キャーリサ「家出してきたし」上条「帰って下さい」(1000)
あえて書き溜め無しでやってみる。
飽きたらhtml依頼だす
上条「」
キャーリサ「久しぶりだし、小僧」
上条「」
キャーリサ「何なのこの部屋は? 玄関か? しかし先ほど靴は脱いだし、テレビやベッドもあるな。
お前、もしかしてここで生活しているのか?
むー……それは何と言うか……不憫だし」
上条「ぇぇぇぇええええええぇぇぇぇえええええぇぇぇええ!!!!!!!!!!????????」
キャーリサ「うるさいぞ。何だ突然」
上条「こっちの台詞だ! な、ななんでお前がここに!?」
キャーリサ「あー気にするな。家出してきた」
上条「帰って下さい」
キャーリサ「断る!」
上条「何でだよ! 英国王女サマがこんなところにいちゃ駄目でしょ!」
キャーリサ「いちいちがなるな。やかましーぞ。
それよりどうだ、私服を着る機会は実はあまりなくてな、可愛いか?」
上条「いや……その……っつか話聞いてもらえませんか」
キャーリサ「うんうん。いー反応だ。ここに来るときも眼鏡をかけるだけで誰も気付かなかったんだ。
あまりのオーラの無さに人が避けて通ったぞ。我ながら完璧な変装だし」
上条「オーラが隠しきれなくて避けただけだと思います」
キャーリサ「おー! これが日本のこたつとか言うやつか!
いいなこれ! ぬくぬくだ! おい、緑茶が飲んでみたい、淹れてくれないか?」
上条「な、なんなんだ一体……」
―――
上条「よし、お茶だぞ。これでいいな? 一旦落ち着いて話そう!」
キャーリサ「ご苦労。何ださっきから。話がかみ合わないぞ」 ズズッ…
上条「こっちの台詞だよ。とりあえず、キャーリサ、でいいんだよな?」
キャーリサ「こんな知的で可憐で妖艶な知り合いが他にいるの? いるなら呼んでくるがいい、
あまりのスペック差にべっこべこに凹ませてやるし」
上条「まあいいや。何しに来たんだよ?」
キャーリサ「つれない反応だな。清教派の……何て言ったかな、金髪の男からお前の話は一度聞いたことがあるの。
お前は見知らぬ女のために危険に飛び込んでいく奇怪な趣味があるそうだな。
光栄に思え、私を助けさせてやるし」
上条「帰れ」 ガシッ ズルズルズル…
キャーリサ「わ、分かった! 私が悪かったの! とにかく話を聞いてくれ!
上条「何だよ」
キャーリサ「王女に対する扱いとは思えないし……」
上条「いいから話せよ。インデックスに見られたら噛み付かれるのは上条さんなんですよ」
キャーリサ「そー言えば禁書目録はどーしたの?」
上条「友達のとこだ。夜には帰ってくるよ。ほら、本題を早く」
キャーリサ「何だか冷たいし。もっと優しくしろ、王女だぞ」
上条「冗談抜きで殺されるところだったからな」
キャーリサ「それを言うなら、お前だって私を殴り飛ばしたの。
本来なら国際問題だし」
上条「う……」
キャーリサ「ふふんっ」 フンスッ!
上条「じゃ、じゃあおあいこということで……」
キャーリサ「いーだろう。過去の遺恨は置いておいて、これからのことを話し合おーじゃないか」
上条「それで、さっき家でっつってたけど」
キャーリサ「うむ。母上と喧嘩した」
上条「それで?」
キャーリサ「? それだけだし」
上条「おい! そんだけのためにわざわざ半日以上かけてここまで来たのかよ!?」
キャーリサ「違う違う。超音速旅客機使ったから1時間くらいだ。
ちょっと学園都市見てみたかったしな」
上条「そんなもん使ってショッピング感覚で来るの止めてもらえませんかねぇ……」
キャーリサ「馬鹿を言うな。これでもポケットマネーで動かしたんだ。国費は使っていない。
国民の血税を親子喧嘩になぞ使えるか馬鹿者」
上条「そういう常識的な考えをどうして上条さんにも向けてくれないんだ……」
キャーリサ「久しぶりに堪忍袋の緒が切れたの。母上のことは許せん。いや、他の連中もだ」
上条「何があったんだ?」
キャーリサ「聞いてくれるか上条当麻」
上条「聞きたくねぇけどな」
キャーリサ「実は、母上から最近結婚を勧められていてな……」
上条「え、そうなのか。キャーリサって今いくつだっけ」
キャーリサ「年は訊くな少年。どーしても知りたければググッたら出てくるし」
上条「そうか……俺はそういうレベルの人と話してるんだよな。
こたつで緑茶啜ってるから忘れてたぞ」
キャーリサ「それでだな、私はまだそーいうのはいいと言ったんだが、良い縁談があるから会ってみないかと勧められたんだ」
上条「ふーむ……王室だし色々あるよな。それで揉めて出て来たのか?」
キャーリサ「いや違う。その時、部屋のテレビで日本のアニメ『けいおんがく!』が丁度放送されていたの」
上条「あー、そういやインデックスの奴がそんなの見てたな……って、え?」
キャーリサ「最近王宮では空前の『けいおんがく!』ブームでな。
私達親娘と騎士団長(ナイトリーダー)の五人もバンド組もうという話になったところまではよかったんだ」
上条「あの……キャーリサさん?」
キャーリサ「そーしたら母上、何と言ったと思う? あろーことか、あずにゃんをやりたいとか言い出したの!
信じられるか!? あずにゃんはどう考えたって私だろー!?」
上条「おい、やっぱお前帰れよ」
キャーリサ「うるさい聞け」
上条「ひでぇ……」
キャーリサ「だから私は言ってやったの『母上はりっちゃんでもやっていればいーだろー!』ってな。
そしたら今度はヴィリアンが怒りだしたんだ。
この偉大な姉に向かって『りっちゃんを馬鹿にするのは許せません。戦争です。
母上にはせいぜいみおちゃんがお似合いです』とな」
上条「」
キャーリサ「だから私もまー……大人げなく言ってしまったんだ。
『よろしい。ならば戦争だ』とな。
姉上は生粋のむぎちゃん派だからむぎゅむぎゅ言ってるだけだったんだが、
さらにまずいことに、騎士団長はフルンティングを痛剣に改造する程の、私でも引くくらいのみお厨だったものだからもー大ゲンカだし。
結局、パートを決める前に音楽性の違いでバンドは解散。
私はそんな奴らに嫌気がさして出てきたというわけだ」
上条「キャーリサ……」
キャーリサ「同情してくれるの? やはりお前のところに来て正解だったし」
上条「お願いですから帰って下さい」 ドゲザッ!
キャーリサ「おお、これが噂に聴くジャパニーズドゲザか。
だが断るッ!」
上条「付き合ってられるか!」
キャーリサ「頼む。この通りだ!」 フンスッ
上条「胸を張るんじゃねぇ。せめて頭下げろよ」
キャーリサ「違うし。お前巨乳の年上が好きなんだろー? ほら、好きなだけ凝視していーぞ」
上条「相変わらず胸元が際どい……ゴクリ」
キャーリサ「よし、家賃は払ったの。じゃあ早速昼食にしよう」
上条「はっ! お、おい! 今の無し!」
キャーリサ「聞こえんな。おい従僕、今日の昼食は何だ?」
上条「家主であるはずの上条さんの地位の下がりっぷりが著しいのですが……」
キャーリサ「私の質問には速やかに応えよ」
上条「モヤシ炒め」
キャーリサ「誰がペットの餌と言ったの。食事だ」
上条「だからモヤシ炒めだっつってんだろうが! 上条さん家の冷蔵庫の中身なめてんじゃねぇぞ!」
キャーリサ「馬鹿な……確認させてもらうし」
ガチャッ
キャーリサ「……」
上条「……」
バタンッ
キャーリサ「うん……コホンッ、何と言うか、すまんかった」
上条「そういうことだ。うちに来たって良い事無いぞ。最近特にロクなもん無いから不憫に思った小萌先生達がインデックスにご飯食べさせてくれてんだ。
俺は悪いから遠慮してるけど……」
キャーリサ「よ、よし。私がここにいる間、食費は私が払ってやるの!
それが家賃だ! 好きな物を食べるといいし!」
上条「キャーリサ! いつまでもここにいてくれていいんだぜ!」 ガシッ
キャーリサ「ん……うん。その、急に手を握られると照れるな」
上条「あ、わ、悪い!」 バッ
キャーリサ「いや……で、では買い出しついでにどこかに連れて行ってくれ。
昼は外で済ませよー」
上条「お、おう。じゃあどっか行くか」
キャーリサ「楽しみだな。食事はお前がいつも食べているよーな店が良い」
上条「えー……いいのか?」
キャーリサ「構わんし、こんなことでも無い限り一生口に出来んだろうからな!」
上条「くっ! 悪気は無い……よな」
キャーリサ「よーし、行くぞ従僕! エスコートしろ!」
―――学園都市 牛丼屋
ザワザワザワ… ガヤガヤガヤ…
店員「お待たせしましたー!」
キャーリサ「おー! もー来たのか!? 早いな!?」
上条「早さがウリだからな。っつか、ほんとによかったのか、こんな店で」
キャーリサ「問題無いし。看板は我が国でも見た事があるが、入る機会が無くてな。
一度食べてみたかったの」
上条「そっか。ま、食ってくれ」
キャーリサ「いただくの。どれどれ……むぐむぐ……ふんふん……んー」
上条(牛丼食ってるだけなのに上品に見える……さすが王女様だ。
心なしか周りの視線が集中してるような……)
キャーリサ「美味い! 美味しいぞ上条当麻!」
上条「はは、そりゃ良かったな。味噌汁付だ、そっちはどうだ?」
キャーリサ「これは飲んだことがあるし。色が独特だが、嫌いじゃなかった。ズズッ……うん、いけるの」
上条(牛丼屋に連れてきてこれだけ喜んでくれるなんて……意外と庶民的なとこあるんだな。
まあ母親があんな感じだから分からなくては無いけど。楽しそうで何よりだ)
キャーリサ「おい上条」
上条「ん?」
キャーリサ「この赤いのは何なの?」
上条「あぁ、そりゃ紅ショウガだよ。ちょっと辛いけど、美味いぞ。無料だから食ってみろよ」
キャーリサ「ふむ。そーか、では……パクッ」
上条(そういやインデックスを初めて連れて来た時もこんな感じだったな)
キャーリサ「これもいーな。気に入ったぞ上条。どーした? 食が進んでいないみたいだし」
上条「あ? ああいや、そんなことないよ。はむっ」
キャーリサ「うん。男の子は良く食べないと駄目なの。強くなれんぞ」
上条「もぐもぐ……やっぱキャーリサは強い男が好きなのか?」
キャーリサ「ん? そーだな、別に強くないと駄目ということは無いが、騎士団長に代わって私を守れる程度には強く在って欲しいものだし。
じゃないと、そもそも王宮に連れ帰った時点で騎士団長本人に吹っ飛ばされる」
上条「まじですか。キャーリサと付き合う男は大変だな」
キャーリサ「そー……だな」
上条「ん? どうかしたか?」
キャーリサ「いや、私は男と付き合ったことなど無いから、よく分からないの」
上条「へー、まあ王女様だもんな」
キャーリサ「間もなく三十路にさしかかろーという女が、未だに男を知らんというのもどーなんだと思うし」
上条「別にいいんじゃないか? キャーリサ美人なんだし、結婚相手にだって困らないだろ?」
キャーリサ「そーいう問題ではないの。私とて、ヴィリアンのように恋に恋い焦がれる乙女な時分もあったんだし」
上条「ぷっ、キャーリサがか? ははは、想像出来ないな」
キャーリサ「むー、腹の立つ男だ。まーでもその通りなの。私も今やそー言ったものは諦めている」
上条「へ? 何で?」
キャーリサ「機会が無いというのが一番の理由だな。こー見えて、結構ワイルドな男が好みなんだ」
上条「どう見てもそうとしか考えられんが」
キャーリサ「しかしだな、やはり私が出会う相手と言えば比較的家柄も良く、気品漂う男ばかりなのだし。お前と違って」
上条「耳が痛いから余計なことは言わないで下さいませんかねぇ……」
キャーリサ「まー騎士派の中にはそーで無いものもいるが、基本的には同じよーなものだ。
あの騎士団長の下にいれば猿でも立派な紳士になる」
上条「嫌なのか?」
キャーリサ「嫌という訳ではないの。好みで無いというだけの話だし、いざ結婚と言うことになればそーいった相手の方が何かと都合も良い。
ただな……」
上条「ただ?」
キャーリサ「私はもっと屈強な! 血みどろになっても戦い続けるアクション映画のよーな男がいいの!」
上条「分かるような分からんような……」
キャーリサ「ま、とにかく一度人並に恋人の真似事をしてみたいというところだし」
上条「ふぅん……」
キャーリサ「……」 ジー
上条「……?」
キャーリサ「……」 ジー
上条「あ、あの……」
キャーリサ「……」 ジー
上条「何だよ!」
キャーリサ「良いこと思いついたし。お前、しばらく私の恋人になれ」
上条「はい?」
キャーリサ「そーだそーだ。こんなところにおあつらえ向きの奴がいるじゃないか
まー本当はウィリアム=オルウェルあたりが私的にドストライクなんだが、
アレに手を出すとヴィリアンが本気で殺しにかかってきそーだしな。
お前で我慢しておいてやるし」
上条「おい、色々と発言内容省みてみろよ。おかしいだろ。人に物言う態度じゃねぇぞ」
キャーリサ「ぶっちゃけた話、お前私の事結構好きだろ?」
上条「こんなに上から来る女の人は上条さんでも初めてですのことよ」
キャーリサ「癒し系の年上管理人系美人が好みだって聞いたぞ」
上条「そもそもキャーリサは癒し系じゃねぇだろ」
キャーリサ「そんなことは無い。癒してやるぞ」
上条「どうやってだよ……癒しのオーラが欠片も出てないんだが」
キャーリサ「体を使う。まーフリではさすがにそんなことは出来んがな。私の貞操は国家に身を捧ぐ覚悟が出来たならくれてやる」
上条「上条さん好みのお姉さんはそんなこと言いません!」
キャーリサ「ふーむ、違うのか。青少年はとりあえず胸さえあればいーんじゃないのか?」
上条「ひどい偏見だ! 家事も出来る女の人がいいです」
キャーリサ「家事など使用人に任せておけばいーし」
上条「ほらもう! 全然駄目じゃねぇか!」
キャーリサ「ごちゃごちゃうるさいし! ちょっとした遊びだし遊び。
せっかく身内の目も無い異国で羽を伸ばせるんだ、付き合え!」
上条「上条さんの身内はいっぱいいるんですけど!?」
キャーリサ「自慢していーぞ」
上条「いや結構です……」
キャーリサ「なんだ、お前彼女でもいるの?」
上条「いやいないけど……」
キャーリサ「じゃーいーじゃないか。それとも……こんなオバさんは嫌なの?」 ウルッ
上条「うっ……」
上条(キャーリサって確かに結構年上だけど……綺麗だし胸も大きいし、外人だからスタイルも抜群なんだよな……。
お姫様って割には話し方もフランクで明るくて話しやすいし……。
うーん……フリじゃなかったとしても、全然悪く無いような……)
キャーリサ「胸ばかり見ているなお前は。私の目を見ろ」
上条「み、見てませんのことよ!」
キャーリサ「まー構わん。見せてやってるんだ、ありがたく見ておけ。
それより食べ終わったぞ、どこか行こう。デートってやつだな」
上条「あ、ああ、そうだな……」
―――学園都市 公園
スタスタスタ…
上条(うう……まさか腕を組まれて歩くハメになるとは……胸が……胸が……。
しかもすっげー良い匂いがします……やばいです上条さん)
キャーリサ「ふーむ、いいなこーいうの。さっきすれ違ったカップルを真似てみたんだが、どーだ?」
上条「いやその……ありがとうございます!」
キャーリサ「何の礼だ? あ、おい上じょ……当麻。少し喉が渇いたの。自動販売機があるから飲み物を買ってくれないか?」
上条「自分で買えよ」
キャーリサ「日本円は持っていない。さっきの店もカードで支払った」
上条「マジですか。仕方ないな……」
??「っ!! あ、あんたっ!!」
上条「? おう、御坂か。白井も」
御坂「な、ななな、なんつー状態で歩いてんのよ!」
白井「あらあらまあまあ。昼間っからお熱いですこと」
上条「は? ああ……こいつ言っても離さないんだよ」
キャーリサ「私はお前の指図など受けないし。やりたいようにやるの」
御坂「言っても離さない……ですって……」
上条「って訳だ、ん? どうした?」
御坂「ま……まさか彼女ってんじゃないでしょうね……」
上条「ああ、今はそうだ」
キャーリサ「うむ、恋人だし!」 ガシッ ムニュッ!
上条「うっ……」
白井「お姉様、残念でしたわねー。さ、こんな類人猿など放っておいて、黒子が癒して差し上げますの。
……あら、そう言えばあの女性どこかで……」
御坂「っざけんじゃないわよぉぉおっ!!」 ビリビリッ!
白井「はぁうっ!」 バシッバタンッ
御坂「い、いつから付き合ってんの!?」
上条「ん? 今日からだぞ」
御坂「今日!?」
上条「ああ、ほんとに今さっきだ」
御坂「さっき……!?」 ビクッ
上条「ああ、うちにしばらく居候することになってさ」
御坂「い、居候……」 プルプルプル
上条「そのついでに恋人になってんだよ」
御坂「つ……ついでで恋人……」 カタカタカタ
キャーリサ「おい当麻、この娘は誰だ?」
上条「ああ、御坂美琴っていうんだけど、学園都市第三位の超能力者のすごい中学生だ」
キャーリサ「ほーう、それは大したものだな」
御坂「よ、余裕の態度ってわけね……!」
キャーリサ「? おい、何か様子が変だし」
上条「いつもこんな感じだけど。お、おいビリビリ! 電撃は駄目だぞ電撃は!
キャーリサは一般人だ!」
キャーリサ「一般人ではないがな」
御坂「安心しなさい……あんたが守れば済む話でしょうがぁぁああ!!!!!!!」 バリバリバリッ!
キャーリサ「ふんっ!」 シュパッ! ゴォォォオンッ!
御坂「なっ! 電撃を……! っていうか空が割れた!?」
上条「そ、それってもしかして……」
キャーリサ「うん。カーテナの破片だし。護身用に持ってきた」
上条「学園都市吹っ飛ばす気かよ!」
キャーリサ「この破片にはそこまでの力は無い。せいぜい周囲の次元を切断できるくらいだ」
上条「十分過ぎるだろ」
御坂「な、なんなのよその女……!」
キャーリサ「王女だが?」
御坂「ふ、ふざけんじゃないわよ! 何よ……それってつまり、そこの男が王子様て訳!?
年がいもなくメルヘンチックなこというじゃない……私への当てつけ!?」
キャーリサ「? まあ、そういうことになるか今は。別に当てつけではないが」
御坂「う……うう……こんな痛い女に……」
キャーリサ「おいどーした。顔色悪いぞ」
上条「大丈夫か? 白井も倒れたまんまだし、病院連れていってやろうか?」
キャーリサ「そーしろ。何かあっては困るし」
御坂「う、うるさいほっといて……! うわぁぁああああああああんっっ!!」 ダー!
上条「おい御坂!」
白井「はっ! お姉様の悲鳴! お待ちになってぇっ!!」 シュンッ!
キャーリサ「全く、こんな往来で騒がしいことだな」
上条「あんなんでも超お嬢様学校通ってるみたいだぞ」
キャーリサ「子供ならあんなものか。何をはしゃいでいたのかはよく分からんが、元気そーだし大丈夫だろ」
上条「そだな。白井に任せよう」
キャーリサ「それより喉が渇いたの」
上条「あー、そうだったそうだった。んじゃ1000円札投入……頼むぞー……」
キャーリサ「?」
ウィーン…
上条「……」
キャーリサ「……」
上条「……」
キャーリサ「反応が無いし。壊れてるの?」
上条「だぁぁあー!! ですよねー! そうですよね!? 絶対そうなると思ったよチクショー!」
キャーリサ「返却レバーを回せばいーではないの」 ガシャコンッ
シーン…
キャーリサ「……」
上条「……」
キャーリサ「ほう……私の命令に従えないのか」
上条「いや、こいつそういうのなんだよ。あーもう最悪だ……」
キャーリサ「何か解決法は?」
上条「ん? あー……さっきのビリビリとかは自販機蹴ったりもしてたけど……」
キャーリサ「攻撃すればいーのだな……」
上条「え……おいちょっとキャーリサさん?」
キャーリサ「ふんっ!」
ズパァッ! ボゴォォオオオッ!
上条「自販機真っ二つぅぅううう!!!!??」
キャーリサ「私の命に背くからだし。料金は入れたぞ、窃盗ではないの。
ふーむ……このヤシの実サイダーにする。ほら、お前も選ぶといーの。
千円分だし」
上条「ふ……不幸だぁあああああ!!!!!!」 ダー
キャーリサ「あ、おいどこへ行くの!?」
お約束は一通りこなしたので、とりあえずこんなもんで。
最後の結末しか決めてないですwwwサーセンww
キャーリサたんとどこ行きたいとかあれば是非ネタを下さい。
誰と会ってしまうとかもあれば下さいお願いします。
キャーリサとの仲を深めてあげて
書けそうなやつ書く
,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
(.___,,,... -ァァフ| あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
|i i| }! }} //|
|l、{ j} /,,ィ//| 『おれが「ふと思いついた小ネタを書き込むスレ」で上条×キャーリサを
i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ 書い後他のやつが実現していた』
|リ u' } ,ノ _,!V,ハ |
/´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人 な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
/' ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ おれも何をされたのかわからなかった…
,゙ / )ヽ iLレ u' | | ヾlトハ〉
|/_/ ハ !ニ⊇ '/:} V:::::ヽ 頭がどうにかなりそうだった…
// 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
/'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐ \ スティルが大活躍だとかインデックスがヒロインしているだとか
/ // 广¨´ /' /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
ノ ' / ノ:::::`ー-、___/:::::// ヽ }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::... イ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
なん・・・だと・・・寮監とタメだと・・・・俺のイメージじゃ高くても20代前半だと思っていたのに・・・・・
あとキャーリサの姿を知らなかったら「DS版ドラクエ5のデボラ」をイメージしろ
遅くなって申し訳ない。
とある高校と耳かきはいけそうです、ありがとう。
傾国はイマイチキャラが掴みきれないので無理かも、サーセンwww
というわけで投下します
―――学園都市 大通り
キャーリサ「ひどいじゃないか当麻。私を異国の地で一人置き去りにするなんて。
お前が私の護衛だったら免職ものだぞ」
上条「すみませんでした」
キャーリサ「おまけに変な機械に追いかけられるし、スクラップにしてやったがな」
上条「壊すなよ……バレたら捕まるぞ」
キャーリサ「まったく、お前は女の扱いというものがまるで分かっていないよーだし」
上条「お前だって男と付き合ったことないくせに!」
キャーリサ「むっ、そ、それはそーだけど……今付き合ってる」
上条「フリだろ」
キャーリサ「別にいーじゃないか。私は結構楽しんでるし」
上条「え、そうなの?」
キャーリサ「こんな経験なかなか出来ることじゃないし。
さあ、当麻。もっと恋人らしいことをしよーじゃないか」
上条「恋人らしいことって何だよ?」
キャーリサ「知らん」
上条「駄目じゃねぇか……」
キャーリサ「お前くらいの年だと、映画とかじゃないの?」
上条「あとはカラオケ、ボーリングあたりかな」
キャーリサ「む、それは知らんな。行ってみたいし」
上条「今日は駄目だ」
キャーリサ「何でだ。金なら私が出してやるぞ、元々私の言い出したことだし」
上条「恋人ならなおさら全部女の人に出させるわけにはいかねぇだろ。
最低割り勘だ」
キャーリサ「経済力に差があるのだから問題ないと思うがな」
上条「上条さんのプライドの問題です」
キャーリサ「……そーか。ではお前に従うし。
ふふっ、なかなか分かってきたじゃないか」
上条「何が?」
キャーリサ「後は『女の子』と言えたら、少しはお前にときめいたかもしれないな」
上条「っ……!」
キャーリサ「顔が赤いぞ、小僧。年上をエスコートするのは大変か?」
上条「そ、そんなことないけど。……んじゃセブンスミストでも行くか?」
キャーリサ「何だそれは?」
上条「女子学生向けのショッピングセンターだよ。キャーリサにゃちょっと子供っぽ過ぎるかもしれないけど」
キャーリサ「いや、構わん行こう。何だったら制服も来てやるぞ」
上条「それはきついんじゃないかと……」
キャーリサ「私は老けて見えるか……?」 シュン…
上条「うっ! い、いやそんなことはないですよー。キャーリサなら何でも似合う!」
キャーリサ「そんなに褒めるな。下心でもあるのか?」
上条「こ……いつ……」 ピキピキッ
上条(我慢我慢……。下手に機嫌を損ねられたら上条さん国際指名手配でもされかねん。
機嫌よく帰ってもらうことを考えないとな)
キャーリサ「じゃーそこ連れてってくれ」
上条「ん、こっちだ」
キャーリサ「おい、手」
上条「え?」
キャーリサ「手が留守だ。ほら……」
上条「あ、ああ……」 ギュッ
キャーリサ「ん…………」 ギュッ
上条「!」
上条(……結構手小さいんだな……って何考えてんだ俺は。
オリアナとか神裂より全然年上だぞ……平常心平常心)
キャーリサ「黙るな……愉快な話でもして私を楽しませろ」
上条「無茶言うなよ……」
キャーリサ「お前、今何様だとか思っただろー?」
上条「思ってないですよ」
キャーリサ「答えてやろう。王女様だ」
上条「ぷはっ、言うと思ったよ」
キャーリサ「ふふっ、そーか。お前は女と遊びに行く時はどこに行くの?」
上条「いやー、上条さん彼女いない歴=年齢なもんで」
キャーリサ「それはかわいそうなことを聞いたし。ではもしやこれが初デートなの?」
上条「だからフリだろ?」
キャーリサ「興が殺がれるよーなこと言うな。こーいうのは楽しんだもの勝ちだし」
上条「分かったよ。ああ、初デートだ」
キャーリサ「そーか……そーか!」
上条「……!」
上条(何で嬉しそうなんですかねぇ……ドキッとしちゃうだろ。
上条さんは純情なんですよー)
キャーリサ「いや何、お前のよーな若い奴の初めてを奪ってやるのは、申し訳ないと思いつつも少々嬉しいものだし。
例えるなら、敵の領地を占領したよーな感覚だな」
上条「したことあんのか?」
キャーリサ「無いが。いちいち細かいことに突っ込むな。モテんぞ」
上条「どうせモテませんのことよ」
キャーリサ「そーでも無いんじゃないのか?」
上条「何で?」
キャーリサ「清教派の連中からお前の名はよく聞くの」
上条「それはたぶんそんなんじゃねぇって」
キャーリサ「ふーむ……そーなのか」
上条「そうだよ。あ、着いたぞここだ」
ワイワイワイ… ガヤガヤガヤ… イラッシャイマセー
キャーリサ「おー、何だか楽しそーな店構えだし」
上条「キャーリサもこういうの興味あんのか?」
キャーリサ「おい、私も女だぞ。ショッピングは好きだ。どこへ行くにも護衛はいたがな」
上条「窮屈か?」
キャーリサ「そういう時もある。たまにはこーして、自由に行先を決めて当ても無く遊びに出かけたいものだし」
上条「大変なんだな」
キャーリサ「ふふ、簡単に言ってくれるの。さすがにこの年になると気にならんくはなったが、
お前くらいの時はとにかく自分の立場が嫌でたまらなかったな」
上条「あ、やっぱそういうもんなのか?」
キャーリサ「もちろん学校には通っていたが、友人ともロクに遊びに行けなかったの。
私達姉妹は割と母上が放任だったからまだマシな方だったらしいがな」
上条「俺には想像もつかねぇよ」
キャーリサ「子供の考えだ。私は英国王女としての身分の価値など何も分かってはいなかった。
よく王宮を抜け出して友人の家に泊めてもらったものだし」
上条「そりゃ大騒ぎだろ」
キャーリサ「うむ。母上にぶん殴られたし。理由は諸々あるが、私を守ることを仕事としている者達を無為に困らせたことを叱られた。当然だな」
上条「他の姉妹もそうなのか?」
キャーリサ「姉上は引きこもっているか放浪しているかどちらかだ。
私は騎士派の連中が殺気立って街を探し出すからなかなか外には出られないの。
ヴィリアンは基本的に城内でふわふわしている」
上条「そっか……」
キャーリサ「つまらん話をしたの」
上条「いやそんなことねぇよ。俺には縁の無い世界の話だから、もっと聞きたいくらいだ」
キャーリサ「まーおいおいな。あ、あの店を見てもいーか?」
上条「おう、行こうぜ」
キャーリサ「ふーん、日本では今こーいうのが流行ってるのか?
スカート短く無いか?」
上条「上条さんに流行のことを訊かれても応えられませんよ」
キャーリサ「それもそーだ。お前どー見てもあか抜けてないし」
上条「事実だとしてもちょっとは気ぃ使えよ!」
キャーリサ「悪かったの。あ、こんなの似合うか?」
上条「王女様のする格好じゃないことは確かだ」
キャーリサ「そう? ハードなパンクファッションも嫌いじゃないし」
上条「ドレスがアレだもんな、そりゃイメージにピッタリだ」
キャーリサ「かっこいーだろあのドレス。『軍事』のキャーリサと呼ばれて久しいからな、
強そうな衣装を選んでるんだ」
上条「む、胸がすごかったです……」
キャーリサ「もっと見たいか? ほれほれ」 ムギュッ
上条「や、やめれー! 今日からしばらく一緒に過ごすんだぞ!」
キャーリサ「あ……そ、そーだな……挑発するのはやめておくの」
上条「ん? なんだよ急に大人しくなって」
キャーリサ「襲われてはかなわないの……」
上条「カーテナ持ってる奴の台詞じゃねぇぞ……」
キャーリサ「そーいう問題ではない! 女としての……まーいい、お前はそんなことしない」
上条「え……」
上条(信用されてるのか……? こりゃマジで下手なことできないな。
いや、するつもりなんて無いですよ?)
キャーリサ「何故そこで沈黙する。あやしーし」
上条「ち、違う! そんなんじゃねぇよ!」
キャーリサ「ふん、まーいい。よし、次は上の階に行こう! 寝間着が必要なの」
上条「持ってきてないのか?」
キャーリサ「あるにはあるが……私のシースルーのネグリジェ姿が見たいの?」
上条「い、いや……」
上条(正直ちょっと見たい)
キャーリサ「お前が良い子にしてたら見せてやるぞ」
上条「なんですと!?」
キャーリサ「ふふっ、冗談だ。行くぞ、着いてこい」
上条「ですよねー」
上条(けどキャーリサの奴楽しそうだな。
普段なかなか王宮から出られない奴にとっちゃ、こういうのはやっぱ新鮮なんだろうな)
上条(短い間だろうけど、いろんなとこ連れてってやるか)
―――学園都市 セブンスミスト前
キャーリサ「いやーふふふふ、買った買った。久しぶりに衝動買いをしてしまったぞ当麻」
上条「はは、凄まじい買い物っぷりだったな……」
キャーリサ「買い物などなかなか出来んからな。たまの浪費くらい見逃せ」
上条「文句はねぇよ。お前が自分で稼いだ金だろ」
キャーリサ「そーは言うが、一応国民の血税から出ているわけだからな、気は引ける」
上条「キャーリサって意外と真面目だよな。
いや、意外でもないか。真面目じゃなきゃあんなクーデターなんか起こさないわけだし」
キャーリサ「その話はよせ。結果的には失敗に終わったことだし」
上条「成功してたらこんなとこにゃいねえし、こうやって二人で遊ぶことも無かったんだ。
俺にとってはよかったよ」
キャーリサ「私はその結論をまだ出すわけにはいかないの。
私の行動が正しかったか否かは歴史が証明することだし」
上条「スケールがでかすぎますよ……」
キャーリサ「しかし……お前とこーして顔を突き合わせるのは、あの出来事がなければありえんことだ。
今はそれで好しとするの」
上条「キャーリサ……」
キャーリサ「ん……下らんことを言ったし。さ、さあ! 次だ! 次はどこへ連れていってくれるの?」
上条「そうだなー、でも時間も時間だから今日は帰らないか? 晩御飯の買い物もしなくちゃいけないし」
キャーリサ「禁書目録が帰ってくるんだったな」
上条「ああ。あ、それじゃ今日の夕食はすき焼きにしようか。
久しぶりだからインデックスのやつも喜ぶし」
キャーリサ「すき焼き? 名前は聴いたことあるが、どんなものかは知らないし」
上条「地方によって色々作り方が変わってくるみたいだけど、基本は割下っていう甘辛い出汁で肉を煮込む関東風と、
砂糖と醤油で肉を焼く関西風に別れるんだ。
ちなみ上条さんとこは関西風だ。砂糖と醤油で出来るから簡単だ」
キャーリサ「全く分からん」
上条「一蹴ですか……まあ関東とか関西なんて言われてもわかんねぇよな」
キャーリサ「食べてみれば分かるの。それにしよう」
上条「はいよ。んじゃスーパーはこっちだ」
―――学園都市 スーパー
ワイワイワイ! ザワザワザワ!
キャーリサ「おー、やけに賑わっているな。見たところ学生服の奴が多いよーだが」
上条「キャーリサさん、ここは学園都市ですよ。多いも何も、ほとんど学生だよ」
キャーリサ「そーかそーか、そーだった。
で、奴らは何をあんなに騒いでいるの? 目が血走ってるし」
上条「もうすぐ特売の時間なんだよ。俺も始まったらあの中突っ込むから、キャーリサはこの辺にいてくれ」
キャーリサ「私も行ってみたい」
上条「おいおい、危ないぞ。学生にとっちゃ生きるか死ぬかの特売戦争なんだ。
キャーリサの顔に傷でもついたらどうするんだよ。大変なことになるぞ」
上条(主に上条さんが)
キャーリサ「心配してくれるの?」
上条「そりゃそうだ。大切なお姫様だからな」
上条(上条さんの余命的な意味で)
キャーリサ「むっ……そーいうのは、何かかゆいし……」
上条「あん?」
キャーリサ「何でもない。とにかく私も征く!
戦争と聞いて、この『軍事』のキャーリサがイモを引くわけにはいかんな」
上条「そうかよ。怪我しないようにな」
キャーリサ「うむ。制圧してやる」
ザワザワザワ…ピタッ
キャーリサ「な、何だこの緊張感は……あの店員がどーかしたの?
皆奴を見ているし」
上条「あの人があそこの脚立に登ったら開戦だ」
スタスタ… ギシッ
キャーリサ「……ゴクリ」
ギシッ…
上条「い、行くぞ……!」
店員「ただ今より、卵お一人様一パック50円になります! 押さなわー!」
ウォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
キャーリサ「!!」
上条「うぉぉぉおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
キャーリサ「なっ! この私が気圧されるとは……学生と言えどあなどれないし。
お、おー!」
―――
キャーリサ「はぁ……はぁ……」
上条「大丈夫か?」
キャーリサ「駄目だ、まさか一つも確保出来んとは……ふがいない」
上条「最初はそんなもんだって。まともに押し合っても目的の商品にはたどり着けないんだ。
上手く回りこんだり、体を入れないとな」
キャーリサ「しかもどさくさに紛れて誰かに胸を揉まれたし……犯人の手首をもう少しで切り落とせたんだが、逃がしたよーだ」
上条「上条さんの知らないところで殺傷沙汰が……」
キャーリサ「ん? お前、どーして二パックも持っている? お一人様一パックだろ?」
上条「あ、いや、キャーリサにもレジに並んでもらおうかと……駄目?」
キャーリサ「わ、私のために戦利品まで獲得してきたというの?」
上条「んな大げさな……」
キャーリサ「よし! これを持ってレジに並べばいーんだな! 任せておくといいし!
並ぶくらいは私にも出来るぞ!」
上条「てっきり怒られるかと思ったよ」
キャーリサ「まさか! 武功を立てたお前を咎めなどしないの。
これもルールの範疇だろー? さあ貸せ、レジへ並ぶぞ」
上条「いやいやまだ卵しか持ってないぞ」
キャーリサ「そーだったの。つい楽しくてな、いかんいかん」
上条「はは……スーパーでそんなに楽しめる奴なかなかいないぞ」
キャーリサ「笑うな、初めてなんだからいーだろ。で、後は何を買うんだ?」
上条「悪い悪い。そうだなぁ。白菜、ネギ、豆腐、麩、うどん。それから……」 チラッ
キャーリサ「ん?」
上条「お肉を買ってもよろしいでしょうかお姫様」
キャーリサ「うむ、苦しゅーない」
上条「うぉお!! この恩は一生忘れないからな!!」
キャーリサ「下らんことをさせるな。見たところこのスーパーの商品は異様に安いの。
好きなだけ買え。何だ? 店ごと買ってやろーか?」
上条「でかい……何てでかいお人なんだ……上条さんまぶしくて目が開けられないですよ」
キャーリサ「ふふっ、崇めろ、奉れ。私の従僕であったことを誇るがいーの」
上条「おう、今真剣にキャーリサの下僕になってもいいと思っちゃいましたよ」
キャーリサ「ふふーん、ほめ過ぎだぞ従僕。ところで、うどんとは何なの?」
上条「あ、これだよ」
キャーリサ「おー、これは食べたことあるぞ。そーいえばそんな名前だったな」
上条「日本食食べたりもするのか?」
キャーリサ「清教派の最大主教がバカっぽい日本語を使うおかしな奴だし、
その影響でたまに食べたりもする」
上条「どんな生活してんのか想像つかねぇな」
キャーリサ「遊びに来るか?」
上条「いや結構です」
キャーリサ「つれないこと言うな。前回のよーに妙なことに巻き込むことはしないし」
上条「滞在費は国民の血税だから、金払うか働けってお前の母ちゃんに言われたぞ」
キャーリサ「私の部屋なら問題ないの」
上条「ぶっ! な、だ、駄目に決まってんだろそんなの!?」
キャーリサ「私は気にせんぞ?」
上条「上条さん騎士団長に真っ二つにされちゃいます。上/条みたいな感じで」
キャーリサ「それは否定できんな」
上条「否定しろよ……」
キャーリサ「あれは変なところで融通の利かん男だからな。
有能ではあるんだが、ああ見えて暑苦しいところもあるし」
上条「アックアの友達だしな……。なんつーか、気苦労が多そうだな」
キャーリサ「うん。何せ口うるさい男だし」
上条「いや向こうが」
キャーリサ「おい! どーいう意味だ!」
上条「な、何でも無いです。よ、よし買い物終わり! 帰るぞ!」
キャーリサ「お前私をちょっと馬鹿にしてるだろー」
上条「してませんしてません。あー、久しぶりの肉が楽しみだ!!」
キャーリサ「むー、いつか覚えていろ」
―――学園都市 上条の部屋
上条「お、もうこんな時間か。そろそろ晩飯の支度するか」
キャーリサ「気張れよ従僕」
上条「手伝えよ。と言いたいところだけど、食費全部出してもらったのでゆっくりしといてください」
キャーリサ「分かったの。テレビでも見てるし」
上条「おう。さーてと……」
トントントンッ ザクザクザクッ
『こんばんは、夕方のニュースです。本日第二学区では……』
キャーリサ「……」
キャーリサ「……」
キャーリサ「……」
キャーリサ「……」 キョロキョロ
キャーリサ「おい」
上条「んー?」
キャーリサ「暇だ」
上条「テレビ見てるだろ」
キャーリサ「大したニュースがやってないし」
上条「学園都市は今日も平和でいいことじゃないか」
キャーリサ「そーだが……ん?」
上条「どした? またいらんことすんなよ」
キャーリサ「いらんこととは何だ! 上じょ……当麻、これは何なの?」
上条「あー? ああ、それ耳かきだけど、イギリスには無いのか?」
キャーリサ「初めて見るの。どー使うんだ」
上条「どうって……ちょっと貸してみろ。こうやって耳の中に……」
キャーリサ「ひっ!」
上条「ん?」
キャーリサ「お、お前なかなか度胸があるんだな……そんなものを耳の中に突っ込むなんて……」
上条「大丈夫だよ。って言うか、耳垢溜まったらどうしてんの? まさか子供の頃からずっと放置か!?」
キャーリサ「馬鹿者。この清流の如く透明感ある清潔な私がそんな真似するか。
定期的に耳鼻科へ行くだけだ」
上条「そうなんだ。あ、恋人で思い出したんだけど、女の子が膝枕で男の耳掃除をするってのは日本の恋愛ドラマとか漫画じゃベタだぞ。
ベタ過ぎて最近見ないくらいだ」
キャーリサ「お、いーなそれ。やろーやろー。おい、そこに寝ろ」
上条「いや今料理の途中……」
キャーリサ「そんなもん後でいーし。禁書目録が帰ってくるまででいーから」
上条「ったく……仕方ねぇな……」 ヨイショ
上条(と言いつつキャーリサの太腿にドキドキする上条さんです)
キャーリサ「ん……結構近いな……」
上条「何が?」
キャーリサ「……お前の顔だし」
上条「あ、ああ……」
キャーリサ「よし行くぞ。えいっ」 グサッ
上条「っ……いっ! てぇぇぇえええええ!!!!!!!!」 ジタバタ
キャーリサ「え? あ、あれ? おい、どーしたの?」
上条「突っ込み過ぎだバカ! 鼓膜ブチ抜く気かよ!!」
キャーリサ「うっ……わ、悪かったの。痛かったか……?」
上条「滅茶苦茶痛かったですっ!」
キャーリサ「すまんかった……」 シュン…
上条「……」
キャーリサ「……」
上条(き、気まずい……初めてだもんな、ちょっと言い過ぎた)
上条「ま、まあ誰でも最初は失敗するって。気にすんなよ」
キャーリサ「それもそーだな。最初に説明しなかったお前の責任だし」 ケロリ
上条「くっ……立ち直りの早いお姫様だ……!」
キャーリサ「んー、でも難しいみたいだな。怪我をさせるわけにもいかんし、やめておくの」
上条「あ、じゃあ俺がやってやろうか?」
キャーリサ「本当か? じゃあ頼む。言っておくが、痛くしたら極刑に処するし」
上条「たかが耳かきに命がけかよ……」
キャーリサ「さー、優しくしてくれ……」
上条「う……」
上条(む、無防備なキャーリサがこんなに近くに……駄目だ駄目だ。変なことを考えるなよ……。騎士団長騎士団長。
上条さんの決定は国の決定だと思うんだ。イギリスと学園都市に戦争させるわけにはいかねえ……)
上条「い、いくぞ……」 スッ
キャーリサ「ん……」 ピクッ!
上条「動くな、危ないぞ」
キャーリサ「で、でもくすぐったいし……ぁっ……んっ!」
上条「変な声出すなよ……」
上条(上条さんには刺激が強すぎます……)
キャーリサ「ふぅ……ぁ……んっ!」
上条「……」
上条(キャーリサがこんな可愛い声を出すとは……いかん、いかんですよ。
相手は一回りも年上のお姉さんだ……無心だ、素数を数えろ……おちけつ上条さん)
キャーリサ「ぁ……いーな……悪く無いの……そこだ……」
上条「……」 ムラッ
キャーリサ「……当麻、上手いなぁ……蕩けそうだし……」
上条「……フゥッ!」
キャーリサ「ひゃんっ!!!」
上条「あっ、やべっ」
キャーリサ「な、何をするの無礼者! わ、私の耳に吐息を……お、お前、死にたいの!?」
上条「ご、ごめん! ついムラッときて!」
キャーリサ「くっ!」
上条「ち、違う誤解だ! ここまで含めて恋人はみんなするんだよ! だからカーテナの破片をしまえ!」
キャーリサ「むー……」
上条(あー! 上条さんのバカ! よりにもよってキャーリサにあんなことしちまうなんてっ!
死んだ! はい死にましたよー! みんなさよならっ!)
キャーリサ「まーいい……私もお前に痛い思いをさせてしまったし、これであいこだし」
上条「え……」
キャーリサ「次こんな真似をしたら……」
上条「しません! もう絶対しません!!」
キャーリサ「……ならいいの」
上条「ふぅ……」
キャーリサ「……ふふっ」
上条「あん?」
キャーリサ「いや、気持ちよかったぞ、当麻」
上条「うっ……」
キャーリサ「ほー、照れてるのか? お前にも可愛いとこあるの」
上条「う、うるせぇよ!」
キャーリサ「まーでも、私の耳は綺麗なもんだったろ?」
上条「まぁな。……あ、そういやこんな話聞いたことあるな」
キャーリサ「ん?」
上条「耳垢が湿ってる人はわきがだって研究結果があるらしい」
キャーリサ「……」
上条「……え?」
キャーリサ「おい、私がそーだと言いたいの?」
上条「へ? ち、違います! たまたまそういう話を思い出しただけで!!」
キャーリサ「ほほー……何だか腹の立つ意見だし。お前あれか?
外人は皆体臭がきついとか思ってるクチか? 許せないの」
上条「だから違うっつの!」
キャーリサ「女に対してそんなデリカシーの無い発言をするとは最低だし。
おい、嗅げ。私の春風のように爽やかな香りを堪能するがいーの!」 ガバッ!
上条「きゃぁぁああ! 誰か助けてー!」
キャーリサ「ふふ、良いではないか良いではないか」
上条「うぷっ! む、胸が! 挟ま……むむー! もがもが」
キャーリサ「ふふーん、どーだ? いー匂いがするか? 思わず理性でも飛んでしまうのではないの?
だがこらえろ従僕。しびれを切らせばお前は二度と子作りに励めない体になるし」
上条(うぉおお……う、嬉しいような苦しいような……何と言う絶妙なボリューム感!
そしてめちゃくちゃ良い匂いだ……!)
バタンッ!
禁書「とーまー! ただいまー! あのねあのね、あいさがお土産にお米をくれたん」
上条「あ」
キャーリサ「ん?」
禁書「……だよ……?」
キャーリサ「おー、禁書目録か! 久しぶりだし。この前は世話になったの」
禁書「とうまがキャーリサと……な、何してるのかな……?」
上条「ち、違っ! これには深くて浅い事情がっ!!」
キャーリサ「うむ、しばらくここで居候させてもらうことになってな。ついでに今は恋人ということになっているの。
そんなわけだからよろしく頼むし」
禁書「う……」 ジワッ
上条「おっおいインデックス! 違うぞ! それは合ってるっちゃ合ってるけど間違ってるっちゃ間違ってるんだ!」
禁書「うわぁああん!! とうまのバカぁぁぁぁあああああああっ!!」 ダッ!
上条「インデックスぅぅううううううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!」
キャーリサ「? どーしたんだ?」
上条「はぁ……」
キャーリサ「何を怒っていたの?」
上条「この体勢考えりゃ分かるだろ」
キャーリサ「? ……っ! あ、ああ……なるほどそーだな。忘れていたし」
上条「どうすっかなー……」
キャーリサ「追いかけろ、外は暗いから娘一人では危険だし」
上条「だよな。ちょっと行ってくるわ」
キャーリサ「うむ」
上条「多分小萌先生んとこだろ……一応お詫びにすき焼きの材料半分持ってくか」
キャーリサ「おい」
上条「ん?」
キャーリサ「禁書目録は……私達を……恋人だと思ったの?」
上条「たぶんな。っていうか、とんでもないことの真っ最中だと思ったんじゃねぇか?」
キャーリサ「なっ……ふむ。……そーか、それはいかんな」
上条「じゃ、行ってくる」
キャーリサ「気を付けてな」
上条「おう」
バタンッ
キャーリサ「……」
キャーリサ「外から見ても、そう見えるのか……ふーむ」
キャーリサ「……意外と悪く無いかもな」
今日はこんなもんで。
キャーリサは28か29歳くらいじゃないかな? ギリギリ二十代後半らしいから。
とりあえず今日の誰得スレは以上です。
また何かネタあったらお願いしますwww
書けそうなら書きたいです
カーテナが何故学園都市の中でも使用できるか。
キャーリサ=王族≒英国そのもの≒英国領土という屁理屈。
屁理屈なので本来の力は全く出せない。故に「この破片にそこまでの力はない」という台詞が出てくる。
あくまで護身用以上の意味は無くて、なんとなく次元を切断したりうっかり空を割るくらいしかできないんだ。
でも上条さんを 上/条/さ/ん にするには十分だよ。
くらいに思ってもらえればいいです。ぶっちゃけただのお遊びアイテムなので。
というわけで今日も投下させて下さい。
―――学園都市 小萌の家
上条「っていう訳なんです……ごめんなさい」
小萌「全くもうっ! 上条ちゃんはもう少し女の子の気持ちを考えた方がいいのです!」
上条「面目ない……」
小萌「ほらシスターちゃん。上条ちゃんが迎えに来てくれましたよー。
お家に仲良く帰るのです」
禁書「やだ。とうまの顔なんか見たくないもん」
結標「そんなこと言わないの。誤解だっつってんでしょ?
駄々こねてないで帰んなさいよ」
禁書「だってとうまは家に帰ってもどうせイチャイチャしてるんでしょ」
上条「しねぇって。あれはフリだよフリ」
小萌「フ、フリなのですか!?」
上条「え? ははっ、もちろんそうですよ。
遊びみたいなもんで」
バタンッ!
上条「あれ……?」
小萌「上条ちゃん見損ないましたです! 遊びで女の人とお付き合いするなんて、そんな生徒さんのことなんて、先生はもう知らないのですっ!!」
上条「ち、違いますって! 誤解解けてねぇ! じゃなくて小萌先生! そもそもキャー……!」
上条(って……素性をばらすのはまずいのか……?)
小萌「キャ、何です?」 ガチャッ チラッ
上条「い、いやその……キャ、キャサリン! そうキャサリンはちょっとした知り合いで……」
ヒュンッ
上条「ヒュン?」
ゴッ!
上条「ぐぉっ! いってぇぇえええ!!!!! な、なんだ!? 消火器!?」
結標「あなた、最低ね。そんな爛れた場所にあの子を帰すなんてこと出来るわけないでしょ」
上条「だから違うってさっきから……!」
結標「何が違うの? あなたが金髪美女と部屋でいかがわしいことをしていたのは事実なんでしょう?
