佐天「ベクトルを操る能力?」(1000)

・気まぐれ更新になると思うので、遅筆になる可能性があります。

・カップリング要素は薄め。

・多少のシリアスを含みます。

・自己理論全開でお送りします。

・佐天さんは無能力者に決まってるだろ、という方は戻る推奨です。


―風紀委員第177支部―
佐天「うーいっはるー!!」

初春「あれ? 佐天さん、上機嫌ですね。何かいいことでもあったんですか?」

佐天「ふっふっふー。私もついに能力者になったのだーっ!!!」

初春「本当ですか!? おめでとうございます!!」

佐天「ありがとー。初春」

初春「それで、どんな能力なんです?」

佐天「うん。先生が言うには、『ベクトル』を操る能力らしいんだよね」

初春「べくとるですか?」

佐天「うん! カッコイイよねー、ベクトル」

初春「えっと、べくとるってなんですか?」

佐天「ゴメン。実は私も知らなかったり」

初春「ええっ!?」

佐天「はははは……」


初春「で、でも、能力は使えたんですよね? どんなことができたんですか?」

佐天「身体検査(システムスキャン)の時は、スプーンが曲げられました」

初春「それはまたレトロな……」

佐天「やっぱりそう思う?」

初春「そうすると、『べくとる』っていうのは生き物じゃないんですね」

佐天「いやいや、生き物を操る能力ってのも聞いたことないよ?」

初春「精神感応系の能力ならできそうじゃないですか?」

佐天「そりゃそうかもしれないけど」

初春「でも、そうなると、『べくとる』っていうのは何なんでしょうか?」

佐天「御坂さんか白井さんなら知ってるんじゃない?」

初春「あ、そうですね。あの2人ならきっと……」

白井「私がどうかしまして?」

佐天「あ、こんにちわー。今、来たところですか?」

白井「ええ、そうですの。何か私に聞きたいことがありまして?」

初春「白井さんは『べくとる』ってなんだか知ってますか?」

白井「ベクトルですの?」

佐天「はいっ!」


白井「力量の大きさと指向性を示すものだったと思いますの」

佐天「……はい?」

白井「つまり、力の向きとですの」

初春「力の向きですか」

白井「でも、なぜ急にそんなことが気になりましたの?」

初春「それが……」

佐天「どうも、私の能力が『ベクトル』を操る能力らしいんですよ」

白井「ということは……」

佐天「そうですっ! ついに私も能力者に!!」

初春「わー」パチパチ

白井「あらまあ! それは、おめでとうございます。佐天さん」

佐天「いえいえー」

初春「そうだ! 明日辺り、御坂さんも呼んでお祝いしませんか?」

佐天「え? お祝い?」

白井「いいですわねー」

佐天「な、何もそこまでしてもらわなくても……」

初春「いいじゃないですか。ついに、念願が叶ったんですから」

佐天「そ、そうかな? ……それじゃお言葉に甘えて」

白井「ええ。それじゃ、お姉様にも連絡しておきますの」

初春「お願いします。白井さん」


白井「しかし、ベクトルを操る能力ですか」

佐天「まだ、良く分からないんですけどね」

初春「それって、もしかして一般的な能力なんですか?」

白井「いえ、そんなことはないと思いますの。常盤台にも、そんな能力をもった生徒はいなかったと思いますし」

初春「常盤台中学にもいないんですかー」

白井(ただ、どこかで聞いたことがあるような……)

佐天「んー。これってすごい能力なんですかね~?」

白井「どの程度までの干渉力があるかわかりませんが……極めれば、相当な能力になるのは間違いありませんの」

初春「それを言ったら、極めれば、なんだってすごい能力ですって~」

佐天「あははは。だよねー」

白井「物事の重大さを理解していないお方たちですわね……」 


その数分後、風紀委員の仕事が入ってしまったため、半ば追い出されるような形で支部を後にした。


佐天「ちぇっ。もうちょっと白井さんに詳しく聞きたかったんだけどなー」


ま、仕事じゃ仕方ないか。邪魔するのも悪いし。
いつもなら、多少食い下がるのだが、今日はそんな気分じゃない。
ブラックな気分って訳じゃないんだよ? というか、むしろ逆。


佐天(なんて言ったって、今日から私も能力者だもんねー)


その事実だけで、世界が輝いて見える。
昨日までとは違う場所に来てしまったのではないかというほどに。


佐天(あ、そうだ。分からないなら、自分で調べればいいんだよね)


そうと決まれば、話は早い。
さっさと帰って、インターネットで調べてみることにしよう。

~~~

佐天「えーっと」


自宅に帰り、さっそくパソコンを起動。
とりあえず、適当に『ベクトル』と検索してみる。


佐天「なになに? 大きさだけでなく、方向と向きをもつ量?」


その説明に続いて、意味の分からない数式の羅列が目に飛び込んでくる。


佐天「なるほど」


一度、画面から目を離し、一息つく。
うんうん。なるほど、なるほど。


佐天「とりあえず、分からないということが分かった」


ちょっと、これは1人じゃどうにもならないかも。
とりあえず説明のところだけ暗記してみて、明日初春に聞いてみようかな?
きっと困った顔するんだろうなー。
……あ、それ面白いかも。


佐天「ふっふっふ」


よーし。それじゃ気合入れて覚えるとしますか!


翌日

佐天「やば……。結構忘れてる」

佐天(方向と向きをもつ量だっけ? 白井さんに言われた以上のことは覚えられなかった……)

初春「何がですか?」

佐天「いや、昨日、『ベクトル』についてちょっと調べたんだけど、大したことが分からなくてねー」

初春「あ、そうでした!」

佐天「ん? なになに?」

初春「私も昨日調べたんですけど、『ベクトル操作』ってかなりレアな能力みたいなんです」

佐天「え? そうなの?」

初春「白井さんの『空間転移(テレポート)』が学園都市に80人もいないレアな能力ってことは知ってますよね?」

佐天「まあ、一応」

初春「ところが、『ベクトル操作』の能力者は、学園都市に2人しかいないんですよ」

佐天「2人? 私ともう1人ってこと?」

初春「そうです! しかも、そのもう1人って言うのが……」

佐天「言うのが?」

初春「学園都市レベル5の第一位『一方通行』なんです!!」

佐天「はい?」


佐天「学園都市の第一位と同じ能力? 私が?」

初春「そ、そうなんですよ」

佐天「うっそだー」

初春「う、ウソじゃありません!」

佐天「白井さんも聞いたことなかったみたいだし、レアな能力ってのは信じるよ? けど、さすがに第一位と同じ能力ってのはウソでしょー?」

初春「書庫(バンク)で調べたから間違いありません!」

佐天「ってことは、風紀委員で? それって職権乱用なんじゃ……」

初春「い、今はそんな話はいいんです! 問題は佐天さんの能力が―――」

佐天「でも、第一位と同じって言われてもなぁ……」

初春「え?」

佐天「能力が同じでも、私はレベル1だし、天と地ほどの差がある訳じゃん?」

初春「そ、それはそうかもしれませんけど……」

佐天「だから、そんなに大騒ぎするほどのことでもないんじゃない?」

初春「そうですかね?」

佐天「そうそう。気にし過ぎだってー」

初春「佐天さんは気にしなさすぎじゃないですか?」

佐天「そんなことないよー? これでも、割と驚いてるし」

初春「とてもそうは見えませんけど……」

~~~
放課後
佐天「よっしゃー! 今日の授業終わりー」

初春「それじゃあ、早速行きましょうか」

佐天「いつものファミレスだっけ? わざわざお祝いなんていいのにさー」

初春「もー。佐天さんは素直じゃありませんねー」

佐天「そ、そんなことないよ? 確かにうれしいけどさ!」

初春「はいはい」

佐天「よーし! それじゃ、早速―――」

教師「おい。佐天」

佐天「え? あ、はい。なんですか?」

教師「お前は少し残れ」

佐天「ええっ!? なんでですか!?」

教師「お前は昨日の身体検査で初めてLv1になったんだろ? だから、いろいろとやることがあるんだよ」

佐天「そうなの、初春?」

初春「ええ。ですけど、そんなに時間はかからないはずですよ」

佐天「そっか。じゃあ、先に行ってて。後から合流するからさ」

初春「はい。では、お先に」

教師「よし。それじゃ、佐天はこっちだ」

佐天「はーい」


―ファミレス―
初春「という訳で、佐天さんは少し遅れてきます」

白井「そういうことですの。懐かしいですわね」

御坂「そっか。佐天さんもついに能力者かー。頑張ってたもんねー」

初春「はい。あ、でも、その割には冷静だったような気がします」

御坂「そうなの? 私だったら手放しで喜んじゃうけど」

白井「いえ、あれはそうとう喜んでますわよ? 表に出さないだけで」

初春「ふふっ。そうかもしれませんねー」

佐天「お待たせしましたーっ」

初春「あ、佐天さん」

白井「早かったですわね」

佐天「はいっ! 簡単な書類と健康診断だけでしたから」

白井「健康診断? そんなのありましたっけ?」

御坂「能力によってはあるのよ。特に、覚えたては暴走しがちだからね」

初春「そうなんですか?」

佐天「らしいよ? なんでも、自分の能力で生体バランスが崩れる人もいるらしいからねー」

白井「それは知りませんでしたわね。ちなみに、どんな検診を?」

佐天「簡単な内診と血液検査だけでしたね」

初春「へえー」

御坂(でも、アレって普通1ヶ月とか経ってからじゃなかったっけ?)


御坂「それで、佐天さんの能力ってなんだったの? 検診受けたってことは、」

初春「あれ? 白井さんは、御坂さんに教えてあげなかったんですか?」

白井「それが、お姉様ったら、昨日は夜遅くに帰ってらっしゃって……」

御坂「ははは……。ちょろーっとね」

佐天「男ですか?」ニヤリ

御坂「ち、違うわよ!!」

初春「そ、そんなに大きな声を出さなくても……」

白井「どうだか? どうせ例の殿方と追いかけっこしていたに違いありませんの」

御坂「こほん。それで、佐天さんの能力ってなんだったの?」

白井(誤魔化しましたわね)

初春(誤魔化しましたね)


佐天「ふっふっふ。それはですね……『ベクトル』を操る能力ですーっ!!」


御坂「えっ?」

御坂(よりにもよって、一方通行と同じ能力?)

白井「どうかしましたの、お姉様?」

佐天「ちょっと、顔色悪いですよ?」

御坂「な、なんでもない! 大丈夫だから」

佐天「?」


御坂「…………」

初春「あ、そうそう」

白井「なんですの?」

初春「昨日は知らなかったんですけど、佐天さんの能力って、第一位と同じらしいんですよ」

御坂「!!」

白井「あら、そうでしたの? どこかで聞いたことがある能力だと思ってはいたのですが、まさか第一位とは……」

佐天「そんなに気にすることじゃないと思うんですけどねー」

御坂「…………」

初春「しかも、同じ能力を持ってる人は、他にいないんです!」

白井「ベクトルを操作できるとなれば、応用力も相当なものですし、制御が難しそうですわね」

佐天「そうなんですよねー。未だに、スプーン曲げくらいしかできなくって」

白井「お姉様? さきほどからお静かですけど、何かありましたの?」

御坂「え? あ、ううん。なんでもないわ」

佐天「そういえば、御坂さんはその第一位に会ったことあるんですか?」

御坂「―――ッ!!」

佐天「え?」ビクッ

佐天(す、すごく怖い顔してる……)


初春「み、御坂さん?」

白井「お姉様?」

御坂「あ、ゴメン。一方通行には会ったことあるわよ。ただ、あんまりいい思い出はなくてね」

初春(どうやらこの話題は―――)

白井(―――地雷のようですわね)

佐天「そ、そうなんですかー。さっき、家族でも殺されたような顔してましたよー?」

御坂「まあ、似たようなものかな」ボソ

佐天「え?」

白井「お、お姉様?」

初春「そ、その……」ゴクリ


御坂「なーんて冗談よ。ゴメンね。驚かせちゃって」


佐天「はい?」

初春「冗談?」

御坂「そ、冗談。大体、学園都市に両親はいないしね」

初春「な、なーんだ」ホッ

白井「お姉様もお人が悪いですわね」ホッ

佐天「びっくりさせないでくださいよー」

御坂「ゴメン、ゴメン。ちょーっと役に入り込んじゃったかなー。ははは」

御坂(そうよ。佐天さんに一方通行がしてきたことは関係ないじゃない。友達にあたるなんてダメね、私)


御坂「でもまー、一方通行とか頭真っ白だし、すぐに健康診断してもおかしくはないか」

佐天「ええっ!? 白髪なんですか!?」

御坂「そうよー。ベクトル操作で紫外線とかも全部はじいちゃってるから、ホルモンバランスが崩れるんだってさ」

白井「あらまあ。それはまた羨ましい能力ですこと」

初春「ということは、佐天さんも白髪に……」

佐天「ま、マジで?」

御坂「あ、それは大丈夫。アイツは全身に反射かけてるからそうなってるだけだし」

初春「反射ですか」

佐天「じゃあ、私はまだ使えないからセーフ!」

白井「紫外線を受け付けないか、白髪かと言われたら、まだ前者ですわね」

佐天「さすがに、この年で白髪はきついですからねー」

御坂「ははは。まあねー」

初春「異常はなかったんですよね?」

佐天「ん? 内科の方はね。血液検査はさすがに時間かかるってさ」

白井「まあ、今のご様子ですと、特に心配はなさそうですわね」

御坂「そうね。一応、私が診てあげようか?」

初春「えっ? そんなことできるんですか?」

御坂「生体電気に異常がないかどうかくらいだけどね」

佐天「んー。せっかくですし、お願いします」

御坂「はいはいっと」


御坂「んー」ビリビリ

佐天「なんかピリピリする」

初春「うわー。すごいですねー」

御坂「うん、オッケー。特に異常なし」

佐天「もう分かったんですか? ありがとうございます!」

御坂「いいって、いいって」

白井「それで、佐天さんは能力名は決めましたの?」

御坂「あ。そういえば、早い人はこの段階で能力名決めるんだっけ」

佐天「いえ、まだです。1回は簡単に変更できるけど、2回目以降は面倒な手続きが必要って聞きまして……」

初春「そうなんですよねー」

白井「ということは、書庫には『ベクトル操作』と載るんですの?」

佐天「らしいです」

初春「御坂さんと白井さんはいつ決めたんですか?」

白井「私は『空間転移』のままですの。特に思いつきませんでしたし」

御坂「私の『超電磁砲』は2つ目ね。レベル5になったときに変えたの」

初春「そうだったんですかー」

佐天「1つ目のはなんだったんですか?」

御坂「なんだったかな? あんまり良く覚えてないのよねー。『超電磁砲』がしっくりきすぎてさ」

佐天「そうですかー。せっかくなので、参考にしようと思ったんですけど」

御坂(『電撃祭り(エレキトリックパレード)』とは言えないわよねー……)


白井「そういえば、初春の能力はなんですの? 聞いたことありませんでしたけど」

初春「ひ、秘密です」

佐天「えー、なんでー? 隠すことじゃないじゃん」

初春「だ、ダメです! 秘密です!」

御坂「そこまで隠されちゃうと、逆に気になるわね……」

佐天「ですよねー?」

初春「で、でも! 『超電磁砲』みたいに、自分の得意技みたいな名前の方ってかっこいいですよねー」

白井「確かにそうですわね」

御坂(誤魔化したわね)

佐天(誤魔化した)

佐天「ん? そうすると私の能力名は……」

初春「『古典能力(スプーン曲げ)』ですかね?」

御坂「ぷっ」

佐天「しょぼっ!!」

白井「ですわね……」


佐天「レアな能力らしいのに、できることといったらスプーン曲げくらい……」

初春「そ、そんなに落ち込まないでくださいよ。きっと、そのうち他のこともできますから!」

御坂「初春さんの言う通りよ。いろいろできるから元気だして!」

白井「そうですわよ。何しろ、第一位と同じ能力ですもの」

佐天「み、御坂さん! 第一位とお知り合いなんですよね!? なにかアドバイスはありませんかっ!?」グワッ

御坂「え、えっとねー」

白井(地雷原を気迫で乗り越えましたの……)

初春(あの剣幕では仕方ないかもしれません)

御坂「私からじゃ、自動迎撃くらいしか教えられないわよ?」

佐天「え? 自動迎撃ですか?」

御坂「佐天さんの能力の場合、反射を常に設定しておくってことかしら」

白井「お姉様。それは、スプーン曲げからでは少しレベルが上がりすぎじゃありませんの?」

御坂「し、仕方ないじゃない! 制御方法が全然違うんだもん!」

初春「そうなんですか?」

御坂「た、確かに初期ヤムチャに、完全体セルと戦えっていうくらい無茶かも」

佐天「私は初期ヤムチャですか……」

初春「スプーン曲げですからねえ……」

とまあこんな感じで。

序盤は、いろいろと考えていた科学側の設定を書いてみる予定です。今回は、能力取得時の健康診断と能力名の登録について書いてみました。

ゆーっくりとした投稿になるかもしれませんが、よろしければ最後までお付き合いください。

な~んかヤケに見覚えのあるコテなんだけど、何書いてたか全く思い出せない…
過去作教えて下さい

>>26
こんな感じです。

神裂「と、問おうあなたが私のマスターか?」 上条「」(完結)1作目

佐天「レベル5シミュレーター?」(完結)2作目

姫神「彼氏ゲット」 絹旗「超大作戦!!」(完結)3作目 R-18

上条「もっと落ち着いた年上の人が好みなんだ」美琴「」(完結)4作目

麦野「浜面の浮気性をチェック!」 絹旗・フレンダ「おー!」(完結)5作目 R-18
麦野「浜面の浮気性をチェック!」 絹旗・フレンダ「おー!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1297/12977/1297761323.html)

番外個体「責任とってよね」 一方「」6作目 R-18
番外個体「責任とってよね」 一方「」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1299/12993/1299338873.html)
一方「責任取ってやる……」 番外個体「え?」R-18(完結)

上条「救われぬ者に救いの手を」(完結)7作目

>>8
ベクトル操作って絶対等速も入るのだろうか

これは期待大

佐天「うーいーはーるぅー!」血流操作!
初春「あばばばbbb」

期待コメありがとうございます。

続きを更新。

チュンチュン


佐天「う……。朝……?」


寝起きは最悪。
結局、昨日は、完全下校時刻になるまで大騒ぎし、見回りにきた警備員(アンチスキル)に大目玉をくらってしまった。
もちろん、それが最悪の目覚めに繋がった訳ではない。
心に引っかかっていたのは―――


佐天「よりにもよって、スプーンを曲げるだけの仕事をする夢を見るとは……」


せっかく獲得した能力でそれしかできないという現実。
見ていた夢をあえて口にしてみたのだが、やはり意味不明だった。
単純作業の山で死ぬほどつまらなかったイメージしかない。


佐天「せめて、他のことができればなー……」


とそんなことを思わなくもない。
第一位と同じ能力らしいのに、なんでこんなにも不便なのだろうか?
これなら、レベルアッパーのとき使えた風操作の方が……、


佐天「って、あれもベクトル操作か」


1人に宿る能力は1つきり。
ということは、あの能力は風を使った能力ではなく、ベクトル操作ということになる。


佐天「よし」


何事も挑戦あるのみ!



佐天「手のひらの上で渦巻きを作るイメージで……」


レベルアッパーを使ったときのことを思い出して集中。
思い出すのは造作もない。何しろあのときのイメージは強烈に残っている。
あれは、佐天涙子が生まれて初めて能力を使えた瞬間なのだから。


佐天「むむむ……」


しかし、5分、10分と挑戦してみるが、一向に風が発生する様子はなかった。
何か演算をミスしたのか?
それとも、レベルアッパーを使っていないから発動しないのだろうか?


佐天「ま、そんなもんか」


覚えたばかりの能力で、そこまで望むのも贅沢だろうという結論を下す。
中には、能力が発現してすぐにレベル4になったという天才もいるようだが、自分はどう考えても凡才だ。
でなければ、とっくに能力も発現していただろう。


佐天「でも、これでまた1つ前進」


まだ、使えないということが分かったのだ。
要するに、レベルアッパーを使ったときの自分にまだ届いていないだけ。
それなら、一歩ずつ前に進めばいい。


佐天「うんうん。私ってばプラス思考―――って、やばっ! もうこんな時間!?」


時計の刻んでいる時刻は7時45分。
今日も慌しい一日が始まる。


佐天「おっはよー。初春」

初春「あ、佐天さん。今日は随分ギリギリの登校ですね」

佐天「まあね。昨日、初春に『スプーン曲げしかできないヤムチャ』って言われてすごく傷ついてさ」

初春「そ、そんなこと言ってませんよ!」

佐天「そうだったっけ?」

初春「あれは御坂さんが言ったんです!」

佐天「でも、庇ってくれなかったってことは、少しはそう思ってるんでしょー?」

初春「ううっ。それは……ですね……」

佐天「あははっ。ゴメン、ゴメン。ちょっと意地悪しすぎたかな?」

初春「酷いです。佐天さん」

佐天「まあまあ。ヤムチャ呼ばわりしたことは許してあげるからさ!」

初春「や、ヤムチャさんだって頑張ってるんですよ!」

佐天「あー。そうかも……」

初春「あ、そこは納得するんですね」

佐天「でも、頑張ってる割には報われないキャラだよね」

初春「確かに……」

佐天「これ以上引っ張るのもあれだし、ここら辺で切り上げようか。もうすぐ授業始まるしさ」

初春「あはは。そうですね」


ホームルームが終わると、すぐに1時限目の授業が始まった。
科目は能力開発。
学園都市ならではの教科で、文字通り能力の理論を学ぶ訳だ。
その授業中に、1つ気づいたことがある。


教師「つまり、『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』というものが、能力を使うにあたって重要で―――」


それは、能力を獲得しても、勉強というものは退屈だ、ということだった。
はっきり言って、自分の能力が発現したのは、知識というものによってではなく、レベルアッパーによる経験の方が大きかったように思える。
確かに、「ああ、これがそうなのか」という部分もある。
だけど、それは感覚的なもので、知識があるからできるというものでもないような気がした。


佐天(能力があれば、少しは面白くなるかと思ったんだけどなー……)


しかも、この教科は、各能力で共通である部分しか取り扱っていない。
つまり、なぜ能力は使えるのかといったことや、どうやって向上させるのが効率的かといったことを学ぶのだ。
それぞれの能力に合った能力開発を受ける訳ではないので、本当に意味があるのかどうかも怪しい。


教師「このころから、五感を封じるガンツフェルト実験が行われるようになり―――」

佐天(あー、もう退屈……)


理論ばっかり覚えても、能力は使えないんじゃないかなーと考えていたせいで、睡魔という敵と戦うことになってしまった。


初春「―――ん。佐天さん」

佐天「あ。初春。どうしたの?」

初春「どうしたの? じゃありません。もう次の授業に行かないと遅れますよ?」


どうやら、結果は惨敗。
手鏡を出して、おでこが赤くなっていないかを確かめる。
うん、大丈夫。問題なし!


佐天「次の授業ってなんだっけー?」

初春「体育ですよ、体育」

佐天「げっ。私どこだったか確認してないや……」


体育の授業も、外とは少し違った事情がある。
簡単に言えば、クラス分けが少々異なる。
男子、女子の区分ではなく、能力の似たもの同士が同じクラスに分類されるのだ。
そのため、1クラスでは人数が少なくなるので、学年単位、他の学校では学校全体で一斉に体育を行うこともあるらしい。
レベルの低い学校では、体育教師が多いのが普通で、高レベルの学校になると、一般教師が体育を受け持つところもあるそうだ。
うちの学校では、レベル0が大多数を占めるため、学年単位で行っているという訳。


初春「まったくもう! うちはクラス分けが少ないから、きっと特殊クラスですよ」

佐天「あ、そっか。ありがと、初春」

初春「いえいえ」


うちの能力者のクラス分けは、『発火能力者(パイロキネシスト)』、『発電能力者(エレクトロマスター)』、そして『特殊クラス』の3つ。
特殊クラスというのは、聞こえがいいが、つまりは『その他』ということのようだ。
能力に合った運動というものでもあるのだろうか?


佐天「だーっ。疲れたぁー」


結論。大差なし。
これもレベルの低い学校ゆえなのだが、それならクラスごとに体育をやれと思わなくもない。
あまり時間もないので、疲れた体にムチを打ち、次の授業の準備を始める。


佐天「次は、歴史か……」

初春「あの先生の授業は、眠くなっちゃうんですよねー」

佐天「妙にゆっくりしゃべるからねえ」


そんなことを話ているうちに、件の先生が教室に入ってきて、授業が始まる。
中学で世界史、日本史と区分されているところは少ない。
他に学ぶことが多いので、高校に行ってから本格的に学習するというカリキュラムが組まれることが多いのだ。
ちなみに、この教科で学ぶことは外と大差ない。


教師「えー。量子力学者であるシュレディンガーは……」


能力に関する歴史が多少含まれている点以外は。
もっとも、その辺は『能力開発』の授業と被っているところが多いため、どちらかを集中して覚えればいい点を取ることができる。


佐天(やらないと、どっちも酷いことになるけどね……)


と、佐天は苦笑しつつ、ノートをとっていく。
今のところ、この2つはほぼ同じくらいの進行速度なので、さきほど居眠りしてしまった能力開発をカバーしなければならない。


昼休み前の4限は、記録術(かいはつ)の授業だった。
能力開発の科目が、理論中心であるのに対して、この記録術の授業は、どちらかというと実践的なものになる。
というよりは、実験的といった方が正しいか。


佐天「今日は、投薬? それとも、暗示?」

初春「えーと、投薬みたいですね」

佐天「ってことは、体育館か」


記録術というのは、投薬、暗示などによる『自分だけの現実』の開発を目的としている。
この科目は、レベル0にとっては苦痛以外のなにものでもない。
もちろん、成績的な意味で。


佐天「ところで、私たちに使われる薬って安全なのかな?」

初春「どうなんでしょう? あんまり気にしたことありませんけど」


この感覚は特別ずれている訳ではないことを注釈しておく。
実際に、投薬される側の生徒の意識はこの程度の認識であることがほとんどだ。
先生が安全と言っているから安全。
小さいときから学園都市にいる生徒ほど、これが当たり前だと思っている。


佐天「裏では、かなり危ない薬を使っているっていう都市伝説があるんだけどさー」

初春「佐天さんの持ってきた都市伝説の中では、一番リアリティがあって怖いですね……」


この教科の人気は意外と高い。
特に難しい知識を頭に入れる、肉体を酷使するといった訳ではないからである。


昼休みを挟んで、5、6限目は数学と英語だった。
この2つは、外の授業と同じであるため割愛。
学校は、6限目までなので、今日はこれでお終いだ。


佐天「んーっ。今日も学校終わりー」

初春「私はこれから風紀委員に行きますけど、佐天さんはどうします?」

佐天「どうしようかなー……」


初春の方から誘ってくるというのは珍しい。
いつもは、佐天の方から勝手にお邪魔している。
今日は特に用事がある訳でもないし、家に帰っても暇なだけだろう。


佐天「それじゃ、今日も顔出そうかなー」

初春「わー、助かります」

佐天「え?」


助かります?
なんだろう嫌な予感がする。
直感的に、佐天は初春のニコニコ笑顔から危険信号を感じた。
それも、今日は支部に立ち寄ってはいけないというレベルの。


初春「実は、手伝って欲しい書類が山ほど―――」


部外者に手伝わせるくらいなんだから、相当やばい。
初春が全てを言い終える前に、佐天は教室をダッシュで離脱することにした。


自室に帰り着くと、ふぅとため息をつく。
初春から逃げ切れたという安堵感からではない。


佐天「結局、何が変わったんだろ……」


ついに、憧れの能力を獲得したものの、変わったことといえば、体育のクラス分け程度。
喜んでくれる友達もいるし、能力自体に文句がある訳でもない。
ただ、能力があれば何か変わると思っていたのに、結局、何も変わらなかったという現実が待っていただけ。


佐天「もっと勉強しなくちゃダメなのかなー?」


そんなことを言いながらベットに倒れこむ。
凡人ゆえに一歩ずつ進まなければならないということは分かっていたけれど、次のステップまでは遥かに遠い。
まるで、先が見えない。


佐天「能力がないときは、能力があれば十分って思ってたけど、能力が手に入ってからは、それだけじゃ満足できないなんてね」


持っていないから欲しくなる。
手に入れたら、もっと上を。
あ、これって、能力だけじゃないのかも。


佐天「確かにあんまり変化はないけど、それでも前に進んでるよね」


確実に前へ進んでいるなら、それでいっか、といつもの結論にたどり着いたところで、お腹がぐーと鳴った。
いつの間にか外は真っ暗な夕闇に包まれている。


佐天「よーし! 今日ははりきって料理しよっ!」


テンションをあげつつ、ベットから跳ね起きて、まずは冷蔵庫を確認することにした。
ゆっくりでも、そんなに大きく変わらなくても、毎日が楽しければそれでいい。
それが佐天涙子の日常なのだから。







―――だが、このとき既に、その彼女の日常が急激に変化しつつあることを、彼女はまだ知らなかった。





よくある引きで今回の分は終了。学園都市の授業風景をメインにしてみたり。

体育教師は、体育の授業以外では警備員(アンチスキル)をしているという設定。

今のところタイトルあんまり関係ないけど、そろそろ一方さんの出番も近いです。

ケンカ良くない。

なんだか妙に筆が進んだので、続きを更新。


数日後 放課後
佐天「退屈な授業はどうにかならないものかねー……」

初春「それを私に言われても……」

佐天「ま、そうなんだけどさー」

初春「それにしても、佐天さんはちょっと居眠りが多すぎるんじゃないですか?」

佐天「あははは。それを言われると苦しいかも」

初春「能力者になったんですからしっかりしてくださいよね!」

佐天「あ。そういえば、今日は風紀委員はあるの?」

初春「はい。残念ながら。ここのところは妙に忙しいんですよね」

佐天「何々? なにかまた大きい事件?」

初春「そういう訳じゃないんです。ただ、白井さんが書類をサボっているのが溜まってしまって……」

佐天「それって、元々初春の書類だったりしないよね?」

初春「ノーコメントです」

佐天(やっぱりか……)


佐天「ここ最近、いつもの公園にたいやき屋が来てるらしいからどうかなーと思ってさ」

初春「たいやき屋さんですか?」

佐天「うん。あのクレープ屋の隣に来てるんだってさ。ライバル出現だねー」

初春「たいやきですかー。いいですねえ」

佐天「まあ、風紀委員の仕事じゃ仕方ないし、御坂さん誘って行ってみようかなー」チラチラ

初春「ううっ」

佐天(もう一押しかな? 今日は粘るね~)

初春「さ、さすがに今日サボったら、白井さんに何されるか分からないので、行けないですっ!!」

佐天「あらら」

初春「ううう……。ですので、明日にでも感想を聞かせてください」

佐天「わ、分かったから、そんな泣きそうな目で見ないでよ!」

初春「ところで佐天さんは、たいやきの中身は何派ですか?」

佐天「えーっと、やっぱりオーソドックスに餡子かな」

初春「ですよね! キワモノの感想とかいらないんで、餡子のたいやきの感想をお願いしますっ!」

佐天「あー、はいはい。それじゃまた明日ねー」

初春「絶対ですよー?」

佐天「覚えてたらね」

初春「絶対ですよ!!」

佐天(それじゃ、御坂さんに連絡しますか)


佐天は、御坂に連絡を入れると、オッケーとの返事が返ってきたので、公園でのんびりと待つことにした。
今日は天気も良く、肌寒くなり始める季節というのが嘘と思えるほどの陽気で、公園にもちらほらと散歩をしている人がいる。


御坂「ごめーん。お待たせー」


ぼーっとしていると、待ったというほどの時間も経っていない内に、待ち人が到着する。
常盤台中学のレベル5、御坂美琴。
自分とは違って、こういう人のことを天才というのだろう。


御坂「どうかした?」

佐天「あ、いえ。ちょっと考え事を」

御坂「ふーん?」


できれば、何を考えていたか触れないで欲しい。
自分が凡人だということは分かっているつもりだが、それを彼女が聞いたら、自分も凡人だと言い出しそうだ。
彼女の口から、直接そんなことを言われたら、ちょっと悲しくなる。いろいろな意味で。
だから、聞かないで欲しい。


御坂「そっか。じゃ、行こっ!」

佐天「はい」


結局、その思いが通じたのかどうか、彼女はそれ以上の追求をしてはこなかった。

そうそう。
今日の目的はたいやき屋。
初春に感想を聞かせることになってるから、うーんと悔しがらせてあげなくちゃいけないんだ。



佐天「悪くないですねー」

御坂「んー。こっちのイチゴ味は失敗かも」


2人はベンチでたいやきを食べながら談笑していた。
佐天は、初春から強く言われていた餡子。
一方の御坂は、チャレンジ精神あふれるイチゴジャムを選択。
組み合わせ的には悪くなかったのだが、何故か真ん中に餡子も入っていたのが失敗の原因だった。


御坂「これなら、餡子はいらないと思うんだけど」

佐天「あははっ、完璧な蛇足ですねー」


自炊をしている佐天にも経験がある。
何を作ったとは言わないが、キムチと天ぷらの相性は最悪だということはお伝えしておこう。


御坂「そういえば、あれから能力の方はどう? スプーン曲げ以外にも何かできるようになった?」

佐天「あー、それですかー」


話が途切れたところで、その話題を持ち出される。
能力を獲得してから、そろそろ1週間になるだろうか。
あれからも、少しは勉強や練習をしたのだが、一向に風は発生する気配がなく、ただ手のひらと睨めっこしているだけという結果になってしまっている。


御坂「でも、レベルアッパー使ったときはできてたんでしょ?」

佐天「そうなんですよねー」


何が悪いのか見当も付かない。
ほんのちょっとでも風が生まれれば、大喜びなのに。



御坂「どんな感じで練習してたか教えてくれる? 何かヒントがあるかもしれないし」

佐天「ええと……」


たしか、手のひらで渦を作るイメージで……。
あとは、レベルアッパーのときのことを思い出してたかな?


