてくれた、その行為。
その瞬間に自分の涙は止まってしまう、初春だけに効く魔法のようで。
大好きな彼が、自分を見ている。
大好きな彼が、こんなにも近くにいる。
大好きな彼が、大好き。
上条「もう大丈夫か?」
初春「当麻さん………………」
初春「大好き、です────────」
上条「ん────────!!??」
気付けば、彼の首に腕を回し。
そっと、彼の唇と自分の唇を重ねていた。
御坂妹「これは………………!? とミサカは後を追って来てみたはいいのですが衝撃的な展開に驚くしか出来ません………………って何をしているのですか! 離れなさいっ!」
初春「」エ?
上条「んん───んん───(御坂妹)!!??」イヤソレヨリモクチビルガガガ
出遅れた感に襲われながら御坂妹は後をこっそりつけた二人のまさかの行動にストップを必死の形相でかけていた。
ふぅ
また次回ー
我慢するつもりだった。
自分に自信が持てるようになるまで、この想いはまだ胸の奥にしまっておくつもりだった。
でも。
優しい彼に触れ、温めてくれて助けてくれて守ってくれて。
近くにいるだけで、大好きで頭がパンクしそうなほど心の奥底から想いが膨れ上がっていた。
温かくて、強くて、優しくて、カッコよくて。
公園の街灯が彼の優しい笑顔を照らし、それが自分の視界を埋め尽くす。
涙を拭ってくれたその行為は、何回目だっただろうか。
この世界に一人だけしかいない、自分の特別な人。
狂おしいほど想いが溢れ出し、心に課した制約も打ち破って初春は上条の首元に腕を回し。
唇を、重ね合わせていた。
上条「んぐっ!? んんん~~~~~~っ!!」
初春「…………………………」ギュッ
脳が溶けてしまいそうな、甘美な柔らかさ。
重なった唇からも想いを滲み出し、少しでも多く強く想いが伝わればいい。
離れたくない、離したくない。
目を閉じたこの世界にあるのは、自分を満たす温もりだけであった。
御坂妹「こここここら、離れなさいっとミサカは慌てふためきながら二人を引きはがします!」グイッ
上条「んんー…………ぷはぁっ! う、初春さん…………!?」
初春「ん…………………………ぷは」
公園内の街灯が一つに重なった影を写し出していたが、場に現れた三人目の登場によりそれは二つの影へと姿を戻していた。
後ろから御坂妹に羽交い締めをされる形で少し後方へと引き下がり、息を何とか整える。
胸が。
胸の動悸がやばい。
それと唇に残る柔らかさと、甘さと香りと。
視界がぐるぐる回るような、そんな感覚だったが何とか意識を保っていた。
上条「う、初春さん………………」
初春「……………………」
離れてから、目の前で下を向く少女に声をかける。
突然の事で戸惑った。
戸惑いというか焦りというか落ち着けないというか、そんな感じ。
この唇に触れた柔らかさと、彼女がその直前に呟いた言葉と。
まさか、と思った。
初春「……………………」
上条「初春、さん……………………?」
しかし引きはがされ、あれから動かなくなった彼女の様子が気にかかる。
俯いてピクリとも動かない彼女に声をかけるが、返答はない。
上条「ど、どうしたんだ………………?」
初春「……………………ふ」
上条「…………ふ?」
初春「ふぁっ」フラ
上条「のわっ、う、初春さーん!?」ダキ
突然前のめりに倒れそうになった彼女を正面から抱き止める。
その小さな感触が上条に再び胸の動悸を呼び覚ますが放っておく事などできるはずもない。
どうしたのか、と初春の顔を確認すると。
初春「当麻、しゃぁん…………」グルグル
ぐるぐると目を回していた。
初春「す、すみません………………」
上条「大丈夫か?」
初春「は、はい///」
御坂妹「……………………」
とりあえずと公園のベンチにて落ち着かせる為に並んで座る。
初春の頭は上条の肩にこつんともたれ掛かっており、上条はギュッと彼女の手を握っていた。
彼女がいる方とは逆の方向から何やらドス黒いオーラが感じるのだが今はそれよりも彼女を介抱する事が先決なのだろう。
とはいっても、上条自身も落ち着けていない。
まあそれもそうだ、初めての経験のあんな事をしたのだ仕方のない事なのだろう。
上条「だ、大丈夫ならいいけど」
初春「あ、ありがとうございます」
御坂妹「………………………………」
はぁ、と左隣から溜息を吐く音が聞こえる。
そちらの方を見ると、御坂妹はなんだか不機嫌そうにしていてむすっと頬を膨らませていた。
上条「そ、それで。御坂妹はどうしてここに」
御坂妹「ミサカはお邪魔虫だったみたいですねとミサカは自嘲気味に溜息を吐きます、はぁ」
上条「いや…………そ、その、あれはだな…………み、見たのか?」
御坂妹「ええそれはもうバッチリと。MNWにも接続しっぱなしでしたから今妹達はお祭り状態ですとミサカは答えます」シレッ
上条「げっ…………ま、まじかよおおぉぉ」
初春「ど、どういう事なんですか?」
御坂妹「ええ、妹達の嫉妬と羨望により今後あなたの唇を奪いに来る輩が恐らく増える事になるだろうと思いますはい、とミサカは危険である事を匂わせます」
上条「はぁっ!?」
御坂妹「という訳ですので、ミサカもむちゅー」
上条「お、落ち着けって御坂妹!」
初春「だだだだだダメです!」ギュ
上条「ぬおおおおおお頭を抱え込まないで色々感触がやばいいいいいいい!!」
御坂妹「…………あなたが一番落ち着いてない様ですが、とあなたの言葉に反論します」
初春「むー」ギュギュ
上条「」チーン
柔らかい温かな感触に上条が言葉を無くしていると、ふっと御坂妹は視線を上条から初春に移す。
その何かを捉えているような、捉えていないような目の光にちょっぴり怯えるがこの腕の中は渡したくはない。
先程自分がしてしまった事と、今彼を挟んで向かい合う美琴の顔そっくりな妹と。
頭の中が色々ごっちゃになっていて、彼の頭を抱く腕に込めるしか出来ないでいた。
上条「ぎ、ぎぶ…………そろそろ息ががが」ポンポンポンポン
初春「わっ、と、当麻さんすみませんっ」
上条「ぷはっ、あ、焦った………………」
初春「…………」シュン
御坂妹「冗談です、とミサカはしぶしぶながらも引き下がります」
苦しそうに初春の腕を叩いた上条の頭を離し、反省するようにシュンと頂垂れる初春。
それでも彼の腕は離したりはしないのだが。
上条としても嫌な気分なんか全っ然なく寧ろ初春の身体の甘い香りに溶けそうになった頭を必死に立て直していた所であった。
御坂妹「先程のあなたの質問に答えます。ミサカがここにいる理由としては、お二人が帰る頃にちょうどアルバイトが終わり偶然帰り道にお二人の姿を見かけたのです、とミサカはここにいる理由を明かします」
上条「そ、そうだったのか」
御坂妹「ついでに言うとそちらの方にも用がありましたので、とミサカは付け加えます」
初春「わ、私、ですか…………?」
御坂妹「はい、とミサカは頷きます」コクン
ふとそこで御坂妹が話題を変えた事によって、場の空気が変わる。
二人の間に挟んだ上条越しに、御坂妹はペコリと初春に頭を下げていた。
御坂妹「あの時はお世話になりました、とミサカはお礼を告げます」
初春「え……………………?」
初春の聞き返すような声が響く。
それは本当に心当たりがないようで、突然下げられた頭に戸惑っていた。
初春「え、え…………す、すみません。何の事でしょうか…………」
御坂妹「はい。あなたが身を通して守ってくださった…………ミサカの『妹』の事です、とミサカは教えます」
上条「『妹』…………? ってもしかして、打ち止めの事か?」
初春「…………打ち止めちゃんの事、ですか?」
御坂妹「はい。上位こt…………『妹』から聞いたのですが、命を助けて下さったようで」
初春「あ」
そういえば以前にも病室で打ち止めと一方通行からその事について感謝を告げられていた事を思い出した。
打ち止めを『妹』と呼んだ彼女は、やはり打ち止めとは姉妹関係なのだろう。
とはいっても、こうして礼を告げられる為にやった事ではない。
自分でも知らぬ内にそうしていただけだったから。
ジャッジメントとして、自分の掲げる正義を通したまでの事で。
御坂妹「あなたの事は『妹』から聞かされていました。この人と仲がいい事も、とミサカはあの幼女が喜々として言っていた事を思い出します」
上条「あの幼女って…………」ハハ
初春「い、いえ、当たり前の事をしただけですよ」
御坂妹「それが結果ミサカ達の大事な『妹』の命を助ける事に繋がったんですから、やはり『姉』としてお礼は告げておきたかったのです、とミサカは改めて感謝の意を告げます」
先程のレストランでの意味深なあの視線は、これだったのかと初春は感じた。
その言動から彼女も彼に好意を向けている事がなんとなくわかるのだが、それは自分に対する敵意ではなく寧ろそういう事だったのかと驚いていた。
御坂妹「まあ、ミサカはそれだけを言いに来ました、とミサカは立ち上がります」
そして立ち上がって、再度頭を下げる。
初春もそれにつられて立ち上がり、咄嗟に頭を下げていた。
初春「そんな、わざわざ」
御坂妹「まだまだ調整中の身ですのでそろそろ戻らなければカエル医者に注意されてしまいます、とミサカは帰宅しますと告げます」
初春「あ、は、はい。それでは…………というか調整、って?」
御坂妹「それでは、失礼します」スタスタ
上条「…………あいつなぁ」
言うだけ言って背を向けて歩き出した御坂妹の背中を見て、初春と上条はただ眺めていた。
言葉の節々に気になるワードはいくつかあったのだが、なんとなく聞けずじまいのままその背中に初春は一礼する。
初春は思いもしないのだろう、御坂妹の様な妹達がまさか一万人近くいるだろうとは。
ふぅ、と息を吐く声が上条から響くと初春は上条の方に振り向く。
初春「…………当麻さん」
上条「ん?」
周りを見る。
この公園内は御坂妹が立ち去ってから、人の気配はもう何もない。
名前を呼んだ彼のキョトンとした顔が、何だか妙に可愛らしく感じた。
先程の御坂妹の言動といい、今日の黒子の様子といい、ハッキリと自分に彼が好きだと言った美琴といい、インデックスといい。
彼に好意を向ける者は、驚くほどたくさんいる。
でも、負けたくない。
自分がここでそうするのは卑怯なのかもしれない。
それでも、もし彼が他の誰かに取られるのならば、と考えると身が震えるほど怖い。
だから、もう一度首に腕を回して驚く彼のその唇に自身の唇を重ねていた。
時が止まったかの様な時間、幸せの愛の感触。
初春は気付いたのだろうか、その時彼の腕が初春の背中に無意識で回されていた事に。
「おい、本当にやるのかよ…………」
「ちーっとコピーを拝借させていただくだけだ、別に取り上げたりしねーよ」
「俺はしらねーぞ…………」
明かりが消えたあるビルの中で、そわそわしている様な三人の静かな話し声が響く。
一人がその頑丈に閉められた扉の前でごそごそ鞄から何かのカードの様な物を取り出すと、扉の横に取り付けられた 機械にそっと当てる。
ピピッ──────ガチャ。
「おい、お前それどうした」
「ん? あー、ちょっとなー」
「ここジャッジメント駐在所なんだろ? いいのかよ…………」
こういう事に慣れているのか、妙に手慣れた手付きで一人が入室するとその後ろにいた二人も入っていく。
自分達の様な人間からしてみればまさに敵地の様な場所になかなか落ち着かない。
そわそわした様子の二人とは違い、口でくわえたライトの光を手掛かりに一人は悠々と目的の物へと向かった。
それにUSBステイックを挿し、コンピュータを立ち上げる。
見た事もないそのOS?に少々面食らったが基本操作はまあさほど変わりはないのだろう。
「ど、どうだ?」
「おk、妙なセキュリティの物は設定されていないようだ」
「早くしてくれよー、俺は一刻も早くこんな所から出たい気分だ」
カチカチ、とマウスを動かしてシステムファイルをUSBの中にぶち込む。
「ここをこうして、と」
「お、腕章がある…………へへ、ジャッジメントだ! ってな」
「ジャッジメントですの! の方がよくね?」
「まんま白井だな、それ」
「あーそうそう白井っつったっけ? あの子も可愛かったよな」
「お前昨日芳川サン芳川サン言ってたんじゃねえか。さっきも木山サンがどうのこうの言ってたのは誰だったか?」
「うるせえ。あんな可愛い子達に囲まれていつも遊んでいるお前に言われたかねーよ」
「あの恐ろしさの前じゃ手も足も出やしねえがな」
「……………………それは納得だ」
コツン、コツン────────
「「「!!」」」
そこで廊下の方から誰かの足音が響き、三人は咄嗟に息を殺す。
二人は物影に隠れ、一人はコンピューターのディスプレイにそこにあった膝掛けを被せ光を消した。
コツン、コツン、コツン、コツン、コツ……………………────
「「「………………ほっ」」」
その足音がこの部屋を通り過ぎたの確認すると、三人は胸を撫で下ろす。
二人は自分の口に手を当てて少しでも音が漏れないように必死になっており、その胸の動悸から如何に焦っていたかを物語っていた。
「まだか?」
「おう、今終わった」
「おっしゃ、んじゃさっさとずらかろうぜ」
「ああ」
コンピューターの電源を落とし、USBスティックを抜いてそれをポケットにしまう。
咄嗟に取った膝掛けを元の通りに畳み直し、それを椅子の上に置いた。
ふう、と一息ついて三人は部屋から抜け出して行った。
「しかし、本当にそんなんでいいのかよ?」
「ん? ああ、木山サンの言葉に間違いはないと思う。普通のやり方では存在しない物、別次元の構築プログラム、守護神。恐らくビンゴ………………だといいんだがなぁ」
「「そこは自身持って言い切ろうぜ」」
そしてビル内から抜け出した三人はビルの裏手に横付けしてあった車に乗り込む。
果たしてこれが合っているのだろうか、その解答が得られるのは明日になりそうだ。
合っている事をその車を運転する男・浜面は願っていた。
初めてのキスの経験?俺には聞かないでほしいなん
春もこない俺に誰かplz
大きくないちっぱいが
好みです
きくらげ
次から展開動かそうと思いますん、また次回!
お前おっぱいの素晴らしさ知らないの?
>>275
知ってるぞ
上条「……………………」
草木も眠る静かな夜の中、上条は寝床としているバスタブの中でただ静かに佇んでいた。
静寂が耳を劈くほどの静けさの中、毛布に包まってじっと目を閉じているのだが。
上条「……………………眠れねぇ…………」
上条の頭の中に去来するは数時間前の出来事。
唇に残る彼女の感触と、言葉と柔らかさと温かさと。
その全てが上条の思考を埋め尽くし、何も考えられなくしていた。
顔に熱が帯びているのが手に取る様に分かる。
ふぅ、と一息吐き手の甲で額に当てて落ち着きを図ってみるが、効果の方はどうなのだろうか。
上条「……………………」
まさか、と思った。
経験した事のない、味わった事のない感触。
甘い香りと、極上の柔らかさと。
あれからずっと、胸の動悸が止む気配はない。
何度も何度もフラッシュバックして再生されるあの出来事が、いまだに信じられないかの様だ。
『大好き、です…………当麻さん────────』
上条「(ふわぅあああああああああああああ!!)」ゴロゴロ
のたうち回る様に器用にバスタブの中を左右に転がる。
両手で頭を抱え、それはもう端から見れば辛そうだという彼の様子なのだが、上条の顔を見ればそんな事は全くない。
ぽーっとした様な、恍惚した様な、口元が緩んでいる様な、照れまくっている様な。
その心情はきっと彼だけにしかわからないのだろう。
別れてからほんの数時間だというのに、彼女の顔が見たい、彼女に会いたい。
いつしか、心はもう彼女に奪われていた。
時を同じくして、こちらも布団に包まり横向きに寝そべってもじもじ身体を動かす少女の姿があった。
初春「はぅぅ………………///」モゾモゾ
時折動きを止め、その感触を思い出す様に唇に自身の指を当てる。
その度に、あの感触をよりリアルに再現する様に目も閉じる。
自分と、彼の唇。
触れ合って重なって。
その柔らかさ、温かさを直に感じて。
胸の動悸が、あれからずっと止まらない。
眠ろうとしても眠れる訳もない。
夢にまで見た、彼とのキス。
初春「当麻、さん……………………///」
日に日に増していく想い。
昨日よりも、先程よりも。
時間が経つに連れ、どんどん膨れ上がっている。
限界知らずなその想いは、まるで破裂する事を知らない風船みたいだった。
本当は、我慢するつもりだった。
でも、我慢ができなかった。
彼と一緒にいると、どこまでも知りたい、触れ合いたい、その思いが心の枷を外すかの様に初春をつい突き動かしてしまう。
拒まれたりしたら──────と今になって思うのだが、彼はそれを受け入れるようにしてくれた。
また、彼からも抱きしめたりしてくれた。
初春「会いたいです………………」
抱きまくらにしているぬいぐるみをギュッと抱きしめる。
昔から就寝を共にしているそのぬいぐるみに彼の温もりを重ねる様に。
温かい体温を求める様に、ギュッとそれを抱きしめていた。
上条「………………寝れない」
チュンチュン────という小鳥の囀りが恐らく聞こえ出してくるのだろう時間帯に閉じていた目をパチッと開け、上条は独りごちた。
とは言ってもこの浴室内にはその小鳥の囀りなど届きやしないが為にあくまで予想であるのだが、あながち間違ってもいないのだろう。
時計に目をやるとディスプレイは07:00と表示されており普段ならそろそろと学校へ向かう、準備をする時間帯だ。
ただ本日は日曜日で、有事がなければジャッジメントの仕事もお休みの日だ。
特に用事もある訳でもなく、眠気が胸の動悸を超えれば眠れるだろうと動き出す事もせずにただ目を再び閉じていた。
「か、上条さん…………起きてますか?」
すると、コン、コンという控え目に浴室の扉をノックする音と声が届いた。
上条「ん? あー、五和か。おはよう」
五和「お、おはようございます。すみません、起こしてしまいましたか?」
上条「いや、大丈夫、起きてたから。はは」
これから寝ようとする所だけど、とは言えずにそう言っておく。
それにしても朝のこんな早い時間帯に起きているとは、普段からの規則正しい生活ぶりが窺える。
んー、と耳を澄ませれば何やら既に五和以外からも物音が 響き、既に神裂やらオルソラやらが起きているのだろうという事に気付いた。
…………神に信仰心を捧げる面々はこんなに早く起きるものなのかと生活ぶりに舌を巻く。
まあこの部屋に住むインデックスはまだ寝ているとは思うが。
五和「あの、今日はお休みでしたよね?」
上条「ん、もうちょい寝てようかななんて思ってたけど」
五和「あ…………すみません、まだお休みになられるのでしたr 「上条当麻、起きましたか?」 ………………」
上条「う…………」
神裂「おはようございます。朝食の準備はもう出来ています、朝餉にしましょう」
五和「……………………」
上条「……………………」
規則正しさを重んじる大和撫子の有無をも言わさない様な声でビシッと言い切る声が響くと、上条はちょっぴり言葉を詰まらせる。
五和の声で、頭を覆い尽くしたものから何となくだがようやく眠気を感じ取れた正にその瞬間であった。
寝てはダメ、とは言われてもないのだが何となく起きなければいけない気がしてきた。
寝たいのにー。
インデックス「とうま、目の隈がすごいよ?」
上条「そうかー?」
オルソラ「あらあら。お休みになられなかったのでございますか?」
上条「んー…………何となく寝れなくてな、はは」
五和「す、すみません…………私が起こしたりしたから」
神裂「全くあなたという人は。寝れる時にしっかりと睡眠を取っておくべきです。困るのはあなたですよ?」
上条「これは手厳しい」
五人で食卓を囲みながらそんな話が飛び出す。
朝食もオルソラ特製の上条宅ではなかなか味わえない和食の数々がテーブルに並んでいた。
オルソラは和食でさえも作れるのか、とある意味逃避するかの様に味噌汁を喉に流し込む。
まあその絶品具合にはやはり脱帽ものなのだが。
インデックス「何か考え事してるの? なんだかとうま、昨日の夜から変だよ?」
上条「ぶほっ!」
五和「だ、大丈夫ですか上条さん!?」
咳込む上条に五和が心配そうに声をかけるが、上条が手で制する。
逃避行もどうやらここまでで、インデックスのその言葉には反応せざるを得なかった様だ。
昨晩から様子がおかしい、ね。
気丈に振る舞ったつもりだが、見破られていた事に心臓がドキリと反応しておりまた頭からとりあえずと取り除こうとしていた事案が再び上条の脳裏に去来し始めていた。
『当麻さん』
あの甘い感触が、甘い香りが。
温もりが、気持ちが。
そのどれもが頭から離れない。
上条「なんでもないうぬあああああああぉぉぉぉっ!!」ガンッ ガンッ
インデックス「」
オルソラ「」
五和「」
神裂「」
唐突にテーブルに頭を打ち付けはじめた上条に一同絶句しながらも、「あ、絶対何かあったな」と感づいたという。
佐天「ういはるーんってあれ、寝てる?」
初春「すぅ…………すぅ…………」
佐天「珍しい、いつもならもう起きてる時間なのに」
午前10:00になった所で、佐天は初春の部屋に忍び込んでいた。
本日はせっかくの日曜日。
天気もいいし、初春と遊ぼうとこうして誘いに来たのはいいのだが、肝心の初春はいまだに夢の中であった。
基本的に初春は規則正しい生活を送っている。
ジャッジメントとしての面目もあるのだろうが、比較的真面目で健康的な生活をずっとしていた。
そんな彼女がこの時間までまだ睡眠を貪っている事に佐天は驚いていた。
調子が悪いのか、と過ぎるが初春のその寝顔はというと。
初春「むにゃ………………とうま、しゃぁん…………」zzz
佐天「……………………」
かなり幸せそうであった。
佐天「えい」ツンツン
こいつめ、こいつめとほっぺたをつんつんする。
なんだか癖になりそうな柔らかい弾力感が指に感じ、そのまま二・三回突っつく。
初春がここまでこんなに幸せそうにしているのを見て、こりゃ昨日何かあったのかなと感じた。
昨日は食事に行くとだけ聞いたのだが、それから何かあったのかは聞いていない。
それをまとめて全部聞いてやろうと、今日のやる事の一つの中にそれを織り込みながら初春の寝顔を見つめた。
初春「うにゅ…………とうましゃん…………ほっぺじゃなくて…………おくちに……もういっかい……ちゅーしてくださぁい………」zzz
佐天「」
ちょ、本当に昨日何があったんだ。
浜面「さて、ブツは手に入れた訳だが」
「おー」
浜面「どうすればいいんだ? これ」
ご用達のファミレスにて、テーブルの上に置かれたスティックタイプのUSBメモリーに目をやりながら浜面が呟く。
コーヒーに口をやりながら再びテーブルに並んでいたサンドイッチに手を伸ばした。
「…………そういや、どうすりゃいいんだ?」
浜面「お前なぁ………………」
昨晩忍び込んだ風紀委員の支部室内にあったコンピューターから抜き出したデータ。
それをどうすればいいんだという質問に対して聞き返す様な質問型の返事が返ってくると、浜面は眉を釣らせた。
本日は半蔵は用事があるらしく、この場にはいない。
三人の中で唯一頭の切れる者がここで欠けてしまい、これからどうすればよいのかわからなくちょっぴりお手上げ状態になっていた。
というか、見つけた場合の事も考えてその研究者の連絡先も聞いておくべきだったのではないかという質問を浴びせるが、肝心の相手もごめんごめんと手を合わせて悪びれる仕草を見せると渋々浜面は言葉を飲み込む。
というか、本当にこれはどうすればいいのだろうか。
こういう時にこそ半蔵にはいてほしかったのだが、いないのだから仕方がないのだろう。
というか今日の用事って何だろう。
まあ大方、浜面の『仲間』のまだ幼い妹の世話をするという予想はつくのだが。
「木山サンに聞けばいいんじゃないか?」
浜面「それしかねえよなぁ」
頼んできたという本人に話を聞くのが一番なのだろうが連絡先を知らない以上どうしようもない。
だがまあ事情を知っていそうな木山に会えればなんとかなるのだろう。
時刻も昼近くになり、浜面達はとりあえずと昨日木山に会ったあの病院へ向かおうと席を立つ。
レジで会計を済ませ、ファミレスから出て停めてあった車に乗り込み、走らせた。
浜面「………………ん?」
病院への道中、信号待ちをしていた浜面の車の後ろに黒塗りのセダンがビタ付けをする。
やけに近ぇな、とルームミラーから後ろの車の様子を窺うが妙に黒くはっきりと中の様子は見えなかった。
「おいおい、ヤーさんかなんかか?」
助手席からもサイドミラーを確認しながらそう呟く声がする。
なんか、妙な予感がするのは気のせいだろうか。
キキッ──────!!