言い訳があるなら、せめてその関係を清算してからにしなさい。
あんまりしつこいと、死ぬことになるわよ?」
上条「う……」
小萌「上条ちゃん、さっきはああ言いましたが、先生は上条ちゃんを信じているのです。
その女の人のことを真剣に考えて出した結論なら、先生は応援してあげたいのです。
ですから上条ちゃん、シスターちゃんのことはしばらく先生に任せて、自分の身の振り方を考えなさいなのです」
上条「身の振り方も何も、あいつ次第なような……」
小萌「年上でも、女の人は男の人にリードされたいものなのです!」
上条「盛大な勘違いが留まるところを知らねえ……。
わ、分かりました。じゃあしばらくインデックスをお願いできますか?
多分そんなに長い時間はかからないと思うんで」
小萌「はいなのです! お互い悔いの無い結論を出すのですよ!」
結標「優柔不断な真似したら小萌に代わって叩き潰しに行くわよ」
上条「分かってるよ、そもそもそういう話じゃねえって。
……あ、これすき焼きの材料。インデックスに食わせてやってくれ」 ガサッ
結標「……分かったわ」
禁書「とうま……」 コソッ
上条「お、おうインデックス」
禁書「とうまのこと、信じてるからね」
上条「ああ、キャーリサのことはお前も知ってるだろ? 色々と事情があるんだよ。
お前が思ってるようなことは無いから安心しろ。あ、あいつが本物の英国王女だってことは内緒だぞ。
大騒ぎになっちまうからな」 ヒソヒソ
禁書「……分かった。私がいないからって変なことしちゃ駄目なんだからね」
上条「ああ、当たり前だろ。じゃあな」
禁書「うん……気を付けてね
スタスタスタ…
禁書「むー……」
結標「やれやれ、まさかあんな男だとは思わなかったわね」
禁書「とうまはそんな人じゃないもん」
結標「怒ってるのか、信頼してるのかどっちなのよ」
禁書「どっちもだもん!」
小萌「まあまあ。上条ちゃんが悪い子じゃないのは先生は知っているのです。
男女は時に薄氷を渡るような危険な恋に溺れてしまう時もあるのですよ。
先生も昔は」
結標「妄想に浸ってる小萌は放っておいてすき焼き食べましょ」
小萌「も、妄想じゃないのです! ほんとにほんとなのですー!」
禁書「お、お肉!? やったー!」
結標「ええ、彼が持ってきてくれたわよ」
禁書「……むー、で、でもこんなんじゃ許してあげないんだから!」
結標「はいはい、そういう台詞は、せめて涎を拭いてからにしなさいよね」
小萌「こらー! ちゃんと先生の話を聞かないと駄目ですー!」
―――学園都市 上条の部屋
上条「というわけで消火器叩きつけられて追い返された」
キャーリサ「そーか。何だか悪いことをしたの」
上条「まあ実際誤解なんだし、大丈夫だと思うけどな」
キャーリサ「その誤解誤解というのはやめろ。つまらん」
上条「じゃあ本気なのかよ」
キャーリサ「それは……そーではないが」
上条「ほとぼりが冷めたらお前からもインデックスに説明してもらうからな」
キャーリサ「分かったの。しかし……お前、禁書目録に随分と愛されているんだな」
上条「そんなんじゃないって」
キャーリサ「どーかな。ふふっ、だが……」 グイッ
上条「なっ」 ドキッ
キャーリサ「今は私のものだし。そこをはき違えるなよ?
この際だから言うが、別に手ごろなところにお前がいたからだけでこんな真似をしているのではないし」
上条「違うのかよ……」
キャーリサ「当然だし。私はお前を高く評価しているの。
少なくとも姉上やヴィリアンがお前に向けるものよりはな。
この私にとどめをさしたのはお前だし。私を傷物にしたのもお前だ」
上条「そ、それは……」
キャーリサ「分かるな? 王女を殴り飛ばした責任の一端を感じろと言っているの」
上条「それがこの恋人ごっこの目的か?」
キャーリサ「そーだ。ついでに言えば、お前を頼ってここに来たのも同じ理由だし」
上条「戦いとは言え、とんでもないことをしちまったのか俺は……」
キャーリサ「……そーだ、高くついたぞ、あの拳は。悔やむなら、あの時私を殴り殺さなかったことを悔いるがいいの」
上条「それを言われると何も言えねぇな……」
キャーリサ「まあ世話になっている身だ、強くは言わん。
が、覚えておいて欲しーの。私とて、まるきり興味の対象で無い男と、恋人遊びに興じる程暇ではないということをな」
上条「そ、そうなのか……」
キャーリサ「……」
上条「……」 ドキドキ…
キャーリサ「ふふん、可愛いなお前」
上条「なっ!」
キャーリサ「ますます気に入ったぞ。さて、からかうのはここまでにしておいてやる。
晩餐にしよう」
上条「お、おう……」
上条(なんか……すげぇな。上条さんこのままキャーリサに食われてしまうのか!?
これが肉食系女子というやつなんですか!?
駄目だ駄目だ……上条さんは家主だぞ、インデックスにも何も無いって説明したばっかなんだし、
誘惑に負けるわけにはいかねえ! 何か対抗策は無いのか……?)
キャーリサ「おーい、この野菜そっちに運べばいーのか?」
上条「あ、お姫様は座っててくださーい」 ニヘラッ
上条(見てろよ、上条さん愛想笑いなら得意なんだぜ。このままなし崩し的に間違いを犯して首と胴体がさようならなんてことにはさせねぇからな)
キャーリサ「何だ急に、気持ち悪い。もう8時過ぎだぞ、私もいー加減腹が減ったし」
上条「キャーリサちゃんはお手伝いが出来てえらいですねー」
上条(なんてな、テッラっぽく言ってみたり)
キャーリサ「ば、馬鹿にしてるのお前は!? 私は子供ではないし!」
上条「ぷふー、怒るなよかえって子供っぽ……ハッ!」
上条(こ……これだ! 小萌先生が言っていたリードってのはこーいうことなんだな!
これを使えば……家主としてキャーリサの上に立てるかもしれないぞ。
ありがとう小萌先生! 小さくても大人の女の人だな!
ところで小萌先生とキャーリサはどっちが年上なんだろう……)
キャーリサ「おい何とか言え! そ、そんな薄気味悪い扱いはやめろ!
私を何歳だと思っている!?」
上条「キャーリサって……可愛いよなっ」 キリッ!
キャーリサ「っっっっっっっっっっっっっっ!!!???」
上条「よしよししてやるよ」 キリッ ナデコナデコ
キャーリサ「……!」
上条「あ」
キャーリサ「…………」 プルプル…
上条(やべぇ……やり過ぎたかな……)
キャーリサ「……やめろ……そーいうのは、恥ずかしいし……」 カァァ
上条「っ!」
上条(なな何ですか何ですか何なんですかこの反応は……!
冗談じゃなくて結構可愛……いやいや、一回り上一回り上……)
キャーリサ「次下らん真似したら……許さんからな……」 キッ
上条「お、おう……」
上条(こ……これは……いらんスイッチを押してしまったのでは無いでしょうか……)
キャーリサ「あ……」 チラッ
上条「ん?」
キャーリサ「……」 プィッ
上条(……上条さん、もしかして墓穴掘った?)
―――学園都市 上条の部屋
ガララ…
キャーリサ「……風呂借りたぞ」 ホカホカ
上条「おう、狭くて悪いな」
キャーリサ「いや何。確かに狭かったが、温泉の元というやつは悪くなかったぞ。
あれは土産に買って帰りたいな」 ソワソワ
上条「あんなもんで喜んでくれるならよかったよ」
キャーリサ「ん……そーか。お前は優しーな、とーま」
上条「……ん、いや……」
キャーリサ「……」 モジモジ
上条(駄目だ……あれからキャーリサが何か他所他所しいというか、そわそわしている。
飯の時ももじもじしてほとんど喋らなかったし。
あんな風に上から来られたことないんだろうな……くく、大成功ですよ。
これで平和に暮らせる……のか?)
キャーリサ「……もー寝るか、とーま」
上条(そして何となく呼び方に愛情が感じられる……つまり、どういうことだってばよ?)
上条「そうだな。じゃあ上条さんは失礼して……」
キャーリサ「? おい、どこへ行く?」
上条「ん? ああ、俺いつも風呂場で寝てるんだ」
キャーリサ「何故だ。どれほど狭い場所が好きなのお前は」
上条「いや好きってわけじゃないけど、色々とまずいだろ?
男女が同じ部屋ってのはさ、インデックスでもそうしてるのに、ましてやキャーリサは大人のお姉さんなわけだから」
キャーリサ「違う、お前の恋人だし」
上条「あー、そか。そうでした」
キャーリサ「だからここで寝ろ」
上条「……はい?」
キャーリサ「寂しいんだ……一緒に……寝てくれないか?」 ウルッ
上条「っ!」
上条(まずいぞまずいぞ……正直20代後半の女の人をこれほど可愛いと思ってしまったのは初めてだ……。
こんなのと一緒に寝たら……上条さんは明日を迎えられない!)
キャーリサ「とーま……」 スッ
上条「ぅ……」
上条(袖掴まれちゃいましたよー!? パジャマ姿ですっぴんのキャーリサって結構若く見えるな……じゃなくて!
ど、どうしよう……食われる!)
キャーリサ「命令だし。私に……添い寝しろ」
上条「は、はい……」
上条(オワタ……さよなら俺の人生。でもキャーリサと夢のような一晩を過ごすなら、俺……死んでもいいかも……)
―――
上条「じゃ、じゃあ電気消すぞ」
キャーリサ「ん……」
カチッ… モゾモゾ
上条「……失礼しまーす……」
キャーリサ「…………」
上条(何やってんだ俺は……英国王女と一緒のベッドで寝ちゃってますよー?
……騎士団長に知られたらどうなっちまうんだ……そもそも今晩中にキャーリサに次元ごと斬られるんですけどねー……)
キャーリサ「とーま……」
上条「は、はい……」
上条(肌綺麗だな……潤んだ瞳が……もういいか……覚悟を決めよう)
キャーリサ「目を閉じろ」
上条「キャーリサ……」
キャーリサ「……早く、もう我慢できないし……」
上条「あ、ああ……」 ギュッ
キャーリサ「……」
上条(な、なんだろう。……キスか? キスなのか? 上条さんのファーストキス、綺麗なお姉さんに奪われちゃいますよー……) グッ
キャーリサ「ほれ」 グッ!
上条「いでぇっ!」
キャーリサ「何と言う顔をしているの馬鹿者め」 ギュゥゥゥウウ!
上条「鼻! 鼻折れる!!」
キャーリサ「あははははははっ! 馬鹿者め! 引っかかったの!」
上条「いでぇええ! 何すんだ! 離してぇええ!!!」
キャーリサ「いーや離さん。何のつもりか知らんが、王女を愚弄した罪は重いし。
とっくりと話を聞かせてもらうぞとーま」
上条「お、お前騙したなっ!!」
キャーリサ「お前が勝手に勘違いしただけだし間抜け。王女がそんな簡単に心と体を許すものか」
上条「ぅぉおおおお……と、とにかく離して下さいっ」
キャーリサ「わたくしこと上条当麻は偉大なるキャーリサ第二王女に生涯の忠誠を誓いますと言え」
上条「な、なんだって!?」
キャーリサ「二度は言わんし」
上条「わ、わたくしこと上条当麻は偉大なる大キャーリサ第二王女殿下に生涯の忠誠を誓いますぅっ!!」
キャーリサ「よかろー。許す」 パッ
上条「いでぇ……鼻もげるかと思った……」
キャーリサ「ふん、お前が私を馬鹿にするからだし。何なのあの食事の時の態度は。
私を幼女を愛でるかのよーに馴れ馴れしく頭を撫でたりして、腹立たしーぞ」
上条「申し訳ありませんでした」
キャーリサ「頭が高いし、平伏せよ。
貴様は今誓ったぞ、私に生涯の忠誠をな。分かるなとーま?」
上条「ははーっ!」
キャーリサ「ふむ、反省したか? 悔い改めよ従僕。お前は私の何だというの?」
上条「下僕であります。猛省いたします」
キャーリサ「……違うだろー」
上条「へ?」
キャーリサ「恋人だし」 クスッ
上条「お、おう……」 ドキッ
キャーリサ「さて、いじめるのはこれくらいにしてやるが。説明せよ。
何故お前はあのよーな真似をしたの?」
上条「いやその……キャーリサをリードしようかと……」
キャーリサ「……は?」
上条「なんつーかその……さっき先生に言われてさ。女の人は男にリードしてもらいたいもんだって。
一応恋人って設定なんだから、試してみようかと思っただけなんだ、悪かったな」
上条(まさか上条さんの地位向上と保身のためとは言えない……)
キャーリサ「お前……私のためにあんなことを……?」
上条「ま、まあそうだけど」
上条(うう……良心が痛む……) ズキズキ
キャーリサ「とーま……」
上条「何だよ」
キャーリサ「この……馬鹿者めっ!」 ガバッ ギュッ!
上条「なっ! キャーリサ何すんだ!」
上条(とっても柔らかいです! ありがとうございます!)
キャーリサ「ふふふ、そーかそーか。お前がそんなことをなー。
可愛いな、可愛い奴だなお前は。殊勝と言うかなんというか、嫌いじゃないしそーいうの」
上条「やめれー、髪がグシャグシャになる!」
キャーリサ「やめないし! 褒美だとーま。我が抱擁を心して受け取るがいいの。
私は忠を尽くす部下は好きだからな。お前の心遣いが私は嬉しーの」
上条「そ、そか」
キャーリサ「すまんすまん。少々テンションが上がってしまったの。
私はてっきり馬鹿にされているものと思っていたし」
上条「いやそれはないって。年上なんだからさ」
キャーリサ「年上は嫌なのか?」
上条「好みです」
キャーリサ「知っている。私は年下など至極どーでも良かった」
上条「ここにきてまさかの一刀両断かよ」
上条「……ん? 良かった?」
キャーリサ「ふふっ……少し、ドキッとしたぞとーま」
上条「」
キャーリサ「やるじゃないか……。私を動揺させるとは」
上条「え、えーと……」
キャーリサ「その調子で励むといいの。飽くなき挑戦者たれ。
私はそーいう男が好きだし」
上条(どうしよう……結果的には余計気に入られちまった……。
……まいったな)
キャーリサ「おい、そんなに見つめるな。メイクをしていない顔などあまり見られたくないの」
上条「いや綺麗だと思うけど……」
キャーリサ「……そ、そーか。照れるし。んー……ふふ、なんだろーな、何か変な気分だ。
よ、よし……もう眠るし!」 バサッ
上条「お、おう……おやすみ」
上条(何か楽しそうだな……すげーテンション高い……)
キャーリサ「うん、おやすみ、とーま」 クスッ
上条「っ……」
上条(まあ俺も……結構楽しいな……)
2日目
―――学園都市 上条の部屋
チュンチュンチュン…
キャーリサ「とーま、とーま。朝だ、起きよ」 ユサユサ
上条「ん……んー……」
キャーリサ「起きて即行動出来ん奴は早死にするし。
敵が今まさに攻めてこよーと言う時に、お前はのんびり惰眠を貪るのか?
起きよ、王女の命令だ」
上条「んぅ……あと五分寝かせてくれ……」 ゴロン
キャーリサ「むー、仕方の無い奴だし。カーテナで薄皮だけ斬れるよう出力の調整は出来るのだろうか……?
まー斬ってから考え」
上条「おはようございます!!」
キャーリサ「おはよう。明日からは私よりも早く目覚めよ。
王女に起こさせるなど論外だし」
上条「わ、悪い。すぐ飯作るよ」
キャーリサ「既に出来ているし」
上条「え? ……ほ、ほんとだ……お前が作ったのか?
めちゃくちゃ彩り豊かで美味そうなものが並んでるけど……え、隣の舞夏じゃないよな?」
キャーリサ「誰だそれは。ちゃんと私が作ったの」
上条「キャーリサに料理なんて出来たんだな……」
キャーリサ「失礼な奴だし。王女に不可能などない」
上条「いやそりゃ嘘だろ」
キャーリサ「私は偉大なる第二王女キャーリサだし。全方位に於いて万能だし。
たまたま『軍事』が特に秀でていただけのことだ。敵を斬り捨てることだけが能と思うなよ」
上条「へーへー、そういうことにしとくよ。
ありがたくいただきます」
キャーリサ「うん。私の手料理を食せる者などこの世にお前しかいないの。
心して食せ。」
上条「うまそーだ。どれどれ、一口……パクッ」
キャーリサ「どーだ? 美味いか?」
上条「うぐぅ!」
キャーリサ「?」
上条(な……なんだこれは……まずい……まずすぎるぞキャーリサ……。
見た目はこんなに高級料理っぽく仕上げてあるのにどうしてこんな味になる。
料理が下手だとかそういうレベルじゃねぇ……何を間違えたらここにたどり着くのかが分からないくらいの不味さだ……。
けどもちろんそんなこと本人に言えないよな。
ど、どうしよう……オブラートに包んで伝えるべきなのか……それとも嘘でも美味しいと言ってやるべきなのか……) チラッ
キャーリサ「ふふっ、そんなに噛みしめなくてもいーんだぞ。ほら、感想を言ってみろ」
上条(駄目だ、この笑顔に向かってまずいなんて言える訳がない!
上条さん結構へたれなんですよ。いや、言っちゃ駄目だろ男として人として。
そうだ、これは……優しさなんだ!)
上条「う、美味いよっ」
キャーリサ「そーか。じゃー私も」 パクッ
上条「あ」
キャーリサ「まずい!」 ガシャーン!
上条「あわわわわわ……」
キャーリサ「何だこれはふざけてるのか! この料理を作ったのは誰なの!?」
上条「お前だよ」
キャーリサ「そーだった。こんなはずでは……というかお前、私に嘘をついたの……?」
上条「あ、ご、ごめん。お前の嬉しそうな顔見てたら言い出せなくてさ……余計なことしちまったな」
上条(すげぇ悲しそうな顔だ……悪い事したな……)
キャーリサ「そーか。……まぁそーいうことなら……許してやるし」
上条「ごめんな」
キャーリサ「構わん。それよりこちらこそ悪かったの。これでは朝食が台無しだな、すぐに作り直すし」
上条「あー悪い、そこまで時間は無いんだ」
キャーリサ「どーいうことだ?」
上条「いや、学校ですが」
キャーリサ「あ、そーか。お前学生だったな。てっきり学園都市の便利屋だと思っていたし」
上条「やっぱ魔術サイドじゃそういう扱いなのね」
キャーリサ「ついでに禁書目録の世話係な」
上条「ですよねー……どーりで上条さん平日でも平気であっちゃこっちゃ飛ばされるわけだ……」
キャーリサ「しかし、学校ならなおさら朝食を抜かせてしまって悪いの」
上条「いいっていいって。食わないこともあるし、キャーリサは適当に作るなり買うなりして食っててくれ。
俺は準備して行くわ」
キャーリサ「分かった。高校だな? ここから近いの?」
上条「ああ、結構近いよ」
キャーリサ「そーか……」
上条「さて、着替え着替えっと……」
ガラッ…
上条「こ、これは……!」
キャーリサ「ん? どーかしたの? 別に風呂場で着替えなくても、お前の着替えごとき私は何とも思わんぞ」
上条「い、いや何でも……ははは……。いつものことだからこっちで着替えるよ」
キャーリサ「そーか」
ピシャッ!
上条「キャーリサ……着替えたんなら下着くらい見えないようにしといてくれよ……ゴクリ」
ピラッ
上条(あのキャーリサだから下着も黒とか赤だと思ってたが……まさか白とは……。
さすが王女、清純だ……って、駄目だ駄目だ。思わず手にとっちまったけど、こんなとこキャーリサに見られたら……)
キャーリサ「……」 ジー
上条「うわぁっ!」
キャーリサ「ふふっ、愚か者め。それは私があえて放置しておいた罠だし。
お前、地雷と分かっていて飛び込んだな」
上条「朝から上条さんを惑わすのはやめて下さい!」
キャーリサ「惑わされる方に非が無いとは言わせないし。
下着くらいで一喜一憂できるとは、青いなーとーま」
上条「昨日スーパーくらいで喜んでた奴の言い分とは思えねぇ……」
キャーリサ「う、うるさいし。お前ハニートラップに簡単に引っかかりそーだな」
上条「不幸だ……」
キャーリサ「不幸ではないし。お前は私と生活を共にする権利を得たぞ。
身に余る幸運だろー? おまけに私が身に着けていた下着を手に取る機会に巡り会うとは、
お前、一生分の運を使い果たしたし」
上条「ええそーですー。わーいついててよかったー」
キャーリサ「棒読みが腹立つし。で、その下着をどーするつもりだったんだ? ん? うりうり」
上条「み、見てただけだよ……脇腹突くな」
キャーリサ「では禁書目録の下着もあんな風に生唾ゴックンしながら不埒な視線で凝視しているの?
正直ちょっと引くし」
上条「しねぇよ! キャーリサだからだろ……」
キャーリサ「なっ……ど、どーいう意味なの?」
上条「あん? そりゃ大人の女の人だからな、上条さんはドキドキなわけですよ」
キャーリサ「あーそーいう意味か。驚かせるな」
上条「何が?」
キャーリサ「何でも無い。お前の周りの女共は苦労するのだろーな。
昨日のミサカミコトとか言うのが何故怒っていたか今ようやく分かったし」
上条「何でそこで御坂が出てくるんだよ?」
キャーリサ「気にするな。気付かぬ方が私には都合が良い」
上条「?」
キャーリサ「私が誰より一歩先んじたという話だし。気分が良い」
上条「まあ機嫌が良いのはいいことだけど」
キャーリサ「そーだろー? 私の機嫌が良いと色々いいことが起こるぞ?」
上条「へぇ、例えばどんな? 」
キャーリサ「例えば、ティータイムのお菓子が一品余計に増えたりな」
上条「それ買いに行くの上条さんでしょ」
キャーリサ「細かいことはいーじゃないか。それに私の従僕ならお菓子は手作りに限るし」
上条「さすがの上条さんでも王女様の舌に合う菓子作るスキルはねぇよ」
キャーリサ「ならば励めばいいじゃない。それよりのんびりしていて良いのか? 遅刻するのではないの?」
上条「あ、やべっ!」
キャーリサ「まったく。お前何故遅刻がいかんか分かるか?
……っと、そんなことを言っている場合では無いな。早くせよ」
上条「お前が邪魔しなけりゃすぐ済むっての」
キャーリサ「断る。私はお前のそーいう狼狽える姿を愛らしく思うし」
上条「ペットじゃねぇぞ……」
キャーリサ「ふふっ、何せとーまは可愛いやつだからな」
上条「うれしくねぇ……」
キャーリサ「そー言うな。私に仕えたいという男は世界中に山のようにいるぞ。
お前はその栄誉を手にし、私のお気に入りとなったのだし。
噛みしめよ、お前は世界に誇れる幸運を手にした男なの」
上条「……ま、そういうことにしとくよ」
キャーリサ「ふふ、悪く無い反応だし」
上条「……」
―――
上条「んじゃ行ってくる」
キャーリサ「うむ、勉学に励めよ少年。無知はお前を殺すものだし」
上条「大げさだって。昼は適当にやっといてくれ」
キャーリサ「お前は?」
上条「購買でパンでも買うつもりだよ」
キャーリサ「そーか」
上条「それじゃ」
キャーリサ「待て、後ろ。シャツが出ているぞ」
上条「あ、また小萌先生に注意される」 ゴソゴソ
キャーリサ「よし、ではな」
上条「おう」
ガチャッ バタン
キャーリサ「…………ふっ」
キャーリサ「さて、私も行くとするかー!」 グッ
今日の俺得スレはこんなところで。
というか思いのほか伸びが良くてビビってますwwwキャーリサ実は愛されてるのか?
感想ありがとう、気楽にお付き合いお願いしますね。
あ、エロは未定です。今のところ予定してないですけど、ここで良いネタ拾ったり無性に書きたくなったりしたら書いてしまうかもしれないし。
明日は来れません、申し訳ない。
また近々
お待たせしました。
今から投下します。
さほど書く速度が速く無いので、毎日来るのはなかなか難しいかもしれません。
が、モチベーションが下がるまでに完結させたいので頑張ります。
さほど長い物語にはならないかと。
―――学園都市 とある高校 教室
ワイワイワイ… ガヤガヤガヤ…
上条「ふぁ~あ……やっと3限が終わった」
吹寄「上条当麻! 貴様まだお昼にもなってないのに無闇にだらけるな!」
上条「だって仕方ねぇだろ、朝から色々と……」
吹寄「?」
上条「な、なんでもない」
吹寄「もう少しシャキっとしなさいシャキっと! ったく」 ズカズカズカ…
土御門「よーうカミやん。お疲れみたいだな。 また何か不幸にでも見舞われたのかにゃー?」
上条「ああ、家でも学校でも似たような奴がいて心休まらねぇよ」
姫神「?」
土御門「なんだ、いたのか姫神」
姫神「ずっといた」
青髪「まさかカミやーんまた可愛い女の子と知り合いになって、寝かせてもらわれへんかった、なんて
言うんちゃうやろな?
ええ加減にせんと、ボク本気でカミやんぶっ飛ばさなあかんくなるで?」
上条「女の子ねぇ……」
土御門「同感だにゃー。カミやん、今度は誰と知り合っちまったんだ? ああん?」
上条「お前ら笑顔で殺気放つな。代われるもんなら代わって欲しいもんですよまったく」
青髪「聞いたか?」
土御門「聞いたぜい」
青髪「どうやらほんまに一回地獄にたたっこまなあかんみたいやね」 ゴゴゴゴゴ
土御門「カミやん、覚悟はいいかにゃー?」 ゴゴゴゴゴ
上条「あー、また今度な。上条さん今はそんな元気ないんですよー」
青髪「?」
土御門「何かほんとにお疲れみたいだぜい」
姫神「何かあったの?」
キーンコーン カーンコーン…
姫神「あ。授業始まるから席戻るね」
土御門「次は小萌センセーの授業だぜい」
青髪「ボクはもちろん今日も宿題あえてやってへんでー」
上条「鬼かお前」
ガララ…
吹寄「……?」
上条「……え」
―――学園都市 とある高校
スタスタスタ…
小萌「じゅっぎょーう♪ 生徒さんとたっのしっいじゅ・ぎょ・う♪」
小萌「前の授業の片付けが長引いて遅れてしまいましたのです」
小萌「まぁでも、シスターちゃんもすっかり結標ちゃんと仲良くなって、先生は安心してお仕事に行けるので安心なのです。
あとは上条ちゃんと仲直りするだけですねー」
小萌「あら? 随分教室の方が静かなのです。いつもなら廊下まで大騒ぎが聞こえてきているのに」
小萌「あ、さては先生のこと心配してくれているのですねー! もう、生徒さんはいつまで経っても先生離れの出来ない可愛い生徒さんなのですーうふふふふ」
ガララ…
小萌「みなさーん、遅れてごめんなさいなのですー! 楽しい授業のじか……」
キャーリサ「良いか? 何故遅刻が駄目なのか分かるの? 答えよとーま!」
小萌「んですよー……?」
上条「わ、わかりません……」
キャーリサ「馬鹿者め。軍隊とはタイミングが命なの。バラバラと遅れて入ってきても連携がとれない。
各個撃破される」
小萌「え? え?」
キャーリサ「百人が一斉にお前一人に襲いかかってきたら、お前は負けるの。
だがその百人がそれぞれ一人、五分ずつ遅れてくればお前一人でも結構やれるし。
それは一対百じゃない。一対一が百回だ」
上条「は、はあ……」
土御門「お、おいカミやん……あれキャーリサだよな? イギリス王女の。何やってるにゃー……?」
上条「知らねぇよ……」
キャーリサ「つまりそーいうことだ。理屈も無く遅刻をするなと言っているのではないの。
お前と、お前の仲間達の命に係わる問題だし。
それからとーま、土御門。私が話しているの、私語は慎め」
土御門「はい! スミマセーン!」
青髪「はぁう……ボクも怒られたいなぁ」
上条「何なんだ一体……」
小萌「あ、あのー……」
キャーリサ「お前達。今ここは軍隊ではないと考えた者がいただろー?
それは大きな間違いだ、会社、学校、あらゆる集団において同じことが言える。
いーか? 足並みを揃えてこらえるべきところに遅れて来るものがいたらどうなるの?
答えは明白。士気が落ちる。士気が落ちれば、お前達を待っているものは敗北だし」
小萌「ちょ、ちょっと……!」
キャーリサ「よし、では次は我がイギリスがかの忌々しいナポレオン軍を破ったワーテルローの戦いについてだ。
ノートは取らなくて良い。覚えるの。戦場ではノートを開いている暇など」
小萌「あの!!」
キャーリサ「ん? おいとーま、何なのこの子供は? 迷子が入りこんでるぞ?」
青髪「ぶふぉっ!」
姫神「……プッ」
小萌「こ、子供ではないのです! 先生なのです!」
キャーリサ「そーかそーか。よしよし。だがここは子供の遊び場では無いし。
おい委員長、この子をどこかで保護してやるといいの」
吹寄「私別に委員長では……というか本当に先生なんですけど……」
キャーリサ「あ、そーなの? こんなに小さいのに……」
小萌「小さいからって先生は先生なのです! もう! 何なのですかあなたは!」
キャーリサ「私はイギリス第二王じ」
上条「どぅぁああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
小萌「ひゃぁっ!? な、どうしたのですか上条ちゃん!」
上条「先生! そいつ昨日言ったうちの居候のキャサリンです! 語学留学中で日本の学校にとっても興味があるみたいで連れてきちゃいましたごめんなさい!」
キャーリサ「キャサリン? 語学留学? おい、何の話を」
土御門「おおおおおおおおお!!! そうだったんかカミやぁぁあああんん!!! 道理でカミやんだけフランクな呼ばれ方してると思ったぜぇええええい!!!!!」
上条「わ、悪い土御門……」 ヒソヒソ
土御門「いやもう事情は聴かずとも分かったにゃー……。アレは表沙汰にしちゃいかんだろ色々と……」 ヒソヒソ
小萌「留学生ちゃんでしたか。もう上条ちゃん、前もって言ってくれないと困るのです」
上条「申し訳ないです」
小萌「キャサリンちゃん、先生の授業でよろしければ、見学していっても構わないのですよ?」
キャーリサ「感謝するの。でも興味ないし。他にも見たいところがあるからな」
小萌「え」
キャーリサ「とーま、昼食は一緒に摂るぞ。校内を散歩しているから終わったら探すがいーの」
青髪「何でや……何でカミやんばっかり……」
姫神「あの行動力……。私もあれくらいしないと駄目なの……?」
土御門「全然関係ないとこで二名程凹ませて帰ったぜい……」
キャーリサ「失礼したの。それではお前達、ごきげんよう」
ピシャッ!
小萌「な……何なのですかあの人は……颯爽と言いたい放題やりたい放題で帰ってしまったのです……」
土御門「カミやん、後で詳しく教えてくれ……」
上条「あ、ああ……」
―――学園都市 とある高校 屋上
キャーリサ「おー、とーま。授業は終わったよーだな」
上条「よーだな、じゃねぇよ! 何しに来たんだお前は!」
キャーリサ「そっちのは土御門か。久方ぶりだし。そーいやお前とーまと同じ学校だとか言ってたな」
土御門「だにゃー。くくっ、お二人さん随分仲良くなったみたいだにゃー」
キャーリサ「うん。聴いて驚け、なんと恋人になったんだ!」 グッ
上条「わっ!」
土御門「へー、いいにゃー。こいび……なんだって?」
キャーリサ「恋人だ。昨日こいつ、私の生涯の伴侶になることを誓ったんだし」
土御門「なん……だと……?」
上条「ち、違うぞ土御門。これはな、フリだ。キャーリサが誰とも付き合ったことが無いって言うから仕方なくだな。
それに伴侶じゃなくて下僕なんじゃないのか……?」
キャーリサ「その割には私の下着に興味を抱いたり、私の頭を撫でたり、あまつさえ朝まで隣で寝たではないの」
上条「こうやって既成事実ってのは作られるのか……」
土御門「……」
上条「だいたい、それは成り行き上そうなっちまっただけだろ! 下着はお前が勝手に放置したんじゃねぇか!」
キャーリサ「ふふーん、隠さなくてもいいし。お前は初めて会った時から私の胸ばっか見てたし。
構わん構わん。見るだけなら好きなだけ見ていろ」
土御門「……」
上条「お前はどうしてそう極端なんだ! しかも変に前向きだし!」
土御門「……おいカミやん?」
上条「あん? 何だよ土み」
ドゴッ!!
上条「ぐほっ!!」
土御門「お前なんか知らん! 勝手に皇太子にでも王子様にでもなっちまえばいいにゃー!
ばーかばーか! 悔しくなんかないぜい! 学校中にカミやんが中学生と淫行してたって言いふらしてやるからにゃー!!」 ダッ!!
上条「身に覚えのない嘘バラまくなー!!」
キャーリサ「仲が良さそーだな」
上条「どこをどう見たらそう見えんだよ」
キャーリサ「友人は大事にせよ。それより、先程購買で菓子パンを買ってみたんだ。
こーいうのあまり食べたことないからな、つい買い過ぎてしまった。
一緒に食べてくれ」 ドサッ
上条「買い過ぎだろ……10個以上あるぞ……。仕方ない、余った分は明日の朝飯だ」
キャーリサ「どれにしよーかな……あんぱんってあんこが入ってるのか?」
上条「そりゃあんぱんだからな。食ったことないのか?」
キャーリサ「無い。このやきそばパンというのは何だ。グロいな」
上条「あ、それ美味いぞ。購買の中でもオススメだ」
キャーリサ「そーなのか。ではこれにするの」
上条「んーと、じゃあ俺はよもぎあんぱんとカツサンドもらい」
キャーリサ「おー! それもいーな!?」
上条「お前自分で買ったんじゃねぇのか……」
キャーリサ「適当に見繕っただけだからな、後でお前に教えてもらおーと思ってたんだ」
上条「んじゃ何個か開けて半分ずつ食うか?」
キャーリサ「そーしよう。色々と楽しみたい」
上条「はいよ。どっか座ろうぜ、食堂行くか?」
キャーリサ「いや、ここでいい」
上条「そうか? まあ王女様は高いところが似合うしな」
キャーリサ「そーではない」
上条「?」
キャーリサ「ここならお前と二人きりだろー?」
―――学園都市 街中
キャーリサ「~♪」
キャーリサはすこぶる上機嫌で鼻歌混じりに街を歩いていた。
時刻は間もなく夕刻に差し掛かろうという頃。
上条が補習があると言うので、昼食後彼女は適当に校内を見物した後悠々と学校を後にした。
今のキャーリサは自由だった。
もともと生真面目ながらも母から受け継いだ奔放さを併せ持つ王女だ。
護衛も自らを知るものもいない街中を歩くのはとても気分が良いことだった。
キャーリサ(あいつはからかうと面白いな。昼食の時など耳まで真っ赤にしていたし)
居候先の少年の顔を思い出す。
キャーリサの周辺には今までいないタイプの人間だった。
そもそも立場が違うので当然と言えば当然であるのだが、何にせよ彼の存在はキャーリサの興味を強く引いた。
キャーリサ(さて……そろそろあいつの学校も終わる時刻だな。
ふふっ、では校門まで迎えに行ってやるとするの。
奴め、感動でむせび泣くかもしれないし。健気だな私は)
校門前で待ち構え、上条が出て来た時彼がほろりと涙を零して崩れ落ちて足元に縋り付く場面を想像し、
キャーリサは満足げに笑みを浮かべる。
キャーリサの懐の広さに深く感嘆し、やがて上条は心からの敬意を向けてくるのに違いない。
うんうんと頷きながら、彼女が午前中と同じ通学路を歩いていると、ふと横道に逸れる路地が目についた。
キャーリサ(……っと、ここの路地に入れば近道か?
少々薄暗いが、まあ向こう側も見えているし問題ないの。
待っていろとーま。私が傾国の微笑で出迎えてやるし)
彼の照れる姿が早く見たいキャーリサは、何の躊躇いも無く薄暗い路地裏へと足を踏み入れた。
表通りからわずかに漏れる夕焼けの光が、高いビルの間の狭い道を物悲しく照らしている。
その中を、上質な生地と素晴らしい縫製で仕立てられた真紅のコートを纏ったキャーリサが高いヒールを打ち鳴らして悠々と歩いていく。
スキルアウトA「ひゅぅっ、お姉さん、こんなところで何してるの?」
その時、キャーリサの目の前に三人の男達が立った。
外からでは分からなかったが、廃ビルの裏口が路地の途中にあり、そこにガラの悪そうな連中が溜まっていたのだ。
スキルアウトB「ここを通るには通行料がいるんだけど、払ってもらえる?」
足を止めたキャーリサに、大柄な男がそう告げる。
ニタニタと野卑な笑みを口元に浮かべ、向こう側に行けぬよう大きな身体で通路を塞いでいた。
キャーリサ「通行料? 関所があるなど聞いていないし。断る、そこを退け」
当然進路を塞ぐ邪魔者など許せないキャーリサは、自分よりも頭一つ分も大きな男の目を射殺すようにねめつけて透き通るような声で言い放った。
笑みを浮かべていた男の口元が歪み、眉間に皺が寄る。
スキルアウトC「おいおい、退け、だってよー」
別の男が茶化すように周りの二人に向けてそう言い、キャーリサを笑い飛ばした。
キャーリサの眉が一瞬ピクリと動いたことに、男達は気が付かない。
スキルアウトA「大人しくお金払っときゃぁ見逃してやったのに、馬鹿だねぇ」
スキルアウトB「高そうな服着ちゃってさ、どこのお嬢様」
スキルアウトC「ぎゃはははっ、お嬢様って言うのはちょっと年食ってるけどな」
スキルアウトA「いやいやぁそりゃテメェがJKしか興味ねぇからだろ?
全然いけるって」
スキルアウトB「そうだな。外人さんだけど、悪く思うなよー?
ちょろっと俺達と遊んでくれりゃいいからさー、こっちこいよー」
好き放題に言わせておけばいいとキャーリサは冷めた視線で彼らの会話を聞いていたが、とうとう男のうちの一人が彼女の腕を掴んだ。
ゾワリと全身を逆流していく嫌悪感。嗚咽でも漏らしそうな程不愉快に思い、キャーリサは己の中で沸々と怒りが湧いてくるのを感じていた。
キャーリサ「! 離せ!」
一刻たりとも触れられていたくなかった。
勢いよく掴んだ手を振りほどき、その勢いで男の鼻ッ面にキャーリサの裏拳がさく裂した。
スキルアウトB「いてっ!」
のけぞり、男の鼻からだらりと血が零れる。
キャーリサはその手の甲に付着した男の血液を、ポケットから取り出したシルクのハンカチで乱雑に拭い去る。
スキルアウトC「ああっ!? ンだテメェっ! 抵抗すんじゃねぇぞババァッ!」
キャーリサの態度が気に障った男達が殺気立つ。
だがそんなものは、かのクーデターを起こした張本人たる彼女にとっては些末事でしかない。
他人の羨望も悪意も、あらゆる感情を向けられる王女である彼女、ましてや争乱の中心であった彼女にとって裏路地のチンピラがいくら凄んだところで効果などあるはずもなかったのだ。
キャーリサ「バッ……!? ……ふーん、死にたいようだし」
それどころか、男達の言葉はキャーリサの憤怒を煽っていく。
キャーリサの手がコートのポケットに突っ込まれた。
体中数か所に隠し持っている護身用の『剣』。
カーテナ=セカンドの残骸がそこにある。
本来なら人知を超えた力を有するはずのそれも、今はガラクタ同然の霊装。
しかし、男3人を人たちの元に斬り捨てるには十分に過ぎる。
スキルアウトA「やめとけって。悪いね、でも大人しくしといたほうが身の為だよ?
綺麗な顔と体に傷つけられたくないでしょ?」
スキルアウトB「へへっ、身体の方は今から使わせてもらうけどなー」
スキルアウトC「写真とビデオばらまいてやるから覚悟しとけよゴラァッ!」
首筋に死神の鎌がかかっていることなど露とも知らない男達は、口々にキャーリサを威圧するように罵声を浴びせていく。
キャーリサは罵詈雑言にも聞き飽きて、溜息をついてポケットの中でカーテナの破片を握りしめた。
キャーリサ「下賤過ぎて言葉も無いの。もーいい、論外だ、極刑だし」
キャーリサの口元が麗しく、そして残酷に歪む。
2度と他人に襲いかかれぬようにしてやろう。
そしてキャーリサは、断罪の刃を握りしめた手をポケットからそっと出した。
その時。
??「待てお前ら!!」
キャーリサの背後から、声が聞こえた。
ドキリと高鳴る鼓動。
何故己の心臓がそのような反応を示したのか、キャーリサにはその時明確な答えを出すことが出来なかった。
スキルアウトA「あー?」
スキルアウトB「ンだテメェ……? 何か文句でもあるんですかぁ?」
カツカツとコンクリートを踏みしめて歩いてくる声の主。
彼はやがてキャーリサの隣に立ち、ほんの一瞬こちらに視線を向けた。
キャーリサ「……とーまか」
上条当麻。
キャーリサの居候先の家主であり、恋人遊びに興じる相手。
学ラン姿の彼は、持っていたカバンをキャーリサに押し付けると、彼女を庇うようにして前に立った。
上条「キャーリサに手ぇ出してんじゃねぇぞ。殺されてぇのか!」
彼の背中からそんな言葉が聞こえてきた。
キャーリサは驚きに目を見開く。
同時に、やけにもやもやとした感情が胸に渦を巻いた。
スキルアウトC「あァッ!? 誰が誰を殺すってぇ!?」
キャーリサ(いや、さすがに殺さなくてもいいし。
それは私の役目と言うか、せいぜい男性機能を破壊する程度に留めておいてやろーと思っていたが。
……そーか、お前そこまで私のことをな……)
少しだけ顔が熱くなる。
そこまで言ってのけるほど、彼は自分のことを守りたいと思ってくれているのだ。
キャーリサはそのように解釈した。
悪くない。
愛すべき主君を守るために命を賭す勇敢な騎士。
実にキャーリサ好みの展開であり、台詞だった。
上条「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ馬鹿!」
激昂する上条。
キャーリサはドキドキが収まらない。
正直そこまで強く想われているとは思わなかった。
恋人を演じているとは言え、所詮彼は一回りも年の離れた少年だ。
本気になどなれないし、向こうがその気にならないだろうと彼女は思っていた。
しかし、彼のそうした言動はキャーリサにとって予想外だった。
故に、虚を突かれた彼女は心の脆い部分をもろに突かれたような衝撃を受けることになった。
キャーリサ(うん……よく分かったぞお前の気持ち。そーとまで想われるのは、嬉しいものだし。
……とーま、お前がそーだと言うなら……私も……)
キャーリサと男達の間に立ちふさがる上条の背中に視線を送り、桜色の唇を噛みしめる。
もっと彼の言葉を聞きたいと思ってしまった。
忠を尽くそうとする誠実な言葉を。義侠に溢れた勇敢な言葉を。
そして、愛情がそこに在ってもいい。
キャーリサにとって、今彼のとった行動と言葉はそれだけの価値があった。
やがて開かれる上条の口。
そこから放たれる言葉を聞き逃さぬよう、キャーリサはギュッと瞳を閉じた。
上条「お前等がキャーリサにぶっ殺されるに決まってんじゃねぇか!!」
戸惑いは確かにあった。しかし、彼が求めるなら応えてやるのも主君の務めかとも考えた。
なのに。
従僕たる男の口から飛び出てきたのは、あまりに信じがたい言葉だった。
キャーリサ「……は?」
ポカンと口を開け放ってキャーリサが思わず問いかける。
今何と言ったのだ?
男達ではなく、むしろ彼女の方が上条の言葉に耳を疑った。
上条「よく見てみろ! お前達3人を目の前にしたってまるで動じてねぇんだぞ!
どう考えたって何かあるだろうが!! ここは能力者の街学園都市なんだ!
見た目だけで相手を判断することがどんなに危険なことか、お前達にだって分かるはずだ!
こいつがとんでもねぇ能力者だったりしたらお前等どうするんだよ! マジで死ぬぞ!!
っていうかほとんど当たってる! こいつは空間切り裂いたり空割っちまうような学園都市で
も規格外のおっそろしい能力を持ってるんだ、死にたくねぇなら今すぐ逃げろ!!」
キャーリサ「…………」
わなわなと拳を震わせるキャーリサ。
少年らしい少し無鉄砲で熱い言動に、年甲斐もなく少し、いや大分ときめいてしまった自分の乙女心を返して欲しい。
未だ熱が上手く収まらないキャーリサは奥歯をギリリと噛みしめ、やがてそんな己を鼻で笑い飛ばした。
スキルアウトC「あぁ? マ、マジで言ってんのかぁ?」
スキルアウトB「ど、どうするよ……」
スキルアウトA「本当かどうかは分からねぇが、本当だったらヤベェな……」
腹立たしいことに彼の説得に心を折られかけている根性のないチンピラ共などもはや眼中に無く。
キャーリサは張り付けたような笑みのまま猫なで声で上条に甘えるように声をかけた。
キャーリサ「おいとーま」
スキルアウト達「「「っっ!」」」
一歩前へ出たキャーリサに男達が後ずさる。
キャーリサの目があまりに笑っていないことを恐れてのことだが、もちろん彼女本人はそんなこと知る由も無く、
むしろ上条の言葉を本気しているように思えて怒りに拍車がかかった。
上条「どうしたキャーリサ。お前は早く逃げろ。もう大丈夫だからな」
安心させるように力強くそう声をかけてくる上条。
少しだけ揺らいでしまった。
しかし、忘れかけの乙女心を踏み躙られた怒りがまだ今は勝る。
キャーリサ「…………出迎えごくろー」
上条「えっ!? うぉっ!」
ポツリと呟き、キャーリサは上条の背中を思い切り蹴飛ばした。
スキルアウトC「いてっ!」
勢いよく吹っ飛んでいった上条のヒジが男の顎に突き刺さる。
グラリと揺らめいた男は何とか周りに支えられ、体勢を立て直す。
スキルアウトB「ババァッ! 何しやがん」
キャーリサ「殿(しんがり)の大役、見事こなしてみせよ」
怒りを露わにした男になど目もくれず、キャーリサは踵を返して一目散に表通りへ飛び出して行った。
上条「……えええええええええええええ!!!!!!!!!!??????????」
その背中に驚きの声をあげる上条。
スキルアウトC「テメェコラ! 初めから油断させようってハラか!?」
スキルアウトB「ふざけんじゃねぇぞ!! やっちまおうぜ!!」
スキルアウトA「許せねえ! とんでもねぇ女だ!! だがまずはテメェからだ!!」
上条「ふ、不幸だぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!」
激昂する男達の声と、嘆く従僕の声を遠くで聴きながら、キャーリサは満足げに笑みを浮かべて「ふん」と息を吐いた。
―――学園都市 街中
上条「はぁ……はぁ……ひ、酷い目にあったぞ……」
キャーリサ「よくぞ私の元まで戻ってこれたの。結構やるなお前」
上条「慣れてますから……じゃなくて! せっかく助けに来てやったのに蹴っ飛ばして放って行くって何だよ!
せめて大人しく逃げてくれればよかったのに……」
キャーリサ「ふん、お前が悪いし」
上条「? なんで?」
キャーリサ「……期待した私が馬鹿みたいじゃないか」
上条「期待って、何を?」
キャーリサ「それは……」
上条「それは?」
キャーリサ「……知りたいの?」
上条「え?……あ、ああ」
キャーリサ「こーいうことだし……」
上条「え……っ――――!?」
キャーリサ「んっ……」
上条「っっっ!!????」
キャーリサ「…………ど、どうだ……?」
上条「」
キャーリサ「そ、そう照れるな。ふふっ、私を見事守り抜いた報酬だし。心して受け取れ……」
上条「」
キャーリサ「お、おい! 固まってないで何とか言ったらどーなの……?
何か言ってくれないと……私も恥ずかしーの……」
上条「ハッ……! い、今のは何だ!? 幻想か!?
上条さんの唇にとっても柔らかくて温かい感触があったような無かったような!?」
キャーリサ「お、思い出さなくていーし!」
上条「な……なんでこんなことを……」
キャーリサ「私がお前の恋人で……年上だから……」
上条「年上……」
キャーリサ「……い、嫌だったか?」
上条「び、びっくりしました」
キャーリサ「……質問に応えて欲しーの。
私だってこれでも……初めてだし」
上条「えぇっ!? 向こうじゃ挨拶みたいなもんじゃねぇのか?」
キャーリサ「例えそうだったとしても……今のは違うし……」
上条「…………い、嫌じゃないです」
キャーリサ「……そ、そーか。ならいいんだ……」
上条「あ、ああ……」
ザワザワザワザワ… ヒソヒソヒソ…
キャーリサ「あー……へ、変な雰囲気になってしまったな。衆目を集めてしまったよーだし……。
うん、晩餐の為の買い物をして帰るとしよー。
さ、さっきコンビニに生まれて初めて入ったんだ! あそこは便利だな……!」
上条「お、おう! そうだろ!? いやー便利な世の中だよなー!」
キャーリサ「むー……無理してる感が拭いきれん……帰るか」
上条「……だな……」
キャーリサ「…………」
上条「…………」
キャーリサ「…………」
上条「……な、なあキャーリサ……」
キャーリサ「……? どーしたの?」
上条「……」 ギュッ
キャーリサ「……!」
上条「手、握ってもいいでしょーか……?」
キャーリサ「……訊くな馬鹿者。それに……もう握ってるではないの……」
上条「ご、ごめん」
キャーリサ「構わんし……王女の口付けに調子づいたの?
…………今は図に乗ることを許可する」
上条「……」
キャーリサ「……」
キャーリサ(これは……どーいうことなの……?
私があんな真似をしたから、こいつが若さに任せて……や、やるじゃないの)
上条「きょ、今日の晩御飯は何にしよう?」
キャーリサ「お、お前の作るものなら何でも構わないの」
上条「そっか、んじゃ昨日は肉だったし今日は魚かな」
キャーリサ「そーしよー。楽しみだし……」
キャーリサ(……こうしていると、本当の恋人になったよーな気分だし。今更何を意識しているの私は……?)
上条「鯖にするか鮭にするか、うーん……」
キャーリサ(……何なのこの気持ちは。本気になんてなるわけがないし……)
キャーリサ「とーま」
上条「ん?」
キャーリサ(……私があと10も若ければ、何かを躊躇う必要もなかったの?)