御坂「それなら、少しくらいは操作できてもおかしくないはずなんだけど……」

佐天「ん? あ、そっか」

御坂「何か分かった?」


風を生み出すイメージじゃなくて、操作するイメージなんだ。
だから、閉め切った部屋の中じゃ、風がなくてできなかったんだ。


佐天「それなら今なら……」


今日は天気が良く、風も少ない。
だが、まったく風がない訳ではない。
手のひらを上に向け、集中する。
風を操作するイメージ。風を操作するイメージ。


御坂「あっ!」

佐天「え?」


一体何が起こったのか、すぐには分からなかった。
だが、目の前では、風が旋回をするように渦巻いている。
うちわにも劣る勢いではあるのだが。
ちょっとしたことに気づいただけで、こんな簡単にできるなんて。



佐天「やった! やりましたよ、御坂さん!」

御坂「ちょ。落ち着いて、佐天さん」


ついつい、嬉しさのあまり、隣に座っていた彼女に熱烈なハグをしてしまう。
そのせいで、発生していた風の渦はあっけなく消え去ってしまったのだが、そんなことは些細なことだ。
さっきできたのなら、きっと今だってできる。
そう確信することができる。


御坂「そういうことの積み重ねが、能力の向上に繋がるのよ」


少し時間を置いて、冷静になった佐天に、御坂がそう告げる。
1回できれば、それだけ『自分だけの現実』が強固なものになっていくらしい。


御坂「試しに、また風を操作してみて」

佐天「え、えーっと」


手のひらの上で風を操作するイメージ……。
ん。よし、できた。
そよそよと、心地よい風が、手のひらの上で渦巻いている。
たしかに、さきほどよりも簡単に、風の渦を作ることができたような気がする。


御坂「『自分だけの現実』っていうのは、簡単に言えば思い込みなのよ。そう単純に成功しないようなことだと、なかなか確立は難しいんだけどね」

佐天「分かったような、分からないような……」


イマイチ、イメージが掴みにくい。
抽象的な説明だからだろうか?



御坂「例えば、時計を見ながら、今何時かを答えることはできるわよね?」

佐天「はい? それは当たり前じゃないですか?」


彼女が言いたいことが良く分からない。
それと『自分だけの現実』と何が関係しているのだろう。


御坂「じゃあ、時計を見ないで今何時か答えられる?」

佐天「え? それはちょっと厳しいですね」

御坂「そういうこと」

佐天「?」

御坂「適当に答えれば、時間は当たるかもしれない。けど、その次も正確に答えられる可能性は低い」

佐天「はあ……」

御坂「能力も同じで、時間を答えるのに成功したとき、それを当然と受け止めるか、偶然と受け止めるかの違いなのよ」


つまり、それを当然と受け止められれば、次も時間を当てられる。
    ・ ・ ・ ・ ・ ・
そう、事実を歪めて。

その歪みが能力に該当し、成功するのが当然と受け止める気持ちが『自分だけの現実』になるそうだ。


佐天「じゃあ、さっきのは、私が風を操作するのが当然だと思っていたから成功したってことですか?」

御坂「そう。さっきのだけじゃなくて、能力っていうのはそういうものなの」


能力とは、現実を侵食する力。
なかったことをあるようにしたり、あったことをなかったことにしたりと。



佐天「そうだったんですか。そんなことすら知りませんでしたよ」

御坂「本当はこういうことを授業でやるはずなんだけどね」

佐天「似たようなことは聞いたかもですけど、難しくて理解できなかったんででしょうねえ」


シュレディンガーがどうのこうのと教える前に、こんな風に分かりやすく教えてくれればいいのに。
理屈よりも分かりやすさ重視で、というのは学問の街としてはダメなのだろう。
学者先生たちは、小難しい言葉が好きだし。


御坂「でも、そこに気づけたなら、今までよりも能力開発は楽になるわよ、きっと」

佐天「なんだかそんな気がしてきました」


根拠なんてないけれど、そんな気がしてくる。
あ、これも『自分だけの現実』なのかな?


御坂「そうやって、ちょっとずつ『自分だけの現実』を確立していくことで、確実にレベルアップしていくのよ」

佐天「な、なるほど」


しかし、彼女はレベル1からレベル5になったという話だが、どれだけ努力すれば、その領域にまで達することができるのだろう?
今までも、相当の努力をしていたらしいということは知っていたが、実際に能力を得てみると、その凄さがひしひしと感じられる。


佐天「やっぱり、御坂さんはすごいですね」

御坂「そうかな?」


やっぱり、御坂さんはこんな反応。
でも、また分かったことが1つ。
1人で行き詰ったら、他の人の力を借りよう。
そうすれば、少しだけかもしれないけれど、先が見えてくるはずだ。



佐天「それじゃ、またやってみますね」

御坂「そうそう。その調子」


今日は大きな前進。
たいやきを包んでいた紙くずを、手のひらの上で飛ばして遊ぶ。
これだけでも、私にしてみれば、人類が初めて月に立ったというレベルの出来事だ。


御坂「なかなかいい感じなんじゃない?」

佐天「そうですか?」


そういえば、風の強さも、ほんのわずかだが強くなっている気がする。


御坂「佐天さんの場合はベクトルの操作だから、どこからどこまでの風のベクトルを操作するかによって強さも違ってくるのよ」

佐天「はい?」

御坂「つまり、操作範囲の指定ね。始点と終点を意識するといいかも」


急に難しいことを注文してくれる。
範囲の指定って言われても、今だって特に意識していないのに……。


佐天「え、ええっと……」


四苦八苦しながら、範囲の指定のコツを掴もうといろいろ努力はしてみた。
が、すぐに能力が打ち止めになってしまったので、続きはまた今度、と言い残して今日は解散することにした。


時間戻って、2人が解散する少し前。
佐天が紙くずを飛ばして遊んでいるころ、そんな2人を遠くから眺めている男がいた。
電磁レーダーの外に位置していたため、御坂が気が付かなかったもの仕方ない。
2人を眺めている男に、たいやきを持って近づいてきた女が話し掛ける。


???「どうしたの? また、好みの小さい女の子でも見つけた? あひゃひゃひゃひゃ!!」


その顔から出たとは思えないような下品な笑い声。
目の前の男を挑発しているようにしか聞こえない。
だが、男の方は、大して気にした様子も見せずに、2人を眺め続けていた。
そのうち、男は首筋に手を当てると、舌打ちをして、何かを確信したようにボソリとつぶやく。


???「あの女……」


その白髪の男の真っ赤な瞳は、確実に佐天涙子の方を見据えていた。

ここまでー。かまちーの理論を自己解釈したんだけど、こんな感じだよね?

佐天さんが能力獲得するSSは多いけど、地道に努力してステップアップしていくのは少ない気がする。

少しずつ地の文も上達してきてるはず……。

こうやって悩みつつ成長していく佐天さんはいいね
ただ暗部堕ちだけはやめて欲しいかも

もしかして佐天通行に・・・?

続きを更新。


ピピピピ。
クリアな目覚ましの音が聞こえてくる。


一方「ふァ……」


一方通行の朝は早い。
同居人が起きる前に、朝食の準備を済ませ、彼女らを起こしに行くのが彼の日課だ。
特に、居候先の黄泉川愛穂は高校の体育教師をしているため、朝7時30分までに出勤しなければならない。
なので、彼が起床する時間は、朝6時という時間になる。
もともと朝食は当番制だったのだが、「1人で朝食を取りたい」と言ったら、「じゃあ、お前が作れ」と言われた次第である。


一方「眠ィ……」


寝ぼけ眼を擦りながら起床すると、まず洗面台に直行し、顔を洗う。
これによって、意識を覚醒させ、準備に取り掛かるのが彼の習慣だった。


一方(今日の朝飯はどォすっかな……)


洗面所から、キッチンへと移動する。
すると、一番最初に目に飛び込んでくるのは、何台もの炊飯器だ。
これが、1人で朝食を取りたいと言った元凶である。
朝、昼、晩と1日3食ご飯では飽きても仕方ない。
というか、ご飯とコーヒーは合わなかった。


一方(学校の給食ってのは、米と牛乳らしいからな。それを考えりゃまだマシなのかねェ?)


そんなことを考えながら、一方通行は、パンをオーブンに突っ込み、フライパンに卵を落とした。


朝食が済むと、ちょうどタイマーをかけていた炊飯器が音を鳴らす。
このとき、きっかり6時30分。
自分と同じパンではなく、わざわざご飯を用意するのだが、同居人たちはなぜか喜んで食べる。飽きないのだろうか?
そして、おかずとして用意したのは、納豆と味噌汁。
納豆は、番外個体がすごく嫌な顔をするので、最近は朝ごはんの定番になってきている。
また、味噌汁がインスタントではなく、きちんとミソを溶いて作っているという辺り、本当に朝食を作るのを嫌がっているのかイマイチ判断に困るところだ。


一方(よし。こンなもンか)


3人分の朝食の準備が整うと、同居人を起こしに行くことにする。
まずは、黄泉川。
彼女はとにかく寝起きが悪い。
1人で暮らしていたときは、どうやって起きていたのか分からないというレベルである。


一方「オイ。黄泉川、起きろ」


被っている布団を引っぺがす。
黄泉川は下着で寝ることが多いのだが、今日もその例に違わない格好をしていた。
だが、一方通行はイチイチ反応などしない。


一方「起きろっつってンだろ」


電極のスイッチを一瞬入れて、ベットを蹴り、布団から黄泉川をはじき飛ばすと、次の部屋に向かう。


黄泉川「うおおああああああっ!!?」


床に落ちる瞬間、妙な叫び声がするのもいつも通り。


同居人を起こすといっても、実際に起こすのは黄泉川だけのことがほとんどだ。


打ち止め「おはよー、ってミサカはミサカは夢うつつの状態で挨拶してみるー」

番外個体「ううう……。やっぱり朝は苦手……」


この2人は、黄泉川と似たような起こし方をしたら、次の日から自分たちで起きてくるようになった。
部屋に目覚まし時計も置いていないので、黄泉川の叫び声が目覚まし代わりになっているのだろう。手間がかからず助かる。
同居人は4人なのだが、最後の1人は起こさない。
芳川は、ベットから蹴り落としても起きないという猛者なのだ。
勝手に起きてくるので、それまでは放っておくというのが、この家でのルールとなっていた。


打ち止め「今日の朝ごはんは何? ってミサカはミサカは尋ねてみる」

一方「納豆」

番外個体「げっ」


またかよ、という顔で、一方通行を睨む番外個体。
その視線を軽く流し、冷蔵庫から缶コーヒーを取り出す。
大体そのころには、身支度を整えた黄泉川が朝食の席に着いている。
身支度といっても、ジャージを着ただけで、化粧などといったことは一切しない。
オマケに、朝食を食べたらそのまま学校に直行である。
本当に色気がない。


打ち止め「いただきまーす」

黄泉川「いただくじゃん」

番外個体「いただきます」


味噌汁などをよそってやり、彼女らが食事を始めると、一方通行はテレビの電源を入れ、適当にチャンネルを回す。
近頃の事件や事故などを取り上げていたが、特に気になるようなニュースはやっていなかった。
実に平和なものだ。


7時に黄泉川が家を出ると、一方通行がやることは2つ。
洗濯と掃除。
学園都市最高の頭脳の無駄遣いもいい所である。


一方「暇だなァ……」


5人分の洗濯をして、家の中を徹底的に掃除する。
かなりの分量があるにも関わらず、一通りのことを済ませるのに30分もかからなくなった。
元々は、3~4時間かけてやっていたのだが、家事を効率化させすぎて暇を持て余してしまう結果となっていた。
ちなみに、打ち止めと番外個体は一切手伝わない。
何をしているか詳しくは知らなかったが、世界中の妹達とコンタクトを取っているのだろう。
話相手には事欠かない2人だ。


一方「どォしたもンかねェ……」


持て余している暇を有意義に使うため、外に仕事に出るというのも1つの手ではある。
だが、アレイスターがいる限り、いつ自分や同居人たちが襲撃を受けるか分からない。
そのような事情があるため、長い時間家を離れる訳にはいかない。
つまり、そんな彼にできることといえば、


一方「寝るか……」


睡眠である。
昼夜問わず襲撃の可能性があるので、小まめに睡眠を取ることは理に適っていた。
昼飯を作るのも一方通行なので、腹が減れば同居人の誰が起こしてくる。

時刻は午前8時。
芳川はまだ起きてこない。



黄泉川「たっだいまー」

打ち止め「おかえりー、ってミサカはミサカは元気いっぱいにヨミカワを出迎えてみるー!」


昼食も終わり、午後3時になると、黄泉川が帰宅してきた。
学校で授業が終わると、このように一度帰宅し、警備員としての仕事に出発する。


番外個体「せんせーは頑張るねぇ」

一方「まったくだな」


ソファーに寝そべったまま、まるで他人事のように対応する一方通行と番外個体。
番外個体は、ロシアから帰ってきてからの数日間。
一方通行は、それ以前にもここに来たことはあったが、9月30日の事件に巻き込まれたせいで、ほとんど番外個体と同じくらいしか滞在していないはずだ。
平和が合わないだ、なんだと言っているにも関わらず、ここ数日で慣れすぎである。


黄泉川「そこで暇そうにしてるお二人さん」

一方「あァ?」

番外個体「ミサカも?」

黄泉川「反応したってことは、実際に2人とも暇なんだろ? ちょっと買い物をしてきて欲しいじゃんよ」


つまらない手に引っかかった2人をニヤリと見つめる黄泉川。
だが、一方通行にしてみれば、外に出るのも悪くない。


一方「別に構わねェよ」


ひょっとしたら、またくだらない連中が外をうろついている可能性もある。
そういった連中がいないならば、今のところは心配する必要はないということだ。


杖をついて外に出ると、キョロキョロと辺りを見回す。
特に不審な影は見当たらない。


一方「どォ思う?」

番外個体「うん。また、ご飯にかけるものばっかりだね」


番外個体は、黄泉川から受け取ったメモを見ながら、ぶつぶつ文句を言う。
真剣に言っているのか、茶化しているのか微妙に分かりにくい。
そんな番外個体を、一方通行がギロリと睨む。


番外個体「おー、怖い。冗談だって。そう怒らないでよ」

一方「なら、さっさとオマエの意見を聞かせろ」

番外個体「様子見なんじゃない? 準備が整うまでは何もしてこないと思うよ」


ケロッとした様子でそんなことを口にする番外個体。
この場合の準備というのが何を指すのかは分からない。
一方通行の殺害。
あるいは、打ち止めの拉致。
はたまた、別の策略か。
どちらにしろ、自分か打ち止めがその中心にいることに変わりはないだろう。


一方「チッ。受身ってのは、性に合わねェンだけどなァ……」

番外個体「けけけ。おモテになることで」


番外個体もそんな策略で送り込まれた1人だったはずだが、もはや記憶の彼方のようである。
どちらにしろ、そこそこの警戒をしつつ、相手の出方を見るくらいしかすることはなさそうだ。
そんな訳で、他にすることもないので、2人は黄泉川に頼まれた買い物を済ませることにした。



番外個体「慣れないねえ」


買い物を終え、店を出ると、番外個体がそうつぶやく。
相変わらず、スーパーには間の抜けたポップソングが流れ、平和が当たり前だと思っている学生たちで溢れていた。
店を出た今でも、そのポップソングが耳から離れない。
暗示でもかけられたような気分になったのか、番外個体は顔をしかめている。


番外個体「脳から消えにくい音程、リズムでも研究してるのかな?」

一方「知らねェよ」

番外個体「こんなんでミサカたちが日常に溶け込むことなんてできるのかねえ?」


この場合の“たち”とは、番外個体と一方通行のことだろう。
店の中で、一方通行は明らかに避けられていた。
多少、丸くなったとは言え、殺気を放ちすぎなのである。


一方「そォも言ってらンねェだろ」

番外個体「そうだけどさー」


ブツブツと文句を言う番外個体だったが、公園に差し掛かったところでふと足が止まった。
番外個体の視線の先をたどると、そこにはワンボックスカーを改造したようなクレープ屋とたいやき屋の屋台が営業している。
視線は、そこに釘付けだった。


一方「太るぞ」

番外個体「た、食べたいなんて言ってないし!」


しかし、目線は反らせないでいる番外個体。
一方通行は、ハァとため息をつくと、公園の中に足を踏み入れることにした。



一方「好きなもン買って来いよ」


そう言うと、適当なベンチを探し腰を下ろす。
今回の買い物で、生ものは含まれていたなったので、少しくらいゆっくり帰っても問題ないだろう。


番外個体「別に食べたいなんて言ってないじゃん」

一方「なら帰るぞ」

番外個体「あー。でも、せっかくだし、少しくらい食べていってもいいかなー」


結局、見栄よりも、食べたいという欲求が勝ったようだ。
というより、屋台を発見した時点で、すでに決着は付いていたような気もする。
実に素直じゃない。
「あなたも食べるでしょ?」という提案を、丁重にお断りすると、番外個体は屋台に向かっていった。


一方「そォいや、あいつ1人で買い物なンて大丈夫か?」


先日、スーパーで商品を盗むだとか、食中毒のフリをするだとか言っていたことを思い出す。
サイフは持っているはずなので、大丈夫だとは思うが……。
ある意味、打ち止めが初めておつかいをするより危険だ、ということに気づいた一方通行の背筋に冷たいものが走る。


一方「そンときはそンときか……」


万が一の場合は、番外個体を埋めることにしようと決めたところで、あることに気づいた。
顔見知りの人物が少し離れたところにいたのだ。
妹達のオリジナル、御坂美琴である。


なぜ一目で分かったのかというと、友人らしき人物と一緒にいたからだ。
妹達と一般人が仲良くおしゃべりしているというのは考えにくい。
幸いこちらにはまだ気づいていないようである。


一方「なンでこンなところに……、ってそりゃ俺の方か」


番外個体が帰ってきたら、一刻も早く公園を去るのがベストだろう。
鉢合わせでもしてしまったら、何を言われるか分かったものではない。
彼女たちは何やら話をしているらしかった。
とても聞こえるような距離ではないので、何を話しているかまでは分からなかったが。


一方「アイツに友達なンていたンだなァ……」


と失礼なことを言っているように思えるが、意外と笑えないのが現実だ。
レベル5という怪物は、どうしても周囲から浮きがちになってしまう。
だから、自分を慕うものや部下のようなものはできても、友人ができるケースはそう多くはない。
例えば、一方通行とか。
その点、御坂美琴は、他のレベル5と比べて人付き合いがうまいのだろう。
その友人らしき人物が、彼女と違う制服を着ている点からもそのことが窺える。
包み紙を飛ばして遊んでいるところを見ると、その友人は風力使いなのだろうか?


一方(あ? ……いや、気のせいか?)


わずかに空気の流れが風力使いのそれとは違っている気がする。


番外個体「どうしたの? また、好みの小さい女の子でも見つけた? あひゃひゃひゃひゃ!!」


と、そこに番外個体がたいやきを持って帰ってきた。
だが、今はそんなことより確認しなければならないことがある。


首に付けられたチョーカーの電源をONにする。
たったそれだけで、そこにいた色白の男は、学園都市最強の超能力者に変化する。
いや、変化するというより、力を取り戻すといった方が正しいだろう。
その莫大な演算能力で、一方通行は、目の前の事象を瞬時に理解する。

風力使いの能力は、風を生み出すことである。
電気や炎を使う能力者と同じで、何もないところから風を作り出す。
しかし、あの女は、自分の周囲の風を取り込んで風の渦を発生させていた。
いや、それだけならまだ風力使いの可能性はある。
低レベルの能力者なら、自力で演算できない部分を、元からある物で代理することも珍しくないからだ。
だが、彼女は『全く』風を生み出していない。
つまり、あの女は風力使いではないということになる。
何かの余波で風が発生しているということでもなさそうだ。

自力では風を発生はせないにも関わらず、風を操る能力。
一方通行には、そんなことを可能にする能力に1つしか心当たりがなかった。

『ベクトル操作』

つまり、自分と同じ能力。


一方「あの女……」


だが、まだ確信はできない。
もしかしたら、新種の能力である可能性もあるし、風しかベクトル操作できない能力者の可能性もある。
番外個体が何やら話しかけてきているが、一方通行は全て無視し、ポケットから携帯を取り出した。
ダイヤル先は黄泉川愛穂だ。


黄泉川『もしもし? そっちから電話かけてくるなんて珍しいじゃん』

一方「急ぎの用件だ。調べてもらいたいことがある」

黄泉川『聞こうか』


緊急性を察知したのか、黄泉川の声色が真剣なものになる。
これならば、説得する手間も省けそうだ。



一方「俺と同じベクトルを操作する能力者が、最近登録さてれないかどうかだ」

黄泉川「少し待ってな」


『最近』と付け加えたのは、絶対能力進化実験の際に、同じ能力者はいないと聞いたことがあったからだ。
もっとも、同じ能力者がいても、演算能力の差は歴然としていただろうが。


黄泉川「お待たせ」

一方「で、どォだ?」

黄泉川「該当が1件。数日前に登録されたばかりじゃん」


やはり。
これで、あの女が同じ能力を持っていることは確定だろう。


一方「名前は?」

黄泉川「柵川中学1年、佐天涙子って子じゃん」

一方「分かった。後はこっちで何とかする」


そう言って、通話を切る。
さて、これからどうするべきか……。
今なら、超電磁砲も付いていることだし安全だろう。
手を打つなら早い方がいい。


一方「番外個体」

番外個体「何さ。今の今までずーっと放置してたクセにー」

一方「オマエは先にこれ持って家に帰ってろ。俺はやることができた」

番外個体「えっ!? ちょ、待っ―――」


番外個体が文句を垂れる前に、足元のベクトルを操作し、公園の外へと飛び出す。
既にこれからどうするかは決めている。
とりあえず、あのお人よしの統括理事のところに行くために、タクシーを捕まえることにしよう。

一方さん目線で話を展開してみた。なんか番外個体がメインヒロインみたいになってない?

時系列ですが、ロシア帰還後で『新入生』の事件が発生してないって感じで。

禁書の本編に佐天さんを送りこんでるみたいで違和感がすごい。



最近は炊飯器でパンも作れると聞いた事あるような


風の流れを操るってことなら空力使いって可能性も考えると思うけどなー

打ち止め「・・・・・・・・」ゴゴゴゴゴゴ

あと一方通行の劣化版についての情報(参考程度)
・一度に一種類しか操れない
・一度に一方向からの攻撃しか操れない
・一定以上のエネルギーは操れない
・一定以上の速度は演算が追いつかないため操れない
・一定以上の範囲攻撃は操れない
・掌で触れている物しか操れない
・オート防御出来ない
・反射しか出来ない
・時間制限あり

佐天さんがレベルアップしても二つか三つかは当てはまりそう。

打ち止め「・・・・・・・・」ゴゴゴゴゴゴ

あと一方通行の劣化版についての情報(参考程度)
・一度に一種類しか操れない
・一度に一方向からの攻撃しか操れない
・一定以上のエネルギーは操れない
・一定以上の速度は演算が追いつかないため操れない
・一定以上の範囲攻撃は操れない
・掌で触れている物しか操れない
・オート防御出来ない
・反射しか出来ない
・時間制限あり

佐天さんがレベルアップしても二つか三つかは当てはまりそう。

ごめん・・・・間違えて二回書き込んじゃった(スレを汚す気は早々ないです。)・・・・ちょっと木原拳を受けてくる・・・・

ごめん、これが今の俺の>>1やここの住人への気持ちだ

    r'ニニ7      本当に申し訳ないという気持ちで…

     fトロ,ロ!___       胸がいっぱいなら…!
 ハ´ ̄ヘこ/  ハ
/  〉  |少  / |      どこであれ土下座ができる…!
\ \    /| |
 ┌―)))――)))‐―┐      たとえそれが…              §,; ________§; ,
  ヽ ̄工二二丁 ̄ .                           || §; /    § ヽ  ||
   〉 ヽ工工/ ;′∬     肉焦がし… 骨焼く… . . .    |~~~§~     §'~~~~~~|  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

  lヽ三三三∫三三\;'                          | ____§/"""ヽ,§_____  | < すいませんでした・・
  h.ヽ三∬三三';.三三\';∫   鉄板の上でもっ………     |__|///(§  §)ノ////|__|///\________
  └ヽ ヽ三,;'三三∬三;'三\'"                     ⊆___)///ゝ___§ノ/////(____⊇////
    ヽ |__|烝烝烝烝烝烝|__|                   ///////////////ジュ~////////////
      lj_」ー――――‐U_」 .                     /////////////////////////////



違和感というのは、書いててということです。

ついでに、質問なんかに返信。

>>109
今のところその予定はありません。

>>111
今のところその予定は(ry
ただ、こっちに関しては、書く可能性がない訳じゃないです。
展開次第ってことで。

>>134
パンは作れるかもしれないけれど、元凶には違いないですよね?
買い物でご飯にのせるものばかり買わせることからも、黄泉川はご飯派だと思います。

>>136
その可能性もあったから、黄泉川に確認したってことで1つ。

>>37
亀だけど

絶対等速はベクトルを操作してるわけじゃなくて、慣性質量を無限大に飛ばしてるだけだと思う。
物体を投げる直前(手から離れる)に能力発動していて、

投げる方向にベクトルかかる(重力で落下するベクトルもかかっているけど、加速前なので落下速度は微細)

慣性質量無限大

慣性質量が無限大なので、どんなベクトルでも運動状態に干渉できない

現在の運動状態(投げた方向への等速直線運動)を維持する

運動状態を変えられないだけなので、ベクトルは普通にかかる

丈夫になるわけでもないので、衝撃が加わると壊れる


未元物質クラスのかなり特異な能力だと思うけど、ベクトルは関係ないかな

ごめん
>>150
の補足なんだけど、現在は慣性質量(動かしずらさ)と重力質量(万有引力、重さ)は等価とされてるわけで、
等価というのは入れ換えても矛盾が出てこないことだから、等価にするには常に値が等しい

慣性質量無限大 → 重力質量も無限大 → ブラックホール発生

となるわけよ
禁書クオリティと言いたいけど、こう考えてほしい
慣性質量と重力質量の二つの箱があって、中身は常に等しくなるようになってる
箱のデザインも同じとすると、二つは常に全く同じで名前が違うだけとなる
でも二つある事には変わりはないから、片方だけを無限大にすれば成立しそう

つまり、絶対等速は慣性質量だけを無限大にする能力といえそうじゃないか

筆が進んじまうぜ、畜生!

という訳で、続きを更新。



佐天「―――ッ!!」


その朝、佐天は飛び起きるように目を覚ました。
悪夢にうなされていたという訳ではなく、妙な胸騒ぎに駆られたと言えばいいのだろうか?
言葉ではなんとも表現しにくい。


佐天(うわー。なんか嫌な感じー……)


寝汗でパジャマが張り付いて、気持ちが悪い。
もしかしたら、やはり悪夢を見ていたのかもしれない。


佐天「昨日なんかあったっけ?」


昨日は、御坂美琴と共に公園に行って、たいやきを食べた。
あとは、風を操作できて、大はしゃぎしていたくらいだ。
悪いことが起こったという記憶はない。


佐天「悪夢どころか、いい夢見てもいいと思うんだけどなー……」


時計を見ると、午前6時。
起きるには少し早いくらいの時間だが、とても2度寝などできそうにない。


佐天「ま、登校前にシャワーを浴びるにはちょうどいいか」


早く起きなかったら、汗臭いまま学校に行くところだったよね。
と、そんな風に、持ち前のプラス思考で頭を切り替える。
少しゆっくりシャワーを浴びようと、パジャマを洗濯籠に投入し、バスルームへと入っていった。


汗を流し終わると、時刻は7時をまわっていた。
いつも起きるのがこのくらいの時間なので、ここから普通に支度すれば遅刻することはない。
部屋のカーテンを開け放つと、今日はどんよりとした天気だった。


佐天「雨とか降らないよね?」


傘を持っていった方がいいだろうか?
テレビをつけ、天気予報を確認する。
……うん。特に雨の心配はないみたい。
ただ、ここ最近の天気予報は以前ほどあてにならないので、用心のため一応持って行くことにしよう。

朝食を取り、軽く髪を整えると、身支度は完了。
制服は、シャワーからあがったときに既に着替えている。
今日使う教科書の準備も大丈夫。


佐天「よし。完璧!」


時間は7時30分。
そろそろ家を出る頃合いだ。


佐天「いってきまーす」


別に同居人はいないけど、家を出るときに挨拶をするのは習慣。
自分の中のギアを一段階あげる儀式みたいなもの。
明るく元気に楽しくが、私のモットー。
そうだ。昨日使えるようになった風操作で、どう初春にイタズラをするか考えながら行くとしますか!

そんな風にして、今日も1日が始まる。
大きな変化もなく、ゆっくりとした前進を続ける1日が。
つまり、佐天涙子の日常だ。



佐天「ういはぁるぅ―――!!」

初春「きゃあああああああっ!?」


学校に着いて、初春を補足した瞬間、登校中に考えたイタズラを実行した。
出会い頭のスカートめくり。
やはりこれしか思いつかなかった。
とはいえ、これ以上有意義な能力の使い方もない。


初春「酷いです、佐天さん」

佐天「あはは。ゴメンねー、初春」


しかし、成果はイマイチ。
チラッと青と白のストライプの縞パンが見えたくらいだった。
これなら、手でやった方がマシだったかもしれない。


初春「せっかく、能力が使えるようになったのに、スカートめくりに使わないでくださいよ!」

佐天「でもさー。この能力を極めれば、距離が離れててもスカートめくりができる訳じゃん?」

初春「じょ、冗談ですよね?」


あまりの恐怖の言葉に、初春の顔が思わず引きつる。
一方の佐天は、曖昧に言葉を濁すが、ニコニコ笑顔を絶やさない。
きっと半分以上本気なのだろう。


初春「そ、そういえば、昨日のたいやき屋さんはどうだったんですか?」


これ以上話を続けるのは危険だと判断した初春は、話題を変えることにしたようだ。
「まあまあだったかなー」と、いかにも特別な何かがあったような返答をする。
そんな風に、HRの始まる時間まで、他愛もない会話を続けたのだった。


そんな平穏な日常に変化があったのは放課後だった。


教師「佐天涙子は残るように」

佐天「え?」


学校が終わった後のHRで、担任が佐天に居残りを命じたのである。
先日の登録と検査の際にも似たようなことを言われたが、まだ何かすることがあるのだろうか?


