球磨川「学園都市は面白いなぁ」(476)



1、このSSは球磨川が上条さんのかわりに「やらかす」お話です

2、原作が完全に崩壊しています

3、>>1は原作を読んでおらずSS、wikiにある知識しかありません。
 描写、設定のミスが多々あると思いますがどうかご了承ください。

4、球磨川の能力は>>1の解釈で行います。
 
5、球磨川のキャラは最初に出てきたときの球磨川とします

6、>>1は文章を書くということすら初めてです。確実にお見苦しい点があると
 思いますがどうかご勘弁を

ではどうか>>1の駄文にお付き合いください。

学園都市のとあるマンションの一室にて―― 
 
 一人の少年がいた。容姿は幼く、髪は黒い。どう考えても普通、いや没個性的といってもいい。

そして服装は学園都市のどの学校の制服とも違う。

 
 『あ~あ 退屈だなぁ 学校潰しも飽きちゃった』 
 
 少年の名は球磨川禊 幼少の頃より転校を繰り返し、その度に転校先の学校を潰してきた。

 理由などない。エリートを皆殺しにするため そんな建前を掲げているか事実は誰にも分からない。

 『なにか 面白いことが起きないかなぁ?』

 『何か起きるとしたら少年漫画チックなことがいいな!』

 『そうだね 好きな少女を守って悪と戦う! そんなのどうかな?』
 


 しかし誰も答えを返してはくれない。それもそのはず。この「部屋」には球磨川以外誰もいないのだから。
 その事実に少しむくれ顔になる球磨川

 『う~ん…… あ、そうだ!』
 
 『窓の外を見て消したくなったものを、適当に消しちゃうってのはどうかな?』

 第三者から見ればそんなことできるはずがないと思うだろう。なぜならこの少年はそのようなことが出来る
特別な存在には見えない。しかし彼は確かに特別(プラス)ではない。しかし過負荷(マイナス)である。
彼の力 「大嘘吐き」はあらゆる事象を虚構にできる。 
 その力は何も生み出さない。出来る事は消すことだけ。だから何の役にも立たない負(マイナス)

 『でも僕の暇つぶしには役に立つよねっ!』

 無邪気に笑いながら窓に近づく球磨川。
 さぁ、何を消そうか? できれば人が大勢迷惑をこうむるところがいいなぁ等と無邪気な顔で
邪気満載なことを考えながら――

 
 『…… 何だこれ?』

 窓の外を見た球磨川は驚きを隠せない。今まで様々な事件を経験してきたがこんなことは
経験したことがない。なぜなら……
“窓の外を見たらベランダに女の子が引っかかっていた”


『う~ん どうしようかなぁ』

 困惑の色があせない球磨川。いくら彼でもこのような事態は初である。しかも相手は意識があるかないのか
もわからない。どうすればよいのかもわからない。
 さらに言うならとんでもなく珍妙な格好をしていた。その服装は修道服に似ているが見たこともないような
デザインだ。髪は銀髪 確実に日本人ではないだろう。

 『まぁ、放っておくわけにもいかないし、部屋に運ぼうかな』

 球磨川にしては妥当な判断である。ここから先どんな判断を下すかは分からないが。
 そして彼女を部屋に入れるべく窓を開けた。

 「お…… おなかがすいたんだよ……」
 
 『あれ? 意識あったんだ?』

 「何か食べさせてくれると嬉しいかも……」

 球磨川の台詞を無視し、銀髪の女の子はそう言ってきた。



 『お腹すいてるんだ? じゃあ部屋に来なよ カップラーメンくらいならたくさんあるしご馳走するよ?』
 
 「えっほんとう!?」

 球磨川の「ご馳走する」という単語を聞いた瞬間、跳ね起きる銀髪の少女。そして元気に球磨川の部屋の
中に入る。

 「さぁ、ご馳走するんだよ!さぁさぁ!」

 『君、メチャクチャ元気じゃないか……』 

 さっきまで死にそう、もしくは死んでいたかのような感じだったのに。
 球磨川は苦笑いを浮かべながら彼女にカップラーメンをご馳走した。


「あ~お腹いっぱい!」

 『び、備蓄してあった50個のカップ麺が……』

 この少女は一体どういうお腹をしてるのか!? 見た目のみならず腹まで非常識とは。
球磨川はそう思ったが、それを口にすることはなかったが変わりに……

 『あぁそうだ 自己紹介がまだだったね! 僕は球磨川禊って言うんだ! 君はなんて名前なの?』
 
 「わたしはインデックスって言うんだよ!」
 
 『インデックスちゃんかぁ よろしくね!』
 
 明らかに偽名。しかし球磨川は気にすることなく話を進めた。



 『ねぇ、君は何でベランダなんかに引っかかってたのかな?』

 「…… わたしは追われてるんだよ」

 インデックスは俯きながら言った。球磨川の顔が少しだけニヤけ始める。
 
 『追われてる? 一体誰に?』

 「わからないんだよ…… でも追われる理由なら分かるかも」

 曰く、彼女の頭の中には10万3000冊の禁書目録があるらしい。それを狙い誰かが自分を
狙っているのだと。さらにニヤける球磨川。

 『…… よし、決めた! インデックスちゃん! 僕が君を守ってあげる!』



 「えっ?」

 インデックスは球磨川が何を言ってるのか理解できなかった。普通ならこんなこと聞いたところで
信じることはしない。だから言うのをためらったのだ。しかし彼の表情を見るに完全に信じている。

 「で、でも危険なんだよ! あなたが死んじゃう……」

 そう心配そうに言うインデックス。それもそのはず球磨川は特別強そうには見えない。自分に巻き込
まれて人が死ぬなんて嫌だ。

 『大丈夫だよ! 君が思うほど僕は弱くないよ? よし、証拠を見せようか』

 そう言うと、インデックスが食べたカップ麺のカップを指差す。
 積もりも積もって50個分。到底信じられないそのタワー。しかしそれ以上に信じられない現象が起こる。

 「えっ!? カップのタワーが…… 消えた!?」

 驚きを隠せないインデックス。こんなことは魔術でもできない。では超能力か何かなのだろうか?

 『これで信じてくれたかな? 僕は強いんだ! 君を守れるくらいにはね!』
 
 『それでもなお、君が僕の警護を受けないというなら四六時中、付けまわすだけだよ?』

 さらっと怖いことを言う球磨川。その台詞を聞いてインデックスは折れたのか

 「わかったんだよ…… お世話になるね くまがわ」

 その台詞を聞いた球磨川は……






 とてつもなく歪んだ笑みを浮かべた






インデックスが来てから数時間程度が過ぎた。 外はもう夕方。
 この数時間インデックスは楽しかった。久しぶりに人とゆっくり話せたからだ。
それに球磨川が変わり者ということもあり余計に面白く感じた。

 「くまがわ~ お腹が空いんたんだよ!」

 『おいおい、昼あんなに食べたのにまだ食べるのかい?』

 『もう、食糧の備蓄はないんだけどなぁ……』

 そう、球磨川の食料は今、目の前にいるこの暴食シスターに全て食われてしまった。
もうここには食べ物などない。
 空腹を虚構にしてもよかったのだが、それではこの子が満足してくれないだろう。
 大方「わたしは何かを食べて空腹感を消したいんだよ!」などというに決まっている。

 『もう! 仕方ないなぁインデックスちゃんは』
 
 『コンビニでも行って何か買ってくるよ』

 そう言いながら立ち上がり、ドアノブを回しドアを開けた。その先に――



 『えっと、君だれ?』

 2メートルはあろうかという大男がいた。歳は20代だろうか?口にはタバコをくわえている。
そして服装はこれまた珍妙で、黒い修道服?のようなものを着ており、髪は真っ赤。
 完全に不審者といわざるをえない男だった。

 「この部屋に女の子が来ているだろう? その子を渡してもらいたい」

 『えっ? そんな子、来てないよ?』
 
 「嘘をつけ」
 
 『嘘なんかじゃないよ~ なんだったら部屋を除いてみるかい?』

そういうと、さぁどうぞといわんばかりに手招きをする。しかし赤い髪の男は乗っては来ない。

 「君の誘いには乗らないよ。嫌な予感がするんでね」

 『あれ? ばれちゃった? 惜っしいなぁ もし来てくれたら背後から螺子をねじ込んであげたのに』

 恐ろしいことを言い放つ球磨川。
 
 「やっぱり君の部屋にはアレがいるんだな……」

 『うん、いるよ! でも君に渡すわけには行かないなぁ』
 
 『だって今の僕は、少年漫画の主人公なんだから!』

 意味の分からないことを言う球磨川に赤い髪の男は舌打ちしながら

 「そうかい。なら君を殺して連れ去ることにするよ」
 
「僕はステイル=マグヌス 魔法名はFortis931(我が最強である理由をここに証明する。)」

 『僕は球磨が……』

 球磨川が自己紹介を済ませる前に、球磨川の体はステイルの放つ炎によって焼き尽くされた。 
 その場には消し炭すら残っちゃいない。 



 「やれやれ、すこしやり過ぎたかな? まぁでも死体を残すわけにもいかないしね」

 と、目を瞑り頭をかきながら苦笑を浮かべるステイル。そのときだった――

 『いやぁ、驚いたなぁ まさかいきなり炎を飛ばしてくるなんてね!』

 ありえないことが起きた。消し炭以下の状態にしてやった、少年が目の前にいる。
 
 「どういうことだ……?」

 困惑するステイル。確かに殺した。焼き尽くしてやったのだ。なのに少年は目の前にいる。
魔術師である彼ですらわけのわからない状況に戸惑いを隠せなかった。

 『おいおい、そんな人を化け物か幽霊のように見るのはやめておくれよ』

 『僕の心は繊細なんだ 傷ついちゃうじゃないか!』

 少年のそんな軽口も今のステイルには届かない。そんな様子を見て少年は言う。



 『あぁそうだ 自己紹介を済ませなきゃね! 僕の名前は球磨川禊っていうんだ!』

 『ついでに君が気になってることも教えてあげるよ』

 『その様子だと何で焼き尽くしてやった奴が生きてるのかって考えてるんだよね?』

 『何で僕が生きてるのかって?それはね……』





 『僕はすべてを虚構にできるんだ』



今日の投稿はここまでです
駄文にお付き合い下さりありがとうございました
続きは明日か明後日にでも
ちなみにもう半分程度終わっております

ではでは

一応支援はするけど本屋で立ち読みくらいでいいから読むべき

せめて1巻ぐらいはよむべき
2次創作やらwikiの知識だけでは限界がでてくると思うぞ
1巻だけ読んでもどうにもならん部分もあるし全部読まないと結局わからん部分あるだろうなって気もしてきたな…
期待してるんで続き待ってます

>>19
支援ありがとうございます!
次に何か作るときは絶対に読んでからにしようと思います

>>20
そうですね……
自分の文才のなさ想像力のなさも相まって
見直してみると酷い有様ですね……

とりあえず全部書き溜めました。
しかし、疲労がピークなので明日の午後9時に投稿したいと思います
残っていればですが……
次の投稿で終わると思いますのでどうか>>1の駄文にもう少しだけお付き合い下さい
では

予定通り、今夜9時からはじめます
ねーちんに関しては……
信じられないくらいはしょってますので
ファンの方はここからはご覧にならないほうがいいかもしれません
ではまた9時に

それではこれからはじめます

 その言葉を聞いてステイルはさらに困惑した。すべてを虚構にする? そんな馬鹿な!
にわかには信じることができない。しかしそれが事実であるなら全てのつじつまが合う。
だが、そんな事実は受け入れることができない。もしそれが事実なら勝ち目などあるはずがない。

 「冗談はその気持ち悪い雰囲気だけにしてくれよ」

 『まったく! ステイルちゃんは本当に口が悪いなぁ』 
 
 『その口を虚構にしてあげたくなってきたよ』


 「くっ……! 使いたくはなかったが仕方ないな……」

 ステイルは言うや否や、詠唱を始めた。

 「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ」

 『ん? なになに?』

 「それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり」

 『なに? 詠唱か何か?』

 「それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり」

 『懐かしいなぁ 僕も中学二年のときはやったもんだよ』

 「その名は炎、その役は剣」
 
 『ねぇねぇ その呪文自分で考えたの?』

 「顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ」

 『むぅ~…… 無視なんて酷いよ ステイルちゃん!』

 『そんな酷いステイルちゃんには螺子をねじ込んであげるよ』

 そう言いながら螺子を取り出す球磨川。そしてステイルに向かって走っていく。
螺子をねじ込むために。その瞬間だった――



 
 

 「魔女狩りの王(イノケンティウス) !!!」






 そう叫ぶと同時に、凄まじい炎が辺りを飲み込みそしてその炎は形をなしていく。
その姿はまるで巨人。
 ステイルが持つ最大にして最強の魔術「魔女狩りの王(イノケンティウス) 」である。

 『うわぁ、すごいや! こんなことも出来るんだね!』

 「余裕を見せられるのもそこまでだ 行け! イノケンティウス!!」

 イノケンティウスが球磨川に向かっていく。

 『そろそろ僕も攻撃するべきだよね 受けてばかりじゃ少年漫画っぽくないしさ!』

 そういうと球磨川はイノケンティスを虚構にする。しかし……

 『あ、あれ?』

 虚構にしたイノケンティウスが虚構にならない。正確に言うと何度虚構にしてもまた復活する。
驚いた球磨川は回避行動を取ることを忘れ、イノケンティウスの攻撃によって再び灰となった。


 「まさかイノケンティウスまで使わされるとはね…… まぁ、これで決着はついた」
 
 「さて、さっさと彼女を回収しないと 神裂の奴がうるさいからな……」

 完全に勝利を確信したステイルはインデックスを回収すべく、球磨川がいた場所に背を向け歩き出す。
その背後からまたしても――

 『う~ん なんで虚構にできなかったのかなぁ?』

 聞こえるはずがない声が聞こえた。

 「なにっ!?」

 驚いて振り向く、ステイル。
 その顔は困惑を通り越し恐怖すら感じているようだった。

 「そんな馬鹿な……」

 『一体どんなトリックが…… この魔法は一体どんな仕掛けになってるんだろう?』

 ステイルを無視して考え込む球磨川。



 「くっ……! 行け!イノケンティウス!!」

 再度イノケンティウスで球磨川に攻撃を仕掛けるステイル。
 球磨川は避けることをせず考え事をしながら三度灰となる。しかし――

 『う~ん 全然わかんないなぁ』

 何事もなかったかのように復活する球磨川。その姿はもう不気味だとか気味が悪いとか
そんなレベルではなかった。

 「う、うわあああああああああああああああああああああああああ!!!」

 とうとう恐怖に押しつぶされてしまったステイルは球磨川に攻撃を仕掛ける。球磨川は灰となる。
しかし復活する球磨川。また燃やす。復活する。それを繰り返した。

 何度も

 何度も

 何度も

 何度も

 何度も



 もう何度同じことを繰り返しただろうか。何度殺しても目の前の少年は死なない。
 死なないどころかぴんぴんしている。

 「はぁ…… はぁ…… くっ!」
 
 それとは対照的にステイルは魔翌力を消耗し続け、息も絶え絶えという様子だ。
さらには心もズタボロになってしまったステイルは立っていることすら、ままならず
とうとうその場にへたり込んでしまった。

 「こんなの一体どうすればいいんだ……」

 もうステイルに勝算などなかった。自身の持つ最強の魔術は通用した。
 しかし通用したといっても相手をあの世に送れなければ何の意味もない。
 そんなステイルを尻目に球磨川が意外なことを言い出す。

 『あ~あ! 全ッ然わっかんないや!』

 『もういいよ 僕の負けで 考えるの面倒くさくなっちゃったし』

 球磨川がそう言い放つ。ステイルはさらに困惑した。
 もういい? 僕の負け? 何を言ってるんだこいつは? そんな事を考えたステイルは



 「は?」

 そう言うほかなかった。

 『いや、だからさ 僕の負けでいいよってことだよ』
 
 『あぁでもインデックスちゃんは渡さないよ?』

 『だから話し合いをしようじゃないか!』

 ステイルはますます困惑する。話し合い? この状況で?
 目の前の少年が嘘を言っていないことはなんとなしに分かる。あの押しつぶされそうな
気持ちの悪さが多少和らいだからだ。

 『思うに、僕達はお互い何か誤解をしてると思うんだ!』
 
 『君は確かに悪役の顔をしてるけどさ なぜか悪役だと思えないんだよねぇ』

 『だからここは一つ平和的に話し合いをしようじゃあないか! 対話って重要だよ?
 僕はガンダムOOを見てそれを学んだんだ!』



 ステイルは少し考えた後、

 「い、いいだろう 話し合いに応じるよ」

 そう言うほかはなかった。今のステイルの頭の中にはインデックスのことも、神裂のことも
自分の使命のことも何もなかった。
 ただただ“目の前にいるこの化け物から逃げたい”それだけだった。

 『それじゃ、ステイルちゃん 何で君たちはそこまで必死こいてインデックスちゃんを狙うんだい?』

 『インデックスちゃんは10万3000冊の禁書目録を狙ってきているって言ってたけど』
 
 『それだけじゃないんだろう?』

 そう質問した球磨川にステイルは自分たちのことを話し始めた。
 インデックスはもともと自分たちの仲間であったこと。
 インデックスは完全記憶能力を持っていて10万3000冊もの禁書目録を記憶しているため
脳の要領がパンク寸前であること。
 そして一定周期ごとに彼女の記憶を消さなければ彼女は死んでしまい、その一定周期の日は
もうあと1週間ほどしかないということ。
 それを聞いた球磨川は
 
 『なぁんだ そんなことだったんだ!』

 と言うと無邪気に笑い始めた。



 「そ、そんなこと?」

 『全くステイルちゃんったら! そんなことなら最初に言ってくれればいいじゃないか!』
 
 『最初に言ってくれれば僕の力で全部解決してあげたのにさ!』

 「君の…… 力?」

 『そうだよ! 僕は全てを虚構に出来るんだ』
 
 『だから君達の思い悩んでいたものも解決できるよ!』

 ステイルは何も喋ることができなかった。確かにこの少年の力を使えば……
 自分たちにとっての最高のハッピーエンドを迎えることができるかもしれないそう考えた。
 考え込んでいるステイルに球磨川が話しかける。

 『君達にとってのハッピーエンドって言うのはさ まずインデックスちゃんが死なないと言うことが前提で
あの子の記憶を消去することなくあの子を苦しみから解放して 且つ、彼女を追い回さず、また仲良くなりたい』

 『それでいいんだよね?』



 「あ、あぁ」

 概ねその通りだ。彼女を追い回すなんてしたくない。しかしそうしなければ彼女は死んでしまう。
 彼女とまた仲良くしたい。だが今のままではそんなことはできない。
 だが目の前にいる少年はできると言った
 
 「だが、そんなこと本当にできるのか?」

 そう口にする、ステイルは半信半疑と言う様子だった。
 確かにそれは最高のハッピーエンドだ。しかし一体どうやって……

 『大丈夫だって! 僕のことを信用してよ! ね!』

 球磨川はステイルに微笑みかける。
 ステイルそんな球磨川の微笑みが悪魔の微笑みに見えたが、もし本当に自分達にとっての
ハッピーエンドを迎えられるなら…… あの子が苦しみから解放されるなら…… と考え

 「分かった 君のことを信用するよ」

 そう答えた。もはや相手が悪魔だろうがなんでもいい。幸せになれるのなら。
ステイルはそう考えたのだ。

 『じゃあ、記憶を消す日になったらまた来なよ!』

 『そのときに僕が何とかしてインデックスちゃんを助けてあげるからさ!』

 「……わかった」

 球磨川に了承の意を伝えるとステイルはその場を去ろうとする。その背後から球磨川が声をかける。



 『あ、そうそう 君達さえよければ記憶消去の日だけでなくいつだって来てもいいんだよ?』

 『インデックスちゃんからは僕が君たちの事を伝えておいてあげるからさ』

 『まぁ、インデックスちゃんも最初は警戒するだろうけど、僕が仲介役を務めてあげるから大丈夫だよ!』

 そう、ステイルに言う球磨川。それを聞いたステイルは振り向いて俯くと
 
 「考えておく」

 と言い、その場を去った。

 『ふぅ、なんかいいことした気分だなぁ』
 
 そんなことを言いながら、自分の部屋に戻る球磨川。しかし彼は重要なことを忘れていた。



 『ただいま~』

 「あ、おかえり!くまがわ! さぁ早くカップ麺をよこすんだよ!」

 『えっカップ麺?』

 言ってからようやく思い出す。そう球磨川はカップ麺を購入しに出かけたのだ。
 しかしステイルとの戦闘ですっかりそのことを忘れていた。

 『え、え~っとインデックスちゃん…… い、言いにくいんだけどさぁ~』

 『買ってくるの忘れちゃっ……』

 言い終わる前にインデックスが飛び掛ってくる。

 『い、痛いっ! 痛いよインデックスちゃん!』

 「くまがわはおおうそつきなんだよ! カップ麺食べさせてくれるって言ったのにー!!」
 
 『ご、ごめんよ! でも仕方なかったんだよ! だから僕は悪くない! 僕は被害しゃ……』

 「被害者は私なんだよ!! むきー!!」

 『ぎゃあああああああああああああああ!!』

 こうして球磨川のドタバタとした一日が終わった。
 余談だがその日、体のいたるところに噛み痕のある少年がコンビニのカップ麺を買占め
店員を驚かせたことは言うまでもない。
 


インデックスがやってきて3日が経過したある日、ステイルが女性を連れてやってきた。

 『おや、ステイルちゃんいらっしゃい』
 
 『ところで、その不健全な格好をした子はだれ?』

 「…… はじめまして 神裂火織です」

 彼女の名前は神裂火織。 彼女の格好もまたあまりにも異常だった。
 穿いているジーンズは片方だけ根元までばっさりと切られており、着ているTシャツは
胸がぎりぎり見えるか見えないか程度まで捲くられている。
 これでスタイルや見た目が最低なら別にかまわないのだが、彼女の容姿は極めて端麗で、
スタイルはというと、出るとこは出て、くびれているところはしっかりとくびれている。
完璧な見た目であった。ゆえに――

 『火織ちゃん! 君はなんて不健全な格好をしているんだ!』

 『そんな不健全な格好を見たら健全な男子諸君が、不健全な妄想に取り憑かれてしまうじゃないか!』

 「なっ! こ、この格好は別に……」

 『僕が健全な格好に戻してあげるよ』

 神裂の言葉を無視して球磨川は神裂の「服装の改造」を虚構にした。



 『うん、これなら健全な男子諸君も健全な妄想ができるね!』

 「…… !? ステイルから聞いてはいましたが実際に目の当たりにするととんでもない力ですね……」

 神裂は元に戻った自分の服装を見て驚いた。ステイルからはこの球磨川禊と言う少年について話は聞いていたが
 自分の目で見るまでは到底信じられない話だった。

 『すごい力なんかじゃないよ 何の役にも立たない過負荷にすぎないんだから』
 
 『そんなことより二人とも! インデックスちゃんに会いに来たんでしょ?』
 
 『中に入りなよ インデックスちゃんには僕からちゃんと言っておいたからさ!』

 そう言うと球磨川は二人を部屋の中に招き入れる。
 部屋の中には警戒の色を隠せないインデックスの姿があった。



 しばしの沈黙が流れる。
 一体何を話せばいいんだろう? その考えが二人の頭の中を支配していた。
 つい先日まで二人はインデックスを追回し、酷い目に合わせて来た。その負い目もあってか
何もしゃべることができなかった。
 気まずい空気がその場を支配する。

 『とりあえず、二人とも インデックスちゃんに謝ったらどうかな?』
 
 静寂を破ったのは球磨川の言葉だった。

 『お互い誤解があったんだしさ! 別に二人はインデックスちゃんに危害を与えるために
追い回したわけじゃないんだ!』

 『インデックスちゃんを守るために追い回してたんだからさ! 別に悪いことなんか何もしてないじゃないか!』
 
 『でも、インデックスちゃんが怖い目にあったのは事実 だからさ! まずはちゃんと謝っておこうよ! ね!』



 球磨川がそう促してくる。二人はそれに従うことにした。

 「君を助けるためとはいえ、本当にひどいことをした…… すまない!」

 「謝ってすむ問題ではありませんが…… 本当に申し訳ありませんでした!」

 二人はそういうと土下座しそうな勢いで頭を下げた。そんな彼等を見てインデックスは

 「頭を上げてよ二人とも」

 といった後、笑顔を浮かべると

 「全部、私のためだったんだよね? だったら二人は悪くないよ」
 
 「私だって二人と話し合ったりせずに逃げちゃって……」

 「もっと話し合っていれば二人も苦しまずにすんでたのにね……」

 そういった後、インデックスは

 「ごめんなさい」
 
 二人に謝罪した。



 その姿に驚愕した二人は慌てふためきながら

 「や、やめてくれ! 悪いのは全部、僕たちのほうなんだ!」

 「そ、そうです! あなたが謝る必要なんてないんですよ!」

 などと口々に言う。

 それから数時間程度が過ぎ、最初の気まずい空気と打って変わって、球磨川の部屋の空気は
とても明るいものに変わっていた。
 二人はインデックスと和解し、極めて友好な関係を築くことができた。
 そんな微笑ましい光景を球磨川は、微笑ましさを感じさせない歪んだ笑みを浮かべながら見ていた――


