姫「疲れた、おんぶして」勇者「はいはい」(815)



勇者「乗り心地はどうですかぁ?」

姫「最悪ね、速く静かに歩いてよ」

勇者「はいはい」





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姫「勇者、お腹すいた」

勇者「パンを持って来ようか」

姫「作ってよ」

勇者「半日はかかるけど」

姫「待ってるから速く作ってよ」




勇者「出来はどう?」

姫「中はふんわりしてて外はさっくり、良いブレッドね」

勇者「味は」

姫「最悪ね、苺ジャムと合いそうかな」

勇者「はいはい」ごとっ


おやすみなさい



姫「おはよう」

勇者「おはよう」

姫「口が嫌な感じ、歯磨きしたい」

勇者「洗面所あるだろ」

姫「抱っこ」

勇者「はいはい」がしっ




姫「寝間着やだ、替えてよ」

勇者「メイド達呼んで来るよ」

姫「今日はドレスは着ないの、察してよ」

勇者「?」

姫「勇者の服と同じデザインのコスチューム作らせたの」ばさっ

勇者「おー、ちっちゃい」




勇者「何で俺が手伝うんだ」

姫「面倒くさいからよ、早くして」

勇者「……これどう外すの」ぶちっ

姫「……最悪ね、今日は部屋から出ないで過ごすから」

勇者「下着くらい他にあるんじゃ?」

姫「今日はあれを着けてアンタと遊びたかったのよ、ばか」




姫「フルハウス」

勇者「ツーペア、負けたなー」

姫「勇者は弱いのねいつも」

勇者「勝ったら怒るだろ」

姫「当たり前でしょばか、はい私が勝ったからまたマッサージしてよ」

勇者「はいはい」もみもみ




勇者「今日は雨か……」

姫「外の散歩はムリね」

勇者「またトランプする?」

姫「じいやも混ぜたいからそこまで連れてって」

勇者「はいはい」がしっ

姫「お姫様抱っこは恥ずかしいからやめてよ」

勇者「はいはい」無視




大臣「おやおや姫様、何かご用か」

姫「トランプでもしようかと思ったの、じいやもやろー」

大臣「姫様、もう少し上品に振る舞って下され……」

姫「なんでよ」

大臣「今宵は遠路はるばる伯爵様も見えておりますのじゃ」

姫「最悪、追い返してよ勇者」

勇者「さすがにマズいだろこのドアホ!」




伯爵「おや、噂に聞くラダトームの姫様は実に美しいな」

姫「……」

大臣「姫様、この方がメルキドを治める辺境伯、伯爵様でございます」ぺこ

姫「……勇者」

勇者「はいはい」がしっ

伯爵「どうされたかな」

勇者「調子が悪いだけです」スタスタ




姫「なんか眠い」

勇者「部屋に戻るか」

姫「戻らない、おんぶしてよ勇者」

勇者「はいはい」

姫「このまま城の中歩いてて」

勇者「はいはい」てくてく




勇者「……」そー

姫「zZZ」すやすや

勇者(まさか背中に乗ったまま寝るとは)

姫「スヤァ」

勇者(じゃあまた後で来るか)

姫「んっ」ぎゅ

勇者「……はいはい」ベッド横のイスに座る




勇者「お呼びですか王様」

王様「勇者よ、姫がまた勝手に伯爵殿に挨拶せず帰ったらしいな」

勇者「はい」

王様「教育係は古来よりそなたの一族が担って来たのだぞ、どうなっている」

勇者「はい」

王様「今度の満月の夜我が城で舞踏会を開く、その日までに改めさせよ」

勇者「はい」




姫「疲れた、おんぶして」

勇者「もう少し歩いてみないか」

姫「なんでよ」

勇者「今度舞踏会らしい」

姫「何それ、私嫌よ」

勇者「そうか」がしっ

姫「いたっ、急におんぶするから顎ぶつけたじゃないばかっ」




姫「勇者、バラ園連れてってよ」

勇者「咲いてないぞ」

姫「咲いてるわよ」

勇者「はいはい」

姫「本当なんだから! 行きなさいよ!」

勇者「はいはい、髪を引っ張るな」




姫「ほらね、たんぽぽ」

勇者「あー、撒いたのか?」

姫「この間ふーふーして撒いたのよ」

勇者「水は雨だけか、逞しく育ったな」

姫「アンタとは大違いね」

勇者「はいはい」なでなで




姫「今日なんか暑いわね、扇いでよ」

勇者「それ脱いだらどうかな」

姫「勇者と同じ服なのになんでアンタは涼しそうなのよ」

勇者「交換してみる?」

姫「ばかじゃないの、サイズが合わないでしょ」

勇者「はいはい、合えばいいんだなー」

姫「……ばか」




勇者「かき氷を作ってみた」

姫「雪みたいなデザートね……美味しそう」

勇者「あ、こっちのシロップかけると良いと思う」

姫「キャラメルお願い」

勇者「あるわけないだろ」

姫「そうなの? ……じゃあなんでもいい」

勇者「冗談、用意してあるから泣くなよ」ごとっ

姫「泣いてない!」




姫「頭がキーンとする……なにこれ」

勇者「一度に沢山食べるからだな」

姫「欲張りにかかる呪いってわけね、最悪」

勇者「姫は欲張りじゃないよ」

姫「……褒められても頭のキーンは取れないわよ、最悪」

勇者「はいはい褒めてない」




メイド「キャー! スライムが台所に……!」

姫「大丈夫? 私がついてるわっ」


勇者「こらこら、女の子脅かしちゃダメだろ」

スラ「ぴっぴきぴー!」

勇者「だめ、姫は怖がりだから」

姫「余計なこと言ってないで追い出してよ!」

勇者「はいはい」がしっ

スラ「ぴー……」




兵士「申し訳ありません! まさかスライムに侵入を許すとは……」

姫「この陽気じゃ居眠りしても仕方ないわよね」

勇者「でも心配になるな」

兵士「申し訳ありません姫様!! どうか王様には黙っていて下さい!」がしっ

姫「わっ……!」


勇者「触るな、次触れたら首がないと思え」

兵士「っ……はぃ」びくっ




姫「あんなに怒る必要あったの?」

勇者「一応」

姫「そう、ところで勇者……」

勇者「はいはい」がしっ

姫「ん、楽ちん楽ちん」




伯爵「おー、奇遇ですなラダトーム姫様」

姫「……」

伯爵「はっはっは、そう緊張なさらずとも大丈夫ですよ」

勇者「伯爵様、本日はどういった要件でここに?」

伯爵「なに、ちょっと王様とティータイムを楽しんでいただけですよ」




伯爵「所で、何故に姫様は君の背中に?」

勇者「先程城内に魔物が侵入した際に、足を挫いたらしく」

姫「ちょっと……?」

勇者「そうですよね」

姫「……えぇ、そうね、早く医務室に連れてって」

勇者「はいはい、ではこれで」スタスタ

伯爵「ええ、お大事に」




姫「さっきの何よ」

勇者「なんとなく」

姫「嘘なんか吐いて、ばかじゃない?」

勇者「ごめん」

姫「最悪ね、当分は毎日移動はアンタにお願いするしかないし」

勇者「……はいはい」なでなで

姫「なに撫でてんのよ」




姫「勇者、痛い」

勇者「またか、どこだ?」

姫「言う必要ないでしょ、ホイミかけてよ」

勇者「? はいはい」ポォ

姫(……胸が成長する度に痛いなぁ)




姫「喉乾いた」

勇者「はいはい」ちゃぷ

姫「お腹すいた」

勇者「はいはい」ごとっ

姫「ねむい」

勇者「はいはい」なでなで

姫「zZZ」ぎゅ


おやすみなさいなの



勇者「久しぶりの外だな、城の」

姫「珍しくお父様が外出を許してくれたものね」

勇者「まあお使いなんだけどな」

姫「最悪ね、お使いに手間取った事にして遊ぶわよ」

勇者「はいはい(楽しそうな声だな)」




姫「勇者、あれやりたい」

勇者「射的か」

姫「ボウガンなんて触ったことないけど、やりたい」

勇者「矢は俺が付けるから、姫はよーく狙って撃つんだ」

姫「うん!」




姫「……当たらない」

勇者「残り二本まだ矢があるよ」

姫「最悪な気分、やめる」

勇者「そっか」スコンッ←景品を当てた

姫「……」

勇者「どうかした?」

姫「おんぶして、それから……見てるから勇者が代わりに当てなさいよ」

勇者「はいはい、オヤジさん、矢を五本追加」




姫「……もふもふしてる」

勇者「ぬいぐるみっていう、玩具みたいなものだよ」

姫「城には無いけど、なんでなの」

勇者「王族には必要ないんだってさ」

姫「……そうね、必要ないわ」



姫「だから城に入る前に、勇者にぬいぐるみあげるから大事にしなさいよね!」

勇者「はいはい」

勇者(持っててあげるから、俺の背中で泣きそうになるなよ)




姫「zZZ」

勇者「寝てるのか……」

勇者「丁度いいからお使い済ませるか」

店主「いらっしゃい」

勇者「ラダトーム王様のオーダーした物を取りに来た」

店主「ラダトーム王様の、となるとそちらの方が姫様?」

勇者「ああ」




勇者「なんだこれ」

店主「ラダトーム王様のオーダーで作りました、姫様の舞踏会でのドレスになります」

勇者「……露出が多すぎるぞ」

店主「そう言われましても」

勇者「仕方ない、代金はこれでいいな」

店主「ありがとうございます」




姫「ん……おはよ」

勇者「おはよう」

姫「……この体勢つかれた」

勇者「降りるか」

姫「抱っこ」

勇者「はいはい」ぎゅ

姫「おやすみ……」

勇者「また寝るのかよ!」




メイド「お帰りなさいませ」クスクス

勇者「笑うなよ……」

メイド「小さな頃から仲が良いですね、姫様と勇者は」

勇者「俺の一族はロトの代から王家に仕えてるからな」

メイド「素直じゃないですねー」

勇者「素直だよ俺は」




勇者「こちらがドレスになります」

王様「おぉ! 実に美しいではないか」

勇者「王様、姫様には必要ない露出が含まれていますが」

王様「何を言うか、そなたが不甲斐ないばかりにわざわざ作らせたのだぞ!」

勇者「は?」

王様「今度の舞踏会を通して、メルキドの辺境伯である伯爵殿に姫の婚約者になって貰うつもりだ」

勇者「!!?」




勇者「……うーん」

姫「zZZ」

勇者「……うーん」

姫「zZZ」

勇者「うーん……婚約かぁ」

勇者「……明日、姫に踊り教えるかな」




姫「勇者、つかれた」

勇者「だめだ、練習練習」

姫「何よ、私は絶対に踊らないからね!」

姫「勇者なんて嫌い」

勇者「……はいはい」




姫「勇者ぁ……っ」

勇者「ごめんってば! 大丈夫か足!」

姫「挫いたのに大丈夫な訳ないでしょばかっ」

勇者「悪かったよ、無理に踊らせようとして」

姫「……ホイミは部屋に着いてからかけなさいよ、話があるし」

勇者「…おう」




姫「こ、婚約?」

勇者「ああ、それでせめて少しは踊れるようにって」

姫「心配したの?」

勇者「そりゃ心配だよ」

姫「本当最悪、ばか勇者……ホイミはかけなくていいわ」

勇者「でも踊れないだろ」

姫「踊らない、そもそも踊れないの知ってるくせに」




勇者「あー、初めて追い出された」

メイド「どうしました?」

勇者「なんでもないよ」スタスタ

メイド「元気ないですね」

勇者「そりゃーもう泣きたいくらいにな」




勇者「ただいまー……」

勇者(まあ1人暮らしなんだけどな、兵士の寮だし)

勇者「…………」

勇者(もう姫のわがまま聞いてられないな)

勇者(このまま隠し通したら、姫の心が壊れるかもしれない)

勇者(………)がさっ




●ラダトーム王女、姫の体質


○男性恐怖症

○低血圧

○貧血?

○足に若干の障害有り(強く踏み込む事が出来ない)

○極度の不眠症(近くに人がいれば眠れるのを12歳の時に確認)

○今までの16年間で三度に渡って意識不明の昏睡状態になる(原因は不明・呪いの可能性有り)

○風邪を引くと咳が止まらない為、吐血する(キアリーで対処可能なのが幼少期に確認)




勇者(……こんな物を見せて、どうするんだ)

勇者(姫が結婚すれば将来は安泰だ)

勇者(きっと俺より優秀な魔法使いも雇える)

勇者(姫の人生は明るいはずじゃないかよ)


  『勇者……おんぶ』


勇者「…………はいはい」




姫「なんでいるのよ」

勇者「鍵開いてたぞ」

姫「最悪、なんで開けるのよばか」

勇者「眠れないだろ」

姫「眠くない」

勇者「この時間は眠くなるからいつも撫でてたろ」

姫「……」

勇者「……」なでなで




姫「……勇者」

勇者「んー」なでなで

姫「私のこと、嫌いになるの?」

勇者「ならないだろ、姫に嫌われる事はあってもさ」

姫「……そう」

姫「………明日は……一緒に踊りの練習…しよ」

勇者「はいはい、おやすみ」なでなで




姫「そんなわけで練習ね、ちゃんと教えなさいよ」

勇者「無理するなよ」

姫「無理させないでよ?」

勇者「りょーかい」

姫「……じゃあまず腰に手を…」ごにょごにょ

勇者「はいはい」ぎゅっ




勇者「……やっぱり難しいな」

姫「特にターンがね」

勇者「なんか、姫の足が折れそうで怖いな」

姫「そこまで貧弱じゃないわよ、ばかっ!」ズキズキ

勇者「はいはい、既に挫いたのな」




伯爵「これはこれは、姫様、もしや舞踏会に向け練習を?」

姫「!」

勇者「……ええ、少し苦戦していますが」

伯爵「なんと、私が少々見ましょうか姫様」すっ

姫「っ……」びくっ

勇者(…)




伯爵「……ふむ、お世辞にもダンスが上手いとは言えませぬな」

姫「っ、勇者」

勇者「はいはい……伯爵殿、姫様はこれより少々移動しますので」がしっ

伯爵「おやそうですか、では私もそろそろ行きましょうかな」

姫(………っ)ぎゅぅ

勇者「……」




姫「……勇者、お風呂入る」

勇者「大丈夫か」

姫「大丈夫よ……当たり前でしょ」

勇者「そうか、なら俺はメイド呼んで来る」

姫「すぐに浴びたいのよばか、呼ぶ間待つのは嫌」

勇者「はいはい…って、ぇ?」////




勇者「俺は見てないぞー大丈夫だからなー」

姫「何赤くなってるのよ」

勇者「五年は久しぶりだからだよ、一緒に入るのは」

姫「別にいいでしょ、アンタは脱いでないんだから」

勇者「姫は脱いでるだろ」

姫「見ないんでしょ? なら平気よばか、早く私の体を洗いなさいよ」

勇者「はいはい…ってだから、え!?」




勇者「痒い所はありますかぁ?」

姫「なによそれ、とりあえず最悪ね、メイドの方が上手く洗ってくれるわよ」

勇者「目が見えないんだよ」

姫「もう、じれったいわね早くしてよ」

勇者「ああ、わかっ……」もみっ

姫「はぅ……、も、もう少し強く擦りなさいよっ」

勇者「今やっと気づいた、姫お前さっきから恥ずかしさで冷静じゃないだろ」

姫「胸に触って冷静になる勇者はどうなの?」

勇者「うっ…」




姫「うぅ、のぼせた」

勇者「……服が蒸し蒸ししてる」

姫「勇者のせいよ、最悪……次から優しく丁寧にしてよね」

勇者「次なんて無いから」

姫「……」

勇者「はいはい」なでなで

姫「なんで撫でるのよ」


あふぅ……おやすみなさいなの



伯爵「いやあ楽しみですな、16になったばかりとはいえ美しくなられた姫様と踊れるとは」

王様「しかし姫は少々礼儀作法に欠ける、教育係たる者がしっかりしないのだ」

伯爵「おやいけませんよ王様、彼はとてもよく働いておいでだ」

王様「む? 伯爵殿は勇者の奴をご存知だったか」

伯爵「えぇ、彼は実によく働いてましたよ」




伯爵「所で王様、実はお伺いしたい事があるのです」

王様「ほう、何かな」

伯爵「……随分とこの城は魔物の侵入を許してしまうのですね」

王様「何を言っている?」

伯爵「スライムすら侵入してしまう城……おお恐ろしい、民衆が聞いたらどんな顔をするか」

王様「……伯爵殿、何を……!」

伯爵「【それに比べてメルキドはとても防衛に優れている】……と思いませんか」

王様「……っ」

伯爵「王様、ここはどうかお考え下さいね? 私と姫様の婚約を絶対の物とする事をね」




姫「……」ぶるっ

勇者「どうした」

姫「寒い、勇者あっためてよ」

勇者「熱計ったらな」

姫「抱っこしながら計るから」

勇者「はいはい」がしっ




姫「……見方わかんない」

勇者「あー、割と高い熱だな」

姫「そうなの?」

勇者「今日は安静にしてろよ」

姫「嫌よ、せめt

勇者「はいはい」←トランプに食料に水を取り出した




姫「手に力入らない」

勇者「はいはい、あーん」

姫「んっ」ぱく

勇者「美味しいか」

姫「最悪ね、今度は調子が良い時に食べたいわ」

勇者「そうか」ぎゅー




姫「……涙出る」

勇者「指でこすらないで、俺が拭くから」

姫「どうして涙が出るのよばかぁっ」

勇者「熱だからだな」

姫「知ってるわよ、ばーか!」

勇者「はいはい」←ちょっと今のばーかに萌えた




勇者「ん、水なくなったからメイドに取り替えて貰う」

姫「まだ喉乾いてないからいいわよ」

勇者「水分補給は大切なんだぞ」

姫「トランプの続きしたいの」

勇者「勝った方が罰ゲームってルールなのに?」

姫「そ、そうよ」

勇者「はいはいわかったよ」←直後にロイヤルストレートフラッシュ




メイド「……で、負けないで勝っちゃったんですか」

勇者「ああ、姫に罰ゲームするわけにもいかないしな」

メイド「ふーん」

勇者「なんだよ」

メイド「いえ、勇者さんって本当に男性なのかなっと」

勇者「罰ゲームで姫とキスしようかとは思った」

メイド「……勇者さんって煽られると負けたくないタイプ?」

勇者「素直なんだよ」




勇者「ただいまー」

姫「けほっけほっ、遅かったわね勇者」

勇者「咳か」

姫「そうよ…けほっ、けほっけほっ!」

勇者「姫、よしよし」なでなで

姫「なによ」

勇者「楽になるおまじないとかどうだ」

姫「ばかじゃないの? ……おまじないなんて年じゃないし」

勇者「はいはい」




姫「……zZZ」

勇者「……」なでなで

勇者(ちょっと眠くなってきた、椅子持ってくるか)

勇者「よっと」

勇者(……じゃあおやすみー)なでなで

姫「zZZ」




勇者「……」

勇者(よく寝た……って、なんかあったかい?)もぞっ

姫「zZZ」ぎゅ

勇者「……」

勇者(俺をベッドに上げるのも辛いのに、わざわざ……)

勇者「ありがとな」なでなで

姫「……」

姫(……はいはい)←熱のせいにしつつも顔真っ赤




姫「……だーるーいー」

勇者「ね、寝過ぎたな……昼寝にしては……」

姫「私は熱のせいね」

勇者「だな」

姫「勇者、冷たい物食べたい」

勇者「かき氷だめだぞ」

姫「勇者の作った物ならなんでもいいからぁ」

勇者「はいはい」←今の言い方にクラッとキタ




姫「なにこれ」

勇者「姫にも優しいバニラアイスだ」←全力で作った

姫「……ひんやりしてて真っ白」

勇者「はい、あーん」

姫「んっ」ぱく

姫「……最悪、しょっぱい」

勇者「なんだとっ!?」




勇者「……砂糖と塩間違えた」

姫「これじゃ食べられないじゃない、ばか!」

勇者「ごめん」

姫「最悪よ、もういいから下げて」

勇者「ああ……」

姫「勇者」

勇者「ん?」

姫「次は失敗してない、美味しいのが食べたいわ」

勇者「はいはい」




メイド「そんなことがあったんですかー」

勇者「ああ、今は姫寝てる」

メイド「今日はもうお帰りになりますか?」

勇者「まあな、姫も寝たし」

メイド「じゃあ私も帰ります」

勇者「そうか、送ってくよ」

メイド「助かりますね、いつも♪」




姫「勇者、おんぶ」

勇者「もう平気なのか」

姫「治ったわよ、当たり前でしょ」

勇者「そうか」がしっ

姫「今日は城の裏庭に行くわよ!」ぺしぺし

勇者「はいはい頭叩くな」




メイド「あれ、何しに来たんですか姫様」

姫「散歩!」

勇者「仕事中か? 悪かった」

メイド「いえいえ、1人で草刈りするよりは楽しいです」

勇者「1人? 他のメイドは?」

メイド「伯爵様をもてなす為に他の仕事中ですよ」

姫「……あの人、また来てるの」

勇者「最近頻繁に来てるな」




姫「勇者、私メイドの手伝いをするわ」

勇者「なんで」

姫「メイド1人じゃかわいそうじゃない!」

勇者「あー、メイドは手伝って平気か」

メイド「助かりますよ」

姫「ほらね! 私だってたまにはメイドの手伝いくらい……」

勇者「はいはい」がしっ

姫「なんで勝手に私を背負うのよ」




勇者「草刈り鎌は危ないんだ、もし姫が怪我したりしたら大変だろ」

姫「最悪ね、女は鎌も使えないっていうの?」

勇者「姫の手にこんなの刺さった所見たくない」ギラッ

姫「………」ぞぉ

勇者「わかってくれて良かった」

メイド(なんか面白いなぁこの2人)




勇者「終わったな」

姫「は、早い……」

メイド「大丈夫ですか勇者さん」

勇者「大丈夫」

姫「ほとんど1人で刈ったわねアンタ……」

勇者「どうだった?」

姫「え? そりゃかっこよ……って、何言わせたいのよばかっ」

勇者「はいはい」←満足




メイド「姫様と勇者さんにジュース入れて来ました」

勇者「悪いな」

姫「おー! 甘そうな匂いねっ」

勇者「オレンジ……に蜂蜜か?」

メイド「匂いで見破られたのは初めてです」

勇者「姫が好きな組み合わせなんだ」

姫「うんうん♪ 甘露甘露♪」




姫「ふぁぁ……気持ちいい陽気ね」

勇者「風とかいい具合だな」

姫「……」ぎゅー

勇者「?」

姫「しばらく勇者がベッドになっててよ」

勇者「はいはい」なでなで




メイド「……勇者さんと姫様は、いつからお知り合いに?」

勇者「なんだ急に」

メイド「なんとなく気になりまして」

勇者「なんとなくか、んーと……」

姫「……♪」zZZ

勇者「……多分赤ん坊の時からかな」

メイド「……ほー」




勇者「……両親が今の王の教育係で、俺も親と同じように姫の教育係になったんだ」

メイド「勇者さん、歳は?」

勇者「19……当時は3歳で俺はよくわかってなかったよ」

メイド「凄まじい記憶力ですね」

勇者「ああ、不思議だよな」

姫「zZZ」

勇者「姫との記憶は全部欠ける事なく覚えてるんだ」




勇者「今まで色々あったな、病気とか怪我とか」

メイド「姫様、昔から体が弱かったですよね」

勇者「……必死に姫の病気治すために色々学んだな」

メイド「魔法も?」

勇者「ああ、姫を守る為に必要な力は全部」

メイド「惚れそうです」


むふぅ、おやすみなさいなの



メイド「……さて、と」

勇者「どうした」

メイド「いえ、そろそろ私も伯爵様の持て成しに参加しようかと思って」

勇者「そうか、ありがとうな」

メイド「ありがとうって?」

勇者「色々話し聞いてくれてだよ」

メイド「いえいえ♪」




メイド「……」スタスタ

メイド(本当になんていうか、聞いてるこっちが嬉しくなるくらい姫様愛されてるなぁ)スタスタ

メイド(今日は大収穫かな、勇者さんが姫様をどう思ってるか聞けたし)スタスタ

メイド(今度は是非とも姫様の気持ちを聞きたいかなー)スタスタ

メイド(………)

メイド(そう言えば、勇者さんって伝説ロトの一族なんだよね)

メイド「……あははっ」









メイド「なんか、おとぎ話みたいに勇者さんなら悪い魔王に捕まった姫様を助けに行っちゃいそう♪」










王様「……いよいよ明日、舞踏会か」

大臣「姫様の晴れ舞台ですな」

王様「晴れ舞台? とんでもない、娘にとって最悪の日になるに違いない」

大臣「王様、何を言うのですっ」

王様「そうだろう? 姫は愛してもいない男と、国の為に、そうだ……政略結婚する約束を交わすのだぞ」

大臣「し、しかし王様! 姫様もきっと王族として産まれたからには理解しているはず……」




王様「理解はしていても、姫の心は納得はせぬ」

王様「知っておるはずだな? 姫は勇者と共にいる時だけまるで生きているような表情をしている」

大臣「…………」

王様「伯爵の事だ、姫を独占し、近くに置くつもりだろう」

大臣「……王様、ならばあなたは何も悔やむ必要はありません」

王様「いいや!! 私だ! 私が娘から生も希望も夢すらも奪ってしまうのだ!! この汚い玉座のために!」

大臣「……王様」




「 よく来た……勇者よ 」

「 我こそが竜王……竜族の王にして、全ての覇を司る王だ 」

「 我は待っていたのだ、そなたのような強き若者をな…… 」


「 どうだ? 我が配下に加わらぬか、そなたの力も、大切なその姫も渡すのだ 」


「 そうすれば、そなたには世界の半分をやろう……闇に染まった絶望の世界をな 」

「 さあ……そなたの答えを聞かせて貰おう……! 」




勇者「……!!」ばっ

姫「勇者、大丈夫なの?」

勇者「………」

姫「な、何よそんな顔をして……怖い夢でも見たの?」

勇者「……そうみたいだ」なでなで

姫「大丈夫?」




姫「今日は満月、舞踏会の日ね」

勇者「……そうだな」

姫「なによ? まだ暗い顔して」

勇者「……ちょっと現実味がなくてさ、舞踏会で伯爵と姫が踊った後に婚約するんだろ」

姫「分からないわよ、私の 体質 はアンタが理解してるでしょ」

勇者「まあな」

姫「だから、きっと大丈夫よ」




姫「勇者ー、もう着替えるの?」

勇者「姫は王族だから、先にダンスホールで王様と待ってなきゃダメなんだと」

姫「退屈ね、私そういうの嫌」

勇者「知ってるよ」

メイド「所で勇者さん早く出て行ってくれません? 姫様にドレス着せたいんですが」


急な仕事が入ったから今日はこれで終わりなの



姫「……勇者から聞いてるわ、ドレスの見た目は」

メイド「そうですかー」

姫「だから私はどんな物でも覚悟出来てる」

メイド「なるほどー」

姫「あの、だから……目隠しとっていい?」

メイド「ダメです」




姫「…………」

メイド「どうですか、姫様にピッタリじゃないですか?」

姫「メイド、これって……」

メイド「私が自作したドレスですよ、動き易くて軽いでしょう」

姫「でもっ、お父様のドレスは……!」

メイド「今頃私が飼い慣らした野良猫達がビリビリにしてますよ♪」




勇者「おぉ、似合うけどそのドレスなんだ」

姫「メイドが作ってくれたみたいなの! 似合う? 似合う?」

勇者「はいはい……」なでなで

勇者(……メイド)

メイド(せめて姫様らしい姿で今日の舞踏会に臨んで頂きたかったんです)ひそひそ




メイド「では私は姫様をダンスホールまで連れて行きます」

勇者「いや、俺が行くよ」

メイド「そうお願いしたかったのですが、勇者さんに宝物庫の安全確認をしろと王様が」

勇者「王様が? わかった、直ぐ追いつくよ」

姫「……勇者」

勇者「はいはい、緊張するなって、まだまだ時間あるし」なでなで




勇者(宝物庫かー、久々に来たな)

勇者(……ん、錠の確認良し)ガチャガチャ

勇者(戻るか)くるっ

伯爵「こんにちは」

勇者「!」

兵士「動くな」シャキン

兵長「勇者殿、貴方を拘束させて頂く」




勇者「……兵長、アンタいつから伯爵の手下になった」

兵長「勇者、悪いがこれは王様の意志だ」

勇者「なんでだよ」

伯爵「貴方が婚約の儀式に邪魔を入れると、私と王様が判断したのですよ」

勇者「儀式? ……婚約を姫に申し込むんじゃ」

伯爵「おや、貴方はそれなりに博識だと聞いてましたが、まだまだ子供らしい」




兵長「……伯爵様、勇者は私の甥みたいなもの……どうか儀式については語らないで頂きたい」

伯爵「ふふ、そうですね……野蛮な一族の子孫など怒らせたくもない」

勇者「なんだよ! 姫に何するつもりだ貴様ァッ!!」

兵士「動くな!!」ドガッ

勇者「……っ!」ドサッ


伯爵「……無様ですねぇ、さっさとこの男に猿ぐつわと手足に枷を」

兵士「はっ」




勇者「……っ」

兵士「立て、妙な動きをすれば首を跳ねる」

兵長「よせ……今夜だけだ」

兵士「……」

伯爵「ああ、待ちなさい」

勇者「……?」ギロッ

伯爵(おやおや怖い、ですが何も出来ないでしょう? 王様が決めた事なんですから)ひそひそ

伯爵(せいぜい牢の中で想像するんですね……姫の処女が私に散らされる様を)くすっ


勇者「~ッ!!」ガタッ




ドガッ!!