初春「何かしたんですか?」


初春の反応を見ると、そういうことではなさそうだ。
ということは、何か叱られるようなことをしてしまったか?
いや、特に憶えはない。


佐天「さぁ? 心当たりはないんだけど」


強いて言えば、初春のスカートをめくったことくらいなものだ。
……もしかして、それだろうか?
担任が、解散の号令を出すと、佐天は教卓のところに恐る恐る近づいていった。


佐天「先生?」

教師「ああ。佐天か。実はお前に来客だ」


私に?
付いて来いというセリフと共に、先生が教室を出て行く。
どこの物好きが私に会いに来たのかという疑問があったが、何も答えてくれないので、仕方なく後を付いていくことにした。


先生に案内されるがまま付いていくと、応接室の前で立ち止まった。
どうやら、ここに自分の客が来ているらしい。
ふぅと呼吸を整え、若干緊張しながら部屋に入ると、若い白髪の男がソファーに座っていた。


佐天「こ、こんにちは」

???「オマエが佐天涙子か?」


挨拶の返しもなしにその男の赤い眼に睨まれたので、佐天は思わず怯んでしまった。
「あ…」とか「う…」とか言ってしまい、質問にまともに返事ができない。
あまりにも鋭い眼光が、恐怖の感情しか起こさせなかったのだ。
それも、返答できなかったのも仕方ないくらいのレベルで。


???「チッ」


だが、男はこういった反応には慣れているようだ。
軽く舌打ちしただけで、それ以上気にしたような素振りをみせず、自分の前の席に座れと佐天を促す。
しかし、当の彼女は、足がすくんで動けない。


???「もう一度聞くが、オマエが佐天涙子か?」

佐天「そ、そうですけど……。どちら様ですか?」


これ以上イライラさせるのもまずいと思い、勇気を振り絞って目の前の男に返答する。
名指しで指名されているということは、自分が目的でここまで来たのは間違いない。
こんな怖い人が、学校まで来るほどのことをしてしまったのだろうか、と佐天はますます青くなる。


一方「一方通行って言えば分かるか?」

佐天「第一位の!?」


もちろん知らないはずがない。
ここ数日で何度も耳にした名前だ。
学園都市レベル5の第一位『一方通行』。
たしかに、白髪など聞いていた風貌と一致する。



佐天「そ、その一方通行さんが、私なんかになんの用ですか?」


ここまで来た以上、なんらかの目的があって来たのだろう。
だが、佐天は本当に何もした覚えはない。
それどころか、会ったのも今日が初めてのはずだ。
そんな人物がわざわざ会いにくるなど、普通ではない。


一方「確認するが、オマエの能力は『ベクトル操作』であってンのか?」

佐天「は、はい」


別に、同じ能力を持っているから顔を見に来た、という訳でもないだろう。
いくら同じ能力者とは言っても、自分はレベル1。
目の前にいる男はレベル5なのだ。
確かに、その辺の他人よりは関係があるかもしれないが、それも『血液型が同じ』くらいのものでしかない。
いや、血液型が同じということの方がまだ関係はあるかもしれない。
レアな血液型でも、輸血ができたりするのだから。
能力が同じで得することは、計算式くらいのはずだ。


一方「なンだ。分かってンじゃねェか」

佐天「え?」


自分が何を分かっているのかが、まるで分からない。
なんとも妙な状況に陥っている気がする。


一方「簡単なことだ」


一方通行が、つまらなさそうにそうつぶやくと、佐天のことを見据えてこう続けた。







一方「俺が、オマエの能力の開発担当になったンだよ」








佐天「……………………はい?」



能力開発担当?
第一位が?
一体、どうしてこんなことになってるの?
つい、そんな風に思わずにはいられない。


一方「よろしく」

佐天「え? あ……。よ、よろしくお願いします」


かつて、力を欲するがあまり後悔することとなった『最強の超能力者』と『元無能力者』。


―――この出会いが、物語と佐天涙子の日常を加速させることになる。


                  第一章『Turning Point(日常の変化)』 完

一区切りつきましたー。起承転結の『起』の部分ですね。

次章は『Who are you?(非日常との邂逅)』というタイトルで進めます。

全四章か五章くらいで考えてますので、引き続きよろしくお願いします。

20000「開発と聞いて」

一方さんが佐天さんの『開発』とか有り得ないから!!
そこは初春の役目だからっっ!!

10033「>>178に同じく」

佐天『うゥゥゥゥゥいィィィィィはァァァァるゥゥゥゥゥ~今日も可愛いパンツ履いてンなァ!クキキココカカカキキィ』

『反射』って、レベル幾つからだ?
自動でなければ3,4辺りからでも十分いけると思うが……

佐天さんがレベル5になったら8/31以前の一方さん超えそう……

レベル1は手で触れたモノだけーとかかね

>>199
セロリ先生はレベル5だけども基本的に触れたモンのベクトルしか操作出来なかったはず……

>>203
掌で、て言いたかったんじゃないか
一方さんは全身OKだし

>>204
一理あるな……
指摘どうもです

仮に触れずにベクトル操作可能だったら凄い事に……
あれっ!?佐天さんはまだその可能性残してるぞ!!

以前別のSSで初春がスカラー操作してた
悲惨な事になったけど……

初春がこのSSでもスカラー操作使えるんならコンビ組ませんのもありかも
あれっ!?ある意味最強じゃね!?このコンビ

スカラー操作って具体的に何ぞ?
守備力操作できるとか?

>>213
ベクトル:大きさと向きをもつ量(力、速度等)
スカラー:大きさだけの量(長さ、温度等)

初春の場合は熱量のスカラーを操作して絶対零度とかやってた

ですよねー。

白熱した議論をしているようですが、自分の中ではもう大体決まってます。

続きを更新。



佐天「いやいや! よろしくじゃないですよ! ちゃんと説明してくださいってば!」


いきなり目の前に第一位が現れ、能力開発担当になると言われたので、正常な判断能力を失っていた佐天であったが、なんとか正気に戻ったようである。
ノリツッコミみたいな形になってしまったが、仕方もない。
一方で、きわめて冷静な態度の一方通行は、1枚の書類を差し出した。


一方「こいつを見ろ」

佐天「え?」


そこには、「一方通行を佐天涙子の能力開発担当に推薦する」という簡潔な一文が書かれている。


佐天「これは一体?」

一方「統括理事の推薦状だ」

佐天「統括理事からの!?」


統括理事といえば、学園都市を動かしている12人のお偉いさんである。
確かに、書類の下部には“統括理事 親船最中”との署名もある。
なぜ自分のことを知っているのだろうか? という疑問が佐天の中で渦巻くが、その答えは簡単。
推薦状を出す依頼をしたのが一方通行だからだ。
当然、そんなことまで佐天には説明しない。


佐天「あれ? でも、推薦ってことは……」

一方「そォだ。断る権利もある」


強制する権限は、この書類にはないらしい。
だが、これは実質的には強制じゃないだろうか?
この状況は、ヤクザより怖い人間が学校まで来て、脅しをかけているようにも見えなくもない。



佐天「あ、あの」

一方「なンだ?」


確かに、第一位から直に能力開発を受けられれば、普通に学校で勉強する何倍も効果があるだろう。
この人が怖いからと言って、断る理由にはならない。
高レベルの能力者になるということは、ほとんどの学園都市に住む学生たちの夢。
プロ野球選手を目指している少年が、球界トップレベルの選手からの指導を断ったりするだろうか?
それと似たようなものである。
ただ、「はい、お願いします」とすぐに了承する訳にもいかない。
佐天には1つだけ確認しておかなければならないことがあった。


佐天「一方通行さんは、それでいいんですか?」


上からの命令で、嫌々やらされているのではないかと、勘ぐった訳だ。
さすがに、これほど怖い人物とギスギスした関係のままで手ほどきを受けるのは、普通の中学生である佐天涙子には厳しすぎる。


一方「オマエが気にするようなことじゃねェよ」

佐天「そ、そうですか」


いろいろ事情があるのかもしれない、と佐天は勝手に自己解釈することにした。
気分を悪くさせてしまったらどうしよう?
でも、こんなチャンスは……。
そんな気持ちが佐天涙子の中で渦巻き、心の天秤が右に左にと傾いている。
もっとも、一方通行が仕掛け人なので、そんな心配をする必要はないのだが。


佐天「そ、それじゃあ、お願いします!」


結局、最終的には、恐怖心を殺して話を受けることにした。
一方通行の事情は分からないが、少なくとも佐天の側に不利益はない。



一方「それじゃあ、明日、ここに来い」


話がまとまったところで、一方通行は、1枚のメモを佐天に手渡す。
そこには、第7学区のとある住所が記載されていた。


佐天「はぁ……。それで何時ごろ行けばいいんですか?」


学校が終わるのが午後4時くらいだから、時間によっては、走って行かなければならないかもしれない。
この住所の場所は、学校からだと20分くらいの距離だろうか?
夕飯はどうすればいいのかも聞いておいたほうがいいだろう。


一方「9時だ」

佐天「はい? そんな遅くに?」


9時ということは、夕飯を食べて来いということだろうか?
それに、そんな時間からでは、あまり長く能力の開発もできない。
やはり、この人は乗り気ではないのだろうか?
場合によっては、この話も考え直した方がいいかもしれない。
だって、この人怖いし。
そんな考えが佐天の脳裏をよぎった。


一方「午前9時だ」

佐天「え?」


だが、そんな心配が的外れだったことに気付かされる。
この人、すげーやる気まんまんだわ。
つい、そう言ってしまいそうになった佐天であった。



佐天「ご、午前9時って、学校はどうすればいいんですか?」


学校より効果があると思ってはいたが、さすがに学校を休んでまで行くのはどうかと思う。
そんなことをすれば、進学にも影響が出てくるかもしれない。
だが、実は、ステータス的には一方通行の能力開発を受けることの方が、学校を卒業することより上だったりする。
実に恐ろしき第一位の影響力である。
もちろん、一方通行はそんなことをイチイチ説明したりはしない。


一方「なンの為の推薦状だと思ってやがる。ンなもン免除に決まってンじゃねェか」

佐天「マジで?」


佐天は思わずタメ口をきいてしまったが、つい、そう言ってしまうほど衝撃を受けた。
もう一度、統括理事の推薦状を手にとって見る。
どうやら、この書類には、合法的に学校を休む権限があるらしい。
大した文も書かれていないのに……。


佐天「学校の授業についていけるかな……?」


次は、そんな素朴な疑問が浮かんでくる。
能力開発を受ける期間がいつまでになるかは分からないが、とても自習で授業についていける自信はない。
「能力開発」や「記録術」の科目はいいかもしれないが、数学や英語などが不安だ。


一方「あー、そォだな……。ついでにそっちも面倒見てやる」


と、なんでもないことのように一方通行が言う。
おおぅ。
降って湧いた幸運に、思わずそんな音が佐天の口から漏れてしまった。
もしかして、これは、最高の家庭教師なんじゃないか?
面倒見も良さそうで、意外といい人っぽいし。

ただ、そんな風に丸くなったのは最近だということを、佐天が知るのは、もう少し経ってからのことである。


パッと思いつく疑問が尽きたところで、今日は解散という流れになった。
なんとも急な話ではあったが、佐天にとっては実にいい話である。
浮かれた足取りでカバンを取りに戻ると、教室では初春が待っていた。


初春「結局、なんだったんですか?」

佐天「あー、実はねえ」


特に隠すことでもないので、話の内容をかいつまんで話すことにする。
第一位から能力開発を受けると言ったときの初春の反応はすごかった。
大げさなリアクションだな、と思う佐天だったが、自分も似たような反応だったか、と苦笑する。


初春「それで、明日から学校はお休みですかー」


大体のことを話し終えると、そんなことを初春がつぶやく。
少しの間、学校に来れなくなるのは寂しいが、別に初春たちに会えなくなる訳ではない。
それに、自分のあまりの才能のなさに見限られるという可能性もあるし。


佐天「でもまあ、第一位から何か吸収できれば凄いプラスだよね?」

初春「ですねえ」

佐天「もしかしたら、帰ってくるときにはレベル4くらいになってるかもよ?」

初春「うわ、ずるいですよ! 佐天さん!」

佐天「そしたら、初春のスカートめくり放題だねー!」

初春「や、やめてくださいよ?」


と、冗談を話しながら、今日は別れることにした。
明日はいよいよ能力開発の初日だ。


翌日。
佐天が目を覚ますと、時刻は7時半を指していた。


佐天「やばっ。遅刻……じゃないのか」


今日から学校ではなかったことを思い出す。
約束の時間は9時。
ここからは15分程度の距離なので、まだゆっくりできるくらいだ。
しかし、初日から時間ギリギリに着くという訳にもいかないので、早めに準備をすることにしよう。


佐天「そういえば、持って行くものとか聞いてなかったけど、どうするんだろ?」


朝食を取り終えると、そんな当たり前の疑問が浮かんできた。
実は、開発に承諾はしたものの、詳細な内容についてはほとんど聞かされていない。
何をするのか、何を持っていけばいいのか、何時までかかるのか、などといったことをまったく知らない。


佐天「うわー。私もだけど、あの人も相当抜けてるよね」


いろいろと不安を覚えたが、ぶつぶつ言っていても仕方ないので、カバンに適当に教科書を詰め込んで出発の準備を整える。
服は制服がいいかと思い、サッと着替えると、時間は8時半。
思った以上に時間がかかってしまったが、そろそろ家を出ることにしよう。


佐天「行ってきまーす」


元気良く家を出る。
いつもとは違う1日がこれから始まる。

―――加速し始めた佐天涙子の日常の1日目が。



佐天「わー。立派なマンション~」


目的地に到着。
時刻は8時45分。
なんとか迷わずに着けた。


佐天「え~っと……」


マンションのエントランスに入り、メモに書かれた部屋番号をコールする。
数秒も経たないうちに、向こうから反応があった。


???『はーい、どちらさまー? ってミサk』

一方『オマエは勝手に出るンじゃねェ、クソガキがァ!!』


なんだか愉快な声が聞こえてくる。
一方通行のセリフも、昨日のクールなテンションとは大違いだ。
これが、素なのだろうか?


佐天「昨日話をもらった佐天ですけど……」

一方『あァ。オマエか。勝手に部屋まで入って来い』


おや?
子供の声が聞こえなくなった?


佐天(だ、大丈夫だよね?)


と、若干不安になりつつも、自動ドアをくぐることにした。



佐天「お、お邪魔しま~す」


部屋にカギがかかっていなかったので、言われた通り、勝手に上がることにした。
ドアを開けると、部屋の中も外装に違わぬほど立派なものであることに気が付かされる。
それで、どこに行けばいいのだろう?


佐天「一方通行さ~ん?」


なんだか心細くなってきた。
簡単に信用したのは間違いだったか?


一方「待たせたか?」

佐天「うわっ!?」


ガチャリと左後方のドアが開き、そこから一方通行が現れた。
いきなりの不意打ちで驚かされてしまい、すごく心臓がドキドキしている。
ん?
この人も若干息が切れてる?


佐天「あの、さっきの子供の声は……」

一方「それについては聞くンじゃねェ」


あまりにドスの聞いた声が返ってきたので、つい言葉に窮してしまう。
子供を拉致監禁してる訳じゃないよね?
すごく怖くなってきたんですけど。

もちろん監禁している訳ではない。
一方通行は、佐天が御坂美琴の知り合いだということを知っていたので、打ち止めと番外個体を部屋に押し込んでいたのだ。
いや、これは、監禁になるのだろうか?



一方「こっちだ」


一方通行に案内された部屋は、見晴らしのいい広い部屋だった。
どうやら、ここで能力開発を行うらしい。
しかし、薬品や電極といった「記録術」で使われるようなものは一切見当たらない。


佐天「持ってくるものとか言われなかったんで、学校の教科書とか持ってきたんですけど」


おずおずと申し出る。
ギッシリと教科書が詰められたカバンは意外と重い。
もう降ろしてもいいだろうか?
一方通行は、チラッと佐天の持っているカバンを一瞥すると、


一方「あァ。座学の方は、能力が打ち止めになってから見てやる」


と言って、ソファーに腰を下ろした。
まずは、能力開発優先ということなのだろう。
……そういえば、この男はどうやって能力開発をするつもりなのだろうか?


一方「まずは座れ。簡単にこれからのことを説明する」

佐天「あ、はい」


そんな佐天の不安を察したのか、一方通行はこれからの予定を話すことにしたようだ。
カバンを下ろし、空いている方のソファーに腰掛けると、一方通行は説明を始めた。
空気を和ませるために、改めて自己紹介をしないあたりは、彼の人間関係を察して欲しい。



一方「まずは、オマエに反射の使い方を教える」

佐天「反射ですか?」


一方通行の説明によると、反射が完全に使えるようになると、核戦争をも生き残れるという。
一部の例外を除けば、物理現象はもちろんのこと、能力による干渉もすべて反射することが可能らしい。
つまり、完全な防御ができるということだ。
だが、いきなりそんなことを言われても、実感が湧くはずもない。
果たして、そんな能力を使いこなせるのだろうか?


一方「別に、完全に使いこなす必要はねェ。これから教えンのは、そォいうもンだってことを憶えておけってことだ」

佐天「はぁ……」


こういうのも『自分だけの現実』を構築するヒントになるとのこと。
できると信じていないことをやれと言われても、無理なのだそうだ。


一方「まずは簡単なところからだな」


そう言って、一方通行が用意したのはなんの変哲もない懐中電灯。
カチッとスイッチを入れて、光を発生させる。


一方「鏡が光を反射してるってことくれェは知ってンだろ?」

佐天「はい」

一方「だったら、話は早ェ。まずは、手の甲の一部分だけでいい。そこだけに鏡みてェな薄い膜を張るイメージだ」


やばい。
最初から着いていけなさそうなんですけど。



一方「まずは手本を見せてやる」


そう言うと、一方通行は首筋にあるチョーカーに手を当て、電極のスイッチを入れる。
事情を知らない佐天は、不思議に思うばかりだ。


佐天「それって、何かの儀式ですか?」

一方「いいから、オマエは黙って見てろ」


ピシャリと言われる。
怒らせても仕方ないので、黙って見ていることにした。
実際に、第一位の力を見るのはこれが初めてになる訳だし。
だが、その第一位のやったことはシンプルだった。
懐中電灯を自分の体に向けただけだ。
すると、確かに光が屈折しているのが見て取れる。
なんとも地味な光景だ。
一方通行が電極のスイッチを切ると、懐中電灯を佐天に手渡してきた。


一方「こンぐれェなら、レベル1でもすぐできるはずだ」

佐天「す、すぐに?」


すごく不安です……。
ええと、手の甲に鏡みたいな薄い膜を張るイメージ、だっけ?
さきほどの一方通行の姿を思い出し、光を反射するイメージを頭の中に強く思い描く。


佐天「あ、あれ?」

一方「上出来だ」


意外と簡単にできた。
実は、私ってば、才能あったりする?



一方「調子には乗ンなよ?」


と思っていたら、釘を刺された。
思考を読めるのだろうか?
ま、まさか、次は、調子付かせないために、あんなことやこんなことをさせるつもりじゃ……


一方「ま、こンなもンだろ」

佐天「え?」


どんな無理難題が来るのかと身構えていたので、このセリフには拍子抜けだった。
今日は光を反射させただけで終了?
ちょっと早すぎではないだろうか?
だって、まだお昼にもなっていない。


一方「あァ。勘違いすンな。今日はまだ終了って訳じゃねェ」

佐天「ですよねー」


ちょっと安心する。
だって、まだまだ能力も十分に使えそうなのだ。
ここで終了してしまってはもったいない。
などと考えていると、一方通行が、佐天に次の指示を出した。


一方「次は、その状態を限界まで続けろ」


うわ。
さらっとそんなセリフがでてくる辺り、絶対ドSだよ。この人。

一方通行的には、佐天の現在の力を見るために言ったのだが、酷い誤解をされてしまったようである。
ドSには間違いないが。



佐天「だーっ。もう限界……」


わずか10分後の話である。
いや、でも、頑張ったと褒めてくれてもいいだろう。
何しろ10分も持ったのだ。


一方「まァ、レベル1ならこンなもンか」

佐天「ぐはっ」


容赦のない言葉が佐天の胸に突き刺さる。
改心の一撃というやつだ。
これだからレベル5の天才は……。


一方「昼飯食ったら、午後は座学の時間だ」

佐天「あ、はい」


そういえば、お昼はどうするのだろう?
こんなことなら、お弁当でも用意してくればよかったか。
ん? 今、隣の部屋から物音が……。


一方「チッ。ちょっと待ってろ。オマエの分も用意してきてやる」


そういい残すと、一方通行は隣の部屋に消えていった。
まさか監禁してる少女のご飯の時間とか言わないよね?
未だに、その不安がぬぐえないでいる佐天であった。


昼食を取ると、午後は座学を学ぶ。
教科は、数学、英語、国語の3つを1時間ずつ。
そして、ここで初めて第一位の凄さを実感することとなった。
なんと、教科書をパラパラとめくっただけで、完璧に暗記してしまったのだ。
チョーカーを触っていたようだが、あのチョーカーはそんなに凄いのだろうか?
どこのメーカーの製品だというのだ。
ちょっと欲しい。

話を戻そう。
授業の内容はと言うと、学校の先生とは比べ物にならないほど教えるのがうまかった、とだけ言っておく。
まあ、第一位に2次関数を教えさせる方が間違っているのかもしれない。
とにかく、佐天の頭でも授業についていけるというのに、進行速度が学校の数倍という有様である。
「要点をプリントでまとめりゃもっと効率いいンだけどなァ」とか言ってたのが、本気で恐ろしい。

そんな感じで、あっという間に午後3時となり、3教科を無事終了した。
佐天の人生で、これほど勉学において充実した3時間があっただろうか? いやない。


一方「まァ、今日は初日だし、こンなもンだろ」

佐天「あ、ありがとうございました!」


第一位は凄いんだろうなーと思ってはいたが、ここまで次元が違うとは知らなかった。
今日だけでも、能力の使える幅が少し拡がったし、学校の勉強の方は何倍も進んだ。


佐天「なんとお礼を言っていいのやら」

一方「オイオイ。まだ初日だろォが」

確かにその通りだ。
明日も同じ時間に来いと言われ、その日の授業は終了した。
このまま1週間も通いつめれば、レベルもアップし、中学1年で学ぶことは終わってしまうのではないだろうか。
そう確信できるほどの成果だった。

こうして、大きな変化もなく、ゆっくりとした前進を続けていたはずの日常が変質を始めたのであった。

ここら辺で。二章一話目をお送りしました。

今回は一方さん無双でしたが、次回からは座学の部分はカットしてお送りする予定。

そうそう。芳川はまだ寝てます。



やっぱり学園都市第一位はアッチでも第一位なんだな

なんか好きだこの雰囲気
打ち止めや番外個体にひょっこり登場してもらいたい
大丈夫、バレないバレない

第二単元はプラズマ作りですね



待機ついでに寝堕ちる

>>242
最終的に佐天さんマジ天使ですねわかります

これで佐天さんは福島原発からばらまかれた放射性物質からのγ線被曝を反射する能力取得か・・・

ところで、打ち止めや番外個体とバッタリ出会った時の佐天さんの反応が楽しみww
あと、佐天さんがよりによってあの憎き一方通行と接触しているという事を美琴が知った時、どんな反応するのかも・・・

いつオリジナルや妹たちと邂逅するのか
そして上条さんそげぶタイムがあるのか
それを期待

>>245っす
起きたけど進展せずですか……

>>242 >>246
ですよねー

>>247
美琴相手に戦闘する事になってもなんとかなりそうだ
そんな事にはなって欲しくないが……

>>248
『イマジンブレイカー』を脳内再生ですねわかります

>>249 ロリ巨乳好きに一票。なので佐天使さんははやく逃げたほうがいいと思います

ベクトル=向きと大きさ
スカラー=大きさのみ
ってことはベクトル操作ってことはスカラー操作もできるってことかね?
それともエネルギー量は変動させずに向きのみ操作できるのがベクトル操作で
向きは変化できないけどエネルギー量を操作できるのがスカラー操作ってことなのかな

>>251
ロリ巨乳をロリの一部として考えれば、そういう感想が出るのももある意味当然と言えるが、
個人的にロリとロリ巨乳は似て全く非なるものだと思ってる
「ロリ巨乳」は基本的に「ロリ」からではなく、「巨乳」から派生した属性なんだと思う
出発点はロリじゃなく巨乳からなんだよ。ロリに巨乳が付いてるのではなく、巨乳にロリ要素が付加されてるんだよ
そして、何故そんなミスマッチなものを付加するかと問われれば、「その方が乳が際立つから」に他ならない
お汁粉に塩を少量加えると逆に甘みが増すのと同じさ
Gカップの大人とGカップの子供、どちらの方が乳が目立つと思う?後者だろ?
要するにロリ巨乳ってのは乳を最高に際立たせる組み合わせなのさ
それに、巨乳というのは胸だけに限定された属性なのに対し、
ロリというのは必ずしも貧乳である事だけで表現されるものではないから、
巨乳にロリを付加することによって、胸以外の空白の要素を補完しつつ、胸以外の部分でロリ要素もある程度楽しめる
つまり一粒で二度美味しい上に、巨乳好きにとってはメインで楽しむ味が濃くなる、と良い事尽くめなわけだなこれが
ただ、その分ロリの方の味は確実に薄まるから、ロリ好きにとっては邪道に感じられるのは尤もだろう
それどころか、詰まるところロリをサブ属性扱いしている訳だから、腹が立つのも頷ける
理解してくれとは言えないが、そういう嗜好もあるということだけは一応認識しておいてくれ

>>252
そもそも場が違うのですが。
スカラー場とベクトル場の違い。

>>257
慣性の法則!!
やっぱり分からない。中2だもん。

>>264
DB的に言えば『気』がスカラーで、『かめはめ波』がベクトルだと思えば良いと思う
慣性はベクトル

>>252
後者が近いと思う
スカラーはベクトルではなく、ベクトルが存在しない以上、セロリ先生でも操作不可能なはず
エネルギー量はスカラーのはず

かまち『熱量はベクトル操作出来ない…?いいぜ読者(おまいら)がそう思ってるってなら、まずはそのふざけた幻想をぶち[ピーーー]』

紅茶で拳銃が熱膨張するかまちーワールドで何を真面目に議論しとるのかね


まぁ俺も股間の拳銃が熱膨張したから番外個体に治療してもらってくる

続きを更新。



佐天「こんにちはーっ!」


午前8時45分。
前日と同じ時間に一方通行の元を訪ねた佐天は、高いテンションでマンションの一室へと飛び込んでいった。
その高いテンションは、昨日の一方通行の授業に起因していた。
というのも、短時間であまりの成果に感激し、興奮していたのである。
おかげで、昨日はあまり眠れなかった。
遠足に行く前の日の感覚と言えば分かりやすいだろう。


一方「うるせェ……」


対して、部屋で待っていた一方通行はローテンションであった。
昨夜、部屋主である黄泉川がべろんべろんの状態で帰宅したのが原因だ。
騒ぐわ暴れるわで、寝かしつけるのに一苦労し、就寝したのは午前2時。
黄泉川は翌日に引きずらないタイプなので、今朝には元に戻っていたが、だからと言って、テンションが戻る訳でもなかった。


佐天「今日は何するんですか?」


そんなことはお構いなしに、話を進める佐天。
実にマイペースな子である。


一方「あァ。準備はできてる」


そう言って、気だるそうな一方通行はテーブルの方を指差す。
その上には、オモチャみたいな扇風機や、氷嚢のようなものがいくつか置いてあった。


佐天「こんなにですか?」

一方「全部は使わねェと思うけどな」


そうして、この日も、前置きなしに能力開発が始まる。



一方「まずは、反射についての説明をする」

佐天「昨日のだけじゃ不十分なんですか?」


鏡みたいな薄い膜を張るイメージ、というのが昨日の説明。
あれ以上に何か説明することがあるのだろうか?


一方「あンだけで分かったつもりになってンじゃねェ。あンなのは基礎中の基礎だぞ」

佐天「さ、さいですか」


確かに、あれだけで終了だったら、佐天はもう反射を使いこなせることになってしまう。
しかし、できることといえば光の反射だけ。
しかも、手の甲の一部分。
とてもじゃないが、使いこなせているとはいい難い。


一方「いいか? 反射を使う上で重要なのは、3つ」

佐天「3つ? 意外と少ないんですね」


もっと多いものだと思っていた。
3つくらいなら私にもなんとかなるかもしれない。
佐天に希望の光が見えてくる。


一方「普通の能力だったら、ポイントは1つか2つなンだぞ? 3つを同時かつ完璧に押さえられりゃ、レベル5間違いなしだな」

佐天「3つって多いですね……」


希望の光は、火花だった模様。
パチンと一瞬で消え去ってしまった。
ここからは、少し黙って説明を聞くことにしよう。
どんどんボロが出てきてしまって、呆れられても困る。



一方「ポイントってのは、『種類』、『強度』、『範囲』の3つだ」


指を折りながら、ポイントを3つ並べる一方通行。
“強度”と、“範囲”というのは分かりやすいが、“種類”とは何の種類のことを指すのだろうか?


一方「しばらくは、『種類』を増やすことから始める」


どうやら、その“種類”というのが、一番の基礎になるらしい。
“強度”と“範囲”についての説明は後日とのこと。
とにかく、種類を増やさないと意味がないのだとか。


一方「聞いてすぐ分かったと思うが、『種類』ってのは、反射する現象の“種類”のことだ」


もちろん分かってましたよ?
すぐ、気付きましたとも。
口にしたらバカにされそうなので、心の中で見えない虚勢を張る。


一方「物理的なもンと熱量を押さえられたら、次の“強度”のステップに移る」

佐天「分かりました」


説明の方は。
ただ、それをどうやってやるのかは分からない。
もしかして、テーブルの上に用意されている物はそのためのものだろうか?


一方「ハッ。オマエにしちゃ察しが良いな」


なんだか褒められた気がしない。
小馬鹿にされている気がする。



一方「まずは風だな」


そう言って、テーブルの上にあるオモチャみたいな扇風機を手に取る一方通行。
いきなり固体の反射は無理だろ、と鼻で笑われたのだが、言い返せないので黙っておく。
気体→液体→固体という順番で反射のレベルを上げて行くそうだ。


佐天「なるほど」

一方「言っとくが、風のベクトルを操作すンじゃねェぞ」

佐天「ど、努力します」


風操作が無意識に発動しないように注意しなければならない。
反射をするイメージは、前と同じでいいのだろうか?


一方「光を反射するイメージじゃ、風は反射できねェ」

佐天「じゃあ、風を反射する薄い膜を張るイメージですか?」

一方「そォだ」


なるほど。
単純な話だが、そうやって反射できる種類を増やしていくのか。
光を反射するイメージから、風を反射するイメージに……。


一方「言っとくが、“光”の部分を“風”に変える訳じゃねェぞ?」

佐天「あれ?」


意思疎通に齟齬が発生していた模様。
どないせいっちゅーねん。



一方「置き換えるイメージじゃダメだ。追加するイメージじゃねェと種類を増やす意味がねェからな」


置き換えじゃなくて、追加?
どういうこと?
つまり、光も風も反射するイメージってことでいいのかな?


一方「そォだ」

佐天「でも、なんで……?」

一方「対応できる種類が1つじゃ、爆発にでも巻き込まれりゃ致命傷になるだろォが。爆風を防いでも、熱を防げねェンじゃ死ンじまうンだからなァ」


身近なところで爆発が起きるというのが、日常でどれほどあるだろうか。
あ、この人なりの分かりやすい例ってことか。
なるほど。イメージはしやすい。


一方「地道かもしンねェが、こォして種類を増やしていくのが一番の近道なンだよ」

佐天「一方通行さんもこういうことを?」

一方「ンな訳ねェだろ。俺の場合は、現象を解析できりゃ、イチイチ練習しなくてもできンだよ」


……不公平だ。
これが天才と凡人の差というやつなのか。
だが、そういうことなら納得できる部分がある。
核戦争でも生き残れるというのは、有害な物質を解析できているからなのだろう。
とても練習することはできない。


一方「まァ、まずはやってみるところからだな」


光は簡単にできたが、風の方はどうだろう?
できるといいんだけど。


結果は成功。


一方「これじゃダメだな」

佐天「む、難しいです……」


―――半分だけ。
つまり、風の反射には成功したのだが、光の反射も同時となるとうまくいかない。
“種類”を追加するイメージが掴みにくい。


一方「1回できちまえば、コツは掴めンだけどなァ」


懐中電灯と扇風機を佐天の手の甲に向けながら、一方通行がつぶやく。
もっと何かアドバイスはないのだろうか?


