少女「・・・私、もう助からないんでしょ?」男「・・・」(1000)

ピーポーピーポー
病院の外でパトカーがサイレンを鳴らしている。男は、看護師から奪った白衣を羽織り、適当な病室に入った。

男(ち!あの糞女社員、警察に通報しやがったな!)

男は、つい10分前まで覆面にサングラス姿で銀行強盗をしていた。しかし、気の強い女社員と、変なおばさんに殴られ蹴られ、泣く泣く銀行から逃げ出す羽目になった。おまけに執念深いその二人は銀行からしばらく追いかけて来た。男は人混みにまみれて、この病院に紛れ込んだ。

男(ついてねーなぁ。畜生。西部劇みたいに上手く行くって思ってたのによ)

少女「何ブツブツいってんの?」

男「う!うお!誰だおめー!」

狭い病室の窓際には、ベッドに少女が横たわっていた。

少女「誰って?知らないで入って来たわけ?」

男(まじーな。とりあえず、医者っぽくするか)

男「ははは。知ってるに決まってるだろ?ばーか。お前は病人で、俺は医者だぜ?」

少女「なーんか、うっさんくさいわねぇー?あ!あれ見せてよ。医者免許」

男「い、医者免許?」

男(な、なんだっけ?つか、あるわけねーだろ!)

少女「ほらほら!プリーズギブミー医者免許!」

男「あー、あれな?金なくてさ?質屋にいれちゃった。わりーわりー」

少女「ジトー」

男(う、うううう)

少女「怪しいやつ!」

男「あ、あ、あやしくないわ!」

ポロん

男のズボンから水鉄砲が転がり落ちた。

男「う、ううううう」

少女「じゅ、じゅう!」

男(ま、マズイぞ!ど、どどどどどうしょう!)

男「こ、これね?医者免許の代わり・・・し、信じる?」

少女「し、信じるわきゃねーだろ!」

少女「とにかく、ナース呼ぶから!あんた、部屋から出ちゃだめだから!」

そういうと、少女は、枕元のボタンを押した。

男(やべー!ナース呼ばれたらさすがにごまかせねー!しょーがねー!)

男「ち!あんまり手荒な事はしたくなかったんだが、しょーがねー」

男は、ベッドに横たわる少女に一歩一歩近づいていく。

少女「な、なにすんのよ!この童貞!」

男「ど、どどどどどどどどどどうていちゃうわ」

男は、少女を担ぎ上げた。

少女「キャーキャー!変態童貞痴漢早漏包茎ワキガー!」

男(ズキズキ)

男は罵倒し続ける少女を抱えたまま、窓を開け外に出た。

少女「キャーキャー!」

バキバキ

少女は、男の肩に背負われた状態で男の頭を叩き続けていた。

男「痛い!痛い!」

近くの公園まで来ると、少女を下ろした。

男(あー。ヤバイなあ。なーんで連れて来ちまったんだろ)

男は頭を抱えたまま、その場にしゃがみこんだ。

少女「ふん!警察に突きつけてやるから!」

男「す、すまない。勢いで連れ出しちまった」

少女「犯罪者!」

男「悪かったよ。病院戻っていいよ。」

少女は、しゃがみこんだ男を見下ろしながら右手を顎に当てた。

少女「病院に戻って、あんたにレイプされたって言っちゃおっかなー?」

男「な!レ、レ、イプなんてしてねーよ!馬鹿女!」

少女「はぁ?馬鹿女?決めた、警察にレイプされたって言う」

男「ご、ごめんなさい。それだけはやめて下さい。何でもします。」

少女「何でも?」

男「な、何でも!」

少女「じゃあ!私を誘拐しなさい!」

男「は、はぁ?」

爽やかに微笑む少女に、泥だらけの白衣を着た男は心底女運の悪い日だと神様を呪った。

男「ゆ、誘拐?」

男は立ち上がると、白衣の泥を払う。

少女「そう!誘拐!私を誘拐しなさい!」

男「な!なんだよそれ!俺に何のメリットがあんだっつうの!」

少女「あんたには拒否権なんてものはないの!私が誘拐しろっていったら素直に、はい分かりましたお嬢様っていえばいいの!それに、メリットならあるわ?私のパパは社長だから幾らでも身代金が奪えるわよ?お金に困ってるんでしょ?良かったわね?」

男「身代金・・・なるほど。そいつは良いかも。って!お前はそれでいいのかよ!お前も犯罪の片棒を担ぐ事になるんだぞ?」

少女「・・・いいのよ。最後くらい好きに生きてみたいの」

さっきまで元気にまくし立てていた少女は、急に儚げな表情で呟いた。

男「何だお前?誘拐されたかったのか?変な奴ー」

ドカ

少女は男の腹に蹴りをいれた。

少女「っさいわね!」

男「ぐぅ」

少女「外に出たかっただけよ」ボソ

少女「とりあえず、誘拐されるにも住む場所が必要よね。」

男「・・・」

少女「あんたって一人暮らし?」

男「まあ。って!無理だからな!泊めねーからな!」

少女「・・・へー?そういうこというの?」

少女は公園を外で自転車で巡回中のお巡りさんを指差した。

少女「いっちゃうぞ?」

男(ぐぅ。銀行強盗の件もあるし、ポリ公は、マズイんだよな)

男「あー、分かった!分かりましたよ。お嬢様のいう通りにします」

男の家
少女「へー?一軒家に一人で住んでるの?」

男「まあな。部屋は何処でも使っていい。ただし俺の部屋には絶対に入るなよ」

少女「うん!やった!」

男(この女の親から大金ふんだくってやる。)

隣家の叔母はんが、女の子を家にいれる男を見て微笑んでいた。

おばはん「あの子もやるわねぇ」ぐふふ

リビング
男「何か飲むか?」

少女「紅茶をいただこうかしら?」

男「そんなもんねーよ。コーラでいいな?」

少女「コーラ?まぁいいわ。氷は3個ね」

男「ちっ!なーにが氷は三個ね?だ!水道水で薄めてやるわ」ボソ

ジャボジャボ

少女「おら!」

ドガ

少女は男の背中に蹴りをいれた。

男「いたぁぁぁ!」

少女「そんなん飲めるか!」

男「わ、悪い」

主従関係と言うのは、一度築かれてしまうと容易には崩れない。悲しい事に男と少女の間には主従関係ができてしまったようだ。

男「ゴクゴク」

少女「ゴクゴク」

男(ううう。薄くてマズイ)

男「成り行きで誘拐しちまったけど、本当に良かったのか?」

食卓机を挟み、二人は向き合ってコーラを飲んでいた。

少女「ふふふ。今頃皆さん大慌てかしらね?愉快だわ」

男「君、綺麗な顔してんのに随分歪んだ性格してんのな」

少女「か、顔と性格は一致しないの!」

少女は瞬時に顔を赤くし、コーラを一気に飲み干した。

少女「げっ~ぷ」

男「下品だなぁ」

病院
ナース「少女ちゃん?夕食の時間よ?」

少女のベッドは、もぬけの殻だった。

ナース「な!せ、せんせい!し、少女ちゃんが!」

ナースは踵を返し、大慌てで担当の医者を呼びに行った。

冷たい病室は、カーテンが風で膨らんでいるだけだった。

男の家
リビング
男「つーか、君、何の病気なの?」

少女「気になるの?」

男「あー、言いたくないなら別にいい。あ、ケーキでも食うか?イチゴのショートケーキな?」

少女「え?うそ!たべるたべる!」

嬉しそうに瞳を輝かせて、両手のひらを胸の前で合わせる少女に、男の心拍数が上がった。

男(昔飼ってた、ジローに似てる気がする)

男は食卓机を離れ、キッチン脇の冷蔵庫からショートケーキを取り出した。

ピンポーン

その時、チャイムがなった。

ガチャ~ン

少女「ちょ、ちょっと!何してんのよ!あーあ。ショートケーキぐっちゃぐっちゃじゃない」

男(マズイマズイマズイマズイマズイ)

ピンポーン

再びチャイムが鳴らされる。

少女「ちょ、ちょっと!どうしたの?汗がすごいわよ?具合悪いの?」

男(銀行強盗がばれたのか?警察が俺の家を突き止めやがったのか?)

