兵士「悪しき王より帝国を取り戻す」魔王「反乱軍か……」(136)

少女「おかあさーん、今度はこれっ、このご本を読んでほしいです」

母親「あら、あなたこの本がどんなものか知ってるの?」

少女「わかりません、でも表装が素敵でした」

母親「これはあなたがよく読むラブコメとか、ミステリではなく、架空のサーガの一節なのですよ」

少女「それはよかった、エピックな気分に浸りたかったので、丁度ぴったりです!」

母親「そう。じゃあ、早速読んでみましょうか。めくるめく、とある英雄達の旅の世界へ……」

鬼「街が見えてきたぜ」

魔王「なんとも、寂れているようだが……」

海豚「ええ。7年前にあった戦争で、激戦地となった場所です」

海豚「もともと帝国領だった為、王国が戦争に勝利してからは復興作業も捗らないようです」

天使「国は、復興の支援をしないのですか?」

海豚「戦争の後処理に追われた王国は、帝国領の民の事を考える余裕はありませんでした」

海豚「自国の復旧に多額の支出金を使った為、財政難に陥った王国は帝国領の民に重税を課したのです」

海豚「廃村に住んでいた者の多くは故郷の復興を諦め、都市で乞食同然の生活を送っているとか……」

合成獣「広大な領土と豊かな大地を持ちながら、なんと愚かな話だ……」

鬼「この住居の傷跡……家の修復も出来ない程に、ここの民の暮らしは厳しいのか」

天使「まこと痛ましい……魔王、どうにかならないのでしょうか」

魔王「見捨てるには辛いが、ここを助ければ、他所もまた助ける必要がある」

魔王「今の我々はそのような財力も力もない。彼らは救えないだろう」

魔王「……せめて一晩の宿代を落とす程度しか、出来ないだろうな」

鬼「貧困は面倒だなぁ」

合成獣「致し方ない、今はこの街の宿を探す事にしようぞ」

魔王「ああ。夕方にまた集まろう」

痩せた白髪の老人「……」

布きれを身に纏った少女「……」

魔王「もし、尋ねたいことがあるのだが」

老人「……」

少女「……」

魔王「……逃げるようにして行ってしまった。やはり、この服では警戒させてしまうか?」

魔王「長年愛用してきた、手作りの黒外套……これ一着しか無いんだがな」

魔王「さて、困ったな。日が暮れる前に、自力で探す他無いか」


老人「……」

少女「……」

魔王「すまない、ここは開いてるか?」

店主「……どうぞ」

魔王「ここには何が置いてある?」

店主「うちには……水と、パン位しかありませんが」

魔王「では、水を貰おうか」

店主「……どうぞ」

魔王「ありがとう……ワインの様な物は、置いてないのか?」

店主「……ええ、嗜好品は税の代わりに全て納めてしまいました」

魔王「そうか。……その裏の看板。さぞ、良い品を置いていたのだろうな」

店主「……」

魔王「御馳走様。幾らだ」

店主「王国の騎士様からお金をいただく訳には……」

魔王「騎士?……あいや、私はただの旅の者だよ」

魔王「都市への道を探しているんだが、教えてく……」

魔王「何のつもりだ」

店主「お許しください、私達はこうでもしなければ生きていけないのです……」カチリ

魔王「立派なガンだな。そこらに売ってる物じゃなければ、普通の人間は触れる事すら敵わない」

魔王「そうやって、何人から略奪を働いた?」

店主「今から死ぬ人には……関係ありません」カチッ


タァーン……

魔王「……」

店主「ごめんなさい……」ゴソゴソ

店主「……わ、下は裸……金目の物も無い……」

店主「あるのは……こんな剣だけ……?」

魔王「こんな剣で悪かったな」

店主「!?」

魔王「生憎、金品の類は多くは持ってないんだ」

魔王「……で、都市への道を教えてくれないか?」

店主「ひっ……」

魔王「?」

天使「しかしこう暑いと喉も乾きます……あら」

魔王「おや」

天使「……なるほど、王国の騎士には、そのように悪逆非道な輩もいると」

天使「それ程までに、過酷な日々を過ごしていたとは……」

店主「もう、この店も私もお終いです……こんな人間、もう神様もお見捨てのことでしょう……」

天使「生命を殺める事が罪なのではありません。罪に問われるべきは、乱りな殺生、即ち己の身勝手による無意味な殺害です」

天使「貴女のこれまでの所業、やむにやまれぬ事情があったことも認めます。それを罪だと抱え込んでしまっているのは、良心を穢してしまった所為です」

天使「穢れを清める為には、悔い改めなければなりません」

天使「我らの神は、罪人にさえ救いの手を差し伸べます。貴女は、やり直すことが出来るのです」

店主「私も……やり直せる……?」

天使「はい。貴女の業は簡単に清算出来るものではありません。しかし、背負った業に値するだけの働きを行った時、この枷は外れます」

天使「真に贖罪の意志があるならば、これを」

魔王「これで何人目だ?」

天使「664人目ですね」

魔王「やったな、君ももうすぐ御両親の下に帰れるぞ」

天使「ええ……しかし私が天上に帰ってしまえば、地上に残る罪人を救う事が出来なくなってしまいます……」

魔王「純粋な善意から来る魂の救済か。君はどうしたい?」

天使「……分かりません。両親には会いたいですが、私はまだ、やるべきことがある、そう思うんです」

魔王「その時、答えをきちんと出せるようにな。さて、他のみんなを探そう」

合成獣「魔王に、天使ではないか。宿は海豚が見つけてくれたぞ」

魔王「そうか、ありがとう」

天使「……」

魔王「天使?」

天使「大罪を背負った者が近くにいるようです。それも、邪悪な意思の」

魔王「……騎士か?」

合成獣「魔王、どうした?」

魔王「合成獣、宿で皆に話したいことがある」

鬼「……なんてことを!」

海豚「お馬鹿、声がでかいですよ」

鬼「んぐ……」

天使「もちろん、全ての人がそうだとは考えておりません。しかしそうした人間を放っていることも事実」

天使「このままでは、帝国領の皆さんは苦しくなる一方ですわ」

合成獣「ああ、この街を歩いてみて分かったが、貧民層は本当に日々の食糧にも事欠く有り様……なんと惨たらしい」

鬼「ぷは、じゃあ、その王国を潰せばいいんじゃないのかい」

鬼「俺らに掛かれば、軽く一捻りで……」

魔王「人間の地でそのように荒事を起こす訳にもいくまい……ん?」

魔王「新たに客が来たようだな」

海豚「人数は三人分でしょうか。随分重い足音ですが……」

魔王「……」

コン、コン

?「よろしいでしょうか」

魔王「……どうぞ」

ガチャ

?「失礼します」

魔王「……君は、昼間に会った」

少女「王国の騎士と勘違いし、後を付けさせてもらいました」

少女「この付近の人間は皆、騎士を恐れている。我々が昼間にあなたを無視してしまったのも、そういった事情があったから」

少女「……皆に代わり、謝罪します」

魔王「?……ああ、あれか。気にするな、慣れてる」

鬼「なんだ、知り合いか? こんな夜にわざわざ後追っかけて、何の用だ?」

少女「はい。聞けば、都市への道を探しているそうですね」

少女「都市はここから北東へ2日半進んだ場所にあります」

少女「しかし、都市には王国軍の関所があり、王国の民や騎士など、一部の認められた人間しか通行できません」

少女「どんな目的の旅路かは存じませんが、諦めた方がよろしいかと」

海豚「む、それは困りましたね。都市には行けないそうですよ、魔王」

魔王「そうか。それなら、都市は迂回するしかないな」

魔王「君はこの大陸の地理に詳しいか?」

少女「ある程度は」

魔王「では、その都市を経由しないでの大聖堂への道を教えてもらいたい」

少女「……そこに、何の用が?」

魔王「君には関係の無い事だ」

少女「……確かに存じております」

少女「しかし、それを申し上げる事は出来ません」

魔王「ふむ」

海豚「王国領大火山帯凍土山脈山中に、その大聖堂があると聞きます」

海豚「我々は、そこまで行かねばなりません」

海豚「都市が使えないとなれば他の道を使わなければならないのですが、それも教えてはもらえないのですね?」

少女「……はい」

海豚「では最早聞きますまい。我々は我々で道を探しましょうか」

合成獣「それが良さそうだ。となれば、そなたらに用は無い。早々に立ち去るがよいわ」

合成獣「それに、後ろの人間がそわそわして気に食わん。本当は別に用があるのではないか?」

?「!」

少女「……陸路は王国軍により全て断たれています。止めはしませんが……」

少女「行くならば、お気を付けて。彼らは人の命を物ともしない恐ろしい者達です」

少女「さぁ、帰りましょう」

?「……」

合成獣「彼ら、ただの子供では無いぞ」

鬼「ああ、戦闘慣れしてる。ありゃ、帝国軍の残党ってとこだな」

鬼「魔王、妙な縁を持っちまったな」

魔王「そうかもしれんな。だが、やはり陸路は使い物にならないぞ」

海豚「王国領に行くには、その都市を通る必要がありますからね。これが使えないとなれば……」

天使「空から行けませんか?」

魔王「君が彼をも連れていけるならそれもいいが」

鬼「俺ですかい」

天使「……ご勘弁を」


合成獣「ふわ……ぁ、やはり他所の枕で寝るとよくない」

合成獣「いつもより目覚めが悪いな……日も高いではないか?」

合成獣「おい、皆、起きろ」

魔王「ん……」

天使「おはようございます…」

鬼「おう、おはようさん。おい、海豚もだよ」

海豚「は……わぁ~あ、朝ですか?」

合成獣「朝、というには些か遅い頃だがな」

魔王「ん、そうか……外が騒がしくないか?」

合成獣「ん?」

魔王「何事だ?」

男「大変だ、大変だよ……王国の騎士に、子供達が捕まっちまったんだ」

女「あの子、王国から帝国を取り戻すって毎日頑張って……今日まで頑張ってたのにね」

男「このままじゃ処刑されちまうよ……なぁ、あんたら剣が使えるんだろ?あの子助けてやってくれよ!」

天使「あの者は!」


偉そうな男「……滅亡した帝国に囚われし反乱分子よ。覚悟は出来ているな?」

少女「私を殺しても、何も変わらないのに」

偉そうな男「言いたいことはそれだけか?」