一方「そォだな……。反射の種類を対象によって取り替えるイメージじゃダメだな」

佐天「というと?」

一方「今のオマエは、起動させるソフトごとに別のパソコンを用意してるよォなもンだ」


容量やスペックは余裕なのに、と一方通行が付け加える。
確かに、そんなの不効率極まりない。
無駄にパソコンを用意するんだったら、ソフトを1台に纏めてしまえば―――


一方「そォいうことだ」

佐天「な、なるほど」


つまり、そういうイメージらしい。
パソコン=反射の膜、ソフト=種類ということか。



佐天「おおぉ……」

一方「それだけできりゃ十分だ」


イメージを掴めると、割と簡単にできた。
今の私の手の甲は、懐中電灯の光と風の流れを反射させている。
ただ、できてみて新たな問題が1つ浮上した。


佐天「つ、疲れるー……」


そう。能力の消耗具合が激しくなってしまったのだ。
昨日は、10分間も光を反射させられていたが、今日は、光が3分、風が3分、両方が1分で打ち切れになってしまった。
両方の反射を適用させると、単純計算で4倍速ということになる。


一方「その計算はちっと間違ってンだけどな」

佐天「え? そうなんですか?」

一方「その辺は明日教えてやる」

佐天「あ、はい」


そんな約束をしていたとき、時計がお昼の合図を知らせた。
なんだか、ここにいる間は時間の進み方が早いような気がする。


一方「あァ、そォだ。昼飯なンだが……」


一方通行が何か続きを言おうとしたとき、リビングのドアが、ばたーんと勢いよく開けられた。


黄泉川「ただいまじゃ~ん」

佐天「え?」


今日は、同居人が一時帰宅すると言いたかったらしい。



佐天「あなたはいつかの警備員の……」

黄泉川「そ。黄泉川愛穂じゃん。キミの話はこいつから聞いてるよ」


そう言って、黄泉川と名乗る人物は一方通行の頭をグリグリとかき回す。
すごく不機嫌そうな顔で、なされるがままになっている一方通行。
それが、「人間に撫で回されて、ブスッとしている猫」のような絵に見えておもしろい。


黄泉川(この子には、打ち止めや番外個体のことは秘密じゃん?)

一方(なンの為にアイツらを隣の部屋に閉じ込めてると思ってンだ)


なんだか、2人で耳打ちをし合っている。
お昼の相談か何かだろうか?


佐天「あ、お世話になってますし、お昼なら私が作りますよ?」

黄泉川「おっ! それは楽しみじゃんよ」

一方「警備員の仕事はどォした?」

黄泉川「今日は夜勤じゃん」


お昼の相談をしていた訳ではなかったのだが、うまく話を合わせる黄泉川。
ついでに、打ち止めと番外個体のお昼を確保するためにフォローも入れることにする。


黄泉川「まだ寝てるやつもいるから、追加で3人分作って欲しいじゃん。材料は勝手に使って構わないからさ」

佐天「ってことは6人分ですか……」


3人分も食べる人がいるのか、とその姿を想像する。

―――まさか、5人暮らしだとは夢にも思っていない佐天涙子であった。


昼食はチャーハンにすることにした。
冷蔵庫の中にちょうど6人分くらいの冷や飯が入っているのを見つけたのだ。
それは、今朝、一方通行が昼ごはんの為に多めに炊いておいたものだったりする。
部屋にいる打ち止め、番外個体、芳川には、一方通行が持って行くことになった。
その間、黄泉川は佐天を引きつけておくという訳である。

まず、打ち止めと番外個体に昼食を持って行くことにした。
非難するような視線を向けられたが、一方通行としてもやりたくてこんなことをしている訳ではない。
これは仕方がないことなのだ。

その後、芳川のところに昼食を運んだのだが、彼女はまだ寝ていた。
これは仕方がない人間なのだ。


黄泉川「ごちそうさん。なかなか料理うまいじゃん」

佐天「あはは。ありがとうございます」


昼食が終わると、黄泉川に料理の腕前を褒められた。
素直に受け止めておくことにする。
一方の、一方通行はというと、食べ終わった食器を淡々と片付けている。
作った側としては、「うまい」とも「まずい」とも言われないのは、若干寂しい。

そして、午後は座学。
今日は、歴史、理科、能力開発の3教科をみてもらった。
相変わらず分かりやすい授業で、進行速度も物凄い。
人に教えるには、3倍理解していないといけないとよく言うが、一方通行の場合、佐天の1000倍は理解しているのだろう。
ちなみに、黄泉川はニヤニヤしながら、一方通行と佐天、そして隣の部屋のドアを見ていた。
座学を終了したのは、前日と同じ午後3時のことだった。



佐天「この後はどうするんですか?」


最後の能力開発の授業が終わったところで、質問する。
昨日はここで終了したが、今日はまだ何かするのだろうか?


一方「そろそろ能力が使えるようになってると思うンだが、どォだ?」

佐天「えーと」


適当に反射を適用させてみる。
確かに能力は使えるようになっている。


一方「それじゃ、今日はあと1種類追加だ」

佐天「げっ」


2種類でも疲れるのに、3種類になったら相当疲れるだろう。
そもそも、3種類目を入力できるかどうかも分からない。
そんな佐天の心配をお構いないなしに、3種類目として一方通行が用意したのは氷嚢だった。
つまり、熱量を反射させるということだろう。
気合を入れていかなければ……。

…………結果。

――――失敗。

光と風の反射を適用させつつ、熱も反射させようとしたのだが、2分くらいで能力の打ち切れが先に来てしまった。


一方「進歩しねェなァ……」


自分としては、今日もすごい進歩だと思うのだが……。
こんな結果では、天才(第一位)は納得できないらしい。

ここまでー。芳川さんが完全にネタキャラになってる件。

文系なので、ベクトルとかスカラーとか分かりませんが、原作みたいな感じで進めます。

つまり、その場のノリということで。



原作でも大体そんな感じだしいいと思うww>その場のノリ

>>293
だからこそ、だろ
それこそ能力悪用を促す奴が指導したらダーク佐天の完成だろ。

>>295
ダーク佐天・・・

一方「俺のミスだ、お前の教育を誤った」
佐天「学園都市の陰謀に早く気づくべきだった!」

こうですね

>>295 >>296
そして新たな希望としてそげぶの人が来て説教タイムですねわかります

>>306
手の指を組み合わせてめくる(1024)
足の指を組み合わせてめくる(1024)

手の指を組み合わせその指で風を操作してめくる(1024)
足の指を組み合わせその指で風を操作してめくる(1024)

見ろこれだけでざっと4096通りのめくり方があるじゃないか
前後左右からもやれば16384通りだ
2万なんてあっという間だぜ

>>315
その時の佐天さんの頭の位置等も考慮に入れるべきでは?
あとはウイハルの体勢、周辺環境等々……
5万通り位でもまだまだ余裕でOKだな
レベル6どころかレベル7『神上能力』の領域までいけそう

>>313
上条さんの幻想殺しは異能の力で生み出された全ての「スカラー」に「0」を掛ける能力じゃね?

>>331
それだと触れた瞬間に全て0になるはず
黒の双翼を無効化し切れず『掴んだ』説明ができない

長くなりそうならこっち移れ

多少はいいけど50レス近くも雑談するのはどうなんだ
何回も発言してる人は自重してくれ

アレイスターや中条さん辺りに聞いてみれば分かるかもしれない
ちょっと右腕切断させてもらおうかな……

……ん?なんだお前rドカッ、バキッ、ズドォ、ドグワァァァァァン、チーン

ペンッデクス美琴■■妹達五和……「……………」

連投スマソ

>>336 >>337
すいませんでした

雑談もいいけど、感想なんかをもらえるとすごく喜びます。

あと、さすがにこの速度以上での連続投下は厳しすぎるだろjk。

続きを更新。



一方「今日も始めンぞ」

佐天「はい、先生」


一方通行による佐天涙子の能力開発も3日目。
昨日は、光と風を同時に反射させることに成功。
しかし、熱量の反射には失敗してしまったのであった。


佐天「昨日、帰ってからも少し練習したんですけどね……」

一方「結果はどォだったンだよ?」

佐天「まあ、お察しの通りです……」


どうしても、2分くらいで能力の限界が来てしまうのだ。
これなら、バラして数値を入力した方がマシなのではないかと思ったのだが、


一方『別々に入力しようとすンなよ? そンなンじゃ、これから先も、入力に一手間余計にかかっちまう』


と釘を刺されていた。
それに、種類が増えれば増えるほど、別々に組み込む方式の方が難しくなるのだとか。
先のことを見据えてのご鞭撻だったという訳だ。


一方「お察しの通りってなァ……。オマエ、昨日の『進歩してねェ』って言葉をどォ理解してやがったンだよ?」

佐天「はい? 言葉通りにですけど?」


どうやら、言葉通り以外の意味があったらしい。
だったら、説明してくれないと分かるわけないじゃないか。



一方「まァいい。ついでに、昨日の2つ同時に反射を適用させたときに言ってたやつも教えてやる」

佐天「ああ。あの単純に4倍速の消耗じゃない、って言ってたやつですか?」

一方「そォだ」


昨日は、光の反射に3分。風の反射に3分。両方に1分で限界がきた訳だ。
1種類だったら、10分の反射ができているのだから、4倍の消耗になると思ったのだが、そういうことではないらしい。


一方「そもそも、能力を使いこなせりゃ、打ち切れなンてもンはなくなるンだよ」

佐天「はい?」


などと、いきなり衝撃の発言をする一方通行。
能力に打ち止めがなくなる?
そんな馬鹿な。
大体、昨日、一昨日と能力が打ち止めになったから、座学をやったのではないか。


一方「能力ってのは、ゲームに出てくるよォなMPを消費する魔法とは訳が違う」

佐天「はぁ……」


何が言いたいのだろう?


一方「能力ってのは、演算によって発動してるのはさすがに知ってンだろ?」

佐天「は、はい」


どんな能力であっても、それが能力である限り、人の演算によって発生していることは間違いない。
それには、1つの例外もないのだ。



一方「つまり、だ。オマエにも分かりやすく言えば、人間の脳を、コンピュータのCPUだとすンだろ?」

佐天「CPU?」


なんとも不思議な感覚だ。
パソコンのCPUが人間の脳に当たるという例えはよく聞くが、逆は初めて聞いた。


一方「能力の発動には、そのCPUの使用率……。まァ、人間の場合で言う、BC(ブレインセル)稼働率ってのが問題になってくる」

佐天「処理能力ってことですか?」

一方「そォだな」


機械であるCPUは、その100%をフルに使用することが可能だが、当然、人間にはそんなことは不可能である。
呼吸や鼓動など、そういう生命維持活動のためにも、常に脳が使用されているからだ。
だから、普通の人は、能力に使えるBC稼働率が精々50%から60%の間になるということらしい。


佐天「でも、それだったら、能力は打ち止めにならないですよね?」

一方「そォだな。だから、今度は、“脳の疲労”が問題になる」


人間には、さきほどの呼吸や鼓動のように、演算をし続けても疲労することがない一定のラインが存在する。
例えば、佐天が、能力に30%は脳を使用し続けることができるとする。
すると、30%以下の能力はいくらでも使えるのだが、それ以上の能力の使用を続けると、脳が疲弊して、そのうち能力が使えなくなるという訳だ。
大抵の能力者は、このラインを超える能力しか持っていないため、永久に使い続けることはできない。
それを踏まえてもらうと、一方通行というのが、如何に例外的な存在と言えるか分かってもらえるだろう。
この例で言うならば、佐天が1種類の反射の膜を張るのに、40%必要で、2種類適用させると、50%近く必要になる。
だが、一方通行は、ほぼ全ての自分に害のある種類の数値を入力させ、尚且つ全身に反射の膜を自動で纏わせている。
それを、このライン以下の水準で保っているのだ。
これを怪物と言わずして、なんと言おう。


一方「感情なンかにもよって、数値が上下するンだけどな」


恐怖を感じると、能力に割けるBC稼働率がガクンと落ちるのは、その一例ということだそうだ。



一方「要するに、スゲェ能力を使おうとするには、大量の処理能力が必要になるンだよ」

佐天「なるほど……」

一方「そンな能力を長く使えるようにするには、どォすりゃいいか分かるか?」

佐天「え、ええっと……」


既に佐天のBC稼働率は凄いことになっていたので、もう目を回す寸前であった。
そんな状態の彼女にいきなり質問をしても、答えられるはずもない。


一方「答えは簡単だ。分母をでかくするか、分子を小さくすりゃいい」


考える間もなく、一方通行が答えを言う。
つまり、脳の処理能力を上げるか、能力の計算式を効率化すればいいという話につながる。
分母である脳の処理能力は、日々の積み重ねであるので、急激には変化しにくい。
しかし、分子である能力の計算式は、きっかけさえつかめれば、1日で驚くような成果がでる訳だ。


佐天「あ。じゃあ、私がだんだん能力を使えるようになってきてるのは……」

一方「そォだ。能力の計算式をスマートにできてるからだろォな」


昨日の『進歩がない』というのは、いつまでも計算式を効率化せずに、同じものを使用し続けているということに対しての言葉だったのだ。
こんなこと、先日まで無能力者だった佐天には、説明されなければ分かるわけがない。


佐天「それで、効率化っていうのはどうすればいいんですか?」

一方「心配すンな。手は貸してやる」


学園都市最高の頭脳をもつ最強の能力者、一方通行の出番である。



佐天「ふぃーっ」

一方「こンなことなら、最初からこォしておくべきだったかもしンねェな」


少し一方通行が裏技的なことをしたおかげで、お昼を回る頃には、熱ベクトルの反射もできるようになっていた。
裏技的なこととは、佐天が能力を使用している際に、脳の信号をちょこっと操作しただけである。
素人がこんなことをすれば、記憶障害が起こる可能性もあるのだが、一方通行はさすがにそこまでは踏み込まない。
あくまで、きっかけを与えるというレベルにとどめている。
しかし、その程度の干渉でも、3種類の反射の膜を5分も維持できるレベルにまで、佐天を引き上げることに成功していた。
驚くべき進歩といえるだろう。


佐天「それじゃ、そろそろお昼にしましょうか」


ニコニコ笑顔で一方通行に提案する。
そんな顔になってしまうのも仕方ない。
何せ、今の佐天は『超佐天』と言っても過言ではないのだ。
いや、この名前はあまり良くないので却下するが。


一方「そォだなァ……」


時計を見ると、もう午後1時に差し掛かりそうな時間だった。
少し集中しすぎただろうか?
前日までは、11時ちょっとにお昼を取っていたので、すごく空腹だ。
と、そのとき、リビングと隣の部屋を繋ぐ扉が勝手に開いた。
いや、誰かによって開かれた。


???「いい加減、お腹空いたんだけどー?」

佐天「え?」

一方「あ……」


▽でっかいミサカさんがあらわれた。



一方「なンで出てきてンですかァ!? 番外個体ォォォ!!」

番外個体「だってお腹空いたし」

打ち止め「み、ミサカも限界……」

佐天「うわ!! 増えた!?」


今度は小さい御坂さんまで登場。
この家では、御坂さんの栽培でもしているのだろうか?
それに、一方通行さんのテンションが凄いことになってる。


佐天「えーっと……」

打ち止め「初めまして! ミサカは打ち止めっていうの、ってミサカはミサカは自己紹介してみたり!」

番外個体「ミサカは番外個体って呼んでね☆」

佐天「あ、佐天涙子です」


よろしく、と頭を下げる。
何がなんだかわからずに、とりあえず自己紹介をしてみたが、つまり、どういうことなんだろうか?
説明をしてもらおうと佐天が振り返ると、最終回に逆転ホームランを打たれたピッチャーのみたいな顔をした男がそこにいた。
というか、一方通行であった。


佐天「ど、どうしたんですか?」

一方「な、なンでもねェ……」


そんなこと言われても、明らかに顔色が悪い。
いや、彼はもともとこのくらい白かったか。



番外個体「ねえ。お腹空いたってば」


だが、そんな一方通行にお構いなく、自分の要求を突き通そうとする番外個体と名乗る御坂さん(大)。


打ち止め「大丈夫? ってミサカはミサカは顔色が悪いアナタに訪ねてみる」


一方で、そんな彼を気遣う御坂さん(小)。


一方「…………」


そして、銅像のように動かなくなった一方通行さん。
やばい。
これどうすればいいんだろう?


佐天「ええと、お二人は、御坂さんのお姉さんと妹さんでいいんですか?」


とにかく、話を進めるために、2人の正体について聞いて見ることにした。
ただ、御坂さんに姉妹がいるなんて話は聞いたことがない。
もしかしたら、従姉妹か何かの可能性もある。


打ち止め「うん。ミサカはお姉様の妹だよ、ってミサカはミサカはあなたの疑問に答えてみる」

番外個体「ミサカも妹だよー」

佐天「えっ?」


御坂さん(大)も妹さんだって?
こんな外見で、私と同じ年だとでもいうのか?
見た目は高校生にも見える。


番外個体と名乗る御坂さん(大)が妹さんということは若干信じられない。
が、彼女たちが御坂さんの妹ということなら1つ説明がつくことがある。


佐天「なるほど、そういうことだったんですか」


うんうん、と頷く佐天。
他の3人は、彼女が何を納得しているのか分からず首をかしげる。


佐天「妹さんをここに引き取るってことで、御坂さんと一悶着あったんですね?」

一方「は?」


御坂が一方通行を嫌っている理由、それに、彼女から妹がいるという話を聞かなかった理由もそれが原因なのだろう。
なぜここで2人を預かっているのかは分からない。
だが、佐天がこの2人のことを知ったら、ほぼ間違いなく御坂美琴に連絡が行っていたはずだ。
そうなると、落ち着き始めた一方通行と御坂美琴の関係がまた混ぜっ返しになる可能性もある。
そうならないように、一方通行は彼女たちの存在を私に隠していたのだろう、と佐天は察したのであった。
もっとも、完全に勘違いな訳だが。


番外個体「いや、違―――」

一方「実は、そォなんだ」


そんなうまく言い逃れるチャンスを見逃すほど、学園都市の第一位はマヌケではない。
番外個体のセリフを遮ると、オマエは黙ってろという視線を打ち止めと番外個体に向ける。


一方「そォいう訳で、超電磁砲には黙っていてくれねェか?」

佐天「フクザツな事情があるんですねえ……」


あえて詳しい事情を説明しなかったり、御坂美琴とオリジナルと言わないようにする。
それに気をつけていれば、あとは佐天が勝手に想像で補ってくれるはずだ。



佐天「へえー。打ち止めちゃんがレベル3で、番外個体さんがレベル4なんだー」

打ち止め「そうだよ、ってミサカはミサカは胸を張ってみる」

番外個体「ぺったんこな胸だけどね」


昼食を取っている間、そんな会話をしていた。
ノリのいい佐天と、人見知りしないミサカ姉妹が意気投合するのに時間は掛からなかった。
具体的に言うと、5分くらい。
知り合って4日経っても緊張してしまう一方通行とは大違いだ。
2人が顔見知りに似ているということも関係あるのかもしれない。
自分の能力に関することや、彼女らの姉、御坂美琴の話で大いに盛り上がった。
そして、そんな楽しい昼食が終わるころには、午後2時になってしまっていた。
今日は座学の方はどうするのだろうか?


一方「今日は、もうそンな気分じゃねェ……」


なんかそんなことを言って、自分の部屋らしきところに引っ込んでいく。
ってことは、今日はもう終わり?


打ち止め「それじゃ、ミサカたちとゲームして遊ぼ、ってミサカはミサカは袖をグイグイ引っ張ってアピールしてみたり」

番外個体「最終信号は弱っちいからねえ。片手のミサカにも負けるくらいだし」


帰ろうかと思っていたところに、2人からゲームをしないかと誘われた。
授業もなくなったことだし、特に断る理由もないだろう。
というか、片手の人に負けるって、逆に難しくないだろうか?


打ち止め「ぬわーっ、また負けたーっ!!」


こ、これがこの子の実力か……。


ただ、佐天は番外個体程大人気なくなかったので、適度に負けてあげることにした。
初めて勝ったときの喜び方は非常にかわいくて、写真に収めたいくらいだった。
白井黒子が見たら発狂ものである。

楽しくゲームをしていると、あっという間に時間が過ぎ、気付いたときには夕方になっていた。
帰宅した黄泉川の作った夕飯までご馳走になった。
料理風景を見て、キッチンにあった大量の炊飯器はそういう風に使うのかと驚愕したものだ。
なんとも常識外の人ばかり住んでいる部屋である。
ちなみに、黄泉川は、夕食を作ると「今日も夜勤じゃん」と言って、飛び出していった。
ここのところ忙しいらしいので仕方ない。


佐天「あちゃー。もう真っ暗だよー……」


日が完全に落ちた外を眺めながら、佐天がつぶやく。
別にバスや電車を使ってここまで通っている訳ではないのだが、完全下校時刻の後はスキルアウトの活動も活発化する。
ぶっちゃげ治安が悪くなるのだ。
大通りには警備員が巡回しているのだが、さすがに細い路地までは見回りきれていないのが現状である。


佐天「ま、大丈夫かな?」

打ち止め「ここから近いの? ってミサカはミサカは心配そうな目でサテンお姉ちゃんを見つめてみる」


打ち止めにサテンお姉ちゃんと呼ばれるのは、いつの間にか定着していた呼び名だ。
そう呼ばれるのは嫌いじゃない。
弟にお姉ちゃんと呼ばれたいた頃を思い出して、なんだか嬉しくなる。


佐天「15分くらいかな。走っていけば、5分くらい」


スキルアウトの溜まり場も特にないはずだし、そんなに心配する距離でもないだろう。


一方、ソファーでくつろいでいる一方通行は、別のことを心配をしていた。
危険なのはスキルアウトだけではない。


一方(どンなバカが狙ってるか分かったもンじゃねェ……)


今のところ、学園都市としては、一方通行にも佐天にも手出しはしてきていないが、一方通行に恨みのある人間が、彼女を狙う危険性は捨てきれない。
何しろ自分と同じ能力を持っている。
たとえ、自分に到底及ばない能力しか持っていないと知っていても、八つ当たりの対象になる可能性がある。
いや、自分に及ばない能力しか持っていないから、だろうか。
昼間ならまだしも、こんな時間に1人で帰すのは危険極まりない。


番外個体「大丈夫かにゃ~ん? 暗い夜道を女の子一人で帰すのってどうなの?」


そんな考えを読んだのか、番外個体が一方通行の方を向きながら言う。
その顔は、ものすごくニヤニヤしている。
これは、暗に「お前が送っていけ」と言っているのだろう。
それに気付いた佐天が、いや、別にそこまでしてもらわなくても、と言おうとしたところで、


一方「チッ」


と舌打ちをして、一方通行は杖を持って立ち上がった。
多分、送ってくれるつもりなのだろう。
やっぱりいい人かも、と佐天は改めて思うのであった。

パーセンテージは適当です。説明が分かり難かったかな? 今後の展開に関係させる可能性もあるので、理解してもらえれば幸いです。

あと、今の佐天さんは、『手の甲だけ、3種類、5分、強度弱』なので、まだレベル1です。かなりレベル2に近いですけど。

修行編(第二章)もあと2回の予定。進行具合によっては、次で終わるかも。

3日目は芳川さんを完全に忘れてました。

続きを更新。



一方「よし。いいぞ」

佐天「い、行きます……」


一方通行による能力開発も4日目。
この日は“強度”に関する能力開発を行うことにした。
昨日までに、佐天は、5分間、光、風、熱の反射ができるようになっていた。
そこで、今日から次のステップに移ることにした訳である。


佐天「おぉ……」

一方「上出来だ」


ポトリと床に消しゴムが落ちる。
ここ数日、目覚しい進化を遂げている佐天だったが、今日は特に凄かった。
昨日から導入した、一方通行による裏技的な能力開発のおかげもあるだろう。
とにかく、この4日間の中では、一番の成長を遂げたといえる。
一体この日何ができたのか?


―――そう。ついに、固体の反射に成功したのだ。


―――数時間前


佐天「おはようございまーす!!」

???「あら、おはよう」


いつも通りの時間に部屋を訪れると、知らない人が玄関に立っていた。
一瞬、部屋を間違えてしまったかとも思ったが、ここで間違いはなさそうである。
……ということは、ドロボウ?
いや、それなら、一方通行が気が付かないということはない。


???「貴女が、佐天涙子ちゃん?」

佐天「あ、はい。あのー……。あなたは?」


自分のことを知っているということは、この人もここに住んでいるに違いない。
やけに白衣が似合っているが、研究者か何かなのだろうか?


芳川「私は、芳川桔梗。黄泉川愛穂の友人といったところかしら。ここで居候させてもらってるの」


居候?
そうなると、この3日間まったく姿を見なかったのは謎だ。
佐天は改めて、その女性を眺めた。
こう言っては失礼かもしれないが、薄幸そうな人に見える。


芳川「基本的に家にいるけど、いないものと思ってくれていいわよ」

佐天「はい?」

芳川「だって、私、今から寝るんですもの」


そういうと、フラフラした足取りで、右の部屋に消えていった。
そういうお仕事なのだろうか?



佐天「おはよーございます」


リビングに入ると、一方通行はソファーで缶コーヒーを飲んでいるところだった。
打ち止めと番外個体の姿は見当たらない。


佐天「あれ? 打ち止めちゃんと番外個体さんはどうしたんですか?」

一方「あいつらがいると集中できねェだろ?」


だから、部屋に閉じ込めたんだとか。
なんだか、自分のせいで、窮屈な思いをさせてしまい申し訳なくなる。
そういえば、さっきの人は芳川って言ったっけ?
何をしている人なんだろうか?
佐天は、もう1人の同居人について一方通行に聞いてみることにした。


佐天「さっき、芳川さんって方と会ったんですけど」

一方「芳川だと?」


空になった缶コーヒーを片付けていた一方通行が、その名前にピクリと反応する。
あれ?
何かマズイことでも聞いてしまったか?


一方「まァ、あいつはいないようなもンだと思ってくれ」

佐天「なんか本人もそんなこと言ってましたけど……」


なんともミステリアスな女性だ。
佐天の中で、妙にいいイメージが定着しつつあるのだが、その正体はダメダメなオトナである、という現実を彼女は知らない。
知らない方がいいことは、世の中にはたくさんあるのだ。



一方「今日は、強度について説明する」

佐天「『強度』っていうのは、反射膜のですよね?」

一方「そうだ」


反射の強度は、『自分だけの現実』の影響を多大に受ける。
簡単に言えば、反射できると思ったものは反射でき、反射できないと思ったものはできない。
当然、事前にその反射する“種類”の情報を入力していなければ、反射することはできない。
例えば、物理現象の反射が可能である能力者が、人間の拳を反射することはできても、拳銃を反射させることはできないということは想像しやすいだろう。
この場合、拳銃の弾丸は反射の膜を通過することになる。
つまり、自分の反射に自信を持っていれば、そう簡単に突き破られることはないのだ。

―――なので、一方通行はこのことを佐天に教えなかった。

その方が、いい結果がでると見込んだのである。
それ以外にも、“強度”について話せることがあるので、そちらを説明することにした。


一方「反射の『強度』ってのは、下げることができンだ」

佐天「えーと……。なんのために?」

一方「じゃねェと、全身に反射を使ったときに、真っ暗で前が見えねェじゃねェか」

佐天「な、なるほど……」


目に入る光を反射してしまうためである。
これは、何も光に限ったことではない。
気温や重力などといったものまで反射してしまっては、攻撃を受け付けなくなっても、まともな身動きを取ることなどできない。


一方「ま、そンな心配必要ねェンだけどな」


脳は、通常行動を取るのに必要な光量や温度などの基本情報を無意識に保存しているからだ。
その基本情報以上のベクトルが反射の膜に触れたとき、反射が発動することになる。
ちなみに、演算をし直せば、基本情報の数値を変更することもできる。
その例が、一方通行の紫外線の反射だ。



一方「そんなところかねェ?」


あらかた説明を終えた一方通行が一息つく。
基礎情報っていうのがあるから、普通にしてれば下げる必要はないって話だよね?


佐天「ってことは、『強度』に関しては、何も練習する必要はないんですか?」

一方「下げる練習ってのも、実のところ必要ねェもンだしなァ。逆に計算量が多くなるだけだしよォ」


ただでさえ、演算にいっぱいいっぱいなのに、弱くするのに余計な計算式が必要なんて、なんて無駄ななんだろう……。
でも、そうすると、“強度”に関しては説明だけということになるのか。
この後は、また“種類”を増やす特訓でもするのだろうか?


佐天「それじゃあ、何をするんですか?」

一方「そォだな……。風の次のステップにいくとするかァ」

佐天「それって……」

一方「液体の反射ができるかどォかだな」


“気体”の上位レベルである“液体”の反射。
固体の反射よりは幾分簡単であるらしいが、それでもやはり難しいらしい。


一方「まァ、また手は貸してやる」

佐天「が、頑張ります」


できるかどうかは分からないけど。


その数分後。
事件が発生した。


佐天「で、できた……」

一方「今日は随分と早ェな」


なんと一発で液体の反射に成功したのだ。
ちょろちょろと蛇口から水が出ているが、手の甲はまったく濡れていない。


一方「思ったより効果あンだな」


そう言って、チョーカーに触れる一方通行。
実際、この方法は驚く程の効果をもたらしていた。
それもその筈で、一方通行が水を弾く際の脳の電気信号の流れと、佐天の能力を使っている際の電気信号の流れを近似させていることが原因である。
つまり、佐天の脳に、一方通行の計算式を直接示して最適化している訳である。
分かりやすい例としては、見本の上をなぞるだけの習字といったところだろうか?
この方法のメリットとしては、思考の一部を植えつける『暗闇の5月計画』とは異なり、あくまで、佐天涙子本人の計算式を使っていることが挙げられる。
そのため、性格が不安定化する心配もなく、『暗闇の5月計画』よりも人体に影響の少ない結果をはじき出していた。
それにこの方法は、一方通行の了承が必要になるので、乱用される恐れもない。
もっとも、一方通行でさえ、この方法がここまでの効果があると知っていてやっている訳ではなかった。
やってみたらできた、というレベルの認識なのである。


一方「このまま午後は固体に行ってみるとしますかねェ」

佐天「なんか調子いいです!」


能天気にそんなことを言う佐天。
実質的には、一方通行の計算式を流用しているだけということに気付いていない。
だが、このことに気が付かなかったのは、さらに運が良かった。
勘違いにより佐天の自信が付き、それによって『自分だけの現実』が強化されるというインフレ状態になっていたのである。

この時点で、佐天涙子はレベル2相当になっていた。


4人で昼食を取ると、午後は2日ぶりの座学を行った。
また2人を追い出すような形になってしまって申し訳ない。

午後3時になると座学は終了。
能力開発の再開である。


一方「固体の反射ができりゃ、ほぼ全ての物理現象を反射できる」


“ほぼ”とつけたのは、上条当麻などの例外が存在するからだ。
一方通行は、ここ数ヶ月で、反射が絶対の防御でないことを学んだのだ。


一方「物は試しだ。とりあえず、そこの消しゴムでやってみろ」


一方通行は、チョーカーに手を当て能力を発動させる。
そして、そのまま佐天の頭に手を置いた。
これだけで、下準備の方は完了。


一方「よし。いいぞ」

佐天「い、行きます……」


佐天は、言われたとおり、消しゴムを手の甲の上方に持っていく。
そして、精神を集中させ、今までの反射の膜に固体を反射させるイメージを追加させた。
それを一方通行が修正し、その修正された跡を佐天がなぞる。
それだけで、物理現象を反射させる反射の膜の完成である。


佐天「おぉ……」

一方「上出来だ」


消しゴムを放した後に起こったことは、事実を確認しただけのことに過ぎない。
佐天は、驚くべきスピードで、どんな盾より高性能な反射の盾を手にしたのである。
今は、まだ左手の甲限定ではあるが。



一方「今日は、こンなところか」

佐天「ありがとうございましたーっ!!」


固体を反射させるのに成功したところで、今日は終了ということになった。
一方通行が、スタスタと廊下に行くのとすれ違いに、打ち止めと番外個体の2人がリビングに入ってくる。


打ち止め「どうだった? ってミサカはミサカはサテンお姉ちゃんに今日の成果を尋ねてみたり~」

佐天「いやー、今日はもうすごかったよー」

番外個体「へえ? どんな感じ?」


などといった感じで今日の成果を話してあげることにした。
佐天は、もうこの2人とはすっかり仲良しさんである。
大体の話が終わると、


番外個体「もちろん、今日もやってくよね?」


と言って、番外個体がゲーム機のコントローラーを差し出してきた。
昨日は、打ち止めとばかり(接待)プレイをしていたので、今日は番外個体と対戦しようという訳である。
たとえ、相手が片手だからって手加減はしない!
結果は…………『負け』
ば、バカな……。


番外個体「まだまだだね~」

佐天「ま、まだ第2、第3の私がいますよ~?」


そんな、四天王のうち最初のボスがやられたら言いそうなセリフを吐いて、コンティニューを連打する。
い、今のは得意キャラじゃなかったから負けたんだもん!
次はそうはいかないんだからね!


