梓「放課後ストリウム」 (296)

・けいおん!とウルトラマンのクロスものです
・以前VIPで投下中に力尽きたものをこちらでやる予定です
・書き溜めはありますがこちらは初めてなので投下ペースやらにムラがあるかもしれません

それでもよければどうぞ↓


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1394013589

暗闇に染まる街の中を、彼女は走っていた。
人っ子一人いない通りを、まるで「何か」を追うかのように駆け抜ける。

「止まりなさい!」

とあるビルの屋上にたどり着くと、ドアを蹴破り銃を構えた。

「行き止まりよ――もう逃がさないんだから!」

銃口を向け、威嚇する。
しかし、「何か」は慌てた様子もなく、至って平静なままだ。
その異様な雰囲気に、彼女は思わずたじろいだ。

「ふふ……あははははははっ……!」

突然「何か」は不気味に笑い、こちらを向く。
その姿に、彼女の心臓は飛び上がった。

「なっ――お前は!?」

「……知ってるくせに」

長い黒髪をストレートに下ろした、凛々しさと可愛らしさが入り交じった風の少女。
毎日鏡の前で顔を合わせている人間が、悪戯っぽく笑いかけてくる。

「あなたに私が撃てるかな?――ねえ、アズサ」

突然、少女の姿が赤い煙となって消える。
彼女は慌てて、少女がいた場所に駆け寄った。

「どこ?!出て来なさい!!」

「「ここだよ。アズサ(ちゃん)」」

びくん、と大きく身体が震える。
姿はないのに、友人の声だけが聞こえてきたのだ。
しかしその声は普段と違い氷のように冷たく、彼女の背筋を凍りつかせる。

「ビクビクしちゃって……弱いんだね、アズサちゃん」

「わざわざ地球防衛軍に入ったのにね。あはっ、そんなとこも可愛いよ」

「ほんっと――殺したいくらいに』

友人の声が不愉快な男の声に変わる。
同時に、赤い煙が竜巻のように舞い上がり、血のように真っ赤な異形の怪人が現れた。

『ウルトラ兄弟のみならず、愚鈍な人間ごときにまでコケにされるとはな。忌々しい』

「あなたの連れてきた怪獣はその人間が全部倒した。いい加減負けを認めたらどう?」

『負け?……フハハハハハッ!』

「このッ!」

レーザー光線が怪人の肩を直撃し、怪人がよろめいた。
しかし、それでもまったく動じる素振りがない。

『ぐっ……ハハッ!そうだ、確かに我々は負けた……だが』

次の瞬間。

『敗者の反対が……勝者だとは限らないぞ!』

地面が、ガラスのように割れた。

「な……っ!」

支えを失った身体は、怪人もろとも真っ逆さまに落ちていく。

『我らの怨念は不滅だ!!フハハハハハッ!!ハッハッハッハッ……!!』

怪人の高笑いと共に、真っ赤な裂け目に吸い込まれて―――
――


梓「にゃあぁぁぁーっ!!」ガタンッ!!

「!?」

「?!」

梓「う……あれ、夢……?」

教師「……中野」

梓「はひッ!?」

教師「丸くなるのは炬燵の中だけにしとけ」

梓「」

教室が、どっと揺れた。

梓「うぅ~……最悪」

爆笑に包まれた教室をそそくさと潜り抜け、部室に向かう。
いくら睡眠学習とはいえ、あんな目覚め方はあり得ない。

梓(もう、何なのよ!あの夢……)

趣味の悪い謎の怪人と対峙する、見慣れない制服を着た私。
眠れなくて深夜放送のB級な洋画を見たのが良くなかったんだろうか。

梓(でも、妙にリアルだったな――なんて)

そうこうしてるうちに部室に着いた。
もやもやした気分はとりあえず置いておこう。

梓「こんにちはー」

扉を開けると、いつもの軽音部――

梓「…………?」

と見せかけて、少し違った。
律先輩、唯先輩、ムギ先輩が楽しげにテーブルを囲んでいるのに、澪先輩だけ光のない虚ろな目で震えてるのだ。

梓「あの~、先輩?」

唯「あ、あずにゃん!待ってたよ~」

紬「今お茶入れるわね~」

梓「はあ」

梓(なんか変な感じ……)

梓「ところで、澪先輩はどうしたんですか?」

唯「りっちゃんが悪いんだよ、あんな煽りかたするからぁ」

律「なにをー!あたしのせいかっ」

梓「?」

紬「今日ね、授業でゴジラを見たの」

梓「ゴジラって……野球の?」

唯「ベタだけど違うよ、怪獣のほうだよ~」

律「ほら、昔ハム太郎の映画と一緒にやってたじゃん」

紬「わたしたちが見たのは最初のやつよね」

梓「ああ、いろいろ懐かしい響きが――って、なんで授業で?」

唯「日本史の先生がお休みでね。どうせ自習なんてやらないだろうし、それならこれ見とけって」

紬「白黒なのも驚いたけど、すごい迫力だったから余計に驚いたわぁ」

律「澪なんか前見たまま気絶してたもんな。おーい、目覚めよ澪~」

澪「――――はっ!みんな、揃ってたのか」

梓「澪先輩がここまでなるなんて、そんなに凄かったんですね」

唯「すごいんだよ、とにかく強くてね、東京があっという間に焼け野原になっちゃって」

紬「人間じゃ全然太刀打ちできなかったの」

律「銀座とか国会議事堂とか、ド派手にぶっ壊してな!すごかったよな、澪?」

澪「ぎくっ」

律「なはは!いやぁ、ほんとすごかったなあ。本当にああいうのがいたらいいのにな」

唯「確かに、退屈はしないよねえ」

梓「でも、そんなのいたらめちゃくちゃじゃないですか」

唯「そんな時こそ、正義のヒーローだよ!」

律「何をー!そう簡単にやられはせんぞ!」

澪「生き残りたい――生き残りたい――」

梓(ああ、いつもの感じ――)

『――バカめ。呪われているとも知らずに』

梓「!?」ビクッ

唯「あずにゃん、どしたの?」

梓「いや……今、変な声しませんでした?」

紬「ううん、聞こえなかったけど」

律「気のせいじゃないのか?」

梓「で、ですよねー……?」

『この世界には怨敵も不在……容易く堕とせる』

『自らの欲望によって自滅するがいい――人間め』

『ハハ……ハハハハハハッ!』

梓「……!」ゾクッ

紬「――梓ちゃん?」

澪「大丈夫か?調子が悪そうだけど……」

梓「……すみません。なんか寒気が」

律「おいおい、無理すんなよ?今日はもう休んでいいって」

梓「ごめんなさい……それじゃ、失礼します」

唯「あっ、あずにゃん」

律「………」

……………………

梓(変な夢に空耳……どうなってるのよ)

純「あれっ、梓?」

梓「純。それに憂も」

憂「部活、もう終わったの?」

梓「ううん、私一人早引け」

純「ちょっと、早引けって大丈夫?」

梓「いや、体調は悪くないんだけど」

憂「それじゃあ、皆さんと何かあったの?」

梓「そういうわけでもないんだけど……その、幻聴がひどくて」

純「ほほう、幻聴とな」

梓「うん。なんか、呪われてるとか変な高笑いとか。気味悪くなって」

憂「なんか胡散臭いね」

梓「でしょ?やけに耳に残る声してたのに、私にしか聞こえてないの」

純「もしかして梓……目覚めちゃったとか?」

梓「目覚めたって?」

純「ほら、エスパーとか」

梓「いや、ないでしょ」

純「でもさ、今日なんかずっとぽーっとしてて、6限終わりのあれだもん」

憂「そうそう、どんな夢見てたの?」

梓「それがさ――」

梓「(説明中)――って感じの」

純「何それ、ウルトラマン?」

梓「なんでウルトラマンなのよ」

純「だって、こないだ見たウルトラマンにそんな展開があった気がする」

憂「梓ちゃんも見たことあるの?」

梓「見た事ないし……」

梓「っていうか、純の今度のマイブーム、ウルトラマンなんだ」

純「そ!こないだ部屋の掃除してたらさ、古いビデオがあって。面白かったから――ほらこれ」

梓「うわ、ウルトラマンの人形……懐かしい感じだね」

純「お兄ちゃんからもらったんだ。良くない?」

憂「あっこれ、ウルトラセブンだね」

純「当たり!それからこれがタロウで、これがティガ、これがガイア」

梓「純、詳しいね」

純「でしょー、もっとほめてー」

憂「あはは」なでなで

ゴゴ……

梓「――あれ?」

ゴゴゴ……

憂「どうしたの?」

梓「なんか、空が変」

『――ふふ――ははは』

憂「え?――ほんとだ。雷?」

『時は――満ちた――』

『この世界を――怨念で包んでくれる』

純「でも、今日は雨降らないって――」

『我等の不滅の怨念を見るがいい』

『行けッ!剛力怪獣――キングシルバゴン!!』

――ガシャン!!

梓「!?」

純「えっ!?」

憂「空が、割れた――」

『ガアアアアアアッ!』

ズズゥゥゥン!!

梓「かっ――怪獣!?」

純「はわぁ……すごいわね。今の特撮って」

憂「いやいやいやいや!!どう見てもあれ――」

『ガァァアアァァ!』

ガシャァァァンッ!

憂「本物だよぉ!」

純「――ウソぉっ!?」

ズン……ズン……

「うわぁぁぁっ!」

ズガァァァァン!!

「こっち来んなぁぁぁっ!!」

『フハハハハッ!いいぞ、マイナスエネルギーがどんどん貯まっていく!』

『怯えろ!絶望しろ!我等の糧となれェェッ!』



『もっと暴れろシルバゴン!すべてを――破壊しろ!!』

タッタッタッ――

純「どうなってんの!?本物の怪獣が出てくるなんて……!」

憂「わかんないけど、とにかく逃げなきゃ!」

純「もーっ、なんなのよ!夢ならさっさと覚めてよぉぉっ!」

梓「はっ、はあっ!ちょっと、二人とも待ってってば――」

『ガアアアァァァッ!』

――バシュン!!

「危ないっ!!」ガシィッ!

梓「え――にゃぁっ!?」ゴロゴロ

ズガァァァァァンッ!!

梓「――うぅ……ゲホ、ゲホッ!」

?「ふぅ、危なかった……」

梓「――!?」

梓(何これ、押し倒されてるみたい……!)

?「大丈夫かい?」

梓「あ……あのっ、わ、私はぜんじぇっ!?」

梓(か、噛んだ……!)

?「よかった……平気みたいだな。立てるか?」

梓「は、はい。大丈夫ですっ」

梓(うぅ……男の人にダイビングキャッチされるなんて……)

タッタッタッ……

憂「梓ちゃん!! 大丈夫!?」

純「うちの梓をありがとうございますっ」

梓「うちのって何よ!」

?「はは、大丈夫さ……それより、あの怪獣だ」

『ガアアアァァァッ!!』

ズガァァン!ドォォン!

?「……よぉぉし」

憂「お兄さん?」

?「君達はどこかに隠れてるんだ。僕があの怪獣を引き付ける」

憂「へっ!?無茶ですよ、丸腰じゃないですか!」

?「武器は――ある!!」

梓「あっ!――行っちゃった」

……

?「このぉっ!これでどうだ!」

『ガアアアアァ!』

?(ちくしょう!あの怪獣、なんて固さなんだ!)

?(さっきから石をぶつけてるのに、まるでこっちに気づきやしない……!)

『ガアアアァァァッ!』

?(くそ――このままじゃ街が!)


「タロォォォォォォウ!!」


パァァァァァッ……!!

……

?「このぉっ!これでどうだ!」

『ガアアアアァ!』

?(ちくしょう!あの怪獣、なんて固さなんだ!)

?(さっきから石をぶつけてるのに、まるでこっちに気づきやしない……!)

『ガアアアァァァッ!』

?(くそ――このままじゃ街が!)


「タロォォォォォォウ!!」


パァァァァァッ……!!

パァァァァァッ……!!

純「うわっ!今度は何!?」

憂「さぁ……」

赤と銀の影が空を切り裂くように怪獣を貫き、怪獣が倒れ込む。
影はゆっくり立ち上がり、その姿を現した。

梓「あ……」

銀色のラインが走る深紅の身体。
光る黄金の目に、燦然と輝く二本の角。
胸には青く光る宝石。

梓「あれは――」

地響きと共にそびえ立つその姿は、さっき純が持っていた人形と同じ――

憂「ウルトラマン――」

純「――タロウ!?」

『トァァッ!!』

とりあえず今日はここまでです。

『トァァァッ!』

ファイティングポーズを取るや否や、ウルトラマンタロウは体勢の整っていない怪獣に躍りかかった。
怪獣はその動きを丸太のような腕で振り払おうとするが、タロウはそれを冷静に捌き、懐へ飛び込んでいく。

『フンッ!!デッッ!!』

パンチの連打を浴びせ、怯んだところに強力なストレートパンチ。
突き放したところで、思いっきり飛び上がり――

『グァァァッ!?』

二回三回空中でひねりを入れ、怪獣に向かって急降下の飛び蹴りを繰り出した。

『フンッ……デァッ!』

タロウはすかさず倒れこんだ怪獣に駆け寄るとその尻尾を掴み、ハンマーのように回し始める。
そのまま鋭いスイングで投げ飛ばし、地面にたたきつけた。

憂「すごい……すごいよ」

純「同じだ……テレビで見たのと!」

「頑張れぇぇっ!!」

「頑張って、ウルトラマン!!」

梓(―――あれ?)

純や憂、街の人々と一緒に応援している途中で、ふと何かが引っ掛かった。

梓(なんでだろう……この感じ、見たことある気がする)

今まで私の人生の中で、ウルトラマンを見た経験はない。
なのに、なぜか初めて見た驚きのようなものはなかった。
ウルトラマンも怪獣も現実にはいるはずがないのに、今のこの光景に既視感を覚えているのだ。

梓(なんで……)

梓(―――あれ?)