偉そうな男「おい、剣を寄越せ」

縛られた少年「やめろ……やめろーっ!!」

偉そうな男「では、さらばだ」

キィンッ

鬼「やめろ、と言っているではないか?」グイ

偉そうな男「なんだお前は!?」

鬼「お前に恨みは無いが……いや、お前は恨まれているな。数百、数千の魂が、お前を憎い憎いとお怒りだ」

鬼「相当な悪行を重ねたんじゃないか? ん?」

偉そうな男「訳の分からない事を……お前ら! こいつを取り押さえろ!」

鎧の部下「はっ!」

魔王「合成獣は右を!」ダッ

合成獣「任されよ!」

鎧の部下「な、なんだお前ら!?」

重装の部下「あいつの仲間か……帝国軍め!」チャキ

海豚「大丈夫ですか?」シュル

少年「う、それより兵士を!」

海豚「天使が既に助けてくれてますよ」

海豚「鬼! 引き揚げますよ!」

鬼「おう! でやぁッ!」ブン

ドォッ

偉そうな男「ぐはっ!」

合成獣「こっちだ!」

魔王「皆、先に行け! ……閃光の剣!」カッ

鎧の部下「うわッ!?」

重装の部下「ま、真っ白で何も見えねぇ…目が潰されたぁッ!!」

偉そうな男「ふ、ふざけやがってぇッ!!」

少年「僕達のアジトがあるんだ……そこへ!」


少年「助けてくれてありがとう、昨日は名前も言わずに失礼しました。僕は剣士」

剣士「彼女は兵士。……あいつの言った通り、僕達は帝国軍の敗残兵です」

合成獣「敗残兵? 戦争は7年前に終わったのでは無かったのか?」

剣士「僕は17歳です。確かに、終戦はその日でしたが……」

剣士「その報告を受けられなかった部隊は、その後1年間を帝国辺境にて戦いを続けていました」

剣士「当時11歳だった僕達は、武器について素養がありました」

剣士「その時、僕達はその部隊に徴兵されたんです」

海豚「人間の11歳……まだ、ようやく第二次性徴期に差し掛かった頃ですね」

魔王「そのように若い時から、君は戦って来たのか?」

剣士「はい」

剣士「その部隊の生き残りである僕達は、王国の恐怖政治を終わらせるために反乱軍を組織し、打倒の日を待っています」

剣士「しかし、今は人数は少なく、とても蜂起できる状態ではありません」

剣士「不運な事に、僕達は今朝王国の視察団に遭遇してしまい、あのような事態に至ったんです」

剣士「旅の途中だったでしょうに、僕達に構った所為で……」

魔王「気にするな、いずれにせよそう簡単に目的が達せられるとは思っていなかったのだから」

魔王「反乱軍を組織、と言ったな。反乱を起こすという事がどういう事か分かっているのか?」

剣士「はい、また多くの血が流れるでしょう。しかし、今のこの大陸の在り方は間違っています!」

剣士「帝国の人々は、戦争とは無関係だった人達でさえも奴等に虐げられ、血を流しています」

剣士「今の様に搾取が続けば、王国の民でないという理由だけで僕達は殺されていくでしょう」

剣士「そんなの……放っておけません」

魔王「決起するに十分な理由は揃っているようだな」

魔王「だが、仮に王国に打ち勝ったとして、その後はどうする?」

魔王「今度は、王国の民に同じ事をしようとしているのではないか?」

兵士「違うッ、私達は今の生活を変えたいだけ!」

兵士「今の王国は腐っています! 王侯貴族や騎士達の精神は腐敗し、我々を貪り潰す」

兵士「こんな状態が……許されると、いうのですか!?」

魔王「彼らは勝者だ。それまで辛酸を舐めて来た彼らが、美味い肉を喰らい、酒を飲み干す」

魔王「何か、間違っているか?」

剣士「……」

兵士「……」

バン!

青年「百歩譲ってそいつは許すとしよう、だがな。俺達はご褒美を望んでるんじゃねえ」

青年「一回の勝利に酔い、堕落するようならそんなモンは要らねえ」

青年「俺達は、皆が普通に暮らしていた時代を取り戻したいんだ!」

青年「その為なら身を犠牲にしたって構わねえ、どんな苦労だって厭いはしねえッ!」

兵士「やめて、神殿騎士! 私達がどんなに理想を掲げたって、外が全てそれを認めてくれる訳じゃないのよ!」

神騎「分かってるさ、外から来たあんたらにだって、分かる訳が無いってこともな」

神騎「そうさ、俺達みたいな弱小反乱軍如きに国一つ転覆させる力なんか、ありゃしない」

神騎「……分かったら、この大陸から離れた方がいいぜ。何処に行けるかは知らんがな」

魔王「事情は分かった。……皆、聞いておきたいことがある」

魔王「私の目的はこれまで通り、大聖堂へ向かう事だ。その道中に我らの旅路を阻む関門があるのは聞いた通りだろう」

魔王「……また、その王国が抱える騎士団の腐敗も間違いは無い。鬼、そうだな?」

鬼「ああ。あんな極悪人がまだ居るのかと思うと、寒気がする」

魔王「……この状況を放ったまま目的を達しても、それは決して満足な結果を齎すことは無いだろう」

魔王「どうだろうか、私を反乱軍に入れては貰えないだろうか?」

3人「!?」

鬼「いや、出来る事なら俺も頼む」

海豚「いえ、ここにいる者全てが、あなた達に賛同していますよ」

海豚「私達には戦いの中で培った経験……即ち、力と策があります」

海豚「悪い提案では無いでしょう?」

兵士「でも……」

神騎「待て、兵士」

神騎「……反乱軍の仲間を紹介したい。着いて来てくれ」

白髪の老人「そなた等が、兵士と剣士を救ってくれたのだな」

老人「私の名は少将。現在の反乱軍の指導者だ」

魔王「私は…黒騎士という。そして、私の旅仲間だ」

海豚「お初にお目にかかります、少将殿。私は海豚。軍師の者です」

天使「私は天使、聖職者です。以後、よろしくお願いしますわ」

鬼「俺は鬼だ。とりあえず、腕に自信はあるぜ」

合成獣「我は合成獣。鬼と同じく、武器は我が身一つだ」

少将「うむ、よろしく頼む。して、神殿騎士。彼らを反乱軍に迎え入れるとは……どういう心変わりだ?」

神騎「俺達には力が無い……帝国の民は皇帝を失ってから、生きる希望を無くしてしまった」

神騎「今は少しでも戦力がいる、少将だってそう言ってただろ?」

少将「……旅のお方。これは我々の問題だ。首を突っ込む必要は無いのだぞ」

魔王「いや、私達には私達なりの考えがある。覇権を狙う訳で無ければ、戦を進んでしたい訳でも無い」

魔王「腐敗が見逃せない。それではいけないか?」

少将「……分かった。あなた達の助力嬉しく思う」

少将「我々の大義は、王国、帝国ともに戦争以前の日々を取り戻す事」

少将「人々が争う事無く過ごせる、平穏な日々を取り戻したい」

少将「王国の民が、それに少なからず不服を覚える事は承知の上」

少将「ともすれば、王国と帝国の民を正しく導く者が必要なのだ」

少将「しかし、私はその器を持っていない。皇子が居れば、或いは……」

魔王「皇子?」

少将「うむ、皇帝陛下の忘れ形見の皇子、彼は賢者の下で修業した王の器」

少将「陛下さえも頼りにしたその腕、まさしく指導者に相応しいと思われる人物であった」

少将「戦乱の最中、突如として行方不明になってしまったのだが……」

海豚「王にしても、皇帝にしても、互いに戦いを好まぬ君主の鑑だったとされています」

海豚「しかし、何が運命を狂わせたのでしょう。その侵攻は突然に起きたといいます」

海豚「その切欠が平民のいざこざから起きたのか。王侯の衝突から生じたのか。宗教の違いからなのか」

海豚「その全てが謎に包まれているのです」

魔王「海豚の見解は?」

海豚「帝国の豊穣な大地でしょう。この一帯に溢れる竜脈は、生命に恵みを齎すには過剰なほど」

海豚「それを何等かの理由で知った者による画策、といった仮定が導けます」

魔王「……それだけか?」

海豚「他にもありますが、やはりいずれも憶測の域を出ないもの」

海豚「確証を得るまでは、口外しない方がよろしいかと」

神騎「なに、もう行くのか!?」

魔王「最初の狙いはこの城砦だ」

魔王「軍を統括するには拠点が必要になるだろう。まず、これを落とす」

剣士「そんなことをすれば、王国軍が黙っている訳が……」

魔王「何もいきなり大事を起こそうという訳じゃない」

魔王「王国軍に気づかれぬよう各地を静かに、迅速に解放し、帝都を包囲する」

魔王「解放の報せが広まれば、各地に潜む反体制派を動かす事も出来るだろう……彼らにその意志があればな」ニヤリ

神騎「あ、当たり前だ! 今でこそ抑圧されてるが、本心は今にも不満を爆発させたいに決まってる!」

魔王「それでこそだ。城砦の周辺の村は他所との連絡地点にもなっている。これを抑えれば、城砦に居る兵には救援も逃げ場も無くなる」

魔王「それに、背後の不安を無くすという意味もあるからな」

王国軍将兵「ったく、こんなちっちゃな砦任されたって嬉しくも無いぜ」

将兵「俺は王国の方で一花咲かせたかったの、分かる?」

王国軍騎士「はぁ」

将兵「ったく、この辺にはもう女も酒も無いだろ?嫌になるぜ」


騎士「愚痴を聞かされる身にもなってほしいよ、俺達だってあんな上司嫌だよ」

王国軍警備兵「そう言うなよ、給金悪くないし」

騎士「そうだけどさぁ……あぁ、退屈だなぁ」

警備兵「暇なのは平和な証拠だ、良い事じゃないか……!」

騎士「そうかなぁ」

警備兵「……あ、あああ……」

騎士「ん?どうしたんだよ警備兵。何が……」

ざわざわざわざわ

少将「これより、我々は城砦を攻撃する! 敵兵力を殲滅し、反乱軍の旗をここに掲げるのだ!」

おおーーーーッ!!

神騎「こ、こんなに人が集まるなんて!」

剣士「黒騎士さんの言った通り、レジスタンスは他にも居たんだ!」

兵士「こんなにも上手く、人を纏めるなんて……彼らは一体」

少将「進めーッ!」

魔王「我々は援護に回る、死者は出すな! 城内の敵兵は可能な限り捕囚にするんだ!」

『了解!』

警備兵「将兵隊長! 謀反です! この城砦は完全に包囲されています!」

将兵「な、な、な、何ィ!? お前は今まで何をしていたんだ!」

警備兵「この夜中、まさかこのような布陣を敷いて来るとは微塵も……」

将兵「このバカモンがぁーっ! 仕方ない、全軍出撃だ! 一人残ら


少将「この城砦は我らの手に戻った! 我々の勝利だ!」

ワアッーーーーー!!