浜面「!?」
「なんだ!?」
すると、前方に現れたもう一台の黒のセダンがドリフトをしながら浜面の車の真正面で横向きに止まる。
浜面の車の進路を妨害する形で止まり、そのセダンのドアが開くと。
黒いスーツにサングラスをした男達が続々と車から降り浜面の車の周りを取り囲んだ。
浜面「ちっ、なんだ!?」
「動くな!」
するとスーツの男達は一斉に浜面達の方向に銃口を向ける。
それに浜面は舌打ちをして静止すると、前方のセダンからもう一人男が降りてくるのが目に写った。
「あいつは…………!」
浜面「…………知ってるのか?」
「あいつだよ………………俺達に探してくれと頼んだ男ってのは、あいつだ」
浜面「!?」
それを呟くと、こちらの会話は届いたのかはわからないがその男は愉快そうに口を歪めた。
そして、その男も銃口を浜面達に向けてはじめていた。
時間空いちゃった、ごめんなさい
次は早めに投下できるように頑張るー
また次回!
「随分手荒い歓迎だなー」
浜面「参ったな、こりゃ」
前後方を固められ、更には銃口を突き付けられて手の打ち様がない状況に溜息を吐きながらそのまま手を上げる。
今まさに車から降りた長髪の男が、その『研究者』らしいのだが。
浜面「どう見てもヤーさんだな、おい」
「うわ、前の車のナンバープレート見てみろよ、『・8-93』だってよ。狙いすぎだろ…………」プークスクス
浜面「ぶは、もはや紛いモンにも見えるぜ」ケラケラ
あからさまなそのナンバープレートを見て二人は吹き出す。
自分達が置かれている状況にも関わらず、なぜか楽しそうにしている雰囲気だ。
しかしその様子を見てその研究者は突き付けた銃をチャキッと鳴らすと、さすがにそこで笑みを浮かべるのはまずかろうと二人とも揃ってフッと笑みを消していた。
パワーウィンドウを開けて、声をかける。
「あ、どもっす。しかし『これ』は何スかね」
「君らが持っているモノを渡してもらおうか」
「持っているモノって言うと?」
「惚けるつもりか? 君らが今持っているモノだ」
「いやそれはわかるんスけど。普通に手渡そうと思ってたけどこうされちゃぁねぇ…………」
やれやれ、と深い溜息を吐く。
そりゃ頼まれたモノを探して渡すという事に異議はなかったのだが、こうして来られるとどうにもきなクサく感じてしまうのは仕方のない事だろう。
「それなら早く渡したまえ」
「質問なんスけど、これは一体どういう状況なんスか?」
「それさえ渡してくれれば手荒な真似はしない、そういう事だよ」
浜面「……………………」
おかしい。
どうにもおかしい。
銃口を突き付けているのだが、どうにも有無をも言わさない、といった様子でもないらしい。
何をしようとしているのだろうか、何が目的なのだろうか。
そしてコレを手に入れたという事をどこで嗅ぎ付け、そしてそれならばなぜ自分らで手に入れようとしなかったのか。
考える。
考えるが、やはりわからない。
浜面「まあ元々渡すつもりでいたし、不穏な動き、というのがどういう事かわからないんスけど。どういう事か説明してもらえませんかね?」
「……………………」
研究者は少々の沈黙を作り、そして再び口を開く。
「いいだろう、ついて来たまえ。それが合っているのならば、報酬は渡そう」
研究者はそう言うと突き付けた銃を懐にしまい、黒服の男達にも下げさせると「ついて来い」と言わんばかりに車に乗り込んだ。
それに続いて黒服達も次々に車に乗り込み、車を発進させる。
浜面「……………………」
「……………………」
お互いに見合い、首を捻る。
どういう事なんだ、と目で会話をしながらとりあえずと走り出した黒のセダンの後ろをついていくように浜面も車を動かした。
研究者と付き人の黒服二人、そして浜面達の五人がエレベーターに乗り込む。
場所は第十九学区、この学園都市の中では比較的寂れてしまっている学区のあるビルの建物の中だ。
行き先は研究室なのだろうか、それにしてもやけに汚れの目立つ古びたビル。
しかもエレベーターにて向かった先は、15階建てのビルの表示にはない地下3階。
エレベーターを動かしたのも付属してあるボタンではなく、研究者が手にしていたリモコンであった。
浜面「……………………」
「……………………」
沈黙が包む。
浜面達は緊張からか、それとも別にここで話す内容がないのかその口を閉じていた。
いや、恐らく後者の方なのだろう、彼らの心臓は先程の落ち着きぶりからみて驚くほど図太い。
研究者はタブレット式の通信機をしきりに操作しており、画面を見せないようにそれを黒服の男達が囲んでいる。
余程の機密事項か、その様子から如何にそれが秘匿としているかが感じ取れていた。
チーン──────
と少々古めかしいエレベーター特有の到着を示す音が鳴ると、研究者とそれについていくように黒服達が降りて行った。
「こっちだ」
歩きながら顔だけをこちらに向け、後をついて来るように促す研究者の後ろを浜面達は歩き出した。
周りを見る。
映画館の様な薄暗さの中、無数のコンピューターのディスプレイの光が明かりの代わりの様になっていて歩く分には問題はない。
それにしても。
浜面「(おいおい…………すげえな、これ)」
「(まさに研究室って感じか? それも、マッドサイエント、な)」
床を走る幾十ものコード、散乱した書類、ビーカーや三角フラスコといった実験用具。
絵に描いた様なその研究室は浜面達を迎え入れ、そんな感想を抱かせていた。
「まぁそこにかけていたまえ」
浜面「……………………うす」
研究者が顎でそこにあったソファーに座るよう催促すると、浜面達は余分な言葉も無しに言われた通りに座る。
その脇に黒服二人が浜面達を見張るような位置取りで立ち並んだ。
ポケットに手を入れる。
研究者が望んでいるであろうモノは、確かにここにあるのだが。
掌にすっぽり収まるそのUSBメモリーは、そこまで大事なものなのだろうか。
内容はこの学園都市最強のハッカーと謳われる『守護神』の構築システムらしい。
───これが本当にそうなのかねえ。
モノは見かけによらない、とは言うが。
そのほんの少し力を込めればすぐに物理的に壊れてしまいそうなモノが、何だか疑わしくも思っていた。
『守護神』の名は一応聞いた事があるにはあるのだが。
どんな人間で、どんな能力を持っていて──────そこまでは把握していない。
まさかそれがあの時のちっこいコだったなんていうのは思いもしない事だろう。
「さて。持っているモノを出してくれるかい?」
浜面「その前に、説明してくれるとありがたいんスけど…………」
チャキ──────
「……………………浜面」
浜面「……………………だな」
研究者の言葉に浜面が口を挟むと、左右の黒服から銃に手をかける音が響く。
その様子に溜息を吐くように促され、浜面は口を閉じてポケットからそれを取り出しテーブルの上に置いた。
「下げたまえ」
浜面達のその様子をゆっくりと見ていた研究者は、確かにテーブルの上にそれが置かれると黒服達に銃をしまうよう命じる。
黒服達は何も言わず、揃って懐にサッとしまった。
その動作は実にシンクロしていて、まるで主人の命令に忠実なサイボーグのようだ。
「まぁ、やりながらでも質問は受け答えしてあげようではないか」
そのUSBメモリーを手にすると、研究者はニヤリと口角を上げて笑う。
それさえ手に入ってしまえばいい、という風に非常に機嫌は良さそうだ。
浜面「そっすね、まずはそれで一体何が起きるのかという事を知りたいんスけど」
「ふ、それは出来てからのお楽しみ、という事にしよう」
USBメモリーのキャップを外し、コンピューターに繋げながら研究者は言う。
悦楽が一秒でも早くと急いでいるようにも見えた。
「それじゃ俺からも質問が。それほど大事にしているモノならば、どうして俺達スキルアウトに頼み込んできたんスか?」
「私も別件で忙しくしていてね。頼む他なかった、とでも言っておこうか」
「それならジャッジメントなりアンチスキルなり頼み込んでも良かったのでは?」
「そちらの方では手配書なり調書なり時間が掛かり過ぎるのでね。早急に手に入れたかったモノだ、時間も方法も制約もない君達に頼んだ方が効率が良かった、これでいいかな?」
どうしも気になる言い方であったが、一応は質問に答えられている形で浜面達は取り敢えずは納得していた。
浜面「もう一つ。なぜ脅しの様なもんまでしたんスか?」
「内容が内容だからね………………
BI……S認証……OK、アクティ……ン、OK…………」
浜面の質問にそれだけ言うと研究者は画面に食い入り、ブツブツと独り言を言いながらキーボードを叩く。
内容が内容────それは、とんでもない“ヤバいもの”を表しているのであろうか。
そのメインブレインらしき大型のコンピューター、そしてそれに繋がれている何やら怪しげな長方形型の箱。
人一人は優に入る分の余地はある大きさで、その中に一体何が入っているのだろうか。
「dev…………done…………recov…………do…………dar…………matt…………」
もう他の事が気にならない、といった様子で何やらブツブツとその研究者は呟く。
まだまだ質問があったのだが、こちらの声はどうやら届かないのであろう。
「くは、くはははははは………………! 『守護神』の構築プログラム…………これは最高だ!!」
done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.done.
その単語だげが無数に画面を覆い尽くす。
研究者はそれをこれ以上愉快なモノはないといった様子で大声を上げて笑い出した。
それはもう、狂ったかの様に。
「はははははは………………!! くく、君達は最高に素晴らしいモノをプレゼントしてくれたよ…………ああ、そうだな、報酬を出そう」
パチン、と研究者は指を鳴らし黒服に何かを命じる。
すると黒服の一人が何やら堅い金庫の様な箱から封筒を取り出すと、テーブルの上にスッと置いた。
「……………………報酬、ね」
浜面「マジで入ってんな、これ…………」
中を確認すると、確かにそこにあったのは厚さ1cmにも及ぶ札束。
いまだ納得はいかない事は多々あるのだが、まあこの報酬の為にしたのは確かであって。
それを浜面は預かるように促すともう一度研究者の方を見た。
「くくく…………動き出す、動き出すぞ………………『あいつ』が………………!」
浜面「……………………『あいつ』?」
「おい……………………あの箱、動いてんぞ」
「さぁ復活したまえ! 私の夢を叶えし者!!」
「箱が……………………開くぞ……!?」
ギギギ、とその機械の箱がゆっくりと開く。
浜面達はそれに目を奪われ、じっと見つめていた。
何が出るのか、一体何なのだろうか。
その答えが、今明らかになる。
足が見え、身体が見え。
手が見えて、顔が見え────────
浜面「!? あ、あいつは……………………!?」
「ひ、人が出て来たぞ! 知ってんのか!? 浜面!」
「ははは、よくぞ蘇った! さあ私と共に夢を叶えに行こうではないか!!」
「学園都市第二位………………、垣根、帝督…………!!」
アイテムの面々にとって、最大の敵であったその能力者の姿が、そこにはあった。
また次回!
ゆっくりとその男は動く。
無数に身体についていたコードもそのままに箱から出て、立ち上がる。
その様子をその場の全員がただじっと見ていた。
「垣根、帝督………………!」
「何だって、第二位だぁ? あいつがそうなのかよ!?」
その動き一つ一つに目を奪われる。
何をするのか、しようとするのか。
警戒と焦燥が最高潮ほどまでに達していた。
浜面は忘れもしない。
この垣根帝督という男が、アイテムに何をしたのかを。
暗部組織間抗争にてアイテムを壊滅状態にまで追い込み、そしてフレンダという仲間の少女が死に至る根本となったその男は。
確かに、憎むべき学園都市第二位の男であった。
「……………………」
その垣根はいまだ意識がはっきりしないのか、虚ろな目をしている。
しかし確かに二本の足で立っており、自我の回復は近いのであろうか。
「おお…………ようやく、私の努力が報われたよ…………。
学園都市の裏をかいて三分割となった脳を必死に集め、肉体と生命維持装置を探し、巨額の投資を注ぎ込んで医者にそれらを縫合させ…………
それらの努力が、ようやく実った………………」
歓喜に震える研究者の声が響く。
まるで死の淵から生還した息子に対する様な言葉、思い。
どれほどそれを待ち望んでいたかが感じ取れる様な、そんな感情の起伏であった。
一糸も纏わない垣根に近寄り、持っていたタオルケットをかける。
その様子は、本当に垣根を労っているような、そんな様子であった。
浜面は苦虫を噛んでいた。
自分がした事は、この男を復活させる為のものだったのか。
アイテム────麦野、絹旗、フレンダ、そして滝壺をも苦しめたその男の復活を助長していたのか。
しくじった。
その言葉が頭の中を駆け巡っている。
一応、浜面のポケットの中にはフェイク様の空USBメモリーも入っていた。
それをダミーにし、その研究者が何をしようとしているのかを先に把握しておこうと用意していたのだが。
ただ、もし誤答を提供していたのならば。
銃を構えながら浜面達の両脇を取り囲む黒服達の姿が自分達をどうしようとしていたのかを簡単に想像させていた。
ただ、否応なしに出したそれが、まさかこの男の復活のデバイスとなっていたというのは想像もしていなかったのだった。
浜面「く……………………!」
「浜面…………? あいつって、そんなにヤベェ奴なのか?」
浜面「おい…………お前は先に帰ってろ」
「ど、どうしたんだよおい」
ヤバい────その言葉で済めばいい方だ。
どうする? まだ意識がハッキリしていない内に葬ってしまえばせっかく手に入れたアイテムの光の日常を脅かす最たる危険分子が減る。
浜面はそれだけ言うと、懐に手を入れる。
その様子に両隣の黒服達も咄嗟に懐に手を入れはじめたのだが────────
フッと、唐突に浜面の目の前に見た事もないような物質が現れた。
浜面「っ!!??」
「ぬぐgtdkjぐfthkちtwjgkhm────────!!」
解読不能なその声と共に、目の前の物質は鋭利に尖った『何か』に瞬時に姿を変えていた。
初春「ん……………………んん………………にゅ」
カーテンの隙間から射し込む陽の光が初春の閉じている目元を照らし、初春を夢の世界から目覚めさせる。
何だかいつもより暖かい布団の中で、いまだにはっきりしない意識のまま身体を寝返りさせてより温かいそれに腕を回した。
初春「とうま、さぁん…………えへ、あった、かい、ですぅー…………」スリスリ
一体どんな夢を見ていたのだろうか、それは初春にしかわからないのだがいつもならないはずのその感触を夢見心地で抱きしめ、顔をすりすりとなすりつける。
当麻さんのあったかい感触だーとそれを味わうが如くしばらくそうしていたのだが、段々と意識がはっきりしてくる。
初春「ん…………んんー………………ん?」ギュ
あれ、ここは確か自分の部屋。
この布団は確かに自分のものであるのだが、ではこの隣にある温かくて柔らかい感触のものは一体何なのだろうか。
「……………………すぅ、すぅ」zzz
初春「………………当麻さんじゃない」
男のものとは違う妙に柔らかい胸。
というか何だか見たことのある様な服。
佐天「んん………………すぅ、すぅ」zzz
初春「佐天さんでした」
顔を上の方に上げると、そこには自分のよく知る親友の寝顔があった。
佐天「いやー、寝てる初春見てたら私も眠くなっちゃって」
初春「もう、びっくりしましたよー」
てへ、と舌を出して笑う佐天に初春がほんの少し頬を膨らませて言う。
まあ佐天と同じ布団で寝る事はたまにあるし、特に問題もなく初春もクスッとそんな彼女に笑いかけていた。
佐天「当麻さんじゃなくてごめんねー?」クスクス
初春「当麻さんって言わないで下さい」
二人してお茶を飲みながら今日はどうしよう、と話す。
現在時刻は昼の12:00を少し回った辺りで、睡眠時間とは反比例しているが少し寝過ぎたかなという感想を持ちながら考えていた。
せっかくの仕事もない日曜日だ、ただボーッとして過ごすのは勿体ない。
佐天「とりあえずご飯食べに行こうよ、お腹すいちゃったよー」
初春「そうですね、どこにします?」
行った先で、彼に偶然会えないかななんて口には出さずに佐天と相談する。
とはいっても、どうせ自分の心情は佐天にはバレバレなのだろうけど。
ザシュッ──────!
浜面の座っていたソファーから繊維が引き裂かれた様な音が響く。
浜面は懐に手を入れたまま、全身を硬直させた様に身体を動かしはしなかった。
いや、動かせなかった、というのが正解なのかもしれない。
その音が響いたと同時に瞬時に黒服達も一斉に銃を取り出し、そして銃口を浜面に向ける。
研究者は相変わらず狂ったかの様に高笑いを上げながら垣根の様子にずっと視線を注いでいた。
「浜面っ!!」
浜面「外れた…………? いや、外したのか? しかし、こいつは一体…………!?」
垣根「gsfkhnmぎbgtpkrts────────」
垣根の様子が、どうもおかしい。
何かをブツクサ呟いている様で、視点も合わない虚ろな目のまま。
その視線の先も浜面の足元で、こちらの様子を窺おうともしない。
浜面「く…………!」
「「!」」
意を決して、銃を構え直す。
黒服達もその様子に銃に再び手をかけ浜面に向けるのだが、研究者がそれを手で制した。
「くくく、どうしたのかね? いいだろう、撃ってみたまえ」
浜面「………………!?」
別に垣根が撃たれようが構わないとその言葉。
撃てるものなら撃ってみろと言わんばかりに、研究者は余裕の表情を貫いている。
まるで銃など通用しない事を表しているかの様だ。
浜面「コイツはどうなってる。一体何を企んでいるんだ?」
垣根の一挙一動に細心の注意を払いながら言葉だけを研究者に浴びせる。
垣根の様子はいまだに自我を持っていない様子で、あれから動く気配はない。
しかし少しでも目を逸らせばどうなるかわからず、気を緩む事など出来やしなかった。
「くく…………いまやこの垣根は、全て私の思い通りなのだよ」
「思い、通りだ?」
浜面「………………どういう意味だ」
垣根の前に立ちはだかり、研究者は嘲笑を続けている。
全てが愉快だと言わんばかりに、笑い続けていた。
「脳をくっつける際にね、彼の脳情報に電子信号を植え付けておいたのだよ。この私には逆らえない、この私の言う事を全て聞くといった命令をね」
浜面「………………アンタの操り人形って訳か?」
「そうだ。通常の方法ならばそれは無理だったがね。だが君達が持ってきてくれた『守護神』の構築プログラム。ただそれだけがそれを可能にしていたのさ」
「……………………」
浜面「何の為に、コイツを復活させた?」
「先程も言ったつもりなんだがね。私の夢を叶える為に、ね、くく………………」
垣根の頬を軽く叩きながら研究者は言った。
それでも、垣根の様子は変わらない。
研究者に触られようが、近寄られようが、その虚ろな目は変わらなかった。
『守護神』の構築プログラム。
それは花に水をやり、根っこから幹を通じ、枝を通して葉、実、花に栄養が行き届く様のイメージをプログラムに例えて構築しているものという話。
そういう『守護神』独自の計算式は、有機物に対してさえも非常に有効であるものだったのかもしれない。
「………………『夢』って何だ?」
「学園都市の転覆、統括権利の奪取──────」
浜面「なっ!?」
「この学園都市がなぜ『能力開発』をしているのかわかるかい?」
「『記憶術』やら『暗記術』やらでの脳ミソの成長の為、なんじゃないのか?」
「それならば何故、『発火能力者』や『電気能力者』、『水流操作』『風使い』等の一般社会には使えそうもないものばかり生まれると思うのかね?」
浜面「……………………」
「それらは全て、『武力』にしかならないのだよ。
第一位の『ベクトル操作』、第二位の『ダークマター』、第三位の『超電磁砲』、第四位の『原子崩し』………………
そんなものが平和な日本の日常を暮らす中で、必要になると思うのかね?」
「……………………」
「垣根の様なレベル5にまで辿り着いた者のキャッチフレーズは、『一人で軍隊と戦える』というもの。
幼き頃よりこの街ではそういった『武』の能力が植え付けられるのが当たり前だというのを洗脳し、洗練させていく。
………………どうにもおかしいとは思わんかね?」
一呼吸、研究者はおく。
確かにそれは研究者の言う通りなのかも知れない。
『進んだ科学により未知を征服する』
機密の漏洩を防ぐ為といった理由で作られた暗部組織は、特に『武力』の塊で。
だからこそ『闇』の中で殺し合い、騙し合い、凄惨な出来事や事件が頻繁に起きた。
浜面「……………………」
「私が思うに、少年少女の能力者達を使ってこの世界を征服でもしようとしているにしか見えないのだよ」
「だからこそ。こんな『素晴らしいもの』の利権を手にしない理由などなかろう?