 インデックスがやってきてから1週間程度が過ぎた。
 あれからステイルたちは度々球磨川の部屋を訪問し、インデックスと談笑していた。
その甲斐あってか彼らの仲は昔と同じレベルで仲良くなった。 そのさまをニタニタと
笑いながら球磨川は見ていたが、その心境はだれにも分からなかった。 
そしてインデックスの記憶を消す「儀式」の当日――

「邪魔するぞ」

 と、ステイルと神裂火織が球磨川の部屋を訪問する。

 『え? 邪魔するなら帰ってよ』

 「そんな古典的なギャグには乗らないぞ」

 そうステイルは言い放つとインデックスの様子を見る。

 「やはり、来たか……」



 インデックスは球磨川のベッドに寝ていた。
 その様子は高熱が出ているからか、顔が高潮しており、息も絶え絶えという感じだ。

 「儀式の準備をするぞ 神裂」

 「はい わかっています」

 二人は儀式の準備を始めた。
 後ろで歪んだ笑みを浮かべている球磨川のことなど気付きもせずに……


 儀式の準備が整い、ステイル達が何らかの呪文を詠唱している
 すると突如、インデックスの体が輝き始めた。記憶を消す一歩手前のところまで行ったところで
ステイルは球磨川に話しかけた。

 「で、どうやってこの子を救うつもりだ?」 

 『そうだね ちょっと待ってよ』

 というと球磨川はインデックスの頭に手を置く
するとインデックスの体から発せられる輝きはどんどん弱くなり最終的には完全になくなった。
そして残ったのは、すやすやと眠るインデックスだけだった。高熱に苦しんでいる様子は一切見られない。



 「これは…… 彼女は苦しみから解放されたのですか!?」

 「一体何をやったんだ球磨川!?」

 二人が球磨川を捲くし立てる。

 『いっぺんに言わないでよ二人とも』

 『最初に神裂ちゃんの質問に答えようか』

 『そうだよ インデックスちゃんは苦しみから解放された そして今後一切、二度と苦しむことはないよ』

 球磨川の台詞を聞いて神裂とステイルは、ほっと息を撫で下ろす。
 この子はもう苦しむことはない。そう安堵したときだった――

 『次に、ステイルちゃんの質問に答えようか』

 球磨川が言う。二人は球磨川の答えを待った。
 
 『えっと インデックスちゃんになにをしたのかだったね?』

 『それはね……』






 『インデックスちゃんの禁書目録を含めた魔術的な要素や完全記憶能力を』

 『すべて虚構にしたんだよ!』





 「なんだって!?」

 「な……何を言っているのですか!?」

 困惑する二人。そんな二人を見て球磨川はニタニタと笑いながら彼らの質問に答えた。

 『だって言ったじゃないか 彼女が苦しむことなく君達と仲良くなるってことが
ハッピーエンドだって!』

 『だから僕なりに考えたんだ どうすればそんなハッピーエンドが訪れるのかってね』

 『その結果たどり着いた答えはとてもシンプルなものだったよ』

 『君達をハッピーエンドに導くための手段 それは……』

 そこまで言うと球磨川は息を吸い、言い放つ


 


 『彼女のアイデンティティーを全て虚構にしちゃえばいいんだってね!』






 「「……」」

 二人は絶句した。絶句せざるをえなかった。
 確かにインデックスは助かり、二度と苦しむことはないだろう。しかし
今ここにいる彼女は「禁書目録」としての彼女ではなくただの「少女」でしかない。
 二人はまるで自分達がやってきたことすら、虚構にされたような気分になってしまった。
 二人はしばらく固まると、思考を放棄し球磨川の部屋を出て行った。
 そんな彼らを見て球磨川は歪んだ笑みを浮かべながら言い放った。





 『あぁ 楽しかった』





 ――翌日
 あの後、インデックスが目を覚ましたので球磨川は事の顛末をインデックスに話した。
 球磨川はここで彼女が怒り狂い飛び掛ってくるものとばかり思っていたのだが、当の本人は
つき物が晴れたかのような表情を浮かべ
 
 「ありがとね、くまがわ」

 と言ったのち

 「私をただの少女にしたんだからその責任は取ってよね!」

 と言い放ち、球磨川の部屋に住み着くことになった。
 球磨川は予想外の出来事を面白く思い、それを承諾した。
 後に食費が激増して後悔することなど知らずに




 『あ~あ また退屈がやってきちゃったよ』

 球磨川が呟く。

 「くまがわ~ 夕飯まだ~?」

 『君って本当食べることばかりだよねぇ……』

 『まぁいいや、コンビニで何か買ってくるよ』

 底なしの胃袋に呆れつつ球磨川は外に出かけた。


 『あ~あ いい暇つぶしはないかなぁ』

 コンビニまでの道をぶつぶつと呟きながら歩く球磨川

 『今度はもっと王道バトル漫画見たくバトルがしたいな!』

 『今回は一方的にやられちゃったしね』

 『あ! そういえばステイルちゃんのあの魔法の種明かしをまだしてもらってないや』

 『連絡先とか聞いておくべきだったなぁ あぁ今日は眠れないよ~』

 そんなことを言いながら歩いていると前方に奇妙な少年を発見する。


 『ん? なんだろうあの子?』

 球磨川の視線の先には白い肌、白い髪、赤い目といったいわゆるアルビノの少年が歩いていた。
 その人相はとても悪く、ぶつかろうものなら因縁をつけられ半殺しにでもされてしまうのでは
ないだろうかと思うほどだった。

 『すごいなぁ まるで漫画の主人公か敵キャラみたいじゃないか!』

 球磨川は、ほんの少しだけ少年に興味を持ったがすぐにその興味は別のところに移る

 『あ! 漫画といえば今日はジャンプの発売日だった』

 『インデックスちゃんのご飯のついでに買っていこうかな』

 完全に少年に対する興味を失った球磨川はテクテクと歩き出す
 そして白い髪の少年とすれ違った 
 そのときだった――



 ドン!と鈍い音が響き渡る
 銃声だろうか? 球磨川は周囲を見渡してみるが銃で撃たれたと思わしい人間はいない。
そして銃痕のようなものも見当たらない。
 最後に自分の身を確認してみたが撃たれた様子はない。
 ただの空耳だろうか? そう思った球磨川はある異変を発見する。

 『あれ? あの白い髪の子はどこにいったんだろう?』

 そう、あの白い髪の少年がどこにもいない。あれほど目立っているのだから見失うわけがない。
 そして、あの少年とすれ違ってほとんど時間は経っていない。だからあの白い少年が遠くまで
行ってしまった、というのも考えにくい。

 『……ふふふ』

 球磨川は新しい玩具を見つけたかのように微笑み、顔を歪ませながら言い放った。
 







 

 球磨川「学園都市は面白いなぁ」

 




これにて終了です
短い間でしたが1の駄文にお付き合いくださり
本当にありがとうございました!

>>78が見えない

で続きはまだかね?

>>79
一方通行編は落ちは考えてあるんですが、そこまでもっていくのが非常に難しくて……

待ってるから出来たら書きに来てください

>>81
ありがとうございます
とりあえず原作3巻を読んだ後になりそうです

それにしても各巻のあらすじ見ると、球磨川を主人公とするとどんなふうになるか
想像もつかない内容ですね……

そんなことより>>1は大丈夫なのだろうか…

>>114
今のところ自分の住んでるところは少しのゆれ程度で済みました。
もし大型のが来たら100%詰みですが……

午後9時に投下予定ですがこの事態で投下すべきか否か……

それではこれから投下します。



『う~ん、今日は風が気持ちいいなぁ』

 外に出た球磨川の髪が風で揺れる。
 夏だからなのかその風はとても気持ちよく感じた。 

『夕飯を買うついでにちょっと散歩でもしようかな』

 球磨川はそう言うと適当な方向に歩き出した。



 しばらく歩くと風車の回っている姿が間近で見える橋まで来た

『おぉ~回ってる回ってる』

 と楽しそうに言う球磨川。
 ふと見ると見慣れた少女の姿を発見する。

『あれ? 美琴ちゃんじゃないか』

 橋の手すりの傍に御坂が立っていた。
 その顔は憂鬱そうな顔だ。

『美琴ちゃん! こんなとこでなにしてるの?』

 そんな様子を無視して美琴に声をかける球磨川


「あぁ、あんたか」

 話しかけてきた球磨川に御坂が言う。
 その声にはいつものような覇気はない。

『どうしたの? 美琴ちゃん。元気ないね 何かあったの?』

 御坂を心配したのだろうか。球磨川はそう質問する。
  
「私、あの飛行船って嫌いなのよねぇ」

 球磨川の質問に対してそう答える御坂。
 それ答えになってないよ。と思いながらも球磨川は

『へぇ、それはまた何でだい?』

 と聞く。

「機械が決めた政策に人間が従ってるからよ」

 
 


『機械? あぁツリーダイアグラムのこと?』

 飛行船を見ながらそう言う球磨川。

「そう、人工衛星にして世界最高のスーパーコンピューター…… 
なんて言ってるけれど実際そんなばかげた物が存在するのかしらね?」

 そう言った御坂はハァと溜息をついた。
 そんな御坂に何か思うところがあったのか球磨川は声をかける。

『美琴ちゃ……』

「えい」

 何かを言おうとする球磨川だったが御坂がいきなり繰り出してきたチョップによって
妨害されてしまった。



『痛いよ美琴ちゃん!』

 不満げな顔で文句を言う球磨川に対し御坂は

「あーあちょっと詩人になっちゃったわー」

 と笑いながら言うと、

「じゃあね」

 と、その場を立ち去った。
 一人その場に残された球磨川は

『あの顔は何か面白いことに巻き込まれてる顔だね』

 と笑いながら呟くと

『さて、散歩を続けようかな』
 
 と散歩を再開し、歩を進めた



『おや、あの子は……』

 少し歩を進めたところで球磨川は見慣れた少女に瓜二つな少女を発見する。

『御坂妹ちゃんだ。ゴーグル無いと本当わかんないよね』

 そう、御坂妹がいた。
 御坂妹はしゃがみながら何かを見ている。
 正確に言うとダンボールの中の何かである。

『やぁ、御坂妹ちゃん! なに見てるの? そんなとこでしゃがんでると風吹いたらパンツ見えちゃうよ?』

 と御坂妹に声をかける。

「…… このドスケベ。とミサカは眉をひそめながら罵倒します」

 実際は無表情でそう言ってきた御坂妹を無視し、球磨川はダンボールの中身を見る。


 そこにいたのは黒い毛色をした捨て猫だった。
 
『へぇ、いまどき捨て猫なんているもんなんだね』

『この子、拾ってあげないのかい?』  

 と言う球磨川に対し

「様々な事情がありそれはできません。とミサカは悲しそうに答えます」

 と、無表情のまま御坂妹は言う。

『ふぅん。じゃあ僕がこの子を拾っちゃおうかな!』

 球磨川は笑顔で言う。
 そんな球磨川に対し

「本当ですか!? とミサカはあなたに確認をとります」

 珍しく目を見開きながら言う御坂妹。
 よほど猫の行く末を気にしていたのだろう。



『本当だよ。と球磨川は肯定の意を伝えます』

 御坂妹の真似をしながら肯定する球磨川。
 その台詞を聞いた御坂妹は「真似するな」と言わんばかりに眉をひそめた。
 そんな様子を無視して球磨川は

『うちにはどうしようもない暴食シスターがいるんだけどさ、もうその暴飲暴食っぷりには
辟易してるんだ』 

『この子を見てればそんな気分も晴れるんじゃないかって思ったんだよ!』

 そう、彼は最近まともに食事をしていない。
 空腹感は“大嘘憑き”で虚構にしていた。
 あの暴食シスターの食事風景と来たら人の食欲を無くす効果がある。
 あの子は新手の負能力者ではないか。
 球磨川ですらそう思った。

『僕も、もうそろそろカップ麺の、体に悪い化学調味料の味を楽しみたいからね……』




 暴食シスターのことを思い、げんなりした様子でそう言う球磨川。
 その様子を見た御坂妹は

「あなたも苦労してるんですね。とミサカは意外な事実に驚きつつもあなたを哀れみます」
 
 とにやけ笑いを顔に浮かべながら言った。
 完全に「ざまぁみろ」といった顔である。

『君、絶対哀れんでないでしょ?』

「あ、ばれましたか。とミサカはテヘっと笑います」

 と、御坂妹は自分の頭を軽く小突くと舌を出した。

『日笠ちゃんの持ちネタは華麗にスルーするとして…… とりあえず本屋に行って猫の飼育法の
本でも探そうかな』

『御坂妹ちゃんも手伝ってよ!』

 と言うと、御坂妹の答えは聞かずに猫を抱え、本屋に向かうべく歩き出す球磨川。
 その後ろを御坂妹は満足げな顔を浮かべて、ついて行った――



――本屋前

『着いたー のはいいけどこの子を抱えたままじゃ入れないよね。きっと』

 球磨川が抱えた猫を見ながら呟く。

「こちらに預けるのはご遠慮ください。とミサカは……」

『じゃあこの子よろしくね!』

 御坂妹の台詞を遮り、猫を無理やり渡す球磨川。
 そして

『じゃ、ちょっとだけ待っててねー』

 と言うと本屋の中へと入っていく。

「あの人はこの子をちゃんと飼うことができるのでしょうか? とミサカは不安げに呟きます」

 残された御坂妹は猫を見ながらそう呟いた。
 そのときだった――


――本屋前

『着いたー のはいいけどこの子を抱えたままじゃ入れないよね。きっと』

 球磨川が抱えた猫を見ながら呟く。

「こちらに預けるのはご遠慮ください。とミサカは……」

『じゃあこの子よろしくね!』

 御坂妹の台詞を遮り、猫を無理やり渡す球磨川。
 そして

『じゃ、ちょっとだけ待っててねー』

 と言うと本屋の中へと入っていく。

「あの人はこの子をちゃんと飼うことができるのでしょうか? とミサカは不安げに呟きます」

 残された御坂妹は猫を見ながらそう呟いた。
 そのときだった――

あ、ミスった……
>>129は気にしないでください


「ッ!!」

 御坂妹の背筋に悪寒が走る。
 何か恐ろしい物が背後にいる…… そう御坂妹は感じ取った。 
 背後に立つ者は口を歪め笑っている……


『お待たせー! いやぁ意外と時間くっちゃったよ!』

 と、本屋から出てくる球磨川
 しかし

『あれ? 御坂妹ちゃんがどこにもいないぞ?』

 御坂妹はどこにもいない。
 辺りを見渡すと、

「にゃー」

 御坂妹が抱えていた猫がいた。
 その猫に球磨川は近づく



『御坂妹ちゃんどこ行ったか分かるかなぁ?』

 球磨川は猫にそう聞くが猫は「にゃー」と答えるだけだった。

『やっぱり君に聞いても無駄だよねぇ』

 少し顔をしかめた球磨川は猫を抱えると

『ミサカ妹ちゃんどこ行ったんだろう?』

 と言って御坂妹を探し始めた。


 
『うーん、いないなぁ』

 しばらく探してみたがやはりその姿は見当たらない。
 辺りを見回す球磨川。

『ん?』

 球磨川は路地裏を見た。
 何か違和感を感じたのだろうか。
 球磨川は路地裏を探すことにした。
 そして

『う~ん、これは僕も困惑せざるをえないなぁ』

 路地裏を少し歩いた先に
 球磨川が見た物は――

『何で全身から血を噴出して死んでんのさ』

 無残な死体となった御坂妹だった。



 普通の人間なら慌てふためく場面だろう。
 当たり前だ。
 さっきまで普通に話していた少女が惨殺死体となっているのだから。
 しかし球磨川禊は普通(ノーマル)でもなければ異常(アブノーマル)でもない。

『まぁ、死んじゃっても生き返らせればいいんだよね!』

 と言うと、御坂妹が死んだと言う事実を虚構にした。
 噴出した血も怪我もなくなり、目を覚ます御坂妹。 

「…… 一体どうなってるのですか。とミサカは戸惑います」

 口調は落ち着いているがその様子は明らかにパニック状態である。
 それもそのはず、『死んだはずなのに生きている』そんな状態になれば誰でもパニックになる。

『やぁ、御坂妹ちゃん! 目が覚めた?』

『全く君ってば酷いよね! 僕達を置いてどっか行った挙句、死んじゃってるんだからさ!』

 そんな御坂妹の様子を無視して背後から話しかける球磨川。




「ッ!?」

 ビクッと体を震わせると御坂妹は背後を振り返る。

「なぜあなたがここにいるのですか? 一体何をやったのですか? とミサカは困惑しながら
回答を求めます」

 御坂妹は冷や汗を流しながら球磨川に質問した。

『何をしたかって? それはもちろん君が死んだって事実を虚構にしたんだよ』

『僕の力は全てを虚構にすることができるんだ!』

 笑いながら答える球磨川。
 そして、球磨川がそう言うや否や周りから声が聞こえてきた

「信じられません。とミサカは驚愕します」

「しかし今起きた現象を見ると嘘とも思えません。とミサカも驚愕します」



 喋りながら球磨川の前に姿を現す少女達。
 その姿は御坂妹と瓜二つだった。

『今日は面白いことがたくさん起こるね!』

『ところで君たちは皆、姉妹かなにか? 君たちの両親はとんでもなくハッスルしたんだね!』

 と言うと『あははは!』と笑う球磨川。

「違います とミサカは下ネタを言うあなたに対し不快感を覚えつつ答えます」

 と御坂妹の一人が答える。
 そう言った御坂妹に

『じゃあ一体なんなのさ?』

 と聞く球磨川に対して妹達は、自分達のこと、今まで接していたのは10032号で球磨川が蘇らせたのは
10031号であることを話す。


『学園都市ってすごいんだね! でもそんなに一杯クローンを作って一体何をするの?』

「ただの実験ですよ。実験内容は機密事項ですのでお答えできませんとミサカは機密に触れない程度の
回答をします」

 質問した球磨川に対し、簡潔に答える10032号
 球磨川は追求しても無駄そうだと思い。

『ふぅん』

 と答えるのみだった。

「では、私たちはこれで失礼します。とミサカはあなたに別れを告げます」

 と10032号が言うと、妹達は去って行き、10031号も去ろうとする。
 しかしその顔はどことなく悲しそうな顔だった。
 その顔を見て球磨川は


『10031号ちゃんだっけ? 君は何でそんなに悲しそうな顔してるの?』

 と聞く。
 10031号は球磨川のほうを見ると

「別にそのような顔はしていません。とミサカは返答します」

 と冷静な口調言った。

『ふぅん、まぁいいや。じゃあね10031号ちゃん!』

 10031号に手を振ると球磨川は自分の部屋へと帰っていった。
 ―― 顔を笑顔で歪ませながら。


『ただいまー』

「あ、おかえりなんだよ! くまがわ! カップやきそば買って来てくれた!?」

 暴食シスターに迎えられた球磨川。
 お帰りの挨拶の次にご飯の話とは…… と嫌そうに眉をひそめる。

『えっ? 何の話かなインデックスちゃん』

 と言うと、インデックスの飛び掛りを防ぐため瞬時に話題を変えるべく、
自らが抱える猫をインデックスに見せる球磨川。

『あぁそうそう今日から一緒に住むことになった…… 名前未定の猫ちゃんだよ!』

 と言う球磨川。
 それを見たインデックスは

「わぁ! かわいい!」

 とはしゃぐ。
 球磨川はそんなインデックスを見て「ちょろいな」という笑みを浮かべると



『じゃ、ちょっと僕またこれから出かけなきゃいけないから』

 と言い、部屋を出ようとする。
 その背後から

「いってらっしゃい! あ、カップやき……」

『行って来ます!!』

 暴食シスターの台詞を遮り、そそくさと外に出る球磨川。

『さて、今のところ何か知ってそうなのは御坂ちゃんだよね。きっと』

 と言うと御坂を探し始める。


「……」

 橋の手すり部分に少女が立っていた。
 そう御坂美琴である。
 その表情には憂鬱、恐怖、そして決心と覚悟が表れていた。

「あの子達……」

 御坂は過去を振り返る――

『あ! 美琴ちゃん! こんなとこにいたんだ!』

 前に球磨川に回想は妨害された。

「あんた少しは空気読みなさいよ」

『無駄な回想シーンはテンポを悪くするんだよ! だから僕は悪くない!』

 全く反省の色がない球磨川の台詞を聞くと御坂は「はぁ……」とため息をつく。


「……」

 橋の手すり部分に少女が立っていた。
 そう御坂美琴である。
 その表情には憂鬱、恐怖、そして決心と覚悟が表れていた。

「あの子達……」

 御坂は過去を振り返る――

『あ! 美琴ちゃん! こんなとこにいたんだ!』

 前に球磨川に回想は妨害された。

「あんた少しは空気読みなさいよ」

『無駄な回想シーンはテンポを悪くするんだよ! だから僕は悪くない!』

 全く反省の色がない球磨川の台詞を聞くと御坂は「はぁ……」とため息をつく。

ま、またミスった……
申し訳ございません



『ところで美琴ちゃん! 御坂妹ちゃん…… いや、10032号ちゃんから妹達のこと
実験のこととか聞いたんだけどさ!』

『肝心の実験内容は教えてくれなかったんだ! 美琴ちゃんなら知ってるでしょ?』

『ねぇ、教えてよ!』

 とまくし立てる球磨川。
 そんな球磨川の質問を聞くと御坂は表情を変え

「…… 知らない」
 
 そう俯きながら言った

『嘘だね 美琴ちゃんは何かを絶対知ってる。そうでなきゃ今、一体何を考えてたの?』

 球磨川は食い下がる。




「…… うるさい」

 そんな球磨川に苛立ちを覚えたのか御坂は完全に拒絶の色を示した。
 しかしそんな御坂を無視して球磨川は

『ねぇ、何か知ってるなら教えてよ』

 としつこく聞き続ける。
 球磨川の態度に完全に頭に来たのか

「うるさいって言ってんのよ!!」

 御坂はそう怒鳴ると球磨川に電撃を放った。
 しかしその電撃は球磨川に当たる前に虚構にされてしまう。

『いきなり危ないじゃないか! 話を聞いてよ美琴ちゃん!』

 と言う球磨川を無視し電撃を放ち続ける御坂。
 虚構にされると分かっていても御坂は放ち続けざるをえなかった。
 人の心にずけずけと入ってくる球磨川を許せなかった。


 ――10分後

「はぁ…… はぁ……」

 その後、電撃だけでなくレールガンまで使ったのだが球磨川に全て虚構にされてしまった。
 息が乱れている御坂に対して球磨川は

『相当話しにくいことなんだね』

『でも僕を信じてよ! 今回は君たちにとってのハッピーエンドに必ずするからさ!』 

 と手を広げ笑顔で言う。
 しかし御坂は「信用できない」という表情を浮かべていた。
 そんな御坂に球磨川は真剣な面持ちになって話し出す

『妹ちゃん達はどことなく僕に似てるんだ』

『実験って言うのは確実に死ぬようなことをされる実験なんだろう?』

『それはつまり死ぬためのモルモットとして生まれてきたってことだよね』

『そんなの僕と同じくらいの不幸(マイナス)じゃないか!』

 そこまで言うと一息吸い……






「僕は妹ちゃん達を救いたいんだ!」





 その台詞に驚く御坂。

「…… 括弧外れてるわよ」

『格好つけずに本音を言わないと君は信用してくれないでしょ?』

 と言って笑顔になる球磨川。
 そして球磨川の言葉を信じた御坂は実験について話し始めた。
 一方通行のこと、一方通行がレベル6になるために20000人の妹達が一方通行に殺される
と言うのが実験の全容であること、そしてその原因はツリーダイアグラムの計算であること。
 そして最後にこれから実験が行われる場所を話した。

『話は全部わかったよ! 後は僕に任せて!』

 話を聞き終わると、球磨川はそう笑顔で言った。
 御坂は一瞬迷ったような顔になったが、「ふっ」と笑い

「任せたわよ」

 と言うとその場を去って行った。
 その後姿を球磨川は見送った。
 その顔には笑みを浮かべながら――


 ――実験場にて

 一人の少年と10032号が何かを話している。
 少女に話しかけている少年は極めて目立つ容姿だった。
 白い髪、白い肌、赤い目。
 そしてその人相は中性的ではあるものの恐ろしく、誰もが避けて通りたくなるほどであった。
 彼の名は一方通行。
 学園都市のレベル5にして第一位。
 最強の超能力者である。