少女「誰か来たみたいね。出ないの?」

男「お、おい。ドアスコープから誰がいるか見て来い」

男の鬼気迫る表情に、少女は文句も言えず玄関に向かった。

男(まだ捕まる訳にはいかねーんだ!捕まるのはまだ先でいい!まだ、いまじゃねーんだよぉ!)

少女は、男の豹変ぶりから唯ならぬ気配を感じ取り恐る恐るドアスコープを覗き見た。

ドアの前には、二人の警官が立っている。一人は苛立ちながらしきりと腕時計を確認し、もう一人は電話をかけていた。

少女(警官!もうばれたのかしら?)

少女は急いで男の元に戻り、事態を説明した。

男「逃げるぞ。」

少女「え?」

男「いや、お前はいいや。警察に保護してもらえよ。俺は逃げる」

少女「え!ちょ、ちょっと!何慌ててんのよ!ふざけてましたって言えば少し怒られて終わりじゃないの?」

男「お前は、それで大丈夫だと思う。でも俺は逃げる。」

男は、二階の自分の部屋に向かった。

男(貴重品・・・は、ないな。鞄に最低限の衣類だけ詰めこもう)

少女「私も行く」

男「誘拐はもう辞めだ。それに、お前は病人だろ」

少女「良いのよ別に。いつ死んだって構わないんだから」

少女の言葉に、男は衣服を詰め込む手を止めた。

男「家族が悲しむだろ。馬鹿なこと言うな」

少女「ふん!どうかしらね?私なんていっそ死んだ方が清々するんじゃないかしら?」

男「・・・」

ピンポーン

再びチャイムがなり、男は鞄を手に立ち上がる。

男「お前の話を聞く限り、お前を誘拐したところで親父さんはビタ一文だしそうもないな。」

男は部屋から出て、一階に降りた。リビングの裏庭から外に出る計画だ。

ガラガラ

男(とりあえず、漫画喫茶に行くか。明日は町を離れて、遠い場所でまた銀行強盗をしよう。)

夜風をまとい、二人は暗い路地を歩き出した。

男「って!おめーなんでついて来てんだよ!」

少女「グス。わ、私のかってでしょ!グスン」

男(な、泣いてるー)

男「あ、あの」

男は、後ろを歩く少女を振り返った。

少女「ん」

男「嫌なこと言ってごめんなさい」

少女「ん。べつにー。グスン。気にしてないー。」

男(でも泣いてるー)

少女「あー。所であんたって言うの飽きちゃった。名前教えて」

男「男でいい。お前は?」

少女「少女でいいよ。」

男「わかった」

男(でも、名前で呼ぶの恥ずかしーなあ)

少女「男って医者じゃないんでしょ?」

男「ま、まあ。医者ではない」

少女「やっぱりね。医者って雰囲気ないもんねー。」

男(ハンザイシャだけどね。なんつって)

男「しょ、少女、ついて来てもいいけど、きっと後悔するぞ」

少女「後悔かぁ。今までの私の人生に後悔なんてものはなかったわ」

男「へえ?俺なんて後悔ばかりだ。羨ましいよ」

いつのまにか少女は男の隣を歩いている。

少女「後悔するような行動を、私は何もしなかったの。できなかったのよ」

男「・・・そうか」

少女「それに、後悔だって二人ですれば素敵でしょ?」

少女は男の正面に回り、微笑んだ。月明かりに照らされた少女の顔は幻想的な程に美しい。

男「そ、そそそうか?」

ピーポーピーポー

遠くでパトカーのサイレンが響く。男はキャバクラの看板の影に隠れた。

少女「?なにしてんの?」

男「・・・いや。」

パトカーのサイレンが聞こえなくなると、男は再び歩き出した。

男「金が必要なんだよ。どうしても」

少女「ふーん?遊ぶため?」

男「違う。どうしても会いたい人がいるんだ」

少女「会いたい人?あー、女の人だなぁ?」

男「・・・これで、最後の確認だ。本当に着いてくるんだな」

少女「うん。こんなに刺激的なことって今までなかったわ。もう、病院には戻りたくない」

男「・・・わかった。一緒に行こう。

そう言うと、男は少女に笑いかけた。

男「あ、あと俺、警察に追われてるから」

少女「え!な、なにしたのよ!」

男「あー。銀行強盗を2回かな。失敗したけどな」

少女「し、信じらんない!本当の犯罪者じゃない!」

男「てへ?」

少女「てへ?じゃないわぁ!」

翌朝
男(予定外の出費になったな。貯金ももうじき底をついちまう)

男はベッドから起き上がると、カバンから一枚の写真をとりだした。

男「・・・」

少女「綺麗な人」

男「ああ。・・・ってうわぁ!」

少女「おはよ」

男「お、おま!」

少女「鍵開いてたからはいっちゃった」

男(なんつーホテルじゃ!)

少女「それって、会いたいひとでしょ?彼女なの?」

男「・・・いや、幼馴染だよ。」

少女の言葉に男は寂しげな笑顔で答えた。

男と少女は、駅前のビジネスホテルに入った。

男「部屋は別にしといた」

少女「うん。私、ホテル入るの初めて」

男「え?修学旅行とか、いかなかったのか?」

少女「うん。私、ずっと病院にいたからさ」

男「そうか。・・・そういや、身体は大丈夫なのか?」

少女「うん。大丈夫」

男と少女は別々の部屋に入り、就寝した。

順番ミスじゃないよな?

少女(なんだろ。聞いちゃいけないような気がする。でも気になるな)

男「さてと、少女よ。チェックアウトだ。荷物はまとめたか?」

少女「荷物なんてないしー!」

男「あ、そうか。とりあえず、スーパーでも行って一通りのものを揃えるぞ。そんなスカートじゃ逃げきれねーだろ」

少女「え?服買ってくれるの?お金あるの?」

男「まあな。社会人時代の貯蓄が少しある。」

少女「ふーん?そう言えば男って、仕事してないの?」

男「まあな。辞めたよ」

少女「・・・なんとなくだけど、さっきの幼馴染のため?」

男「・・・まあ。そうだ。」

>>70
ミスです

少女(なーんだろ。さっきの幼馴染の写真見てる時の男の顔。みょーに寂しそうだったんだよな。)

二人はホテルを出ると、コンビニに入りATMでお金をおろした。

男「ん?なんだお前、眉間にシワなんかよせやがって。」

少女「ふーん!考え事してんの!邪魔しないでよね!」

男「なーにが考え事だよ。朝飯なに食べるかぐらいしか考えてねーくせしてよ」ボソボソ

基本的に男は小心者であり、悪口を面と向かって言えない。

ズガン!

少女は、男の背中に蹴りをいれた。

少女「聞こえてるっつの!・・・ま、とりあえず朝飯たべよ!!」

男「・・・は、はい」

デズーニ
店員「しゃっせー!あふたっりすかぁ!」

男「ああ、二人だ」

少女(こういう所も初めてだ。ププププへーんな店員)

店員「あたっこ!すわれやすかあ?」

男「タバコは吸わないよ。」

店員「ちら!どっぞー!」

男「ありがとう」

二人は禁煙席に案内され、向かい合って座った。

男「何が食べたい?このメニューで選べよ」

少女「うん!へー?カラフルだね?」

男「あ、おまえは食事制限とかそういうのあんの?」

少女「ううん?いいんだ、好きなもの食べたい!」

男「ははは!本当に病気なのかよ!」

少女「うん。病気なんだ」

男「あやしーもんだ」

少女「あ!私これ食べたい!」

少女はハンバーグセットを指差した

男「朝っぱらからゴツイの食うのな。俺は、パンとコーヒーでいいや」

少女「パクパク」

男「じー」

少女「パクパク。・・・な、なに?」

男「あ、い、いや。旨そうに食べるのな。」

少女「ふん!あんまり見ないでよ。食べにくいから!」

男「お、おう!」

少女「パクパク」

男「ちら」

少女「あ!いまちらって見たでしょ!」

男「み、みみみみてない!」

少女「ププププ!慌てすぎー!」

無邪気に笑う少女に、男は思わず見惚れてしまう。

男(な、なんかこいつといると気分が落ち着く)

コーヒーをゆっくりと喉に流し、ばれないように少女がハンバーグをガッツク様を盗み見る男であった。

ザワ

男(ん?)