……現実って残酷だよねー。


番外個体「もう実力差はわかってもらえたかな?」

佐天「参りました……」


これは打ち止めちゃんじゃ勝てないわ……。
なんていうか、戦法がセコイ。
ハメ技ばっかり狙ってくるし。


番外個体「結果がすべてだからね」

佐天「ううう……」

打ち止め「げ、元気だして? ってミサカはミサカは励ましてみる」


そんなことをしているうちに、時間は午後8時。
その後、一方通行さんの作る夕食をご馳走になったので、昨日より遅い時間になってしまった。


一方「今日も送っていってやる」


そう言って、杖を取り立ち上がる一方通行さん。
昨日に続いて、今日も迷惑をかけるのは、なんとも心苦しい。


一方「気にすンな。コンビニにコーヒーを買いに行くついでだ」

佐天「そ、そうですか?」


冷蔵庫にはまだ結構あったと思ったけど。
あ、これは、この人なりの気遣いってやつですかね?
ありがたく受け取っておくことにしますか。



佐天「すっかり寒くなってきましたねえ」

一方「そォだな」


帰り道。
自宅に向かいながら、一方通行と佐天が並んで歩く。
昨日もそうだったが、しゃべっているのは佐天ばかりで、一方通行は「あァ」とか「そォか」くらいしか返事をしない。
なんだか、あの部屋にいるときに比べて、少しピリピリしているような気もする。


一方「あ?」


どんな話をすれば反応してくれるかなーなんてことを考えていたら、一方通行が何かに反応して突然足を止めた。


佐天「どうかしたんですか?」

一方「今、何か聞こえなかったか?」


特に何も聞こえなかったような気がする。
猫でもいたのだろうか?
気が付かなかった。


佐天「いえ、聞こえませんでしたけど」

一方「…………気のせいか」

佐天「え? あ、ちょっと! 気になること言って置いていかないでくださいよー!」


先に歩き出した一方通行に追いつくため、小走りで追いかける佐天涙子。
そして、そんな2人を見つめる者。

―――非日常はすぐそこまで迫っている。

最後はちょっと不穏な空気を出してみた。

それっぽい理屈あるし、このくらいのインフレなら許容範囲だよね?

伏線(?)も大体張り終えたので、次回で二章はラストです。


オマケ!!
能力使用の全体像(例:反射)

 演算 × 自分だけの現実 = 能力の強さ
  ↑
能力の特性
・強度
・範囲
・種類
※効率性も重要

要するに、『自分だけの現実』という水道管から、『演算』という蛇口を通して、『能力』という水を出す訳です。
水道管の太さ(最大出力)は所与で、蛇口の方はある程度自由に調節可能ってことですね。
また、能力の種類ごとに蛇口が必要なので、それぞれに水道管を引く必要があります。(例えば、反射と風のベクトル操作は別物)
なので、『自分だけの現実』の強化と『演算』の効率化は別のものだとお考え下さい。
まあ、自己理論ですけど。

二章ラストを更新。


佐天涙子が一方通行の能力開発を受け始めてから4日が経った。

1日日は、手の甲で光の反射。

2日目、光と風を同時に。

3日目、熱量を加えた3種類。

4日目、物理現象の反射に成功。

ここ数日で、このように急激に成長してきている。
少し前までスプーン曲げしかできなかった人間とは思えない速度だ。
もっとも、これは佐天涙子の実力というより、一方通行の力によるところが大きい。
それも相まって、彼女の日常は加速していく一方だった。


また、この4日間で出会った人もそれに拍車をかけていた。

1日目、一方通行と顔合わせ。

2日目、黄泉川愛穂と出会う。

3日目、打ち止め、番外個体と出会う。

4日目、芳川桔梗と出会う。

出会いのたびに、佐天の世界は広がり、彼女の日常は変質していく。
既に彼女の日常は、大きな変化とともに、急速に進化を遂げるものとなっていたのである。


―――そして5日目。

この日の出会いは、前日までとは違った意味で、佐天に大きな転機を与えることとなった。



佐天「おっはよーございまーす!!」


いつも通り元気な挨拶をして、部屋に入り込む。
一方通行の能力開発を受け始めてまだ5日目。
それであるにも関わらず、“いつも通り”と言えるほどになっていた。
彼女は、環境の変化に適応しやすい性格をしていたので、当然といえば、当然かもしれない。
部屋では、相変わらず一方通行が缶コーヒーを飲んでいるところだった。


一方「それじゃ始めるか」

佐天「はいっ!」


今までやったのは、“種類”と“強度”の2つ。
それに、能力の効率化の話を聞いた。
ということは、今日は恐らく“範囲”についての講義になるのだろう。


一方「今日は、『範囲』について説明する」


やっぱり。
“範囲”っていうのは、どこまで反射を適応させるかってことでいいのだろうか?


一方「ま、そォなるな。そンなに説明することもねェし、軽く流して実践に移るぞ」

佐天「分かりましたー」


うんうん。
ちゃんとここ数日で、私も察しがよくなってきてる。
分母である脳の処理速度も成長期という訳だ。



一方「『範囲』ってのは、『種類』と違って、バラバラに分解して体に染み込ませることもできる」

佐天「そうなんですか?」


“種類”の場合、バラバラに分解して覚えると、反射を適用させる際に、タイムラグが生じてしまう。
簡単に言えば、5種類の反射の膜を発生させるときに、1×5と計算するのと、1+1+1+1+1と計算しているようなものだ。
最初のうちはいいのだが、種類が増えてくるごとにタイムラグが発生する訳である。
一方で、“範囲”とは、反射を適用させる範囲を指定する演算で、体のどの部分にどれだけの大きさの反射の膜を張るかを計算する。
反射の適応範囲を広げる方法は2通りあり、1箇所の固定されたところから拡げていく方法と、全身に少しずつ反射を使用していく方法がある。
それぞれに長所、短所があるので、一概にどちらが優れているとは言えない。
1点から拡げていく方法は、新たな領域の拡大に時間はかかるが、実戦のときには演算の手間がワンステップ短くなる。
範囲を広げている際に、何度も同じ部分を演算しているため、計算することに慣れるのである。
対して、全身に適応させる方法は、反射領域を少しずつずらしていき、1度全身に反射をなじませることから始める。
これだと、演算に手間はかかるが、好きな場所に反射の膜を展開させることができるのだ。


佐天「それで、私はどちらの方法をやればいいんですか?」

一方「オマエの場合は前者だな」

佐天「つまり、左手の甲から範囲を拡げていくってことですよね?」

一方「そォだ」


後者の方法には、1つ重大な欠点があった。
それは、自由に反射の膜を張ることができるため、対応の幅が広い。
その結果、反射できる“領域”の拡大がしにくくなってしまうのだ。
キャンピングカーの内積を拡張するのと比べれば、一戸建ての増築の方が簡単で効果があるだろう。
それと似たようなものである。


一方「今日中にどこまでいけるかねェ?」

佐天「どうでしょうか?」


この時点では、まだ左手の甲だけであった。



一方「今日はこンなところだな」

佐天「ありがとうございましたー」


そうして、その日の能力開発も終了。
夕方になるころには、両手の手首まで反射ができるようになっていた。
一点から範囲を広げるイメージをしたのだが、一方通行の修正によって、両方の手に効果が見られるようになったのである。


佐天「これなら、冬も手袋いらずですね」

一方「3分だけだけどなァ」


今の佐天は、『光と物理現象、熱』を反射する膜を、両手に3分使用することができるようになっていた。


一方「レベル2.5くらいにはなってンじゃねェか?」

佐天「!?」


5日前までは、レベル1だった自分が、レベル2になっている?
それはもう凄いことじゃないか。
つまり、もう少しで打ち止めちゃんに追いつけるということになる。


一方「でもなァ……。レベル3になっても、オマエじゃ打ち止めには勝てねェよ」

佐天「え? どうしてですか?」

一方「オマエの反射に電気を対応させても、飛んでくる電撃に対応できンのか?」

佐天「む、無理です……」


事前動作があるとはいえ、秒速180km/hに反応できる人類など存在しないだろう。
幻想殺しの場合は、それ自体が避雷針のようになっているため電撃が集中するが、反射の場合はそんなことにはならない。
つまり、飛んでくる電撃の着弾地点に反射の膜を張らなければならないのだ。
無理ゲーである。



打ち止め「ミサカのこと呼んだ? ってミサカはミサカはお勉強が終了したのを見計らって部屋に入ってみたり」

佐天「あ、打ち止めちゃん」

番外個体「この人にセクハラされたりしなかったかにゃ~ん?」


外で聞き耳を立てていたらしい打ち止めがトコトコとリビングに入ってくる。
もちろん、番外個体と一緒に。


佐天「そ、そんなこと一方通行さんがするはずないじゃないですか!」

打ち止め「そうだよ、ってミサカはミサカはこの人を庇ってみる」

番外個体「そうなの?」


番外個体の顔は非常に楽しそうな顔で尋ねる。
だが、当の一方通行は、ソファーに横になると、


一方「くだらねェ……」


と言って、眠り始めてしまった。
話に加わる気はさらさらないらしい。


打ち止め「サテンお姉ちゃんは、今日も遊んで言ってくれるよね? ってミサカはミサカは期待の眼差しで見つめてみたり!」

佐天「え? いや、さすがに3日連続は……」

番外個体「いいって、いいって。あの人はもう少し外に出た方がいいんだから」


確かにそれはその通りかもしれない。
だってあんなに色白だし。
いや、あれは反射が原因だったかと思い出し、苦笑いする佐天であった。



佐天「結局、今日も夕食をご馳走になってしまった……」


帰ってきた黄泉川が、炊飯器でハンバーグを作るから食べていけと言われて、ご馳走になった訳である。
時刻は午後9時。
完全下校時刻はとうに過ぎ、外は暗闇に支配されていた。


黄泉川「もう遅い時間だし、送っていくじゃんよ」
                         ・
番外個体「あ、いいって、いいって。今日も、この人が送っていくからさ」

黄泉川「も?」

佐天「ええと、その……」


ここ2日、夜を空けていた黄泉川は、そのことを聞いていなかったようだ。
少し驚いたような顔をして一方通行の方を見ている。
なんだかその表情は、息子の成長を喜ぶ父親のようにしか見えない。


黄泉川「そういうことなら、一方通行に譲るしかなさそうじゃん!」

一方「別に、ンなこと頼ンでねェけどなァ……」


一方通行が座っていたソファーから立ち上がり、玄関の方へと向かって歩き出す。
結局、送っていってくれるみたいだ。


佐天「あ、ありがとうございます」

一方「…………」


お礼を言うが一方通行は反応しない。
こういう反応にも、もう慣れてきた。
「一方通行に気をつけてね」という番外個体のセリフを最後に、黄泉川家を後にすることにした。

この日の出会いは、この後に発生することになる。


マンションを出て数分後。
2人は寒空の下を歩いていた。
空には雲もなく、満天の星空が広がっている。


佐天「3日連続で送ってもらっちゃってすみません」

一方「別に気にすンな。アイツらの相手をするのに比べりゃ、随分マシだ」


ポツポツと会話を交わす。
初めて会ったときは怖いというイメージしかなかったが、ここ数日でそんな印象もだいぶ変わってきた。
確かにぶっきら棒で、きつい事もたくさん言うけど、面倒見が良くて、優しいところもある。
どうしてこれで、御坂さんと仲が悪いのかがよく分からない。
家庭の事情なんだろうけど……。


佐天「御坂さんとは仲直りしないんですか?」

一方「ハァ?」


いやいや、「ハァ?」はないでしょ。
そんなにありえないなんて顔しなくても……。


一方「ありえねェな」


一刀両断。
取り付く島もないというのはこのことか。
もう少しくらい考えてくれても―――


???「あ、いたいたー。あなたが第一位?」


と、そんな2人になんの前触れもなく声がかけられた。



一方「チッ」


一方通行は、明らかに油断していた。
誰かに尾けられていることには気付いていたが、まさか相手が堂々と来るとは思っていなかったのだ。
とっさにチョーカーに手を伸ばして声のした方向を見ると、そこにいた予想外の人物に、彼は絶句することになってしまった。

一方、佐天は、その声の出所がわからず辺りを見回していた。
声の感じからすると女の人だっただろう。
聞き覚えのない声だったが、一方通行の知り合いなのかもしれない。
と、そこでやっと、一方通行が、佐天のいる場所と反対側にある細い路地の方を見ているのに気付いた。
彼女の位置からでは、一方通行が壁になってしまい、その人物の姿が確認できない。
足音がしなかったことを考えると、そこで待ち伏せでもしていたのだろうか?


???「初めまして、第一位」

一方「なンだと?」


初めまして?
ということは、一方通行さんとも初対面の人物なのか。
いや、それにしては驚きすぎではないだろうか?


一方「オマエは……」

完全反射「私の個体名は『完全反射(フルコーティング)』」

佐天「完全反射?」


聞き覚えのない能力名だったが、確かにそう一方通行に名乗った。
こちらにはまだ気付いていないのだろう。
その口調は、明らかに1対1で話すようなものだった。
もっとも、こちらもその人物の姿は見えない。
ただ、隣にいる一方通行が困惑しているのは分かった。
この前、打ち止めちゃんと番外個体さんが私に見つかったときと同じような感じだ。
一体どんな人物がここまで一方通行を驚かせるのだろう?
気になった佐天は、スッと少し体の位置をずらし、その少女の姿を一目見ることにした。



完全反射「あ、一緒にいたんだ」


こちらがあちらを捉えるのと同時に、あちらもこちらの存在に気付いたようだ。
最初は薄暗くてよく分からなかったが、その少女は、自分と同じくらいの背丈だろうか?
いや、それだけではない。
同じくらいの髪の長さ。
同じような髪の色。
同じような体つき。
同じような肌の色。
同じ柵川中学の制服。
そして、同じような顔つきをしていた。


佐天「え? 私?」


似ているどころの話ではない。
そこには、佐天涙子が立っていた。
いや、佐天涙子はここにいる。
そうすると、あそこにいるのは、自分によく似たナニかだ。

               ・ ・ ・
完全反射「初めまして、お姉様。よろしくね♪」


自分とそっくりな少女が、手を振りながらそう告げる。


―――“非日常”という存在が、にこやかな笑みを浮かべてそこに立っていた。


                        第二章『Who are you?(非日常との邂逅)』 完

起承転結の『承』から『転』の入りまでをお送りしました。空気がガラリと変わってきた感じですねー。

あ、今更ながらオリキャラ注意。彼女の詳細については、第三章『Overline(彼女の目的)』をお待ちください。

ちょっと用事があるので、次の更新は月曜以降になります。

関係ない雑談でなければ、考察は好きにしてもらって構いませんよー。

いろいろと読んでて面白いですし。

えー、投下できるほど書き溜めできてません。

週末にテストがあるので、投下は予告どおり月曜以降になります。

Pixivで少しだけ先行公開してますので、どうしても気になる方は↓で。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=308966

とりあえず、生存報告。

試験ダメだったぜ。チクショウ。

就活が始めなくちゃいけないため更新頻度落ちます。多分。

一方「ベクトルの”回転””威力””留める”を極めた超高等技術―」
佐天「螺旋丸!!!」
というイメージが唐突に浮かんだ
三人そろえば螺旋手裏剣もできるな

なんとか続きを更新。


“お姉様”
完全反射(フルコーティング)と名乗る少女は確かにそう言った。
佐天に弟はいるが妹などいない。
しかし、これほどまで自分と似ている他人がいるのだろうか?
ドッペルゲンガー?
佐天は、この科学が支配する街でそんな非科学(オカルト)的なことをつい思ってしまう。
対して一方通行は、その女がクローンであることに瞬時に気が付いた。


一方「そのうち何かしてくると思ってはいたが、また趣味の悪ィ嗜好だな」


それに、思っていたよりも時期が早い。
一方通行は、何か動きがあるとすれば、佐天が反射を使いこなせるかどうかというレベルになってからだろうと考えていた。
それが、佐天と一方通行が親しくなってきたところを狙っての“完全反射”の登場である。
そもそも、なぜ一方通行は佐天の能力開発担当に名乗り出たのだろうか?
答えは単純だ。

“スペアプラン”

かつて潰してしまった垣根帝督の代わりに、この少女がスペアプランに抜擢されるだろうと予測したのだ。
自分は学園都市に非協力的な姿勢を取っている。
それなら、表で一方通行をメインプランに据えたまま、裏では佐天涙子という新しい可能性にかけてみるのも悪くないだろう。
たとえ、失敗しても学園都市にはなんの痛手もないのだから。

そこで、一方通行は、佐天涙子の能力を開発することにした。
放っておけば、学園都市が、彼女を規定のレベルに到達させるために、どんな非人道的な実験をするか分かったものではない。
彼はこれ以上光の世界の人間を犠牲にはしたくなかった。
だが、第一位と言えどもできることとできないことがある。
打ち止めなど身近な者を守りながら、彼の目の届かない他人まで守るということは到底不可能だ。
それならば、佐天が自分自身を守る力を身に付けられれば、学園都市に食い物にされる可能性も低くなる。
また、そうすることによって、順調に成長しているうちは、相手も無理に攻勢には出ないと踏んでいた。
一方通行が、佐天涙子を成長させてくれるのならば、学園都市側としては失敗のリスクも低くなり、手間も省けるからだ。
だから、動きがあるのは、彼女が順調に成長し、ギリギリ確保できる時期。
つまり、反射を使いこなせるかどうかの時期になると思っていた。

だが、現実はそうではなかった。
どこで佐天のDNAサンプルを入手したかは知らないが、目の前には事実として、彼女のクローンが存在している。
確かにクローンを使った実験なら、オリジナルを使った実験とは違い、失敗しても何度もやり直せる。
ただ、超電磁砲のクローンである“妹達(シスターズ)”は、オリジナルの1%にも満たない劣化版でしかなかった。
そうすると、佐天涙子のクローンでは、とてもではないが実用の域を超えることはできないはずだ。



一方「どォして、こいつをオリジナルに選んだ?」


今の佐天は、どんなに甘く見積もってもレベル3程度。
そんなレベルのオリジナルを元にクローンを作るなど、予算の無駄遣いにしかならない。
それとも、他に何か彼女をクローンにするだけの理由があるのだろうか?


完全反射「実験のためって聞いたけどね」

一方「なンの実験だ」

完全反射「たしか、『原点超え(オーバーライン)シリーズ』だったかな?」


“原点超え(オーバーライン)”
つまり、原点(オリジナル)を超えるクローンの製造。
はたして、そんなことが可能なのか?


一方「クローンは細胞が劣化しちまって、オリジナルを超えることはできねェはずだろ」

完全反射「ま、その通りなんだけどね」

一方「認めンのか?」

完全反射「うん。けど、能力はそうとは限らないでしょ?」


“妹達”はオリジナルと同じDNAを使用して作成されているにも関わらず、その能力は相当劣化したものである。
つまり、能力の“種類”はDNAによって決定されるが、“優劣”はDNA情報に基づいて決まっているわけではないことになる。
では、何によって能力の優劣が決定しているのだろうか?


完全反射「能力をつかさどるのは脳だからね。そっちを開発することにしたんだってさ」


その結果生み出されたのが、“完全反射”という佐天涙子のクローン。
『能力のみ』オリジナルを超えた成功例であった。



完全反射「まあ、それもアナタのデータがいっぱいあったから、辛うじて成功したってことらしいんだけど」

一方「ってことは……」

完全反射「身体(ハード)はお姉様が元だけど、思考(ソフト)はアナタに近いんだよ」


まったくデータのないところから、オリジナルを超えるクローンが作れる訳ではないと、完全反射が説明を付け足す。
同じ能力であったからこそ、一方通行のデータが生きた訳だ。


一方「だが、それなら、なぜ俺のクローンを作らねェ?」


わざわざ、身体と思考を別々にする必要もないだろう。
そんなのは無駄な手間がかかるだけである。


完全反射「さあ? 男のクローンなんて作っても面白くないからじゃない?」


そんなことを言う研究者がいるのなら大笑いだ。
それはもう研究ではなく、ただの趣味としかいえない。
ともかく、さすがにこれ以上の情報は、このクローンからは引き出せないだろう。


一方「あァ、そォだ。重要なことを聞いてなかったな」

完全反射「ん? 何?」

一方「オマエの目的は何だ?」


こうして自分たちの前に姿を現した以上、何らかの目的があってのことだ。
いや、目的はもう分かりきったことか。


完全反射「そンなのアナタと戦うことに決まってるじゃン」


完全反射の口調が変わった。
その返事を引き金に、ベクトル操作能力者同士の戦闘が始まる。



佐天「オリジナル?」


佐天は、未だに状況についていけていなかった。
だが、それも仕方ない。
いきなり自分の目の前に、自分と瓜二つの人間が現れたのだ。
冷静に対応できる方がおかしい。
2人は、そんな佐天を放置して話を続けていた。
“オーバーライン”や“クローン”などという聞きなれない単語が飛び交うが、頭に入ってこない。


一方「オマエは逃げろ」


一方通行のその言葉に、ハッと我に帰る。
明らかに今までとは空気が違う。
今までに感じたことがないほどピリピリとした空気。
これに比べれば、ポルターガイスト事件などお遊びの範疇だ。
真っ直ぐ前を見れないし、足も震えてしまっている。


完全反射「いやいや、お姉様に逃げられるのは困るンだよね」

佐天「え?」


なかなか逃げ出せずにいる佐天に、そう声がかけられる。
顔を上げると、完全反射と名乗った少女が細い路地から出てくるところだった。
街頭の下に立った彼女が、ますます自分にそっくりな、いや、自分と同じ顔をしていることに気づく。


完全反射「お姉様に危害を加えるつもりはないけど、第一位に逃げられるのは困るの」

一方「俺が逃げるだと? そいつは面白ェ冗談だな」


源流である第一位と、それを元に作られたクローン体。
どちらが上かなど問うまでもないだろう。
しかし、完全反射の余裕な態度は崩れなかった。



一方(まずは小手調べってところからだな。弱ェやつをいたぶる趣味もねェし)


わざわざ、本気を出す必要もない。
チョーカーのスイッチを入れると、路地から出てきた完全反射に対して、軽く小石を蹴った。
―――時速200km程度で。
当然、当たればただでは済まない速度だ。
しかし、完全反射は避ける素振りすら見せない。


完全反射「ねェ? もしかしてそれは舐めてンの?」


高速で飛ばされた小石は、彼女に当たると跳ね返ってきた。
ただ、その軌道上にいるのは一方通行ではない。
小石は、佐天の方に向かって反射されていた。


佐天「―――ッ!!」


佐天はとっさに両手を体の前に突き出し、反射を使用する。
それで防げたのは偶然だっただろう。
あと1秒遅ければ、あるいは、小石が両手のどちらかに当たらなければ、骨の1本や2本は折れていたに違いない。
わずかに回復しているとはいえ、さきほどまで開発を受けていたのだ。
もしかしたら、能力が発動しない可能性もあったかもしれない。


完全反射「あー、びっくりした。お姉様も反射使えるみたいで良かったよ」


心臓をバクバク言わせている佐天に向かって、完全反射が笑いかける。
彼女にしても、わざと佐天の方に向けて反射した訳ではなかったようだ。
その顔には、演技とは思えない安堵の表情が浮かんでいる。
そんな態度に疑問を持ったのは一方通行だ。


一方「解せねェな。なンでオマエがこいつの心配をする」

完全反射「だから言ったでしょ? 私の目的はアナタだけなんだってさ」


クローン体というのは、オリジナルに対して友好的なものなのだろうか?
それは、多くの“妹達”を見てきた一方通行にも分からないことだった。


ともかく、彼女が名前の通り反射を使えるということは分かった。
それに、おそらく全身を反射の膜で覆うこともできるのだろう。
そうなると、物理的な攻撃でダメージを与えることは難しい。
となると、直接攻撃を仕掛けて反射の膜を突破するか、反射を使っていないときに攻撃するしかなさそうだ。


一方(反射同士がぶつかるとどォなるかなンて知らねェけどな)


今は、お互いにある程度の距離を保っている。
だが、そんな距離は一方通行にとっては、あってないようなものだ。
足元をベクトル操作すれば、一瞬で詰められる距離である。


一方「さて、どォなるかねェ?」

佐天「え?」


ゴッ!!というアスファルトが砕ける音がした瞬間、佐天と完全反射の視界から一方通行の姿が消えた。
あまりにも早いスピードで動いたため、目で追いきれなかったのだ。
2人が見失っている間に、一方通行は音速に届くような速度で、完全反射の死角に回りこんでいた。


一方(これで終わりだ、クソ野郎)


死なない程度に加減された一方通行の一撃が、完全反射に向けられて一閃される。
それに遅れて、一方通行が移動したことによって発生した風が発生した。


完全反射「!?」

佐天「きゃああっ!?」


完全反射はまったく対応できていない。
ならば、その一撃が命中するのは当然だった。

が、そこで、予測していなかったことが起こった。

一方通行の拳が、完全反射に触れた瞬間に止まったのだ。
もちろん、当たれば、余裕で気絶するような威力だったはずだ。
その証拠に、2人の間からすり抜けたベクトルが、衝撃派のように辺りに響き、地面に大きなクレーターを作っている。
どうみても、気絶では済まない威力である。


だが、正確には、完全反射には触れていなかった。
反射の膜同士が触れ合った途端、一方通行の動きが止まったと言うべきだろう。
それだけではない。


一方(こりゃどォなってやがンだ!?)

完全反射「ンなっ!?」


反射の膜がジワリジワリと削られる感覚。
2人の反射の膜は、接触することによって相殺されていた。
このままでは、触れ合っている反射の膜が2秒もしない内に消え去ってしまう。


完全反射「くっ!!」


まだ、何が起こっているかも分かっていない完全反射は、地面を強く蹴ると一方通行から距離を離すため横に飛んだ。
ただ、その移動速度も普通に蹴ったスピードで出せるものではない。
一方通行にはかなり劣るものの、一流の運動選手でも出せないであろう速度だった。


一方(なるほど。反射同士が触れ合うと相殺されンのか)


1人冷静に分析を始める一方通行。
あの感覚だと、反射の“強度”の弱い方が相手の反射に破られることになるだろう。
そういった意味では、完全反射の反射の“強度”と一方通行の反射の“強度”はほぼ同じだった。
それだけでも、クローンとしてみれば、いや、一方通行と同じものを持っているだけで驚異的である。
しかも、全身の反射もこなすなど、ここまで完璧にできていれば、レベル5間違いなしだ。


一方「軽いベクトル操作までできンのか。オイオイ、クローンじゃレベル5は作れねェって話じゃなかったか?」


遺伝子操作・後天的教育問わず、クローン体から超能力者を発生させることは不可能という予測が『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』から出てしまっている。
そのため、量産型能力者計画(レディオノイズ)計画は破綻してしまったのだから。
だが、目の前のクローンはどうだ?
反射だけとはいえ、レベル5に匹敵する力を行使している。
樹形図の設計者の演算が間違っていたとでもいうのだろうか?


一方通行が、うろたえていることを知ると、完全反射は笑みを浮かべた。
そんなことまで、バカ正直に答えてやる必要はない。


完全反射「さァ? どォだか」

一方「チッ!」


完全反射は、一方通行が反射の膜を一方的に貫通できないと知ってわずかに安堵していた。
予定外のことだったが、これなら作戦通りの展開に持っていける。
問題ない。
あとは、アイツが急に来なければ。


一方(クソッ! どォする)


対する一方通行は焦っていた。
佐天に授業をしていたせいで、バッテリーの残量がもう5分くらいしか残っていない。
遠距離攻撃はダメ、直接攻撃もダメとなると、相手が反射を適応させていない時に攻撃するしかない。
完全反射はどこまで反射を維持できるのだろうか?