勇者「………っ」

兵士「……頼む勇者、動かないでくれ」

勇者(畜生……っ)

兵長「我慢してくれ勇者、お前の辛さはよくわかる……」


勇者(誰も、姫の事を考えてくれないのか……畜生!!)




姫「勇者、遅いなぁ」

メイド「もしかしたら宝物庫の宝箱を一つ一つ確認してるかもしれませんね」

姫「舞踏会までに間に合う…かな」

メイド「間に合いますよ、勇者さんですから」

姫「緊張してきた……」

メイド(勇者さんいないと姫様って借りて来た猫みたいで可愛い)




兵士B「あーあ、なんで俺達は外壁の見張りなんだ」

兵士C「貴族やあの伯爵様が、王様の下に集まったんだ、仕方ない」

兵士B「でも貧乏くじだよなー、見張りって四方の見張り塔に2人ずつの合計8人しかいないんだぜ」

兵士C「文句言うなよ……俺まで悲しくなってきた」

兵士B「西側の見張り塔もそんな気持ちだろうな」

兵士C「なんで」




兵士B「だって、見ろよ……2人共突っ伏してら」

兵士C「……寝てないだろうな、起こすか」

兵士C「おーい!! 見張りなんだからシャキッとしろシャキッと!!」

兵士B「……」

兵士C「……反応ないな」




兵士B「な、なんかおかしくないか? 東側の見張り塔も同じだぞ……」

兵士C「…………」

兵士C「ま、まずい! 鐘を鳴らせー!!」


―――――― ドシュッ


兵士B「え、え……」

しにがみのきし「……シー」ブンッ


―――――― ドシュッ




メイド(……遅いわね、勇者さん何してるんだろ)

姫「メイドっ、もう舞踏会が……!」

メイド「すみません姫様、勇者さん探して来ます!」

< 「ではこれより、ラダトーム王家による舞踏会を……」

姫「は、始まったわよ?」

メイド「急ぎます! しばしお待ち下さい姫様!」たたっ




メイド「もう、勇者さんどこ行ったのかな……」

メイド(……まさか)ピタッ

メイド(勇者さんなら、姫様の幸せを一番に願うかもしれない)

メイド(だとしたらこれは勇者さんが姫様に伯爵と婚約させるための、わざと?)

メイド(……)




姫(……うわぁ、伯爵がこっちに来る)ビクビク

姫(どうしようどうしよう……勇者は? メイドは?)

姫(…………怖い)ビクビク


伯爵「こんばんは、姫様」ニッコリ

伯爵「私と踊って頂けますかな?」


姫「…………………ぁ…は、はい」




勇者(……どうしたら)

勇者(どうしたらいい? 姫……こんなの、酷すぎる……)

勇者(何かないのか…)


―――――― ビリィッ


勇者(!?)ビクッ

勇者(……今、【誰かが死んだ】……?)




メイド「はぁ……宝物庫にもいないなんて、どうなってるのかな」

メイド(……やっぱり姫様のために?)

メイド(だとしたら説教しなきゃね、姫様の気持ちはともかく勇者さんは姫様が好きなんだから)

メイド「うーん、でもどこに…………」


フッ


メイド「? あれ、なんで急に灯りが全部………」




勇者(……来る!!)

勇者(間違いない、何かとても大きな何かが……近づいてる!!)

勇者「うおおおおお!!」バギィンッ

兵士「勇者!? 何をして……」




―――――― ドゴォオオオオオオッッ


王様「なっ、何事か!?」


姫「きゃあっ!」

伯爵「今のはなんですかな…!?」


―――――― ゴバァアアアン!!


王様「ぬぉぉ!?」




―――――― 【 我に平伏すがいい、人間どもよ・・・! 】


姫「………ひ」

伯爵「魔物!? それも、巨大なドラゴン!?」


―――――― 【 クックック、そなたが美しきラダトームの王女か 】


姫「ひっ……ぁ」へなっ


―――――― 【 美しい、我が妻に相応しい美貌よ……! 】


―――――― ガシィッ


姫「ひゃぁぁ!? 誰かぁ!」




―――――― 【 我が忠実なる兵士よ! 邪魔する人間どもを喰い殺すがいい! 】


しにがみのきし「……」ガシャッ

大魔導「……」


兵士「姫様を守れー!!」


ガブッ


ダースドラゴン「……ゲフッ」


兵士「うわあああ!」

兵長「逃げるな! 戦えー!!」


おやすみなさい



伯爵(ひぃっ、はぁ……なんなんだあの魔物達は!)

伯爵(ラダトーム王家の兵士達すら蹴散らす力……なんなんだこれは、悪夢なのか……)

伯爵(……!)


王様「……だ…れか いないのか……」


伯爵「ラダトーム王! ああなんと……瓦礫に挟まれているではないですか!」

王様「は、伯爵か……助けてくれ……」




伯爵「勿論ですとも、さあ私に掴まって……」

伯爵(!)ピタリ

王様「どうした……はやくたのむ」

伯爵(……もしも)

伯爵(もしもここで私が王を亡き者にすれば?)

伯爵(王妃は既に亡くなっている、姫はあの巨大な魔物にきっと殺される)

伯爵「………ははっ」チャキッ

王様「なっ……なにを?」




兵長「うぉぉ!?」ドサァッ

しにがみのきし「……シー」ガシャッ

兵長「おのれ……まるで刃が立たぬとは……」

しにがみのきし「……」ブンッ


スカッ


しにがみのきし「……?」




メイド「はぁっ…はぁっ、兵長さん無事ですか!?」

兵長「メイドか? 危険だ! すぐに逃げろ!」

メイド「分かりました! っ!?」ズキッ

メイド(今のダイブで足を捻った? 立てないっ)


しにがみのきし「シッ!!」ビュッッ

兵長「メイド!!」

メイド「!?」




バリバリィィッ!!


しにがみのきし「―――――― !?」ゴシャッ

< ズドォン!!


メイド「い、今のは……ギラ?」

メイド「!!」バッ

勇者「2人共怪我はないか!?」スタッ




―――――― 【 ・・・ヌゥ 】


―――――― 【 我が忠実なる魔導師よ、あの男を殺せ 】


大魔導「御意」


バチバチィィッ!!

大魔導「消えるがいい人間、『ベギラマ』!」


ゴバァアアアン!!




勇者「……邪魔だ」

大魔導「!? 何故だ、直撃した筈…」

勇者「ッ……!!」ドゴォッ

大魔導「ぐぁあああ!?」




―――――― 【 ・・・ 】


ダースドラゴン「グルル……(私が行きますか)」


―――――― 【 よい、ダースドラゴン・・・そなたは先に大魔導達と共に城へ戻れ 】


大魔導「ぅぐ……く、ルーラを唱えます!」

しにがみのきし「……シー」ボロボロ




勇者「……逃げる気か」


―――――― 【 我は逃げぬ 】


勇者「何者だ、何の目的で来た」


―――――― 【 クックック・・・我の目的は『コレ』よ 】


姫「……」ぐったり


勇者「!! 姫ッ!」




勇者は叫ぶ。

巨竜の手に捕まる姫に、呼び掛けた。

しかし返事はない、気を失っていたのだ。


―――――― 【 我の妻となる王女は頂いた、もはやこの城に用は無し・・・!! 】


勇者「……っ!?」

聞き捨てならない言葉を放つと同時に羽ばたく巨竜。

勇者は僅かにその迫力に気圧され、後退りさえしてしまう。


急なお仕事で今日はおやすみなさいなの



夜空の下で崩れるラダトーム城の上空。

巨竜は見下ろすように舞い上がり、王者の如き覇気で圧倒した。


―――――― 【 燃え盛る我が火炎にて、貴様達を葬ってやろう・・・喜ぶがいい 】

巨竜の喉が轟音を挙げ、凄まじい爆炎が漏れ出る。

その太陽にも似た光からはラダトーム城が業火に飲まれる事は誰にでも想像できた。


勇者「……!!」

勇者(絶対に……やらせない!!)


そう、勇者にも想像できた。

そして彼は・・・




―――  ゴォオオッッ!!  ―――


ラダトーム城全体に響き渡る衝撃波。

巨竜の真下にいた兵士達はその音に自身の命運が尽きた事を悟った。


メイド「……え」

兵長「あれは……!?」


しかし、この2人は確かに見た。

天高く君臨した巨竜、その凶悪なアギトから放たれた爆炎は夜空に散っていたのだ。




―――――― 【 何ィッ・・・!? 】


巨竜が初めて驚愕の音を上げる。

それもその筈、巨竜の視界はいつの間にか星空を見上げていたからだ。

後から瞬時に襲って来る顎の鈍痛、全身が麻痺する感覚。


勇者「……落ちろ、ドラゴン」

姫「…っ」


―――――― 【 貴様・・・一体・・・? 】


巨竜の手から解放された姫を勇者は抱き捕まえ、巨竜を見下ろしていた。

何故? と竜の王者は刹那に思う。

人間が飛べる高さでも無ければ、人間に巨竜を『殴り飛ばす』力がある筈もない。




直後に巨竜はラダトーム城の真横に音を立てて落下した。

夜空に君臨していた筈の姿は、今や粉塵に隠されてしまう。


勇者「やったか?」

姫を抱きかかえた勇者は風に乗ったように静かに着地した。


勇者「姫! しっかりしろ、もう大丈夫だ!」

姫「……んぅ」

勇者「姫!! 良かった……無事か」




何度か揺さぶり、目を覚まさなかったら……と勇者は心配したが姫は僅かに覚醒した。

少しだるさを残した表情で彼女は目を覚ます。


姫「……勇者? なんで私、確か舞踏会に……」

勇者「もう舞踏会なんて良い、本当に無事で良かった……」

安心し、勇者はそのまま姫を抱き締めようとする。




―――――― が





―――――― ドシュッ!!


勇者「……っ?」

何かが、勇者の胸から突き出た。


【 ・・・まさか我を地に墜とすとはな、貴様は我が直接葬ってやる 】


聞こえたのは憎悪に満ちたような、威厳を感じさせる覇気に溢れた声。

勇者の体を貫いていた杖を勢いよく引き抜いた。


勇者「がぁ……ぐあああ!!」

姫「勇者!? 血が……!!」




勇者が跪いたのと同時、次なる追撃が襲って来た。


―――――― バリィッ!!


勇者と不気味な闇に包まれた魔導師のような男の間で、閃光が衝突した。

威力は先の大魔導という魔物が放ったベギラマよりも上なのにも関わらず、結果は相殺だった。


【 そなた、本当に人間か……その傷で我と互角の呪文を操るとは 】

勇者「がはっ……ゲホッ、ぐはぁ……はぁ……っ」




姫「いや…っ! もうやめて、何でもするから勇者を傷つけないで下さい!!」

勇者「……下がってろ姫……す、直ぐに終わる」


多量の血が流れる勇者を見た姫が叫んだ。

しかし勇者は姫を下がらせる、彼は分かっていたのだ。


勇者(姫が目的、なら……コイツを倒さない限り……)

【 初めて我に一撃を入れた人間よ、褒めてやろう……そなたは我にとって初の強敵と言えた 】

【 だが甘い、いや、弱い・・・そなたの『ベギラマ』では我の『ギラ』が互角なのだからな 】


勇者が止まる。

今、この敵は何と言った?




【 クックック・・・今のは『ベギラマ』ではない、『ギラ』だ 】


勇者「なっ……!?」


【 そなたの持つ魔法はそれだけか、ならばそなたは我の『ベギラマ』にすら勝てぬ!! 】


天に突き出した魔導師のような男の手に、莫大な閃光が集まっていく。

勇者の表情が、体が、その強大な力の前に固まってしまう。

これが『王者の力』。

勇者はその言葉が脳内に響いてから、ある存在を意味する名前を思い出した。





勇者「 ………【 魔王 】……? 」


姫「勇者逃げてぇぇぇぇっ!!!」


初めて、彼が戦った敵の正体。

そして彼が刹那に見てしまった格の差、力量の差。

……姫の必死の声は勇者に届かなかった。



――――――   ッッ!!!  ――――――



閃光が、勇者の姿を飲み込む。




メイド「……!? 今の音は何?」びくっ

兵長「城の上からだな……」

メイド(勇者さん、まだ戦ってるのかも!)バッ

兵長「よせメイド!! 危険だ!」

メイド「大丈夫ですよ、勇者さんならきっともうやっつけたに違いありません!」




メイド(勇者さんが戦ってるのは初めて見たけど、明らかに勇者さんの方が強かった!)

メイド(だからただの魔物なんかに勇者さんが負ける訳ないよね!)

< バサァッ!

メイド「!」ピタッ

メイド(さっきのドラゴンが飛んで行ってる……勇者さん勝ったんだ!)

メイド(怪我してないかな? 姫様も無事かな?)

メイド「急がなきゃ!」




メイド「…………」


勇者「…」


メイド「……えっ?」

メイド「……ゆ、勇者さん?」


勇者「…」


メイド「ちょ、やだ……姫様? どこにいるんですか?」

メイド「勇者さん…も、ふふ、ふざけ……ないで下さいよ……」

メイド「………ぇ…?」




―――――― 『ゆーしゃ! おんぶしてー』


―――――― 『えへへー♪ わたしだけのゆーしゃだからねっ』


―――― 『……なによ、泣いてないわよ』

―――― 『別に、ちょっと使用人の男の子と喧嘩したの……』

―――― 『わっ、わっ、なんでぎゅーするの!?』

―――― 『……ありがと、勇者』




―― 『勇者、一緒に遊ぼう?』

―― 『勇者、ここの問題難しいから教えて』

―― 『勇者、今日は一緒に居て』



姫「勇者、起きてよ! もう……私を待たせないでよねばかっ」







勇者「……は…ぃ………は……い…………っ」

メイド「!!」

メイド「勇者さん! 聞こえますか!? メイドです、私です! しっかり!!」

勇者「…………」

メイド「勇者さん? 寝ちゃダメです! 勇者さん!!」

メイド「誰か! 誰か来て!! 勇者さんの血が……」




―――――― 『勇者・・・』


勇者「……っ、『ベホマ』!!」

< シュゥゥ…

メイド「! 全身の傷が塞がっていく……こんな呪文、見たこと……」

勇者「……」スッ

勇者(……待たせないさ、直ぐに迎えに行くよ)

勇者(待ってろよ……姫)





大魔導「竜王様、ご無事でしたか」

死神の騎士「……シー」


竜王【 ・・・少々余興に手間取ったがな 】

竜王【 今宵は我が花嫁の歓迎して!! 宴を開くが良い! 】


大魔導「御意」




竜王【 ああ、大魔導よ……我の玉座の間には誰も近づけるな 】

大魔導「は? ……分かりました」

竜王【 気にするな、折角の花嫁だぞ 】

大魔導「……左様で御座いますか、良い夜を竜王様」

竜王【 奴隷の人間共を食い、存分に今宵を楽しめ 】




―――――― ギィ・・・バタンッ


竜王【 クックック・・・楽にして良いぞ王女よ 】

姫「……」ぶるぶる

竜王【 そう怯えるな、我はそなたを妻にしようというだけだぞ? 】

姫「……っ」ポロポロ

姫「アンタなんかの……妻になんて絶対ならないわよ」ポロポロ

竜王【 ・・・理解に苦しむ、何故涙を流すのだ 】




姫「……分からないわよっ、他人を平気で傷つけて、勇者を……っ」ポロポロ

姫「アンタは私を妻になんて出来ない、……アンタには優しさも愛もある筈ない!!」


竜王【 ・・・ 】

竜王【 クックック、そなたを我が花嫁に選んで正解だったらしい 】

姫「っ……?」 ビクッ




竜王【 そなたの涙、今の言動から察するに『勇者』という男を思っているのだろう 】

竜王【 そして怒りはその男を奪った我への憎しみ、つまり『勇者』とは先の戦いで葬った男か 】

竜王【 何よりそなたの今の言葉……そなたは『恋』をし『優しさ』を受け、『愛』しているのだな 】


姫「………」


竜王【 我がそなたを妻に選んだのは『それ』だ、聞かせて貰おう 】

竜王【 『愛』とは、『優しさ』とは何だ・・・? 】


むにゃ…おやすみなさいなの



竜王【 ・・・大魔導よ 】

大魔導「はっ」

竜王【 我は4日程前までは人間共の優しさなど理解出来なかった 】

大魔導「魔族たる我々には不要の感情ですから」

竜王【 だが今の我ならば相応しき相手さえ揃えば恋すらするだろうな 】

大魔導「はっ、・・・はい?」




竜王【 クックック・・・この我が、たったの3日で人間の持つ感情を理解したのだ 】

竜王【 我はあのラダトーム王女を妻に選んで正解、否、もはや運命とすら言える 】

大魔導「……この3日、何を話されたのです」

竜王【 王女の半生……そして王女の目を通して我が垣間見た男の姿 】

竜王【 我は王女と話をしたのではない、聞いていたのだ、ただ静かにな 】

大魔導「…………竜王様、その男とは………」

竜王【 クックック、そなたに頼んだ調べ物もまた、我にとって正解らしい 】




大魔導「……『マネマネ』にラダトーム城に潜入させ、3日前に我々と戦った男を調べました」

竜王【 それで、結果はどうか 】

大魔導「…あの男は、生きていました……」

竜王【 ! 】

大魔導「更に素性を調べ行くと、あの男は『勇者』で、古来からラダトーム城に仕える一族だそうです」

大魔導「その一族の名は…」

竜王【 【ロト】の一族、そして奴が今の【ロトの勇者】か 】

大魔導「ご、ご存知でしたか」




竜王【 約数百年も前に、このアレフガルドを救った一族だ 】

大魔導「ではまさか彼の大魔王を討ち倒したのも?」

竜王【 ロトだ 】

竜王【 奴らは守る物がある事で力を増し、神すら越える力を持つ 】

竜王【 間違いなくこの世界で最強の『化け物』だ 】



竜王【 クックック・・・ 】

竜王【 クックッ、フハハハハハハ!! 】


竜王【 大魔導よ、ラダトーム王女をこの城から遠ざけよ! 】

大魔導「御意、しかし何故に?」

竜王【 姫はしきりに我に言っていたのだ、勇者ならばどんな所にいようと助けに来てくれたとな 】

竜王【 ならば、我は見たいのだ! 大魔王ゾーマの闇を切り裂いた一族の、『愛』を! 】




大魔導「では早速、私達四天王が姫を移動させましょう」

竜王【 うむ 】

大魔導「しかし、宜しいのですか?」

竜王【 何がだ 】

大魔導「ラダトーム王女の体は何故か急激に衰弱しつつありますので」

竜王【 ・・・構わぬ、もはや我にはあの王女が妻である理由も無いのでな 】




竜王【 ・・・ 】


―――――― キィィィン


竜王【(……美しい光を放つオーブだ、だが我が優しき心を手放せば直ぐに我を拒絶し、消え去るだろう)】

竜王【(この光のオーブを闇に染め上げるまでは手放す訳にはいかぬ)】

竜王【(必ずや我は大魔王ゾーマを越える力を持ち、この世界を手に入れてみせる……)】

竜王【(それまでは・・・!)】




勇者「……何の冗談だ」

メイド「あの、だから……」

勇者「王様が亡くなった上に、伯爵がラダトームの王? ふざけるな!!」

メイド「私……に言わないで下さい」ビクビク

勇者「……ごめん」  





伯爵王「やあ」

勇者「……」

伯爵王「明日、私の戴冠式をするんだが……君に何かスピーチを頼みたい」

勇者「…………貴様は外道の屑だ」

伯爵王「NOか、そうだろうと思った」

勇者「姫にまだ王位継承権がある!! 伯爵に王位を継承する資格はない筈だ!!」

伯爵王「ふふ、姫様は魔物に連れ去られ、殺されましたよ?」

勇者「デタラメだ!!」ドガッ




伯爵王「では証拠があるとでも? 王女様が、姫が生きているという証拠がね!」

伯爵王「答えは否ッ!! 皆無!! 何も無いだろう!?」

勇者「っ……」

伯爵王「ふふ、しかしそんなに君が意地になるならば私も悪魔じゃない……チャンスをあげよう」

勇者「なに……」

伯爵王「君が、姫を助け出して来れば良いよ……そうしたら彼女に王位は譲ろうじゃないか」


勇者「…………」





―――――― ピチョンッ



まほうつかい「ケケッ、食事だぞ人間」

< がたんっ

まほうつかい「……けっ、返事もしねーのかよ」



姫「………」




姫(……ご飯、食べないと)ズル

姫(………)ドサッ

姫「だるい……や」


姫「……っ」ググッ

姫(っ)ドサッ


姫(………動けないよ、勇者)




姫(竜王に私の話を聞かせたのはいいけど……)

姫(……こんな洞窟の牢屋に入れられるなんてね)

姫(………最悪、だなぁ……)

ウルッ

姫(…………寒いよ)

姫(……おなか、すいたよ………)



スライム「ぴきーっ!」タッタッ!

姫「……?」

スラ「ぴーっ、ぴーっ!」ズズ

姫「……食べろって?」

スラ「ぴー……」コクンコクン

姫「………スプーン、とって」

スラ「ぴきーっ!」カチャ




姫「……ありがと、助かったわスライム」

スラ「ぴきーっ! ぴっぴきー!」

姫「……ごめんね、勇者とは違って私には君の言葉が分からないの」

スラ「ぴーっ…」

姫「………」

姫「もしかして、この間……お城の台所に忍び込んだスライム?」

スラ「ぴきーっ♪」コクン




姫(……そっか、あの後勇者がこの子を逃がしたから……)

姫(………勇者)

ぴょこっ

スラ「ぴー?」

姫「…!」

姫「スライムなら、勇者を呼べる?」




悪魔の騎士「……グォ…ッ」ガシャッ

悪魔の騎士(ば、馬鹿な!! この俺が手も足も出ないとは……)

悪魔の騎士「貴様、人間ではないのか……」


勇者「……勇者だよ、ただのな……」


―――――― ザクッ





―――――― ギィンッッ!!



ゴールドマン「……オソロ、シイ・・・キサマ、ナニモノダ」

勇者「……姫はどこだ」

ゴールドマン「……コタエナイナラ?」

勇者「ここ一帯に住む魔物を全て殺す」

ゴールドマン「…………」


ゴールドマン「【メガンテ】」カッッ


勇者「!!」





大魔導「ご報告致します」

竜王【 聞かずとも我には分かる、勇者が本格的に動き出したか 】

大魔導「……」

竜王【 どうかしたのか、大魔導よ 】

大魔導「お言葉ですが竜王様、我々は早急に姫を殺すべきだったのでは?」

竜王【 何が言いたい、大魔導 】

大魔導「……勇者は姫を探す為にたった2日で50を越える魔物を虐殺しています、あの悪魔の騎士やゴールドマンの『メガンテ』すら凌いだそうです」




竜王【 ・・・ 】

竜王【 クックック、クク・・・ふはははははははは!! 】


竜王【 面白い……!! 奴はどうやら姫の命が風前の灯火にある状態なのが分かるらしい 】

竜王【 そして今、あの男は極限の力を持って姫を探している訳か!! 】


大魔導「……」

竜王【 大魔導!! そなたを含む四天王全員を姫のいる洞窟に集結させよ! 】

大魔導「!?」

竜王【 ロトの勇者が全力を出し切り、そして大切な者を守れずに殺される様を我に見せよ!! 】




―――――― ガシャァン! ドサッ


スラ「ぴきーっ!? ぴーっ!」

姫「……」

スラ「ぴきーっ! ぴきーっ!」

スルッ

姫「…」トクン…トクン…


スラ「ぴきーっ!?? ぴーっ! ぴーっ! ぴきーっ!!」



死神の騎士「……シー」ガシャッ

スラ「ぴきーっ!! ぴきーっ!!」

死神の騎士「……」

ひょいっ

ぽーん!

スラ「ぴぎ!?」ドサッ

死神の騎士「シー……」

スラ「ぴきーっ!! ピィィッキィィィィ!!」

死神の騎士「…」イラッ




死神の騎士「シッ……!」ドガッ

スラ「ぴぃっ!」ドサッ

死神の騎士「……」スタスタ


スラ「ぴぃっ……ぴぃっ!」タッタッ!

死神の騎士「!」


ドラゴン「……グルル(そのスライム、どうしたんだ)」

死神の騎士「シッ(さあな、姫に情が芽生えた馬鹿なスライムだ)」

ドラゴン「ガゥ?(丁度ヒマだし殺る?)」

死神の騎士「……シー(勝手にしろ、同胞を斬る剣は無い)」




ドラゴン「ガァアアアアアッ!!」ギュォッ

スラ「ぴっ?」


―――――― ゴシャァ!!