「まァ、俺が強くなるための実験に付き合せてる身で言えた義理じゃねェンだけどよォ」

「よく平然としてるよなァ この状況で。 ちっとは何か考えたりしねェのか?」

 一方通行が笑いながら話す。
 そんな一方通行に10032号は

「何かと言う曖昧な表現では分かりかねますとミサカは返答します」

 と冷静に返し、

「実験まであと3分20秒ですが準備は整っているのですかとミサカは確認を取ります」

 と、確認を求めた。


「自分の命を投げ打つなンざ俺には理解できねェなァ」

「俺は自分の命が一番だしさァ だからこそ力を欲することに際限はねェし」

「そのためならお前達が何百何千と死のうが知ったこっちゃねェって鼻で笑うこともできンだぜェ?」

 10032号に対し冷酷に笑いながらそう言う一方通行。
 そんな彼に

『それはすごいね一方通行ちゃん!』

 と、いきなり現われた球磨川が言う。
 10032号は驚くが一方通行はさほど驚いた様子も見せず、

「あァ? ンだテメェは?」
 
 と、球磨川に聞く。
 それを受けて球磨川は

『あぁそういえばこうしてしっかりと話すのは初めてだね! 実は以前すれ違ってるんだけど』

 と言うが一方通行は

「テメェみてェな没個性的な奴、覚えてねェなァ」

 と言い放った。



『酷いこと言うなぁ 僕は球磨川禊っていうんだ! よろしくね!』

 そう一方通行に自己紹介するが一方通行は興味がなさそうにしている。
 その表情に少し顔をしかめる球磨川。
 そんな球磨川に

「な、なぜあなたがここにいるのですか?とミサカは困惑しながら質問します」

 と聞く10032号。
 その顔に浮かべているのは困惑と焦り。
 そんな10032号に球磨川は言った。 

『10032号ちゃんを助けに、そして一方通行ちゃん! 君と友達になりに来たんだ!』


とりあえず今日はここまで
続きはまた明日同じ時間に投下します

予定通り、今夜9時からはじめます
球磨川が台無しにするのは皆さんの期待だと思いますorz
ではまた9時に

では投下します


 その台詞に10032号はさらに困惑し何も言うことができなかった。
 しかし一方通行は笑いながら

「友達になるだァ? さっきそこのモルモットを助けるって言ってたよなァ」
 
「ってこたァ俺と戦うことになるんだぜェ?」

 と言う。
 その顔は最初と違い球磨川に興味を持ち始めた顔である。
 そんな一方通行に

『戦って勝利したら、負けた悪役が味方になるってのはよくある話じゃないか』

『ジャンプシステムってのを知らないのかい? 君はべジータポジションとか似合いそうだよね!』

 と言う球磨川だったが、一方通行はその台詞を「お前は俺に勝てない」と取ってしまった。
 一方通行は何も言わず球磨川に突進すると、球磨川の頭を摑むとベクトル操作を行い、万力で潰すかの
ごとく球磨川の頭を潰した。球磨川の体がドシャリ地面に崩れる



「……ッ!」

 10032号の表情が今にも泣きそうな顔に変わる。
 彼女の頭の中には球磨川を巻き込んでしまった自責の念で一杯だった。
 そんな10032号を尻目に

「おいおい、もう終わりかよ。全くがっかりだぜ」

 と一方通行は言い放つと「ギャハハハハハハ!」と笑い始めた。
 そんな一方通行を嘲笑うかのように……

『いきなり酷いなぁ一方通行ちゃんは』

 頭がつぶれて死んだはずの球磨川が言った。


「テメェ…… 何をしやがった!? 確かに殺したはずだ!」

 球磨川の姿に驚愕の色を隠せない一方通行。
 確かに頭を潰した。
 絶対に再生などできるわけがない。
 となると幻覚かなにかだろうか? しかし自分の反射が効かない幻覚などあるのか。
 一方通行の視線は球磨川に釘付けになっている。

『特に変わったことはしてないよ。死んだことを虚構にしただけさ!』

 そんな一方通行に自分の力を教える球磨川

「死ンだことを虚構にしただとォ?」

 そう言う一方通行の顔は球磨川の言うことを信用していないという顔だった。

『そうだよ! 僕はあらゆることを虚構にできるんだ!』


『あぁそうそう君にお知らせしたいことがあるんだけどさ』

 と言うとニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて

『ついさっき君のやってきた実験を虚構にしたよ!』

 そう言い放った。

「ハァ?」

 その球磨川の一言に「何を言ってるんだお前は?」と言う顔で返す一方通行。

『だからさ! 君が殺した一万人の妹ちゃん達は皆、生き返ったってことだよ!』

 一方通行の態度を見てニュアンスが伝わっていないと思ったのか、球磨川は妹達が復活したことを教える。
 それを聞いた10032号が
 
「ほ、本当ですか!?とミサカは信じられないと言う表情で質問します」

 と、驚愕した顔で言う。
 確かに普通なら信じられない。
 しかし10032号は球磨川のデタラメな力を目の当たりにしていた。
 例えそれが嘘だとしてもすがりつきたいと思ってしまう。



『信じられないなら、何か確認手段みたいなので確認すればいいじゃないか』

 驚愕の顔を浮かべる10032号の顔を愉快そうに見ながら球磨川は言った。
 すぐさまミサカネットワークを介して調べる10032号。
 そして

「妹達が…… 蘇った……」

 その顔には、まるで「これは夢じゃないのか?」と言うような表情を浮かべている。
 そんな10032号に

『10032号ちゃん。口癖のミサカは~~って言い忘れてるよ!』

 と笑いながら言う球磨川。
 そして

『ついでにツリーダイアグラムも虚構にしちゃった! これでもう実験は再開されないね!』

 そう言い放つ。
 一方通行は球磨川が言ったことが事実だと分かり、一瞬安堵の表情を浮かべてしまった。
 しかしすぐさま自分が思ったことを否定し、元の表情に戻ると


「よくも、今までの俺の苦労を台無しにしやがったなァ!」
 
 と言うや否や、球磨川に近づくと球磨川に触れベクトル操作で血流を逆流させた。
 その結果、球磨川は全身から血が噴出し絶命した。
 その体が地に落ちようとした瞬間――

『痛いなぁ』

 あっさりと復活する。

「いいぜェ! 死ぬまで殺してやンよォ!」
 
 一方通行はそう言うとあらゆる手段で球磨川を殺した。
 
 粉塵爆発を起こし殺した。
 
 頭を万力のような力で潰して殺した。
 
 鉄骨を操り、球磨川の体を貫通させて殺した。
 
 ベクトル操作を行った拳で頭を吹き飛ばして殺した。

 笑いながら

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も

 殺して殺して殺して殺して殺しまくった。



「…… テメェは一体なンなンだ……」

 しかし無駄だった。目の前の少年は殺しても殺しても復活する。
 正攻法では殺せない。
 一方通行はそう確信し、策を練ることにした。
 そんな一方通行に球磨川は話かける。

『ねぇ、君はこんなに強いのに何でまだ強くなろうとするのかな?』

 普段なら絶対に答えない。
 しかし策を練る時間稼ぎにはなるか、と一方通行は考え 

「俺は確かに最強だ。だがよォそれでも俺に突っかかってくるバカは後をたたねェ」

「それはつまりちょっかい出してみようと思っちまう、そんな最強でしかねェってことだ」

「ダメなンだよそンなンじゃ。誰も挑む気すら起きないほどの無敵じゃねェといけねェンだよ」

 と答える一方通行。策はまだ浮かばない。



『じゃあさ、一番気になったことなんだけど』

『何で妹ちゃん達を蘇らせたって言った時に安心したような顔したの?』 

『もしかして自分がやってきたことに後悔しちゃったりしてたの?』

 その質問に一方通行の顔がピクリと引きつる。
 そしてその瞬間――

「うるせェンだよテメェ!!」

 策を考えることをやめ、一方通行は球磨川の頭をその拳で吹き飛ばした。
 しかしすぐに再生する球磨川は

『君は今まで一万人以上の御坂妹ちゃんを殺してきたんだよ?』

『残虐に残忍に冷酷に無慈悲に殺して殺して殺しまくってきたんだよ?』

 そう捲くし立てる。
 その顔にはいつも浮かべている笑みはもうない。



「うるせェって言ってンだろうがァ!!!」
 
 一方通行は鉄骨を操り、球磨川に飛ばす。
 球磨川は鉄骨に潰されぐしゃぐしゃになる。
 しかし、やはりすぐに復活すると

『それなのになぜ後悔するのかな?』 

『まさか君、「僕、本当は実験なんてやりたくなかったんです。心の中ではずっと心を痛めてたんです」
なんて言うんじゃないだろうね?』

 その球磨川の一言で一方通行は――

「黙れェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!!!!」

 ――完全にキレた。


 一方通行は球磨川に突進する。
 その拳で自分にとって認められない事実を喋る口を消すために。
 そして一方通行は拳の届く場所まで到達した。
 一方通行が球磨川に拳を振るう――

「なン…… だと…… ?」

 その拳は球磨川の顔面を破壊できなかった。
 なぜならその拳を――

「なンで俺の拳が摑めンだよッ!!!」

 球磨川が摑んだからだ。
 驚愕の色を隠せない一方通行。
 当然だ。一体何がどうなっているのか全く理解ができない。
 そんな一方通行に球磨川が笑いながら話しかける。

『あぁやっぱりそうだったんだね一方通行ちゃん』

『君は実験なんかやりたくなかったんだ。全く君ってやつは……』






『バッカじゃねぇの?』





 そう言い放った球磨川の顔は怒りで歪んでいた。
 そのあまりの豹変振りに一方通行ですら驚く。
 そんな一方通行を無視して、

『残念だよ一方通行ちゃん』

『君の力は優秀(プラス)だけれど、君の本質そのものは劣等(マイナス)だと思った』

『だから僕は君と友達になれそうだと思ったんだ』

『でも蓋を開けてみればどうだい 君はただの甘ったれたエリート君じゃないか』

 怒りの表情でそう言い放つ球磨川。
 我に返った一方通行はその台詞を聞いて

「甘ったれだァ!?」

 と反論する。



 球磨川は怒りの表情をようやく戻し

『君の力は無意識的に人を傷つけてしまう力だ。でも僕からしてみればその力はプラスだよ』
 

『人を傷つけないってこともできるし、やろうと思えば救うことも出来る』

『なのに君はその力をマイナスだと思い込み、人と接する努力を諦めたんだ』

 と話す球磨川。
 しかしまだ球磨川の口は止まらない。

『そのまま諦めて人のいない山奥にでも住めばよかったのに』

『それでも君は人と接することを諦め切れなくて、マイナスだと思い込んでる能力をさらに強くして、
その能力に頼ろうとした』

『これを甘ったれてると言わずしてなんて言うんだい?』



 そう言い放った。
 言い終わると、球磨川は一方通行をまるでつまらない玩具を見るような目で見る。
 一方通行は球磨川から発せられる気持ちの悪い威圧感がどんどん強まって行くのを感じた

「クッ!」

 なにかヤバイ攻撃が来る。
 本能的にそう感じた一方通行は球磨川から離れるべく地面を蹴る。
 そして球磨川からかなり距離が離れた。
 その瞬間だった――

「ど、どうなってンだよ……」

 球磨川から距離をとった。
 そう確実に球磨川から離れたのだ。
 しかし今の一方通行の立っている位置は――

「何でテメェが目の前にいンだよォ!!!」

 球磨川から距離をとる前の場所だった。



『おいおい、言っただろう? 一方通行ちゃん』

『僕の力は全ての事象を虚構に出来るって』

『君が距離をとったって事を虚構にしたんだよ』

 その台詞を聞いた瞬間、一方通行の心は完全にヘシ折れた。
 もう勝ち目なんかない。何の策も浮かばない。
 球磨川に完全に呑まれた一方通行は、とうとう尻餅をついてしまった。

『随分と困惑してるね まるでどこぞの珍妙な頭をしたフランス人みたいでとても面白いよ』

 球磨川は一方通行を見下しながら笑顔で言う。
 しかしその目は笑ってはいなかった。


『さて、一方通行ちゃん。期待っていうのは大きければ大きいほど裏切られたときつらいんだよ』

『僕の心はもうぼろぼろさ』

 もう一方通行は聞いてはいない。
 何も喋ることができない。
 そんな一方通行に球磨川はまるで死刑宣告をするが如く言い放つ。
 






『だから君の全てを消し去って、僕はここから去ることにするよ』








 ――そこに残ったモノは『かつて一方通行と呼ばれていたモノ』
 ただそれだけである。
 その後、彼の姿を見たものは誰一人としていない。





――とあるマンションの一室


「カップ麺は麺の達人に限るんだよ!」

『君、今回食べるシーンでしか登場しなかったね』

 インデックスは球磨川の台詞を無視して食べ続ける。

『はぁ、クロガミちゃんを見て癒されよう……』

 あの黒い猫はクロガミと名付けられた。
 球磨川曰く憎さあまって可愛さ100倍になる名前なんだとか。
 げんなりした様子の球磨川にとどめの一言をインデックスが言う。

「くまがわ! もうカップ麺がなくなったんだよ! 買ってきて!」



 ブチッとなにかがキレる音がした。
 そう球磨川の堪忍袋の緒である。

「もうやだ!! 君のお腹にはもう、うんざりだよ!!!」

「括弧つけるの忘れてるんだよ! くまがわ!」

 完全にキレた球磨川はもう括弧もとい格好をつけることをやめた。

「もう格好つけてる場合じゃないんだよ! 本音を言わせて貰う!!」

「君のお腹はどうなってるんだい!! 今月の食費100万超えてるんだよ!?」

「さすがの僕もドン引きだよ!! 君のことを気遣って空腹感を虚構にしてこなかったけど
もう限界だ!! 今日からしばらく空腹になったときは大嘘憑きを使うからね!!」
 
 そう言い放つと早速、インデックスの空腹感をなかったことにする。



 これに怒ったインデックスは球磨川に飛び掛ると

「なんてことするの! こんな方法でお腹膨れても全然嬉しくないんだよ! むきー!!」

 球磨川に噛み付いた。

「痛いっ!! 君が嬉しいかどうかなんて、もうどうでもいいよ!!」

「そもそも君、僕に少しは気を使ったらどうだい!! 君のせいで僕は全然カップ麺食べれない
んだから!!!」

 その後も喧嘩は続き、

「インデックスちゃんのバカーーーーーーー!!!」

 とうとう球磨川は、部屋を飛び出してしまった。



『まったく、インデックスちゃんったら……』

 不機嫌そうな顔でぶつぶつと呟く球磨川
 
『しばらく部屋には帰ってやらないんだから! 僕の有り難味を思い知るといいよ!』

 子供のように言う球磨川。
 なんだかんだで出て行けと言わない分、彼は良心的だろう。
 その後もぶつぶつと呟いていた球磨川だったが、突如立ち止まった。

『…… なんだろうあの子。変な格好して……』

 球磨川は目の前におかしな格好をした子供を見つける。
 ぼろぼろの布切れを纏っている。
 いまどき、ホームレスでもしないような格好の子供に興味がわいた球磨川は、子供に近づくと




『やぁ! そこの君、そんな格好してどうしたの?』

 と話しかける。
 すると子供は振り向き――

「あ! こんなにも早く会えるなんて! ってミサカはミサカは喜んでみたり!」

 子供の顔を見て、そしてその口調を聞いて球磨川は驚く。
 その少女はまるで御坂が子供になったかのような姿をしていた。
 球磨川は新しい玩具が現われた、と楽しそうに笑う。
 そして言った。



 


『まだまだ楽しめそうだね』




これにて本当に終わりでございます
今までお付き合いくださり本当にありがとうございました!

早く書きだめを作る作業に戻るんだ!!

>>194
ここからはもう完全に原作を変えてしまうことになるため自分の想像力では……
さらに言うなら球磨川の大嘘憑きがあまりにも強すぎて扱いづらいのです
無双になりまくってしまって面白く出来んのですよ……

球磨川は人殺しはしないと思うんだけどな。
殺しちゃったら不幸にできないじゃん。

>>196
一方通行に関しては廃人になってしまい。その後アレイスターに回収されたということでお願いします
一方通行は別のエンディングでは
ただの無能力者になったことで茫然自失に→街でスキルアウトに殺害される
って終わり方もあったんですがあまりにも後味が悪いためこのような感じになりました

>>213
おい、それじゃあていとくんの昇格は無しか
orzの体勢で崩れ落ちるのを幻視したんだが

>>215
ていとくんってアレイスターとの直接交渉権が欲しいんだよね?
第一位になって交渉しても
ア「じゃあ球磨川倒したら聞いてやるよ」

て「マジでか」



く『僕の大嘘憑きには君の常識は通じないよ!』

て「えー」

こんな感じで冷蔵庫より酷い事になりそうなんだけど
まぁあわきんよかマシか
てかこの世界グループ結成できないね

『君の「自分だけの現実」を虚構にした』

『僕の過負荷は現実を虚構にするんだ』

『それとも「自分だけの現実」は現実じゃないとでも思ってたのかい?』

『差別するなよ』

ちょっと早いですがこれから始めます


 ――とあるマンションの一室

『最近、明らかに負(マイナス)のオーラを放ってる科学者と巨乳眼鏡っ子がよく夢に出てくるんだけど何かの予兆かな?』

「きっと気のせいなんだよ!」

 いつもの様にインデックスが球磨川に反応する。
 しかし今回はインデックス以外にもう一人反応を示す者がいた。

「そうそう、気のせい気のせい! ってミサカはミサカは同意してみる!」

 そう言ったのは、まるで御坂美琴を幼児化したかのような幼女『打ち止め』であった。
 打ち止めが来てから早二週間。その期間中、打ち止めが謎の高熱によってうなされ奇怪な言語を話し始めるという
奇妙な事件が起きたが、球磨川の大嘘憑きによってその高熱は原因ごと虚構にされた。
 その際、とある一人の研究員が車にはねられ死亡するという事故が発生。そのほか諸々の事情(全て球磨川のせい)
もあり、別世界では起きるはずであった様々な事件が虚構となってしまっていたのだが、球磨川がそれを知る由はない。


 しばらく談笑していた球磨川達だったが、インターホンの音によって会話が止まる。

『おや、誰だろう? ……まさかインデックスちゃん、君また前みたいにピザ30人分とか注文したのかい!?』

「違うんだよ! 今はピザじゃなくてお蕎麦が食べたい気分かも! だからお蕎麦を最低20人分注文し……」

『じゃあ、打ち止めちゃんの知り合いか何かかな?』

 言わせないとばかりに、インデックスの台詞を遮る球磨川。

「ミサカに知り合いはいないよ……ってミサカはミサカは寂しがってみる。うわーん!」

『そっか。じゃあ僕ちょっと出てくるね』

 そう言って玄関に向かう球磨川。
 二回、三回と押されるインターホンに少々うんざりしながらドアを開ける。

『はいはい、そんなに押さなくても今出るってば』

 ドアを開けた先にいた人物、それは――

「……お邪魔させてもらうよ」

 長身に赤い髪。そして奇妙な服装をした20代にしか見えない10代の少年、ステイル=マグヌスだった。



『……』

 彼の姿を確認した球磨川は、無言でドアを閉めようとする。
 しかしステイルはそんな彼の行動を読んでいたのかドアの間に足を挟み、それを阻止した。

「なぜ閉めようとする?」

『あははは! やだなぁ、ちょっとしたお茶目だよ、お・ちゃ・め! だからそんなに怖い顔しちゃイヤンっ☆』

 そう言って無邪気に笑う球磨川を見て苛立たしげにため息をつくステイル。

「で、お邪魔してもいいのかい?」

『うん、いいよ。入って入って!』

 ステイルは球磨川に促され、部屋に入る。
 一番最初に目に留まったのは、オレンジ色の髪をした少女だった。以前自分が来たときはこのような少女は
いなかったはず。少々気にはなったが今はそんなことはどうでもいいと思い、その少女から視線を外した。

「久しぶりだね、ステイル!」 

 銀髪の少女――インデックス――が声をかけて来る。
 そういえばこの子に会うのは、球磨川がこの子のアイデンティティ全てを虚構にし『ただの少女』にして以来だ。
あの時は全てが崩れたかのような感覚にとらわれこの部屋を後にしてしまった。
 それ以降なんと無しにばつが悪く、様子を見に行くことができなかったのだがどうやら元気そうだ。
 そう思うとステイルの頬が自然と緩む。





「ねぇねぇ、この人誰? ってミサカはミサカは見知らぬ人の素性をあなたに聞いてみる!」

 打ち止めが球磨川にそう尋ねた。
 無理もない。彼女とステイルに面識などないのだから。

『ん? あぁ打ち止めちゃんはステイルちゃんと会うのは初めてだったね』

 球磨川はステイルと自分達の関係を簡潔に話した。

『あ、そういえば僕が虚構にできなかったあの魔法! あれってどんな仕組みしてたの?』

 以前、考えても考えても答えが出なかった疑問をふと思い出した球磨川はステイルに答えを求める。

「法の書は知ってるな?」

 しかしステイルは球磨川を無視して、インデックスに話しかける。

「もちろん知ってるんだよ。著者はエドワード・アレクサンダー。誰にも解読できないってことで有名な書だよね?」

「そう、10万3000冊を記憶している……いや、記憶していた君でも解読不可能な法の書。これを解読可能な
 人間が現れたんだ」

「えぇ!? あの法の書を解読可能な人間!? そんな人がいるなんて、とてもじゃないけど信じられないんだよ!
 だ、誰なの一体!?」

『あれ? ステイルちゃん? おーい、聞いてるー?』

 ステイルの目の前で手を振る球磨川。しかしそんな球磨川をまるで気にせず、ステイル達は話を進める。




「ローマ正教の修道女、オルソラ=アクィナスという者らしい。そしてここからが本題だが……」

『あの後、僕は君の魔法が気になって気になって眠れない夜を過ごしたんだよ? 君には僕に魔法の仕組みを教える
義務が……』

「その法の書とオルソラ両方が盗まれた」

 ステイルは球磨川の台詞を遮り、話を進め続ける。
 ステイルの一言にインデックスは驚くが、すぐに冷静になり

「犯人の目星はついてるの?」

 と尋ねた。

「あぁ、法の書を盗み、オルソラを誘拐したのは……天草式十字凄教だ」

『なんだか、かっこいい名前の組織だね! それってどういう組織なの?』

 興味を示した球磨川がインデックスに聞くがインデックスもまたステイルと同様、球磨川を無視する。


「天草式!? なんで天草式が法の書なんかを!?」

『こういう重要な用語とかは解説を入れたほうがいいと思うなー 原作知らない人もいるんだしさ。だから
天なんとかって言うのはいったい何か僕に教え……』 

「僕も聞いたときは驚いたよ。でも事実だ」

 球磨川の言っていることなど完全に聞こえていない、もしくはその存在すら認識していないかのような感じで
球磨川の台詞を遮るステイル。
 ことごとく無視され続けたのが応えたのか、球磨川の頬に血の涙が伝いその表情は憤怒に染まっていた。

「……それでステイルがここに来た理由っていうのはやっぱり……」

「そう、協力を頼みに来た。君、もしくはコレにね」

 そう言ってステイルは心底不愉快といった顔をしながら球磨川を一瞥する。 

『あ、ようやく構ってくれるの!? じゃあとりあえず君の魔法の話から……』

「僕としては……インデックス、君を巻き込みたくはない。協力させるのはアレだけにしたいんだが……」

 構ってもらえると思い表情がいつものにこやかな表情に戻った球磨川だったが、またもや無視されとうとう
壁に向かって項垂れてしまった。



「無視されるぐらいいいじゃない! ミサカなんか話の輪の外にすら入れていないんだよってミサカはミサカは自虐的な
フォローを入れてみる!」

『そうだね……あの二人の話が終わるまで一緒にお喋りしてようか打ち止めちゃん……』

 ハブられ者の二人は、まるで大人達の話に混ざりこめない子供のような肩身の狭さを感じながら会話を開始する。
 一方、インデックスとステイルはそんな外部のことなど気にもせず、シリアスな雰囲気を保ちながら会話を続けて
いた。

「ごめんねステイル……今の私じゃ役に立てないんだよ……足手まといになるだけかも……」

「いや、問題ない。僕は君を巻き込みたくはないからね。そもそもアレの協力だって必要ないんだ。あの女狐に
言われなければ……」

 マイナスのオーラを発している球磨川達を尻目にどんどん話が進んでいく。そして球磨川のみ協力する
という形で話がついた。当事者を完全無視して。 

「では、今夜午後7時に学園都市の外にある廃劇場跡地に来てくれ。協力者達と共に天草式から法の書及び
オルソラを奪還する」

「くまがわ! 頑張るんだよ!」

 ステイルとインデックスは球磨川にそう声をかけたのだが…… 




『それでさーそのめだかちゃんって子が酷いんだよ! いきなり僕をボコボコにしてさー』

「いや、それはあなたが悪いよ! ってミサカはミサカはドン引きしてみたり……」

『えぇー、僕は自分の愛を確かめただけなんだよ? あんなに怒らなくてもいいと思うんだけどなぁ』

「愛を確かめる手段が顔の皮を剥ぐってどういうことなの……ってミサカはミサカは言葉を失う……」

 球磨川達はステイルとインデックスの話など聞いてはいなかった。そう、これっぽっちも。

「ふぅぅぅたぁぁぁりぃぃぃとぉぉぉもぉぉぉ!! 人の話はちゃんと聞くんだよぉぉぉ!!!!」

『ぎゃああああああ!! なんで僕ばっかり!! そもそも最初に無視した君達が悪いんじゃないか! だから僕は
悪くな……』
 
「その台詞をブチ殺す! むきー!!」

 球磨川の台詞を遮りながら飛び掛るインデックス。部屋に球磨川の断末魔の叫びが響き渡った――







「あれ? もしかしてミサカ達の出番はこれで終わり? ってミサカはミサカは自分達の境遇を呪ってみたり……」 

「出番とご飯をくれると嬉しいかも……」







 ――廃劇場跡地 

 球磨川はステイルの言った通り午後7時丁度に廃劇場跡地へとやってきた。そこには大勢の修道女達がいて、なにやら
話し込んでいる。

『おや、あそこにいるのはステイルちゃんかな?』

 ステイルを見つけ駆け寄っていく球磨川。

『おーいステイルちゃーん。約束通り来たよ!』

 そして明るく声をかけるのだが……

「……」

 ステイルは何の反応も示さない。

『あれ? ステイルちゃん? 聞こえてないのかなぁ? おーいステイルちゃーん! 老け顔のステイルちゃーん!
ロリコンのステイルちゃーん!?』

「……何の用だ。あと僕はロリコンじゃない」

 しつこく話しかけた結果、ようやく球磨川に反応を示すステイル。しかしその反応は友好的なものではなく、
表情からは「鬱陶しいからさっさと消えて欲しい」という内情がありありと現れていた。