男には、第六感とでも言うべき能力が備わっていた。

男(ここは、マズイな)

男「おい。もうでるぞ」

少女「ふぇ?ま、まだ残ってるのに?」

男「いいから!」

まだ座っている少女の腕を掴むと強引に立たせ、周囲の唖然とした視線を受けながら店をでた。

少女「ちょっと!なんなのよ!」

男「そこの路地に入るぞ」

言いながら、少女の腕をラーメン屋の脇の路地に入った。

少女「なによ!説明しなさい!」

男「顔だけ出して、デズーニを見てみろ」

少女は、膨れながら言われたままにデズーニの方をみた。

少女「あ!」

デズーニには昨日男の家の玄関に居た二人の警官が入った所だった。

少女「何でわかったの?あれって昨日の警官だよ!」

男「警官?ふー、危なかったぜ。昔っからこういう勘が働く方なんだ」

男(たまたまか?それとも張られてるのか?)

少女「ねえ、男って本当に銀行強盗したの?」

瞳を輝かせる少女に、男は狼狽した。

男「失敗したけどな。つーか、今日もする予定だ。」

少女「私もする!」

男「馬鹿!なにいってんだよ。ダメだよ」

少女「するったらするの!」

男「だめったらだめだ!」

少女「したいしたい!」

男「ダメだダメだ!」

いつまでたっても二人の論争は平行線を辿り、二人とも疲れ始めた。

男「ったく。銀行強盗なんて少女みたいなか弱い女がやるもんじゃねーの?指咥えてメリーゴーランドにでも座ってろ!」

少女「ふん!あんたがドジでマヌケだから二回も失敗したのよ。私ならそっこーで金庫を空にしてやるわ」

男「なにをー!」

少女「なによ!それに、男は私の言う事は無条件で聞かないといけないのよ?こーの誘拐犯!犯されたって警察にいっちゃおっかなー」

男「ぐ、ぐむむ」

童貞の男は、女の口から発する下ネタに弱い。少女はこれを理解し利用していた。

男「か、勝手にしろ!」

少女「うん!ね!どこの銀行を強盗すんの!」

男「声がでけーよ。まだ決めてない。昨日はこの街で強盗したから隣の街でしようと思ってる」

少女「ね!喫茶店で計画立てようよ!見取図とか書いて!」

テンションが高い少女に男は唖然とした。

男「お、おう。」

喫茶店
少女「で!私が銀行員に向かってこういうの!手を上げろ!」

男「へー」

少女「でね!動くな!抵抗すると撃つぞ!って言うの!」

男(あー。コーヒーうめー)

少女「でねでね。張り巡らせた赤外線センサーをね?体操選手みたいによけてお宝を奪うのよ!」

男「どーでもいいけどよ。俺らが奪うのは金だぜ?それに、実際やってみると台本通りなんて行かねーよ」

少女「ふ、ふん!何よ私の計画に文句でもあるの?」

男「ぷ!くくく!顔真っ赤だぜ?恥ずかしーのか?」

少女「・・・」

男「くくくく!あひひひ!うひょひょひょ!」

少女「こ、この!腐れ童貞!」

男「ど、どどどどどてちゃうわ!」

店員「あ、あの。こちらおさげしてよろしいでしょうか?」

少女・男「どうぞ!」

カランカラン
店員「ありがとうございました」

男「ふん!」

少女「ふん!ふん!」

男(こ、この野郎!一回多くふん!しやがったな!)

男「ふん!ふん!ふん!」

少女「前から思ってたけど、男って私より年上なのにガキっぽいよね」

男「な!なんだと!そんな訳あるか!」

少女「ふー。必死になる所がガキね。」

男「く!そんな事言うと、服かってやんないぞ?」

少女「えー!ずるいじゃんそれ!ずるいー!」

男「大人はずるいものさ。わかったか?俺はオ・ト・ナの男だ!」

少女「そ、そうだね!男って大人ー」

男「え?やっぱそう思うだろ?大人なんだよなぁー。参っちまうぜ。ヤレヤレ」

少女(中学生かよ。・・・でも、たまに、本当に大人に思える時があるんだよね。不思議な奴だ)

男「そこのスーパーでいいよな。服」

少女「え?う、うん!」

気のせいか、少女の頬がほんのり赤い。

少女「ね、ねえ!服って私が選んでいいの?」

男「は?もちろん。俺は女の服はわからないからな」

少女「本当に!本当に本当?」

少女は男の前に立つ。

男「あ、ああ。何だ?何を必死になってんだ?」

少女「やったぁ!私、自分の服を自分で選ぶのが夢だったの。ありがとう男」

珍しく素直に感謝する少女に、男は何故か胸の奥がざわついた。

男「い、いいから!さっさと入るぞ」

少女「うん!」

スーパー「バットマン」
少女「凄いね!人が一杯だ!」

キョロキョロと物珍しそうに辺りを見回す少女に男は苦笑した。

男「アン王女かよ。あんまりはしゃぐなよ?怪我するぞ」

少女「ガキ扱いしないで欲しいんですけど」

男「あーはいはい。さて、3階が婦人服だな。」

エスカレータ
男「どーだ?階段が自動で動くんだぞ?すげーだろぉ?」

少女「は?バカにし過ぎだし!こんなの病院にもあるの!」

婦人服売り場
男「あ、上は何でもいいから、下は取り敢えずジーンズな。逃げる時楽だから」

少女「う、うん!」

男「な、なんか、緊張してる?」

少女「べ、別に」

男(こいつメッチャ緊張してるー!)

店員「あらあら?お嬢さんお困りかしら?」

厚化粧の店員がスッと現れた。

少女「え、え?」

店員「ふふふ、可愛らしい貴方にはこの大人気キャラクター怒離ちゃんTシャツ何てどうかしら?似合うわよー?」

少女「え?あ、あの・・・」

店員「スカートもこのフリフリ今流行なのよ。似合うわー。」

少女「え、えっと・・・」

店員「あ、そうそう、このお財布なんて・・・」

男「あの、すみません。店員さん。こいつ自分の服は自分で選びたいらしいんですよ。」

店員「あら。そうなの?」

男「本当にすみません」

店員「いいのよー!ふふふ、お嬢さんいい彼氏持ったじゃない」

男「か・・・かれ」

少女「ち、違います!」

男「死」

ーー

少女は洋服を手にとっては試着し手に取っては試着する事をひたすら繰り返していた。

少女「ねえ。これ可愛い?似合う?」

男「あー可愛いし、似合うな。それで決まりだわ」

少女「うーん。でもちょっと派手過ぎかもなぁー」

男(俺に聞く必要ねーだろ・・・)

・・・2時間後

店員「ありがとうございました」

少女「・・・に、似合ってますか?」

店員「ふふふ。私よりも彼氏の反応をみた方が良くわかりますよ」

少女「彼氏じゃないんだけど」ボソ

少女(ど、どうしよう!私ったらジーンズどころかゆるふわ森ガールファッションにしちゃったYO)

男はエスカレーター脇のベンチで一人、爪を眺めていた。

男(この、三日月型の白いの何だろ。親指しかねーんだよな。)