変えの効く『使い捨て』の能力者共も数え切れない程いるしね」
「『使い捨て』だ………………?」
「世界が全て自分に平伏すのを想像してみたまえ。
歓喜と愉悦で足も震えてこないか?」
狂ってる。
何もかもが、狂っている。
その研究者からは、それしか伝わってこなかった。
閉じこもったその視界から、世界を何も見ていない事だけはわかった。
「……………………ふざけんな………………」
浜面「お、おい………………?」
ふと、そこで横から響く声に浜面は視線を移す。
憤怒に震えるその表情が、そこにはあった。
「『使い捨て』だ…………? 俺達を何だと思っていやがる…………」
「おや? 『駒』にもならない無能力者のスキルアウトの屑共に私の様な有望な者が声をかけてきた事に感謝するべきだと私は思うのだがね」
「てめぇは………………人をなんだと思ってやがるんだよ!?
俺達が屑だと!? もういっぺん言ってみろやコラァッッ!!」
浜面「落ち着け!」
浜面は抑える。
しかし、怒りは収まる事はなく高ぶった感情をそのままに怒声を撒き散らしていた。
ただ、ここで抑えなければ。
その研究者の言う通り、この第二位の能力者が研究者の意のままだったのならば。
「こっちだって必死に今日を生きてんだ! てめぇの糧になる為に生きてんじゃねえぞ!!」
浜面「抑えろ!!」
「うるせぇガキ共だな……………………やれ」
その研究者の言葉と共に、再び得体の知れない『物質』が空を切っていた。
なんかいいIDキタ━━(゚∀゚)━━!!
また次回!
土御門「おっす──────ってあれ、カミやんは?」
インデックス「とうま? 寝ちゃってるかも」
土御門「そうなのか? ってもう昼前だぜい、まだ寝てるのかにゃー?」
インデックス「なんかね、昨日は眠れなかったらしくて。今頃寝付いちゃったんだよ。それで、どうしたの?」
土御門「んー、こっちの方の報告をしておこうと思ったんだが、寝てるのか。まあいいや、上がらせてもらうにゃー」
インデックス「おいでませ、なんだよ!」
いつものサングラスを光らせ、家主に断りも入れずにずかずかと土御門は入り込む。
とは言いつつもいつもの事でもあるので何ら問題はない。
それを迎え入れるインデックスの様子も、随分手慣れたものであった。
神裂「土御門」
五和「こんにちは」
土御門「おっす。カミやん寝てるらしいけど、とりあえずの報告をしに来たんだぜい。しかし今日は寒いんだにゃー」
神裂「こんな寒い日でも上条当麻はよく冷たいバスタブで眠れるものですね…………」
インデックス「私は一緒の部屋でも構わないのに、とうまったら聞かないんだよ」
五和「上条さんと同じ部屋で寝る…………私、抑えられる自信がありません」
オルソラ「温めて差し上げたいのでございますよ」
土御門「カミやんは謎の防御力が備わってるからにゃー、ちょっとやそっとの事じゃあの防壁は剥がせそうにないんだぜい」
報告をしに来た────はずだが。
しかし話題はこの部屋の家主の事ですっかり染まっていたりしているのだが、大丈夫なのだろうか。
大丈夫なのだろう、うん、きっとそうだ。
「ぐはっ!?」
浜面「っ!?」
後方に吹き飛び、勢いよく壁に激突する音が鳴り響く。
瞬きの間の様な一瞬の出来事。
浜面はその方を見るが、何によって吹き飛ばされたのかは解らなかった。
いや、解ったが解らない。
垣根の能力だというのは解る。
しかし浜面がいくら考えを張り巡らせた所で、第二位の能力の特性など理解出来やしないだろう。
アイテムの面々でさえ、太刀打ち出来なかった第二位のその力。
立ち向かおうとする事すらバカバカしく感じさせてくるその垣根の能力に苦虫を噛んだ。
浜面「くっ………………!」
「ガハッ…………、ぐ…………!」
浜面「おい、大丈夫か!?」
床に崩れ落ち、うめき声を上げた仲間に声をかける。
手加減をしたのだろうか、死に至るような攻撃では到底なかった様子で浜面はそこでほっと一息ついた。
「垣根を復活させてくれたからね、本当は君達に危害を加えるつもりはない。
ただ、歯向かう様であれば──────」
研究者は一息入れる。
無敵の道具を手に入れた恍惚な笑みを浮かべているかの様であった。
「次は、命はないと思い給え」
そう告げた瞬間、浜面達は理解し得ない『何か』によって吹き飛ばされ、意識を失った。
黒子「ええ、いいですわね。お姉様にも聞いてみますの」
黒子と美琴が暮らす常盤台の一室にて、黒子はそう口に出すと耳に当てていた電話を離す。
電源ボタンを押し、通話を切るとカップに注がれたそれを口に含んで喉に流し込んだ。
黒子が口にしていたのは、先日第一七七支部に買い置きしたそれと同じもの。
彼も飲むそれに自分も慣れようとこっそり努力しているのだが、大人っぽい苦味にまだ自分の舌は慣れない様でちょっぴり表情を歪ませて舌を出した。
美琴「さっぱりしたー」
すると、タオルで髪の毛を吹きながら相部屋で暮らす尊敬すべき先輩が浴室から出てくる。
朝に浴びるシャワーがとても気持ち良さそうにしており、機嫌も良さそうであった。
美琴「あれ、コーヒーのいい匂いがするーって黒子? アンタ、コーヒーなんて飲んだっけ?」
黒子「ええ、淑女としての嗜みですの」
美琴「淑女、ねえ」
ここでは嗅ぎ慣れないその香りを美琴は不思議そうにしていたが、嫌いな香りでもなくまあいいかと納得した様な表情をみせた。
美琴の調子もなんとか以前に戻りつつあり。
昨日は結局夜に帰宅をし、夕食も美鈴と外で食べてきた、と言っていた。
やはり母親との時間が美琴を落ち着かせたか、一昨日のあの時とは随分と顔付きが変わっていた。
美琴をそんな顔に戻したのが自分ではない事に少し悔しさがあったのだが、それでも戻ってくれた美琴のその様子に安堵感の方が遥かに上回っている。
黒子「お姉様、今初春から電話がありまして。初春と佐天さんと四人でお昼でもいかがかと言っておりましたの」
美琴「うん、今日は用事もないし、いいわよ」
黒子「お姉様ゲットですの! 黒子は、黒子はああああぁぁぁ」ガバッ
美琴「やめい」ビシッ
黒子「あう」
美琴からの返事で飛び付くと、やんわりとチョップで止められる。
どうやらそんなおちゃらけた戯れにも付き合ってくれるのが黒子は嬉しく感じ、表情は笑みで溢れていた。
美琴「髪乾かそっと」
黒子「お手伝い致しますの!」
美琴「いいからいいから」クス
黒子「残念ですの」クス
二人して笑い合いながら、ドライヤーにて美琴が髪を乾かす。
いつも通りのやり取りが、いつもよりやけに楽しく感じられたのは気のせいではないだろうと思う。
初春「あ、白井さん、御坂さん」
佐天「こんにちはっ」
黒子「こんにちはですの」
美琴「ごめんね、お待たせ」
集合場所としてセブンスミストの前で待ち合わせた四人の楽しげな声が響く。
本当に仲良さげなその四人は、皆揃って容姿のレベルが高く、道行く男子学生達の視線を密かに引き寄せていた。
美琴の様子を初春は窺う。
いつも通りに見えるその笑顔に初春も黒子と同じく安堵をしていた。
それはもちろん佐天も同じ気持ち。
大切な友達の美琴の明るくなったその顔がなんだか嬉しく感じていた。
美琴「どこ行くの?」
佐天「なにを食べるかによりますねー」
黒子「イタリアンなんてどうですの?」
初春「イタリアン…………」
昨日の上条と共に摂った夕食を思い出す。
あれは厳密にはイタリアン専門店ではなかったが、似たような物であり。
違うものを食べたい気分―――――――――
とかそんな事はもはや頭にない。
初春「…………………………………………ふぁぁ///」ボフッ
佐天「初春?」
美琴「ど、どうしたの?」
彼と夕食を共にしたとか、楽しく話をしたとか、食べさせ合いっこをしたとか。
それだけでも卒倒ものであったのだが―――――それよりも、それよりも。
『当麻さん………………」
大好き、です────────』
初春「あわわわわわわ……………………………////////////」プシュー
佐天「ってええええ!? う、初春ー!?」
美琴「顔から湯気!?」
そこまで考えると初春はもう何も考えられなくなった。
火照りまくった顔を冬の寒さで冷たくなった手で覆うが、その熱さはもうものすごい事になっていた。
包まれた彼の温もり。触れ合った唇と唇。
『ダメ。………………もうちょい、一緒にいような』
『ダメ。ずっと、一緒にいような』
『飾利。一生、一緒にいような』
昨日の出来事がどれほど初春の心を揺らしているのであろうか。
網膜に焼き付いて、心のCPUはMAD.verも製作済みでこうしている時でも自動再生機能はばっちり作動している。
佐天「だ、大丈夫? 初春ー」
美琴「ど、どうしたんだろ」
そんな二人の気遣うような声も届いているか届いていないか。
初春の意識が戻ってくるまで、もう少し時間は掛かりそうであった。
黒子「………………………………………………………………」
黒子はその時思った。
昨日、絶対何かあった、と。
「さて…………、どこから手をつけようかね、ククク……………………」
誰もいなくなった暗い部屋の一室で、男の愉悦に満ちた笑い声が響く。
その声に返事するものは勿論なく、別にその男も返答を求めた訳でもない。
誰もいなくなった――――――それは厳密には違い、その男の横にはもう一人の「人間」が立っている。
その「人間」、垣根帝督は先程の様子と変わらずただそこに立っているだけだ。
何も動かない、喋らない。
息をしているのかも心臓が動いているのかもわからない、まるで「人形」の様だった。
白衣を着た男――――研究者は、その垣根の様子が全て順調だとあざ笑う。
全ては自分の思い通り、意のままに操れしもの。
視線をモニターに戻し、キーボードを叩いて操作する。
彼が求めしものの計測結果が再び画面に出ると、狂ったようにそれを繰り返す。
何度も、何度も、何度も、何度も。
丹念に幾度もやり直したその結果は変わらない。
それは研究者の自信を確実にするものであり、画面に出たその羅列された数値と記号を見るとその笑い顔は更に凶悪に歪む。
もはやその結果は頭に深く刻まれた。
間違いはない。
それが最良の手段。
最短の方法。
そして、確実。
「これで、学園都市は私のものだ……………………! くくく…………、あーっはっはっはっはっは!!」
研究者は笑いながらキーボードを画面に叩きつけ、そのモニターを割った。
もはや狂者、精神崩壊者。
どう転んでも、勝利は手に入る。
研究者は再び大声を上げて笑った。
研究者が叩き割られる前のモニターには。
『Last Order & MNW』
とだけ、記されてあった。
うげ、超短え…
次はもっと早く投下できるようにします
また次回!
>>367
>研究者が叩き割られる前のモニターには。
いきなり研究者死んだ件
>>370
うわ本当だ研究者叩き割られてどうすんだよ・・・
ちゃんと文章見直す癖をつけなきゃね、次から気をつけるー
指摘感謝!
神裂「それで、進展はあったのですか?」
コトン、と湯呑みをテーブルの上に置き、神裂は目の前に座る土御門に尋ねる。
その仕草はまさに大和撫子、実に彼女によく合っている。
イギリスで暮らす彼女は、ここ日本という国で久々に味わえるお茶をじっくり味わっているかの様であった。
まあ向こうでも味わえる事には味わえるのだが、今自分がいる場所的な雰囲気も共に味わっているのだろう、どことなく礼儀作法、仕草も堂に入っていた。
土御門「ん、そうだにゃー、そちらの方はどうだったんだにゃー?」
神裂「ええ、もっともこの学園都市の手による捜査の後でしたので、恐らく痕跡等は既に押収された後だと思うのですが。しかし、妙なものを見つけました」
土御門「妙なもの、ってなんだにゃー?」
五和「はい、これなんですけど…………」
五和がそういい、透明のビニールの袋に入ったものをテーブルの上に置く。
それを見た土御門の眉が一瞬釣り上がった。
土御門「………………やはり、か」
インデックス「これ、かなり弱いんだけど微かに魔力が出てるかも。今はもう消えそうだけど」
土御門「ふむ」
土御門が予想していた展開とその発見されたものと、繋がりはあった。
サングラスに手を当てながら、土御門はそれをじっと見る。
問題は、誰が何のためにその魔術を使ったのか。
この学園都市で何を企んでいるのか、目的が何なのか。
そこをきっちり把握しておかなければ、有事のいざという時に対応が遅れてしまう。
狙いが幻想殺し、あるいは禁書目録なのか、それとも別の何かなのか。
少々この学園都市のセキュリティはざるな所がある。
神裂達も含めて魔術師達にこんな易々と出入りされてしまう事をアレイスターはどう思っているのだろうか、次会う時はそこの所もきっちり問いただしてやらねばなるまいなと溜息を吐いていた。
浜面「うっ………………」
「おや? 気が付いたかい?」
「はまづら、はまづら………………」
浜面「ここは………………」
ここはどこなのだろう、見慣れぬ場所。
目を開けると、まずは白い天井と見知った二人の顔がある事に気が付いた。
自分の顔を覗き込んでいる二人の内の、片方の少女と目が合う。
浜面「おう、滝壺…………」
身を起こそうとするが、細い腕にやんわりと止められた。
滝壺「まだ起きちゃ…………だめ」
冥土帰し「大丈夫かい? わかるかな?」
浜面「俺は…………どうしたんだっけ」
意識がはっきりしない内でも、泣きそうにも見える滝壺を見るとさすがに彼女の言う通りにしない訳にはいかない。
それが浜面の無条件優先事項であった。
段々と意識がはっきりしてくる。
冥土帰し────という事は、ここは病院か。
───あれからどうしたんだっけ…………研究者に連れられ、USBメモリを渡して、第二位の復活を見て………………
浜面「はっ! あ、あいつは!?」
冥土帰し「あいつ、というのは彼の事かい? それなら心配ないよ、隣で横になっている」
「よう浜面、ようやくお目覚めか?」
浜面「………………大丈夫だったか」
「ああ、つっても俺も今起きたとこだったんだけど」
首を横に動かすと、横になってこちらを見ている仲間の姿があった。
どうやらその様子に心配は要らないようで、浜面はそこでほっと一息ついていた。
滝壺「はまづら………………はまづらぁ」キュ
浜面「のわっ!? た、滝壺…………?」
滝壺が首元に縋り付く。
その感触に浜面はドキマギしながらも、その背中にそっと腕を回した。
滝壺「よかった………………」ギュ
浜面「あ、ああ…………スマン、心配かけた」
頬と頬をすり合わせられ、その柔らかさはまさに異性を感じさせる。
元スキルアウトという身分でありながらそれに全然慣れない浜面はただどうする事も出来ずに、滝壺の頭をそっと撫でるしか出来なかった。
冥土帰し「大丈夫そうだね? とりあえず今日はここにいてもらうけど、もう心配ないんだね?」
浜面「あ、はい。スンマセン」
それだけ言うと、冥土帰しは病室を後にする。
麦野をあの状態から復活させた実績持ちの冥土帰しの言葉だ、彼が心配ないというのなら心配はいらないのだろう。
隣から発せられるニヤニヤとイライラが入り混じった様な視線を感じながら、ずっと浜面は滝壺の頭を撫でつづけていた。
浜面「って滝壺、どうしてここに?」
滝壺「はまづら、最近構ってくれなかったから。電話もしてたのに、出てくれなくて」
浜面「あ、ああ…………いやあ、その」
質問に対する答えにはなっていないのだが、プクーッと頬を膨らませた滝壺の様子に苦笑いを浮かべる。
まあ確かにそれはそうであったし、実際忙しくしていて滝壺を蔑ろにしていた所もあり。
最近、とは言ってもここ二、三日の間だけであるのだが、そんな短い間だけでも滝壺に寂しい思いをさせてしまっていた事に反省する。
浜面「……………………スマン」
実は手に入るお金で何か滝壺にプレゼントしてあげようと画策していた所でもあった。
しかしそれを優先して滝壺との時間を無くしてしまっていたのは本末転倒ではなかろうか、と今ではそう思う。
ただ、懸念事項も残っている。
あの第二位の事が、気にかかる。
あの研究者が垣根帝督を従え、この学園都市で何をやらかすのだろうか。
それはただ自分達の平穏な日常をも脅かす事は間違いないとは思う。
それを言うべきか、否か。
浜面「………………………………」
滝壺「はまづら?」
浜面「ん?」
滝壺「………………ううん、何でもない」
浜面「そうか?」
滝壺「……………………?」
浜面「…………………………」
いや、言うのはよそう。
言ったところで、滝壺が何らかのアクションを起こしもし彼女に何か危害が加われば────と考えると、言うのは得策ではない。
命に代えても、この少女の存在は守る。
そう腹に決めていた。
佐天「いっただっきまーす」
美琴「いただきまーす」
初春「いただきます」
黒子「いただきますの」
異口同音で食べ物に対する食前の挨拶をし、四人はスプーンとフォークを手にした。
結局、四人が昼食に選んだのはよく通うファミレスで落ち着いた。
メニューは洋食から和食まで色々と取り揃えている大衆向けのお店で、お手軽スポットとして学生達で賑わうこのお店は今日も人で溢れていた。
ちなみにここに来る途中、昨日の店やら公園やらを通りかかってその度に初春の意識が飛び、三人(特に黒子)に怪訝な目を向けられたのはまあいいだろう。
佐天「人いっぱいですねー」
黒子「ええ、まあ日曜日のお昼時と言えば致し方ありませんのかも知れませんわね」
美琴「そうね。まあ賑やかな事はいい事なんじゃない?」
初春「ですね」
クルクルとパスタをスプーンの上で巻きながら周りを見渡せば、自分達と同年代、それか少し上の少年少女達が賑やかにしてそれぞれテーブルを囲っていた。
どれも楽しげな雰囲気を醸し出し、皆食事を楽しんでいる様だ。
佐天「ん? んん?」
美琴「どうしたの? 佐天さん」
佐天「あ、いやー………………」
ふと佐天があるテーブルの方に目を向けると、怪訝そうな表情をしていた。
初春「?」
チラッと初春を見る。
初春はちょこんと首を傾げていて、その小さな口をもごもご動かしていた。
───初春の角度からは見えないけど………………
見知った顔が、初春の席の後方のテーブルにあった。
というか、クラスメイト達だ。
そしてその中には、あのメガネ君の姿も。
美琴「それで、この後はどうするの?」
黒子「ええ、どう致しましょう?」
初春「この近くに雑貨屋さんが出来たみたいですよ、ちょっと行ってみたいですね」
美琴「そうなんだ。行ってみよっか」
黒子「ご一緒しますの」
チラッ。
佐天「」
───うわあ、見てる、見てるよ、こっちのテーブル見てるよ………………。
チラッ、チラッとこちらのテーブルの様子を窺うメガネ君の様子に佐天は軽く頬を引き攣らせる。
向こうは男子四人グループらしく、それぞれ談笑している様子なのだがメガネ君だけこちらにちょこちょこ視線を送っている。
どうやら初春の様子が気になる様で、見返すもこちらの視線に気付かないのかただ初春の後ろ頭らへんを見ている様子であった。
───まだ諦めてないのかなぁ。
初春に心に決めた人がいるのは知っている。
というか、彼にだけしか目が行っていない。
メガネ君が初春に告白したあの時も、その様子をまざまざ見せ付けたていたというのにそれでもまだメガネ君はギラギラとそのレンズを光らせている。
───………………く、ダメだ、まだ笑うな…………
キュピーンという音さえ聞こえてきそうなその様子に佐天はなぜか笑いが込み上げてきた。
ただ突然笑い出すという奇行をする訳にもいかないので、顔を俯かせて見られないようにする。
黒子「佐天さん?」
初春「どうしたんですか?」
佐天「」ヒクヒク
美琴「え、え、何なに?」
ダメだ、肩がヒクつく。
笑ってはいけない状況下というのはいつも以上に笑えてくるというのはどうしてだろうか。
しかし佐天は何とか押し止める。
そうさ、私はポーカーフェイスのデキるオンナ。
というか、こちらの会話も聞こえているのだろうか。
それならば、初春と彼の話を聞かせればメガネ君もまた一歩引く事になるのではないか。
だって、初春の恋を応援したいもん。
佐天「初春ー、昨日ってどうだったぶふぉ!!」
初春「きゃっ、ちょ、佐天さーん!?」
黒子「」
美琴「」
椅子から半分身を乗り出し、こちらに少しでも耳を近付けて必死の様子で話を聞こうとするメガネ君。
その際にメガネを落として拾いに行ったその姿はさすがに佐天の許容量を超えていた。
佐天、アウトー。
佐天「こ、こほん、それでは仕切り直して」
わざとらしく咳ばらいをする。
吹いてしまった事の気まずさを誤魔化す様に若干早口気味ではある。
佐天「………………昨日、どうだった?」
初春「!? けほっ、けほっ!」
黒子「!」
美琴「?」
ニヤァという擬音が自分の口元から出そうな程口角を上げ、初春に尋ねる。
初春からしてみればそれは唐突な質問だった様で、今度は初春が咳込む番になっていた。
美琴「昨日って?」
佐天「あ」
あ、これはまずい質問だったかも。
と美琴の顔を見て今になって佐天は気がつく。
初春「………………///////」
初春の顔が真っ赤になっていくのを見ながら、佐天は少し思案した。
昨日、初春は上条と夕食を共にした。
しかし、佐天の推測からするに美琴は上条の事を少なからず想っている。
とすると、この話題を出すのはどうだろうか。
美琴「なになにー? 何かあったの?」
佐天「あ、あははー…………えと、そのですね」
言いづらい、というか言えない。
言ったらどうなるのだろうか、と佐天は地雷を踏んだ気分にもなってきていた。
黒子「…………昨日、初春と上条さんがお食事に行ったみたいなんですの」
佐天「!」ビク
美琴「え」ピク
初春「えぅ/////////」
しかし、言葉を紡ぎあぐねている所で黒子が口を開く。
佐天の肩がピク、と反応し美琴の様子を恐る恐る窺った。
美琴「………………そうなの? 初春さん」
初春「あ、はぃ//////////」
佐天「んん?」
黒子「う、初春………………?」
ただそこで何よりも初春の様子が妙に気が引ける。
顔を真っ赤にして、両手で頬を押さえていて。
昨日の出来事をポヤァッと思い返しているかの様で、そんな初春に一同は何事かと目を見張る。
っていうかまさか、えええええ?