剣士「やった、やったよ兵士、神殿騎士!」

神騎「まさか……こんなに沢山仲間がいたのか」

魔導士「神殿騎士じゃないか!? 無事だったか!」

神騎「お、お前は魔導士! お前こそ、今まで何をしていたんだ!?」

魔導士「お前と同じさ、仲間を集めようと秘密裡に動いてたんだ」

魔導士「でもこんな場所で会えるなんて!」

魔王「少将、やったな」

少将「これも貴殿らの作戦のお陰。しかし、何故我が国の内情に関してそこまで?」

魔王「私達は旅の中途でそれなりに情報を集め回っていたんだ」

魔王「今回はそれが活きただけの事。皆に伝えてくれ、明日も戦いはあるから、早めに休めと」

少将「ああ、そう伝えておこう」

鬼「全員締め上げたぜ」

魔王「ご苦労。被害は?」

天使「死者は両軍0。重傷者には救護班が当たり介抱しています。捕虜は計28人です」

魔王「よし。彼らの処遇は私達に全権任されている。頃合いを見て、彼らを解放するんだ」

合成獣「うむ、分かった」

魔王「……皇子はまだ見つからないか」

海豚「全力を挙げて捜索中です」

魔王「やはり、王国領に居ると考えた方がいいか?」

少将「黒騎士殿、明日の帝都奪回についてだが……」

魔王「ああ、すぐに行こう。海豚、君も来てくれ」

海豚「はっ」

剣士「帝国領は次々と町村を解放して、ようやく帝都を取り戻す日が来たんだ」

剣士「これで、僕達は万全の体勢で王国に侵攻できる」

剣士「だけど、帝都を取り返したら……」

剣士「そこで戦いを止めて、話し合いで分かり合えないのかな」

兵士「剣士……気持ちはわかるわ。でも、私達は向こうの人間からすれば秩序を乱す存在でしかないわ」

兵士「それに私達には王に対抗できる君主がまだいない。話し合いは無理ね」

兵士「ここで歩を止めれば、王国からの反撃を受けることになるのよ」

兵士「そうすれば、あの戦争の二の舞になったとしてもおかしくないわ……」

剣士「……そう、だよね」

天使「迷ってますの?」

剣士「あ、天使様」

天使「以前と同じ戦力差に戻ったことを大々的に声明出来れば、休戦という形の交渉が出来るかもしれません」

天使「けれど、王国軍内部の腐敗がそれで止まりますか? 全ての者があなた達の様に純粋ですか?」

天使「あなた達は自らの手によって、その心を皆に訴えなければなりません」

天使「私達も辛いのです。戦乱で苦しむのは、戦地の人達も物資を作る人達も、その家族達も同じ……」

天使「私はあなた達のように、若く未来ある子に戦いを強いるのは心苦しいのです」

兵士「……天使様」

剣士「天使様、教えてください。僕達は、間違ってませんよね」

天使「ええ。あなた達の行いは良心に則り行われたとして、正しい事と認めます」

天使「その己を疑う心は慢心を諌めます。決して失くさないようにしてくださいね」

剣士「……ありがとうございます、天使様!」

合成獣「また、子供に進言して回っているのか」

天使「はい」

合成獣「子供子供と甘やかすでない。彼らは一人の戦士として、立派に大人の所業を為している」

合成獣「まして、戦乱の最中。彼らの士気を落とす事もあるまい」

天使「しかし、私は迷える子達を救うのが定め」

天使「見過ごす事は出来ません」

合成獣「フン、とんだ御人好しだな、お前は」

合成獣「私の周りにも、そんな者が居れば私も違っていたのだろうな」

天使「……合成獣」

今回はここまで
再開は今夜の予定
誤字脱字、矛盾があれば指摘して貰えると助かります

少将「これより帝都へ進撃する。帝都の駐屯部隊は多く、犠牲は免れないだろう」

少将「だが、立ち止まってはならない! 我々の玉座を取り戻し、打倒王国の足掛かりとするのだ!」


剣士「セイッ!」ザシュ

軽装歩兵「がっ!」

重装歩兵「おのれぇっ!!」ガキンッ

剣士「うわっ! く……」

魔王「ハッ!」ザン

重装歩兵「グワッ!」

魔王「剣士、大丈夫か!」

剣士「あ、ありがとう黒騎士さん」

魔王「一度退け、その剣ではもう戦えまい」

剣士「あ……分かりました、下がります」

神騎「帝都にこれだけの兵を割いていたとはな……流石に守りが硬いぜ」

兵士「しかし、相手は援軍の要請も出来ず、補給も受けられない! 分はこっちが有利よ」

神騎「よし。他の部隊と合流次第、城内に攻撃を開始するんだ!」


少将「どけ、どけッ! 私の邪魔をするなッ!」

雑兵「敵将だ! 奴をここから通すなっ!」

少将「うおおおおおッ!!」

合成獣「少将、加勢する」

合成獣「『雷撃』!」バチッバチバチッ

雑兵「ギャアッ!!」

少将「忝いッ、せやッ!」ドォッ

天使「城の包囲が終わりましたね」

鬼「うむ、あとは城内に攻撃を仕掛けるだけだが……」

鬼「敵側の大将はまだ出てこないのか?」

海豚「ええ。神殿騎士さんの部隊を先頭に、城内への侵入計画が決行されています」

海豚「このまま行けば、城内で決戦が始まるかと」

鬼「上手く行けばいいがな。魔王は?」

天使「負傷者の救護に当たっています。こちら側の被害は極めて軽微ですが……」

海豚「ふむ、では残る指揮は少将殿に任せ、我々は最小限の援護に回る事にしましょう」

海豚「私は城内に仕掛けられた結界や罠を解除しに行きます。皆さんは、戦闘の局面を読み反乱軍に有利な状況を保ってください」

鬼「相解った!」

天使「はい!」

少将「神殿騎士、兵士、既にここを制圧していたのか」

神騎「少将! ああ、他の部隊を待ってたんだ。俺達だけでの突破は無茶だ」

少将(戦局を読めるようになったか。いい成長だ)