少女「・・・お、おまたせ」

熱心に爪を見ている男は目の前の少女に気がつかない。

少女「え?なにみてんの?」

少女は前かがみの姿勢で男の爪を覗き込んだ。

男「うお!び、びっくりした!」

少女「おまたせしました」

男「・・・え?」

男は少女の変貌ぶりに思わず目を見張った。

少女「な、なによ!へ、変なら変って言えばいいでしょ!どうせ私なんて・・・」

男「いや、別に変て訳じゃ無くてそのぉ、可愛い」

少女「え?なに?今何て言ったの?もう一回聞かせて!」

男「あ!いや、つーか、なにフリフリのスカートはいてんだよ!ジーンズっていったろ!」

少女「可愛いって言ったでしょ?」

少女は挑むような視線で男を見る。

男「い、言ってない」

少女「言った!」

男「言ってない!」

少女「じゃあ、言ってよ。可愛いって言ってよ。お願い」

少女は真剣な表情をしていた。

男(何だよ。そんな顔されたら軽口もたたけないじゃないか)

少女「私ね。死ぬまでに聞きたい言葉があるんだ」

男「ん?」

少女「好きな人に、愛してるー!大好きだー!って思いっきり叫ばれたい!そうしたら死んでも後悔なんてしないよきっと」

男「そんな恥かしい言葉を言うやつなんていねーよ。お前はまだまだ死ねないよ」

少女「だから可愛いで妥協する!さぁ!言いなさい!」

男「90歳くらいになって、可愛らしいおばあちゃんですねと言われるのを待ってろアホ」

少女「なんだぁ!」

男「んだよ!」

ザワ

男(あ、ここヤバイな)

男「お、おい!逃げ・・・」

ババア「あ!あんた昨日の銀行強盗ね!」

何時の間にか、ベンチの横にババアが立っていた。

男「少女!走れ!逃げんぞ!」

男はベンチから立ち上がり、乱暴に少女の腕を掴む。

少女「痛いよ!なにすんの!」

男「ゆうてる場合か!って!そんな底が高い靴じゃはしれねーじゃねーか!アホか!」

少女「はあ?何それ!似合ってないって言うの?さいてー!」

男「んなことひとっことも言ってねーんだよ!」

ババア「おばさんを置いてずいぶんと楽しそうだわねえ。」

グワシ

ババアは男の右肩を掴んだ。

男「ぐ!な、何が望みなんだ?」

ババア「世界の秩序を守るのよ」

男(こいつ。ある意味警察よりたちわりーな)