『いやぁ、ここにいるのって女の子ばかりじゃない? なんだか疎外感を感じちゃって寂しくてさぁ。というわけで何か
お喋りしようよ!』

「僕は君と喋ることなんて特にないんだが」

 そう言ってステイルはまるで犬を追い払うかのようにシッシッと手を振るが、球磨川はそんなことまるで気にせず
ステイルの隣に立つと

『ところで法の書っていうのはどういうものなの? こんな大人数が出張らなきゃいけないほど価値のあるものなの
かな?』

 と聞いた。
 ステイルはマイペースな球磨川にため息をつきながらも

「もしそれが使われれば十字教が支配する今の世界が終わりを告げるとまで言われている。価値があるとかそういう
レベルじゃない」

 と答える。

『ふぅん……そんなにすごいものなんだ。争いの種になるわけだよねぇ』

 そう言った球磨川の顔は、悪戯が大好きな少年のような顔だった。
 その表情を見てステイルは確信する。「コイツ確実に何か企んでいる」と。



「……今度は一体何を企んでる?」

『何も企んでいないよ。ステイルちゃんは僕のことどう思ってんのさ?』

「腹の中に暗黒物質が入ってると思ってる」

『本当に酷いなぁ。僕は清廉潔白な人間なんだよ?』

 お前が清廉潔白なら自分はキリストを上回る聖人として崇められるだろうよ。ステイルは心の底からそう思った。
 その後も他愛のないやり取りがしばらく続いたのだが、一人の修道女が来たことによって二人の会話は終了する。

「はぁ……はぁ……状況の説明を始めちまいたいんですけど」

 かなり急いで来たようだ。息が乱れている。
 そんな彼女にステイルは

「あぁ頼む」
 
 と至極普通の反応を返したのだが……

『ねぇねぇ、その靴って凄い厚底だよね。もしかして身長気にしてるの? 君はちっちゃいほうが可愛くて素敵だと
思うけどなぁ』

 球磨川の反応はデリカシー? 何それ美味しいの? と言わんばかりだった。




 そんな反応に腹を立てたのか、修道女は鬼のような形相で球磨川を睨みつけてくる。
 だが、それを向けられた当人は悪びれることもなく笑顔のままであった。

「この馬鹿のことは無視して話を進めてくれ」

 ステイルの言葉に修道女はハッとなり、緊急事態だというのに気を緩めたことを恥じたのか顔を少し赤くする。
しかし咳払いと共に気を取り直し、状況説明を開始した。

「現状、オルソラ=アクィナスは確実に天草式の手にあります。今回の件に出張っている天草式の数は推定で50人弱。
現在、パラレルスイーツパークに追い詰め包囲しています。これを現在いる戦力全てをもって襲撃します。決行は
今から1時間後の予定ですが……何か質問は?」

「いや、特にないよ」

『じゃあ質問! 僕は球磨川禊って言うんだけど君はなんて名前なの?』

 それは果たして現状、聞くべきことなのだろうか? 修道女は球磨川の質問に対し不快感を覚えながらも名乗って
きた相手に名乗り返さないのは失礼と思い、球磨川の質問に答えることにした。

「……アニェーゼ=サンクティスです」

『へぇかっこいい名前だね! よろしく!』

 そう言って笑顔で手を差し出し握手を求める球磨川。
 アニェーゼは露骨に嫌そうな顔をしながらその手を無視して

「では短い時間ですが協力お願いします」

 と言い修道女達の元に戻っていく。


 ――パラレルスイーツパーク前

「これより天草式に奇襲を仕掛けます。我々が正面から襲撃し囮となるので、貴方達はその隙に法の書とオルソラ
を見つけて確保しちまってください」

 アニェーゼは今回の作戦を簡潔に話す。

『それはいいんだけどさ、そのオルソラちゃんはどんな見た目なの? 見た目がわからないと確保の仕様がないんだ
けど』

 球磨川が珍しく真っ当なことを言った。
 確かに球磨川はオルソラの顔を知らない。これでは探しようがない。
 それを聞いたステイルは

「僕が持ってるオルソラの写真をやるからそれを頼りにして探すといい」

 と言って懐から一枚の写真を取り出し、球磨川に渡す。
 
『結構美人な修道女さんだねぇ。これならすぐにわかるよ!』

 写真を見た球磨川はニコニコしながらそう言った。

「修道女に発情したら天罰が下るぞ。いや、いっそのこと下して欲しいもんだね」

 しかし、この少年に天罰を下せる者など果たしているのだろうか……もしいるのなら、その方法をご教授願いたいと
彼は思った。




 ――アニェーゼ達がパーク内を襲撃してから20分ほど経過。そして攻撃が始まったらしく、あちこちから爆発音や
衝撃音が響いてくる。

「……陽動が始まったか。行くぞ」

『了解! なんだか少年漫画のワンシーンにいるみたいでワクワクするね!』

 球磨川達はパークの裏口からフェンスを越えて侵入。オルソラと法の書を見つけ確保すべく行動を開始した。

『……少年漫画ではここら辺で敵が襲ってきたりするんだよねぇ』

「現実と漫画をごっちゃにするんじゃない。そんな都合よく敵が襲ってくるわけが……」

 そんなステイルの台詞は突然の来訪者によって遮られてしまった。
 そう、来るわけがないとさっき言った敵が来てしまったのだ。

『おぉっと危ない!』

 天草式と思われる少女の斬撃を紙一重でかわす球磨川。
 その後、一人また一人と敵が建物の影からどんどん飛び出てくる。



「球磨川禊! 君にこれをやる!」

 ステイルはそう叫ぶと、球磨川に十字架の形をしたネックレスを投げ渡した。

『ステイルちゃん、これって一体何!?』

 いきなり渡されたネックレスに戸惑う球磨川。しかしステイルから返ってきた答えは

「いいから肌身離さず持ってろ!」

 という、答えになっていない答えだった。そのうえ――

『あ、あれステイルちゃん?』

 ステイルはルーンが描かれたカードを取り出し、そのカードの力なのか突如その姿が消失。
 その場には球磨川だけが残る形となった。

『……あれ? もしかして僕、囮にされちゃった?』

 球磨川は首をかしげながら言う。そしてその場にいる全員の視線が球磨川に向けられる。皆、いつでも球磨川を
襲撃できる態勢である。
 
『えーっと、話し合いは……してくれそうにないよねっ!』

 と言うや否や球磨川は一目散に逃げ出した。




「……くそっ! どこに行った!?」

「まだ近くにいるはずだ! 探せ!」

 天草式の面々が叫ぶ。どうやら球磨川を見失ったらしい。
 そして当人はというと――

『ん、どうやら上手く撒けたみたいだね』

 近くにあった置物に隠れていた。

『一か八か隠れてみたけど案外うまくいくもんなんだねぇ。絶対ばれると思ったんだけどなぁ』

 そう言ってふぅ、と息を吐く。
 そしてつい先ほどステイルから渡されたネックレスをポケットから取り出した。

『本当、これって何の意味があるんだろう?』

 色々と考えてみるが全く答えが出てこない。

『まぁ、とりあえずネックレスなんだし首にかけてみようかな。ポケットに入れておくと落としちゃいそうだし』

 球磨川は首にネックレスをかけた。




『似合ってるかなぁ? 十字架のネックレスなんて中二チックでなんだかいいよ……ね……?』

 そこまで言って、自分の体に何か違和感を感じる球磨川。
 自分の体をよく見てみると、どういうことか胸から剣が生えているではないか。その部分から血が吹き出ている
ことから察するにどうやら剣で貫かれたらしい。
 
「……恨まないでくださいね」

 剣を引き抜き、少女が少し悲しげな顔をしてそう言った。
 服装を見ただけではイギリス清教側なのかローマ正教側なのか判別はつかない。いや、どちらの側であれ犠牲者など
出したくはなかった。だが自分達の目的のためにはこれも仕方のないことなのだ。彼女はそう自分に言い聞かせる。
 ――しかし少女のそんな感傷はあっさりと台無しにされる。
 
『えっ? なんで僕が君を恨むんだい?』

 言いながら背後を振り向く球磨川。

「なっ!?」

 まるで何事もなかったかのようにニコニコしている球磨川を見て少女は得体の知れない気持ち悪さを感じた。

「そ、そんな……確かに心臓を貫いたのに……」

 そう、自分が貫いたのは心臓。普通なら振り向くことなく倒れている。確実に即死しているはずなのだ。
 それなのに目の前にいる少年は平然としている。一体何が起こっているのか少女には理解できなかった。





『女の子に手荒な真似はしたくないけど仕方ないよね!』

 球磨川はそう言うと少女と自分の距離を虚構にして一瞬で距離をつめる。

「えっ?」 

 殺したはずなのに生きている少年がいきなり目前にいる。もはや少女の頭の中はパニック状態どころの話では
なかった。そんな精神状態では相手の動きに反応できるはずもない。
 そして球磨川は何の躊躇いもなく、少女の胸に螺子をねじ込んだ。少女の体がドサリと音を立てて地面に倒れる。

『大丈夫、死にはしないから! ……って聞こえてないか』

 やれやれと言った具合で肩を竦める。

『それにしてもオルソラちゃんはどこにいるんだろう? 向こうからやってきてくれな……っ!?』

 またもや喋っている途中で体に衝撃が走る。
 しかし今回の衝撃は剣が刺さったり鈍器で殴られたわけではなく、誰かがぶつかってきたことによる衝撃であった。
 一体何者かと、ぶつかってきた者に視線を向ける球磨川。

『修道女?』

 ぶつかってきたのは修道女だった。その口にはまるで×に似たマークが書かれた紙が貼られてある。
 どうやらその紙のせいで喋ることができないらしい。

『不便そうだから取ってあげるよ! ……あれ? 取れないや。じゃあこうしようかな』

 球磨川は修道女の口に貼られた紙を虚構にした。





「貴方様は一体どなたなんですか!? さきほどのは一体どうやって……?」

 紙が消え、喋ることのできるようになった修道女は矢継ぎ早に質問する。

 しかしそんな彼女に球磨川はマイペースを崩すことなく、

『それはとりあえず置いといてさ、まず僕の質問に答えてよ。君ってもしかしてオルソラちゃんだったりする?』

 と尋ねた。
 その修道女の顔は見れば見るほど写真に写っていたオルソラにそっくりである。
 そして返ってきた答えは――

「は、はい。そうでございますけど……」

 肯定の言葉であった。
 これで彼女がオルソラ=アクィナスであることは確定したことになる。
 球磨川はついさっき言った相手のほうから来てくれないか、という言葉が真となりニヤリとほくそ笑む。

「あ、あのう、それで貴方様は……?」

 オルソラはおどおどしながら、目の前の素性の知れない少年の素性を尋ねた。

『あぁさっきの質問? 僕は球磨川禊って言うんだ! そうだね、さしずめ君を助けに来たヒーローってところかなぁ』

 球磨川は笑顔でそう答えた。
 どうやって口に貼られた紙を消去したのかは答えていないのだが、オルソラは球磨川を危険人物ではないと判断した
らしく、追求することはしなかった。



「……法の書を探しておられるのですか?」

 そう尋ねたオルソラの顔は極めて真剣な面持ちであり、もし答えによっては舌を噛むほどの覚悟を感じさせた。
 そんなオルソラに球磨川は

『いや全然。僕は法の書なんかに興味ないし、それはステイルちゃんに任せるよ』

 と、法の書など心底どうでもいいといった感じで答えた。
 実際球磨川にとって法の書など、どうでもいいことである。それの持つ力や価値になど何の興味もない。
 オルソラはそれを悟ったのか、ほっと息を撫で下ろした。

「貴方はローマ正教の方なのですか?」

『違うよ。僕はただの善良な一市民さ』

「一般の方がなぜこんなところに……?」

『あぁそれはね……』

 球磨川は自分がここにいる理由を簡単に説明した。




「そのようなことがあったとは……なんといいますか……ご愁傷様です」

『その言葉は今使うべき言葉ではないと思うけど……まぁいいや。そんなことよりなんでこんなことをうろついてたの?
僕はてっきり、敵のボスが君を取られないように守ってると思ってたんだけど』

「えぇ、混乱に乗じて何とか抜け出すことができたのでございますけど……」

『ふぅん、そうなんだ。とりあえずその腕を拘束してる物も虚構にしてあげるね。窮屈そうだしさ』

 球磨川はオルソラを拘束していた道具を虚構にする。
 拘束されていた腕が自由になったことで開放感を感じるオルソラ。それと同時にさっきまでは深く追求しないで
おこうとした疑問が気になり始めた。

「さきほどもお聞きしましたが……本当に信じられない能力をお持ちなのですね。もしよろしければ一体どのような
力なのか教えていただきたいのですが……」

『別にたいした事じゃないよ。僕はこの世のあらゆる事象を虚構にできるんだ。君の拘束もその力を使って虚構にしたんだよ』

「全てを虚構にする……」

 オルソラは球磨川の言ったことを信じることができなかった。なぜならそんな力、どれほどの大魔術師であろうと
人の身では有り得ないほどの力だからだ。
 もしそれが事実だとするなら目の前にいる少年は最早神に等しい存在ではないか。そんなことはありえるはずがない。
 大方、何らかの魔術を誇大にして言っているのだろうとオルソラは結論付けた。



『さて、じゃあここを出ようか。後のことはステイルちゃんや、アニェーゼちゃんに任せてさ!』

 そんなオルソラの様子などお構い無しに、球磨川は明るく声をかける。
 オルソラは考え事をやめ俯いていた顔を上げて、球磨川に視線を向けた。すると球磨川の首にかけられたネックレスに
気が行く。先程まではいつ捕まるかわからないという緊迫感に包まれていたため、ネックレスなど気にかけなかったのだが
よくよく見てみればかなり綺麗なデザインである。
 オルソラは十字架を模したかのようなそのネックレスを欲しいと思ってしまった。

『……オルソラちゃん? このネックレスがそんなに気になるの?』

 そう言われたオルソラはハッとなる。
 どうやら気付かないうちに熱烈な視線を送ってしまっていたらしい。

「あ、申し訳ございません。あまりに綺麗だったものですから、つい……」

『そっか、じゃあこれオルソラちゃんにプレゼントするよ!』

 球磨川が身に着けているネックレスはステイルから肌身離さず持っていろと言われた物である。しかし球磨川は
そんなことすっかり忘れてしまっていた。

「え? でも、大切な物なのでは?」

 オルソラは球磨川の提案に遠慮がちに言うが、その視線はネックレスに釘付けの状態である。
 体は正直とはこのことか。



『いいんだよ、これはついさっき貰ったものだし。僕なんかが身に着けてるよりオルソラちゃんみたいな可愛い子が
かけてたほうがきっとネックレスも喜ぶよ!』

「え? 可愛い?」

 球磨川の一言に顔を赤らめるオルソラ。しかし球磨川はそんなオルソラを無視して、

『じゃあ、かけてあげるね』

 と言ってネックレスをオルソラの首にかける。

『うん、やっぱり似合ってるよオルソラちゃん!』

「そ、そうでございますか? ありがとうございます!」

 首にかけられたネックレスを見ながらオルソラは嬉しそうに微笑んだ。





『ところでさ、なぜ法の書の解読なんかしようとしたの?』

 パークを抜け出す道中、球磨川がオルソラにそう尋ねた。

「法の書の破壊方法を調べていたのです……」

 オルソラは俯きながら答える。
 オルソラが言うには今まで法の書によって様々な争いが生まれてきた。それを悲しく思ったオルソラは法の書など
無くなってしまえばいいと考え、法の書を消去する方法を調べるうちに解読法に至ってしまったのだと言う。それを話
しているオルソラはとても悲しげな顔をしており、普通の人間であれば不憫に思い顔をしかめるだろう。しかし球磨川は違った。

『そっか、じゃあ僕がハッピーエンドに導いてあげるよ』

 球磨川はオルソラにそう笑顔で囁いた。



 ――パラレルスイーツパーク出口前

『あ、どうやらあそこが出口みたいだね!』

 二人の前方に出口らしき場所が見えてきた。
 これでここから出ることができる。出てからどうしようなどと球磨川は考えるが、突如空から降ってきたモノによって
その思考は停止させられた。

『……あれ? ステイルちゃん?』

 空から降ってきたモノそれはステイルであった。いや正確にはもう一人降ってきた者がいるのだが、球磨川はその
存在を気にも留めなかった。
 
『どうせ降ってくるならステイルちゃんじゃなくて美少女が良かったなぁ。あ、でも僕はラピュタ派じゃなくて
 ナウシカ派……』

「くだらないこと言ってないで早く逃げろ!」

 どこまでも緊張感のない球磨川を怒鳴りつけるステイル。
 もし球磨川が単独でそこにいるならそのようなことは言わない。どうせ死にはしないのだから。しかし球磨川の隣にいる女性は
おそらくオルソラであろう。癪な事ではあるが球磨川はオルソラを見つけ出し確保したと言うことになる。しかし、またさらわれ
てしまっては何の意味もない。だが、球磨川はそんなステイルの心労などお構いなしだった。

『えー、下らなくないよー あ、オルソラちゃんはどの作品が好きなの?』

「え? その……」

 逃げるどころかオルソラにそんなことを聞く始末である。
 




「おいおい随分と余裕じゃねーのよ?」

 球磨川達は声の主に視線を向ける。そこに立っていたのは髪を逆立て、剣を携えた20代の男性であった。

『あぁごめん君の存在を忘れてたよ。えーっと、ところで君は誰なのかな? なんだか中ボスみたいな見た目だから
中ボスちゃんでいい?』

「いいわけねぇだろ。俺には建宮斎字っつぅ立派な名前があんのよ」

『ふぅん、建宮ちゃんね。僕は球磨川……』

「何度も説明したはずなんだがなぁ、オルソラ=アクィナス。我々は貴女に危害を加えるつもりはない」

『今日はとことん無視される日だなぁ……』

 球磨川はそう言って口を尖らせる。




「確かに貴方様のお言葉は希望に満ちていたと存じ上げてございますが、わたくしは武器を振り回し訴える平和など
信じられないのでございますよ」

「無念だなぁ。ローマ正教などに戻っても仕方ないだろうによぉ!」

 そう言うや否や臨戦態勢をとる建宮。その表情からは力ずくでオルソラを取り返そうという意志が感じられた。

『オルソラちゃん、ちょっと下がってて』

 球磨川はそう言って前に出る。そして建宮と対峙した。
 球磨川の出で立ちを見た建宮は

「ふん、丸腰か」

 と嘲笑う。
 
『あれ? 丸腰の相手はやりにくかったりする? じゃあ武器を出そうかな』
 
 と言ってどこからともなく巨大な螺子を取り出し両手に持つ球磨川。

「随分とおかしな武器じゃねぇのよ。というかそれは武器なのか?」

『あぁそう言われると武器かどうか判断に困るねぇ。なんせこれを使って人を傷つけたことなんて今まで一度もないし』

 球磨川は螺子を見ながらそう言った。
 事実彼はこの螺子で人を傷つけたことはない。普通ならこんなものをねじ込まれたなら死亡するか大怪我を負うはず
なのだが、大嘘憑きの効果なのか気絶する程度で外傷は一切つかない。




「へっ、まぁなんでもいいさ。そろそろはじめようじゃねぇの!」

 じりじりと距離をつめてくる建宮。
 そんな彼に球磨川は

『あ、ちょっとストップ。いまさらな気がするんだけど話し合いしない? 僕は暴力が嫌いだからね。そこにいる
ステイルちゃんとも話し合いをした結果分かり合うことができたんだし』

 と言うが

「聞く耳もたねぇのよ!」

 球磨川の説得など馬耳東風といった感じで一気に距離を詰め斬りかかってきた。 
 普通ならここで回避行動を取るなり、防御したりするだろう。しかし球磨川はそのどちらも行わず、敢えて斬られた。
 球磨川の肉体は袈裟懸けに両断され、ズルリと体が歪んだかと思えば、音を立てて地面に落ちた。

「おいおい、随分と他愛ねぇのよなぁ」

 随分と余裕がありそうな佇まいだったのでどれほどの手練かと思えばこんなものか。
 期待外れだといわんばかりに肩をすくめて見せる建宮。

「さて、こうなりたくなければ大人しくオルソラを渡すのよ?」

 ステイルに剣を向けて忠告する。
 しかしステイルは仲間がやられたショックなど微塵も見せず、それどころか憮然とした態度で

「おい、遊ぶのはやめてさっさと終わらせたらどうだい?」

 と言った。
 建宮はステイルが何を言っているのかわからなかった。その言葉は明らかに自分に向けられた言葉ではない。
では誰に向けられた言葉なのか? この場には現在自分とオルソラ、そしてつい先ほど切り伏せた少年がステイルと呼んでいた
男しかいないはず。もしや周囲に敵が潜んでいるのか? そう思案している建宮にありえない声が聞こえた。

『遊んじゃいないよ。僕は平和的に解決をだね……』

 その声が耳に入ってきた瞬間、建宮の背筋が凍る。
 この声は――!?
 声のしたほうを振り向く建宮。そこにいたのは――




「な、なんでてめぇがいんのよ!?」

 彼が見たのはつい先ほど自分が切り伏せたはずの少年の姿だった。
 建宮の頬に冷や汗が伝う。
 少年は確かに死んだはずだ。胴体を袈裟懸けに斬り裂かれ一刀両断された少年の体は臓物を撒き散らしながら
地面に転がった。その瞬間を建宮はその目でしっかりと見ていた。少年からは魔力の類など感じなかったし、あの手応えから
して幻覚を見せられたとは思いがたい。
 ではなぜこの少年は何事もなかったかのように立っていて薄ら笑いを浮かべていると言うのだ?
 建宮の頭の中はパニック寸前だった。

『おや? 随分と驚いてるね建宮ちゃん。君が今何を考えているか当ててみようか。そうだね、さしずめなんでコイツ
生きてるんだ? ってところかな?』

「……その通りなのよ。で、なんでお前さんが生きてんのか、種明かししてくれると嬉しいんだが?」

『簡単なことだよ。自分が死んだという事実を虚構にしたのさ。僕はこの世のあらゆる事象を虚構にすることができるんだ!』

 その説明を聞いた建宮は、それを鼻で笑った。
 全てを虚構にする? そんなことはありえない。どうやらおかしな力を持っているというのは事実なのだろう。とりあえず
戦いながら奴の能力の謎を突き止めればいい。
 建宮はそう思い、先ほどのように球磨川と自分の距離を詰め――

「これならどうよ!?」

 球磨川の首を跳ね落とした。




 首を失った球磨川の肉体は地面へと崩れ落ち――なかった。
 なんと、失ったはずの首がいつのまにか元に戻っている。

『おっと、危ない』
 
 そう言って球磨川は踏みとどまる。

『さて、建宮ちゃん。君の攻撃は僕には通用しないってことが理解できたと思うけど……』

 そこまで言うと球磨川は息を吸い、口端をこれでもかというほどに吊り上げ

『まだやるかい?』

 と尋ねた。
 その顔はまるで悪魔が微笑んでいるかのように感じられ、それを向けられた建宮が吐き気を催すほどに醜悪なものであった。

「こ、この化物があああああああ!」

 悲痛な叫びを上げながら球磨川に向かっていく建宮。
 内心では「勝てないかもしれない」そう思いながらも彼は諦めるという選択肢を選ばなかった。





 ――球磨川と建宮が戦闘を開始して10分ほどが経過。その間、球磨川は何もせずただ立っていただけだった。
 傍から見ればおかしな光景であろう。一方的な虐殺であるというのに、斬られている方は余裕の笑みを浮かべ、斬っている
方が憔悴している。
 建宮はどうやっても殺せない球磨川に心が折れる寸前まで追い込まれていた。

『もう何度も聞いてるけどさ。さすがの僕もそろそろ殺され続けるのは飽きちゃったし、今回で最後にするよ。……まだやる
かい?』

「俺達は……俺達は負けるわけにはいかねぇんだよぉぉぉぉ!」

 球磨川の忠告を完全に無視して突っ込んでいく建宮。
 そんな彼を細目で見ながら球磨川は

『ふぅん……そう』



 ――勝負の決着は一瞬であっけなくついた。
 球磨川は突進してくる建宮の攻撃をかわし、カウンターの要領で建て宮の心臓部分に螺子を螺子込んだ。
 建宮は腐っても現十字凄教トップである。普段のベストな状態であったならこのような展開にはならなかっただろう。
しかし心が折られかけ、まともな心理状態でない彼には球磨川の攻撃をかわすことなど到底不可能だった。 
 その後、頭である建宮が捕縛されたのを皮切りに天草式は次々と捕縛され、この事件は完全に決着がついたかのように
思えたのだが……
 
『あーあ、なんで建宮ちゃんの見張りなんかしなきゃいけないんだろう。どうせなら僕を刺したあの女の子を見張りたいよ』

 そうぼやく球磨川の側には、何らかの魔術的道具で拘束された建宮の姿があった。
 建宮を見張っているようアニェーゼに言われた球磨川は『えー、やだよ面倒臭い』と断りを入れたがアニェーゼの鬼の形相に、
はいと首を縦に振ってしまったのだ。そして現在に至るというわけである。