少将「合成獣殿。手筈通り、城内への侵攻を開始するが……黒騎士殿はどうされた?」

合成獣「あ奴は負傷者の救護に回っている筈だ。後から来るだろう」

神騎「背後もバッチリだな。じゃあ、行くぜ!」

従騎士「聖女様、城内に敵軍が侵入してきました!」

従騎士「このままでは危険です、早く避難を!」

聖女「その必要はありません」

聖女「既に城内の皆さんは逃がしました。あなたも国に帰りなさい」

従騎士「聖女様……何を、う、うわーっ!」

聖女「……あなた達には悪いですが、これが私の宿命」

聖女「あのお方がそこに、来ているんですから」

少将「なんだ?……もぬけの空ではないか!?」

神騎「人一人、血一滴も落ちて無いぜ?」

兵士「これはどういう事でしょう……」


海豚「妙ですね……結界どころか、罠の一つも無い」

海豚「この城内で一体何が?」

合成獣「海豚、どうだ?」

海豚「いいえ、誰もいません」

鬼「全く、訳が分からんぜ」

天使「先発部隊が玉座の間に向かいました。私達も行ってみましょう」

魔王「ここには剣士の部隊が守備に着いている、敵軍の残党の襲撃に遭うこともないだろう」

魔王「重傷者はそれほど多くない……後は君達に任せても大丈夫だな?」

看護師「はい、我々で皆治療しておきます」

薬師「黒騎士様も城内へ?」

魔王「そうだ。朗報を待っているがいい。では」

薬師「……ここの患者、大半は黒騎士様が連れてきましたよね」

薬師「戦場の中、これだけの人数を背負って来るなんて……」

看護師「ええ。お陰で救護班が全員治療に当たれて、皆の回復が早いわ」

看護師「この様子なら、帝都奪回まで死者を出さずに済みそうね」

薬師「だといいんですけど……」

少将「開かないぞ?」

神騎「向こうで閂かなんかしてるのか?」

兵士「斬っても……叩いても……傷一つ付かないわ」

少将「行き止まりか?ここに他に侵入できるルートは……無いな」

海豚「様子がおかしいですね」

鬼「あの扉……結界の類じゃないのか?」

海豚「ちょっと見てきま……」

魔王「皆下がっててくれないか」

少将「黒騎士殿?」


パリィィィン……

魔王「君が皆を逃がしたのか?」

聖女「ええ。大将軍から賜った近衛騎士は皆返却しました。良識ある、優秀な方達でしたが」

聖女「あなたと出会ってしまっては、もう彼らとは一緒に居られません」

魔王「そうか。君はどうする?」

聖女「降伏します。この城は帝国軍に譲渡しましょう」

少将「……どういう事だ?」

神騎「話が全く見えないぞ」

聖女「反乱軍の皆様ですね。私は聖女。王国より帝都を預かる、賢将の1人です」

合成獣「帝都を奪回した反乱軍は、勝利の余韻に浸っている暇は無かった」

合成獣「帝国を完全に解放したことによる、王国と和平交渉を望む穏健派」

合成獣「王国に侵攻し、覇権を取り返そうと画策する強行派」

合成獣「少将は反乱軍の指導者として、その2つの派閥を纏めようとしていた」

合成獣「だが、王国軍の反撃はすぐそこまで迫っており、彼らに選択の余地を与えはしなかった」

剣士「……聞こえるかい?」

兵士「静かに。会議はもう始まってるわ」


上級戦士「やはり得体のしれぬ彼らをこれ以上解放軍に入れておくのは反対だ!」

上級戦士「これは帝国と王国の戦いだ、部外者には帰ってもらうべきだろう!」

上級騎士「しかし、彼らが居なければ解放軍全体の士気、戦力に関わるぞ」

上級騎士「何も、今彼らを除名することは無いのではないか?」

上級魔導士「そうです、彼らの指揮無くして王国と相対するのは不可能でしょう」

上級戦士「そんな事で解放軍が纏るかッ! 我々の力で覇権を得ずしてどうする!」

少将「上級戦士。この戦いは覇権を狙うものでは無い」

少将「我らの目的は、王国の圧政からの脱却と、騎士団の腐敗を正す事の筈」

少将「彼らと我々の目的は一致している、これ以上心強い事は無いと思うが?」

上級戦士「……アンタは解放軍の指導者として誇りは無いのか!?」

上級戦士「今、軍の内部の若い奴等はアンタじゃ無くて黒騎士を支持しているのを知っているか?」

上級戦士「このままじゃ黒騎士に解放軍は乗っ取られるぞ!」


剣士「黙って聞いていれば……!」

兵士「抑えなさい、剣士。……私達は彼らを信じて、反乱軍に迎え入れたのよ」

兵士「上層部の堅物なんか気にすることは無いわ」

神騎「……あんた、最近この時間帯はいつもここにいるよな」

鬼「ん? おお、神殿騎士じゃないか。前の戦いは見事だったじゃないか」

鬼「こっち来いよ、酒でも飲もうぜ」

神騎「な、なんだよ。この辺に酒なんかあったか? 持っていかれちまったんじゃ……」

鬼「帝都の酒場にな、騎士共がタンマリ溜め込んでたんだ」

鬼「俺も久々に飲む酒だ、楽しくやろうぜ」

神騎「……ありがとよ」

鬼「よく俺がここにいる時間帯が分かったな? 仲間は誰も気づいてないのに」

神騎「……偶然だよ」

鬼「っぷは! おら、まだ残ってるぜ……」

神騎「……前から聞きたかったんだけどよ。あんたら、本当は人間じゃないよな?」

神騎「身体の周りに幻術を張って見た目を変えてるんだ」

神騎「他の人間の目は誤魔化せても俺の目は誤魔化せねえ。もし、悪魔の類なら……恩人でも、容赦は出来ない」

鬼「……やれやれ。異文化理解は容易じゃなさそうだな」

鬼「お前の言う通り(ゴウッ)俺は人間じゃあない」

鬼「俺は鬼……遠く離れた島国の妖さ。だが、間違っても悪魔なんて低俗なヤツと一緒にされちゃ困る」

神騎「……オニ」

鬼「そして、俺の正体を見破ったお前は……」

鬼「やるじゃねーか、お前は優秀だよ。景品といっちゃなんだが、こいつをとっておきな」

神騎「これは……?」

鬼「鬼の丸薬。一粒食わせりゃ酒豪も青ざめる二日酔いをもぶっ飛ばす万能薬だぜ」

鬼「ったく、術張り直すの面倒なんだぜ……あらよっと」ボムン

鬼「早けりゃ明日にも使う羽目になりそうだがな、ワッハッハッ!」

神騎「……」ポカン

鬼「ま、海豚や合成獣に聞いてたらお前は頭からガブッ、といかれてたかもなぁ」

鬼「ここで見たことは出来ればヒミツにしろよ。追及されたら弱いんだ」

神騎「……神に誓って。いいよ、別に言いふらそうとか思ってねえし」

神騎「じゃあ、あの大将は?」

鬼「魔王かい。少し長くなるけどいいか?」

鬼「俺と魔王の出会いは、7年前だったよ」


鬼『……おー、冷た。こんな時、右手に酒、左手に美人のねーちゃんでも居れば、少しはマシだろうに……イテテ』

鬼『流石に、腕も無しにこの挟みを外すことは出来んよな……はは、あいつら、一流の妖怪退治なんか雇いやがって……』

鬼『あー、人間だったらとっとと死ねただろうになー……こんなの続いたら落ち込みもするぜい』

魔王『……大丈夫か?』

鬼『……んあ? んだよ、人間か? 仕掛けに喰いついた間抜けな獲物でも見に来たのかい』

魔王『その腕は?』

鬼『おう、これかい。傷口に呪術を掛けられてね。再生したくても出来ねーから諦めかけてたとこさ』

鬼『一端の狩人如きには解けねえし、解いて良い事なんか無いぜ。出来ればそのままひと思いにやってくれや』

鬼『このまま惨めな野晒しは流石に辛い』

魔王『……じっとしていろ』

鬼『な、何のつもりだ』

魔王『確かに、高位の呪術が掛かっている。一介の僧にこんな真似は出来まい』

魔王『だが、この剣の鞘には……そういった術を打ち消す効力がある』

魔王『どうだ』

鬼『……後悔するなよ? フンッ!!』グニャ

鬼『腕を取り戻せば、このようなガラクタ!』バキッ

鬼『……感謝する、俺は鬼。東方の島国より逃げ出してきた負け犬だ』

魔王『私は魔王。魔法を使えない魔王だ。ではこれで』

鬼『待ちやがれ! ……俺には行く宛はねえ。帰る場所もねえ。となれば、俺を助けた以上は分かってるよな』

魔王『一応問おう。どうする?』

鬼『俺の性格上、恩義は受けたら返さにゃ鬼として最大の罪を背負う。こいつを返さない限り、俺は一生お前に着いてくぜ』

魔王『仮に等価交換の成り立たぬ事であってもか?』

鬼『同じ1つならな』

魔王『私の目的は1つ。悪しき輩に幽閉されし主神、太陽神を復活させることにある』

魔王『魔の国の民は、月光を力の源とし、太陽を忌み嫌う者も少なくない』

魔王『されど、陽光を力の源とする者もまた居る。なれば、その力の均衡なくして両者の共存はあり得ない』

魔王『強き者が強い理由は、弱き者があればこそ。彼らは共に生き、共に笑う楽しさを知っている』

魔王『だからこそ、太陽の復活を今か今かと望んでいるのだ』

魔王『笑い話と聞き流したければ流せ、だが私は彼らの期待に報いなければならない』

魔王『私に着いて来たければ好きにしろ。だが、数日にして成せる所業では無いぞ』

鬼『……傑作だ。昼の者と夜の者が共存する国? そんな夢物語、信じられるはずも無い』

鬼『人間同士でさえ確執は起こり得るというのに……』

鬼『だが……もし、もしもそんな理想郷が実在するというのなら……』

鬼『生涯に一度は、お目にかかりたいものだ……』

鬼『我が力、お前に貸してやる。長い付き合いになりそうだな』

魔王『互いに相当に深い縁を持ってしまったようだな』

鬼『ハッ、違いない』

鬼「それから、長い旅路で奴等と出会い、道を同じくして来たんだ」

神騎「そのストーリーは当人に聞けるときに聞かせてもらうとしよう」

神騎「……それで、太陽神が大聖堂に封じられている?」

鬼「随分察しがいいなお前。そうだよ」

鬼「あー言っちまった。魔王になんて言われるかな」

神騎「……なら、俺も話さなきゃならねえだろうな」

神騎「俺達が大聖堂の存在を隠そうとしたのにはそれなりの理由がある」


神騎「俺はそこの神殿騎士で、兵士と剣士もまたその信者だったんだ」

神騎「帝国と王国の国境線付近では、どちらの王家が信仰する大手の宗教とは違う、太陽神を唯一神として崇める教団があったのさ」

神騎「神の時代から続くことが史上に証明されている、由緒ある宗教だよ」

神騎「その聖地が大聖堂。それまでは、帝国王国に関わらず信者は聖地巡礼の旅が出来ていた」

神騎「だが、あの日! 王国は俺達を異教徒だとして、掃討を始めやがったんだ!」

神騎「国境付近は荒れに荒れた。信者と異教徒狩りの戦いは、七日七晩続いた」

神騎「やがて事態は沈静化するかと思われたが、今度はその戦いを口実に王国は帝国への攻撃を開始した!」

神騎「その凄惨たる有り様……他教の人間に始まり、帝国の民が皆異端者扱いを受け、多くの人が死んでいった……」

神騎「……なぁ、神が視えるって言ったら……笑うか?」

鬼「我々のような魑魅魍魎の類を目の前にしながらにして、俺に笑うも何もあるまい」

神騎「……安心したぜ。ああ、俺達には太陽神が視えたんだ」

神騎「大聖堂の辺りに太陽神が本当に降臨したんだ……」

神騎「勿論、目は疑ったさ。だが、天から降りてくる神々しい姿……あれを神と呼ばずして、何という?」

神騎「俺達は太陽神に会った。そして、永き休息を邪魔されぬよう、大聖堂を隠せと仰せつかった」

神騎「だから、一般人には見えないように、大聖堂を魔法で隠してやった」

神騎「7年経ったが上手いこと行ってれば、本当に誰にも見つかって無い筈だぜ」

神騎「最も、他の教団員はその日に殺されて、大聖堂への道を知る者もいないだろうがな」

神騎「兵士があんた達にそれを教えなかったのは、そういう事情があったからなんだ」

神騎「だが、あんた達は太陽神に用がある。そうだろう」

神騎「……王国を侵攻するついでに、案内するよ。俺が生きていれば、の話だが」

鬼「……なるほどな」

鬼「酒が切れた。話はここまでにしよう」

鬼「俺はお前を買ってみたいと思う。任せな、ああ見えて魔王の窮地を2度救っている」

神騎「頼りにしてるぜ、鬼のおっさん」


合成獣「何処に行っていた?」

鬼「ふ、酒の席にだ」

伝令「報告します! 王国軍が国境線を超えました!」

少将「いよいよか……全員、準備は出来ているな?」

少将「これからの戦いは、防衛行為と同時に侵略行為にもある」

少将「しかし、決して忘れるな! 我々が憎むべきは王国の民では無い……」

少将「力に驕る邪悪の王と、腐敗しきった騎士の精神こそが我々の敵なのだ!」

少将「真に正しき者がどちらか、明暗を分ける戦いになるだろう……行くぞ! 正義は我らにあるッ!」

うおおおおおおッ!!!