純や憂、街の人々と一緒に応援している途中で、ふと何かが引っ掛かった。

梓(なんでだろう……この感じ、見たことある気がする)

今まで私の人生の中で、ウルトラマンを見た経験はない。
なのに、なぜか初めて見た驚きのようなものはなかった。
ウルトラマンも怪獣も現実にはいるはずがないのに、今のこの光景に既視感を覚えているのだ。

梓(なんで……)

『デァァッ!?』

ウルトラマンタロウの驚いたような声で、私は現実に引き戻された。
見ると、タロウは怪獣の角から連続で打ち出された火の玉に怯み、苦しんでいる。
怪獣はチャンスと言わんばかりに近づき、巨大な尻尾でタロウを弾き飛ばした。
受け身を取って起き上がろうとするタロウ。
しかし、怪獣はそれより早くタロウを地面に押さえつけ、マウントポジションで攻撃を続ける。

『ふん……タロウめ、紛れこんでいたのか』

『だがその程度なら問題ない!シルバゴン、そのまま片付けてしまえ!!』

『ガアアアァァァッ!』

『ンンッ!デッ!』

鈍い音が鳴り響き、タロウが苦しげにうめく。

憂「うわぁぁ……このままじゃやられちゃう」

純「大丈夫だよ!ウルトラマンならこれくらい、きっと……!」

『フンッッ!!』

純の言う通りだった。
タロウの二本の角が青く光って、レーザー光線が怪獣に襲いかかったのだ。

『ギィィィィィッ!!』

頭に直撃した反動で怪獣が思い切りのけぞり、拘束が緩む。
タロウはすかさず怪獣の腹を蹴って起き上がると、続けざまに鮮やかな後ろ回し蹴りで怪獣を吹っ飛ばした。
ふらつきながらも怪獣は立ち上がろうとするが、タロウはその隙を見逃さない。

『ストリウム――』

右腕を高々と掲げポーズをとると、その身体が七色に輝き――

『――光線ッ!』

次の瞬間、『T』の形に組まれた両腕から放たれた七色の光線が、怪獣に直撃した。

『ガ……ァァァ……』

怪獣もこれには耐えきれないのか、苦しげな呻き声を上げ倒れ込む。
次の瞬間、怪獣の体は大爆発を起こし、轟音と共に粉々に吹き飛んだ。

梓「やったぁぁ!」

憂「すごい!すごいね梓ちゃん、純ちゃん!!」

純「当たり前でしょ!だってウルトラマンだよ?!」

憂「ありがとう、ウルトラマーン!」

『トァァッ!』

歓喜に酔いしれる私たちを見て頷くと、ウルトラマンタロウは空高く飛んでいった……

とりあえずトリップつけてみました。
時間が取れなくてなかなか落とせないです……

夜。

『その姿はかつて放送されていたテレビ番組のキャラクター、『ウルトラマンタロウ』に酷似しており――』

テレビには、コメンテーターの会話を挟んで、地元局に撮影されたウルトラマンと怪獣の戦いが延々と流れている。

梓「ううん……」

チャンネルを回しても同じような映像ばかりで、これ以上の情報は得られそうにない。

『ではここで現場から中継です。吉井さん?』

『はい、こちらは被害の大きい――』

梓「……いいや」

テレビの電源を消す。

梓(お腹空いたなあ……)

そろそろ夕飯と行きたいけれど、あいにく両親は旅行中で明後日まで帰ってこない。

梓(外で食べよっかな)

一通り支度を済ませ、私は家を出た。
怪獣もこの辺りまでは来なかったため、いつもと変わらない風景をよそに歩いていく。

梓「そういえば……あのウルトラマン、タロウだっけ?」

信号を待ってる間にふと思い出し、携帯に打ち込んでみた。
本当に何気なく検索ボタンを押し、出てきたサイトを適当に開き――

梓「――――ウソでしょ」

思わず携帯を落としかけた。
昼間私を助けてくれた男の人が――ウルトラマンタロウに変身する主人公=東光太郎として、映っていたのだ。

梓「えっ……だってこれ、40年前の番組で、」

頭が混乱してぐちゃぐちゃになる。
常識的に考えて彼が俳優さんだったとしても、今はもう60歳過ぎのはず。あんなに若いはずがない。
だとしたら彼は他人の空似か、はたまた幽霊か。
いや、でも。

『武器は――ある!!』

怪獣に向かって行ったあの熱さは、どちらにも真似できそうにないと思う。
だとしたら――

梓「まさか……本物の」

『――ウルトラマンタロウですよね!?』

梓「へっ?!」

一瞬自分が呼びかけられたのかと思ったが、そうではなく。
声のした方を見ると、何やらサラリーマンの方々によって人だかりができていた。

『私も息子もファンなんですよ~』

『さっき戦ってましたよね?!変身してください!』

『ストリウム光線ってやってもらえませんか?!』

?『いやその、僕は……』

梓「」

思わずずっこけた。
輪の中心では昼間の彼――東光太郎さん(?)が、困り果てたように質問攻めに遭っていた。

梓(もう、なんて日なの……!)

怪獣が出るわウルトラマンが出るわ、おまけにその当人に会うなんて――

梓「ちょっとお兄ちゃんっ!」

気づけば私はそんなことを言いながら、人だかりに突っ込んでいった。

梓「もーっ!いくらウルトラマンが好きだからって、そんな格好でこんな時間にうろついて!」

光太郎「へ?」

梓(合わせて!!)

光太郎「ああ、ごめんごめん」

梓「うわっ、傷だらけじゃない……!さっさと帰るよ!」

光太郎「いててっ、そんな急に引っ張らないでって――」

私たちは何かを言われる前に、その場をダッシュで抜け出した。

…………………

梓「……っ、はぁっ、はぁ……」

光太郎「なんとか撒いたみたいだ……」

梓「大丈夫でしたか……?」

光太郎「いやあ、ありがとう。おかげで助かったよ」

梓「いえ、こちらこそ」

ぐーっ……

光太郎「……あっ」

梓「……………」

………………

光太郎「うまい!いやあ、本当にうまいなあ!!」

梓「あは、良かったです」

あの後。
近場のファミレスでは目立ちすぎると判断した私は進路を自宅に変更。
とりあえずお風呂で汚れを落としてもらっている間に夕飯を手早く用意し、こうして振る舞っているというわけだ。

光太郎「ごちそうさまでした!こんなうまいの、久しぶりに食べたよ」

梓「お粗末様でした。お茶、飲みますか?」

光太郎「じゃあ、お願いするよ」

梓「はーい」

コップに麦茶を入れながら、この後の事を考える。

梓「――さて」

突っ込みどころは山ほどあるが、果たしてどこから……

梓「どうぞ。麦茶で申し訳ないですけど」

光太郎「ありがとう」

梓「…………」

光太郎「……………」

梓「……あの、いろいろ聞いていいですか?」

光太郎「ああ、いいよ」

梓「えっと……じゃあまず名前から」

光太郎「東光太郎だ。よろしく」

梓「中野梓です。よろしくお願いします」

光太郎「梓ちゃん、か。いい名前だね」

梓「にゃ……どうも」

梓(……本物には間違いないらしい、けど……)

光太郎「どうした?」

梓「あ!いえ……その、ものすごく変な質問になるんですが」

光太郎「……僕の、正体のことか?」

梓「!? どうして」

光太郎「ハハ、目を見ればわかるさ。この世界では隠せないらしい」

梓「……光太郎さんは、ウルトラマンなんですか?」

光太郎「ああ。僕は、ウルトラマンタロウだ」

梓「」

光太郎「もっとも、光太郎とはいろいろあって別れたんだ。だから、今は東光太郎の姿を借りている」

梓「――そうなんですか」

梓(どうしよう。まさかこんな食卓で未知との遭遇やるなんて)

梓「えっと……じゃあ二つ目です。なんでここにいるんですか?」

光太郎「え?」

梓「この世界には、怪獣もウルトラマンもいないはずなのに」

光太郎「確かに、ここは僕のいた世界じゃない。道端で会ったサラリーマンが、みんな僕をタロウだと知っていた」

梓「それはそうですよ!だってウルトラマンは、この世界ではテレビのヒーローなんですから」

光太郎「まさか、そんな世界にたどり着くとは……なんてことだ」

梓「たどり着く?」

光太郎「ああ。宇宙で異常な量のダークマターが検出されて、太陽系で調査をしていたんだけど……」

――

『――聞こえる?ウルトラマン』

タロウ『――何だ?』

『悪魔が目覚めて、ある世界を堕とそうとしている』

タロウ『悪魔、だと?』

『その世界は抗う力を持っていない――あなたの力が必要なの』

――ズズゥン!!

タロウ「ぬおぉっ!次元振動か!?」

『もう奴らが――時間がないわ!』

タロウ『くそっ……引き込まれる……!!』

『お願い!この世界の『わたし』と共に――世界を救って――』

タロウ『うわぁぁぁぁぁっ!!』

――

光太郎「それで、気がついたらこの街の公園に倒れていた」

梓「それって、パラレルワールドってやつですか?」

光太郎「よく知ってるね」

梓「前に小説で読んだことがあって……本当にあるとは思いませんでしたが」

光太郎「信じられないかな?」

梓「いえ!確かにおかしい事ですけど、現に怪獣もウルトラマンもこの目で見たわけですし」

梓「それに、あなたがウソをついてるようには見えませんから」

光太郎「……ありがとう」

梓「とりあえず明日は休みですし、今日はこのままゆっくりしていってくださいね」

光太郎「えっ!?」

梓「だって、この世界では行く当てがないでしょう?」

光太郎「いや、僕は野宿でいいよ」

梓「それはダメです!今出歩いたら、またさっきの二の舞じゃないですか」

光太郎「でも、君に迷惑をかけるわけにはいかないしなぁ」

梓「そのくらいは構いません!それに明後日まで両親が家を空けてるので、誰かにいてほしいんです」

光太郎「うーん……」

梓「お願いします!」

光太郎「……わかった。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」

梓「あ、ありがとうございます!」

梓(……うう、ん……)

さて。
湯船に浸かりながら、改めて思う。

梓(どうしてこうなった……!!)

あまりに変な出来事が続いたせいかあっさり受け入れたけれど。
冷静に考えて男の人と家に二人きりだなんて、フラれた直後の先生に射殺されるレベルの一大事だ。
幸い、普通の人間ではないのが救い……

梓(いや救いでもなんでもないよね?!)

何せ相手はあのウルトラマンだ。
そんな人と一緒に過ごすってどうなのよ!

梓(そうじゃないよぉぉ!)バシャーン

光太郎(――駄目だ、テレパシーが繋がらない)

光太郎(やはりあの怪獣の影響か、この世界では少なかったマイナスエネルギーが一気に増殖している)

光太郎(どうやらこの世界に怪獣は存在しないようだが、やはり例の悪魔が呼んだのか?また怪獣は現れるのか?)

光太郎(何にせよ良くない兆候だ。光の国に報告しなければいけないのだが……)

梓「――光太郎さん?」

光太郎「おっと、梓ちゃ――ん?」

梓「?」

光太郎(――ん?)

梓「……あの、どうしました?」

光太郎「ん、ああ、何でもないよ。髪下ろしも似合ってるね」

梓「ふにゃっ!?そ、それはどうも」

光太郎(何だ?今の違和感は)

梓(ドストレート過ぎですよぉ……!)

光太郎「ところで、梓ちゃんは音楽が好きなのかい?」

梓「えっ!?どうしてそれを」

光太郎「いや、リビングに結構レコードとかが置いてあったからさ」

梓「なるほど、そういうことですか……見ていきます?」

光太郎「いいの?」

梓「はい。――ここです」

光太郎「うわぁ、すごいな!ギターもいっぱいある」

梓「……ウルトラマンの世界にも、音楽ってあるんですか?」

光太郎「もちろんあるさ。ジャック兄さんがよくギターを弾いてるよ」

梓「へえっ、お兄さんがいるんですか」

光太郎「本当の兄さんじゃないけどね」

梓「どういうことです?」

光太郎「地球を守る活躍をしたウルトラマン達の事をウルトラ兄弟といって、僕はその六番目なんだ」

光太郎「みんな、本物の兄弟のように強い絆で結ばれているのさ」

梓「それって、部活の先輩みたいですね」

光太郎「ハハハ……面白い発想だね」

光太郎「そういえば、セブン兄さんが宇宙警備隊に軽音部を作ろうとか言ってたっけ」

梓「ぶっ!! セブン兄さんって、あのウルトラセブンですか!?」

光太郎「そうさ。なんでも地球で流行ってたテレビに影響されたみたいで、僕も見せられてね」

梓「あはははっ!何ですかそれ、ウルトラマンが……ぶふっ!あっ、お腹痛い……!」

光太郎「おいおい、大丈夫か?そんなにおかしいかな」

梓「だっ、大丈夫です……けどっ、正義のヒーローが、そんな所帯染みた……あはははっ!」

光太郎「いやあ、地球を守るウルトラマンにだって地球での生活があるからなあ」

梓「……もう、悩んでた私がバカみたいじゃないですか」

光太郎「?」

梓「何でもないです!それより、光太郎さんもギター弾いてみませんか?」

光太郎「えっ?梓ちゃん、ギター弾けるの?」

梓「はい!これでも軽音部でバンド組んでますから!」

光太郎「すごいじゃないか!僕、やったことないけど大丈夫かな」

梓「大丈夫ですよ!私がちゃんと教えます」

光太郎「よぉし!よろしくお願いします!」

梓「それじゃあ、まずはストラップを肩にかけて――」

――――
――

――――
――

たいなかけ!

律「――でさー、出てきたウルトラマンにあっさり負けちゃったじゃんか」

律「え、講習?中止になって……ないの!?」

律「――うん、うん。わかってるよ、じゃあ明日なー」ピッ

律「ふー……せっかく怪獣が出たってのに、なーんかパッとしないなあ」ドンッ

聡「うるせーぞ姉ちゃん」ガチャ

律「おお、すまん弟よ……お前も見た?」

聡「シルバゴンのこと?まあニュースでだけど」

律「へー、あれシルバゴンっていうのか」

聡「ウルトラマンティガに出てた怪獣だよ」

律「ティガ?出てきたのタロウじゃん」

聡「だから結構レアな戦いだったんだよ。タロウとティガじゃ世界観が違うからな」

律「詳しいな、さすが特オタ」

聡「お、おう。つか姉ちゃん、生で見たのな」

律「生ったって、部室の窓から超遠巻きにだぜ?さっさとケリついたし、あんま実感湧かないよ」

聡「そんなもんだろ。そもそも、ウルトラマンがマジでいたってだけでメシウマもんだし」

聡「まだこの街の近くにいるらしいぞ」

律「せやかて工藤!せっかくなんやし、もっと強敵とのドキドキするようなバトルが見たいやん!」

聡「ってもなあ。また怪獣が出るかだってわかんないし。むしろ出たら困るだろ」

律「夢のない弟だなあ」

聡「はいはい、じゃけん受験生はさっさと勉強しましょうねー」バタン

律「まったく……わかってるよ。ほんとは怪獣なんか出るわけないって」

律「でも、一度は出たんだから、少しくらい夢見たって――」

『その夢、叶えてやろうか』

律「!?」

『お前のマイナスエネルギー……利用しがいがありそうだからな』

律「お、おうふ……ついに幻聴ががが」

『いい機会だ、協力してやろう!お前の闇――使わせてもらうぞ!』

律「へ―――うわぁぁぁぁぁっ!?」

―――――
――――

翌朝

光太郎「いやあ、ありがとう。朝ごはんも用意してくれるなんて」

梓「いいんですよ全然。ところで、光太郎さんは今日どうするんですか?」

光太郎「そうだなあ。僕を呼んでいた、この世界の『わたし』って存在を探さなくちゃ」

梓「探すって……手がかりとか何か、ないんですか?」

光太郎「それは……声の主が、君くらいの女の子みたいだった事かな」

梓「」

梓(ほぼないじゃないですか……)

梓「で、でも!光太郎さんがこの街に倒れてたってことは、案外近くにいるのかもしれませんね」

光太郎「なるほど!つまり、この街の女の子にひたすら聞き込みをすれば――」

梓「えっ」

光太郎「まずい?」

梓「いえ、さすがにその格好でそうしたら……不審者扱いされそうですよ」

光太郎「ええっ、そんなことあるかなあ」

梓「今時知らない人って警戒対象ですし……」

光太郎「そうなのか?」

梓「あと何より、昨日ウルトラマンだってバレてるんです。変に騒がれたら困りますよ」

光太郎「そうか……どうしよう」

梓「うーん――あっ、そうだ!」

二階!