スラ「ぴぃっ……!!?」ドサッ

スラ「ぴっ……ぴきぃ……」ズルズル

ドラゴン「ガゥ♪(トドメ♪)」スッ


―――――― ガシィッ




ダースドラゴン「ゴガァアアアア!! (ドラゴン貴様、同胞に何をしている!!)」

キースドラゴン「ギャオオオ……(スライム如きをいたぶって楽しいか貴様)」


ドラゴン「ガルル……っ」


ダースドラゴン「ゴガァア!! (大魔導、来てくれ!!)」

大魔導「何事だ」ズウッ

ダースドラゴン「グルル(そこのスライムにホイミをかけてやってくれ)」

大魔導「………いないが?」





スラ「ぴぃっ……ぴっ……」ズルズル

スラ「ぴきー……」ガサッ


『偉いね……ありがとう、どこから持って来たの?』

『あのね、もし私に……余り、待つ時間が無い時この手紙を勇者に届けて欲しいの』

『なに? ……あはは、今のは私でも分かるよ……『どうして直接行かさないのか』でしょ』

『………信じてるから、勇者ならきっと助けに来てくれるって』


スラ「……ぴきぃ」ズクン

スラ「っ……」ドクドクッ
ドサッ
スラ「……ぴぃっ」ズルズル




―――――― ザァァ・・・


勇者(……姫が浚われて、一週間)

勇者(手掛かりは何も無い……『太陽の賢者』や『雨の賢者』達も竜王の城しか分からない)

勇者(・・・)

勇者(嫌な、雨だ……)




―――――― 降りしきる雨の中、一匹のスライムは長い距離を歩き続けた。


身に負った傷の深さを考えれば自殺行為。

それはわかっている、しかしスライムは止まれない。

幼き日の、とある少女と少年。

その2人にスライムはかつて命を救われたことがあった。

しかし成長した少女が覚えていないのは直ぐに分かった。

そしてそれにも理由があるのを知った。

少年がどれだけ成長したのかを知れた。


スライムは自身の体に限界が来るのを無視し、歩き続けた。


彼は、100年近く生きていた理由を知ったから。

小さな自分にできる事を彼は成し遂げる。




次回


勇者「……必ず、約束するよ」

スラ「ぴきーっ♪」



お休みなさい



―――――― 『……だれか、いないのかな』

―――――― 『………真っ暗』


薄れ行く意識。

それは静かに、確かにぼくに近づいていた。

見栄を張って森の深い所になど入らなければ……

そうすれば、こんな事にはならなかったかもしれないのに。




―――――― 『スライムの癖に生意気なんだよ』

―――――― 『なんだ? やる気か』

―――――― 『ハハッ、そうだよなぁ! たかが100年くらい生きてたからって調子に乗るなよ?』


『お前はただ生きていただけだ』、そう言われたのが堪らなく悔しかった。

だから、少しでもぼくの勇気を見せたかったのに……


―――――― 『…………だれか……いないのかな………』


ぼくは崖から落ち、道に迷い、力尽きて動けずにいた。

なんてぼくは馬鹿なんだろう、そう思う度に涙しか出なかった。




そんな時だった。

誰もいない筈の闇に包まれた森の中で、1つの光が照らしていた。


――― 『ほらね! この子スライムでしょー』

――― 『危ないよ姫ちゃん、僕の後ろにいて!』

――― 『危なくなんかないよ? 怪我してるよ、ホイミしてあげてゆーしゃ!』


・・・小さな2人の子供。

真っ暗な森を照らしていたのは少し大きな男の子だった。




幼勇者『大丈夫? ホイミ』


男の子がぼくの傍に来て、呪文を唱えた。

驚いた、こんな小さな人間の子供が100年生きたぼくでも習得出来なかった呪文を使うなんて。


―――――― 『……あったかい』


……何より、淡い癒やしの光はとても温かかった。

こんなに温かい光があるのかと、ぼくは感動した。




幼姫『ゆーしゃ、やっぱり来て良かったでしょ?』

幼勇者『うーん……肝試しのおかげでスライムを助けられたし、良かったのかな』

幼姫『良いに決まってるよっ! ねー?』なでなで



スラ『ぴ、ぴきーっ♪』








―――――― ザァァ・・・



メイド「……勇者、このスライム………」

勇者「…………」


スラ「…」

ギュッ

勇者「……ありがとう、ここまで知らせに来てくれたのか……」

メイド「っ……酷い、どうしてこのスライム……」

勇者(・・・)




―――――― 『ゆーしゃ! 見て見て~!』

―――――― 『ぴきぃぃ!?』

―――――― 『……スライムが可哀想だよ?』


―――――― 『えへへ、私とスラリンはお友達だもんね~?』


―――――― 『……ぴっ?(お友達?)』

―――――― 『うん、君と姫ちゃんは友達だよ』

―――――― 『あー! またゆーしゃとスラリンだけお話してるー! 私も仲間に入れてぇっ』


―――――― < 『わぁっ、泣かないで……というか、スラリンってスライムの名前?』

―――――― < 『うん! 可愛いでしょ!』



―――――― 『ぴきー……』






―――――― 『ぴきーっ♪(久しぶり勇者っ♪)』

―――――― 『……スラリン、か』

―――――― 『ぴきっ?(どうしたの、元気ないよ?)』


―――――― 『あのさ……少し、姫と会えなくなりそうなんだ』


―――――― 『ぴきー! ぴっ?(なんで! どうして?)』

―――――― 『………凄く、姫の体調が悪いんだ……もしかしたら……』


―――――― 『…………ううん、なんでもない』

―――――― 『ぴきー…?』




勇者(……ごめんな、それと…本当にありがとうな……)

スラ「…」

勇者(あんなに、一緒に遊んでたのにな……この間来た時、遊べなくてごめん……)

勇者(俺のせいで……)ギュッ


スラ「…」






(……久しぶりに来たけど、姫ちゃんと勇者…元気かな)

(あ、あれっ? 抜け道がなくなってる……)


兵士「zZZ」


(……しずかにすれば、大丈夫大丈夫……)

兵士「むにゃ…」

(ひっ)びくっ

兵士「……zZZ」

(ホッ)




(……どこに姫ちゃん達いるかな)


メイド「~♪」すたすた

(あっ……)

メイド「……っえ、ぃ」


メイド「キャー! スライムが台所に……!」

「ぴきー!(見つかっちゃったー!)」


<「大丈夫? 私がついてるわっ」


(え……姫ちゃん?)




< 「こらこら、女の子脅かしちゃダメだろ」

勇者「……」すっ


「ぴっぴきぴー!(勇者! 姫ちゃん! ぼくだよ、スラリンだよ!)」

勇者「え…?」

勇者「……だめ、姫は怖がりだから」

姫「余計なこと言ってないで追い出してよ!」

(……えっ?)


勇者「(まずいな…)はいはい」がしっ

「ぴきー……(姫ちゃん、ぼくを覚えてないの……)」




勇者「……悪いなスラリン、久しぶりの再会なのに」

「勇者、姫ちゃんはどうしたの? ぼくを忘れてしまったの?」

勇者「ああ……スラリンと最後に会ったあの日、姫はそれまでの記憶を失ったんだ」

「え……じゃあ、それじゃ……」


勇者「ごめんなスラリン、もう姫はお前とは遊べないんだ……俺もな」


「……そんな、何があったの……」

勇者「………言えない」

「…!」




―――――― ザァァ・・・


勇者「……あの時、お前…凄い寂しそうな目をしてたよな」

スラ「…」

勇者「姫を守れなかったせいで、寂しい思いさせたよな……スラリン……!」


メイド「……」ポロポロ

勇者「………疲れたよな、痛かったよな…今ホイミするから……」

メイド「勇者さん……もうその子…っ」ポロポロ

勇者「このままじゃ可哀想だろ……?」




勇者「……ホイミ……」ポウ


スラ「……」

勇者(………必ず)

スラ「…」

勇者(必ず、姫を助けるよ……)

勇者(きっと守る)




勇者(だから、応援してくれ……)


勇者「……必ず、約束するよ」




スラ「ぴきーっ♪」









―――――― 【スラリンのココロを手に入れた】 ――――――



勇者(……今、スラリンが笑った気がした)


メイド「勇者さん、この手紙もこのスライムと一緒にありました……」ガサッ

勇者「……ありがとう、後は任せてくれ」ガサッ

メイド「あの、スライムはどうしますか・・・」


勇者「…頼む、少ししたら埋葬してやってくれ」


メイド「……はい!」




―――――― ザァァ・・・ッ!!


雨は数時間前に比べその勢いは増していた。

叩きつけるような雫の塊、そんな中を突風が切り裂き進む。

雨粒が触れるより速く、勇者の体はその雨粒をむしろ弾くように突き進んでいた。


その手には、雨と僅かな血が滲んでしまった手紙。


勇者「……!!」


走る、駆ける、雨を切り裂く。

急がなければならなかった。

もはや一刻の猶予は存在しない、スラリンが自身を犠牲にしてでも手紙を届けるのを優先したには意味がある。




――― 勇者へ ―――


勇者、無事ですか?

って、元気よね そうに決まってる。

遅いわよ、今私はマイラって村から南……かな? そこの洞窟にいるの。

最悪よ ご飯も美味しくないし寒いし。


はやく きなさいよ ばか

からだが、へんで あたまがいたいの

むかえにきてよ おそいよ


ゆうしゃ



勇者(この手紙は書きかけだったが、字がおかしい……それに姫が初めて『頭が痛い』と言った)

勇者(間違いない、このままじゃ また 姫が死んでしまう!!)


踏み込み、そして濡れた大地を蹴る。

一歩で数十mもの距離を縮め、更に大地を蹴る。


恐ろしいまでの速度で勇者はアレフガルドを走り抜けて行く。


雨の勢いは既に最高潮に達したのと同時、勇者の纏う風圧は更に増す。

否、他者から見ればそれは風ではなく、『覇気』そのものに見えただろう。

それ程に勇者は凄まじい気迫で雨粒を切り裂いていた。




死神の騎士「……シー」


竜王直属の配下、四天王の1人『死神の騎士』は何かを感じて立ち上がった。


ダースドラゴン「グルル……」

キースドラゴン「…グルル」


そして同じく四天王の『ダース』『キース』のドラゴン達も、喉を鳴らし、辺りに殺気を散らした。


……竜王の右腕、『大魔導』もまた、彼等よりも正確にそれを把握する。

そうしながら、幕を上げようと言わんばかりに彼は言う。


大魔導「……来たか」



―――――― ゴバァァンッッ!!





轟音と共に鋼鉄の巨大な扉が弾け飛んだ。

『魔法の鍵』が無ければ開かない筈の、大魔導が張った結界をただの力技で破ったのだ。


轟ンッ!! と凄まじい勢いで飛んで来る扉。

その威力は如何に魔物といえども直撃すれば致命傷になる。

しかし、彼等はただの魔物ではない。


死神の騎士「シャァァアアアアアアアアアッッ!!!!」

踊り舞う巨大扉の前に飛ぶ死神の騎士。


キンッと、死神の騎士が持つ黒い刃が軌跡を空中に残す。


そして次の瞬間。




―――――― ギィンッッッ


鋭い火花、金属が両断される断末魔。

それらが起こった時には巨大扉は既に左右へ、死神の騎士達四天王を避けるように後方へ吹き飛んでいった。

洞窟内を揺るがす衝撃。

同時に、扉が無くなった入り口からは嵐のような雨が入り込み始める。


だけでなく、1人の影もそこにはあった。


大魔導率いる竜王軍最強の四天王と、その男は対峙する。



勇者「……姫を、迎えに来た」



息を切らし、右手に血の滲んだ手紙を握り締めたまま彼はそう宣言した。

彼は命を賭け、必ず大切な者の命を救うと約束した後だった。


おやすみなさい



・・・洞窟の中は意外にも広かった。


元々が岩山を削って作られたのか、頭上の暗闇を様々な鳥達が飛び交う音が鳴り響いている。

何より、勇者が吹き飛ばした巨大扉の残骸はかなりの距離を飛んだのにも関わらず姫のいる牢まで届いていない。

そして……三体のドラゴンが待ち構えてられる時点で、ただの洞窟でない事がわかる。


勇者(……俺を罠にかけて、充分に向こうが戦えるスペースを作ったのか)


その読みは的中。

大魔導のローブが不気味に揺らいだ。


大魔導「ここが貴様の墓場だ、勇者……!!」



莫大な閃光が決戦の火蓋を斬った。




洞窟全体を瞬間的に照らす程の『閃光』は凄まじい熱波となり、勇者が立つ入り口を簡単に粉砕する。

辺りに散る鬼火がその凄まじい威力を物語っていた。


大魔導はローブに包まれたまま笑った。

大魔導(この洞窟は特殊な作りで、一時的に魔力の集まりやすい場所になっている)


大魔導(その神聖なる魔力の泉で私は奴が来るまで集中していたのだ、単純な破壊力は竜王様の『ギラ』を越える)


―――――― ジュゥゥ・・・

熱波の余波で発生した蒸気が視界を濁す。

しかし見るまでも無いと大魔導は感じていた、呆気ないとすら感じていた。


―――――― だが





死神の騎士「シィッ!! (上だ、上を狙え大魔導!!)」



突如襲う、死神の騎士の怒号。

ハッと我に帰った大魔導は呪文の詠唱と同時に頭上を仰いだ。

大魔導(この男・・・いつの間に!?)


―――――― カッッ!!


『ベギラマ』の閃光が上空の勇者を迎撃する、しかしその狙いは大魔導の油断が大幅に外れてしまう。

そしてその刹那に、勇者の左手が閃光を放った!


大魔導「……!!」




即座に大魔導はローブで少しでも自身を覆って防ごうとする。

そのタイミングは遅く感じられたが、まだ彼は肉体に熱は感じない。


大魔導「…………!!」


……熱はまだ来ない。


大魔導(なに!?)


―――――― シュタンッ


勇者「破ぁッ!!」

瞬時に大魔導の懐へ飛び込んだ勇者の拳が握り締められる。




―――――― ガァァンッッッ!!


勇者「……!」

死神の騎士「シィィィ………」


轟音、そして縫い止められる勇者の拳。

死神の騎士が持つ盾によって必殺の一撃は防がれていた。

直後、


バォォッ!! と唸る竜の息吹き、三体のドラゴン達が一斉に火炎を撒き散らしたのだ。


勇者「―――ッ―――」

飛び、火炎の渦の隙間を懐潜る。


その動きは既に人間の速さでは無かった。




―――――― シュインッッ


その着地した瞬間には死神の騎士が追撃の刃を振るう。

黒い軌跡は勇者の頬を掠め、そして乱舞の如く斬りかかる!


勇者「……ッ」


―――――― シュインッッ

―――― シャキィッ
―――――― ズドォッッ

ジャリィッッ


凄まじい連撃を勇者はいなしてかわし、そして刃の側面を弾き避ける。




勇者「……………」


トン。

そんな風に軽く勇者は地面を爪先で鳴らし、後ろへ下がった。

同時に、左手から閃光が死神の騎士を襲う。


死神の騎士「シャァアアアアアアアアアッッ!!!」


逃がさない、そう言うかのように黒い軌跡が勇者の胸元を浅く切り裂いた。

死神の騎士は勇者の放った『レミーラ』の閃光に怖じず、踏み込んで行く!




ダースドラゴン「―――――― ヒュゥ」


大魔導「―――――― !!」フォォォッ


挟み込むように、ダースドラゴンと大魔導が閃熱火炎の追撃を放つ。

ダースドラゴンの爆炎が広範囲に炸裂し、その上から大魔導の『ベギラマ』が叩き伏せる!!


勇者「ッ……」

勇者(1つ1つを丁寧に避ける余裕は無い……!)


額から汗の雫が一粒飛ぶのと同時、勇者の両腕に莫大な閃光が収縮される。




―――――― ゴォッッ!!


空気が悲鳴を上げ、勇者の両腕が放った『ベギラマ』が大魔導達の追撃を更にねじ伏せた。

そして瞬時に、勇者の足元に転がっていた巨大扉の残骸を軽々と蹴り上げ―――


―――― ギロチンの如く、踏み降ろす!!


死神の騎士「…ッ!!?」


ゴガァァアッ!! と強大な一撃が死神の騎士の片腕を盾ごと砕き折る!

死神の騎士の動きが一時的に止まったのを確認した勇者の姿は即座に闇に消え去る。




キースドラゴン「ゴガァ・・・カッ!?」


その勇者が消えたタイミングに合わせ、キースドラゴンの顎が打ち上げられた。


―――――― ズドォッッ!! ガガガガガッッ!!!


裏拳で勇者は高速で連打する。

息をさせる僅かな隙すら与えずにドラゴンを仕留める!!




       「…………ゆう……しゃ………?」








勇者「……!」



勇者の動きが、時間が止まった。










おやすみなさいなの



勇者「……ひ、め…………」


視界の中心。

視線の先に、『彼女』は地面にぺたりと座り込んだままこちらを見ていた。

それも儚く散ってしまいそうに、勇者が声を出すのに躊躇してしまう程に。



大魔導(……王女? なぜ牢から出て…………)

大魔導(……………)



ふと、大魔導は洞窟内の広さに気づいた。




勇者がこれだけ四天王と戦えるのですら驚愕すべき事かもしれない。

しかし、幾度と包囲を抜けるのは大魔導の計算に余りにも合わないのだ。

そう、例えば『味方の数が少ない』とかである。


大魔導(!!)


勇者の視線の先に座り込んでいる、王女の方へ大魔導もそちらを凝視する。

そして・・・彼は最悪のモンスターを見た気がした。






―――――― 姫の背後に、一頭の『ドラゴン』が君臨していた。




ドラゴン「   ・・・ガパァ・・・   」



恐ろしい程に牙を闇に光らせ、開かれた口からは多量の唾液がザブッと流れ落ちる。

おぞましいまでにその一頭のドラゴンは、ただただ『悪意』に満ちていた。



初めて勇者が叫ぶ。



勇者「逃げろ姫ぇぇえええええ!!」




勇者の絶叫に含まれた『何か』を感じた大魔導が、全身に震えが走った。

それは『ドラゴン』以外のそこにいた『四天王』全員が感じ取った。


彼らはその感覚の正体を知らない。

数百年前、彼らの先祖は今の『ドラゴン』と同じく初代ロトの前である事をした。

その結果、何が起きたのか?

それこそが答えであり、これから始まる事なのだ。



全てのモンスターが自身の遺伝子に刻み込む程の、『過ち』が起きる。






―――――― フワッ


華奢な姫の体が、ドラゴンの牙先に引っ掛かるように浮き上がった。

洞窟の闇の中で、姫の体が上空へ飛ばされる。

余りにも軽く、人形のように、糸が切れたマリオネットのように。



勇者「  ――――――  」



勇者の漆黒の瞳に彼女がゆっくりと落下していく姿が映る。

勇者の体は、固まったように動かない。






ガパァッ!! と、ドラゴンが姫を飲み込もうと口を開く。




―――――― バクンッッ




異様な 音が 鳴った 。

それは 人が 飲み込まれた 音 だ 。


勇者「  ・・・  」


だ れ が  の ま れ た ?  だ れ が  こ ろ さ れ た ?











―――――― 『 勇者 』



―――――― 『疲れた、おんぶして』










   ズバァアアアンッ!!!!



ドラゴン「 カッ? 」

―――――― ゴドンッッ!!


ドラゴンの首が根元から滑り落ちる。

巨大な頭蓋が地面に落下し、岩のように鈍い重低音が鳴り響く。


辺りには 金色の軌跡 がゆらりと漂っている。





姫「……ゆぅしゃ……」


「……迎えに来たよ、疲れたろ? 寝てくれ…姫」


『勇者』と呼ばれた青年は、静かに姫の瞼にゆっくりと指を乗せる。

そして「『ラリホー』」とだけ唱えると、王女は静かに眠った。

『勇者』と呼ばれた青年は、姫の体をしばらく抱き締めていた。


その姿には微塵の油断も感じられなかった。





大魔導達『四天王』は動けずにいた。


その彼らの姿は、一週間前に竜王と出会った時の勇者に酷似している。

然り、全く同じなのだ。

しかしそこには竜王以上の畏怖が存在していた。


―――――― 果たして、『勇者』とは髪が金色だったろうか?


―――――― 果たして『勇者』とは、視覚化出来る程の魔力を周囲に撒き散らせるだろうか?


―――――― 今まであの『勇者』が、凄まじい殺気を圧して来た事があっただろうか?



大魔導(………これが、先代魔王『ゾーマ』を倒した 【史上最強の化け物】 )


覚醒させたのは怒りか、悲しみか。

いずれにせよ、大魔導が竜王から勇者の話を聞いてから恐れていた事が現実となったのだ。




大魔導(竜王様を越える『ゾーマ』様を倒したロトの勇者………)

大魔導(……その力に覚醒した奴に、竜王様にすら及ばない我々が勝てると?)


大魔導は隣にいる『死神の騎士』を見た。


カタカタッ・・・

鎧の中で、何かが震えている。

死神の騎士が、怯えているのだ。




ダースドラゴン「ガァアアアアアッッ!! (我に続けぇぇ!!)」


ダースドラゴンが吠え叫んだ。

それは彼が誇り高い竜族である事の最後の証明でもあった。


―――――― ギュゥン!!


深紅の火炎弾がダースドラゴンの喉から撃ち出され、空気の壁を飲み込み貫く。

圧縮された爆炎は凄まじい破壊力を生み出した。





「…………」


ただ勇者は片腕を向け、その場から動こうともしない。

しかしその片腕には金色の魔力が集中されている。



―――――― ゴバァッッ!! 



直撃。

その余波は周囲の地面に僅かに残っていた枯れ草が、全て燃え散った程である。


だが、唯一勇者の背後で横たわる姫は余波の風すら当たっていない。






「……」


チラリと、背後で横たわる姫を『勇者』は見る。


「………直ぐ戻るから、安心してくれな」


蒼くなった瞳で、『勇者』は大魔導達へ目を向ける。

それから静かに彼は呟いた。

「殺す」、と。





キースドラゴン「ギャオォォォッ!!」

ダースドラゴン「ガァァアアアッ!!」


豪ッ!! と二頭のドラゴンが瞬時に火炎弾を放つ。

渦を巻く業火灰迅は凄まじい物だった。

しかし――――――


―――――― バシュゥッッ!!


刹那に火炎弾が虚空へ消し去られ、洞窟に闇が突如戻った。

黄金の軌跡が走り抜ける。





死神の騎士「シィィィッ!!」


迫り来る黄金の軌跡を迎撃すべく、神速の斬撃を放つ!!


―――――― ガシィ!


死神の騎士「……!?」

勇 者 「…」


バリィンッ!!

掴み取った漆黒の『アックス』を刃ごと粉砕した。




―――――― カッッ!!


大魔導「おおおおおおお!!!!」


全身の魔力をフル活動させ、全力の『ベギラマ』を三連続で撃ち出す!

莫大な閃光の群が洞窟全体を震撼させ、『勇者』に最強の熱波を与える!!





勇 者 「 『デイン』 」








――――――  ゴォオオオオオオオオオオッッ!!!



剛雷が唸り、凄まじい雷撃が三連の『ベギラマ』を消失させる。

その黄金の輝きは巨大な重圧を大魔導に与えて来る。

今の呪文は、何なのか? と。


大魔導「………な……」


圧倒的。

まさに【史上最強】。


大魔導の眼前に、更に強大な青白い光が轟いていた。








勇 者 「  『ライデイン』  」





―――――― 洞窟内に音が鳴る前に、大魔導達は最後の光を見た。






あふぅ、あと三回か四回投下したら終わるみたいなの

おやすみなさい



―――――― 君はきっと、目を開けた時には僕の事を忘れてしまう。



『悲しいとは思わない』

『寂しいとも思わない』

『怒ったりもしないよ』


『でも……君は怒って良いよ、泣いても良い、寂しいって……僕に叩いて来て良いから』

『全部、全部僕がいけないから……君をこんなにしてしまったのは僕が悪いから』


『ねぇ姫ちゃん、今までごめんね』


『もっと姫ちゃんのしたい事や、食べたい物、見たい物……』

『叶えてあげたら良かったよね』

『だから君は覚えてなくても、僕だけの約束だよ』


『……姫ちゃんの願いは全部叶えるし、病気やお化けからも僕が守ってあげる』


『 僕は、君だけの勇者でいるよ 』




――― 『…ここ、どこ?』


――― 『お目覚めですか、姫様』

――― 『だぁれ? おとーさまはどこ?』

――― 『……姫様、失礼ですが…………あなたは何歳でしょう?』

――― 『えっと、昨日で四歳だよ!』


――― 『………そうでございましたか』

――― 『姫様、今日から貴女には教育係としてお友達が出来ますよ』

――― 『?』




――― 『初めまして姫様、僕は勇者です』


――― 『ゆーしゃ? 何歳?』

――― 『七歳、姫様より3つ年上ですよ』

――― 『私よりお兄ちゃんなんだ!』

――― 『うん、…じゃなくて……はい!』


――― 『私は姫、宜しくね! 髪の毛が金色のお兄ちゃん!』



【明日からの本編】





姫「…………」





「……」



姫「そこに、いるのは誰……?」



「……初めまして、姫様」






主人「ちょ、ちょっとお客さん! その女の子どうしたんだい!?」

「……何でも、ない、 部屋を借りたい……」

主人「あんたもどうしたんだその髪……生まれつきなのかい?」

「…………悪い、が、何も…聞かないでくれ………」

主人「……わ、分かったよ」

「…………」ズル…ズル…


主人(な、なんなんだ? 体中血まみれだし、髪の毛なんかあんな真っ白に……)

主人(あの抱きかかえられていた女の子はどこかで見たような…?)





「……ッ」ズキッ

(……着替え…よう、それからシャワーも浴びて……少し、寝ないと)

(………もう……10日寝て……な…………………い)



ドサッ



(……動け)

(……………こんな姿、見られる訳にはいかない)


(……)




姫「……」パチッ


姫「…っ、あたまいたい……」

姫(って、どこだろう? どこかの建物?)

姫(……不思議、ついさっきまで体が冷たかった気がするのにあったかい)

姫(勇者もいるのかな)

姫「勇者? いるの?」


――― ズキッ!


姫「っ!? ……頭が…………」ズキズキ



姫「~~っ!!」ズキズキ

姫(い、痛い……!!)

姫「ぅ……ぁ…勇者………」ズキズキ


ドサッ


姫「ぃっ……ぐ、ぁぁ…!」ズルズル  

姫「ゆっ…………ゆうしゃぁ! ゆうしゃぁあ!!」

姫(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!)ズキズキ ズキ  






「………っ!」ガバッ


「………………」

(姫……? いまのは、姫、なのか…?)


「姫……!」ズルズル


――― ズキッ!