『はぁ、そもそもなんで一般人の僕を見張り役にするかなぁ。僕、この件には何にも関係ないのにさ』

 球磨川はなおもぼやき続ける。

「おい、悪いがこいつを解いちゃくれんか?」

 そんな球磨川に拘束されている建宮がそんなことを言ってきた。
 球磨川は建宮に視線を向けると

『あれ? 目が覚めたんだ? 普通ならまだ目覚めないんだけどなぁ』

 そう返したのだが、

「いいから解いてくれ」

 球磨川の言ったことなど無視して、そっけない感じで要求した。





 建宮は内心、どうせ解かないだろうと思っていた。当然である。自分はこの騒ぎを起こした組織の頭なのだ。それが何を
言おうと相手は信じるわけがない。自分達は正義であり、オルソラを奪還しに来たローマ正教こそが悪なのだとどれほど
訴えかけても無駄だろう……。だが完全に諦めるわけにはいかない。どうにかしてこの少年を説得し、この拘束を……

『うんいいよ』

 そう、うんいいよ……

「ってなにぃ!?」

 球磨川は建宮を拘束していた道具を虚構にし、建宮を開放した。
 建宮は困惑の色を隠せない。この少年がなぜ自分の拘束を解いたのか全く理解できないのだ。
 
「……なぜ俺の拘束を解いたのよ?」

 当然尋ねる。もし返答次第では、これは罠である可能性が高いからだ。
 しかし球磨川は笑いながら、建宮にとって意外な答えを口にする。

『戦う前に言ったとおり僕は君と話し合いがしたいんだよ。君が全く応じてくれないから仕方なく倒したけどね。それに君が
最後の最後で僕に突っ込んできたとき確信したよ。君には何か事情があるってさ。それを僕に話してくれないかな? もしか
したら力になれるかもしれないし』

 建宮は球磨川に自分の知ることを話していいものか悩んだ。
 はっきり言って得体が知れなさすぎる。先ほどまで自分を切り刻んでいた人間にここまで親身に接するなど常人では
有り得ない。その精神性はまるで聖人ではないか。しかし球磨川は、その雰囲気からして聖人君子などではない。確実に
おぞましい何かである。
 少し悩んだ後、建宮は……

「わかったのよ」

 自らの事情を話すことを決意した。
 確かに球磨川は得体が知れない。事態が悪化する可能性もある。しかし強い。それはもう有り得ないほどに。事情を話して
味方にでもなってくれれば……。そう思ったのだ。
 味方になったとしても何の頼りにもならないのが球磨川の本質であると言うことも知らずに……
 そして建宮は事情を話すべく、口を開いた。





 建宮曰く、天草式は法の書など盗んではおらず、あくまで目的はオルソラの保護であったと言う。
 そして、この後オルソラはローマ正教によって殺されるらしい。その理由としては法の書の解読法を知ったオルソラを
ローマ正教は危険人物とみなしているためらしい

『なるほど、確かに筋は通ってるねぇ……。よし、僕は君に協力するよ!』

 建宮の思惑通り、球磨川は天草式に加担することを決めた。それはもうあっさりと。

「お前本当にズバズバと判断するのな……。どういう頭してんのよ」

 呆れた様子で言う建宮。
 しかし内心では、球磨川が味方になったことにほっとしていた。

「そうと決まればオルソラ=アクィナスを保護しに行くぞ!」

 建宮がそういった瞬間、悲鳴が聞こえてきた。
 声からして女性のものであることがわかる。そして悲鳴を上げた女性は球磨川と建宮がよく知る人物だった。

「っ!? ちぃ! 手遅れだったか!」

『何がどうなってるの? 今の悲鳴、オルソラちゃんだよね?』

「奴等はここでオルソラを始末することはできんのよ。奴等は自分達の領内でやるつもりだ。そこでなら何が起ころうが
ローマ正教のごたごたとして処理されるからな。そうなるとイギリス清も我々天草式も手が出せなくなっちまうのよ……!」

『つまりオルソラちゃんはローマ正教に誘拐されたってこと?』

 球磨川の問いに黙ってうなずく建宮。



『やれやれ、君達に誘拐されたと思ったら今度はローマ正教に誘拐されるなんてね。本当モテモテで羨ましいなぁ』

「奴等の行き先には心当たりがある。オルソラを取り戻しに行くのよ」

 言ったと同時に動き出す建宮。その瞬間――

「そうはいきません」

 二人のものとは違う声がその場に響き渡る。
 声がした方向を見る二人。すると修道女が二人こちらに歩いて向かってきているではないか。
 とっさに身構える建宮。球磨川はなにやら面白い展開になってきたといった表情を浮かべている。

「どうやら聞かれてたみてぇだな。おい、球磨川とか言ったか? ここは俺に任せてオルソラ教会に行け! 恐らく奴等は
そこにいるはずなのよ!」

『僕の一度は言ってみたいことランキングの3位を言うなんてなんて羨ましい! ずるいよ建宮ちゃん!』

「無駄口叩いてねぇでとっとと行きやがれ!」

 そう言われた球磨川は大人しくパーク出口へと走り出した。
 しかしそんな球磨川を二人の修道女が見逃すはずもなく、

「行かせない!」

 長身の修道女がその手に持った車輪のような武器を構える。そして攻撃に移ろうとした瞬間――

「やらせねぇのよ!」
 
 建宮が修道女に斬りかかり、その攻撃を潰した。そして

「お前達の相手はこの俺なのよ」

 そう言ってニヤリと笑った――




 ――パーク内を脱出した球磨川はオルソラ教会へ向かうべく走る。しかし重要なことに気が付き足を止めた。

『そういえばオルソラ教会って一体どこにあるんだろう?』

 かっこよく脱出したはいいがよくよく考えると教会の位置など全く知らない。これではオルソラを助けに行き様がないでは
ないか。
 どうしたものかと唸る球磨川。そんな彼に声をかける者がいた。

「……君はこんなところで一体何をやってるんだい?」

『あ、ステイルちゃん! いいタイミングで出てきたね! 僕、今からオルソラ教会ってところに行く予定なんだけど行き方が
わからないんだ。どこにあるか教えてよ!』

 そう尋ねてきた球磨川にステイルは呆れた様子でため息をつきながら

「本当に行くつもりなのかい? 知り合って一時間も経ってない相手のためになんでそこまでする?」

 と聞いた。その問いに球磨川は 

『えっ? 特に理由なんかないよ? 強いて言うなら面白そうだからかな?』

 とふざけた感じで答えた。
 その答えを聞いた瞬間、ステイルの眉間に皺が寄る。内心で、こんなシリアスな状況でもふざけやがって……と
苛立ちを覚えていた。
 それを感じ取ったのか球磨川は珍しく真剣な面持ちになり、

『さっきの答えが気に入らないなら、そうだねぇ……』

 少しだけ考える。そして

『彼女が本当に綺麗な心の持ち主だからってのはどうかな? 中途半端に綺麗な心を持ってる偽善者なら不幸(マイナス)に
落としてみたくなるけど、あそこまで綺麗だったなら守りたくなるんだよ。これならどう?』

 と聞く。
 あいも変わらず本心かどうかわからない。しかし、さっきの理由よりかは本心に近いのではないか。ステイルはそう考え、

「本当に君はわけがわからないな」

 と言って苦笑する。そして球磨川にオルソラ教会への道筋を教えた。




 
『ありがとステイルちゃん。じゃちょっと行ってくるね!』

 礼を言って走り出そうとする球磨川。しかしそんな彼をステイルは呼びとめ

「君にやった十字架はどこにやった?」

 と尋ねた。

『え? あのネックレスならオルソラちゃんに上げちゃったけど……大事なものだったの?』
 
「いや、別にいい。……僕の用事はそれだけだ。早く行くといい」

 少し引っかかりを感じた球磨川だったが、今そんなことを考えても仕方ないかと思い走り去っていった。
 そんな球磨川の背中をため息と共に見送るステイル。

「はぁ、気紛れなんて起こすもんじゃないな」

 面倒くさそうに呟くと、彼はとある場所へと歩き出した――





 ――オルソラ教会

「ぐっ……うぅ……」

 金髪の修道女――オルソラ――がうめき声を上げる。その顔はところどころ怪我しており、痛めつけられたことがわかる。
 そんな彼女を大勢のシスターが囲んでおり、彼女の近くにはアニェーゼが杖を持って仁王立ちしていた。

「ったく、手間をかけさせちゃダメでしょう? 残念ながら貴女の遊びに付き合ってる暇なんてないんです。わかってんなら
大人しく処刑を……聞いてんですか!?」

 オルソラを怒鳴りつけるアニェーゼ。しかし反応は返ってこない。
 それに腹を立てたのか

「聞いてんですかって言ってんでしょうがコラァッ!」

 オルソラの腹部を蹴り上げた。その衝撃でオルソラは呻き声を上げる。

「それにしても頼れるお友達が随分少なかったみたいじゃないですか。天草式やイギリス清教なんぞに大事な命を預けちまう
からこんな目にあっちまうんですよ」

 と言ってアニェーゼは盛大に笑う。

「あの方達は……騙されたのでございますか……? あなた達に協力したのではなく、騙されて……」

「そんなんどっちでもいいでしょうが!」

 彼女がそう言った瞬間――

『そうだね、そんなことはどうでもいいことだよ!』

 その場にアニェーゼでもなくオルソラでもない声が響き渡った。




 その場にいる者全員が一斉に声の主を注目する。その声の主とは……

『僕は僕のしたいことをしただけだからね』

 いつもの笑顔を浮かべた球磨川禊だった。

『いやー君達の会話シーンをもう少し見守っていても良かったんだけどね。あまりにも長すぎるもんだから割って
入っちゃったよ』

 言い終わった後球磨川はオルソラとの距離を虚構にし、彼女の元へと移動した。
 周りから見ればまるで球磨川が瞬間移動したように見えただろう。その場にいる者達がどよめきだす。

『随分と酷い目にあわされたみたいだねぇ。綺麗な顔が傷だらけになってるよ? でも大丈夫! 僕がその傷を虚構にして
あげるから!』

 球磨川がそう言った瞬間、オルソラの体から痛みが消え、顔の傷も完全に消滅した。
 それを見た修道女達はまるで神の奇跡を見たかのように驚く。アニェーゼもまた例外ではなかったが気を取り直し、

「外には結界が張ってあったはず……一体どうやって!?」

 と聞いた。

『あぁ結界なら僕が虚構にしたよ』

「虚構にしたですって?」

『そういえばアニェーゼちゃんには僕の能力を教えていなかったね。僕はこの世のあらゆる事象を虚構にできるんだ。
まぁ何の自慢にもならない負完全な力だけどね』

 それを聞いたアニェーゼは球磨川が今まで能力を教えた者達と同様、その言葉を信じようとはしなかった。
 そんなものハッタリに決まっている。彼女はそう思い込んだ。
 そして球磨川に対し臨戦態勢を取る。それと同時に周囲の修道女達も、その手に持っている武器を構えた。



『僕は君達と戦うつもりはないよ。オルソラちゃんを助けに来ただけだから!』

 殺気立つアニェーゼ達にいつも通り平和的な解決を求める球磨川だったが、

「私達がオルソラを渡すと思ってんですか!? そんなわけねぇでしょうが!」

 アニェーゼは聞く耳を持たない様子だった。そんな彼女を球磨川はニヤニヤと笑いながら見つめる。

『君達ってさ、オルソラちゃんが法の書を解読しちゃったからオルソラちゃんを殺したいんだよねぇ?』

「それが一体何だってんですか!?」

『いやだからさ、こんなことになっちゃったのは全部法の書が悪いって事だよね? いや、今回のことだけじゃない。法の書の
せいで大勢の人が可哀想な目にあったんだよね。僕、オルソラちゃんに聞いて思ったんだ。そんな人を不幸にするような物
あっちゃいけない! ってさ。だからね…… 法の書は僕がついさっき虚構にしたよ!』

 と言ってこれで争いの種はなくなったね! と笑う球磨川。
 もちろん球磨川本人は自分がどれほどとんでもないことをしたのか全く自覚がない。法の書の消失とは全世界の政治家や
指導者が全員一斉に消滅するよりもヤバイレベルの出来事である。
 周りにいる修道女達は普通なら大パニックになり、取り乱すだろう。そう、球磨川が言ったこととが事実だと認識していた
のなら……

「あんた何言ってんですか? 頭がどうにかなっちまったんですかね?」

 アニェーゼだけでなく、オルソラを含めその場にいる者全員がそれを信じなかった。いや、信じないどころかあまりの狂言
ぶりに笑い出す者まで出てくる始末である。
 当然だろう。そもそも球磨川の能力自体を信じていないのだ。いきなり、法の書を消したなどと言っても信じるはずがない。
 この場に法の書があり、それを彼女達の目の前で消してしまえば信じるかもしれないが、残念ながらこの場に法の書は存在し
ない。現在、法の書の消滅を知るのはそれを管理している者のみである。

『あれ? もしかして信じてくれてない?』

 修道女達の狂人を見るかのような視線と嘲笑に球磨川が疑問の声を投げかける。

「信じられるわけねぇでしょうが! 魔道書はどうやっても消去できねぇんですよ! このド素人がッ!」

 アニェーゼが球磨川を怒鳴りつける。
 球磨川は困ったような顔をしながら顎に手を当て

『うーん……どうすれば信じてくれるんだろう?』

 と言って考え込む。



「何をやっても信じねぇですよ!」

 茶番はここまでだと言わんばかりに杖を構えるアニェーゼ。
 彼女の構えた杖は 蓮の杖 (ロータスワンド) といい、杖を傷つけることで連動した他のものを同時に傷つけることができる
という武器である。
 この杖によって彼女は杖に与えた衝撃を瞬間移動させる攻撃、杖をナイフで傷つけることで空間を裂く攻撃等が可能。
 その攻撃は軌道が一切見えずかわすことは困難であり、どれほど硬い鎧を着ていようとそんなものお構い無しに中の人体に
ピンポイントでダメージを与えてくる。とんでもない武器だ。
 そしてそんな恐ろしい武器による攻撃が今まさに始まろうとした瞬間――

『そうだ! まずは君達の持ってる物騒な武器を虚構にしよう!』

 球磨川がそう言った刹那、修道女達が所持していた武器が全て消滅した。もちろんアニェーゼの蓮の杖も例外ではなく、完全に
跡形もなく消えてなくなってしまった。その事実に球磨川を除く全員が唖然とする。

『さて、これで信じてくれたかな?』

「一体何をやったんですか!? どんな魔術を……」

『まだ信じてくれないんだ? じゃあ次はこの教会を虚構にしようかな』

 言い終わった瞬間に教会が消滅。ついさっきまでそこにあった椅子も祭壇も何もかもが消え失せ、そこには何一つ「教会」
としての体をなすものは存在しない。完全なる更地となってしまっていた。
 その場にいる者達は最早言葉が出てこなくなってしまった。武器が一瞬で消えたのも異常だというのに、今度は教会が一瞬で
無になってしまった。そう、まるで最初からなかったかのように……
 しかし球磨川は頭が真っ白になっている修道女達を慮ることなど一切せず、

『ねぇねぇ、これなら信じてくれるよねっ?』

 あくまでマイペースである。
 本人としてはこれならさすがに信じるだろうと自信満々だったようだが、言葉を投げかけた者達は前述したように現在頭の中が
真っ白な状態。球磨川の言葉など聞こえていない。そして不運なことに球磨川はそれを「まだ信じていない」と解釈してしまった。




『うーんどうしようかなぁ。もう虚構にできるものは……』

 球磨川はそこまで言うと、何かを思いついたかのようにニヤリと笑う。

『あぁまだあったね』

 そして、彼女達にとって屈辱もしくは悲劇の時が訪れる。

「あ、あれ?」

「えっ?」

 彼女達が自らの異変を認識したのは球磨川が『それ』を実行して十秒後のことだった。
 彼女達は最初、気温が急激に低くなったのだと判断した。だから妙に肌寒いのだと。しかしそれはただの現実逃避でしか
なかった。彼女達がゆっくり、ゆっくりと現実を受け入れ始め、そして完全にその現実を受け入れた瞬間――

「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」

 全員が一斉に悲鳴を上げた。しかしそれは苦痛にまみれたものでもなければ恐怖に怯えたものでもない。
 勘の鋭い方ならばもう察しは付いているだろう。球磨川が虚構にしたもの……それは『彼女達の衣服』だった。
 修道女とはいえ女性である。いきなり服が無くなってしまえば悲鳴を上げるのは当然のこと。教会が虚構になっているため、
傍から見れば露出狂の痴女軍団が騒いでいるかのようにしか見えない。無関係な一般人が一切いないのが不幸中の幸いか。
修道女達は涙目になりながら前を隠し、次々と崩れ落ちていく。

『あ、大丈夫! パンツは残してあげたから! さすがに全裸は酷いもんね!』

「いえ、そういう問題ではないと思うのですが……」

 オルソラは心底呆れた様子で言った。ちなみにオルソラの衣服は虚構にはなっていないのであしからず。




「本当に君は神罰を受けるべきだと思うよ……。そして地獄に落ちろ」

 球磨川達の背後から最大級の嫌悪感を込めた言葉が聞こえてきた。その場にいる者全員がその言葉を発した主に視線を向ける。
 声の主はステイルだった。そしてそこにいたのはステイルだけではない。

「なかなかいい光景じゃねーのよ。本当よくもまぁこんな発想しやがるもんだな、お前は」

「なにをどうしたらこういうことになるんですか……」

「男のロマンだ!」

 建宮率いる天草式の面々もその場にいた。

『あれ? 建宮ちゃん生きてたの? 君って死亡フラグに強いんだねぇ』

「はっ、この俺があの程度のことで死ぬわけねーのよ」

『そっかぁ。建宮ちゃんは凄いなー』

 と言って笑う球磨川。

「建宮さん、もしかしてあの人がこの惨状を……? 女の敵ですね」

 黒髪のショートヘアーで二重まぶたが印象的な少女が球磨川を睨みつける。

『えー、酷い言い草だなぁ。パンツがあるから恥ずかしくないよ!』

「そういう問題ではありません!」

『いやいや、一枚のパンツがあれば明日も生きて行けるって最近のライダーが……』

「な、なんでイギリス清教のあんたがここにいるんですか!?」

 アニェーゼが球磨川と少女の会話に割り込んできた。その視線はステイルに注がれている。



「内政干渉になっちまいますよ!? わかってんですか!?」

 ステイルはやれやれといった感じで頭をかきながら

「今の君にそんなまともな事を言われても答える気になれないが……答えてやる。オルソラの胸を見てみろ」

 と言って、オルソラの胸を指差す。
 アニェーゼと球磨川の視線がオルソラの胸に向けられる。

「……ネックレス?」

 
 アニェーゼは疑問符が顔に出てきたかのような表情を浮かべる。しかし球磨川は…… 

『えっと、それはオルソラちゃんが巨乳かどうかってのを言ってるのかい? 見損なったよステイルちゃん! いくらこんな状況
だからってそんなケダモノみたいな事は言っちゃダメじゃないか!』

 言われたオルソラは顔を赤くして胸を隠してしまう。

『あ、恥ずかしがることはないよオルソラちゃん。君の胸は本当に立派だよ! でも僕は人吉先生みたいにつるぺたのほうが……』

「それ以上言ったら消し炭にするよ?」

「俺も手伝うのよ」

「私も」

 その場にいる者全員から殺意に満ち満ちた眼差しを向けられ、さすがに黙り込む球磨川。





「話を元に戻そう。オルソラの首にかかっているネックレス。それはイギリス清教の十字架だ。その十字架を誰かにかけられる
ということは、イギリス清教の庇護を得るという事。つまり、オルソラ=アクィナスは、現在ローマ正教の者ではなく僕達
イギリス清教の一員になったと言うことだよ」

「そ、そんな屁理屈がまかり通るわけが……」

「そうかな? だったら力ずくで終わらせてもいいんだよ? 武器もなく全裸に近い君達が一体どこまでやれるか見物だね」

 ステイルは余裕の笑みを浮かべながら言い放った。
 だが実際その通りである。こんな状態で勝てるわけもない。いや、そもそも勝負にすらならないだろう。アニェーゼを含めた
修道女達は全員降伏。シリアスだったこの事件は最後の最後でその空気を台無しにされて完全に幕を閉じた。



 ――とあるマンションの一室

『カ○○ンはなんでドスファンゴをリストラしないかな! 新しい攻撃も覚えて鬱陶しさ三割り増しだよ!』

「でもガノトトスをリストラしたのは評価できるんだよ!」

「ミサカはこのゲーム初めてやったけど簡単なゲームだね! ってミサカはミサカは得意顔になってみたり!」

『……君にはこれをやってもらおうか。その天狗鼻へし折らなくっちゃね』

 球磨川は打ち止めにゲームソフトを渡した。タイトルは『モンスターハンター2ndG』と書いてある。

「ティガレックスに泣かされるといいんだよ!」

「ティガレックスなんてただのトカゲでしょ? 余裕、余裕! ってミサカはミサカはソフトをPSPに入れてみる!」

『その余裕がいつまで持つかな……』

「一時間持たないにカップ麺三個賭けるんだよ……」

 球磨川とインデックスがニヤニヤと笑う。そして打ち止めの顔が絶望に歪むその瞬間をまだかまだかと待つ。
 しかし突然のインターホンにより、意識が玄関に向いた。

『……これってデジャブってやつかな?』

 そう言いながら立ち上がり、玄関へと向かう球磨川。
 今度は誰が訪問して来たのだろうと胸を躍らせながらドアを開けた。



「……お邪魔してもよろしいでしょうか?」

 玄関の前に立っていたのはTシャツに片方の裾を根元までぶった切ったジーンズ、 腰のウエスタンベルトに刀という奇抜な
格好をした10代に見えない10代の少女、神裂火織だった。

『神裂ちゃんじゃないか! 久しぶりだねぇ。さぁ遠慮せずに入って入って!』

 球磨川は満面の笑みで神裂を部屋へと招く。ステイルのときとは大違いである。
 そして訪問者に対して部屋の中にいた二人は三者三様な反応を示した。

「また知らない人が来た! ってミサカはミサカは通報されそうな女の人を指差してみたり!」

「あ、かおり! 久しぶりなんだよ!」

「えぇ、お久しぶりですインデックス。……ところで球磨川、この子は一体誰ですか? 答え次第では……」

 神裂は刀に手をかける。どうやら球磨川が打ち止めをさらってきたと思っているらしい。

『か、顔が怖いよ神裂ちゃん。ちゃんと説明するから落ち着いて……』

 球磨川は神裂に打ち止めについて話し、打ち止めには神裂との関係について簡潔に説明した。
 神裂は球磨川の話に納得したらしく、刀から手を引いた。

『さて誤解も解けたようだし、君がなんでここに来たのか聞こうか。あ、それとも用件無しで遊びに来たとか? 僕としては
大歓迎だよ!』

「いえ、用件はあります。……今回の件、申し訳ありませんでした!」

 神裂は球磨川に向かって頭を下げた。
 いきなりの行為に球磨川が困惑したような顔をする。




『えーっと神裂ちゃん、頭を上げてよ。一体なんで謝るのさ?』

「……貴方が交戦した天草式は元々私が率いていたものなのです。私が不甲斐ないばっかりに貴方を巻き込んでしまった……」

『あぁそうだったんだ。まぁアレだよ、僕はしたいことをしただけなんだからさ。謝る必要なんてないんだよ?』

「いえ、それでも謝らせてください! 私が謝罪したいのは今回の件だけではありません。私はあなたがインデックスを救って
くれた際、何も言わず出て行ってしまった……。あの時は本当に無礼な事をしました! 今回の件も合わせて本当に申し訳なく
思っています! この借りはいずれ必ず……!」

『よ、よしてよ。あの時の事に関しては君が気にする必要なんてないんだって!』

 事実その通りである。何せあの時二人が放心状態で出て行ったのは球磨川の狙い通りであり、そのように仕組んだのだから。
 しかしそんな球磨川の内心など知らない神裂はステイル同様、あの件以降ずっとそれを気にしていた。そして今回の天草式
による事件である。神裂の性格上、強い罪悪感を感じずにはいられない。

「私はこの借りを何らかの形で返したいと思っています。ですので何かお望みがあれば何でも仰って下さい! 私にできること
であればなんでもします!」

 その言葉を聞いた瞬間、球磨川の口端が釣り上がる。

『なんでも? なんでもって言ったね? 神裂ちゃん』

「え、えぇ。私にできることならの話ですが……」

 神裂は後悔していた。この少年に対して『なんでもする』等と言うのは自殺行為もいいところである。しかし言ってしまった
手前、いまさら前言撤回などできようはずもない。神裂は球磨川の要求を固唾を呑んで待った。
 一体どんなことを言ってくるのか……神裂の心臓が高鳴り、頬には冷や汗が伝う。
 そして球磨川が口を開く――









『一週間、裸エプロンで僕に傅け!』







「は、えっ? えっ? は、はだ……えっ?」

 球磨川の要求を聞いた神裂は顔を真っ赤にしてうろたえている。
 目が泳ぎ、口をパクパクさせているその様からは数少ない聖人の一人としての威厳など、どこにもない。

『あれ? 神裂ちゃん、裸エプロンのこと知らないの? だったら教えてあげるよ! 裸エプロンっていうのは……』

「言わせないんだよ!」

「ミサカも! ってミサカはミサカはインデックスに加勢する!」

 二人の幼女が球磨川に飛びかかり、球磨川に制裁を加える。
 
『い、痛いよ二人とも! わかった! さっきのは無し! 無しにするから許し……』

「許さないんだよ!!」

「問答無用! ってミサカはミサカは攻撃をさらに激しくする!」

『ぎゃああああああああああああああ!!!』

 球磨川の部屋は、本日も喧騒に包まれるのであった――




 ――???