梓「やっぱり!最高に似合ってますって!」

光太郎「本当?変じゃないかな」

梓「全然変じゃありません!お父さんと体格似てるから、サイズもばっちりですし」

光太郎「でも僕、こういうスーツはなあ。どうもピンと来ないよ」

梓「いいんですよそれで。後は適当に髪型を整えればほら、別人みたいじゃないですか!」

光太郎「そう?梓ちゃんがそう言ってくれるならいいんだけど」

梓「後は探偵みたいにアンケートとか、適当な理由をつけて話しかければいいと思います」

光太郎「ありがとう!なんだか見つけられる気がしてきたよ」

梓「あと……もしよかったら、私もついていってもいいですか?」

光太郎「えっ、いいの?せっかくの休みに付き合わせちゃうけど」

梓「いいんですよ、どうせ暇ですし……場所の案内とかなら、任せてください!」

光太郎「そうか、それならお願いするよ」

梓「ありがとうございます!――あっ、ネクタイが曲がってますよ」

光太郎「おっ、やってくれるの?」

梓「いいんですよ。このくらいは……っと」

光太郎「ありがとう。決まってるかな?」

梓「はい!ばっちりです!」

光太郎「よぉし!!それじゃあ――」

梓「行きましょう!」

…………

光太郎「――それで、ここが探す場所?」

梓「ええ。るるぽーとっていって、この辺で一番賑わってるショッピングモールです」

光太郎「なるほど……うわ!本当だ、すごい人だかりだな」

梓「こんな人混みで大丈夫ですか?」

光太郎「大丈夫さ。このくらいなら、まだ聞こえる」

梓「聞こえる……って、えっ?」

光太郎「この中から、似てる声の人を探すんだ」

梓「いや、でも結構ざわついてますけど」

光太郎「おっ、聞こえた……あっちだ!」

梓「えっ!? 待って……もういない」

光太郎「すみませーん!」

?「わっ、なんなんですかあなたは!?世界一カワイイボクにナンパだなんて、身の程知らずですね!」

光太郎「いやぁ、そんなんじゃないよ。アンケートに答えてほしいんだ」

?「アンケート?」

光太郎「そうさ。昨日、怪獣が出ただろ?」

?「はぁ」

光太郎「その時思った事とか、あの怪獣について知ってる事とか、何でもいいから聞かせてくれないかな」

?「なぁんだ、あの騒ぎですか……」

光太郎「おっ、何か知ってるのかい?」

?「どこもかしこも怪獣怪獣!おかげでボクのかわいさがちっとも話題に上がらないんですよ!?」

光太郎「うん?」

?「ほんと、あんなバケモノのどこがいいんですかね!?」

光太郎「う、うん」

?「だいたいボクみたいなカワイイ存在のほうが、よっぽどスポットライトを浴びるにふさわしいのに――」

……

光太郎「くそっ、違ったか」

光太郎(結局、聞けたのは『ボクはカワイイ』ってことだけだったぞ)

光太郎(でも、へこたれても仕方ない。まだまだいろんな人に――)

「だから言ってるでしょ!? あれ絶対闇堕ちしたあるちゃんの仕業だよ!」

「ハッ……貴女の想像力には本当に驚かされるわね。さすがは大人気小説家(笑)」

「(笑)って何よ!」

「まあまあお二方とも、落ち着いてくだされ」

光太郎(おっ――あの子は)

光太郎「すみませーん!みんな、ちょっといいかな」

「へ?」

「……」

「む、何用ですかな?」

光太郎「昨日出た怪獣の事で調査をしてるんだけど、少し話を聞かせてくれないかな」

「怪獣でござるか?それでしたら、このお二方の方が詳しいですぞ」

「……デタラメは止めて頂戴。私があんな稚拙な化物に詳しいわけがないでしょう」

「あたしだって特オタじゃないし……」

「あら、話せばいいじゃない。さっきの闇堕ちしたあるちゃん(笑)の事でも――」

「なっ……こんのクソ猫ぉぉぉ!」

………

梓「光太郎さーん!」

梓(うーん、どこ行ったんだろ……?)

光太郎「おーい、あずさちゃーん……」

梓「わっ!大丈夫ですか?なんかやつれてますけど」

光太郎「いやあ、なかなか会話が噛み合わなくてね……」

梓「何か分かりましたか?」

光太郎「そうだなあ。『カワイイは正義』とか、『めるる可愛い』とか……あと、『野郎はみんな豚』とか」

梓「……お疲れ様です……」

光太郎「ハハハ……まあ、平和だって事はいいことなんだけどね」

梓「……辛くないんですか?」

光太郎「えっ?」

梓「手がかりもほとんどなしに、がむしゃらに走り回って……」

梓「これじゃあ、まるで終わりのないマラソンじゃないですか」

光太郎「そんなことないよ。確かに手がかりは少ないけど、ないわけじゃない」

光太郎「大事なのは、最後まで諦めないことだ」

光太郎「諦めないでやり抜けば、不可能だって可能にできる」

梓「でも……たった一人きりで、どうしてそこまで頑張れるんですか」

光太郎「使命だからさ」

梓「使命?」

光太郎「ああ。たとえ誰かが見てなくても、報われなくても、ベストを尽くして頑張る」

光太郎「それが、守るってことなんだ」

梓(……!)

梓(光太郎さんの目は、ただひたすらにまっすぐ、前を向いていた)

梓(『絶対に諦めない』なんて簡単なようで難しいのに、こんなさらっと――)

『『く゛ーっ……』』

梓「あ……」

光太郎「……あっ」

梓「……あははははっ!なんですか今の、締まらないですよー」

光太郎「はっはっはっ!梓ちゃんこそ!」

梓「もー、ちょうどいいタイミングで……そうだ、ここらで気分転換でもしませんか?」

光太郎「気分転換?」

梓「はい!せっかく街に来たんですし、ご飯食べたり遊んだり、楽しみましょうよ」

光太郎「おっ、いいね!案内してくれるかな」

梓「もちろんです!さ、こっちですよ――」

『……――』スゥゥ……

『――お、戻ってきたか。どれ』

『ほー……仲良くデート気取りか。いいご身分だ』

『我々の計画が順調だとも知らずになぁ』

『マイナスエネルギーとこのガディバさえあれば、確実に邪魔者を消し去ることができる』

『それまではせいぜい楽しむんだな……お前たちの墓場の見学を』

「ふふ……あはは――」

澪「こら、律」

律「あてっ!なんだよ」

澪「そろそろ次の授業だぞ。ケータイ弄りはその辺にして、教室戻ろうな」

律「あはは、悪い悪い」

…………
♪~

梓「そろそろラストですよー!」

光太郎「おっと、このっ……うわっ」

ジャーン♪

光太郎「……どうだ?」

『♪all clear♪』

光太郎「やったぁ!」

梓「すごいですよ!昨日ちょっと弾いただけで、ここまで出来るなんて!」

光太郎「いやあ、ついてくので精一杯だったよ。梓ちゃんはすごいなあ」

梓「まあ、私はいつも弾いてますからね」

光太郎「いつからギターをやってるんだい?」

梓「小四からなんで、もう六、七年です」

光太郎「すごいなあ。きっと、部活でもすごく熱心に練習してるんだな」

梓「そんな、全然違いますよ!むしろゆるいくらいです」

光太郎「そうなの?」

梓「ええ。だって、練習よりティータイムのほうが多いんですよ?」

光太郎「てぃ、ティータイム?」

梓「先輩にすごいお嬢様がいて、毎日お茶とかお菓子とか出してくれるんです」

光太郎「すごい息抜きだなぁ……」

梓「でしょう?だからバンドの名前も、放課後ティータイムっていって。私はもっと真面目にやりたいのに」

光太郎「でも梓ちゃん、楽しそうじゃないか」

梓「にゃ!?」

光太郎「僕も思い出すなあ。ZATにいた時のこと」

梓「ざっと?」

光太郎「怪獣や宇宙人から地球を守るチームさ」

梓「ああ、ウルトラマンと一緒に戦うところですか」

光太郎「僕はわりと後輩だったけどね。よく作戦会議中にみんなで差し入れのおにぎりとか食べたりしたな」

梓「……え?いいんですか、それ」

光太郎「なんたって、隊長が『昨日カレー食った奴いるか?』って出動させるとこだからね」

梓「あ、あはは……らしくないですね」

光太郎「でも、すごくいいチームだったよ。僕も隊員としていろいろ学ばされた」

梓「なんていうか、似てますね。私たち」

光太郎「ハハハ、そうだね。楽しいって思える気持ち、大事にしてくれよ」

梓「はい!」

梓「じゃあ、次はあれをしますか!」

光太郎「ぷり……くら?」

梓「はい。これはプリクラって言って、写真を撮るんですよ」

光太郎「なんだか、証明写真みたいだね」

梓「あはは……でも、ただの証明写真と違って、撮った写真にいろいろ細工ができるんです」

光太郎「本当かい?楽しみだなぁ!」

シャーッ

梓「あ、私たちの番で――」

純「でさー、そこで梓ったら……」

憂「……あ」

梓「」

憂「え、梓……ちゃん?その人……」

梓「えっと……憂?これはね、その」

光太郎「あれ?君たち、昨日の」

憂「……あぁーっ!!」

純「本物!本物のウルトrむぐっ!!」

梓「――お話しようか」

純「むー!」

外。

梓「……っていうわけなの」

憂「へぇっ、梓ちゃんちにいたんだ」

純「すごいじゃん!パラレルワールドとか漫画みたいで」

梓「もう……内緒にしてね」

憂「うん!私たちの秘密ね♪」

光太郎「憂ちゃんに純ちゃんか、ありがとう。助かるよ」

純「……で?さくやはおたのしみでしたの?」

梓「ぶっ!! 何言ってんの純!?」

純「そら夜二人ったらそう……ね?」

梓「ないない!! 特に何にもないってば!」

憂「えーっ? すごく仲良さそうだったじゃん」

純「ほらほら、おねーさんに言ってごらん」

梓「うー……光太郎さん、なんとか言ってくださいよお」

光太郎「はっはっは! みんな仲が良いんだね」

梓「ムエンゴ!?」

純「あっははっ、もー最高!梓ってほんっと面白いよね」

梓「デュアッ!」ガッ

純「げふぅっ!」

梓「さ、純。向こうでお話しよ」

純「ひー!?」

憂「あはは!もう、梓ちゃんたら」

光太郎「いいもんだね、友情ってのは」

憂「……あの、タロウさん?」

光太郎「光太郎でいいよ」

憂「じゃあ、光太郎さんは、梓ちゃんのこと――どう思いますか?」

光太郎「えっ?」

憂「梓ちゃん昨日、変な夢を見たとか幻聴がしたとか言ってて」

光太郎「えっ、本当かい?」

憂「はい……その時は特に何もなかったんですけど、少し心配で」

光太郎「そうだったのか……」

憂「どうでしたか?昨日から梓ちゃんを見てて」

光太郎「特に変わったとこはなかったよ。むしろ、楽しそうだった」

憂「良かった……」

光太郎「本当に大事な友達なんだね」

憂「はい!梓ちゃん、すごく可愛いですよね!」

光太郎「ははは、そうだね。昨日なんか、遅くまでギターをすごく丁寧に教えてくれてね」

憂「梓ちゃんらしいなぁ」

光太郎「いやぁ、本当にいい子だよ。素直で、とても優しくて――」

(お願い――この世界を――)

光太郎「……あれ?」

憂「光太郎さん?」

光太郎「いや……今、何かが頭に浮かんで」

『ウルトラマンタロォォォウッ!』

光太郎「何ッ!?」

憂「えっ?」

光太郎「なんだ?どこかから声が」

『どこにいるゥゥッ!』

『出てこい!タロォォウ!』

『出て来ないなら街の人間を皆殺しにしてやるぞ……!』

光太郎「近い……!」

憂「ど、どうしました?」

光太郎「ごめん憂ちゃん!すぐ戻る!」

憂「あっ、光太郎さん!?」

光太郎(この声……テレパシーか?)

光太郎(人間ではない、明らかに強いマイナスエネルギーを感じる……まさか)

光太郎(……宇宙人か!?)

『さぁ来い!ウルトラマンタロォォォウ!』

警官「ひぃぃぃっ!ば、化け物ッ!?」

『おっと……人間か?少し黙っていろ』

警官「うぐっ!」ガクッ

『む、ずいぶんあっさり伸びたな。楽に記憶を消せるからありがたいが、だらしない奴だ』

光太郎(なっ……あれは、テンペラー星人!?)

光太郎(わざわざ等身大で、こんな森の中で一体何を……)

光太郎「テンペラー星人ッ!」

星人『……! 現れたな、ウルトラマンタロウ!』

光太郎「なぜお前が、この世界にいるんだ!」

星人『決まっている!お前を倒すため、地獄の闇から蘇ったのだ』

光太郎「お前を蘇らせた黒幕は誰だ!?」

星人『ハハハハハ!黒幕?そんなことはどうでもいい。ワシはただ、お前を倒すのみ……だッ!』

光太郎「ぬぉっ!?」

星人『どうした。早くタロウに変身しろ。さもなくば死ぬぞ』

光太郎「……こんなところで、戦うわけにはいかない」

星人『ぬるい事を言うな!変身しないと言うんなら、そこの警官を殺してもいいんだぞ』

光太郎「何だって!?」

星人『無論、街の人間もろとも皆殺しでも構わないが……さぁ、どうする?』

光太郎「くそっ……タロォォォォウ!」

星人『ふっ、そう来なくてはな!』

タロウ『……いくぞっ!』

……

梓「……あれ、光太郎さんは?」

憂「それが、すぐ戻るって言って……どっか走ってっちゃった」

梓「また何か聞こえたのかな」

純「聞こえたって?」

梓「自分をこの世界に呼んだ人を探してるんだって」

純「どんな人さ」

梓「私くらいの女の子だって」

純「何それ……」

憂「いくらウルトラマンでも、なかなか難しい注文だね……」

純「声だけって、不親切じゃない」

梓「でも、結構ニアミスがあったみたいよ?るるぽーとだけでも3回くらい」

純「偶然じゃないの?」

梓「でも光太郎さん、これだって人にしか声かけてないみたいだし。それは違うと思う」

憂「なるほどねえ……」

純「それで、空いた時間におデート、と」

梓「に゛ゃっ……!」

純「いやはや、まさか梓がねえ」

梓「そっ、その話はさっき済んだんじゃないの!?」

純「人の恋路はおちょくってナンボでしょ、ねー憂?」

憂「ねー?」

梓「」

純「で、どうなのさ?ウルトラマンと過ごした感想は」

梓「どうって……普通のお兄さんって感じだったよ」

純「……ちっ」

梓「何その反応!?」

純「だってさ、ウルトラマンだよ!?なんでそんなあっさりしてるのさ!」

憂「本物になんて絶対会えないからねえ」

純「ファンの人が聞いたらスペシウム光線の蜂の巣だよ」

梓「ほんとなんだってば!まっすぐで、気取ってなくて、とっても爽やかだし」

梓「正直……こんなお兄ちゃんなら欲しいかなあ……なんて」

純憂「「……」」

梓「……何?」

純「あーもー!うらやましい!」

憂「梓ちゃん健気~♪」

梓「えっもう、何よこの雰囲気ーっ!?」


「あーずにゃぁぁん!」

梓「に゛ゃぁっ!?」

唯「んー、しあわせー♪」

憂「お姉ちゃん!」

梓「うぅ~……」

律「良い子の諸君!お揃いかねー!」

澪「偶然だな」

紬「みんな一緒なのね」

純「と、軽音部の皆さん?」

……
……

タロウ『タァァァァッ!』

星人『グァァァァァッ!』

タロウ『くっ……まさか、ここまで粘られるとは……』

星人『ふ……はは、なんてことだ、昔戦った時はああも弱かったお前が』

タロウ『もう、あの頃の甘えた末っ子ではない。それを見誤ったお前の負けだ』

星人『くっ……さすが、言うことが違うな。ウルトラ兄弟一のエリートというわけか……ハハハ』

タロウ『……なぜだ?なぜ、そこまでの余裕を』

星人『はっ……!わしの目的はもう既に果たしたからな……』

タロウ『何っ?』

星人『奴の言いなりになるのは癪だったが……お前ともう一度戦えるのならばと了承した』

タロウ『答えろ!奴とは誰だ!』

星人『今にわかる――ぐふぁッ!』

タロウ『なっ!?』

星人『は……はは……やはりお前は、昔と同じだ、な』

星人『目の前の罠に全力で飛び込み――隣の女を見失――』スゥゥ……

タロウ『……!?』

タロウ(梓ちゃんが……!?)