男「ふん!」

男はババアの手を振りほどき、少女を肩に担ぎあげた

少女「ま、またこれ!」

男は階段に向かって走り出した。

ババア「まちなさい!みなさーん!あの男は銀行強盗です!世界の秩序を乱してます!」

男は階段を2段飛ばしで駆け下りる。

少女「ちょ!ちょっと!怖いんだけど!ねえ!聞いてる?」

少女は、男の右肩に布団の様にぶら下がっている。

男「話してる暇はない!」

踊り場におり、階段を見上げると数人の人間が階段を降りてくる。

警備員「まて!!」

ババア「まちなさい!」

踊り場の隅に、水の張ったバケツがある。男はそれを蹴飛ばした。

びちゃー

さらに、立てかけてある竹ぼうきと、ちりとり警備員に向かって投げ飛ばし、掃除用具入れ用のロッカーを蹴り倒した。

ズバーン

警備員「あ!このやろ!」

ババア「つかまえてぇぇー!」

男「誰が捕まるか!」

男は階段を一気に駆け下り、スーパーを出た。

少女「お、降ろして!私も走る!」

男「走れんのか?」

男は少女を地面に下ろす

少女は履いている靴を脱ぐと、袋からスニーカーを取り出した。

少女「念の為に買ったの」

ババア「ごらぁぁあ!」

男「よし!逃げんぞ!」

少女は、スカートをたくし上げ、走り出した。

男「ば、ばか!見えるぞ!」

少女「見る暇なんてあるの?」

男「俺じゃなくて!!」

少女「あはは!こうやって走るの夢だったんだぁ!お転婆娘って感じ?」

ババア「はぁ!はぁ!まてぇ!」

男「ちぃ!しつけぇーババアだ!」

男「おい!あそこの公園に入るぞ!」

少女「うん!」

男「公園に入ったら直ぐに草むらに隠れるぞ!」

少女「うん」

公園
男達は入り口脇の草むらに身を隠した。

ババア「どこいった!はぁはぁ!どこいったああああ!」

男達が隠れている草むらを通り過ぎ、ババアは公園に入って行った。

男「こっそり逃げんぞ」ボソ

少女「うん」

公園を後にし、男達は近くの喫茶店に入った。

男「はぁぁぁあ!疲れたぁ」

少女「私もうだめぇぇー」

二人とも、テーブルに突っ伏した。

少女「クスクス」

しばらくすると少女が笑い出す。

男「あはは」

釣られて男も笑い出した。

テーブルに突っ伏したまま2人は声を出して笑っている。

店員「あのぉ。コーヒー起きたいんですけど。」

男「あ!ごめんなさい!こら!少女!迷惑かけんな!」

少女「あんただって同じじゃん!」

男「なんだとこの野郎!」

少女「なによ!やるの?」

店員「はやく頭あげろや!後頭部にコーヒーのせんぞ!」

男・少女「すみませんでした」

身体を同時に起こす二人だった。

少女「ズズズ」

男「ズズッ」

コーヒーをすすりながら、男は口を開いた。

男「なあ、お前の病気ってなんなんだ?健康そうに見えるけど」

少女は口につけていたカップをテーブルに置いた。

少女「色々」

男「色々?」

少女「うん。生まれつき身体の免疫力が少ないんだ。」

男「免疫力・・・。だめだ!お前はやっぱり病院にもどれ!」


男「駄々こねるな!本当なら外に出る事だって制限があるんじゃないのか?」

少女「・・・うん」

男「今んところは、身体に不調はないんだな?」

少女「ない!もう絶好調だぜ?」

男「わかった。ここでたらタクシー拾う。お前を病院に送る」

少女「な、なんでよ!一緒に銀行強盗するんでしょ!」

男「ば、ばか!声でけーんだよ!」

>>141
ごめんなさい
誤爆

少女「ズズズ」

男「ズズッ」

コーヒーをすすりながら、男は口を開いた。

男「なあ、お前の病気ってなんなんだ?健康そうに見えるけど」

少女は口につけていたカップをテーブルに置いた。

少女「色々」

男「色々?」

少女「うん。生まれつき身体の免疫力が少ないんだ。」

男「免疫力?」

少女「うん。ウイルスに対する抵抗力がないの」

それを聞いた途端男の表情が険しくなる。

男「・・・お前はやっぱり病院にもどれ」

少女「やだ!病院なんて絶対に戻りたくないもん!」

男「駄々こねるな!本当なら外に出る事だって制限があるんじゃないのか?」

少女「・・・うん」

男「今んところは、身体に不調はないんだな?」

少女「ない!もう絶好調ってかんじ??」

男「ここでたらタクシー拾う。お前を病院に送る」

少女「な、なんでよ!一緒に銀行強盗するんでしょ!」

男「ば、ばか!声でけーんだよ!」

興奮したのか、少女は顔を紅潮させ、立ち上がった。

少女「男も同じなのね!私の病気を知った途端に、よそよそしくなるんだ!」

男「落ち着けよ!とりあえず座れ」

少女「すわんない!あー!水飲むんじゃなかった!あんたに向かってぶっかけてやりたいのに!」

男「俺は単純にお前の事を心配して・・・」

少女「男からは心配何てされたくない!」

男「何でだよ!心配するのが当然じゃねーか!」

口論する内に男も頭に血が登り始めていた。

少女「男に私の気持ちなんて、きっとわからないんだ!」

男「ああ!わからないね!ちっともわからない!」

少女「男なんて大っ嫌いだ!」

男「お、俺だってお前の事がき、嫌いだ」

少女「・・・え。」

少女の黒目がちな大きな瞳から、一筋の涙が流れた。

男「あ、え?な、なんで・・・」

店員「すみません。迷惑になるからででってください」

男「あ、うん」

泣きじゃくる少女を連れて、男は店をあとにした。

泣き続ける少女に男は戸惑いながら、店の前のベンチに二人して座った。

男「・・・な、泣くなんてずるいぞ」

少女「グス。あんたが泣かしたんじゃない」

男「心配しちゃだめかよ」

少女「・・・ママはね?とっても、優しい人だったの」

男は少女が何か大事な話をしようとしている事に気がつき、黙って聞く事にした。

少女「私が熱出すと一晩中看病してくれた。眠れない夜は、優しい歌を歌ってくれた。」

男「うん」

ふぅ、と少女ため息をつく。

少女「いつだって私の事を一番に考えてくれてたの。」

男「うん」

少女「でもね?・・・だからね」

少女の声が震えている。

少女「去年、過労で死んじゃった。私のせいで死んじゃった」

少女は、肩を震わせながら唇を噛み締め涙を堪えていた。

男「・・・なあ。もう店は出たんだ。好きに泣けばいいだろ。」

男は少女の頭に手を載せた。少女な唇を噛むのをやめ、通行人が振り向くのも気にせず大声で泣き出した。

少女が落ち着くまで、男は少女の頭に手を載せていた。

男「落ち着いたか」

少女「・・・う、ん。ありが、と」

男は立ち上がり、少女の前に来ると中腰になり顔を少女に近づけた。

少女「な、なに?」

男「お前の母さんが死んだのは、絶対お前のせいじゃない!!」

少女「・・・え。」

男「俺が保証する!」

そういって、男は胸を叩いた。少し強く叩き過ぎたのか、むせている。

少女「・・・ふ、ふふふ。男って優しいね」

男「・・・ふん。べ、別に優しくなんてないさ!な、泣かれると迷惑なだけだ!」

少女「・・・男にはさ。普通の女の子として相手して欲しかったんだ。」

男「・・・うん」

少女「変だよね。私なんてちっとも普通じゃないのにね」

淋しげに笑う少女に、男は胸が締め付けられた。

男「嫌いじゃないからな」ボソ

少女「え?何?何かいった?」

男「お前のこと、別にきらいじゃないからな」

少女「さっきは嫌いっていった!」

男「だ、だってあれはお前が、俺の事大嫌いっていうから!」

少女「だいっきらい」

少女は小さい舌を出した。

男「・・・あ、うん。どうせ、俺なんてダメやろうさ・・・」

少女「嘘だよー。大嫌いの反対」

男「え!そ、それって!」

少女「の反対の反対の反対のはんたーい!」

男「え?反対の反対・・・え?何回反対したの?」

少女「おしえなーい!」

からん

店員「あら、お邪魔かしら?」

男「あ、さっきは騒いでしまってすみませんでした」

店員「いいのよ。ほら、ココア持ってきたわ。これで気分を落ち着かせなさい」

店員は少女にココアを渡す。

少女「あ、ありがとうございます」

店員「ふふ。いいのよ。私こそ追い出してごめんなさいね?」

少女「い、いいえ。私こそさわいじゃって。」

店員「可愛い彼女じゃない。大事にしなさいよ。じゃ、また来てね」

男「はい。絶対きます。」

少女は膝の上にカップを載せ、両手で包みこみ、ブラウンの液体に視線を落としていた。

少女「私も男に聞きたい事があるの。」

男「ん?」

少女は顔をあげ、口を開いた。

少女「どうして銀行強盗してまでお金が必要なの?」

男「・・・女に貢いでんだ」

少女「え?」

男「金のかかる女なんだ」

微笑みながら男は応える。

少女「幼馴染さんの事?」

男「そうだ。」

少女「・・・好きなの?」

男はゆっくりと頷いた。

男「ああ。好きだ」

少女「・・・そう。」

少女はカップをゆっくりと口に運ぶ。暖かな液体がゆるやかに身体にしみていく。

少女「最低な人だねその、幼馴染さん」

男「え?」

少女「だって、自分に惚れてる相手に銀行強盗までさせて金を貢がせるなんて最低だよ」

男「あいつはなにも知らないよ」

少女「幼馴染さんは男の事をいい様に利用してるだけだよ」

男「あいつの悪口はやめろよ」

男は珍しく声を荒げた。

少女「なによ!私は男が騙されている事に気づいて欲しくて・・・」

男「騙されてなんていねーよ!」

少女「騙されてんじゃん!馬鹿みたい!」

男「・・・」

男は携帯を取り出し、電話し始めた。

男「はい。喫茶店の前でお願いします」

少女「・・・」

男「タクシーを呼んだ。お前はやっぱり病院に戻るべきだ」

少女「・・・」

男「・・・巻き込んで悪かったと思ってる」

少女「・・・」

男「・・・」

タクシーがくるまで、二人は何も話さなかった。

しばらくして、タクシーが喫茶店の前に着いた。

タクシー「またせたな」

男「・・・病院に帰ろう。俺も一緒にいくから」

少女「・・・わかった。」

男「・・・」

タクシーに乗り込み、行き先の病院を告げると再び二人の間には沈黙が訪れる。

男「・・・死んだんだよ。あいつは」

突然、男は窓の外を見ながら呟いた。

少女「え?」

男「交通事故でしんだ。」

少女「・・・あ」

男「あいつと、約束してたんだ。25歳の誕生日にベンツで花束抱えて迎えにいくって。・・・来週なんだよな。あいつの誕生日」

男「子供の頃の約束だ。俺は忘れてたんだ。」

男は深くため息をつく。

男「あいつの母親から受け取った日記読んで驚いたよ。今年に入ってから、ずっとその約束の事ばかり書かれてんだ。【男は覚えてるかな?】【本当にベンツで来るのかな?】【花は何の花だろ】【楽しみだな】。俺と会う時は少しもそんな事口に出さなかったのに・・・」

少女「・・・」

少女は、ただ男の話を聞いていた。タクシードライバーも気を利かせてかラジオの音量を下げた。

男「あいつは、まだ楽しみにしてんだ。最高級のベンツに薔薇の花束抱えて迎えにいってやらないと、あいつ浮かばれねーよ」

それだけ言うと、男は口を閉ざした。

少女は先にタクシーをおりた。男が財布から金を出していると、運転手が口を開いた。

運ちゃん「兄ちゃんよ。何だか二人の関係はわかんねえけどよ。遠い奴より、近くの奴を大切してやんなよな」

男「・・・」

無言で運賃を払い、男はタクシーを降りる。

男(あいつはまだ近くにいる。遠くになんていってねーよ。)

少女「・・・あの。ごめんね。私、無神経だったよね。幼馴染さんの事悪くいっちゃった」

男「いや。俺こそデカイ声出して悪かった謝るよ。ごめんな」

少女「・・・さよならだね。」

男「・・・よくなるんだろ?病気」

少女は悲しげな表情のまま、首を傾げる。

少女「どうかな?私はきっと一生この病院から逃げ出せないと思うよ。だからこの2日間は、私の人生の中で特別なキラキラした2日間。忘れないよ」

男「・・・いや。忘れてくれ。こんな2日間はお前の一生の中で唯一の汚点だよ」

少女「・・・何でそんな事いうのよ」

男「お前の人生はこれからもっと楽しい事があるんだからな。俺が保証する!」

ザワ

男(・・・ち。こんな時に)

男には第六感とも呼ぶべき感覚がある。自分の身に何らかの危険が迫っている時、言い知れぬ悪寒が身体を走るのだ。

少女「・・・楽しい時に、その場に男は居てくれるの?」

男「え?」

男(マズイ。警察か?あのババアか?)

その能力の精度はかなり信用が出来るが、どんな種類の危険なのか、何処から来るのか、何時来るのか分からないのが欠点であった。

少女「辛い時、楽しい時、男は一緒に居てくれる?」

男「俺は・・・」

男は、幼馴染の墓に薔薇の花束をプレゼントしたら、ベンツで海に飛び込んで死のうと考えていた。

少女「私、もう貴方と居ないと何も楽しめないし辛い事も我慢出来そうにないよ。」

ザワザワ

男(・・・や、ヤバイ。何処だ?何だ?)