「がッ……!? っ、体が……!」

(ま、まずい……体の限界を越えて痛みが今になって……)

「……ひ、め…」ズルズル




姫(………ッ、ッ、ッ!!)ズキズキ


姫「………いた…ぃっっ!!」

姫「勇者っ……ぁ……ゆうしゃぁ! ゆーしゃぁぁ…」



――― ぎゅっ



「…………ひめ、だ……ぃじょ………ぶ……」


姫「…………」

「……………」




――― ドサッ






――― 【こんな形であなた方と再会するとは】


――― 【お久しぶりですね、勇者様、そして……名も知らぬ少女よ】


――― 【目覚めなさい、私のかわいい勇者……そして少女】




ルビス「……こんにちは、お二人とも」



勇者「……!」

姫「?」


おやすみなさい

  


姫「どうなってるの……って、勇者?」

勇者「姫! 俺が分かるのか」


ルビス「……勇者様、私が誰かは分かりますね?」


勇者「!……【精霊神ルビス】、だよな」

ルビス「覚えていてくれましたね、では何故私が再びあなた方を呼んだか分かりますか」

勇者「…さあな」

姫「えと……勇者、この人は誰?」





ルビス「少女、貴女が『姫』ですね」

ルビス「私は【精霊神ルビス】、かつてロトの勇者と共にこの世界を守っていた精霊です」

姫「……あ、えっ?」


姫「知ってます! おとぎ話によく出て来た精霊ですよね!」


ルビス「……確か私は教会のシンボルにもなっていたのでは」

勇者「世間知らずなんだ、すまない」

姫「?」




ルビス「こほんっ、……それでですね勇者様」  


ルビス「今回あなたが使用した【メガザル】、あれが最後になってしまいました」

勇者「!!」

ルビス「もはや時間が無いという以前に、場合によってはあなた方2人が同時に死ぬかもしれません」

勇者「どういう……事だ、今までそんな事は一度も!」


ルビス「……しかし事態は『竜王』の出現で最悪の一途を辿りつつあるのです」

ルビス「姫様? 貴女が『竜王』に『慈愛の心』を理解させたせいです」


姫「ぇ…」





勇者「悪いがルビス、いくらアンタでも言い過ぎだ!!」バッ

ルビス「勇者様、私は今回限りなく怒りを感じているのです」


ルビス「特に勇者様はご自身の命をまるで薬草のように思い、そして平気で捨てている……」

ルビス「………もう一度言わせて貰います、姫様が何もしなければここまでの危機は迎えなかったのです」


姫「……私が悪い、の? 勇者、何を言ってるの」

勇者「何も姫は気にしなくていい、これは夢なんだ! 幻だ!!」


ルビス「……勇者様、もうごまかすのも隠すのもやめにしましょう」




姫「…………」

ルビス「姫様、これから話す事は何もかもが真実です」

ルビス「……そして貴女は幾つか信じられない事もあるかもしれません、記憶に無いかもしれません」


ルビス「しかしこれは全てが、貴女への最後の『試練』なのです」


姫「……」

勇者「姫、耳を貸すな……!」

姫「……」

姫「話して、精霊さん」

勇者「……っ」




ルビス「……」

ルビス「姫様の体は生まれた時より弱かったそうですね」

姫「? はい」

ルビス「そして本来ならばその年まで生きられるのは不可能とも誰もが言っていたのではありませんか」


勇者「……待てルビス、何を遠回しに言ってるんだ?」




姫「……はい」

ルビス「そうでしょう、貴女は幼少の間に死ぬ運命だと決まっていたのですから」

勇者「…は、」


ルビス「初代ロトの勇者が大魔王を討ち倒したその後、彼と私は大魔王が予言した事への対策を始めたのです」

ルビス「『ゾーマ亡き後、再びロトの勇者がいない世界に強大な魔王が再来する』……この予言を我々は恐れました」

ルビス「『大魔王ゾーマ』に匹敵する何者かが、ロトの勇者様が亡き時代に現れると言われてもどうしようも出来なかったのです」


勇者「………それが、姫の運命とどう関係がある?」

ルビス「姫様の運命は『偶然』なのです」

姫「勇者」

勇者「ッ……分かった、続きを頼む」




ルビス「そこで……私と当時の勇者様、2人の魂と魔力を注いだ『光のオーブ』を予言の時まで保管する事にしたのです」

姫「光のオーブって……もしかして」

ルビス「竜王が貴女の目の前で手にした『光の玉』の事です」


勇者「目の前で? まさか竜王の城に保管してたのか」

姫「ううん、私の前で手を翳したら出て来たのよ」

勇者「そうか……ん? ……!!」

ルビス「今勇者様が考えた通りです、私達は『1人の人間に』オーブを保管する事にしたのですよ」




ルビス「初めは大盗賊のカンダタ、彼は『光のオーブ』が放つ凄まじい魔力を生涯耐えきりました」

ルビス「そうして彼が亡くなると同時に、今度は『光のオーブ』は選んだ人間の中に移動する……」

ルビス「……常人ではとても『光のオーブ』の魔力を受け止めきれず、10年程で死んでしまいました」


勇者「………今までに何人死んだ……!」

ルビス「140人、でしょうね」

ルビス「…そして永き時を経て現在のオーブに選ばれたのが、姫様です」


姫「……」




勇者「ふざけやがって!! アンタ達はおかしいんじゃないのか!?」

ルビス「しかし現に今まで無事にオーブは守られて来ましたが?」

勇者「当たり前だ!! 竜王が出るまで平和だったからだろうが!!」


勇者「ロトの勇者とルビスが込めた魔力? そんなもん……要らなかったじゃねえか奪われたじゃねえか意味がないじゃねえかッッ!!」


ルビス「意味が無い? 本当にそう思ってるならば聞かせて下さい、オーブが無ければ勇者様は生き返る事は出来ないのですよ」

ルビス「ならばどうやって姫様を助けに行きましたか、どうやってあの夜生き返るつもりでしたか」

ルビス「今のあなた方がここにいられるのはオーブの魔力が助けているからなのですよ?」


勇者「……」

ルビス「…しかし今となっては勇者様が正しいのですが」




ルビス「話に戻ります、偶然オーブに選ばれた姫様は当然ながら幼い体では魔力の波動に耐えきれず『七歳』で死ぬ運命でした」

ルビス「ですがそこで貴女は奇跡的な『偶然』に救われた……ロトの子孫である勇者様にね」


姫「……七歳? 勇者に救われたの?」

ルビス「貴女は何歳の時に勇者様と出会ったのですか」

姫「四歳の誕生日……次の日」

ルビス「……本当は貴女が生まれた時から勇者様と一緒にいたのですよ」


ルビス「しかし貴女は記憶を一時的に失うしかなかった、そうするしか勇者様は貴女に【メガザル】を使えなかったのです」




姫「……勇者、メガザルってなに」

勇者「ルビス、ここからは俺が話していいか」

ルビス「包み隠さずお願いします」


勇者「姫は今ルビスが言った通り、七歳の時に一度『死んだ』んだ……」

姫「…でも生きてるよ」

勇者「生き返らせた……俺の命と姫の『思い出』を代償にしたんだ」

姫「思い出って、勇者との?」

勇者「………あの頃は俺としか過ごしてなかったから、まるで俺との記憶だけ忘れたように感じてるんだ」




勇者「……俺、本当は元々金髪だったんだよ? 覚えてるか」

姫「……ううん」

勇者「金髪だったんだ、でもそこからまた7年して姫が倒れた」

姫「うん」

勇者「二度目の『発作』だったから、姫が死ぬより先に俺がメガザルを使ったんだ……それでまた一時的に姫の体は元に回復した」

姫「勇者」

勇者「……なんだ」

姫「その時も、そのメガザルで死んだの? 私を治すために?」

勇者「………あぁ」

姫「わかった、続きを聞かせて」

勇者「……? わかった」




ルビス「ちなみにその当時は勇者様の魔力が充分だったので『思い出』を代償にせずに済んだのですよ」

勇者「ああ、そうだったな」

勇者「……それからまた半年位して、覚えてるか姫」

姫「? 半年…………あ」

勇者「姫が突然倒れた時、その時もメガザルを使った」

ルビス「私は止めました」


姫「…私を……起こすために? 直ぐ目を覚ましたかもしれないのに?」

勇者「ああ」

姫「……えへへ」

勇者「えっ?」

姫「私が変なのかな……深刻な話なのに、なんだか嬉しくて」


ルビス(……この2人は何故いままで結婚してないのでしょうね)

仕事が多い……おやすみなさい



勇者「嬉しいって……何度も死にかけてたんだぞ?」

姫「勇者は何度も死んでるんでしょ?」

勇者「そうだけど、それは……」

姫「どうしてそんなに私を助けてくれるの?」

勇者「どうしてって、…………」


姫「……だから嬉しいの、言葉で伝えられない位の理由があるから私を助けてくれるから」


勇者「……」

ルビス「どうやら姫様にとってはそこまで思い悩む事ではないみたいですね」

勇者「……俺の12年間って一体……」




姫「試練って言うから、凄く緊張したんだからね!」

勇者「姫は強いな……負けたよ」


ルビス「…」

ルビス(あのスライムについて、勇者様が話す気がないならば私は黙っていましょう)


勇者「ルビス、俺が話したい事はもうこれでいい」

ルビス「では本題に入らせて頂きます」




ルビス「先程お話した通り、あなた方2人は現在とても危険な状態なのです」

勇者「っ、何故だ? 『あのメガザルが最後』っていうのはてっきり魔力が不充分だからとかだろ」

ルビス「その通りですが、もっと深刻なのです」


ルビス「竜王がついに勇者様が姫様を助け出したのを知り、『光のオーブ』を『ブラックオーブ』に変えようとしているのです」


勇者「ブラックオーブ?」

ルビス「魔界の『暗黒神』達をこの世界に呼び込めるオーブ、今は魔王の素質を持つ竜王にだけ作れる物ですね」

勇者「……まさか『光のオーブ』が闇に染められたせいで?」


ルビス「はい、勇者様と私、そして『メガザル』の魔力で生命力を得ている姫様の全員にオーブの魔力が供給されなくなっているのです」




姫「全員? ルビスさんや勇者も魔力が無いと駄目なの?」

勇者「………俺と姫の場合はまだ『メガザル』を使用して7日すら経ってないからだ」

勇者「『メガザル』は発動者の命を代償にして人数を問わず発動者の望む人間を蘇らせる、けど……」

ルビス「勇者様は直前の戦闘で魔力を消耗していたのに続けて発動したので……」


ルビス「ただでさえオーブからの魔力供給が止まった中『勇者様の復活』と『姫様の蘇生』を同時にこなし、私を実体化させる魔力すら消耗してしまったのです」


姫「…え、じゃぁ……私達は7日経たないと蘇生と復活が完了しないの?」

ルビス「ええ、しかし後3日の猶予無く魔力が無くなります」




勇者「何か手はないのか、ここまで遠回しに言ったからにはあるんだろ?」

ルビス「……それが姫様にとっての試練なのです」

姫「?」




ルビス「方法は唯一つ、あなた方2人の全ての『思い出』を代償に魔力を生み出すしかないのですよ……」




姫「……2人の思い出を」

勇者「代償に……だと!?」




勇者「待てよッ!! 俺1人で充分だろ!? 姫まで記憶を失う必要は……」

ルビス「残念ですが、私はあなた方2人の記憶を魔力に代えても実体化は出来ず、勇者様と姫様2人しか救えないのです」

姫「ルビスさん…消えちゃうじゃない」

ルビス「えぇ、私は再びオーブに光が戻るまで眠りにつく事になります」


勇者「……他に方法は無いのか!? 記憶はどこまで消える!?」

ルビス「あなた方の場合は……互いの過ごして来た思い出を全て失うかもしれません」


ルビス「…それでも勇者様には『竜王は倒すべき存在』として記憶に残るので、世界は救えます」

勇者「………!!」

姫「……」


姫(……勇者との思い出が、三年分とかじゃなくて、全部…消える?………)





姫「……やだ、勇者との思い出を全部失うなんてやだよ」

勇者「俺もだ……っ!! 3日も猶予があるんならその間に竜王を倒せばいい!!」


ルビス「不可能です、魔力が尽き……果てには髪の色すら白になる程『現実』のあなたは衰弱しています」


勇者「2日寝れば、少しは……っ」

ルビス「それでも竜王に満身創痍のあなたは勝てるのですか?」

勇者「勝てる! 勝つしかないだろ!?」


ルビス「……勇者様は理解している筈、『勇者の儀』を済ませたあなたを一度殺した竜王の強さを」


勇者「………ッ!!」




ルビス「他に方法はありません、仮にどちらか一方が生き残っていても……八方塞がりです」

姫「勇者だけを生き返らせても?」

勇者「駄目だ!!」

姫「でも私だって勇者や世界のために……!」


ルビス「姫様、勇者様の言うとおりそれをすると勇者様は竜王と戦う事すら出来ませんので」

姫「そんな……」


ルビス(……本当に、特殊な性質の勇者ですからね)





――― 「……2人に少しだけ時間をあげます」


――― 「その間に覚悟が出来ましたら、私を呼んで下さい」





姫「…………」

勇者「………」








姫「……あはは」

勇者「……」

姫「勇者、なんか疲れちゃったよ」

勇者「……ああ」

姫「……おんぶ、じゃなくて良いから……」ポロポロ

姫「最後の思い出に……抱っことか、抱き締めてほしいな………」ポロポロ


勇者「……」ぎゅっ


姫「……っ」ポロポロ




姫「こんなに好きなのに……っ」ポロポロ

姫「こんなにっ…っ、近くにいるのにっ」ポロポロ

勇者「……」なでなで

姫「わ、わすれたくないよっ……やっと勇者の気持ちも理解できて、勇者にどれだけ助けられたのかも知れてっ」

姫「……っ、私の病気の原因もわかって悪い奴の企みもわかってこれから出来る事もわかって……!」


姫「やっと勇者に何が出来るかなって、考えられると思ったのに……!」ポロポロ


勇者「………」なでなで




勇者「……姫」

姫「……っ、…ひっく」ポロポロ

勇者「今から言う事は、絶対に『勇者の言葉』だと思ったらダメだ」

姫「……?」スッ


勇者「『勇者の家にある本棚の右から三番目の本の表紙を読む』」


姫「…なに、それ」

勇者「記憶しようとしたらダメ、俺の言葉だとも思うな」

勇者「……多分これが俺達の最後の賭けで、最後の『試練』なんだ……」

姫「…………わかった」






ルビス「……もう、本当に良いのですね?」



勇者「ああ」

姫「……」ぎゅ


ルビス「………」

ルビス「私はもうこれが人間と会える最後の時なのです、姫様にお聞きさせて下さい」

姫「…?」

ルビス「私が出て来たというおとぎ話……どんなお話でしたか?」




姫「もう長い間読んでないけど、確か……『囚われの身である精霊ルビスを、人間の男の子が助ける』お話だよ」


ルビス「……そうですか」

ルビス「作者は……覚えていますか」


姫「うーん、わかんないや……確か『アルス』とか『アベル』とか……そんな感じだったよ」


ルビス「…!」

勇者「……」

勇者「満足か、ルビス」


ルビス「………ぇぇ」くすっ




―――――― 君(あなた)はきっと、目を開けた時には俺(私)の事を忘れてしまう。



『俺は……悲しいとは思わないよ』

『私も……寂しいとも思わない』

『俺(私)は……怒ったりもしないよ』


『でも……君(あなた)は怒って良いよ、泣いても良い、寂しいって……俺(私)に寄り添って良いから』

『君(あなた)がいたから、今の私(俺)がいる』


『姫(勇者)、今までごめん……』


『もっとしたい事や、食べたい物、見たい物……』

『一緒に叶えられたら良かったよね』

『だから君(あなた)は覚えてなくても、俺(私)だけの約束だよ』


『……勇者(姫)の願いは全部叶えるし、病気やお化けからも俺(私)が守ってあげる』


『 私(俺)は、君(あなた)だけの勇者でいるよ 』







姫「…………」





「……」



姫「そこに、いるのは誰……?」



「……初めまして、姫様」





姫「……」

勇者「お見苦しい姿をお許し下さい、俺は勇者って言います」

姫「…その姿はどうしたのです、髪まで白く……」

勇者「竜王に捕まっていた姫様を助けるため、洞窟のドラゴンと戦った時に魔力を使い切ってしまったようです」


姫「……何故、私のために?」


勇者「あなたはラダトームの大切な王女だからです」

姫「……そうですか」





メイド「!! お帰りなさい勇者さん!」


勇者「…? 誰かは知らないがありがとう」スタッ

姫「これがキメラの翼ですか……凄いですね」


メイド「……え?」




メイド「勇者さん、その髪……ていうか今私を知らないみたいに……」

勇者「…?」

メイド「姫様も! なんで勇者さんともっとイチャイチャしてないんですか!」

姫「……だ、誰ですか?」


メイド「……は? 2人とも変ですよ!」




兵士「……お?」

兵士「勇者!? それに姫様!!」


兵長「おぉ! 姫様をついに助け出したのか勇者! 直ぐに伯爵の奴に姫様の事を伝えなきゃな!!」

兵士「俺は城中に言って来ます!!」


勇者「今夜はパーティーだなきっと」

メイド(……??)

姫「………」

姫(『伯爵』…)




姫(『パーティー』……)

姫(『伯爵』『パーティー』……?)


姫(あれ、私はどうして竜王に捕まったのだろう?)

姫(どうして竜王は私を妻にしようとしたんだっけ……?)


勇者「姫様」

姫「ひゃっ!?」びくっ




勇者「俺は今度の戦いでボロボロになった服を着替えに帰りますので、これで失礼します」

姫「えぇ、なんとお詫びをしたら良いか……」

勇者「礼なんて要りませんよ、勇者として当たり前の事をしたんだから」

メイド(……やっぱりおかしい? でも姫様はどこか…)


勇者「ではこれで……」スッ


姫「はい……」ぺこり







―――――― 【 行かせちゃダメ! 】 ――――――






姫「!」

ガシッ

勇者「!?」




勇者「……姫様?」


姫「ぇ? ぁ……そのっ」

姫「……」

姫「私も……勇者様のご自宅にまでご一緒して良いですか…」

勇者「あ、あぁ……構わないですよ」

姫(……)


メイド「……?」




おやすみなさい



勇者「かなり散らかってるけど、入って」

姫「ありがとう」スッ

姫「……本が沢山あるんですね」

勇者「まあね」

姫「………」そわそわ

勇者「どうかしました?」

姫「いえ、ぁ……何でもないです」




姫(……なんで、かな)

姫(……)キョロキョロ

勇者「? 今飲み物持ってくるよ」

姫「はい」

姫(………当たり前なのに、『初めて』勇者様の家に来た気がする)

姫(それに、何だか……『本』が気になってしょうがない感じがする)



姫「……でも、凄い量の本…」

姫「あっ」とんっ

バサッ

姫(どうしよう、勇者様の大切な資料だったら……もどさなきゃ)ガサガサ

姫「……?」

姫(なに? これ……)ガサッ




●ラダトーム王女、姫の体質


○男性恐怖症

○低血圧

○貧血?

○足に若干の障害有り(強く踏み込む事が出来ない)

○極度の不眠症(近くに人がいれば眠れるのを12歳の時に確認)

○今までの16年間で三度に渡って意識不明の昏睡状態になる(原因は不明・呪いの可能性有り)

○風邪を引くと咳が止まらない為、吐血する(キアリーで対処可能なのが幼少期に確認)



姫「……男性、恐怖症…?」

姫「不眠症……? 足に障害?」

姫(…………)

姫(え? ぇ……)

姫(なんで勇者様が私の体質を知ってるの、それに……)


姫「男性恐怖症の私が、どうして勇者様と普通に話せたの……?」




姫(……おかしい)

姫(絶対おかしい、私はあの宿でついさっき勇者様と会ったはずなのに!)



―――――― 【本棚の右から……番目の本を…………】



姫「っ! ひゃぁっ!?」びくっ

姫(……な、なに今の……勝手に私の口が……!!)




勇者「どうした、何かあったのか!」バッ

姫「い、いえっ……」

勇者「? あー……紙束落としちゃったのか」ガサガサ

勇者「怪我はないですか? 疲れてるなら少しそこで横になると良いですよ」

姫「ううん、平気」にこっ

勇者「良かった」にこっ


勇者「…」ハッ
姫「っ…」ハッ


勇者「……と、とりあえず飲み物を~」スタスタ

姫「わ、私もお言葉に甘えて休ませて貰います……///」カアア




姫「…………」

姫(…………)

姫(私、もしかして勇者様の何かを知っていて……向こうも知ってる?)

姫(今の自然な動作と会話、間違いないよね)

姫(うん? でもなんで覚えてな


―――――― 【本棚の……勇者の…………】


姫「……っ」バッ

姫(また? あれ……)




姫「………っ」ぱくぱく

姫(……唇の力を抜くと勝手に動いてる)

姫(………)


―――――― 【勇者の家にある本棚の右から三番目にある本の表紙を読む】


姫(!!)

姫「本棚って……これ?」ゴトッ

姫(なんで私が知ってるかはともかく……右から三番目? 何段目の?)




姫「……『錬金釜とは』…?」

姫「……」キョロキョロ

姫(…何を期待してるんだろ、私)

ゴトッ

姫「えっと……『悟りの書』?」

姫(……次、かな)




勇者「何してるんです?」

姫「ふぇっ!?」ビクゥッ

勇者「本を読みたいなら左から五番目がオススメですよ、描写が凄く細かいんです」

姫「へぇ……」

姫「……?」


姫「あの、『何段目の』ですか?」




―――― 『ああ! 上から二段目ですよ』

―――― 『俺の目線に合ってるんで、よく手に取る本は上から二段目に入れてるんですよ』

―――― 『ところで、何か食べます? パーティー前だからおやつ程度なら出すよ』



姫「……上から二段目の右から三番目……」

スッ・・・

姫「…………」

姫(……な、なんでドキドキするんだろ……凄く、何か変……)

姫(……)スッ





姫「………… 『 ぼうけんのしょ 』 ………?」



姫(元は日記帳かな、表紙の字は子供が書いたみたいな……)

パカッ

姫「って、あれ……中身は真っ白?」


―――― パラパラパラパラ・・・


姫「……何も書かれてない」パラパラ

姫「………」パラパラパラパラ

姫「………」パラパラパラパラパラパラ


姫「ぇ、・・・」パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ





姫「何これ、ページがなくならない!?」

姫(……見た目はそこまで分厚くないのに、もしかして何か魔法でもかかってるのかな)


―――――― パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ・・・


姫「……」パラパラパラパラ


―――――― パラパラパラパラパラパラパラパラパラパラ・・・………ピタッ


姫「!」

姫「あ、あれ……なんで止まったの? ……ページがめくれない?」ググッ

姫(……よく見ると何か書いてある)








―――――― さいしょから






姫(?)







―――――― さいしょから はじめますか ?





姫「『始める』って……なにを?」







―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!



姫「な、なに!? 『鐘』?!」


カッッ!!


姫(本が光っ……)




―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!





―――――― ・・・


あの日……僕にたった1人の家族が出来た。

昔、初代ロトの勇者は自身の宿命を知った時から『冒険の書』という日記をつけたらしい。

その日記は元はただの日記帳だったが、ロトの勇者が書き続けその人生を物語として描いた事で、魔法の力を持っていた。

僕はそれと同じように、この日記帳に魔法の力が宿る位にこれからの『冒険』をここに書き記したい。


僕は彼女だけの勇者だと、ここにその証を残す。



―――――― ・・・





姫(……今の、勇者様の声?)

姫(何が起きてるの? 何も見えない、真っ暗……)



―――――― 初めて『姫』と会ったのは、彼女が生まれた時からだった。


姫(………視界が明るくなってく)


―――――― まだ3歳である僕は『見習い教育係』として、僕の父親に姫と一緒に教育された。





幼勇者『おとうさん、ひめちゃんがかみのけひっぱるよー!』

幼姫『ー♪』ぐいぐい


父勇者『男は女の子の為に痛い思いするもんさ、我慢だ我慢!』


僕が五歳にもなると、二歳になり遊びたい盛りの姫と遊ばされた。

お父さんには、よく『女の子には優しく、痛いのは我慢しろ』と言われていた。


姫(……………)




勇者母『勇者? 姫ちゃんに薬飲ませてあげて』

幼勇者『なんでー?』

勇者母『姫ちゃん具合悪いのに、どうしてもお薬飲まないのよぅ』


幼姫『だってにがいんだもん……やだぁ』

幼勇者『でも姫ちゃん飲まないとつらくなるよ』

幼姫『うぅー』

幼勇者『僕が背中さすってあげるから、飲もう?』

幼姫『………うん』




父勇者『勇者、今日はキアリーの呪文をお前に教えるからな』

幼勇者『姫ちゃんは?』

幼姫『わたしもやるー!』

父勇者『こ、こらこら……姫様は魔力がまだ未熟なんだよ』


幼姫『やーだー!! ゆーしゃといっしょじゃなきゃやだー!!』


父勇者『……やれやれ、モテる男はつらいな? 勇者』ニヤニヤ



今思えば、僕が8歳の時のお父さんはニヤニヤする事が多くなっていた気がする。




姫(……これ、ひょっとして私と勇者様の幼い時?)

姫(でもこんなの全く記憶にないけど……)



僕が九歳になった時、つまり去年の夏だ。

同じ年の使用人の男の子達が、小さな猫を城の庭でいじめているのを見つけた。

姫はとても怒ったが、男の子達は猫を人質にして逆に僕達に条件を出した。

あの時、僕が彼等を蹴散らしていたら『スラリン』と会えなかった気がする。


スラリンとは、僕達が男の子達に条件として『森に肝試しに行ってくる』のを出された時に森で会ったスライムだ。


スラリン『ぴきーっ!』

姫(……!)




今週中に今度こそ完結したいな

おやすみなさい



姫「……このスライム、前にどこかで…………」

スラリン『ぴきーっ♪ ぴっ?』ぴょこ

姫「……」すっ


スカッ


幼姫『スラリン! おいでー、ゆーしゃと遊ぼう♪』

スラリン『ぴー♪』


姫(……さわれない)

姫(なんでかな、悲しい気持ちになった)




幼姫『さあアンタ達! その子猫を大人しく渡しなさい!』

幼使用人『えー? 本当に森に行ったかも怪しいよな~』

幼使用人2『なー?』


幼勇者『姫ちゃんが頼んでるんだ、渡せよ』

幼使用人2『なんだよ勇者! 俺達は年上だぞ?』

幼使用人『年下のくせに生意気だ!』


スラリン『ぴきー!』ドゴォッ

幼使用人『ぐぼぁ!?』




幼使用人『な、なんだこいつ!』

幼使用人2『うわぁ! モンスターだ、逃げろー!』



スラリン『ぴっ!(とんでもない奴らだね!)』

幼勇者『えへへ、ありがとうスラリン』

幼姫『子猫ちゃん、大丈夫かな?』

『みぃ…』



姫(わー、優秀なスライムだなぁ)




―――――― スラリンが姫と友達になってからはほとんど毎日が楽しかった。


今度はスラリンも一緒に森を探検したし、姫の六歳の誕生日もスラリンと一緒にプレゼントを渡した。

去年の日々は、とても楽しかった。


―――――― ・・・


姫(……あれ)

姫(…………)

姫(何も聞こえなくなっちゃった、何も見えないし)




姫(それにしても)

姫(やっぱりこれは、私と勇者様よね?)

姫(仮にそうだとしてなんで覚えてないの……?)

姫(……)


―――――― 半年して、僕が10歳になって少し後の時だ。


姫(!)





―――――― ザァァ・・・



姫(……雨)




この日の朝、外ではお父さんとお母さんが何故か慌てていた。

外は物凄い雨の勢いなのに、2人とも傘すら差していなかった。

お父さんはお母さんの手を握ったまま、僕に言った。


父勇者『勇者、俺は母さんと一緒にちょっと海を見てくる』

父勇者『心配はしなくて良いからな、よくある事だと思って諦めてくれな?』

父勇者『……ああ、それから王様に話は通しておいた……姫様の部屋に泊まってろ』


僕はやはり心配で、呼び止めた。

何度も呼び止めた。




父勇者『……ははっ、心配し過ぎだ! 勇者は男だろ、今夜は小さな妹みたいな姫様を守ってやれ!』

勇者母『勇者、ちゃんと姫様の面倒は見てね? 勉強も教えてあげなさいね?』


・・・これで、最後の会話は終わった。

僕の両親は戻らなかった。



姫(…………っ)ズキ

姫(? こめかみがちょっと痛かった)なでなで




戻らないだけなら良かった。

もしも帰って来ないだけならば、良かった。



幼姫『ゆーしゃ……』

幼勇者『…………』



両親がいなくなってから、何故か雨は半月近く降り続けた。

あの嫌な感覚が、ずっと続いた。

しかし、雨は晴れていよいよ王様が僕の両親を捜索しようとした所で……。




王様『何という事だ・・・』


幼姫『…!!』

幼勇者『………おと…さん……』



―――――― ・・・











(……え?)


幼勇者「お父さん……お母さん、お父さん!」バッ


< 「リムルダールの海岸に倒れていたそうです……」

< 「一体何が……?」

< 「よせ、勇者や姫様がいる」


王様「……姫よ、ここは勇者を両親としばらく共に居させてやろう」


「……ううん、ゆーしゃと一緒にいる」





(……これって、もしかして……)


王様「………良かろう、そなたに様々な事を教えた2人に別れを告げると良い」

王様「私は……玉座の間にいる」


「うん」

「………」すっ


幼勇者「……うぁぁぁ…!! お父さん! お母さん!!」

幼勇者「うわぁあああん……わぁぁ……!」ポロポロ


「………」ポロポロ




(……私、が………幼い姫になってる?)

(それとも……これが…………)



幼勇者「うわぁあああ……!! ひっ、ぅぐ……ぁあ」ポロポロ

「…………」ぎゅっ


「……勇者お兄ちゃん、一緒にお別れしよう?」

幼勇者「やだっ!! 起きてお父さん! お母さぁん!!」

「おじさんが可哀相だよ、勇者」

幼勇者「うるさい!! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさぁい!!!」

ガッ

「ひゃ……っ」ドシャ





幼勇者「あ………」


「……っ、大丈夫だよ…私つよいもん」グスッ

幼勇者「ごめん姫ちゃん……」


「……一緒に、お別れしようよ」


幼勇者「………」チラッ

幼勇者「…おとうさん……おかぁ………さ……グスッ 」ポロポロ

「勇者、泣くのはお別れしてからにしよう?」

「……じゃないとおじさん達安心できないよ」




(勇者……)

(っ!)ズキ ズキ ッ



幼勇者「……うん」

幼勇者「でも、どうやってお別れすればいいの…?」

「ばいばい、今まで沢山大切な事教えてくれてありがとう……って」

「……私は今そうお別れしたよ」


幼勇者「…………………」





―――――― ・・・


姫「……!」

姫「…戻っ……た?」



姫は……ずっと僕のそばにいてくれた。

僕より小さくて、年下で、妹みたいにすら思ってしまうのに。

なのに・・・


< 「……彼女はずっと、俺なんかより大人だったんだ」


姫「!!」




勇者?「……」


姫「ゅ、勇者……? なんでここにっ」

勇者?「……あの夜、俺はどうしても両親の悲しみが拭えずに泣いてたんだ」

姫「……」


勇者?「当たり前なのにな……10歳なんてまだまだ子供なのに、直ぐ前を向ける訳がない」

勇者?「でも、姫は心配してくれたんだな……一度も俺は姫に泣いてたりする部分は見せなかったから」

勇者?「…………」スッ

姫「えっ?」

勇者?「………君はあの夜………」





幼勇者「……っ、…っ」グスッ グスッ

ガバッ!