キャーリサ「何でも無い」
上条「?」
キャーリサ(お前は随分と私の心の中に簡単に入り込んでくるし……。
まったく、憎らしいぞとーま……しかし)
キャーリサ「そら行くぞ。私は鯛の煮つけとかいうのが食べてみたいの」
上条「鯛……だと。そんなもんうちの食卓の選択肢に上がったことありませんよ」
キャーリサ(従僕のくせに生意気だし……まるで、私だけが意識しているみたいじゃない……)
今日はここまでだし。
次回は数日中に。
とある高校行くネタ拾ってみました。ネタくれた人ありがとうございます。
え? キャーリサが制服着てない?
はは、御冗談を。キャーリサはバ
待たせてすまぬ。
いつも感想ありがとうございます。
今日も三十路一歩手前の乙女がきゅんきゅんします。
では今から投下
5日目
―――学園都市 第七学区 街中
五和(皆さんこんにちは。
間もなく日本にも冬が訪れようという季節。皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
私こと五和は今、緊急の用事で学園都市を訪れています。
何の用事か、ですか?)
五和「それは、上条さんの身に危機が迫っている予感がしたからですっ!!」 グッ!
ザワッ… ヒソヒソヒソ…
五和「あ……」 カァァ
五和(気合を入れ過ぎてしまいました……。
と、とにかく、何かとんでもないことが彼の周りで起こっているような気がしたのです。
上条さんに最後に会ったのは例の第二王女率いる騎士派によるクーデター以来。
最近彼に会っていないので、そろそろ会いたいなぁなんて思っていたのですが、何せ簡単には入れない学園都市。
今回こうして侵入出来たのもその用があったからなのです)
五和(実は今現在、英国では密やかに大きな騒動が起こっている最中です。
それは突然の第二王女の失踪。
市民の間には広まっていない情報ですが、私は女教皇様や教皇代理から話を聞かせて頂いたので知り得たことでした。
第二王女キャーリサ様の行先は、現在騎士派だけでなく清教派の皆さんも協力して探している最中で、
超音速旅客機が日本の学園都市に向けて飛び立ったという情報から、彼女の行先は概ね判明しています)
五和(そう。
学園都市で王女様が行くところなんて、上条さんのところしか有り得ません)
五和(母親であらせられる女王陛下は、
『あのバカ娘も家出に飽きたら帰ってくるだろうからほっといていいぞ。むしろすぐ迎えに行ったらつけあがる。
国は違えど、市民が普段どんな暮らしをしているのか知るいい機会なんじゃないか?』
とおっしゃったそうで、騎士団長さんにも待機命令が出ているらしいです)
五和(そこで、私がここに来た理由について話が移ります。
ぶっちゃけた話、上条さんが第二王女と仲良くなってしまわないか、とっても不安なんですっ)
五和(女教皇様も学園都市のお知り合いの土御門さんから何やら不安を煽るようなことを言われていたようで、
もう2、3日中にはここに訪れることでしょう)
五和(その尖兵としてまず私が来ました。
実際上条さんのところにキャーリサ様がいらっしゃる確証があるわけではないので、
一先ず様子を見るために送り込まれたのです。
もちろん志願したのは私ですけど……)
五和(そんな訳で、私は今上条さんのお家に向かって歩いている真っ最中。
久しぶりに彼の顔が見られると思うと、ドキドキが止まりません。
もしキャーリサ様がいなかったら、何日か滞在させてもらえるよう頼んでみたいです)
五和「そしてそのまま結婚、なんてことに……てへへ」
五和(失礼しました。妄想が加速しすぎて急展開を迎えてしまったようです。
彼の家までまだもう少しあります。
何か菓子折りでも買っていったほうがいいですね。
あの子も喜ぶでしょうし……)
五和「えーと……お土産さんはどこかに……」 キョロキョロ
キャーリサ「おいとーま! アレがゲームセンターとか言うやつか?
ふーん、この筐体は城で見たことあるな」
上条「城内にゲーセンあるのかよ……どんな王室だ」
キャーリサ「母上が清教派の最大主教からもらってくるの。
私はやったことないが」
上条「学園都市から送られてくるらしいとか土御門が言ってたな……」
五和「……?」
五和(何か聞き覚えのある声が聞こえた気がします。
いえいえ気の所為でしょう。確かにそろそろ放課後ですが……」
キャーリサ「とーま、これを取ってくれないか?
間抜け面が可愛いし」
上条「無茶言うなよ。上条さんクレーンゲーム苦手なんですよー」
キャーリサ「大丈夫、お前なら出来るの。もし取れたら頬にキスしてやるぞ」
上条「いや、いいです」
キャーリサ「お前! 王女の口付けだぞ! 嬉しくないの!?」
上条「そうじゃなくて、こんなの取るのに何千円かかると思ってんだよ。
買った方が安いって」
キャーリサ「むー、そーなのか……」
五和「」
五和(女教皇様、事件です。
上条さんとキャーリサ様が、それはもう憎たらしい程に楽しそうにクレーンゲームで遊んでます。
何だか年の離れた恋人みたいです……。
もうちょっと近くまで寄ってみましょう……)
キャーリサ「では私がやるの!」 チャリーン
上条「はは、まあ2、3回試してみればいいんじゃないか?
無理だって分かるからな」
ウィーン…ポイッ
キャーリサ「おい! 取れたぞ!」
上条「嘘!?」
キャーリサ「見たかとーま? これがお前と私の生まれ持った天運の差だし」 ドヤッ
上条「(´・ω・`)な顔のぬいぐるみ抱きしめながらドヤ顔されても……っつかマジですか」
キャーリサ「ではとーま。口付けをせよ」
上条「え」
キャーリサ「お前が取ったら私がお前にするという約束だったはずだ。
私が取ったのだからその逆だろー?」
上条「どっちにしろするのか……」
キャーリサ「そ、そんなに嫌か……?」
上条「い、いやそんなことはないけど……人が見てるし……」
キャーリサ「では後でも構わんし。言っておくが唇は駄目だからな。
そこはとっておきだ」
上条「分かってるって」
キャーリサ「ならいーの。あ、中にあるあの派手な箱は何なの?」
上条「プリクラだよ」
キャーリサ「ぷり……クラ? あ……あープリクラな! あれは白熱するな!」
上条「知らないならそう言えよ」
キャーリサ「お前如きに私が無知蒙昧で愚劣などーしよーもない馬鹿王女だと思われたら死にたくなるし」
上条「そこまで思わないって。でも俺達にとって普通のことでも、結構知らないことあるんだなーくらいには思うけどさ」
キャーリサ「だからこーして知ろーとしているの」
上条「別に面白いもんじゃないぞ?」
キャーリサ「そんなことは問題ではないの。何事も経験だしね」
上条「そうだな。んじゃ撮ってみるか?」
キャーリサ「撮る……? あー、写真機が中にあるのか。ふむふむ」
上条「まあ上条さんもそんなに使ったことは無いですけど」
キャーリサ「よしやってみよー! しかし……」 チラッ
上条「ん?」
キャーリサ「周りにいるのは女学生ばかりだし……。私のよーな成人して10年近く経つよーな女が利用していいものなの?
筐体の装飾も品の無い派手さだし、これは世間知らずな行動ではないの?」
上条「そんなん気にしなくていいだろ。
年齢制限なんて無いって。ウチの親だって二人で撮ったのメールで送りつけてきやがったぞ。
さすがに両親のプリクラ見せられるのはきつかったけど……キャーリサなら全然大丈夫だ」
キャーリサ「……そーか。じゃーお前に任せるの」
上条「はいよ。んじゃまずこっちだ」 バサッ
キャーリサ「個室なのだな。密室に連れ込んで、ミョーなことするなよ? ふふん」
上条「しませんっ!」
キャーリサ「冗談だ。さー、やり方を教えてくれ」
上条「はいはい。と言っても俺も詳しくは……まず映りを選んで……」
キャーリサ「美白で頼むし」
上条「十分白いだろ」
キャッキャッ! ワイワイッ!
五和「」
五和「」
五和「」
五和「」
五和「」
五和「ハッ! な、何が起こっていたんでしょう!?
今のは一体……? え……仲良くなりすぎてませんか……?」
五和(ま、まさか……キャーリサ様その財力に任せて上条さんを虜に……。
確かに生活に苦しい方ですし、美味しいものでも食べさせられたらコロッとなびいてしまうかも……?
私もそれを期待して毎回手料理には力を入れていたのに……。
い、いえそんな犬じゃあるまいし食べ物だけで……。
でも上条さん年上のお姉さんが好きらしいですし……。
キャーリサ様は見た目も華やかで美しい方ですから……そ、そんな……)
五和「そ、そんな訳ありません!!」
??「絶ッッッ対何かの間違いに決まってるわ!!」
五和「え……?」
??「ん……?」
五和「あ、あなた確か……」
??「げっ、あんた先月くらいにお風呂で会った女っ!」
五和「五和です……」
御坂「御坂美琴よ……あんた、何やってんのこんなところで」
五和「御坂さんこそ……柱の陰に隠れて……」
御坂「こ、これは……外歩いてたらアイツの姿が見えたから……その……」 ゴニョゴニョ
五和「わ、私もそうです……」
御坂「と、とにかく今大事なところなんだから邪魔しないでよね!」
五和「あ、あなたこそ! ……上条さんがキャーリサ様と……」
御坂「え? あんたあの女のこと知ってんの?」
五和「あ、いえ……」
御坂「やばっ、出てきた! 隠れるわよ!」 コソッ
五和「はいっ……!」 コソッ
五和(うー……なんかストーカーみたいで気が引けます。
ごめんなさい上条さん……)
キャーリサ「ふふっ……お前、なかなか大胆なことするな。ここでキスされるとは」
上条「いやキャーリサが抱き着いてくるから……」
キャーリサ「ポーズの参考画面にそー出てたではないの。
とか言って、嬉しかっただろー?」
上条「はい、嬉しかったです」
キャーリサ「よしよし、お前も分かってきたな」
上条「……じゃ、じゃあ次はこっちで落書きな」
キャーリサ「ふむ、興味深いの」
上条「上条さん絵心無いからなー……」
キャーリサ「安心しろ。美的センスの塊のような私に任せておくがいいの」
御坂「なんなのよあの女ぁ~! 急に出てきたと思ったらあいつといつの間に仲良くなってた訳!?」
五和「私も驚きです……よりにもよってどうしてあのお二人が……」
御坂「んで、あの女は誰なの?」
五和「……お、教えられません」
御坂「何でよ」
五和「それは……色々と事情がありまして」
御坂「お願い! 絶対誰にも言わないから……!」
五和「えと……」
御坂「……駄目?」
五和「ご、ごめんなさい……」
御坂「むぅ……仕方ないわねー……。でもあれってイギリスだかどっかのお姫様に似てない?
ちょっと前もニュースになってたし」
五和「!!」 ビクッ!
御坂「……え?」
五和「……」 ソワソワ
御坂「ほ、本当に……?」
五和「……だ、誰にも言わないで下さいよ……?」
御坂「えっ、な、何で……そんなのとあいつが知り合いなの……?」
五和「まあ色々とありまして……」
御坂「……ありえないっつの……」
五和「残念ながら……ありえたんです」
御坂「あいつ……今度は皇太子にでもなるつもりなの……?
誰彼構わず助けて首突っ込むのもいい加減にしなさいよねったく!」
キャーリサなかなか面白いな。よし、もー一回撮るの!」
上条「またかよ。もういいだろ」
キャーリサ「だって見ろとーま。あそこに衣装を貸してくれる所があるし」
上条「ん? あー、そうだな」
キャーリサ「……お前の見たいやつ着てやるぞ」
上条「み、見たいやつですか……」 ゴクリ
キャーリサ「うむ。ほらあっちの女学生が着ているアレなんてどーだ?
胸元なんかヘソまで来てるぞ。私があれ着たらどーなってしまうだろーな」
上条「あ、あの犯罪的な衣装をキャーリサが……」
キャーリサ「騎士派の連中には内緒だぞ? 騎士団長が荒れ狂うし」
上条「……」
キャーリサ「さーどーする。こんなチャンスは二度と無いかもなー」
上条「……何でも着るんだな?」
キャーリサ「王女に二言は無いの。私なら何を着たって着こなしてしまうし」
上条「よ、よし。じゃあアレを……」
キャーリサ「ん? ……え、お前アレは……」
―――
キャーリサ「よりにもよってこれを選ぶか……信じられないし……」
上条「ふっ、上条さんのささやかな仕返しですよ。
キャーリサが一番嫌がりそうなやつを選んでやった」
キャーリサ「嫌という訳ではないが……お前鬼だろー……。
泣きたくなるし……」
上条「いや、思ったより全然イケるぞ」
キャーリサ「見え透いたお世辞は止せ……私が……女学生の格好など……くっ」
上条「え、でもお前昨日は制服着てやるとか言ってただろ」
キャーリサ「そ、それはまさか本当に出てくるなんて思わなかったからだし。わ、私を何歳だと思ってるの……!」
御坂「アウト! あれはアウトよね!!!」
五和「正直イメクラにしか見えません……いえ、イメクラがどんなものかなんて知らないですよ?」
御坂「あの年でセーラー服なんて……年考えなさいよね……」
五和「でも着こなしていらっしゃいますよ……?」
御坂「外人はこれだから……。スタイル良すぎじゃない」
五和「私もちょっとは自信あったのに……」
御坂「え?」
五和「い、いえ何でも……」
キャーリサ「は、早く撮ろー。拷問だし……ほら、クスクス笑われているの」
上条「んなこと無いって。可愛いと思うけどな」
キャーリサ「むー……こんな時ばかりそんなことを言うな……ほ、ほら中入るぞ……」 グィッ
上条「お、おう……」
五和「……」
御坂「……」
五和「先ほどより距離が縮まっていませんでしたか……?」
御坂「そう……ね。なんか惨めな気分になってきたわ……」
五和「確かに……虚しいですね、私達」
御坂「弱気になってどうすんのよ!」
五和「そ、そうですよね!負けちゃ駄目ですっ!」
―――学園都市 街中
上条「あーもう暗くなってるな。早くスーパー行かないと」
キャーリサ「まったく……お前という奴は恥ずかしい目にあったし」
上条「もう一枚撮りたいって言ったのはお前だろキャーリサ」
キャーリサ「そーだけど。あんな目に合わされるとは思わなかったの。屈辱だし……」
上条「その割には笑顔だったな」
キャーリサ「カメラを向けられると勝手にそーなるように体が出来上がっているの。
王女たる者、いつどこで人に見られているやもしれんし」
上条「じゃあこの前手繋いだりしたのってヤバいんじゃないのか?」
キャーリサ「大丈夫だ、こんなところではそうそう気づかれん。それ以前に、キスもしただろー?」
上条「そ、そうでした……」
キャーリサ「お前、騎士団長にバレたら殺されるな」
上条「言わないで下さいお願いします」
キャーリサ「黙ってて欲しければもっと私に優しくするの」
上条「こんなにへりくだってるのにまだ足りねぇのか……」
キャーリサ「ふふっ、好きな相手にはいくらでも優しくされたいものよ」
上条「好きな相手って……キャーリサは上条さんのこと好きなんですかー?」
キャーリサ「…………」
上条「え、そこ黙るのか」
キャーリサ「正直……分からないの」
上条「い、いや冗談だぞ? そんな深刻な顔しないでくれ」
キャーリサ「冗談? お前は冗談でそんなことを訊いたの?」
上条「あ、悪い……」
キャーリサ「……まーいいけど。私はお前のことは嫌いではない。それは間違いないし」
上条「そっか……ありがとな」
キャーリサ「むー、素直だな……」
上条「ぷっ、お前が冗談嫌がったんじゃねぇか」
キャーリサ「ふふっ、そーだな」
五和「……何でしょう。とても入り込めない雰囲気ですよ」
御坂「頭痛くなってきたわ……。ねぇ、あの二人ってどんな知り合いなの?」
五和「えっと……キャーリサ様が英国でちょっとした騒動を起こされて、上条さんもそれを止めるのに協力して……」
御坂「あ、もういいわ。やっぱいつものパターンね。元々あんなに仲良かったの?」
五和「とんでもない。上条さん、キャーリサ様のお顔をぶん殴って顔面骨折寸前までいったらしいですよ」
御坂「あ、あいつって結構外道なことするのね……」
五和「不可抗力だったみたいですけど……」
御坂「ってことはもしかして、私をキズモノにした責任とれとか言われて脅されてるとか!?」
五和「まさか……キャーリサ様は王室の大切な王女様ですよ?
上条さんには失礼ですけど、一般人がとてもお近づきになれるような方ではありませんし、
賠償を要求されても交際を強制されるなんて有り得ませんよ……」
御坂「でも向こうから来るってのはあるかもしれないわよね」
五和「それは……あるかもです」
御坂「と、とにかくもう少し様子を見ましょう。あいつ鈍感だけど押しには弱そうだからコロッと靡いちゃうかも知れないし……」
五和「御坂さんも上条さんのこと好きなんですか?」
御坂「ふぇっ!? す、好きって……そ、そんなんじゃないけど……あいつが誰かにとられちゃうのはちょっと……ゴニョゴニョ」
五和「で、ですね……行きましょう」
―――学園都市 スーパー
ガヤガヤガヤガヤ… ワーワー!
キャーリサ「とーま! 見てくれ! 今日は一人一パックの豆腐を手に入れたの!
私の初勝利だし!!」
上条「本当か!? すげぇなよくやったキャーリサ!! お前も立派な特売戦争の戦士だ!」
キャーリサ「うん! これが勝者の見る景色か。悪く無いし」
上条「そりゃ大げさだが、何にせよ助かったよ。今日はあっちこっちで特売やってるから、一人じゃ回り切れなかったんだ」
キャーリサ「私は役に立ったか?」
上条「ああ、ありがとうなキャーリサ!」
キャーリサ「そーか……! そーか!! 嬉しーの。とーま、もっと私を崇めろ。
私がいてよかったか?」
上条「ああ、キャーリサがいてくれてよかったよ」
キャーリサ「ふふっ……お前に迷惑ばかりかけていた気がするが、よーやく挽回できたよーだし」
上条「迷惑かけてるっつー自覚あったのか」
キャーリサ「多少はね。気を遣ってもらっていることには感謝しているの」
上条「やめてくれよ今更じゃねぇか。さ、買うもん買って帰ろう」
キャーリサ「あ、あの猫の餌はいいのか? 切らしていたと思うが」
上条「忘れてた。スフィンクスの餌のことなんてよく覚えてたな」
キャーリサ「お前が学校行ってる時は猫と遊んでるし。
一向に懐かんが……」
上条「今日は餌やってみるか? ご飯くれる相手だって分かると懐くぞ」
キャーリサ「現金なものだ。でもやってみたい」
上条「インデックスがいなくてあいつも寂しがってるだろうしな」
キャーリサ「禁書目録の愛猫だったの。奴はどうしている?」
上条「小萌先生から毎日話は聞いてるよ。先生ん家の居候と仲良くなったらしい」
キャーリサ「まだ仲直りは出来ないの?」
上条「いや、さすがにもう怒ってはいないみたいだけど、まだ戻ってくるつもりは無いみたいだな」
キャーリサ「私の所為か……」
上条「キャーリサというより上条さんだと思います」
キャーリサ「禁書目録には悪いことをしたの。お前を独り占めにしている」
上条「いやまあ……そう言っちまうとなぁ……」
キャーリサ「安心しろ。私も適当なところで切り上げて帰るつもりだし。
すまないがもー少しだけ置いてくれ」
上条「好きなだけいろよ。インデックスだってキャーリサがいようがいまいが、戻りたくなったら戻ってくるさ」
キャーリサ「そーか……」
上条「上条さんも、もうキャーリサがいる生活に慣れ始めてるからな」
キャーリサ「贅沢だな。王女と生活を共に出来るなど、この上無い誉だし」
上条「はは、お前が帰っちまったらそんな台詞も聞けなくなるんだな」
キャーリサ「寂しーのか? 殊勝なことを言う」
上条「少しな」
キャーリサ「……そーか」
五和「また良い雰囲気になってますよ」
御坂「何なのよあいつらはー! 人目もはばからずいちゃいちゃと……」
五和「イチャイチャという訳ではないですけど、見てるの辛いですよね」
御坂「もう帰ろうかな……」
五和「私も……」
キャーリサ「とーま、私今日はワインが飲みたいし、持ってくるからそこでちょっと待ってろ!」
上条「おー」
御坂「げっこっち来る!」
五和「あっ……」 バッタリ
キャーリサ「んっ……?」 バッタリ
御坂「げっ……」
五和「きゃ、キャーリサ様……」
キャーリサ「んー? お前、どこかで見たことあるな。そっちのはミサカミコトだ」
御坂「よく覚えてるわね」
キャーリサ「苦労しているよーだからな」
御坂「?」
キャーリサ「あー、お前も思い出したぞ、天草式の女だ」
五和「ど、どうも……」
キャーリサ「お前達、こんなところで何をしているの?」
五和「い、いえその……」
キャーリサ「もしかしてとーまに用か? なら今呼んできてやる」
五和「ち、違うんです!」
キャーリサ「? では私なの? もしや私を連れ戻しに……」
御坂「じゃなくて! あんたとあいつは恋人だって言ってたけど、本当なの!?」
五和「こ、恋人!? それってどういう……」
御坂「あんたは黙ってて!」
五和「は、はい……」
キャーリサ「……ほほー」
御坂「な、何よ……その思わせぶりな笑みは」
キャーリサ「私ととーまの関係が気になって仕方なく、それでわざわざ追いかけてきて監視していたというわけか?」
御坂「!」 ギクッ
キャーリサ「図星のよーだし。安心せよ、私ととーまはまだお前達の案じているような関係には至ってないの」
御坂「そ、そう……」 ホッ
五和「ま、待って下さい。今、『まだ』っておっしゃいましたね……」
キャーリサ「耳が良いな。申し訳ないが、お前達にとーまは渡さないし」
御坂「!」
五和「や、やっぱりキャーリサ様は上条さんのこと……」
キャーリサ「それは分からん」
御坂「わからんってどういうことよ! 自分のことでしょうが!」
キャーリサ「そーだが、何ぶん初めてのことでな、折り合いも上手くつけられないの」
御坂「何よそれ」
キャーリサ「が、お前達には渡したくない。とーまは……私のものだし」
五和「このまま見てろって言うんですか……?」
キャーリサ「なあ頼む……奴を譲ってくれないか……?」 ウルッ
御坂「なっ!」
五和「そ、そんなこと言われても困りますっ……」
キャーリサ「なんて言うと思ったか?」
御坂「っ!」
五和「……」
キャーリサ「『恋』とは戦争らしーの。お前達の好きにしろ。
だが、この『軍事』のキャーリサ。本気で行かせてもらうし。
こと戦争に於いて、二度と敗北を喫する訳にはいかないしね」
御坂「ライバル宣言って訳ね……」
五和「望むところです……」
キャーリサ「蹂躙してやるし。かかって来い、小娘共」
タッタッタッ…
上条「おーいキャーリサまだかー? ワインこっちあったぞー。
って何やってんだよそんなとこで……あれ、御坂に、五和!?」
御坂「あ……」
五和「上条さん……」
キャーリサ「待たせてすまないの。こいつらが私と話したいと言うものだから」
上条「ふーん……。五和はどうしたんだ? 学園都市に何か用か?」
五和「い、いえキャーリサ様の捜索が始まっているので、学園都市に調査に来たんです」
キャーリサ「私を連れ戻しに誰か来るの?」
五和「それは……分かりませんけど。女教皇様は来られるかも」
キャーリサ「聖人か……まずいな、力づくで連れ帰られるのはかなわん」
上条「まあ俺は迷惑してないから、神裂にも無理しなくていいぞって言っといてくれ。
あ、でも王女様が外にいるのはまずいのか……?」
御坂「そりゃまずいでしょ」
上条「って言われてるけど……」
キャーリサ「お前が私をかくまえばいい話だし。
とーま、お前から離れたくないの」 ダキッ
上条「!!!!」
御坂「なっ!」
五和「ちょっ!」
上条「は、ははは……五和、くれぐれも騎士団長には内緒にしといてくれな。
上条さん寿命もゼロにされちゃうから」
五和「……」
上条「五和?」
五和「はっ、はい! わかりました……」
上条「じゃな二人とも。御坂も道草食ってないで帰れよ」
御坂「道草ってねぇ……子供か私は!」
キャーリサ「さーとーま。子供のことなど放っておいて、帰って大人の時間を堪能しよーじゃないの」
上条「上条さんお酒飲めませんよ」
キャーリサ「そのほーが都合が良いし。ではな、怪しい者に声をかけられても付いて行っては駄目よ、少女達。
行こーとーま。腹が減ったし」
上条「お、おう……」
御坂「くっ! あのオバサンがぁ……!」
五和「許せないですね……」 ゴゴゴゴゴゴ…
御坂「……ビクッ」
五和「上条さんをこのまま渡すわけにはいきません! 大丈夫です、私達には若さがありますからっ!」
御坂「そ、そうよね! あいつだって年が近い方がいいに決まってるわ!
ったくあのオバサン何なのよ、『分からん』とか言ってたくせにあいつのこと好きなんじゃない。
それとも私達への当てつけかしら」
五和「あ……」
御坂「ん? 何?」
五和「い、いえ……」
五和(キャーリサ様、『恋』だとおっしゃってました……本当は、とっくに自覚しているんじゃないですか?
けど、それならわざわざ私達を焚きつけるようなことを言う理由が分からない……。
『軍事』を司るキャーリサ様はこれを戦争だと言いました。
だったら、真正面から正々堂々なんて正攻法を使われるとは思えないです。
勝利を確信してるから……? それとも別に理由があるんでしょうか……?)
御坂「あ、ヤバ、門限過ぎてる。黒子に電話しないと……。
私帰るね、あんたは?」
五和「あ、私はホテルをとってますから」
御坂「そ。んじゃね」
五和「はい。お気をつけて」
スタスタスタ…
五和(……私も宿に戻って女教皇様に報告をしないと)
五和「――――!!!??」 バッ
五和(い、今一瞬……尋常じゃない魔術の気配を感じました……。
キャーリサ様……? それとも別の誰かがこの学園都市に……)
今日はこんなもんで。
大キャーリサ王女が上条さんを欲しておられるようです。
次もまた数日中に。
おかしいな……書いてる間にキャーリサに情が移ったか何か知らんけど可愛く見えてきたし。
こんばんは。
ネタくれる人ありがとうございます。最後までの流れは決まったので、後は拾えるやつ拾いつつ風呂敷ちょっとだけ広げて畳みます。
というわけで今日もお付き合いよろしくお願いしますね。
―――学園都市 上条の部屋 脱衣所
キャーリサ「ふぅ……」
キャーリサは浴室前の脱衣所で、一糸纏わぬ姿で鏡を覗き込んでいた。
ゆったりと風呂にでも浸かって今日の疲れを落とそうと考えていた矢先、キャーリサは先ほどのスーパーでの一件を思い出してしまったのだ。
キャーリサ(やれやれ……大人げなくあの娘たちを挑発してしまったの)
上条当麻に思いを寄せる二人の少女。
彼女らに向けてキャーリサは高らかに宣戦布告をした。
自らの胸中すらロクに理解出来ぬままにだ。
キャーリサ(ムキになってしまうとはな……私もいよいよ後戻りできなくなってきたし)
理解出来ない。いや、それはきっと嘘だと自覚していた。
城を飛び出して、迷うことなく彼の元へ向かったその時からきっと兆候はあったのだ。
キャーリサは鏡の中の自らの身体を眺める。
大きく膨らんだ胸、細く引き締まりくびれた腰。形の良いお尻と、スラリと長い脚がそこにある。
だがキャーリサは、生まれて初めて誇示すべき己の身体を憎らしく思った。
キャーリサ(……この体が恨めしーぞとーま。
ハイティーンであるあの娘達に比べて、やはり年齢を感じるの。
まだまだいけると思っていたが、10代の子供と比較すると勝ち目は薄いか……)
肌の張りやツヤはどうしても10代である彼女達には劣って見える。
普段からしているように掌で胸を手繰り寄せ、押し上げてみるも、重力の残酷さをまざまざと見せつけられる結果に終わるだけだった。
深く溜息をつく。
常に自身に満ち溢れたキャーリサの表情が、わずかな陰りを見せた。
キャーリサ(ここ3日ほど、同じことを考えているな。
とーま……あと10年早く会いたかった。そーすれば、英国随一と詠われる私の美貌でお前を虜にしてやったのに)
同じ土俵で勝負に出れば、自分があの少女達に勝てぬことは十分に理解出来ていた。
それでも、彼を手放したくはなかった。
それはキャーリサにとっての意地だった。
もう少しで手が届きそうなものを、横からかすめ取られるような真似はプライドに懸けて許せない。
上条に対する想いよりも、己の矜持に従うことを優先しているという事実が、キャーリサを自己嫌悪に陥らせていく。
もっと真っ直ぐに何もかもをかなぐり捨てるように恋に溺れたいのに。
そうするには彼女はあまりに年を重ねすぎた。
そんな恋愛を経験することなく大人になってしまったことが、彼女の身動きを封じていたのだった。
キャーリサ(臆病者め。勇敢とは程遠いぞお前は……所詮私も、ヴィリアンと何も変わらぬ絵本の中のお姫様という訳か?
いや、或いはそれ以下だ。私は……何も結果を残していないし)
鏡の中の己に悪態をつくキャーリサ。
攻撃を好む王女は、彼への想いが積もる程に、前には進めなくなっていることに気づかされた。
その時。
上条「~♪」
ガラリと、浴室の引き戸が勢いよく開けられそこから上条が姿を現した。
キャーリサ「キャァッ!!?」
彼女自身でも驚くほどに甲高い嬌声があがった。
こんな声を出すことなど、ここに来た当初なら絶対に有り得なかったというのに。
上条「うぉっ!! ご、ごめんキャーリサ!! 風呂入ったと思ってた!」
焦り、慌てて扉を閉める上条。
キャーリサ「な、何の用だ! 私の下着でも漁りに来たの!?」
キャーリサは床に落としていた服を拾い上げて体を隠し、扉の向こうに向けて問いを投げかける。
上条「違いますっ! バスタオル持って来たんだよ!」
わずかに開けられた扉の隙間から、先程まで干してあった真っ白いタオルが投げ入れられた。
キャーリサ「そ、そーか……ありがとう」
上条「あ、ああ……」
それを拾い上げ、礼を告げると、扉の向こうからぎこちない声が聞こえた。
顔を見ずとも照れていることが丸わかりだった。
キャーリサ「……とーま」
そんな彼の態度が我慢ならぬほどにむず痒く、愛らしく思えたキャーリサは、意を決したように唇を一度噛みしめると扉に飛びつくようにしてそれを開いた。
上条「うわぁっっ!!!!」
裸のままの彼女の姿を見て、上条は飛び上がって驚愕する。
そんな状態で出てくるなど、彼は夢にも思わなかったのだ。
キャーリサ「……化け物に出くわしたような反応は止せ……正直凹むし」
少しくらいは照れてほしいが、必死に目を逸らされるのも悲しい複雑な乙女心。
30を目前にした女が乙女などと言うと笑われると思いながらも、キャーリサは正真正銘の乙女なのだからいいだろうと自らに言い聞かせた。
上条「そ、そんなつもりじゃないですよ……? 上条さん耐性が無いもので……」
顔を明後日の方向に向けながら、ブツブツと弁解をする上条。
その言葉を遮るように、キャーリサは震える声で言葉を紡いだ。
キャーリサ「こ、こっちを見ろとーま……」
キャーリサのその言葉に、上条の肩が跳ね上がる。
上条「ええ? だ、だってキャーリサ今裸なんじゃ……」
耳まで赤くしながらチラチラと彼女の方に視線を送っている。
キャーリサ「構わないの……見て、欲しいし」
キャーリサにとっては一世一代の告白だった。
あれこれ悩むのは好きでは無いが、意外と繊細で生真面目なキャーリサはそれでも悩んでしまう性分だった。
それを自覚し、克服したいと考えていたキャーリサにとっては、さほど不自然な行動でも無い。
悩むよりも、本人に訊いた方が速い。
そんな理由で彼女にとっては十分だった。
上条「え……?」
キャーリサ「わ、私はお前の目にどー映るの!?」
ましてや日に日に想いを積み重ねる相手。
恥ずかしくはあっても、嫌であろうはずが無かった。
そして思い切って尋ねる。
上条「あ、あの……?」
キャーリサ「正直に答えよ……。私は……その……そそるか?」
上手く言葉に表せなかったが、結局はそういうことなのだ。
上条当麻という一人の男にとって、キャーリサという女に魅力を感じることが出来るのか?
彼女が知りたいのはただその一点だった。
上条「は?」
キャーリサ「わ、私を抱きたいかと聞いてるの! 速やかに答えよとーま!」
呆ける彼に詰め寄る。
胸も、二の腕も、お尻も、太股も、全てを曝け出してキャーリサは答えを問う。
彼女が求めていたのは、そうして得ることの出来る希望では無かったのかもしれないが。
上条「は、はい……とっても魅力的だと上条さんは思いますが……」
キャーリサ「ほ、本当だな……?」
その答えを聴いて。キャーリサは胸を撫で下ろすと同時に言い知れぬ不安も感じていた。
上条「当たり前だろ……何言ってんだよ……」
もやもやと胸に立ち込める黒い暗雲。
その意味を彼女は理解していたが、上手く言い表すことは出来なかった。
キャーリサ「ん、悪かった……閉めていーぞ」
彼が女性として意識してくれることは嬉しかった。
上条「あ、ああ……新手の生殺しか……?」
しかし。
キャーリサ「そーだ」
冗談めかして応えるキャーリサの胸中はただただ複雑だった。
上条「ひでぇ! さっさと風呂入れよ、風邪ひくぞ」
キャーリサ「ふふっ、覗くなよ」
上条「覗きませんっ!」
毎日のように繰り返す軽いやりとりで、和やかに扉を閉める。
キャーリサ「…………」
そして彼の顔が見えなくなった瞬間、キャーリサの表情に影が落ちる。
キャーリサ(……参るし。何を聞いているの私は……。勝ち目が無いと分かっていれば、撤退も出来るというのに……)
いっそ興味の対象ですら無ければ、この共同生活にもさっさと見切りをつけることも出来たかもしれない。
あの少女達と、年甲斐なく張り合う必要も無くなったのかもしれない。
キャーリサ(お前がわずかな勝算をチラつかせるから……私はお前を追ってしまうし)
しかし。
そうはならなかった。
彼がそう応えるしか無かったとしても、その状況を作り上げたのは彼女自身。
キャーリサ(駄目だ、お前と日々を共にするほどに、本気になっていくの)
結局、彼女は上条に想われたくて。
キャーリサ自身だけが彼を意識しているのが辛くて、明確な彼との合意が欲しかった。
一人の少年と、女が、一つ屋根の下で暮らしているのだという事実を確かめ合いたかったのだ。
キャーリサ(とーま……本気にしていいの? )
キャーリサは閉じた扉の向こうに問いかける。
締め付けるように彼女を苛む原因不明の胸の痛みの理由が分かった今、彼女は己の持ち得る全てを賭して戦いに臨まねばならないことを理解したのだった。
キャーリサ(……では征くとするの。弱気はここまでだし。
例えこの先に待っているものが何であろーとも、これがただひと時の幻想であろーとも、せめてお前に抱いた感情に誠実でいたいの。
これはあの娘達と私の戦いではない。
お前と私の戦いだ、とーま
本気にさせたのはお前だし……後悔するなよ……)
―――学園都市 上条の部屋
上条「よーし、そろそろ寝るぞー」
キャーリサ「お、おー……」 フルフル
上条「あん? どうしたキャーリサ?」
キャーリサ「み、見てくれとーま。スフィンクスが……私の膝で……」
上条「あ、寝ちまったか。いいよ、そのままじゃ立ち上がれないだろ。起こしてくれ」
キャーリサ「可哀想ではないの。それにこれは……か、かわいーなぁ……」 ホゥ…
上条「キャーリサって猫好きなんだ。ライオンとか虎とか好きそうだけど」
キャーリサ「ネコ科でもえらい違いだな。これは誰が見たって可愛いだろー」
スフィンクス「……ナー」 ピョコンッ
キャーリサ「ほら、お前が話しかけるから起きてしまったじゃない」
上条「はは、悪い悪い。でもスフィンクス、キャーリサが餌くれると分かった途端コロッと懐いたな。
現金な奴だ」
キャーリサ「餌に釣られて動くとは、傭兵のよーだな」
上条「おい、一瞬アックアが猫耳着けてるの想像しちまっただろ」
キャーリサ「そーいえば奴は傭兵だったな。それこそ猫ではなく獅子の類だが」
上条「あいつがヴィリアンにプロポーズしたって本当か?」
キャーリサ「それは騎士団長のやつが誇張して勝手に言ったことだし。
ヴィリアンは頭がお花畑だから本気にしてるがな」
上条「おいおい、まずいんじゃないですかそれは。アックアがたまたま立ち寄ったりしたら……」
キャーリサ「どーだろーな。ウィリアムは断るだろーか」
上条「……無言で困ってるアックアが想像つくな」
キャーリサ「……ウィリアムがお前の義理の弟か」
上条「?」
キャーリサ「お前が私の伴侶となれば……」
上条「!?」
キャーリサ「……なんてな」
上条「か、上条さんはまだ高校生ですのことよ! 結婚できません!!」
キャーリサ「卒業後なら構わんということか?」
上条「い、いやそーいうのは……お互いのことをもっとよく知ってからですね……」
キャーリサ「おー、何が知りたい。答えてやるし」
上条「え、えーっと……そ、それよりアックアが義弟って……」
キャーリサ「意外と仲良くやれるかも知れないし。奴は案外お前のことは嫌いではないと思うしね」
上条「仲良くって……」
アックア『兄者、トレーニングに付き合うのである』
アックア『兄者、共に汗を流すのは心地よいものであるな』
アックア『兄者、サウナに行くのである』
アックア『兄者、ここの筋肉を触ってみるといいのである。どうであるか?』
アックア『兄者、ウィリアムと……いや、ウィルと、呼んでほしいのである……』
アックア『兄者……今日は一緒に寝ても』
上条「ぉおおおおおおお!!!!!!!! らめぇえええええええええ!!!!!!!!!!!」
キャーリサ「ど、どーした」
上条「おぞましいものを想像してしまった……おぉ……それはいかん、いかんですよー……」
キャーリサ「ではもっと建設的なことを考えると良いの」
上条「建設的? 何だよ」
キャーリサ「例えば……わ、私との新婚生活などどう?」
上条「キャーリサと……新婚生活……ゴクリ」
キャーリサ『とーま、起きよ、食事の用意をせよ』
キャーリサ『とーま、美味いし。よく出来たな、ほめてやろーよしよし』
キャーリサ『とーま、行ってくるがいいの。お出かけのキスでもしてやろーか?』
キャーリサ『とーま、あの店は何なの? おー! 行ってみたいし! 着いてこい!』
キャーリサ『とーま、今日の特売は牛乳だぞ。確保出来たし! この私を崇めろ!』
キャーリサ『とーま、風呂にするの。ふふっ、覗くなよ?』
キャーリサ『とーま、そろそろ寝るとしよー、こっちへ来い』
上条「あれ、今と大して変わらなくないですか?」
キャーリサ「なっ!」
上条「ん?」
キャーリサ「そ、そーか……私達は既に夫婦と言っていいのか……」
上条「いやそれはどうだろう」
キャーリサ「じゃなくてもっとあるだろー。夫婦だぞ? 想像の中でなら私に何したっていいんだし」
上条「な、何しても……ゴクリ」
キャーリサ『とーま……この偉大なる第二王女に永久の愛を誓え……』
キャーリサ『とーま……我らもそろそろ跡継ぎを作るべき時だと思わない?』
キャーリサ『とーま……ここまでしているの……わかるな……?』
キャーリサ『とーま……初めてだし、優しく』
上条「ハッ! な、何でもないですっ!」
キャーリサ「?」
上条(アックアだ……こういうときはアックアを思い浮かべるんだ……鎮まれ俺の幻想殺しっっ!)
キャーリサ「とーま……」
上条「っ!」
上条(キャーリサがいつの間にかこんな近くに……さっき変なこと想像しちまったからな。
妙に意識してしまうぞ……)
キャーリサ「今日はもー寝るぞ。こっちへ来るの」
上条「あ、ああ……」
キャーリサ「ふふっ、どーしても我慢できなくなったら胸くらい触らせてやるぞ?」
上条「えっ!?」
キャーリサ「期待してるし、とーま」
上条「……ゴクリ」
上条(ここ2日くらいは大人しかったキャーリサが今日になって積極的になった……。
上条さん誘われてるのかな……?)
キャーリサ「すっかりこのベッドにも慣れたな。そら、電気を消してくれ」
上条「あ、ああ……わかった」
カチッ モゾモゾ…
上条(いやいや……これこそ見え透いた罠だろ。
胸なんか触ろうもんなら上条さんの指全部無くなっちゃいます。
そろそろ学習しないとな……)
上条(でも今日は一段と胸が強調されてたな……。あんなパジャマも買ってたのか……。
あの柔らかそうな膨らみは上条さんには刺激が強すぎて悶々とします)
上条(いかんいかん、アックアが一人、アックアが二人、アックアが三人……冷静になれ……)
上条(あー!!! 寝れねぇえええ!!!!!!)
―――
キャーリサ(ちょっと誘い方が露骨すぎたか……?)
キャーリサ(いや、こいつかなり鈍感だし。これくらいで丁度いいはずなの)
キャーリサ(私は構わないのとーま。手を出して来い。
さすがにヴァージンをくれてやるにはまだ少々早い気もするが、胸や尻くらいなら触ってもいいし。
さー、愛と欲望のままに突っ走るがいい。ここは年上の私がリードしてやるし)
上条「……」 ソワソワ
キャーリサ(悶々としてるのは伝わってくるし……。
とーま、そんなに我慢しなくてもいいんだぞ)
上条「……」 モゾモゾ
キャーリサ(なかなか辛抱強い奴だし……。どれ、ちょっとすり寄ってやろー) ピトッ
上条「!」
キャーリサ(ふふっ、動揺してるの……辛抱たまらんだろー? 来い、とーま)
上条「スー……ハー……」
キャーリサ(くっ……深呼吸とは……冷静さを取り戻そうと必死のよーだし。
ならばその鼻と口に私の髪を押し当てるまでよ) グッ
上条「!」
キャーリサ(どーだ。良い匂いがするか? こんなこともあろーかとシャンプーもトリートメントも念入りにしてあるし。
ムラッと来るだろー? 今なら許してやるぞ)
上条「クンカクンカ……フゥ」
キャーリサ(逆に落ち着かせてしまったか……? 汗の匂いとかのほうが興奮したんだろーか?
手ごわい奴め……)
上条「…………」
キャーリサ「……?」
キャーリサ(反応が……ま、まさかこいつ……)
上条「スピー……」 zzz…
キャーリサ(寝やがっただと……お、おい……私の高ぶった気持ちはどーなる……)
上条「スピー……」 zzz…
キャーリサ(くっ……可愛いし……スフィンクスに負けずとも劣らないの……。
あーっもうっ! 私が我慢できないのっ!) ピトッ ギュッ!
上条「コォォオ……」 zzz…
キャーリサ(あー……落ち着くし……。だが許さんぞとーま……私のせっかくの好意をお前……)
上条「……ムニャムニャ」 zzz…
キャーリサ(……まーいい。説教は明日だ。ふふっ、先に寝た罰だし。勝手に腕枕にしてやるの。
腕の感覚が無くなるまで使ってやるから覚悟するがいい)
上条「ウーン……」 zzz…
キャーリサ(おやすみ、とーま)
6日目
―――学園都市 上条の部屋
チュンチュンチュン…
キャーリサ「起きよとーま。お前は私に何度起こされれば気が済むと言うの?
いー加減にしないと王女の逆鱗に触れるぞ」 ギュムッ
上条「うむっ!! な、なんだっ……!?」
キャーリサ「お前が何度言っても聞かないからな、オシオキだし。
あ、もしかしてお前顔踏まれて興奮するタイプの奴か? それは困ったの」
上条「あ、あの……」
キャーリサ「ん?」
上条「パ、パンツが見えております王女様……」
キャーリサ「見せてるんだし馬鹿者。朝なんだからどーせ勃ってるだろー?
そっちも踏んでやろーか」
上条「上条さんを開発しようとするのやめてもらえませんか」
キャーリサ「ふん、では支度を整えて朝食にせよ」
上条「? な、なんか怒ってるか?」
キャーリサ「……怒ってなどいない!!」
上条「えー……。でも何か雰囲気が棘棘し……」
キャーリサ「うるさいっ! お前が悪いんだし!」
上条「上条さんてばまた何かしちゃったんでしょーか……?」
キャーリサ「何もしなかったのが悪いの」
上条「は?」
キャーリサ「ふんっ、遅刻するし。早くせよとーま」
上条「お、おう……?」
キャーリサ「今日は私も出かけるの」
上条「おいおい、もう学校は……」
キャーリサ「誰がお前のいる学校など行ってやるものか。
そーではない。帰国するにあたって、土産でも物色しよーかと思ってるの」
上条「あ、もう帰るのか?」
キャーリサ「お前次第だし」
上条「俺? どういうことだよ?」
キャーリサ「とーま、共に英国へ渡るの。お前を……母上に紹介したいし」
上条「女王様に? いや知ってるし、お前の姉ちゃんも妹も」
キャーリサ「そーではなくて……その、そーいう意味だ」
上条「そういうって何だよ」
キャーリサ「だぁ! まどろっこしい! お前それ本気で言ってるならビョーキだし!」
上条「人を病人扱いすんなよ。ちゃんと話してくんなきゃ分からねぇっての」
キャーリサ「だ、だからっ!! 私と―――」
ピンポーンッ…
キャーリサ「っ……」
上条「誰か来たみたいだな。はーい今開けますよーっと」
スタスタスタ…ガチャッ
御坂「おっはよー♪ 一緒に学校行かなーい!?」
五和「おはようございます上条さんっ! 朝ごはんいかがですか!?」
上条「うわっ! な、なんだ二人とも!」
ダッダッダッダッ!
キャーリサ「待つがいい! お前達、何をしているの!」
御坂「あらオバサンいたのー? こいつ今から学校だから迎えに来たのよ文句ある!?」
五和「上条さんこれから学校なのに家事するの大変ですよね! あと私がやっておきますから!
夕飯も作って待ってますし! お昼のお弁当もこの通りですっ!」 ズィッ!
上条「お、落ちつけ二人とも」
キャーリサ「ふんっ。来い、とーま。食事を続けるの」 グイッ
上条「おわっ! 引っ張るな! 首締まるだろ!」
御坂「ちょっ、まだ話終わってないわよ!」
五和「上条さんを独り占めしないでくださいっ」
キャーリサ「キャーキャー五月蠅い小娘達だし。朝くらい静かに出来ないの?
見苦しーの」
御坂「なっ……よ、余裕ですって……?」
五和「完全に馬鹿にされてますね……」
キャーリサ「馬鹿者。功を急ぎ過ぎだ。『私達の』生活に土足で踏み込むな、鬱陶しーな。
とーま、本当に時間が無くなるの、私も手伝うから速やかに朝食を準備するぞ」
上条「何の話なんだか……。まぁとりあえずそれが先決だよな。
なぁ、お前らも食ってくかー?」
キャーリサ「っ!!」
御坂「ふっ……墓穴掘ったわね。うん、食べる食べるー!」
五和「チャンスですねっ……いただきます上条さんっ!」
上条「いいよなキャーリサ?」
キャーリサ「……構わないの。子供の食事の用意くらい、つ、妻の役目だし」
上条「えーと卵卵っと……」
キャーリサ「……むー……」
御坂「プッ……ねぇ、私も手伝おっかー?」
五和「わ、私も」
上条「いやこのキッチンそんな広くねぇし、座って待ってろよ、お客だろ」
御坂「う、うん……チッ、こんなこともあろうかと可愛いエプロン持ってきてたのに」
五和「上条さんとドキドキ密着お料理が……」
キャーリサ「ふっ……」
御坂「くっ!」
キャーリサ「とーまとーま」
上条「ん?」
キャーリサ「指を切ってしまったの。舐めろ」
上条「ええっ!?」
御坂「!」 ガタッ!
五和「!」 ガタッ!
キャーリサ「痛くてかなわんし。お前の治療が必要なの」
上条「い、いや自分で……」
キャーリサ「お前に舐めて欲しーの……駄目か?」
上条「だ、駄目じゃないですっ!」
キャーリサ「いー子だなお前は。そら」
上条「はい、失礼します……」 ドキドキ…
チュパ… チュプ… ペロペロ
キャーリサ「ぁっ……気持ちいーぞ、んっ……とーまぁ……」
上条「か、上条さんは何をさせられているんだ……」 ペロペロ
五和「あ……あわわ……」 ドキドキ…
御坂「そ……そこまでやるの……? この女馬鹿じゃないの……」
上条「こ、これでよろしいでしょうか……?」
キャーリサ「……ん、ごくろー。……パクッ」
上条「っ!? そこはい、今上条さんが舐めてたところですよー……?」
五和「!」 ガタッ!
御坂「!」 ガタッ!
キャーリサ「チュパッ……ふふっ、お前の味がするの」
上条「お、おお……」 ドキドキドキドキドキ…
キャーリサ「言っている間に朝食が出来たし。とーま、ドキッとしたか?」
上条「そ、そりゃもう……」
キャーリサ「そーか。ならいいし」
五和「ど、どういうことですか……私達いること忘れられてませんか……?」
御坂「あの年増ァ……あ、諦めないわよ……!」
キャーリサ「そら小娘共。食事だ、心して食べよ」
御坂「くっ……」
五和「御坂さん……ここは私達の敗けのようです……次のチャンスを待ちましょう」
御坂「そ、そうね」
上条「二人ともいつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
五和「お気になさらず。共同戦線のようなものです」
御坂「共通の敵がいるからね」
上条「?」
キャーリサ「気にするなとーま。子供の戯言だし」
御坂「うー……っ」
五和「この余裕……年の功ですか……」
キャーリサ「ふふん、私と張り合おうなどと、10年早いの」
―――学園都市 大通り
上条「やべー……遅刻だー……」
御坂「わ、私だってそうよ! あんたの所為だからね!」
上条「なんでだよ」
五和「上条さん、バイクでも借りてお送りすればよかったですね」
上条「いやそこまでしなくても……」
御坂「あ、ね、ねぇ……」
上条「あん? 何だよ御坂」
御坂「明日の休みって暇? もしよかったら私と……」
五和「なっ!」
キャーリサ「すまないが、明日は暇ではないし。
私と楽しく遊びに出かける予定があるの」
上条「え、そうだっけ?」
キャーリサ「休みの日くらい一日中一緒にいて欲しーし」
御坂「ちょっと! あんたは引っ込んでなさいよ!」
キャーリサ「うるさいぞ小娘。中学生の考えるデートなど、どーせジャンクフードでも貪ってあても無く街を彷徨うだけだろー? くだらん」
御坂「な、何よ、それの何がいけないの! それじゃあんたには何が出来るってのよ」
キャーリサ「そ、それは……」
御坂「ははぁん、もしかして何も思いつかないとかー?