兵士「神殿騎士、剣士、長年の雪辱を晴らす時が来たわよ」

剣士「うん。絶対に皆で生きて帰ってこようね」

神騎「ああ、五千の兵力が何だ、こっちは一騎当千の力がある。戦いが数じゃないって事を教えてやろうぜ」

魔王「……」

聖女「陛下。魔の国に残る自由軍、20万頭の準備が整いました」

聖女「吸血蝶公爵、戦竜王、戦の神も戦いに赴こうと、出撃準備をしているようです」

魔王「わかった。何時でも出られるように待機させておいてくれ」

魔王「彼らの力も必要になる時が来るだろう」

聖女「はい。では、私は陛下と共に参ります」

魔王「……陛下は止せ。今は黒騎士だ」

聖女「仰せのままに」

皇子「王国軍は行ったのか?」

従者「はい。今なら、王城周辺の守りは手薄。攻める機会です」

皇子「うむ。残存する兵、援軍に気取られぬよう王都へ潜入しよう」

皇子「行くぞ、邪知暴虐の王をこの手で葬り去ってくれる!」

王「……帝都からの連絡が途絶えたと思えば、わずか一月足らずにして帝国領が奪還された」

王「こんな馬鹿な事があるか? 女帝よ」

女帝「貴殿が帝国を滅ぼすのに半年掛かったのに、此度の反乱が数日にして成ったこと……」

女帝「流れは確実にこちらに向かっている。貴殿の最期も近いな」

王「黙れえッ!!」(ビシィッ)

女帝「グッ……!」

王「貴様が!(ビシィ)貴様が全て!(バシッ)悪いのだぁッ!(バチッ)」

王「太陽神などという架空の邪神を祀る異教徒共を放置した貴様が全ての原因であろうがッ!」(バチィィィッ)

王「奴等が私の国をのうのうと横断しているなど、ちゃんちゃらおかしいではないかッ!?」(ビシィッ)

王「物事の限度を教育せぬ貴様が、全ての元凶なのだッ! この悪魔めッ、悪魔を野放しにする愚帝めッ!!」(ドカァッ)

女帝「が…ふ……」

王「ハーッ、ハァーッ……フン、だがもう遅い。私が手にした魔力」

王「神に匹敵する魔力、これさえあれば国内に侵入した反乱軍共を一撃のもとに葬り去ってくれる」

王「来るがいい、異端者どもめ……今度こそその血、根絶やしにしてくれるわ……!」コツーン、コツーン


女帝「……ハァ、ハァ……ゲホッ」

看守「……大丈夫ですか?」

女帝「……君は……優しいね……この老女の傍に、6年もよく居てくれる……」

看守「仕事ですから。奴隷に出来ることは、牢の異常を上に報告するだけです」

看守「それより、喋るとお体に触りますよ」

女帝「はっ……はっ……フフ、長らく鞭に耐え、蹴られる事に耐えると……痛覚も麻痺してくる」

女帝「未だに辛いのは骨の折れた部分に響く一撃だ……もう、何本折れてるかな……」

女帝「……どうせ、長くは……もたぬ……身……構いは、しない……」

少将「国境線を超える! 都市まで突っ走れ!!」

神騎「おおッ!」

『雷撃!』
『炎球!』
『風刃!』

王国騎士『ぎぃやあああぁぁ!!』

神騎「邪魔をするな! 命が惜しければすっこんでいろッ!!」

兵士「今日の神騎は……いつにも増して、血の気が盛ん過ぎる!」

剣士「もうあんなに先行して……敵のいい的だ!」

神騎「でやぁーッ!」

王国狙撃手「キヒヒ……馬鹿め、こっちにはこんな代物があるんだよ……死ね!」

タァン―――

少将「!」


少将「……」

神騎「お、おい、少将……?」

少将「……」バタッ

神騎「少将!? 少将ッ!!」

剣士「あっ、ぅく……銃弾は、あの方角からだ!」

兵士「逃がしはしないわ、トマホークッ!」シュ

王国狙撃手「ヒッ!?」

ズバシュッ!