「イギリス清教の手にあったとはいえ、貴重な10万3000冊を消去し我々が保有していた法の書まで消した、球磨川禊の力……
あまりにも危険すぎる」

 そう言った老人は現ローマ教皇マタイ=リース。そしてその言葉に反応する者がいた。

「で? 私を呼び出して何の用?」

 反応を示したのは一人の少女だった。十九世紀のフランス市民のような出で立ちをしており、その顔には大量のピアスと奇妙な
化粧が施されている。

「心苦しいことではあるが……ローマ教皇として命ずる。球磨川禊を……抹殺せよ」

 それを聞いた少女は口を嬉しそうにゆがめる。

「了解しました教皇様。この『前方のヴェント』が球磨川禊の首、見事に討ち取って来ますわ。ところでこの私が出向くからには
学園都市側もただでは済まないわよ? そこらへん了承してんのかなぁ、教皇様?」

「……致し方あるまい。しかし、被害はできるだけ最小限に抑えるのだぞ」

 少女――ヴェント――はこれを『お墨付き』と受け取った。
 教皇が首を縦に振らなかったとしても目的を実行するつもりだったが、これで心置きなくやれる。

「待ってなさい。クソッタレな科学の結晶……学園都市!」

 そう言ったヴェントの心は喜びに満ち溢れていた。そして自然と笑みが漏れ、堰を切ったかのように笑い出す。  
 彼女の狂喜と狂気に満ちた笑い声がその場に木霊した――



これにて投下終了です
ヴェント編は2ヶ月以内に投下……できるといいな……
ではまたいつか!

それではこれからはじめます


 ――学園都市市街地某所

 一人の警備員(アンチスキル)が突如ドサリと音を立てて地面に倒れこんだ。
 突発性の失神……なのだろうか、まるで死んだかのように動かない。
 その傍らには彼の物と思わしき通信機が落ちており、焦りと恐怖が混じった叫びが聞こえてくる。

『侵入者が市街地に侵入! 繰り返す、侵入者が市街地に侵入! こちらも正体不明の攻撃を……』

 そこで通信は完全に途絶えた――



 ――学園都市内某所

 ここにも警備員が倒れている。その数は市街地某所とは比べ物にならない程。そしてその者達もまた、ピクリとも動かない。
 そんな中を一人歩く少女がいた。
 少女は学園都市では見慣れぬ服装をしており、その顔には大量のピアスと奇妙な化粧が施されている。そしてそんな顔に
浮かべられているのは周りの異常な光景による恐怖ではなく、歓喜の笑顔であった。
 少女は道端に落ちてある通信機を発見するとそれを拾い、

「ハァーイ、アレイスター。どうせあんたはこういう普通の回線にもこっそり割り込んでるってことでしょ? さっさとお相手
してくれると嬉しいんだけどなぁ?」

 と通信機に話しかけた。
 通常ならば何も反応など返ってくるはずはないのだが……

『なんの用だ?』

 反応が返ってきた。
 その声は女とも男ともつかない声。アレイスターと呼ばれた者の声と思われる。

「宣戦布告をしようと思ってね。今回私がここに来た理由は球磨川禊の抹殺。でもね、理由が目的と同じとは限らないのよ。
私の目的は……学園都市の殲滅。この不愉快極まりない『場所』もそれを支配してる『あんた』も叩き潰してあげるわ」

 彼女はアレイスターを挑発する。
 しかし挑発された当人は激昂するでもなく焦るわけでもなく、

『ほう……お前にそれができると?』

 冷静にそう返した。


「できるに決まってるでしょう? 私を誰だと思ってるの?」

 少女は自信に満ち溢れていた。まるで自分に敵う者などいないと考えているが如くである。
 しかしそんな彼女に対してアレイスターの反応は冷ややかだった。

『さぁ? 知らないな』

「神の右席。しらを切るっていうならそれでもいいけどあとで後悔しないようにね」

 神の右席――四人のメンバーで構成されているローマ正教禁断の組織である。その権力は教皇も上回るとされており、
構成メンバーは単独で小国程度なら簡単に滅ぼせるほどの力を持っている。
 そんな彼女の素性を知ってもなお、アレイスターは冷静であった。

『この街を甘く見ないほうがいい……いや、今回の場合球磨川禊を甘く見ないほうがいいと言うべきか。お前では
奴を殺せない。そしてこの街の殲滅など100%不可能だ』

「ふん、その余裕もいつまで続くかしらね。まぁ首を洗って待っていなさいな。このローマ正教信徒20億の中の最終兵器『前方
のヴェント』があんたのその首を取りに行ってあげる」

 言い終わった後、少女――ヴェント――はその手に持っていた通信機を握りつぶす。そして目の前に見えるマンションを
見上げる。そのマンションは……

「情報が正確ならここが球磨川禊の住むマンションね。ま、住んでいようがいまいが関係ないけど」

 と言って彼女はまるで獣が牙をむくかのような笑みを顔に浮かべた――



 ――窓のないビル

 男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見えるという奇妙な『人間』がまるで巨大なビーカーのような装置の中
に逆さまの状態という奇妙な状態で入っている。彼こそが学園都市総括理事長、アレイスター=クロウリーである。

「ふむ、通信が切れたか」

 アレイスターは興味がなさそうに呟いた。
 実際彼は今回の侵入者に対してさほどの興味を持っていない。なぜならば排除する方法などそれこそ腐るほどにあるからだ。
 よって神の右席たる侵入者ですら彼の興味の対象に入らない。今、彼が考えることは……

「それにしても……球磨川禊……か」

 あの自称『過負荷(マイナス)』の少年についてであった。
 アレイスターが球磨川の能力を知ったのは彼がインデックスと初めて接触したときのこと。それまでは能力開発を受けても
何の能力も発現しない単なるレベル0という扱いだったのだが、彼の『大嘘憑き』が判明してからはそのような扱いをすること
はできなくなった。アレイスターは当初、球磨川をプランに組み込もうと考えていた。その強大すぎる力は自分にとって何らか
のプラスになるであろうと考えたからだ。しかしそんな思惑は見事に裏切られた。


「まさか一方通行とぶつかるとはな」

 そう、球磨川と一方通行の戦闘。これはアレイスターにとっては痛手であった。一方通行は彼のプランの中では重要な立ち位置
にいる存在。それを球磨川は完全に破壊してしまったのである。

「肉体を回収してみたものの……はっきり言ってもう使い物にならんな。最後に『天使化実験』を行う予定ではあるが、まぁ確実
に失敗だろう」

 そう言ってため息を吐く。液体の入ったビーカーにいるからだろう、吐き出された酸素がゴボゴボと音を立てながらビーカー
上部に送られる。
 一方通行が再起不能になったことでアレイスターのプランは支障をきたしていた。そして一方通行を破壊されて彼は悟った。
『球磨川禊はプランに組み込めない』と。
 大嘘憑きの力は確かに魅力的ではあるが、球磨川という人間をアレイスターは御しきれない。世界最大の魔術師とうたわれた彼
ですら球磨川が何を考えているのかさっぱりわからないのだ。そんな存在をプランに組み込んだとしても、自分の思い通りにこと
が進むはずもない。
 そう考慮した結果、アレイスターは球磨川禊を重大な『イレギュラー』であると判断。排除することを決定し、その準備を着々
と進めていたのだが……とある少女の介入により、その計画は中止された。
 


「確か安心院なじみといったか。球磨川禊といい彼女といい、私の知らないことはまだまだ大量にあるらしいな」

 と言って彼は楽しそうに笑う。それはまるで新しい玩具を見つけた子供のような無邪気な顔であった。
 しかしすぐさま顔をいつもの無表情に戻し、

「さて、話が逸れたな。例の侵入者に関してはまぁ……球磨川禊に任せればいいだろう。今回はヒューズカザキリを使う機会は
なさそうだ」

 アレイスターは残念そうな表情を浮かべるが先ほどのように表情を無表情に戻し、

「まぁいい……過負荷(マイナス)の大嘘憑きによる舞台、とっくり拝見するとしよう」

 そう言って顔を歪ませた――



 ――とあるマンションの一室

「ねぇくまがわー、今度の日曜は焼肉が食べたいんだよ!」

「ミサカも食べたい! ってミサカはミサカはインデックスに賛同してみる!」

 二人が唐突にそんなことを言い出した。
 しかし彼女達の提案を球磨川は、

『ダメ』

 バッサリと斬って捨てた。
 即答である。インデックス達がそれを言い終えてから1秒たりとて経ってはいない。
 そんな球磨川の態度にもめげず、インデックスは執拗に食い下がってくる。

「えー! なんで!? たまにはお肉が食べたいんだよ! うどんやパスタやカップ麺はもう飽きたかも!」

『だって君、僕達の肉も全部食べちゃうでしょ? いや、肉どころか野菜も全部食べ尽くすに違いない。僕はいわれなき迫害
には慣れてるけど食べ物の恨みは許せないんだ』

「い、一理あるかもってミサカはミサカはインデックスの食事風景を思い出してみたり……」

 打ち止めは初めてインデックスと会った時のことを思い出す。
 初印象としては珍しい髪の色をした外国人といったところであった。しかし彼女のインデックスに対する印象はすぐさま変わる
ことになる。
 それはその日の夕食のこと。打ち止めに出された夕食はカップラーメン。通常このような貧相な食事は幼い彼女にとって不満を
爆発させるようなものであろう。しかし彼女は食事などというものは今までしたことがなく、カップラーメンですら輝いて見えた。
そして目を輝かせながら、生まれて初めての食事というものを体験しようとしたその時……目の前から突如としてカップラーメン
が消失。
 打ち止めは一体何が起きているのかすぐには理解できなかった。彼女がそれを理解したのは数秒後のこと。インデックスが
恐ろしいスピードでカップ麺を食べていたのだ。それも一個や二個ではない、つい先ほどまで何もなかったはずの空間にカップ
ラーメンの塔が出来上がっていた。ここで彼女は確信する。自分の夕食はインデックスに奪い取られたのだと。
 当然打ち止めは腹を立ててインデックスに文句を言うのだが、インデックスは全く耳を貸さずカップラーメンを食べ続けていた。
そんな態度にますます腹を立てた打ち止めはインデックスからカップラーメンを取り上げたのだが……その瞬間インデックスは
打ち止めに襲い掛かってきた。間一髪で球磨川に助けられたものの、もし球磨川がいなければ彼のように頭を歯形だらけにされて
いたことだろう。
 この事件をきっかけに打ち止めは思った。食事をしている時のインデックスは災害のようなものとして扱おう、と。

「……ミサカやっぱり焼肉はいいよってミサカはミサカは諦めてみたり……」

「打ち止め! 諦めたらそこで試合終了なんだよ!」

 自分が諦めるのはお前のせいだ、と打ち止めは泣き叫びたくなったがグッと堪えた。



『とにかく! 我が家では焼肉はしないよ! どうしても肉が食べたいなら安い豚肉で我慢することだね!』

「えぇー! やだやだ! 私は牛肉が食べたいんだよー!」

 インデックスが涙目になりながら地団駄を踏む。その様はまるで欲しいものを買ってくれない親に対して抗議する子供そのもの
である。

『なんと言おうとダメなものはダメ!』

 球磨川は頑として自分の意見を曲げようとはしない。
 そんな彼の背後から、この部屋にいないはず……いや、この世界に存在しないはずの人物の声が聞こえてきた――

「おいおい、女の子を泣かせちゃダメじゃないか」

 その声を聞いた球磨川は背筋が凍るかのような感覚を覚えた。そしてすぐさま背後を振り返る。

「やぁ、球磨川君久しぶり。僕だよ」

 そこには笑顔を浮かべた少女が球磨川のベッドに腰掛けていた。
 その少女は巫女装束という特定の場所でしか見られない珍しい格好をしている。そして珍しいのはその服装だけではない。
髪は白髪で腰まで伸びており、その容姿は魅力的過ぎるほどに魅力的であった。



 インデックスと打ち止めは驚愕した。突如現れた来訪者に対してではない。球磨川に対してである。
 球磨川の目は大きく見開かれ、頬には冷や汗が伝う。その様子からわかること、それは明らかな『動揺』。二人は球磨川が
このような顔をする、もしくは出来るなどと欠片も思っていなかったのだ。
 しかし、最も驚愕しているのは球磨川本人だろう。
 目の前にこの少女が存在している。これがどれほど異常な事態なのか、彼はよく理解しているからである。

「うろたえすぎだぜ球磨川君。君らしくもない」


 少女は微笑みながら球磨川に声をかける。
 その言葉で我に返ったのか、球磨川は緊張した面持ちで少女に問いかける。

『安心院副会長……なんで君がここに存在してるの?』

 球磨川はその少女を安心院と呼んだ。それが彼女の名前。
 安心院なじみ――球磨川の生徒会長時代に副会長を務めた女性であり彼が最後に恋した相手。
 かつて球磨川は自分の愛を確かめるために彼女の顔の皮を剥ぎ、『大嘘憑き』そして今は失われた彼の始まりのマイナス
『却本作り』の二つのスキルをもって彼女を封印した。
 それ以降彼女は球磨川が死んだ時もしくは夢の世界など、この世ではない場所にしか存在できなくなってしまったのだ。
 しかし、そんな彼女がここにいる。存在しないはずの存在がここに存在している。それが何故なのか球磨川には理解でき
なかった。



「一京分の一スキル『贖罪 証明(アリバイブロック)』を使ったのさ。あぁそれと僕のことは親しみを込めて安心院(あんしん
いん)さんと呼びなさい」

『そういうことじゃないよ。君はこの世に存在しなくなったはず……そんな君がなんでここにいるんだ!?』

 珍しく球磨川が語気を強める。それは明らかに動揺の裏返しだった。
 そんな彼の問いかけに対して安心院は、あぁそういうことかと手を叩き

「それなら答えは簡単だよ。君の幸せ(プラス)化が進んだ結果、僕を封印していた力が弱まったからさ」

『僕が……幸せ(プラス)になっている……?』

 球磨川にはそのような自覚などなかった。自分はあいも変わらず完全に不完全であり、過負荷(マイナス)で負(マイナス)で
不幸(マイナス)。それが彼の自己分析。しかし安心院は自分を幸せ(プラス)になりつつあると言った。それが原因で封印が
緩んだ、それが彼女の答え。
 その答えに球磨川は納得がいかなかった。「自分はプラスなどではないのに……」その考えが彼の頭の中で繰り返されていた。


「それにしてもこっちの君は本当に幸せ(プラス)になりつつあるようだね。あっちの僕と違って色んな所に突き刺さった螺子
が消えてる。しばらくはこっちの僕でいようかなぁ。あっちは色々と不便なんだよねぇ」

 自分の手を見ながらそんなことを呟く安心院。

『……君が何を言ってるのか、さっぱりわからないんだけど』

「あぁ君が気にするようなことじゃないよ球磨川君もとい主人公君」

 球磨川は安心院の態度にため息を吐く。彼女が言わないと決めたのなら食い下がったとしても無駄、そう考えた球磨川は
話題を変えることにした。

『……聞くのがまだだったけどここに何しに来たんだい? 何の用もなく来たってわけじゃないんだろ?』

 口調は穏やかであったが、その手には螺子が握り締められている。
 彼女の性格からして報復をしに来たというのは考えにくい。しかし万一がある。球磨川の緊張感は最高潮に到達していた。

「そんなにぴりぴりするなよ。もしかして、こんなかよわい女の子相手にビビってるのかい? みっともないぜ、球磨川君」

『……君ってそんな挑発的なキャラだったっけ?』

 笑みを浮かべながら言う球磨川。しかしその目は全く笑っていない。



「たまにはこういうキャラもいいだろう? ……あぁしまった。手遅れになっちゃった」

『手遅れ?』

「そう、今回ここに僕が現れた理由はひとまず挨拶がてら……というのもあるんだけど最大の目的は忠告をしにきたんだ。早く
この部屋を出たほうがいいってね。でもごめん、久々に君と喋れて嬉しかったからつい長話しすぎちゃったよ。だから僕を恨ま
ないでおくれよ?」

『何を言って……』

 球磨川の言葉は最後まで続かなかった。
 突如部屋が衝撃波のようなものに襲われる。部屋は瞬く間に破壊され、球磨川の体が消し飛ぶ。
 球磨川の部屋は見るも無残に破壊し尽くされてしまった。



 ――???

『……はぁ、忠告ってこういうことか。来た早々に話さなかったのは絶対わざとだよね。本当、意地が悪いや』

 気付けば球磨川は学校の教室らしき場所に立っていた。ここは彼が死んだ際、必ず訪れる場所である。

「いやいや、別に意地悪したわけじゃないよ。君がいつもいつも僕を無視して、すぐさま復活するからこうなったのさ」

 球磨川にそう声をかけたのはセーラー服に身を包み、黒髪となった安心院なじみだった。

『だって僕、君のことが嫌いだもの。嫌いな人とは話したくないよね、普通(ノーマル)でも過負荷(マイナス)でも』

「はっきり言うね。でも、そんなところ僕は嫌いじゃあないぜ?」

『あぁそう……。じゃあ僕は向こうに戻るから』

 そう言い残して球磨川は現世へと帰って行った。



 ――とあるマンションの一室

『うわぁ、こりゃひどいや』

 自らの部屋に戻った瞬間、球磨川はそう口にした。
 目の前に広がる光景は『無残』の一言。それに尽きる。
 そして、球磨川はインデックスと打ち止めの安否を確認するため辺りを見回すのだが……

『……』

 球磨川は二人を見つけた。
 いや、正確には『二人の一部』と言ったほうが正しいか。
 インデックスは頭部のみの状態になっていた。その頭部はまともに直視できないほどに欠損が激しい。
 そのすぐ側には打ち止めのモノと思わしき、右腕があった。やはりこれも欠損が激しくところどころから筋肉や骨が
はみ出ている。

『……二人とも、すぐに復活させてあげるよ』

 そう言った瞬間に二人の肉体の一部が消失し、インデックスと打ち止めが姿を現した。



「あ、あれ? な、何が起こったの?」

「なんかいきなりドカーン! って音がしたかと思ったら……そこから先は思い出せないってミサカはミサカは怯えてみる……」

 復活した二人は部屋の惨状を見てそれぞれ反応を示したのだが、球磨川は彼女達に

『二人とも外に出ないでね。あと奥のほうに移動してて』

 そう一言投げかけて、大きな穴の開いた壁の方へと向かっていく。
 彼は今、とある感情がふつふつと湧いてきているのを実感していた。

『あぁ油断したな……また女の子を好きになっちゃってたらしい。全く僕ってやつは本当に昔っから惚れっぽい男だ』

 そう自嘲した球磨川は大穴の開いた壁から外を見る。
 すると、確実にこの学園都市の者ではない少女がそこに立っていた。その手に持っているのはハンマーに似た武器。
 この惨状を作ったのは確実に彼女だ。球磨川は標的を見つけた。

『ふぅん。あの子がやったんだ……へぇぇぇ……』







『よくもやってくれたね』






 球磨川の口は裂けているかのように釣り上がっていた。しかし目は笑ってなどおらず、憤怒……いやそれ以上の感情を
秘めている。
 その表情はまるで悪意が顔を成しているかのようで、もし普通の人間がそれを向けられたなら、たちまち嘔吐し失神して
しまうだろう。そしてその心には永遠に消えないトラウマが残る。しかし今回はそれが逆に災いした――

『……っ!?』

 突如、球磨川の意識が暗転。体が前のめりに倒れる。
 現在球磨川が立っている場所には手すりなど存在しない。となると必然的に彼の肉体はマンションの外へと落ちることに
なる。
 そして球磨川の肉体は物理法則に従い、マンションから落下。
 ぐしゃり……と嫌な音を立てて頭部が潰れる。アスファルトには脳漿が飛び散り、瞬く間に惨状が誕生した。

「ひゃはははは! おいおい、随分と間抜けじゃないの! まさかこれで終わりじゃないわよねぇ!?」

 そんな惨状を見て少女――ヴェント――は腹を抱えて笑う。
 ヴェントがひとしきり笑い終わった後、球磨川の肉体がまるで何事もなかったかのように復活する。



「あららぁ? あんたって本当に死なないのねぇ。何か秘密でもあるのかしら?」

 ヴェントは復活した球磨川をまるで見世物小屋の珍獣を見るかのように、嘗め回すような視線を送る。
 そのような視線など気にせず、球磨川は

『僕を知ってるの?』

 と尋ねた。
 ヴェントは醜悪な笑顔を浮かべながら答える。

「えぇ、知ってるわよ? あんたの能力から血液型まで、ぜーんぶね」

 どうやら相手は自分のことを知っているらしい。
 しかし自分のことが相手に筒抜けであるというのに、球磨川の中に焦りという感情はまるでなかった。

『へぇ……じゃあ君の名前はなんていうのかな? あと、なんで僕が気絶したのか教えて欲しいんだけど』

「はぁ? 敵に情報をくれてやるわけないでしょ?」

『いいじゃない、それくらい。減るもんじゃなし。それに僕のことは一方的に知ってる癖して君は僕に何も
教えてくれないなんて、フェアじゃないと思うなぁ?』

 戦闘行為においてフェアもクソもあるものか。
 ヴェントは一瞬そう考えたのだが、どうせ知ったところでどうこうなるわけではないと考え直した。
 常に余裕を見せ、相手を見下す。彼女の悪い癖である。
 そしてヴェントは球磨川の質問に答えるため、口を開いた。



「まずは自己紹介でもしようかしら。私は前方のヴェント。あんたを地獄に叩き落しに来た神の右席。あと、あんたが気絶した
理由だっけ? それは正確に言うと気絶じゃなくて仮死状態よ。私の使用する天罰術式は私に対してほんの少しでも悪意を向け
れば、その対象を瞬時に仮死状態にする」

『……へぇ、そりゃすごいや。さっきのはその魔法の力ってことだね』

 球磨川は以前ステイルに言われたことを思い出す。
 ――君は一度天罰を受けたほうがいい。そして地獄に落ちろ。

『まさか本当に天罰を受けることになるとはね。落ちた先が地獄じゃなくてアスファルトでよかったよ』

 そう呟きながら苦笑する。
 それを見たヴェントは

「何が可笑しい?」

 少々苛立ったような口調でそう言ってきた。

『あぁ、いや別に。それよりも不思議なもんだねぇ。君のその天罰術式ってやつ、さっきから何度も虚構にしてるのに
全然虚構にできないや。まるでステイルちゃんの魔法みたい』

 天罰術式とは、彼女が舌につけている鎖と十字架の霊装、そして神の右席として持つ神の火の性質をもって発動する複雑な
術式である。
 この術式はステイルのイノケンティウス同様、その術式を発生させる元を断たない以上何度でも復活し続ける。
 しかし、球磨川はそのことを知らない。よって現在の彼では天罰術式を虚構にすることは不可能である。



「……さて、だらだらと話すのはここまでだ」

 そう言ってヴェントは手に持つハンマーを模した武器を構える。

『そうだね、今回は僕も少し真面目に戦うことにしようかな』

 球磨川もまた両手に螺子を構える。

「そんじゃ……死ねやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ヴェントのハンマーによる攻撃が球磨川を襲う。
 その攻撃は通称『空気の鈍器』。ハンマーを振ることによって風の塊を発生させ、周囲の物体を巻き込みながら対象を
打撃する。直撃すれば人間の肉体などひとたまりもない。
 しかしその攻撃を球磨川は難なくかわす。そしてヴェントとの距離を虚構にし一瞬で接近。螺子をその体に捻じ込こもうと
するが……

『……っ!?』

 天罰術式の効果が現れた。
 先ほどから球磨川は、天罰術式によって仮死状態、その瞬間それを虚構にする、これを常に繰り返している状態なのだが
どうやら攻撃するという行為を行う場合、彼の大嘘憑きの効力を天罰術式が上回ってしまうらしい。
 螺子を捻じ込もうとする体制のまま崩れ落ちる球磨川。



「ひゃはははは! ご自慢の力も通用しないみたいねぇ!」

 ヴェントは笑いながら距離をとり、ハンマーを二度振る。
 そうすることによって風の鈍器を瞬時に二つ合成。より一層威力を増した通称『空気の錐』 
 それを崩れ落ちる球磨川にぶつける。
 ただでさえ強力な空気の鈍器をはるかに上回る空気の錐が直撃した球磨川の肉体は木っ端微塵となり、形を留めた肉体の
一部が地面に飛び散る。 

「……やれやれ、本当にしぶといわね」

 しかし、ヴェントの顔に勝利の笑みなど全くなかった。
 木っ端微塵となった球磨川はすぐさま復活。何事もなかったかのように眼前に立っている。

『うーん、困ったなぁ。どうやら僕はヴェントちゃんを攻撃できないみたいだ』

 対峙するだけであれば天罰術式の効果を虚構にして立っていることはできる。しかし『攻撃』するという行為を行った場合、
虚構にした瞬間に仮死状態になってしまう。大嘘憑きの処理が追いつかないのだ。これでは攻撃ができない。
 球磨川はどうしたものかと頭を捻る。
 しかし思考を巡らせていたのは球磨川だけではなかった。