まさか、あの寝言で言っていた事って………………
『うにゅ…………とうましゃん…………ほっぺじゃなくて…………おくちに……もういっかい……ちゅーしてくださぁい……』
え──────それってマジの話だった?
黒子「う、初春……………………? あなた、まさか………………?」
美琴「ちょちょちょ、どどどどどういう事よよよよよ?」
「ふむ、そこから先は」
「ミサカ達が答えてしんぜよう! ってミサカはミサカはお姉様達の会話の中に飛び込んでみたり!」
佐天「あ、打ち止めちゃん──────と、御坂さんがもう一人!?」
黒子「打ち止めちゃんと………………お姉様が二人!?」
初春「ほえ、打ち止めちゃんと妹さん………………? ってえええええええええ///////////」
美琴「妹、達………………!」
ふとその途中で飛び込んできた二人の姿に一同は視線を送る。
佐天にとってもはや初春を狙うメガネ君の事など、もう頭にはなかった。
今日はここまで
>>367の部分
>研究者の手によって叩き割られる前のモニターには。
は
>研究者の手によって叩き割られる前のモニターには。
に 脳内変換おねしゃす
また次回!
修正ミスワロタwwwwwwwwワロタ…………
初春「あわ、あわわわわわわわわゎゎゎゎ………………」
美琴とウリフタツのその少女の姿を見るや否や、初春の思考がグルグル渦を巻く。
昨晩のあの時────────。
『大好きです………………当麻さん──────』
佐天「う、初春ー? どうしたの?」
初春「はうぅ/////////」
彼の優しさ、温かさ、包容力に包まれて、我慢できなくなって。
その時自分が思わず取った行動を、確かにその少女は見ていた。
打ち止め「あれれ、初春のお姉ちゃんどうしたのってミサカはミサカは含み笑いをしながら肘でつっついてみたり、このこの」ニヤニヤ
初春「ってえ?/////// 打ち止めちゃん?」
打ち止め「なーに? ってミサカはミサカは昨日のあれを知っているけど惚けてみる」ニヤニヤ
初春「し………………知っているんですかあああぁぁぁ!?///////」
御坂妹「脳波リンクを通じて昨日の出来事は全妹達が把握しています、とミサカはタネを明かします」
佐天「脳波リンク…………?」
黒子「全妹達…………?」
打ち止め「お、お姉ちゃんに聞いたんだよってミサカはミサカは言葉を置き換えてみたり!」
ぎゃーぎゃー騒ぎ出すテーブル。
女の子四人というだけでもかしましいものであるのだが、やってきた二人がその騒がしさを増長させていく。
と、いうのも気にかける精神的な余裕などなく、初春はタジタジとたじろぐ事しか出来ないでいた。
佐天「聞いたって、何をー?」
御坂妹「はい。昨日ミサカがアルバイトしている洋食のレストランにあの人とふt「い、妹さんっ!///////」」
黒子「昨日のあれ、と申しますと?」
打ち止め「んーとね、公園でね、ヒーローさんとお姉ちゃんがぶty「わああああああああぁぁぁぁっっ!?///////」」
大声を上げ、初春の横で立っていた打ち止めの口を手でガバッと塞ぐ。
肝心の部分が途中まで出かかっていたのだが大丈夫だろうか。
んー!んー!とジタバタする打ち止めを余所に佐天、黒子、美琴の方へと視線を送る。
三人は目を丸くしており、一体何が起きているのかわからないという表情をしていた。
………………若干、黒子は睨み気味だが。
バレてはないだろうか。
気付かれてはないのだろうか。
「お客様方、店内ではお静かにお願いします」
初春「あっ、あう、す、すみません………………」ペコリ
そこでまあ当然の如く店員さんからの注意が飛んでくる。
ペコリと頭を下げて店員さんに非礼を詫びると、打ち止めと御坂妹もさすがにやりすぎたかと初春に続けて頭を下げていた。
あれから何とか落ち着きを取り戻した初春と、佐天、黒子に御坂妹を交え談笑しているのを眺める。
ダージリンがまだ半分ほど残っているティーカップとソーサーのぶつかる音に気を使いながらカチャリとそれを置くと、美琴は一息ついていた。
いまだ自分の中で妹達の事は完全に決着がついている訳ではない。
唐突に場に現れた二人に美琴はなかなかに声をかけられず、あれから言葉は少なくなっていた。
まだまだ自分は子供かな、と思う。
あの時、彼の話をしっかりと聞く耳も持たず、己の感情のままに振り回されていた。
あの時の事は、あまりよく覚えてはいない。
第一位を見て、妹達に囲まれていて。
親友三人が仲よさ気に話し掛けてて。
それだけじゃない、彼までもが第一位を気遣う様な言葉を口にしていた。
逃げて、彼が追い掛けてきて、電撃を撃って気を失って。
一方通行が自分と彼を助けた、らしいのだが。
打ち止め「お姉様、お紅茶美味しい?」
美琴「うん? ああ、うん、美味しいよ」
打ち止め「そっか。こうしてお姉様とお話するのって、初めてだねってミサカはミサカはお姉様をまじまじと見てみる」
美琴「アンタも妹、でいいのよね?」
打ち止め「うん、ミサカは妹達の司令塔、最終信号の打ち止めって言うんだよってミサカはミサカは自己紹介してみる」
美琴「司令塔って………………。アンタが?」
打ち止め「訳あって培養途中から引きずり出されて、それでこんなちっこい姿なんだけどねってミサカはミサカはもうちょっと成長させてほしかったなって願望を思ってみたり」
美琴「……………………」
自分の横に座るこの小さな少女は、確かに幼い頃の自分の顔。
ホットミルクに砂糖を大量に入れ、ふーふーと息を吹き掛けて冷ましているその姿はまさに幼い子供の姿まんまだ。
一万人弱の妹達を束ねていると、この小さな少女は言う。
絵空事の様な話ではあるが、自分も目にしていた紛れも無い事実。
美琴「っていうか。何でアンタ達はここに?」
打ち止め「今日はね、調整の日なのってミサカはミサカは質問に答えてみる」
美琴「調整………………」
打ち止め「でも時間までまだあるから、あの人がこれで飯でも食ってこいって」
打ち止めはそう言いながらポケットから一枚の紙幣を取り出す。
美琴はそれを見ると怪訝な表情を浮かべた。
美琴「あの人って………………もしかして」
打ち止め「うん、お姉様の予想で合ってると思う」
美琴「………………、度々会ってるの?」
打ち止め「へ? っていうか一緒に暮らしてるんだよってミサカはミサカは教えてあげる!」
美琴「へー、そうなんだ。一緒にね………………………………は?」
打ち止め「でもあの人ったらやれこれは危ないからダメだ、これは危ないからダメだばっかりであれこれダメ教育なの。ミサカの事心配してくれてるのは分かるけど、もうちょっとミサカを信じてほしいなってミサカはミサカはちょっと不満に思ってみたり」プクー
美琴「ごめん、ちょっと待って」
今この妹はなんて言った。
一緒に、暮らしてる? あの第一位と?
妹の事を心配してる?
………………いやいや、あの第一位に限ってそんな事は。
打ち止め「お姉様、どうしたの? ってミサカはミサカは急に黙り込んだお姉様を心配してみる」
美琴「ねえ、アンタの言うあの人ってさ………………やっぱり、一方通行、で合ってるんだよね?」
打ち止め「うん! ってミサカはミサカは元気よく頷いてみたり!」
美琴「………………一緒に、暮らしてる、の?」
打ち止め「うん」
美琴「………………………………」
想像がし辛い。
というか、出来なかった。
美琴の中で第一位といえば、あの時の実験の姿しか知らない。
美琴の目線から見るに、喜々として妹達と自分を絶望の底に叩き落としていたあの姿だけが美琴の頭の中に残っていた。
打ち止め「………………お姉様の、言いたい事はわかるよ。ミサカだって、あの事は忘れもしないし許してもいない」
美琴「……………………」
打ち止め「でも、あの人はミサカを守ってくれたから。ミサカがさらわれたり、襲われたりしても、ロシアにまで飛んでくれて。どんなに危ない目にあっても、自分が傷付いても、あの人はミサカを助けてくれたから」
美琴「え────────」
打ち止め「あの人、毎晩うなされてるの。譫言で、もうやめろ、殺すな、止まれって」
美琴「……………………」
打ち止め「あの実験の事に一番苦しんでいるのは、あの人なのってミサカはミサカは告げてみる…………」
美琴「………………っ」
打ち止め「この呪縛からは一生逃れられない。苦しみ、悲しみの負の連鎖が今になって襲い掛かってきても、あの人はそれでもミサカを、妹達を身体を張って守ってくれてるの」
真っすぐと打ち止めの視線が美琴を捉える。
言葉足らずとも言える打ち止めのその言葉だが、何の偽りも後ろめたさもない、第一位を無条件で信じているその目は何よりもの説得力があった。
許す、許さないとか今はもうそう葛藤している段階ではなかったのかもしれない。
あの事を胸に、妹達も第一位も前を向いている。
彼も、恐らく──────この事を知っていたのだろう。
そして過去を清算して、前とは違う第一位と今は接しているのか。
美琴「……………………」
打ち止め「だから。許して、とはミサカは言えないけど。それだけは、お姉様にはわかってほしかったってミサカはミサカは言いたい事を言えてちょっぴりすっきりしてみたり」
美琴「………………そっか」
打ち止めを見る。
今の生活ぶりが幸せなのか、豊かな表情をしていて。
この打ち止めが今こんな顔をしていられるのは、一方通行によって築かれたものかどうかはわからない。
いや、きっとそうなのだろう。
自分にとって彼が特別であるように、打ち止めにとって一方通行が特別であるのかもしれない。
美琴「それで。今一方通行は何してるの?」
打ち止め「うん、何かカエル顔のお医者さんと話があるって病院にいるよってミサカはミサカは答えてみたり!」
美琴「そうなんだ」
今度、第一位と会う機会があるのならば話をした方がいいのだろう。
まだまだ疑念は残る。
しかし、自分も前を向かない訳にはいかないのだ。
美琴「……………………」
打ち止めを見る。
今の暮らしが本当に楽しいという風な雰囲気であった。
打ち止め「どうしたのお姉様? ってミサカはミサカは首を傾げてみる」
美琴「ううん、何でもない」クス
打ち止め「病院に戻るまでまだまだ時間あるからそれまで暇かもってミサカはミサカは退屈してみたり」
美琴「そうなの? じゃあね、皆で雑貨屋さんに行こうよ」
打ち止め「えっ、いいの!? ってミサカはミサカははしゃいでみたり!」
美琴「うん、いいわよ」
打ち止め「やったー! ってミサカはミサカは感激!」
美琴「ふふ」
美琴の中で、何かが一つふっと重いものが取れた様な、そんな気がした。
「…………………………見つけた」
レストランの外で、そんな彼女達を目にした怪しい姿が二つ。
それを見た瞬間凶悪に片一方のその顔が歪んでいた。
その横では、相変わらず何の表情の変化もない、どこを見ているのかもわからない第二位の姿があった。
ちょいと短いけど生存報告がてら投下
ダメだ何か全然書けない……
クロノトリガーと聖剣伝説3にハマっている場合じゃないのにな
また次回!
揃ってファミレスを後にする。
店の中の暖気と外の寒気の温度差が身体を吃驚させるようにブルッと震わせるのだが季節柄そういうものだ。
ニットのマフラーを首元に巻き直し、初春は小さな手に白い息を吹き掛けた。
初春「うう~、寒い」
佐天「だねー、昨日まで暖かかったのに」
黒子「来週からもっと寒くなるみたいですの」
美琴「ええ、やだなぁ。打ち止めは大丈夫?」
打ち止め「うん! 大丈夫だよってミサカはミサカはくるくる回ってあの人が買ってくれたジャンバーを自慢してみたり!」クールクル
初春「可愛い」キュン
佐天「あの人って言うと。一方通行さん?」
打ち止め「うん、そうだよ! ってミサカはミサカは頷いてみる!」
御坂妹「あのロリコン色白もやし、ちょっと上位こt…………妹を甘やかしすぎです、とミサカは毒を吐きます」
黒子「い、妹さん…………しかし、第一位さんと打ち止めちゃんはとても仲良しなんですのね」
美琴「………………、へー、そうなんだ」
そんな会話をしながら六人は歩く。
冬枯れの景色というのはこの学園都市では無縁の様で、どこも学生達でごった返している。
自分達と同じ様な女の子グループの塊や、やいのやいのはしゃぐ男子学生達。
男女混ざったグループもあれば、カップルと思わしき男女の仲睦まじく歩く姿も。
その賑わう街並みの中に、ついつい彼の姿を探してしまうのは仕方のない事だろうか。
それに、もうクリスマスが近いのか心なしかカップルが多い気がする。
二人手を取り合って、腕を組み合って、笑い合って。
自分も彼とそうなりたいなあと指をくわえたい心境であった。
佐天「(ねね、初春)」ボソッ
初春「?」
隣を歩く佐天が自分の耳元まで顔を寄せると、小声で囁きかける。
何だろうと思い、歩きながらではあるが初春は佐天の言葉を待った。
佐天「(どう? クリスマスまでに上条さん掴まえられそう?)」
初春「へゃっ!?/////////」ポンッ
黒子「初春? 何だか今日様子がおかしいですわよ?」
初春「な、なんでもないですっ、さ、佐天さん!///」
佐天「あははー」
怪訝そうな黒子の言葉に、取り繕う様にしてごまかしながら軽く佐天を睨む。
全く、すぐにこの親友はからかってくるんだから。
初春「うぅ~///」
とは言いつつも、もうすぐ一年に一度だけのあの日は来てしまう。
恋する女の子ならば誰もが意識するであろう、あの聖なる日。
意識、しない訳がない。
この季節の街並みの赤と白のコントラストがそれを感じさせていて、彼と一緒にいられたらいい、いたいという欲求がどんどん強くなってくる。
とはいっても、一緒にいたいとはいっっつも思っているのだが。
佐天「(初春、プレゼントはもう決まってる?)」ボソッ
初春「(ぷ、プレゼント………………?///)」
佐天「(最後にはあれやっちゃえば上条さん、完全に落ちるんじゃない?)」
初春「(あ、あれとは?)」
佐天「(ほら、自分にリボン巻いてさ、『私がプレゼントですっ』って)」
初春「ひゃああああああああぁぁぁぁ/////////」
「「「「!?」」」」
佐天「」ニシシシシ
口元に手を当て、笑いを堪える様子を見せる佐天。
自身の上げた悲鳴に一同の視線が集まると余計に恥ずかしさが込み上げ、照れ隠しから佐天をぽかぽか叩く仕草をするだけであった。
初春「(は、裸リボンなんてえっちぃ事なんてできませんよ!////)」
佐天「(ん? 裸なんて私は一言も言ってないけどー? 初春、何を期待してたのかなー?)」
初春「(え、あ、いえ、その!///)」
佐天「(初春はそうしたかったのかな?)」ニヤニヤ
初春「(さっきから佐天さんってば! もう知りません!///)」
佐天「(ごめんごめんってー)」ププ
黒子「…………先程から、コソコソとお二人で何をお話になってるんですの?」
初春「!」
佐天「!」
前を歩く黒子が妙なオーラを噴出させ、振り返って初春に視線をやる。
その視線の鋭さは何だかやけに強く、睨みつけている様にも見えた。
黒子「ま、大方あの方関連のお話でしょうけど」
『佐天が笑う→初春が顔を赤くする=上条関連の話』という構図は既に出来上がっている様で、そのやり取りを何回も見てきた黒子のその予想は的を得ている。
上条の話ならば黙ってられないと言わんばかりの黒子の様子。
そういえば、黒子もライバルだ。
…………。
…………ちょっと待って、と初春は考える。
この六人の中でも、彼に好意を寄せているのは。
自分、黒子、美琴、そして昨日の様子から御坂妹もそうか。
………………。
よ、四人?