神騎「おい、目を開けろよ。少将……?」

兵士「少将! ……いや、嫌ぁーーッ!!」

剣士「はっ、皆! 前! 都市からまた敵兵が来てる!」

神騎「おれの……せい……で……?」

神騎「ちくしょう……畜生ーーーッ!!」

魔王「……少将。類稀なる武人だった」

魔王「帝国を取り戻す日を、誰より夢見ていたはずなのに」

合成獣「人間の身とは、なんと脆く儚いものか」

合成獣「……心臓を貫かれておる。一撃だな」

合成獣「行くぞ、一人失ったとて戦場を退くことは許されん」

魔王「死者の復活は、我らの教義では禁じられている」

魔王「最も、元から私にそれだけの力は無いが」

魔王「……後に、救援部隊がここを通るだろう。彼女らに拾って貰うがいい」

神騎「はぁっ、はぁっ……」

兵士「都市は……落としたわね……」

剣士「なんとか……ね……。でも、もう動けないよ……」

神騎「くそ……ッ!」

兵士「無茶しちゃ駄目! ……他の部隊と接触するまで、動かない方がいいわ……」

剣士「でも、これで、王都攻略の……第一歩を踏みだせたね……」

剣士「行くんだ……。少将の無念、僕らが晴らすんだ!」


皇子「……君達は、反乱軍の者か?」

剣士「あなたは……」

皇子「私は先帝の一人息子、皇子だ。7年の歳月が経ったとはいえ、私の顔を知らぬではあるまい」

兵士「殿下……本当に、生きておいでに……」

兵士「少将があなたに会えれば、どのように喜ばれたことか……!」

皇子「少将……少将は居ないのか? 確か、軍の指導者になっていると聞いていたが」

神騎「少将は……先の戦いで死にました」

皇子「……それは、残念だ。彼は帝国に尽くした英雄の一人だった。」

皇子「私は王都攻撃の機会を窺って今まで身を潜めていた。だが、もうその必要も無い……」

皇子「反乱軍の者達よ。私と共に、王国を討ち滅ぼそう。この大陸の戦乱の元凶を討とう!」


神騎「……少将の言った通り、殿下が生存していたとなれば、俺達は帝国軍として正当に動くことが出来る」

神騎「さらにうちの軍は指導者が空枠になっている……その枠を埋められるとしたら、殿下しかいない」

神騎「全ては、殿下の命ずるままに」

今回はここまで
昼頃再開出来ればと思います

海豚「駐屯地を脱出した皇子が兵士の部隊と合流したことにより、反乱軍の士気が一層高まりました」

海豚「皇子という帝国の正当後継者を取り戻した現在、反乱軍は帝国軍に名を改め、さらに勝利を重ねて行きました」

海豚「帝国の人々は皇帝の復帰に歓喜し、多くの者が帝国軍を支援し、さらに戦力が強化されました」

海豚「少将の死は騒ぎの闇に消えました。彼の死など、帝国の人間には他人事だったのでしょう」

海豚「彼の部隊の人間だけが、彼の葬儀を行いました。その際、魔王や私達も出席させていただきました」

海豚「出自の分からぬ彼の墓標は、かの辺境の地に静かに、しかし荘厳に建っています」

海豚「隣、いいですか?」

剣士「どうぞ……」

海豚「……我々がついていながら、此度の件は申し訳ありませんでした」

剣士「……いえ、海豚さん達に落ち度はありません。これはもともと、僕達の戦いです」

剣士「それに、ガンに撃たれたら人は死ぬ。当然でしょう?」

海豚「……」

剣士「平和を求める人間は、より安全で、より強固なものに縋る為に力を生み出しました」

剣士「僕達だって、平和を望むんだったら力なんて要らない筈。それなのに、剣技を磨き、軍に入る僕達は……」

剣士「天使さんは僕達が正しいって前に言ってくれました。でも少将は正しい事をしているにも関わらず、あんな目に遭いました」

剣士「海豚さん、僕達は王国の騎士団と何が違うんですか? 僕達は本当に正義の為に戦っているんですか?」

海豚「正義は勝者にある」

海豚「正否を問わず、世の中はこれで全てが罷り通ります」

海豚「中には本当の例もあるでしょう。偽りの例もあるでしょう」

海豚「私が思うに、勝敗という一つの結論だけで大局を見定める人間の視野の狭さが、戦乱の要因だと思うのです」

海豚「かつて、武力無き戦争があったといいます。資本主義と共産主義のイデオロギーの対立によりそれは起こりました」

海豚「資本を投下し、利潤や余剰価値を作り回収する生産様式、片や財産を全員で共有するという思想」

海豚「果たして、どちらがどのように勝利し、どのような結果を齎したと思いますか?」


剣士「……難しくてよく分かりません」

海豚「……結論から言えば、共産主義の自滅により資本主義が勝利しました」

海豚「共産主義だった大国は分裂し、その残党は次々と暗殺されていきました」

海豚「資本主義の国々が勝利した事により、世界は資本主義に次々と旗色を変えていきました」


海豚「全ての事象は、小さな事象一つ一つで構成され、その総てがかみ合う事で成り立ちます」

海豚「その一つ一つの事象を認識できれば、事象全体を手中に収め、思うが儘に操作する事も可能です」

海豚「あなたはその事象の一つです。あなたの動き一つで、全ての事象は大きく変わるかもしれません」

海豚「もちろん、相対する者。仲間。環境、流れもまた事象。これらは複雑で、全て把握するのは困難です」

海豚「しかし、それを克服した者こそ、指導者の器といえるでしょう。物事の正否を判断出来るのは、そういう者です」

海豚「……君の2つ目の問いに、答えは無いんですよ。相手だって、自分の信念に従って戦っている。それ自体は間違いでは無いでしょう?」

海豚「『反乱』はテロリズムであり、『悪』である。だから反乱分子を駆逐する」

海豚「『国家』の圧政による国民への抑圧を『悪』と判断した。だから革命を起こす」

海豚「要は、一介の知的生命体が物事の正否、善悪を決めるのは自分を正当化したいからなんですよ」

海豚「本当に物事の良し悪しに白黒付けたければ、無関係な第三者にそれを選ばせるのがベスト」

海豚「価値観に差はあるかもしれませんが、無関係な者がそれをどう感じているかを知るのも重要な事です」

海豚「……ま、私の考えが史上で通った例は無いんですけどね」

海豚「部外者の私達から見ても、君達の信念が正しいと感じた。だから協力しようとしたんです」

海豚「最初の問いに答えましょう。怠惰と傲慢を良しとしないあなた達は、本当に立派に道を歩んでいます」

海豚「これでも自分を疑いますか?」

剣士「……海豚さん。ありがとうございます」

剣士「僕達に何処まで出来るか分かりませんが、大陸に必ず平和を取り戻したいと思っています」

海豚「今はそれでいいんですよ。君には成長の余地がある」

海豚「世界を見てください。そして、多くを学んでください」

海豚「今は青年や壮年の方々による体制や方針があるでしょう。しかし、いずれは彼らも退陣します」

海豚「その時その場を担うのは、若きあなた達です。あなた達は先代の不足を補い、より良い世界を築かねばなりません」

海豚「……頑張ってください。我々も応援し、これからも力になりますよ」

魔王「……」

兵士「……黒騎士さん? こんな夜中に、何処へ……」


魔王「聖女。こんな所に私を呼び出して、どうしたんだ?」

聖女「へいか…、いえ、魔王様」コホン

魔王「落ち着け、今は黒騎士だ」

聖女「あぅ……んん、私があなたの元を離れ、早10年。再会できる日をずっと待っていました」

聖女「私達ももう18歳になります」

魔王「そうだったか。……早いものだな」

聖女「ええ。魔の国とこちらの時間の流れは異なります。今のあなたを魔の国の民が見れば、驚くことでしょう」

魔王「それは、そうだろうな。魔法を使えぬ魔の者が何故まだ生きているのかと考えもするだろう」

聖女「そういう事ではありません。私はあなたと離れている間にある研究をしていました」

聖女「我々が持つ器についてです」

聖女「……私達人間が魔法を行使するには、魔の力を宿した媒体が必要になります。それは書でも杖でも構わない」

聖女「ですが、その媒体を用いずとも魔法を行使できる者……彼らを調べてみて分かった事があります」

聖女「器に魔の力を混じらせることで自らを媒体にすることが可能になります」

聖女「妖術を扱う者もまた然りです」

聖女「では、どのようにすれば器に異なる力を混ぜることが出来るか……」

聖女「血の交換、契約、同化、キス……様々な手段が存在し、異なる種族がそれを行った時、器は異物を受け入れます」

聖女「そうして異なる種族の力を行使出来るようになるのです」

魔王「……それは知らなかった」

聖女「しかし、器が空であった時、あなたは妖怪に教えを乞い、私と契りました」

聖女「それがあなたの器に気と妖の力が宿った理由です」

聖女「そして、器は満たされてしまった……今のあなたは、人でも妖でも、もはや魔でも無い曖昧な存在になってしまいました」

聖女「魔の国には、もう帰れないかもしれません」

魔王「……」

聖女「全ては私の不注意から起きた出来事。何なりと……」

魔王「早まるな、何を気に病む必要がある」

聖女「え……」

魔王「私は感謝しているよ。兄に疎んじられ、家臣から見放された私を救ってくれた皆に……」

魔王「そして、君とは約束を果たさなければならない」

魔王「……待機中の諸侯を呼んでくれ。この後の戦いについて話しておきたいことがある」

聖女「分かりました。……全てを終えた後、あなたに話があります」


兵士「……まおう? ようかい? どういうこと……?」

海豚「そして、王都侵攻の日……」


皇子「あれが我ら帝国の人間を長きに渡り苦しめた狂王の居る王都だ」

皇子「そして、その王に仕える愚かな騎士達……彼らとの、決戦の日は来た!」

皇子「皆の者、行くぞ! 我らに勝利と栄光あれッ!」

ウオオオーーッ!!


王国軍騎士「閣下、出撃の用意が出来ました」

大将軍「うむ。これより、我々は決戦に臨む」

大将軍「知っての通り、帝国軍は皇帝の下に集い、この国へと侵攻を果たした」

大将軍「もはや最後に残る戦力は我々のみとなった……それでも、我々は戦いをやめる訳にはいかん!」

大将軍「皆の者、剣を取れ! 我が国を手中に収めんとする非道の輩をこの地から排すのだ!」

大将軍「我らが聖騎士団の真の力を、奴らに見せつけてくれようぞ!」

ワアアアーーッ!!

今回はここまで

神騎「俺達も行くぞ! あのクソ王に少将の分までブチ込んでやる!」

剣士「神殿騎士、ガンナーがまだいるかもしれない」

剣士「気持ちはわかるけど、歩調を合わせるんだ」

神騎「くっ! 分かった……兵士、どうした!」

兵士「……」

神騎「兵士、兵士! 聞いているのか!」

兵士「え……あ、うん」

神騎「前のような狙撃兵がまだ居ると困る、警戒して行くぞ」

兵士「分かってるわ……!」

兵士(私としたことが、何を迷う必要がある)

兵士(今あんな些細な事を考えてもっ……)

魔導士「銃撃部隊だ! こっちに来るぞ!」

剣士「く、うかつに近寄れば蜂の巣にされる……遠距離で戦おう!」

剣士「剣に衝撃波のエンチャントをかければこの位置から攻撃できる!」

神騎「待ってろ、すぐ掛ける!」

ダダダダダ、チュンチュンッ!

兵士「撃って来たわね、『大盾』!」ガガガガガ

神騎「いいぞ、やれッ剣士!」

剣士「うらあああああッ!」ゴオッ

ザシュ、ドッ、シャ―――

銃撃部隊『があああッ!!』

魔導士「追撃は任せろ、行け、『星の煌き』!」ズドン

聖騎士「おおおッ!?」

大将軍「前衛の混成部隊、中々出来る!」

大将軍「銃撃部隊、装填を急げ!」

大将軍「……だが、物理兵器だけだと思うな。我が奥義、とくと見よ!」


神騎「何か来るぞ!?」

ビュウンッ……

大将軍「……奥義、『聖霊降臨』!」パァァ

ザンッ

神騎「うわーッ!!」

剣士「があっ!」

兵士「あぐ……」

大将軍「この私の背後は、誰一人として通さんぞ!」

大将軍「命が惜しく無ければかかって来いッ!!」

合成獣「前衛で暴れている者がいるな」

海豚「大将軍……王国が誇る、最高聖騎士長ですね」

海豚「大陸一の名将と謳われ、彼が抱える聖騎士団は高位の聖騎士から成っています」

海豚「彼らの様な騎士が揃っていながら、王国内の騎士が腐敗しているのは何故でしょうか……?」

合成獣「知らん……だが、あの敵将。うら若き者では太刀打ちできまい」

皇子「ええい、止まるなッ! 魔法部隊、弓兵隊は前衛の援護に向かえ!」

ピュン、シュンシュンシュッ

大将軍「小賢しい! 『風衝』!」ゴオオ

皇子「むっ! 手を休めるな! 撃って撃って撃ちまくれ!」

神騎「ぐ……畜生!」

神騎「こんなところで、まだ死ねるかッ」

神騎「氷のスクロール……行け!」

大将軍「ハッ……ぬ? これは!」ピキピキ

神騎「兵士、剣士、一回下がるぜ!」

大将軍「……小手先の魔術が通用するかっ!」

大将軍「魔法とはこう使うのだ!」

大将軍「『テンペスト』!」


海豚「最上級魔法を戦場の中心で!?」

天使「魔法バリア……間に合わない!」

魔王「相殺できるか?」

聖女「余裕ですわ……『テンペスト』」

剣聖騎士「オオッ、雷雲が集まってゆくぞ……大将軍のテンペストだ!」

槍聖騎士「待て、様子がおかしい……あんなに暗雲が立ち込める様な魔法だったか?」

槍聖騎士「一瞬の台風を呼び起こし、雷撃と風撃で敵兵を圧し潰す魔法の筈……しかし、あれはその規模じゃないぞ!」

鬼「おい、聖女さんよ! ……抑えてくれよ!?」

聖女「圧倒的な魔力をもって撃ち迎えるのが礼儀でしょうか」

聖女「味方陣営に被害は出しませんから、ご安心を……」


大将軍「……? 様子がおかしいぞ。あれは私の魔法では無い……?」

大将軍「! 皆の者、下がれっ!!」

ドォッ

『ああああああぁぁぁ!!!』

神騎「……何がどうなったんだ?」

兵士「地面に……亀裂が」

大将軍「……ぐっ」

聖女「大将軍、またお目に掛かれましたね」

大将軍「聖女……何故、裏切った!?」

聖女「申し訳ありません。全ては計画通りなのです」

聖女「私は大聖堂を探し出す為に、王国や軍、そして大将軍、あなたをも利用させてもらいました」

聖女「賢将として過ごした5年は、苦痛の日々でしたよ」

聖女「あなたから譲り受けた兵は、皆無事に返しました。それで軍を退いたことにしてくれませんか?」

大将軍「……彼らは、職務を全うしなかったとして王に幽閉された」

大将軍「城の地下牢に、今も閉じ込められている」

聖女「なんですって?」

聖女「あなたは王の横暴を知りながら、異も唱えずに何をしていたというのです?」

大将軍「王の命だ、仕方あるまい」

聖女「王の命であれば、それが例え不条理な事であっても許すというのですか!」

聖女「そんなものは忠義ではありません! 君主の傍にありながら、その否を諌めずして何が騎士ですか!」

大将軍「その意思は私とて同じ。しかし、これを見られよ」

聖女「その紋章は……なぜ、隠して」

大将軍「7年前の戦争も、本当は私が止めるべきだったのだ。しかし、あの王は騎士達に強制の魔法をかけたのだ」

大将軍「強い精神を持った者は、意識をなんとか取り留めた。だが、そうでないものは次々と堕落していった」

大将軍「かくいう私は、王に対し…剣を向けられなければ、進言もままならぬ……この私に、どうせよと、いうのだ?」

大将軍「……聖女。君の事は……信頼していた……他の…誰よりも……」

大将軍「……あの王に憑りついた悪魔を…倒してくれ。全ての元凶たる、邪悪の者を……私に……代わ……り……」

合成獣「いかん、爆発するぞ!」

パァン!

聖女「だ、大将軍……」

合成獣「禁呪の一つだ……秘密が暴かれた際、証拠を残さないように爆破させる地獄魔法」

海豚「禁呪ですって!? この現在、禁呪を扱える者など……」

鬼「7年前。攫われた太陽神。王に憑りついた悪魔。」

天使「これらは全て、繋がっていると?」

合成獣「それしかありえんだろう。その悪魔とやらの狙いは分からんが、ようやく見えて来たぞ」

魔王「ああ。黒幕は目の前に迫った。恐らく大聖堂で相見えることになるだろう」

魔王「……聖女。大将軍の死に際の祈りだ、聞いてやれ」

聖女「……」


皇子「行くぞ、王城へ! 全軍、進撃せよ!」


神騎「アツツ……もう少し優しくやってくれよ!」

看護師「比較的軽傷なんだから、少しは我慢しなさい」

薬師「剣士さん、大丈夫ですか?」

剣士「僕より、兵士を視てあげて。大将軍の一撃をもろに喰らったんだ……」

兵士「……」

薬師「ええ、安静にさせておく必要はあります」

薬師「度重なる戦いの疲れがここにきて枷になってしまったようですね」

神騎「……そうだ、この薬使えねえかな」

看護師「それは?」

神騎「鬼から貰ったんだ。万能薬って言ってたんだけど、どうだ?」

薬師「まずは成分を調べる必要がありそうですね。数粒分けて貰いますよ」

剣士「しかし、話を聞く限りだと王ってのは予想以上に強力な魔法を使えるみたいだね」

神騎「あの女……聖女って言ったか。こっちの魔法も負けちゃいないはずだぜ」

神騎「どっちみち、俺達に出来るのは待つことくらいだな……治る頃にゃ、決着な筈だ」

剣士「これ以上戦わないで済めばありがたいんだけどな」

剣士「……そうはいかないよね」

神騎「少将の分まで剣ぶっ込んでくるって言いながらこのザマだ」

神騎「情けねえよなァ……」



皇子「言えッ、王は何処に居るッ!!」

王国軍騎士「お、王様は……ァー」

皇子「おのれ……どういうことだ!」


魔王「城内に王は居ないのか?」

海豚「残る兵は皆何かに怯えるようにして、話も出来ないようです」

天使「……地下牢ですわね」

鬼「誰か残っていないか……手分けして探してみるか?」

天使「はい、そうしましょう」


天使「どなたか、いらっしゃいません?」

看守「ヒッ……ヒィッ」

天使「ああ、あなたも……?」

天使「! 女性が惨殺されています……何があったのですか!?」

看守「何も見ていない。何も知らない」

看守「知らないんだ。王様が女帝様を何度も何度も何度も何度も何度も斬って斬って斬って斬って斬って悲鳴が悲鳴が悲鳴が悲鳴が悲鳴が殺した殺した殺した殺した殺した事なんか知らないんだああああああああああああああああ!!!!」