……

……

紬「そういえば三人は、どういう集まりなのかしら?」

純「たまたま会ってお出かけですけど……先輩方は?」

澪「学校で講習会をやってくれるっていうから、みんなで受けてきたんだ」

憂「ああ、受験生ですもんね」

梓「ところであの、唯先輩」

唯「なーに?」

梓「なんかいつもより締め付けられてる感が強いんですがそれは」

唯「クックック、よくぞ聞いてくれたなあずにゃん君」

梓「はぁ」

唯「私は今、猛烈に君が妬ましいのだよ」

律「そうだよ!」

梓「はい?あと律先輩、なんで便乗する必要があるんですか」

律「とぼけるな!もうネタは上がってんだぞぉ!」

唯「さあ吐きなさい!生の怪獣、ウルトラマンの迫力を!」

梓「はにゃぁぁっ!」

澪「こら、落ち着けお前ら」ペシッ

唯律「あうっ」

梓「はぁ、はぁ……やっぱり、先輩方の周りもその話題ですか?」

紬「そうね。私たちも部室から遠巻きに見てたけど、唯ちゃんとりっちゃんがすごくはしゃいでてね」

唯「そりゃそうだよ、なんたって本物だよ?」

律「ずるいぞ!梓だけ生で見たなんて!」

唯「そうだよ!生のウルトラマンに黄色い声上げるなんて、ずるいよ!」

律「ずーるーい!ずーるーい!」

梓「ずるいって……」

純「確かに迫力はありましたけどね」

澪「でも、本当に本物の怪獣が出るなんて……」

紬「何か不思議よね。どうなってるのかしら」

唯「まあまあ。本当にいただけでも私は嬉しいよ?」

律「別に、もっと出てきてもいいのになー」

梓「何言ってんですか!?」

澪「!?」ビクッ

梓「私なんか、あの時必死で逃げて、危うく死にかけたんです!」

梓「あんなの……見世物なんかじゃないんですよ!?」

律「で、でもさぁ。せっかく出たってのにすぐに倒されたってのはなぁ」

唯「ちょっとつまんないよね」

律「その通り!もっと強いやつが来てくれないとつまらんぞ!なぁムギ!」

紬「ええっ?私は、みんなと一緒ならそれでいいかな……って」

梓「いくらなんでも、唯先輩も律先輩も言いすぎです!」

『それはどうかな』

梓「!?」

『未知に対する興味関心は誰にでもあると思わないか?』

梓「律先輩……いや、律先輩じゃない……?」

『なぁ、そうだろ? 中野梓』

梓「だ……誰?」


『異次元人――ヤプール』

紬「……梓ちゃん?」

澪「おーい、梓?あずさ!――へんじがない」

律「どうしたんだ?急にぼーっとして」

紬「しかも、りっちゃんをじーっと見つめて……」

律「――はっ!?」

唯「まさかあずにゃん、そういう……」

律「私のここ、いつでも空いてますよ」

唯「埋まってたことないでしょ!」

律「へっ!」

『ふふ、騒がないか……賢明だな。この声は、お前にしか聞こえないのだ』

梓「そんな……なんで、そんな事を」

『お前に話があるからだ。もちろん、邪魔者のウルトラマンタロウは抜きでな』

梓「っ……光太郎さんは!? 光太郎さんに何したの!!」

『そんなに逸るな……ちょっとした足止めに、刺客を放っただけだ』

『ウルトラ戦士がそんなものでくたばる訳がないだろうが』

梓「捨て駒って……そんな」

『ひどいとでも言うか?心外だな』

『我々の怨念は一蓮托生……奴もタロウと戦えて満足だろうに』

梓「怨念――そういえば、昨日部室で」

『ほう、お前には聞こえていたか……ハッハッハッハッハ!』

梓「え?」

『ハッハッハッ!実に面白いぞ、中野梓!』

『何も知らないままの人間をただ滅ぼすだけではつまらんがな』

『我々の呪いを知っていながら何もできない方が、俄然楽しいではないか』

『ましてやそれが怨敵――ウルトラマンタロウの、最も身近な人間だと言うのだからな』

『そんな無力な人間からウルトラマンという希望を消し去れるなんて、最高の余興じゃないか』

梓「……バカみたい」

『ん?』

梓「光太郎さんは……ウルトラマンは負けない!」

梓「あんたみたいな卑怯者なんかに、絶対負けないんだから!」

梓「その体から出てきなさい!」

『……ほう!』ポゥッ……

梓「にゃっ!?」ズキッ

『もうじき、我々の呪いで強力な怪獣が生まれる。ウルトラマンタロウなど全く問題ではない』

『だがお前は別のようだな』

『私の声が聞こえる人間……さすがはといったところか』

梓(……え……?)

『今ここで殺ってもいいが……それでは楽しくない』

『手始めにウルトラマンタロウから殺し――必ずやお前を、絶望の渦へ叩き込んでくれる!』

梓「うぁぁぁっ!」ズキィィッ

純「梓っ!?」

憂「大丈夫!?しっかりして!」

紬「梓ちゃん!?」

澪「大丈夫か!?」

梓「頭の中……覗かれてるみたいな……」

『あはっ……あはははははっ!』

梓「いや……やめて」

澪「お、おい梓?」

紬「梓ちゃん……?」

『あハハ……ハッハッハッハッ……!』

梓「やめて……その声で笑わないで……!」

唯「……えっ?」

純(どうしよ憂、このままじゃ梓が可哀想だよ)

憂(任せて!)

憂「あ、そうそうお姉ちゃん!お腹空いてない?」

唯「あぁー……うん、もうペコペコですよぅ」

憂「そうだよね!一緒にお買い物でもして帰ろうか!」

唯「えっ?でも、あずにゃんが」

憂「梓ちゃん調子悪いみたいだし、みんなで囲んでたら逆に疲れちゃうよ!ねぇ純ちゃん?」

純「そうだよね!梓の面倒は私が見るんで、皆さんはご飯でも食べてきてください!」

澪「あぁ……うん」

紬「ごめんね、引き止めちゃって」

律「あんまり無理すんなよ~?」

唯「また学校でね?」

憂「じゃあ純ちゃん、あとはお願いね」

純「ラジャ!」

梓「あぐっ……うぅ」

純「梓、ねぇ梓ってば!」

光太郎「あっ、梓ちゃーん!!」

純「光太郎さん!どこ行ってたんですか」

光太郎「そんなことより純ちゃん、梓ちゃんはいったい!?」

純「それがさっき急に倒れて、頭の中覗かれてるみたいって」

光太郎「なっ……梓ちゃん!しっかりするんだ、梓ちゃん!」

梓「はっ……!」

光太郎「大丈夫か?」

梓「光太郎さん……!」ギュッ

光太郎「わっ!?」

梓「っ……律先輩が……!律先輩が!!」ポロポロ

光太郎「落ち着いて!」

梓「うぅ……」

純「ねぇ、本当にどうしたの?昨日からずっと調子変だよ」

梓「……話しても、信じてくれる?」

純「当たり前じゃん!!」

光太郎「何でも、話してくれよ」

梓「……ありがと。あのね――」

光太郎「何っ、ヤプール!?」

純「――律先輩が!?」

梓「……必ず、タロウを殺して、お前を絶望の渦に叩き込んでやるって」

純「ひどっ……何それ、幻聴とかじゃなくて?」

梓「違うよ!あんなにはっきり聞こえてきて、私も言い返したもん」

光太郎「なんてことだ!まさにヤプールのやり口だ……くそッ!」ドン

純「光太郎さん、その、ヤプールって?」

光太郎「異次元から来た侵略者だ。あらゆる世界を我が物にしようとする、悪魔のような奴だ」

梓「悪魔……」

純「じゃあ、空が割れたり、怪獣が出たのは」

光太郎「ヤプールの仕業だ。その律って子を利用して、力を蓄えてるんだろう」

光太郎「現に、宇宙人までもがこの世界に呼び出されていた」

光太郎「このままだと、もっと強力な怪獣を呼び出して、この地球を侵略するに違いない」

梓「侵略って、そんな……うそ」

純「でもおかしいですよ!地球が狙いなら、なんでわざわざ梓なんかを狙うんですか?」

光太郎「……僕に一番近い人間だったから」

純「え?」

光太郎「奴はウルトラ戦士に強い恨みを持っている……きっと、僕に一番近い梓ちゃんを狙って、僕を挑発したんだろう」

純「ひどい……」

梓「……それだけじゃないです」

光太郎「なんだって?」

梓「アイツは、自分の声が聞こえる人間をさすがだとか言ってました」

梓「なんだか、その言葉が妙にひっかかってるんです」

光太郎「……梓ちゃん。昨日、変な夢を見たって聞いたけど」

梓「ええ。でも、それが何か」

光太郎「たぶん、それは夢じゃない」

梓「え?」

光太郎「もう一人の……『わたし』の記憶」

光太郎「君が、僕をこの世界に呼んだんだ」

梓「――うそ」

光太郎「君と一緒にいて、何か違和感を感じることが多かった」

純「違和感?」

光太郎「ああ。初めて会った気がしないというか」

光太郎「でも、こう考えれば納得がいく。僕たちは――」

ガシィィィィンッ!!

光太郎「――なっ!?」

ガシンッ!
ガシッ!
ガッ……コン……!!

『グワシ……』

光太郎「き……キングジョー!!」

梓「ろ、ロボット!?」

光太郎「セブン兄さんが倒せなかった強敵だ!ヤプールめ、なんて奴を……!」

『グワシ……グワシ』

ドゥゥン……!
ガキィィィンッ……!

「うわぁっ!!どうなってんだ!?」

「元町の方だぞ……!」

「ちょっと……こっち来てない!?」

梓「元町って……憂たちが!」

純「えっ――あっ!」

梓「あのロボットが暴れてるとこ!みんなの家がある方向……!」

純「そうだ……憂が行ったスーパーもそっちじゃん」

梓「どどどどうしよ!?」

純「みんなと別れてそれなりに経ってるし……」

梓「でっ電話!電話は!?」

純「――ダメ、通じない!」

梓「そ、そんな!このままじゃみんなが――」

光太郎「梓ちゃん!!」

梓「!?」

光太郎「落ち着いて!そして、聞いてくれ」

光太郎「もともと梓ちゃんは戦いとは関係ない、普通の女の子だ」

光太郎「そんな君を戦いに巻き込んでしまうことになって、本当にすまないと思う」

梓「……」

光太郎「本当は君の大切な人も僕が救ってあげたいけど……目の前の敵に背を向けて、それはできない」

梓「そんな――」

光太郎「だから、梓ちゃん!君が、君自身の手で、大切な人を守るんだ」

梓「――!」

光太郎「ヤプールのエネルギー源は悲しみや憎しみなどのマイナスな感情だ。君の優しい心があれば、奴の計画は絶対に成功しない」

光太郎「その律って子も、君なら絶対守れる。……大丈夫だよな?」

梓「……はい!!」

光太郎「よし!二人とも、これを持ってってくれ」

純「うわぁ……キレイな石」

梓「これは……?」

光太郎「ウルトラの星だ。僕の故郷のエネルギーが君を守ってくれる……さぁ、行くんだ」

梓「はいっ!」

光太郎「純ちゃんも約束してくれ。絶対に、命だけは持って帰るんだぞ」

純「任せてください!」

光太郎「よぉし!それじゃあ、行くぞッ!!」

梓「純、行くよ!」

純「オーライッ!」

光太郎『タロォォォォウ!』

パァァッ!!

タロウ『トァァッ!』ズゥン……!

梓(頑張って……ウルトラマンタロウ!)

『ヌハハハハッ!殺されに出てきたな、ウルトラマンタロウ!』

タロウ(ヤプール!貴様、よくも梓ちゃんを……!)

『そんな小娘を気にするより、自分の身を気にしたらどうだ』

タロウ(何っ!?)

『グワシ……グワシ』

ブンッ!フォッ!

タロウ(なっ、早い!)

タロウ『トァァッ!』

タロウ(だが……スピードなら、こちらとて負けはしない!)

タッタッタッ……

純「はっ、はあっ……始まったね」

梓「人のいない方にあのロボットを誘ってる……ありがとう、タロウ」

純「その割りには人で進みづらい……!」

梓「逆走してるしね……とりあえず、どっか広いとこに出よう!」

純「ラジャ!」

タッタッタッ……

キュインキュイン

タロウ(フンッ!ハァッ!)

ドコッ!ガシャッ!

『ハッハッハ!キングジョー相手にこの身のこなし……さすがはウルトラ兄弟一のエリートだ』

『だが、貴様ではこの装甲を破れない――』

『勝ち目はないぞ、ウルトラマンタロウ!』

タロウ(負けは……しない!)

『グワシ……グワシ……!』

ビーッ……
ズドンッ……!

純「憂ーっ!」

梓「せんぱーい!どこですかーっ!」

純「ひど……地鳴りが」

ズズゥゥン……!

梓「わっ!?」

純「梓っ!」


梓「っ……いたた」

純「大丈夫?」

梓「平気……ちょっと足取られただけ」

純「足音で瓦礫が飛んできそう……梓、気をつけて!」

梓「オッケー!憂ーっ!せんぱーいっ!」

純「皆さぁぁーん!」

梓(みんな、どこに―――)

キィン

(右よ――)

梓(え……?)

(右に飛びなさい)

梓(この声……わたし?)

(いいから右!早く!)

梓「な――っ、危ない!!」ガッ

純「ちょっとあず――さっ!?」

―――ズドォォォン!!

……………
……

タロウ(くそっ……格闘戦ではジリ貧だ)

タロウ『シューティングビーム!!』

ズバババババッ!

『グワシ……』

ヒュインヒュイン

タロウ『!?』

タロウ(分離して、避けただと!?)

『……グワシ!』

ズババババババッ!!

タロウ『ディァァァァァッ!』

ズズゥゥン………!

『グワシ……グワシ』

バキッ!ガシィッ!

タロウ『ンンッ!デッ……!』

…………

純「……うぅ……ゴホ、ゴホッ!」

梓「大丈夫!?」

純「なんとか……ね。ありがと」

梓「よかった……純ぅ!」

純「ほら、立たなきゃ!」

「あっ……二人ともぉーっ!」

純「ん?」

梓「この声は……」

紬「梓ちゃぁん、純ちゃぁん!こっちこっち!」

澪「みんな、中央公園にいるぞーっ!」

純「ムギ先輩に、澪先輩!」

梓「他のみんなも無事だって――せんぱーい!」ダッ

紬「梓ちゃぁぁん!」ギュッ

梓「ムギせんぱ、むぎゅっ!?」

紬「良かった……本当にっ」

澪「体調悪そうな時にあんなことになって、心配だったんだぞっ……!」

梓「いえ、こちらこそ、皆さんが心配でっ」

唯「あずにゃぁぁん!」

梓「はにゃぁっ!そ、そんな強くしないでくださいっ」

唯「だってあずにゃん分の吸収、新鮮なんだもーん」

梓「えっ?」

唯「あずにゃん、昨日からちょっと変だったでしょ?」

唯「そんな時にあずにゃんと離ればなれになって、街はどんどん壊れてって……すごく怖かったんだ」

唯「ウルトラマンとか怪獣が見れるなんて、あれだけ楽しみだったのにね」

梓「……唯先輩……」

唯「でも、こうしてるといつも通りだね~♪」

梓「ふにゃあぁぁーっ!!」

純「あはは……ホント仲いいよね、みんな」

憂「純ちゃん、ありがとね」

純「いいって。友達だもん、当たり前っしょ?」

憂「ううん、それだけじゃないよ」

純「えっ?」

――ぎゅっ

純「うぁっ!?」

憂「ありがとう、純ちゃん――無事でいてくれて……!」

純「あぅ……」

ピコン……ピコン……!

紬「!?」

純「あっ、カラータイマーが!」

澪「それって確か」

唯「ピンチだよ!ウルトラマンの!」

『グワシ……グワシ……』

『トアァッ!』

ガキィ!ガンッ!

憂「うそ、あんまり効いてない……」

唯「警察の銃とか戦闘機のミサイルも全然ダメだったんだよ、返り討ちだったもん」

澪「ウルトラマンでもキツいなんて、なんだあのロボット!」

『グワシ……グワシ』

梓「――はっ!律先輩は!?」

紬「えっ?」

梓「律先輩!律先輩はどこですか!?」

唯「りっ……あれ?あずにゃんが来るまでいたのに」

澪「あのバカ!どこをふらふらと――」

『ウルトラ……ダイナマイト!!』

憂「あっ!タロウに火が……!」

タロウ『オォォオォォオォォ!!』

『グワシ……ワシ……!!』

ズガァァァンッ!!!

紬「きゃあぁっ!!」

憂「そんな――」

澪「怪獣もろとも」

唯「自爆した?」

純「いや――あれ!!」


タロウ『…………』

唯「――ウルトラマンタロウだ!」

澪「怪獣がいない――ってことは」

紬「ウルトラマンが、勝ったのよ!」

純「……やったぁぁーっ!!」

……ワァァァァァァァッ!!

梓「……よかった」

紬「それで、りっちゃんはどこに……」


 「――かかったな」

梓「――え?」

澪「律!お前、こんな時にどこを」

律「あはははっ!まんまと罠にかかったな、ウルトラマンタロウ!」

タロウ『!?』

律「そんな大技使っちゃってさぁ……敵は一人じゃないんだぜ?」

澪「なっ――」

――ズドンッ

タロウ『ディアァッ!!』

梓「!?」

ズンッ……ズンッ……

紬「そんな……」

純「……ウソでしょう」

律「さぁ、第2ラウンドだ……行けっ!最強合体獣――キングオブモンス!」

ガシャァァァァン!