初春「…………………………」
競争率の高すぎる比率に、思わず息を飲む。
レベル5というこの学園都市のヒエラルキーの頂点に立つ美琴、そしてそれに瓜二つの妹さん、黙ってれば可愛い黒子(←初春視点)。
敵は強大だ。
でも負けたくはない。
彼が好きだというこの気持ちは、誰にも負けたくない。
自信がなくたって、思いの丈を彼にぶつけたい。
まあ昨日既にぶちまけていたのだが、それはほんの一部、片鱗であって。
全てを彼にぶつけたい、この気持ちを伝えたい。
ほら、彼に溶けていく。
そう考えると、無性に彼に会いたくなった。
「そこのお嬢さん方、少しいいかな?」
何だかいい匂いがする。
鼻をスンスンと動かし、嗅覚を刺激するこの香りをもっとといった様子で上条は目を開けた。
上条「ふぁ………………もうこんな時間かー、腹減った…………」
浴槽の縁に設置してあるデジタル式の目覚まし時計のディスプレイに目をやると、13:05を示しており少し寝過ぎた感を感じさせている。
とはいっても睡眠時間はいつもより短いくらいだが、それでももう眠気は取れた様な気分だ。
どっちかというとこのお腹の空腹感の方が勝っている様で、上条はもう一度大きな欠伸をするとリビングの方へ向かう事にした。
土御門「おっすー、カミやん。おっそい目覚めなんだにゃー」
上条「んにゃ? あれ、土御門」
土御門「ちょいと経過報告をしにきたんですたい、丁度いいにゃー」
上条「そうか。それで、どうだったんだ?」
土御門「その前に昼飯にしたらどうかにゃー? 皆待ってたっぽいぜい」
上条「待ってたのか…………すまん」
それぞれに挨拶を済ませると、上条はオルソラが立つ台所へと足を運ぶ。
皿へと盛りつけられていく料理を見て、先程感じた空腹感を揺する匂いはこれだったかと納得し配膳を手早く手伝うと、昼食を既に摂っていた土御門を除いて五人は食卓についた。
土御門「単刀直入に言う」
食事を済ませ、せめてこれだけはと引き受けた後片付けを簡単に済ませると上条は一同が待つリビングに戻った。
上条の戻りを確認した土御門は、いつもの軽い話し方とは違う仕事時の様子で口を開くと、場の空気がキッと引き締まる。
土御門「今回感知された魔術は、『黄泉がえり』と呼ばれるものだ」
上条「『黄泉がえり』?」
土御門「ああ。読んで字の如く、『死』を迎えたモノに『生』の魔術を吹き込み蘇らせる魔術」
上条「………………、んな事までできるのかよ、魔術は」
世界の法則を変える代物。
無限の可能性を秘める魔術に、上条は言葉を無くすような思いであった。
土御門は難しい顔を更に歪め、重々しく続けた。
土御門「しかも、ただそれだけじゃない」
上条「…………どういう事なんだ?」
五和「『黄泉がえり』とは世界を揺るがしかねないもので、封印されたはずの『禁術』なんです」
神裂「今現在、それを記すモノは原典、コピー含めてこの世にはもう存在しないものなのですが…………」
一同の視線がインデックスに集まる。
それに遅れて、上条も気付いた。
上条「だが、インデックスの頭の中には」
インデックス「うん。ちゃんと私の頭の中にはあるんだよ」
それさえもインデックスの魔道図書館に収められているのか、と上条は苦虫を噛む。
彼女の名が示す様に、この世の全ての魔道書は全てインデックスの頭の中にはあり、それは例え悪意に満ちたものであっても例外はない。
この世に存在しないもの────それは厳密には違い、インデックスの頭の中にはきちんとあるのだ。
土御門「なぜ、復元不可、行使不可の魔術が発生したのかというのも懸念すべき問題なのだが、今回はそれに別件も混ざっている」
上条「………………別件?」
土御門「『黄泉がえり』によって召喚されたモノに、別の魔術がかけられていた」
上条「別の魔術、ってなんだ?」
神裂「それも『禁術』の一つなのですが、姿形を全く別のものに変えるもの。
アステカの魔術に似たようなものもありますが、それとはまるで様子が違います」
五和「上条さん…………これ、なんですけど」
五和が何かを取り出し、テーブルの上に置く。
それを見た上条は、怪訝の表情を浮かべた。
上条「これは…………動物の、毛……?」
見るからに何かの毛の様なものが目に飛び込んできた。
まじまじと白く見える一本の直毛を手に取ろうとすると。
パキンッ──────────
上条「あ」
右手で掴んだ瞬間音が鳴り、その毛はたちまち消滅した。
上条「……………………」
神裂「……………………」
五和「……………………」
オルソラ「……………………」
インデックス「……………………」
土御門「……………………カミやん」
上条「あっ、いや! わ、悪い!」
土御門「にゃはー、冗談だぜい。しかしわかっただろ? それに魔術がかけられているという事が」
上条「お、おう…………だな」
少々気まずい空気が流れる────と思ったのだが、何ら問題はないといつもの口調を織り交ぜて慰める土御門に上条はホッと一息ついた。
しかし、問題は。
別のモノに姿形を変えるというその『禁術』とは、一体どんな魔術なのだろうか。
あるアステカの魔術師の事を思い浮かべるが、それとは違うと言う。
上条「それで、俺はどうすればいい?」
土御門「ああ、今回の件は『黄泉がえり』は場所を特定すれば一発なんだが………………」
『黄泉がえり』は魔法陣から一定の範囲内のものに効果を及ぼすものであり、その痕跡を辿れば出処の特定は難しい事ではない。
土御門が懸念しているのは、もう片方であった。
スタンドアローンタイプの仕組まれた魔術。
それを打ち消すといえば──────。
土御門「もう一つの方がやっかいだ。禁書目録がかけられた魔術みたいに直接身体に施されたもので、そっちを消すには直接それと対峙しなきゃいけないんだが…………………………すまん、カミやん」
上条「? どうしたんだよ?」
土御門「今回はかなり骨が折れると思われる。いっつも世話になってばっかなのに、また世話になる」
神裂「………………」
五和「………………」
申し訳ない、という表情を浮かべる土御門、そして神裂達。
どうしようもなく手の打ちようもない状況というのを、いつも上条に頼り打破してきた。
今回もまた上条の力を借りる事になるという事に、神裂達は特に頭が下がる思いであった。
上条「何言ってんだよ。俺がそうしたかったから、そうしてきただけの事だ。今回なんて学園都市に関わる事なんだ、ジャッジメントの俺が黙っていられる訳がないだろ?」
だから、上条は言う。
何の為? と聞かれれば、さあ、自分の為だろ? と背負い込む。
それが上条だ。
それに、この学園都市が巻き込まれる、という事は。
もしかしたら、彼女にも何かが降り懸かるのかもしれない。
そう思えば、上条は黙っていられない。
黙っていられる訳がなかった。
黒子「どちらさま、ですの?」
新規開店で賑わう雑貨屋を目の前に、六人の前に姿を現した白衣を着た男に黒子が尋ねる。
何か用があるのだろうか。
「すまないね、突然。少し、道をお尋ねしたくてね」
黒子「そうでしたの。それで、どちらへ?」
男が一枚の紙切れをポケットから出そうとすると、黒子は後ろ目で自分以外の五人を見た。
美琴「黒子、先入ってるわよ?」
黒子「ええ、わたくしもすぐに行きますの」
初春「いいのあるかなー」
佐天「結構お客さんいっぱいだね」
そう言い合いながら入店しようとする五人の足が止まった。
いや、正確には二人、か。
初春「………………っ!?」
打ち止め「あ、あの人は………………!?」
美琴「どうしたの?」
佐天「んー?」
初春と打ち止めの顔が固まる。
驚愕か、いや青ざめているようにも見える。
そちらの方に黒子も視線を向けると、一人の男が立っていた。
美琴「二人の知り合いなの?」
佐天「だれだれ?」
年の功は、自分達より四、五ほど上か、スーツに身を包んだ男。
しかし、その男は虚ろな目をしておりただそこに突っ立っているだけなのだが。
「……………………くっくっくっ…………」
黒子「!?」
御坂妹「………………っ、上位固体! 危険です!」
佐天「えっ、な、なに!?」
初春「打ち止めちゃん、逃げて!」
打ち止め「っ!」
「やれ」
黒子の目の前にいる男がそう言った瞬間、打ち止めを背に回した初春の目の前に物質が突如出現する。
説明のつかない、得体のしれないもの。
初春「っ!!」
それがまさに、初春と打ち止めに向けて襲い掛かろうと飛来する。
一瞬の事で、初春は何も出来ずに目をつむった。
それでも、打ち止めは守ろうと初春はその場から動かない。
予想される衝撃に身を構え、ギュッと堪えようとしたのだが。
バチバチっ────────!!
初春「っ!?」
美琴「アンタ────────何者よ」
その『未元物質』を、美琴の電撃が弾いていた。
くっそwwwwwwくっそwwwwww
俺、もしもしで文章打ってるんだけどこのもしもしのテキストメモは1000文字しか入らないんだ
メールなら10000文字まで打てるからメールの本文に書き溜めてんだけど、何を間違えたか知らんけど姉ちゃんに送信してしまったwwwwwwww
うはwwwwwwww返信待ちwwwwwwww
また次回!
>>427
土御門「ああ、今回の件は『黄泉がえり』は場所を特定すれば一発なんだが………………」
は
「ああ、今回の件は『黄泉がえり』“の”場所を特定すれば一発なんだが………………」
と言う脳内変換でおK?
>>441指摘感謝!それでおk
姉ちゃんからの返信きたwwwwww
「びっくりした」
間違えたっていう追撃メールしたんだけど返ってきたのこれだけだったwwwwww
触れない優しさが痛い・・・
姉ちゃんがメールの内容で検索する
↓
このスレに到達する
↓
(^^)b
>>441
あ、ごめん違うや
土御門「今回の件の『黄泉がえり』については場所を特定すれば一発なんだが…………」
『黄泉がえり』を消してももう片方の魔術は残ってるって言いたかったー
ageちゃってるし・・・焦ってんな俺
とりあえず>>449乙。
どのシーンを送ったかは知らんが、まあ、ドンマイ!!
姉「弟からのメールがSSだった」
弟「死にたい……」
というSSはよ
目の前の男をキッと睨む。
今、この男が現出させたモノは一体何かはわからない。
男の目は虚ろでどこを見ているのかもわからない、敵意も明確ではないのだが咄嗟に出した電撃は間違いではなさそうだった。
初春「み、御坂さん!」
打ち止め「お姉様っ」
美琴「二人とも後ろに下がってて。こいつは何だか危険よ」
初春と打ち止めの斜め前で腕を横に広げて二人を制する様に立ち塞がる。
その男から発せられる妙な雰囲気は、危険信号を点しており美琴の前髪を帯電させていく。
パチ、パチという音が響いていた。
「第三位、超電磁砲か。レベル5の電撃能力者最高峰にして…………そしてシスターズの素体」
美琴「!」
「相手にとって不足はないな?」
白衣を着た男の言葉に美琴の肩が揺れる。
あの実験の事を知っているのか。
服装から研究者という事を感じ取らせていたのだが、その男も関わっていたのだろうか。
美琴「………………っ」
苦虫を噛む。
ある程度時間が経ったとはいえ、今だあの実験の事は深く美琴の深層心理に潜んでいる。
忘れようにも到底忘れる事などできる代物ではなかった。
しかし、今はそれよりも。
この目の前の危険分子をどうにかする事が先だ。
目の前の男の様子が気にかかるが、その研究者の号令の元でこちらに牙を向けるという以上敵である事は間違いない。
「……………………」
何も語らない、そして何も映っていないような瞳がこちらに向く。
見てくれは時々自分に絡んでくる、身の程知らずのこの街の不良のそれと大差ないように見えるのだが。
先ほど出した、この男の得体の知れない力が妙に引っ掛かる。
溜息を吐くように美琴は手を頭に当てて頭をかく。
しかし警戒を解く事はなく、常に意識は目の前の男に向けていた。
美琴「相手にとって不足はない、ですって? あんたの言うレベル5、電撃使い最高峰を捕まえておいてよく言うわね」
「随分威勢がいいようだね。君の目の前に立つ男がわかっていないのかな?」
初春「み、御坂さん………………この人は…………」
打ち止め「お、お姉様…………」
美琴「……………………学園都市、230万人の中の頂点に位置するレベル5の第二位、って所かしら?」
「ほう? これはこれは察しがいいのか元々顔が知られていたのか」
やはりか。
確証はなかったが、自分が呟いた言葉には否定はなかった。
学園都市、レベル5の第二位、『未元物質』の能力者。
『書庫』によると、「この世に存在しない素粒子を生み出し、操作する」能力と記されてあった。
この世の物質にはないものを生み出し、操作するという事は。
従来の戦い方は通用しない、と考えるのがベターか。
となると戦い方を考えねばならない。
レベル5の頭脳を持つ美琴の思考がフル回転する。
美琴「それで。その第二位と研究者が何の用?」
気を引き締めながら美琴は尋ねる。
まずは守るべき者達の位置取りを確認した。
自分の後ろには初春、そして打ち止め。
更に5m程下がった位置に研究者、黒子。
その脇に佐天、御坂妹が控えているのだが。
「ふん、別に君には関係はないのだがね」
美琴「関係ないですって? 私の友達を手に掛けようとしながらよくその言葉が吐けるわね」
「手荒な真似はするつもりはないんだがね」
眉間に自然とシワが寄るのがわかった。
その研究者の言う事と第二位のやろうとしていた事は実に違い、美琴の違和感をより働かせていく。
やはり気を割くべきは、第二位か。
研究者と問答をしながら第二位の対処法を考える。
口と思考はまるで違う方向を向いているのだが、その動作を美琴は苦にしない。
これくらいの事が出来なければ、レベル5など名乗れはしないのだ。
研究者の言葉に食いつく仕草を見せながら、美琴は微かに視線を動かして更に周りを見た。
しかし、ギャラリーが多い。
守るべき友人達に加え、場は何事かと状況を見守る学生達でいっぱいであった。
溢れ返っている、と言ってもいいほどの人数。
まるで道端でパフォーマンスをする人気の大道芸人を囲うほどの人の多さだ。
それもそうなのかもしれない。
本日オープンしたばかりの雑貨屋の目の前だ。
ましてや日曜日であり、いつもよりも賑わいが増しているのも仕方のない事であろう。
そこで、研究者のくつくつと噛み殺した笑いが耳に届いた。
「用があるのはそちらの小さなお嬢さんでね」
打ち止め「っ!」
初春「打ち止め、ちゃん…………っ」
美琴「………………妹に、何の用なのよ」
「なに、その子さえ渡してくれればこちらとしても手は上げないさ」
研究者は歩き、第二位の傍まで寄る。
第二位の肩に手をかけると、ニヤッとその口元を吊り上げた。
またか。
また妹達に危害が降り懸かろうとしているのか。
あの実験から、妹達の間で何が起きていたのかは美琴は知らない。
しかし、
『お姉様は、何も知らないんだね』
と自分に吐き捨てた番外個体の言葉から、妹達に何かがあったのかは悟っていた。
それもあの第一位を交えた、何かが。
それはきっと、楽しいなにかではない。
妹達が苦しむ、悲しむ何かで。
だからこそ、あの子達のオリジナルとして…………いや、姉として。
これ以上、思い出を悲しみで塗り潰させる訳にはいかない。
打ち止め「……………………っ」
初春の手を握る、誰が見てもいまだ幼い少女の姿を視界に収める。
それは、恐怖で震えている様にも見えて。
美琴「…………いいわ、妹達に何かをしようっていうのなら、私が相手になってやる」
「やれやれ、こんな所で一悶着起こす気はなかったのだがね」
黒子「お姉様! ご助勢致しますの!」
美琴「ううん、それよりも黒子は他に被害が及ばないか、見てて」
黒子の申し出を振り向きもせず手で制し、美琴は再び前髪に電気を宿らせる。
「………………ちっ。やれ」
研究者がそう言った瞬間、突如閃光と爆音が場に轟いた。
インデックスの頭の中にある『魔道図書館』
その10万3000冊の中の一つに、それはあった。
『おいでませ、おいでませ
死道より出でし輪廻の廻道よ
こりゃまた狭き門 幅広げ
滅せしその身をこの世にと
また一つ おいでませ おいでませ』
黄泉がえり────死者を蘇らせるという、秘匿された『禁術』
術式の手順は、死道を通る鞋を死人に掃かせ、円形に紙、純度の高い水、そして血を等間隔に置く。
紙には生命を示す難解な絵図を描かれ、命の鼓動を指し示す。
水は純粋な人体の構成に必要なもので、そして血は活力を示す。
死人を円形の真ん中に、一定のリズムを刻んだ詠唱を詠み上げる。
幾度となくそれを繰り返した後、黄泉から魂が呼び戻される。
その方法が記された書物は、今は存在しないというのは魔術師達の間で知られていた事であった。
コピーも、原典も。
インデックス「…………………………」
一体、何処からそれが出てきたのか。
それが他にも存在していたか、それか知らぬ内に自分の中から取り出されていたのか。
神裂「インデックス……………………」
インデックス「………………あ、う、うん。なに?」
神裂の自分を心配するような瞳が写る。
周期的に自分の記憶を消していた彼女も、実はいつもそんな目をしていたのかもしれない。
自分を救い出した彼に出会うまでは、騙されていたとしてもずっとそんな目をさせていたのかもしれない。
でも、今は状況が違う。
いや、自分を心配する献身的な彼女の心境的には一緒なのだろう。
守られているのはわかっている。
どんな時でも、こうして仲間達は自分を心配してくれる。
頭の中の『魔道図書館』の流出の危惧とは別に、自分という人間を彼女らは心配をしてくれていた事は今となっては肌で感じ取れるのだ。
だからこそ、いつも迷惑を掛けてなどいられない。
有事の時にははるばるイギリスという遠い地から駆け付けてもくれる。
頭の中にそれがあるだけで、大して力もない事に歯痒さをも感じていた。
神裂「あなたが今、何をどう感じているのかは何となくわかります。しかし、それを一人で背負おうとはしないでください」
インデックス「かおり………………」
神裂「あなたは一人ではないのですから。私達が、います」
インデックス「……………………うん」
『聖人』と呼ばれる彼女の力は強大だ。
肉体的にも、頭脳的にも──────まあ一部例外はあるのだが、それはいいとして。
心強さは、とてつもなく感じられる。
神裂「………………上条当麻も、あなたの傍にいます。周りにいる皆が皆、あなたの味方なのですよ」
インデックス「…………うん」
そこだけ聞かれないようにボソッと自分に耳打ちをする。
土御門と五和とオルソラを交えて話をしている彼は、それに気付きもせずに真剣に話を聞いていた。
インデックス「でも、味方でいてくれるから」
神裂「はい」
インデックス「私も…………力になりたいんだよ」
神裂「………………ですが」
事情により、魔力を練る事が出来ない自分を気遣ってくれるのはわかる。
ただ、いつもこの部屋で事を見守るだけというのはもうしたくはない。
直接的ではなくとも、自分だって戦える。
力になれる。
インデックス「もう、とうまやかおり達だけが傷ついてくのを見るのはいやなんだよ。私だって前線に立つ事は出来なくても。皆と一緒に、戦えるんだよ」
神裂「インデックス………………っ」
力強く、神裂の目を見据える。
やがて彼女はそれに折れるようにして目を下に移し、ゆっくりと頷いた。
インデックス「それに。最近じゃとうまは気にかけてる子が出来たかも」
神裂「……………………はい?」
インデックス「かざりって言う子なんだけどね。あの時、セブンスミストで会った時にとうまの横にいた女の子なんだけどね」
上条「」ピク
神裂「……………………」フルフル
インデックス「ずーっとね、手なんか繋いじゃって。昨日も帰りが遅かったし、何かあったのかn「イーンデーックス!!」あれま」
神裂「……………………ほう?」ジャキ
上条「いや何刀に手をかけていらっしゃるんでしょうか神裂サン!?」
神裂「これから何かが起きるかもしれないという時にあなたと言う男は………………」
上条「いやそれを知る前! しかも先にそっち約束してたし!」
神裂「余所から余所へと手を出して…………」スゥッ
上条「出してねえ! 寧ろ出されてうれしかっt違ああああぁぁうう!!」
インデックス「えっ」
五和「えっ」
オルソラ「あら」
土御門「ほう? 詳しく聞かせてもらおうかカミやーん?」
神裂「………………きょ、今日という今日は赦せません…………上条当麻! そこに直りなさいっ!!」ミシミシ
上条「ちょちょっと待て神裂刀をしまえテーブルがめきめき言ってる家具があああああああ! インデックス何を言い出してんだよおおおおおおおぉぉぉぉ!!」
インデックスは上条に向かってベーッと舌を出す。
とうまからしてみれば理不尽かもしれないけど、ちょっとは私の気持ちをわかってほしいかも!
伏せていた顔を上げ、腕を下げ場を見る。
土埃が立ち込め、視界を遮っている。
突然巻き起こった爆音から、少々耳の高鳴りがするのだが少し時間が立てばすぐに戻るだろう。
しかし、その狭くなった聴覚に悲鳴が響いてきた。
「な、なに!?」
「痛い…………痛い……!」
「だ、誰か救急車!」
「大丈夫!? しっかりして!」
その爆発の様な事象に巻き込まれたか、周りのギャラリー達の痛々しげな声が耳に届いた。
美琴「………………っ!」
美琴は苦虫を噛むが、纏う土埃もそのままに静かに歩み寄ってきた第二位の姿が美琴の思考を中断させる。
咄嗟に腕を突き出し、瞬時に電撃を飛ばしたのだが。
バヂッ──────!
美琴「!?」
電撃を当てた感触が、いつもと違った。
当たった感触は確かにあったが、妙な感触だ。
弾き飛ばされた様な、そんな手応え。
「ふふふ………………あーっはっはっは! 第二位に君の電撃が通用するとでも思ったのかね!?」
美琴「…………っ」
研究者の高笑いがこだまする。
第三位の自分の力はまるで届くはずもないという絶対的な自信。
どういう理由、手段でかはわからないが最強の男を使役しているという絶対的な自信か。
初春「み、御坂さん!」
打ち止め「お姉様!」
佐天「なに、あの翼…………!?」
段々と土埃が晴れ、視界も通常に戻って来る。
どうやら初春、打ち止め達は無事な様で安堵するが、それよりも。
電撃が、効かなかった。
第一位の反射とは違う、また別の方法で攻撃を逸らされた。
第二位の背中に現出した白い翼の様なものに目を見張る。
あれもこの第二位の能力と関係しているものなのか。
美琴「くっ!」
地面すれすれに電撃をはべらせ、四方から第二位へと襲い掛かる。
しかしそれは第二位に当たった瞬間、音が鳴り逸らされる。
まるで防護膜でも張ってられているかの様だ。
「効かないねえ、効かないねえ!」
研究者の愉快そうな声。
その様子にも全く反応もせず、第二位はただじっと立っている。
どうする、超電磁砲を使うか。
スカートのポケットに手を入れ、そこにあったコインを掴む。
どういう理屈で電撃を逸らされるのかは知らないが、法則に寄って飛ばされた物体ならどうか。
弾数はまだ数枚残っている。
美琴は瞬時にコインを持った手をかざし、容赦なく第二位へと自身の全力を叩き込んだ。
美琴「飛べええぇっ!!」
ズガン──────!
………………という音がするはずだった。
しかし、コインを弾き飛ばした音だけが鳴り、それ以外の音は皆無。
それもそうなのかもしれない。
第二位の目の前で、コインが宙に浮いていた。
美琴「なっ!?」
「ふふ。超電磁砲、かね」
仕組み的には速度の限界がない美琴の持つ代名詞の能力。
音速の速さでも手加減しているというほどの凄まじい能力も、今回は全力に近い威力で撃ったはず。
それをいとも簡単に止め、尚も無表情を貫く第二位に戦慄を感じた。
美琴「………………っ」
焦燥感が美琴を包む。
電撃という異能がダメなら、コインという物体を通じた物理攻撃なら或いは、と考えていた。
しかしそれをも防ぐのにまるで苦にした様子もなく、第二位は止めてしまった。
チャリン、というコインが地面に落ちた音が響く。
周りを見ても、うめき声を上げる学生達で埋め尽くされている。
位置的なものからか、今はまだ負傷していない自分の友人、妹達が目に写る。
そこで美琴はハッとし、黒子に檄を飛ばした。
美琴「黒子! 妹達を連れてどこかに逃げて!」
黒子「わ、わかりましたの!」
「ん──────? ふん、空間移動能力者か? やれ」
黒子「むぐっ────────!?」
美琴「く、黒子……………………?」
突然、その場で苦しみ出した黒子が写る。
まるで首でも締められたかのように首元に手をやり、膝をつくのが目に飛び込んできた。
美琴「黒子ッッ!?」
黒子「ぐ………………ぐぅ…………っ」
美琴「ああああっっ!!」
その黒子の姿で、美琴は特大の電撃を現出させた。
大きさ、質量は人一人を優に包み込めるほどで当たればどうなるかは想像に難くない。
あの鉄橋を崩壊させた時以上に、美琴の激情と共に膨れ上がらせていた。
美琴「うああああああぁぁッッ!!」
バヂッ────!!