そーいや初めてがどうとか昨日言ってたわよねぇ? その年でデートもしたことないなんて……
ぷぷっ、人の事子ども扱いして恥ずかしくないのかしら?」
キャーリサ「そ、そーいうお前はしたことあるのか!?」
御坂「えっ!? い、いや……も、もちろんあるわよ!!」
キャーリサ「なん……だと……?」
御坂「み、見なさいよこのストラップ」
キャーリサ「何だそれは……まさか!?」
御坂「そーよ。あ、あいつとペア契約したカップル限定のゲコ太ストラップなんだからね!」
キャーリサ「そ……んな……私だってまだペアの物など持っていないのに……」
御坂「分かった? あ、あいつと私はそれくらい仲が良いのよ。ちょっと一緒に住んでるくらいで彼女面しないでよね……!」
キャーリサ「た、確かにペアの品物は持っていないが、別に私は行く場所が思いつかないわけではないし……!
お前達に着いてこられてはかなわんから、内緒にしてるだけだし!」
御坂「ほほー? 怪しいわねー?」
キャーリサ「黙れ小娘。遅刻するのではないの? 散れ!」
御坂「っとそうだったわ。……あれ、五和は?」
五和「上条さん、これ、先ほど渡しそびれたお弁当です。よかったら食べてください」
上条「助かるよ五和」
五和「い、いえ……あ、キャーリサ様たちお話が盛り上がってるようなので学校まで私がお送りしますね。行きましょう」
上条「ん? そうだな、時間もないし……」
御坂「待ちなさいっ! 抜け駆けしてんじゃないわよ!」
キャーリサ「そーはさせないし天草式!!」
五和「ちっ……」
上条「えーっと……もういいか?」
キャーリサ「あ、わ、悪かったの。急げとーま。……それから明日のことだが……」
上条「分かってるよ、せっかくだしどっか行こうぜ」
キャーリサ「う、うん……分かったの」
御坂「……」
五和「……」
上条「じゃーな! また後で!」
キャーリサ「……行ってらっしゃい」
上条「行ってきまーす」
御坂「……はぁ、何か疲れたわ……私も学校行こ」
五和「私も……やることがあるので失礼しますね」
キャーリサ「分かったの」
五和「あ、そうでしたキャーリサ様……」
キャーリサ「ん? どーした天草式……あー、五和か」
五和「はい……あの……」 チラッ
御坂「?」
五和「実は……昨日学園都市内でとても強力な魔術師の気配を感じたんです」 ヒソヒソ
キャーリサ「……何だと?」
五和「なので一応お伝えしておこうと思って……お気を付けて」
キャーリサ「うむ……分かったの、教えてくれて感謝するし」
五和「い、いえ。それじゃ私はこれで……」
キャーリサ「うむ」
御坂「かんっぜん遅刻だわ……んじゃね」
キャーリサ「いーから急げ」
タッタッタッ…
キャーリサ「……」
キャーリサ(魔術師……だと……?
この時期に学園都市を攻めるとは……十中八九私かとーま狙いだろーな。
しかし誰が……?)
キャーリサ「強大な魔術師と言っていたが……」
??「―――それはきっと私のことであろうな」
キャーリサ「!?」
??「…………」
キャーリサ「お前は……!」
??「……もう忘れたのであるか、先日会ったばかりのはずだが」
キャーリサ「こんなところでお前に会うとは意外だったし。
だがなるほど、お前は魔術師だったな……――――」
「――――ウィリアム=オルウェルッッッ!」
アックア「……旧友からの頼みである。貴様を英国へと連れ帰らせてもらおう」
キャーリサ様の猛烈アタックぶりに
リアルに( ゚д゜)な顔してた…ww
今日のバb……第二王女SSはここまでです。
麦のんですらババァと言われる禁書だけど、木山先生だろうが美鈴さんだろうが詩菜さんだろうが最大主教だろうがねーちんだろうがシェリーだろうがオリアナだろうが、みんな可愛いよね。
ではまた近々お会いしましょう。
あれ、そういえばお約束(個人的に)の胸をわざと当てている展開はあったけ?
あとキャーリサかわいい
>>414
それより「696247」についてkwsk
こんばんは。
それでは今日も投下していきたいと思います
―――英国 バッキンガム宮殿
神裂「ア、アックアにキャーリサ王女の迎えを頼んだ……ですか」
騎士団長「ああ。私は今も待機命令が出ている。が、キャーリサ様はカーテナの破片を持っておられるからな。
まともに打ち合える者と言えば、貴女か奴くらいのものだ」
神裂「それは分かりますが……手荒なことになるのでは」
騎士団長「キャーリサ様が無意味に抵抗しない限りは大丈夫だろう」
神裂「彼女ならするのでは……」
騎士団長「……かも知れないな」
神裂「はぁ……」
騎士団長「まったく。キャーリサ様も何も逃げ出すことは無いと思うのだが」
??「仕方あるまい。急に『あんな事』を言った私も悪かったのだ」
神裂「じ、女王陛下!」
騎士団長「エリザード様。先程も申し上げましたが、あの男を差し向けたので明日にはキャーリサ様もお戻りになられるかと」
エリザード「放っておけばいいものを。と言いたいところだが、事情が変わった。
早急に連れ戻す必要があるのだ」
騎士団長「何か事件にでも巻き込まれては困……ちょっと待って下さい。今何と?」
エリザード「『例の件』が少々早まることになった。急いて連れ戻させろ」
騎士団長「それはしかし…………いえ、了解しました」
神裂「しかし、何故王女が家出など……。 親子喧嘩でもされたのですか?」
エリザード「ん? ああ、実はな――――」
―――学園都市 とある高校 正門前
ワイワイワイ… ガヤガヤガヤ…
上条「ふう。今日も楽しい学校が終わりましたよっと」
上条(……あれ、今日はキャーリサの奴来てないのか。いつも大体この辺りにいるのに)
上条(あ、けど今日はお土産物色するとか言ってたな。それが長引いてんのかな)
土御門「よーうカミやん。お疲れだにゃー。あれからキャーリサとはどうだ?」
上条「土御門か」
土御門「御挨拶だな。ねーちんからキャーリサが家出してるって今朝聞いたぜい。
カミやんと随分深い仲になってるって言っといたにゃー。ざまあみろ」
上条「? んなこと神裂に言ってどうすんだよ」
土御門「深い仲ってとこ否定しねぇとは、恐ろしいにゃー」
パタパタパタパタッ!
上条「……ん?」
五和「上条さーんっ!」 タッタッタッ
土御門「五和だにゃー」
五和「あ、ど、どうも……」 ペコッ
上条「どうしたんだそんなに慌てて」
土御門「カミやん迎えに来たとか?
オラァッ! カミやんぶっ殺してやるぜいっ!!」 ゲシッ
上条「いてっ! なんでだよ!」
土御門「ムシャクシャしてやった。反省はしてない。カミやんが悪い」
上条「ひでぇな……で、何か用か?」
五和「あ、あの……。キャーリサ様がどこにいらっしゃるかご存じ無いですか?」
上条「キャーリサなら土産買いに行くとか言って朝一緒に出ただろ」
五和「はい……あの、上条さんが学校に行っている間、私がキャーリサ様から目を離さないようにと
女教皇様から指示を受けたんですけど……いないんです」
上条「いない? キャーリサが?」
五和「はい……」
土御門「その辺ほっつき歩いてんじゃないかにゃー。
元々結構奔放なお姫様ですたい。腹でも空いたら帰ってくるぜい」
上条「だな。買い物に時間かかってんだろ。この前だってセブンスミストで目輝かせながら大人買いしてたぞ」
五和「で、でももう5時前ですよ……? あれから8時間以上経ってるのに……」
上条「言われてみりゃ確かに長いな」
五和「何かあったんじゃないでしょうか……」
土御門「まあ確かに可能性はあるな。カミやんは初対面からタメ口だったらしいから全く気にして無いだろうけど、
あの女は元々こんなとこウロウロしてる訳がねぇ超VIPなんだぜい。
誘拐すりゃいくらでも使い道がある訳だしにゃー」
五和「そ、それで、実は上条さんにも話しておこうと思ってたんですけど……」
上条「ん?」
五和「どうも学園都市内に魔術師が入り込んでいるみたいなんです」
上条「何!?」
土御門「それは本当か五和」
五和「ええ……最初は私の気の所為かと思ったんですけど、一応女教皇様にもお伝えしたら王室派と騎士派の方たちにも相談してみるとのことで……正体はまだつかめていません」
土御門「お姫様の家出騒動なんて清教派には関係無ぇことだが、誘拐とかになると面倒なことになるぜい」
上条「じゃあもしかして、キャーリサはその魔術師に攫われたんじゃないか!?」
土御門「有り得るな。どうするカミやん?」
上条「キャーリサはカーテナの破片を持ってるんだ。そう簡単にどうこう出来る奴じゃねぇはずだ。
まだ間に合うかもしれない!」
土御門「カミやん携帯で連絡とれないのか?」
上条「あ、そ、そうだな! 電話してみる!」 ピッ
土御門「英国王室第二王女の番号が入ってるとは……恐れいるぜい」
五和「確かに……。それより繋がればいいんですが……」
上条「キャーリサ…………」
prrrrrrrrrrrrrrr……!prrrrrrrrrrrrrrrr……!
上条「クソッ、駄目か……」
prrrrrrrピッ!
キャーリサ『おー! どーしたとーま。私の声が聴きたくなったの? ふふっ、帰ったらいくらでも囁いてやるぞ』
上条「……え?」
五和「ど、どうしたんですか!?」
土御門「落ちつけカミやん。まずは居場所を確認するんだぜい。犯人が近くにいるかどうかもな」
キャーリサ『何を呆けた声を出しているの? あー、分かったの。お前私が待っていなかったから拗ねてるんだな。
可愛い奴め。いーぞいーぞ、今から迎えに行ってやるの。ちょっと待』
上条「キャーリサ! 大丈夫か!? 今どこにいるんだ!」
土御門「カミやん。助けに行くなら協力するぜい。オレみたいな清教派にとっちゃ、王室派と騎士派に貸しを作るチャンスだ」
五和「私もですっ。上条さん、場所はどこですか?」
キャーリサ『大きな声を出すな。怒ってるの? 今はえーと……おい、ここはどこだ?』
上条「キャーリサ! 誰かと一緒にいるのか!?」
キャーリサ『んー? あっ! ふふっ、もー、お前はほんと可愛いな。ジェラシーか?
安心せよ、確かに男と一緒だが、これはそんなのではない。私はお前の方が断然気に入ってるし』
上条「何言ってるんだ……もしかして犯人が近くに……? 何かメッセージを伝えようとしてるのか……?」
キャーリサ『ん? 犯人……? んー? ……あー、成程成程そーいうことか……。では……コホンッ」
上条「キャーリサ?」
キャーリサ『……キャァァァアアアアアアアアア! 助けてとーまぁぁ!!
今はえーっとここは……第七学区自然運動公園で囚われの身だしっ!!
わー、滅茶苦茶にレイプされるー! ガチャガチャッドタバタッ!』
ブツッ……ツーツーツー…
上条「おい! 大丈夫かキャーリサ! おいっ!!」
土御門「どうしたカミやん!?」
五和「キャーリサ様はご無事ですか!?」
上条「分からない。でも自然運動公園にいるらしい……助けに行かないと」
土御門「了解だ。学舎の園の近くだな。急ごう」
五和「はいっ!」
上条「ああ、行くぞっ! 待ってろキャーリサ、今行くからなっ!」 ダッ
―――学園都市 第七学区 自然運動公園前
土御門「ここだにゃー」
上条「この公園のどこかにキャーリサがいるはずだ」
土御門「あそこに地図があるな」
上条「……駄目だ、かなり広いぞ」
五和「それに小さくても林のような場所もあります。そう簡単には見つからないかもしれませんね……」
上条「手分けして探すか」
土御門「待てカミやん。まずはあの高台へ行こう。あそこなら公園全てが見渡せる。開けた場所にいないか、先にそれを確認した方がいい」
上条「よし、行こう」
五和「キャーリサ様……どうか無事でいてください……」
―――高台
上条「よし、ここが高台だな」
土御門「キャーリサは外人だし金髪でよく目立つ。多少遠目でも分かるはずだにゃー」
五和「屋外でじっとしているとも思えませんが……」
土御門「魔術的な手段で隠れているなら、外の方が都合が良い場合もあるぜい。
まずは居場所を探り当てないとな」 スッ…
上条「お、おい土御門! まさかお前魔術を使う気じゃ!」
土御門「大丈夫だって。オレは案外死なねぇからな。それにカミやん、事は一刻を争うんだぜい」
五和「土御門さん……」
上条「すまねぇ……」
土御門「何、オレがやるのが一番手っ取り早いってだけのことだぜい。気にすんなよ」
上条「ああ……」
キャーリサ「ほう、これが東洋の魔術か。珍しーな。どうやって使うの?」
土御門「ああ。まずはこの紙を……ん?」
上条「え」
五和「あ」
キャーリサ「遅いぞとーま。孕まされるところだったし」
上条「えええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!????????」
土御門「あっさり見つかったにゃー……」
五和「だ、大丈夫なんですか!? 命からがら逃げて来られたとか!?」
キャーリサ「あのなお前達。何を勘違いしているのか知らないが、私がいつ命の危機に陥ったと言うの?」
上条「え……だ、だって囚われの身って……」
キャーリサ「お前があんまりにも鬼気迫る声で心配するからだし。
私も囚われのお姫様というやつをやってみたかったんだ。
ヴィリアンのようにな」
上条「じゃ、じゃあレイプがどうとか……」
キャーリサ「そんなもん嘘に決まってるし」
上条「」
土御門「」
五和「」
キャーリサ「ふふっ、上から見ていたが、なかなか愉快な見物であったぞ。
真剣なお前に表情にまた少しときめ――」
パンッッ…!!
キャーリサ「――――!」
五和「か、上条……さん?」
土御門「おいおい、お姫様だぜい……」
上条「お前、俺達がどんだけ心配したと思ってんだよ!」
キャーリサ「お……お前……わ、私に手をあげたの……?」 プルプル
上条「俺の勝手な勘違いだったかもしれねぇけど、土御門はそれで死ぬかもしれねぇ魔術を使うとこだったんだぞ!」
キャーリサ「そ、そんなこと私は知らないし……」
上条「下らねぇ真似すんな。人の不安煽って楽しいかよ?
お前に何かあったらどうしようって、みんな心配してたんだぞ!」
キャーリサ「…………」
土御門「ま、まぁまぁカミやん。無事だったんだからいいじゃねぇか。
お姫様の気まぐれに付き合ってやるのも小市民の役目って奴だぜい」
上条「…………」
土御門「おお……カミやんが珍しく怒ってるにゃー……」
五和「そ、そうですよ上条さん。こうして何事も無かったわけですし……」
上条「そういう問題じゃねぇだろ……何か言うこと無いのか?」
キャーリサ「…………すまなかったの……」
上条「分かればいいんだ。帰るぞ」
キャーリサ「とーま……」 スッ
上条「ん?」
キャーリサ「私のこと……嫌いになったの……?」
上条「え……い、いやそういうわけじゃないけど」
キャーリサ「そ、そーか……ならいいの」
上条「お、おう……」
土御門「にゃー。痴話げんかはクソ腹立つから二人だけでやっといてくれにゃー。
それより、お姫様は誰かと一緒だったんじゃないのか?」
五和「確かに……結局、何されてたんですか?」
キャーリサ「うん? ……あー、奴ならそこにいるの」
五和「え?」
土御門「……っ!」
上条「なっ……!」
アックア「英国以来であるな、上条当麻。貴様とは何かと縁があるようだ……」
上条「ア、アックアッ!!? 何でお前が!」
アックア「こちらにも色々と事情があるのでな。貴様が気に留めることではない」
上条「キャーリサを連れ戻しに来たのか?」
アックア「そうであった」
土御門「あった……ねぇ」
キャーリサ「少々事情が変わったのだ。ウィリアムはお前の学校が終わるまでの間、護衛を務めてくれていただけだし」
アックア「…………」
キャーリサ「睨むな。レイプだの囚われただのの発言が気に障ったの?
別にお前の名前を出した訳ではないし、いいではないの。
小さいことを気にするとは、賢者とも呼ばれるお前の底が知れるぞ」
上条「アックアによくそこまで言えるよな……怖ぇって」
五和「もう何だか一周回ってかっこいいですね……」
アックア「……私の役目は一先ず保留としたのである。
上条当麻、彼女の身の安全は貴様が保障しろ」
上条「え、お、おう。もちろんだ」
キャーリサ「お前のよーな木偶の棒よりとーまの方が余程頼れるし。
おまけにそこの五和にもお前は負けたのだろー?
そして土御門はとーまより喧嘩が強いらしーと聞いてる。
何が身の安全を保障だ。ではこの中で一番弱いのお前ではないの」 グイッムギュッ
上条「っ!」 ビクッ
アックア「ふ……そうであるな」 フッ…
土御門「お姫様、アレをあんまり挑発しないで欲しいにゃー……」
五和「勝てたのなんて女教皇様達や上条さんの力があった上で、ほんとにギリッギリですし……」
上条「キャーリサさん……お願いだからその辺にしといてください……」
アックア「だが事実である」
キャーリサ「くっ、はは、冗談だ傭兵。
ご苦労であった。私の子供じみた我儘を察してくれて感謝するし」
アックア「…………あくまで保留である。私の立ち入る問題では無いようであるからな」
キャーリサ「ありがたいが、つれないことを言うの。お前は私の義弟になるかも知れない男だし」
アックア「……何の話であるか」
キャーリサ「んー? ふふ、帰りにヴィリアンに会って行くと良いの。あいつの熱っぽい目を見れば分かるぞ」
アックア「つまらぬ話である…………失せろ」
キャーリサ「くっくくくっ、怒るな怒るな。私ではなくお前の旧き友の仕業だしね。
安心しろ、あの男と喧嘩するときは私はお前を援護してやるからな。二人であの余裕の面をボッコボコにしてやるとしよー」
アックア「……」
上条「何の話だ?」
キャーリサ「聞いて驚け、ヴィリアンはウィリアムが」
アックア「……」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
キャーリサ「……む、これ以上はやめておくの。奴にも限度というものはあるらしいし」
上条「あ、い、いやそうじゃなくて……キャーリサの問題って?
バンドがどうとかの親子喧嘩じゃないのか?」
キャーリサ「……」
上条「キャーリサ?」
キャーリサ「じき話すの。……そーだな、明日。お前が一日私に付き合ってくれたら、夜にでも話してやろー。
……それでお別れだ」
上条「え……」
キャーリサ「そんな顔をするな。今生の別れではないの。一度城に戻ってケジメをつけねばならないしね」
上条「それってどういう……」
キャーリサ「今は聴くなとーま……。もうー少しだけ、私に淡い幻想を見せていて欲しーの」
上条「……?」 チラッ
アックア「…………」
上条「分かった、明日だな」
キャーリサ「うん。お前達も手間をかけたな。食事でも奢ってやろー。何でも良いぞ」
土御門「マジですか。 肉がいいにゃー」
五和「い、いいんでしょうか……?」
キャーリサ「うむ、来い来い。ウィリアム、お前もどーだ?」
アックア「私は遠慮するのである。科学の街の食事は口に合わん」
キャーリサ「意外と繊細なのところがあるの。 まーいい。では焼肉屋というのに行ってみたいの!」
土御門「任せてくれにゃーお姫様、超美味い店があるんですたい」
キャーリサ「そーか、では案内せよ」
土御門「ここぞとばかりに食ってやるぜいっ! ひゃっほう!」
上条「なあ、アックア」 ヒソヒソ
アックア「……何であるか」
上条「キャーリサの家出の原因って……」
アックア「貴様が何を聞かされているのかは知らんが、私から話すことでは無いのである。
明日真実を知ることになるならば、時を待て。早さが解決することでも無い」
上条「……そうだな。キャーリサを見ててくれてありがとな」
アックア「私は彼女を無事英国へ送り届けることを頼まれた。
そこに護衛が含まれていただけのことである」
キャーリサ「おーいとーま。早くせよ。私よりその男の方がいいのかー? それはちょっとショックだし」
上条「今行くよ! じゃあな、アックア」
アックア「……ああ」
キャーリサ「まったく、王女を待たせるとは従僕失格だし」
上条「ごめんごめん。焼肉かぁ……一体いつぶりだろう……」 ホロリ…
キャーリサ「泣くほどのことか。お前の食生活ってどんなのだったの……」
土御門「聴くも涙語るも涙だにゃー。隣で暮らしてるオレがいたたまれなくなるくらいの極貧ぶりですたい」
五和「言ってもらえればいつでも上条さんのためにご飯くらい……ブツブツ」
アックア「…………」
―――学園都市 上条宅
上条「はー……食ったー……こんなに肉食ったの学園都市に来て以来初めてかも」 ゴロン
キャーリサ「とーま、だらしがないぞ」 ゴロン
上条「キャーリサだって」
キャーリサ「ここはいかんな。誰も見てないと思うとつい怠けてしまうの。
宮殿内だとこーはいかんし」
上条「耳が痛いです」
キャーリサ「単純に羨ましいだけだし。こーしてお前と横に並んで寝転がっているだけでも、私には得難い経験なの」
上条「ふーん……あ、今思い出したけど。朝何か言いかけてなかったか?
ほら、五和達が来る前」
キャーリサ「んー……? ああ……」
上条「話の途中だったからな、何だっけ? 確か女王様達に紹介がどうとか……?」
キャーリサ「……いや、あれはあの時の気の迷いだし。気にするな」
上条「そうか? まあキャーリサがそう言うならいいんだけど」
キャーリサ「うむ」
上条「…………」
キャーリサ「…………」
上条「……キャーリサ」 スッ
キャーリサ「……んっ」 チュッ
チュッ……チュプッ……
上条「……っ」
キャーリサ「んぅ…………ずるいし」
上条「……何がだよ」
キャーリサ「色々すっ飛ばし過ぎだと言ってるの……」
上条「……好きだ、キャーリサ」
キャーリサ「――――っ」
上条「……こ、こういうことだよな……」
キャーリサ「……こんな時だけ察しがいいの……」 ギュッ
上条「だ、駄目か……?」
キャーリサ「お前惚れっぽいのか……?
正直好きになるのが速すぎる気がするの。
……少し心配になるし」
上条「自分でもビックリしてるよ。……まあでも上条さん経験が色々と足りてないので、キャーリサの度重なる誘惑にコロッといかれちゃってるとこはあるけどな」
キャーリサ「ふふっ……何だそれは」
上条「笑うなよ。正直な気持ちだろ」
キャーリサ「そーか。嬉しーの」
上条「……」
キャーリサ「返事が欲しーか?」
上条「いや……その……」
キャーリサ「答えてやるかどうかは明日のお前の頑張り次第、と言ったところか。
……もっとも、もう答えは決まっているけど」
上条「…………」
キャーリサ「だがそれまではお預けだし。
ふふっ、とーま。私を手に入れてみせろ。お前の持つあらん限りの策を弄して」
上条「が、がんばりますよ」
キャーリサ「無論私もそのつもりだし」
上条「えっ……」
キャーリサ「……私は王女だし、欲しいものは手に入れよーと思えばある程度のことまでは不可能ではない。
だがな……困ったことに、いつも私の欲しいものは、簡単には手に届かぬものなの」
上条「……イギリスのことか……?」
キャーリサ「やはり鈍感だな、お前は……」
上条「面目ないです……」
キャーリサ「……お前が欲しーぞ、とーま。私の数少ない欲望だし。
だが私は偉大なる英国第二王女。私のものになってくれなどと頼むつもりは毛頭無いの。
とーま……」
上条「あ、ああ……」
キャーリサ「私のものにしてくれと、お前に懇願させてやりたかったの」
上条「キャーリサがそうしろってんなら俺は……」
キャーリサ「やめよとーま。お前との戦いをそー簡単に終わらせたくは無いの。
これが終われば私は……」
上条「キャーリサ……お前何か隠してるのか?」
キャーリサ「隠している」
上条「や、やけにあっさりなんですね」
キャーリサ「嘘をついてお前に殴られた。だからもうお前に嘘はつかないし」
上条「あ、ご、ごめんな。痛かったよな……」
キャーリサ「許さん。許さないしとーま。私を二度も殴ったのはお前と母上だけだ。
…………許さないの」 クスッ
上条「も、申し訳ありませんでした。上条さんどう責任をとればいいやら……」
キャーリサ「……ふふっ、お前はずるいな、とーま」
上条「え……?」
キャーリサ「すまんが、今は話せん」
上条「そっか……」
キャーリサ「悪く思わないで欲しーの。話せばこの幻想は終わり、魔法の解けたシンデレラはただの惨めな娘となる。
お前はガラスの靴も無く、私を救い上げることが出来るのか?」
上条「意味が分からねぇよ……」
キャーリサ「そーそー都合良く、王子様は迎えになど来てはくれんということだ。
故に私は自らの力でそこから脱しようとしたの。もっとも、そんなことをしても何も変わらなかったと、今日知ったのだが。
……つまらん話をしているの。安心しろ、この話の結末は、誰も不幸にはならない」
上条「……お前もだよな?」
キャーリサ「そーだ。とーま……私を朝まで抱き締めよ。
優しい幻想は幻想のまま、英国へと持ち帰りたいし」
上条「あ……ああ……分かった」 ギュッ
キャーリサ「男に抱き締められるなんて……生まれて初めてだし」 グッ
上条(思ったよりずっと華奢だな……年上だし何か偉そうだから大きく見えてたけど……ただの女の子と変わらないじゃないか……。
考えてみりゃ当たり前か……。キャーリサ、お前、何隠してるんだよ……こんなに震えてるくせに……)
キャーリサ「一回りも年下の少年に体を預けるとはな……妙な気分だし」
上条「上条さんは何度も言うように年上のお姉さんが好きなのでむしろ御褒美ですよ」
キャーリサ「年上年上言うな。少し凹む」
上条「言い出しっぺはお前だろ」
キャーリサ「はははっ、そーだな。とーま、明日はどこへ行こう」
上条「ん……そうだなぁ……」
キャーリサ「どこへでも行くぞ、お前となら。特別なことなど無くて良い。
ただ私が生涯忘れ得ぬよーな、そんな一日にして欲しーの」
上条「分かった」
キャーリサ「……良い返事だし。このまま寝たいところだが、シャワーくらい浴びんとな。
焼肉くさいし」
上条「だな……よいしょ……ん? おい、離してくれなきゃ起き上がれねーよ」
キャーリサ「……もう少しだけ」
上条「……まあいいか」
キャーリサ「ふふっ……温かいぞ、とーま。こんな時はその……何だ。柄にも無く言ってしまうな……使い古された言葉だ」
上条「何を?」
キャーリサ「このまま時が止まれば良いのに」
上条「――――!」
キャーリサ「……時を止めてくれ、とーま。お前なら出来る……」
上条「上条さんは無能力者なので……ごめんな」
キャーリサ「そーではない。簡単なことだ。……むしろお前にしか出来ん」
上条「えーっと……どうすりゃいい?」
キャーリサ「こーするんだ……」 スッ
上条「えっ……――――」
今日はここまでの予定でしたが、折角なのでちょっと番外編も投下しときます
もしかしてこの話が終わる日は近い?
番外編
【焼肉】
ワイワイワイ…ガヤガヤガヤ… ジュージュー…
土御門「美味そうだぜい! ハラミいただきっ!」 ヒョイパクッ
五和「上条さん、そろそろこちらが焼けますよ」
上条「お、ありがとな。五和も焼いてばっかいないで食えよ。ほら」 ヒョイッ
五和「あ、ありがとうございます……。上条さんと間接キス……」 ボソボソ
キャーリサ「…………」
上条「あん? どうしたんだキャーリサ。俺の顔に何か着いてる?」
キャーリサ「あー着いているぞ、いやらしくて許しがたいものだ。
まーそれよりとーま。食べさせてやるの。あーん」
上条「い、いーよそんな……」
キャーリサ「遠慮するな。ほれほれ」 グイッ
上条「あっづー!! それ熱い!! ぎゃぁぁぁああああああ!!!!」
キャーリサ「ふんっ」 パクッ
土御門「はははっ。あーあ、カミやん死ねばいいのににゃー」
上条「お前まで何怒ってんだよ」
土御門「分かって無いとこが超腹立つぜい。こっちのホルモンいただきっ!」 パクッ
キャーリサ「こら土御門。それは私がとーまのために育てていたの!」
土御門「もぐもぐ。もう食っちまったにゃー。焼肉ってのは戦争なんだぜい」
キャーリサ「ほほー……」 ピクッ
上条「バカっ、キャーリサ煽るようなこと……!」
キャーリサ「よかろー。受けて立つの。ほら、これを食べろ土御門?」 ポィッ
土御門「? ありがたくいただくぜい」 パクッモグモグ
キャーリサ「今だ! とーま、こいつを食え! 私の育てた特上カルビだしっ!」
上条「お、サンキュー」 パクッ
土御門「むぐっ、しまった! そいつを狙ってたのに!」
キャーリサ「ふっ、箸を伸ばしても遅いわ。貴様が今食べたのは安い上ミノ。噛んで飲み込むには少しばかり時間がかかるし」
土御門「甘いぜい! こんなもん無理矢理飲み込めば……」
キャーリサ「今だし! そのお冷にトラップを仕掛けるのっ! こいつを食らえっ!」
土御門「むぐっ! ……か、辛ぁぁああ!!! テメェ今何突っ込みやがったぁああ!!!」
キャーリサ「豆板醤だし。さー、とーま。こっちの特上ロースが焼けたの。安い肉は土御門に任せてお前は」
五和「上条さん、サラダ入れましょうか?」
上条「お、悪いな。さすが五和、気が利くな」
五和「えへへ、慣れてますから。はいどうぞ」
上条「何だか盛り付けまで女の子っぽいぞ。五和に入れてもらったっと思うと余計に美味しそうに見えるなー」
五和「そ、そんなそんな! でも嬉しいです。あ、網焦げてますね。すみませーん、網変えてくださーい」
上条「出来る子だ……一家に一人欲しい逸材だな」
五和「いえいえそんな。ふふっ、でも嬉しいです」
キャーリサ「……」
五和「あ、グラス空ですね。何か飲みます? 」
上条「んー? ウーロン茶で。五和も食えよ。上条さん焼くから」
五和「いえ、いいんです。焼きながら食べてますし、そんなにたくさん食べる方じゃないので」
上条「そーか? あ、キャーリサ、お前は何か飲み物」
キャーリサ「ツーン」 プィッ
上条「は?」
キャーリサ「ツーン」 プィッ
五和「も、もしや拗ねておられるのでは……」 ヒソヒソ
上条「な、何で……?」 ヒソヒソ
五和「そ、それはその……私と上条さんが恋人のように見えたからですよ」
上条「えっ!?」
キャーリサ「おい五和! いくら何でも盛りすぎだし! せーぜー仲の良い友人程度だし!」
五和「チッ……ほ、ほらキャーリサ様も。お食事が進んでいませんよ。この焦げたハラミでもいかがですか?
発がん性物質も含まれてるお得な一品ですよー」
キャーリサ「いらん! 私はとーまが食べさせてくれなきゃ食べないの!」
上条「おい、どういうことだそれ」
キャーリサ「あーん」
上条「えー……」
キャーリサ「あーんっ!!」
上条「わ、分かったよ……ほら」
キャーリサ「むぐっ……むぐむぐ……うん、美味い」
上条「お前もっといいもん普段から食ってるだろ」
キャーリサ「違うし。……お前が食べさせてくれるからだし……」
上条「うっ……そ、そうですか……」
キャーリサ「うむ……」
土御門「あー……オレらのこと忘れてるんじゃないかにゃー……」
五和「キャーリサ様の攻めは苛烈過ぎます……すぐ持ってかれちゃいました……」
土御門「五和もあれくらい積極的にいかないとにゃー。ま、オレはねーちん派だから手助けはしないぜい」
五和「わ、私には無理ですよあれは……たぶん女教皇様にも」
土御門「いやいや、案外……お?」
ワイワイ… スタスタスタ…
上条「ん?」
禁書「あ」
結標「あら、また会ったわね」
土御門「おー、結標ー」
結標「げっ……何で」
土御門「げっ、とは御挨拶だにゃー」
小萌「上条ちゃんもここでお食事なのですか? ここ結構高いのですよー」
上条「いえいえ小萌先生。今日はキャー……ゲフンゲフン、キャサリンという強い味方がいるから大丈夫ですっ!」
キャーリサ「財布のような扱いはやめよ。腹立たしーぞ」
上条「滅相も無い。土下座しないと奢らないと言うなら上条さん何のためらいもなくしますよ」
禁書「とーうーまー! もしかして私がいないのを良い事に毎日こんな美味しいもの食べてるんじゃないのかな!?」
上条「そ、そんな訳ないだろ! なあキャ、キャサリン!」
キャーリサ「うん。こんなものより余程美味いものを食べさせてもらっているし」
禁書「ずるいんだよ! 小萌がいない時私はあわきの今一つなご飯で我慢してるっていうのに!
ぶっちゃけ料理の本見ながら私が作った料理の方が美味しかったんだよ!」
小萌「確かにそうでした」
結標「ちょっと。微妙に凹むんですけど」
キャーリサ「何を言う。お前はずっと食べて来たんだろー?」
禁書「ふぇ?」
キャーリサ「私が毎日食べているのはこいつの手料理だ。見てくれは大したことないが……愛が詰まっているし」
五和「なっ!」
小萌「ふぇっ!」
上条「っ!?」
禁書「と・う・まぁあああああああ!!!!!!!?????????
愛情ってどういうこと!? 私の時にはきっとたぶんそんなの入れてくれてなかったよね!?
やっぱり私がいないときキャーリサとイチャイチャしてるの!? ちょっと詳しく説明してもらいたいかも!!」
上条「誤解だって! 愛情ってどうやって入れるんですかー!? つか名前! 名前言ってる!」
小萌「あの上条ちゃん、今キャー」
上条「あああああああああああああ!!!!!!!!!! 久しぶりにインデックスに会えて嬉しいなぁああ!!!
よーし一緒に食おうぜぇええええ!!!!!」
禁書「え? そ、そう……? そこまで言うなら一緒に食べてあげてもいいんだよ!」
キャーリサ「うむ。一人二人増えよーが構わないの。運がいーなお前達。今日は私の奢りだし」
禁書「な、なんだか見た事の無いお肉がテーブルにズラリと並んでいるんだよ!
これは一体何なのかな!?」
上条「ああ、上条さんも初めて見るんだ。知ってるかインデックス?
これ……霜降りって言うんだぜ?」
土御門「哀しくなってくるにゃー……」
五和「上条さんほんと苦労されてるんですね……」
キャーリサ「? 普通こーではないの? やけに赤味の肉がスーパーで売っているなと思ってはいたが……」
上条「そしてインデックス。このお人が今から俺達に霜降り牛を食べさせてくれる神様だ。
多少腹の立つ言動もあるが基本的に神様だ」
禁書「ありがとうなんだよキャーリサ!! 私、キャーリサの家の子になりたいんだよ!」
上条「だから名前……もういいか……」
キャーリサ「別に毎日肉は出てこないし」
禁書「イギリスの王室なら、きっと古今東西ありとあらゆる美食が味わえると思うんだよ!
キャーリサ、一ヶ月くらい泊めて欲しいんだよ!」 キラキラキラキラ
キャーリサ「何を想像しているか知らんが王室とは言え決して贅の限りを尽くしているわけではないぞ……」
土御門「ってかもうイギリス王室とか言っちまってるにゃー……」
小萌「……????」
上条「良かった……半信半疑のままみたいだ」
五和「普通信じないですよね……英国の王女様が学園都市で焼肉食べてるなんて」
結標「どうでもいいけど隣の席座っていいの?」
キャーリサ「おー座れ座れ。こーいう食事は人数が多い方が楽しいだろー」
小萌「キャサリンちゃん。先生も半分出させてもらうのです! ここは大人のお姉さんに甘えるといいのです!」
キャーリサ「大人……の?」
土御門「そこは深く突っ込んではいけないにゃー」
キャーリサ「そーか。別に気にすることはないぞ」
小萌「いえいえ! 大人ですからっ!」 ドンッ
キャーリサ「そ、そーなの……?」
結標「気にしないで。貴女に張り合ってるだけだから」
キャーリサ「?」
五和「ではお肉を追加しましょうか」
キャーリサ「そーだな。とーま、その間私達は先ほどの続きをするの」
五和「むっ……」
小萌「何ですか?」
禁書「? ねぇ、続きって何?」
上条「わ、馬鹿っ!」
キャーリサ「バカとは何なの。そら、さっきのお返しだ。とーま、あーん」
禁書「!?」
上条「そ、それは……」
キャーリサ「あーん」
上条「う……パクッ」
キャーリサ「美味いか?」
上条「はい……ムグムグ……美味しいです」
キャーリサ「そーか。よかった」 クスッ
禁書「……とうま」 ボソッ
上条「!」 ビクッ
禁書「私、お肉の前に食べたいものがあるんだよ」
上条「何でしょうインデックスさん……」
禁書「それはね……」
上条「ゴクリ…」
禁書「とうまの頭なんだよっっっっ!!!」 ガブッ
上条「ギャァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!
不幸だぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!」!!!!!!!!!!!!!!!」
お粗末でした。
本日はここまでです。次はまた今週中には来たいと思っています。
>>488
もともと長編の予定では無かったので、風呂敷をさほど広げたりはしないようにしています。
終わりが近いかと言うと、回数的にはまだもう少しかかります。
が、近いと言えば近いかもしれません。
ではまた近々お会いしましょう
それはまさしく高翌嶺の花という名の幻想だ!!
しかし、ここでは今にもソレに手が届きそうだという現実!!!!
それがより姫という言葉を甘美な響きにしているのだろう
ところで、もう一つ上に「姫の神」という花があるらしいが何処に在るのだろう?
それはまさしく高嶺の花という名の幻想だ!!
しかし、ここでは今にもソレに手が届きそうだという現実!!!!
それがより姫という言葉を甘美な響きにしているのだろう
ところで、もう一つ上に「姫の神」という花があるらしいが何処に在るのだろう?
民草達よ、礼讃せよ。王女の帰還だし。
お待たせして申し訳ありません>>1です。
今日も投下していきますね。キャーリサ様とのイチャイチャタイムもそろそろおしまいです。
7日目
―――学園都市 大通り 広場
ガヤガヤガヤ… ワイワイワイ…
翌日朝。
第七学区の大通りにある、学生達がよく待ち合わせに利用する広場に上条は立っていた。
上条「ふぅ……キャーリサの奴まだかなー」
本日はキャーリサと遊びに出かける約束をしている。
もちろん上条も周囲の例に漏れず、ここで彼女が来るのを噴水の中心からそびえ立つ時計台を仰ぎ、今か今かと待ちわびているところだった。
しかし上条とキャーリサは現在同居中の身である。
その二人が一旦家を別々に出てわざわざ外で待ち合わせなどとはどういうことなのか。
実際それを訪ねた上条はキャーリサから「それも乙女心だし」と一蹴され、追い出されるように家を出てきて現在に至る訳で、
結局のところロクな答えを得られてはいないのだが。
上条(女の子ってのは分からねぇ……。まあ女の『子』じゃないんだけど……)
キャーリサに聴かれたら切断必至な胸中で、上条は既に待ち合わせの10時を5分ほど過ぎた時計の前で腕を組み唸った。
キャーリサ「ま、待たせたなとーま」
そんな折、ひょっこりと現れたキャーリサ。
まさかすっぽかされたりでもするのかとちょっとドキドキしていた上条だったものの、
薄く微笑みを浮かべて頬を紅潮させたキャーリサがやや困惑気味にその場に現れたのでほっと胸を撫で下ろす。
上条「おー……ってキャーリサ、そんな服も持ってたのか」
そしてまじまじと彼女の格好を見下ろしてみる。
黒いファーとボタンのあしらわれた真っ赤なコート。
それ自体は彼女が愛用しているいつもの出で立ちだが、今日はいつもよりスカート丈がかなり短くなっており、
普段は後ろで派手に纏めている輝く様な髪も下ろされていた。
シックな黒スカートをヒラリと揺らし、編み上げのブーツでレンガ造りの道を踏みしめている。
キャーリサ「うん。お前が喜ぶと思ってスカート短いのはいてみたぞ。
に、似合うか……? 」
溢れる好意を隠そうともせず、キャーリサははにかんでそう言った。
ストッキングで覆われたスラリと長い足と、厚手のウールをぐぐっと押し上げる胸が上条の視線を引き寄せてしまうほど魅力的だった。
上条「なんつーか……大人っぽくて素敵です」
落ち着いた大人っぽさと、奔放な子供っぽさを両立させた美しくも可憐な金髪碧眼の美女は、上条の言葉に嬉しそうで微笑んだ。
キャーリサ「そ、そーか……なんだか照れるな、こーいうの」
上条「キャーリサって赤好きなの?」
キャーリサ「うむ。強い色だし」
キャーリサと言えば赤色というのが上条のイメージだった。
問いにそう答えたキャーリサの言葉に、上条はポンと手を打って納得する。
上条「あ、なるほど。確かに攻撃的だ」
そんなことを思い、そしてコートの胸元に覗く真っ白い胸の谷間。
大人の色気に満ちたその魅惑の丘に、上条は思わず息を呑んだ。
上条(チラリと見える胸の谷間も攻撃的です)
キャーリサ「どこ見てるの。もっと見るか?」
その視線に気づいたらしいキャーリサが、悪戯っぽい視線で上条に詰め寄り、自ら胸元に指を差し込んで引っ張り中身を披露する。
上条はそのあまりに甘美な光景に目を逸らすことが出来ず、興奮のために吹き出そうになる鼻血を慌ててこらえた。
上条「そこは普通怒るところじゃないのか……? 大人の余裕ってやつですか。
……ま、行くか」
キャーリサ「うむ……とーま」
何とか思考と視線を逸らし、そそくさと歩き出した上条を追いかけてくるキャーリサが、その腕にそっと手を絡めた。
上条「っ!」
ビクリと肩を震わせた上条に、キャーリサが引き寄せるようにして腕を組む。
耳まで赤い彼女の羞恥を露わにする顔は、およそ年上とは思えぬほど可憐で、直視しがたい程に上条の鼓動に早鐘を告げさせた。
キャーリサ「この方が……恋人らしーだろ?」
わずかに震えた声でキャーリサは言った。
上条「そう……だな」
だが上条はそれには気づかない。
何故なら、今現在右腕に押し当てられている温かく柔らかな感触に全神経を研ぎ澄ませて集中することでいっぱいいっぱいなのだから。
上条(胸がすごいです……。ふわふわです)
ぐにゅりと、形が変わる程押し当てられているキャーリサの胸である。
上条は既に本日最高潮の緊張感と至福に包まれていた。
キャーリサ「しっかりエスコートして欲しーの。……デートなのだし」
上条「分かった。任せとけ」
キャーリサの言葉を吟味する余裕などない。
二つ返事で応えた上条の脳内には、右腕の柔らかさ以外のあらゆる感触や刺激は伝えられなかった。
キャーリサ「うん。今日はどこへでも行くぞ」
しかし次に放たれたその言葉に、わずかにたじろぐ上条
上条「そ、そうなのか……」
上条当麻は健康な青少年である。
自分に好意を寄せてくれているであろう女性からそのように言われたら、否が応にも様々な妄想が脳内を駆け抜けるのである。
上条(あんなところやこんなところでもいいのでしょうか……)
つまるところそういうことだ。
着実に大人の階段を昇ろうとしている現状に、健全な期待はどんどん膨らんでいく。
キャーリサ「ふふん、どこを想像した? 私に言ってみるがいーの」
挑発するようにキャーリサが顔を寄せてにんまりと笑う。
からかうような笑顔が妙に似合うキャーリサ。
仄かに漂う甘い香水の香りも相まって、上条はドキリと胸を震わせる。
隠すようにぷぃっと顔を背けるのは、その気恥ずかしさを悟られたくなかったからだ。
上条「何も想像してねぇよ!」
キャーリサ「……お前が頑張ってくれたら、私も少しは考えてもいーぞ……?」
上条「っっっっっっっ!!!!!」
まさかの追撃である。
両手で上条の腕にすがりつき、耳元で囁かれた言葉は、色々な意味で上条には刺激が強過ぎるものだった。
身動きのとれなくなった上条を見て、キャーリサは満足げに表情を綻ばせる。
キャーリサ「だから私のためにせーぜー気張れ、とーま。楽しいデートにしたいの」
そうして無邪気に笑うキャーリサ。
大人の女性らしさの奥にある子供のようなその笑顔に、上条もまたつられて笑みを零した。
上条「ああ……そうだな!」
強く頷き、キャーリサを引っ張るようにして足を踏み出す。
空は快晴。
上条は今日の空模様のような晴れやかな心持ちで、キャーリサと二人きりで過ごす一日に想いを馳せたのだった。
――第六学区 レジャープール エントランス
休日を楽しむ学生達でごった返す第六学区。
レジャー施設や娯楽施設の集中したその場所の一区画、聳え立つ灰色の壁の巨大施設の中に上条達はいた。
キャーリサ「何だここは」
自動ドアをくぐり、ほのかに鼻をつく塩素の香にキャーリサがまゆをしかめて首を傾げた。
上条「全天候型温水プールだ。最近オープンしたらしくてさ。ちょっと混んでるかもだけど、いいか?」
あれから駅へと向かい、電車に揺られて15分程。上条とキャーリサは第六学区にあるレジャープールへと訪れていた。
数種の温水プールと、別フロアに設けられた天然温泉が売りの施設である。
昨日キャーリサに「明日どこかへ行こう」と誘われてからと言うもの、上条は少ない引き出しを全力で開けながらコースを模索した。
仮にも一国の王女をファーストフードからの公園コースという貧乏デートに連れていくわけにもいかず、
かと言って予算を全て出してもらうのも男として情けなく思えた上条は、丁度オープン仕立てで設備も充実したこの屋内プールへと彼女を連れて来ることに決めた。
本当は日本らしい文化財などに連れていってやるのが良いのかもしれないが、生憎と学園都市には純和風の建造物などは極端に少ないため、
またキャーリサは上条のような一般庶民のする遊びなどとは縁が無いだろうと考えたこともあってここを選んだのだが、彼女はその問いに笑顔で頷き応えた。
キャーリサ「文句は何一つ言わないことに決めている。行こー。
あ、でも私水着持ってないの」
当初の心配も杞憂に終わり、キャーリサがふと気づいたように言ったその言葉にも万全の対策があることをことさらアピールするかの如く
上条は得意げにフロアの端に設けられたスペースを指差した。
上条「大丈夫大丈夫。レンタルがあるから。ほら、あそこ」
そこには色とりどりの水着や水泳用品が並んでおり、この冬も間近に差し迫ろうかという季節に水着をわざわざ引っ張り出さずとも済むよう
レンタル施設が設けられているのだ。
キャーリサ「そーか。それならいいし。早速見に行くの
ふふ、私が毛の処理を怠っていたら出足で躓くところだったぞ」
弟を褒める姉のような表情でキャーリサはそう言った。
自分にはまるで縁の無い話に、上条はハッとなって頭をかく。
上条「あ……そうか、女の子はそういうとこも考えないと駄目なんだよな」
特に問題など無いと思ってはいたが、そこまで自分の考えは至っていなかったと、上条は苦笑しながら言う。
キャーリサ「一つ勉強になったな。だが安心しろ。王女のボディケアにぬかりなど無いし」
威張るように胸を張ってキャーリサ。
そんな仕草が無意味に胸元の膨らみを強調する。
上条「よかったー。上条さん最初から大失敗犯すところだったよ」
出来る限りその刺激物を見ないよう務めながら彼女と二人レンタルスペースへ向かって歩き出す。
キャーリサ「それにしても……ふふっ、プールか」
その途中、キャーリサは思い出したように笑みを零した。
上条「な、何だよ」
その笑顔に妙な含みを感じて上条が問いを返す。
そして再び戻ってきた言葉にのけぞるハメになった。
キャーリサ「お前、そんなに私の水着が見たかったのかー」
上条「なっ! ち、違うって! 誤解です!」
決してそんなつもりでは無かったが、確かにそう思われても仕方がないかもしれない。
日本人とは明らかに違う攻撃力を有するキャーリサの肉体美は、昨夜風呂場での出来事によって上条の脳裏に深く焼き付いていた。
キャーリサ「言うな言うな。みなまで言わずとも察してやるさ。
際どいの着てやろーか? ん? どんなのが好きなんだ?」
主に学生らしき女性客でにぎわうレンタルスペース、多数の商品が引っかけられたラックの前で問いかけてくるキャーリサ。
こちらのリクエストに応えてくれるつもりらしいが、上条はそれが気恥ずかしくて思わず押し黙った
上条「…………」
キャーリサ「好きなの見れるチャンスだぞー。当日好きなの選べるのがレンタルの良い所だろ」
キャーリサの誘惑は続く。
上条「か、可愛いのがいいです」
そして上条は抗うことをやめ、素直に欲望を口にした。
キャーリサ「そーか……似合うかな」
上条「キャーリサだったら何でも似合うって」
そこに関してはお世辞や下心など無しの本音だ。
キャーリサに似合わぬものだったら、恐らく誰が着ても似合うまい。
キャーリサ「そういう漠然とした褒め方は好きではないし。具体性が無いの。もっと頑張れとーま」
上条「難しいなー……」
茶化すように言われ、頭をかかえた上条を見て、キャーリサは満足げに笑みを漏らした。
キャーリサ「まーお前に女の水着を選ばせるのは酷か。適当に見繕うとしよー。
色は何がいい? 可愛いのが良いと言うことは……こんなのどーだ?」
一頻り上条で遊んでご機嫌のキャーリサが、レンタルの水着の中でも一際派手なものを一つ手に取る。
上条「豹柄ですか……え、マジで?」
着る人を選ぶアニマル柄。チェーンやスワロフスキーがところどころにあしらわれた、攻撃的にも程があるそのデザインに上条は目を剥く。
布地の面積も通常のものよりかなり狭く見える。
キャーリサ「駄目か?」
上条「可愛いとは真逆の方向性のような……」
そう応えた上条に、キャーリサは楽しそうに笑い返す。
キャーリサ「ふふ、冗談だし。私は好きだがなー……これは?」
上条「黒ですか」
次にキャーリサが選んだのは、カップの部分にレースがあしらわれた黒いビキニだった。
キャーリサ「この辺のレースが可愛いし」
上条「うーん……何か違うな」
確かにキャーリサのイメージには合う。しかし上条にはいまいちしっくりと来なかった。
可愛いデザインと言えば、上条の中ではもっと女の子女の子したものを想像していたためだった。
と言っても上条に水着の知識などある訳も無いので、あくまで男目線での選び方になってしまうのだが。
キャーリサ「お前結構うるさいな。じゃあどれがいーの?」
呆れたようにキャーリサは腰に手を当て、お前が選べと告げる。
言われ上条は一通り商品の眺めて、その中で目についたものを一つ手に取り差し出した。
上条「こんなの……とか?」
胸元や腰回りに黒いパイピングやヒラヒラの装飾を施した白いビキニタイプの水着。
それを受け取ったキャーリサは、商品と上条に視線を往復させて絶句している。
キャーリサ「白……だと。……私がこれをか?」
上条「上条さんはこれ好きです」
分かりやすい可愛らしさに魅力を感じた。
逆に言えば、細かい部分でのディティールや流行りのデザイン等と言ったものは上条には分からない。
が、最近できたばかりの施設なのだから、置いてあるものもさすがに時代遅れの代物ではないだろうと判断して差し出したのだ。
だが、キャーリサはそれを着るべきか否か逡巡している様子で、時折首を傾げたり口元を引きつらせたりしている。
キャーリサ「むー……わ、分かったの」
駄目だったかとゴクリと息を呑む上条の前で、たっぷりと時間をかけて吟味しキャーリサはようやく頷いた。
レジに持って行くその後ろ姿は、いつものキャーリサに比べるとちょっとだけぎこちなく見えた。
―――レジャープール 場内
そんなこんなで更衣室前にて別れ、上条は自前の海パンに着替えて現在、プールの更衣室出口においてキャーリサを待っているところだった。
塩素の匂いが仄かに満ちる場内。
足洗い場やシャワーコーナーを抜けた先に見えるのは多数のプールで思い思いに遊泳を楽しむ人々の姿が見える。
波の出る海を模した巨大プール、一階部分二階部分に一つずつ作られた施設を大きく一周するように流れるプール、
子供用の小型プールや既にかなりの行列ができている多数のスライダー、フードコート等、施設内部は非常に広大だ。
上条「おー、結構人いるなー。まあでも休日の割には入れる方かな」
ほとんどが学生だろうが、休日ということもありそこそこに大人の姿も見受けられる。
さすがにゆったり泳げるということは無いが、エントランスで見た人ごみに比べるとスペースにもかなり余裕がある。
別階には水着で入れる混浴温泉などもあるらしい。
キャーリサ「と……とーま……」
そんな折、女子更衣室の出口からこっちをこっそりと見ていたキャーリサがボソボソと声をかけてきた。
上条「ん? 何してんだよそんな隅っこで」
顔を半分だけ出して、体は出口の陰に隠れているため見えない。
彼女の頬にはわずかな赤味が差していた。
キャーリサ「い、いやその……だな。この水着は、いーのか……?