一方「聞いてなかったンだが、オマエは何分反射を維持できンだ?」

完全反射「うン? 30分が限度かな」


あっさりと完全反射が答える。
だが、それも当然だろう。
一方通行の能力を使える時間と同じ時間反射ができるのだから。
嘘かもしれないとは思ったが、どちらにしろこちらはあと5分しか残されていない。
それくらいは優々維持できるだろう。
これでは攻撃を当てることはできない。
相手に攻撃手段がないとはいえ、佐天がいるので逃げることもできない。
つまり、八方塞がりだ。


一方(八方塞がりだァ? ンなことはねェ。クローン体ってことは、アイツは高くてもレベル4。それは間違いねェンだ)


つまり、どこかに弱点は存在する。
時間があれば、それを発見することができるだろうが、今はその時間がない。
一方通行は焦っていた。


だが、その心配はいらなかった。
突然、完全反射は、現れたときと同じように何の前触れもなく踵を翻したのだ。


完全反射「残念だけど、今日はもう終わりみたい」

佐天「え?」

一方「なンだと?」


明らかに相手が有利な状況だったはずだ。
彼女がここで逃げる必要性はまったくない。


完全反射「また会おうね、お姉様。じゃあねー」


手を振って、現れた路地裏へと足早に消え去る完全反射。
何が起こっているかまるで分からなかった佐天は、ただ呆然とするしかない。
帰り道に突如登場して、一方通行と一度交錯したかと思ったら、すぐに逃げたのだ。
しかも、その人物は自分と同じ顔。
訳が分からず、一方通行の方を見るが、彼の顔にも困惑の色が浮かんでいた。
目的がまるで分からない。


一方「俺と戦えたから満足ってかァ?」


そんなことありえるのだろうか?
とそのとき、立ち去った完全反射と入れ替わる形で2人に近づいてくる人物が現れた。
コツコツと大きな足音を立てて歩いてくる。
この時間のこの道は人通りがほとんどない。
それに、こんな場面での登場である。
コイツは関係者に違いない、と一方通行は、身構えたのだが、


番外個体「どうしたの、これ?」

佐天「み、番外個体さんですか。た、助かったぁー」


その人物は番外個体だった。
思わず、佐天から力が抜ける。
一方通行はなにやら不可解な顔をした後、チョーカーのスイッチを切った。



一方「どォして来た」

番外個体「そりゃ帰ってくるのが遅いから、迎えに行って来いって言われてさ。ミサカだって女の子なのに1人で出歩かせるとか差別じゃないのかな?」


けけけ、と番外個体が笑いながら答える。
この様子では、完全反射のことは見ていなかったのだろう。
でなければ、一方通行の焦った顔を見て、大笑いしているはずである。
となれば、聞くことは1つ。


一方「原点超えシリーズってのに聞き覚えは?」

番外個体「あるよーん」

佐天「はい?」


番外個体が即答する。
いつもの一方通行をバカにしているような顔を浮かべている。
教えてほしけりゃ土下座しろという表情である。
もっとも、説明されずとも、一方通行には見当はついていたが。


一方「オマエがその試作体(ファーストサンプル)ってところか」

番外個体「……ちぇっ。そりゃアナタじゃ気付いちゃうか」


一方通行の確信めいた物言いに、あっさりと折れる番外個体。
今までの“妹達”とは、異なるレベル4というスペックを見れば推察はつく。
完全反射は、そのデータも元に製造されているのだろう。
これで、彼女につながる手がかりは見つけた。
あとは、弱点を分析し、こちらから赴いてそのふざけた計画ごと潰してくるだけだ。
そこで、やっと一方通行は1人取り残していたことに気がついた。


佐天「な、何がどうなってるの?」


そう。佐天涙子である。
彼女は見事に置いて行かれていた。
これから起こる波乱の中心人物でもあるに関わらず。

ここら辺で。

へこたれずに頑張ります。

更新速度は落ちるけども。

続きを更新。


あの後、黄泉川のマンションまで引き返してくると、一方通行の部屋に通された。
番外個体はリビングにいる打ち止めの様子を見に行ったようだ。


佐天「どういうことか説明してもらえますか?」


開口一番、佐天は一方通行にそう尋ねた。
分からないことはたくさんある。
自分とそっくりな少女のこと。
彼女が何者か知っている様子だった一方通行。
そして、それに関係していると思われる番外個体。
どれも1つに結びついているような気がする。


佐天「何か知ってるんですよね?」

一方「……あァ」


一方通行は難しい顔をすると、佐天から視線をそらす。
真実を話すべきかどうか迷っているらしい。
知ってしまえば、闇の世界に足を踏み入れることになってしまう可能性も高い。
誰も彼も御坂美琴のように、光の世界で踏みとどまれるとは限らないのだ。


一方「聞いちまったら引き返せねェかもしンねェぞ?」


それでも聞きたいか? と暗に問う。
知らなかったなら話す必要はなかった。
だが、もう知ってしまったのだ。
クローニングされた本人が知りたいのならば、黙っている訳にもいかないだろう。


佐天「それでも、何も知らないままじゃいられないです」


そんな脅しをかけるような一方通行の問いに、佐天涙子は迷わず返答した。
アレには、自分が関わっているのだ。
目をそらすことは簡単だが、それではレベルアッパー事件のときから何も変わっていないことになってしまう。



一方「いいンだな? 真実を知って、元の世界に戻れるとは限らねェぞ?」

佐天「……それでもです。私のせいで誰か傷つくのはもう嫌なんです」


一方通行が光の世界の住人を傷つけたくないように。
結局、佐天涙子に能力の使い方を教えたのは間違っていたのだろうか?
そんなことをしていなければ、完全反射などと呼ばれるクローンに会うこともなかっただろうし、そもそも一方通行という人物にも会わずに済んだ。
関わることによって、さらに危険性を上げてしまっただけではないのか、という疑念が一方通行の頭の中に渦巻く。


佐天「いいえ、後悔なんてしてません。能力が使えなかったら、もっと危険なことになっていたかもしれませんよ?」

一方「……そォか」


確かにそうだ。
一方通行が、佐天を保護しないからと言って、学園都市が黙っているとは限らないのだ。
下手をしたら、クローンも生み出され、佐天まで生命の危機に陥っていたかもしれない。
それなら、本人を守ることができた代わりに、あのクローンができてしまったと考えるべきだろう。
どちらにしろ、自分と同じ能力を得てしまったことで、佐天の運命も決まってしまっていたのだ。
そこまで来ているなら話すしかないだろう。
力を付けて学園都市から身を守る力を得るか、学園都市の計画そのものを潰さなければならないのだから。


一方「アイツはオマエの複製体、つまりクローンだ」

佐天「そう……ですよね」


戦闘中にあれだけクローンという言葉が飛び交っていたのだ。
あのときは、冷静になって考えることもできずにいたが、今になって考えれば理解できる。
あれは佐天涙子自身。
何から何まで自分と同じ人間なのだ。
映画などでよく見るシチュエーションだったが、まさか自分がその実体験をするとは思わなかった。
あのクローンは、本人との入れ替わりなどを画策したりするのだろうか?
そんな不安が佐天の脳裏をかすめた。



一方「それはねェから安心しろ」

佐天「え?」


どうやら考えていたことが口に出ていたらしい。
一方通行は言葉を続ける。


一方「クローンってのは、肉体的には確かに一緒かもしンねェが、中身はまったくの別物だ」

佐天「そうなんですか?」

番外個体「そうだよ」

佐天「……番外個体さん?」


いつの間にか、番外個体が佐天の後ろ側に立っていた。
リビングに行ったのではなかったのだろうか?
しかし、今はそんなことより聞かなければならないことがある。


佐天「……なんでそう言い切れるんですか?」

番外個体「だって、ミサカもお姉様のクローンだもん」

佐天「!?」

一方「…………」


頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。
クローン?
番外個体さんが?
彼女の言う『お姉様』というのは、御坂美琴に間違いない。
つまり、自分より先にもクローンの計画というものがあったということになる。
しかも、知り合いである『御坂美琴』という人物を中心として。



佐天「そ、そんなこと御坂さんは一言も……」

一方「よく考えてみろ。オマエは自分のクローンがいるなンて他の人間に言ったりするか?」


初春を相手に想像してみる。
どのようにクローンがいると初春に説明すればいいだろうか?
いや、説明できない。
そもそも、するべきではない。
自分だけではなく、初春まで巻き込んでしまう恐れがある。


佐天「そ、それじゃあ……」

一方「あァ。御坂美琴のクローン計画は実在した。打ち止めもそォだ」

番外個体「他にもいっぱいいるけどねー☆」


頭がクラクラしてくる。
しかし、それならば、なぜ自分が?
御坂美琴はレベル5だから、クローンを作るのにも一応説明はつく。
彼女のクローンなら、相当の力を持っていると考えてもおかしくはない。
だが、自分にはそこまでの強い力を持っていない。
ならば、なぜ?


一方「俺と同じ能力だからだろォな」

佐天「え?」


全ての元凶は、佐天涙子ではなく一方通行。
これは、学園都市最強の超能力者が存在することによって巻き起こされた騒動の1つなのだ。
佐天が選ばれたのは、同じ能力を持っていたから。
ただそれだけだった。



一方「オマエも運がねェな。俺と同じ能力だったばっかりによォ?」

番外個体「でもさ、それならなんでアナタのクローンじゃないの?」

佐天「そ、そうですよ」


そこが腑に落ちない。
なぜ一方通行のクローンを作成せずに、佐天涙子のクローンを作ったのか。
そこには何か理由があるはずだ。
一方通行には、その理由に心当たりがあるのだろうか?


一方「推測だがな。アイツらの目的は“原点超え”なンだよ。オリジナルを超えることが目標なンだろ」


オリジナルから劣化したものしか作れないとされているクローニング技術。
そこから、オリジナルを超えるクローンを作り出すという計画。
体細胞は劣化しても、それを能力で補えれば、結果としてオリジナルよりも価値があると言えるのではないか?
おそらく、計画発案者はそう考えたのではないか、というのが一方通行の推測だった。


佐天「そんな……」

番外個体「なるほどねえ」

一方通行「今度はこっちが質問する番だ」

佐天「え?」

一方「オマエに聞きたいことは1つ。自分のDNAを提供した覚えはあンのか?」


いくらクローニング技術が進歩しても、元がなければ作成することはできない。
その最初の1歩には、必ず佐天が関わっているはずなのだ。
そうでなければ、“完全反射”などという個体は生まれていない。



佐天「い、いえ、ありません」

一方「髪の毛1本、血の1滴でもありゃ十分なンだ。能力を得てからのことを思い出せ」

佐天「え? 血の1滴……?」


それなら、心当たりはある。
能力が発覚した次の日に血液検査をやった。
それ以外には考えられない。


一方「なるほど。オマエは知らずにDNAマップを提供してたって訳か」

佐天「は、はい……」


よし。
それで聞きたいことは全部聞き終わった。
それなら、書庫(バンク)に正式に登録されていることはないだろう。
そちらは研究所ごと潰してしまえば問題ない。
あとは……。
一方通行は、今度は番外個体の方に視線を向けた。


一方「次はオマエの番だ。“原点超えシリーズ”に関して知ってることを全部話せ」

番外個体「別にいいケド。でも、大した情報はないと思うよ? 計画の目的も知らなかったぐらいだし」

一方「オマエが製造された研究所くれェは知ってンだろ?」

番外個体「知ってるよ? でも、まだノコノコとそこにいるとは思えないんだけど」


それでもいい。
なにか手がかりになるようなものがあれば、それで十分だ。
1つあれば、芋づる式に手がかりが引っこ抜けるはずである。
問題は、あの“完全反射”という佐天涙子のクローンだけだ。



佐天「何か作戦はあるんですか?」

一方「あン? 俺を誰だと思ってンですかァ?」

番外個体「白いモヤシでしょ? あひゃひゃひゃひゃ」


一方通行には、完全反射の弱点を既に分析できていた。
なぜあの時気が付かなかったのか、というほど単純な作戦である。
であるが故に気がつかなかったのかもしれないが。


一方「でもまァ、さすがに何体もでてこられると厄介な相手かもしンねェな」


一方通行1人では、1対1を相手にする作戦しか取れないのだ。
数によっては、相手を無力化する前にこちらのタイムオーバーが先にやってきてしまう。


番外個体「その心配はしないでもいいと思うけどね~」

一方「なンだと?」


気楽そうに番外個体が言う。
ということは、あの完全反射1人を相手すればいいということになる。
しかし、なぜそんなことを知っているのだろうか?


番外個体「簡単な話。クローンを作るより簡単で時間がかからないのに、一気に戦力増強できる研究が進められてるからね」


代わりにお金はすごくかかるから研究費はほとんどそっちに持っていかれちゃったんだけど、と番外個体が付け足す。
クローン技術による能力者生産よりも効率的な研究。
そんなものがあるのだろうか?


答えを知ってしまえば、明快なことである。
その研究とは、駆動鎧(パワードスーツ)を始めとする『兵器の開発』だった。
兵器であれば、ある程度反乱も制御でき、能力者でなくとも扱える。
それこそ、簡単に戦力が強化できるのだ。
ファイブオーバーを始めとするオーバーテクノロジー満載の兵器相手では、多少強化したクローンなど相手にならない。
そう。
“完全反射”という例外を除けば。


一方「つまり、アイツはクローン推進派の尖兵って訳か」

番外個体「だろうね」


そういうことなら、1度戦闘をしただけで引き返したことにも説明がつく。
本当に、“完全反射”は戦いに来ただけなのだ。
あくまで、戦闘データの収集が目的だった。
つまり、一方通行や佐天涙子の殺害や拉致を目的としていた訳ではないことになる。
たしかに、あれだけの成果が出れば、兵器開発に傾いた天秤を戻すことができるかもしれない。
当初の目的であるオリジナル超えも達成させるとは、なかなか凄い研究者がそこにいたものである。


佐天「でも、そんなのって……」


そんなことのために、あの子は生み出されたのだろうか?
だったら、あまりにも寂しすぎる。
誰かのつまらない利益のためだけに生み出されたなんて。


番外個体「ま、その辺はミサカも似たようなもんだけどね」

佐天「え?」

一方「とにかく、今日の話はこれでお終いだ。オマエらはさっさと寝ろ」

佐天「はい?」


えっと、私も?
いきなり話を打ち切られたことよりも、そんなことが気なった佐天涙子であった。

打ち止めは口調がメンドクサイので出番カット。

次回、「佐天、完全反射に遭遇」の巻。お楽しみに。

あ、完全反射の弱点は気づいても、心の中に閉まっておいてください。

上条さんはできてきません。
今日の午後辺り更新できるといいなぁ……

>>604 無理せずに暇ができたときでいいんだぜ。

続きを更新。


午後11時。
一方通行の部屋は、異様な雰囲気を出していた。


一方「行くぞ?」

佐天「は、はいっ!」


部屋の中に居たのは、佐天涙子と一方通行の両名。
既に番外個体は自室へと戻っている。
2人はあることを試していた。
身構える佐天に、ゆっくりと一方通行の指が近づいていく。


一方「ンっ」

佐天「うわっ……」


触れられた途端、思わずそんな声が漏れてしまう。
その触れられた部分だけにある明らかな違和感。
いや、ただ触れられただけでは、こんな声は出さない。
佐天は、一方通行が触れているところから力が抜けていくのを感じていた。
今まで感じたことのない感覚が佐天に流れる。


佐天「うぅっ……」

一方「もォちっと耐えろ」


今にも限界に達してしまいそうな佐天に厳しい命令が飛ぶ。
辛くはないが、これ以上は堪えられそうにはない。
一方通行の力が強すぎるのだ。


佐天「あっ。ダメっ……」


その瞬間、ギュッと一方通行の指が強く肌に押し付けれらる。
それは、佐天が一方通行の前に敗北したことを意味していた。



番外個体「な、何やってんのー!!」

打ち止め「あ、あなたって人はー!!」


バターン!! というけたたましい音と共に、その異様な雰囲気の部屋に番外個体が突撃してくる。
その後ろには、当に眠っている時間のはずである打ち止めの姿もあった。
なぜか2人は顔を真っ赤にしている。
それは、怒りか羞恥のどちらなのかイマイチ判断がつきにくい顔色だ。


一方「あン?」

佐天「え?」


驚いたのは、部屋に居た一方通行と佐天だ。
特に、佐天はいきなりの2人の乱入にビクッと体を震わせる。
位置的に、ドアに背を向けていたので仕方もない。


番外個体「あれぇ?」

打ち止め「んんー?」


部屋に入った2人は、佐天と一方通行の様子を見て、頭にたくさんのクエスチョンマークを浮かべた。
てっきり一方通行の部屋の中で、とても口に出しては言えないようなことをしていると思ったのだ。
しかし、その割には2人とも着衣はしっかりとしている。


番外個体「っていうか、レイプされてた訳じゃないのね」

佐天「れ、れい―――ッ!?」


口に出しては言えないようなことを、サラッと言う当たりは彼女らしいと言うべきか。
ただ、中学1年生の佐天涙子には少々刺激の強いワードだったようだ。
入ってきたときの2人と同じくらいくらい顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。



打ち止め「うんうん。ミサカはあなたのこと信じてたよ、ってミサカはミサカは内心とは真逆のことを言ってみたり」

一方「ホンネ出てンぞ」


それに目も泳いでいる。
とことん嘘をつけない子である。
口調でも、行動でも。
だが、それでは2人は何をしていたのだろうか?


番外個体「何をしてた訳?」


番外個体と打ち止めが部屋に入り込んだときは、手を取り合っていた。
ただ、それは恋人同士のようなソレではなく、手相を見る占い師のような雰囲気だった。
正直、手相を見ていたのでなければ、何をしていたのか分からない。
ちなみに、一方通行が占い師で佐天が客である。


一方「反射同士をぶつけてたンだよ。こいつは実際に体験してみせる方が説明しやすかったンでな」


一方通行は佐天に完全反射との戦闘を解説していたのである。
あの移動と攻撃で、どのベクトルを、どれだけ、どの方向に使ったのかということを。
その最中、一方通行の攻撃が静止し、衝撃波が発生した部分を説明するのに、実際に実演した方が早いという流れになった訳だ。
さっきまで会話は、手に反射を張った佐天に一方通行が反射をぶつけていただけである。
声だけ聞いていた番外個体と打ち止めが勘違いしてしまうのも仕方ないだろう。
特にエロいことをしていた訳ではないのである。


佐天「結局、こっちの反射は壊されちゃいましたけどね」


手をひらひらと振りながら答える佐天。
分かっていたことだが、反射の強度が強い一方通行の方が打ち勝った。
それに、触れられた部分の佐天の反射は強制解除されてしまったが、一方通行の反射は生きたままだった。
2つの水流が正面からぶつかったときに、強い流れの方に飲み込まれるようなものなのだろう。
これも新しい発見だ。



一方「そォなると、やっぱりあのクローンは別格だな」


たとえ強度が弱くても、反射同士がぶつかると攻撃に込めたベクトルは衝撃波となって霧散してしまう。
そうなると、全身を反射できない佐天にはその衝撃波のダメージが通るが、反射を全身に使える完全反射には通用しない手になる。
これは既に実証済みだ。
だがそれでも、一方通行と強度が互角というのは改めて驚異的だった。
攻撃手段が全て無効化されてしまうのだから。


佐天「でも、反射が相殺されるのって不思議な感覚ですね」

一方「そォだな」


言葉では言い表せない妙な感覚。
精神が削られるという言葉で理解してもらえるだろうか?
多分難しいだろう。
これは、反射を使えるものにしか分からない感覚なのだ。


一方「ともかく、そンなところだな」

佐天「ありがとうございましたー」


これにて今日のレッスンは終了。
初めての夜間の部だったが、なんというか……、


佐天「パジャマでってのも妙に緊張感がないですねぇ」

一方「まァな」


佐天は番外個体のパジャマを拝借していた。
少々大きいのだが、芳川のサイズでは小さかったのだ
小さいよりは大きい方がいい。
胸の話ではなく。

リアルキターーー
とりあえず、>佐天「あっ。ダメっ……」
ふぅ・・・・



打ち止め「終わったなら、サテンお姉ちゃんはミサカたちと同じ部屋に行こう、ってミサカはミサカは袖をグイグイ引っ張ってみたり」

番外個体「そうそう。そこのモヤシに襲われる前にね。あひゃひゃ」

佐天「お、襲うって……」


相変わらず、番外個体の一方通行に対する悪意は止まることがなかった。
そのように作られたのだから仕方ないのだが、1人だけそんな事情を知らないものがいる。
もちろん、佐天涙子である。
佐天には、どうして番外個体がそこまで辛辣な態度を取っているのかよく分からない。
どうしてなんだろう?


番外個体「さ、こんなところにいないでさっさと寝よ」

佐天(ん? あ、なるほど)


そんな態度にピンと女の勘が働く。
番外個体が毒づくことを止めない理由は何なんかを考えた末に、佐天は1つの可能性に思いついた。
しかし、それをここで問いただすわけにもいかない。
なにせここには一方通行がいる。
ともかく、今はこの部屋から退散することにしよう。


佐天「それじゃ、私たちはもう寝ますね」

打ち止め「オヤスミなさい、ってミサカはミサカはあなたとの別れを惜しんでみる」

一方「オゥ。オマエらはさっさと寝ろ」


そう言って、3人は一方通行の部屋を後にした。
この時点で、午後11時30分である。
夜はまだ始まったばかりだ。



打ち止め「じゃあサテンお姉ちゃんはここね、ってミサカはミサカはお布団を敷いてあるところを指差してみるー」

佐天「うん。ありがとー」


2人の部屋に案内され、リラックスする佐天。
正直なところ、未だに一方通行の前では緊張してしまう。
イチイチ睨まれるのだから仕方ないといえば、仕方ないのだが。


番外個体「それでさ。こういうときってどんな話すればいいのかな?」

打ち止め「分からないかも、ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」


ドサッと自分のベットに腰掛けながら尋ねる番外個体に、打ち止めが応答する。
このように、自分の部屋に他人がいるという時点で、彼女たちにとっては非日常なのだ。
そもそも、友達というものが初めてなので、どう対応すればいいのか分からない、というのがホンネだ。
こればかりは、ミサカネットワークにも情報がない。


佐天「ふっふっふー。教えて進ぜよう!!」

番外個体「ん?」


しかし、相手はノリと高いテンションで日々を過ごしている佐天涙子。
佐天にとっては、相手を自分のペースに巻き込むことなど簡単なことだ。
その相手が、知り合いのクローンだろうと火星人だろうとお構いなしだ。
一方通行を除けば。
さて、その佐天涙子が2人に提案した話題は、


佐天「もちろん、こういう時には恋バナだーっ!!」

打ち止め・番外個体「恋バナ?」


つまり、佐天は番外個体の一方通行に対する態度をそう解釈したのである。
小学生男子が好きな女の子をイジめたくなるというアレである。



打ち止め「恋バナって何なのかな、ってミサカはミサカはサテンお姉ちゃんに言葉の意味を尋ねてみたり」

佐天「恋バナって言うのはねぇー」

番外個体「うん?」

佐天「好きな人のことを話したりするガールズトークのことなのさー!!」

打ち止め「好きな……」

番外個体「……人?」


おやおや? 思ったよりも反応が薄いなー。
女の子なんだから、そういう話も好きかと思ったんだけどねえ?
あー、でも、御坂さんとはそういう話したことないかも。


打ち止め「ミサカはね、あの人のことが大好きなんだよ、ってミサカはミサカは大胆告白!」

佐天「あの人って一方通行さん?」

打ち止め「うん!」


おおぅ。
無邪気な子供だこと。
私は打ち止めちゃんくらいのときには、もう素直じゃなかった気もするなぁ~。


番外個体「ミサカはそういうのよく分かんないカモ」

佐天「あれ?」


あれ、読み違えた?
むむむ。
もしかして、私の勘って大して役に立たないんじゃない?



番外個体「そもそも、『好き』ってどういうコトなの?」

佐天「え?」


改めて聞かれると難しい。
これって哲学?
いやいや、概念じゃなくて、どんなものかを教えればいいんだから……


佐天「一日中その人のことを考えちゃったり、ついつい目で追いかけちゃったりしたりするっていうのは良く聞くかも」

番外個体「ふ~ん?」

打ち止め「うんうん。分かるかもってミサカはミサカは肯定してみる」


私自身、恋した経験なんてないからなぁ……。
知らないものを教えるって結構難しいかも。


番外個体「それじゃ、ミサカがあの人のことをどうやってからかおうか一日中考えたり、何かマヌケなことしないかついつい目で追っちゃうのも恋?」

佐天「え、ええっと……」


どうなんだろ?
やっぱり、小学生男子的なアレですか?
うん、もうそういうことにしておこう。


佐天「Yes!! それは、もう恋に間違いない!!」

番外個体「ま、マジで?」


ノリで言ってみたけど、案外満更でもないんじゃない?
つーか、強く肯定しすぎたかも。
ドンマイ、私☆



番外個体「これが恋ね~。なるほどー、てっきりこの感情は憎悪だと思ってたよ」


いやいや、世の中にはヤンデレっていうのもあるらしいし、間違ってないよね?
大丈夫、大丈夫。
でも、なんか怖いことブツブツ言ってるからスルーで。


打ち止め「なんか違うと思うんだけど、ってミサカはミサカは口を挟んでみる」

佐天「じゃあ、打ち止めちゃんはどう思う?」

打ち止め「恋っていうのはもっと甘いものだと思うの、ってミサカはミサカは気持ちを抽象的に表現してみる!」


イメージは確かにそんな感じかも。
甘いとか、甘酸っぱいとかそんな感じ。


打ち止め「それで、好きな人のことを考えただけで胸がドキドキして、気持ちがいっぱい溢れてくるの!」

佐天「なるほど、なるほど」


経験者、打ち止めは語る。
胸がドキドキして、気持ちが溢れるかぁ……。
先生に怒られたときのアレとは違う感覚なのかな?
……全然違うか。


打ち止め「そしてあの人にも好きになってもらおうって、いっぱい頑張ることができるの! ってミサカはミサカは胸を張って答えてみる!」

佐天(う……。カワイイ……)


御坂さんも小さいときはこんな感じだったのかな?
というか、一方通行さんすごい愛されてるなぁ。
少し妬けちゃうかも。



打ち止め「それで、サテンお姉ちゃんはどうなの? ってミサカはミサカは尋ね返してみる」

佐天「ええっ!? 私?」

番外個体「そうそう。言い出しておいて、自分だけ言わないってのはなしだよね?」


そ、そんなこと言われても……。
ど、どうすれば……。


佐天「え、えーっと、私はまだ良く分からないかな? あんまり深く関わった男の人とかいないし……」

番外個体「そうなの?」

打ち止め「じゃあ、サテンお姉ちゃんの初めてはあの人なの?」

佐天「え?」


う、うーん……。
言われて見れば、一方通行さんくらい深く関わった人はいないかも?
でも、そういうことは考えたことなかったなー……。


佐天「そうかも」

打ち止め「じゃあ、サテンお姉ちゃんもミサカと一緒だね、ってミサカはミサカは喜んでみる」

佐天「ええっ!? いや、私はそこまでのレベルじゃ……」


というか何故喜ぶ。
1対2だからって有利になったりはしないんだよ?
いや、私は一方通行さんが好きって訳じゃないけど。
でも、確かにあの人への気持ちは普通の男の人とは違うかも。
どっちかっていうと『恋』っていうより『憧れ』とか『畏怖』って感じだけどね。
ここから変化していくものなのかな?

―――そんな風に楽しくおしゃべりしながら、激動の1日が幕を閉じた。

期待コメがあったので、夜の部を差し込んでみた。こいつら緊張感ねーな。

次回こそ『完全反射』登場です。3部もあと2~3回かな?

>佐天「あっ。ダメっ……」
ふぅ・・・・

ここは賢者が多いスレですね。
佐天「あっ。ダメっ……」 ふう・・・

乙。ここは賢者が多いスレですね。
佐天「あっ。ダメっ……」 ふう・・・

乙。ここは賢者が多いスレですね。
佐天「あっ。ダメっ……」 ふう・・・

乙。ここは賢者が多いスレですね。
佐天「あっ。ダメっ……」 ふう・・・

乙。ここは賢者が多いスレですね。
佐天「あっ。ダメっ……」 ふう・・・

ふう。。。

>>649
     /\ /\
\ ⊂[(_♯゚△゚)     決闘を申し込む!
  \/ (⌒マ´
  (⌒ヽrヘJつ

    > _)、
    し' \_) ヽヾ\
          丶_n.__

           [I_ 三ヲ (
              ̄   (⌒
            ⌒Y⌒


>>649
     /\ /\
\ ⊂[(_♯゚△゚)     決闘を申し込む!
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           [I_ 三ヲ (
              ̄   (⌒
            ⌒Y⌒


そしてこの隙に黒子の処女膜は俺が破ったのでした。

白黒「おやめになってくださいまし!黒子の純潔はお姉さまに…アッー!!痛いですわ!!」ズプププヌチャヌチャ

俺「くくくくく…残念だったな黒子。こんどはおまえが御坂美琴に教えてやればいい。」ズコバコズコバコズコバコズコバコズコバコドピュドピュ

就活のせいで書いてる暇が無いっす。

ここ数日、電車で片道2時間はざらだし。

ノーパソありゃ書けるんだろうけど……。

続きを更新。



???「うおあああああああっ!?」

佐天「―――ッ!?」


完全反射に出会った翌日の朝。
私は、いきなりの謎の悲鳴(?)によって起床させられた。
というか、睡眠状態から無理やり覚醒させられたと言うべきだろうか?
さきほどの絶叫は、まるで谷にでも落とされたかのような感じだ。
誰の声だったのだろう? いや、何が起こったのか?


打ち止め「ふぁ……。もう、朝?」

番外個体「うーん……」

佐天「ええっ!? リアクション薄っ!!」


この2人はまだ寝ぼけているのかもしれない。
あんな絶叫で平然としていられる訳が……。
って、なんで打ち止めちゃんと番外個体さんがうちにいるの?
ええと、昨日は確か……
あ、そういえば、黄泉川先生のところに泊まってたんだっけ。
今のは黄泉川先生の声だったかもしれない。


打ち止め「早く起きないと次はミサカたちの番になっちゃうよ、ってミサカはミサカは注意を促してみる」

佐天「そ、壮絶な目覚ましですね」


まだ寝ぼけているらしい番外個体さんが、寝ぼけ眼でこちらを向いてくる。
一方の打ち止めちゃんは、もうすっきり目覚めているらしい。
どうやらこの子は朝に強いみたいだ。
私も朝に弱い方ではないが、さきほどの絶叫のせいでまだ心臓がドキドキ言っている。
なんとも体に悪い起床としか言いようがない。
寿命が縮む。
というか、そんなことされてて、自分で起きない黄泉川先生も凄いけど。


携帯を見て時刻を確認すると午前6時半。
いつもの私と比べると随分と早い起床だ。


佐天「いつもこんなに早いんですか?」

打ち止め「そうなの。ヨミカワが学校に行かなくちゃいけないから、ってミサカはミサカはうんうんって頷いてみたり」


パパッと着替えた打ち止めちゃんが、その場でくるりと回る。
袖なしのワンピースにYシャツを羽織るだけという、外に出るにはちょっと寒そうな格好だ。
もっとも、家の中にいる分には、大丈夫だろう。
私もさっさと着替えてしまおう。


打ち止め「じゃあミサカはお先にー、ってミサカはミサカは食卓に向けて猛ダッシュー」


ドタドタと駆けて行ってしまった。
この様子じゃ、あの子は一日中あのテンションっぽいな。
ん? そういえば、朝ごはんって誰が作ってるんだろ?
やっぱり、黄泉川先生?


佐天「……あれ?」


考え事をしながら着替えをしていると、番外個体さんがボーっとベットに座っているのに気づいた。
番外個体さんは朝に弱いのかな?
まさか目を開けたまま2度寝してるとかじゃないよね?


佐天「番外個体さん?」

番外個体「え? あ、うん。大丈夫」


うーん。
反応は返ってきたけど、まだ少しボンヤリしている印象。
何か変な夢でも思い出しているのかな?
妙に顔が赤い気がする。風邪かな?



佐天「体調でも悪いんですか?」

番外個体「え? いや、その……」


しどろもどろになる番外個体さん。
なんだかはっきりしないなぁ。
気になるので続きを聞こうとしたとき、ガチャリとドアが開いた。


一方「オマエらはいつまで寝てンだ?」

番外個体・佐天「「え?」」


一方通行さんが部屋に入ってきたのだ。
思わず、番外個体さんとハモってしまった。
私はいまだ着替え中である。
上はもう身につけた。
スカーフはまだ巻いていないが、そんなことはどうでもいい。
問題はスカートだ。
スカートはまだ膝の位置にある。


一方「朝飯できてっからさっさと支度しろ」


だが、一方通行これをスルー。
リビングの方へと杖をついて歩き去ってしまった。
何の反応もなかった。
もしかして、私は女の子として見られていないのだろうか?
……まあ、別にいいですけどぉ。
なんだか釈然としない。


番外個体「…………」


それよりも、番外個体さんの方が重症だ。
なんだか余計、顔が真っ赤になっている気がする。



佐天「おはよーございます」


着替えを済ませリビングに入ると、打ち止めちゃん、黄泉川先生が食卓についていた。
朝食は、納豆と味噌汁のようだ。
私の分もきちんと用意されている。
一方通行さんは、少し離れたソファーの方に座ってテレビを見ていた。


打ち止め「おはよう! ってミサカはミサカは元気いっぱいに挨拶してみたり!」

黄泉川「おう、おはようじゃん」


挨拶を返してくれる2人。
それにしても、黄泉川先生はケロッとしている。
警備員だけあってタフなのかもしれない。
いや、こんな起こされ方をしているからタフなのだろうか?


一方「番外個体はどォした?」


私の方を一瞥してそう尋ねてくる。
この人から挨拶がないのは予想通りだが、もう少し社交的にしてくれてもいいんじゃないかと思う。


佐天「なんでも、食欲ないから朝ごはんいらないそうです」

一方「ハァ? 食欲がねェ?」

黄泉川「あの子が? 珍しいじゃんよ」


そう言って番外個体さんは布団を被ってしまったのだ。
これ以上私に聞かれても答えられることなどない。
強いて言えば体調が悪そうだったということくらいだろうか?
もしかしたら、お腹を出して寝ていたのかもしれない。



黄泉川「いってきまーす」

打ち止め「いってらっしゃーい、ってミサカはミサカは元気良くヨミカワを送り出してみる~」


結局、番外個体さん抜きで朝食が済むと、黄泉川先生は慌しく出発した。
私が起きるくらいの時間に出発って、先生も大変だなぁ。
これでアンチスキルの仕事までするって言うんだから、どんだけ体力あるんだか……。
って、そうだ。
私は今日何すればいいんだろ?


佐天「今日は能力開発はどうするんですか?」

一方「ンなことやってる場合じゃねェだろォが」


ごもっともです。
まず、やらねばならないことは、私のクローンの問題を解決すること。
今日はこれから昨日言っていた手がかりを探しに行くのだろう。
番外個体さんがその場所を知ってるって話だったけど……。


佐天「ドキドキしてきたぁ……」


気分は決戦前。
巨悪と戦う映画やマンガの主人公になった気分。
出発前に能力の確認を―――


一方「ハァ? オマエは留守番に決まってンだろォが」


そんな幻想をブチ殺されました。
まあ、一方通行さんの言うことは正論ですけど。
私が行っても、人質になって足手まといになるのが関の山だしね。
昨日もそうだったし。
でも、やっぱり少しは心配。



佐天「1人で大丈夫ですか?」

一方「オイオイ。オマエは誰の心配をしてるンですかァ?」

佐天「で、でも……」


第一位だって無敵じゃない。
実は、昨日の夜、一方通行さんのバッテリーの話を聞いてしまっていた。
「バッテリーがなくなると、能力が使えなくなる」というのが打ち止めちゃんの話だ。
元々そうではなかったらしいのだが、何が原因でそんなことになってしまったのかは教えてくれなかった。
いろいろあったのかもしれない。


一方「オマエはここにいりゃ安全だ」

佐天「え?」

一方「オマエは大人しくしてろ」


そう言い残して、マンションを出て行ってしまった。
後に残されたのは、打ち止めちゃんと私だけだ。
芳川さんと番外個体さんは部屋に篭りっきりだし、どうすればいいんだろ?