「キュルルルルルルル……!」

タロウ『…………!!』

唯「ねぇりっちゃん、どういうこと!?」

律「見ての通りさ」

唯「えっ?」

律「私が呼んだんだよ。あの怪獣も――キングシルバゴンもキングジョーもな」

澪「おい律!こんな時にふざけるなんて――」

律「――ふん」ブンッ

澪「うわぁぁっ!」ドサァッ

紬「澪ちゃんっ!?」


律『頭の弱い地球人め。こうでもしなきゃわかんないか?』

憂「この声――律さんじゃない」

唯「じゃあ目の前にいるりっちゃんは!?」

律『私の声に聞き覚えはないか?なぁ――梓ぁ』

梓「……ヤプール!!」

律『……ご名答』

紬「ヤプール?って、えっ……?」

澪「どういうことだよ……なぁ、何なんだよこれ!」

律「だーかーらー、言ってんだろ?私はヤプール――」

「キュルルルルルルルル……!」

律『――闇より生まれし、怨念の化身だ』

「キュルルルルル!」ガッ!ドガンッ!

ピー……ピコン……ピコ……

 『ディァァァッ!!』

律『代わり映えしない日常、非日常に対する好奇心!まったく、最高の組み合わせだ!』

律『ちょっと非日常感を煽るだけで、簡単に食らいついてくれるんだもんな』

律『おかげで手間もかけず、これほどの力を取り戻すことができた!』

律「本当に感謝してるぜ、唯」

唯「え?私?」

律『お前が私の軽口に乗ってくれなかったら、こいつの欲望を操りきれなかっただろうからなぁ』

唯「そんな……」

梓「本物の律先輩を返して!!」

律「おいおい、目の前に黒幕がいるんだぜ?殺しちゃえばいいじゃん。もう怪獣なんか出せないぞ」

律『ま、一心同体になってるこいつも死ぬんだけどな!あははははっ!』

梓「この……っ!!」ギリッ

律『ふはははっ!さあ、ウルトラマンタロウの最期の瞬間でも見るがいい!』

澪「なっ!?」

ピコン……ピコ……

タロウ『ディアァァッ……!』

憂「ああっ、エネルギーが……!」

梓「タロウーッ!!お願い、負けないでぇぇっ!!」

タロウ『ッ――タァァッ!!』ガシィッッ!

「キュルルルルル……!!」ヨロ……

タロウ『ストリウム……光線ッ!!』

梓「いっけぇぇぇぇぇっ!!」

「――キュルルルルル!!」

キイインッ!!


タロウ『!?』

唯「は、弾かれた……」

純「バリアー持ってるなんて……!」

律『とどめだキングオブモンス!クレメイトビームでタロウを消し去れ!!』

「キュルルルルルルルルルルル――」

バシュンッ!!

タロウ『ディアッ――』

梓「あっ――」

ピコン――ピコ――

澪「……嘘だろ」

ピコ――ピ――

紬「う、ウルトラマンが――」

タロウ『――』ユラッ

ドサァッ!!

唯「――死んだ」

タロウ『』シュワァァ……

梓「っ……ぁ……」

フッ

梓「イヤぁぁぁぁぁっ!!」

律『フハハハハハハハ!ウルトラマンタロウ――敗れたり!』

「キュルルルルル……キュルルルルル!」

律『地球人類よ!お前らの守護神、ウルトラマンタロウは死んだ!』

律『深夜0時!この地域より改めて人類の抹殺を始める!いかなる抵抗も無駄だと思え!』

シュワァァァァ……

紬「そんな……空が」

憂「暗闇に染まってく……!」

律『もう世界に朝は来させん!一日の終わりを、世界の終わりに変えてくれる……!』

梓「あぁ……ぁぅ……」ガクッ

純「あ、梓!?」

憂「梓ちゃん!しっかりして!」

律『ハッハッハッ!さぁ、一旦引き上げだ!』

律『人間どもめ!逃げ場のない恐怖に絶望し、我等の糧となるがいい!!』

澪「ま、待て――」

律『――』スッ

パリィンッ

唯「ひぃっ!?そっ空が……!」

律『――バイバイ」

澪「うそ……律っ――りつうぅぅぅっ!!」

……

………
……


(……ここは……)

何もない真っ暗闇。
目を開けても閉じても、視界には黒一色しか映らない。
そんな空間に、やけに軽く感じる身体がふわふわと浮かんでいて――

(あ――っ)

気づいた時には、その身体も見えなくなっていた。
ただそこにあると感じられるだけ。
文字通りの虚無な空間に、魂だけが取り残されている。


(あ、はは)

その魂ですら、強風に揺らぐ消えかけの灯火みたいなものだ。
『自分』と『虚無』。
その距離は、あまりにも近い。

(これが……終わり……)


『――終わりなんかじゃ――ない』

(っ!?)

突如、一筋の光が闇を貫いた。
光はそのまま、人のような形に収束していく。

『あなたは――まだ戦える――』

(この声――私!?)

『思い出して――本当のあなたを』

「思い出すも何も!本当の私って何!?」

『―――』

「そもそも!あなたは一体、何者なの!?」

『――それは、あなたが一番よく知ってる』

「えっ?」


『目を覚まして。それしか――方法は――』

「あ……」

梓「―――待って!!」

純「あずさっ!」

梓「はっ……はぁ」

唯「よかった……気がついたぁ」

梓「えっと……ここは?」

紬「唯ちゃんの家よ。梓ちゃん、ショックで倒れたの」

唯「本当に良かったよぉ……りっちゃんに続いてあずにゃんまでいなくなったらと思うと」

梓「はっ……律先輩は!?」

唯「わっ!」

梓「教えてください!律先輩は!あの怪獣はどこに――」

澪「――消えたよ」

梓「澪先輩」

澪「ウルトラマンも怪獣も、律も……みんな消えた」

梓「消えた……」

(『ディアッ――』シュワァァ……)

梓(そっか。光太郎さん――もう、いないんだ)

憂「それにしても、律さんが……まさか、世界を滅ぼすだなんて……」

紬「あの暗闇がドームみたいなバリアになってて、他の軍隊も助けに入ってこれないそうよ」

澪「なんだよそれ……それじゃあ、逃げ場なんかないじゃないか!」

紬「こんな状況で、また怪獣が来たら……」

唯「――みんなごめん!」

憂「お姉ちゃん?」

唯「本当にこんなことになるって思ってなくてっ……私が、あんな軽口叩かなかったら、りっちゃんはっ」

梓「それは違います!!」

唯「ひぅっ!?」

梓「ヤプールです!全部あいつがっ!あの悪魔がっ!!」

憂「あ、梓ちゃん!落ち着いてっ」

梓「律先輩をっ……タロウを……ぅぅぅ……うわぁぁぁぁんっ!」

紬「梓ちゃん……」

憂「……ねえ純ちゃん。私のいない間に何かあった?」

純「あのヤプールってやつが、梓を直接狙ってきたの」

憂「えっ!? い、いつ?」

純「たぶん、梓が頭痛起こす前。梓にしか聞こえないように、テレパシーでいろいろ吹き込んだみたい」

憂「ひ、ひどい……」

純「汚いよ!いくらウルトラマンが憎いからって、梓にまで手を出すなんて……!」

唯「ちょっ、ちょっと待って!?」

澪「その、話が全然見えないんだけど……二人は何か知ってるのか?」

紬「教えてほしいな。梓ちゃんがあんなになった理由」

純「……実は――」

……

唯「えぇーっ!?あずにゃんと!?」

澪「ウルトラマンタロウが、一緒にいた……!?」

純「ええ。昨日タロウが現れたあと、梓が行くとこない光太郎さんを助けてあげたみたいで」

紬「その、光太郎さんっていうのがウルトラマンタロウなのね」

憂「はい。私達も会ったんですけど、結構仲良かったみたいで」

純「梓にとってのウルトラマンタロウは、ただの正義のヒーローじゃないんです」

澪「そうだったのか……道理で、あんなになるわけだよ」

紬「なのに私たち、何も知らないで」

唯「あずにゃんのこと変だなんて、軽い気持ちで……」

梓「ひぅっ……ぅぅっ……」

唯「……助けようよ」

紬「唯ちゃん」

唯「詳しい事情とか全然知らなかったけど……このままりっちゃんとお別れなんて、絶対やだよ」

澪「……そうだな。私も、こんなので世界が終わるなんて認めたくない」

唯「りっちゃんだってきっと待ってるよ!ね、あずにゃん!」

梓「……無理ですよ」

唯「――え?」


梓「律先輩がどこにいるかもわからないのに、どうやって探すんですか」

唯「あぅ……」

梓「それに、怪獣が出たらどのみちみんな死んじゃいますよね。無駄ですよ」

唯「……そんな……」

梓「所詮、私たちはただの女子高生でしかないんです」

純「――梓」

梓「ウルトラマンタロウはもういないのに、今さら私達がそんなことしたところで――」

純「梓っ!!」パァンッ!

梓「っ……!」

純「いい加減にしなよ!あんた、光太郎さんになんて言われたか覚えてる!?」

梓「……」

純「君の手で、大切な人を守れって言われたんだよ!あのウルトラマンタロウに!」

梓「……っ」

純「実際、私のことも助けてくれたじゃん!あんたがいなきゃ私ここにいなかったんだよ!?」

純「それをあんたがっ……ウルトラマンタロウを一番知ってるあんたが無駄にしてどうすんのよ!」

梓「……でも」

純「デモもストもなぁぁーい!!」

梓「!?」

純「あんたさぁ……律先輩も光太郎さんも、所詮とかその程度の存在なわけ?」

梓「……それは」

純「違うでしょ!?だったら、ああもボロクソに言われて悔しくないの!?
  なんとかしたいとか思わないの!?」

梓「……しいよ……」

純「聞こえない!」

梓「悔しいよ!!私だって!!本当は――」

梓「――本当は……助けに行きたいよぉ……!」

純「……だったら」

梓「だったら何?私にあの化け物と戦えって!?」

純「そうだよ!光太郎さん言ってたじゃん、あんたが光太郎さんをこの世界に呼んだって」

純「この現状を変えられるのは、梓しかいないんだよ」

梓「変えるったって……私なんかじゃ、どうすることも……」

憂「――そんなこと、ないよ」

梓「……うい……?」

憂「確かに、梓ちゃんの言った通り……また怪獣が出てきたら、みんな死んじゃう」

憂「私達は、ただの女子高生でしかない」

梓「……うん」

憂「でもね。ウルトラマンタロウは、そんな会ったばかりのただの女子高生のために、命懸けで戦ったんだよ?」

梓「……!」

憂「今度は、梓ちゃんが光太郎さんのために何かをする番だと思う」

梓「何かを?」

憂「うん。だって光太郎さんは、梓ちゃんのこと、とっても大事に思ってたもん」

憂「ここで私たちが諦めたら、光太郎さんに申し訳が立たないでしょ?」

梓「それは……そうだけど」

憂「もちろん、ただの女子高生にウルトラマンの代わりなんて厳しいのはわかってるよ」

憂「それでも……私たちは、私たちなりに前を向くことが大事なんじゃないのかな」

梓「――前を――」

梓(そうだ……光太郎さんはいつも前を見てた)

梓(強い敵にも見えない壁にも、全部体当たりでぶつかってた)

梓(自分とは全く関係がない、この世界を守るために――)

『行き止まりよ!もう逃がさないんだから!』

梓(夢の中の私も……世界を守るため、戦っていた)

梓(もしあれも私だとしたら……今まで私に語りかけてきたあの声も……?)

(――気づいたのね)

梓「!?」

――

『こちらアズサ――これより目標を追跡します!』

梓(何これ……)

『いいかアズサ、深追いは禁物だぞ。黒幕の素性が掴めてないんだからな』

『わたしが暴いてやりますよ、隊長!』ピッ

梓(頭の中に、イメージが流れ込んでくる……?)

『さあて――やってやるです!』

タッタッタッ……

――


『――敗者の反対が……勝者だとは限らないぞ!』

「なっ……!」

『我らの怨念は不滅だ!!フハハハハハッ!!ハッハッハッハッ……!!』

「にゃあぁぁぁーっ!!」

梓(落ちていく私の身体)

梓(しかし、その先に見えたのは、絶望の暗闇ではなくて――)

「――ウルトラ、マン……?」

梓「――はっ!?」

梓(そうか……今はっきりわかった)

梓(ヤプールがなんで私を知っていたのか)

梓(そして、私を時々襲った既視感、聞こえてきた私自身の声)

梓(全部、光太郎さんの言った通りだった)

梓(私は――まだ、戦える)

梓「………」パンッ!

憂「梓ちゃん?」

梓「皆さん。取り乱してすみませんでした」

梓「私……もう、逃げません」

梓「光太郎さんの思い……絶対、無駄にしない」

純「あはは、その意気その意気!」

憂「やっと梓ちゃんらしくなったね」

梓「純、ありがと……ひっぱたいてくれて」

純「いいってことよ!」

憂「頑張ろうね!」

澪「でも、これからどうすればいいんだ?」

紬「私たちにもできることって――」

梓「――ライブですよ」

澪「え?」

梓「私たちの演奏を律先輩に届けるんです。そうすれば、律先輩も元に戻るかもしれません」

唯「おお~!あずにゃん、ナイスアイデア!」

紬「確かに……こんな時だからこそ、音楽なら心に響くはずだわ」

澪「でも、律は今異次元にいるんだよな?届くのかな……」

唯「絶対届くよ!だってりっちゃんは、軽音部の部長だもん」

梓「それにこのライブ、うまくいけば、ヤプールの撃退もできると思うんです」

憂「どういうこと?」

梓「ヤプールの餌は人の恐怖心とか絶望だって、ヤプール本人が言ってましたよね」

梓「逆に言えば、プラスの感情を徹底的に送り込めば奴らの餌はなくなるわけですよ」

梓「しかも、怪獣を呼び込むエネルギーもそのマイナスなエネルギーを糧にするって言ってましたし」

澪「なるほど。奴らの思い通りに進ませないってことか」

梓「わざわざ律先輩を依り代にしてるってことは、ヤプールにもそこまで余裕がないんでしょう」

梓「律先輩の短気な性格を思うに、こちらの仕掛けでイライラしてきたら、必ず私たちの前に出てくるはずです」

梓「そこで私たちが説得して、律先輩をヤプールから解放すれば、怪獣だって呼び出せませんから――」

純「世界を救えるかもしれない、ってことね」

澪「そっか、そうだな。何より、これしかやれそうにないもんな」

梓「私たちの放課後で、世界を救ってやりましょうよ!」

唯「いぇっさー!」

澪「なんか、正義のチームって感じだな」

紬「そうね。ほんとに、音楽で世界を救えるなんて……夢みたい」

憂「澪さん、紬さんも!円陣組みましょう!」

澪「ああ!行こう、ムギ」

紬「ええ。必ず、りっちゃんを助けましょう」

梓「それじゃあ、作戦を説明します」

梓「決行は今夜11時!場所は桜ヶ丘女子高校屋上!」

梓「私と澪先輩は楽器を取りに行って後で合流、セッティングが終わり次第演奏を開始します」

純「私と憂はどうしたらいい?」

梓「とにかくノリノリで歌って。とにかくポジティブに、テンションを爆発させるの」

憂「任せて!」

純「かっとばしていくよ!」

梓「私たちの演奏、大空の律先輩に届けましょう!」

「「「ラジャー!」」」

梓「いきますよ!
  作戦名――放課後・ティー・タイム!!」

―――
――

―――
――

「~♪」

梓「よし、大丈夫!」

梓(練習時間設けて良かった……皆さんも、きっと仕上げてくれるはず)

梓(あとはこれを律先輩に、ぶつけるだけ)

梓(見ててください、光太郎さん!私たちも――戦ってみます)