(さて、どうしたもんかしらね……)

 ヴェントもまた考えていた。目の前にいるこの少年と相対し、実際にその能力を体感して彼女は確信した。『この少年は
何をやっても殺せない』と。
 恐らく神の右席四人が束になってかかって行ったとしても殺しきるのは不可能だろう。
 このままでは任務は失敗となってしまう。だが彼女にとってそれは――




(ま、どうでもいいか)
  
 そう、どうでもいいことだった。
 そもそも最初から球磨川のことなど眼中にない。教皇から下された任務など、本来の目的に比べれば暇潰し程度の思い
しかなかった。
 
「おい、球磨川禊! あんたを殺すのはやめにしてあげるわ!」

『えっ?』

 ヴェントはそう言い放った後、ハンマーを構える。
 その視線の先にあるのは球磨川などではなく、学園都市という科学の塊。
 彼女の目的、それは――

「そんじゃ始めるとしますかねぇ!」

 ――学園都市の殲滅。
 そしてヴェントは目標を一際目に付くビルに決定し、躊躇うことなくその手に持つハンマーを振るった。




 ――ヴェントが学園都市を攻撃して10分ほどが経過。たがだか10分程度であるというのに学園都市は甚大な被害を受けて
いた。
 ヴェントと球磨川の半径数百メートルは特に被害が激しく、草一本生えていない荒地と化している。都市内では大騒ぎが
起こっていて、さながら阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

「ふぅ、思った以上にここは広いわねぇ」

 さすがに多少は疲労したのか攻撃の手を止めるヴェント。
 そんな彼女に球磨川は問いかける。

『ねぇ、ヴェントちゃん。君はなんでこんなことするの?』

「はぁ? ……別に理由なんかないわよ」

 ヴェントはほんの一瞬だけ間を空けて答えた。その間に何かを感じ取ったのか、球磨川は食い下がってくる。

『嘘だね。学園都市を破壊しているときの君は、まるで親の仇を討っているかのような顔をしていたよ。君は過去に何かあって
その結果こんなことをしてるんじゃないのかい?』

 その言葉を聞いた瞬間ヴェントは激昂する。

「知ったような口を利くなッ!」

 叫んだ後、ハンマーを振るう。空気の鈍器を3つ合成し作り出した『空気の杭』を球磨川に向けて放った。
 その空気の杭は球磨川の心臓を貫くが、球磨川はすぐさまそれを虚構にする。



「チッ!」

 それに苛立ちを覚えたのか舌打ちするヴェント。
 しかしそんな彼女の様子などお構いなしに球磨川は言葉を投げかけてくる。

『僕だって知ったような口なんか利きたくはないさ。だからこそ教えて欲しい。君がなぜ学園都市を破壊するのかをね。
もしかしたら力になれるかもしれないし』

 力になれるかもしれない――その言葉を聞いた瞬間、ヴェントの脳裏に球磨川の力の情報がよぎってくる。
 球磨川と相対した修道女曰く、球磨川本人によるとその力は全てを虚構にする力。現在確認される限りでは法の書を虚構にし、
教会を虚構にし、10万3000冊の魔道書を虚構にし、そして自分の目の前で死を虚構にした。
 ……そう、『死』を虚構にしたのである。
 彼女は球磨川の能力については何らかのトリックがあり、全てを虚構にするというのは偽りであると考えていた。その証拠に
自分の最大の武器である天罰術式は虚構にできていない。
 しかし、しかしだ。もしも『死』を虚構にできるのが事実ならば……。彼女は悪魔の囁きに耳を貸すことにした。

「いいわ、教えてあげる。……私の弟は、科学によって殺された。遊園地のアトラクションが誤作動を起こしたおかげでね。
科学的には絶対に問題ないといわれてたのよ。何重もの安全装置、全自動の速度管理プログラム……そんな頼もしい単語ばかり
並んでたのに……実際には何の役にも立たなかった! その結果私の弟は死んだのよ! 科学は私達の未来をぶち壊したんだ!」
 
 それが彼女の科学を憎む理由。
 はっきり言って逆恨み以外の何者でもない。しかし球磨川はそこには一切言及せず笑顔を浮かべながら

『よく話してくれたね! そういうことなら任せてよ! 僕が君の弟君を生き返らせてあげる!』



 その言葉を聞いたヴェントは目が大きく見開き、頬には冷や汗が伝っていた。

「ほ、本当にそんなことができるの!?」

 死んだ者は蘇らない。そんなことは小学生でも知っている事実。しかしこの少年は死んでも蘇る。何らかのトリックなどなく、
死を虚構にできるのであれば……あの時死んだ最愛の弟も蘇るかもしれない。
 しかし、ヴェントは腐っても教徒である。死んだ者が蘇ることなど未だに信じきることができなかった。
 そんな心情を悟ったのか球磨川が真剣な面持ちになり、口を開く。

『確かに普通なら無理だよね。僕が言った言葉は君にとって幻想かもしれない。でも、僕にとってはその考えこそ幻想なんだよ。
だから……』

 そこまで言うと球磨川は両手を広げながら言った。







『そんな君の幻想、僕が虚構にしてあげるよ!』






 その言葉にヴェントは気付けば涙を流していた。その涙は球磨川の言葉を信じきった証。

「頼む……私の弟を……蘇らせてくれ……」

 彼女の脳裏には弟と過ごした日々が鮮明に映し出されていた。
 あの幸福な日々が本当に再び帰ってくる……それがもし叶うのなら、こんなに嬉しいことはない。
 ――そしてその時がやってきた。
 
「あれ……? 僕は……」

 ヴェントの目の前に年端も行かない一人の少年が現れたのである。彼女はその少年のことを誰よりも知っている。彼女の前に
現れた少年、それは彼女にとって最愛の弟であった。

「~~!」

 弟の名前を叫びながらヴェントは少年を抱きしめた。いきなり抱きしめられた弟は、驚いてびくりと体を震わせる。

「も、もしかしてお姉ちゃん……?」

「そう! そうよ!」

 弟を抱きしめているヴェントの顔は涙と鼻水でグシャグシャになっていた。その顔からは先ほどまでの神の右席としての
威厳など微塵も感じさせない。今そこにいるのは前方のヴェントなどではなく、失った最愛の弟を取り戻した一人の姉だった。
 



「い、痛いよ、お姉ちゃん」

「あ、あぁごめんなさい! 強く抱きしめすぎたわ……」

 ヴェントは慌てて抱きしめていた手を離す。
 弟はヴェントの姿を見つめる。

「お姉ちゃん、なんだか雰囲気変わったね」

「え、えぇイメチェンってやつよ。……似合ってないかしら?」

「んーん。今のお姉ちゃんかっこいいと思うよ!」

 その一言にヴェントは安心感からか、笑みをこぼす。
 変わり果てた自分を見て弟はどう思うか不安だったのだ。だが、反応は悪くない。
 これでまた、弟と共に生きていける。ヴェントの心は幸福感で満ち満ちていた。頭の中にあるのは弟と何を話そうとか
最近覚えた料理を振舞ってあげようだとか、そのようなことばかり。
 しかし弟の不安げな声によって彼女は現実に引き戻される。



「ねえお姉ちゃん……ここって一体どこなの? なんでこんな風になってるの?」 

 弟にとって当然の疑問である。
 弟の記憶は病院内で自らが永遠の眠りについたという時点で止まっているのだ。
 つまり、目が覚めたのであれば病院内でなければおかしい。しかし今目の前に広がっている光景は都市そのもの。それも
ただの都市ではない。破壊され、甚大な被害を被っている都市。一体何故こんなことになったのか? 疑問に思うのが当然
である。

「そ、それは……」
 
 ヴェントは言いよどむ。
 弟が何故ここにいるのか。それは説明できる。あそこにいる球磨川という少年の力で蘇ったからだと。しかし何故このような
惨状となっているのか。これは説明などできようはずもなかった。
 なぜなら自分がやったのだから。
 あそこに転がっている半身を失った遺体も、破壊しつくされた建物も、何もかも自分がやったのだ。
 しかしそれを言うことはできない。そんなことを言ってしまえば弟はきっと自分を軽蔑するだろう。そんなこと彼女には
耐えられるはずもない。
 ヴェントは冷や汗を流しながら何かいい答えはないものかと思案する。そんな時だった――




『なんでこんなことになってるのかって? 簡単だよ弟君! これは全部君のお姉ちゃんがやったのさ!』

「ッ!?」

 つい先ほどまで姉弟による感動の再会シーンをニヤニヤしながら見守っていた球磨川が弟にそう話したのだ。
 弟は球磨川を見て尋ねる。

「お、お姉ちゃんが……?」

『そうだよ! 本当酷いよねぇ、僕も二人の友達を殺されたよ!』

 そのあとすぐに復活させたが、言っていることに間違いはない。
 事実ヴェントはインデックスと打ち止めを殺したのだから。

「だ、黙れぇッ!」

 ヴェントは球磨川を怒鳴りつける。
 なんてことを言うんだこいつは。自分が必死に上手い答えを考えているというのに。このままでは台無しではないか。
 彼女は球磨川の言葉を否定し、弟に信じないよう説得するため球磨川から弟に視線を移す。
 その先にあったのは――

「お姉ちゃん……?」

 弟の疑念に満ちた目であった。
 弟は考える。姉がそのようなことをするわけがない、と。
 しかし……自分が知っている姉と、今の姉は何か違うような気がする。何か……別人になってしまったかのような、そんな
感覚が弟の中にはあった。
 その感覚がヴェントに対する猜疑心を生み、そして――



「……っ!?」

「え……?」

 ――警戒心を生み出してしまった。
 それがいけなかった。
 ヴェントの天罰術式はほんの少しの悪意どころか、ただの警戒心にすら反応する。彼女に警戒心を抱いてしまった弟は
彼女の目の前でゆっくりと崩れ落ちていく。
 そして弟の体は地面にドサリと倒れ、その肉体はピクリとも動かなくなった。

「あ……あぁ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
~~!! ~~!! ~~!!」

 弟の体を前にヴェントが狂ったかのように弟の名前を泣き叫ぶ。
 その姿を見て球磨川は

『あはははははは! とんだハッピーエンドになっちゃったね、ヴェントちゃん! でもこれに関しては僕は悪くないよねぇ?
だって僕は悪くないんだから!』

 そう言って心底愉快そうに大声で笑う。
 しかし、そんな球磨川の声など最早ヴェントには届いていない。彼女の心は修復不可能なほどにへし折れてしまった。
 その場には少女の壊れたかのような悲鳴と、少年の狂ったかのような笑い声がいつまでも続いたという――







 ――その後、弟は球磨川の大嘘憑きによって意識を取り戻し、ヴェントは弟と共に学園都市を去って行った。その背中は自身
を最終兵器と称した傲慢な『神の右席』ではなく、弟に対しての罪悪感で自身の中の全てが破壊された『哀れな少女』の背中で
あった。自らの最大の武器で最愛の弟をその手にかけた彼女は一生その罪悪感に苛まれる事になるだろう。
 そしてローマ正教へ帰った彼女は神の右席を抜け、何処かへと消え去った。その後、某所にて少女が弟を殺害し自殺したという
事件が起きたが、それが彼女とその弟なのかは定かではない――







 ――とあるマンションの一室

 ヴェント襲来から1週間が経過。
 あの後、球磨川は大嘘憑きによって都市が破壊されたことを虚構にし、死んだ者は死んだことを虚構にした。
 それによってヴェントが襲来した際の爪あとは完全に消えてなくなり、学園都市にはすっかり平穏が戻っていた。
 そして本日は球磨川の部屋で焼肉が行われる日である。
 結局球磨川はインデックスの熱意に折れて焼肉をすることになったのだ。インデックス達に対する恋心がそれを手伝ったと
考ることもできるが、球磨川本人はそれを否定する。
  
「肉が焼けたんだよ!」

 インデックスの嬉しそうな声が部屋に響き渡る。
 しかしそんなインデックスをたしなめる者がいた。

「肉ばかり食べちゃダメだよ、インデックスちゃん。野菜もしっかり食べないと」

「うー、わかったんだよ……」

「うんうん、わかればよろしい。あ、打ち止めちゃんそこの肉もう焼けてるよ。ほら」

「ありがとう! ってミサカはミサカは感謝を伝えてみたり!」

「どういたしまして」

 そう言って『来訪者』は微笑む。
 そんな『来訪者』を球磨川はげんなりした顔で見ていた。

「おや、球磨川君。ちっとも箸が進んでないじゃないか。体調でも悪いのかい?」

『安心院さん……君、なんでちゃっかり馴染んでんのさ……』

 『来訪者』とは安心院なじみであった。
 球磨川達が焼肉を始めた瞬間、彼女は彼等の前に姿を現しそのまま食卓に参加。今ではすっかり部屋の一員のような
状態となっている。

「別にいいじゃないか。食事は大勢で食べたほうが美味しいだろう?」

 球磨川の心情など全くお構い無しに安心院はマイペースを貫く。
 そんな彼女の態度に球磨川は珍しく頭を抱えながらため息を吐いた――


これにて投下終了です
続きに関しては今のところ未定です
ではでは、ありがとうございました!


心中したのかかわいそうにw

>>366
ヴェントの結末に関しては文字通り定かではありません
罪悪感に耐えながら表面上幸福に暮らしているのか、罪悪感に耐え切れなくなって心中したのかは
読んだ方の想像におまかせするということで……

予定通り9時から開始します
恐らく原作の設定と違う描写等あると思いますが……そこは目を瞑ってください
では

これから投下します


 ――イギリス

 約十二時間ほど空の旅を楽しんだ後、球磨川一行はイギリスへと到着。
 ホテルへのチェックインを済ませた後、街へと繰り出していた。

「わー! イギリスって綺麗なところだね! ってミサカはミサカは初めてきた土地に興奮してみたり!」

「イギリスはいいところなんだよ!」

 故郷を褒められて嬉しかったのか、インデックスは誇らしげに胸を張った。

「二人ともはしゃぎすぎて転ばないようにしてくださいましよ」

 黒子が二人をなだめるように注意した。

「それにしても……」

 視線を打ち止めに集中させる。それと同時に、口から涎がダラダラと流れ始めた。


「本当にお姉さまそっくりですのね……。しかも幼女! お姉さまそっくりの顔でしかも幼女! もう黒子辛抱堪りませ
 んの!」

 黒子はまるで犯罪者の如く鼻息を荒くする。そんな彼女を美琴は流し目で見ながら

「襲い掛かったりしたら容赦なく電撃浴びせるからね」

 と、呆れた様子で警告した。そして彼女は球磨川の方に視線を移す。彼もまた、初めて来た土地に興奮しているらしく
首を右に向けたり左に向けたりと楽しそうであった。

「はぁ、こっちの気も知らないで……」

 せっかくの旅行だというのに彼女のテンションは全く上がらなかった。それにはもちろん理由がある。
 それは待ち合わせ場所である空港でのこと。球磨川達は待ち合わせ時間を十分ほど遅刻してきた。ギリギリまで準備して
いたことが理由らしい。しかし美琴にとってそれは些細なことだった。問題なのは球磨川がつれてきた少女二人のうちの
一人、打ち止めである。美琴は打ち止めのことなど全く知らなかった。
 出会いがしらに打ち止めが 

「はじめまして美琴お姉さま! ってミサカはミサカはお姉さまに会えたことを喜んでみたり!」

 と挨拶してきたため、打ち止めが妹達の一人であることは予想できる。しかし、他の妹達とは全く姿形が違う。一体この
少女は何者なのかと球磨川に問いただそうとしたのだが、

『まぁそれはおいおい話すよ。あ! もう飛行機が出るみたいだよ!』

 と、うやむやにされてしまった。

「絶対に説明してもらうわよ……」

 美琴は不満げにそう呟いた――



 ――???

 なぜこんなことになった。

『随分と困惑してるね まるでどこぞの珍妙な頭をしたフランス人みたいでとても面白いよ』

 学園都市最強の第一位たる自分がこんな無能力者ごときに……

『さて、一方通行ちゃん。期待っていうのは大きければ大きいほど裏切られたときつらいんだよ。僕の心はもうぼろぼろさ』

 攻撃しなければやられる。しかし恐怖で体が動かない。こんな三下に恐怖している、その事実がまた腹正しい。

『だから君の全てを消し去って、僕はここから去ることにするよ』

 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざ……
 



 ――学園都市某研究所

「おぉ、意識が戻ったぞ!」

「まさか、このような実験が成功するとは……!」

 研究所内はその場にいる研究員達の声によって騒然としている。
 彼等の視線の先には目を瞑っている白髪の少年がいた。
 そして少年の目がゆっくりと開かれ、その特徴的な赤い瞳が見えてくる。

「く……ま……がわァ……」

 そう呟いた少年の目に宿りしものは――

「アァァァァァァァアアア!!!!」

 混じりっ気なしの純粋な殺意だった。
 奇跡的な復活を遂げた一方通行だったが、その心は完全には蘇らなかった。今、彼の心の中にあるものは球磨川に対する
憎しみ、殺意、そして破壊衝動のみである。
 凄まじい咆哮の後、一方通行の背後からまるで天使の翼のようなものが展開。彼はその場にいる者達を瞬く間にこの世から
消し去り、施設を跡形もなく破壊するとその場から飛び去っていった。


 ――学園都市某所
 
 今日も学園都市は平和だった。
 ある者は誰かと待ち合わせをしているのか、一所に留まり続けている。ある者は会社に遅刻でもしそうなのか必死に走って
いる。
 そう、そこにいる者達にとって、この日はいつも通りの平和的日常だったのだ。
 ――天使のような姿をした悪魔が現れるまでは。

「ん? ありゃなんだ?」

 最初に『ソレ』の存在に気付いたのはスーツ姿の男だった。
 彼はこの時、営業の外回りで取引先に向かっているところだった。
 今日もまた取引先で嫌味を言われるのだろうか。そんな鬱屈とした気分でトボトボと歩いている最中、空から何か叫び声の
ようなものが聞こえてきた。
 まさか空から人でも落ちてきたのかと思い、空を見上げたその瞬間……




「えっ?」

 それが彼の最後の言葉。
 その時を目撃した者達は当初何が起きたのか理解できなかった。光り輝く翼のような物体が彼を襲ったかと思えば、次の
瞬間には確かにそこにいた彼が塵一つ残らず消え去っている。 
 突然の事態に疑問符が頭の中で飛び交う。そして次第に考えが纏まって行き、答えにたどり着く。
 ――彼の人生は自分達の目の前にいる『ソレ』によって強制的に終了させられたのだ。

「くゥゥゥまァァァがァァァわァァァ!」

 そして突如として現れた『ソレ』は激しい憎悪が込められた咆哮の後、目に付いたもの全てを破壊し始めた。その理由が
なんなのかは誰にもわからない。わかっていることはその場にいる者達全てにとって『ソレ』は恐怖すべき存在であること
だけである。

「バ、バケモノだぁぁぁぁぁ!!」

「う、うわああああああああああああ!!」

 人々が悲鳴を上げて逃げ惑う。『ソレ』はそんな人々を無慈悲に虐殺する。
 つい先ほどまで平和そのものだった学園都市はいまや地獄絵図と化していた。



 ――窓の無いビル

「まさかあの実験が成功するとは……」

 学園都市統括理事長アレイスター・クロウリーは楽しげに呟いた。
 そして眼前にいる者に向けて語りかける。

「今回の賭けは私の負けのようだな」

 彼の双眸の先にいる巫女服姿の少女は、いつも通りの微笑を浮かべながら

「だから言っただろう? 僕の力を使えば人を天使にするくらい造作もないってさ」

 と嘯いた。

「まぁそれはさておき、一方通行君をどうするつもりだい? 僕がリミッターをかけてるとはいえ、放っておくとものの
数時間もたたないうちに学園都市が崩壊するぜ?」

 そう言われたアレイスターはどこか残念そうな表情を浮かべて答える。



「個人的にはもう少し静観したいんだがな。立場上対処せねばなるまい」

「へぇ、どう対処するつもりだい? 僕としては君が直接出張ると面白いんだけど」

「私自らが出るほどのものでもないだろう。そうだな……今回は『現』第一位のお手並みを拝見させてもらおうか。サポート
は……『現』第三位あたりにしよう」

「第一位……あぁ、あのようやく一位になれたのに未だスペアプラン扱いされてる彼のことか。どうにかなると思うかい?」

 その質問に対しアレイスターは意地の悪そうな笑みを浮かべながら答えた。

「賭けてみるか?」

 それに対し少女もまた、彼と同様に意地の悪そうな笑みを浮かべながら返す。

「賭けになるならね」

 どうやら互いに結果は見えていると考えているらしい。それを察した両者は愉快そうに笑い声を上げる。
 アレイスター・クロウリーとその傍らにいる少女――安心院なじみ――は、この緊急事態を面白そうに『観察』するので
あった――



「アァァァァァァァァァァァァア!」

 学園都市に突如として降臨した一方通行は未だ尚、破壊を続けている。
 そしてその攻撃が停止した瞬間だった。

「グゥッ!?」

 まるでレーザーのような輝く光線が彼の背後から襲ってきたのだ。
 不意打ちの形であったため避けられるはずもなく、その光線は一方通行に直撃。彼に確かなダメージを与えた。
 その攻撃によって、一方通行の鬼のような形相がさらに険しくなる。そして後ろを振り向くと、そこにはホストのような
男と、いかにもお嬢様といった外見をした女が立っていた。

「おいおい、直撃したのにあの程度のダメージかよ。お前手ぇ抜いてんじゃねぇぞ?」

 ホスト風の男が女に向けて不愉快そうにそう言った。
 彼の名は垣根帝督。『現学園都市の第一位』であり、『現学園都市最強の超能力者』である。
 球磨川と交戦後、一方通行は消息不明とされた。その後レベル5内の順位が繰り上げられ、垣根提督は念願であった第一位
となったのだ。


「手なんか抜いてないわよ!」

 そう反論した女の名は麦野沈利。「原子崩し(メルトダウナー)」の二つ名を持つ学園都市の『現第三位』。
 彼女の能力は電子を操作し白く輝く光線として放出するというものである。粒機波形高速砲と呼ばれるそれは絶大な威力を
持ち、いままであらゆる物、そしてあらゆる者を破壊してきた。
 しかし――

「なんだってのよ、あれは……」

 眼前にいる標的にはダメージを与えた程度。
 彼女の目論見では最初に見舞った一撃で決着がつくはずだったのだ。
 しかしそうはならなかった。放出すれば全てを破壊し、抹殺してきた彼女の力は一方通行を死に至らしめることはなく、
与えたダメージもすでに回復している。
 そんな化物のような存在に彼女は戦慄せざるを得なかった。

「おい、ビビってんじゃねぇぞ。ダメージは与えられたんだ。殺れないってわけじゃねぇ」

 彼女の心情を察したのか、垣根は呆れた口調で叱咤する。
 一方通行の驚異的な力を目の当たりにしたというのに、垣根の表情からは恐れなど微塵もなかった。

「ウゥゥゥゥゥ……」

 二人を見据える一方通行が力を溜めるが如く体を屈ませた。翼の輝きがより一層強くなる。
 そんな眼前の敵を前にして垣根は笑う。

「おーおー、怖い顔しやがって。……来やがれ、『元』一位」

 そう吐き捨てると垣根は戦闘態勢に入った。

「はぁ、生きて帰れるかしら……」

 弱気な言葉とは裏腹に、麦野沈利の表情からは強い覚悟が感じられる。
 両者共に戦いに臨む準備は万端という感じであった。  
 その場を沈黙が支配する。そして数瞬の間を置いた後、戦いの火蓋は切って落とされた――




 ――結論から言おう。
 垣根帝督、麦野沈利の両名は、文字通り手も足も出ずに敗北した。
 まず最初にやられたのは麦野だった。
 一方通行の絶え間ない攻撃を最初のうちは光線で迎撃することによって対処していたのだが、攻撃の手は止むどころか激しさ
を増す一方。そのような状況で迎撃を続けることなど出来よう筈もなく、とうとう彼女は翼に捉えられてしまった。
 翼を受けたその肉体は原形をとどめているものの、左腕は肩から消し去られ、頭部の右側がまるで抉り取られたかのよう
に無くなっている。
 そして麦野がやられたことにより、垣根の運命も完全に決定付けられてしまった。
 一方通行の攻撃は麦野だけが受けていたのではない。垣根もまたその攻撃を防いでいたのだ。
 つまり、二人がかりでようやく攻撃を防げていたということになる。だが前述したように麦野は迎撃しきれなくなりやられて
しまった。そうなれば当然、全ての攻撃が垣根に向かうこととなる。
 二人でも対処しきれなくなった攻撃を一人でどうにかできるわけが無い。垣根の肉体は無数の翼を受け、跡形も無く消滅して
しまった。
 垣根帝督と麦野沈利が攻撃できたのは最初の不意打ちのみ。それ以降、ただの一度も攻撃できぬまま二人は一方的に『虐殺』
された。



「アァァァァァァアアアア!!」

 一方通行の咆哮がその場に響き渡る。それはまるで勝利の雄叫びのようだった。
 その後、一方通行は再度学園都市を破壊せんと翼を輝かせる。そして翼が放たれようとしたその瞬間――