ちょっと年甲斐も無くはしゃぎ過ぎた格好じゃないだろーか」
ちょこんと華奢な肩の白い肌が見えていることからもちろんちゃんと着替えてはいるようだが、本人としては少々恥ずかしいものがあるようだった。
昨夜全裸を披露してくれた人物の言い分とは思えないが、そこも乙女心という奴なのだろう。
しかしそんなことを言っていてはいつまでたってもプールにたどり着かない。
ちょっとした悪戯心も芽生えてきた上条は、照れるキャーリサの心中などそ知らぬふりを決め込んで歩み寄る。
上条「えー? どれ」
キャーリサ「く、来るな!」
女子更衣室に引っ込もうとするキャーリサ。
上条「そんなこと言われたって隠れてたら遊べないだろ。今だっ!」
間一髪、逃げるその手を掴んで外に引きずり出してやる。
キャーリサ「うわっ! ひ、ひどいやつだしお前……」
自らを抱きしめるようにして水着を隠すキャーリサを見て、上条は言葉を無くした。
上条「お、おお……」
キャーリサ「あまり見るな……これはさすがの私も……恥ずかしーの」
もじもじするキャーリサが観念したようにその水着姿を披露する。
ざっくり開いた胸元の谷間と、ヒラヒラの可愛らしさが良い意味でのアンバランスさを演出し、短めのパレオの様になっている腰回りもキャーリサらしからぬ
可愛さが垣間見えた。
女性の服のデザインのことなど分かるはずも無い上条と言えど、これがキャーリサに似合っていない訳が無いというのは容易に理解出来た。
キャーリサ「私白は苦手なの……何かいかにも可愛い色だろー……?
これでも年は自覚してるし」
だが本人としては気になる部分もあるらしい。
上条「いや、すっげぇ可愛いと上条さんは思いますが」
それでも率直な感想を伝えてやることにした。
普段の上条の周りにはいないタイプの女性であるキャーリサは、年上お姉さんが好みの上条としてはかなりツボなのである。
キャーリサ「お前がそー言ってくれるのは嬉しいが……それにこれちょっと胸がきついの」
もごもごと何か言って視線を泳がせるキャーリサは、続いて胸元に指を突っ込んでそう言った。
上条「ブホッ!!」
そして上条は興奮のあまり倒れる。
その仕草は、突如全裸で目の前に現れられるよりも余程煽情的で、かつ様々な妄想を掻き立てる魔性を有していた。
キャーリサ「ど、どーしたのとーま!」
上条「い、いや……もう上条さんには刺激強過ぎて何が何やら……」
当然上条がそんなものに耐えられるわけがない。
女の子とデートなんてしたことがない上条にとっての初めての経験は、恐らく生涯忘れられぬ程の幸福感と貧血をもたらした。
キャーリサ「ん? ふふっ、そーかそーか」
上条の反応を見てニヤリと口元を綻ばせるキャーリサ。
上条「な、なんだよ……」
邪悪な気配を感じて、鼻を抑えつつ一歩後ずさる上条。
キャーリサ「いや。そーいうお前が見られるならこれも悪く無いかと思っただけよ。
いつまでも恥ずかしがってるのもカマトトぶってるみたいでアレだしな、行こーとーま」
上条「あ、ああ」
もっと容赦なくいじめられると思っていたが、存外素直なキャーリサに面食らう上条だった。
そしてキャーリサに続いてプールの方へ歩いていると、ふと周囲からの視線を肌に感じる。
上条(心なしか周囲の視線を感じる……。まあひょっとしなくてもキャーリサだよな。めちゃめちゃ目立ってるもんなー……)
優雅に歩くキャーリサの存在感は尋常ではない。
水着のモデルが撮影に来たと言われても疑う余地も無いほどのプロポーション。
そして一般人には到底持ちえない気品とオーラが、周囲の目をこれでもかと引き寄せていた。
キャーリサ「よし、とーま。まずはどこから攻めよーか」
慣れっこなのか、そんなことを気にする素振りも見せずキャーリサは腰に手を当て上条に無邪気に笑いかけた。
推定28~9歳でこんなにも愛くるしい顔が出来るのは、普段から他人に見られることを意識する王女だからこそなのだろうかと、
上条は素直に感心する。
上条(しかし……)
だがこちらを振り返ったキャーリサに思うのはそんなことではない。
上条の目は、ただ一点に引き寄せられた。
キャーリサ「結構混んでるなー。まーその方が休日っぽくて良いな!」
楽しそうに周囲を見回すキャーリサが動くたび、悩ましく揺れ惑う魅惑の双丘。
別に巨乳好きでも無いが、大人の色気を醸し出す胸、腰、お尻、脚、あらゆるパーツの中でも特に目立つその大きな胸に視線が引き寄せられるのは
健全な青少年たる上条には致し方ない事なのだった。
上条(歩くたびにユサユサと……。うーん……これは気をつけないと上条さんの幻想殺しが天使の力(テレズマ)してしまうぞ……)
下らないことを考えて何とか意識を別方向にシフトさせようとしていると、気付けばこちらをジトッとした目でキャーリサが見ていた。
キャーリサ「お前なー。そんなに胸好きなの? 凝視して良いとは言ったが私を無視するのは許せないし」
頬を膨らませて上条の脇腹を小突くキャーリサ。
上条「え!? あっ、ち、違うんだキャーリサ! これはやましい気持ちじゃなくてですね、男の性と言うか……!」
キャーリサ「やましー気持ちはあっても構わないし。でも今は私の目を見てて欲しーの」
慌てて弁解する上条に、キャーリサは青く澄んだ瞳を真っ直ぐにこちらに向けてそう告げた。
上条「あ、ああ……悪い」
スカイブルーの水晶のような眼に吸い込まれそうになりながら、上条は謝罪した。
上条(キャーリサの積極性が一段と上がってるぞ。……俺の気の所為じゃないよな?)
キャーリサから伝えられる好意はさすがの上条にも容易に伝わってくる。
しかし、「何故自分なのだろう」。
その疑問が上条の頭の中に浮かんでは消えて行った。
キャーリサ「とーま。あの波の出るプールに行くぞ」
大人の色気たっぷりの蠱惑的な表情を浮かべていたかと思えば、次の瞬間にはケロリと少女のように無邪気に笑う。
そのギャップの魅力に押されっぱなしの上条は、今日は自らを律することを諦め、キャーリサに振り回されることを素直に受け入れることに決めた。
一見天衣無縫な奔放さの奥にある、明確な大人の女性としての謹厳な本質。
他人への思いやりもキャーリサがちゃんと持っていることを知っている上条は、
彼女に勝手気ままに振り回されることに不快感や疲れ抱くことは無いだろうという確信があったのだ。
上条「はいよ。ところでキャーリサって泳げるのか?」
何だか楽しくなってきた上条は、キャーリサと並んでペタペタと足音を鳴らしながら歩きつつ、ふと思い浮かんだ疑問を何気なしに口にした。
キャーリサ「私に苦手なものなど無いし!」
即答で応えるキャーリサ。
上条「そうか。じゃ行こうぜ」
予想通りの答えに、上条は苦笑して波の出るプールへの歩みを進める。
と、その時どういうわけかキャーリサの足が止まった。
キャーリサ「……」
上条「ん? 何だ?」
振り返ると、何かを言いかけては思いとどまるように口を噤む彼女の姿があった。
キャーリサ「と、とーま……その……」
もごもごと要領を得ないキャーリサ。
上条「だから何だよ」
上条は首を傾げる。
すると、彼女は無言で壁際にある一つの店舗を指差した。
キャーリサ「あれを借りて来てくれないか……?」
続けてそう言う。
彼女が指差した先にあったのは、浮き輪やビーチボール等を貸し出すレンタルショップだった。
泳げると豪語したばかりの彼女にしては不自然な注文ではないかと上条は思った。
上条「あれって……浮き輪のレンタル? おいおい、泳げるって……」
キャーリサ「もちろん泳げるし! でも私は浮き輪でプカプカするのが好きなの! つべこべ言わずに行け従僕っ!」
顔を真っ赤にしてムキになっているキャーリサ。
そこで上条の悪戯心に火が付いた。普段からかわれてばかりの上条としては、ここぞとばかりに反撃に打って出るチャンスではないかと考えたのだ。
上条「そんな頼み方されても恋人である上条さんは行きませんっ」
キャーリサ「なっ! ここにきて反旗を翻すとは……!」
愕然としているキャーリサ。思ったよりもショックを受けているのか、目がバチバチと泳いでいた。
上条「それ相応の頼み方をしなさい」
さらなる追撃。
キャーリサより精神的優位に立てることなど稀なので、上条は今しか無いと調子に乗ることにした。
キャーリサ「……くっ……」
上条「…………」
歯噛みするキャーリサを見てぞくりと背筋を震わせる上条。
普段強気な彼女の困り顔、というか悔しそうな表情に妙な興奮を覚えた。
上条(お、困ってる困ってる。人に頭なんて下げないだろうしな。
もうちょっと困らせてみようかな……なんて)
嗜虐心に火が付く上条。
たまには自分の気持ちを味わうといいと、鼻を鳴らして意気込み口を開く。
上条「キャーリサ、借りてきて欲しけ――――!」
この勢いで「お願いします」くらいは言わせてやろうと思っていたその時だ。
上条は唇にとても柔らかい感触を得た。
一瞬真っ白になる思考。続いて視界にあったのは、瞳を閉じて甘い声を漏らすキャーリサの顔だった。
キャーリサ「んっ……」
悩ましげなキャーリサの声と共に、上条の唇を割って口内に侵入してくる熱くぬめったモノ。
上条の頬や鼻をくすぐる彼女の髪と吐息が、こちらの思考能力を加速度的に奪って行った。
上条「っ!? むぐっ……ぷはっ!」
それがキャーリサの舌だと言う事に気づいた瞬間、上条はキャーリサに軽く突き飛ばされるように両肩を押された。
一歩半開けられた二人の距離。
手を後ろで組んだキャーリサの表情はこの上なく蠱惑的な魔性を有し、ペロリと自らの唇を舐めて微笑んだ。
キャーリサ「ふふっ……これこそ我が宝刀だし。虎の子なの。
お前は私にこれを抜かせた……これで行けぬなら、私はどうすることもできないけど……」
ビリビリと脳内が未だに痺れている上条。
今でも現実だと言う実感が湧かなかった。
上条(し、舌を……! 柔らかくて熱くて……す、すごかったです……)
別の生き物のようにこちらの舌を求め、挑発してきた温かいモノの感触と甘い香りが今も脳内に焼き付いて離れない。
幸福感や驚きを感じる暇も与えられなかったその一瞬の深い口付けに、上条は自らの心が完全にキャーリサの手中へと落ちたことを自覚した。
「ヒソヒソ……見た? 今のカップル?」
「さすが外人さんですね……超大胆です」
「はまづら、私達も負けてられないね……」
「た、滝つ……むぐぅっ!」
ひそひそと周囲からの視線と会話が気恥ずかしい。
それはキャーリサも同じだったのか、俯き気味にこちらに視線を送るばかりでそれ以上の言葉は何も告げてこなかった。
キャーリサ「…………」
上条「い、行こうっ」
いてもたってもいられなくなった上条はキャーリサの左手を引き寄せるように取ってレンタルショップの方へと歩き出す。
キャーリサ「あっ……」
グィッと引っ張られる形となったキャーリサが小さな声をあげる。
上条「ん? あ、ごめんビックリしたよな」
キャーリサ「いや何、随分と普通に繋いでくるよーになったものだと思ってな」
痛かったのかもしれないと恐る恐る尋ねた上条に、キャーリサは余裕の笑みを返した。
上条「そういやそうだな。駄目だったか?」
キャーリサ「いちいち訊くな。駄目なら手首ごと切り落としているし」
しれっと言い放つキャーリサ。背筋をうすら寒いものが走る上条は、やっぱり彼女をからかうのは程々にしておこうと決意した。
上条「それならいっそ駄目と言ってくれ」
キャーリサ「だから構わないと言っている。光栄に思うがいいの」
いつもの調子で軽く応えたキャーリサ。
しかしその手はしっかりと上条の右手を握り返す。
キャーリサ「ちょっと、強引で、ドキッとしたぞ。とーま」
そして彼女は輝くように微笑んだ。
ドキリと胸を震わせた上条は、やはり彼女には勝てそうも無いなと苦笑いを零して二人揃って歩き出した。
キャーリサの耳がこの上なく赤く色づいていたのことに、上条は最後まで気付かなかった。
―――レジャープール スライダー
上条「うぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
キャーリサ「きゃぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
バシャーンッッ!!
上条「……このスライダーはなかなか……」 バシャッ
キャーリサ「なかなかスリルがあってよかったし。波の出るプールも良かったが、やっぱこーいうのが楽しーな!
よし、もー1回乗ろー!」 バシャッ
上条「ああ、いいけど、また40分くらい並ぶぞ?」
キャーリサ「むー……それは面倒だ。しかしお前と二人で乗れるのはこれくらいだしなー」
上条「流れるプールでも行って漂っとこう」
キャーリサ「それもいいな。しかし浮き輪は私のものだし」
上条「いや上条さん泳げますから」
キャーリサ「だから私は泳げると言っている。だが王女はバタ足などしないの
白鳥の如く優雅に水面を走るのが私には相応しーだろ?」
上条「白鳥は水面下で頑張ってるよ。キャーリサも頑張れ」
キャーリサ「水中でもがく素振りすら見せぬのが王女と言うものだし」
上条「浮き輪にお尻からはまってプカプカしてるだけだろ」
キャーリサ「私の船の船頭を任せてやるの。お前が私の優雅な船上生活を演出しろ」
上条「つまり浮き輪操作ですね分かります」
キャーリサ「そーとも言う。なんだ、文句が多いぞ。お前も浮き輪使いたいのか?」
上条「上条さんもプカプカお昼寝したいです」
キャーリサ「仕方ない奴だし。まあ武功を立てた臣下に褒美を取らせるのも主君の役目か」
上条「え、貸してくれるの?」
キャーリサ「私の浮き輪につかまって泳ぐことを許す」
上条「えー……」
キャーリサ「文句を言うな。よし、流れるプールに行くぞ。着いて来いとーま」
上条「はいよ。ま、堪能してくれてるみたいで上条さんは嬉しいですよ」
キャーリサ「うん。楽しんでるぞ。昼食はあのたこ焼きという奴に挑戦してみたいの」
上条「そーですか。流れるプールは二階の方が空いてるみたいだからそっち行こうか」
キャーリサ「うむ。急げ急げ」
上条「おーい、プールサイド走ると滑ってこけるぞ」
キャーリサ「ふははは! 王女はこけたりなどしな……うぉぁっ!」 ステーンッ! ゴンッ
上条「言わんこっちゃない……」
上条(っつかキャーリサ……めちゃくちゃ楽しそうだな。テンション高ぇ)
―――レジャープール 二階流れるプール
プカプカ…
キャーリサ「いつつ……何だあの床は。不敬罪だし。磔刑にしてやるの」
上条「この施設ごと十字架にどうやって……と思ったけどキャーリサならやってのけそうだから聞かないでおきます」
キャーリサ「うー、痛いの……肘が痣になってるし……」
上条「骨にヒビ入ったりしてないよな? ちょっと触るぞ」 グッ
キャーリサ「っ……」
上条「あ、痛かったか?」
キャーリサ「い、いや……お前に触られると、ドキドキするの……」
上条「あ、ああ……」
キャーリサ「とーまは……どうだ?」
上条「大丈夫だと思うけど、一応医務室でも行くか?」
キャーリサ「そーではなく……お前は、ドキドキしないか?」
上条「……あ、えっと……はい、します」
キャーリサ「そーか……。嬉しいの」
上条「……そ、それよりどうする? 医務室は」
キャーリサ「いや、これくらいなら大丈夫だろー。少なくとも英国でお前に殴られた時よりは痛くないし」
上条「上条さんそれ一生言われるんですかね」
キャーリサ「一生言ってやりたいな」
上条「高くついたなー……」
キャーリサ「……そーいう意味で言っているのでは無いのだが、まーいい」
上条「?」
キャーリサ「お前のそーいう所が気に入っているの」
上条「どういうことだかさっぱりわからん」
キャーリサ「私は根っからの狩猟者だし。追いかけている方が性に合っているのかも知れないな」
上条「上条さんを置いてけぼりですか」
キャーリサ「羊だな、お前は。ふふっ、食ってやろーか」
上条「えっ……そ、それって……」 ドキドキ
キャーリサ「馬鹿者。すぐそちらに持っていくのだから、これだから男という奴は……」
上条「お前が思わせぶりなことばっかりするからだろ」
キャーリサ「え」
上条「ん?」
キャーリサ「思わせぶりか……そーかそーか。つまりお前は、私の行動に含まれる好意に気づいてはいるということだな?」
上条「えっ、あ……そりゃまあ……ある程度は」
キャーリサ「どこまで鈍感かと思ったが、絶望的な程では無いよーだし。
うんうん、それくらいの方が張り合いがあっていいな」
上条「張り合いって……俺にも分かるように言ってくれよ」
キャーリサ「お前がもっと積極的だったら私もこんなに苦労しなくて済むの」
上条「それ本人に言うか? それに上条さんはこんなに尽くしてるじゃないですか」
キャーリサ「お前は私の恋人であり従僕なのだから当然だし」
上条「そうでしたね。くそう。一人で浮き輪も座りやがって……あ」
キャーリサ「ん?」
上条「いえいえ。何でも無いですよ」
キャーリサ「?」
上条(ふふふ、あっちに滝を発見しちゃいましたよー。よーし、浮き輪あっちに突っ込ませてやる ジャバジャバ
キャーリサ「おー、いいぞいいぞー。もっと飛ばせ、快適だし」
上条「はいはいお姫様ー。あっちに素敵な滝がございますよー」 スィー…
キャーリサ「うむ、ようやく受け入れたか。よし、プリンセス・キャーリサ号を出航させよっ!」 キリッ
上条「何だよそれ……」 バシャバシャッ
キャーリサ「クイーンエリザベスとかクイーンヴィクトリアとかあるだろー。私もあーいう船に自分の名を冠するのがささやかな夢なの」
上条「それのどこがささやかなんだ」 バシャバシャッ
キャーリサ「こんなこと話したのお前が初めてだし。光栄に思うといいの」
上条「キャーリサ……」 バシャバシャッ
キャーリサ「ふふふっ……」
上条「あ」
キャーリサ「ん? うわっ!! なにすうわぷっ!」 ジャバアアアアアアンッッ
上条(し、しまった! 会話に夢中で滝に突っ込ませちまった!」
上条(ま……そのつもりだったからいいか。シャワーに毛が生えたようなもんだし……)
ジャバアアアアア…
上条「……」
ジャバアアアアアアアアア…
上条「あ、あれ……浮いてこないぞ……?」
ジャバアアアアアアアアアア…!
上条「やばい! キャ、キャーリ」
キャーリサ「わっ!!」 ザバァッ!
上条「うぉぁあああ!!!!!!!!」 ビクゥッ!
上条「キャ、キャーリサ……?」
キャーリサ「何だその顔は。ゴーストでは無いぞ。こんなに血色が良くて気品ある幽霊などいるものか」
上条「ああ、間違いなくキャーリサだ」
キャーリサ「まったく……! ちゃんと前くらい見ていて欲しーの」
上条「わ、悪い……大丈夫か?」
キャーリサ「問題ないの」
上条「よかった……って、あれ、キャーリサ泳げないんじゃ?」
キャーリサ「誰もそんなこと一言も言ってないし」
上条「え、でも何か反応がそんな感じだったし……そのために浮き輪借りたんじゃなかったのか」
キャーリサ「……そ、それはだな……」
上条「うんうん」
キャーリサ「……こーしたかったからだ」 チャプッ
上条「え」 バシャッ
キャーリサ「ふふん……私も入るぞ」
上条(……二人で一つの浮き輪に……。
肌が密着して……胸も当たってるし……。やべぇ、変な気分になってきた) ドキドキドキ…
キャーリサ「窮屈か?」 プカプカ…
上条「い、いえっ! そんなことありませんっ!」 プカプカ…
キャーリサ「そーか。……ん? おいとーま……」
上条「はいっ、何でしょうか!」
キャーリサ「……当たってる。仕方ないのは分かるが……その、もう少し腰を離せ」
上条「!!!!!!!!!!!!!!!」
キャーリサ「ま、その反応は悪く無いけどな。私を意識してくれてるんだな」
上条「ええ、そりゃもう……」
キャーリサ「まったく青くて可愛い奴だし。こんなの初めてなの?」
上条「当たり前だろ」
キャーリサ「もちろん私もだし。お前のところに来てはや一週間。
未体験のことばかりさせてもらっているの」
上条「そりゃ俺もそうだよ。そうか、もう一週間も経つんだな……」
キャーリサ「長かったか?」
上条「長いようで短かったな。まさかキャーリサとこんなことするようになるなんて想像もつかなかった」
キャーリサ「……私は、正直少し想像していた」
上条「え……」
キャーリサ「お前のところに来ようと思う少し前からな。まー、手ごろな妄想の相手がお前くらいしかいなかったというのが大きいが」
上条「そ、そうですか」
キャーリサ「ふふっ、英国で初めて会った時は、何だこの小汚い小僧はと思ったもんだが、分からないものだし。
あっ、小汚いのは今も一緒か」
上条「褒めてんのかけなしてんのかどっちなんだよ」
キャーリサ「もちろん前者だし。お前は変わった奴だな。……お前といると心安らぐの」
上条「あ、ありがとな……」
キャーリサ「とーま……」
上条「ん……?」
キャーリサ「あの柱付近は陰になってて誰も来ないぞ。水着の下もまた見せてやろーか?」
上条「!?」
キャーリサ「なんてな。そーいう反応がもー見れないのかと思うと、寂しーの」
上条「……またいつでも来ればいいだろ」
キャーリサ「そー出来たらいいんだけど」
上条「そりゃそうか。王女様がそうぽんぽん国外に出られたらあっちも困るもんな」
キャーリサ「……そーだな」
上条「いつ向こうに戻るんだ?」
キャーリサ「ん……休み明けにでも戻ろうかと思っているの」
上条「そっか。お別れだな……」
キャーリサ「……とーま」
上条「ん?」
キャーリサ「……いや、昼食にするか」
上条「あー、もうそんな時間か。確かに腹減ったな、そうしようか」
キャーリサ「……うん」
―――レジャープール フードコート
ワイワイワイワイ… ガヤガヤガヤガヤ…
キャーリサ「ふむー、これがタコ焼きとか言うやつか」 ホカホカ
上条「俺はカップラーメンだけど、さすがに分かるか」
キャーリサ「それは分かる。宮殿でもたまに食べるし」
上条「王女様がカップラーメンですか……」
キャーリサ「母上が好きでな。いや、意外と美味いぞあれは。体に悪そーな味はするけど。
特に日本のシーフードヌードルはそこらのシェフには出せない味だし」
上条「あー、確かにあれ美味いよな。貧乏学生の心強い味方ですのことよ。
しかもまたこういうとこで食うと余計美味いんだよなー。んじゃ、いただきまーす」
キャーリサ「……どれ」 ヒョイッ
上条「あ、中は見た目より熱いから気をつけろよ」
キャーリサ「あふっ! はふっはふっ! あふいろっ!!」 ジタバタ
上条「もっと早く言えば良かったな、ほら水」
キャーリサ「んっ……っぷはっ! 熱くてビックリしたし……でも美味いな。
ソースとマヨネーズが濃厚で実に良い。喉が渇くのが難点だが」
上条「気に入ってくれたみたいでよかったよ。あ、そういや欧米人ってタコ駄目なんじゃなかったっけ?」
キャーリサ「あー、私も誰があんなグロいもの食べるんだと思っていたクチだがな、何年か前に日本料理のシェフが
食べさせてくれたタコの刺身が思いのほか美味しかったの。
生きて動いてるとこ見ると結構きついが、こーして原型を留めていなければ大丈夫だし」 モグモグ
上条「日本食ブームって言うもんな。たこ焼きはみんなで集まって家で作ったりしても楽しいぞ」
キャーリサ「そーなの。それもやってみたかったな」 パクパク
上条「さてと、この後どうする? まだ泳ぐか?」
キャーリサ「そーだなー。時間は……2時か。軽く食後の運動でもして、移動しよーか」
上条「あ、ここ別のフロアに水着で入れる温泉あるぞ」
キャーリサ「温泉か。いーなそれ。日本に来た時一回だけ行ったことあるぞ。
岩風呂で海を眺めながら浸かったの。なかなか心地よかったな」
上条「まあそこまで大したもんじゃないかもしれないけど、行ってみようか」
キャーリサ「うんうん。楽しみだなー」
上条「っ」 ドキッ
上条(うーん、普通に笑ってるだけなのに可愛いと思ってしまいましたよ……今日何回目だ俺。
これでキャーリサと一緒に過ごすのも終わりなんだなー……。
最初はどうなることかと思ったけど、こうしてみると寂しいもんだ)
キャーリサ「どーしたとーま。さっさと食べて行くとするの」
上条「お、おう! わかった」 ズズズッ!
―――レジャープール 天然温泉
ザワザワザワ… ジャアアアアアアアア… ワイワイワイ…
キャーリサ「うーん、水着で風呂っていうのもなかなか良いもんだな」
上条「時間も早いから人もまばらだしな。快適だ」
キャーリサ「ふふふっ、お前としては私と二人きりの方がよかったか? それも裸で」
上条「……まあ、そうだな」
キャーリサ「素直だし。照れるのはやめたの?」
上条「いやぁ……キャーリサと話すことももう無いのかと思うとさ、もうちょっとちゃんと話しとかないとなって思ったんだよ」
キャーリサ「……そーだな……もう、お前と話すことは無いのか」
上条「そんな顔すんなよ。ってか、お前が言ったことだろ。お別れだって」
キャーリサ「それはそーなのだが……お前から言われると、少し寂しーの」
上条「俺もだよ。少なくともこうやって一緒にプール来たり飯食いに行ったり、なんてことはもう無いだろうしな。
キャーリサって人でごった返した海とかプールで泳ぐことあるか?」
キャーリサ「それは無い……が。プライベートビーチやオープン前の貸しきりプールならあるぞ」
上条「全然違うぞそれは……。ま、そんな風に考えるとやっぱしんみりしちまうよな」
キャーリサ「……私だって、帰りたくなどない」
上条「……へ?」
キャーリサ「お前を手に入れていないし。お前と共に行きたい場所もまだまだあるの。
だが……私に残された猶予は決して多く無い。
その前に、どーしてもお前の顔が見たかったんだ」
上条「それがお前が俺のところに来た理由ってやつか」
キャーリサ「そーだ……」
上条「……猶予が無いってのは、どういうことだ?」
キャーリサ「……」
上条「話してくれる約束だぞ」
キャーリサ「分かっているの。でも、まだ今日は終わっていないし」
上条「そうだけどさ、話してスッキリしちまったらどうだ?
その方が心置きなくデートを楽しめると思うけどなー」
キャーリサ「無理だし。それに、お前がスッキリしたいだけではないの?」
上条「まあそれもあるけど……無理ってどういうことだよ」
キャーリサ「……はぁ、仕方の無い奴だなお前は」
上条「?」
キャーリサ「出よーとーま。そんなに気になるなら話してやるの」
上条「話すって……つまり」
キャーリサ「うん―――」
キャーリサ「―――私がお前の元を訪れた本当の理由だし」
今日は以上になります。
また連休中か連休明けにでも来れたらいいなと思います。
それでは
じゃあ僕が神裂さんと子作りしますね
僕「もう…でるよ…うっ…」ドピュドピュー
神裂「膣内に精子を出されたら妊娠してしまいます!外へ!!…!!!」
僕「ふぅ…」ヌポッ
神裂「…なんて事を」トロトロトローリ
~10月10日後~
オギャーオギャー
看護婦「おめでとうございます!可愛い女の子ですよ!」
神裂「何故私はあんな男の子供を…くっ…この子が上条当麻の子供であれば私はっ…」
僕「くくくくくっ!!!はっーははははははははは!!!! 元気な僕の子を産んだな、火織!!!」
これだからauは…
僕「ハァハァ…神裂なんかより断然具合いいじゃねえか!」パコパコパコパコ
>>634「auの分際でっ!」
僕「ハァハァハァハァ…>>634気持ちいーぞぅ!!…うっ」ズバコズバコズバコドピュードピュー
デュフフフフ
良い流れでござるデュフフフフwwwwwwwwwwwwww
お待たせしました。いつも感想ありがとうございます。
遅くなりましたが今から投下しますね。
―――学園都市 第七学区 大通り
上条当麻はキャーリサの三歩後ろを無言で歩いていた。
第六学区のレジャープールを出てはや1時間。間もなく夕刻も夕刻、辺りも夕焼け色から夜へと移り変わろうかという時頃。
それからキャーリサは時折ポツリポツリと言葉を漏らすばかりでなかなか肝心な事柄には触れてこなかった。
彼女が上条の元を訪れた本当の理由。
それは当初彼女が告げたような些細で微笑ましく、人騒がせな親子喧嘩などではない。
連れ戻しにやってきたアックアの任務を保留にさせ、上条の部屋でのささやかな生活を優しい幻想とまで称した彼女の本意が未だ掴めずにいた。
上条「キャーリサ。もう家着いちまうぞ」
痺れを切らして上条がキャーリサに促す。
こうまで焦らされると段々と不安も増してくる。
一体彼女は何を話そうとしているのか。それはそんなにも深刻なことなのか。
先程までの甘く、小さな幸福に満ちた時間の温かみから、上条はとうに醒めてしまっていた。
キャーリサ「……迷っているの」
キャーリサはたっぷりと間を開けてそう返してきた。
上条「何を?」
訝しみ、上条は彼女の隣に並んで首を傾げる。
キャーリサ「……不安なの。お前に嫌われてしまうのでは無いかと。
お前を騙すような真似をしているし。……そー思うと、踏ん切りがなかなかつかない」
そう言ったキャーリサの声は少し震えていた。
歩みを止めず、少し人気の少ない路地に入りながらキャーリサは不安を漏らす。
上条「大丈夫だ」
キャーリサ「……!」
上条は迷いなく告げ、キャーリサの足が止まった。
その言葉には彼女の不安を払拭する意味合いもある。
上条「お前を嫌いになんてならない」
しかし、それ以上に確信があった。
どんな真実がそこにあったとしても、キャーリサを嫌いになるはずがない。
彼女と過ごしたこの7日間は、彼女だけでなく上条にとっても優しく、淡く儚い幻想の様だったから。
その中で目にした無邪気な少女のような彼女。
聡明な一人の大人の女性としての彼女。
そのどちらもが彼女の本質であり、そこに嘘偽りなんて何一つ無かったと上条は断言できる。
こんなにも肩を震わせて真実を伝えることに怯える彼女を、どうして嫌うことが出来るだろう。
だからこそ知りたかった。
どんな現実が待っていたって構わない。
未来の無い幻想を続けるのではなく、例え厳しい現実があったとしても、その先にあるものを二人で掴みとりたい。
上条は今そう思っていた。
キャーリサ「とー……ま……」
上条「だから話してくれ。キャーリサ、お前はどうしてここに来たんだ」
交差する二人の双眸。
沈黙が場を支配する。
薄暗く、夕焼けに染まる表通りの光も届かぬ裏路地で、二人は永い時を見つめ合っていた。
すぐそこには道を往く人々の姿が見えているのに、ここにはただ狭く小さな二人だけの世界が広がっていた。
キャーリサ「分かったの……とーま、ありがとう」
薄く微笑み、少しだけ困ったような顔をして、キャーリサは上条にふわりと身を寄せた。
上条「キャーリサ……」
細く華奢な肩に手を添えて、上条は彼女の言葉の続きを待つ。
心を鎖で縛りつけるようなキリキリとした沈黙が痛々しく思えてならなかった。
キャーリサ「とーま、すまない……――――」
ほぼ同じ高さの目線で、キャーリサは上条を見つめて言葉を紡ぐ。
そして、幻想の終わりを告げた。
キャーリサ「――――私、結婚するの」
それはさながら、12時の鐘の音。魔法が解ける時間。
その時上条の頭の中では、ガラスが割れるような音が響いていた。
結婚。
たった二文字の言葉を上条は上手く呑み込むことが出来なかった。
高校生である自分には縁の無い言葉。
思えば彼女は始め部屋に現れた時から、それを口にしていた気がする。
親子喧嘩は真っ赤な嘘だった認めた瞬間にでも、そのことについて言及すべきだったのかもしれないと今になって思う。
だがもう遅い。
キャーリサから突き付けられた真実は、他国の、それも一介の小市民である上条には到底越えようも無い障害であり、
この幻想を破砕するにはこれ以上無い程に相応しい、無情に振り下ろされた最後の一槌だった。
上条「そ……そうなのか」
言葉にならなかった。
キャーリサが結婚することの意味が分からなかった。
つい一週間前に同じことを告げられた時は、何気なく流したのに。
冗談みたいな親子喧嘩の話に意識を逸らされ、忘却の彼方へ追いやられていたこの小さな欠片によって上条は身動きも取れなくなっていた。
キャーリサ「……すまない」
謝罪の言葉を口にし続けるキャーリサは上条の手を取り、歩き出す。
茫然自失となった上条は、半ば彼女に引きずられるようにして路地裏から広めの裏通りへと歩みを進めて行った。
キャーリサ「私も母上の冗談か何かだと思っていたんだ」
コツコツとアスファルトを叩くブーツの底の音がやけに高く響く。
上条は彼女の言葉をただ聴くことしか出来なかった。
キャーリサ「距離を置けば事態は好転すると、私がどれだけそれを望んでいないのか理解してもらえるのだと、昨日までそー思っていたの」
上条「違ったのか……?」
ようやくひり出した疑問の声は自分でも驚くほど震えていた。
上条の問いかけに、キャーリサは小さく首肯する。
噛みしめた唇には不安と憤りが赤く色づき浮かんでいた。
キャーリサ「ああ、ウィリアムが来たこともそーだ。騎士団長の差し金らしーが、どーやら母上は私を本気で結婚させるつもりらしーの」
上条「何でそんな急に……。ベタなところじゃ政略結婚ってやつか? そんなことしそうな母親にも見えないけどな……」
と言いつつも、上条とて英国女王のエリザードをよく知っているわけでは無い。
ほんの少し会話を交わした程度の間柄でしかないのだから当然と言えば当然ではある。
キャーリサ「……クーデターの失敗。私はその責任を取らねばならないの」
上条「責任?」
一月程前に起こった、英国におけるクーデター。
現在はブリテンザハロウィンという呼称で、表向きにはさほど大きな問題として世界的には取り上げられてはいない。
しかし、どんな理由があったにせよその首謀者たるキャーリサは、形としては国家に反旗を翻して敗北した。
その事実は揺らがない。
本来ならば処罰されて然るべきものだが、王女と言うことと、一般には浸透していない(ということになっている)魔術による決着の所為で
その処遇がなかなか決まらなかったのだろう。
そして、その落としどころとして結婚という結論に至った。
キャーリサ「そーだ。相手は某国の皇太子で私も知る人物だが……」
もちろんこれは単純に男と女が籍を入れて夫婦になるだけのことではないというのは上条にも分かっていた。
恐らくは政治的に非常に重要な意味をもつ婚姻なのだろう。
或いは結婚にかこつけた国外追放であるのかもしれない。
いずれにせよ、クーデターを起こした娘の命を守るための女王の決断だと上条は信じたかった。
しかし、望まぬ結婚を強いられるキャーリサにとっては罰であることに変わりは無い。
出来ることなら止めてやりたいが、この問題に果たして一介の高校生風情が安易に口を出していいものなのかどうかという疑問も、
上条に二の足を踏ませる要因となった。
上条「まさか相手がとんでもねぇクソ野郎だとか?」
物語の中にはよくある話だった。
もしそうであってくれたなら、上条の迷いも少しは取り払われていたのかもしれない。
彼女の震える体を抱きしめて、頼りなく細い手を握って離さぬ選択をとれたのかもしれない。
キャーリサ「いや、そーではない。相手はもー50を越える年齢だが、国民からの人気も高い人格者だ。
知性、教養、政治手腕。どれをとっても問題をかかえているよーなお人ではないの」
それなのに、現実はまるで優しくは無かった。
昨日、キャーリサが「この物語は誰も不幸にならない」と言ったことを思い出す。
これが彼女にとって決して悪い縁談ではないことが、その態度からも察することが出来た。
キャーリサ「例のクーデターは、表向きには何事も無かったかのよーに、それこそただのお祭りだったかのよーに終息してはいるが、
国内では王室派、騎士派、清教派の三勢力に小さな亀裂を入れる結果となったの。
それぞれのトップ同士は協調の姿勢を崩していないから、一見すると元より強く結束を固めたよーに見えているがな」
上条「やっぱ……そうだよな。現実として戦いは起こってたんだから。国内にいた人間からしてみりゃ疑問に思うのも当然だ」
キャーリサは頷く。
キャーリサ「清教派の魔術師と騎士派の騎士達の対立もあるが、それらに属さない者達からの圧力も強まっているし。
国賊である私の処断を母上は迫られているの」
英国の三派閥と言えど、それぞれが一枚岩というわけでもなく、またそれ以外の勢力だって存在する。
上条には到底考えも及ばないような水面下での争いが起こっているのは、キャーリサが一から十まで説明せずとも容易に想像がついた。
上条「だからこっちに逃げてきたって訳か?」
キャーリサ「逃げてきたというのは正しいが、それは派閥の争い云々よりも、婚姻を私が受け入れられなかったからというのが大きい。
考える猶予が欲しかったの。形としては結婚でも、実質私は英国から追い出されることになる。
それを母上に改めて欲しかったし、仮に嫁ぐとしてもこんな形を黙って受け入れるわけにはいかなかったの」
夕日が落ち、外は徐々に暗がりに包まれようとしている。
静かな裏路地にポツリポツリと点いた小さな店やホテルの灯りが、表通りからこの場所を切り取り隔離しているかのような錯覚を抱かせてきた。
そんな中で、キャーリサはゆっくりと歩きながら言葉を続ける。
あてもなく歩く彼女。
この足を止めて、家に戻れば、それでこの日常は終わる。
キャーリサはきっと、その事実をまだ受け止めたくないのだろうと上条は思った。
上条「俺はどうすりゃいい」
率直に問いかける。
彼女がこの婚姻を望まないなら、それを止めてくれと言うなら、上条はその願いを実行に移したって構わないと思っていた。
誰よりも国を愛し、国を憂い国の為に反逆に躍り出た王女が、望まぬ形でそれを失おうというなら、
上条にとって彼女の力になるには十分過ぎる理由だった。
キャーリサ「……分からないし。私の結婚が国益に結び付くならとも思うが、それは私が望んだ結末とは真逆のものだ」
上条「……」
キャーリサ「これが私が英国を離れた理由だ。
ウィリアムが来たことで事態は何一つ変化を遂げていないのは分かったが、奴も聴かされていた話とは少々違ったよーでな。
こーしてしばらくの猶予をくれたの。騎士団長から納得のいく答えを聴かされるまでの間だろーが。
……ふふっ、困らせているよーだな。すまない」
難しい顔をする上条を見てキャーリサはクスリと笑みを零す。
一見すればいつも通りの笑みだが、その瞳には確かな哀しみが宿っていた。
上条「いや……」
何と言葉をかけていいか、上条には分からない。
この結婚は決して悪いことばかりではないのだ。
相手もキャーリサを不幸にすることが分かり切っているような人物では無いようだし、あの女王がそんな真似をすることも考えられない。
国内の三大勢力以外にも存在する政敵からキャーリサの命を守るために、エリザードが娘を国外に出すことで事態を収めようとしているのは上条にもなんとなくは理解できた。
それが一時的なもので、またいつか英国で『軍事』のキャーリサとして采配を振るうことになるのか、はたまた実質の国外追放になるのかは不明だが、
いずれにせよ目に見える形でクーデターの首謀者としての責任を負わされることになるのは明白だった。
上条「……キャーリサ、もう一度聴く。俺は……どうすればお前を助けられる」
上条は先程と同じ質問をキャーリサに投げかけた。
キャーリサを助けたい。
その気持ちだけは一切の迷いが無かった。
だが、上条にはその方法が分からないのだ。
薄明りが灯る小さなホテルの前で足を止め、キャーリサは上条を真っ直ぐに見つめる。
キャーリサ「そーだな……では」
ふっと微笑み、上条と手を取り胸に抱く。
驚き目を見開く上条。
まばらとは言え人目もあるが、そんなことは問題ではない。
問題なのは、キャーリサの表情は先ほどまでの言葉の内容からは想像もつかないほどに晴れやかだったこと。
それはまるで事態を諦観しているかのようで。
キャーリサ「私に最後の思い出をくれないか?」
少しだけ紅潮させた頬で、キャーリサは恥じらい告げた。
上条「え……」
ここはカップルが利用する所謂ラブホテルの前。
休憩1h4000円の看板とギラついたネオンの光がチラリと視界に入り込んでくる。
その視線に気づいたキャーリサは赤らんだ顔で俯き、上条の腕を抱きしめて身を寄せた。
キャーリサ「私を愛して欲しーの……とーま……。
……お前が私を愛してくれるなら、私はこの先に待つ未来を受け入れられるし……」
右腕に押し付けられる柔らかな感触と、髪や吐息のくすぐったく甘やかな香り。
上条の理性を奪おうと誘惑してくる彼女の全てに、クラクラと眩暈すら覚えるのを感じていた。
ゴクリと唾を飲み込む。
彼女がそれを望むことなら、可能な限り応えてやりたい。
一頻り思索にふけった上条は、強く唇を噛んで無言でキャーリサの腕を引き、足を踏み出したのだった。
―――学園都市 第七学区 自然運動公園
キャーリサ「まったく……意外とヘタレだなお前」
呆れたようなキャーリサの声が誰もいない公園にポツリと放たれる。
昨日の昼間訪れた自然運動公園高台のベンチに、学園都市の夜景を眼下に見下ろしながら上条とキャーリサは並んで座っていた。
上条「悪かったな。でもありゃ何か違うって思ったんだよ」
ホテルの前でキャーリサに誘惑されたものの、上条は欲望に負けそうになる心を押し殺して彼女の腕を掴み裏路地を後にしてこの公園へとやってきた。
キャーリサ「据え膳食わぬは何とやらと言うぞ」
上条「据え膳ねえ……」
やれやれと首を振るキャーリサに苦笑を返す。
確かにあのままキャーリサとそういう関係になることも出来たのかもしれない。
しかし、上条にはどうしてもそんな気になれなかった。
いや、危ないところではあったが。
それ以上にそんな関係になってはいけない気がしたのだ。
あの時彼女は「最後の思い出をくれ」と言った。
もし彼女と体を重ねてしまったら、それで二人の関係はスッパリと終わりを告げることになっていただろう。
上条にはそれが耐えられなかったのだ。
キャーリサ「……」
上条「……」
沈黙。
学園都市の街並みの光が夜空を煌々と照らしている。
小さな木製ベンチに並んで腰かけたまま、二人はどちらともなく手を繋いで寄り添った。
このままこの景色を見続けていたい。
帰宅してしまうことで幕を閉じる1週間の同居生活を、もう少しだけ楽しんでいたいという思いを強く抱いていた。
キャーリサ「綺麗だな……」
上条「……そだな」
爛々と眩しく輝いている訳ではない。
しかし、広がる街並みから立ち上る家々の灯りはこの高台からはよく見えた。
キャーリサが上条の手を強く握りしめる。
上条もそれに応えた。
キャーリサ「……とーま」
間を置いて、キャーリサが語りかけてくる。
上条「ん?」
キャーリサ「私が王女でなかったら、お前は私を選んでくれたか?」
その質問に、上条の胸はドキリと高鳴った。
動悸は速度を上げ、彼女と共に過ごす何事も無く穏やかな日々に想いを馳せる。
上条「……」
それは決して嫌なものではなく、むしろそう在りたかったとすら思ってしまった。
キャーリサ「……いや、変なことを言ってしまったな。これは……遊びなのだし」
切なそうに目を細めるキャーリサ。
薄く笑う桜色の唇がわずかに奮えていた。
上条「遊びじゃねぇよ……」
それを見て上条がポツリと返す。
さすがの上条も既に気づいていた。
戯れに始まったこの遊びが、遊びと呼ぶにはあまりに気持ちが入り過ぎていることに。
上条にとっても、キャーリサにとっても。
キャーリサ「……え?」
驚いたように目を見開き、上条を見つめるキャーリサ。
澄んだ大きな瞳が潤んでいる。
そして上条は告げた。
上条「お前が好きだ、キャーリサ」
昨日言った言葉を、もう一度告げる。
もう言わずにはいられなかった。
難しいことは置いておくことにして、とにかく自分の気持ちを伝えた上で考えればいいと思うことにした。
上条「難しい問題なのは分かってる……それでも、お前が好きなんだ」
きっかけはキャーリサの誘惑に過ぎなかったのかもしれない。
些細な言葉を真に受けて舞い上がってしまったからなのかもしれない。
だが、ここまでの過程が何であれ、上条は今確実にキャーリサのことを好きになってしまっている自分に気づいた。
デート中幾度となく胸を震わせる動悸に襲われた。
キャーリサの笑顔を見ているだけで、優しい気持ちになれた。
こうして隣に座る彼女を失いたくないという気持ちが、どんどん強くなっていくのを上条は自覚していた。
キャーリサ「とーとつだな」
ふっと笑みを零すキャーリサ。
諦めにも似た、どこか遠くを見るような眼差しは、しかし上条を捉えて離さない。
上条「悪いかよ」
だから上条も彼女から視線は逸らさなかった。
彼女が目の前から消えてしまわないように。望まぬ現実が待っているなら、そこから彼女を引きずりあげるために。
上条はキャーリサを捉える。
キャーリサ「……愚かだな、お前は」
放たれた言葉は、優しい声色だった。
言葉は辛辣でも、その奥には確かな慈愛が宿っている。
キャーリサ「まったく、愚か者だし……」
キャーリサは立ち上がり、学園都市の夜景を望む鉄柵の方へと歩いていった。
上条はその背中に視線を送る。
キャーリサ「国、身分、勢力、立場、年齢……あらゆる障害がお前と私の間に立ち塞がり、道を閉ざしている」
上条「……」
キャーリサ「加えて結婚とはね。……まったく嫌になるの」
苦笑しながらため息をつく。
背中をこちらに向けたまま語りかけてくるキャーリサ。
上条は彼女の言わんとすることの全てを理解すべく、一心に耳を傾ける。
キャーリサ「だがな、とーま。私はそんな障害の全てを斬り伏せて、お前と共に征く覚悟は、ここに来た時既に決めていたの」
上条「!」
驚くべき言葉だった。
上条は声を失う。だがその様子に気づいたのか、こちらを向かぬままキャーリサは肩を竦めた。
キャーリサ「これしきのことで喜ぶな。お前を頼ってきたのだ。
そのよーなことになる可能性を頭に入れて腹を括るのは当然のことだし」
キャーリサの勇敢な言葉は、上条にはとても頼りなく聞こえた。
薄氷の上を歩いて渡るような危うさ。
当ても無く城を飛び出し唯一思い浮かんだ先が上条のいる学園都市。
もしそこに上条がいなかったら、或いは上条が迷惑だと突っぱねたら、彼女はどうしたのだろう。
キャーリサ「……お前と過ごしたこの1週間は、私には過ぎたる程に楽しかった。
もっとお前といたいと、そう願ってしまうほどにな」
しかし現実はそうはならなかった。
上条とキャーリサは出会うべくして出会い、惹かれあうべくして惹かれあった。
だから上条は、そのキャーリサの蛮勇に希望を見出した。
上条「俺はそうしようって言ってるんだぞ」
出会うべくして出会ったのなら、最後まで戦い抜くべきだと。そう彼女に告げた。
キャーリサ「……お前の都合も構わず勝手に覚悟など決めて来た己の傲慢を許し難い程に……お前は優しかった」
上条「そんな大層なもんじゃない。……キャーリサと一緒にいるのは何だかんだで俺も楽しかったからな」
キャーリサ「そーか……」
上条の言葉が正しくキャーリサに届いているのかは分からない。
ここから見える彼女の背中は随分と小さく見えた。
しかし次の瞬間。
キャーリサ「なー、とーま……――――」
キャーリサは振り返り、煌めく夜の光を背負い、微笑んだ。
その光景は、上条の目にはとても幻想的なもののように映り、神々しい翼を背負う天使長のようで。
思わず言葉を失う。
キャーリサ「――――お前を愛している」
彼女の頬を一筋の涙が零れ落ちた。
愛の言葉はとても物悲しく、痛々しく霧散する。
もはや己の感情を制御することなど出来ぬと言うように、キャーリサは笑いながら泣いた。
キャーリサ「……こんなはずでは無かったの。お前への気持ちの整理をつけよーとしていたのに……
お前はどーしてそんなことを言うの? そんな風に言われたら……思ってしまうじゃないか。
……とーま……お前を失いたくないと。帰りたくないと……」
この幻想が現実のものであることの証明を乞うように、キャーリサは上条に懇願の視線を向けて飛びついた。
首に腕を回し、首筋に顔を埋める。
その体勢のまま、キャーリサは囁いた。
キャーリサ「私は迷っているし……。とーま、教えてくれ。私はどーすればいいの?」
キャーリサの腕はきつく締まり、上条に決して離すなと暗に告げている。
上条は思考を巡らせた。
キャーリサはもはや自ら選ぶことが出来ないでいるのだ。
国に戻り、英国の未来の礎、或いは自らの命のみの保障を得るか。
ここで上条を選び、己の我を通していつ終わるとも知れない脆く儚い幻想を行くか。
しかし、上条の答えは決まっていた。
上条「俺と来い、キャーリサ!」
上条もキャーリサを抱きしめた。
この選択が、決して賢明なものでないということは十分に理解しているつもりだ。
それでもキャーリサを、彼女自身が望まぬ未来へ放り出すわけにはいかなかった。
国を愛し、国のために反逆を起こした王女に、上条は国を捨てろと言っているのだ。
最悪の判断だと言ってもいいだろう。
だが。
上条が救いたいのは、失いたくないのは英国ではない。
キャーリサなのだ。
彼女は上条にその選択を託し、上条はそれに応えた。
ただそれだけのこと。
彼女が「結婚なんてしたくない」と言った。
上条が彼女を救いたいと思うのに、そもそもそれ以上の理由なんていらなかったのだ。
キャーリサ「馬鹿者……この、馬鹿者めっ!」
キャーリサは鼻を啜りあげながら上条の耳元で嗚咽混じりにそう言い放った。
とても複雑な気分だろう。
あれほど思い悩み、真実を話しては上条に嫌われるのではないかと気にしていたくらいだ。
確かに想いを告げたところで何も問題は解決していない。
けれど、上条もこのまま諦めるつもりはなかった。
キャーリサが可能な限り幸せな結末を迎えられるよう、手を回していこうと思っていた。
神裂や土御門のツテで英国王室へ説得へ行けるかもしれない。
子供の我儘だと何度突っぱねられようが構わない。
キャーリサが何も捨てずにいられるような、そんな未来を二人でまだ望んでいたい。
少なくとも、諦めるには早すぎる時間だ。
上条「……いいんだな、キャーリサ」
上条は問う。
自分が選んだこの答えで構わないのかと問う。
1週間足らずで人生の転機を迎えてしまったなと心で苦笑する上条。
けれど、そんなこと、今までだってあったじゃないかとさらに苦笑。
何てことは無い。
また一つ、命を賭けるに値する『程度』に過ぎない問題を抱え込んだだけだ。
その問題を、どれだけ時間がかかったって解決してやるだけのことだ。
上条にとってそれは、ベランダで行き倒れのシスターを拾ったことと変わりない。
1万人の少女の命を救うために学園都市最強に挑んだことと変わりない。
だからこれはただの、日常だった。
違いがあるとすれば。
恋人が出来たこと。ただその一点。
その一点に於いて、上条は覚悟を決めればいい。
キャーリサ「お前に……こんな道を選ばせるつもりは無かったの。……許せとーま」
そしてキャーリサは小さく頷いた。
最後の思い出だと告げた彼女。その発言は撤回してもらう。
彼女は英国へ帰さない。
帰る時は、二人で戦いに赴く時だと。それが今だと言うなら構わない。
拳一つで彼女のために戦おう。
上条「もしイギリスに帰るなら、俺も連れていってくれ」
揺るぎない視線で、上条はキャーリサに言い放った。
キャーリサ「何……?」
驚きを露わにするキャーリサ。
上条「俺が女王様や周りの連中を説得してみせる。
お前がこれからもずっと笑って過ごせるように、そのためなら俺は何だってしてやるから」
キャーリサ「……とーま……」
上条の言葉に、キャーリサは体を離し目を見開いた。
きっと予想外の言葉だったのだろう。
英国を選ぶか、上条を選ぶか。
ただ二つの選択。
その覚悟を決めて彼女は学園都市へ来たのだから。
だから与えられた三つ目の選択肢に、最後は希望に満ちた笑顔で頷いた。
キャーリサ「分かったの……お前がそーするというなら……私も行くし」
根拠なんて何も無い。
それでもどうにかしてみせるという気概が上条にも、そしてキャーリサにも今は満ち溢れていた。
本当は不安で仕方ない。
けれど、二人でなら何かを変えられる気がした。
上条「……正直、断られると思ってたよ」
未だに恋人としての実感も、彼女が上条の手を取ったと言う事実もすんなり受け入れることは出来ないでいた。
キャーリサ「どーして?」
上条「これで最後とか……お別れとか、意味深なことばっか言うからさ。
ちょっとビックリしたけど……今、すげぇ嬉しいぞ」
キャーリサ「……そーだな。お前に引き止められたら迷うと分かっていたから……私も色々と踏み留まったんだが……」
上条「うん」
少しだけ言葉に詰まるキャーリサ。しかし次の瞬間、口角を吊り合げて舌を出す。
キャーリサ「お前に抱かれずに帰るのも癪だと思ってな」
上条「!」
仰け反る上条。顔が熱くなる。
キャーリサ「王女が体を許すと言っているのに、お前断るかフツー?