梓「――やってやるです!!」

タッタッタッ……

澪「おーい、梓!」

梓「澪先輩!仕上がりはどうですか?」

澪「大丈夫。普段より気合い入れて、いつも以上に仕上がったよ」

梓「私もです!」

澪「しかし、梓は偉いな。こんな時なのに、立ち直って前を向けるなんて」

梓「え、偉くなんかないですよ。私だって、光太郎さんがいなかったら……弱いままでしたもん」

澪「梓にとってのウルトラマンタロウって、白馬の王子様って感じがするな」

梓「にゃっ!?」

澪「あはは!冗談だよ」

梓「澪先輩の冗談は冗談に聞こえないです……」

澪「でも、すごい人だよな。わざわざ私たちの世界のために、命を懸けて戦ってくれたんだもの」

梓「ええ。だからこそ、その想いに応えたいんです」

澪「そうだな……頑張ろうな」

梓「――はい!」

憂「あ、梓ちゃーん!澪さーん!」

澪「梓にとってのウルトラマンタロウって、白馬の王子様って感じがするな」

梓「にゃっ!?」

澪「あはは!冗談だよ」

梓「澪先輩の冗談は冗談に聞こえないです……」

澪「でも、すごい人だよな。わざわざ私たちの世界のために、命を懸けて戦ってくれたんだもの」

梓「ええ。だからこそ、その想いに応えたいんです」

澪「そうだな……頑張ろうな」

梓「――はい!」

憂「あ、梓ちゃーん!澪さーん!」

梓「憂!お待たせ!」

澪「そっちの準備はどう?」

憂「見てのお楽しみです♪ね、皆さん?」

「「そうですねー!!」」

澪「の、和!?それにクラスのみんなも」

和「律の事を憂たちから聞いて、いても立ってもいられなかったの」

「それで真鍋さんから連絡が来て、私たちも手伝えないかなって」

「りっちゃんはうちのクラスの太陽だからね」

「律がいない世界なんてつまらないし」

梓「皆さん……ありがとうございます!」

和「ほら、早く早く!」

澪「――ああ!」

唯「あ、あずにゃんに澪ちゃん!それにみんなも!」

澪「うわ……すごい!」

紬「どう?特設のライブ会場は」

梓「キレイな光……!」

澪「どうしたんだよこれ?」

唯「みんなのおかげなんだよ」

紬「学校中にあったライトに色つきのセロハン貼ってくれたの。それに、これも」

梓「懐中電灯にもセロハンが……!」

唯「こうして見るとさい……なんとかみたいだよね!」

澪「それを言うならサイリウム、だろ?」

唯「えへへ、そだねー♪」

梓「皆さん……!」

紬「感動するのはまだ早いわよ!ね?」

梓「……はい!」

唯「チューニングは大丈夫?」

梓「バッチリです!」

澪「いつでもイケる!」

唯「よーし……!」

梓「皆さーん!!こんばんはー!!」

「「こんばんはー!!」」

梓「放課後ティータイムでーす!!」

唯「みんな!今夜は目一杯、楽しんでってねー!!」

「「イェーイ!!」」

紬「それじゃあ、最初の曲は――!」

澪「――『ごはんはおかず』!!」

――

――


「「1、2、3、4!GO・HA・N!」」

唯「1、2、3、4!GO・HA・N☆」

ジャーン……

「「――ワァァァァァッ!!」」

唯「みんな、ありがとー!!」

澪「空の様子は?」

紬「……特に変わりないわね」

梓「でも、まだ一曲目です!」

唯「みんなー!どんどんいくよ!!」

「「がんばれー!」」

梓「律先輩!聞こえますかぁーっ!!」

紬「これが、私たちの放課後よ!」

澪「ドラム!空いてるぞーっ!!」

唯「お菓子も待ってるよー!!」

梓「いきますよ!『honey sweet teatime』!!」

――

――


♪笑顔の花咲く空の下――
 ――あふれてしまうの♪

『ふふふ……諦めの悪い奴らだ』

『あんなことで我々がどうにかなるとでも思っているのか』

『せいぜい小手先の現実逃避に過ぎぬというのに、馬鹿なことをするものだ』

『なあ……田井中律?フハ――ハハハハ――!』



『――……な――』

『――む!?』

律(……みん……な……?)

『馬鹿な!!自意識が戻っただと!?』

『なぜだ!こいつの自意識は完全にコントロールしたはず!!』

梓「どんどんいきますよー!!」

唯「『私の恋はホッチキス』!!」


律「……ずる……ぞ……」

♪――キラキラ光る願いごとも
 ぐちゃぐちゃへたる悩みごとも――♪

『どういうことだ!!マイナスエネルギーの純度が薄れていくとは!!』

『それどころか、我々のマイナスエネルギーまで失われていく……!!』

紬「りっちゃーん!聞こえるー!?」

澪「いくぞ!『ふわふわ時間』!!」


律「……わた……しも――」

♪―ああ神様お願い 一度だけの
 miracle timeください――♪

『あり得ん!あのチンケな演奏ごときに!』

『このヤプールが……こんなことで!!』

ピシッ……

憂「空に、ひびが……!」

純「もう少しだよ!」

♪ふわふわタイム――
 ――ふわふわタイム♪
 
『ぬう……うぉぉぉぉぉっ!!』

梓(――届けぇぇぇっ!!)


♪ジャーン……♪

唯「………どうかな?」

和「そろそろ12時になるけれど……」

――ガシャァァン!!

律「うわぁぁぁーっ!!」ドサァッ

澪「――律っ!」

梓「律先輩!!」

律「お……まえら……うぅっ!」

紬「澪ちゃん待って!様子が変よ」

律『ぬぅ……なぜだ!!体が勝手に!!』

唯「りっちゃんとヤプールが混じってる……?」

紬「戦ってるのかも……りっちゃんの意識が」

律『なぜだ!!お前らの守護者ウルトラマンタロウは死んだというのに、なぜ無駄な抵抗を続ける!!』

梓「無駄なんかじゃない!!」

律「!?」

梓「ウルトラマンタロウの――光太郎さんの戦う心は死んじゃいない。私の中で生きてる!」

律『くだらん!お前、自分の状況わかってんのか?』

梓「ええ。だから律先輩、もう終わりにしましょう」

律「な………』

梓「そりゃ確かに、毎日勉強やら講習ばかりでつまらないなんて思うでしょうよ」

梓「だからってこんな悲しい非日常、この世界にはいらないんです」

律「……!」

梓「みんなでお茶したり、合宿したり、ライブしたりした毎日、私は楽しかったです!」

梓「思い出してください!そんな日常を律先輩は、誰よりも楽しんでたじゃないですか!」

律「う……ぅぅぅ!』

唯「りっちゃん!悪魔なんかに負けないでよ!」

澪「お前は軽音部の部長だろ!?投げ出すなんて言わせないからな!」

紬「りっちゃんの大好きなチーズケーキ!いっぱい食べさせてあげるから!」

憂「またうちに遊びに来てください!」

純「今度は名前、間違えないでほしいです!」

和「だから律!しっかりしなさい!」

律「く……うぅ」

『馬鹿な!!この程度で!!』

梓「みんな、あなたを待ってる」

律(梓……あずさ)

『愚鈍な、人間ごときに……!!』

律(私の頭を――打ち抜け!!)

梓「だから――いい加減、目を覚まして!!」

律「うぅぅ――うわぁぁぁぁぁぁーっ!!』

ゴォォォォォォ……

憂「闇が……律さんから消えていく」

純「これがヤプールの魔力だっていうの……?」

律「うぅ……」

澪「律……しっかりしろ!」

律「……」

梓「ど、どうですか?」

澪「……寝てる」

唯「やったのかな……」

梓「律先輩……律先輩!」

律「う、ん……」

唯「りっちゃん大丈夫?生きてる?」


律「――あれ?どこだここ」

澪「律……しっかりしろ!」

律「……」

梓「ど、どうですか?」

澪「……寝てる」

唯「やったのかな……」

梓「律先輩……律先輩!」

律「う、ん……」

唯「りっちゃん大丈夫?生きてる?」


律「――あれ?どこだここ」

紬「……りっちゃん!!」

純「律先輩――!」

律「変だな、確か澪達と夕飯食べに行っててわぷっ!?」

澪「律っ!りつぅ!よかった……!」

律「いたっ!いてえぞ澪!離せ!ぐるじ……!」

紬「よかった……!りっちゃん!おかえり!」

憂「お帰りなさい、律さん!」

「りっちゃんが、帰ってきた!」

「救われたのね……!」

「りつー!おかえりー!」


律「……って、みんな!?なんだよこれ、ドッキリか?ドッキリなのか?」

梓「何言ってるんですか。律先輩が仕掛人ですよ?」

律「は?」

梓「律先輩は、今の今まで侵略者の手先だったんです」

律「ま、マジで!?」

梓「マジでって、本当に覚えてないんですか?あんなことしたのに」

律「そんなこと言われても!昨日の夜に変な声が聞こえて、それからそれから……あれ?」

梓「……ふっ」

律「は、鼻で笑うなー!!」

梓「でも……よかった」

律「梓?」

梓「よかったですよぉ……律先輩も!この世界も守れたんです!本当に――」


『――本当にそう思うか』

澪「――な!?」

紬「こ、この声……」

『フハハハハハッ!!残念だったな、地球人ども!!』

『最高の茶番をどうもありがとう!』

純「や、ヤプール!?」

憂「消えたんじゃなかったの!?」

澪「――な!?」

紬「こ、この声……」

『フハハハハハッ!!残念だったな、地球人ども!!』

『最高の茶番をどうもありがとう!』

純「や、ヤプール!?」

憂「消えたんじゃなかったの!?」

『馬鹿め!我々の怨念がその程度で消えると思ったか!』

『その小娘を操っていたのは無数にいる我々の思念体のほんの一部だ』

『わずかでも希望を与えておけば、後で絶望した時のエネルギーも増す……だから利用しただけだ』

『結局、貴様らは我々の手のひらで踊っていたに過ぎないんだよ……!』

ガシャン!

『時間切れだ――ゆけッ!キングオブモンス!!』

梓「――そんな」

『キュルルルルルルル……!!』

『もっといたぶってマイナスエネルギーを取り戻してやりたいが、もはやそうも言ってられんようだ』

『まとめてお仲間ごと死ぬがいい!!最後の希望と共に――』

『キュルルルルルルル!!』

ズバババババッ!!

梓「な――――」

ズドッ――!!
ガラガラガラッ――


梓「にゃあぁぁぁぁぁ――っ!!」


――地面が、迫ってくる。
瓦礫と共に落ちていく感覚が、まるでスローモーションのように感じられた。

(そうか――私、死んじゃうんだ)

世界を救ってやる……なんて、カッコつけてみたけど。
頑張った結果が、こんなオチだなんて。

(何も、守れてないじゃん)

光太郎さんと、約束したのに。
結局、私だけじゃなく、みんなのことも巻き添えにしてしまうなんて。

(ひどいよぉ……!こんなのって――こんなのって!!)

ねぇ、神様。
お願い。
もしも奇跡があるのなら。
もう一度。せめてもう一度……

(みんなを、助けて――――)

ガシャアアアアアン!!

次の瞬間、目の前が真っ白に染まった。

――――
―――

――――
―――
――


――ずさ――
―――あず――ん

(…………?)

気がつくと、眩い光が辺り一面を覆っていた。
私の身体はその中に浮いていて、なんとなく心地よい感じがする。

(この光、あったかいなぁ)

まるで春の日だまりのような、優しい気持ちになれる光。
そんな暖かい光が、私の中に入っていく。

(ここは……)

『――梓ちゃん』

「!?」

突然、頭の中に声が響いた。
ヤプールとは全く違う、安心感に満ちた優しい声。
その声は紛れもなく、

梓「――光太郎さん!?」

『ああ。そうだ』

一度死んだはずの、光太郎さんだった。


梓「え、うそ……どうして」

頭が混乱している。
いったいぜんたい、どういうことなのか。

梓「ど、どこにいるんですか!?っていうか、そもそもここはどこで私はいったい」

『落ち着いて。手のひらを見てごらん』

言われた通りに手のひらの方を見る。そこには。

梓「……!!」

なんと真っ赤な手のひらの上で、律先輩を始めあの場にいた全員がこちらを見上げていた。
……って、え?

梓「ええぇぇぇっ!?」

ふと前を見れば、目線は屋上にいた時よりも遥か上にある。
この赤くて大きな手、暖かい光、もしかしてだけど――

梓「私が……ウルトラマンタロウに!?」

ウルトラマンタロウが蘇った。
その事実が霞むくらいの驚きだった。

梓「うそ……夢じゃない!!でもなんで!?だって光太郎さんあのとき――」

『確かに僕はあの時怪獣に負け、エネルギーのほとんどを失った』

『実体すら維持できなくて、空を漂っていた……でも、僕は死んでいなかった』

『君たちの中に、邪悪に立ち向かう強い心が生き続けていたからだ』

梓「私の、中で……」

『君の強い心が、僕たちを再び引き合わせたんだ。ありがとう……梓ちゃん』

梓「――――はいっ!!」

タロウは皆さんを優しく地面に下ろすと、怪獣を鋭く見据えた。

『キュルルルルル……!!』

梓「で、でかい……」

『心配ない。身体を動かして戦うのは僕だ』

『だけど、そのエネルギーは君の強くて優しい心にある』

『梓ちゃん――僕と共に、戦ってくれ!』

梓「――やってやるです!!」


『トァァァァッ!!』

タロウはいきなり派手に跳び上がり、空中で捻りを加え勢いをつけた飛び蹴り――スワローキックを繰り出した。
そうして怪獣の懐に飛び込むと、怒涛の勢いでパンチの連打を叩き込む。

『キュルルルルル!!』

怪獣に苦し紛れに手で振り払われるが、体勢を整えて怪獣に食らいついた。

『デァァッ!』

怪獣の腹に生えたフックのような爪が脇腹を襲うが、タロウはそれにも怯まない。
膝蹴り数発で距離を取り怪獣の肩を掴むと、地面におもいっきり引き倒す。

そしてそこに、飛び上がって威力をつけたかかと落としを叩き込んだ。

梓「すごい……身体中から、力が湧いてくる」

『梓ちゃん、疲れはないか?』

梓「平気です!このまま一気に畳み掛けて!」

『トァァァッ!!』

再び中空に飛び上がり、捻りを加え勢いをつける。
そして、キックの体勢で放つ足先からの破壊光線――フット光線が炸裂した。

『キュルルルルル……キュルルルルル!!』

………
……

唯「澪ちゃん……あのウルトラマンタロウは」

澪「ああ……梓だ。梓が戦ってるんだ」

律「あ、梓が!?」

唯「絶対そうだよ!だって、タロウからあずにゃん分がしたもん」

律「お、おう……なんだそりゃ」

紬「でも、わかる気がするわ。梓ちゃんがウルトラマンになれた理由」

律「え?」

憂「梓ちゃんは誰よりも近くでウルトラマンを見ていたんです」

純「だからこそ、絶望的な状況でも立ち上がれた」

澪「そしてお前を悪魔から救うために、自分にできることを精一杯やったんだ」

律「梓が、私のために――」

紬「きっと、神様がご褒美をくれたのよ」

律「そうか……そうだったのか」

『トァァァッ!』

律「――ウルトラマァァン!!頑張れぇぇーっ!!」

純「タロウーッ!いけぇぇっ!!」

憂「私達が応援してるよーっ!!」

「「――頑張れぇぇっ!!」」

……


『キュルルルルル!!』

怪獣の放った強力な熱線がタロウを襲う。

『フンッ!』

タロウは念力で壁を作り、熱線を防ぐが――熱線の威力に耐えきれず、壁が壊れてしまった。

『デァッ!?』

熱線が肩を撃ち、体勢を崩して倒れ込む。
なんとかかすり傷で済ませたものの、それでもその衝撃は凄まじい。
こっちの気力を削られるような一撃だった。

「くぅ……っ!」ギリッ

『梓ちゃん!大丈夫か!?』

「大丈夫……ですっ!」

『よぉし、その意気だ!』

体勢を立て直し、ファイティングポーズを取る。
向かってくる怪獣をすれ違い様にチョップでいなし、向きを変えたところに前蹴りを叩き込む。
そして、怪獣に再び組み付こうとして――

バシュゥンッ!!