「はい、ストップ」

 突如、目の前に巫女服姿の少女が現れた。
 一方通行がその少女を確認した瞬間、翼の輝きがなりを潜める。それに満足したのか少女はニッコリと笑いながら

「球磨川君ならイギリスにいるよ」

 と話した。
 それを聞いた一方通行の顔が憤怒で歪み、

「くゥゥゥまァァァがァァァわァァァ!!」

 地響きを起こすほどの叫び声を上げながら一方通行は飛び去っていった。 

「……さて彼を倒したときに得られる経験値はいかほどかな」

 一方通行を微笑みと共に見送った彼女は、まるで計画通りという顔をしながらそう呟いた――



 ――イギリス某所

「ねぇ、もうそろそろご飯が食べたいんだよ!」

 インデックスが腹の虫を盛大に鳴らせながら言った。
 恥じらいなど皆無である。

『そうだね、時間的にもご飯時だし何か食べに行こうか』

 球磨川はインデックスの提案を快諾したが、他の三人は不安げな顔を浮かべていた。

「そ、それはいいんだけど……」

「イギリスといいますと……」

「ご飯が絶望的に不味い事で有名なんだよねってミサカはミサカは不安になってみたり……」

 三人の失礼な物言いに、インデックスが憤慨しながら反論する。

「むー! イギリスにだって美味しい食べ物はたくさんあるんだよ!」

 ぷんすかという擬音が聞こえてくるような怒り様である。
 そんな彼女に対し球磨川と打ち止めが、この子はきっと食べることのできる物なら何でも美味しいというんだろうなぁ、と
感じたことは言うまでもない。
 球磨川達の旅行はここまでは平和的であった。
 ――そう、ここまでは。


「球磨川ァァァァァァァァァァァアアアアアア!!」

 どこからか凄まじい絶叫が聞こえてくる。

『えっ?』

 自らの名を呼ばれて思わず反応する球磨川。どこから聞こえてきたのかと探してみるのだが周りにはどこにもそれらしき
人物はいない。
 気のせいだったかと思った瞬間、球磨川の肉体がまるでこの世に最初からいなかったが如く消え失せ、彼の……否、『彼等』
の意識はこの世から完全に消滅した。
 しかし、球磨川禊は死んでも死なない男である。彼の肉体が消え去った後、自動的に大嘘憑きが発動。球磨川禊はまるで何事
もなかったかのように復活した。

『やれやれ、僕はコナン君じゃないんだ。旅行中ぐらい平和でいさせて欲しいよ』

 そうぼやいた後、周りを見回してみると、自分が立っている場所を中心に半径数十メートルがクレーターになっていた。
 それを見れば嫌でも理解できる。
 自分が凄まじい攻撃を受けたこと、そして……その場にいた自分以外の四人もまた死んでしまったことを。
 球磨川の顔から表情が完全に消え去る。

『……』

 彼は無言のまま死んでしまった四人を復活させた。
 球磨川の前に無傷の四人が姿を現す。 




「な、何が起きたの!?」
  
 復活した美琴がその場の状況を見て叫んだ。

「なにか眩しい光に包まれたような気がしましたが……」

 自分達の身に何が起きたのか理解できていないのか、黒子が不安げに呟く。
 そんな二人とは正反対に、

「シスターとしては死んで蘇るって経験をするのはなんだか複雑かも……」

「人生で二回も死ぬって中々経験できないよね……ってミサカはミサカはため息をついてみたり」

 以前一度経験したからかインデックスと打ち止めは全く動揺していなかった。



『そんなことより君達、あれをご覧よ』

 と言って空に向かって指を指す球磨川。彼が指し示した場所に浮かんでいるモノは――

「ア、一方通行!?」

 それを見た瞬間、美琴が驚愕の声を上げた。

「一方通行……確か失踪した学園都市の元第一位がそのような名前でしたわね。しかし何故そんな方がここに……」

『……とりえあえず今言えることは一つ。ここは僕に任せて、早く逃げるんだ。大嘘憑きで何度だって復活させられるけど
君達が何度も死ぬ姿は見たくないからね』

 と四人に向かって言う球磨川。その表情は普段、決して見せない真剣な面持ちだった。


「そうね。黒子、あんたは二人を連れて安全な場所まで飛びなさい。あいつは『私達』がなんとかするわ」

『……美琴ちゃん?』

 美琴ははっきりと『私達』と言った。それはつまり自分も残るという意思表示である。そんなことをすれば危険な目に
あうことは明白。球磨川としては賛成しかねることだ。そしてそれは黒子も同じだった。

「お姉さま! あんなのと戦っては命がいくつあっても足りませんの! わたくし達と来てくださいまし!」

 必死の思いで美琴を説得しようとする黒子。しかし美琴の決意は固かった。

「私はあいつに借りがあるのよ。それを返さないと収まりがつかないわ。それに……」

 そこまで言うと黒子から球磨川に視線を移す。

「あんたを一人残していくのは気分が悪いもの」

 そう言ってわずかに微笑んだ。

『……美琴ちゃんって男の子だったらモテモテだろうね』

 球磨川もまた、そう言って笑う。
 そんな二人のやり取りを見て折れたのか黒子は

「わかりましたの……」

 俯きながら呟き、インデックスと打ち止めの肩に触れる。

「お姉さま……御武運を!」

 そう言い残して黒子は何処かへと飛んだ。



 その瞬間、美琴は球磨川から離れた場所へと移動する。
 先ほどから一方通行は球磨川の事しか見ていない。奴の目的は確実に球磨川。ならば自分は彼から離れた位置に陣取り、彼等
の戦いを見つつ隙をうかがう、彼女はそう判断した。

「私を眼中にいれなかったこと……後悔させてやるわ……!」

 美琴はコインを構えながら、静かに闘志を燃やす。
 一方、球磨川はというと、

『一度やられた後にパワーアップして復活だなんて、ジャンプの悪役過ぎるぜ。一方通行ちゃん』

 やはり、いつものように緊張感がなかった。しかしその目は一切笑っていない。

「球磨川ァァァァア……」

 一方通行の顔が憤怒で歪んでいく。いつ襲い掛かってくるかわからないという感じだ。

『おいおい、そんな怖い顔するなよ。僕が何をしたって言うんだい? それにしてもその翼、中二チックでかっこいいね!
羨ましいなぁ。とりあえずその翼を虚構に……』

 そこまで言った瞬間、彼は言い知れぬ違和感を感じた。
 何かがおかしい。しかしそれが一体なんなのかがわからない。
 ――そんな違和感に気を向けていたのが悪かった。

『あ……』

 宙に浮いていた一方通行が突如球磨川の目の前に出現。そして彼は凶暴な笑顔を浮かべながら、その拳を球磨川に向けて
全力で振るった。
 天使と化した一方通行は以前のようなベクトル操作は行えない。しかしその拳はベクトル操作によって強化されたそれ
よりもはるかに強力な威力を持っていた。
 そんな一撃が直撃した球磨川の肉体は、超高速で地面に激突したトマトの如く爆散。一方通行の体が血飛沫に染まった――



 ――???
 
 気付けば球磨川はまるで学校の一室のような場所に立っていた。
 ここは死んだ際に訪れる場所。となると自分はまた死んだのだろう。それは別におかしなことではない。あの状況では死ん
でも当然だ。しかし……

「やぁ球磨川君」

 とある人物が話しかけてきたことにより、球磨川の思考が一時中断する。
 嫌そうな目で声の主を一瞥すると、そこにはセーラー服姿の少女――安心院なじみ――が立っていた。
 これもまたいつも通りの状況である。いつもなら一言二言会話するのだが、今はそのようなことをしている暇はない。
球磨川は彼女の存在を無視し、思考を続けることにした。
 
「天使の力を大嘘憑きで虚構にすることは不可能だよ」

 その言葉にピクリと反応する球磨川。それはまさに現在彼が考えていたことの答えであった。
 あの瞬間、自分は確かに一方通行の翼を虚構にしたのだ。なのにもかかわらず彼の翼は虚構にならず存在し続けたまま。これ
は明らかにおかしい。
 過去にも完全に虚構にしきれなかったものは複数ある。ステイルのイノケンティウス、そしてヴェントの天罰術式がそうだ。
しかしこれらはその魔術の仕組みによって虚構にしきれなかっただけであり、完全に通用しなかったというわけではない。
 だが安心院が言った、天使の力は虚構には出来ない、これが事実であるなら先ほどの現象にも納得がいく。




「おや? 疑問が解けたというのに、まだしかめっ面だね」

 安心院がニヤニヤしながら言ってくる。
 球磨川が苦い顔のままなのは当然である。なぜなら彼にとって安心院の答えは、想定した中で最悪のものだったからだ。
 現在の一方通行に大嘘憑きは一切通じない。それはつまり決着がつかないということに他ならない。
 一方通行に殺されたとしても球磨川は何度でも蘇ることができる。しかし攻撃の術がない球磨川は一方通行を無力化する
ことが出来ない。これでは一方通行に殺される、大嘘憑きで蘇るを延々と繰り返すことになってしまう。
 それでは決着が着かないではないか。それは困る。なぜなら自分は……
 
「ねぇ球磨川君、君はなんでそんなに考え込んでるんだい?」

 まるで球磨川の心を読んでいるかのようなタイミングで安心院が質問してくる。
 その問いかけに少しばかり躊躇うかのような表情を見せたが、意を決したのか球磨川は重々しく口を開いた。

『……勝ちたいからだよ』

 その答えを聞いた安心院が口端を吊り上げる。

「へぇ、そりゃまたなんで? 君は最低の過負荷(マイナス)で負けることは当然のことであり、負けることが喜びなんじゃ
ないのかい?」




 そう言われた球磨川は少し考えた後、安心院に背を向けて

『そうだね……うん、そうだった! 負けても当然だよね! だって僕は過負荷(マイナス)なんだもの! じゃあまた負け
てくるよ!』

 いつも通りの明るい声音でそう言うと、彼は元の世界に戻ろうとする。
 そんな球磨川を安心院は厳しい口調で引き止めた。

「待てよ」

 球磨川の背中がピクリと震える。
 
「いつまで格好つけてるつもりだい? 括弧つけずに、格好つけずに本音を言ってみなよ。答え次第では協力してあげなくも
ないぜ?」

 それを聞いた球磨川は振り返り、そして安心院をまっすぐに見据えながら叫んだ。





「あいつに勝ちたいッ!!」



「僕が負けるだけならいい。それによって僕が不幸になるのも構わない。けれど今回は違う! 僕が負けたら美琴ちゃんが……
いや、僕の周りにいる皆が不幸になる! そんなのは嫌だ! 一方通行ちゃんに勝てれば後の人生全てが負けでも構わない! 
だから今回だけは……今回だけは絶対に勝ちたいんだ!」

 これほど感情を誰かにぶつけたのは球磨川にとって初であった。
 彼の本音を聞いた安心院は少し驚いたような顔をした後、

「君にしてはとてもわかりやすくてシンプルな答えだね。それにしてもまさか君が誰かのために勝ちたいとは……やっぱり
こっちの君は完全に負完全ではなくなってるようだ」

 と言って意地の悪そうな微笑を浮かべる。
 
「さて、それじゃ君に協力してあげようかな」

「一体何をしてく……」

 そこまで言った瞬間、球磨川の目の前に安心院の顔が迫り、そして――

「っ!?」

 球磨川の目が大きく見開く。明らかに驚愕しているが、それも当然だろう。いきなり安心院がキスしてきたのだから。
 数秒の間が空き、安心院が球磨川の唇から自分の唇を離した。その瞬間頬を赤らめながら自分の口を袖で拭う。




「おいおい、酷いぜ球磨川君。僕のファーストキスだったのにさ。ま、冗談はさておき……僕の一京分の一のスキル、
口写し(リップサービス)で君に『アレ』を返してあげたよ。『アレ』なら多分何とかなるんじゃないかな?」

「……確かに戻ってる」

 球磨川は自らの力……否、欠点が戻ってきたことを実感する。そう彼の始まりの過負荷却本作り(ブックメーカー)が
彼の元に返ってきたのだ。

「ただしそれを返すのも、タダで協力するのも今回限りだよ。もし次があったならそれなりの対価を貰うからね」

「……わかった」

 球磨川は考える。却本作りなら一方通行をどうにかできるかもしれない、と。
 却本作りは一京を超えるスキルを持つあの安心院すらも完全に封印しきった過負荷である。これならば天使の力も封印
できる可能性は高い。だが不安もある。却本作りとは相手の心をへし折り、自分と同じマイナスにする過負荷。しかし一方通行
の心は壊ている状態といってもいい。そんな相手にこの過負荷が通用するかどうか……
 しかし考えていても始まらない。もしも通用しなければ……その時はその時に考えよう。球磨川はそう思い、考えること
をやめた。


「じゃあ行ってくるよ」

 球磨川は再度安心院に背を向け、元の世界へ戻ろうとする。その背中には迷いなど一切なく、確かな決意と覚悟を感じ
させた。
 安心院はそんな彼を微笑みと共に送り出す。

「がんばれ」

「がんばる」

 そう一言返すと、球磨川の姿がその場から消失。そして、その場には安心院なじみのみが残る。

「ふふふ……」

 一人きりとなった彼女は口端を吊り上げ、不気味な笑みを浮かべた。

「やはり、こちらの球磨川君はあっちよりもはるかに幸せになっているようだ。めだかちゃんと戦って改心したわけでもない
のに、あんなことを言うとはね」

 球磨川の本音は安心院ですら予想外のものだった。
 球磨川禊という男は元来、自分の周りの者を全て自分と同じ不幸(マイナス)にしようとしてきた男。もし、自分が
気に入った者であれば尚更不幸にしたくなる。そういう考えをする男だった。
 なのにもかかわらず、今回彼が出した答えはそれとは全く逆のもの。そう、まるで普通の極々まともな『主人公』の
ような……。

「こちら側では『計画』のベースに彼を選ぶことになりそうだ。彼の主人公度の高さならあるいは……」

 そう呟いた後、彼女の肉体もまた忽然と姿を消した――



 ――イギリス某所

 一方通行がおおよそ人とは思えないような笑みを浮かべて佇んでいる。
 その体は球磨川の血に塗られ、真っ赤に染まっていた。
 その光景を見ている美琴の頬に冷や汗が伝う。その顔には明らかな焦りが見られた。

「遅い……」

 彼女が焦る理由、それは球磨川の復活があまりにも遅いことである。
 美琴は球磨川との初対決の際、彼を殺してしまったことがある。その時は死んでから数秒程度で復活していた。
 だが現在、球磨川が一方通行に殺されてから少なくとも三十秒は経過している。
 これはまさか……。
 彼女の脳裏に最悪の事態がよぎったその時だった。

『勝ち誇るのはまだ早いよ!』

 一方通行の目の前にまるで最初からそこにいたかの如く、球磨川禊が出現。
 そして、その手に持つ異様な形をした螺子を一方通行の心臓へとねじ込もうとする。

「~~~ッ!」

 言葉にならぬ奇声を発しながら、一方通行は空へと飛ぶ。 
 今の一方通行の肉体は人のそれとは全く違う。球磨川の螺子では掠り傷一つ負わせることも敵わない。
 しかしそれは『普通の螺子』であったのならの話。
 今球磨川が手に持つそれは普通の螺子とは全く異なるものだった。その異様さ、そして危険さを一方通行は本能で感じ
取ったのである。



「く、球磨川!」

 球磨川の復活に安堵した美琴は思わず叫んでしまう。
 その声に反応した球磨川がちらりと彼女を一瞥する。その視線を受けた美琴の体がビクッと震えた。
 ついさっきまでの球磨川とは明らかに雰囲気が違う。
 まるで、別人となったかのような違和感。ただ一瞥されただけだというのに心がざわつき体が震える。
 美琴が感じたそれは決して気のせいなどではない。今の球磨川は却本作りと大嘘憑き両方を所有している、いわば全盛
期(さいじゃく)だった頃と同じ。彼が放つマイナスのオーラも全盛期と同じになっていた。例え彼のことをよく知る美琴で
も、今の球磨川に畏れを抱くの当然のことである。
 しかし、空に浮かび彼を見下ろす一方通行は球磨川のことなど微塵も畏れてはいなかった。

「アァァァァァァァァァァァアアアアアア!!」

 耳を劈くような咆哮がその場に響き渡る。
 それと同時に一方通行の翼の発光が強まっていく。
 そして、まるで攻撃の合図のような一際強い光を放った瞬間――

「させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 美琴は絶叫すると共に、構えていたコインを弾く。
 弾かれたコインはローレンツ力によって加速され、強力な電撃を帯びながら一方通行に向かって放たれる。
 それはまさしく、彼女の二つ名の由来であり御坂美琴必勝の策、『超電磁砲』であった。
 射出された超電磁砲は音速の三倍という凄まじい速度で標的へと飛んで行き、見事その肉体を捉えた。

「グゥッ!」

 超電磁砲が直撃し、一方通行の肉体がよろめく。
 明らかにダメージを負っている。しかし致命傷には至っていない。
 


「嘘でしょ……」

 信じられないといった様子で呟く美琴。
 さっきの一撃は自分にとって、これ以上ないほどの全力の一撃だった。それをまともに受けたというのに、一方通行の肉体
は少しばかり傷がついた程度。その傷も、よく見れば徐々に塞がりつつある。
 そのデタラメな肉体に唖然とする他なかった。

『美琴ちゃん! 逃げるよ!』

 放心状態になっている美琴の手を握り、球磨川が駆け出す。
 そして大きな建物の裏へと隠れるように逃げ込むと、真剣な面持ちで話しかけた。

『美琴ちゃん、お願いがあるんだけど』

「っ!? な、なに?」

 話しかけられたことによって、球磨川に一瞥されたとき以上に心がざわつくのを感じる美琴。
 球磨川はそんな美琴の内心など気にもかけず、話を続ける。

『今の僕なら一方通行ちゃんをどうにかできるかもしれない。でも僕では今の一方通行ちゃんの隙をつくのは不可能。だから
美琴ちゃんに手伝って欲しい』

 その提案に対し、美琴は心を落ち着かせながら答えた。

「……この状況じゃ選択肢なんかないわね。わかったわ。それで、私はなにをすればいいの?」



『一方通行ちゃんは全力で攻撃する時、ほんの少しだけ隙ができるんだ。僕が挑発して攻撃を誘発させるから、その隙を
ついて君のレールガンを一方通行ちゃんに向けて撃って欲しい。そしたら僕でも付け入る事ができるくらい大きな隙が生
まれると思う。その瞬間に……これを叩き込む』

 言い終わった後、その手に持つ螺子を見せる。その手に握られている螺子は今までのものとは形状、長さともに異なり螺子
と言うよりはまるで杭のような代物だった。
 その螺子に言い知れない禍々しさを感じる美琴。
 そして球磨川は策を説明した後、

『それじゃ、行くよ!』

 と建物から飛び出し、辺りを見回していた一方通行に向かって『一方通行ちゃん!』と呼びかける。
 その声を聞いた瞬間、一方通行はまるで餌に飛びつく猛獣のような速度で刺すような視線を向けてきた。
 球磨川はそんな彼を指差し、人を馬鹿にしたような笑顔を浮かべて言った。







『お前ってなんだか――主人公の引き立て役みたいな顔してるよな(笑)』







 その場を静寂が支配する。
 しかし、どこからともなくブチリという何かが切れる音がした後、

「くゥゥゥまァァァがァァァわァァァァ!!」

 一方通行の凄まじい怒声がその場に響き渡る。
 この時点で一方通行の頭の中から破壊衝動が消滅した。今、彼の頭には『球磨川を殺す』という目的しか残ってはいない。
 
「アァァァァァァァァァァア!!!」

 絶叫と共に、背後の翼がどんどん大きくなっていく。
 約三倍ほどの大きさまで巨大化した後、先ほどの攻撃時と同様翼が眩い光を帯び始め、数秒程経った後、まるでチャージ完了
といった感じに一際強い光を発する。
 そして攻撃に移ろうとする刹那――
 
「行っけえええええええええええ!!」

 その瞬間を狙っていた美琴の手から超電磁砲が放たれる。
 球磨川の言った通り、一方通行は攻撃時の瞬間、完全に隙だらけだった。そんな状態で超電磁砲をかわす事などできようはず
もなく、一方通行はものの見事に超電磁法を食らってしまった。
 それによって、当然攻撃は中断され大きな隙が生まれる。
 球磨川はその隙を見逃さなかった。



『ナイス、美琴ちゃん!』

 美琴を賞賛すると共に、その手に持つ却本作りを一方通行めがけて全力で投擲。
 一方通行はというと超電磁砲のダメージによって、身動きが取れない状況にあった。
 あと二秒ほど時間が経てば動けるようになるだろう。しかしその二秒は球磨川が投げた却本作りが彼の体を貫くのに
十分すぎるほどの時間であった。
 果たして却本作りは見事、一方通行の胸を貫く。それと同時に背後の翼が消滅。空を飛ぶ力を失った一方通行は、呻き声と
 共に地面へと落下した。
 
 球磨川は考える。
 ここまでは計画通り。重要なのはここからだ、と。
 もし一方通行に却本作りが通用しない場合、最早手の打ちようがない。
 これで決着となってくれ――。
 球磨川の頬に冷や汗が伝う。
 
 落下した一方通行はというと、苦しみもがきながら却本作りを引き抜こうとしていた。しかしその体に突き刺さったそれは、
まるで肉体の一部かのように固定され、びくともしない。
 次第に一方通行は抵抗することをやめ、そして――

「なンかもう、どうでもいいやァ……」

 一方通行は無気力な顔をしてそう呟いた。
 その声音からは先ほどまでの狂気や怒気は一切感じされない。
 今の一方通行は『元学園都市最強』でもなければ『天使』でもない。今この場にいるのは一方通行という名のマイナス
だった。



 一方通行からは敵意も殺意も伝わってこない。それを感じ取った球磨川は安堵して息をつく。そして

『僕は……勝てたのかな?』

 自信なさげにポツリと呟いた。
 その言葉を聞いた美琴は笑顔を浮かべながら

「何言ってんのよ! どう見たって完全勝利じゃない!」

 と言って、球磨川の背中を軽く叩く。
 それを聞いた球磨川は

『そっか、僕は勝ったのか……』

 そう呟くと、球磨川は笑顔を浮かべる。
 その笑顔は彼にとって生まれて初めての笑顔だった――


 ――とあるマンションの一室

『もうしばらく旅行は行きたくないなぁ……』

 球磨川はため息混じりに呟いた。
 イギリスの被害は大嘘憑きで全て虚構にしたものの、イギリス清教の魔術師が巻き込まれていたらしく球磨川の元に
ステイルや神裂だけでなく天草式の面々までもが押しかけてきて詰問された。
 詰問自体はその口の上手さによってどうにかなったのだが、悪気なく口にした、『ねぇ神裂ちゃん! そんなことより
裸エプロンはいつしてくれるの?』という一言で状況は悪化。神裂だけでなく天草式の面々までブチ切れ、散々な目に遭
わされてしまった。
 そのうえ帰ってきたら学園都市は悲惨な有様。
 初めての海外旅行は終始散々であった。

「でもなんだかんだで楽しかったんだよ! イギリスの町並みも久々に見れたし!」

「ご飯は不味かったけどねってミサカはミサカはイギリスで食べた料理の味を思い出してげんなりしてみたり……」

「慣れちゃえば美味しいんだよ!」

「インデックスは食べられればなんでもいいんじゃない? ってミサカはミサカはジト目になってみたり」

 その後もインデックスと打ち止めによるイギリス旅行反省会が続いたが、インターフォンの音によって会話が中断された。

『ちょっと出てくるね』

 現在、時刻は午後七時。
 こんな時間に誰が尋ねてきたのだろうと思いながら、玄関へと向かう球磨川。
 そしてドアを開いた先にいた者は――


「あ、夜分遅くすンませェン……。隣に引っ越してきた一方通行っていいますゥ……」

 却本作りによってマイナスと化した一方通行だった。
 あまりに意外な来訪者に球磨川は目を見開いて驚く。

「って、あれ? 球磨川さンじゃないっスかァ……。凄い偶然ですねェ……」
 
 マイナスに堕ちただけあって、昔のような覇気は全く感じられない。
 目は眠そうに半開きで、喋り方は「挨拶なんてなんでしなきゃいけないんだ、面倒くさい」といった心根があからさまに
現れている。
 しかし球磨川にとって、それはさほど重要なことではなかった。
 今一番重要なことは一方通行を貫いた却本作りが消えているということである。
 却本作りは一度突き刺されば、消えることなくそのままとなる。それはまるでマイナスに落とされた烙印が如く体に残る
のだ。が、彼の体からはそれが消えてしまっている。
 これは安心院の言った通り、自分がプラス化したことによって却本作りの仕様が変化した証拠に他ならない。

『どうやら安心院さんの言ってたことは本当みたいだね』

「――? まァとりあえずよろしく頼ンます……。じゃ、オレ見たいテレビあるンでここらで失礼しますねェ……」

 一方通行は気だるそうにそう言い残すと、さっさと自分の部屋へと帰っていった。
 それを見送った球磨川は笑顔を浮かべる。

『まぁ、色々気がかりなことはあるけど考えてもしょうがないか。そんなことより今はマイナス仲間が増えたことを喜ぶべき
だよね』

 今の一方通行ならきっと素敵な友達になれるだろう。そう考えた球磨川の心には何とも言えない満足感が広がっていた――



これで投下終了です
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!

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