美琴「っ!?」
しかしそれもまた、第二位に当たる直前で止められてしまった。
初春「白井さんっ!!」
佐天「白井さん!! な、なに、これ………………うぐっ!?」
美琴「佐天さん!」
初春「!? 佐天さんっ!!」
黒子の傍まで駆け寄った佐天。
しかし彼女も黒子と同じ様に苦しみだし、その場に倒れ込んでしまった。
一体何が起きた。
これも、この第二位の能力だというのか。
未元物質、それは美琴にとってでさえも到底理解のしうるものではなかった。
この世にない物質を生み出し──────第二位が狙ってやっているのかは知らないが、がこの世の物理法則をも組み換えてしまう。
美琴の常識が、通用しなかった。
「くふっ、あーっはっはっは!! 跪け! 己の無力さを歎くがいい!! 私達の前には敵はない!」
そして研究者は指を差す。
美琴を、絶望へと導かせる。
第二位の背中に、六枚の白い翼が映える。
手を突き出しており、美琴に死を覚悟させた。
初春「御坂さんっ!!」
打ち止め「お姉様!!」
「残念だったなぁ、超電磁砲?
死ね 」
美琴「…………………………っ!!」
「戻ってくンのが遅ェと思ったら…………随分とやっかいな状況になってやがンじゃねェか」
「………………!? ちっ、おまえは!!」
打ち止め「あ! あなた!」
一方通行「……………………生きてやがったのかァ? 垣根くンよォォォォォォ!?」
美琴「一方、通行………………!!」
場に現れた第一位のその顔は。
とてつもなく、怒っているように見えた。
美琴「一方、通行………………!」
憎き第一位の姿が目に映る。
憤怒の様な表情を撒き散らし、左手で自分に襲い掛かってきた得体の知れない物質を捩じ曲げて叩き落とし。
あの時は頭に血が上って気付かなかったが、首元には何やら見慣れないチョーカーの様なものが掛けられていて。
今、一方通行が第二位の攻撃を止めてくれた。
一方通行「……………………」
美琴「………………っ」
一瞬だけ、こちらに視線を寄越しては第二位の方へと戻す。
その時見えた感情の揺らぎは、一体何を意味しているのだろうか。
黒子「う……っ、ごほっ、ごほっ…………!」
佐天「けほっ、けほっ…………!」
美琴「! 黒子! 佐天さん!」
初春「白井さん、佐天さんっ!」
黒子達の咳込む声が美琴の耳に届き、美琴は駆け寄る。
どうやら窒息の苦しみから解放された様子で、二人とも無事の様だ。
ホッと一息つき、黒子と佐天の手を取った。
美琴「よかった………………」
初春「よかったです…………」
初春と打ち止めも黒子達の傍まで駆け寄ると、安堵の表情を見せる。
黒子と佐天を苦しませたのは第二位による能力か、一方通行が姿を現した途端にそれは掻き消えた。
一方通行「打ち止め」
打ち止め「うんっ」
一方通行「超電磁砲達と下がってろ。片が付いたらさっさと病院に戻るぞ」
打ち止め「うんっ!」
美琴「………………………………」
美琴の耳に届いた打ち止めの声は、無条件の信頼を一方通行に寄せているかの様な声だった。
打ち止めの表情も笑顔に近い。
心配の色も滲ませているのだが、もう一方通行が来てくれたのならば安心だ、という感情が手に取るようにわかる。
自分のした事が間違いだった、焦心苦慮だったと。
打ち止めを心配する一方通行の姿が、一方通行を信頼する打ち止めの姿が。
そう、美琴に感じ取らせていた。
───なンだ、コイツは。
垣根の様子がおかしい事に気付く。
自分の姿を見ても大した反応を示さない、それ以前に目がこちらを向いてもいない。
前方の下の方に視線を向けたまま、静止している様にも見える。
一方通行「オイ、テメェ。『これ』はなンだ?」
怪訝な表情を垣根の横に着いている白衣を着た男に向ける。
見る限り、垣根の様子は自我を保ってはいない。
垣根が操られる、などと言う考えにくい予想だったのだが垣根の様子を見るにそう思わずにはいられなかった。
「……ふん、まあいい、答えてやろう。お前にやられた後の事だ。三分割されていた脳みそと身体をかき集め、クローンの培養技術を基にこの私が復活させたのだよ」
一方通行「……………………」
「尤も、その方法には特別な構築プログラムが必要だったのだがね」
一方通行「あァ?」
「『守護神』を名乗る者の特殊な構築プログラム────何やら、個人用で開発されたOSだったらしいが」
初春「え────────」
美琴「『守護神』…………って…………」
後方の方で、研究者が吐いた言葉に反応を示す少女がいた。
信じられない、まさか、という様な声色。
『守護神』とやらが彼女達とどう関係しているのかは知らない。
一方通行「意図はなンだ?」
「…………最終信号を手繰り、シスターズの全征服、武力増強だ。脳波リンクが繋がっている一万ものシスターズの力は、使い方によっては無敵の軍隊にもなるのさ」
美琴「なっ!?」
打ち止め「…………っ」
御坂妹「………………」
一方通行「……………………テメェ……」
その研究者の言葉を聞いた瞬間、拳を握った。
────打ち止めを利用した妹達による軍隊だ?
以前にも打ち止めにウィルスコードを打ち込まれ、そうなりかけた経緯がある。
自身の命を賭してあの時は守りきったのだが。
その時の怒りが蘇る。
不可思議な右手を持つある無能力者によって悲惨なる運命が切り開け、造られたと言えどもようやく人並みの幸せを掴みかけた矢先の事だった。
『これ以上は、一人だって死んでやる事は出来ない』
力強い目で一番小さく、そして一番大きい存在は言った。妹達だって生きるという意味を理解し、人生というものを謳歌していくべきだった。
それを、この研究者は私利私欲の為だけに利用しようとしているのか。
『守護神』の構築プログラムがそれを手助けしたと言うが、それは今知ったこっちゃないし、一方通行にとって別段気にかける事でもない。
「ふはは! お前がシスターズにはもう手を出せない事くらいは掴んでいるさ! 使えるモノは使う、それだけなんだよ!」
美琴「………………っ」
一方通行「黙れ」
憎むべきは、その研究者が垣根を通じて自分が守るべき存在を危険に晒そうとしている事、ただそれだけ。
一方通行の顔が歪む。
全身で怒りをあらわにしながら、再び首元のチョーカーに手を掛けた。
一方通行「……死以上の苦しみを覚悟しておけ」
守るべきものを脅かす存在には、容赦などしない。
「やれ!」
学園都市最強の二人が、今ここにて激突する──────。
『未元物質』は、並の人間であるならば到底理解しえれないもの。
ファミレスに置いてあるドリンクバーの機械を例に例えてみると。
中身は何が入っているのかはわからない、どんな組み合わせで出て来るのかはわからない。
そしてその混合によってどんな味のジュースが出来るのかは傍目からはわからない。
変則に変則を重ねた、常識、法則など何も通用しない本来存在しないはずの物質。
それを垣根は狙って出しているのかどうかもわからない。
副次的な効果は意図的かランダムか。
独自の物理法則、ベクトルには以前手こずった。
しかし、一方通行という男は学園都市第一位の男である。
学園都市からした利用価値にて順列は決められているのだが、一方通行はその名に恥じない力を有する。
第一位、それは一重に明快なる頭脳をも表しており、以前に解析した事のあるものならば彼には二度と通用しない。
「gutkぎsuせaig────」
垣根の背中に白い翼が現出する。
さて、どんな攻撃が飛んで来るか……………………。
一方通行「ッ!?」
しかし、垣根の能力によって見知らぬ法則と化した太陽光線は一方通行ではなく。
守るべき者達にへと向けられた。
美琴「っ!」
打ち止め「!?」
一方通行「チッ!」
バチッ────────!!
瞬時に彼女達の前に身を立たせ、それを弾く。
反射の設定もままならないまま空中へと逸らし、弾かれた光線は道路の向かい側にそびえ立つビルの最上階付近に穴を空けた。
美琴「い、今のは………………」
打ち止め「あなた!」
一方通行「…………随分と汚ェ真似をしてくれるじゃねェか」
後ろ手の存在を気にかけながら、目の前の研究者に最上級の唾棄の睨みを利かせる。
間に合った事に一先ず安堵をしておきながらも一方通行は気を緩めない。
言葉を投げかけるが、問答など必要ない。
「君相手には相応の戦い方をせねばね。後ろのシスターズ共を守りながらならば君のベクトル解析も困難を極めるだろう?」
一方通行「クソが」
ズガン―――――――!!
チョン、と地面を踏んだ。
一方通行が爪先で地面に軽く触れるような軽い動作とは裏腹に、轟音と共にたちまちコンクリートに亀裂が走り、垣根と研究者が立つ地面に地割れが起きたのだが。
白い翼がはためき、垣根は研究者を抱えて空中へとかわしていた。
「ふう、危ない危ない」
「……………………」
相変わらず面倒臭い野郎だ。
一方通行としても、こんな攻撃で垣根がやられるとも思っていなかったし、小手調べのつもりであった。
問題は、自我のない垣根がどうやって能力を行使しているのか、だろう。
能力を使うには、量子力学に基づく演算が必要になる。
それも、レベル5の『未元物質』なるものは相当に脳の回転させるのだろう。
ただ火を出す、水を出すのとは訳が違う。
そんな難しいものをこの自我のない垣根がどういう風にして『自分だけの現実』を吐き出しているのかがわからない。
打ち止め「あなた……………………」
一方通行「………………あァ」
しかし、そんな事も今は関係ない。
ただ目の前のクソッタレ共を、ぶっ飛ばすだけだ。
非常にシンプルな答え。
小難しい事など興味もないし、関係ない。
太陽が雲に隠れ、そして再び陽が射しかける。
機が来たか。
一方通行「空中に上がったのが運の尽きだったなァ」
「………………なんだ?」
「ggroujだmyいkos────」
操作するは、垣根の周りに限定した光と影のベクトル。
極限まで展開した影の闇で垣根を包み込み。
そして陽が射したその瞬間、極限まで高めた光の量でまた垣根と研究者を包み込んだ。
それは、光も全くない真夜中に突然レーザーライトを直視してしまった感覚。
いや、実際にはその何倍、何十倍もの負荷が眼球にかけられたのだろう。
「ぐあっ…………!? 目がぁ…………!!」
「ぐatdh────!」
一方通行「意識のないテメェでも、目で見てモノを判断してンだろ?」
「ぐ……クソ…………!? お、おい……! お、落ちる!」
5m程上がった垣根の手から研究者が滑り落ちる。
建物にすると2階半くらいか。
だが能力も体術も何も得ていない研究者には、その高さからの落下時の身のこなしなど会得している訳もなく。
無造作に、頭だけは守ろうと背中から地面と激突した。
「グハッ!!」
肺の中の空気が全て吐き出されたか、呼吸も困難そうにもがきはじめる。
それを一瞥し、一方通行は再び垣根を見た。
「あgtrせsitらkmnvsnab──────!!」
聞き取る事の出来ない、ノイズが混じった雄叫びが轟く。
いまだ空中にいる垣根の周りに翼の白い羽が散りばめられ、花火の如く乱雑に至る所へと突き刺そうとした。
初春「っ!!」
美琴「!!」
打ち止め「あなた!」
一方通行「悪あがきも無駄だぜェェッ!」
自身の運動量のベクトルを操作し、白い羽をかい潜って一方通行は飛ぶ。
右手に作った握りこぶしを、垣根に目がけ。
垣根の目の前に展開された『未元物質』ごと、拳を振り抜く。
一方通行「オラァァァッッ!!」
「ぬgrwtk────ッッ!!」
一方通行の拳が、垣根の頬に突き刺さった。
上条達は第七学区の学舎の園の傍に併設されている、学園都市最大の図書施設へと足を伸ばしていた。
どの学区にも様々な文献の書物が収められた図書館は存在してはいるのだが、学園都市の中央部に位置する第七学区のそれは他の学区のものよりも規模が違う。
三階建ての近代の文明を思わせる建物は、他の施設の例に漏れることなくハイテク機能を詰め込んでおり、神裂がヒクヒクと顔を引き攣らせているのが容易に想像できる。
インデックス「とうまとうま、すごいねここ」
五和「ここには一体何冊もの本があるんでしょうか」
オルソラ「あら、欧州諸国の文献もございますのですね」
上条「ほえー……俺も初めて来たんだけどこれは驚いた」
神裂「あ、遊びに来たのではないのですよ」
上条「ん、わかってるって」
それにしても、でかい。でかすぎる。
三階建ての建物なのだが、奥行きや幅がかなり広い。
まるでコンサートホールの様な大きさでもまだ足りないくらいかもしれない。
と、受付窓口に置いてあったフロアガイドを手に取り、簡単に目を通すと上条はその目を丸くした。
この学園都市最大のこの図書施設には、地図やら冊子やら何やら丸ごとひっくるめて計算してみると、その数実に3,000万冊は超える書物が収められているらしい。
考えるだけでもクラッと来るような数なのだが。
神裂「さて、探してみましょうか」
上条「おおい! どこ行く神裂!?」
と、目当ての品を手当たり次第探そうとする神裂を後ろから引き止める。
神裂「? 何処、とは決まっているのではないですか」
上条「こん中から適当に探すの無謀すぎんだろ! こういう所には便利なコンピューターがあるっての!」
神裂「こんぴゅうたあ、ですか…………」
ピッピッと上条が備え付けの書物検索専用のパソコンに指を差すと、ハイカラな横文字のものが如何にも苦手だと言わんばかりに神裂は反芻した。
苦笑いの表情を浮かべる。
いくら発達した科学に疎い神裂とあれど、これくらいの事はイギリスでの生活の中でも触れているのだろうと思ったのだが。
神裂「……………………」
五和「……………………」
オルソラ「……………………」
インデックス「……………………」
上条「えっ」
と思ったら、この場にいる全員?
神裂「……………………」
五和「……………………」
オルソラ「……………………」
インデックス「……………………」
上条「えっ、えっ」
まじかよ。
っつーかインデックス、おまえもかよ。
上条「この辺か」
五和「す、すみません上条さん」
上条「いや、はは…………大丈夫だ」
数分後、一行は目的の場所へと移動する。
案の定上条がパソコンを操作し、目的のものと関連しそうな書物の一角を弾き出す。
特に難しい事でもない操作をしただけなのだが、神裂達から尊敬のキラキラした眼差しが飛んできて苦笑いしか出なかった。
目的のモノ。
一同が今は席を外している土御門と共に立てた、ある仮説に確証を持つ為の情報であった。
それは魔術についての本ではない。
この科学の街にそんなものが置いてあるとは思えないし、あったとしても『恋の魔法』などという少女向けのおまじない的なものだろう。
まあそれはいい。
探すは、この国日本古来より伝わりし奇伝。
最初はこの科学の街にそんな事があるのか、と半信半疑であった。
だが、現場に残された『動物の様な毛』がその憶測を導き出している。
上条「妖怪、ねえ…………」
自身の右手によって掻き消えてしまったものだったが、それを思い出しながら上条は呟く。
神裂「あなたは信じていないのですか?」
上条「んー、どうだろうな。この街の学生達は科学で全て立証されているってのがモットーに教育されててな」
しかし上条は口には出さないが、『記憶がない』という事が自身の吐いた言葉とは裏腹に実在するのではないか、と感じてもいる。
上条以外の学園都市の学生達ならば、口を揃えてそんなものありえるはずがない、と答えるだろう。
上条はそんな学園都市の教育以上にオカルトに首を突っ込んでいて、様々な事柄を実際に目にしてきている。
上条「ただなあ、魔術ってもんがある以上否定できないのも事実なんだよな」
ぶっちゃけ、そこまでどっぷり教育されているわけでもないしな、と内心で付け足しながら上条は続けた。
学業に対する情熱がそこまでない事がここでは柔軟な思考を持つ傾向の良い部分であるかもしれなかった。
それでも、学業を疎かにする事で上条の成績は悪い一方なのだがな。
上条「黙ってくれ」
勉強しろよ、上条。
まあ頭がいい上条など上条などではないがな。
上条「うるせえええええええええええええええええ!!」
神裂「!?」ビク
五和「!?」ビク
インデックス「わっ」ビク
オルソラ「突然どうしたのでございますか?」
職員「館内ではお静かにお願いします」
上条「んあっ……………………何でもないす、すんません」ペコリ
「はぁ…………っ、はぁ………………っ!」
白衣を揺らし、ビルの間を研究者は走る。
視界がハッキリしていないようで、時折建物に身体をぶつけながらも何かから逃げるようにして研究者は走っていた。
「やられた…………、やられた………………!! クソ、あの忌々しい第一位があそこで現れなければ………………!! ぐおっ!?」
ゴミ箱に足を引っ掛け、盛大に転ぶ。
入れられたゴミが散乱し、その上に研究者は倒れこむのだがそんな事は気にせず研究者は後ろを振り向いた。
人通りの少ない狭い路地だ、人の姿や気配も何もなく研究者はひとまずほっと一息ついた。
おもむろに胸ポケットからタバコを取り出し、それを咥えはじめた。
カチッ、カチッ―――――。
「クソっ!!」
うまくライターの火がつかず、思い切り地面にそれを叩きつける。
量産型の安物ライターは割れ、中の液体が染み出した。
「立て直しだ…………垣根を取り戻さねば…………」
ぶつぶつと言いながら、研究者は立つ。
ふらふらとしながらも確かに二本の足で立ち上がると、抜け道へと足を動かそうとしたのだが。
「………………ん? なんだ、これは………………」
狭い路地に、何やら不思議な紋様が描かれている。
スキルアウト共が殴り描きする落書きとはまた違う、精巧にも見えるそれ。
左手の建物、地面、そして右手の建物にまでそれは及んでおり、見えにくい目を何とかこらして見ようとする。
足が、その紋様を踏んでいた。
カッ――――――――!!
「な、なんだ………………!?」
その瞬間、紋様は真っ赤な光を放ち。
そして、研究者の身体を貫いた。
「う、うぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
最期の断末魔を上げ、研究者の意識はそこで失う。
紋様から出された赤い光と研究者の血の赤が混じり合い、一斗缶の赤色のペンキがぶちまけられた如く。
その路地裏は、死の色に染まった。
また次回っす!ずつくっす!