『ッ!?』

背後から衝撃が走り、体勢が崩れる。
その隙に怪獣がタロウを激しく打ち付け、巨大な尻尾で足を思い切り払った。

『ンンッ……デッ!』

『フハハハ!!ウルトラマンタロウめ、またも殺されに来たな』

空から漂ってきた赤い煙が、一点に集まる。
集まった煙は形を作り……その姿を現した。

梓「あ……あれは……」

背後からの襲撃者。
それは、夢に出てきたあの悪魔――

梓「ヤプール……!?」

『そうだ!私がヤプールだ!』

ヤプールは勝ち誇ったように豪語する。

『そんな小娘と融合したところで、死に損ないの貴様に本調子は出せまい』

『……!』

『ここが貴様の墓場となるのだ……!』

『キュルルルルル……!!』

『デァッ!トァァッ』

タロウは2体の動きに捕まらないように1体ずつと立ち回ろうとするが、

『ふんッ!!』

ヤプールが絶妙な位置に火の玉を放つせいで、攻めきれずに反撃をもらってしまう。

『フンッ……デッ』

怪獣に殴られ、尻尾で打たれ、ヤプールの火の玉をまともに食らい……ついに派手に倒れてしまった。
1vs2。こちらが明らかに不利だ。

『デァァッ……!』

梓「うぐ……うぅっ」

苦しい。
なんとか戦おうとするが、立ち上がるのも一苦労だ。

『ハッハッハッハ!!やはり所詮は死に損ないよ!!』

『貴様ごときがたった一人でこの我々に楯突こうなど、思い上がりもいいところだ!!』

梓「この……卑怯者!」

『卑怯もラッキョウもない、勝てば官軍――さあやれ!キングオブモンス!!』

『キュルルルルル!!』

『ンン……デッ』

梓「うぅ……!」

……ばれ……!
…がんばれ……!
ウルトラマン!!

『――ぬ?』

純「ウルトラマンが負けるもんか!」

憂「私達も、勇気をもらったんです!!」

唯「あずにゃぁぁーん!」

みんなの声が聞こえる。
誰もが、ウルトラマンの勝利を信じている。

『ふん……うるさいカトンボが。貴様らがキーキー喚こうが、我々の勝利は約束されたも同然』

純「バッッカじゃないの!?」

『ん?』

純「そのカトンボなんかに散々翻弄されたおバカさんは、どこの誰でしたっけー!?」

『……!』

純の声が聞こえる。
そう……敵わないわけじゃない。

梓「ウルトラマンのいない世界を我が物に――なんて、考えることが悪ガキそのものじゃない」

梓「はっきり言って、幼稚園児以下ですよね……」

梓「そんなお山の大将ごときに――私たちの世界を、壊させはしない!!」

勇気を乗せた正拳突きを、ヤプールに叩き込む。続けて、近づいてきた怪獣を後ろ蹴りで引き離す。
しかし、怪獣はすぐに体勢を整え、体当たりでタロウを吹き飛ばした。

梓「うぁぁっ!?」

さらに、倒れたところに踏みつけられ、蹴られて転がされる。

『デァァ……ッ!!』


憂「あぁっ……タロウ!」

純「こんなピンチなのに、応援しかできないだなんて……!」

紬「でも、応援しましょう!それしかないわ!」

唯「頑張れー!!ギー太だよ、ほら!応援してるんだよー!!」

澪「私も!エリザベスも!!」

純「私だってほら!!ウルトラマンの人形!お守りなんだから!!」

♪―――

(聞こえる……あの音が)

(私たちの――放課後が)

♪―――

律「ウルトラマァァン!!」

梓(……律先輩……)

律「私のせいで、あんたを散々な目に遭わせちまった!本当にごめん!」

律「でもな!!私が本当に望んだのは怪獣なんかじゃない!!」

律「私が本当に見たかったのは、どんな強敵にも負けない――無敵のヒーローなんだ!!」

律「ウルトラマンなら……絶対、勝って!!」

『――トァァァッ!!』

『キュルルルルル!!』

怪獣のキックを間一髪でかわし、小型のビームで迎え撃つ。
そして、側転で間合いを取り、再びファイティングポーズをとった。

『ほう……まだ立つか。虚勢など張らず、さっさと倒れていれば苦しまずに済むものを』

梓「そんな必要ない」

『む?』

ヤプールに向けて、力の限り言い放つ。

梓「苦しくなんかない……私には光太郎さんが、応援してくれる皆さんがいる」

梓「いや――皆さんの心が、私と一緒に戦ってるの!」

梓「私は、一人じゃない!』

『知るか!くたばれ、死に損ないが!!』

『キュルルルルル――!』

キュイイイイ――

紬「あれは……タロウを一度倒した技じゃない!」

憂「しかもヤプールまでなんか溜めてますよね!?」

澪「まずい!あんなの当たったら……!」

唯「でも、避けたら街がひどいことになるよ!」

梓「く―――――」

『死ねェェェェッ!!』

純「あずさぁぁぁぁッ!!」

大地を焼き尽くす轟音が鳴り響く――その瞬間。


『――シェァァァッ!!』


一筋の光が、天空を貫いた。

『キュルルルルル……!!』

澪「な、なんだ!?怪獣が倒れたぞ」

律「今の、何があった?」

唯「何かがぶつかったような――あ!」

『ぐわぁッ!?』

紬「赤い、玉……?」

光をまとった赤い球体が、怪獣とヤプールを切り裂いていく。

『――シュワッ!!』

赤い球体は突然眩く発光し、人の形を作った。

銀色の巨体に、赤いライン。
胸には数多の勲章。
燦然と輝く光の戦士――

『――ゾフィー兄さん!!』

「兄さん、ってことは」

『ああ。ウルトラ兄弟の長男――ナンバーワンさ!』

わっ、と歓声が巻き起こる。

『遅くなってすまない、タロウ。この異世界を探り当てるのにだいぶ時間を使ってしまった』

『兄さん……ありがとう』

『礼を言いたいのはこちらだ。ありがとう――中野梓』

梓「へ、私!?」

『君のおかげで、タロウや君の仲間を始め多くの命が救われたのだ。本当にありがとう』

梓「い、いえそんな……」

ゾフィーは改めて敵に向き直った。

『さあ、共に戦おう……この世界を守るために』

『はい!』

梓「やってやるです!!」

揃ってファイティングポーズを取る二人の戦士。
勝負はまだ、一回の表だ。

『トァァッ!』

『シュワッッ!』

タロウはヤプール。
ゾフィーは怪獣。
それぞれの相手に向かっていく。

『このぉッ……ちょこまかと!』

ヤプールの強力な火の玉が連続で発射されるが、タロウはそれらをすべてかわし、横っ飛びでヤプールを蹴りつけた。

『ぐぅ……!』

起き上がったところをローキックで身体を浮かし、地面に引き倒す。

『死にぞこないがァッ!!』

ヤプールは受け身を取って起き上がり、念動波を立て続けに乱発するが、タロウはそれを転がってかわし、ある場所に誘導した。

『キュルルルルル!!』

タロウの狙い通り、念動波はゾフィーと戦っていた怪獣に激突し、怪獣の動きが緩む。

『シェアッ!!』

ゾフィーは怪獣の喉に強烈なアッパーを叩き込んだ。会心の一撃に、澄んだ音が響く。
さらに側転で距離を取り、両手をあわせると、溜めたエネルギーをスパークさせて光線として打ち出した。

『キュルルルルル……!!』

光線はバリアを貼る暇さえ与えない速さで怪獣に直撃した。
決定打とはいかないまでも、かなりのダメージを負わせた様子だ。

タロウもそれを見て、得意の技を発動させた。

『タロウスパウト!』

身体を高速回転させ、竜巻を起こす。
竜巻となったタロウはヤプールを巻き込み、ぐんぐん空へと舞い上がった。
そして、高度10000メートル――竜巻の頂点でヤプールを放り出す。

「ふわぁ――私……この空を飛んでる!?」

『この――落ちろカトンボォッ!』

空中でぶつかり合い、激しい空中戦を展開する。
ヤプールの火の玉、タロウの光球が火花を散らす、一進一退の攻防が続く。
そして――

『いくぞ……キングブレスレット!』

タロウは機転を利かせ、腕のブレスレットに手をかけて自らの分身を作り出した。
実体と分身、変幻自在の軌道でヤプールを翻弄し――一瞬の虚を突き、叩き落とす。

『ぬわぁぁぁぁぁぁッ!』

ヤプールはまっ逆さまに墜落し地面に叩きつけられ、タロウもそれを追って地上に降り立つ。
今こそ、勝負の時。

『ハァァァ――デュアッ!!』

ゾフィーは前で両腕をあわせ、突き出した右手から必殺の一撃を繰り出した。

『キュルルルルル……!!』

光線の直撃を受けた怪獣は断末魔の叫びをあげ、ついに爆炎と共に崩れ去った。

純「やったぁぁぁぁっ!!」

澪「あとは、あの怪人だけだ!」

律「ウルトラマン!いっけぇぇぇーっ!」

『ストリウム――』

『「――光線!!」』

Tの字に組んだ両腕から、威力を乗せた虹色の光――ストリウム光線が叩き込まれる。

『ぐわぁぁぁぁぁッ!!』

光線はヤプールに吸い込まれ、体表で大爆発を起こした。

『馬鹿な……我々がこんなザマを晒すなど……!!』

梓「お前の負けです。おとなしく眠りなさい!」

『ふ、もう勝ったつもりか……ハハハハハハッ!!』

だが。

「……え?」

身体のあちこちから火花を散らし、息も絶え絶えだというのに、ヤプールは大声で笑っていた。

『ここまで我々をコケにするとはな……忌々しいやつらだ』

『だがもう遅い!ウルトラ兄弟め、まとめてここで道連れにしてくれる!』

『なにッ?』

『集まれガディバ!すべての闇を――我に集めよ!!』

ゴォォ…………!
ゴゥン……ゴゥン!

『うぉぉぉ……!!』

どす黒い闇のオーラが、ヤプールの身体へと結集していく。

澪「なんだあれ……寒気がする」

唯「ど、どうなってるの?」

律「変貌……」

唯「え?」

律「あいつ、溜め込んだ負のエネルギーを……すべて出し切るつもりだ」

そして闇が晴れた時、そこにいたのは。

『フハハハハハッ!!』

梓「な……!?」

機械のように無機質などす黒い身体。
両腕には巨大な鋏。
有り余るほどの重量感を誇る――邪悪の塊。

『――グランドキング!?』

梓「ゾフィーさん、光太郎さん……あいつは?」

『この世界の悪意を結集させた恐ろしい存在だ。かつて我々兄弟も戦った事がある』

『ヤプールめ、自らを憑代にするとは……なんて奴だ!』

『滅べ……ホロベ!!』

グランドキングは開幕早々、両手の鋏からレーザーをめちゃくちゃに打ち出した。

『デッ……!』

『ジュアッ!?』

避けきれずに何発かをまともに喰らい、両者共に怯むが、グランドキングはそんなことでは止まらない。
倒れたタロウ、ゾフィーにさらにレーザーを浴びせ続ける。
その勢いは、さながら嵐のようだ。

『破壊だ……ハカイダ!!』

『デュアッ!!』

なんとかレーザーから逃れたゾフィーは、突進してグランドキングにつかみかかるが……ピクリとも動かない。
膝蹴りやローキックを数発いれても、どこ吹く風と言わんばかりに弾き飛ばされた。

『トァァァッ!!』

続けてタロウが飛び蹴りを入れたが、グランドキングはさしたるダメージも見せない。
逆に鋏で掴まれ、派手につまみ出されてしまった。

梓「うぁぁっ!?」

『梓ちゃん、大丈夫か』

梓「うぅ……あの怪獣、なんて固さなんですか」

『正攻法じゃじり貧だ……タロウ!一気にいくぞ!』

タロウとゾフィーはお互いに頷きあうと、それぞれの必殺光線を発射した。

『ストリウム光線!!』

『ハァァ……デュアッ!!』

ダブル光線がグランドキングの腹部に直撃し、爆炎が巻き起こる。
……だが。

『ハハハハハッ!効かんわ!』

「うそ……!?」

炎の中から、まったく元気そうなグランドキングが姿を現した。

『くっ……やはり奴の体表は固すぎる!』

梓「光太郎さん、どうなってるんですか……?」

『奴の使い魔――ガディバの仕業だ。生物の情報を取り込み、強化して再現すると聞いたことがある』

『おそらく、奴は怪獣墓場でガディバに怪獣の魂を盗ませ、この世界に呼び出したんだ。この世界を侵略するために』

『だがタロウ、それを運用するには途方もなく膨大なマイナスエネルギーが必要なはずだぞ』

梓「まさか、それで律先輩を――あいつ!!」

『ハハハハハハ――キエロォォッ!』

再び、グランドキングの両手からレーザーがめちゃくちゃに発射され始めた。

『ウルトラフリーザー!!』

『ウルトラフロスト!!』

『グォルルル!!』

タロウとゾフィーが足止めに放った冷凍光線を軽々と受け止め、レーザーを打ち返すグランドキング。

『タロウ、立ち止まるな!的になるぞ』

『はい……!』

入れ替わり立ち替わり打撃を当てるものの、相手にうまくいなされる。
あまりの重量感に突き崩すこともできず、まるで要塞のようだ。

『シェアァッ……!』

『ンンッ……デッ』


『フハハハハハッ!つまらんぞウルトラ兄弟!
 その程度の力でこのグランドキングを倒すなど、思い上がりもいいところだ!』

悔しいけれど、ヤプールの言う通りだ。
おぞましい闇のエネルギーに包まれた装甲を前に、目立ったダメージすら与えられていないのだ。

ピコン――ピコン――

『くそっ――エネルギーが!』

梓「はぁ……はぁっ」

『諦めるな!我々兄弟はこの世界の希望だ!ここで倒れるわけにはいかん!』

梓「く……!」

諦めたくない。
こんなのに、私達の放課後を奪われたくない。
全身から力が抜けていく中、その一点だけが心の支えになっていた。
だが、カラータイマーも鳴り出し、身体は言うことを聞かない。
ゾフィーの檄がむなしく聞こえてくる。

澪「ウルトラマン、頑張れぇーっ!!」

紬「立って!!まだまだこれからよ!!」

(澪先輩……ムギ先輩)

律「負けんなーっ!!」

唯「頑張れ頑張れやればできる絶対できるだから諦めないでーっ!!」

(律先輩――唯先輩)

憂「梓ちゃん……」

純「――信じてるよ」

(憂……純!!)

大地を踏みしめ、立ち上がる。
まだ倒れるわけにはいかない。


梓「――絶対に、守る!!」

澪「ウルトラマン、頑張れぇーっ!!」

紬「立って!!まだまだこれからよ!!」

(澪先輩……ムギ先輩)

律「負けんなーっ!!」

唯「頑張れ頑張れやればできる絶対できるだから諦めないでーっ!!」

(律先輩――唯先輩)

憂「梓ちゃん……」

純「――信じてるよ」

(憂……純!!)

大地を踏みしめ、立ち上がる。
まだ倒れるわけにはいかない。


梓「――絶対に、守る!!」

『ふふ……しぶといやつめ』

梓「はぁぁぁぁぁっ!!」

なおも気合を入れてパンチや光線を連打していくが、一撃ごとに気が遠くなっていく錯覚に陥る。

『グォルルル!!』

梓「うぁぁぁッ!?」

グランドキングの全身がスパークし、発せられた衝撃波に吹き飛ばされる。
地面に派手に叩きつけられ、背筋を強打した。

『フンッ……デァァッ!』

『フハハハハハッ!!何が守るだ!自分の心配をするんだなァッ!!』

『シュワッッ!!』

ゾフィーがもう一度必殺光線を放つ。
だがその一撃もグランドキングには届かず、レーザーをまともに食らってしまった。

『ジュアッ……!!』

梓「うぅ……ぁ……」

駄目だ。
目の前がゆらゆら揺れて、何もわからなくなっていく。
守りたい。負けられない。
そんな思いが先立つばかりで、身体が役に立たないのが悔しかった。

『しっかりしろ!タロウ、梓!その身体はお前たちだけのものではないのだ!』

目の前でなおもゾフィーが戦いながら檄を飛ばす。
だが、このまま行けばゾフィーもエネルギーが切れてしまうだろう。
そうなれば、この世界は終わりだ。

『ハハハハハハッ!!!フハハハハハッ……!!』

ヤプールの嘲笑がさらに心を突き刺す――
――

――


紬「ひどい……なんて強さなの」

唯「さっきの怪獣と全然違うよ……!」

律「……くそっ!!」ダッ

澪「律!?どこ行くんだ!」

律「ウルトラマンを、梓を助けるんだよ!このままじゃあいつら死んじまうぞ!?」

澪「助けるって、どうやって!?あんな戦い、私達には応援くらいしか」

律「それじゃあもう嫌なんだよ!!」

澪「え?」

律「私はな!何が何だかわからんうちにあんなバケモノの手伝いしてたんだぞ!」

律「それで梓にもウルトラマンにも迷惑かけて、その二人に助けられた!」

律「それなのに……あいつが傷つくのを、ただ見てるだけなんて……情けないだろ!」

紬「……りっちゃん」

澪「気持ちはわかるよ……でも」

律「でもってなんだよ!梓はなぁ、ウルトラマンになってんだぞ!?」ガッ

唯「やめなよりっちゃん!」

律「私だって……私だって!!」


純「――同感ですよ」


澪「……鈴木さん?」

純「私も――いえ、みんな思ってるはずです。ウルトラマンを、梓を助けたいと」

律「ああ……でも、どうやって」

憂「弱気にならないことです」

紬「え?」

憂「私達が弱気になったら、本当にこの世界は闇に染まります。それこそがヤプールの目的」

純「梓があの悪魔とここまで戦えたのは、私たちがあの子を信じて応援してたからだと思うんです」

澪「信じる……?」

律「信じるったって……二人とも、どうしてそんな落ち着いてられんだよ」

純「知ってるからですよ。――この戦いの結末を」

憂「こういうのって、最後はヒーローが勝つじゃないですか?」

純「私たちは、梓を信じてます。梓ならきっとやってくれるって」

憂「その想いは、きっと梓ちゃんに通じてます。絆で繋がってるんです」

純「その繋がりがある限り――私達は、絶対に負けません!!」

――パァァァァッ!!