男は、少女の腕を掴み病院のロビーに入り隅のベンツに腰掛けた。周囲を確認しても特別危険を感じるものはないも無い。

男「少女の未来に俺は多分居ない。居ない方がいいだろう。」

ザワザワザワザワ。身体中に悪寒が走り巡り、この悪寒自体に殺されるのではないかと思うほどであった。

少女「・・・だったらキスしてよ。ここでキスして」

男「・・・ふぇ?」

男「キス?キスってなあに?」

あまりの悪寒と、少女の言動に普段使わない脳みそを酷使した為か、男の脳みそはオーバーヒートしていた。

少女「思い出が欲しいの。」

そういうと、少女は軽く目を閉じた。長いまつげが、ピクピク動いている。

カツカツカツ

?「隣いいかな?」

二人が座るベンチにスーツ姿の男が腰掛けた。

男「!」

激しすぎる悪寒が、ピタリと止まる。悪寒が止まるという事は、危険が去ったもしくは、今まさに危険の中にいるという事である。

少女「・・・ねえ。まだ?」

?「ははは。女性を待たせてはいけないな。」

男「・・・何かようですか?」

?「用か。うん。簡単さ。君を逮捕する」

ガチャリ

スーツの男は懐から手錠を取り出すと男の手首にかけた。

男「っつ!」

患者「ちょっ、ちょっと、なに?」

ジジイ「おんやまあ。たまげたわい!」

少女「・・・お、おとこー!」

男(ち!)

警察官「おっと?抵抗はしないほうがいい。罪が増えるだけだ」

男は素早く立ち上がると、少女の後ろに回り、鎖を少女の首筋に回した。

男「この女がどうなってもいいのか!殺すぞ!」

少女「・・・!」

警察官「茶番はよすんだ。君達が仲間だということくらい調査済みだよ」

男「仲間?馬鹿いってんなよ、ポリ公。こいつは身代金目的で誘拐しただけだ。」

少女「!」

男「この馬鹿女が勘違いしてるかもしれねーけどな。おい!立て!」

男は少女を立たせると、周囲に目を配りながら歩き出した。

ナース「しょ!少女ちゃん!少女ちゃんなの!」

男「うるせえ!ぶっ殺すぞ!」

男の行動、言動にロビーにいる人間は騒ぎ始め、パニックにおちいっている。

警察官「み、皆さん落ち着いて!」

警察官はパニック状態のロビーをおさめることに苦戦している。

少女「今のうちに逃げよ!」

男は少女の首にかけていた鎖を外す。

男「・・・さよならだ。」

少女「え?」

男は背を向けると一気にかけ出した。

警察官「あちゃー・・・しまったねえ。単独で動くんじゃなかったよ」

警察官は少女の隣に立つと、逃げ去る男の背中を眺めていた。

少女「・・・随分と悠長なんですね」

警察官「んー。そうでもないかな。・・・所で怪我はないかい?」

少女「・・・はい。」

警察官「きっと捕まえるから安心しなさい」

タッタッタ

ナース「少女ちゃん!大丈夫!」

少女「ナースさん。ご心配おかけしました」

深々と少女は頭を下げる。

ナース「ううん。元気そうで良かったわ。・・・あの男に変な事されなかった?」

少女「うん。平気だよ」

ナース「怖い奴だったよね。あんなに悪い奴みたことないわ、あたし」

少女「・・・男はそんなに悪い人じゃないよ」

警察官「・・・少女ちゃん。君は彼に騙されているんだ。彼は銀行強盗を犯した。悪い奴だよ。」

警察官は言い聞かせるように少女の眼を見ながら話す。

ナース「うんうん。お父さんも心配してたから、後で連絡してあげなさいね」

少女「・・・うん」

胸の中心がズキズキと痛み、自然と胸に手を当てる。

少女(・・・胸が苦しいな。私の身体、またよわくなっちゃったよ。男のせいだよ)

男(これでいい。これ以上、少女を巻き込みたくは無い。)

男はただひたすら走った。やみくもに、がむしゃらに走った。

男「はぁ!はぁ!」

疲れたので路駐しているジャガーのボンネットに腰掛け、背中のリュックを下ろし、中から一枚の写真を取り出す。

男「・・・幼馴染、俺は馬鹿だよな。・・・でも、絶対に約束は守るよ。」

しばらく男はボンネットに腰掛け、写真を見つめていた。

男(・・・このマスコット、邪魔だなぁ)

ジャガーの持ち主が、コンビニから出てきた。しかし、男はその事に気がつかない。例の第六感が働かなかったのだ。

車の持ち主(・・・な!ジャガーのマスコットを股間で挟んでいる・・・だと?)

男の第六感は、身に危険が迫った時にしか反応しない。

車の持ち主は、男にとって危険に値しない人間であった。

男(・・・やるか)

幼馴染の写真を大切そうにリュックにしまい、男はジャガーのボンネットを下りた。

男(・・・駅から離れた銀行にする)

男は眼を閉じ、呼吸を整える。吸って吐いて吸って吐くを繰り返す。

男(・・・今度は本気だ。本気で銀行強盗をする。・・・人を傷つける事になっても、金を奪う)

見る人がみればこの時、男の見に纏うオーラが変化した事に気付いた事だろう。

男の思考から保身や、罪悪感は消え去り、【銀行から金を奪う】と言う行動と結果のみで埋め尽くされていた。

一歩一歩確実に足で地面を蹴り、ゆっくりと堂々と歩道を男は歩いた。視線の先には既に強盗先である銀行が見えている。

男(・・・真ん中のカウンターで強盗する。真ん中のカウンターで強盗する)

銀行
昼過ぎの銀行は込み入っており、ソファーに多くの人間が腰掛けている。若い母親は、小さな子供に絵本を読み聞かせていた。平和で、気の抜けた空間。

男は自動ドアをくぐると、何の迷いもなく正面のカウンターに向かう。中年の男が、カウンター越しに女性社員と取引をしていた。

中年「ええやん。ホテルいこうや」

女性社員「・・・お客様、このカウンターではそのような取引はしておりません。」

中年「なんや!やけに事務的やないか!なめとんのか!」

女性社員「・・・お困りの際は、そちらのサービスカウンターへどうぞ」

中年「なんやぁー!!」

男はまだ取引を続けようとする中年の尻を蹴り上げた。

中年「ひゃ、ひゃいん!」

なぁ、手錠はどーしたん?

>>249
あー手錠な・・・走ってるうちに取れた

中年「な、なにすんねん!こんがきゃぁ!」

中年男は右手を振り上げると、勢いを付け、男の鼻先に向け殴りかかる。

ジャラ

男は、下ろしていた両手を上げ鎖を顔面の前に突き出した。

中年「な!」

バキン

中年「はんぎゃぁぁぁぁ!」

右手の拳で思い切り鉄の鎖を殴った中年は、その場にしゃがみ込み、血だらけの拳を左手で抑える。

女性客「ちょっとなに?」

子供「おじさんがないてるー」

女性社員「・・・手錠」

男はそのままカウンターに進み、女性社員の眼を見ながら口を開いた。

男「金をだせ。」

女性社員「今日って訓練の日だった?」ボソ

地震の予行練習、人命救助訓練、日本人ほど危険に対する準備を万全に行う人種はいない。

しかし、その中の何人が地震をリアルに想像しているのか、人の命を助ける事を本気で考えているのか。

訓練は確かに有効であるが、想像力の欠如した人間には、マニュアル化した訓練では、むしろ本番での臨機応変な対応を取れなくするだけなのかもしれない。

男「なあ、あそこで転がっているおっさんの右手を見てみろよ。肉が裂けてズタズタだな」

女性社員は、まだ呻いている中年の右手を確認し、顔を青ざめる。

男「この手錠であんたの顔面を殴ったらどうなるか。馬鹿なあんたでも分かるだろ?」


女性社員「ひ、ひぃぃ」

女性社員の悲鳴に、銀行中の視線が一斉に男に向いた。

男(ここだな)