あー、今になってだんだん腹立ってきたし。お前に抱かれるまでは帰らん!」
恥ずかしげも無く笑顔を浮かべるキャーリサ。
もはやそれは開き直りにも程近い発言ではあったが、上条はここまでの彼女の発言の中では一番しっくりくるものだった。
キャーリサも自分と一緒にいたいと今そう思ってくれている。
それで充分じゃないかと上条は思った。
上条「上条さんのどこがそんなによかったんですかねぇ……」
キャーリサ「私のどこがそんなに良かったんだ? 年上だぞ、いーのか」
小悪魔的微笑で上条を挑発する。
鼻先に吐息がかかる程の距離で、甘やかに薫る彼女の香は上条の脳髄を蕩けさせるには十分なものだった。
上条「……可愛いとこだよ」
キャーリサ「奇遇だな。私もだし」
キャーリサの頬に手を添え、口づける。
彼女も一切躊躇うことなくそれに応えた。
キャーリサ「んっ……チュッ……チュプッ……ぅん……」
小さな水音が静かな公園に微かに響く。
まだ幾分か早い時間ではあるので、誰か来る可能性はおおいにあるが、もはやそんなことは上条の頭には無かった。
互いに貪り合うように舌を絡めて、これから待つ現実をひと時でも忘れようと求め合う。
時折漏れるキャーリサの熱を孕んだ声が、上条から思考能力を着実に奪って行った。
キャーリサ「とーまぁ……チュゥッ……んぅ…………」
上条「よ、よし……」
今日初めて出来た恋人は随分と年上であったが、上条にとっては最愛の恋人であることに何ら変わりは無い。
恋人ごっこから恋人へ。
そのわずかな変化が二人にもたらしたものは、上条からキャーリサへと捧げる口付けだった。
キャーリサ「……ふふっ、よーやくお前からしてくれたな。嬉しーの」
頬を赤らめ、俯き目を細めるキャーリサ。
上条「あ、ああ……そういやそうかもな……」
そんな風な反応をされたものだから、上条も急に気恥ずかしくなって押し黙る。
未だに抱き合うような恰好になっているのも羞恥を煽る要因となっていた。
上条「まさかお前とこんなことになるなんてな。……お前こそ好きになるのが早すぎるんじゃないか?」
少しの不安も混じりつつ、上条は冗談めかしてキャーリサに問いかける。
だが彼女は、一切の迷いを振り切ったような顔つきで言葉を返した。
キャーリサ「私は宮殿を出る前、お前の顔が真っ先に浮かんだの。
他にあてが無いというのも大きな理由ではあるが、私はその直感を信じ、ここまで来た。
だから……最後までその直感を信じたいの」
こうと決めたら一直線。
迷い悩み、それでも決断を下してきた彼女は一度決めたことを曲げず、自分を貫き通す。
そんな彼女だからこそ出てきた言葉だった。
キャーリサ「……しかし説得とは考えもつかなかったな。
お前と結ばれる未来を期待してもいーのだろーか……」
チラチラと、上目使いにこちらに視線を飛ばしてくるキャーリサ。
何度でも抱きしめたくなるほど可愛く思いながら、上条は力強く頷いた。
上条「当たり前だろ。俺が絶対に」
??「残念だが、それは遠慮願いたい」
だがそれを遮るように背後から、男の声が聞こえた。
それは、これからの行く末に確かな希望を持ち得た二人の全てを否定するかのような冷淡な声だった。
キャーリサ「騎士団長……」
上質な生地で仕立てられたスーツを着こなした紳士然とした男。
英国、騎士派の長、騎士団長が困り果てたような表情で姿を現した。
彼は本来なら王室派に仕える騎士であり、キャーリサの味方である。
だがその表情や態度から察するに今はそうではない。
何か良くないことが起こりそうな予感がして、上条はキャーリサを庇うように彼との間に立った。
騎士団長「お取り込み中失礼します、キャーリサ様。
ですが、これ以上はその少年をいたずらに傷つけるだけかと」
言葉こそ上条を気遣っているように聞こえるが、その視線は酷く冷淡。
上条の一連の言動を全否定するような凍てつく視線だった。
上条「キャーリサを連れ戻しに来たのか」
騎士団長「そうだ。大人しく渡してもらおう……と言うと何か我々の方が悪人のようだな」
スマートな物腰。
しかし言葉の節々には有無を言わせぬ威圧感を孕んでいる。
上条「我々……?」
不穏な発言。
上条が首を傾げたとほぼ同時に、騎士団長の後ろに人影が見えた。
??「上条当麻……とても心苦しいですが……彼女を英国へ連れ帰りたい。よろしいですね?」
女の声。
そして間もなく騎士団長の後ろから、もう一人の人物が姿を現した。
闇に揺らめく黒髪と白いリボン。
鋭い眼光は百戦錬磨の兵士を思わせ、ジーンズとジャケットの片側の袖を引きちぎった奇怪な服装とその下に存在する女性らしい体つきが
色々な意味で周囲の視線を引きつけてやまない。
ウェスタンブーツの底を打ち鳴らし、長大な日本刀を携えて現れたのは聖人、神裂火織だった。
上条「神裂ッッ!? な、何で……!」
二人だけで学園都市を壊滅できそうな武力を持つ人物の揃い踏みで、上条も驚きを隠せない。
神裂「こちらの台詞です……あなたという人は……一週間でどうしてそこまでの関係になれるのですか」
少しの呆れを声色に潜ませて、神妙な顔つきのまま神裂がため息をついた。
上条「いやそれはその……」
騎士団長「答えなくて結構。少年、浮かれているところを申し訳無いが、君にも分かるはずだ。
キャーリサ様は英国の未来にとっても重要な方。じゃれ合いの時間は終わりにしてもらえるだろうか」
先程も言ったが、一応上条に気を遣う素振りを見せてはいる。
しかしその言葉の節々は反論は許さないと言いたげに鋭く、彼の眉間には深く皺が寄せられている。
上条「……キャーリサが結婚するんだってな」
騎士団長「そこまで分かっているなら話は早い。王女をこちらに――」
騎士団長が一歩足を踏み出した瞬間。上条は右手を真横に突き出して彼の行く手を阻むように立ちはだかる。
険しい表情で目を細めた騎士団長の唇がわずかに引きつり、その後ろの神裂の瞳にも驚愕が浮かんだ。
キャーリサ「とーま……」
上条「まだ話は終わってねぇぞ」
騎士団長「……何の真似だ。キャーリサ様の滞在を受け入れてくれていたことには礼を言わせてもらう。
かかった費用も謝礼も含めて全て支払おう。
が、それ以上に重要な話など、君にはあるか?」
上条「キャーリサは結婚したくねぇって言ってるぞ」
騎士団長「ああ、そのことか……」
ふぅと息を吐いて騎士団長が目を伏せる。
思ったよりもあっさりとした反応に、上条はわずかにたじろいだ。
そして
上条「ぐっ!!」
騎士団長が瞼を開いた瞬間、上条の腹には彼の拳が叩き込まれる。
うめき声をあげて膝をつく上条。
あまりに素早い動きに、目で追うこともかなわなかった。
キャーリサ「 騎士団長! 貴お前何をしているの!?」
神裂「そうです! 仮にも王女を滞在中かくまってくれた彼に、それではあまりに……!」
騎士団長「差し出がましいぞ少年、君に何の関係が? すまないが、時間が無いものでな。
諸々の謝罪等も後日改めてだ」
そう言い放ち、革靴の底で石造りの道を叩きながらキャーリサに一歩ずつ歩み寄っていく。
痛みを必死にこらえる上条だったが、不意打ちにも近い強烈な拳の一撃を腹に食らい、どうしても立ち上がることが出来ない。
上条「待て……! キャーリサを連れていくな……!」
騎士団長「その頼みは聞けんな。……キャーリサ様、お迎えに上がりました。宮殿へとお戻り下さい」
キャーリサ「…………」
キャーリサの眼前で恭しく頭を垂れる騎士団長。
英国紳士の無駄の無い仕草。一見スマートなそれだが、背中からは息を呑むほどの重圧を与えるオーラが見え隠れしている。
蹲る上条に駆け寄る神裂。
その様子を見ながら、キャーリサは唇を強く噛んだ。
キャーリサ「……私は……とーまと約束をした。私は戻れん」
騎士団長「いえ、お戻り頂きます。エリザード様にも縛り付けてでも連れ戻すようにと申しつけられておりますので。……失礼」
キャーリサ「つっ……!」
キャーリサの手首を強く握りしめ、騎士団長は引きずるように彼女を連れて行く。
上条「キャーリサ!!」
この時上条は思った。
欠片と言えど彼女はカーテナを所有している。それを抜いて騎士団長と真っ向から切結べば良いのではないかと。
あらゆる障害を斬り伏せてでも上条と共に征くと行った彼女なら、それくらいのことはやってのけるのではないかとむしろ危惧していたほどなのに。
キャーリサはその素振りを見せず、ただ唇を噛んで力での抵抗を試みるだけだった。
神裂「あなたが何を考えているかは分かります。確かに剣を振るえばここは凌げるかもしれません。
ですが、彼女がその行動に出れば、あなたは王女誘拐の犯人にでも仕立て上げられてしまう可能性もある……」
神裂は悲痛な面持ちでそう告げた。
上条「誘拐……!?」
その言葉に、上条は愕然となって絶句する。
神裂「彼や我々が、では無く、あなたと関わりの無いところから手が回る。
それは私達にとっても非常に面倒な展開なのです……」
上条「俺の……せいか」
神裂「……王室にも敵はいますから。諦めてはくれませんか……こんなこと、言いたくは無いですが」
苦虫を噛み潰すような表情で神裂は問いかける。
もちろん騎士団長や女王がそのような根回しをするのではない。
そうするのは彼らの『敵』。
英国の政治の指揮を執るのが女王だったとしても、そこには様々な人間達の思惑が絡んでくる。
先のクーデターによって女王やキャーリサの存在を疎ましく思う者達が力を着けて攻勢に出ようとしているのだ。
もちろん彼女一人であれば国外に出た騎士団長とは互角程度に戦えたのかもしれない。
だが、それは出来なかった。
キャーリサが武力による抵抗に出ないのは、英国内でのドロドロとした闘争に上条を巻き込まない意図があるからだ。
そんな感じのことを神裂に説明されたが、上条の耳にはほとんど入らなかった。
否、聴く必要すら無かった。
上条「……ふざけるな……」
騎士団長「……何か言ったか?」
上条「その手を離せっつったんだよ三下ぁ!」
上条は沸々と腹の底から湧き上がる怒りと共に穿き捨てる
英国内での権力闘争など、知ったことか。
上条の決意は何も変わらない。
キャーリサが嫌だと言っている。
それ以外の理由など、それでもなお必要無いのだから。
上条「待てよ……!」
顔をしかめる彼女を目にした上条は、奥歯を強く噛みしめ、痛みを訴える体に鞭を打つように己を奮い立たせて立ち上がった。
騎士団長「待たん。これは君のためでもあることだ。……相手を頼む」
キャーリサの手を引きながら、上条を見ようともせず騎士団長は神裂に目配せした。
神裂「し、しかし……聴いていたのとは随分と状況が」
躊躇う神裂。彼女にとっては想定外のことだった。
上条に刃を向けなければならないほどの理由は無く、ここに来たのもあくまで王女の護衛を確実なものとするためでしかない。
ほんの1時間前まで、時間があればインデックスにも会って帰ろうかななどと考えていた彼女にとっては、刀を抜くにはあまりに唐突過ぎる展開だった。
騎士団長「そのために来てもらった。英国の外なら貴女の方が確実だ」
上条「テメェだろうが神裂だろうがどっちだって構わねえ……」
しっかりと大地を踏みしめ、一歩を踏み出し、駆ける。
キャーリサを取り戻す。それだけでいい。
その先に待っているのが、命を狙われる日々だろうと、国際指名手配だろうと。
そんなことどうだっていい。
上条「邪魔するってんならぶっ飛ばすだけだ…………キャーリサを離せぇぇえぇえええええ!!!!!!!!!!!!!」
上条は今、目の前で受け入れがたい現実を突きつけられている一人の女を助けること以外には何も考えてなどいなかった。
それが上条当麻の日常なのだから。
狼狽する神裂の横をすり抜けるようにして拳を振りかぶり、騎士団長に向けて跳びかかる上条。
キャーリサ「とーま!!!」
鈍い痛みを訴える体を叱咤して地を駆ける。
立ちはだかる神裂と騎士団長。
魔術など使わずとも精強な二人を相手に勝てる見込みは極めて低い。
だが、上条はそれで二の足を踏むような少年ではない。
そんなこと、振り上げた拳を下ろす理由には決してならない。
騎士団長「……現実が見えていないようだな、上条当麻」
しかし。
彼の冷淡な呟きの通り、現実は甘くなかった。
神裂が対応するまでも無く、上条は騎士団長の長い脚のつま先を鳩尾で貫かれる。
上条「ぁ……ぐっ!」
深く抉りこまれたその一撃が、上条の意識を吹き飛ばそうと全身を駆け巡る。
経験も実績もあまりに違う、鍛え抜かれた男の蹴りは、所詮一介の高校生である上条が抗うにはあまりに鋭く、重かった。
キャーリサ「!」
倒れ伏そうとする体を、奮える脚で大地を踏みしめて繋ぎとめ、キャーリサの肩を掴んでこらえた上条。
その執念深くすら映る咄嗟の行動に、神裂はもとより騎士団長も眉尻をピクリと動かした。
上条「……待ってろキャーリサ……お前を絶対に……迎えに行ってやるからな!」
強い意志の宿る瞳。
途切れそうになる意識を力づくでこらえて、キャーリサのスカイブルーの瞳を真っ直ぐに見据えて言い放つ。
ここで倒れようと構わない。
最後に勝つのは自分だと、キャーリサを通して周囲の全てに言い捨てる。
キャーリサ「……っ! ああ……ああ! 待っているの」
沈痛な面持ちで、それでも確かに小さな笑みを零したキャーリサの表情を見て、上条の視界はグラリと揺れた。
騎士団長「……王女に気安く触れるのは止めてもらおう」
すぐにキャーリサの肩を掴む上条の手を払う騎士団長。
バランスを失い揺れ惑う体。
だがその瞬間。
神裂「!」
キャーリサ「!」
寄りかかるものを失い、大地に横たわるはずだったその体を支える一つの影が割り込んだ。
騎士団長「……ほう」
再び騎士団長の眉がピクリと動く。
??「――――随分と手荒な真似をするようになったのであるな」
上条は何者かの屈強な腕に担ぎ上げられる感触を混濁する意識の中で得た。
張りつめる空気の冷やかさが感じ取れる。
どこかで聞いた男の声を耳にしながら、それが誰のものであったのかを思い出す前に、上条の意識はそこで途絶えた。
今日はここまでです。
今日地の分ばっかりになってしまって申し訳ない。
シリアスパートはちょっと地の分多めになります。
それではまた近々お会いしましょう。
こんばんは。キャーリサ様と上条さんのイチャイチャはしばらく休憩です。
今日は惚気るキャーリサ様をお楽しみ下さい。
では投下していきます。
―――学園都市 上条の部屋
上条「――……う……ぅうん……」
??「あっ! 目が覚めたんだよ!!」
上条「……あ……?」 パチッ
??「大丈夫ですかっ!?」
上条「神裂……それにインデックス……? あれ、ここは……俺の部屋……?」 ムクリッ
神裂「あなたの懐から鍵を拝借しました……お許しを」
禁書「痛いところは無い? とうま?」
上条「ああ……いや全然」
神裂「彼も手加減したのでしょうね……それにしても、随分と無茶をする」
上条「彼……ハッ! そ、そうだキャーリサは!!」
神裂「彼女は……英国に」
上条「クソッ!」 ダンッ!
禁書「とうま、落ち着いて!」
上条「これが落ち着いていられるか! それに何で神裂がここにいるんだ!?
お前は騎士団長と一緒にキャーリサを連れ戻しに来たんじゃないのかよ!?」
神裂「いえ、それなのですが……」
??「私が案内を頼んだのである。生憎と、貴様の部屋の場所など知らぬものでな」
上条「え……お、お前は……!」
―――回想
??「――随分と手荒な真似をするようになったのであるな」
神裂「なっ! あなたはっ……!?」
騎士団長「……ウィリアム」
アックア「しばらくぶりであるな……」
キャーリサ「お前まだいたのか」
アックア「当然だ。貴様を連れ戻す役目は保留であると言ったはずである」
キャーリサ「ふふっ……憎らしいぞ傭兵。このタイミングは、ヴィリアンが惚れるのも頷けると言うものだし」
アックア「……」
騎士団長「こちらから頼んでおいて何だが、それはもういい。
私が直々に出向く程状況は切迫しているのだ」
アックア「……私も少しばかり理解に苦しむ状況であるな。ただの王女の出迎えにしては大げさな人選である」
騎士団長「……察しろ。私とて好き好んでこんな嫌われ役を引き受けているわけではないのだからな」
アックア「……苦労しているようだ」
騎士団長「知れた事。政治の分野だ、お前には関係の無いことだろう」
アックア「……」
騎士団長「……話はそれだけか? それともその少年を助けにでも来たのか。
確かに英国を離れている私は本来の力を出せんが、そう上手くいくかな」
アックア「少し迷ったが、ここで王女を私が奪い返したところで何も解決しないようであるな」
神裂「っ……!」 チャキッ
キャーリサ「……使えぬ木偶め。王女が悪漢に攫われそうになっているの。助けよ傭兵」
騎士団長「悪漢とは人聞きの悪い。私は忠実に職務を遂行しているだけですが」
キャーリサ「では私は逃げぬから手を離せ馬鹿者。痛くてかなわん」
騎士団長「む、失礼しました……」 パッ
キャーリサ「そら、今がチャンスだし。ウィリアム、私ととーまを安全な場所へ避難させよ」
騎士団長「キャーリサ様……」
アックア「その役目はこの男が果たすと約束したのではないのであるか?」
キャーリサ「……おー、そーだったの。とーまの活躍の場を貴様如きに奪わせるわけにはいかないな」
騎士団長「キャーリサ様、申し訳ありませんが、そのようなことは起こり得ません。
英国に戻れば精強な騎士達が婚姻が滞り無く終わるまで貴女を護衛することになる」
キャーリサ「お前も全力を出せるしな」
神裂「……その割には愉快そうですね……」
キャーリサ「とーぜんだし。……私は英国でとーまを待つ。
立ちふさがる障害が強大であればある程に、私達がそれを打ち破った喜びも増すというものだろー?
障害が大きい程、愛は燃え上がるものよ」
騎士団長「……」
神裂「何と言う……余程信頼されているようですね、上条当麻……」
騎士団長「まったく、困ったものだ」
アックア「……」
キャーリサ「とーまに伝えよ。私は英国にてお前を待つと……私は……お前のものだし……」
アックア「貴様は己の力で抗う気は無いのであるか?」
キャーリサ「……全てはとーま次第だし」
騎士団長「ウィリアム、それからその少年にも式の招待状くらいは送ってやる。
せめてもの情けと……謝礼だ。だが、下らんことは考えるなよ」
アックア「……」
キャーリサ「確かに伝えよ……次に会う日を楽しみにしているの。
その時は、また私の家出に付き合ってもらうし」
―――学園都市 上条の部屋
上条「えっ!? あ、アックア!?」
アックア「……」
神裂「ええ、彼が意識を失ったあなたをここまで運びました……意図は私にも分かりかねますが」
禁書「まさかまたとうまの命を狙って来たんじゃないの!?」
上条「いやそうじゃねぇよインデックス。……悪いな、アックア」
アックア「……もののついでである。事の一部始終を見ていたが、クーデターはまだ完全な終息を見せてはいないようであるな」
上条「ああ……今度はキャーリサを助けてやらないとな」
アックア「……」
上条「っつーかインデックスと神裂は何でここに?」
禁書「今さら何言ってるのかな!? もう少し喜びの言葉とかがあってもいいと思うんだよ!?」 ガブッ!
上条「いでっいででででででっ!! 悪かった悪かった! インデックスさんに会えて嬉しいですっ!!」
禁書「分かればいいんだよ。私はかおりにとうまがまた怪我したって連絡を受けてわざわざ帰って来たんだよ」
上条「怪我させた奴らの仲間のくせにな」
神裂「そ、そんな目で見ないでください……私も納得がいかなかったからこそこうして残ったのではないですか……。
建前上はインデックスの様子を見るため、ということにしてありますが……」
禁書「あれ? キャーリサの私物を持って帰るためじゃなかったの?」
上条「ふーん……」 ジー
神裂「う……攻めるような視線はやめてください。分かりました分かりましたっ。
謝罪します、この通り」
上条「まあ神裂には何もされてないからいいけどな」
神裂「なっ! 謝り損ではないですかっ! 私の謝罪を返してください!」
上条「ぷふー、天草式の女教皇様ともあろうお人が小さい小さい!」
神裂「くぅっ!!」 ギリッ
上条「あ、あれ……? 神裂さん、もしかして怒ってらっしゃいますの……?」
神裂「お、怒ってなどいませんっ! それより上条当麻、天草式に伝わる回復魔術を施して差し上げましょう
腰痛とかに有効です」 ゴキッ
上条「いて! な、なんで関節キメるんだ……!? やっぱ怒ってんだろ!?」 ゴキゴキッ
神裂「い・い・え! これは魔術ですから!」 グキッ!
上条「ぐほっ! 上条さんに魔術は効きませんのことよー!!」 ゴキゴキッ
神裂「効きます! 私の魔術は効くんですっ!」 ボキボキボキィッ!
上条「ぎゃああああああああああ!! いってぇえええ!!!!!!!!!!!
インデックス! 助けて!!」
禁書「私の事なんか放ったらかしてキャーリサとイチャイチャした挙句に、かおりとまでイチャイチャしてるとうまのことなんて知らないんだよ!」 プィッ!
上条「あ、あれー? まだ何か拗ねてらっしゃるー!? だぉぉぉおお!!」 ボキボキッ
禁書「拗ねてなんか無いんだよ! 晩御飯の途中でわざわざ来てあげたのにぞんざいに扱ってくれたとうまに拗ねる理由なんかこれっぽっちも想像つかないんだから!」
上条「理由言ってんじゃねぇかぁあああ! あぁぁあああああ!!!!!」 ゴキキィッ!!
ガチャッ!
土御門「おっ、カミやーん、目が覚めたみたいだにゃー」
五和「あ、お、お元気そうで何よりです……え、な、何ですかこの状況!?」
神裂「ああ二人とも。お帰りなさい」 ゴキゴキッ
上条「……つ、土御門……たすけ……」
土御門「あー……」
五和「こ、これは……」
土御門「目覚めた途端ねーちんとイチャつくとはにゃー。もうキャーリサはいいのか?」
神裂「なぁっ!」 グキッ!
上条「うぐっ!」 ガクッ
神裂「あ……」
上条「」
アックア「……落ちたのである」
神裂「や、やりすぎました! だだだ大丈夫ですか!?」
上条「」
禁書「白目剥いてるんだよ」
五和「か、上条さんしっかりしてください!」
上条「ハッ……何か綺麗なお花畑で上半身だけの金髪の女の子と羽生やしたイケメンが手招きしてたぞ……」
土御門「危ねぇ、ねーちんにイカされちまうとこだったにゃー」
五和「っ!!」
神裂「どうしました五和?」
五和「い、いえ……」
土御門「分かるぜい五和。エロいこと想像したにゃー」
五和「っ! ち、違いますっ!」
神裂「?」
上条「……いてて……土御門、五和、お前らも来てくれたのか」
神裂「土御門とは先ほど部屋の前で会ったので。五和には今さっき連絡したところです」
五和「上条さん……その……キャーリサ様が……」
上条「っ! そうだった! すぐにイギリスに行かないと!」 バッ
土御門「まぁ待てカミやん。考えも無しに行ってどうなる。宮殿になんかそう簡単には入れっこないぜい」
上条「だったら式場に乱入すりゃいい!」
神裂「無理です。式が行われるのは聖ジョージ大聖堂。魔術的な防御網が強固に敷かれた見た目以上の要塞なのですから」
上条「俺には『幻想殺し』があるだろ」
土御門「搦め手に回られるとカミやんでもどうにもならないぜい」
神裂「それに騎士派の精鋭たちが王女の護衛を固めています。
単純に身体能力の差で厳しい戦いを強いられることになるかと……」
上条「……それでも俺はキャーリサと約束したんだ……! 出来る出来ないじゃねえ! やるんだよ!」
禁書「とうま……」
神裂「上条当麻……まずは落ち着きなさい。状況の把握をしてからでも遅くは無いでしょう」
上条「それは……って言うか、何でこのタイミングで神裂と騎士団長が来たんだ?
キャーリサを連れ戻すのはアックアの役目じゃなかったのか?」
アックア「……そうであるな。私としても気になるところである」
神裂「ええ、実は……非常に言いにくいことなのですが」
上条「構わねぇから教えてくれよ。そんなにヤバい状況なのか?」
神裂「ええ……キャーリサ王女の結婚式は、実はもう3日後に迫っているのです」
上条「何だって!?」
土御門「そいつはまた随分と急な話だぜい、ねーちん。所謂王室の政敵ってやつからの圧力か?」
神裂「ええ……王室派への圧力も日に日に強まってきているので、恐らくは。
もっとも、そういった連中から王女を守るために、あえて国外へ王女を逃がすという女王陛下の策であるという見方も出来ますが……」
五和「で、でもそんな急なことって可能なんですか……?」
神裂「情報規制がされていますので、あまり公にはなっていない情報です。
現にあなた方もキャーリサ王女がご結婚されることを知らなかったでしょう?
とりあえず国内で形だけ済ませておいて、外に向けたことは追々行う、といった形になるかと……」
土御門「キナ臭い展開だにゃー」
神裂「ですが、これは決してイギリスにとっても悪いことでは無いのです。
先のクーデターによって消耗した国の力を盤石なものにするためには、周辺諸国との密な連携をとることは決して間違っていない。
方法に疑問の余地はあるとは思いますが、これはキャーリサ王女も理解しておられることです。
軽率な行動は慎んでください……」
上条「そうかよ。ってことは、急がないと駄目だってことか」
神裂「まったく……聞く耳すら持っていただけないとは……。
諦めろ……と言っても聞かないのでしょうね」
上条「当たり前だ。式は三日後、場所は聖ジョージ大聖堂だな」 バサッ
土御門「おいおいカミやーん。本気で一人で行くつもりか?」
上条「止めるなよ。時間がねぇんだ、俺は行く」
五和「上条さんが行くなら私もお供します!」
上条「駄目だ五和、ありがたいけど、お前が行ったら天草式の立場が微妙なもんになるんじゃないのか?」
五和「それは……」
土御門「まぁ確かににゃー。オレもねーちんも五和も、清教派の一構成員に過ぎない訳だし、出過ぎた真似には違いないぜい」
神裂「その通りです……無論邪魔はしませんが、協力することは非常に難しい……」
上条「ありがとな、神裂。でも大丈夫だ、キャーリサの手を引いて教会から出てくるだけだろ」
神裂「その可能性が極めて絶望的なのですが……」
アックア「待つのである」
上条「……アックア?」
アックア「私は貴様の考え次第では付き合っても構わないのである」
上条「え……?」
五和「なっ!?」
神裂「……ど、どうしてあなたが……」
アックア「傭兵としての契約である」
上条「……契約?」
アックア「ああ。彼女を連れ戻しに学園都市に来て、貴様の帰りを共に待っている時に交わした」
―――回想
ワイワイワイ… ガヤガヤガヤ…
キャーリサ「んー? これもいーなー。学園都市のお土産はどれも魅力的で選ぶのが大変だし」
アックア「…………」
キャーリサ「あー……こっちの学園都市饅頭と学園都市煎餅。どっちにしよーか悩むの……。
あ、学園都市提灯と学園都市ペナントも忘れずに買って帰らないと駄目だし」
アックア「…………」
キャーリサ「なーおい傭兵。お前煎餅と饅頭どっちが好きなの?」
アックア「…………何をしているのであるか」
キャーリサ「今更何だ。言っただろー? 英国へ持ち帰る土産を物色すると」
アックア「かれこれ一時間は経過しているが、その腕に着いた時計は飾りであるか?」
キャーリサ「飾りとは失礼な。これは父上から頂いた大切なものだし」
アックア「…………」
キャーリサ「分かった分かった、そー睨むな。良いではないの。とーまの学校が終わるまでまだもうちょっとあるのだし。
何だ、腹でも減ったか? 昼食も摂っていなかったよーだしな」
アックア「食糧なら自前のものを持ち込んである。……王女がこんな街中を無防備に歩くとは、見上げた度胸であるな」
キャーリサ「お前が盾となるんだろー? 言っておくが、私は刺客に襲われたらお前を捨て置いて一目散に逃げるぞ」
アックア「手近で邪魔をされるよりはその方がマシである。
もっとも、カーテナ=セカンドの欠片を所有している貴様なら、私などいなくとも護身程度はやってのけるであろうが」
キャーリサ「お前にそー言われると自信が持てるというものだし。
おい、饅頭の試食があった。口を開けろ」
アックア「……?」
キャーリサ「そらっ!」 ポイッ
アックア「むっ……」 ムグムグ
キャーリサ「もぐもぐ……むー……ふむふむ、これはなかなか。お前はどーだ?」
アックア「添加物の量が尋常でないのである。推奨は出来ん……」
キャーリサ「自然由来などクソ食らえな成分だろーしな。さすが学園都市。
だがこれはこれで悪くないし。よし、買って帰ろー」
アックア「……呑気なものだな」
キャーリサ「英国に戻れば面倒で煩わしい現実が待っている。
学園都市は幻想郷なの。ここにいる間は見逃せ、すぐに戻る」
アックア「分かっている。だからこうして力づくで連れ戻すのを止めたのであるからな」
キャーリサ「感謝してやるし。頭でも撫でてやろーか」
アックア「…………」
キャーリサ「つまらん奴だ。とーまの方が余程いいぞ。……ヴィリアンには敬いを持つくせに姉の私にはそんな態度なのか」
アックア「…………」
キャーリサ「はぁ、ヴィリアンはお前のよーな奴のどこがいいのだか理解に苦しむな。
おい傭兵」
アックア「何であるか王女」
キャーリサ「お前は土産はいーのか? 神の右席とやらの連中とかに」
アックア「そんな間柄に見えるのであるか?」
キャーリサ「職場の同僚だろー? 仲間は大切にしないとな」
アックア「……あの場所に戻るつもりは無いのである。今のところは」
キャーリサ「うるさい。よし、では私が奢ってやろー。護衛の報酬だし」
アックア「報酬ならあの男に無理矢理押し付けられているのである」
キャーリサ「細かいことを気にするな。よし、これとこれとこれでいーな。
おー、一人女がいたのだったか。ではこっちのAI搭載美顔ローラーも着けてやろー」 ポイポイポイッ
アックア「……いらん」 ペイッ
キャーリサ「あっ! こら貴様。私の厚意が受け取れないの? とーまなら苦笑いしながらも受け取るぞ! むしろ受け取らせるし!」
アックア「…………」
キャーリサ「もーいい! 私がまとめて支払ってくるから文句は許さないの!
いらなければ私の見てないところで捨てろ!」
アックア「……苦労しているようであるな、上条当麻」
キャーリサ「ん? 何か言ったか?」
アックア「何でも無いのである」
キャーリサ「そーか。あ、ヴィリアンへのお土産も私が選んでおいてやったし。
じゃーん! この学園都市特性、超形状記憶ワイヤー入り寄せて上げる盛りブラだ!
お前からの贈り物だと言えばあの貧乳も喜んで……」
アックア「…………」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
キャーリサ「わ、分かった。普通の菓子にしておくの。だから床からメイス引き抜こうとするのは止せ」
アックア「……」
キャーリサ「ホッ……さて、まだ時間があるな」
アックア「家で大人しくしていろ……」
キャーリサ「どこか見晴しの良い所へ行きたいの」
アックア「…………」
キャーリサ「とーまと過ごした街だ。記憶に留めておきたい。
こんなこと、二度と出来んだろうしな」
アックア「……」
キャーリサ「ウィリアム」
アックア「……」
キャーリサ「お前は私を無理矢理にでも連れ去ることが出来るというのに、どうしてそーしないの?
……私に同情したか?」
アックア「私は傭兵崩れのごろつきである。そのような感傷に浸ることは有り得ん」
キャーリサ「では何故だ」
アックア「貴様は帰りたいのか?」
キャーリサ「……どーかな。少なくとも、とーまと離れることを辛く思い始めている自分がいる」
アックア「では貴様を無理にあの男に引き渡せば、私は貴様の涙を呼び込むことになるな」
キャーリサ「おい、誰が泣くの。そんな子供ではないぞっ!」
アックア「…………」
キャーリサ「……ふむ、ま……眠る時少しくらいは涙が出ちゃったりはするかもな。女の子だし」
アックア「……」
キャーリサ「おい突っ込め。今のは自虐だぞ」
アックア「私に何を期待しているのであるか。……ともかく私自身が、貴様が涙を零す理由にはなる訳にはいかないのだよ」
キャーリサ「……そーか、お前の魔法名か……」
アックア「家出娘の捜索だと聞かされていたのであるがな。
英国騎士団長が直々に動くと英国と学園都市の間に軋轢を生むために私が出張ったのであるが……」
キャーリサ「ふっ、主義や信念と言うのも時には足枷となるのだな」
アックア「枷であるからこそ命を賭けるに値する。
それに……それは強き国の姿を目指した貴様にも理解が及ぶはずであるが」
キャーリサ「……そーだな」
アックア「…………」
キャーリサ「では傭兵。私が涙を零したら、お前はそれを打ち払ってくれるか?」
アックア「……理由次第である」
キャーリサ「……」
アックア「……」
キャーリサ「ふっ……まずまずの答えだし」
アックア「私が出向かずとも上条当麻は動く。そういう男だ」
キャーリサ「男……か」
アックア「何であるか」
キャーリサ「いや、お前程の奴が、とーまを男と認めているのだな……」
アックア「…………そういう意味では無いが、それはあのクーデターで貴様自身が身を以て体感したことではないか?」
キャーリサ「一度きりでは分からんこともあるしね。……だが、お前が言うならそーなのだろーな。
ふふっ、さすがとーまだ」
アックア「……嬉しそうであるな」
キャーリサ「……ああ、もしそーであってくれたなら……きっと嬉しい。
ウィリアム、とーまが……もしもとーまが私を助けると言ってくれたなら……
その時は奴を助けてやってはくれないか……?」
アックア「……貴様ではなく、上条当麻をか……?」
キャーリサ「そーだ。その時私が何を望んでいるか、私の想いはどこに着地したのか、私自身にもまだ分からないし。
……だから、とーまがしたいように出来るよう、助けてやってくれ」
アックア「……」
キャーリサ「言っている意味が分かるな……?」
アックア「上条当麻がわずかでも迷いを見せたら引き止めればいいのだろう。
その程度ならば構わん」
キャーリサ「うん。とーまの重石にはなりたくないし。それが互いの為だ」
アックア「……だが、もし奴が貴様を救うと、一片の迷い無く決意したら――――」
キャーリサ「っ……そーだな。そ、その時は……――――」
―――――
上条「そんなことが……」
アックア「キャーリサ王女は貴様に己の未来を委ねたのである。
義務感や正義感で王女の助けに向かうと言うなら、私は貴様を止める契約をした。
それは互いにとって不幸な結末を招くものである」
神裂「……」
上条「……そんなんじゃねぇよ。俺は、キャーリサが幸せでいられない現実なんてブチ殺してやる。
あいつが笑っていられる場所が、この幻想の中だってんなら、俺はどこへだって行ってあいつを連れ戻すんだ!」
禁書「とーま……」
アックア「……愚問であったな。時間を無駄にしたようである」
上条「ア、アックア……お前」
アックア「Flere210――我が名に誓う」
神裂「!」
五和「!?」
アックア「未だ万全とはいかんが、露払いくらいならば引き受けよう。
貴様が彼女の涙を止めんとするなら、それを引き止める理由など私には無いのである」
上条「……ありがとな」
アックア「…………」
禁書「まったくとうまは、またしても私の知らないところで勝手に突っ走って行っちゃうんだね」
上条「インデックス……悪いな、俺、ちょっとイギリスに行ってくるよ。
帰ってきたら、キャーリサと三人暮らしになっちまうかもだけど……」
禁書「何言ってるのとうま?」
上条「……は?」
禁書「もちろん私も行くんだよ」
上条「えっ!?」
禁書「むぅ、何なのかなその反応。私じゃ足手まといだって言うのかな?
言っておくけど、三大派閥の魔術師や騎士たちが相手なんだよ。
私を連れて行って損なことなんて一つも無いと思うんだけど」
上条「で、でもお前清教派なのに……」
土御門「おいおいカミやーん。オレ達ゃ一言も行かねぇなんて言ってないぜい?」
五和「そうですっ! 確かに清教派との兼ね合いは難しい問題ですが、でも、だからってキャーリサ様を見捨てたりなんか出来ませんっ!」
上条「ふ、二人まで!?」
神裂「五和。ですからこれは見捨てるとかそういう問題では無くてですね……」
土御門「まあまあねーちん。カミやんを危険な目に合わせたくないって気持ちはよぉく分かってるぜい。
けどねーちんだって分かってんだろ? 確かに英国にとっちゃ悪い話じゃないし、キャーリサの処遇にしても最悪の方法なんかじゃ無い。
でもな、それはキャーリサの幸せってやつをハナから無視した話だよな。
不幸にゃならねぇが、ハッピーエンドでもねぇ。カミやんにとっちゃ、我慢ならねぇ話ですたい」
上条「ああ、当然だ」
神裂「それはそうですが……って、べ、別に上条当麻を危険な目に合わせたくないとかそんなんじゃありませんっっ!」
五和「そんな意図が……女教皇様、すごいです感服しました……私はそこまで考えが至りませんでした……」
神裂「うぐっ……はぁ……。
あああぁあもうっ! 分かりました分かりましたっ! 目立ったことは出来ませんが、私も陰ながら協力させていただきますからっ!」
五和「女教皇様……!」
禁書「聖人が二人も味方になってくれれば怖いもの無しなんだよ!」
神裂「確かに……救いの手を差し伸べるのとは少し違うような気もしますが、キャーリサ王女も望まぬ結婚を強いられるのは嫌でしょうし……仕方ありません」
土御門「ってぇことで決まりだカミやん。イギリスへ飛ぶぜい!」
上条「みんな……ああ! キャーリサを取り戻すぞ!」
五和「はいっ!」
禁書「がんばるんだよっ!」
土御門「(ねーちん、心配しなくても大丈夫だぜい)」 ヒソヒソ
神裂「(何がです。協力すると言った以上はきっちりやりますよ)」 ヒソヒソ
土御門「(清教派のことだにゃー。いいか? これは王室派と政治家たちにとって悪くない話なだけであって、
清教派にゃなーんもメリットのねぇ話なんだぜい。むしろ余計な力が国内に干渉する可能性を考えると、
あの最大主教サマ的には面白くねぇかもにゃー)」 ヒソヒソ
神裂「(! なるほど言われてみれば確かに……少し希望が見えてきましたか……)」
土御門「(それはどうかにゃー)」
神裂「(?)」
土御門「(わざわざ敵を作りにいくメリットも無いからイギリス清教としての庇護は受けられないだろうぜい。
しかも、それは相手も分かってることだ。騎士派や清教派の息がかかっていない魔術師たちが王女の護衛にあたるだろうにゃー)」
神裂「(厄介な人物が出てこなければいいのですが……。
確かに私もアックアも聖人ですが、今回の勝利条件がキャーリサ王女を無事に外に逃がすということなら、
これだけの戦力しかないのはやや不安が残りますね……)」
土御門「(ま、その辺は分かんないけど)」
神裂「(と言うと?)」
土御門「(清教派全体の協力は得られなくても、カミやんに個人的に協力してくれる奴は……ま、そこそこいると思うぜい)」
神裂「(な、なるほど……)」
土御門「(騎士派との遺恨もあるしにゃー。ま、騎士団長以外はそれほど厄介ってこともねぇさ。
何せ今回はキャーリサもこっち側だ。アックアに騎士団長任せてオレらはカミやんの援護と防御を固めれば意外とあっさりいけるかもな)」
神裂「(油断は出来ませんが……そう願いたいものです)」
上条「二人とも何ひそひそやってんだ? 作戦を立てるぞ」
土御門「おー悪い悪い。ねーちんがカミやんの為に頑張るって意気込んでるぜい」
神裂「ど、ド素人がっ! 何勝手なことをっ!!」
上条「ありがとな神裂! お前は特に頼りにしてるよ!」
神裂「あ……は、はい。お任せを……ゴニョゴニョ」
禁書「あ、ねぇねぇとうまー」
上条「ん? どうしたインデックス」
禁書「これ、何なのか分かる?」
上条「あー……? これは……」
――――英国 バッキンガム宮殿 廊下
コツコツコツ……
リメエア「……あら? キャーリサ、貴女帰っていたの」
キャーリサ「姉上か。今帰ったところだし……姉上こそ、部屋から出ているなど珍しい」
リメエア「うふふ。奇遇ね、私も今帰ってきたところなのよ」
キャーリサ「また街でお友達探しか、姉上は気楽でいいものだな」
リメエア「可愛くない妹だこと。こと宮内で『気楽』だった覚えは、ここ数年ありはしなくてよ。
例の一件(クーデター)で外に放り出されていた時の方が余程気楽だったもの」
キャーリサ「そーか。ならばそのまま帰ってこなければよかったのに」
リメエア「これでも立場は自覚しているつもりよ。貴女はどこへ?