幼勇者「!?」

幼姫「……泣いてるの?」



勇者?「……ほんの一瞬、心配してくれている姫を思わず冷たく追い出そうとした」

勇者?「せめてベッドの中で、1人で泣きたかったからだ」


姫「……」




―――――― 『泣いてるの?』


幼勇者『……出ていけよ』

幼姫『ゆーしゃ、一緒に寝よう?』

もぞっ

幼勇者『………』

幼姫『泣いていいよ』

幼勇者『……』

幼勇者『…っ……ひっく』ポロポロ




幼姫『…どうして泣いてるの』

幼勇者『ぅぁ…っ、ひっく……っ』ポロポロ


幼勇者『ぼくは……1人ぼっちになったから……っ』グスッ

幼勇者『っ……もう、お父さんやお母さんに会えないから……っ』ポロポロ

幼勇者『いやだ……ぁ、いやだよぉ……!』ポロポロ


幼姫『ぎゅー』ぎゅっ


幼勇者『!』




姫「ッ……!!」ズキ ッ

姫(…………………………)バッ


勇者?「……」



―――――― 『姫ちゃん、遊ぼう?』

―――――― 『姫ちゃん、僕の手を握ってれば転ばないよ』



姫「……ゆーしゃ……」




幼勇者『……姫ちゃん?』

幼姫『寂しくないよ』ぎゅぅっ

幼姫『私がずっと一緒にいるから、寂しくないよ……勇者』

幼勇者『……』

幼姫『好き』

幼勇者『!!』びくっ




姫「ぅ……ッ」ズキ ッ ズキ ッ !

姫「………!」




―――――― 『まだホイミできなくてごめんね……薬草、塗ってあげるからおいで』

―――――― 『姫ちゃんはよく具合悪くなるから、お粥の作り方お母さんに教えて貰ったんだ!』

―――――― 『美味しい? 良かった!』




―――― 『 姫、これ食べてみてくれ……作ったんだ 』

―――― 『 美味しい? そっか、今度もっと姫が美味しいって言ってくれる物を作ってみるよ 』






幼勇者『…………』

幼姫『私は勇者が好きだよ、大好きだよ』

幼姫『……だから泣かないで、1人じゃないよ……私もいるよ』

ぎゅっ

幼姫『ね、こうやってずっとぎゅーすれば寂しくないよ勇者』


幼勇者『……!!』ポロ…ポロ…

幼勇者『…………うん』


ぎゅっ






姫ちゃん、おはよう     そりゃ心配だよ
                        姫ちゃんは弱いもんね


姫は欲張りじゃないよ
                    かき氷を作ってみた
                        姫は怖がりだから
     悪かったよ、無理に踊らせようとして


 あ、こっちのシロップかけると良いと思う          姫ちゃん、大丈夫?


  


      姫ちゃん、大丈夫だよ……すぐに良くなるからね

      ルビスさん、僕にその呪文の詠唱を教えて下さい

       姫のためなら、僕は何度死んでも蘇ってみせるし、命だって幾らでも……!!














姫「………………」



姫「……勇者……?」










勇者?「……」

勇者?「あの夜から、俺は歴代のロトの子孫が夢見ていた『勇者』になったんだ」


姫「勇者……ゎ、私………」


勇者?「初代ロトがそうであったように、『勇者の血』は世界を守りたいという真の覚悟に呼応して覚醒する」

勇者?「……でも俺が守りたいのは世界なんかじゃないんだ」

勇者?「俺にとって、姫は『友達』であり、『恋人』であり『家族』なんだ」


勇者?「だから、姫が死んでも僕は生き返らせる……姫に危険が迫っているならば何度でも蘇る」

勇者?「姫を守るためならどんな敵もこの力でねじ伏せてみせる」





勇者?「……これで、終わりだ姫」


姫「勇者! 私……思い出せたよっ、全部覚えてるよ!」


勇者?「…………『書』が見せるべき物は見せた……お別れだ、ラダトームの王女」

勇者?「 また、どこかで会おう 」



姫「ゆう…」



―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!




―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!



姫(ま、また『鐘』!? もしかして元に戻るの!?)


姫「勇者! 元に戻ったら、どうしたら勇者の記憶は戻るの!!」

勇者?「……俺が『勇者』だと分かっているなら、普通は聞かない質問じゃないか?」


姫(! 会話が通じた?)

姫「『今の』私なら、あなたが本当の勇者じゃないのは分かるよ! お願い……何か知ってるんでしょ!!」


―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!











―――――― ・・・「君が本当に『勇者』を想っているならば……君の『愛』が奇跡を起こすさ」









―――――― ゴゥンッ・・・ゴゥンッ・・・




姫「………」

姫(……大丈夫、ちゃんと覚えてる)ぎゅっ

姫「…………」スッ


勇者「姫様、手頃なクッキー焼いてみたんだが……」

がばっ!

姫「勇者……っ!」ぎゅーっ

勇者「うわっ!?」




勇者「ひ、姫様……??」

姫「私は思い出したよ! 勇者が最初に私を助けてくれた時も、全部思い出したよ!」

勇者「なんのことか……分からないんだけど」

姫「勇者、思い出して!」ぎゅっ


・・・シャランッ


姫「?」

姫「……何、この首飾り……?」ジャラッ




勇者「綺麗な細工だな、まるで俺の……」



キィンッ!! 


勇者「……『ロトの印』が、姫様の首飾りに……!?」

姫「きゃっ……!?」

姫(な、なにこれ? 凄くあったかくて……体が浮く感じ……)


キィンッ!! キィンッ!!


勇者「なんで『紋章』が姫の首飾りと共鳴してるんだ!?」






―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!



勇者「『鐘』……? っ、体の力が抜ける……!」




―――――― ゴゥンッ!! ゴゥンッ!!










姫『ばーかっ』









勇者「…………なんでもっと早く思い出せないんだ」ガクッ

姫「勇者!?」

勇者「……はは、記憶消されてまだ半日なのに……もう思い出したな俺達」


姫「………」ぎゅっ

勇者「お疲れ様、姫」なでなで




勇者(…それにしてもなんて思い出し方だ……)




姫「……ごちそうさまっ」

勇者「クッキーの仕上がりどうだった?」

姫「今まで食べた中で一番美味しかったよ」

勇者「……そうか」


勇者「………とりあえず、『ぼうけんのしょ』が役に立ったみたいだな」





姫「うん、『鐘』みたいな音がした後に勇者の書いた物が見えたの」

勇者「俺もその『鐘』の音聴こえて、それから姫の声が聞こえたんだ」

ジャラッ

姫「……これで?」

勇者「その首飾りと俺の『ロトの印』が共鳴したせいだな」

姫「そうなの?」

勇者「それ以外分からない……最初から俺は姫の記憶だけしか戻らないと思ってた」




姫「え……?」

勇者「あの『ぼうけんのしょ』に魔法が宿ってるかどうかも、本当に賭けだったんだ」

姫「つまり偶然ってこと?」

勇者「……『奇跡』かな、姫のその首飾りも含めてさ」

姫「……」ジャラッ

姫(……この首飾りに触れてると、体がふわふわする)




勇者「……あっ」

姫「どうしたの」

勇者「さっきメイドを驚かせちゃったな、と思って」

姫「あっ……さっきの私たち、別人みたいだったもんね」

勇者「後で謝りに行こうか」なでなで

姫「うん」ぎゅっ




姫「……勇者の頭、真っ白になったね」

勇者「……だな」

姫「金髪とか黒髪も良かったけど、真っ白だと変だね」

勇者「金髪? あれ、洞窟の時覚えてたのか」

姫「私を初めて助けてくれる前までは金髪だったでしょ」

勇者「あー、全部思い出したんだもんな……」




勇者「なんか……疲れたな」

姫「ね」

勇者「……パーティー、メイドに頼んでサボるか」

姫「でもお父さんが呼びに来るよ」


勇者「………姫、ずっと話す機会なくてごめん」ぎゅっ

姫「ふぇっ」ぎゅっ




勇者「……だから、今は伯爵の奴が王様の代わりになってる」

姫「………」

勇者「……」

姫「……………」

勇者「…………」


姫「………」ぎゅっ


勇者「……」なでなで




< コンコンッ


メイド「勇者さん、姫様? 伯爵王様が呼んでます」

メイド「……」


伯爵王「退きなさい」

伯爵王「……扉を壊せ」

伯爵兵「はっ!」





―――――― 「『デイン』」



バヂィィンッッ!!


伯爵兵「ぐああっ!?」ドサッ

伯爵王「なっ……」

< ドガァッ!!


勇者「よ、メイド」

姫「……」ぎゅっ


メイド「勇者さん!? って、姫様が背中にいるってことは……」

メイド「仲直りしたんですね」

勇者「喧嘩したと思ってたならそう思ってくれ」




伯爵王「っ!? まさか、本当に姫が……」よろよろ

姫「……死んだと思ったなら、残念でしょうね」


姫「伯爵、……癪だけどアンタにラダトームは任せるわ」


メイド「え……何故ですか姫様っ!!」

姫「私が決めたの、ラダトームは伯爵に任せるとね」

姫(……この男は苦手だけど、きっとこの国を守ってくれるから)


勇者(………)ギロッ

伯爵王「ひっ……?」




勇者「……もう行くぞ、姫」

姫「うん、ありがとう勇者」ぎゅっ

勇者「掴まってろよ」


メイド「勇者さん! どこに行くんですか!!」

勇者「悪いなメイド、色々心配させたりさ」

姫「ごめんねメイド」

メイド「ぇ、いやあの……」

勇者「心配するな、『姫と一緒に』竜王倒しに行くだけだ」




―――――― 「『ルーラ』!」




―――― ヒュバァァァッ



メイド「……行っちゃった」





勇者「こんばんは」


主人「ややっ!? 今朝来て直ぐに出てった人じゃないか!」

勇者「はは……悪かった」

姫「数日間泊めてくれる?」ぴょこっ

主人「おや、お嬢さんまで元気になっちまって……」

勇者「色々あったんだ」

姫「色々ね?」ぎゅっ


主人「……何だか知らんが、まだ部屋はそのままだから数日間泊めてやるよ」

勇者「料金は後で払うよ」

主人「まいど」


主人(……にしても幸せな顔してんなこの2人)




『次回』


主人「ゆうべはおたのしみでしたね」2828




おやすみなさい



姫「勇者ー? はやくはやくー」

< 「ちょっと待ってくれ、ここのハンドタオルは小さくて……」

姫「タオル着けなくてもいいのに」

ガチャッ

勇者「……一緒に入浴するなら必要なんだよ」




姫「どっちから頭洗う?」

勇者「別にどっちでもいいなー」

姫「じゃあまた勇者洗ってよ」

勇者「はいはい」


姫「あ、待って!」

勇者「ん?」

姫「……優しくしてね」

勇者「はいはい(かわいい)」




勇者「痒い所ないか?」ごしごし

姫「んぅ……」

勇者「んぅ?」

姫「後ろをちょっと強くして」

勇者「はいはい」ぐしぐし

姫「……~~っ」

勇者「どう?」

姫「首筋お願い」

勇者「頭じゃないな」




勇者「よしっと」ざばっ

姫「ひゃんっ!」

勇者「次は体か、俺は風呂に浸かってるよ」

姫「え? 洗ってくれないの」

勇者「背中だけならいいけど」

姫「ー♪」ニコニコ

勇者「……はいはい」なでなで

姫「えへへ///」




勇者(……えへへって、前はこんな感じだったっけ)ごしごし

勇者(姫が一週間の間で色々体験したせいか?)ごしごし

勇者(まあ……気のせいかもしれないな)ごしごし

勇者(考えてみたら、一週間も姫と離れ離れになったのは初めてだったし)ごしごし

勇者(………ん? そういえば)ごしごし

姫「ゆ……勇者っ、ね?」

勇者「ああごめん、どうかしたか」ごしごし

姫「…と、途中から……胸ばっかりになってる…っ」びくっびくっ



勇者「  」





勇者「……///」ごしごし

姫「……」

勇者「……////」ごしごし

姫「……」  

勇者「……~~/////」ごしごし

姫「勇者、もうお風呂に入ってて良いから……顔がどんどん真っ赤になってるよ」

勇者「……はい//////」





姫「終わったから次いいよ勇者」

勇者「んー」←冷静になった

姫「私が勇者の頭洗うよ♪」

勇者「おっ、じゃお願いしようかな」

姫「真っ白な頭を泡で更に真っ白にしちゃうんだからね!」

勇者「優しくしてな」

姫「やーだよっ」

勇者「OK (かわいい……)」




姫「痒い所ある?」がしがしがし

勇者「ないかな」

勇者(い、いてぇ……)

姫「もう流す?」

勇者「うん」

姫「よいしょ」ざばっ

勇者「ぐああああああ!!?」←傷ついた頭皮に染みた




姫「……ごめん」チャプッ

勇者「いや、ホイミしたから全然平気だけどさ」

姫「……」

勇者「……気にし過ぎだって」

姫「勇者の体洗いたかった」

勇者「どっちにしろダメだったから諦めてくれ」




姫「……ふぁ」

勇者「眠いか?」ごしごしっ←姫の頭拭いてる

姫「……うん」うつらうつら

勇者「疲れたもんな、姫が一番大変だったよな」なでなで

姫「……勇者、ベッド」

勇者「はいはい、寝るか」がしっ




姫「……zZZ」

勇者「おやすみ」ぱさっ

スタスタ

勇者(確か下の食堂に本があったな、少し読んでから寝るか)

勇者「っ」クラッ

勇者(……さっき『デイン』使ってかなり疲労が来てるな、10日寝てないし)

勇者(やっぱり寝よう)スタスタ




  ・・・ファサッ


  とてとて……


  もぞっ


  ぎゅっ・・・





勇者(……暑い)

勇者(寝苦しいな、布団はいらないか)スッ

姫「っ」ぎゅっ

勇者(……なるほど暑いわけだ)

勇者「姫、姫のベッドはそっちだぞっと」ぐいっ

姫「お願い」ぎゅっ

勇者「起きてたのか? ……!」

勇者(……泣いてる)




勇者「……」なでなで

姫「……」

勇者「ちょっと気になってたんだよ、姫の事」

姫「……」ぎゅっ

勇者「『全部思い出した』って事はさ、姫が俺にどういう感情を抱いてるか既に俺が知ってるって事なんだ」

姫「……?」すっ

勇者「もう機会を待つ必要もない訳だしさ……姫に応えようと思う」

姫「………勇者? それって」




勇者「いや、正直……恥ずかしい話だけどさ……」

勇者「言わなくてもわかってるんじゃないかと思ってたんだ」

勇者「………でも、姫も俺と同じように1人で泣いてるなら……せめて伝えてあげなきゃと思って」

姫「……」 ドキ ドキ


勇者「その………」

姫「うん……っ」 ドキ ドキ ドキ


勇者「…好きだ、ひめ
姫「!」ちゅっ

勇者「!!!??」




姫「……好き?」すっ

勇者「……」←てっきり王様が亡くなって自分と同じ悲しみに襲われてるのだと思ってたので、混乱

姫「勇者、私の事好き?」

勇者「……」コクコク

姫「私ね、全部思い出したんだよ?」

姫「だからあの夜勇者にしてあげた事覚えてるんだよ?」

勇者「……」コクコク




姫「だから私、全然寂しくないし勇者にやっと本当の気持ちを教えて貰って幸せ」

姫「……きっとお父さんも喜んでくれる気がするの」ぎゅっ

勇者「……」

勇者(やっぱり姫は俺より強いな……)


―――― ちゅっ




< ギシッ……ドンッ
< 「ひゃぁ……!」


主人「……ほう」







勇者「いっつつ……何するんだいきなり」

姫「ごご、ごめんねっ!? まさかこんな簡単に勇者が押し倒せるって思ってなくて」

勇者「当分は普通の人間にも力じゃ勝てないくらい、今の俺は疲労してるからな…」

姫「そうなの?」

勇者「ああ、ところで何で急に押し倒したりなんか……?」

姫「……ずっと前に勉強したでしょ、『ふうふのいとなみ』って」

勇者「っ!? あれは王族の為の、正しくない知識だからな!?」

姫「えっ」




姫「……じゃ、こうやって[ピー]するのも?」

勇者「ダメっ」

勇者(…………)


がばっ

姫「ひゃっ?」

勇者「……俺は、知ってるだけで実際に『そういう事』はしたことないんだ」

姫「う、うん」

勇者「だから……痛かったら、言うんだぞ?」

姫「……♪」ちゅっ

勇者「……」なでなで







主人「ゆうべはおたのしみでしたね」2828





勇者(な、なぜにバレている―――― ッッ!!?)

姫「……////」




勇者「……はぁ、厨房借りていいか」

主人「え? 朝食なら俺がつくるぞ」

勇者「姫は俺が作った物の方がいいんだよ」

姫「勇者の作った料理は美味しいんだよね♪」

勇者「……///」なでなで

姫「~♪」



主人(朝からなんだこれは……)




勇者(さて、と……一晩寝ただけじゃまだ体力も回復してないから無茶は出来ないな)

コック「お客さん、手伝う事は?」

勇者「野菜と皿を用意してくれればいい」

勇者(朝は簡単なサラダに適当なものでいいか)


―――― シャキィッッ!!

―――― ゴォォッ!! ジュバンッ!!

―――― ジュワァッッ!! シャカシャカシャカシャカシャカッッ!!

―――― スパンッッ!! シャッ・・ゴパンッ!!



勇者「『スクランブルエッグとフィッシュフライ、ハニーワッフル、霜降り肉のカルパッチョ風サラダ』・・・っと」

コック「……」



※のちにこのコックは、ラダトーム王家からの「料理長にならないか?」 という話を蹴ったそうな




勇者「フィッシュフライとか作ってみた、どうだ」

姫「……」モグモグ

姫「勇者」

勇者「んっ、うん? (め、珍しく無表情!?)」びくっ

姫「あーん」すっ

勇者「……へ」

姫「お口あーんしてよっ」

勇者「…」




勇者「あーんっ」

姫「えいっ♪」ひょい

勇者「モグモグ ……」

姫「~♪」モグモグ

勇者「……」ゴク

姫「ゴク どう?」

勇者「…いや、美味しいと思う」

姫「えへへ♪……私にもあーん♪」

勇者「……あ、ぁあ! なるほど!」


主人(何がなるほどなんだ……)

コック(なんという『あーん』の破壊力)




姫「んー、お腹いっぱい」

勇者「部屋で休むか?」

姫「うん、勇者おねがい」すっ

勇者「はいはい」がしっ

姫「勇者違う! おんぶじゃなくて、抱っこ」

勇者「え? おぅ…」ぎゅ

姫「ふふん♪」ぴとっ




勇者「よっと」

姫「ありがとう勇者」にこっ

勇者「どういたしまして」なでなで

姫「勇者、隣にきてきてっ」

勇者「?」

姫「……お昼寝、しよ?」ぎゅーっ

勇者「……」




姫「・・・ゆーしゃっ♪」もぞもぞ

勇者「……」なでなで

ぎゅっ

姫「ふぁっ……えへへ、勇者……」ぎゅ

姫(……あ)ぴとっ


<  ドキ ドキ ドキドキ ドキ ドキドキ ドキ ドキ


姫「……勇者、すごいドキドキしてる?」

勇者「……ん」なでなで





勇者「……姫、前に比べたらすごい変わったよ」

姫「そうかな」

勇者「なんかさ……今までなら直ぐに姫がして欲しい事がわかったのに、分からないんだ」

姫「悪いこと?」

勇者「悪いことじゃない、姫が前よりもっと大切というか……どうしようもない位愛おしくなってきた」

姫「ふーん……やっぱり昨日したえっちのせいかもね」

勇者「かな……」ぎゅっ






主人「あさからおたのしみでしたね」2424




勇者「……覗きか」ギロッ

主人「俺の部屋の上があんたらなんだよ!」





主人「……で? イチャイチャしてたアンタの嫁さんはどうした」

勇者「寝ちゃったみたいだ、慣れない事何度もしたから」

主人「へーぇ(笑)『何度も』?」

勇者「……殴っていいか」

主人「冗談だ」

主人「……でアンタどこに行くんだ」

勇者「『忘れ物』を取りに行くだけだ、直ぐ戻るよ」


勇者(……姫を少しでも守りたい、そのためには『アレ』が絶対必要になる)





おやすみなさい



姫「……ん」むくっ

姫(………部屋が真っ暗、結構寝ちゃった?)

姫「……」ジャラッ

姫(…………)きゅっ

姫(この首飾りに触れてるだけで、勇者への愛が湧き出るみたい……)

姫「…勇者?」




姫「……」

< 「2413…2414……2415………」

姫「勇者、いるの?」

< 「! ああっごめん、起こしたか姫」

< ゴトンッッ

姫「なにしてるの」

勇者「ふぅ……ちょっと鍛えてた」スッ




姫「凄い汗かいてるよ勇者、こっちに来て?」

勇者「ん」

姫「汗びっしょり……お風呂入った方が良いよ」ふきふき

勇者「そ、そうか? もう少しやりたいんだけど」

姫「もう夜だし、私お腹すいちゃったのっ」

勇者「……くす、はいはい」なでなで




< ジャァァ・・・


勇者「~♪」ごしごし

姫「~♪」ごしごし

勇者「目に泡さえ入らなければ良いなぁ……これ」ごしごし

姫「えへへ、頭洗いっこ楽しいでしょ」ごしごし

勇者「楽しい楽しい」なでなで

姫「♪」ごしごし




勇者「じゃ、まず俺から頭流していいかな」

姫「うんっ、私が流してあげ……」

姫「……」ピーンッ

勇者「?」

姫「やっぱり私から流してくれる? 頭がチクチクする」

勇者「ん? わかった」

勇者(そういえば姫の肌はデリケートだもんな……)ごしごしざばっ




勇者「よし、じゃあお願いしていいか」

姫「任せて♪」ごしごしざばっ

勇者(っとと、目閉じてないとしみるな)

姫(……目、閉じたかな)

勇者「……姫?」

姫「目は閉じてなきゃしみるよ?」ざばっ

勇者「うぉ、わかった」

姫「ふふん」ニコッ




姫「勇者、ちょっと顎上げててね」ざばっ

勇者「ん」

姫「……」ドキ ドキ

ちゅ・・っ

勇者「! ……」なでなで

姫「……このまま、昨日の夜中したみたいにしていい?」

勇者「ん」




姫「……ん…クチュ……」ぎゅっ

勇者「チュ……、姫、ちょっと待ってくれるか」

姫「だめ、目は閉じてて?」ぐいっ

勇者「閉じたままするのか……」

姫「うん」クス




姫(……う、うわ? 明るい所で見ると男の人のこれって……)ビクッ

姫(……)ドキ ドキ


パクッ


勇者「―――――― ッッ!!?」ビクッ!!

姫「…ふっ……ん、クチュ …クチュ 」




勇者「っ、姫 そんな……っ」

姫「……♪」カプッ

勇者「い"っっ!?」

姫「ぷは……えへへ、下手に動いたら大変な事になっちゃうよー?」

勇者「ちょ、姫! どうしたんだお前!?」

姫「パクッ」

勇者「~~!」ビクッ




……クチュ…クチュ……ッ

姫「んっ……ふ…ぅん?」ジュプ

姫(……そろそろかな)

姫「ぷはっ……ふぅ」

勇者「……大丈夫か」

姫「勇者は気持ち良い?」

勇者「そりゃ、まあ……」

姫「嫌だった?」ニコッ

勇者「…………」

姫(ー♪)ニコニコ




ガバッ

勇者「あー、もう……普通に言ってくれたらいいのに」

姫「…♪」ぎゅっ

< クチュッ

姫「ぁ……っ」

勇者「好きだよ、……クチュ」

姫「んぅ……っ」チュッ

姫(ひぁ……あっ、指が入って……ぁ)ビクビク








主人「こいが みのる やど はじめました」5555







勇者「わかったからその怖い顔やめてくれ……」

姫(♪)ぎゅっ




勇者「なあ、この近くに何かお店あるか」

主人「デートか」

勇者「うん」

姫(///)ぎゅっ

主人「その娘さん向きな店なら、ちょうど今夜から村で祭りがあるよ」

勇者「マイラの村にしては珍しいな」

主人「温泉祭りってやつさ、背中の嬢ちゃんも楽しんできな」




屋台「へいらっしゃい! 温泉まんじゅうはどうです?」

勇者「5個くれるか」

屋台「背中の嬢ちゃんに味見サービスで1つあげるよ!」

勇者「お! ありがとう」

姫「まんじゅう?」

勇者「甘いお菓子だよ」

姫「はむっ……甘くておいしい」ニコッ

屋台「可愛い嬢ちゃんだねぇ! 5個のうち2個はタダにしとくよ!」




姫「ゆーしゃっ! 向こうに射的あるよー!」ぺしぺし

勇者「んん? 姫は苦手じゃなかったっけ」

姫「勇者がやってる所が好きなの、かっこいい」

勇者「よしやろう」キッ

姫「ぬいぐるみぬいぐるみ~♪」




店主「や、やめてくれぇぇ!! ひええええええ!!」


< 「すげぇ……客泣かせで有名なオヤジを泣かせてやがる」

< 「ていうかあのカップル、というより男がヤバい」

< 「今、矢が景品をホーミングしてなかったか?」


勇者「あと3つで全景品を制覇だー!」

姫「よく狙って勇者! 矢はこれが最後だよ!」


シュバッ

ガカカッッ!!


店主「ぎゃああああ!! 全滅したああああああああああ!!?」




勇者「いっぱいふくびき券もらったな」

姫「ちょっとかわいそうだったから、ちょうどいいんじゃないかな」

勇者「ふくびきの後、温泉行ってみるか?」

姫「混浴?」

勇者「混浴」

姫「えへへ……///」

勇者「こらこら(かわいいけど)」なでなで




福引所「おめでとうございます! 一等の『マイラ温泉1日無料券』を差し上げますよ!」

姫「やったぁ!」

勇者「く、くじ運いいな姫……」

姫「勇者はぜーんぶ薬草だったもんね」

勇者「うむぅ」

姫「ふふん♪ ほめていいよ」

勇者「かわいいかわいい」なでなで

姫「////」ぎゅっ


福引所「 おきゃくさん こまります ほかのおきゃくに めいわくです 」2828





勇者「んー……温泉なんて初めて入ったな」

姫「私もだよ、気持ち良い……」

勇者(……これで姫と2人きりなら、尚良かったけど)ちらっ


< ワイワイガヤガヤ


勇者「普通に他の夫婦とかいるんだもんな……」

姫「?」




姫「あ、勇者勇者っ! 向こうでお水配ってるよ」

勇者「本当だな……取ってこようか?」

姫「私が行く、ちょっとのぼせて来たの」ざばっ

勇者「……」

姫「なに?」

勇者「行ってらっしゃい」

姫「ぅ? わかった」




姫「ふぁぁ……のぼせちゃったぁ」

勇者「水と思ったら酒だったからだろ」

姫「透明なお酒らんて……初めへらったのぉ」

勇者「あまり見ないからな、マイラの温泉宿では名物らしいし」

姫「ふぅん……物知りらね」

勇者「はいはい」なでなで

姫「気持ち良い気分……♪」




勇者(……何かお土産欲しいな)キョロキョロ

勇者(せっかく姫とまともに、デート出来たんだし……)

姫「むにゃzZZ……♪///」


勇者「なあ、それなんだ?」

鍛冶屋「『銀の髪飾り』だよ、軽くて丈夫だし、嬢ちゃんへのプレゼント向きなのもあるよ」




勇者「この娘に合うのはあるか」

鍛冶屋「嬢ちゃんにかい? なかなか綺麗な髪だな、それなら……」

鍛冶屋「コイツはどうだ」

勇者「は、派手じゃないか」

鍛冶屋「女性は派手なもんが好きさね、他にするかい」

勇者「あー、どうするかな」

姫「zZZ」ぎゅっ

勇者「……そっちの頼む」

鍛冶屋「コイツかい? 随分子どもっぽいな」

勇者「可愛い方が良いんだ」

鍛冶屋「そうかい、750Gだよ」




主人「おや、お帰り」

勇者「部屋に水を持ってきてくれ」

主人「なんだ、酔ってるのかその嬢ちゃん」

勇者「水と間違えたんだ」

主人「へぇ、とりあえず後で持っていくよ」

勇者「すまない」スタスタ




勇者「よっ」

姫「……んっ」ぼふ

勇者(この分だとしばらくは寝てるな)

勇者(……行くか)

ガチャッ

勇者(っ……本当に重いな)ズシッ




主人「水持ってきてやったぞー」ガチャッ

主人「……なんだ、お楽しみ中じゃないのか」

主人(水はここに置いとくか)コトッ

主人(……?)

姫「zzz」

主人(嬢ちゃん置いてどこに行ったアイツ?)  

主人(ふむ、しかしこの嬢ちゃんどこかで見たような……)

姫「zZZ」すぅ





勇者「……」スッ


―――― ヒュィン!


勇者「……っ」ドサッ

勇者(重すぎる……いくら全快時の二割に満たない程に弱っていても、これ程の重量なんて……)

勇者(……)グッ

勇者(それでも、これを片手で扱えるようにならなきゃ意味がない!!)