男「俺は銀行強盗だ!金庫からありったけの金を出せ!!早くしろ!」

男の大声に、ソファーでくつろいでいる客は飛び起き銀行から逃げ出し、パソコンを叩いている社員は何故か机の下に隠れ、それをみた他の社員も同じ様に机の下に隠れ必死に机の脚を掴んで震えている。

男(滑稽だな)

男は何も心配していなかった。

彼の第六感は、男に危険が迫っている時に、発動する。

逆を言えば、第六感が発動していない時は、絶対に安全、という事になる。

男はカウンターを乗り越え、女性社員の隣にたつ。

男「お前が金を持ってこい!早くしろ!」

女性社員は、駆け出すと部屋の奥にむかった。

男性社員「あ、あんた。こんな事してどうなるか分かってるのか!」

男性社員が机の下から顔を出し、震えながら声を出す。

ツカツカ

男は無言で男性社員が隠れている机まで歩き出す。

ドガン

不意に男は机を蹴飛ばした

男性社員「ひぃん」

男「へたれ野郎。てめえの脳天にこの鎖ぶち込まれてーか!」

ガン

言うなり男は両手を振り上げ、机に叩きつけた。

男性社員「ひ、ひいいい」

一日一更新とかバカな

(・ω・`)

(`・ω・´)

(=´∀`)人(´∀`=)

ほ*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*

金庫
女性社員(・・・お金を出さなくちゃ殺される!)

彼女は今までの人生で、自分に明確な悪意を向けられると言う経験がなかった。

ましてや、殺意を向けられるなど考えた事すらない。

それゆえ、警察に連絡するという当たり前の思考にすら辿りつかない。

ただ男に言われた「ありったけの金」を金庫から取り出す事だけに思考を奪われていた。

女性社員は、布袋にありったけの札束を詰め込む。数枚盗んでもばれないとか、これだけあれば何回海外旅行に行けるとか余計な事を考える思考的余裕もなく、血走った目で、札束をひたすら詰め込んでいた。

男(うまくいきそうだ。)

人を恐怖で制圧する際、気をつけるべきは一切の隙を見せない圧倒的な存在感。恐怖そのものの具現。

中年が絡んできた事は男にとって予期せぬ幸運であった。自ら暴力を振るわずに、暴力の恐怖を周囲に知らしめる事ができた。恐怖とな分かりやすければ分かりやすいほど効果的である。中年の血だらけの拳は暴力の分かりやすい具現に他ならない。

泣き続ける子供。
小便を漏らす男性社員。
泣く子供をヒステリー気味に叱る母親。

老人「これ、お若いの。」

張り詰めた空気をぶち壊す呑気な声が銀行に響いた。

男は無言で声のする方に顔を向ける。

老人「あんた、こんな事で棒に振るのかい?長い人生を」

男は無言のまま、老人に向かって歩き出す。

サラリーマン「や、やめろ!」

サラリーマンが、老人に近づいて行く男の肩を掴んだ。

女性「や、やってやれ!」

サラリーマンの勇気ある行動に、にわかに銀行内が活気づいた。

ガン

男はサラリーマンの頬骨を手錠で殴る。

サラリーマン「が、あああ」

肉が裂け、腫れた頬を抑えサラリーマンをその場に倒れた。

女性「あ、ああ」

男は尚も老人に歩を進める。

老人「あんた、悲しい目をしとる。なにがあった?ワシに話してみんかね。」

男は老人の目の前に立つ。

男「・・・あんたの人生何か意味あったか?」

老人「・・・ふむ?」

男「俺は見つけた。俺の人生の意味をな。そのためには・・・」

ドガ

男は老人の腹に向かって膝を突き出した。

老人「ぐ、ぐむ」

老人は胃液を吐き出しながら、その場に崩れるように倒れた。

男「悪にだってなる」

ドン

男の隣に女子社員が、金の詰まった布袋を置いた。

女子社員「5000万円以上・・・はいってます」

男「・・・」

男は布袋の口を開け、中身を確かめると背負い、自動ドアに向かう。

?「・・・ま、まて!」

一人の少年が、立ち上がり男に向かって声を張り上げた。

男はその勇気に免じて振り返る。

少年「残念だったなぁ。強盗さんよ。」

声変わりしていない甲高い声を精一杯張り上げる。

少年「う、うまくいくと思っているようだが、この俺がこの場にいた事が貴様にとっての運の尽きだったようだなぁぁぁぁぁ」

少年は男に向かって走り出す

老人「よ、よすんじゃぁぁぁぁ」

少年「う、うぉぉぉぉ」

少年は男の前まで走り、勢いを殺さずに右腕を振りかぶり男に向かって殴りかかった。

バスん

男は冷静に布袋を盾にし、少年の渾身のパンチを防いだ。

少年「な、んだと・・・我がダークネスデスパンチをいとも簡単に・・・?」

男(少女と同じ年くらいか・・・都合がいいかもな)

少年「くっ!もはやここまで・・・か!俺も焼きが回っちまったようだなぁ。昔の俺なら・・・ブツブツ」

男「おい!ガキ!お前も来い!」

少年「な!ふざけるな!悪に手を貸すなど!死んでもことわる!」

男「じゃあ死ぬか?」

男は無表情のまま、しゃがみ込む少年に近づき、髪の毛を掴み目を覗き込む。

少年「あ・・・ああ」

少年の勇ましかった顔はみるみる蒼ざめていく。

男「俺はこの布袋と、このクソ生意気なガキを誘拐する!」

男「こい!」

男は少年の腕を掴み、無理やりたたせる。

老人「この外道めがぁ」

男は少年を引きずる様にして銀行を後にした。

パーパー

「アブねーカス!」

ブー

「死にてーのか!」

布袋を背負った男は少年の腕を掴み、車道に躍り出た。

男「・・・ついて来い」

少年(くぅ。せめて今日が満月だったならば、右目からビームがでたのになぁ!)

テクテク

少年「おい!勘違いするなよ?銀行強盗よ!俺がお前に誘拐されている様にお前は思っているようだがなぁ!俺はお前が誘拐している姫を助ける為にわざと捕まったふりをだなぁ・・・」

キキーッ

話に夢中になる少年にトラックが突っ込む

ガバ

男「!」

男は少年を抱きかかえ、間一髪避けた

男「ば、ばか野郎!」

少年「・・・ふ、ふん!れ、礼はいわない。・・・というより、言えないんだ。・・・祖父の遺言でな・・・」

男(こ、こいつは何を言っているんだ・・・)

車をすり抜け、二人はビルとビルの間の路地に入った。

男「ふぅ。」

男(手に、入った・・・大金が・・・!)

恐怖、緊張、安堵、罪悪感、達成感・・・

ありとあらゆる感情が唐突に男を襲う

膝がガタガタ音をたてて震え、男は立っていられずに、その場にしゃがみこんだ。

男(俺は・・・)

男「お、おれはぁー!」

男の突然の叫びに、少年は飛び跳ねる

少年「あ、あんた薬でも決めてんのか?・・・あれはやめときな・・・俺も昔痛い目にあったからな・・・」

男「違う!俺は、興奮しているんだ!」

少年「く、くくく。今更になってビビったのか?」

そういうと、少年は布袋を掴んだ。

少年「今なら、こいつを奪う事もできそうだな。くくく」

男「そいつに触るな!ぶっ殺すぞ!」

少年「あ、あああ」

男の思わぬ大声に、少年は腰が抜け、その場に崩れ落ちた。

男「・・・お前、逃げないのか?」

男はま膝に力が入らず、まだ立てずにいる。

少年「ふん!当然だ。貴様のアジトに侵入し、囚われの姫を救出するのだ」

少年も、腰が抜けて立てずにいた。

男(・・・変な奴だな)

男「・・・誘拐したわけではないが、囚われの姫なら知り合いにいる」

少年「・・・な、んだと?」

男「・・・お前に、姫を、少女を助けて欲しい。」

男は、少年に向かって頭を下げた。

少年「囚われの姫とかいつの時代だ。笑わせるでない!」

男(話を合わせてやってるっつーのに!)