ってか改めてみて思ったけどジャッジメントからどんどんかけ離れていってる気がするわひゃ
神裂「日本古来より在りし怪奇な伝記。どの国にもその地ごとの言い伝えはあるのですが、この日本という国ならではの風習に倣って呼び出したものなのでしょう」
上条「呼び出した? 『黄泉がえり』させられて別の姿に変えられただけなんじゃないのか?」
五和「はい、大体その認識で合っていると思います。ただ他のものに姿を変えるとは言っても、その別の姿の元となる媒体がなければ具現化は難しいかと思われるんですよ」
インデックス「魔術は想像力が肝心かも。私が怪我しちゃったあの時も、こもえが回復魔術を使うときに天使を想像して具現化させたんだけど、可愛い天使、可愛い天使ってありったけの想像力を働かせたみたいなんだよ」
上条「想像力、か。つまりは頭の中にあるイメージがそのまま現出するって事か?」
神裂「ええ。『黄泉がえり』を行使した人物が海外の者か日本の者かはわかりませんが。
それに土地の地脈というものがありますので、無理に遠い異国の地のものを呼び出すよりもその地に馴染んだものの方が遥かに呼び出しやすいのでしょう」
巨大な図書施設の一角で、ヒソヒソと話し合う上条達。
日本に伝えられているオカルトチックな怪奇現象を纏められた本が机の上で開かれ、一同は熱心にそれを熟読していた。
そのような書物がこの学園都市にあるという事には上条としては少々驚きであったが、まあ運がよかったと考える事にしよう。
んー、と上条は考える。
魔術にも様々な形があり、また様々な効果がある。
学園都市で開発される能力は、使い方によっては一つの能力で様々な効果が扱えるのだが、基本は一辺倒である。
しかし魔術は、法則にさえ乗っ取れば火も出せ、また水も出せる。
『必要悪の教会』所属のステイルは炎術師として知られているが、火以外のものは出せないのか、と問われればそうではない。
ただ、火の魔術を最も得意とし、忍び寄る脅威を退けるのにそれが一番彼にとって理に適っているからであった。
とはいっても、上条は自身が持つ力故に能力も魔術も使った経験がなく、その辺りの塩梅はよくわからない。
わからないが、ただ今まで散々能力や魔術の厄介事に首を突っ込んできており、その度にどうすればいい、どうなしなきゃいけない、と他人に聞いてばかりであった。
無知故に解決に時間が掛かったり、更なる被害が出てしまう事だってこれからでも十二分に危惧ができる。
───様々な事。これからもっと知っていかなきゃなんねぇな…………
守るべき者達を思い浮かべては、そう身に染みていた。
ふぅ、と天井を見上げる。
天井には有名な絵画らしきものが描かれていた。
布切れ一枚を纏った半裸の女性が描かれているが、官能的で扇情的なものではなくあくまで美術的なもの。
吹き抜けの上階の奥にもまだまだ何かありそうだった。
───それにしても綺麗なとこだなー。今度初春さんと来てみっかな。
何やらシアタールームやら資料館やら、なぜかプラネタリウムまで完備されている様だ。
初春を連れてってあげたら喜ぶ顔が見られるのではないか。
喜んだ顔、嬉しそうな顔。
手を繋いで、歩いて。
ふう、と再び天井を見上げる。
描かれている絵画の女性と彼女を重ねて────
上条「って何考えてんの俺!?」チガウチガウ
インデックス「どうしたの?」
神裂「どうしました?」
五和「?」
上条「い、いや何でもない、はは…………ってあれ、オルソラは?」
インデックス「あれ、あれ? ホントだ、いないんだよ」
青ピ「ええで~、ええで~! 図書館に外国の綺麗なお姉さん! 映えるで~!」パシャ パシャ
オルソラ「こ、困るのでございますよ……」
上条「」
職員「館内での写真撮影はご遠慮ください」スッ
青ピ「か、返してや! ボクのマイライフ!」
上条「何がマイライフだボケ!」バシッ
青ピ「いたっ! てあらー、カミやん?」
オルソラ「怖かったのでございますっ」ダキッ
上条「ちょ、オルソラ、タイム! 柔らかい感触がががが!」
神裂「」イラッ
五和「」イラッ
インデックス「」イラッ
青ピ「カミやんんんんんんん!」
つーか何で青ピがいるんだおい。
空中で拳を叩き込み、コンクリートの地面にクレーターを作って倒れ伏す垣根を一瞥する。
溜息を吐きながらチョーカーの電極のスイッチを切った。
一方通行「チッ、やっぱあン時とどめを刺しておくべきだったぜ」
打ち止め「あなた!」
一方通行「打ち止めァ、怪我ねェか?」
打ち止め「うん、大丈夫だよってミサカはミサカはあなたに飛びついてみる!」
一方通行「やめろみっともねェ、うっとォしィ」
垣根が再び立ち上がる事のないくらいの一撃を浴びせたつもりなのだが、それでも注意を払いながら打ち止めの身体を抱き留める。
口ではそう言いながらも、彼の手は打ち止めの頭を乱暴にくしゃくしゃと撫でていた。
打ち止め「えへへーっ、そう言いながらも撫でてくれるあなたの優しさにミサカはミサカは甘えてみたり!」
あと少し、自分が遅れていたらどうなっていたかは想像に難くない。
この小さな守るべき存在が、どうなっていたのか。
一方通行「………………」
自分の胸の辺りにまでいかない大きさの少女。
何度、この小さな存在が危険に晒されればいいのだろうか。
何故、危険に晒されねばいけないのか。
苦虫を噛んだような表情をしながらも、一方通行は打ち止めの頭を撫で回していた。
ふと、美琴と目が合った。
美琴「……………………」
一方通行「……………………」
互いに言葉はない。
別に掛ける道理はないし、話したくなければ話さなくていい。
それに今更何を話せばいいのか。
難しい表情を貼り付けて思案していると、初春達から声が掛かった。
初春「あ、一方通行さん」
方通行「おォ、お前らも無事だったか?」
佐天「あ、はい、ありがとうございました」
黒子「助かりましたの、何とお礼を申し上げればよいのか……アンチスキルには通知しておきましたので、恐らくそろそろ到着する時間かと」
一方通行「そォかい」
一同揃って告げられた礼に対して別に気にするなという意図を混ぜて一方通行は返す。
彼女達は巻き込まれただけだ。
そして自分はクソッタレをぶっ潰しただけ、ただそれだけの事。
あいつならどう返したんだろうな、と三下ヒーローの事を頭に掠めながらすぐに消した。
一方通行「オイ、戻ンぞ。準備は出来てる」
打ち止め「うん! ってミサカはミサカはあなたの手を引っ張ってみる!」
御坂妹「了解しました、とミサカは返答します」
美琴「……………………」
一方通行「……………………」
打ち止め「お姉様、また遊ぼうねってミサカはミサカは手を振ってみたり!」
御坂妹「それでは失礼します、とミサカはペコリと頭を下げます」
美琴「あ、う、うん…………」
何か言いたそうな美琴の表情が心の僅かな引っ掛かりに指一本でぶら下がる。
しかし一方通行はそれを解き落とした。
垣根共々、自分みたいなこんなクソッタレの人間に関わる事など。
もう、なくていい。
その後、黄泉川率いるアンチスキル部隊が現場に到着し、黒子が代表して応対していた。
重傷者とまではいかなくとも怪我人も出ていたが為に『KEEP OUT』と書かれた侵入禁止を促す黄色いテープのバリケードが張られ、現場検証に訪れたアンチスキルの隊員達が忙しなく入出している。
野次馬達もなんだなんだ、と言わんばかりに増えていて軽い人だかりが出来ていた。
「いや、突然お店の目の前で爆発の様な音と悲鳴が聞こえたので何事かと思い飛び出してみたら…………」
「ふむふむ、なるほどね」
災難だったな、と黒子は思う。
本日オープンしたばかりの雑貨屋の店長と思わしき人物が複雑な顔をして聴取を受けており、どことなく残念というか憂いを秘めたというか、物悲しい雰囲気を纏っていた。
オープン初日に突然こんな事件に巻き込まれるのなんて何と言う不幸なのだろうか。
店にとっては特別な記念日、この日のためにどれくらいの準備をしてきたのだろうか、考えるだけで不憫な気持ちになってくる。
彼に負けないくらいの不幸とも言えるのであろう。
黒子「……………………」
黄泉川「白井ー、ちょっといいかじゃん?」
黒子「あ、はいですの」ブンブン
黄泉川に呼ばれ無意識の内に思い浮かべていた彼の顔を頭を振って消し去り、黄泉川の下へと赴く。
事件が起きた、という事で彼を呼び出すのも考えたが。
まあ、明日慰めてもらえばいいかな、と考えを打ち消した。
オルソラ「そういえば、もう食材が尽きかけているのでございますよ」
上条「お、そうだった。んじゃ帰り道がてらスーパーでも寄って帰るかー」
五和「(上条さんと…………お買い物……ふふ……)」
神裂「五和、何を考えているのです?」
インデックス「おっかいっものー」
すっかり日も暮れた時間帯。
調べ物も一段落つき、一同は図書施設から場所を移していた。
土御門の予測の言葉を裏付ける様な情報も収集でき、後は対応策を練るだけの段階に移った。
現在土御門は別件があるらしく姿を見せていないのだが、夜にでもなればひょっこり上条の部屋を訪れるのだろう。
冬の季節がは日が落ちるのが早い。
現在時刻はそろそろ夕方五時を回ろうとしているところであるのだが、段々ともう赤みから青、そして黒の色へと空は向かっている所である。
より冷たい風が吹き抜け、肌を刺すような寒さは身を震わせていた。
上条「寒いな、早めに戻ろうぜ」
オルソラ「そうでございますね」
神裂「これくらいの寒さなど鍛えればどうとでもなります」
上条「…………脳筋」ボソッ
神裂「…………七閃」ギラッ
上条「ひっ、な、なんでもないですっ!」
聖人なる者は聴覚まで敏感に研ぎ澄まされているのだろうか、神裂が目を光らせる。
とまあそんな事は置いておいていいだろう。
買い物も済ませ、上条行きつけのスーパーから寮まで戻る。
この人数分の量ともなると上条の両手で持てる範囲を超え、神裂、五和も一袋ずつの計4つもの荷物になった。
自分達も食べるから、という理由で食材の代金を割り勘した時は情けなく思いながらも感謝し、感涙を流していたのはここだけの秘密だ。
インデックス「おるそら、今日のご飯は何かな?」
オルソラ「今日はシチューでございますよー」
インデックス「シチュー! 食べた事ないかも! 楽しみなんだよ!」
上条「う…………これも俺が情けないばっかりに……」
神裂「…………あなたには苦労かけさせてしまっていますね」
五和「か、上条さん…………」ウルウル
お涙頂戴の事情がありにしろ、そう言った所でまあ突然劇的に生活が変わる訳でもない。
インデックスも自分も育ち盛りだ、もっと食生活には気をつけなければなるまいと考えていて…………いや、インデックスには相当の量を与えている気がする、うん。
それでも何とか生活できているし、まあいいか、なんて自己解決した様にうんうんと頷いていると。
「……………………」
上条「……………………ん?」
そろそろ学生寮も近付いてきた辺りの道端でフラフラと歩く男の姿が見えた。
足取りも不安定、歩き方も不自然。
年の功は自分と同じくらいか、ほんの少しだけ上か。
着用しているスーツの様な服も所々破れており、この学園都市では見る事のない浮浪者の様であった。
神裂「どうしたのでしょうか?」
インデックス「なんだか苦しそうにも見える、かも」
五和「上条さん、知っている方ですか?」
上条「いや、知らない」
壁にぶつかり、手を壁に置く。
そうして体勢を整え、また壁にぶつかる。
それを繰り返している内に、男はその場に倒れ込んだ。
上条「おいおい…………おーい、アンタどうした? 大丈夫か?」
困っている者を放っておける人間ではないのが上条である。
酔っ払いかな、なんて思いながら倒れ込んだ男の肩を揺すって起こそうとする。
上条「おーい、こんなとこで寝ると死んじまうぞ」
「……………うー………」
何を写しているのかわからないくらい焦点も定まってない目。
それに怪訝な表情を浮かべながらも何とか身を起こさせ、立たせようとする。
上条「おっと…………大丈夫か…………」
首がカクッとなり、その頭に自身の右手を添えた瞬間──────
バチンッ──────
異能が消える、あの感触が響いた。
上条「!?」
インデックス「え、い、今のって」
神裂「何かが消えた、音…………?」
「……………………っ」
上条「お、おい! アンタ、しっかりしろ!」
フラフラとしていた男の様子が一変し、男はその場に倒れ込んでいた。
インデックス「とうま、その人大丈夫そう?」
上条「んー…………どうだろうな……」
自分が使っている布団の中で時折苦しそうに顔を歪める男に目をやりながら上条は答える。
あのまま放っておける訳もなくとりあえず自室に連れ込み、横にならせたのはいいのだが。
当然病院へ連れていくという選択肢もあったのだが、頭を支えた瞬間に幻想殺しが働いた事が妙に引っ掛かる。
何かがこの男にかけられていたのかどうかはわからないが、とりあえずはこうする事にしていた。
もしかしたら、自分達が追っている例の魔術の件にこの男も絡んでいるのかもしれない。
危険もあったのだが、もしそうであるのならば色々と聞き出す好機でもあったりする。
当然神裂と五和の二人は男の動向に細心の注意を払っており、いざとなればの準備は出来ている。
上条としても少しも気は緩めないまま男の目が開くのを待っていた。
「うっ………………」
上条「!」
神裂「!」
五和「!」
うめき声を上げ、男の目がゆっくりと開かれる。
その様子に臨戦体勢を整えながら、上条達は息を飲んだ。
「ここは……………………」
上条「…………目が覚めたか?」
右手を軽く握りしめながら声を掛ける。
いまだはっきりしていない様子で男は視線を動かしていた。
「う…………頭が痛ぇ」
上条「………………水でも飲むか?」
「ん…………ああ、悪いな、もらっていいか……?」
上条「………………」
男が身をゆっくりと起こしたのを確認し、あらかじめテーブルの上に置いた水が注がれたコップを手渡す。
ゆっくりとした動作でそれを受け取ると、コク、コクとそれを喉に流し込んだ。
「ふぅ…………」
上条「……………………」
「…………悪いな、助かった」
上条「ああ」
時間を掛けて飲み干したコップを上条に返す。
礼を告げたその様子に少し警戒心を薄めるのだが、それでもまだまだ完全には解かない。
そうしたまま上条は男の言葉を待った。
「………………俺はどうなったんだっけか」
上条「あん?」
「………………思いだせねえ……」
上条「………………記憶がないのか?」
「いや…………確かあん時…………俺は…………死んで、ないのか?」
上条「…………どういう事だ?」
「…………っ、だめだ、頭が痛ぇ」
苦しそうに表情を歪めながら頭を押さえる。
無理をさせるでもなく上条はただじっと男の言葉を待った。
「すまん、もう少し横になってていいか?」
上条「ん? あ、ああ、いいけど」
「悪いな。助かる」
再びゆっくりと横になり、腕で顔を覆うように被せる。
考え事でもしているのだろうか、男はそれっきり少し押し黙った。
この男が例の件に関係あるのかどうかはまだわからない。
しかしはっきりとしないその様子はどうやら演技でもなさそうだ。
すると上条の後ろからひょっこりインデックスが顔を出し、上条に耳打ちをしだした。
インデックス「(とうま、この人から魔力は何にも感じられないんだよ)」
上条「(やっぱそうなの、か?)」
インデックス「(うん)」
後ろを向き、神裂と五和とも顔を合わせる。
二人もインデックスの言葉を肯定するように頷いており、ふう、と一息ついていた。
「…………名前は?」
上条「ん? ああ、上条当麻って言うんだ」
インデックス「インデックスって言うんだよ」
「外人さんなんて久しぶりに見たぜ。しかし日本語うまいな」
インデックス「ありがとなんだよ」
上条「アンタは?」
「俺か? 俺はな、垣根帝督って名前だ」
男は覆い被せていた腕を下げ、そう名乗った。
遅くなっちゃった、本当にごめんなさい
また次回!
姉ちゃんの所為で>>1が逝った可能性あるな。
上条「それで、さっきまでの事は覚えてないのか?」
垣根「さっきまでの事だ?」
上条「ああ、さっきの道端での事だが」
垣根「ああ……………………」
身を起こし、垣根と名乗った男が答える。
上条の質問に考え込んだ素振りを見せ、視線が足元で留まっていた。
まだ完全にその男に気を許した訳ではないのだが、魔術の件に絡んでいるという線は薄く見える。
というかまあ突然目の前で倒れた者に対してそんな警戒心を剥き出しにして突っ掛かるのもどうだろうな、という上条の良心が働いてもいた。
垣根「………………つっ」
上条「大丈夫か? ……すまん、思い出すのが無理ならいいんだ」
頭を押さえ、痛そうに堪え出す。
その様子に上条は無理をしないように告げると垣根は押さえた方と逆の手を上条の前に突き出した。
垣根「いや…………俺も思い出さなきゃいけねえと思うし…………つっ」
インデックス「無理はしないほうがいいかも」
垣根「ああ…………」
額に滲んできた汗を見てインデックスも心配そうな表情を見せる。
目を瞑り、息を整える様にふぅと一息吐いた。
一同の視線が垣根に集中している。
疑心も勿論含まれているが、大部分は大丈夫かという様な目。
不思議とその内心部分も感じ取れているような、そんな落ち着きでさえも見せていた。
自分自身、記憶喪失というモノを経験し、その際には実は相当焦っていたりもしていたのだが、心配掛けじと冷静を取り繕って周りと接している。
この垣根という男も今同じ気分に浸っているのだろうか。
垣根「…………」
グゥ。
垣根「んあ」
少しの間の静寂を破って聞こえたのは、誰かの声ではなく気の抜けるような音。
人間であるならば条件下で誰しも鳴る空腹を訴える腹の虫の音だった。
少し緊迫した空気の中でそれが唐突に鳴らされた事に、上条の口元はほんの少し緩む。
垣根は恥ずかしそうに頬をポリポリとかいていた。
上条「ぷ、腹減ったのか?」
垣根「恥ずかしながら」
上条「ん、俺も腹減ってきたし飯にすっか」
オルソラ「それでは夕餉の用意でもしてくるのでございますよ」
上条「悪い、オルソラ」
垣根「すまん、迷惑掛ける」
オルソラ「いいのでございますよ」
一方通行「あァン? 病院から姿を消しただァ?」
黄泉川『そうじゃんよ。ちょっと目を離した隙に一瞬の内にいなくなったらしいじゃん』
一方通行「アンチスキルの人間は何をしてやがったンだよ……」
黄泉川『その件についてはすまん。こっちも事情聴取やら何やで聞き込みしてたじゃんよ。そいつも動く気配もなくて少し気が緩んだ矢先に一瞬の内に姿を消してたみたいじゃん』
一方通行「はァ……ったくよォ。やっぱあン時ぶっ殺しとくべきだったぜェ……。で、足取りは掴めてンのか?」
黄泉川『いや、全然。こっちも厳戒態勢でしいといたんだが、目撃情報はナシ……今日はどうにも家に帰れそうにないじゃん』
一方通行「……チッ。まァ何かわかったらすぐ連絡しろ」
黄泉川『あぁ、わかったじゃん。だがくれぐれもやり過ぎはするなじゃん?』
一方通行「そンぐらいじゃねェとあのクソッタレには意味ねェんだよ。はァ……切るぞ?」
黄泉川『家の事は任せたじゃん』
一方通行「ケッ」ピッ
苛立った様子を隠しもせず舌打ちをしながら電話をポケットにしまう。
隣では同居人の二人がやいのやいの話し合っており、こっちとの状況の温度の差を著しく感じた。
しかしその様子から別段怖がらせる必要もない。
有事の時には今度こそ一瞬の内に片をつければいいのだ。
打ち止め「ねーねー、ヨミカワは何だってー?」
一方通行「今日は仕事で帰れねェンだとよ」
番外個体「ええ、じゃあ今日の晩御飯はどうするのさ?」
一方通行「まだ鮭が残ってンだろ。それでも食っとけだとよ」
番外個体「また鮭? はぁ、もう飽きたよ」
打ち止め「ハンバーグが食べたいってミサカはミサカは駄々をこねてみたり!」
一方通行「ンなもン明日だ明日。今日はそれで我慢しとけェ」
番外個体「はぁ、誰かさんが釣りまくってくるから」
一方通行「ンな事言う奴は晩飯抜きだ」
番外個体「はいはい、わかりましたよ今日は我慢しますよっと」
この時には一方通行にでも予想出来なかっただろう。
まさかあのヒーローの所に渦中の第二位がなだれ込んでいるとは。
キーンコーンカーンコーン。
上条「ふぅ、やっと終わったぜ。っと、今日はジャッジメントだったな」
放課後のチャイムが鳴ると同時に生徒達は開放感に満ち溢れた様子でこの日一番のいい顔をそれぞれに出しながら立ち上がる。
上条も壁に掛かった時計に目をやりながら席を立つと、クラスメイト達に挨拶を交わしながら教室を後にした。
本来なら『補習』という名目でもう少しその場にいなければならないのだが今はもうその必要もない。
担任のロリ教室の何かを訴えかける目と行かないでという抱擁もそこそこにしてもらって上条は校門へと向かった。
その際のクラスメイト達の目線は妙に痛々しいものであったが気にしたら負けである。
とりあえず、と考えるはこれからの事。
朝、垣根は学校へ通う上条と共にあの部屋を出ていた。
記憶を戻す手掛かりはまだないが、じっとしてもいられないとの事でどこに行くのかも告げずにフラッと出ていった。
女の子だけの部屋にいるのも何か滅入るしな、とも言っておりもしかしたら彼は紳士的な人間なのかもしれないと上条は含み笑いを漏らしていた。
記憶の件は自身が何とかする、とも言っており何やら手を貸すのも拒むまではいかないのだがやんわりといいとだけ返され、それは求めたら、というスタンスでいたいようだ。
魔術の件。それをどうにかせねばなるまい。
この学園都市で事件が起きた以上、上条の周りにも危害が及ぶ恐れがある。
いや、十中八九及ぶものだと考えてもいいのかもしれない。
自身があれだけ魔術の件に首を突っ込み、『幻想殺し』の存在を疎ましく思う輩も膨れ上がっている、とも土御門は言っていた。
それもそうだな、とまるで他人事の様に笑った上条であるのだが、こうして自分の近くにまでその脅威が忍び寄って来るという事を考えると、やはり早急に手を打たねばならない。
もし、彼女に魔の手が…………と考えた所で、上条の聞き慣れた声が耳に届いた。
初春「当麻さぁんっ」
上条「おー、初春さん」
校門を過ぎた所で斜め後ろから声が掛かり、上条は振り向く。
すると突然、その声の主が上条の胸元に飛び込んできた。
初春「当麻さんっ、当麻さんっ」
上条「えっ、えっ、ど、どうした?」
ギュッと背中に回された腕に力が込められるのが感じ取れた。
その小さな感触、今まで何度か味わった感触だがまだまだ慣れる事のない上条は最大限の胸の動悸を何とか沈めようと深呼吸をしながら恐る恐る声を掛けるのだが。
黒子「う、う、う、初春っ! は、離れなさいっ!」
佐天「ああ、初春! こーなったら私も! 上条さーんっ」ギュ
上条「さ、佐天さん!? ちょ、ちょっ」
上条の真正面は初春が占領しており、佐天は上条の後ろに飛びつく。
初春はまだしも佐天とそんな事をした事はない。
また違った一段階上の柔らかさが上条の焦心ポイントを更につっつく。
黒子「な! 佐天さん!? な、何をしてらっしゃるんですの!?」
上条「し、しらい…………ど、どうしたんだ二人は……」
黒子「ぐぬぬ…………」
上条「し、白井サン……?」
黒子「こ、こうなったら!」
まずい。
黒子の顔が歪んでいる。
あれは以前自分と美琴が接している時の愛するお姉様に類人猿は近づけさせませんの顔付きだ。
愛するお姉様ではなくとも、初春も佐天も黒子の大事な友人。
その友人達が黒子が敵対心を持つ男と零距離で引っ付いているのだ、当然自分には空間移動&踵落としの鈍痛ダメージが来るものだと思っていた。
しかし、予想は大きく外れた。
黒子「ここですの!」シュン パッ ギュ
上条「何──────────!?」キャッチ
上条の横顔僅か数cm上という距離で黒子の顔が浮かぶ。
当然自分と同じ目線の高さという事は黒子は少なくとも空中に身を投げ出しており、後は落下という運動に身を委ねるだけ。
当然上条としては瞬時の内にだが咄嗟に黒子の身体を支えねばならない。
空いていた腕は黒子の背中に回し、落下運動を妨げる。
シュン パッ ギュッ という擬音もそのままであった。
上条「ちょ、ちょ、一体何なの何ですか何なんですかーっ!?」
初春「し、白井さん当麻さんに何をしてるんですかー!」ギュッ
黒子「わ、わたくしは道端での不純異性交遊を止めようとしただけですの! と、当麻さんが動きにくそうにしていますの! 離れなさいな!」ギュギュ
佐天「だっこみたいな恰好の白井さんが一番説得力ないですよー?」ギュギュギュ
初春「さ、佐天さんも離れて下さい!」ギュギュギュギュ
黒子「わ、わたくしはテレポートが失敗してこうなっただけですの! それに今当麻さんの右手がわたくしに触れているのでどうしようもありませんの!」ギュギュギュギュギュ
初春「明らかに狙いましたよねそれ!? 当麻さんが抱き止めてくれるのを明らかに狙いましたよね!?」ギュギュギュギュギュギュ
上条「…………これは景気付けに一発叫んでおいた方がいいのではないでせうか」
何とも羨ましいJCサンドイッチ状態の中でも上条はお決まりの台詞が喉まで出かかる。
しかも場所は上条の通う学校の校門を出たばかりの所。
放課後間もない最も人通りが多いこの時間帯は、その四人の周りに見物客の人だかりを作るのも当然と言えよう。
出来るだけ学校生活は平穏に暮らしたい。
だがこの状況を見られたのなら、とてもそうはいけないのだろうと頭のどこかで察知していた。
ナンダナンダー? JCサンドイッチダッテヨ
メチャメチャカワイイコタチジャネーカ アノセイフクッテトキワダイ!?