看守「オウ…ハ……カミノ……カラ…ダ…ヲ……ウバ…ウ……」

天使「しっかりなさい! ……く、この冥い圧力に触れてしまったのですね」

天使「しかし、神の身体とは……まさか!?」


ドドドドドドドドドドド

神騎「兵士、無茶すんな!」ゼェハァ

兵士「行かなくちゃ……大聖堂が、危ない……!」

剣士「神殿騎士、何を食べさせたんだよ!?」

神騎「万能薬って言ってたぞ、鬼が二日酔いにも効くって……」

剣士「二日酔い!? 君それで治ると思ってたのかい!?」

神騎「というか薬師の奴、何をどう調合したらあんな麻薬まがいが出来るんだ」

剣士「知らないよそれより兵士を追いかけなきゃ!」

皇子「……それでは、母上は……」

天使「……亡骸は、地下牢に鎖されたままです。魔法鍵により、牢の扉は固く閉ざされたまま……」

鬼「例の捕囚達も見つけたぜ……最も、全員強力な冥い圧力に触れて、正気を失ってたがな……」

皇子「何という事だ……」

皇子「あの王は、何処まで非道なのだ……もはや、かける情けも見当たらぬ!」

皇子「行くぞ! このままで済ます訳にはいかないッ!!」


天使「……魔王、王は大聖堂に向かったようです」

魔王「やはりか。急がなければなるまい。聖女、道案内を」

『待ってッ!』

兵士「大聖堂へ急ぐなら、私達が近道を知っています!」

今回はここまで

天使「皇子は実力のある者達を編成し、決戦に臨む算段でした」

天使「守りの薄くなった王国、帝国に残存する兵力を割き、精鋭のみで大聖堂を制圧する」

天使「大聖堂への道を知る者が居ない現在、兵士・剣士・神殿騎士の案内が頼りです」

天使「しかし、悠長に編成を待っている場合ではありません」

天使「我々は聖女様でさえ知らない大聖堂への隠れ路を兵士と共に先行し、皇子の隊列には剣士・神殿騎士を案内人とさせました」

天使「長距離を走って来た2人は疲弊し、動ける状態では無かったためです」

天使「元教団員のみが知るルート、それは無明で、果てしなく続くように思われた地下道でした」


海豚「先程までの熱気が、まるで嘘の様ですね……」

兵士「火山帯を抜け、凍土の下に来たようですね」

兵士「まともな路を通れば、地図を持ったところで到底辿り着けません」

兵士「それどころか、灼熱獣や白氷竜などに出くわして余計な戦いを招く可能性もあります」

兵士「それよりかは、先人が遺したこの路こそが大聖堂への本来の道なのです」

合成獣「これだけ長距離の通路を掘る技術が、過去にあったというのか?」

兵士「……かつて、この大陸には3つ目の国がありました……」

兵士「王を捨て、人民の人民による人民の為の政治によってその国は動いていました」

兵士「国には優秀な技師や学者が沢山居たそうです。現在の勉学も、彼らにより生み出された者と言っても過言ではありません」

兵士「帝国と王国は競ってその叡智を吸収しようとしました」

兵士「その結果、科学力は爆発的に推進……栄華を極めた頃には、電気によって動く都市もあったとされています」

海豚「噂に名高い、伝説の科学都市の事ですね」

兵士「はい。この通路が出来たのは、そのすぐ後でしょう……その当時の技術を用いた鋼鉄の車両がここに廃棄されていたのです」

兵士「そして、この一帯はガンを製造する為に必要な鉱石が採掘できる場所」

兵士「……国は王国に技術提供の対価として、その鉱石の輸入の許可を要請しました」

兵士「しかし、王国はそれに応えず、さらに国をガンの力で撃ち滅ぼしたとされています」

兵士「……優秀な技師や学者を失ったこの大陸の減衰は当然の事でした」

兵士「知識を吸収したといっても、所詮は真似事」

兵士「王国はその知識を応用出来ず、科学都市の管理もままならないまま……」

兵士「反して帝国側は、技術の進歩によってその人口の多くを大陸の外に出していました」

兵士「帝国に残った人間達と、王国の暴挙による戦いの時代が今まで続いてきた、という訳です」

兵士「我々の先祖は、『鉄の重騎士』という魔導機を用いて王国に立ち向かったといいます」

兵士「その魔導機も今ではロストテクノロジー。二度と現世に蘇る事はないでしょう」

鬼「両国は相容れぬ者同士の歴史を繰り返してきたという事か……」

天使「外部へ旅立った方々は帰ってこなかったのですか?」

兵士「それは分かりません。史上には帰ってきたと明記されていませんから……」

天使「…そうですか」


兵士「……私も聞いておきたいことがあります」

兵士「あなた方が、大聖堂を目指す目的は……何ですか」

兵士「もう、隠す必要は無いのではありませんか? 黒騎士さん……いえ、魔王さん」

海豚(!)

魔王「……」

兵士「あの夜、私は信じられないものを目の当たりにしました」

兵士「あなたの……あなたの正体は何なんですか」

鬼(神殿騎士のヤツ……本当に喋らなかったのか)

魔王「……それは、君には関係の無い事だ」

兵士「魔王さんッ!」

鬼「魔王、すまないが、神殿騎士と剣士はお前の事をもう知ってるんだ」

鬼「兵士にも、教えてやってくれ」

魔王「……そうか。そうだな」

聖女「魔王様……」

魔王「私達は確かに外部の者だ。そして、この中には聖女を除き人間は居ない」

魔王「皆、出自も種族も異なるが……追われた者達だ」

魔王「それでも、祖国の為に……の為に、太陽神を救い出さねばならん」

魔王「その為に7年の歳月を経てここまで来たのだ」

兵士「太陽神を……救い出す」

魔王「7年前、太陽神は突如として天界から姿を消した」

魔王「その結果、天界に近い領域から順に朝日が失われ、闇が支配する地と化して行った」

魔王「邪悪の力を持つ者……それが邪神なのか、神に匹敵する魔力を持つ悪魔か、それは分からない」

魔王「大聖堂に太陽神が封じられたと知ったのは、合成獣による助言からだった」

魔王「神と交信せし聖獣と、邪神と交信せし妖獣から生まれた彼だけが、最後に太陽神の行方を知る者だった」

魔王「……突如として出現した陽の気配と、禍の気配を感じ取った彼が導き出した答え、それが大聖堂なのだ」

合成獣「私が魔王達と出会ったのは、それから数年後になるがな……」

鬼「だが、神殿騎士の言を信じるなら…いや、俺は信じているが、大聖堂に太陽神が居るのは確実だ」

鬼「しかし大聖堂の場所の隠蔽も既に見破られていると思って間違いない」

海豚「しかし、問題は山積みです。まず、黒幕が単独で動いているとは限らない」

海豚「複数の塊による行動も考えられます……まぁ、それは既に想定済みですがね」

海豚「そして、我々は大聖堂周辺の地理に知識が無い。これ以上作戦が立てにくい事はありません」

海豚「地形の一つ取っても、属性の一致・不一致、行動力の低下、障害物……様々な要素があります」

海豚「……冷静に、柔軟に対応しなければなりません」

兵士「……私に、出来るんでしょうか」

海豚「私達には、出来ます」

兵士「…!」

兵士「……温度が回復してきました。もうすぐ、出口です」

鬼「地表を通った場合と比べ、どれだけ早く出られる?」

兵士「……三日以上は、早く!」

鬼「チッ……不味いな」

海豚「ギリギリ……いえ、どんなに見積もっても遅いですね」

海豚「下手を討てば待ち伏せする余裕さえ与えてしまっているかもしれません」

聖女「……太陽神の棺を覆う結界には、私が多少手を加えておきました」

聖女「その細工が働けば……」

王「ぐ……生身では…もうこの魔力には耐えられん……」

王「一刻も早く、太陽神を取り込まねば……」(バチッ)

王「グワ! こ、これは結界! ……ええい、『破封』!」

王「……なぜだ! なぜ結界を解除出来ぬ!?」

?「……王よ。それは結界等と生易しい物では無い……」

?「聖者の一族が用いる神呪、『聖域』が張られているのだ……」

王「聖域!? これがか…くそっ、これを解く方法を教えろッ」

?「焦燥は余計な失敗を招く。落ち着いて我が言うとおりにするのだ」

?(……この無能め、ここまで有利な状況にしてやったというのにここまで追い詰められるとは……)

?(まぁ、いい。陛下の手勢が送られて来れば奴等如き相手では無い)

?(魔王軍の力、思い知れ……!)

王「ぐ……生身では…もうこの魔力には耐えられん……」

王「一刻も早く、太陽神を取り込まねば……」(バチッ)

王「グワ! こ、これは結界! ……ええい、『破封』!」

王「……なぜだ! なぜ結界を解除出来ぬ!?」

?「……王よ。それは結界等と生易しい物では無い……」

?「聖者の一族が用いる神呪、『聖域』が張られているのだ……」

王「聖域!? これがか…くそっ、これを解く方法を教えろッ」

?「焦燥は余計な失敗を招く。落ち着いて我が言うとおりにするのだ」

?(……この無能め、ここまで有利な状況にしてやったというのにここまで追い詰められるとは……)

?(まぁ、いい。陛下の手勢が送られて来れば奴等如き相手では無い)

?(魔王軍の力、思い知れ……!)

兵士「出口です!」

合成獣「…待て!」

兵士「え……」

シュゴ……バンッ!!