―――― ヒュィン! ヒュンヒュンヒュンッッ


勇者「………」ヒュィン

勇者「……っ」グラッ

勇者(……夜もかなり深くなってきた、戻ろう)

グラッ

勇者「!! しまっ」




  ドズゥゥンッッッ!!








< 「うわああ! 地震か!?」

< 「ついに竜王がここにも……」

< 「外に出ろー!!」


勇者(まずいな、ここを離れよう)ズシッ

勇者(……『レプリカ』とはいえ、何で出来てるんだこの剣)




< ズゥ……ン……


姫「……?」びくっ

姫(揺れてる……何だろう)

姫(また部屋も真っ暗、勇者は……?)

< ガチャッ

< 「……やれやれ」ゴトッ

姫「……(こんな夜中に私を置いてくなんて、脅かしちゃおうかな)」スッ




姫(……♪)ソロソロ

勇者「はぁ、危なかったなぁ……」

姫(ふふん、気づかれてない気づかれてない♪)スッ


キィン!


勇者「うおぁ!? いたのか姫!」ビクッ

姫「あ……ばれちゃった」




勇者「そうか、俺の『ロトの印』と姫の首飾りがまた共鳴したのか」

姫「もう……こんな時に」

勇者「なんで共鳴したのか、いまいち分からないな」

姫「勇者のそれも何なの?」

勇者「俺が『勇者の儀』を終えてから、最後の試練を賢者達に出されてな」

姫「その時に貰ったの」

勇者「いや、試練で手に入れるんだが……まあこの話はまた今度な」




勇者「……で、どうかしたのか姫」

姫「ぇえ!? な、なななんでもないよっ!」

勇者「? そっか」

なでなで

姫「んっ、なに?」

勇者「まだ顔赤いし、水飲んで落ち着いたらどうだ? 姫の体は酒に強くないんだから」

姫「……うん、ありがと」にこっ

勇者「じゃあ俺はシャワー浴びてくるから、先に寝ててくれ」




< ジャァァ・・・


姫「……あ」

姫(これ……勇者、この剣持って外に行ってたのかな?)

ひょいっ

姫(凄く軽い……何で出来てるんだろ、綺麗な装飾もされてるけど)

姫(……刃物振り回したら怒られるかな、やめよ)ゴトッ

姫「? 意外に重そうな音が出た……??」




< ・・・チュン…チュン…


勇者「……うっ…ん~」ぐぐっ

勇者(朝か、寝た気がしないな)

姫「……zZZ」ぎゅっ

勇者「………」

勇者(おはよ、姫)チュッ

勇者(……~~~ッッ!!)

勇者(恥ずかしいなこれ!! うわぁ……村を少し走って来よう!)




ガチャッ

勇者「……?」

勇者(やけに静かだな、まだ主人はいないのか)スタスタ

勇者「……いない、か……」

勇者「『朝食も俺が作るから部屋に行かなくて良い』っと、書き置きしとくか」サラサラ

勇者(…………)

勇者(静かだ)




―――― ザァァ・・・


勇者(……)

勇者(この雨だと、走るのはやめとくか)スッ

勇者(……)クルッ

勇者(…………)

勇者(…………………)

勇者(人の気配を……村から感じない……)




ガチャッ

勇者「誰か!!」


ガチャッ!

勇者「誰かいないのか!?」


ガチャッ!!

勇者「……」


カチャッ

勇者「………」ギィ

勇者(……いない)




ガチャッ!!


勇者「姫……!」バッ

姫「んぅ、おはよう……」ぎゅっ

勇者「よかった無事か、掴まってろ!」ギュゥッ

勇者(……!)チャキッ

勇者(どこから逃げる!? 窓からルーラか!?)

姫「勇者? どうしたの」

勇者「少し雨に当たるから、目を閉じてろ!」ぎゅっ

姫「??」




―――― ヒュバァッッ!!


姫「ひゃぁ! な、なに勇者!? どうなってるの!」

勇者「事情は後で説明する、今はここを離れる」タンッ

勇者「ッッ!!」グッ


ドヒュッッ―――― !!


姫「きゃぁっ……勇者っ」ぎゅっ

勇者「大丈夫だ姫、大丈夫……っ」




勇者(もし、もしも……)

ドヒュッッ!!

勇者(村の人間を消したのが、『竜王』なら……!)

勇者(とても今の俺じゃ、最初の戦い以上に刃が立たない、勝てない!!)

勇者(逃げないと……! 逃げないと!!)タンッ


ドヒュッッ!!





ダンダンダンッ!!

勇者「頼む!! 開けてくれ! 誰かいるだろう!!」

< 「その声……勇者か、どうしたのだ」

勇者「マイラの村が襲われた! 今の俺じゃ戦えない!」

< 「!? 良かろう、しばし待て」

勇者「……」ぎゅっ

姫「………」




勇者「……すまない、助かった」

「タオルを持って来よう、王女の体に雨は辛かろう」

勇者「頼む」

姫「……私を知ってるの?」

勇者「ああ、両親が死んでから俺に魔法なんかを教えてくれた人だ」

姫「師匠ってこと?」

勇者「それだと二週間で師匠を越えた事になるかな」




賢者「コホン、久しぶりだの勇者よ」

勇者「大体二週間ぶりか」

賢者「うむ、しかし本当に王女が生きておったとは……」

勇者「……」

姫「勇者、怒らないで」なでなで

勇者「……ん、ありがとう」なでなで


賢者(流石は勇者を覚醒させただけはある……お互いに愛し合っているようじゃな)




賢者「ふむ……一晩で勇者に気づかれる事なく、マイラの村を全滅か」

勇者「ああ、生活の跡すら無かった……竜王の仕業なのか」

賢者「1つ聞きたいのだが、勇者の『紋章』に異変は無かったのかの」

勇者「無いな」

姫「……勇者、昨日の夜私達のが一度光ってたよ」

勇者「! まさか……?」




賢者「勇者を『ロトの勇者』と認めているなら、『紋章』はお主を呪いの類から守るだろう」

賢者「……じゃが守れるのは勇者のみ、何故に王女は助かったのか」

姫「……?」

勇者「……」チラッ


姫(勇者の『ロトの印』って、そんなに凄い物なんだ)ジャラッ


勇者「姫の首飾り……か?」

姫「ふぇ?」




姫「私の首飾りが守ってくれた、ってこと?」

勇者「それ位しかないかな」

賢者「ふぅむ? ちょっと見せてくれい」

ジャラッ

賢者「………」ジャラッ

賢者「ありがとう王女よ、ほれ」

姫「っ」ジャラッ




勇者「どうなんだ」

賢者「信じられんが、その首飾りはひょっとすると『紋章』よりも強い力を持っとるかもしれんな」

勇者「……凄いな」

賢者「まあ何より、無事なのは奇跡じゃ……呪いから守られるとはいえ闇からも守られるとは限らん」

勇者「闇って竜王の事か」

賢者「うむ」




賢者「近々、竜王の城から強大な波動を感じたのだ……」

賢者「以前に比べると、パワーも増しておるのやもしれぬ」

勇者「以前よりか」


< きゅっ


勇者「?」

姫「勇者なら勝てるよ、きっと」にこっ

勇者「……」

賢者「……やれやれ年寄りには暑苦しいの、しばらくは2人ともここに留まりなさい」

勇者「ああ、そうさせて貰うよ」






―――― 【おぉ・・・!!】



―――― 【これが我の新しき力か!! これぞ竜族の覇者に相応しい!!】



―――― 【クックック・・・勇者よ、貴様が我に挑んで来るのを楽しみに待っているぞ!】






勇者「……っ!」ガバッ

姫「勇者、大丈夫!?」

勇者「……寝て、たのか」

姫「部屋に来て少ししたら一緒に寝たんだよ?」

勇者「っ、頭が痛い……水あるか」

姫「今持って来てあげる!」スッ




勇者「……ありがとう」コトッ

姫「大丈夫? うなされてたよ」

勇者「はは、俺としたことが……」

姫「怖い夢見たの?」なでなで

勇者「かなり怖い夢だよ」

姫「……竜王と関係ある?」

勇者「…………」




勇者「一応さ、まともに俺を殺したのは竜王1人だけなんだ」

勇者「だから……そのアイツが以前より強くなったって聞いたら……ちょっとな」


姫「怖いの?」


勇者「えっ」

姫「怖いんだよね」

勇者「……怖い」

姫「私だけじゃなくて、勇者自身も守れないもんね」

勇者「……姫は必ず守るよ」

姫「駄目、私を守ろうとしたら負けちゃうよ? ……勇者に私からアドバイスしてあげる」





ガバッ

勇者「うわっ!」

姫「チュッ……ん…」

勇者「………」

姫「……っは、『攻撃こそ最大の防御』ってね♪」

姫「ふふん、どう?」

勇者「……愛してます」

姫「な、なんで敬語…?」





―――― ギュンッッ!!


勇者「おぉぉおおおおああああああああああ!!」

―――― シャッッ!!

ヒュィンッ!! ズバッ!!


勇者「はぁはぁ……だぁッ!!」ブンッ


ゴバァンッッ!!


姫「勇者……凄い」

賢者(明らかに姫のおかげでやる気を出してるな、溺愛にも程があるわい)


おやすみなさい



賢者(……あの2人が来て、半月かの)

賢者(早いもんじゃが……あの2人にとっては随分長い時間に感じたじゃろう)


カツンッ


賢者(………『雨の祠』という名前とは言え皮肉なもんじゃの……)

賢者(もうあの2人が来た日以来、雨が止んでおらぬ)

賢者(……………これではまるで、)










―――――― 「 勇者の両親が死ぬ前と同じではないか・・・ 」











勇者「……」スッ

勇者「……」ヒュッ

勇者「……」ヒュッ

勇者「……」スチャッ

勇者(もう重さは感じないな、これなら充分に……)


< 「ご飯だよー!」


勇者(……)くすっ




姫「ほらほらっ、できたよー!」

勇者「おー、美味そうだ」

姫「スープの隠し味が効いてるんだよ♪」

賢者「ほぉ、スープを作ったのか……どれ」ぺろっ


賢者「  」


勇者(【やっぱり】 死んだか )

姫「お爺さん!?」




勇者「あー、多分ちょっとしょっぱかったんだな」

姫「そうなの?」

勇者「このスープは俺が飲むから、姫は後でレシピ教えてあげるよ」

姫「スープちょっと味見していい?」


ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクッッ!!!!


勇者「……ごちそうさま」

姫「もう、また1人で飲んで……///」

勇者(……半月前の弱ってた俺なら死んでるな)




・・・


姫「勇者、お風呂入ろー」ぎゅっ

勇者「ん? 少し早くないか」

姫「最近の勇者、汗臭いんだもん」

勇者「あ……そうだよな、ずっと鍛錬してるからあんまり臭いとか気にしなかったよ」

姫「毎日洗ってもすぐ汗かいたりするからだよ」

姫「……ね、隅々まで洗ってあげるから」きゅっ

勇者「……~~~、はいはい」がしっ

姫「抱っこ♪」

勇者「はいはい」なでなで




< 「っと、いつまでもデレデレしてると思うなよ!?」

< 「ひゃぁぁ!? くすぐ、ぁ……ふぁぅ」


賢者(静かに出来んのか……まったく)

賢者(……)スッ

賢者(どれ、ちょいとアレの様子でも見るかの)




ガチャッ


賢者(……ワシでは持つ事すら叶わぬが、見る事なら出来る)

賢者(なんと神々しい……)


< ……キンッ


賢者(『レプリカ』とは思えぬ、まるで本物の【 王者の剣 】だ……!)

賢者(儀礼用に初代ロトが何者かに作らせたらしいが、この美しい風格は完全に聖剣の域)

賢者(毎日見てはいるが、この剣が本物かと疑える程だ)




スッ・・・

賢者(だがやはり『レプリカ』……歴代の勇者一族でもこれをまともに操れたのは初代ロトと勇者のみ)

賢者(それも、勇者に至っては成長して怪力を身につけたからこその芸当だ)

スタスタ

賢者(……初代ロトは知らぬが、あのような重い剣…一体誰が作ったのやら)

賢者(さて、そろそろ寝るかの……王女の体を気遣っている勇者なら長風呂はせぬだろうしな)

賢者(……)





姫「…///……////」ビクビク

勇者「だからやめとけって言ったのに……」

姫「………////」

勇者「大丈夫か?」

姫「……にゃぁ///」カプッ

勇者「ぅあ! 落とすからやめろっ」

姫「好き……////」

勇者「分かったから、少し落ち着けって……」




勇者(……やっぱり『こういう』のは程ほどにする必要があるな、人間を駄目にする)

姫「……///」じっ

勇者「どした」なでなで

姫「……みゅ…///」ぎゅっ

勇者「まだ落ち着いてないのか?」くすっ

姫「ぉ……思ったより、その……~~」ぎゅっ

勇者(まあ……こんな姫をたまに見れるなら良いか、うん)なでなで




ガチャッ

勇者「到着ですよ姫様っと」スッ

姫「……ふぁっ」ぺたん

勇者「って、姫?」

姫「~~/// 立てないっ……////」

勇者「世話のしがいがあるなぁ、んっと」がしっ

姫「……////」ぎゅっ




姫「……」もぞっ

勇者「(かわいい) 俺はちょっと素振りしてくるよ」

姫「だめっ」ぐい

勇者「なんで」

姫「もう少し一緒にいて……、まだここのドキドキが止まらないの……」きゅっ

勇者「……仕方ないなぁ」なでなで

姫「~♪」




姫「ん……ちゅ、カプッ 」

勇者「いひゃい」

姫「えへへ……ちゅー」チュッ

勇者「………」なでなで

姫「胸にぎゅってして……勇者」

勇者「ん」ぎゅっ

姫「んぁっ……じゃなくて、勇者の胸に抱き寄せてぎゅうってしてほしかったの!!」////

勇者(……ついやっちゃった)




勇者「はいはい」ぎゅーっ

姫「……////」

勇者「……」チラッ


< キィィィンッ!!(明らかに爆発しそうなくらいの光)


勇者(絶対あの首飾りって姫の心とリンクしてるよなぁ)

姫「撫でて撫でて……」くいくい

勇者(首飾りの光が弱くなるとこれだし)なでなで




勇者(……)なでなで

姫「……♪」すりすり

勇者「明日こそ晴れたらいいな」

姫「? ……そうだね」

勇者「姫の体に悪いからな、太陽に当たらないと」

姫「心配?」

勇者「凄く」

姫「////」きゅ

勇者(……正確には心配じゃなくて、怖いんだけどさ)なでなで





● ● ●



賢者「がッ! ……はァ……ッ!!」ドサッ


{ ズ ズ ず ズ  ズ っず  ズ


賢者「っっ・・・!! ま、さか……竜王めッ………」

賢者「『聖域』すら……闇に飲まれると、は………ぐぉ」ずズギュッ

賢者(……あの2人は、無事なのか………?)

賢者(~~!!?)

< ズォムィュッッ

賢者「…は、はは……『光のオーブ』が闇に染まる事は、こういう事なのか? これではマイラのむら…っぁが!?」



{ ズ ず ズ  ズ ズズッ  ッッ



賢者「ゆッ……勇者、どうか世界を………!!」





{   トプンッ




● ● ●










勇者「……zZZ」ぎゅっ

姫「……zzz」きゅっ













< キィィィンッ!! キィィィンッ!!

< キィィィンッ!! キィィィンッ!!













勇者「……じいさん、どこだ」

勇者(………マイラの村の時と、同じ……?)


勇者「……じいさん……!」ガッ

< ビシッ! ズドォォッ!!


勇者「竜王か? アイツの仕業なのか……!!」


< 「今の、なに!?」




姫「ー! 勇者、壁が……」

勇者「じいさんが消えた」

姫「……」

勇者「マイラの時と同じだ、俺が生まれる前からこの祠を出ないじいさんが外に出るわけないのにここにはいないッッ!!」

姫「…っ」びくっ

勇者「……ごめん」ぎゅっ

勇者「………ごめん」

姫「………」




勇者「…………」

姫「……」

姫「ね、逃げなくていいの?」

勇者「……もう逃げる選択肢は無いんだ」

姫「なんで……かな?」

勇者「『光のオーブ』、きっとあれを闇に染められたんだ」

勇者「だから、竜王は簡単に人間を消せる呪いが使えるのかもしれない」




姫「そんな……消えた人はどうなるの」

勇者「さあね、もしかしたら竜王が直接来たのかもしれないし幽霊が……」


勇者「……何言ってんのかな……俺」


姫「勇者、お水飲む?」

勇者「……うん」

姫「はい」スッ




勇者「……」

姫「どうしたの勇者」

勇者「どうしたらいいかが分からないんだよ……」

姫「……」

勇者「姫を守るのは、簡単かもしれない……でも俺は……」

勇者「…………竜王に挑んで、次死んだら生き返る事が出来ないんだ」


姫「……」




姫「……」なでなで

勇者「どうしたら……いい?」

姫「……」なでなで


姫「ていっ」ベチッ

勇者「テッ」


勇者「??」

姫「いてて……平手でも痛いね」

勇者「……姫?」

姫「ゆーしゃ!!」

勇者「な、なんだ」




姫「そうだよ! 勇者は『勇者』なんだよ!?」

姫「勇者に竜王が倒せなかったら、私はきっと死んじゃうよ?」

勇者「そんなの……絶対にさせない」

姫「でしょ? 勇者は私だけの勇者でしょ?」

勇者「……!」

姫「……私が本当に好きで、昨日みたいに愛してくれてるなら! 守ってよ!!」




勇者「……俺」

姫「出来ない?」

姫「守ってくれないの?」

勇者「そんな訳ないだろ!!」ガタッ

姫「ならいつもみたいにあの剣持って、私を背負ってよ!! あの夜みたいに私を守る為に竜王と戦ってよ!!」

勇者「っ」

姫「……迷わないで私を守ってよ、勇者」ぺちっ

勇者「…………」


勇者(……きっと俺の性格は素直、じゃないな……)

勇者「単純か」なでなで

姫「!」




【次回】





【 我が名は……『竜王』ッッ!! 】




おやすみなさい…(-_-)zzz



< カチャカチャ

姫「よしっ、と」

勇者「大丈夫そうか」

姫「当たり前でしょ、誰がやったと思う?」

勇者「最後の鍵以外は俺だな」なでなで

姫「最後の鍵は私だもん!」

勇者「はいはい」ぎゅっ




勇者「いないとは思うけどさっ、」がしっ

姫(勇者の背中♪)ぎゅっ

勇者「もし留守中に『雨の祠』が荒らされたら、嫌だもんな……」

姫「だから鎖とか鍵で封印したんだよね?」

勇者「じいさんの墓みたいなもんだし、やっぱりその位はしたかった」

姫「うん、きっと大丈夫だよ」




勇者「……雨、なんで急に止んだかな」

姫「わかんない」

勇者「曇ってて、じとってはしてるのにな」

姫「不気味?」

勇者「ん、姫がいるから平気だな」

姫「私は勇者がいなかったら泣いてるかもね」

勇者「……ちゃんと背中に掴まってろよ?」くすっ

姫「うん! 行こう、勇者っ」ぎゅっ




勇者「リムルダールの方まで結構あるし、町までルーラするか」

姫「リムルダール? 竜王の城じゃないの」

勇者「竜王に連れて行かれた時、陸は竜王の城のある島まで続いてなかったろ?」

姫「真っ暗だったから……洞窟へは気絶してる間にだし」

勇者「……リムルダール北西から、丁度良い架け橋が作れるんだよ」

姫「?」

勇者「まあ、行けば分かるさ」


―――――― 「『ルーラ』」





姫「……」

勇者「……竜王の城に近かったからな、この町」スタスタ

姫「誰もいない、ね」

勇者「ああ」

姫「……早く竜王倒して、みんなを助けよっ」ぎゅっ

勇者「……さすが姫だよ、本当に」なでなで




勇者「よし、とりあえず着いたな」ザッ

姫「? 架け橋なんてないよ」

勇者「言ったろ、作るんだよ今から」にこっ

勇者「……けどちょっと待っててくれ、せっかくの墓参りだから」

姫「……」

姫「!? そういえばここって……!」

勇者「俺の両親が見つかった場所だよ」




姫「……なんで、こんな所に……?」

< チャキンッ

勇者「さぁ……もしかしたら、母さんはともかく俺の父さんはあの雨の時に気づいたのかもしれないな」

< ザクッ

勇者「……竜王の存在に気づいた父さんは直ぐに戦いを挑んで、負けた……とかな」

姫「………」スッ

姫(………)

勇者「………」




< ザクッ

< チャキンッ


勇者「今から俺達が竜王に挑んでも、結果はハッピーエンドじゃないかもしれない」

勇者「その結果が、俺の両親と同じ結果になる事もある」

姫「うん」

勇者「今なら……姫だけラダトームに戻せるよ」

姫「私が戻ると思う?」

勇者「戻らない」

姫「ー♪ そういう事だよ、死ぬ時は一緒なの」ぎゅっ

勇者「……一緒に死んでくれるのか」

姫「やっだよー、ばーかっ!」カプッ




勇者「~~!?」

姫「一緒に死ぬ為に来たんじゃないでしょ! まだそんな弱虫な事言ってる!」

姫「私は勇者とえっちした時から、結ばれた時からずっと気持ちは決まってたんだから!!」

勇者「姫……」

姫「『死ぬのを覚悟で』なんて、ハッピーエンドになれる訳ないよ! 『生きて姫と幸せになる』位の事言ってよ!」

勇者「……♪」なでなで

姫「ふぁ、わ、わかったの!?」

勇者「わかったよ」なでなで




勇者「んー、さてと」スッ

姫「?」

勇者「目、閉じててくれ」

姫「なんで」

勇者「サプライズだよ、サプライズ」

姫「・・・」きゅ

勇者(……よし)




―――――― パシャッ


勇者( 【精霊よ、今一度ロトの勇者に虹の加護を与えたまえ】 )


―――――― ・・・ィッ



―――――― キィィィンッッ!!


―――――― ・・・


勇者「・・・ん、目を開けて見な姫」

姫「………」





姫「……虹の、えっ……虹色の・・・橋?」

勇者「虹だよ、正真正銘本物の」なでなで

姫「で、でもなんで? 今真っ暗なのに……」

勇者「理屈なんて知らないよっ、と」ガバッ

姫「ひゃっ!」ぎゅ


スタスタ


勇者「ほら、俺達いま虹の上歩いてるんだよ?」

姫「~!」




姫「す……凄い……」ぎゅっ

勇者「竜王の城とリムルダールの中間まで行こう、そこが一番景色が良さそうだ」

姫「……素敵、って言えばいいかな」

勇者「なんでもいいよ、虹の橋なんてこれ以外無いだろうしさ」

姫「………」カプッ

勇者「なんで噛む!?」

姫「……凄く勇者に甘噛みしたい気持ちになったの」

勇者「やれやれ、かわいいからいいよいいよ」




姫「わぁぁ……! 海の上にいるよ私達!」ぺたん

勇者「天気が良かったらきっともっと綺麗だっろうな」

姫「隣! 座りなよっ」くいっ

勇者「はいはい」ザッ

姫「えへへー♪」ごろんっ

勇者「あまえんぼ姫だな」なでなで




勇者「………んー」なでなで

姫「………」

勇者「………」なでなで

姫「……」

勇者「おにぎり位、持って来れば良かったか?」

姫「……」




姫「……」

勇者「姫ー?」ぐりぐり

姫「ぁっ……」ビクッ

勇者「耳、姫も弱いのか~?」ぐりぐり

姫「もう……」

勇者「どうしたんだよ」

姫「あのね、また来たいなって思ってただけ」




勇者「それだけ?」

姫「うん、大事な事でしょ」

勇者「そうだなぁ、大事だな」

姫「でねでね? メイドも呼びたいなーって」

勇者「メイドもか」

姫「きっと楽しいよ」


勇者「……ああ、きっと楽しいな……今度また来るか」





勇者「……」スタスタ

姫「……」ぎゅっ

勇者「姫、とりあえず今のうちに『スクルト』かけとくからな」

ギィンッ!

姫「? なにこれ」

勇者「姫の体を魔力の薄い鎧で覆った、多少の揺れや衝撃ならかき消せる」


勇者「……だから、片腕で一応支えてるけど 『終わる』 まではしっかり掴まってろよ」


姫「………うん」ギュッ




―――――― 暗雲に閉ざされた空の下、魔物達は集結していた。


一体いつから出現したのかさえ不明な小さな孤島。

小さい孤島とはいえ、それらの面積ほぼ全てが1つの城となっていた。

人間の勇者達にしてみればその城の門は、巨大という言葉では表せない迫力と威厳に満ちていた。


しかし、その広大なエントランスには魔物達が歓迎の牙を剥いていた。


・・・勇者は瞳を魔物の群より奥へ向けた。

勇者(……)

『誘われている』、そう感じずにはいられない気配があった。




勇者達が進む『虹の橋』が城の入り口で終わる頃には、大勢の魔物がこちらへ駆けて来るのが見える。


勇者の首に巻きつく姫の華奢な手に、僅かに力が入る。

初めて彼女に向けられる『殺意』。

その質と数は世界を知らぬ少女にはとても耐えられる物では無い。

彼女は、勇者がいるからこそ強くなれるのだった。


勇者(応えなくちゃな)

勇者(…………)スッ


背中の愛する少女の為なら幾らでも強くなれる、そう幼き日の自分は宣言した。

その誓いの意味を、今こそ見せずにいつ見せると言うのか・・・?




―――― 既に城の内部で待ち受けていた魔物達の中で、魔法やドラゴン達の火球の光が瞬いていた。


勇者達の眼前に広がるのは、1つの生命を粉々に破壊しようと群がる魔の下僕達。

先陣を駆け抜けていたキラーリカントやスターキメラの絶叫。





そ こ へ 、 勇 者 の 右 手 だ け が 向 け ら れ た 。





風が止み、潮の音が止み、魔物達の憎悪の波動が、時間が、全てが止まる――――――








―――――― 【【 凍てつく波動 】】 ――――――




  ド ッ ッ !! !!


「 ッッ・・・!!? 」

「 ~~!! 」






・・・勇者の眼前に広がっていた火球の群は消滅し、『ゴースト』等の霊体が全て死滅した。


何より、それまで殺意と憎悪に溢れていた魔物の軍勢がその場で固まっていた。

『魔法使い』や魔力に敏感な魔物達の中には恐怖で立てなくなる者すらいた。

彼等の視線の先に立つ男が、先程とは違う姿へと形を変える。


(馬鹿な……なんだ………今のは、本当に奴は……)


誰かが呟いた言葉に合わせ、勇者が姫を背中に乗せたまま歩いて来る。

先程までの彼等なら、足手まといを連れた只の人間としか思わないだろう。

だが今はどうか?  





勇者「…………」キンッ

腰の宝剣を指先で弾き、柄を握る。

その静かな動作に魔物達は足を後ろへ後退させてしまう。


(この人間……いや違うッ!! コイツは、人間じゃない!! 人間が出せる波動じゃない!!)


魔物達の約半数が戦意を喪失する中、残った者達が吼えた。

その咆哮を全ての引き金となり、勇者の剣が唸りを挙げた。




勇者の片腕が残像を残して真一文字に薙ぎ払われた。

その瞬間、音も無く変化は訪れ――――――



―――――― ッッッツツ ! ! ! ! ! ! !



破壊。

その二文字が示す光景が瞬時に勇者の眼前を埋めた。


数百といる先陣にいた軍勢の大多数が、勇者のたった一撃で吹き飛んだのだ。


勇者の立つ位置にまで余波の地割れが襲う。




勇者「飛ぶぞ、掴まれ」

姫「うん……!」


大地が悲鳴を上げるかのような爆音を出す中、勇者は トッ と直後に虚空へ消え去る。


「勇者が消えた!?」

「地割れに飲まれたとは思えん! 探せぇッ!!」


狼狽するのを堪えた後方にいた魔物達の群。

城内にいる限り、前方の入り口さえ見ていれば安全だと彼等は思考する。

しかしそれは間違いだと刹那に感じる事となった。




ゴガッッッ!!!!


撒き上がる血飛沫すら衝撃波によって円を描くように叩きつけられる。

突如襲来した勇者の姿に反応した者達は初撃の剣撃で全滅。

そして勇者が隙を逃す事は無かった。


―――――― !!!!


背後にいるキラーリカントを両断しキラーリカントの左右にいるスターキメラを即座に薙払う。


ッッッ!! ッッッッッ!!!!