……短いスカートをはいて。そんな恰好で市内を闊歩していたのでは品格が問われても文句は言えないわ」
キャーリサ「ああ、男のところだしね」
リメエア「……は?」
キャーリサ「ふふん、姉上より先に恋人を見つけてやったぞ。ざまーみろ」
リメエア「優越感に浸っているところを申し訳ないけれど、私は貴女達と違って、普通に殿方とお付き合いしたことはあるわ」
キャーリサ「え、そーなの?」
リメエア「ええ。伊達に市街に出ているわけではないもの。まあ今は特定のお相手はいないけれど。
それより貴女は数日後にも結婚するというのに何を……」
キャーリサ「あ、母上とヴィリアンの姿が見えないけど」
リメエア「お母様はウィンザー城の方よ。ヴィリアンは部屋じゃないかしら。
……いや、じゃなくて、もっと大事なことがあるでしょう」
キャーリサ「細かいことはいいじゃない。私も遊びたい年頃だし。枯れたおっさんより、若い男の方が良いの
何だ? 羨ましーの?」
リメエア「うふふ、まさか。一国の皇太子殿下を枯れたおっさんだなんて、ますます興味が湧いたわ。
それで、どのようなお相手なの?」
キャーリサ「どーしよーかなー。王女が宮内の廊下で立ち話などはしたないしなー」
リメエア「話したくて仕方がないという様子ね。では三階のサロンへ行きましょう」
キャーリサ「ふむ。まあ構わないの。丁度誰かに惚気たい気分だったし」
リメエア「貴女随分と余裕があるのね。結婚を間近に控えた女の口から出てくる言葉とは思えない」
キャーリサ「ふふーん、まー見ていろ姉上。囚われのお姫様を救いに来るただの男。
女冥利に尽きるというものだし」
リメエア「あらあら、それは詳しく聞かせてもらわないと」
キャーリサ「よしよし。ではとーまがいかに私のことを大好きなのか、精細かつドラマティックに語ってやるぞ姉上」
リメエア「貴女がその殿方を、ではないの?」
キャーリサ「む……そ、そこは譲らないし! あいつが、私を、だ!」
リメエア「うふふ。そう。では歩きながらでも」
キャーリサ「うん。まずあいつの部屋に押しかけてだな―――」
今回と次回は繋ぎの話になるので盛り上がりは特にありません。
王室派の三姉妹って結構個性的なのに何故人気が無いのだ…年か、年なのか。
ではまた近いうちにでも
皆さんこんにちは。
支援ありがとうございます。モチベーション跳ね上がります。
っていうかキャーリサって意外に需要あるんですね。
個人的にはローラも結構好きです
それはともかく、急遽休みで暇なので、こんな時間ですが投下させてください。
――――英国 バッキンガム宮殿 廊下
コツコツコツコツ…
ヴィリアン「……あ……」
ヴィリアン(あそこにいるのは、姉君達……? お二人とも盛り上がっておられる様子ですけど……何かあったのでしょうか……)
キャーリサ「それでだな、とーまは牛丼屋に連れていってくれたんだが、そこで恋人のフリを……」
リメエア「うふふ。随分と強引な手に……あら? ヴィリアン」
ヴィリアン「あ、姉君……お二人とも帰ってらしたんですね」
キャーリサ「おーヴィリアンか、何だか久しぶりだし。相変わらず辛気臭い顔してるなー」
ヴィリアン「そ、そんなことは……」
ヴィリアン(あれ……? 姉君の機嫌がとても良いような……珍しい)
リメエア「ヴィリアン、貴女も後学のためにキャーリサの話を聞いて行ったらどう?」
キャーリサ「おーそーしろそーしろ。ウィリアムとの決戦に備えて有益な情報をこの偉大なる姉が教えてやるし」
ヴィリアン「……ど、どうしてそこでウィリアムが出てくるのですか」
キャーリサ「学園都市で会ったの」
ヴィリアン「えっ」
リメエア「キャーリサが学園都市で殿方とお付き合いすることになったそうよ。
……あっさり言ってしまったけれど、これって結構問題よね」
ヴィリアン「ま、まさかそれがウィリアムだと……?」
キャーリサ「違うわ馬鹿者。好みではあるが、別に妹の男をとったりなどせんし。
もっといい男だ」 ポッ
ヴィリアン「カチンッ……ウィリアムだって……その、素敵だと思いますけど」
リメエア「うふふ、こんなところで姉妹喧嘩は止めて頂戴ね」
キャーリサ「ほほー……姉の男にケチつけるか。
とーまはなー、可愛いんだぞー。私の胸ばっか見てくるの。
まー私ってほら、ヴィリアンと違って胸大きいからなー。
男は大きな胸が揺れてたら思わず見てしまう悲しい生き物だしなー」
ヴィリアン「ウィリアムはそんなことしませんっ……だ、大体とーまって誰のことですか」
キャーリサ「ん? 何言ってるの? 上条当麻だ、知ってるだろ」
ヴィリアン「……へ?」
リメエア「あらあら、私と同じ反応ね」
ヴィリアン「ちょ、ちょっと待ってください姉君。上条当麻って、あの上条当麻ですか!?」
キャーリサ「あの、と言われてもな。私の知ってる上条当麻は一人しかいないが」
ヴィリアン「ど、どどどどうしてそんなことに!? 姉君は彼に顔面骨折級の怪我を負わせられたのですよ……?
いえ、それ以前に姉君なんて次元ごと彼を斬り捨てようとしていたじゃないですか!?
愛の前では次元など些細な問題だということなのですか!? そ、そんな歪んだ愛情……私はどうすれば……」
キャーリサ「落ちつけ、言いたいことは分かるが」
リメエア「確かに私も気になるところね。真正面からぶつかりあった二人がどうしてそのようなことになるのか……。
あれで愛が芽生えてしまったとでもいうの?」
キャーリサ「うむ、実はそーなの」
ヴィリアン「っ……!」 カァァッ…
リメエア「うふふ、喧嘩して距離が縮まるなんて、子供の様ね」
キャーリサ「いや冗談だし。何だろーな、まー最初はあいつしか頼る相手がいなかったというのが大きな理由だが……うん。
ふふ、しかし最初にあいつの顔が出てきたということは、結局私も最初からとーまを気にかけていたのかもしれないし。
何せ私の顔を初めてぶん殴った男だからな……痺れたの」
リメエア「我が妹が生粋のマゾヒストだと思うと泣けてくるわ……」
ヴィリアン「あ、姉君……そうなのですか……? どう見てもサディストのお顔なのに……私、姉君にいじめられた記憶しかありません」
キャーリサ「お前結構酷いなヴィリアン……。どっちでもないわ馬鹿者。虐める方が好きなのは否定せんがな。
確かにそーいう意味でもとーまのことは気にいってるんだ。あいつ不幸が板についてるからなー。
いじめたくなるの」
リメエア「倒錯した愛情ね……それで、あの少年とはどこまで進んだのかしら」
ヴィリアン「あ、姉君……! そんな不貞な……姉君は間もなくご結婚される身なのですよ……?」
リメエア「まあまあ、いいじゃない。私としては、市井の一少年を恋い焦がれるキャーリサの方を応援したいと思うし」
キャーリサ「姉上のそれは私どーこーじゃなくて単純に王室の息のかかった相手が気に入らないだけだろー」
リメエア「ええ。私は私を知る者に信頼を預けるつもりは無いのだから。
ですから、例の結婚相手の皇太子などよりあの少年を夫として迎え入れる方が私としても安心な選択だもの」
キャーリサ「ま、私は駆け落ちするけどなー」
ヴィリアン「なっ!?」
リメエア「騎士団長が聞いたら卒倒しそうね」
キャーリサ「ふふーん、とーまは私を迎えに来てくれるの。騎士団長や他の騎士共を蹴散らし、私を宮殿から外の世界へと連れ去ってくれる。
まるで絵本の中のお姫様のよーだな」
ヴィリアン「そのようなこと……彼が危険です……」
キャーリサ「ほう。お前がとーまの心配とはな。言っておくが姉の男だ、やらんぞ」
ヴィリアン「そ、そんなこと言ってないじゃないですか……でも……姉君はそれで良いのですか……?」
キャーリサ「……いずれ戻る。が、今は私の居場所はここには無いし、母上やお前達の足を引っ張るだけだ。
一度どこかに身を隠し、民草達を率いて国盗りというのも、『軍事』のキャーリサの名に相応しい筋書きだと思わない?」
ヴィリアン「そ、そんな……」
キャーリサ「冗談だし。何にせよ今私はこの城にはいない方がいいの。
私がいることによって議会や一部の権力者達が動きやすくなっているというのは事実だ。
結婚し、他国の姫君となれば私はこの国の内政にはもはや干渉出来ん。
が、一時国外で奴らの手の届かぬ場所におれば、いずれチャンスは巡って来るかも知れないしね」
リメエア「……そんなこと宮内で口にするなんて、成功させる気が無いように思えるけれど」
キャーリサ「騎士団長も知っていることだ、問題無い」
ヴィリアン「彼が協力を……?」
キャーリサ「まさか。奴は全力でそれを阻止するだろーな。あれでも騎士派の長だぞ。
……だからこそ、とーまが私を連れ出してくれたら、私はあいつに全てを捧げられる」
ヴィリアン「す、全てを……」
リメエア「顔が赤くてよ、ヴィリアン。それで? 私の質問には答えてもらえないのかしら。
燃え上がるような恋に落ちたなら、さぞお熱い生活を送っていたのでしょう?」
キャーリサ「姉上も意外と下世話な話が好きなのだな」
リメエア「宮内でそんな浮いた話を耳に出来るなどと思ってもみなかったから。
たまにはいいでしょう」
キャーリサ「仕方ないなー。教えてやるし」
ヴィリアン「……」 イラッ
リメエア「うふふ、話したくて仕方ないという顔をしていたくせに」
キャーリサ「うるさいなー。いーだろ別に。ふふん、聞いて驚け、何とキスまでしたぞ」
リメエア「は?」
ヴィリアン「キ、キスですか」 ドキドキ
キャーリサ「しかも舌までいれた」
リメエア「……」
ヴィリイアン「し、舌!? 姉君……何て大胆な……」 ドキドキドキドキ…
リメエア「それで?」
キャーリサ「んー? まーそれくらいだし」
リメエア「何と言うか……思ったより清いお付き合いなのね」
ヴィリアン「き、清いですか……? 私には想像もつかない世界のお話です……」 ソワソワ…
キャーリサ「何だ姉上、強がりか?」
リメエア「うふふ、まさか。相手はギラギラとした若い殿方よ。
欲望の赴くままに爛れた日常を謳歌してきたのではないかと思っていたのだけど、期待外れだったようね」
ヴィリアン「よ、欲望のままに……」 ゴクリ…
キャーリサ「あいつ意外と初心なんだ。そーいうとこが可愛いんだけどなっ」 フンスッ
ヴィリアン(……ウィリアムはどうなのでしょう……やはり野性的に求められて……だ、駄目よヴィリアン。
そんなはしたないことを考えてはいけませんっ……!) モジモジ
リメエア「ウィリアムは禁欲的だからあまり期待しない方がいいわよヴィリアン」
キャーリサ「だな、あれはとーま以上の朴念仁だ。枯れてるというか、あの年で既に仙人の域だし」
ヴィリアン「そ、そんなこと……私が頑張れば……」
キャーリサ「ほほー? 聞いたか姉上、ヴィリアンがウィリアムにいやらしく迫るそーだぞ」
リメエア「ええ聞いたわ。うふふ、どのように迫るのか、詳しく聞きたいものね」
ヴィリアン「そ、それは……」 カァァ…
キャーリサ「おーおー、カマトトぶっているぞ。何を想像しているの? 姉達に言ってみるがいーの」
ヴィリアン「……し、知りません! 私失礼しますっ……!」 バッ
キャーリサ「お、逃げた」
リメエア「逃げたわね。少しからかいすぎたかしら」
キャーリサ「いーではないの。今までウィリアムのことを散々惚気られた仕返しだし」
リメエア「そうね。貴女が殿方の話をするなんて、うふふっ、初めてのことだもの」
キャーリサ「むー、そー言えばそーだな」
リメエア「まあ、貴女がか弱いお姫様を演じるのには思わず笑いが漏れてしまうけれど、
その時を楽しみにしているわね。彼ならまあ、信頼できないこともないわ」
キャーリサ「相変わらずうっとーしー思考だし。まー見ているがいいの。
ふん、姉上もヴィリアンも、私に羨望の視線を向けさせてやるし」
8日目 夕刻
―――英国 ロンドン 必要悪の教会女子寮 食堂
ザワザワザワ… ガヤガヤガヤ…
ルチア「か、神裂さん……寮の皆がやけに集まっていると思えば……
これは一体どういうことですか!?」
神裂「どうもこうも……今説明した通りなのですが……」
ルチア「私は今来たところなので事情は分かりません……ですがその、ど、どうして……」
神裂「はあ……」
ルチア「どうしてここに『男性』がいるんですかっ!!!???」
神裂「ええ、おっしゃりたいことはよく分かります。私の独断で、申し訳ありませんとしか……」
上条「えっと……ルチア、だよな。ごめんな、人目につかないところがここしか無くて。
神裂に無理言って入れてもらったんだよ」
ルチア「意味が分かりません! ちゃんと説明して下さい! 人目がつかないとはどういうことですか!?」
アンジェレネ「お、落ち付いてくださいシスター・ルチア……! 私達にも何が何やら……」
オルソラ「まあまあルチアさん。彼はのっぴきならない事情があってこちらにいらっしゃったのでございますよ。
ここは一つ大目に見て差し上げてもよろしいのではございませんか?」
ルチア「シスター・オルソラ……しかし、女子寮なのですから男性は絶対禁制のはずです」
シェリー「いいじゃねぇかよ細かい事は。んなことより、今日の夕食の当番は誰だ?
見たところ、女子寮のほぼ全員がここに集まってしまっているようだけど」
神裂「シェリー、あなたはもう少し男性の目を気にすべきと思いますが……その格好」
オルソラ「あらあら、寝間着姿のままでございますね」
シェリー「? 自分の家でどんな格好しようが私の勝手だろ?」
上条(おおう……ネグリジェ姿がエロ過ぎますよ……。キャーリサで年上に目覚めた上条さんには刺激が強すぎます)
禁書「とうま、顔がいやらしいんだよっ!」
上条「ハッ! 見てない! 何も見てないぞ!」
禁書「ふんっ」
神裂「ゴ、ゴホンッ! 一応女子寮なのでそう言った話は控えて下さい」
上条「はい、すみませんでした」
アニェーゼ「ま、でも確かにシスター・ルチアの言うことにも一理あります。
皆もそれぞれやることがあると思うんで、一部の人間だけ残って話を聞くってことでどうです?
シスター・ルチア、貴女もそれでいいでしょう?」
ルチア「わ、分かりましたシスター・アニェーゼ……あなたがそう言うなら。
でも私はここで話を聞かせて頂きますからねっ」 シブシブ…
アニェーゼ「はいはい。それじゃ皆も解散しちまってください。
これだけ人数がいても話が進むに進まないと思うんで」 パンパンッ
ザワザワザワ…
ハーイ アトデハナシキカセテクダサイネー…
ガヤガヤガヤ… スタスタスタ…
神裂「ふぅ……やれやれ……騒ぎになるとは思いましたが、まさか全員集まってくるとは」
五和「あはは……ようやく静かになりましたね女教皇様」
上条「はぁ……確かに。まさかこんな大騒ぎになっちまうなんてなぁ」
アックア「だが無理も無いのである。女子寮など、私でも入るのは遠慮したいところであるからな」
上条「アックアにもそんな感覚あんのか」
アックア「当然である」
土御門「カミやんは有名人だからにゃー。そりゃみんな集まってくるぜい。
モテモテだにゃー、ははは」 カチャッ
上条「おい! 銃口こっち向いてるから!」
土御門「ああ悪い悪い。つい素直な気持ちが出ちまったにゃー」
シェリー「ま、最近暇だしね。アンタが来ると妙なことが起こるから興味本位だろ。
もっとも、それだけじゃねぇって気もするけどな」 チラッ
神裂「?」
シェリー「修羅場だけは勘弁して欲しいものね。
それよかもう一度訊くが、アンタはほんとここに何しに来たんだ?」
オルソラ「あらあらシェリーさん、お話を聞いていなかったのでございますか?
キャーリサ王女をさらってモノにしようと企んでおられるのでございますよ」
ルチア「!?」
アンジェレネ「だ、大胆です……!」
上条「話が飛躍しすぎてるぞオルソラ。そりゃ人聞き悪いって」
オルソラ「ですが事実でございましょう。あなた様からそのお話を聞いて私も驚いたのでございますよ」
ルチア「え、英国王女の誘拐の計画をこんなところで話し合うなんてどういうつもりですか!?
神裂さん、あなたまでその片棒を担ごうだなんて……い、一体どんな意図が」
オルソラ「うふふ。愛ゆえに、でございますよ」
ルチア「!?」
シェリー「ああ、そういう話だったの?」
アンジェレネ「はわわっ!」 カァァ…
上条「いや、その……」
土御門「でも全くその通りだろカミやん」
ルチア「どどどどういう……」
神裂「その辺りは今は流してもらえると助かります。話を進めますね
??「ちょ、ちょっと待った!」
上条「ん? 何だよ」
??「あ、あんたねぇ……愛ゆえにってどういうことよ……?」
五和「御存じ無かったんですか?」
土御門「あら、可哀想ににゃー。せっかくここまで着いて来たのに」
上条「言わなかったっけ、キャーリサと恋人になったって」
??「そ、そこまではまだいってないって言ってたじゃない……本人が!」
上条「そうそう。だから昨日正式に付き合うことになったからさ」
??「な、なななっ……!」
禁書「っていうかそもそも、どうしてここにいるのかな?」
??「今さら過ぎんでしょ! だ、だってあんた達があんなに慌ただしく――――!」
――回想――
――学園都市 上条の学生寮前
スタスタスタ…
上条「よし。インデックスの見つけた『アレ』のおかげでちょっとは戦いやすくなるかもしれないな」
五和「本当に『あんなもの』が役に立つんでしょうか?」
アックア「王女の読みが当たっていればこの上ない武器となるのである」
土御門「『軍事』のキャーリサの力を信じようぜい。勝機が見えてきたじゃねぇか」
神裂「しかしいずれにせよ兵力が足りません。彼女の読みが当たるということは、考え方によってはむしろ危険な状況です」
禁書「確かにこれも違う意味で厄介なんだよ。不明瞭な部分が多すぎるし……」
上条「考えたって始まらねぇ。キャーリサの勘が当たると信じて行くしかねぇだろ」
神裂「そうですね。一先ずはロンドンの女子寮へ。向こうへ着いても二日程度しか猶予がありません。
その間に出来る限り仲間を集めなくては」
上条「本当にいいのか? お前達を巻き込む形になっちまうのに……」
土御門「カミやんの頼みなら割とみんな協力してくれるはずだぜい。
キャーリサの奪還なんて建前としちゃ悪く無いし、全員で動けば厳しい処分も下されにくいからにゃー」
五和「天草式の皆にも話をしないといけませんね。実質使える時間は今日と明日だけです。
急がないと……」
神裂「そちらは私と五和にお任せを。後は敵戦力が問題です……騎士派だけでも非常に面倒です。
何か一つでも強力な戦力が投入されると途端に作戦が瓦解しかねません」
土御門「そこまでヤワじゃないぜい。倒す必要が無い分活路はある」
アックア「あの男は私が引き受けるのである。が、時間的猶予から見れば恐らくそれ以外には手が回らん。
貴様たちがどれだけ周囲を引きつけられるかで勝敗が変わってくるぞ」
上条「充分だ、助かる。それから天草式のところには俺も行くよ、個人的なことに巻き込むんだ、それが筋だろ」
神裂「そうですか……分かりました」
禁書「大丈夫、信じよう。キャーリサを素早く連れ出すことが出来れば、戦力に多少差があっても上手くいくはずなんだよ」
上条「そうだな……お、タクシーが来たみたいだぞ。んじゃ二台に分乗して……」
??「ちょ、、ちょっと待ったぁ!」
上条「ん?」
禁書「短髪なんだよ」
御坂「あんた……大丈夫なの?」
上条「何が?」
御坂「いやその……さっきそこの大男に担がれていくの見たから何かあったのかなって」
アックア「……」
上条「あー、そういやあの公園って学舎の園が近くにあったんだったな。まあちょっと色々あってさ。
心配かけちまって悪いな」
御坂「別に心配なんてしてないけど……」 モジモジ
土御門「カミやーん。早くしないと飛行機乗り遅れるぜい」
上条「あ、おう! じゃな御坂。悪いけど急いでるんだ」
御坂「ま、待ちなさいよ! まだ話終わってないわよ!」
上条「まだ何かあるのか?」
御坂「あの女のところに行くの?」
上条「……ああ」
御坂「そ、そう……」
禁書「とうま、行こう。キャーリサが待ってるんだよ」
上条「それじゃ……」
御坂「わ……」
上条「?」
御坂「私も行く!」
禁書「!?」
上条「駄目だ」
御坂「どうしてよ!」
上条「……もう学園都市には戻って来れないかもしれないんだ」
御坂「!?」
神裂「上条当麻。本当に時間がありません。車に乗って下さい」
上条「あ、悪い! 今行く! お前を巻き込む訳にはいかな」
ドンッ! ドサッ
上条「っとと……何だよ御坂、急に押すなよ」
御坂「空港でしょ。早く向かいなさいよ」
上条「何で御坂さんも一緒に乗ってくるんですかねぇ……?」
御坂「向こう着くまでに事情説明しなさいよね」
上条「やめろ御坂。お前もどうなっちまうか……」
御坂「どうなっちまうか分かんないくせに私の妹達を助けてくれたのはどこのどいつだったかしら?」
上条「……」
禁書「短髪……」
御坂「理由なんかいらないのよ。あんたに借りを返す絶好のチャンスだもん。
……来るなっつったって、飛行機ジャックしてでも行くわよ」
上条「御坂お前……」
御坂「ふん。戦力が足りないんでしょ」
上条「何でそのこと……」
御坂「さっきの会話聞こえちゃったの。
まさかこの学園都市第三位の超能力者、御坂美琴サマでは力不足だなんて言わないわよね?」
上条「いや、正直助かるけど」
御坂「じゃ決まりね。行きましょ。
あんたは私に気なんか使わないで、やることやってりゃいいのよ。
……困ったときはお互い様でしょ」
上条「……本当にいいんだな?」
御坂「……学園都市に戻れないから何よ。仮に戻れなくたって、そこにはあんたがいるし。
だったらそれでいいわ。……お姫様を助けるのに、供回りは必要なんでしょう?」
上条「御坂……」
御坂「どんな事情があんのか知らないけど、美琴さんに任せておきなさいっ!」
―――英国 ロンドン 必要悪の教会女子寮
禁書「ってかっこつけて出てきたくせに今更文句言うの短髪?」
御坂「なっ! ち、違うわよ! ちょっとびっくりしただけで……いいわよじゃあ……もう聞かない。
あんたのことだから犯罪に手を染めようってわけじゃないんでしょうしね。
女に二言は無いわ! 私を好きなように動かしなさい!」
上条「ありがとな、御坂」
御坂「べ、別にあんたのためじゃないわよ! 借り作りっぱなしなのが嫌なだけよ! 勘違いしないでよね!」
土御門「こいつはひっでぇツンデレだにゃー……」
五和「今時こんな露骨なの珍しいですよね……」
御坂「そこうるさい! 私のことはいいからさっさと話進めるっ!」
禁書「短髪が自分から割り込んできたんだよ」
御坂「悪かったわよ!」
土御門「まあまあ。了解だぜい。
つまり分かりやすく説明するとだな、カミやんとキャーリサは周りが殺意覚えるくらいイチャこいてて、
でもキャーリサは色々と政治的な陰謀やら何やらがあって無理矢理結婚させられそうになっている。
英国的にもキャーリサ的にも決して悪く無い話だけど、彼氏のカミやん的にはどうにもそいつが気に入らねぇし、
キャーリサもそれを望んで無いからみんなで王女様かっさらって無理矢理結婚止めさせようぜって話だにゃー。
分かったか?」
御坂「むー……聞けば聞くほどすごいわね……」
ルチア「なんて無謀な……」
神裂「簡単に言ってしまうと、酷く無茶な話です……世界的犯罪者でも目指しているとしか思えませんね」
上条「ははっ、そしたらアックアと一緒に傭兵でもやるさ」
アックア「ふむ……」
土御門「ははははっ! そいつは良いぜい。実際今だってやってることそんなに変わらねぇし」
御坂「笑いごとじゃないでしょ全然……」
神裂「言われてみれば確かにそうですね……あまりに日常的過ぎて今まで気付きませんでしたが」
上条「この後戻りできない段階で上条さんの人生の過酷さに気づいてもらえるなんて……不幸だなー……」
アックア「…………私は構わんが、逃亡生活の方がマシな程度には鍛えこんでやるから覚悟しておくのであるな」
上条「……こりゃ終わった後の方が大変だな」
アニェーゼ「死亡フラグ立てんのはその辺にしときましょう。
それはともかく、まあ本当にやる気なのかってはもはや訊く必要はねぇんでしょうが、勝機はあるんですか?
言っときますが、式場である聖ジョージ大聖堂ってのは魔術の総本山。
並の防御じゃないですし、おまけについてくる騎士派の連中は守ることにかけちゃ腹立つくらいに強力ですよ」
ルチア「シスター・アニェーゼ! まさか協力するつもりですか?!」
アンジェレネ「や、やめましょうよー……せっかくイギリスでの暮らしにも慣れてきたのに、この国を追い出されちゃいますよー……?」
シェリー「そうかしら。私は構わねぇけどな」
アンジェレネ「シェリーさんまで!?」
シェリー「この際だ。騎士派の連中にこの前の意趣返しといこうじゃねぇか。
クーデターの時はやりたい放題やられてるしね。むしろ奴らをブチ殺す都合の良い理由が出来てありがたいわ。
何だったら、この私が一番槍を引き受けたって構わな痛っ! てめっ何すんだオルソラぁっ!」
オルソラ「まあまあシェリーさん。そう熱くなってはいけないのでございますよ」 グリグリ
シェリー「いたたっ! 拳骨で頭挟み込むな……!」
神裂「オルソラの言う通りです。騎士達を殺害するようなことは間違ってもあってはなりません」
シェリー「王女を誘拐しようってんだ。向こうは殺す気で襲ってくるわよ」
上条「もちろん承知の上だ。でも、それやっちまったら本当に指名手配されるし、キャーリサだって悲しむ」
ルチア「このままでも十分手配されると思いますが」
神裂「勝利条件はあくまでキャーリサ王女を連れ出し、安全な場所まで上条当麻とともに避難させることです。
騎士派の妨害は当然ありますが、あくまで我々は彼らの援護に徹します。
攻めるのではなく、超攻撃的に守るのです」
アニェーゼ「具体的にはどうすんです? 聞けば、式は明後日だそうですけど。準備の時間なんてほとんど無いですよ」
上条「幸い、俺とアックアには清教派を経由して式の招待状が届いてる。昼間土御門に回収してもらってきた。
式自体にはそれで乗り込めるんだ」
神裂「私や土御門、それからインデックスは清教派として中に入ることも可能でしょうし。
ただ天草式は聖堂内には入れないでしょうね……」
アニェーゼ「じゃあ私達は外で陽動って訳ですか」
シェリー「あら? やる気じゃねぇかローマ正教」
アニェーゼ「別に私達にとっちゃ英国の内政なんかどうでもいいことですし」
オルソラ「うふふふ」
アニェーゼ「な、何ですその顔はシスター・オルソラ」
オルソラ「アニェーゼさんも、上条さんに恩返しがしたいのでございますね」
アニェーゼ「なっ!! そ、そんなわきゃ無いでしょう! これ以上英国に力つけられちまうってんじゃ困るってだけです!」
土御門「ほほー……」 ニヤニヤ
オルソラ「うふふふ」
五和「……」 チラッ
御坂「そこ! こっち見ない!」
上条「ありがとうアニェーゼ。だが無理強いは出来ないんだ。
確かにイギリスにいられなくなっちまうかもしれない無謀な作戦だし。
無茶はしなくていいから、せめて俺達が行動を起こした時に邪魔しないでもらえると助かる」
アニェーゼ「何言ってんですか。シェリーさんも言った通り、先日は結局舐められっぱなしで終わってんです。
やられちまったらやり返すのが戦闘職の本懐ってもんでしょうが。
あなたは素直に私に助けてくれって言えばいいんですよ」
上条「アニェーゼ……」
ルチア「はあ……シスター・アニェーゼが決めたことなら、部隊としては従う他無いでしょう……。
信仰が弱いから負けたのだと言われたくはありませんし」
アンジェレネ「うう……」
ルチア「しっかりしなさいシスター・アンジェレネ!
我々の信仰が試されているのです!」
アンジェレネ「わ、分かりましたよぉ……」
土御門「んじゃま、これで大体の賛同は得られたってことでいいな。
ねーちん、後で参加してくれる奴らの人数を確認して教えてくれ。
嫌だって言う奴はもちろん無理に参加しなくていいから」
神裂「分かりました」
オルソラ「きっと大丈夫でございますよ。上条さんだけでなく、神裂さんやインデックスさんを慕っておられる方もいらっしゃいますし、
皆さん協力してくれるはずでございます」
禁書「ふぇ? わ、私も?」
オルソラ「ほら、レイチェルさんとか、クーデターの時にお会いしたのでございましょう?
彼女達はあなたがここに来られたことをとても喜んでいたのでございますよ。
彼女達が今晩の夕食当番ですし、はりきっておられましたから是非ご一緒致しましょう。
夕飯が楽しみでございますね」
上条「ああ……あのインデックスに目いっぱい食わせてたシスター達か」
禁書「うぷっ……思い出しただけでお腹いっぱいになってきたんだよ……」
上条(今度からインデックスが腹減ったとか騒ぎ出したらその話をしよう)
土御門「んじゃまず当日の作戦を流れで話しておくぞ。
言っておくがこれを聞いたらお前らは全員オレらと共犯者だぜい。
裏切りはもちろん、口外も絶対に許さねぇ、他の連中にも徹底させろ」
シェリー「……するわけねぇだろ」
アニェーゼ「当然です」
ルチア「我らの主に誓って」
アンジェレネ「は、はいっ……!」
土御門「よし、んじゃカミやん。例のものを……」
上条「あ、待ってくれ土御門」
土御門「えー? せっかくいい感じにピリッとした雰囲気になったのににゃー……。
何だよカミやん」
上条「実は、連絡を取って欲しい奴がいるんだ」
土御門「あー……誰?」
神裂「この国に我々に協力して頂ける可能性がある人物がまだおりましたか……?
ステイルは最大主教のところですからすぐには難しいですし……」
上条「違うんだ神裂。いやまあステイルにも協力はしてもらいたいところだけど、あいつのことだし……」
ステイル『協力ぅ? 何で僕がそんなことを?』 スパー
ステイル『あの子の危機だって言うならまだしも、これは君の私闘なんだろう?
だったら僕が力を貸す義理は無いはずだけど?』 スパー
ステイル『というか君。あの子を放っておいて何をやってるんだい? この場で焼き殺されたいのか?』 スパー
ステイル『分かったら目障りだからさっさと消えてくれないか?
僕は君程暇じゃないんでね。邪魔はしないでおいてやるから安心するといいよ。
まあ最大主教から君を殺せと命じられたら僕は躊躇いなく燃やすけどね』 スパー
上条「みたいな感じで断られそうだな」
土御門「カミやんの中でステイルがすっげぇムカつく奴になってるにゃー……嫌いなのか?」
上条「いや別に嫌いじゃないけど……」
神裂「しかし想像に難く無いですが……どうします? 一応話を通しておきますか?」
上条「そうだな、ま、言うだけ言ってみようかなぁ」
土御門「ああ待て待てカミやん、ねーちん。その辺はオレに任せてくれないか?」
上条「? いいけど」
神裂「何か考えでも?」
土御門「そりゃ当日のお楽しみってことで」 チラッ
禁書「?」
上条「じゃ任せるよ」
五和「それで上条さん、連絡を取りたい相手というのは?」
上条「ああ。この作戦を確実なものにしたいんだ。ちょっと耳貸してくれ」
土御門「あーん?」
上条「ゴニョゴニョ……」
土御門「! なるほど、そいつがいたか。すっかり忘れてたぜい」
アニェーゼ「? 誰です?」
オルソラ「私達にも教えて欲しいのでございますよ」
上条「いやー、多分お前らは知らない奴だし」
土御門「ま、こいつなら詰めとしちゃ確実ですたい。んじゃ悪ぃけどオレは別行動させてもらうぜい」
五和「では私達は次は天草式の皆のところへ行きましょう。
作戦に関してはまた今夜か明日にでも」
御坂「あんたまだ知り合いいるの? いつの間に海外にこんなに身内作ってんのよ……」
上条「上条さんの血と汗で得た人脈ですのことよ。思い出すだけで泣けてきますね」
御坂「ああ……どうせ片っ端からトラブルに首突っ込んでるんでしょうね……」
上条「好きで突っ込んでんじゃねぇよ」
禁書「そう? とうまは割と好きでやってると思ってたんだよ?」
シェリー「私や、そこの聖人も含めたローマ正教の連中は元より、神裂やら天草式の連中ともやり合ったんだっけ?
知り合いの数だけ修羅場くぐってるなんて、楽しい人生ね」
上条「ついでに土御門にもボコられたし御坂に電撃浴びせられるのは日常です」
シェリー「退屈しないわね。代わってくれるっつわれても絶対にお断りだけどよ」
御坂「うーん……そう言われると何かごめん……」
五和「わ、私は上条さんと争ってなんかいませんよっ」 グッ
禁書「でもいつわは天草式なんだよ!」
五和「そ、そうですけど……個人的に戦ったことは無いので……」
オルソラ「あらあら、私は何もしていないのでございますよ」
上条「上条さんが無条件に癒しを得られるのはオルソラだけだよ」 ホロリ
土御門「キャーリサも敵だったしにゃー……不憫だぜい」
神裂(インデックスも自動書記の件がありますし、よくよく考えればここにいる人物はほぼ全員敵だったと考えると、うすら寒いものがあります……。
逆に言えば、これだけの敵対した相手を味方につけているということですから)
上条「まあでもこうして助けてもらえて感謝してるよ。じゃ、悪いけど話はまた後でな」
アニェーゼ「分かりました。寮内の人間にはこっちで分かる範囲で通しときます」
上条「頼んだ」
オルソラ「お任せ下さいでございますよ。あなた様からのお願いだなんて、こんな機会でもなければ聞けないのでございましょうし」
五和「では私達は行きましょうか」
上条「建宮に頭下げにいかないとな」
神裂「私からも説得しますので、大丈夫だとは思いますが……」
上条「ああ、何とか協力してもらえるように頼んでみるよ。
こればっかりは神裂に無理言ってもらうわけにはいかないし」
神裂「ええ、参りましょう」
土御門「じゃあそっちは任せたぜい、カミやん」
上条「おう、土御門も、頼むな」
土御門「ああ。ついでに学園都市から必要なモン超音速旅客機で取り寄せたからにゃー。
そっちも回収してくる」
上条「必要なもん? あー……もしかして『コレ』の……?」
アックア「ふむ……何のつもりかと思ったが……やはり意味があったのであるな」
土御門「その辺も戻ったら説明するぜい。それじゃな、頑張れよ」
上条「ああ、お前もな」
―――英国 ロンドン 日本人街
上条「――ってなわけなんだけど……」
建宮「おう。構わねぇのよな。いいぞいいぞー」
禁書「ええっ!?」
上条「軽っ!!?」
五和「い、いいんですか!? そんなあっさり!」
建宮「女教皇様がやるって言ってんだったら俺らが断る理由なんてねぇのよな」
神裂「建宮……本当にいいのですか? 言っておきますが、勢力の分断を招きかねない事態に発展する可能性もあります。
これはあくまで私が個人的に彼に協力をするだけのことですから、天草式のことはどうか切り離して考えて下さい」
建宮「じゃあ俺らも天草式じゃねぇ一個人としてお前さんに協力してやるのよな。
それなら納得出来るんだろ?」
上条「建宮……」
建宮「お姫サマの結婚の善し悪しは別にして、そこからお前さんがそいつを救いてぇって思ったんなら、俺達は後押しするだけなのよな。
そうですよな、女教皇様」
神裂「ええ……。複雑ですが、政治的なことをこれ以上議論しても無意味でしょう。
我々は我々の教えに従い行動するまで。
例えそれが国の意志に背く行いだとしても、我らの主に背くことでは無いと信じます」
上条「お前ら、なんでそこまでしてくれるんだよ……」
建宮「ああ?」
上条「俺に付き合ったって、正直得なことなんて無いんだぞ……お前達の立場だって危うくなるかもしれねぇのに……」
建宮「お前さん、案外周りが見えてねぇのよな。いや、別に意外でもねぇか」 チラッ
神裂「何故そこで私を見るのですか……」
建宮「いや、五和も見てますのよな。お前さんが鈍感だってのは今に始まったことじゃ無いしな」
上条「え……?」
建宮「お前さんが今まで他人にしてきた行いを、そのままお前さんにするだけのことだ。
あー……ほらアレだ。情けは人の為ならずってやつなのよ。
神の子も言ってるのよな、人にしてもらいたいことは他人にもしろってな。
それだけのことだろ」
上条「……」
建宮「お前さんとの共闘はこれで4回目か? そろそろ理解しとけ、これが我ら天草式よ。
そこに救われねぇ奴がいる。
女教皇様程面倒な立場にいる訳じゃねえ我らがお前さんに力を貸す理由なんて、その程度で十分なのよな」
御坂「……」
神裂「……」
アックア「ふっ……」
上条「アックア、何でお前が笑うんだよ」
五和「アックアでも笑うんですね……」
アックア「いや、恐ろしいものだと思ったのである。貴様が今まで成した事がこうして結実しつつある。
魔術、科学双方にとって、これが新たな勢力が確実に力を着けている事実を再認識させられる結果となるならば、
背筋が凍る思いだ」
上条「……?」
アックア「……余計なことを気にする必要は無いのである。
もはや賽は投げられた。どのみち後戻りなど出来ん。
貴様は王女を助け出すことにのみ考えを巡らせておけばいいのである」
上条「ああ……そうだな。建宮、よろしく頼む!」
建宮「任せておくのよな」
ヒソヒソヒソ…
上条「ん? 何だ? 何か視線が……」
対馬「(ちょっとどういうことなの……? 例の彼がぞろぞろと女連れで戻ってきたと思えば、別の女を迎えに行く話をしてるわよ……)」
香焼「(い、いやそれより後方のアックアすよ。何でアレが一緒に来てるんすか……正直見るだけでトラウマが……)」
諫早「(確かに……。女教皇様とアックアが一緒というのも解せんから気持ちは分かるが、やっぱりあの男、女子を侍らせすぎじゃないか?
五和は本当にあの男でいいのだろうか……?)」
牛深「(っていうか何か物騒な話してますよ……。王女を誘拐とかどうとか)」
神裂「あなた達、そんなところで何を? 今から作戦を説明しますから、こちらへ」
牛深「は、はいっ!」
香焼「今行くっす!」
諫早「(おのれ上条当麻ぁ……五和の純真を弄びおって……!)」 ギロッ
香焼「(マジ許せねぇっす!)」 ギロッ
上条「?」
対馬「(五和、今は耐える時よ! いずれチャンスが巡って来るまで、猛禽類のように待つの!)」 グッ
五和「?」
建宮「何やら策謀が張り巡らされているようだが気にするこたねぇのよな」
上条「ん? おう……?」
建宮「それで、実際どんな感じで事を運ぶのよ? 式場は聖ジョージ大聖堂だっけか?
魔術的な防御がひどくてどうにもならねえのよな」
アックア「ならば式場を戦場に選ばなければ良い話である」
建宮「ん? どういうことだ?」
上条「これを見てくれ」
建宮「? 何なのよなこれは。本、だな。タイトルは……『城攻め』?
どこに需要があんのよこれ」
上条「キャーリサが残してくれた本だ。三日目くらいに一緒に本屋で買ったんだけど、
ここに式当日のおおまかな予定が載って書いてあったんだ。
たぶん、キャーリサがこうなることを見越して残してくれたんだと思う」
建宮「成程な、バッキンガム宮殿から聖ジョージ大聖堂へ移動するのは式の直前なのよ」
神裂「そうです。つまり、当然ですがこの日は宮殿と大聖堂、両方に騎士派の警備が割かれることになる。
おまけに騎士団長はこの日大聖堂側で警備の指揮をとることになっています。
王女がバッキンガム宮殿におられるうちに速やかに連れ出してしまえば」
アックア「……騎士派の合流を待たぬうちに離脱するとなれば、多少の戦力差があろうともこちらに勝機はあるのである」
建宮「それしかねぇか。式が早まろうが何だろうが、どちらにせよ警備が手薄なのはこの日だけなのよな。
式が始まりゃ大聖堂は騎士達と魔術による防御網で八方塞がり。それまでに決着を着けなきゃ終わりなのよ」
禁書「でも、そんなに上手くいくのかな……」
御坂「確かにね。それくらい向こうも分かってんじゃないの?
あ、ねぇところでさ、さっきから普通に出てきてた所為で聞きそびれてるんだけど、魔術って具体的にどんなもんなの?」
上条「その辺は説明し始めるとめちゃくちゃ長くなるからパス。
今晩インデックスにでも教えてもらってくれ」
禁書「別に構わないけど、一晩じゃ話が終わらないと思うんだよ」
御坂「あー、そういや今日五和の部屋に泊めてもらえるんだっけ?」
五和「ええ、狭いですけど……」
御坂「いいって、ありがと。まいいや。適当に必要なとこだけ教えてちょうだい。
何とか飲み込むから」
禁書「分かったんだよ」
建宮「それで? その短髪の嬢ちゃんの言う通り、実際向こうもそれに関しちゃ対策を打ってくるはずなのよ。
その辺に関しちゃどう見る?」
上条「大丈夫だ、キャーリサはその先を読んでる」
アックア「むしろ作戦はここからが本番である」
建宮「ほう。さすが『軍事』の。んじゃ、とっくりと聞かせてもらうのよな。
どうやらこいつは、お前さんの勢力と騎士派の戦争らしい。
お姫様の用兵手腕、見せてもらうのよ」
上条「ああ。それじゃまずこの本の別のページに――――」
夜
―――英国 バッキンガム宮殿 テラス
キャーリサ「……」
騎士団長「キャーリサ様。ここにおられましたか……夜風は体に障ります、部屋にお戻りを」
キャーリサ「お前の言う事など聞かんし」 プィッ!
騎士団長「……嫌われたものです」
キャーリサ「当たり前だ。お前、事が済んだらクビにしてやるし」
騎士団長「私はこの職を女王であらせられるエリザード様より賜っております。
貴女の言葉一つでどうにか出来る程容易いものではありません」
キャーリサ「……ふん」
騎士団長「もちろん許してくれとは申しませんが」
キャーリサ「本当はこっそり宮殿から抜け出す手筈を整えているんだろー? ん?
驚かないから言ってみろ、こんなこと好きでやってるんじゃないです、みたいな感じでほら」
騎士団長「ご期待に添えず申し訳ありませんが、そんなつもりは毛頭ありません」
キャーリサ「ちっ、一生恨むし」
騎士団長「構いません。間違ったことをしているつもりも無いので」
キャーリサ「……」
騎士団長「……」
キャーリサ「……なあ」
騎士団長「……はい」
キャーリサ「私は明後日から、他人の妻となり、この国を出るのだな」
騎士団長「……その予定です」
キャーリサ「つまらんな」
騎士団長「……」
キャーリサ「まったく……王女とは面倒なことが多い」
騎士団長「お察し致します」
キャーリサ「嘘を吐け。だがおかげでとーまに会えたし。
……とーまは来るぞ。お前達の……いや、あの権力者共の好きにはさせんし」
騎士団長「こちらの台詞です。あの少年の思うようにはさせません」
キャーリサ「……私はこの国には必要ないのか……?」
騎士団長「キャーリサ様は英国の至宝です。だからこそ国外での平穏な生活をエリザ-ド様は望まれた。
……元より貴女には、この選択しか無いということです」
キャーリサ「お前達の頭で思い浮かばなかっただけだ。
とーまはお前達には及びもつかんことをやってのけるはずだし。
……騎士の本懐を遂げるのはお前達などでは無い、とーまなの」
騎士団長「我らの行動が後世どのように謗られようと、我々は忠実に職務を遂行するまでです」
キャーリサ「ふん……騎士道とは、どこか信仰に似ているな」
騎士団長「だからこそ三大派閥の一角が騎士派なのです。
法の上で王室に仕える我々ですが、騎士道という名の信仰こそが我らの本質。
故に王室の下に位置するものでは無く、並び立つものとして名を連ねている」
キャーリサ「……面倒な奴め。分かってもらえなくて残念だし」
騎士団長「……では残念ついでに、貴女の希望を打ち砕く残念なお知らせが二つほど」
キャーリサ「……」
騎士団長「お聞きになられますか?」
キャーリサ「話せ。……今さら何が来ようとこれ以上状況は悪化せんし、とーまは負けん」
騎士団長「一つ。式場の変更が決定いたしました。場所はここ、バッキンガム宮殿です」
キャーリサ「……何だと」
騎士団長「この意味がお分かりですか?」
キャーリサ「……騎士派の全ての武力がこの城に集うということだな」
騎士団長「はい。もっとも、これは清教派を信じられぬと言った政治家達からの提案です。
しかし、無名ですが清教派の息のかからぬ魔術結社も防衛にあたることになりましたので、
この宮殿の防御力も加味すれば結果的には聖ジョージ大聖堂よりも彼らにとっては厳しい戦いを強いられることでしょう。
実質、彼らは一城を落とすための戦いに身を投じることになるのですから」
キャーリサ「それは過酷だし。まさに『城攻め』……か」
騎士団長「……そしてもう一つ――――」
キャーリサ「…………」
騎士団長「――――聖人を一人、国外から式に招待いたしました」
キャーリサ「!」
騎士団長「……以上です。それではキャーリサ様。部屋にお戻りを」
キャーリサ「……お前は、そーまでして私を……!」
騎士団長「……念には念を入れたまでです。あの少年に言葉で言い表せない何かを感じるのは、貴女だけでは無いということです、キャーリサ様」
キャーリサ「……くっ」 ギリッ
騎士団長「……どうぞ、こちらへ」
キャーリサ「……チッ」
キャーリサ(とーま……どーする? 事態は私が考えていた以上に過酷なよーだし……。
それでもお前なら、お前なら私を救ってくれるの?
……いや、今さら疑いなどしないの。とーま、舞台は整った。役者も揃った。
ならば後は駒を動かすのみよ……)
キャーリサ(とーま………――――)
キャーリサ(――――長い家出の始まりだし)
今日はここまでで。
次回から最終局面です。
このスレ内での完結は無理そうなので、もし気にしてくださっている方がいらっしゃるなら、
ペース落とさなくても大丈夫ですよ。
それではまた近いうちに
皆さんこんばんは。スレも残り少ないですが投下します。
投下終わったら新スレ立ててきますので
―――英国 バッキンガム宮殿 外周部 11:30
間もなく正午になろうかという時間帯、冬の訪れも間近に差し迫ることを教えてくれるかのような冷涼な風と、爽やかな明るい陽射しが本日のロンドンを包み込んでいた。
ウェストミンスター区にて堂々と聳え立つ女王の執務室兼公邸バッキンガム宮殿。
二つの隣接する公園と融合するように建てられた約一万坪の広大な敷地のほぼ全てが本日はピリピリと張りつめた空気に覆われている。
普段なら衛兵の交代を見物しに来た観光客や地元の人間の姿が見受けられる公園一帯のそこかしこに騎士や衛兵の姿が見え隠れし、空には軍用らしきヘリが数台プロペラ音を響かせて飛行している。
こと宮殿の周囲ともなれば普段からは想像もつかないほどの厳重な警備態勢が敷かれていた。
そこに恐るべき価格の高級車で乗り付け集まってくる来賓達。
仕立ての良いスーツやドレスを身に纏い、厳かな雰囲気を醸し出して宮殿へと歩む彼らは皆、本日予定されているキャーリサ第二王女の結婚式へと招かれた賓客たちだった。
しかし、この中に国外から招待された者は実は意外と少ない。
この結婚式の事実は大々的に公表されているものではなく、あくまで女王の私的なパーティが開かれるという名目での警備体制であるため、本日ここで行われる式典の詳細を知る者は、国内の一部の政治家達や権力者達だけであった。
故に、ここにいる彼らはそのほとんどが国内の人間であり、魔術や科学に関する勢力争いのことなど知る由もない人物の割合が多い。
だが、どこからでも情報と言うのは洩れるもので、或いは何者かが意図して漏らしたものであるのかもしれないが、ともかく街中でも王女の結婚に関する噂はまことしやかに囁かれている。
そんな中、ごく一部の例外として招かれた国外からの招待客が一人。
ゴーグルで押し上げた金色の髪で風を切り、深い色の実用的な分厚い生地のジャケットとパンツに身を包んだ長身の女。
式典にしては少々カジュアルな格好ではあるものの、王室庁からではなく女王の側近である騎士団長直々に招かれた最賓客の一人であった。
??「……仰々しいことだ」
威風堂々と胸を張り歩くその姿、周囲に視線を走らせるその挙措にはどこか品がある。
それもそのはず。
彼女は英国王室の近衛侍女であり、王権神授制のトップに仕える巫女としての役割を持つ女であった。
本来ならば国内でもそれなりの地位を持っている彼女だが、今現在はボンヌドダームとしての腕を磨くために国外に出ており、また国から再三の帰国命令が出ているにも関わらず、とある事情によりそれを無視している。
??「久しぶりにロンドンに来たなー。でも何て言うか、警備の人間の顔に余裕が無いな。
王女の結婚式ってそんなに危険が付き纏うことか?」
女の3歩程後ろから呑気な口調で、彼女が帰国しない「とある事情」の最たる部分を占める男がそう言う。
水色のシャツにベージュ系のベストを羽織った金髪の男だった。
優しげな面立ちで物珍しそうに周囲をキョロキョロと見やっているが、こちらもその格好はどう見ても英国王室の結婚式に出る様相ではない。
??「いやー、にしても俺なんかがこの宮殿に入っても大丈夫なんだろうか」
??「アンタにまできっちり招待状が届いていたってことは、大丈夫なんじゃないの?
罠の可能性もあるけどね、分かっててもわざわざ来るんだから一緒だろうに」
男はこれまたとある事情により魔術サイドそのものから追われる重要人物であったが、本人はその魔術サイドの一角の総本山を目と鼻の先に臨むこの場所で臆する様子を微塵も見せない。
何故ならば、彼は魔術サイドから差し向けられる追手の全てを、今日まで撃退し続けてきた男だからである。
??「まあ、聖ジョージ大聖堂だったらさすがにどうしようかと迷うところだったけど、こちらなら問題ない。
のんびり観光気分で良いんじゃないかな」
しかし男は特にこれといって恐ろしい人物という訳では無い。
確かに有する力は強大だが、今は相方と二人、孤児や親許に帰れない数人の子供たちをアパートメントで養う物好きな優しい青年でしかなかった。
フラリと家を出ては世界のどこかで犯罪組織を潰したり、動物や子供を拾ったりしては戻ってくる生活。
そんな彼を放っておくことが出来ず、女は今も英国に戻る気が起きずにいるのだ。
??「せめてジャケットとネクタイくらいしてきたらどうなの。王室舐めてるとしか思えないよ」
年長の子供に一先ず家のことを任せてきたが、どうにも心配になってきた女はそれを振り払うように呆れたため息をつき、振り返る。
その言葉に男は困ったような笑みを浮かべて頬をポリポリとかいていた。
??「あ、やっぱりまずかったかな? でも自分だっていつもの作業服じゃないか」
??「あのな、私は向こうがどうしても来てくれって頼んでくるから仕方なく来てやったの。
それに私はボンヌドダームだ。エプロン外しただけでも十分すぎる譲歩だよ」
仕方なく、なんて言葉が出てくることに女は自分でも驚いていた。
まるで生まれ育った英国ではなく、今いるボロっちいアパートメントの方を自らの居場所としているかのような言葉だったから。
??「なるほど確かにな。じゃあどうしよう。やっぱり買ってきた方がいいかな?」
そんな彼女の複雑な胸中など知らず、周囲からの好奇の視線にようやく気付いたらしい男が財布の紐を握る相方にお伺いを立てる。
が、その言葉に女の目は鋭く吊り上った。
??「うちにそんな金あるとでも思ってんのかアンタはぁああッッ!