男「彼女は、病弱なんだ。いまのままでは長くは生きられない。」

そういうと、男は布袋に視線を送る。

男「俺は3000万あればいい。残りは彼女の治療費に当てたいと思ってる。彼女に金を渡してくれないか」

少年「銀行強盗である、貴様が直接渡せばいいだろう」

男「強盗して奪ったような、薄汚れた金、彼女は受け取りたくはないだろう。だから、この金はお前の金って事にしてくれ!お前が大金持ちのボンボンって事にしてくれ!頼む!この通りだ!」

男は額を地面に擦り付けた。

少年「嫌だ。・・・と言えばお前はどうする?」

少年は、不敵な笑みを浮かべる。

男「お前をぶん殴る」

少年「わ、分かった。わたせばいいんだろ。」

時は進む
病院
少女(・・・)

男に連れまわされてから一週間が経過した。刺激に満ちた二日間の出来事を彼女は何度も頭の中で反芻していた。

少女(本当に突然現れて、真っ白な世界から無理やり引き剥がされて、痛いくらいにカラフルな世界を駆け抜けた)

忘れられるはずもない。

胸の奥底に深く彫り込まれてしまった。

少女(また、私を連れ出してくれないかな?)

ベッドに横たわりながら、顔をドアに向ける。

少女(ほら!開くわ!あの馬鹿は突然現れるんだから!)

そうやって彼女は一日に何度もドアに期待を込めた視線を送るのだった。

罪深い男はもう二度と現れない事も知らずに・・・

冷たい空間は永久に閉ざされる事も知らずに・・・

時は戻る
男は布袋からキッチリ3千万円分の札束を抜き出し、背中のリュックに詰め込んだ。

男「・・・俺はこれから、ある女に会いにいく」

少年「ナオン・・・か」

意味ありげに少年は口角を持ち上げ小指を立てた。

男「・・・と、とにかく頼む。○罰病院の少女をその金で救って欲しいんだ。」

少年「く、くく。良いだろう。その願い聞いてやる・・・ただし」

少年は立ち上がり、手を星空に伸ばした。

少年「世界の半分を俺にくれ」

男「分かった」

少年「・・・な、んだと?」

男「あとであげるよ。」

少年「ありが・・・とう」

少年は男に深く頭を下げるのだった。

>>476
世界の半分でいいって何かのセリフで聞いたことある気がするんだが…思い出せなくてもどかしい…w

>>479
初出はドラゴンクエスト1じゃないかな?

竜王「おまえに世界の半分をやろう」

竜王「ただし、夜(闇)の世界だけなwwwwwww」

まさに外道!!

少年は渡された2千万を持ち
少女がいる病院へと、、
向かわずに

少年「へへっ、ふへへっ
これだけの大金なかなか手に出来るもんじゃね~」

少年は札束を見つめて
薄ら笑いを噛み殺して

少年「この金を2、3倍にしてから
少女に2千万を渡す
じゃなきゃ俺の取り分がないからな」

そう言って小走りにスキップしながら
少年が向かった先は、、、

少年「へへっ、着いた着いた」
少年は店に入った

店員「いらっしゃいませ~」
店の中は明るく、めちゃくちゃうるさかった

少年「まずどの台に座ろうかな~」
適当な台に座ると
すぐさま万札を一枚とりだし
台の横の機械に投入した

男「・・・お前を開放する。」

少年「・・・かいほう。・・・かいほう?」

突然の言葉に、少年の少ない語彙は反応出来ず首を傾げた。

男「・・・その布袋の中の金は、お前にやる。少女を助けてもまだ、余るだろう。・・・返してもいい。お前が使ってもいい。」

男は立ち上がり、少年と同じ様に夜空に向かって手を伸ばした。

男「・・・俺は、会社をやめた時点でもう現実社会に戻るつもりはなかった。」

少年「あんたに、どんな背景があるのかは、知らないけど。銀行にいた人達を傷付けたのは許されない事だ」

お調子ものだった少年が口にするとは到底思えない言葉に男は目を丸くした。

少年「俺は、まだガキであんたをここで捕まえる事は出来ない」

そういうと、少年は男を睨みつける。

少年「将来、俺は警察官になって、絶対にあんたを捕まえてやる」

男(何て意思が強く、綺麗な目をしてるんだ。)

少年の瞳に、男はしばし見惚れた。

男「楽しみにしておく。・・・一つ、未来の警察官に忠告しておこう。」

男は少年の頭に手を置いた。

男「明確な目的と決死の覚悟を持つ犯罪者にとって、防犯なんてものは通用しない。もし、今後そういう奴に出会ったら迷わず殺せ。そいつは逮捕など、まるで恐れない」

少年は手を振り払い、右手を拳銃にして男に向けた。

少年「・・・くくく。警察ってのは犯罪者に社会的な制裁を加える機関だ。犯罪後に死のうとしている様な社会からハグレた人間には、警察なんて無力なのかもな。・・・だったら俺も警察のハグレになって、そういう奴を殺していくよ」

二人はしばらく、無言で対峙していた。

男「・・・じゃあな。未来の警察官。」

男は路地を大通りとは反対側に歩き出した。

少年「・・・あいつ、死ぬつもりだな」

男の後姿が見えなくなった頃、少年は右手の拳銃を下ろし、布袋を肩に背負った。

少年「・・・さて、あの男のいう事を真に受ける訳ではないが、○罰病院とやらに行くとするか」

少年は男とは正反対に、路地裏を大通りに向かって歩き出した。

少年「・・・タクシーでも、召喚するか」

重い布袋を引きずり、大通りにでると、少年は指笛を鳴らした。

ピィー

少年の目の前をタクシーが通り過ぎる。

少年「・・・くくく。おかしいな。少し音が高すぎたか?・・・もう一度」

ピィー

またしても、タクシーが通り過ぎて行く。

少年「・・・え?なんで?」

戸惑いながら何度も指笛を鳴らす少年に女が近づいた。

女性「指笛鳴らして飛脚でも呼ぶのかな?」

少年「・・・タクシーを召喚している。邪魔は、させん」

少年は顔を真っ赤にして、必死で指笛を鳴らし続けた。

女性「手伝ってあげよっか?」

少年「・・・女の手伝いなど、いらない。」

女性「生意気なやつ。」

女は手を上げ、一台のタクシーを呼び止めた。

少年「・・・くくく。ようやくか。・・・選ばれしタクシー、とでもいう所か」

女性「私が呼んだんですぅ。」

女は、少年を押しのけ、タクシーに乗り込んだ。

少年「き、きさま!何をするかぁ!」

女性「君はそこで、永遠に指加えてればいいのよ。運転手さん、出して」

運転手「え、いいのかい?弟さんではないのかい?」

女性「あー、違う違う。あの子は弟じゃないから」

少年「・・・どっこいせ」

少年は女性を奥に押し込み、タクシーに乗り込んだ。

女性「ちょ!なにすんのよ!」

少年「運転を司るものよ。出すがいい」

運転手「・・・その名で呼ばれたのは、久しぶ、いや初めてだよ。どこにいくんだい?」

女性「旭台のバス停近くのLAWSON」

少年「そうだな。○罰病院近くのビジネスホテルにつけてくれるか」

運転手「どっちだよ」

女性「君さぁ、私が先に入ったんだから出てきなさいよね。」

少年「・・・く、これだから女は・・・運転を司るものよ。これを受け取れ」

少年は、布袋から100万円ほど抜き取り、渡した。

運転手「お、おほぉ!・・・よかろう。連れて行く。地の果てまでもな・・・」

少年「・・・○罰病院近くのビジネスホテルだからな」

女性「ちょ、ちょ!まてやー。」

女性の悲痛な声を余所に、タクシーはテールライトの列に向かって走り出した。

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