城内の周囲にいる悪魔の騎士達を一体ずつ刺突で仕留め頭上から降ってくるメラミの豪雨を剣撃で全て弾き返してドラゴンの集団を壊滅させる。


―――――― ッッッッッッ!!!!!!!!!!


粉塵を切り裂いて襲い来る影の騎士とストーンマンをまとめて斬り伏せてから後方の大魔導を雷撃で蹴散らす。





―――――― ッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!



姫を狙った弓矢をベギラマで射手ごと焼き払いその隙を突いて来た360度を覆う死神の騎士の群をデインで弾き、

更に剣撃で巻き起こした旋風で50の死神の騎士を切り裂き瞬速でエントランスの魔物達を剣圧の衝撃波で潰して行く!!




勇者「……大丈夫か、姫」

姫「う、うん……勇者の魔法が効いてるみたい」

勇者「………そうか」









・・・気がついた時には、勇者の周囲には最初は5000を越える軍勢だったのが数百程度しかいなかった。


美しいレトロな城内のエントランスはあちこち崩壊し、僅かな間で勇者は魔物達を壊滅させたという証をも思わせた。

凄まじい魔力、体力。

数の暴力すら彼に傷一つつける事は叶わなかった。


勇者と戦闘を始めて、まだ30分すら経っていないのに、その場にいた魔物達は圧倒的な力を前に敗北したのだ。


勇者「……もういいだろう、道を開けろ」

勇者「俺はお前たちを虐殺する為に来たんじゃない、どいてくれ」



勇者の静かな声が、一瞬静寂に包まれた城内に響き渡った。




「……わ、我々は! 貴様を殺す為に来たんだ! 今更…………」


勇者「今更、戻れないとでも?」


「っ……!」


片腕を切り落とされ、息も絶え絶えの『キラーリカント』は言葉を失う。

勇者は視線を辺りに移した。


勇者(・・・)


・・・周囲の魔物達も、恐らく同じなのだろう。

戻れるならば戻りたい、しかし戻るとはどういう事か分からないのだ。




勇者「……」

勇者「姫、目を閉じてろ……見るな」

姫「……うん」


勇者の冷たい声に、周りの魔物達も姫も怯える。

姫自身、勇者のこんな声は聞いた事が無かった。


勇者「…………『ライ…』」


「ぐ、ウオオオオオオッッッ!!」



―――――― 「『……デイン』」







―――――― 【 かつての大魔王、ゾーマは言った 】



  【 勇者よ、人は何故もがき生きるのか? 】

  【 滅びこそが我が喜び、死に逝く者こそ……命の散る様こそ美しいというのにだ 】

  

【 クックック、実に詩的な言葉だが・・・ゾーマは所詮『生物』としての答えを見出せずにいた 】

【 故に、かのゾーマはロトの勇者に敗れたのだ……! 】


【 『何故もがき生きるのか』だと? 決まっているだろうに 】







竜王【 人はッ!! 生物はッ!! 『死』を恐れ、『孤独』を恐れるからだッッ!! 】




竜王【 だからこそ、『死』と『孤独』を制したロトの勇者が最後に生き残っただけのこと!! 】

竜王【 ゾーマには真なる力を手にするに値しなかったのだ・・・ 】


竜王【 ・・・クックック、だが 我ら はゾーマを越えられる筈ではないか? 】


竜王【 勇者ッッ!! そして姫よッッ!! 】







勇者「…………」

姫「…っ」ぎゅっ





竜王【 よく来た……勇者よ! 】


竜王【 我が名は…………『竜王』ッッ!! 】


竜王【 竜族の王にして、全ての覇を司る王だ 】

竜王【 我は待っていたのだ、そなたのような強き若者をな…… 】


勇者「………」


竜王【 どうだ? 我が配下に加わらぬか、そなたの力も、大切なその姫も渡すのだ 】

竜王【 そうすれば、そなたには世界の半分をやろう……闇に染まった絶望の世界をな 】




竜王【 さあ……そなたの答えを聞かせて貰おう……! 】


勇者「……」

姫「勇者……」きゅっ

勇者「………」


竜王【 そなたと我が世界を支配すれば、敵などおらぬ、最強の支配者になれるのだ!! 】


勇者「……竜王」


竜王【 何か、勇者よ 】


勇者「姫の望む、幸せで明るい世界はお前に作れないのか」

竜王【 ・・・クックック、何を言い出すのかと思えば 】

勇者「どうなんだ」




竜王【 応えは『否』ッッ!! 言った筈だ、その姫すらも我の所有物にするとな!! 】


竜王【 そして貴様もだ勇者よ! 貴様も我の配下になり服従を誓うがいい! 】


勇者「……そうか」

勇者「姫」

姫「え?」

勇者「悪いが、降りて下がっててくれ」

スッ

姫「……勇者?」

勇者「愛してる、姫」


竜王【 なに・・・? 】






勇者「……竜王、なら話は終わりだ……」


竜王【 ほぅ…… 】

勇者「俺は姫を守る、そのためなら貴様も倒す!!」


竜王【 クックック! よくぞ言った勇者よ……!! 】

竜王【 では今よりそなたは世界に唯一の我の『宿敵』だッッ!! 】


竜王【 『孤独』を、『死』を乗り越えしその愛の力! 我に見せてみろ!! 】




竜王【 そして!! 最後は我が腕に抱かれッッ!! 息絶えるが良い!! 】







おやすみなさい 





―――――― カッッ!!


刹那に莫大な閃光が弾け、衝突した。

両者は詠唱も呪文も唱える事無く、自身の魔力に任せて魔法を行使したのだ。

空気が瞬時に燃焼された事で周囲に暴風が吹き荒れる中、勇者と竜王は微動だにしなかった。


竜王【 クックック、所詮は相殺がやっとのベギラマか? 】

竜王【 ならば再びあの夜の終幕を演じようかッ!! 】


勇者(……『あの夜』か、あの時に比べたら随分容赦ない気がするけどな)

勇者(まぁ……負ける気はしない―――ッ!!)





竜王の言葉が終わる瞬間、2つの強大な閃光が再びぶつかり合う。

ただし、その威力も余波も先の『ギラ』とは比べ物にならない程強力なものと化していた。


暴風がその衝撃波の発生源に吸い込まれ、一時的に極限の真空状態となった。


僅かな空白の間。

そして一輪の波が空間全域に駆け抜ける!



―――――― ゴォッッッ!!



『スクルト』による加護で衝撃波程度なら無効化出来る姫が、体を前から突き飛ばされた感覚に襲われる。


姫「…!? ひゃぁ……っ」




   ガシィッ!!


勇者「悪い姫、次は衝撃波を姫に当たらないようにする」


優しく姫の体を受け止め、彼女に一言呟く。

彼女は思わずそちらへ振り向いた。


―――― フッッッ!!


風が姫の髪を撫でるように抜けたのと同時。

勇者の姿が消え、彼女の背後で再び死闘が始まっていた。

彼女は勇者の姿を捉えようとまた振り向いた。




勇者「破ァッ!!」


黄金の軌跡を描く『王者の剣』を乱れ打ち、真空の刃を駆け巡らせる。

音を越える速度で駆ける無音の斬撃を竜王に捉える術はない。


竜王【 『真空斬り』ならば見切っているぞ勇者ッッ!! 】

勇者「 !? 」


闇の霧を携えた竜王が勇者の背後に現れ、勇者の体が凄まじい衝撃波に叩きつけられた。

音が追いつかない世界で行われた小さな死闘が、瞬時に終わる。

石畳にも関わらず勇者の体が数十cmも沈み、背面の骨が一斉に粉砕される。


勇者(……っ!!)





―――――― ド・・・


勇者(まだだッッ)

刹那、全身に走る痛みが広がるよりも速く『ベホイミ』で回復する。


同時に、叩きつけられた瞬間に手放し空を舞っている『王者の剣』を手に取った。

更に更に同時に、その剣に直接黄金の魔力を流し限界まで威力を高めた。

そして、


―――――― ・・・ッゴォォォォンッッッ!!


背後で勇者の真空斬りが壁に炸裂した瞬間、勇者の刃が竜王に届く!


竜王【 ……! 】

    ギィンッッ!!

勇者「っはぁ!」




竜王の眼前で勇者が咆哮する。


勇者「―――――― ッッ!!!」


純白だった髪が瞬時に黄金と化し、視覚化出来るだけの魔力の渦が彼の体を覆った。

地を滑るように勇者が竜王へ走る!


竜王【(あれが四天王達を容易く葬った、勇者の真の姿……!)】

背筋をゾクリと、竜王の中を何かが駆け抜ける。

竜王【(なんて怒りに満ちた姿、何という生物の最高峰の力!!)】

竜王【 ハッハッハァッッ!! やはりゾーマは勝てない訳だッッ!! 】


闇の霧の如く揺れ動くマントを刃のように一閃し、竜王が狂喜に声を奮わせる!

闇の軌跡を描くように空間に残る漆黒の残滓が、1つ1つが『ベギラマ』を意味する魔法陣と化した!!




竜王【 この竜王、『孤独』として世界に生まれ落ちてより初めての高揚感よッッ!! 】


竜王【 さあ・・・ これならばどうだ勇者ァッ!! 】



―――――― ボンッッ!! と数百の魔法陣が一度に弾け飛び勇者に向けて練獄の閃熱が降り注ぐ!



勇者「『ライデイン』・・・!!」

勇者の黄金の魔力がその瞬間に爆発し、彼を中心として蒼白の剛雷が吹き荒れる!


・・・しかし、それでは彼は竜王を倒せないと知っている。

姫を守り、竜王を倒すには足りないと知っている。

だからこそ彼は咆哮する、全身全霊の魔力を『ライデイン』に乗せる――――― !!




姫「……勇者……!」


幾度となく流れ込んで来る強大な力の余波を、衝撃波を勇者の蒼白の雷撃が貫いていく。

彼女には暴風すら触れさせない、と。

雷の龍が、少女を包み込むように渦を巻いて守護していた。


竜王【 クックッ……クハハハハハハハハァッッ!! 】


バヂィンッ!! と竜王を仕留めんとする光の刃をマントで叩き落とし、勇者の元へ跳ぶ。

その右手には、先日身につけた『古代最強位呪文』。

幾数もの『ライデイン』すら弾き返しながら、竜王はその魔法を勇者の眼前で爆裂させる!




勇者「 …… 」

手の『王者の剣』を堅く握り締め、勇者は竜王と視線を交差させる。


竜王【 打ち勝てるなら打ち勝ってみるがいい!! 】

竜王の右手が、紅炎を中心に蒼炎の閃光を迸らせた。

そして竜王は憎悪を滲ませた咆哮と共に最強の呪文を唱える!!









―――――― 【 『  ベギラゴン  』 】 ――――――













  竜王城の、玉座の間がある場所は地下七階。

  にも関わらず、一本の光柱が竜王城に突き立てられた。

  その光柱の中心には……2つの影。




―――――― ギュイイイイイィンッッッッッッ!!!!



勇者「 おおおおおおオオオオオオオオオオオッッ!!! 」


蒼炎に左腕を焼き溶かされ右腕だけの彼は、一本の剣をその蒼炎にぶつけ灼熱の火炎を纏う!

勇者の眼前にいる竜王を、切り裂く為に。

咆哮し、絶叫と同時に黄金の魔力と蒼炎に包まれた刃を躍らせる!




竜王【(……!!)】


瞳に迫る刃に、竜王は呪文の反動で動けないでいた。

いや……『動かない』。



――――――――――――――――――
―――――― 灼熱火炎斬 ――――――
――――――――――――――――――



ゴバァン!! という爆発。

超神速で躍る勇者の『王者の剣』が竜王の体を縦一文字に一閃した。


竜王【 ごァ…… 】


鮮血が爆炎によって蒸発しながら飛沫を挙げる!!



勇者「!!――――――ッッ」



しかし勇者の刃は、剣は、止まらないッッ!!




音を越え、超摩擦で全身が火炎に包まれようと勇者は止めなかった。


―――――― ザンザン斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬ッッッッ!!


太陽を思わせる程の光輝炎。

一閃の上を更に一閃し二筋の軌跡を更に一閃で斬り開き一閃と斬撃の嵐が爆炎の威力を極限以上まで高める!!

竜王の体から飛沫を上げる血液すら超温度で霧状になる!



勇者「終わりだァァッッ!!」



ついに浮遊感が落下へと変わった瞬間、竜王城より数百m上空で勇者の剣から蒼白の雷が瞬いた。


勇者「 『ライデイン』!! 」


最後の一撃が、勇者の剣を通して竜王に放たれた。




轟ッッ!! と鳴き声を挙げ、雷龍が竜王を撃ち抜いた。

そして竜王はそのまま竜王城へと落下――――――









―――――― する筈だった。













―――――― バツンッ!!



竜王の体が内側から爆ぜ、その中から巨大な翼が伸びたのだ。


勇者「あれは……!!」


忘れていた。

勇者の脳裏を、2つの事が一度に駆け巡った。

一つは『あの夜』の記憶。

もう一つは・・・


勇者「(  ・・・『竜』王・・・  )」







【 どうした勇者よ、我はまだ『終わり』ではない筈だが? 】



大空に響き渡る産声。

これこそが真の姿だと誇示するかのように、竜王は巨大な翼を羽ばたかせる。

その翼による動作が、小さな竜巻すら引き起こしているのが見える。


勇者「……!! 『ベホマ』」

即座に勇者は左腕を蘇生させ、全身の傷を塞ぐ。


勇者の体のみが落下していく中、ついに竜王が勇者の頭上へと回り込んだ。





【 クックック・・・どうした? 真空斬りすら出さぬのか 】

勇者「…………」


―――――― しかし、忘れていたのは竜王も同じらしかった。


【 ・・・ッッ!! 】

瞬時に巨竜となった竜王が 轟!! と旋回した。


  ギュオッッッ!!


その僅かな差。

真空の刃が幾重にも重なり合った強力な剣撃を、竜王は見事その巨体でかわして見せたのだ。

刃の行き先は海面だった。





ドドドドォォオオオッッ!!!!


突き立つ水柱、その余りの威力で視界が吹き飛んだ海水で埋め尽くされる。

竜王と、勇者の、両者の姿が一時的に世界から隠されてしまう。




―――――― !!

―――――― !!





直後、巨大な水柱が一瞬で掻き消される!!




水の膜壁を爆発させ、両者が刹那に大空を交差する。


勇者「……!!」

【 ・・・!! 】


ッッッッ―――――― !!!

巨竜の翼が破壊の鉄槌と化し勇者に叩き込み更に竜王の周囲で再び闇の残滓が1つ1つ全て魔法陣となり爆発する!!

!!!―――――― ッッッッ

轟火球の嵐そのものとなった竜王を勇者は避けもせず叩き込まれた翼をライデインで断ち切りベギラマを連射して火球を撃ち落とす!!

直後に勇者の黄金の魔力は迸り、凄まじい雷撃の槍が竜王を貫いた!


【 ガァアアアアアアアアッッ!!? 】


勇者(……効いた?)




先程とは明らかに違うダメージに、勇者が気づく。

轟火球を全て弾き返しながら、勇者は再び大空を舞って距離を取る。


勇者(ッ、そういえば……さっきはマントでライデインを弾いてたのか?)

勇者(だとすれば、奴がさっきの『ベギラゴン』で自滅を恐れなかったのも……マントがあったからか!)


【 オオオオオオオオォォォォォォォッッッッ!!!! 】


ズルッッ!! と、竜王の翼が傷口から再び蘇生する。

そして、巨竜の漆黒の瞳が勇者を捉えた。

瞬間。






―――――― 竜王城の内部を登っていた姫は、凄まじい爆音を耳にする。


足下から沸き上がるようなその異様な感覚に、姫は階段を登る足を止めた。

そして音の正体は何か、探ろうと耳を澄ました。


姫「………………?」


ついさっきまで聞こえていたのに、突然止んだ事に首を傾げた。

再び勇者の所へ駆けつけるべく、彼女は階段を登る足を進める事にした。

『スクルト』が効いてるのか、それとも先程から止まらない『首飾り』の光が助けているのか。

姫は長い距離を初めて1人で走っていた。



   その時だった。






ゴゴゴゴゴゴゴ・・・!!



突如鳴り響く唸り声。

姫が警戒して身を低くしようとしたのも束の間、直ぐに災厄は彼女を襲った。


足下の階段が一瞬にして爆発し、周りの通路すら全て崩壊し、姫の華奢な体が瓦礫と共に投げ出された。



姫「―――――― きゃっ」



余りの浮遊感に、何が起きているのか分からなくなってしまう。

事実この時の彼女の視界は真っ暗になっていた。

だが、直ぐに自分がどういう状況か思い知る。



姫(わ、私……落ちてる……?)






勇者「ッッ!! 危ねぇ姫っ!!」

姫「ひゃんっ!」


海面に叩きつけられる寸前。

勇者の体がクッションになり、姫を受け止めた。

かなりの距離を飛ばされ砲弾とも呼べる速度の姫を、双方にダメージの無いよういなした勇者は凄まじい技と言えた。


一歩間違えれば、姫の体は例え勇者が受け止めたとしても粉々になっていたかもしれなかったのだから。


勇者「ッ……しっかり抱き締めてろ姫!!」

姫「え、ちょ! っ……あれ? 今私達飛んでるの?」

勇者「『ルーラ』の応用だ! 行くぞ!!」





勇者が瞬時に速度を上げ上昇する。

必死に勇者に抱きついている姫は、ふと目を勇者の背後に向けた。


姫「勇者……っ!」

勇者「分かってる!!」


【 ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!! 】


大空に轟く咆哮。

ギュォ!! と何かが渦を巻く音。

巨大な竜の姿、本来の竜王がとても巨体とは思えぬスピードで追ってきていた。




・・・それも  『黒炎の渦』  を纏って、だ。





―――――― ギュォッッ!!


黒炎がそれぞれ固有の意志を持っているかのように、『渦』が数百の魔法陣を作り出していく。

それも、1つ1つが明らかに超高度の呪文を意味していたのだ。


勇者(『ベギラゴン』を連射だと……!!)


腕の中にいる姫を庇いながら、あの威力の魔法の嵐を潜り抜けるのは不可能。

しかし既にかなりの高度まで上昇してしまった以上、もはや後戻りは出来ない。

だが、それで自分を盾にしたとしても・・・


勇者(・・・考えろ)

背後から更に空気を引き裂く音。

追いつかれ、再び撃ち合いになるのは必須。


勇者(考えろぉ……!!)





姫「…………」


明らかに苦悩する勇者を見て、姫は静かに理解する。

自分のせいで彼は今、窮地に立たされている。

自分のせいで……姫のせいで……?


姫「……勇者」

勇者「なんだ!」

姫「………必ず、助けてね?」









―――――― トンッ ……と、姫が勇者を突き飛ばすように腕を伸ばした。






突然の行動と、姫がしっかり抱き締めていたのもあって。

勇者の体からいとも簡単に姫が引き剥がされた。


勇者「 !!? 」

【 ヌゥ・・・? 】


竜王すら、横を落下していった姫に不可解な声を漏らす。

何より、勇者には余りにもショッキングな光景に見えた。




ドンッッ―――――― !!



大気を蹴り飛ばし、勇者が刹那に急降下する。

ついに、竜王と対峙する。



勇者「どけぇぇえええええ!!!!」



腕が悲鳴を上げ、筋が幾つか切断されるのも無視して全力で剣を振り上げる!!

そこへ重ねるように勇者の魔力が『ライデイン』に変換され轟雷の剣を、『王者の剣』に衝突させた!!


【 来るが良い勇者・・・!! 】


二枚の巨大な翼が刃の如く一閃し、凄まじい『ベギラゴン』の嵐が繰り出される!!







――――――――――――――――――――――
―――――― 【 稲妻雷光斬 】 ――――――
――――――――――――――――――――――



【 なっ・・・!!? 】


勇者「ぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」



黒炎が作り出した魔法陣さえも突き破り、『ベギラゴン』の嵐を貫き、竜王の翼すら断つ―――!!

『ライデイン』と『レプリカ:王者の剣』が合わさった力に、勇者の心に呼応した『ロトの力』が爆発する!


竜王自身をも守護する『黒炎の渦』が、最後の迎撃抵抗を勇者に見せる!!



―――――― ギュォオオンッッ!!





【 グ・・・ッッ、我は・・・我が貴様に敗北するなど………!! 】


黒炎が勇者の体を引き裂き、何度も貫く!

だがしかし、それらの抵抗すら……


勇者は、貫き斬る―――――― !!


勇者「だぁあああああ!!!!」

全力の力を振り絞り、勇者は魂の咆哮を轟かせた。


黒炎が、『黒炎の渦』が。

ビキッ!! と音を立てて勇者の『光』に破壊されていく!


【 馬鹿なァッ!! なぜ我が負ける!? 一体我に何が足りないと言うのだ!!! 】













勇者「知るかぁぁあああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」















―――――― ッ!!




巨竜の断末魔が鳴り響く。

威厳ある声でも、憎悪を滲ませた声でも無い。


ただ迷い無き道に『間違い』があるのに気づき、悲鳴を上げている竜の悲しい声だった。



魔の道に堕ちた竜は、ただ堕ちていく。







―――――― ュゥゥウウウウウ・・・!




姫は。


姫(・・・結構落ちて来ちゃったな)


目を閉じ、ただその瞬間を待っていた。

それが自身の死か、それとも『愛する人』の救済かは知らない。

だが彼女は後悔などしていないのはハッキリしていた。


姫(……私、)





姫(……結構かっこいいなぁ、勇者のためにこんな事出来るなんて)


風を突き抜け、落下速度が更に上がる。

恐らく数秒しか余裕はない。


姫(まぁ……)

姫(どうせ……)くすっ



姫は笑った、平和だった日常の中で見せたように無邪気に笑った。

彼女は知っていた。

幼い頃からずっと彼女は知っていた。




勇者「何笑ってんだよ……心配かけやがって」


ガシィッ!!


姫「……竜王は?」

勇者「倒した」

姫「……そっか、何か言ってた?」

勇者「いや」

姫「……そう、かわいそうだったなぁ」


勇者「なんで笑ってたんだ」


姫「ん? だって……勇者は私の為なら死ねちゃうくらい好きだから、きっと大丈夫だなーって」

勇者「……はいはい」








―――――― 【 なんで私は、母がいない? 】





(……そう私は周りに何度も聞いた)


(だが……周りの者達は答えてくれなかった)


(気を使っていたのか……)


(母は、『私』のせいで死んだからか)


(…………)





(だとしても、何故だ)


(何故誰も私のそばにいてくれない?)


(私は……寂しかった)


(姫達のように、私も恋をしてみたかった……)


(あの薄暗い城にずっと居たくなかった、温かい家族が欲しかった)


(なのに……何故私は、我は……こうなってしまったのだ)




( 誰か我に教えてくれ…… )


( 我は、どうしたら孤独から抜け出せる? )


( 誰でもいい・・・!! 教えてくれ・・・!! )


( 理解するだけでは、求めるだけでは駄目なのか……!! )


( 誰か…… )







勇者「……?」

姫「どうしたの勇者」

勇者「いや……それ」スッ


姫「あ、あれっ? なんでまだ私の首飾りが光ってるのかな」


< キィィン! キィィン!






【【 ユ”・・・ユウシャ 】】




勇者「?……―――――― !!」



ゴッッッ!!!!


姫「きゃあっ!?」



勇者「ッッ、まだ生きて……!?」

勇者「……………お前……誰



< グシャァアアアッ!!




勇者「ぐっ……ぁあ”あ”あ”あ”っ!?」


足を潰され、絶叫する勇者。

油断はしていなかった、魔力も充分満ちていた。

しかし。


勇者「『ライデイン』!!」バッ


【【 ムダだ・・・ 】】


勇者の全力のライデインが、『闇の霧』に消される。

音も無く、とても静かに無力化された。




姫「勇者!!」


勇者「来るな……!」

キンッ と勇者は即座に剣を取――――――


【【 ヤめておけ、そして…… 】】


ガッッ!! と剣を瞬時に弾き、異形の何かが勇者に手を添えた。


【【 我が誰か? 知っているだろう 】】

バヂバヂィッ!! という炸裂した雷の音。


勇者の眼前に突きつけられたのは、『黒い雷』。


勇者(……この黒い雷に、『魔法を無力化する霧』……)




【【 初めて見たか……? 】】

【【 我のあの『マント』は未完成で中途半端だったが、これが完成形だ 】】


脳裏によぎるのは、最悪の相手。


勇者「……『闇の衣』? そしてお前は……」




真竜王【【 そうだ!! 我が名は竜王……いや、『真・竜王』か? 】】




直後、勇者の体に黒い稲妻が走った。


おやすみなさい

キーワードは『 しん・りゅうおう 』

あ、明日が最終回

乙!

DQMルカイルのしんりゅうおうでイメージ余裕でした

>>705
正解



勇者「―――――― っッッ!!」

視界が瞬時に黒く塗り潰され、聴覚が麻痺する。


勇者の絶叫も既に断末の叫び声となっていた。

姫が叫ぶ。

姫「ゃ、やめて!! やめてっ……!!」


余りにも非力な声だと彼女自身思うのに、何も出来ない。

それどころか、目の前で殺されるかもしれない勇者が絶叫しながら必死に近づくのを制止していた。

勇者ですら抵抗出来ない相手に、姫が近づいても悲劇しか起きないからだった。




真竜王【【 クハハハハァアアアア”ア”ア”ア”ッッ!! 】】

真竜王【【 どうしたのだ勇者ッ!!? 我を倒さないと姫は救えなかったのではないかぁ!? 】】


凄まじい雷撃の雨を降り注ぎながら竜王の憎悪に満ちた声が轟く。

そして、竜王は更に雷撃の威力を強めるように声を、自身の威厳すら歪めていく。


真竜王【【 結局は『孤独』のままだった我にッッ、ただの『怒り』に目覚めただけのッ俺にィッ!! 】】


勇者と竜王の周囲の空間が一瞬 グニャリ と歪み、竜王の放つ黒い雷が壮絶な咆哮を鳴らす。


真竜王【【 何故に負ける!? ゾーマをもこの俺をも越えた貴様がッ!! 何故俺に敗北するゥゥッ!!? 】】

真竜王【【 答えてみろォ!! 俺に抗ってみろォッ!! 】】


ゴバッッッ!! とついに勇者達のいた海岸が崩壊する。




真竜王【【 ・・・ 】】


勇者「ゥ……っは、は……ぁ」

ギシッ、と巨大な腕が勇者の頭を鷲掴みにする。

呼吸が上手く出来ず、魔法すら使用出来ないほどに瀕死の勇者では何も出来ない。


竜王が、落胆した声を出した。


真竜王【【 ・・・こんなものが、この世界の真実とはな 】】





真竜王【【 『怒り』が貴様をその姿に変えたなら、今の俺が貴様と同じ姿……か? 】】


ミシィッ!! と勇者の頭蓋が悲鳴をあげた。

勇者の頭から……いや、既に全身から血液が噴き出し始めていた。

勇者「ぁ、が……っ!!」


真竜王【【 醜い、醜いこの悪竜の姿がッ!! この俺だ、お前と同じ姿なんだァッッ!! 】】



―――――― ッ!!


凄まじい速度で、勇者を掴んだ竜王が飛んだ。

幾度と巨大な岩を破壊しながら、勇者を更に痛めつける。




―――――― ドサッッ


無人となったリムルダールの町で、勇者はようやく解放された。

しかし、その命はもう風前の灯火と言える。


竜王はしばらくその勇者を何か期待しながら眺めていたが、何も起きない。


勇者は奇跡を起こせない。

ただ蛆虫のように転がり、自身に迫る死に抗いもしない。

・・・そこまで考え、竜王は掌を勇者に向ける。


先の雷撃を再び浴びせるだけで、勇者は絶命する。





真竜王【【 ・・・ 】】


だが、竜王はそこで止めた。

巨竜だった時とほぼ変わらない巨大を誇る彼の背後に、何者かが立っていた。

竜王は振り向かずに問う。


真竜王【【 何をしに来たのだ? 姫よ 】】


姫「……っ!」びくっ


背後に立つ姫の体が、過剰に驚く。

恐怖で足や肩が震えているのが竜王の耳に聞こえる。





姫「……っ」

姫「勇者から、離れて……!」



やっとの思いで絞り出した言葉。

その頼りなさ過ぎる声は、竜王の『怒り』を僅かに停止させた。


真竜王【【 ほぉ? その手に構えた剣で俺をどかすか? 】】

真竜王【【 姫よ、貴様が其処まで無謀とはな……失望したぞ 】】


バヂィッ!! と黒雷が轟く。

竜王の憎悪が無尽蔵の魔力となり、勇者すら圧倒する力を生み出していく。

それは目の前にいる姫を殺すのに、あまりにも強大過ぎる力だ。






―――――― バギンッッ!!