唯「ふぇ!?」

澪「なんだ!?地面から、光が――」

紬「――光がいっぱい!」

唯「ウルトラマンに……向かってく」

律「まさか――そういうことなのか」

澪「え?」

律「憂ちゃん!鈴木さん!協力するぜ!」

憂「――律さん!」

律「みんな集まれ!この光とつながるんだ!」

紬「……わかったわ!」

唯「了解です隊長!」

澪「頑張れ梓――」

律「奇跡を――起こす!」


(……う?)

突然、闇の中に光が生まれた。
初めはぽつりぽつりとだったのが、やがて仄かながら確かな光となり、私の中へ流れていく。

梓(この光は……)

光の奔流を受けて、重かった身体がだんだん動き始めた。

『光が……満ちていく』

戦っていたゾフィーの動きもキレが増していく。
その光は、人なら誰しもが持っている――希望の象徴。
そして、その源は。

律「梓……聞こえるか」

唯「もう、あずにゃんは一人じゃないよ」

紬「憂ちゃんと純ちゃんに教わったの。私達みんな、梓ちゃんと繋がってるって」

澪「私も戦いたい――梓と一緒に」

梓(皆さん――)

純「梓……いくよ」

憂「この光……受け取って!」

梓(――ありがとう!!)

『な……まだ立ち上がるだと!?』

梓「はぁぁぁ――」

光が、力が満ちていく。
この拳に、威力を込めて――

梓「――にゃあぁぁぁっ!!」

『アトミックパンチ!!』

『ぬぁ……ッ!?』

鈍い音を響かせ、グランドキングがよろめいた。

『ぬぅ……なぜだ!?なぜこんな力が!?』

さらに続けて左の一撃を打ち、もう一度右のストレート。
火花が散り、グランドキングが倒れ込む。

『くそっ、どうなっている!?』

溢れんばかりの光が、この戦場に収束していく。

『ヤプール!わからないのなら教えてやる!』

梓「この力は、私達の希望」

『お前が闇によって強くなるのなら――』

梓「私達も、この力で強くなれる」

収束した光が、雨嵐のように大地に降り注ぐ。
そして、今。

梓「それが――絆よ!!」

新たなる光の巨人が、この世界に降り立った。

『デアッ!!』

純「――ウルトラマンティガだぁっ!」

律「み、見たことあるぞ!あのウルトラマン!」

憂「ティガって、純ちゃんが人形持ってたやつだよね!」

紬「ほ、本物よね!?」

純「うん!あの紫と赤の色具合、絶対本物ですって!」

澪「夢みたいだ……」

律「夢じゃないぜ、澪」

唯「私達の光が、ウルトラマンになったんだよ!」

紬「ティガ――頑張って!」


「――頑張れぇぇっ!」

『ハァァ……デアッ!』

光の巨人――ウルトラマンティガはカラータイマーに手をかざすと、タロウとゾフィーに光を放った。
身体が溢れんばかりのエネルギーで満たされ、カラータイマーが鳴り止む。

梓「ありがとう……」

ティガは無言で頷いた。
このウルトラマンを詳しく知ってるわけではないけれど、不思議と想いが伝わってくる。

――それが、ウルトラマンだ。

『ぬうぅ……何が絆だ!たかが一人増えたくらいで調子に乗るなぁッ!』

『トァァッ!!』

タロウは向かってきたレーザーを跳び上がってかわし、必殺の飛び蹴り――スワローキックを見舞った。

『シェアッ!!』

ゾフィーがそこにタックルをかまし、前蹴りを当て反動で距離を取る。

『テァァッ!』

後ろに回り込んだティガが、すれ違い様にグランドキングの頭を掠めるようにチョップを入れた。

『ぐぬぅ……なんだこの威力は!?』

ヤプールが苦しげに声を荒らげる。
動きが重いという弱点を装甲の分厚さで補っていたグランドキングも、
僅かながらでもダメージが通るようになってはこの波状攻撃にたじたじのようだ。

『グォルルル!!』

グランドキングの鋏からヤプールの火の玉が次々と打ち出され、その中の一つが向かっていったゾフィーの頭を掠めた。

『ゾフィー兄さん!?』

『気にするな!!』

なんと、ゾフィーは頭を熱で痛めながらも突進をやめず、ヘッドバットでその熱を打ち消したのだった。

梓「すごい度胸です……」

『この程度、慣れている』

『このぉ……!!』

グランドキングはなおも鋏から火の玉を連打するが、今度はタロウがすべて腕で受け止めきった。
そして、腕のブレスレットを放電させてグランドキングに投げつけた。

『デアッ!』

そこにティガが両腕を後ろに引いて前で交差させ、徐々に開いてエネルギーを集約させる。

『――ハァッ!!』

その直後、L字に組まれた両腕から光の奔流が放たれ、痺れの残るグランドキングに追撃をかけた。

『シュワッ!』

『ストリウム光線!』

それを見たタロウとゾフィーも一斉に必殺技を放ち、ティガに加勢する。
3つの光は混ざりあって1つになり、グランドキングの体表で大爆発を起こした。

唯「いいよー!効いてるよー!」

律「すげえ、さっきより動きが断然よくなってる!」

紬「もう一声よ、梓ちゃん!」

澪「負けるなー!ウルトラマァァン!」

『トァッ』

『シュワッ』

『デアッ』

三人のウルトラマンがお互いに顔を見合せ、一斉に頷く。
もう、恐れるものは何もない。


『タロウ!受け取れ!』

『ハァァッ!』

ゾフィーとティガが一斉にエネルギーをタロウの角に送り込んだ。
ゾフィーの静かながらも澄んだ光。
ティガの希望に満ち溢れた輝かしい光。
そして――その中に、あの放課後の暖かい光。
様々な光が混ざりあい、私の中に入ってくる。

梓「光が……光が、私の中に!」

二人のウルトラマンがタロウと一つになる。
数多の光を受けて、全身が太陽のように輝き出した。

『おのれェェ!どこまでも邪魔しやがって!!貴様ら……絶対に許さんぞ!!』

梓「それはこっちのセリフよ!私達の大切なものを踏みにじって!!」

底知れぬ暗黒の闇と、無限に広がる虹色の光。
互いにエネルギーを凝縮した、渾身の光線をぶつけ合う。

『おおおおぉっ!!』

梓「にゃぁぁぁぁっ!!」

――あずにゃん――

――あずさちゃん――

――あずさ――

大切な人たちをそばに感じる。
それだけで、人は、どんな闇の中でも輝ける。

梓「―――はぁぁっ!!」

『……グォルルルル……!!』

闇のエネルギーを呑み込み、虹色の光――ネオストリウム光線が直撃した。


『これで終わりだ……いくぞ、梓ちゃん!!』

梓「はい!」

両腕を外回りに回転させ、カラータイマーに光を集中させる。
その光を、右の拳に乗せ――

『コスモミラクル――』

梓「――ティータイム!!」

悲しい非日常に引導を渡す、とどめの一撃を解き放った。

『ぐ……うぉぉぁぁッ!!』

闇を浄化する溢れんばかりの光が、内側からグランドキングの体を包み込む。

『貴様ら……これで勝ったと――思うなァァァァァッ!!』

光に吸い込まれるようにグランドキングの姿が消えていき、完全に見えなくなる。
次の瞬間、天地を揺るがすほどの大爆発が巻き起こり、空を覆っていた結界をも吹き飛ばしていった。

「……やった」

律「ぃやったぁぁぁっ!!」

澪「勝った……ウルトラマンが勝った!」

憂「やったね、お姉ちゃん!」

唯「よかったぁ……また、ムギちゃんのお菓子が食べれるんだね!」

紬「ええ!いっぱいごちそうするわ♪」

純「ありがとー!ウルトラマァァーーンッ!」

……


……ありがとー!……
…おつかれー!!…

たくさんの歓声が聞こえる。
その光景を、合体を解いて元に戻った三人のウルトラマンが見ていた。

梓「……勝ったんですね」

『ああ。梓ちゃん――君が、いや君たちが、この世界を守ったんだ』

梓「私が……世界を」

『そうだ。これでヤプールもこの世界に干渉することはないだろう』

梓「戻ってくるんですね。日常が――」

ゾフィーの言葉に答え、はっとする。

梓「――っ」

それはつまり、非日常との別れの時。
そして、それは――

『梓ちゃん……』

光太郎さんとの、別れの時だ。

梓「……お別れ、ですか」

『ああ』

梓「楽しかった、です……光太郎さんといた時間」

『僕もだ。梓ちゃん、本当にお世話になったよ』

たった二日。
短い時間に、いろいろなことがあった。

梓「……っく……」

一緒にご飯を食べたこと。
ギターを教え、一緒に弾いたこと。
強大な敵を相手に、ともに戦ったこと。
それらの経験一つ一つが、私の胸を締め付けて離さない。

梓「ひぅっ……うぅ」

『おいおい、泣くなよ。大切な仲間たちが待ってるんだぞ?』

梓「わかってます!でも……っ、せっかく、会えたのにっ……!」

わがままだとはわかっている。
それでも、言わずにはいられなかった。


梓「光太郎さんだって!私の、大切な人なんですから……っ!」


そんな私のわがままに、ウルトラマンタロウは。


『……ありがとう」


東光太郎として、私の前で答えてくれた。

梓「ごめんなさい……光太郎さんにだって、帰る場所があるのに」

『いや、いいんだ。君の気持ちは伝わってきた」

光太郎さんは、そう言って私の頭を撫でた。

『僕をこの世界に呼んでくれて、本当にありがとう」

梓「――どういたしまして」

その手の感触は、私の心を暖かく変えるのに充分すぎるものだった。

『梓ちゃん。君のことは忘れない」

梓「私も――絶対、忘れません」

辺り一面が光で白くなっていき、身体が地上に降りていく。
一体化も解けた今、今度こそ別れの時だ。

(――頑張れよ)

タロウがこちらを見て、しっかりと頷く。
私も、力強く頷き返す。

「――やってやるです」

『トァァァァァッ!』

光に包まれて大空へ飛び立っていくウルトラマンタロウ。
続けて、ゾフィー、ウルトラマンティガも光の中へと消えていった。


梓「光太郎さぁーん!さようならぁぁっ!」



その姿を見届けた私は、ゆっくりと瞳を閉じたのだった。

………
……

………
……


一週間後!

梓「おはよー、お母さん」

母「あら、おはよう。元気そうじゃない」

梓「まあね。もう退院して3日なんだから」

母「ならいいけど……本当にびっくりしたわよ。
  あなたが倒れたって聞いて急いで駆けつけたら、ベッドの上でニコニコしてるんだもの」

梓「あはは……」

母「しかも怪獣やらウルトラマンが現れて、この街がめちゃくちゃになるなんてね……」

梓「夢みたいだよね」

梓「……でも、夢じゃなくて良かった、かも」

母「え?」


梓「おかげで、いろいろ大切なもの……見つかったから」


母「……あら」

梓「どうしたの?」

母「なんか、今の顔……大人の女性って感じ。そんな顔もできるのねえ」

梓「にゃ!?」

母「はいはい。それより、今日は友達と約束があるんじゃないの?」

梓「え、あっもうこんな時間!急がなきゃ!」

母「忘れ物ないわね?」

梓「うん!いってきまーす!」


母「……ふふ」

――


梓「ういー、じゅんー!おまたせっ!」

憂「梓ちゃん!おはよ――」

純「う?」

梓「……何よ?」

純「いや、どうしたのよ急に髪下ろして」

憂「梓ちゃん、だよね?」

梓「ひどっ!?」

憂「なに、イメチェン?」

梓「まあ、ね」

純「……光太郎さん絡みか」

梓「にゃっ!?」ビクッ

純「図星かい」

憂「光太郎さんってそういうの好きだったんだ」

梓「ち、違うもん!そりゃ、確かに新鮮だねとは言われたけど……」

純「じゃあ何よ?」

梓「その……私さ、冷静に考えたらすごいことしてるわけで」

憂「ウルトラマンと一緒に過ごすどころか、ウルトラマンになっちゃったもんね」

純「こんなのがねえ」

梓「そう!だから、せめてそれに釣り合う、大人っぽい人になろうとね」

純「……ぷっ」

梓「わ、笑うな!」

純「だ、だってさ!あんたがそういう風にしてたら、澪先輩とモロかぶりじゃん」

梓「えーっ……でも私スレンダーじゃん、差別化はできてるよ」

純「このちんちくりんがそれを言うか」

梓「ちんちくりん言うな!」

憂「まあまあ。梓ちゃんは梓ちゃんなんだから、ムリに背伸びしなくてもいいんだよ?」

梓「うーん……やっぱり無理なのかなあ」

純「そのままでいいじゃん。そのままの梓も、光太郎さんが守った梓なんだから」

梓「そう?……ありがと」

梓「って、そういえば今日はどこに行くの?」

純「それは秘密」

梓「何それ」

憂「そろそろ準備も整った頃じゃないかな?」

純「そだねー。じゃあ行きますか!」

憂「ついてきてねー」

梓「あ、二人とも待ってよー!」

―――
――


純「とうちゃくー」

梓「って、ここ憂んちじゃん!」

憂「お姉ちゃーん!梓ちゃん来たよー」

『はいはーい!』

梓「何これ、回りくどいじゃん」

純「いいからほら、入った入った!」

梓「はいはい……」

パァンッ!

梓「!?」

唯「あずにゃん!」

紬「梓ちゃん!」

澪律「「いらっしゃい!」」」

梓「皆さん――」

唯「今日はお祝いだよー?」

澪「梓の退院祝いと、地球に平和が戻った記念のパーティーだぞ」

律「ここんとこ学校から自宅待機とか言われて、ストレス溜まりまくりだったからなー」

紬「食べて遊んで、一気に発散しちゃいましょう♪」

梓「――はいっ!」

こうしてまた、平穏な日常が始まりました

学校が全壊した今、これからの生活がどうなるか想像もつきません
もしかしたら、転校だなんだでみんなと離ればなれになるかもしれません

でも、何も怖がることはありません
「前に進む心」さえあれば、どんな困難にも立ち向かえることを知ったんですから――


梓(――また、どこかで)


おわり。

投稿がこんな飛び飛びになりながらもなんとか終われました。
いつぞやのエイプリルフールでタロウがあずにゃん云々とか言ってたので光太郎さんとして絡ませたかったんですが、
正直絡ませ方としてはもうちょっとやりようがあったのかなあと思います……

ここまでレスしてくださったみなさん、本当にありがとうございました。

自分はあまりウルトラマンの事は詳しくありませんがとても楽しめました。

>>293
楽しんでもらえたならなによりです。

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