打ち止め「サテンお姉ちゃん、ゲームでもしよっか、ってミサカはミサカは提案してみる」

佐天「うーん……」


どうしよう?
やはり自分もこの件に関わっているだけに、一方通行さん1人に任せっきりというのもなんだか悪い気がする。
確かに戦闘面では役に立たないが、他の部分で役立てることがあるのではないか?
情報収集とか。
昨日は周りに誰もいなかった気がするが、目撃者もいるかもしれない。
どっち方面に逃げたかだけでも分かれば、きっと有益な情報になるだろう。
よし。
それなら、やることは1つだ。
何事もチャレンジあるのみ。



佐天「やっぱり、私も一方通行さんのお手伝いしてくるよ」

打ち止め「危ないかもしれないよ?」

佐天「でも、自分の問題でもあるし」

打ち止め「気持ちは分かるけど、ってミサカはミサカは……」


考えてなかったが、打ち止めちゃんまで着いてくるとか言ったらどうしよう?
御坂さんならいかにもいいそうなことだ。
さすがにこの子まで危ない目にあわせる訳にはいかないし……。


打ち止め「そらなら、ミサカも行く! ってミサカはミサカは大胆提案!」


やっぱり。
こ、こうなったら、


佐天「ほ、ほら! そしたら、番外個体さんの看病する人いなくなっちゃうじゃん!」

打ち止め「看病?」


体調悪いみたいだし、さすがに1人で放っておくわけにはいかない。
芳川さんは、いるかいないか分からないので数には数えません。
おそらく寝てるんだろうけど。


打ち止め「ううう……。きっとすごく危ないよ?」

佐天「大丈夫、大丈夫。この近くをちょっと見てすぐ帰って来るからさ」


その後、なんとか打ち止めちゃんを説得して、黄泉川先生のマンションを出ることにした。
私だって、危ないのはゴメンだ。
だけど、この辺りなら安全だって一方通行さんも言ってたしね。
昨日の場所は、徒歩数分のところだしきっと大丈夫。


マンションのエントランスを出て辺りを見回すと、既に一方通行さんの姿は見当たらなかった。
昨日、番外個体さんから聞きだしていた研究所とやらに行ってしまったのかな?
私には教えてくれなかったけど。


佐天「ま、そんな本命の場所に行く気はないけどね」


私にできることはせいぜい情報収集。
本格的な戦闘ができるほど能力も経験もない。
それなら、安全で身近な場所を探索するくらいだろう。
結局、こんなのは無駄足になるかもしれないがそれならそれでもいい。
身近なところには危険がないって証拠にもなるんだし。
地盤を固めなくちゃ、安心して眠れないもんね。


佐天「ん? そうだ」


そういえば、これからもう少しの間、黄泉川先生のところにお世話になるのかも。
どう考えても、一方通行さんの傍にいるのが一番安全だ。
番外個体さんはレベル4、打ち止めちゃんはレベル3、そして黄泉川先生は警備員でもあるわけだし。
でも、そうなるとやっぱり着替えは必要だよね。
いつまでも同じのを着てるって訳にもいかないし、番外個体さんのパジャマは少しぶかぶかだったから。


佐天「着替えを取りに帰るだけでいっか」


昨日のポイントは帰り道の途中だ。
つまり、往復だけでも何かヒントがあるかもしれない。
いや、そこまで期待はしてないけどさ。
さっと行って帰ってくれば、往復で30分程度。
それくらいなら危険も少ないだろう。
多分。

―――その時の私はそんな能天気ことを考えていた。
学園都市の闇を知らなかったのだから、仕方ないといえば、仕方ないのかもしれないが。

3章もあと2回になると思われます。

次回は短めになるかもしれません。

あと、完全反射が佐天さんのことを「お姉様」って言うのは違和感あるので、別の呼称にするかも。

ここで動かなかったら、テレスティーナの事件でも、風紀委員支部に残ってたと思うんですよ。

実際、そうだったら、御坂たちは全滅だった訳ですし。

まあ、あれを乗り越えたってのもこういう判断をした要因になってる気がします。

続きを更新。


少しくらいなら外に出ても安全だ。
そんな考えはわずか5分で覆された。


完全反射「やっほー、お姉様」

佐天「え?」


昨日の現場に着いた途端、当の本人に遭遇してしまったのだ。
いやいや、ちょっとあっさり出て来すぎじゃない?
それに、手がかりどころか本人の登場って。


佐天「くっ!!」


よし、能力はちゃんと使える。
両手だけだが、反射を適応させて私のクローンに相対する。
どう考えても勝ち目はないが、今は朝方だ。
夜に比べれば、人目も全くない訳ではない。
あまり騒ぎを大きくしたくないだろうし、それだけの時間を稼げればなんとかなるはず。
しかし、ボーっとしていた時間は短かったが、なぜ攻撃してこなかったのだろう?


完全反射「私はお姉様と戦う気はないよ」

佐天「はい?」


私の心情を察したのか、両手を上げ、ひらひらと振りながらそんなことを言う。
確かに敵意は感じられないが、本当だろうか?
どちらにしろ、あまり抵抗できる余地などないのかもしれないが。


完全反射「1回お姉様とお話してみたかったんだよねー」


ニコリと人の良さそうな笑顔を向けてくる。
私の顔で。
なんだか、本当に自分が2人いるのではないかという錯覚に陥りそうだ。



佐天「は、話?」

完全反射「そうそう。私って研究員の人と以外話したことなかったんだよね」


逃げ切れるだろうか?
いや、昨日の一方通行さんとの戦いを見ても、常人のスピード以上を出せるベクトル操作をしていた。
反射しかできない私が逃げ切れるはずもない。
とすれば、できるのは時間かせぎくらいか。
こちらが根を上げる前に相手が諦めてくれればいいんだけど。


完全反射「だから、そう身構えなくてもいいって。危害を加える気はないんだしさー」

佐天「昨日あんなことしておいて、それは難しいんじゃ……」


あんなことというのは、もちろん石を飛ばしてきたことや一方通行さんとのバトルのことだ。
あれに明らかな敵意があったことには間違いない。


完全反射「ん? 昨日は、第一位には攻撃したけど、お姉様には危害加えてないよね?」


石は反射しただし、と付け加える。
確かにその通りかもしれない。
でも、なんの目的で一方通行さんと戦ったのか?
そして、なんの目的で私に接触してきたのかも気になる。
まさか本当に話をしに来ただけなのだろうか?


完全反射「うーん……。そこまで警戒されると若干へこむなぁ」

佐天「うぇっ!?」


私のクローンにしては、妙に繊細なところもあるものだ。
いやいや、私も繊細ですよ?
一方通行さんが私の下着にまったく反応しなくてへこんだし。
……まあ、ほんのちょっとだけだけど。
それにしても、私が落ち込んでるときってこんな顔してるのか。


って、なんだかこれじゃ私が悪人みたいじゃない?
むしろこっちが被害者だと言いたいのに……。
う~ん。
完全に信用する訳じゃないけど、うまくいけば何か情報も拾えたりするかも?


佐天「じゃあ、ちょっと話すくらいなら……」

完全反射「そうこなくっちゃ!」

佐天「切り替え早っ!?」


いきなり満開の笑顔になった!?
もしかして、ハメられてる?
まあ、私から取れる情報なんてたかが知れてるか。


完全反射「じゃあねえ……」


何を話したものかと、話題を探しているらしい。
しかし、今まであんまりこの子を見てる余裕なんてなかったけど、本当に私そっくりだ。
自分でも分からないくらいかも。
それに顔だけじゃなくて、身長とか髪質とか―――


佐天「あ、胸は私の方が大きい」

完全反射「ええっ!? いきなり何っ!?」


目測だが、この子は私よりも一回り小さい気がする。
能力では勝てないかもしれないけど、スタイルでは勝った。


完全反射「やっぱり大きい方がいいのかな……」


なんか良く分からないけど、また落ち込んじゃった。
私って外からみたらこんなに浮き沈みが激しいのか。



完全反射「番外個体は第三位より胸が大きいのに……」

佐天「ははは……」


どうしたものだろう。
なんだかまともに会話もしてないうちにいじけてしまった。
というか、私もそこまで大きい方じゃない。
固法先輩のとか見ちゃうとねえ……。


完全反射「私もお姉様くらいあったら……」

佐天「あの、さ」


ちょっと気に掛かることがある。
落ち込んでいるところ悪いんだけど、


佐天「その『お姉様』ってのは止めて欲しいかも」

完全反射「そう?」

佐天「私には合わないから」

完全反射「他の妹達(シスターズ)はオリジナルのことをそう呼んでるって聞いたんだけどね」


確かに御坂さんなら『お姉様』というのも問題ない。
むしろぴったりだ。
何せ、あの人は正真正銘のお嬢様。
白井さんにもそう呼ばれているし、本人もそれを受け入れている。
それに比べて、私は一般庶民な訳だし、『お姉様』なんてかしこまった呼ばれ方したら違和感しか感じない。
なんだか全身がむず痒くなる。


完全反射「じゃあ、なんて呼ぼうかな?」


そもそも、これって本当に姉妹の関係なのかな?
良くわかんないや。



完全反射「姉妹ってことでいいんじゃない? さすがに母親というのはヤでしょ?」

佐天「そりゃそうだけど」


私(オリジナル)から生まれたのだから、そういう捉え方もできるのか。
この年で母親ってのもなんだかな……。
クローンってことは、正確には「私」なんだよね?
んー、双子みたいなものって捉えればいいか。
私が先に生まれてるから、私がお姉さん。


佐天「じゃあ、姉妹ってことで」

完全反射「オッケー。それで、何て呼ぶかなんだけどさ」

佐天「うん?」

完全反射「何か希望とかあったりする?」


私が決めろ、と?
まあ、自分のあだ名を自分で決めるよりはマシかもしれない。


佐天「そうだねぇ……。無難に『お姉ちゃん』とか?」

完全反射「『るいねえ』とか『姉さん』とかもオススメかな」

佐天「うーん……」


というか、なんでこんな話してるんだろ?
なんだか昨日から混乱しっぱなしな気がする。
能天気に話してるけど、正直この状況に私の頭が着いていってないだけかも。
つい1週間前までは、普通に初春と学校通ってたのに……。
そうだ。
冷静に考えれば、分からないことだらけじゃない?
この子の目的はなんなのかとか。
呼ばれ方で頭を悩ませている場合ではない気がする。



佐天「本当は何しにきたの?」

完全反射「ん? 何って、本当にお話をしにきただけだよ?」

佐天「それだけ?」

完全反射「そう。それだけー」


昨日は確かに、言ったとおりのことだけをしていった。
一方通行さんとの対決。
お互いにかすり傷もなく、まさに手合わせといったところだった。
では、今日も本当に話をしにきただけ?
良く考えてみるとおかしい。
なぜわざわざ私が1人のところを狙ってきたのか?
それは、たぶん一方通行さんと鉢合わせないようにするためだろう。
昨日の今日だし、あの人の性格からしても絶対に戦闘になる。
ならばおかしくはないか?
……いや、おかしい。
この子は、一方通行さんと私のペアなら勝てると思っているはず。
私を人質にして、チョーカーの電池がきれるまで粘れば勝てる、と。
一方通行さんに秘策があることは知らないのだ。
そうすると考えられることは2つ。
「本当は反射が30分持たない」か、「私に別の用があったから」ということになる。


完全反射「ん? そんな難しい顔しちゃってどうかしたのー?」

佐天「……本題は?」

完全反射「え、もう? もうちょっと世間話ってやつをしてからにしようと思ってたんだけど」


つまり今までのはお遊び。
鎌をかけてみたけど、やっぱりこの後に本命があるみたい。
でも一体なにを……。


完全反射「ま、いっか。今日は、お姉様に第一位と第三位のクローンたちの過去を教えてあげようと思ってきたんだよね」


世の中には知らない方がいいことはたくさんある。
これから聞く話はその1つだった。



佐天「絶対能力進化計画……?」

完全反射「そ。レベル6を生み出すために行われた実験」


聞いた話は、信じられないような内容だった。
学園都市には、レベルが0から5までの6段階しかレベルはない。
しかし、レベル5のさらに上、『レベル6』という能力者を作ろうとした実験があったそうだ。
ここは科学の街、学園都市。
そんな実験もあっても、全然おかしくない。
ただ、その方法というのが問題だった。
『超電磁砲のクローンを2万回通りの方法で殺す』
殺す?
打ち止めちゃんや番外個体さんを?
それも2万回も?
そんなの正気の沙汰じゃない。


完全反射「で、その被験者っていうのが、」

佐天「……一方通行さん」

完全反射「うん、正解~」

佐天「そ、そんな」


おめでとうとばかりに拍手をされる。
けれど、そんな音は私の耳には届いていない。
この子の目的だとか、そんなことが吹き飛んでしまった。
それほどのショックな話だ。
今の私の頭の中は、一方通行さんのことと、殺されたであろう御坂さんのクローンのことで、頭がいっぱいになってしまっている。


完全反射「これがそのデータ。まあ、見ない方がいいと思うけど」


信じたくはなかったし、信じられなかった。
だが、彼女の語った言葉は事実だった。
手渡されたレポートがそれを証明していた。



佐天「うっ……」


最初の数ページをめくっただけで吐き気がこみ上げてくる。
そこには、生々しい実験の記録や進行状況などが文字やグラフで記載されていた。
特に、殺害状況や時刻などの隣の欄に『完了』という簡潔な文字がずらりと並んでいるのが目についた。
その単語がこれほどまでに恐ろしいと感じたことはない。
レポートの目次によると、後半には写真が付記されているらしいのだが、とても見る気にはなれなかった。
それを見てしまっては、吐き気どころでは済まなくなる。
どうしてこんな実験が許可されていたのだろうか?


完全反射「結果としては、実験は1万ちょっとのところで断念・破棄されたの」

佐天「は、破棄?」


打ち止めちゃんや番外個体さんが生き残っているのはそういうことか。
どういう理由かは知らないが、実験が中断された。
これは喜ぶべきことなのだろう。
だが、1万という数のクローンは殺されている。
学園都市最強の超能力者、一方通行によって。


佐天「……なんでこんなもの私に見せたの?」

完全反射「それは、『一方通行』っていう人間のことを、お姉様が何も知らないみたいだったからだよ」


あの男のことを教えてあげようと思ってさ、となんでもないように言う。
確かに、私は一方通行さんのことはほとんど知らなかった。
知っていることといえば、第一位の超能力者であるということくらいだ。
『絶対能力進化計画』などという言葉は聞いたことすらない。
その内容も、外に漏れてしまえば学園都市という存在自体が危うくなるほどのものだった。
そもそも、なぜ一方通行さんはそんな実験を引き受けたのか?
通常の価値観をもっていれば、そんな実験を引き受けるはずがない。
しかし、あの人は引き受けた。
“最強”の能力者から、“絶対”の能力者になるために。
そこにはどんな思いがあったのだろうか?



完全反射「少しは分かってもらえたかな?」


吐き気は未だに治まらない。
この子の意図はなんなのだろう?
警戒すべきは自分ではなく、一方通行さんであると言いたいのだろうか?
私の既存の価値観が大きく揺らいでしまっている。
疑心暗鬼に陥ってしまいそうだ。


完全反射「ま、そんな訳だから、今後一方通行には近づかない方がいいよ」


話を聞いていれば確かにそうだろう。
今までは優しそうな一面して見えていなかったが、裏ではそんな実験をしていた人物なのだから。
そもそも、あの人はなぜ私なんかの能力開発をしてくれていたのだろうか?
そんなことをしているくらいなのだから、統括理事からの命令なんていくらでも無視できるはずだ。
では、なぜ?
分からない。
あの人の目的は?


佐天「一体、誰を信じれば……」


誰かに相談?
できる訳がない。
誰がこんなことを信じてくれるだろうか。
いや、御坂さんなら事情を知っているかも?
……ダメだ。
きっと御坂さんは、一方通行さんに恨みを持ってる。
一方通行さんの名前に過剰に反応していたのは、これが原因だったのだ。
御坂さんに相談しても、冷静に判断できるとは到底思えない。
つまり、自分で判断しなければならないということになる。
こんな混乱した頭で?
しかし、なぜ一方通行さんは悪者という結論がすぐに出せないのだろうか?
これだけの事実があるというのに。
何かが引っかかっている気がする。



完全反射「私の話はそんなところかな」


伝えたいことは全て伝えたという顔をしている。
きっと私の顔は酷いことになっているのだろう。
鏡を見なくても分かる。


完全反射「私の役目は果たしたことだし、そろそろお別れだね」

佐天「え?」

完全反射「これからまた第一位のところに行かなくちゃならないからねえ。できれば戦いたくはないんだけどさ」


彼女の目的がまったく掴めない。
私を混乱させることが目的?
ならば、それは大成功といえる。
今の私はどうしようもないほど混乱している。


完全反射「じゃっあねー。お姉様♪」

佐天「あ……」


そんな私を置き去りにするように、昨夜と同じように路地裏に消えていってしまった。
これから一体どうしよう?
一方通行さんに連絡する?
自分の携帯をポケットから取り出し、『一方通行』という連絡先を見据える。
昨夜、携帯の番号を聞いておいたのだ。
しかし、どうしてもかける気にはなれない。
実験の内容は知らないフリをしてでも、私のクローンが向かったことくらいは伝えるべきだろうか?
……いや、やめよう。
そんなことをしなくてもあの人は負けないだろう。
それに、まだ自分の気持ちを整理できていない。
こんな状態でまともに話せるとは思えない。
そう思い、ポケットに携帯を戻した。


佐天「一方通行さん……」


ひとり言は、誰にも聞かれることなく、路地裏に吸い込まれていった。
とても黄泉川先生のマンションに戻る気分にはなれなかった。

完全反射の胸の大きさについては>>1の趣向が反映されています。別に小さい方が好きな訳じゃないですよ? 小さいことを気にしている女の子ってかわいいよね。

次回は、vs完全反射の中ボス戦をお送りします。戦闘自体は意外と短めかも。

たぶん次回で3章もラストになると思います。

ちなみに自分の中では、完全反射のことを「コーちゃん」と呼んでます。

今後、佐天さんが呼ぶ可能性もあるかも。中の人的な意味で。

続きを更新。



一方「チッ。ハズレか」


午前10時。
佐天が完全反射に出会ってから2時間が過ぎたころ、一方通行は番外個体の言っていた第7学区の研究所に足を踏み入れていた。
その研究所自体は稼動していたのだが、番外個体の言っていた研究チームは既に撤退した後で、精密機械を取り扱っている企業が代わりに入っていた。
だが、そんなこともお構いないなしに、一方通行は力ずくで乗り込んで調べさせてもらうことにした。
しかし、そこまでしても成果はなかった。
まったくの0だ。
元からあったというパソコンを調べてみても、クローンの「ク」の字も出ない有様である。


研究員「も、もうよろしいでしょうか?」

一方「邪魔したな」


そう言って、研究所を後にする。
去り際に、一方通行が出て行くのを見てホッと一息ついているのが見えた。
そんな反応をされるのも仕方ないかとわずかに苦笑する。
本来なら誰もいないような時間に無理やり押し入ったのだ。
文句の1つも言われなかっただけ僥倖だろう。
もっとも、一方通行に文句が言える人物など限られているのではあるが。


一方(これでまた振り出しに戻るか。他に手がかりもねェし、これからどォするか……)


考えられる選択肢はいくつかある。
その中でも有力なのは、完全反射を探すことだろうか?
土御門の情報網を使うのが最も手っ取り早い。


一方「アイツに借りは作りたくねェンだけどな」


そんなことをブツブツいいながら、携帯を取り出す。
すると、ちょうどそのとき携帯が着信を知らせた。
あまりのタイミングの良さに覗かれているのではないかと辺りを見回すが、もちろん、金髪のアロハ男などいない。
人通りもほとんどないような場所にいるのだから間違いない。
では、誰からの電話だろうか?
改めて携帯を確認すると、発信主は佐天涙子であった。



一方「あァ?」


佐天からの連絡ということに一方通行は眉をひそめる。
確かに昨日この番号を教えた。
だが、黄泉川のマンションにいるならば、打ち止めが電話をかけてきそうなものだ。
それを遮ってまで、佐天が電話をかけてくるとは想像しにくい。
あるいは、打ち止めが佐天の携帯を借りて電話をしているのかもしれない。
出れば分かるだろう。


一方「ン?」


そこで一方通行の動きが止まった。
先ほどは気が付かなかったが、前方に佐天が立っていたのである。
横道から出てきたのだろうか?
しかし、電話をかけている素振りは見えない。
いや、そもそもここにいること自体がおかしい。


佐天(?)「……」


こちらが気が付くとほぼ同時、佐天はカツンとなんの前触れもなく小石を蹴り飛ばしてきた。
一方通行は、その攻撃を軽く首を横に動かすことで回避する。
そこをビュンと風を切る音がするほどのスピードで小石が通過していく。
昨日の一方通行のに比べれば威力は大したことはない。
だが、今のは間違いなくベクトル操作による攻撃だ。


一方「完全反射か」

完全反射「正解~」


佐天涙子のクローン『完全反射(フルコーティング)』。
探していた手がかりが向こうから姿を現してくれた。
これで、手間が省けた。
あとは情報を引き出すだけだ。
一方通行がチョーカーのスイッチに手を伸ばす動作が2人の戦闘が始まる合図となった。

―――そして、佐天からの電話は、そこで切れた。


先に攻勢に出たのは、完全反射だった。
佐天のときとは違い、碌な挨拶もなく、最初から敵意に満ち溢れている。
そんな彼女は、地面を強く蹴るともの凄いスピードで突っ込んできた。
しかし、そんなことはチョーカーのスイッチが入ってしまえば関係ない。


完全反射「ハッ!!」


女子のものとは思えないほど鋭いミドルキックが飛んでくる。
だが、回避する必要はない。
既に、チョーカーのスイッチは入っている。
お互いに反射を使っていれば、相手の攻撃も自分の攻撃も届かない。
それを確認するかのように、鋭い完全反射の蹴りが腕に当たると、まるで一時停止したかのようにピタリと静止した。
それと同時に、例の反射の膜を削られる感覚が体中を駆け巡る。
正直、これはあまりいい気分ではない。
完全反射もそう感じたのか、軸足で地面を軽く蹴って後方へと距離を取った。
10mほどの距離を取って2人が対峙する。


完全反射「ちェっ。ちょっと遅かったか」

一方「オマエじゃ俺は倒せねェよ」

完全反射「そォかな? バッテリーが切れた後なら、タコ殴りにできると思うンだけど?」

一方「分かってねェな。その前に決着がつくって言ってンだよ」


佐天は勘違いしているようだったが、一方通行に秘策などない。
それほどに明確な弱点が完全反射には存在する。
それに、今の一連の動きで相手の能力のタネも割れた。


一方「オマエは自分で生み出した運動ベクトルしか操作できねェンだろ」

完全反射「へェ? もう気づいたンだ?」


移動にしても、石を飛ばすにしても、余計な動作が1つ多い。
地面を蹴ったり、石を蹴ったりというように。
一方通行が同じことをするのに、そんな余計な動作をする必要はない。



完全反射「でも、それがわかっただけじゃ戦況は変わらないよね? お互いに攻撃が届かない訳だし」

一方「確かにそォだな」


相手の攻撃が届かないように、一方通行の攻撃も完全反射には届かない。
反射が相殺しあって、攻撃に込めたベクトルが霧散してしまう。
強度がより高ければ一方的に攻撃することもできるのだが、完全反射の強度は一方通行とほぼ同じであるためそれもできない。
前回はそこで手詰まりになってしまった。


完全反射「あははっ! どォするの? 今日はお姉様もいないし逃げる?」

一方「逃げる必要なンてねェな。オマエは弱点だらけだからな」

完全反射「……ふ~ン?」


“弱点”という言葉にも、完全反射の余裕な態度は崩れない。
彼女にしてみれば、攻防には意味がないのだし、大人しく話を聞いて時間を潰すだけ。
一方通行が自ら時間を潰してくれるのなら、それに乗るのは当然だろう。
だが、そんな完全反射の顔色が次の一言で豹変する。


一方「オマエ、物理現象しか反射できねェンだろ?」


“強度”、“範囲”、“種類”の3つが同時に完璧にできるということは、レベル5に認定されるということに等しい。
しかも、完全反射はそれを30分も維持できる。
もし、本当に一方通行と同レベルの反射をそこまで維持できるならば、レベル5に認定されてもおかしくない。
だが、樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の演算結果では、クローンによるレベル5の製造は不可能とされている。
目の前のクローンもそれに漏れないはずだ。
それならばどういうことか?
簡単なことだ。
“強度”と“範囲”が完璧ならば、“種類”が未完成ということになる。
拳を受け止めたり、石を反射させたところを見ると固体の反射はできている。
となれば、おそらくだが気体、液体の反射も可能。
いや、それしかできないと言った方が正しいのかもしれない。
つまり、完全反射は爆弾1つ、あるいは、スタンガン程度のもので倒せるのだ。



一方「昨日の退却の理由は、番外個体の奴が来たからなンだろ?」

完全反射「……」


昨夜の明らかにおかしい退却のタイミング。
あれは、電気を反射できない完全反射が番外個体を視界に捉えたからだったのだ。
その問いに完全反射は答えない。
しかし、先ほどまでの余裕な態度は既に消え去り、動揺しているように見える。


完全反射「フフッ。それが本当だったとして、アナタにそンなことができるのかな?」

一方「あン?」

完全反射「アナタの目的は情報収集でしょ? そンな攻撃してきたら、私は間違いなく死ンじゃうよ?」


一方通行は電気を使える訳でもなく、炎を操つれる訳でもない。
その辺りは、適当に電線を引っこ抜けばいいかもしれないが、相手を戦闘不能にさせる程度にベクトルを分散させるのは意外と難しい。
戦闘中となれば、そんなことに演算をしながら戦える訳がない。
ほんのわずかな弾みで殺してしまうこともありえる。
かといって他に使えるものは、手元にある拳銃が1丁のみ。
完全反射相手には、まだ100円ライターの方が役に立つかもしれない。


完全反射「それを知ってたなら、最終信号(ラストオーダー)でも連れてくれば良かったのに」

一方「いやァ? ンな必要もねェよ」

完全反射「え?」


完全反射の勝利条件は、30分という時間を潰すこと。
対する一方通行は、殺さないように注意しつつ、戦闘不能にすることだ。
お互いに攻撃が届かないという状況の中、これだけのハンデがあって、なお、一方通行は笑みを浮かべている。
同じ能力を持っているとはいえ、完全反射はレベル4程度。
その程度の相手に、2度も不覚を取る訳がない。
彼女の目の前にいるのは、学園都市最強の超能力者なのだ。
1度した失敗は、2度と繰り返さないのが、第一位たる所以である。



完全反射「一体、どォするつもり?」

一方「簡単なことだ」


そう言い終わるか否かというタイミングで、一方通行は完全反射との距離を詰めるために足元のベクトルを操作した。
目に見えないようなもの凄いスピードで一気に後ろまで回りこむ。
昨夜と同じく、完全反射はまったく対応できていない。


完全反射「!!」


やっと反応したときには、一方通行は完全に完全反射の視界から消えていた。
一方通行がテレポートでもしたように見えたはずだ。
そんな完全反射に向かって、音速というスピードで移動した副産物である突風が吹きつける。
もっとも、反射を適応させているのでなんの影響もない。
では、一方通行の狙いは?


一方「これで終いだ」


完全反射の後ろまで回った一方通行は、ベクトル操作もしていない拳を振るった。
当然、反応できていない完全反射は避けることができない。
一方通行の拳は、背中の真ん中辺りに命中した。
いや、正確には当たっていない。
反射によって、攻撃は完全反射に触れる直前で静止している。
そして、お互いに接触することで反射の膜が相殺されていく。


完全反射「何をするつもりだったか知らないけど、残念だったね」


やっとのことで、後ろに回られたことに気づいた完全反射が、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
完全反射にダメージは通っていない。
だが、安心するのはまだ早い。
そんなのは一方通行も承知である。
ここまでは、ほぼ昨夜の再現。
違うのはここからだ。



完全反射「え?」


気がついたときには、完全反射は膝を地面についていた。
何をされた?
頭がクラクラする。
背中に触れられてはいるが、攻撃は完全に止めたはずだ。
では、なぜこんなことになっている?
分からない。


一方「オマエと俺で違うのは、攻撃に使う『ベクトル操作』のレベルだ」


背後から一方通行の声が聞こえる。
意識がもうろうとして、うまく聞き取れない。
自分は今何をされているのか分からないのが怖い。
一方通行は、そんな完全反射に構わずに続ける。


一方「反射の強度は俺と同じレベルだった。俺もオマエも、触れてる部分は完全に反射が消えちまってるからな」


そうだ。
それならば、ダメージがあるはずがない。
ただ、触るだけでここまでの状態になるはずが……、


完全反射「ま、まさか……」

一方「そォだ。オマエも俺のデータは見てンだろ?」


血流操作。
外からの攻撃ではなく、内的な攻撃。
一方通行は、触れただけで血流、生体電気などの操作が可能なのだ。
それによって、妹達の命を奪ったこともある。
それを応用して、貧血のような状態にしているという訳である。
しかし、今更気が付いたところでもう遅い。
完全反射は、もう振り向くことすらできなくなっていた。
それから数秒も触っていると、完全反射の意識が落ち、ドサッという音と共に地面に倒れこんだ。
一方通行の完勝である。



完全反射「んっ……」

一方「起きたか」


完全反射が目を覚ます。
一方通行は、缶コーヒーを飲んでいた。
おそらく、近くのコンビニで買ってきたのだろう。
どのくらい気絶していたのだろうか?


一方「まだ30分も経ってねェよ」


時刻は10時半。
戦闘が5分程度で終わってしまったため、20分くらい気絶していたことになる。
正直、一方通行は、あまりにあっさりとした決着に拍子抜けしていた。
血流操作への対策も練っていると思い、いろいろ考えてきたのだが、それも無為になった。
あまりにも舐められたものだ。


完全反射「あー、ああ。私の負けかぁー」

一方「さっさとオマエの知ってる情報を吐け。そォすりゃ痛めに遭わずに済む」


脅しつけるような言葉をちらつかせる。
未だに完全反射の目的が見えないため、若干焦っているのかもしれない。
だが、悪い芽を早めに潰しておくに越したことはない。


完全反射「私の知ってる情報って言ったって大したことは知らないよ?」


これ以上抵抗する気はないようだ。
だが、少々無抵抗すぎるのが気に掛かる。
念のため、チョーカーのスイッチに手をかけておくことにする。
これならすぐに能力が使える。
敵がコイツ1人とも限らない。



完全反射「まあ、もう気づいてると思うけど、昨日の戦闘は私のデータを取るためだったんだよね」

一方「それで?」

完全反射「お偉いさんは割と満足してたみたいだよ?」


それはそうだろう。
一方通行と拮抗できたというだけでもすばらしい成果だ。
戦闘自体は短い時間だったが、それだけの価値はあった。
だが、一方通行に目を付けられるというリスクを考えると、はたして釣り合っていると言えるだろうか?
それに、それだけが目的とも思えない。
あまりに裏がなさ過ぎる。


完全反射「まだ聞きたいことはある?」

一方「知ってることは全部話せって言わなかったか?」

完全反射「そうだったね」


昨日のことは分かった。
では、今日の戦闘の目的は?
まさか本当に、彼女を作った研究員が、一方通行に勝てると思って送り出した訳ではあるまい。
それは楽観視しすぎというものだ。


完全反射「今日の目的はねぇ、」


なぜ、ここまであっさり話す?
意図が読めない。
“今日の目的”ということは、昨日とは違う目的があるということだ。
では、昨日と今日で違うことはなんだ?
一方通行が完全反射に勝利したこと?
いや、そこじゃない。


完全反射「時間稼ぎっていうやつかな」


佐天涙子がここにはいない。



完全反射「実験のためにお姉様を捕獲するから一方通行を食い止めろ、って無茶言うよねぇ?」


思えば、完全反射が登場したのは、佐天から電話がかかってきたときだ。
あまりのタイミングの良さに違和感を持たなかったのか?
答えはイエス。
電話をかけてきた本人が目の前にいるという違和感の方が強烈だった。
より強い違和感に、小さい違和感が覆い隠されてしまった。


完全反射「お姉様がアナタに連絡しなければ、わざわざ戦う必要もなかったんだけどね」


電話をかけてきたのが30分前。
それだけあれば、痕跡を消して逃走するには十分な時間だ。
つまり、この20分をまったくの無駄に過ごしてしまった。
完全反射がぺらぺらと話しているのは、もう役目が終わったからなのだ。


一方「クソがァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


ゴンと音が出るほど強く、近くの壁に拳をたたきつける。
行き場のない絶叫が、むなしく人気のない道にこだました。
能力を使っていなかったため、拳には血が滲んでいる。
だが、そんなことはどうでもいい。
自分のせいで、佐天涙子は学園都市の闇に引きずり込まれ、連れ去られてしまったのだ。
誰かの手のひらの上で弄ばれたという屈辱よりも、そんな展開も考えていなかった自分に激怒していた。
しかし、今更悔やんでももう遅い。
“佐天涙子は連れ去られた”
それは揺るがしのない事実であった。


―――そしてこの3日後、一方通行は、佐天を発見すると同時に最悪の相手と戦うことになる。


                                    第三章『Overline(彼女の目的)』 完

第三章終了。第一位は、どこぞのキャパシティダウンを3回もくらった第三位とは違います。

佐天さん連れ去ったのは、性的な意味でじゃないからな! 変な想像すんなよ!