兵士「うあっ!」


四聖獣「……勘の良い奴め」

合成獣「四聖獣……貴様、再三我らの邪魔をするか?」

四聖獣「合成獣よ。貴様こそ儂等の邪魔をしないで欲しいものだ」


兵士「な、何事……?」

鬼「合成獣は元々、神の国の生まれだった」

鬼「だが、妖獣の血が混じっているという理由だけで奴は迫害されたんだ」

鬼「その時の主犯格が、あの四聖獣だ……」


四聖獣「神聖なる神々の血に、汚濁した妖獣の血の混じった害獣如きがまだ生きておったか」

合成獣「この期に及んで我が母を侮辱するか? 母は関係無かろう!」

合成獣「行け、こ奴は我への刺客だ!」

魔王「……分かった」

四聖獣「待て……(ドカッ)、ヌゥ!」

合成獣「貴様の相手はこの我だ……あの時、止めを刺さなかった我の失敗だな」

四聖獣「黙れ! 貴様は我が聖獣一族の面汚し」

四聖獣「その汚名を晴らさなければ儂は神の国の者共に示しが付かんのだ!」

四聖獣「仲間が居なければ戦えぬ貴様が、一人で儂に敵うと思ったか?」

四聖獣「今こそ貴様を肉塊にしてくれるッ!!」

合成獣「我が一人では戦えない? はは……」

合成獣「馬鹿を言うな」

合成獣「寄って集って今まで大軍を率いて我を追っていたのは何処の誰だ?」

合成獣「その挙句、我一人討てなかった貴様が減らず口を叩くなッ!!」

四聖獣「この儂を愚弄するか……?」

四聖獣「穢れた血の者が、この儂を愚弄したのかッ!?」ギャオオッ

合成獣「来るかッ!! 貴様の顔を見るのもこれで最後にしてくれるわッ!!」グワォッ

今回はここまで

カーン……カーン……

王「……なぜだ、なぜ解けぬッ!」

王「おい、お前の言う通りにしても解けぬとはどういう事だ!」

?「ふ…む……聖域が持つ魔力にお前の魔力が至っていないということか……」

王「ふざけるな……それでは話が…違う…」

?「……いや、なればお前に最後の魔力を与えよう……」

?「だが、時間が無い。機会は一度きりだ、間違いなく出来るな?」

王「うおおおおおおッ!! あ、ああッ!!」

王「ウガアアアアアアアアアアアアアアァァッァァァァッァーーーーーーーー!!!」


兵士「大聖堂はこの坂の上ですっ!」

天使「お待ちください、上空から飛来する者が数体!」

バッサ、バッサ
ューンッ!

「……遅い……遅いぞ」

最高悪魔「随分待たせてくれたな……出来損ないの魔人」

魔王「…魔王軍幹部最高悪魔と、その配下の者達」

聖女「……魔王兄方の差し金ですね」

聖女「ここで待機していたという事は、此度の件は……」

最高悪魔「聖者の一族! ほう、陛下の敵を一度に二人も殺れるとは好都合だ……」

最高悪魔「理解が早くて助かるぞ、死…ね……」ズバン

戦の神「遅いという意見には同意だな」

最高悪魔「……」ドサッ

戦竜王「だから言ったのだ。魔王には覚悟が欠如している、と」

吸血蝶「敵はざっと3万ぽっち……我々だけでも十分だが、来てしまったものは仕方なかろう」

兵士「あ、あなた達は一体……」

吸血蝶「話は後だ。大聖堂にも既に軍が向かっている」

吸血蝶「お前達も急いだらどうだ? 出番がなくなるかもしれんぞ?」

聖女「細工は無事動作したようですね、ではここはお任せします」

魔王「……頼む」


吸血蝶(……ぬかるなよ。私達は後手を取っている)

吸血蝶(太陽神は既に……)

四聖獣「……外では…ハァ…別の戦いがある…ようだな……ハァ」

合成獣「例の20万の軍勢を相手に、お前達の隠し玉が通用するかな」

四聖獣「グ……だが、最後の望みの…聖域も…剥がれてしまったの…だろう……」

四聖獣「もう、遅い……神は、復活する……!」

合成獣「貴様がその復活を見る事はもう無いがな」グシャッ

合成獣「さて……我も行かね(フラッ)ば……ぐおぅ」ドシッ

合成獣(……羽と、前足をやられたか。最早術を使う余裕も無い)

合成獣(魔王よ、許せ。我はこの石窟の中よりお前の戦いを見せてもらう事にするぞ……)


王?「……ふしゅるるるるるる」

?「クックッ、良い姿になったじゃないか? 王よ、今の気分はどうだ?」

王?「……最高だ。今までの苦痛が嘘の様だな」

?「それは良い事だ、これからはその力を以って魔王陛下に仕えるがよい」

王?「……」


『一階の魔王軍は殲滅したぞ!』

『くそ! 負傷者の治療をしてくれ!』

『魔力の尽きた者は下がれ! 余力ある者は俺達と来い!』


?「……すぐそこまで敵が来ているな。丁度いい、手始めに奴等を始末してみせろ」

王?「……誰に命令している?」

?「なんだと?」

王?「私は太陽神の力を得た。私は神になったんだぞ?」

王?「貴様の様な三下如きに何故命令されなければならん」ビュガ

?「何……!」ギュル

?「グオオッ!」


王?「この私に魔力を享受してくれた事は感謝しよう……」

王?「だが、この私を利用しようとしたのだろう?」

―――7年前、お前は何処からともなく太陽神を連れ攫ってきた……
太陽神と同化した今なら分かるが、魔王に太陽神の力を献上する為に天上で戦争をしていたな。
太陽神と七日七晩に渡る死闘を繰り広げた貴様は、大きな犠牲を払ってようやく太陽神を打倒した。
魔の国に戻るだけの余力も無かった貴様は、この大聖堂に一時的に太陽神を幽閉し、自身の回復を待っていた。

それがこの大陸の奴等に見つかると不味い……いや、見つかっていたな。あの三人のガキに。
上手い戯言を言って、大聖堂をこれ以上の誰かに見つからぬよう隠したつもりだったようだな。
そして、同じ太陽神信仰の人間を掃討する為に貴様は私を利用した。
大陸の覇権を餌に、そのついでに異教徒狩りをさせた訳だ……だが、力無き貴様から預かった魔力など実際は何の足しにもならなかった。
その所為で、我々は大損害を出した!多くの財と兵を失ったぞ……
帝国の者共から税を巻き上げた所で、到底回収し切れる物では無かった。
回復しつつある貴様から魔力を受け続け、民を支配し、金銭を操れるようになってようやく元手を回収出来た、といったところか……

だが、憎むべきはあの大将軍! 有能ではあったが、何かにつけては事細かく私に指図をして来たな。
奴にかけた2つの禁呪が効果を得たのは、それから数年後……
7年前の時点では、紋章を刻むまでが限界だった。あの大将軍を脅すのは相当苦労したぞ。
奴の強靭な精神と、それを継いだ聖騎士の者達……最後まで、私の思い通りにはならなかったではないか!
やっと死んでくれたのかと思ったが、全てはもう遅い。今更晴れる気分も無いわ。

なんとか体勢を立て直そうとしていた矢先の事であったな、太陽神が聖域に封じられたのは。
聖者の一族が何故ここまで来ていたのかは分からん。だが、お陰で貴様は今日の今日まで魔の国に帰る手段を失っていた訳だ……
太陽神を魔の国まで運ぶのはさぞ面倒だろう。そこで一時的に人間に憑依させて、魔の国へと送還する算段だった筈だ。
その標的を私に選んだまではいいが……少し、油断したな。

王?「……ようやく時が来た……この私が真の意味で覇権を手にする時がな!」

王?「貴様ら低俗な悪魔如きに、この力を渡してなるものか」

王?「今日より、この私こそが究極完全の王者として世界を支配してくれるッ!」

?「な……なんだと……!」

王?「私に魔力を授けた褒美として、私の手下にしてやろうと思ったが……」

王?「雑魚に、私に仕える資格は無い……消えろ!」



魔王「話が長すぎたのではないか?」

王?「……お、お前は」

魔王「兄上に頼んで過激派の連中を呼び出す事には成功したらしいが……」

魔王「あのような狭い国の男衆を集めたところで、全ての戦う者達の数分の一にも満たぬ」

魔王「戦術を知らぬような男ではあるまい……堕天使よ」

堕天使「…! 魔王弟…様……!」

魔王「それは、一国一城の主たる王、貴様も同様だ」

王?「!!」

魔王「力量を見極めらぬ者が、揃いも揃って無能ぶりを発揮するのもいい加減にしたらどうだ」

聖女「……堕天使を任せますよ、天使」

天使「お任せを。2人も、どうかご無事で」


王?「……聖者の一族」

王?「何故、貴様が魔王などと一緒に居る……?」

聖女(魔王様、私に鞘を。私が奴を葬ってみせます)

魔王(祈りに応える為か。自分でやってみるか?)カコン

聖女(……はい)

聖女「太陽神の御身、返してもらいます」

王?「私の質問に答えろッ!」

魔王「答える必要は無い」

王?「貴様には聞いてないッ!!」グバァ

海豚「始まったようですね」

鬼「ああ……」

海豚「あなたも参加しなくていいんですか?」

鬼「する必要は無いだろ。アレは俺の敵じゃねえ」

海豚「……では、そのように」

鬼「とりあえず、奴をここまで送り届けた。これで俺は晴れて自由の身だ」

鬼「これ以上、奴と一緒に居る事も無い……」

海豚「私は太陽神様がお戻りになられるまでが期限ですからね」

海豚「お帰りですか?」

鬼「いや、少し歩き疲れた。ここでもう少し見張り役して休憩するぜ」

海豚「しかし長い旅路でしたねぇ。多くのものを見てきましたが」

海豚「やはり力ある者は悪なんですねぇ」

海豚「かのお方が申された通り、力ある者は『敵対』か『崇拝』の対象である」

海豚「来世では、崇拝する者の立場になりたいですねぇ」

鬼「俺は断然、敵対だな。力ある者は全員ぶちのめしてやりてえ」

海豚「なら、私と頭脳勝負してみますか?」

鬼「よせやい、世界で二番目に頭のいいお前達と知恵比べして勝てる訳ねえ」

海豚「私があなたと腕相撲して勝てる訳が無いのと同じです……あ、もしかしたら勝てるかも」

鬼「な、なんでぇ?」

海豚「物理っていうのは……」

兵士「あの……」

今回はここまで

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