日に日に増えていく子供達の健やかな生活の為にはアンタの衣食住を削るしかないだろぉぉがぁぁああ!!」
女はどこからともなく取り出した麻のロープをパシンパシン鳴らして男に詰め寄る。
その行動がさらに奇異の視線を集めることに一役買っていることには彼女は気づかない。
??「わ、分かった! 俺が悪かったからロープはしまってくれ! さすがにここで亀甲縛りはどうかと思うっ!」
両手を前に突き出して後ずさり許しを乞う。
彼女を怒らせ全身に漆を塗られたり、犬小屋で三角木馬で股割きをされたりと言った、文字に起こすとやけに物騒なお仕置きを受けてきた男の必死の懇願だった。
さすがに王室の前庭で品が無いにも程がある仕置きをするわけにもいかず、女はそのロープを懐にしまい込んで踵を返し歩き出す。
視線の先には美しい庭園が迎える女王の宮殿。
歓談しながら宮内に入って行く客達の後に続き、彼女達も揃って門前の受付へと辿り着く。
そこでは受付の女性の背後や周囲にも眼光鋭い衛兵たちが控えており、物々しい雰囲気となっていた。
受付「招待状をこちらに」
二人の格好を見て一瞬訝しげな表情を見せた受付の女性だが、すぐに柔らかい笑顔を浮かべて招待状を受け取る。
そしてそこに書かれていた名前を見てギョッと目を見開き、もう一度女の顔を見上げた。
受付「こ、こちらにご芳名をお願い致します……」
さらに背後に控えていた一人の騎士の表情も、男の顔を見て驚愕のものへと変化を遂げる。
それには気づかぬフリをして、女は迷いなく歩みを進める。
男は城門前の異様な警備体制に首を傾げたが、それっきり特に表情を変えることなく相方の背を追う。
??「おい、オッレルス。もたもたするな。あんまりキョロキョロしてるとしょっぴかれるよ」
オッレルス「ああ、それは困る。立食パーティも楽しみなんだ。
タッパーとか買ってきてアパートの子供達に持って帰ってやっちゃ駄目だろうか、シルビア」
シルビア「おう、訊いてみたらどうだ。そしたらきっと今日からアンタは宮内で伝説の男だ」
互いを信頼しきっているかのような軽口を交わしながら宮殿へと入っていく二人。
その背中を何度も見返しては、己の驚愕が己だけのものでは無いことを確かめ合うかのように視線を交わし合う門前の人々。
二人の名はシルビアとオッレルス。
その存在は、今日ここで行われる式典の主役にとって、唯一予想だに出来なかった人物達であった。
―――英国 バッキンガム宮殿 大広間 11:50
バッキンガム宮殿内にある大広間。
そこが本日行われるキャーリサ第二王女の結婚式の場所だった。
絢爛豪華な調度品が飾られ、床から天井に至るまでのその全てが煌びやかで、かつ品を損なわないまさに外から賓客を招くためにあるようなその巨大な部屋の中に、およそ300人程度の人間が椅子に腰かけ式典の始まりを待っているところだった。
結婚式と言っても、本日行われるのは、所謂ウェディングドレスを来た花嫁がヴァージンロードを歩いたりするようなものではない。
どちらかと言えば、関係者各位に結婚を報告する会見の様なもので、もちろん此度婚姻の式典の主役であるキャーリサ王女と某国皇太子は客の前に姿を現すが、あくまでプログラムの進行上で挨拶を行う程度のものだった。
急遽決まった式典であることと、結婚そのものよりもキャーリサが国外に出ると言う事の方が重要であるためこのような形になっている。
国外からVIPたちを招いて行う披露宴や式はまた後日、色々な政治的手続きが終わってから執り行われる予定だった。
そんな中、イギリス清教最大主教ローラ=スチュアートの護衛としてこの式典に参加している神裂は同僚のステイル=マグヌス、インデックスの隣で広間の壁際で室内の様子を注意深く観察していた。
神裂(聖ジョージ大聖堂からバッキンガム宮殿への突然の会場の変更……あちらも必死のようですね。
……警備の数が思ったよりも多い。これは骨ですよ上条当麻)
宮内を徘徊してる警備の数は数えるだけでも眩暈がしてきそうなほどだった。
正面から戦えば、神裂やアックアならば一網打尽にすることも不可能では無いのだろうが、なにぶん敷地は広大で、市街地にまで兵の手は及んでいる。
陸路で逃げるのは限りなく不可能に近いが、無論策はある。
だから神裂が今気になっていることは、そんなことではない。
神裂(聖人シルビア……。隣にいるのは『北欧王座』のオッレルスですね……。
何故彼女らがここに……)
片や英国の武力の一翼。片や魔術サイドのお尋ね者。
その二人が招待客としてそこに座っていることにも驚いたが、隣通しで談笑しているとはどういうことか。
周囲を警戒している様子は見受けられないし、英国内でそこそこの地位を持つシルビアがここに呼ばれること自体は何も不自然なことではない。
だが、その二人の存在は神裂にとってプレッシャーとなっていた。
ステイル「どうかしたかい神裂。顔色が悪いようだが?」
目元にバーコードの刺青を入れた赤髪の神父、ステイルが興味無さげに声をかけてくる。
さすがに女王陛下の住まう宮殿内ということで、煙草を吹かすのではなく禁煙パイポをカリカリと噛み鳴らして室内に視線を送っていた
禁書「かおり、どうかしたの?」
二人の間にいるインデックスも心配そうにこちらを見上げてくる。
彼女を安心させるように神裂は薄く微笑んだ。
神裂「いえ、何でもありませんよ。それよりステイル、あなたは最大主教の傍にいなくても良いのですか?
護衛なのでしょう?」
広間の最善に設けられた特別席で退屈そうにしているローラに視線を送る。
そこには女王や第一、第三王女の席も設けられており、背後には騎士団長が控える予定だ。
ローラの護衛として参加しているステイルも、本来ならばそこに控えておくはずなのだが、どういうわけか広間の壁際で自分やインデックスと一緒にいる。
ステイル「ん? まあそうなんだけどね……」
何故だか言い澱むステイルに神裂は訝しむ。
彼の視線が一瞬インデックスに向けられたことに気づいた。
昨日土御門がステイルへ協力を仰ぐ件は任せろと言っていたので、きっとそのことで何か言われているのだろうと神裂は納得することにする。
禁書「あ、見て見て。とうま達が入って来たよ」
ステイル「やれやれ、みすぼらしくてとても招待客には見えないな」
インデックスが指差した方向を見やると、入口となっている巨大な扉から上条、アックアの二人が入ってくるところだった。
二人は言葉を交わす様子もなく、淡々と自らの席へ辿り着くと、無造作に腰かけ前を見つめ続けている。
ステイル「しかし意外に落ち着いているな。キョロキョロと挙動不審の極みかと思っていたが」
神裂「ええ、まあ……」
ステイル「それにしても、あれが後方のアックアか……クーデターの際に遠目でちらりと見た程度だったが、何だって上条当麻と連れ立って来たんだか。
理解しかねるな」
溜息をついて首を横に振るステイル。
彼の反応に苦笑を零しながら、神裂はここにいない味方達のことを思った。
土御門は既に宮内にいるらしいが、他の連中は朝別れてからどうなっているかは分からない。
さすがに既に気づかれたりしているということは無いと思うが、騎士団長の姿がここにないためどうしても不安が過る。
せめて騎士団長がここに現れる式典の開始時刻が早く来てくれることを願った。
と、その時だった。
室内前方にある扉から、タキシードに身を包んだ初老の男性が入ってくる。
王室派の人間であり、今回の式典の司会を担当する人物だ。
いよいよ式典が始まる。
ざわざわと騒がしかった室内も、彼が姿を現したことによって徐々に静けさに包まれていく。
禁書「始まるんだよ、かおり」
神裂「……ええ、気を引き締めましょう」
ステイル「? 何故君達が緊張するんだ。 仮にテロでも起こったところで、ここに揃っている戦力を考えれば何の問題も無いと思うけど?」
司会「えー、この良き日に皆様にご結婚のご報告が出来ることを、王女も大変喜ばしく……」
ステイルのつまらなそうな言葉と同時に式典の開始を告げる挨拶を始めた司会者。
神裂「そうですね。……ここを襲おうというテロリストはさぞ不憫でしょう」
ステイルの的外れな勘違いのおかげで少しだけ肩の力が抜けた神裂。
だが何も安心など出来はしなかった。
ここには全ての騎士派がいる。
騎士団長がいる。
そして、二人の不確定要素も。
神経を研ぎ澄まし、いよいよ作戦開始の時刻が来たことを自らの身体に言い聞かせる。
やがて女王の入場。
威風堂々とした足取りで入ってくる女王を先頭に、第一王女リメエア、第三王女ヴィリアン、そして騎士団長と続く。
厳かな音楽と共に、客席からは盛大な拍手が漏れた。
王室派の三人がそれぞれの席につき、騎士団長がその後ろに控えたところで式典は次の挨拶へと進んでいく。
司会「続きましては、イギリス清教最大主教、ローラ=スチュアート氏よりお祝いの言葉を賜りたいと……」
楚々とした立ち居振る舞いで入場してくるローラ。
彼女もまた目の離せぬ人物の一人だった。
普段のエセ古文調ではなく鈴の音のような声で流暢な英語のスピーチをしている。
神裂(最大主教……どうか最後まで気付かないでいて下さい。
あなたが介入すると非常に事がややこしく、そして難解になる)
年齢不詳の少女のような顔立ちの奥に潜む、老獪な本性の片鱗を知る神裂。
彼女と事を構えれば暴力、政治、その他あらゆる側面に於いてただでは済まない。
ローラ「……それでは私の挨拶は以上とさせて頂き、キャーリサ王女のこれからの幸福と英国のさらなる発展をお祈り申し上げます」
挨拶を終えると、微笑みを浮かべ淑女のように楚々とした礼をするローラ。
神裂「!」
禁書「……かおり……?」
神裂「い、いえ……」
その時、一瞬だが神裂は彼女と視線が合う。
ほんの1秒にも満たない視線の交差だったにも関わらず、何故だかそれで全てを見透かされたような気さえした。
神裂(……上条当麻、ご武運を。もはや私にもどうなるか予想できません)
流れる冷や汗を周囲の誰にも気取られぬよう、客席で微動だにしない上条とアックアを見やる。
後はただ信じるのみ。
上条当麻という一人の少年のために、多くの人間が力を貸そうとしている。
失敗した時のことなど考える必要は無い。
アックアが言ったように。これはもはや一つの勢力。
上条勢力と一部で囁かれる人々の存在がどこまで通用するのか。
腰に下げた七天七刀にそっと触れ、神裂はこちらを見上げていたインデックスと視線を交わして頷き合うのだった。
―――英国 バッキンガム宮殿 大広間 12:30
騎士団長は大広間の室内に時折視線を巡らせながら、式典の動向を見守っていた。
客席にいる上条当麻とウィリアム=オルウェルには特に念入りに注意を払う。
未だキャーリサは自室で待機中であるが、彼らが何か事を起こすとすればまずこの式典であると騎士団長は読んでいた。
多数の重要人物達が集まるこの部屋で騒ぎを起こせば、彼らへの対応で騎士派の人員も割かねばならなくなる。
そのことを警戒していたが、上条もウィリアムも未だ大人しく席についているだけだった。
騎士団長(さすがに慎重か……? だがいつ動く、上条当麻……)
キャーリサが結婚相手である某国皇太子と共にここに入場すれば、騎士派の包囲網はこの大広間に集中する。
ここから王女の手を引き、敷地外へ脱出、さらには国外へ逃亡するのは至難の業と言えるだろう。
仮に聖人であるウィリアムが動いたとしても、彼に王女を連れ出せるかとなれば話は別だ。
騎士団長自身が王女を守り、事なきを得る。それで終わりだ。
だが。
騎士団長(この胸騒ぎは何だ……? 何かを見落としている……?)
清教派の魔術師達は最大主教の護衛数名以外宮内には入れていない。
わざわざ直前になって会場を変更し、騎士派はもちろん銃火器で武装したイギリス軍も警備に動員、念のために小組織だが魔術結社も雇っている。
空に飛ばした護衛ヘリも問題無く稼働しているし、国外から招待した英国の聖人も事情は知らずともそこに座っている。
なのに騎士団長の胸の内に渦巻くモヤモヤとした霧は一向に晴れる気配を見せなかった。
騎士団長(我ながら気が小さいものだな。だが慢心するよりはマシだろう。
警備に今のところ問題は無い。上条当麻自身も動く気配は無しか……)
杞憂で終わればそれでいい。
だが決して油断はしない。反対側の壁際に佇んでいる三人の清教派の人間にも注意を向けておくことにした。
やがて女王の挨拶が終わり、穏やかな雰囲気で式次第は進行していく。
司会「では、続きまして王立芸術院よりお祝いの品が届いておりますので、皆様に御覧頂きたいと思います」
騎士団長(……祝いの品……?)
騎士団長は思い出す。
先日取り決めた式次第に、そのような項目はあっただろうかと。
騎士団長は唇が渇いていくのを感じていた。
王立芸術院。
その単語がとても引っかかった。
そうしている間に搬入されてくる高さ4mはあろうかという巨大な物体。
真っ白な布が被せられ、ごつごつとした突起がそれらを押し上げている。
上条当麻に視線を送る。
動かない。
清教派の魔術師たちは。
動かない。
司会「こちらは王立芸術院の講師であり、世界的にも高い評価を受けておられる彫刻家、シェリー=クロムウェル氏の作品でございます」
司会者の軽快な解説に会場から感嘆の息が漏れる。
司会「御覧頂く前に、クロムウェル氏からお祝いの言葉を頂戴致します。どうぞ皆様、拍手でお迎え下さい」
騎士団長(シェリー=クロムウェルだと……)
その名前の持ち主がどのような人物だったかを思い出していると、こちらに引っ込んできた司会者がヒソヒソと話しかけてくる。
司会「いやー、騎士団長殿。まさかあのクロムウェル女史の作品を拝めるとは、どのようなものか楽しみですな」
騎士団長「……記念品贈呈などの予定は無かったのではないか?」
小声でそれに応じる騎士団長。
司会「ああ、議会の先生のほうへ本人直々に急遽お話が来たそうですよ。
クロムウェル女史の作品は非常に高い評価を受けておりますからな、
断る理由もありますまい」
騎士団長(間抜けめ……余計なことを……)
キャーリサの責任追及を行っている派閥の一人が余計な真似をしでかしてくれたらしい。
その間に拍手の中ゆっくりとした足取りで登場した褐色の肌に金髪の女。
厳かな式典には少々似つかわしく無い擦り切れたゴスロリ服。
鋭い眼差しと、口元には柔和な微笑を浮かべた変人の芸術家が客席に一礼をして白い布が被せられた作品の前に立つ。
シェリー「皆様、お目にかかれて光栄です。
王立芸術院より参りました、シェリー=クロムウェルと申します。お見知りおきを。
本日は敬愛するキャーリサ王女の婚姻の式典に記念の品をお届けすることが出来、身に余る光栄に打ち震えているところでございます」
文章をただ読み上げるような、感情の籠らない淡々としたスピーチ。
されど高名な、それも見目麗しい若き芸術家の姿に会場の目も耳も引きつけられているのが見て取れた。
シェリー「このおめでたい日に、皆々様に私の作品をご覧いただけることを喜ばしく思います。
しかし芸術に言葉や解説など不要。
キャーリサ王女の幸福を願い、作成いたしました、ご覧ください」
取り払われる白い布。
そこにあったのは
騎士団長(! ……なるほど、そうくるか)
あまりにも禍々しい石造。
大理石のタイル。看板、鉄筋。ビルをそのまま粘土でこね回して石造に作り変えたような歪な土人形がそこにいた。
ざわつく室内。
それがとても結婚を祝福する意味が込められているようには見えないことを誰もが分かっているのに、
世界的な評価を受けた芸術家の作品にケチをつけることなど出来るはずもなく、誰もが微妙な笑顔を浮かべあって必死にその石造を褒め始めている。
淑女1「これは……なかなか、前衛的ですね」
紳士1「た、確かにこの荒々しさ。『軍事』を司っておられるキャーリサ王女のイメージには合っておりますな……」
紳士2「は、はは……まるで生きているようだ」
ともすれば恐怖すら覚えそうな威圧感を放つ石造を懸命に褒める来賓達。
ふと女王達を見やる。
ヴィリアン、リメエアは首を傾げているが、エリザードやローラは互いに視線を交わしあって何かを思案している様子だった。
だが騎士団長は既にその一つ先に思考が辿り着いている。
一言でいうならば
騎士団長「やられたな……」
エリザード「ん?何か言ったか?」
騎士団長「いえ……大したものだと感心しただけです」
エリザート「ふむ……そうか」
始め布を取り払った時、ここを戦場にするつもりかと全身が強張ったが、そうではない。
否、その必要すらないのだ。
シェリー「名はエリスと言います。キャーリサ王女の力強さと気品を表現致しましたが、いかがでしょうか」
しれっと誇らしげに微笑むシェリーの顔を睨みつける。
既に騎士団長は理解していた。
これは、この会場にいる三百人の人間全てを人質にとったということ。
何故ならばこれは記念の石造などではなく、魔術により生成された動く泥人形(ゴーレム)。
高い防御力と怪力を誇り、壊しても周囲の物体を吸収して再生し、 完全消滅させても術者がいくらでも作り直せると言う強力な魔術だ。
無論宮内に集う戦力を考えれば皆殺しにされることなど万に一つも無いが、死なれては困る人物の一人二人は磨り潰されるかもしれない。
それ以前に、この石造がここにあるだけで、騎士派の兵力のいくつかをこの場所に置いておかなくてはならない。
それだけでも、シェリーがこの場所に出てきた意味があるというものだった。
ここにきてようやく、騎士団長は既にキャーリサを取り戻す作戦が始まっていることを知り、同時に清教派の魔術師が上条当麻と協力関係を結んでいることを理解した。
すかさず上条とウィリアムを見るが、何事も無く座っている。
騎士団長(何を考えている……? まだ動かないのか……?)
紳士3「うーむ、言われてみればどことなく気品が……」
淑女2「確かに目元の鮮やかな赤はキャーリサ様を彷彿と……」
シェリーの解説に納得したフリをしている客たち。
と、そこで彼女の様子が変わった。
シェリー「あー……下らない」
ボサボサと髪をかきながら鼻で笑い飛ばす。
ピンと空気が張りつめた
騎士団長「……?」
シェリー「こいつのどこが芸術だっていうのかしら。 どう見たって醜いただの泥人形じゃない。
テメェの目が節穴だってことが証明されたみたいだな」
鎮まり返る場内。凍りつく空気。
突如豹変し、薄気味悪い笑みを浮かべてそう言った彼女に応えるものは誰も無い。
しかし彼女の言葉は会場の客たちに向けられたものではない。
その視線の向く先それは――
シェリー「そうでしょう?
――――テメェだよ、騎士団長」
真っ向からの宣戦布告。
騎士団長(しまった!!)
言葉と同時に騎士団長は上条、ウィリアムに視線を移す。
淑女3「キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!!!!!」
彼らの隣に座っていた女性が突如悲鳴をあげた。
紳士5「な、何だ!?」
紳士6「か、体が崩れていくぞ!」
一時パニック状態となる会場内。
それも当然だった。
どういうわけかそこにいたはずの上条、ウィリアムの二人の身体がザァァアという音を立てて砂の城のように崩落していったのだ。
後に残ったのは、二人分の身体を構成していた泥と彼らの皮膚であったもの。
騎士団長(変身魔術ッ!? 馬鹿な、こんな精巧な術式をあのゴーレム使いが?!)
先程までまるで本人であるかのように存在していた二人がただの泥人形?
そんなはずはない。
このような術式をシェリー=クロムウェルなどという女が使えるなどと聞いたことがなかった。
だが騎士団長は咄嗟に思い出す。
確か対象の皮膚を使い、対象そのものであるかのように変身できる魔術がどこかに存在していると。
エリザード「騎士団長! 何事だ!」
騎士団長「!」
騎士団長(まずい……式典を中断させるわけにはいかない……)
ここで式が中止ともなれば、キャーリサの婚姻は先送り。
彼女を国外へ出すのが伸びれば別の処分が決まってしまうかもしれない。
とにかくこの術式が何であるかを解明する前に、不安げな賓客たちをなだめる方を優先する必要があった。
騎士団長「……皆様。驚かせてしまい、申し訳ありません。
これはクロムウェル氏による余興でございます」
ゴーレム・エリスの前で愉快そうに眼を細めていたシェリーの隣に歩み寄り、
ざわつく客たちに向けて騎士団長は柔和な笑みを浮かべながらそう説明する。
紳士7「な、なんだ……そうだったのか」
淑女5「さすがは高名な芸術家、演出が凝っていますわね」
紳士8「ははは……も、もちろん分かっていたがね」
その言葉で場内がどうにか落ち着きを取り戻していく。
ヴィリアン「サプライズでしたか……ビ、ビックリしました……」
リメエア「……」
ローラ「ふーん……余興なる割にはタチが悪きことね」
ほっと胸を撫で下ろしているヴィリアンとどうにも腑に落ちないという顔をしているリメエア、ローラ。
エリザード「そうなのか? 私は聴いておらんぞ」
騎士団長「失礼いたしました。陛下にもこの余興を是非にお楽しみ頂きたいとおっしゃったので」
シェリー「少々悪戯が過ぎたようですね。申し訳ありません」
何事も無かったかのように冷笑を浮かべ、シェリーが一礼をして脇にある来賓の席へ向かうために騎士団長の横を通り過ぎる。
すれ違いざま、彼女は冷ややかな声で告げた。
シェリー「で、もたもたしてていいのかしら? こんなもんで終わりじゃねぇぞ」
騎士団長「!」
慌てて状況の確認をする騎士団長。
上条、ウィリアムを模していた泥人形は崩落したまま。
ならばどこかへと消えている彼らを追わせなければと思った時、ふと壁際にも視線をやる。
騎士団長(くっ! 神裂火織! やはり貴女もか!)
そこにいた清教派の魔術師。神裂火織、ステイル=マグヌス、禁書目録。
その三人の姿が消えている。
状況は知らぬうちに加速している。
だが騎士団長は冷静だった。今現在取るべき策。
それは
騎士団長(キャーリサ様の元へ行く……! それが最優先事項だ)
客たちに緊急事態を気取られぬよう落ち着いた足取りで部屋を出ようと扉の方へ向かう。
しかし。
『彼ら』の攻撃はまだ終わっていなかった。
ドンッ!!!
という轟音が城内に響き渡った。
再び溢れる小さなざわめき。
静かに奥歯を噛み鳴らす騎士団長。
次から次へと繰り出される波状攻撃だった。彼らがこのタイミングを狙っていたのはもはや間違いない。
エリザード「騎士団長。速やかに対応し事態を収めよ」
客たちには聞こえぬ声でエリザードが騎士団長に告げる。
これが何者かの意図的な行為であることに女王も気付いたのだ。
騎士団長「お任せを」
深々と礼を返し、ただ一言、そう応えて騎士団長は部屋を出る。
その瞬間に、キャーリサを巡る戦の火蓋が切られたのだった。
―――英国 バッキンガム宮殿 東側城門前広場 12:30
御坂美琴は先程まで来賓客たちの受付が行われていた城門の傍まで歩いてきたところだった。
御坂(そろそろ時間ね……)
オルソラ「御坂さん。間もなく城門でございます。シェリーさんとの連絡も繋がっているのでございますよ」
傍らでふわふわとした雰囲気を放つ巨乳シスター、オルソラ=アクィナスがゆったりとした口調でそう言った。
無言で頷く御坂。
緊張で硬くなってくる体をほぐすように肩を回しながら既にこちらに怪訝な視線を向けている衛兵の元へゆっくりと歩く。
受付に立っていた兵士のうち、腰に拳銃をぶらさげた一人が険しい面持ちで寄って来た。
オルソラ「(ピストルを持っておられるのでございます)」
ヒソヒソと御坂にだけ聞こえる声でオルソラが言った。
御坂「だから?」
オルソラ「(彼は騎士派ではございません。軍人さん、もしくはただの衛兵さん、或いは警察さんなのでございますよ。
どうやらこちらにおられた騎士の方は宮殿内の警備へ向かわれたようでございますね)」
御坂「つまり……どういうことよ?」
オルソラ「うふふ、それはでございますね……」
衛兵A「君達、止まりなさい。今日は宮殿周辺は立ち入り禁止だ。申し訳ないが、引き返してもらえないか」
30代くらいのその兵士は、シスターと連れの少女が迷い込んだと思ったのか、さほど厳しい口調ではなく諭すように告げた。
すかさず前に出るオルソラ。
オルソラ「あらあら。そうでございましたか。
あら、そう言えばキャーリサ第二王女がご結婚されるというお話を耳にしたのでございますが、
本当でございますか?」
衛兵A「君達には関係の無いことだ。ここら辺をみだりにうろついていると逮捕されても文句は言えないぞ。
ほら帰った帰った」
オルソラ「私、是非キャーリサ王女にお祝いの品を届けよう思い、ここに来たのでございますよ。
こちらにイギリス清教の神裂火織さんがいらっしゃると思いますので、お呼びいただけないでございましょうか?」
衛兵A「神裂……? ああ、あの日本人か。
現在式典の途中だ。品物はこちらで預かるから、帰りなさい」
オルソラ「私達は無関係では無いのでございますよ。
敬愛するキャーリサ王女は英国皆の至宝であらせられるのでございましょう。
だから皆でキャーリサ様のご結婚を盛大にお祝いしたいのでございます」
衛兵A「む……? いまいち話が噛みあわんな……と、とにかく駄目なものは駄目だ」
オルソラが独特のペースで会話を繰り広げていくのを御坂は後ろから眺めていた。
この会話の内容に意味などない。
これはつまりただの
オルソラ「御坂さん、それはつまりでございます」
時間稼ぎだった。
オルソラは優しげに微笑んだまま、再び話を戻して御坂の名を呼ぶ。
内部にいるはずのシェリー=クロムウェルと魔術的な通信が繋がっているらしいが、御坂にはよく分からない。
しかし、彼女がこちらの名を呼んだその意味を。
既に御坂は理解していた。
故に、オルソラがこちらに微笑を向けた瞬間。
御坂の手から放り投げられたコインが放物線を描く。
そして
オルソラ「騎士ではない彼ならば、多少の無茶をしてもあなた様の敵ではないと言うことでございますよ」
それが合図だった。
瞬間。
空間が悲鳴をあげるような轟音が鳴り響いた。
城門脇の壁、人のいない部分に向けて雷のレールが敷かれ、宙を穿つ電撃の槍。
石造りの壁を吹き飛ばした不可思議な少女の放つ一撃に、衛兵の顔は驚愕に歪む。
衛兵A「なっ……!!!??」
御坂「ま、こんなもんでいかが?」
オルソラ「上々でございましょう」
学園都市第三位。
通称『超電磁砲(レールガン)』の手により、作戦開始の狼煙があげられた。
―――英国 バッキンガム宮殿 大広間 12:45
大広間で式典は継続中。
外で起きている騒ぎもつゆ知らず、オッレルスは大広間にて、シェリー=クロムウェルの彫刻を感心したように見上げていた。
オッレルス「随分と面白いサプライズだなー。さすが芸術家は考えることが常人と違うね。
俺には彫刻のことなんてさっぱり分からないから、むしろこういう演出の方が楽しめるよ」
あれが魔術によって生成されたゴーレムだということはオッレルスも知っているが、それも混みでのサプライズだと思っていた。
人好きのする柔和な笑みを浮かべたまま呑気にこの状況を楽しんでいる。
だが、隣に座る恐るべき相方、シルビアの表情はどこか浮かない。
シルビア「むぅ……」
オッレルス「ん? どうしたんだ変な顔して。 あ、分かったぞ。シルビア、柄にも無く驚いてしまったんだろう。
ははは、珍しいこともあるもんだな。意外に可愛いところがぎゃぁっ! いってぇぇえ!!」
聖人シルビアの音速の肘鉄がレバー付近に抉り込まれる。
それでも痛いで済むところがオッレルスの底知れない力の恐ろしいところなのだが、二人とも事の重大さに慣れきってしまっていて特に気にしていない。
悶えるオッレルスを無視したままシルビアが考え込む。
シルビア「演出? 本当にそうなのか? どうもキナ臭いな……」
オッレルス「いてて……は? 俺は正直英国の王室のことはあまり詳しくないけど、こういう時にテロが起こったりすることもあるのかな?」
シルビア「テロ……というわけでも無い気がするな。でも考えてみれば異様に厳重な警備体制。
突然の会場変更のこともそうだし、何か起こっているのかもしれない」
オッレルス「……どうする?」
シルビア「どうしようかな。騎士団長の奴がやけに念入りに打診してきた訳だし。
やっぱ何かあるな」
難しい顔をしながら、シルビアは思い立ったように立ち上がった。
オッレルス「ん? どこに行くんだ?」
シルビア「……」
オッレルス「俺も行こうか?」
シルビア「いや……いい……」
オッレルス「はは、遠慮するなよ。よし、一緒に行こう。もうすぐ立食パーティだし、面倒事はさっさと片付けないとな。さあ行くぞ」
シルビア「だからいいってば」
オッレルス「? そんなこと言わずに」
口ごもるシルビアの手を取り席を立とうとするオッレルスを、頬を赤らめ押し留めるシルビア。
シルビア「ち、違う離せ!」
オッレルス「シルビアらしくないな。二人の方が早グフォッ!!!」
オッレルスの顎に綺麗にクリーンヒットする聖人のアッパーカット。
周囲の客の目を集めていることをまるで気にする様子も無く、シルビアは腰に手を当て視線を泳がせながらこう吐き捨てた。
シルビア「トイレだ馬鹿野郎っ!」
ドスドスと肩で風を切って耳まで赤くしながら席を離れていくシルビア。
そんな彼女の背中が遠ざかって行く気配を感じたところで、オッレルスの意識が吹っ飛んだ。
―――英国 バッキンガム宮殿 回廊 12:45
土御門「ようカミやん。上手くいったみたいだにゃー!」
上条当麻はアックアと共にキャーリサの私室に向かう階段の途中で、衛兵の格好に身を包んだ土御門と合流したところだった。
シェリー=クロムウェルがゴーレムを『眼球』として城内に多数放っているため、それによって連携をとりながらキャーリサを奪い返す算段だった。
途中窓から入り込んできた一つの轟音は、城門前にて御坂が行動を開始した証だろう。
それとシェリーの広間での演説を合図にして他の連中も動き出す予定だった。
上条「にしても大丈夫だったのか? 誰が俺達に変装してんだよ?」
三人で階段を駆け上がりながら話を振る。
当初の作戦予定では、そろそろシェリーが戦力として戦線に出るために人型のゴーレムを解除する時刻だった。
土御門「ここに来る前カミやんとアックアから皮膚を採取したろう?
それをちょっとした『知り合い』に頼んで変身魔術をシェリーのゴーレムに使ったんだぜい」
土御門が上条の左腕に巻かれた包帯を指差して言った。
日本を出る前、土御門から作戦に必要だからとナイフで皮膚を少しはぎ取られたのだ。
どうやら土御門が知り合いに頼み、それを利用して変身魔術を施したようだ。
アックア「アステカの魔術であるな。貴様、そんな所にまで関わりがあったとはな」
アスカロンを携えたアックアが深いため息をついた。
土御門「超電磁砲の命を助けるためって言ったら二つ返事で協力してくれたぜい。
実際それ使って調整したのはシェリーだけどにゃー」
上条「どっかで聞いたような魔術だな……ってかシェリーのゴーレムって一体作るのが限度じゃなかったっけ?」
アックア「いや、単なる人形を作るだけならばさほど難解な魔術では無いのである。
変身の魔術を組み合わせれば短時間敵の目を欺く程度のことは可能だろう」
と、アックアがそう言った瞬間階段の壁を這うようにして『眼球』がドロリと姿を現す。
シェリーの放ったゴーレムの一部だった。
『私のエリスはカバラの術式をアレンジして本来人を模すゴーレムを守護天使に置き換えてあるのよ。
こいつを二体以上使役するとなれば至難の業だが、逆に言えば単純に人型を形成するだけなら朝飯前って訳だ。
もっとも、エリスを動かすためにはそいつを維持できないから、さっきぶっ壊しちまったけどね』
上条「そうか、でも上手くいったみたいだな!」
『どうにかな。今騎士団長の奴が大広間を出ていったわよ。それから神裂達もね。
騎士団長は先に他の騎士達への指揮へ回るからアンタらはもうしばらく余裕があるんだろうけど、
急いだ方がいいぞ。
とっとと王女と合流して脱出のポイントに向かいなさい。
戦力差があるから、時間が経てば経つほどこちらが不利だ』
土御門「シェリー! お前は今からどうする!」
段を飛ばしながら階段を駆け上がり、肩で息をしながら土御門が問いかけた。
『私は騎士共への牽制としてもうしばらく広間にいるわ。
その後は宮殿の裏庭で立食形式のパーティがあるようだから、場合によっちゃそっちでひと暴れさせてもらうけどな』
上条「くれぐれも騎士達を殺すなよ」
上条は眼球に向けて念を押す。
シェリーは友人エリスの事で騎士派と因縁があり、恨みを持っている。
手綱を離すと暴走しかねないので、こうして何度も確認しておかなければならなかった。
『分かってるわよ。
でもエリスはちょっとばかし乱暴だから、力加減は間違っちまうかもな。ふふふ……』
上条「おいシェリー!」
『……うるせえな大丈夫よ。目的をはき違えたりなんかしねぇよ。
余計な真似すると笑顔浮かべながらブン殴ってくるクソシスターもいるしね』
咄嗟にオルソラの顔を思い浮かべる上条。
時間の調整とシェリーとの連携のために城門で御坂と共に陽動に出る彼女だが、戦闘が始まればほとんど力にはなれない。
そんな彼女に戦線を離れさせ、次に向かわせる場所はシェリーの元だった。
暴走の危険性を孕むシェリーも、何だかんだで良き友人関係となっているオルソラならば上手く舵をとってくれるだろう。
作戦開始前にそれを申し出てきたのはオルソラ自身だった。
これならば二人は大丈夫。
上条は小さく笑い。これ以上は彼女達に任せることにした。
『ヘラヘラ笑ってんじゃねぇぞ。言っておくけど、この期に及んで失敗とかしやがったらエリスでデコピンしてやるから覚悟しておけよ』
上条「うわ、それ頭吹っ飛ぶんじゃないですかね……」
『そうね。潰れたトマトみたいにグチャリといっちまうだろうな。それじゃ後は頑張りなさい』
最後にそう言い残して眼球のゴーレムはただの壁となった。
上条「おう、ありがとな!」
騎士A「見つけたぞ! 奴だ! 追え!」
同時にそんな声が階段の下から聞こえてくる。
振り返ると、全身を白銀の甲冑で覆われた騎士が一人こちらに向かって階段を駆け上がってくるところだった。
三人は駆け上がる脚にさらに力を込めて速度を上げた。
騎士B「逃がすものか!!」
騎士C「キャーリサ様の元へは行かせん!」
続いて階上からも二人の騎士が姿を現す。
上条「くっ! 思ったより速いな!」
土御門「騎士は肉体強化やら何やらで速いし強いぜい。
まともに相手してたら時間いくらあっても足りやしねぇ」
アックア「案ずるな。こういう時のために私がいるのであろう」
空気を裂くような速度で迫りくる騎士達の前に躍り出るアックア。
その手に握られるのは暴力が形を成したかのような大剣の零装『アスカロン』。
伝承の中の竜を殺すことを想定して作られたその怪物の如き剣がパンッという破裂音と共に振われた。
アックア「おおおぉぉぉぉおおおおおおおおおおおぉぉぉぉッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」
咆哮するアックア。
騎士B「ぐっ……がぁぁぁああああ!!!!!!!」
騎士C「ぐぎゃっ……―――!!!!」
段上から飛び降りるようにして剣を携え襲いかかってきた強靭な騎士二人が、まるで紙屑のように吹き飛ばされ、宮殿の石壁をブチ破って城外へ放り出された。
ただの人間であったなら一瞬にして肉塊になるほどの炸裂。
隆起したアックアの腕の筋肉と、浮かび上がる血管から、どれほど彼が全力でそれを振るったかを嫌と言うほど伺い知ることが出来た。
騎士A「報告! ただ今上条当麻と交戦中、至急援軍ゴガッ!!」
アックア「追って来ず連絡を先にしておくべきであったな」
下から槍を構え、味方と交信しながら登ってきた騎士に跳びかかるアックア。
隆々とした筋肉で覆われた丸太のような強靭な脚で、騎士の甲冑を踏み砕く。
死にはせずとも複雑骨折は免れない嫌な音を響かせた騎士の身体を掴みあげ、宮殿の壁に叩きつけて意識を刈り取った。
土御門「頼りになりすぎてオレの出番無さそうだにゃー」
上条「戦いにならないほうが良いだろ」
アックア「長丁場になるはずであるからな、特に上条当麻は体力を温存しておけ。
大人しく聖人である私か彼女に任せておいた方がいいのである。怪我では済まんぞ」
土御門「ま、騎士団長が出てきてからが本番だしな。
っと、この階だぜい。この廊下を真っ直ぐ行けばキャーリサの部屋らしいにゃー」
清教派である土御門はバッキンガム宮殿内部の正確な見取り図を入手することが出来ていた。
地図を広げながらキャーリサの部屋がある階へ雪崩れ込む。
騎士D「そこまでだ! 止まれ!!!」
騎士E「こちらキャーリサ様のお部屋の前にて上条当麻と交戦中。
他、2名が武装し襲撃中です」
警備の騎士がこちらの姿を確認し、通信機のようなものでどこかに連絡をとっている。
騎士D「くっ……ウィリアム=オルウェルッ! ……だが、対象の上条当麻を捉えればっ……!」
アックアには勝てぬと踏んだ騎士だが、上条を下せばそれで戦いは終わると判断して突っ込んでくる。
振り上げられた剣が窓から零れる陽光を反射する。
土御門「悪くねぇ判断だが……おいおい。オレは無視か?」
土御門の横を通り過ぎて上条に肉薄する一人の騎士。
だが、アックアが剣を振り上げるまでもなく、騎士の足を無慈悲な弾丸が乾いた音と共に貫いた。
騎士D「ぐぅっ!!」
悲鳴をあげ、男は剣を落としてその場にうずくまった。
土御門「殺しゃしねぇけど手荒にはいかせてもらうぜい?
テメェら、給料もらってんだろ、悪く思うなよ?」
アックアには遠く及ばぬまでも、鍛え上げられた土御門の蹴りが騎士の顔面に叩き込まれる。
くぐもった声をあげた男の両肩に、土御門は容赦なく数発の銃弾を撃ち込んでいった。
上条「土御門!」
土御門「大丈夫だって。こんなんじゃせいぜい気絶が関の山だ。
でもこの調子じゃ弾丸何発あっても足りないぜい。やっぱアックアに任せといたほうが良さそうだ」
魔力供給を受けて肉体強化されている彼らなら命に別状はないだろうが、少なくともしばらくは剣を握れないだろう。
倒れ伏した男を見下ろした土御門は、口元に獰猛な笑みを浮かべた。
アックア「こちらも終わったのである」
キャーリサの部屋の前にいたもう一人の騎士の方を見ると、既にアックアが対応した後だったらしく、
甲冑を粉々に砕かれ壁にめり込まされた男の姿があるのみだった。
土御門「……カミやん達よくアレに勝てたにゃー……」
上条「いや本当に心底今回は味方で良かったです……」
アックア「無駄口を叩くな。行くぞ」
あまりの強さに苦笑いしか出てこない二人。
そして二人の騎士が立っていた部屋の前へとたどり着く。
上条「ここがキャーリサの部屋だな」
そしてようやくたどり着いたキャーリサの部屋。
周囲に比べ一際荘厳な装飾が施された大きな扉の前で、上条は息を呑んだ。
土御門「ああ、行って来いよカミやん。オレ達はここを守ってる」
アックア「積もる話はあるだろうが、時間が無い、すぐに出てくるのであるぞ」
入室を促す二人の力強い言葉。
上条は二人の瞳をしっかり見つめ頷き、扉のノブを握った。
―――英国 バッキンガム宮殿 東側城門前広場 12:50
突如城門脇の壁を破壊した御坂に対し、顔を真っ赤にした衛兵がわらわらとさらに数人こちらに駆け寄ってくる。
衛兵2「き、貴様何をしているっ!!」
物凄い剣幕でこちらを怒鳴り散らす衛兵だったが、それを無視して御坂は傍らのオルソラとヒソヒソと会話を交わしていた。
御坂「(えーっと……もうこれビリッとやっちゃってもいいのかしら)」
オルソラ「(もう少し人が集まって来るまで待つのでございますよ。それにそろそろ皆さんも……)」
作戦は既に開始していたが、まだ城門前には少々兵士の数が少ない。
方々に散開している彼らをこの場所におびき寄せることに意味があった。
騎士F「何事だ!!」
そしてやってきたのは、この場所の指揮を取っているらしき甲冑の騎士が二名。
それに追随して周囲の公園や宮殿内からも続々と衛兵が集まってくる。
この時点でざっと30名ほどの兵士に囲まれていた。
衛兵1「も、申し訳ありません、この少女が……」
騎士G「何のつもりだ! 君、ちょっとこちらへ来なさい」
無残に宮殿に空いた穴を忌々しげに睨んで、騎士が御坂の手を掴もうと腕をあげる。
その時、緑に包まれた公園の方から太鼓や笛による純和風の祭囃子にも似たドンチャン騒ぎの音が聞こえてきた。
建宮「ええじゃないかええじゃないか!」
香焼「わっしょいわっしょい!」
牛深「わっしょいわっしょい!」
御坂「」
オルソラ「あらあらまあまあ」
盆踊りだか阿波踊りだか分からないが、とにかく夏の町内会でよく見るような集団が現れる。
大きな声を張り上げ、周囲の衛兵たちですら絶句するくらいのテンションで天草式十字凄教約50名が姿を現した。
香焼「わっしょいわっしょい!」
諫早「いやーめでたい! こんな目出度い日は花火に限るな!」
牛深「わっしょいわっしょい!!」
手に持つタイプの花火を両手に5本ずつくらい携えた初老の諫早がそれに次々に火を着けて花火を楽しんでいる様子を見せる。
あまりに理解しがたい状況に、指揮をするはずの騎士ですら思考能力を奪われているかのように言葉を失う。
御坂「(正直恥ずかしいんですけど……)」
オルソラ「(まあまあ。これも作戦成功のためでございますよ)」
当然これも作戦の一環なのだが、御坂は顔が熱くなってくるのを自覚する。
まさか国外に出てこんなアホなことに付き合わされるとはと肩を落としてため息をつく。
チラリと隣を見ると、オルソラがほわほわと楽しげに微笑んでいるのが見えた。
騎士F「な、何だお前達は! 今日宮殿周辺は立ち入り禁止だと書いてあっただろう……!」
ようやく状況を飲み込んだ騎士が激昂する。
どこから突っ込んでいいものかと迷っている様子を見せながらも、しっかりと周囲の兵士に武器を構えさせて捕縛のタイミングを計っているようだった。
対馬「ごめんなさい! この子が王女様のお祝いに用意した花火が暴発してしまったんですぅっ!」
浦上「今日キャーリサ王女様の結婚式なんですよね! 私達是非王女様にお祝いの花火をあげたくて!!」
香焼「わっしょいわっしょい!!」
女性の対馬と浦上、その他にも数名の女子が騎士を取り囲んでうるうると目に涙を浮かべる。
対馬の口元が若干引きつってはいたが、その行動に騎士もわずかにたじろいだ。
野母崎「申し訳ない! 謝るから勘弁してもらえないだろうか!!」
諫早「祭りじゃ祭りじゃぁああ!!」
牛深「わっしょいわっしょい!!」
さらに追い打ちをかけるように囃し立ててくる面々に、完全に押されている騎士や衛兵達。
中には呆れて肩をすくめている兵士の姿もあった。
御坂「頭痛くなってきた……」
オルソラ「私は少々楽しくなってきてしまったのでございますよ」
騎士G「勘弁って……そういうわけにはいかんだろう。許可もとらず花火など……」
だが宮殿の破壊など立派なテロ行為。
故意でないにしろしょっぴくのが当然である。
こめかみを抑えながら胃痛でもこらえるかのような口調で騎士が言うと、建宮が愛想笑いを浮かべてそちらに歩み寄った。
建宮「あー、実は俺達中にいる神裂火織の知り合いなのよ。本人に確認取ってもらえれば分かる、城の壁は弁償するから見逃してもらえねぇか?」
衛兵3「出来るか! とにかくここで騒がれても困るから一旦こっちへ……」
妙な空気が出来上がる城門前。
イライラし始めた衛兵が、一同を別の場所に誘導しようと試みる。
オルソラ「建宮さん。結構たくさん兵隊さんが出てこられたのでございますよ?」
オルソラが周囲を見渡しながらそう言った。
御坂もそれに倣うと、確かにこの周囲の警備を担当していた兵士が既に100名近く集まってきている。
御坂「そうみたいね。そろそろいいんじゃない?」
それを確認してポツリと呟く御坂。
騎士F「ん?」
その言葉に不穏な気配を感じ取ったか、騎士は警戒するように御坂を睨みつける。
建宮「そのようだな。おーおー、大騒ぎしたおかげで結構な数が出てきたのよな。
魔術師もそこそこいるな……」
騎士G「おい何を言って」
もう片方の騎士が建宮に詰め寄ろうとしたその時だった。
ドサリ。
そんな音が聞こえてきた。
そちらを振り返る騎士。そこに立っていたのは、一人の日本人の女だった。
神裂「……失礼」
彼女の足元には衛兵が意識を失い転がっていた。
身の丈程もある日本刀を携え、白いリボンを秋風に揺らめかせて、一切の感情を取り払った冷徹な表情でそこに立つ女。
彼女は聖人、神裂火織。
騎士派の中に於いて彼女を知らぬ者は無い。
騎士F「……貴女は……」
騎士はゴクリと唾を飲み込む。
同時に御坂もまた脳内にて演算を開始。
神裂火織との合流こそが、この場所における戦闘開始の合図だった。
バチバチという空気が爆ぜる音が周囲に響き渡る。
武器を構える騎士や衛兵たち。
同時に、天草式のメンバーもまたそれぞれの武器を携え、長大なフランベルジェを肩に担いだ建宮が彼を代表して告げた。
建宮「んじゃ本当のお祭り騒ぎ、そろそろ始めるとしようか。女教皇様、号令をお願いしますのよ」
騎士G「貴様ら……何のつもりだ……」
一触即発の空気が場に流れた時。
騎士二人を挟み込むようにして立つ二人の女は告げる。
神裂「ではこれより城門前は我らが制圧致します。覚悟はよろしいですか?」
御坂「言っておくけど、城の中には誰一人入れないからそのつもりでいてよね」
御坂美琴、神裂火織に与えられた役目は、この城門前にて敵の陽動、門の制圧による内部と外部の分断。
魔術と科学双方に君臨する圧倒的武力である二人が、今まさに前門の虎と化す。
何人たりとも宮殿内へと戻さぬそのために。
わらわらと寄ってくる武装した兵士たちを迎え撃つようにして雄々しく立ちはだかる二人の女。
御坂は周囲から向けられる敵意の視線を受けて精悍に笑った。
―――英国 バッキンガム宮殿 キャーリサの部屋 13:00
キャーリサは自室にて外から聞こえてくる騒がしい音を全て耳にしていた。
先程部屋の前にいた騎士から聞かされたのは、何者かがこの宮殿に攻撃をしかけている可能性がある。
だが王女は何も心配せず我々に任せておいてくれ。
そんな言葉を聞かされたことを思い出し、自室のソファに深く腰掛けほくそ笑む。
普段寝起きするベッドの上には、今日着る予定だった豪奢なドレスが手つかずで放置されている。
彼女が身に纏っているのは赤いコートと単なる私服。
彼女はここから抜け出す準備を既に整え終えていた。
キャーリサ「……いざここを離れると思うと少し寂しーものだし」
一人ごちるキャーリサ。
本日までおよそ28年間過ごしてきた私室。
宮殿内で心安らぐ場所はこの部屋だけだった。
天井を見上げながら昔の記憶を思い返す。
悪戯をして母に叱られた時。頭の回る姉に口喧嘩で言い負かされた時。仄かに想いを寄せていた相手に恋人がいたことを知った時。
枕を涙で濡らして一人引きこもったものだった。
キャーリサ「出来ればここを離れる時は皆に祝福され、穏やかに出たかったものだが、まー仕方ないの」
やや自嘲気味に笑みを零すキャーリサ。
ほんの一〇日前まで、こんな事態になるなどとは夢にも思っていなかった。
一回りも年の離れた少年を思い焦がれ、愛する国を一時離れてまで彼と共にいたいと思ってしまった。
自分でもどうしようもない程彼に恋をしている。
キャーリサ「まったく年甲斐もなく……私もまだまだガキのよーだな。」
キャーリサはもう一度クスリと微笑を浮かべて立ち上がった。
窓の外に視線を送り、のどかな景色と遠くに見えるロンドンの街並みをその目に焼き付ける。
次に戻るのはいつになるか分からない。
だが必ず戻ってくると。
そんな決意を込めて、キャーリサは詠うように告げる。
キャーリサ「待ちくたびれたぞ―――とーま」
それは
背後に立つ愛しい少年に向けて。
上条「――――待たせたな」
振り返れば、そこには思い焦がれた少年が爽快な笑みを浮かべて佇んでいた。
キャーリサに向けて伸ばされる右手。
あの日この頬を殴り飛ばした力強いその腕。
キャーリサ「さあ、私を攫ってくれ。家出をしよー」
キャーリサは微笑みを返し、その手に慈しむようにそっと触れた
というわけで前半戦はここまで。
次スレ立ててきますが、最近キャーリサ様とのイチャイチャ成分が足りないので新スレの方に小ネタだけ投下しときます
建ててきました。
いつも支援、感想ありがとうございます。完結まであとちょっとですが、次スレでも引き続きよろしくお願いいたします。
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