次回から、第4章『Real Ability(最悪の相手)』がスタートです。ラスボスを想像してお待ちください。

禁書板のなんでも質問スレより

414 :■■■■:2011/05/27(金) 02:42:56 ID:bnRmFzFo
今の一方さんは狙撃で死ぬよね?
それともニュータイプよろしく、危険感知してチョーカースイッチ入れる?


415 :■■■■:2011/05/27(金) 02:59:05 ID:xi6gm7As
ある程度不穏な気配は察する(12巻最後みたく)だろうが、まあ完璧には無理だろうな


一方さん「」

ていとくん「一応自動防御ありそうなんだぜ!」

美琴「電磁波で感知からの迎撃翌余裕でした」

むぎのん「」

みさきち「」

根性さん「根性が足りてねぇな!」

かんざきさんじゅ(ry「甘い」

アッーークアさん「甘いのである」

テッ/ラ「爆撃に反応できたんですから反応できるはずですねー」

ヴェント「そもそも撃つ前に倒すし」

フィアンマ「大丈夫な気がする」

こんな感じだと思う

考察は自由にどうぞ。ネタがかぶっても気にせず書きますので。

ただ、ちょっとは感想もほしいかも……。

次の更新は2~3日後になると思います。

2、3日って何だよ……。忙しくて&筆が進まず書き溜め半分くらいしか進みませんでしたorz

今日は一日中就活なので、更新はもうちょっと先になります。

すみません……。

久々の更新。


佐天涙子が連れ去られてから3日後。
完全に日が落ち、周囲には誰も居なくなった道路の上に2人の人物が立っていた。


一方「よォ。ひさしぶりじゃねェか」


1人は一方通行。
学園都市が誇るレベル5の1人であり、最強の超能力者である少年。
能力を使用していれば、たとえ核戦争が始まろうとも傷1つ負うことがない。
8月31日に脳にダメージを負い、杖を突いてはいるが、それでもなお、彼は最強の超能力者として君臨していた。
その能力の副作用として変色した赤い瞳が、目の前の人物を捉える。
その人物は、50mほど離れたところに立っている。
見覚えのある少女がそこにいた。
少女は、自分を睨んでいる一方通行の姿に物怖じもしない。
―――佐天涙子。
連れ去られたはずの彼女が、一方通行の目の前に立っていた。


佐天「……」


佐天は何も言葉を発しない。
いや、発することができる状況にあるのか分からない。
意識はあるはずだが、一方通行の声も届いているのか怪しい。
なぜなら、佐天の頭には、見たことのないヘルメットのような機械が取り付けられているのだ。
顔で見えているのは鼻と口元のみ。
その機械の大きさは、佐天の頭を1回りか2回り大きく見せていた。
そんな歪な大きさのヘルメットは、中学生の少女には少々不釣合いと言える。
あれでは重すぎて、まともに重心をとることもできないだろう。


一方(ふざけやがって)


辺りはシンと静まりかえり、ピリピリとした空気が流れている。
再会を喜んでいるような甘い空気は微塵もない。
張り詰めるような緊張と、動物が逃げ去ってしまうような強い殺気だけがそこに渦巻いていた。

どうしてこんな状況になっているのだろうか?
―――時間は佐天が連れ去られた時点に戻る。


能力開発を受け始めてから6日目の午前10時半。
佐天涙子がさらわれた推定時刻から、20分近くが経っていた。


一方「チッ。出ねェか」


佐天に電話をかけてみたが、当然のように何の反応もない。
分かっていたことだが、苛立ちを隠しきれない。
携帯は既に、逆探知できないようにその辺の路上にでも転がっているか、破壊されているのだろう。


一方「アイツらは無事だろォな?」


さらわれたのが佐天1人だけという確証はないのだ。
もしかしたら、同じ場所にいる打ち止めたちまでさらわれている可能性もある。
いや、その可能性の方が高いかもしれない。
確認を取るため、急いでマンションの部屋の電話にかける。
1コール、2コール……。
なかなか出ない。
やはり、こちらもターゲットにされていたのだろうか?
そんな不安な気持ちが膨れるが、ガチャリという音と共に、


打ち止め『もしもーし、ってミサカはミサカは元気に電話に出てみたりー!!』


という気の抜けるような声が受話器を通して耳に届いた。
打ち止めが無事に電話に出るということは、佐天は外に出たのだろうか?
とにかく無事が確認できただけでも十分だ。


一方「大丈夫そォだな」

打ち止め『あれ? どうかしたの?』

一方「佐天はいるか?」

打ち止め『サテンお姉ちゃん? そういえば、家の周りを見てくるーって言ってから帰ってきてないかも、ってミサカはミサカはちょっと心配になってたり』


これで、佐天が連れ去られたということはほぼ確定だ。
これからはそういう前提で行動を取らなければならない。



一方(かといって、打ち止めがまだ狙われている可能性も捨てきれねェ)


電話を切った一方通行は、これからの行動の指針を立てようとしていた。
狙われている可能性があるといっても、一方通行に佐天のことがバレた時点で無事なら、可能性は相当低い。
それとも、さらにその裏をかかれていることもありえるだろうか?


一方(いや、それはねェな)


打ち止めを狙っているならば、難易度や重要度から言っても、先にそちらから取り掛かるはずだ。
番外個体という明確な戦力が存在する分、どう考えてもそちらの方が時間がかかるだろう。
つまり、相手の目的は佐天涙子のみ。
となれば、


一方(優先すべきは打ち止めたちとの合流じゃねェ。佐天の救出だ)


万が一の事態には、ミサカネットワークで連絡するようさきほどの電話で伝えた。
緊急連絡の方法を、一方通行の演算の一時停止という強引な方法にした訳だが、それなら要件は確実に伝わる。
番外個体が応戦している間に、黄泉川のマンションまで戻ればいい訳だ。
ディフェンスに徹すれば、最低でも5分やそこらは持つはずである。
時速800kmで飛んでいけば、黄泉川のマンションから、半径40km圏内が行動範囲になる。
つまり、学園都市中を探せるということになる。


一方(これで足元は固めた。後はオフェンスなンだが……)


方針が決まったのはいいが、佐天を探す手がかりがまったくない。
電話の逆探知は不可能だろうし、どこへ行くかを明確に伝えていた訳でもないらしい。
連れ去られた現場が、マンションの近くという可能性は高いがそれも絶対ではない。
では、佐天涙子を見つけ出す手がかりはまったくないのだろうか?
……1つだけある。
完全反射だ。



一方通行「質問の続きだ。知ってることを全部話せ」

完全反射「んー? 別にいいよん」


完全に放置していたため拗ねているかとも思ったが、どうやらその辺りを根に持つタイプではないらしい。
妹達とは思考回路が少々違うようだ。
それとも、これも作戦の内なのだろうか?


一方(情報の取捨選択は自分でやりゃいい。今は、こいつから少しでも情報を得ることが重要だ)

完全反射「まず、何から話そうかな?」

一方「佐天の行方は知ってンのか?」

完全反射「ううん。知らないよ」


これは想定内。
足止めに本拠地の場所を知らせておくバカはいない。
まして、その足止めの相手が一方通行ではなおさらだ。


一方「オマエを作ったやつの名前は?」

完全反射「それは禁則事項なんだよね」

一方「なンだと?」

完全反射「その人の最後の命令(ラストオーダー)ってやつかな? それ以外は好きにしろってさ」


番外個体のときのように、シートやセレクターなどで行動を縛られているのだろうか?
あるいは、ウソをついているか。


完全反射「ま、そんなところだよ。そもそも、私だって好きでこんな作戦に手を貸してる訳じゃないし」


好きで手を貸している訳ではない?
どういうことだろうか?



完全反射「なんか、お姉様と私って気が合うと思うんだよね」


勘だけど、と完全反射が付け加える。
たしかに、佐天のクローンだけあって人見知りせず、ノリのいいところが多々あるように見受けられる。
佐天も自身のクローンに対して忌避を抱くどころか、友好関係を築けそうな性格をしているかもしれない。
多少、慣れるまでに時間はかかるかもしれないが。


完全反射「でも、クローンの意見なんて上の連中は聞いてくれないしね」


クローンを人形だとすら思っている連中が、そんなことをするはずがない。
彼らの思考では、クローンは『物』であり、消費するだけの『モルモット』。
クローン1体を処分するのに、何の気持ちも抱かない。
そこの研究者たちは、皆、例外なく狂っている。
それは自分が一番良く知っている。
なぜなら、自分がそういう立場だったからだ。
―――話を戻そう。
今は、完全反射の身の上話よりも、佐天の情報が欲しいのだ。
場所が分からなければ、目的を聞き出すのがいいだろう。


一方「なぜ佐天をさらった」


想像は多少つく。
おそらく、オリジナルとクローンとでどこが違うのかを比較するためだろう。
体細胞が劣化してしまうクローンでも、そこそこの強い能力を使用することができる。
だが、レベル5という超能力者を製造することは叶わない。
それはなぜか?
その答えがオリジナルの中に眠っていると考えても、何もおかしいことはない。
妹達の実験では、オリジナルとクローンの差異を発見することは不可能だった。
というのも、第三位の御坂美琴は、オリジナルとして力を持ちすぎていたからだ。
しかも、本人には秘密裏に計画を進められており、危険を冒してまでそのようなことをする必要性なかった。
そんなことをせずとも、一方通行という超能力者を絶対能力者(レベル6)にすることが可能だったからだ。
だが、今回は違う。
クローン推進派は後がない。
だから、樹形図の設計者が出した予測演算結果を無視してでも、事を起こす必要があった。
そのために、未だ力を付けきっていない佐天涙子を拉致した、というのが一方通行の推測だ。


―――だが、その推測はまったくのハズレだった。



完全反射「お姉様をさらったのは、人為的にレベル5を作れるかどうかを検証するためだよ」



一方「なン……だと……?」


クローンを使ってのレベル5ではなく、オリジナルを使ってのレベル5の製造。
確かに、その方法でレベル5が生まれないという演算結果は出ていない。
だが、実際に可能なのだろうか?
いや、それ以前に……


一方「それなら、なンでオマエが作られた」

完全反射「私?」


元々、オリジナルでレベル5を作ろうということになったら、クローンを作る必要などない。
一方通行の能力ならデータも豊富にあり、それを流用するためにも、同じ能力を持った佐天に焦点を当てるのは分かる。
では、なぜ『完全反射』というクローンは作られたのか?


完全反射「最初は、私で実験するつもりだったらしいんだよ」


クローンを後天的に調整することによってレベル5を作る。
それが、当初の目的だったらしい。


完全反射「それに見合うだけの方法も見つけたんだけど、それを実行しても意味がなかったんだってさ」

一方「どォいう意味だ」

完全反射「細胞の劣化だよ」


クローンの致命的な欠陥。
細胞の劣化に問題があったのだ。


この場合の後天的方法というのは、主に学習装置(テスタメント)を中心とした能力開発である。
能力開発といっても、人格は完全に失われ、代わりに新しい人格が埋め込まれるのだから、実行されることはほとんどなかった。
クローンを除いては。
クローンは、数時間という短い時間で、10代にまで体を成長させる。
そのため、脳に情報を埋め込む作業をしなければ、使い物にならない。
その脳に埋め込む情報を調整し、能力を最大に発揮できるようにするのが、完全反射の能力の強さの由来だろう。


完全反射「でも、今回の方法はそれとは違うんだよね」

一方「学習装置じゃねェだと?」

完全反射「そ。今回は、外部装置を使った演算補助、並びに自分だけの現実(パーソナルリアリティ)の強化をすることにしたんだってさ」


外部装置をつかった演算補助と言われても、ピンと来ない人もいるかもしれない。
だが、ここ学園都市ではそういった技術も開発されている。
例えば、HsSSV-01『ドラゴンライダー』。
最高速度1050キロという怪物のようなスピードを出すことのできる軍用バイクのことだ。
このドラゴンライダーは、駆動鎧(パワードスーツ)と連動して搭乗することが絶対条件となる。
時速1050キロという世界では、目の前の障害物に対し反応できる人間などいない。
そこで、コンピュータによって知識や技術の補正をかけるのだ。
電気的な刺激や脳の温度分布などを利用して人間と機械を繋げる『仕組み』を備え、時速1050キロという世界に人間を適応させる。
それを、能力に対して使用するということなのだろう。


完全反射「でも、学習装置で書き込んだ内容と、外部装置の知識が拒絶反応を示すって結果が出ちゃったんだよね」


無理に詰め込んだ知識を、さらに外から押し込もうということだ。
頭がパンクしない方がおかしい。
それに、脳細胞が劣化していることも関係があるのだそうだ。
オリジナルならば、学習装置を使う必要がないので、そこまでの拒絶反応は出ないだろうということらしい。


一方「無理だな」


だが、その方法にも問題はあった。



一方「そンなことができりゃ最初からやってンだろォが」


能力を使うということは、バイクの運転を補助するのとは訳が違う。
能力というのは、人間だけが使えるものなのだ。
『自分だけの現実』を構築するのは人間であり、どんなに演算能力を追加しても、本人以上の力は発揮できないはずだ。
なぜなら、機械に『自分だけの現実』を補助することは、今のところ不可能なのだから。
多少、処理速度は上昇するかもしれないが、その程度が関の山だろう。
それが外部補助装置の限界だと言われている。
だが、そんなことは完全反射も承知の上だった。


完全反射「その限界を超える可能性があるとしたら?」


限界を超える?
つまり、自分だけの現実の補強もできるということだろう。
だが、それは人間と機械の境界をなくそうと言っているようなものだ。
あまりにも現実的ではない。


一方「『自分だけの現実』を補強するマシンを開発しましたってかァ?」

完全反射「ううん。そんなことできる訳ないじゃん」


イマイチ、要領を得ない。
今まで言っていたことが全て空想だと言っているようなものなのだ。
何のためにこんな話を……


完全反射「だって、元からあった機械だもん」

一方「ハァ!?」


開発したのではなく、手に入れた。
どこのバカが作ったか知らないが、そんなものが世に出回ってしまえば、どんな混乱が起こったものか想像ができない。
能力者を恨んでいるスキルアウトは星の数ほどいるのだ。
そのような連中だけでも、目も当てられない事態へとなってしまう。



完全反射「ま、量産の心配はないけどね」

一方「あ?」


うすうす気づいていたが、完全反射はまだ知っていることを全部言ってはいない。
おそらく、そのマシンの詳細なデータも知っているのだろう。
そうでなければ、そこまで断言できる説明が付かない。


一方「そのマシンのデータは?」

完全反射「あれぇ? まだ気が付かないの?」

一方「……?」


自分だけの現実を補強できる機械などに心当たりなどない。
そんなものに頼る必要もなかったし、これからも必要ないだろう。
ミサカネットワークさえあれば、それ以上の補助は邪魔なだけだ。
そもそも、どうやって自分だけの現実を補強するつもりなのだろうか?


一方「待てよ……」


ミサカネットワークでは、自分の実力以上の力は出せない。
それは、あくまで演算の補助であり、自分だけの現実の補強を受けている訳ではないからだ。
では、その自分だけの現実に対して、常に最適化を図れるマシンならばどうだろうか?
自分だけの現実を作る“サポート”をするだけなら可能だろう。
時間はどれだけかかるか分かったものではないが。
いや、短時間で可能なマシンを1つだけ知っている。


完全反射「そのマシンの名前は『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』。アナタが壊したので全部だと思ってた?」


つまり、次の敵は佐天涙子自身。
果たして、本人を敵に回して、佐天を救うことなどできるのだろうか?

―――学園都市最高の『人間』と『機械』の対決はこの3日後のことであった。

ここら辺で。ラスボスは佐天さん(樹形図の設計者)でした。今回、回りくどすぎたかな?

レベル5シミュレーターの続編として考えていたのをリメイクした作品なので、それっぽい感じが出てきました。

学園都市最高の頭脳を持つ人間vsコンピュータの勝負の行方は!? といったところで次回に続く。

完ちゃん「ツリーダイアグラムや」

一ちゃん「なン………………だと……………?」

完ちゃん「いつからあれを破壊していたと錯覚した?」

こんな感じ

演算ってのは、能力を発動するための計算ってことです。

演算と自分だけの現実の違いについては、>>426参照のこと。

なんか上がってたので報告。ここ1~2週間で遠征ラッシュなので書き溜めが難しいかもしれません。

ESとか履歴書とかも書かなくちゃならないし……。たまに生存報告は入れるつもりです。

もう少々お待ち下さい orz

続きを更新。



一方「樹形図の設計者だと……?」


8月31日。
夏休み最後の日に、結標淡希は『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の残骸(レムナント)をめぐる一連の事件を起こした。
その結果はご存知の通りだ。
一方通行が、残骸を派手に破壊した。
しかし、残骸はあれ1つではなかったという。


完全反射「アナタも知っての通り、『樹形図の設計者』ってのは超高度並列演算器なんだよ」


直列演算ではなく、並列演算。
それは妹達によるミサカネットワークと同じく、核となる部分が存在しないことを意味する。
つまり、どこか一部分だけでも機能する。
おそらく、並列に繋ぐ数が少ない分、本来の力の100分の1も出せないとは思うが、それでも驚異的なスペックを誇るマシンであることには変わりない。
そんな怪物じみた機械と佐天をリンクさせたら、心身共にどうなってしまうか想像もつかない。


完全反射「リンクに使われるソフトは、レベルアッパーってシロモノの改造品だって話もあるよ」

一方(レベルアッパー……?)


一方通行が知らないのも無理はない。
低レベルの能力者たちに流行したのだが、御坂美琴を除いたレベル5にはまったく無縁のものであった。
レベルアッパーとは、木山春美によって作成された他人の演算を代用して自分の演算能力を向上させる音楽ソフト。
結果的には、使用した人間が無理やり脳波を乱されることにより、昏睡状態に陥ってしまうという欠陥品だった。
だが、今回の場合はそうなる恐れはない。


一方「なるほど。残骸の方を佐天の脳波に同調させる訳か」

完全反射「そういうこと。お姉様はレベルアッパーを使ったことがあるらしいから、どんな副作用がでるか分からないけどね」


佐天涙子はレベルアッパーを使用したらしい。
それも、風紀委員(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)が追っているということを知りながら。
あまり褒められたことではないが、自分に佐天を責める資格がないことは自覚していた。
彼もまた、レベルを上げるために『完全能力進化実験』という狂った実験に手を貸していたのだから。



一方「クソが」


胸糞が悪い。
自分の過去を掘り返されたような気分だ。
今回の件は、手際の良さからいって暗部の仕業という可能性が高い。
ロシアでの功績によって暗部という組織は解体させたはずである。
現に、土御門元春、結標淡希、海原光貴といった連中は解放された。
それとも、解放されたのは自分を含めた4人だけだったのだろうか?


一方「チッ」


これ以上ここで考えていても仕方がない。
だんだん人通りも多くなってきた。
手がかりが得られない以上、一度戻って作戦を立て直すべきだろう。


一方「オマエはこれからどォすンだ?」

完全反射「私?」

一方「研究所に帰ンなら、引き止めねェよ」


その場所に佐天はいないとは思うが、後をつけて情報を得るチャンスはあるかもしれない。
ついでに、完全反射を製造した責任者とやらに挨拶しに行かねばなるまい。
少々派手な挨拶になってしまうかもしれないが、それは御愛嬌。
最悪なのは、研究所に戻らずウロウロされることだ。
足止めの際に死亡する前提だったのなら、その可能性も捨てきれない。
―――だが、そんな心配は無用だった。


完全反射「研究所になんて帰る訳ないじゃん」

一方「そォかい。じゃあ―――」

完全反射「だって、これからアナタのところにお世話になる訳だし」


オイ……。
今、なンて言った?



一方「そりゃどォいう冗談だ?」

完全反射「冗談なんかじゃないよ~? 至ってマジメ」


顔がなにやらにやけている。
どう考えても、まじめに言っているとは思えない。
そんな表情のまま、完全反射が続ける。


完全反射「今回の作戦で、私はお役御免って言ったよね?」

一方「オイ……」

完全反射「アナタのいるところって、そういうクローンの溜まり場なんでしょ?」


あながち否定できない。
打ち止めも番外個体も似たようなものかもしれない。
できれば、目の付くところに置こうとは思っていたが、まさか家までついてくるとは予想していなかった。
なにしろ、つい1時間ほど前まで戦っていたのだ。
なんとも早い手の返しっぷりである。


完全反射「それに、私がいないとお姉様の情報はこれ以上入ってこないよ~?」

一方「まだ言ってねェことがあンのか」

完全反射「そういうこと♪」


どうやら本気でついてくるつもりらしい。
かといって、このまま突き放すこともできない。
佐天の情報は1つでも多く欲しいところだ。
それに、このまま放置しておいたら、彼女が殺される可能性もある。
もし、本当に暗部の人間が動いているならば、情報が洩れるかもしれないモルモットを放って置く訳がない。
完全反射はスタンガン程度で倒せるのだ。
多少のベクトル操作ができるとはいえ、手間は掛からないだろう。
なんとも面倒くさいことになってしまった、とため息をつくしかなかった。



完全反射「こんにっちはー!!」

一方(うるせェ……)


時刻は午前11時。
結局、一方通行は完全反射を連れて黄泉川のマンションまで帰宅することにした。
クローンの性格はオリジナルと異なるはずだが、どうやら完全反射は佐天に近い感じがする。
佐天がさらわれたというのに、あまりそんな気がしないのはそのせいだろう。
あるいは、それが狙いなのだろうか?
いや、それは考えすぎだろう。
そうだとしたら、あまりにも堂々としすぎている。
などと一方通行が思考を巡らせていると、


打ち止め「おっかえりー、ってミサカはミサカは元気良く出迎えてみたりー」


奥の方からばたばたと打ち止めが駆け寄ってきた。
……?
いつもなら打ち止めの後ろから番外個体がついてくるのだが、今日は見当たらない。
まだ体調が悪いのだろうか?
打ち止めは、完全反射を佐天と勘違いしているようだ。
それも無理もない。
なにしろ細胞レベルで同一である上に、性格まで近いのだ。
佐天の友人ですら、話をしても見分けが付かない可能性もある。


完全反射「初めまして、最終信号(ラストオーダー)。私は、完全反射(フルコーティング)って言うの。よろしくね~」

打ち止め「ほぇ?」

完全反射「佐天涙子のクローンって言えば分かるかな? まあ、アナタの腹違いの妹って感じだね」

打ち止め「???」


どういうこと? という視線を一方通行に送る打ち止め。
どう説明するべきか悩ましいところである。


説明を終えると、時刻は午後1時を過ぎていた。
3人で昼食をとると、打ち止めは部屋に戻っていった。
各妹達に指示を出すためだ。
学園都市内部の妹達も、佐天の捜索に協力してくれることになったのだ。
気休め程度にしかならないかもしれないが、ないよりはマシなはずだ。
そうして現在、リビングには一方通行と完全反射の2人だけが残っていた。


一方「それで、オマエは他に何を知ってンだ?」

完全反射「んーと、お姉様に使われることになってる機械の大まかな構造かな」


さすがに、樹形図の設計者をそのまま頭に埋め込む訳にもいかない。
人間の脳とのリンクを図るために、様々な補助装置をつけなければならないのだろう。
しかし、どうやらあまり詳しく知っている訳ではないようだ。


完全反射「知ってるのは、頭に被るタイプで、2重構造になってるってことだけ」

一方「2重構造?」

完全反射「外殻に『樹形図の設計者』である補助演算器が搭載されてて、その内部に催眠誘導装置が使われてるってことらしいよ」


催眠誘導装置とは、分かりやすくいえば洗脳装置のことだ。
佐天涙子をコントロールするために搭載された機能なのだろう。
ただレベル5を作っただけでは、一方通行のように意に沿わない場合に処理に困る。
ならば、最初から操り人形にしてしまえばいい。


完全反射「それにも穴がない訳じゃないけどね」


あくまで誘導するだけなので、本人に強い意志があれば拒絶も可能らしい。
つまり、佐天が心の奥底から一方通行との戦闘を拒めば、戦闘は回避できる。
だが、そううまくはいかない。
誘拐される直前に佐天の心の中に渦巻いていたのは、一方通行に対する『疑念』や『嫌悪』。
黒幕は、戦闘を回避されないように、完全反射に一方通行の過去を佐天涙子に話させたのだ。
佐天涙子がどの程度レベル5に近づいたのかを一方通行で確認するために。



完全反射「ま、他にもいろいろ理由があるらしいんだけどね」

一方「他にだと?」


おそらく、今まで『樹形図の設計者』を利用してレベル5を作らなかったのは、費用対効果が原因である可能性が高い。
能力者1人だけのために、スーパーコンピュータを使うのはもったいない。
しかし、バラバラに砕け散った今では状況は変わってくる。
むしろ、廃材を有効活用した方が利に適っている。
それをうまく使えるかどうかは未知数ではあるが。
だが、目的はそれだけではないと言う。


完全反射「いや、よくは分からないんだけど、ナントカっていうレベル0への対策も兼ねてるとか」

一方「レベル0?」


一方通行の頭に真っ先に浮かんだのは、絶対能力進化実験を止め、ロシアでも自分の前に立ちはだかったツンツン髪の男だった。
能力を打ち消す能力者。
過去に2度ほど戦い、負けている相手。
あの男への対策に、樹形図の設計者を利用して意味があるのか?
いくら強い能力者を作ったところで、あの右手の前では無意味だ。
いや、そもそも対策うんぬんの前に、ロシアから帰還しているのだろうか?
あの戦いに巻き込まれて生きて帰っているという保障はどこにもない。


完全反射「何て言ったっけな……。あの金髪……」

一方(金髪?)


上条当麻は黒髪であり、最後に見たときも金髪などではなかった。
つまり、完全反射の指しているレベル0とは違う人物ということになる。
では、誰のことか?


完全反射「とにかく、素養格付(パラメータリスト)ってのを過去のものにするんだってさ」


アイテム構成員のレベル0、浜面仕上。
アレイスターのプランにはない、イレギュラーへの対応策であった。


素養格付(パラメータリスト)。
それは、全ての学生を絶望と無気力のどん底に突き落とすことになるであろうファイルのことである。
その中には、将来どの程度の能力者になれるかというデータが全学生の分記載されている。
つまり、能力は元々生まれ持った才能でどのくらい成長するかが決まっていることになっているのだ。
そんなことが学園都市中に知れ渡れば、どうなることか分かったものではない。
第三次世界大戦のおり、浜面仕上はこのデータを入手し、学園都市との交渉を行っていた。
そんな危険なファイルを無意味なものにするのが、今回の目的の1つであるという。
というのも、佐天涙子には元々レベル5になれるなどという才能は持ち合わせていなかった。
せいぜいレベル4が限界。
それも、200年というカリキュラムを組み込んで初めて可能な水準である。
とてもではないが、現実的とはいえない。
だが、そんな彼女が、外部の力を借りるとはいえ、レベル5としての力を行使したら?
答えは簡単だ。
素養格付などというものは意味のないものになる。
それは、将来足がどの程度早くなるかということを記したようなものに過ぎない。
自分の限界が見えたならば、それを外部に任せればいいのである。
世界一早いマラソンランナーでも、自動車には勝てない。
量産に問題はあるだろうが、実績さえあればいくらでも時間は引き延ばせるだろう。


完全反射「―――ってところかな」

一方「…………」


そんなファイルの存在は知らなかったが、学園都市ならばそのくらいはやってもおかしくはない。
あるいは、自分も能力を持つ以前から目を付けられていたのかもしれない。
最強の超能力者になれるという未来を確信して。


完全反射「他にもいくつか理由があるって話だけど、これ以上は聞かされてないよん」

一方「そォか」


つまり、様々な思惑が重なり合い、その中心にいたのが佐天涙子であったという話なのだ。
こうしてみると、自分と同じ能力だというも、その理由の1つに過ぎないのかもしれない。
これだけの条件がそろえば、一方通行に捕捉されるリスクも承知で佐天を連れ去りもする。
そして、それはまんまと成功せしめたのだ。



一方「これだけ話すってことは、オマエはこれ以上この実験に協力する気はねェンだな?」

完全反射「だから、最初からそう言ってるじゃん。元々乗り気じゃなかった、ってさ」


どこまでが、完全反射に意図的に与えられた情報なのかは分からない。
だが、これ以上あちら側に肩入れするつもりもないようだ。
信じきる訳ではないが、警戒のレベルを下げてもいいかもしれない。


完全反射「それで、これからどうするの?」

一方「とりあえず、オマエのいた研究所にいってみるか。何も残っちゃいねェとは思うがな」

完全反射「オッケー。あ。でも、私はお姉様とは戦えないからね」


まだついてくるつもりらしい。
最悪の場合、次に佐天と会うときは、自分と同等の力を持って登場するかもしれない。
それがうまくいくかは分からないが、完全反射にレベル5の相手は厳しいだろう。
となれば、相手をできるのは一方通行だけとなる。


一方「ハッ! オマエはここにいてもいいンだぞ?」


そう言うと、杖をついてソファーから立ち上がった。
多少使ったとはいえ、バッテリーの残量も十分ある。


完全反射「ねえ、なんでアナタはそこまでするの? ここまで面倒見がいいってデータは私にはなかったんだけど」

一方「さァな。俺にも分かンねェよ」

完全反射「ふぅん?」

一方「だが、やられっぱなしってのは性に合わねェ」


軽く笑いながらそう言うと、マンションのドアノブに手をかけた。
まずは、完全反射のいた研究所からだ。
馬鹿げた実験が済む前に、さっさと助け出すとしよう。

新約が途中でルート分岐したみたいな話になってきました。

浜面は生きてんのかな? 多分、出てきませんが。

次回からいよいよvs佐天さんです。2~3回は戦闘が続くと思います。

※オマケ(完全反射のスペック)
●個体名:完全反射
●能力名:ベクトル操作Lv4
●能力詳細
・反射
個体名の通り、全身に反射を使用することができる。
反射強度も一方通行並み。
ただし、反射できるのは物理現象のみで、熱や光、音、電気などは反射不可能。
・ベクトル操作
自分で発生させた運動エネルギーだけ操作可能。
よって、風操作などは不可能。
●その他詳細
オリジナルよりスレンダーな体型。
性格は、佐天と番外個体を8:2でブレンドしたような感じ。

>>1は完全反射のcv誰でイメージしてるんだろうか

脳内再生の参考に、浮かんだら教えて欲しい


御坂→御坂妹達・打止・番外を見るに、性格により違うのか…?
佐天8割番外2割なら、やや低音でかな恵ちゃんが二役?
でも演じ分けられなさそう;;

>>940
俺は、同じテンションのかな恵ちゃんで再生されて、
佐天さんと完全反射の会話はややこしいなと思ってた。

ひとつ気になったんだけど、熱も光も物理エネルギーだよね
質量エネルギーしか反射できないってことでおk?

えー、しばらく更新できなさそうなので返答。

>>940
声とか考えたことはありません。
強いて言うなら、早見さんか? いや、やっぱり伊藤さんですね。
今後の展開上、>>945のように混乱させることも狙っているので。

>>956
自分の中では、気体とか固体とかが物理現象だと思ってました……。
とりあえず、完全反射はその3種類しか反射できないってことで。


次スレですが、このスレののび具合で立てます。
980超えたら、誘導のために書き込み自重してくれると助かります。
ここには、あと1回投稿できるか分かりませんが埋めてしまっても構いませんので。

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