『何か』が砕け散る。


真竜王【【 ・・・!? 】】


それはガラスが割れた音にも聞こえ、金属を叩き鳴らした音にも聞こえた。

しかし、竜王には全く別の音として伝わっていた。


姫(ぇ……え?)


姫は何が起きたか分からないでいた。

何故か、自分が生きている事に疑問が追いつかない。

彼女はほんの一瞬前まで竜王に殺されようとしていたのではなかったか。


  何故 彼女は 無傷 なのか 。





姫「……あ」


ふと見る彼女の目に、輝きを強くする何かが映った。

そう、あの『首飾り』だ。


姫(もしかして、今のから守ってくれた……?)


真竜王【【 ………… 】】

真竜王【【 (どうやって防いだかは良い……だが) 】】


真竜王【【 (違和感がある) 】】





強烈な違和感。

『怒り』で正常に思考出来ない竜王にさえ感じさせる、何か。

目の前に立つ姫は再び竜王に、僅かに足を進めた。


真竜王【【 止まれ 】】


―――――― バギンッッ!! 


姫「きゃぁ!」

今度は更に強力な黒雷を浴びせられ、姫の体が大きく仰け反り尻餅をつく。

しかしその華奢な体に傷は無い。






そこで、竜王は気がついた。

姫の首飾りが輝く度に、呼応し同じく輝いていたのだ。





真竜王【【 『レプリカ』の……ロトの剣……! 】】




姫「……光ってる」

竜王と彼女の手にある剣を見比べ、姫が呟いた。

初めて、『レプリカ』でしか無かった剣が姫の手の中で『本物』となっていたのだ。




真竜王【【 (本物は俺の城の『無限回廊』に保管されたままの筈……) 】】  


目の前で異常な力を放つ剣と、姫の首飾りに竜王が混乱する。

今さら何故、何故自分の前でそんな奇跡が起きるというのか?

否、否―――――― ッ


真竜王【【 ならばそれは一族に伝わる儀礼剣ではないのか? 消え失せろッ!! 】】


激昂した竜王が姫に向けて憎悪の雷撃を射る!!



『ベギラゴン』や『ライデイン』を遥かに凌駕する、地獄から呼び出した究極の呪文が姫を襲う。



姫「……!」






―――――――――――――――――――――
―――――― 【ジゴスパーク】 ――――――
―――――――――――――――――――――



―――――― ゴオォッッ!!!!


巨大な黒雷の柱が鉄槌の如く姫に振り下ろされた。

たったそれだけなのに、周囲に広がっていた無人のリムルダールの街は瞬時に消し炭となった。


膨大な魔力の嵐が漆黒の灰を巻き上げ大空に舞う。





真竜王【【 ・・・ 】】






ブォンッ―――――― !!!







「……『また会おう』って、言ったろ? 王女様」





真竜王【【 ッッ!!? 】】









・・・優しい声が、姫の耳をくすぐった。

そして彼女の予想通り、目を開ければ目の前にいた。

「……勇者」

漆黒の灰に視界を半分奪われていながらも、姫はその名を呼ぶ。


しかし、帰ってきた応えは違った。


「悪いな、合ってるけど俺は王女様の勇者じゃない」


姫「えっ……?」


ブォンッ!! と、声の主は片手だけで辺りの灰を全て吹き飛ばした。





勇者ロト「また『会おう』って、言ったろ? 王女様」



姫「勇者じゃ……ない?」


彼女を庇うように包み込んで来る腕の温もりや、声はとても勇者に酷似している。

だが彼の髪は本当は金髪だったし、瞳の色も確か水色だった。


では、いま彼女を抱いている黒髪の男は誰なのか?



―――――― ヒュッ






―――――― ガギィィッン!!



瞬時に姫の手から剣を奪い、男が竜王と太刀打ちする。

姫を抱く腕の力が強く締まり彼女を僅かに覚醒させた、彼女の脳裏にようやく男の正体が浮かんだ。

それは、あまりにも有り得ない者の名前だった。


そして、姫とほぼ同時に竜王が咆哮した。

勇者さえ無力化した絶対の闇の力を一斉に爆発させたのだ。



真竜王【【 散れぇいッッ!! 初代ロトの勇者ァッ!! 】】



勇者ロト「来いよ竜王、俺と『ルビス』が相手になってやる」





ゴゴゴォオッッッ―――――― !!


大地が凄まじい揺れに襲われる程の衝撃波が発生する。

姫を瞬時に建物の裏に連れ出し、追撃してくる竜王の黒雷を片手のみで掻き消す!


勇者ロト「今勇者の奴を連れてくる、王女様はここにいな!!」


ゾンッッ!! と、空間そのものを切り裂くような竜王の爪を紙一重で避ける。


―――――― ギィッ!!・・・


続く竜王の二枚の翼が触手のように勇者ロトを切り刻もうと渦巻き、爆発のような火花を散らし弾き返した。


―――――― ・・・ヒュガッッッ


火花が散り終わるより速く、勇者ロトが瞬速で踏み込む!




―――――― ガッッッ!! ギギギギギギギギュィイイイイインンッッッッ!!!!


刹那、『闇の衣』にさえ守られ最硬の守りを誇っている筈の竜王が・・・


真竜王【【 ガァ・・・ッッ!!? 】】


・・・その巨体が地より浮き、凄まじい連撃の衝撃に後方へと吹き飛ぶ!!


勇者ロト「ッッ……!」ビシィッ

勇者ロト(勇者は、どこだ……!!)


全身に走る激痛を勇者ロトは無視し、辺りを見回す。

そこで彼は気がついた。

果たしてあの姫が、死にかけた勇者を放っていられるかという事。

彼の視線の先には、姫が瀕死の勇者に駆け寄っていた。

背後に竜王がいるのも気にせず。




勇者ロト「だぁあああああ!! どうしていつの時代も女は静かに待っててくれないんだ!!」


ビシィッ!! と、彼の頬にヒビが走るのを無視して走る。

彼に託された時間が少なすぎるのを実感しながら。


真竜王【【 ガァアアアアアアアッッ!! 】】


  ドンッッ!!


勇者ロト「お前の相手は俺だってんだよクソ餓鬼ぃっ!!」

凄まじい破壊力を帯びた『突き』が文字通り竜王の胴体に刺さり、鈍い音が轟く!


―――――― パキィンッ!!


その一撃で、『レプリカ』の王者の剣が大破する。





ドゥッ―――――― !!


間髪入れず、凄まじい一閃が竜王を再び仰け反らせる!

同時に竜王の『闇の衣』から 轟ッ!! と黒雷が勇者ロトの体を弾き飛ばす!


勇者ロト「ッッ、グァッ・・・!!」


ザンッッ!! という大地に剣が突き刺さる音と同時に、勇者ロトの体が踏み留まる!

そして背後にいる姫と勇者を確認してから



勇者ロト「………ッ、時間がねぇ…一気に稼がせて貰うぞ!!」




真竜王【【 !? 貴様、その剣は・・・!! 】】





大破し、砕け散ったように見えていた『王者の剣』。

それが竜王の眼前に突きつけられ、初めて竜王が息を呑んだ。


勇者ロトの手にあったのは、『レプリカ』や『本物』などとは全く次元の違う物だった。

若き日の竜王が世界中を探しても見つけられなかった、聖剣中の聖剣。



勇者ロト「力を貸してくれ……『ルビス』」


―――――― 『精霊剣・ルビス』 ――――――


かつて、大魔王ゾーマが最も恐れた最強の刃。

精霊神の『愛』を勝ち取った者がその真の力を操れると言われる純白のソードだった。


そして今、まさに、竜王の前に立つ伝説の勇者がそれを振るおうとしていた。





真竜王【【 ―――――― ッッ!!! 】】



異質な気配に竜王が空を見上げる。

暗雲に包まれていた筈の空が、黄金の光に覆われていたのだ。

正面に立つ勇者ロトが、彼が手にした最強の光の呪文を竜王に放とうとしている。

かのゾーマでさえ闇の衣を使って全力で防御した、伝説級の奥義。


勇者ロト「―――――― ッッ!!」

ビシィッ!! と左目が見えなくなるのを感じ、僅かに顔を歪ませながらも咆哮する。



―――――― 『ギガデイン』ッッ!!






―――――― 大空全体が呼応するように爆発し、膨大な魔力の柱を撃ち出す!!



【【 ぐぉおおおおおおおお―――――― !!!!! 】】


竜王の『闇の衣』の許容量を遥かに越えた超魔法に屈し、瞬間には既に海の彼方まで投げ飛ばされる!



勇者ロト「ッッ!! づぁ……」ビシィッ









勇者ロト「……」


凄まじい激痛に襲われながらも、背後を振り向いた。


姫「勇者! 目を開けて、返事をして……!」

勇者「…」


勇者ロト「王女、そいつはもう駄目だ」

姫「!!」


心無い言葉に、思わず姫は怒りに声を震えさせようとした時。

目の前で伝説の勇者は、『崩れていた』。




勇者ロト「っ……こんな筈じゃなかったんだけどな、本当ならお前らに苦労させる気もなかった」


ぽつりと、左手の先が僅かに光の粉と化しながら伝説の勇者はそう語った。


勇者ロト「……『オーブ』の魔法が、根本から作り替えられたせいで…召喚のタイミングも実体化の完成度もボロボロ」

勇者ロト「……王女、お前に責任はとって貰うからな」


にっと、彼の笑みを見た姫が腕の中で息絶えようとしている勇者を強く抱き締める。

それを見た勇者ロトは笑いながらヨロヨロと近づいた。


勇者ロト「王女、今度はお前がそいつを救うんだ」

姫「……私が、救う? でもどうやって!」

勇者ロト「だから言ったろ?」


スッ、と彼女の胸にある首飾りを指差した。


勇者ロト「……そいつが、王女の中で作り替えられた『光のオーブ』なんだよ」





姫「これが……?」


勇者ロト「そうだ、竜王が闇に染めたのは抜け殻も同然の水晶玉だ」

伝説の勇者は足元の勇者の横に倒れる。


勇者ロト「っ……俺は今の『ギガデイン』で実体化出来なくなりつつある」

勇者ロト「王女、お前が勇者から受け続けた『愛』とお前が持つ『愛』で変質したその首飾りなら勇者を救える筈なんだ」


姫「……でも、どうしたら…」

勇者ロト「呪文の詠唱を教える!! それを姫が唱えるんだ……!」

勇者ロト「『王女の愛』で勇者を救えないようじゃ、絵本にも出来ねえんだよ!!」





―――――― ッッ!!



大気が、震えた。

極限の『怒り』の頂点に達した竜王の魔力が、更に膨れ上がる。


ゴッ!!


凄まじい風が巻き起こり、


  バリィィッ!!


漆黒の雷が海を叩き割る。



大魔王ゾーマも到達出来なかった究極の『進化』。







【【 ッッ!! ォォオオオオオオオッッ!!!! 】】




巻き上がる海水をドーム状に弾き、そのまがまがしい雄叫びに激しく唸る雷。

進化の頂点に達し、内なる闇を解放した竜王の魔力がまだ膨れ上がる……!







【【 オオオオ!! ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!! 】】











勇者ロト「……!?」


ゾクリ と、勇者ロトの背中が凍りついた。

凄まじ過ぎる闇の力に、恐怖すら覚えたのだ。


勇者ロト(ゾーマ以上……ね、俺1人じゃどうにもならないのはわかってたが……)

勇者ロト(はっきり言って、規格外の強さだ……『仲間』がいてもこのレベルの敵相手じゃ太刀打ちのしようがない)


だが、と彼は心の中で付け加えた。



勇者ロト(………この2人なら、『勇者』にならどうにか出来るって時点で……次元が違うか)



姫「…………………」






―――――― 全てのモンスター達が、『闇』に飲まれていた。



「ひぃぃ!! 竜王様、おやめ下さい!! おやめくだっ……ゴェッ」


ドラゴンもスターキメラもキラーリカントも死霊の騎士も、

全てのモンスターが、『闇』に飲まれていく。


アレフガルド全体に竜王の『闇の衣』が魔力を欲し、更なる魔物達を喰らっていく。


何千何万、竜王の暴走した闇は巨大化し続けた。







崩れ落ちていく体を引きずりながら、勇者ロトは立ち上がった。


勇者ロト「何があっても詠唱を止めるな、最後まで唱えろ……」


羽根のように軽い筈の『精霊剣』を、とても重そうに握り締める。

彼の目は、空に広がっていく『闇の衣』の中心に君臨する怒りの魔王を捉えていた。


勇者ロト「多分ダメージすら与えられないかもしれないが、それでももう一度『ギガデイン』を撃ってみる」

勇者ロト「それで駄目だろうがなんだろうが、俺は元の世界に戻っちまう」


勇者ロト「……信じてるぞ、お前らの『愛』」

姫「……………」コクッ



勇者ロト(さて、行くか……)


勇者ロト(………帰ったら、絵本でも書いて隠居したいもんだ)


伝説の勇者は、竜王に向かって飛んだ。







―――――― (……ここは?)




―――――― (………ああ)


―――――― (俺……死んだのか)


―――――― (……今までまともに見渡した事は無かったけど、真っ暗だな)


―――――― (……地獄か……)







―――――― (……姫……)


―――――― (ここって、姫にも会えるのかな……)


―――――― (……て、んなわけないか)


―――――― (はは………)


―――――― (……姫……)


―――――― (姫……姫……………!!)






―――――― (ここで終わりたくない!!)


―――――― (約束したんだ!! スラリンと、姫を必ず守るって!!)


―――――― (……出してくれ)


―――――― (ここから出してくれ!! 姫を、姫を助けに行かなきゃいけないんだよ!!)


―――――― (誰でもいいから!! 生き返らせてくれ……!!)






―――――― 【 奇遇ではないか、我もそう思っていたのだ 】



―――――― (っ、誰だ?)


―――――― 【 我か……名乗る必要はない 】


―――――― (……頼む、力を貸してくれないか)


―――――― 【 ほう、どうすれば良いのだ 】


―――――― (分からない、だけど……竜王に勝てるだけの力を貸してくれ!!)


―――――― 【 面白いな、我も死人なのに力を貸せと言うか 】






―――――― (…………)


―――――― 【 そなた、名は何という 】


―――――― (俺か? 勇者だ)


―――――― 【 勇者だと? フフフ、益々面白い・・・ 】


―――――― 【 勇者よ、そなたに『大賢者』たる魔力を授けよう 】





―――――― 【 この魔界の大賢者・・・『ゾーマ』の力を、そなたへの祝福としてな 】







―――――― 伝説の勇者は消えた。


もはや、竜王の前に立ち塞がる者は存在しない。

もはや、竜王に戦いを挑む力を持つ者は存在しない。


【【 ・・・ 】】


だが止まらない。

暴走した『闇の衣』の力を、竜王は辺りに構わずぶつけたかった。


そして視界に入る、ラダトームの王女・姫。



【【 ガァァぁアアアあ”アアアア”アアアッッ!!!!!! 】】




暴虐の怒王の矛先は既に向けられた。






姫(お願い勇者……)

姫(生き返って、勇者……! 助けて!)



勇者ロトに教えられた詠唱を全て唱えあげる。

そして、彼女は胸元に下がる『王女の愛』を掴み取って祈る。


姫(勇者……!!)


勇者に口づけをし、彼の耳元で静かに囁く。

その思いに迷いは無くただ彼女は究極の呪文の名を告げた。

















―――――― 「   『ザオリク』   」


















―――――― カッッッ!!



瞬間、姫の胸元から膨大な光が爆発した。

そしてその光は静かに勇者の肉体を包み込む。



【【 ―――― !!? 】】



凄まじい光の力に、究極の存在となった筈の竜王が気圧される。

暗闇に飲まれようとしていた世界が、『王女の愛』から迸る光によって照らされる。


その光は、あらゆる者に温もりを感じさせるものだった。






―――――― 「ただいま、姫」



目も開けられない程の光の中で、勇者の声がする。


姫「勇者!! 良かった、生き返っ――」

  「ここは、君はいちゃいけない」


優しく抱き締められながら、姫は勇者の言葉が理解出来なかった。


姫「何言ってる……の? 私達はずっと一緒って……!」


「待っていて欲しいんだ、ただ信じていて欲しい」

「俺には、姫を守る事は出来ないから・・・」


姫「っ…! 嫌っ、やだ! 勇者と一緒じゃないと私・・・!!」






―――――― 彼女の唇に、勇者の唇が重ねられる。


  それはとても優しく、儚いキスだった。


  姫の声が出なくなる。


姫「……」


  目の前にいる勇者は、姫の為に人間である事を捨て幼い時より『勇者』という化け物になる事を選んだ。


  そして、姫という彼だけの小さな世界を守る為に彼は何度も死を乗り越え、力を手にした。


  その次元はもはや神すら超えても尚、彼は姫の為に、『彼女だけの勇者』として剣を握った。


  そんな彼を、姫に止める事など出来るのだろうか?








姫「……どんなに時間がかかってもいいから」




姫「 必ず、迎えに来てよ? 勇者! 」





勇者「……約束、だな」









―――――― パシュッ!!



姫「!」


メイド「きゃあっ!? ひ、姫様!? どうしてここに……」

兵士「お、おい! 『光』が動き出したぞ!!」


姫が光の中から出た時には、ラダトーム城の屋上にいた。

そこから遠く彼方で唸る『闇』と、間違いなく姫がいた筈のリムルダールの町から輝く『光』を城の人間達が見守っていた。


メイドが姫に近寄り、声をかける。


メイド「ここは危険です! 中に入りましょう!」

姫「……お願いメイド、見届けたいの」

メイド「しかし……あれ」


メイド「………まさか、あの光って……!?」


振り向き、見上げた先でメイドは見た。

最後の決着が、最後の幕が、戦いが終わろうとする瞬間を。





勇者「……竜王」



【【 ・・・ 】】



勇者「もう終わらせよう、これが俺の最後の一撃だ」

勇者「お前が吸収した魔物達も含めて、俺が全て『地獄』まで連れて行く……!!」




【【 ・・・!! ヴォオェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! 】】




勇者「来い・・・竜王」スッ













勇者「  ―――――― 【【【 『マダンテ』 】】】 ―――――― !!  」














  ・・・音は無かった。



  勇者を中心に展開された『光』はあらゆる魔力のベクトルを『破壊』に変え、飲み込んだ。



  当然、その効果範囲は竜王の『闇の衣』もまた例外ではなかった。


  アレフガルドの魔物全てを飲み込んだ究極の魔力は、全てベクトルを『破壊』に強制された。



  結果、光は巨大な破壊魔法と化し……リムルダールの海岸を含んだ陸を削り、巨大な爆発に巻き込んだ。




  その中心にいた勇者がどうなるかなど、想像も出来ない。













● ● ●   3ヶ月後









伯爵王「いやあ明日が楽しみだ! いよいよだな」

大臣「そうですな」

伯爵王「思い出すなぁ、彼女と初めて出会った時を!」

大臣「はて、どんな風に出会いましたかな」

伯爵王「ふふ、いいだろうあれはたしか・・・」




メイド「失礼します」コンコンッ

< 「開いてるわ」

メイド「……」ガチャ

姫「久しぶりね、メイド」

メイド「……姫様、あの噂は本当なのですか」

姫「なにが?」

メイド「伯爵と明日結婚式を行うという話です!!」




姫「……本当よ」

メイド「なぜですか! あんな男と結婚するなんて……」

姫「メイド、私が今この部屋にいられるのはなんで?」

メイド「は? 姫様のお部屋だからです……」

姫「違うの、私は伯爵に正式に王位を渡したからよ」

メイド「?」

姫「今の私はね、ただの姫なのよ……城にいられるのは伯爵王の許しを得ているからなの」

メイド「……それで、伯爵と結婚するなんて事になるんですか」

姫「違うわ」




メイド「……何か、理由が?」

姫「メイド、私ね」

メイド「……」


姫「……勇者の子供がいるの、お腹に」


メイド「……………………え」

姫「私1人じゃこの子供を無事には育てられない、だから伯爵と結婚してこの子を守りたいの」

姫「……勇者が私を守ってくれたみたいに」

メイド「……姫様」




< 翌日 >


姫(……)ジャラッ

姫(あの日から、もうずっと『愛』が光ってない)

姫(そして……)


メイド「姫様、綺麗ですよとても」

姫(……こうして、結婚式を前にしても……)




姫「ね、メイド」

メイド「なんですか?」

姫「……勇者がいたら、綺麗って言ってくれたかな」

メイド「勿論ですよ」

姫「……そっか」





―――――― 『 ヌゥ、まさかこの私が敗北するとは…… 』



『さすがはたった1人で魔王を倒した事はあるようだ』

『では、約束通りそなたの願いを叶えよう・・・』


「ぴきーっ!! ぴぃ!」

「!! 姫が伯爵と結婚……?」


『どうかしたか』

「すまない、出来れば急いでくれ」

『……ならば少々おまけをしてやろう』


「?」




―――――― ゴォォン!! ゴォォン!!


姫(……? どこかで聞いたような)


メイド「もう、誰か間違えて鐘を鳴らしちゃったのかな」

姫(鐘……)

メイド「さ、姫様……私が先導しますから」

姫「うん、ありがとう」




「すまない! 式場はどこだ!?」

兵士「ダンスホールだが……」

兵士「て、なんだお前!? 怪しい鎧を着た奴め!」

「『スラリン』!」


スラリン「ぴきーっ!!」ズドォッッ


兵士「ぐあああ!?」




神父「汝、良き夫として・・・」

< 「警備兵が三名やられた、来てくれ」
< 「なに?」
< 「敵はスライム一匹らしい」
< 「魔物は3ヶ月前に絶滅したんじゃ…」


伯爵王「~! 騒がしいぞ!! 何事だ!」

兵士「それが……」


姫「……スライム?」




< 「ぐあああっ!」


兵士「!」

伯爵王「な、なんだ!?」


< ざわ・・ざわ・・・


  キィィン!! キィィン!!


姫「光ってる……!!」

メイド「きゃ! なんですかそれ!?」





ドバーン!!


スラリン「ぴきーっ!!」ぴょん

兵士「うわ! 魔物だ!」

兵士長「囲め!! 槍兵前へ!」


スラリン「ぴっ、ぴい……」じりっ





「『ラリホーマ』」


< キィン・・・


兵士「あ、あふん?」

兵士長「魔法……だ、と」ドサッ


「やれやれ、危なかったなスラリン」

スラリン「ぴきーっ♪」




勇者「 迎えに来たぞ、姫! 」



姫「勇者っ!!」


伯爵王「~~!? おのれ、であえ、であえ!」

< 「そこまでだ、伯爵」

伯爵王「?」


王様「その男は私を殺し、王の座を奪おうと企んだ男だ!」


姫「お父さん!?」

メイド「何がどうなってるの!!?」




伯爵王「くっ……こうなれば!」バッ

姫「ひゃあっ!?」


伯爵王「姫の命がおしければ全員うごく……


メイド「せぃやァッッ!!」

ドゴン!!

伯爵王「ぐへぇ!?」


ドサッ


メイド「アンタが悪者ってわかったからには、容赦しないんだから!」スタッ





勇者「……」

姫「勇者……」


勇者「3ヶ月も待たせて、ごめんな……」

姫「ううん、ずっとはやかったくらいだよ……」ポロポロ

勇者「……」なでなで


王様「よくぞ世界を救い、国を救ってくれたな……勇者よ」

勇者「王様! 本当に生き返ったんですね」

姫「勇者が生き返らせたの?」


王様「うむ……まさか神との戦いに勝って私とそなたを蘇らせようとは、伝説として語るに相応しい勇者だ」




王様「ところで、勇者よ……」

王様「私も年だ、何よりこのアレフガルドを救ったそなたこそ、王に相応しいのではないか」


勇者「……」くすっ

姫「勇者?」


勇者「王様、申し訳ないが俺にはずっとやりたかった事があります」

勇者「それは時期のせいで不可能でしたが、今なら可能なのです」

王様「それはなにか」



勇者「……」がしっ

姫「え?」





勇者「姫はッッ!! 俺が貰っていく!!」ぎゅっ



王様「なっ……」

メイド「えぇぇっ!?」


勇者「はっはっはー!! 国の王なんかにはならない! 俺は姫と一緒に幸せになるんだー!!」

姫「……////」


勇者「それでは皆さん! お元気で……あ、メイド」

メイド「はい?」

がしっ

メイド「え」


勇者「『ルーラ』!!」





―――――― シュバァッッ!!





王様「……なんと豪快な」




―――――― シュバァッッ!!


メイド「ひああ……そ、空飛んだの初めてですよぉ」

姫「慣れると楽しいよ♪」

メイド「……あはは」


勇者「……姫、話があるんだ」

姫「……なにかな」


メイド(お……)


勇者「……俺と結婚してくれ、今度こそずっと一緒にいてくれ」

姫「いいよ」


勇者「……////」

メイド(そ、即答……!?)




姫「……ふふん、ごめんねメイド付き合わせて」

メイド「いえ、お幸せに……」

姫「じゃ、まずどこいく?」

メイド「えっ」


勇者「姫の行きたい所ならどこでも」

姫「うーん……あっ」








姫「疲れたから、おんぶして♪」



勇者「……はいはい」





ご愛読ありがとうございました

月曜日か明日明後日の午後にHTML化と質問受付をします


おやすみなさいっ!

乙!
よく分からんこともあったけど面白かった!
やっぱハッピーエンドは最高だ!

あ、他に書いたやつ頼む

こんにちは>>1です

とりあえずHTML化依頼は月曜日の他スレを再開するタイミングでやろうと思ってます

>>795
じつはマトモに完結させたのはこれが初めてですww
他に書いてますが、この勇者×姫に全力を注いだせいで1ヶ月停滞してます……


>>793のように何か質問のある所は今か明日の同じくらいに回答します。

質問が無くても月曜日までは完結させた余韻に浸ります。

正直……色々なイメージが壊れたら嫌だなと思いますが……


キリン「友達が出来たよ!」ユクモS「狩ゆり、この後すぐ!!」


【そのⅡ】侍「……バラモス?」賢者「サムライクエスト、この後すぐ!!」


これがまだ未完のスレです
キリン百合スレはまた全力注いだら来月には完結するとは思いますが……

それではそろそろ行って来ます(いつものおやすみなさい)

他に質問があれば書いて置いて下さい、明日に回答させて頂きますので!

質問は無いみたいで安心しました


ちなみに分かってる方が多いと思いますが、本スレの原作は

『ドラゴンクエスト』

『剣神ドラゴンクエスト』

です。


殆どがオリジナル要素とはいえ、『四天王』やメルキドの町の『辺境伯・伯爵』は『ドラゴンクエスト』での
『コイツ最初強かったなー…』とか『ゴーレム造れる凄い町』という意識を基に描きました。

また、勇者の異常極まりない強さと『DQ』には存在しない『スクルト』やら『ギガスラッシュ?』や『マダンテ』は

『剣神ドラゴンクエスト』の終盤やふっかつの呪文を利用した後の勇者のチートっぷりを基にしてます


そこで、『DQ』と『剣神DQ』の勇者のイメージ(黒髪→金髪)やらチートっぷりを配合して生まれたのが

『  姫  』(原作:ローラ姫)でした。

考えてみれば、『DQ』は元々この姫を助けに勇者が旅に出るのが始まりだったと気づき、
同時に『姫を助けなくてもクリアは出来る』という噂を聞いて 

「……これってよほど姫が好きじゃなきゃ勇者助けないんじゃ」

という謎の妄想から、物語の『そもそも勇者と姫の関係』を描きたくなりました。

だってゾーマがわざわざ予言(ツンデレ)してくれてまでの実力がある『竜王』に挑むからには(しかも勇者1人)

やはり命を懸けてまで戦える何かがあったと思いたくて、最初からラブラブな勇者達を書きました。

長々と語ってしまいましたが、私はこの2人の物語を終わらせないように完結出来て死ぬほど満足でした。



※ (途中、メイドも姫が好きという百合百合っ子な設定を入れようか悶絶したのは内緒☆)

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