チョウオジョウサマモガアンナオトコノ… マタカミジョウカ
ワタシノカミジョウクンガッ! アンカデカミジョウヲタオス>>5
カミジョウイイカゲンニシロ ウ、ウラヤマシクナンカナインダカラネッ
上条「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!11」ダダダダ
初春「わっ」
黒子「あっ」
佐天「ひゃっ」
やはり上条は人間離れしているのかもしれない。
まだ少女達とは言えども三人の人間を身体に引っ付けながらも100m世界記録保持者も真っ青な脚力でその場から脱兎の如く逃げ出していた。
>>538大丈夫だ、まだ生きてる
あれから姉ちゃん割と普通に接してくれてるんだよなー
ちょっと怖いけどビクビクしててもしょうがないね
遅くなってごめん、また次回!
垣根「……」
何をするでもなく、当てもなく一人の男は歩く。
何をしようにも、何処かへ行こうにも『喪失した記憶』が垣根の思慮の道を閉ざす。
自分が何者で、どういう人間だったのかも思い出せずただ道を歩く。
上条の部屋に運ばれる前の事はほとんどない。
自分というモノを教えてくれるのは、自身が唯一はっきりと思い出した名前だけ。
道行く人々に『垣根帝督という男を知っているか?』と尋ねても恐らく生返事しか返ってこないのだろう。
すれ違う人々から妙に顔を見られたり声をかけられる訳でもなく、自分は顔が知られている有名人という訳でもない事はわかった。
自分を知ってるぅ? などというナンパにも近い声のかけ方などする気もないし、そこまでのナルシズムは持ち合わせていない……と、言いたい。
まぁ傍目から見ればそこそこ受けは良さそうな顔をしているのだが。
垣根「はぁ、これからどうすっかな。いつまでもあいつの世話になる訳にはいかねぇし、あいつんとこにいる子らは全員あいつにハートマークの矢を今にも引こうっていう状況みたいだしなぁ」
その矢の向きを全部自分に向けられたら……なんていう思考は全く浮かんでこない。
状況が状況だ、今はとにもかくにもいち早く記憶を取り戻す事が先決だろう。
あの時、自分は死んだのではないか──
上条の部屋にてその疑問が咄嗟に口から出たのは一体何だったのだろうか。
死地へと向かう道の途中であったのか。
思い出したい、思い出さねばならない。
自然と沸き上がるこの義務感が、少し垣根を焦らせてもいた。
ため息混じりの息を吐き、当てもない記憶探しの探索を続行する事にした。
佐天「すっごーい、もう着いちゃった」
黒子「まるで馬にも乗っているかの様な気分でしたの」
初春「むー……」
上条「もうね? 明日の朝どうなるか予想がついちゃってる訳よ? ここ最近学級裁判が頻繁に行われてね? 毎回被疑者は俺ね? 最終的にはいっつも裁判員達から執行猶予無しのタコ殴り実刑判決でね?」
早く着いたすごーいというキラキラした視線を上条に送る佐天
引っ付けた事による喜びを表したいけどこっ恥ずかしさが先行して馬扱いする黒子
上条にひっ付くのは私だけですという怨めしい視線を二人に送る初春
翌日に自身に降り懸かる危害を懸念し一人でぶつくさ壁にかけられたカレンダーに一人ごちる上条
カオスとまではいかないが何というか、説明のし難い状況、それぞれの心持ちであった。
固法「こんにちはー……うん?」
それは次に第一七七支部に姿を現した支部長の反応を見てみればわかりきった事だろう。
黒子「そういえば、脚はもう大丈夫なんですの?」
上条「ん? おー。お? 言われてみりゃもう大丈夫だな」
黒子「先程のあの走りぶりから恐らくもう大丈夫だろうとは思いましたが、それならよかったですの」
上条「はは、さんきゅ」
黒子(上条さんの脚が治った事は喜ばしいのですが……)
しかし腕が組めなくなったというジレンマにほんの少し憂鬱になりかける黒子であったが、ぶんぶんと頭を振ってその考えを消しておいた。
特に事件もない日のジャッジメントの仕事は大体見回り警邏、という形になる。
先輩風紀委員に連れられ、研修風紀委員である上条は黒子と共に街中を歩く。
特に変わった事もなく、いつもの学園都市の風景だ。
黒子(でも、これは、これは。実質、ほほ、ほ放課後デートというもの……!)
妙に張り切っているような黒子を見て仕事熱心なんだなと上条は感想を漏らす。
黒子の内心抱いているものには全く気付かないのはいつも通りの上条だった。
黒子「脚は大丈夫の様ですが、お顔の方はどうですの?」
上条「ん? そうだなぁ、目立たない程度には治るんじゃないかな。診てくれたのはあの先生だし」
黒子「あんなに血が出てらしたのに……」
上条「まだガーゼは取れないけどなー、でも痛みもないし大丈夫なんじゃね?」
黒子「またご自分の事をまるで他人事の様に……」
上条「インデックスもな、言うんだよ。『とーまはいっつも怪我して帰ってくる』ってな、怪我しようと思ってしてきてる訳でもないんだけどどうにも不幸体質でなー」
黒子「貴方はもう少し自分の事を考えるべきですの」
上条「はは、インデックスにも言われた。ほっぺた見たらいきなり泣きそうになってたし、神裂も五和も刀と槍持ち出して犯人が収容されたとこに襲撃に行こうとしてたし……」
黒子「……どういう方々なんですの。というか、学園都市の外部の方々だとお見受けしましたが、ID等はお持ちなのでしょうか」
上条「んあ、あ、ID……? も、持ってんじゃないかなー……?」
黒子「曖昧ですわね。学園都市の規則で定められている以上、外部の人間は滞在許可証を取得しなければなりませんのよ? これはジャッジメントである私共がキチンと取り締まらなければなりませんの」
上条「そ、そーですねー……」
黒子「……まあ、貴方の関係者であるのならばそれはそれで信頼に値しますが……当麻さんならば」ボソッ
上条「ん? なんてったの?」
黒子「い、いえ、なんでもありませんの///」
本来ならば一人で行うであろうパトロールの時間も、今は上条と一緒。
そしてこれから暫くこの状況が続くとなれば、自然と黒子の口元も緩んでしまうというものだ。
それを上条には悟られない様に隠すのに努力を続ける事になるのだろうが。
充実感、というものが黒子の心の内の大部分を占めていた。
黒子「ただいま戻りましたの」
上条「ただいま戻りましたー」
初春「あっ、おかえりなさい当麻さん! 白井さんに変なコトされませんでしたっ?」
上条「いや、別に何もされてないけど……」
黒子「ど、どういう意味ですの初春っ!」
上条と黒子が一七七支部に戻ると、真っ先に初春が上条の元へと駆け寄る。
今にも飛び付きそうなほどの勢いに圧され、上条は一瞬たじろいで苦笑いをしながら答える。
本日は特に大した事件や仕事もなく、定時には終わるのだろう。
平凡な学園都市は今日も平常運行だ。
……ただ。
上条の懸念する不穏な空気は、誰にも気付かれる事なく水面下で様々なところへとその手を伸ばしていた。
黒いフードを被った齢二十歳前後の男が地面に描いた魔法陣の上にどこからか拾ってきただろう様々な動物の死体を並べる。
犬、猫、亀、土竜、そして人間らしき骨も────。
「……神の右席でさえも退けた連中、ね」
ボソッと呟きながら黙々と作業を続ける。
夜目がきくのだろうか、夜の帳が落ちた闇の中でも頭の中で描いた計算と寸分違わずにそれをこなしていく。
「神の右席、というのは解らぬが。まあ、だがこれならさすがにその連中にも手も足も出ないんじゃないかえ?」
しかし、完全に独り言とも取れる状況の中、男の声に答える一人の女の声。
口調からは古風めいた言葉が見受けられるのだが、声色からするにこちらもまた男と同年代かそれか少し上くらいのものだろう。
「……いたんスか。いるならいるって言ってくださいよ」
「ふむ、わらわはここにいるぞよ」
「……」
突然の返答に男は驚く素振りも見せずに驚いたという。
しかしその男の様子から、視界は暗く表情は窺えないのだが恐らく女は面白くないとも感じているのだろう。
「ちぇっ、つまらない奴じゃの」
「へーへー、これから面白くなる所なので座して幕開けをお待ちになって下さいな」
「なんじゃその暗愉は。わらわの時代には伝わらぬ例えじゃ」
「舞台もなければ演技もない時代でしたね、確か。でもこれくらい察してください。頭いいんでしょう?」
「わらわに向かってその口遣い、本来なら即刻首が跳ねておるがの」
「時代が違いますよ時代が。まあそれらも総てが終わった後にゆっくりと覚えていけばいいでしょう。教えますよ、貴女が滅した後の日本というものを」
「にほん、とはなんじゃ」
「ああ……そこからでしたね。貴女の時代で言うのなら、倭の国──邪馬台国、と云った所でしょうかね」
「ふむ……やはり滅びておったか」
「いずれ取り戻せましょうよ。幻想殺しの死と魔道図書館をもって、ね」
「敵となるのは幻想殺し、天草式と言っておったな」
「あとはこの学園都市全体、でしょうね。ここを落とせれば世界の総て、貴女の手の元に」
「ふむ、せかいというものも解らぬが。しかし、妙な時代に『黄泉がえり』させられたものじゃな、わらわも」
「貴女の魅力にとりつかれた一人ですよ、僕は────ヒミコ様」
「わらわを呼び寄せる程の実力の持ち主にそう言われるのも悪くは思わぬがね」
恋人同士の蜜時と見る人が見ればそういうのだろうか。
お互いを信頼しているのかしていないのか。
従事か愛情か。
それはきっと当人同士にしかわからないのだろう。
しかし、そう言い合いながらも二人の口は幾分か愉しそうだ。
それはこれから起こる事柄、彼らが思い描く未来に期待を寄せて、なのだろう。
『おいでませ、おいでませ
死道より出でし輪廻の廻道よ
こりゃまた狭き門 幅広げ
滅せしその身をこの世にと
また一つ おいでませ おいでませ』
男の流れる様な唄が闇に響く。
描いた魔法陣から光が浮かび上がり、死体を包み込む。
まるで天から息吹を吹き込まれる様な。
まるで神からの祝福を受けるかの様な。
ヒミコと呼ばれた女は、心なしかその光景に目を奪われていた。
土御門「……なんだと?」
金髪にサングラスという如何にもガラの悪そうな男がそのサングラスの奥の瞳を震わせる。
電話口から発せられたその言葉が信じられない、という風に。
彼の出身といえば、代々受け継がれた位高き陰陽師一家。
誇り高き家柄は他の追随も赦さぬものであり、またその人となりの心構えも幼少より鍛え上げられる。
家の為、一家の為。
それを叩き込まれた名家の一族は、決して自分の家の名に泥が付くような真似などしない。
学園都市に来た土御門自身も、彼の真意は誰にもわからないのだが土御門という家の名を汚す事はしない。
彼の裏の顔としても、仕事を完璧にこなし容易に名を知られたりはさせない。
土御門「あいつが……?」
電話口から告げられたその名を土御門は反芻する。
様々な感情が今彼の中でひしめき合っている様だ。
土御門にとって、縁のある人物であったのだろうか。
土御門「……ああ、わかった」
苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、乱暴に電話をポケットに仕舞う。
暗部が解体されたからといって、土御門に課せられる仕事は実はなくなる訳ではない。
やらなければ、やられる──その世界に身を置いてきた。
ふぅ、と一息つき彼はいつもの顔に戻す。
もうそろそろ大切な家族が顔を出す頃だろう。
舞夏「あにきー、ご飯どーする?」
土御門「にゃー、舞夏の作ったもんならなんでもいいぜい。ちょっくら用事でカミやんとこに行ってくるにゃー。ご飯出来る頃に戻ってくるぜい」
舞夏「おー、いってらっしゃい」
バタン、とドアが閉まる。
もう一度、土御門はふぅと一息ついていた。
本当にごめんなさい
最近いきなり忙しくなっちって書いてる時間がどうしても作れなかった
幾分かマシになったから時間空かない様に頑張るぜ
中傷罵倒とか甘んじて受ける
また次回!
土御門「おーす、カミやー……ん……んにゃー!?」
勝手知ったるやと言った所か、遠慮する様子もなく土御門は隣人の部屋のドアを開ける。
家主である上条としてもそんな些細な事は気にはしていないし、寧ろそうしてくれた方が親友に対しての心の距離というものを感じる事はない。
仲良くなったのは高校で同じクラスになり、つるむ様になってからなのだが今や親友同士とも言ってもいいのだろう。
しかし、親しき仲にも礼儀ありという言葉が存在する様に、男同士のノリであっても自制心を持って行動する事はとてもとても大事な事なのだろう。
……ドアを開けた先には、『聖人』神裂火織と『聖人崩し』五和という見る人も魅了する可憐な二人の下着姿があった。
土御門「あ」
神裂「……」
五和「……」
インデックス「あ」
オルソラ「あらあら」
あれー? おっかしいな、カミやんの姿が見当たらないぜい。
上条『おーい、もういいか?』←バスルーム
なるほどだにゃー。
神裂「上条当麻……申し訳ありませんが、もぉぉぉぉ少し待って下さい」
上条『りょーかい』
土御門「お、落ち着くんだにゃーねーちん、ととりあえずエモノから手を離そうぜい」
神裂「……」ギラ
五和「……まだ上条さんにも見せてないのに」
ダラダラと汗を垂らしながら必死に弁解するのは土御門なのだが、対して両手で身体を覆う仕種をする五和と愛刀の七天七刀を今にも抜かんとする神裂。
土御門「い、いやまさかねーちん達が着替えてる途中だとは思わなくてだにゃー……あ、そうだ、舞夏に呼ばれてるんd──
神裂「唯閃ッ!!」ズガァンッ!
土御門「みぎゃあああああああああああっっ!!!」
上条「ど、どうした!? 敵襲か!?」ガラッ
神裂「か、上条当麻!/// まだ出てきてよいとは言っておりませんっ!///」ズガァンッ!
上条「みぎゃああああああああああああっっ!!」
オルソラ「あらあら」
突然の騒音にバスルームから飛び出し、土御門のついでに刀の錆となった上条。
というか、あれだけの騒ぎならば飛び出すのも至極当然の事と言えるのだろうが。
しかしそこはやはり上条当麻、不幸だったのだろう。
上条「酷い目にあった……」
土御門「……悪かったにゃー」
ボロボロの布切れが歩いているかと思いきや、そうボソボソと言葉少なげにいつもの通学路を歩いているのは先程の被害者二名。
漫画で言うなれば、引きずる身体を木で出来た杖でなんとか支えながら歩いており次のコマには治っているという一場面であろう。
土御門「あー、そういえばカミやん」
上条「なんだ?」
まあこの二人もそれに当てはまったみたいである。
それは置くとして、ふと唐突に土御門が真剣な表情を見せた。
その機微を察知し、上条は隣のサングラスの奥を捉えようとした。
土御門「小猫ちゃん達は大丈夫だったんだにゃー?」
上条「小猫達?」
土御門「ほら、あの子達だにゃー。超電磁砲達の四人」
上条「御坂達がどうしたって?」
土御門「カミやん知らないかにゃー? 第二位の男に襲われたって」
その時、上条の足が止まった。
上条「……なんだと?」
土御門「聞かされてなかったか」
そんな上条に土御門は振り返り言葉を続ける。
土御門「一昨日の話だ。超電磁砲達の四人に超電磁砲のクローンの二人を合わせた六人が道端で第二位に襲われたらしい」
上条「……一昨日」
土御門「狙いは予想はつく。大方前と同じだろう、小さな超電磁砲を質に一方通行をおびき寄せようとしたんだろうな」
上条「……」
それは以前、風紀委員試験直後の病室で聞いた話だ。
初春が打ち止めを守ろうと第二位の前に立ちはだかったと言っていた。
……それと、同じなのだろうか。
上条「初春さん達は……大丈夫だったのか?」
土御門「安心しろ、一方通行が撃退したらしい。それに、昨日のジャッジメントで顔を合わせているだろう?」
上条「……一方通行が、か?」
上条の殺気立った雰囲気が少しずつ緩和されていく。
いや、緩和されていったのだが。
その表情はそうではない。
上条「……っ」
土御門「……」
土御門としても上条の心境について直接聞いてはおらず、詳しくは知っている訳ではない。
しかし、最近風紀委員……その中でも特に、ある一人の少女と懇意になっているという情報は掴んでいた。
自分が傷付く事も厭わず、状況も省みずに他人に手を差し伸ばす彼の性格。
それに好意と思わしき感情が混じったその相手が、危険に晒されたという事は彼にとって辛く苦しい思いなのだろう。
土御門「カミやん」
上条の肩に手を置く。
慰めとも励ましとも取れるその声に、上条は顔を上げた。
土御門「きっと、カミやんに心配かけさせたくなかったんだと思うんだにゃー」
上条「……ああ」
互いが互いを案じ、心配かせさせまいとする。
それは至って普通の事だ。
自分も上条に対して、そうだしな、とポケットの中の着信を告げる電話を気にしながら言う。
鈍感だと軽口を叩くこの相手にも、その言葉は伝わったのだろう。
初春「……」ポーッ
佐天「zzz」ムニャムニャ
柵川中学の中庭のベンチにて、言葉も発さずに静かに座っている少女が二人。
一方は時折顔を赤らめブンブンと首を振り、もう一方は夢の中なのだからそれは当然であろう。
『当麻さん…………大好きです──────』チュ
初春「//////」ボフッ
佐天「zzz」スピー
あわわわわわ……。
あの時の夜の公園でのキスはこうしている間でも鮮明に浮かび上がってくる。
二日前に自身の身に起きた危険など霞むくらいのあの記憶。
大好きな人に自分の初めてを捧げた。
拒まれなかった、受け入れてくれた。
そして、二回目は彼も自分の身体を包み込んでくれた。
初春「……エヘ、エヘヘ///」
佐天「んがっ…………zzz」
強くて逞しくてかっこよくて、そしてとんでもなく優しくて。
最初は話しやすいなって印象を受けた。
美琴の知り合いで、黒子の敵で。
それがいつの間にか心の隙間に入り込み、夢中にさせている。
こんなに人を好きになるなんて夢にも思わなかった。
本やテレビ、ネットで目にした恋い焦がれる年頃の娘に、自分がなるとは思いもしなかった。
『恋に理由はない』
きっかけは色々あれど、人が人を好きになる。
それに理由なんてない──それを身を持って体感した。
初春「……会いたいなぁ」ボソッ
佐天「……」
一秒たりとも離れたくない。ずっと寄り添っていたい。
頭に乗せた花飾りで花占いをしても、どうせ全部好きで埋め尽くされている。
もっと甘えたい、甘えてほしい。
もっと抱きしめたい、抱きしめられたい。
もっとキスしたい、キスされたい。
これが初めての経験、初めての想いだ。
あの時、自分は彼に好きだと告げた。
返事はもらってはいないが、どうだろうか。
初春「ずっと、好きです」
自分のこの気持ちは、本物だ。
誰にも譲らない、本当の気持ち。
佐天(初春かわぇぇ……ギュッとしたい! あとで上条さんもろともギュッとしちゃおっと。てへっ)
初春「……佐天さん、起きてますよね?」ギロ
佐天「ね、寝てるよー? あははー……」zzzット
恋する乙女は、敏感になるのだという。
一方。
ピンポーン──
一方通行「誰だ」ピッ
浜面『おう、一方通行か? 俺だ、浜面だ』
一方通行「お帰り願いますゥ」
麦野『ちょ、ちょっと待ってよ第一位』
絹旗『さすが第一位、コミュニケーションの取りづらさも第一位ですね』
滝壺『きぬはた、そうじゃない、コミュ障』
一方通行「」イラッ
浜面『おまえら少し黙れ……それでだな一方通行、話があるんだが』
一方通行「こっちにはないンだが?」
麦野『……第二位の事なんだけど』
一方通行「…………」
浜面『お前に相談したくてな』
一方通行「………………入れ」ピッ
打ち止め「ねえねえ、誰だったー? ってミサカはミサカは尋ねてみる」
一方通行「ネズミ男と愉快な仲間達」
浜面「おい誰がネズミ男だ!」ガチャ
麦野「そこの下っ端と同等に扱わないでくれる?」
絹旗「超不愉快です」
滝壺「わたしは全然OKだよ。はまづらがねずみなら、わたしはうさぎ」
打ち止め「わぁ、しずりん達だーっ! いらっしゃいってミサカはミサカはしずりんに飛び込んでみるっ!」ガバッ
麦野「もう、この子ったら」ナデナデ
絹旗「え……こんな麦野超見たことないです」
滝壺「おかあさんみたい」
麦野「」ピシ
浜面「」
絹旗「」
一方通行「テメェらはギャグかましに来たンじゃねェだろォが」
番外個体「ん? 騒がしいねってお客さん?」ガチャ
打ち止め「おかえりなさいってミサカはミサカは買い物袋を下げた番外個体に声をかけてみる」
まさに学園都市内、最強レベルの面々が揃って家主不在の黄泉川家へと会していた。
ごめん本当に長らく更新をしていなかった
何を言うにしても言い訳にしかなんないから
五月で終わらせる!とだけ言っておく!
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