男「レジ袋っ子……?」(92)


?「……」ふーわふーわ

男「え、え……? 小さい、女の子が、レジ袋から……?」

?「……お客様、来た」とすっ

男「え、や、あっ、いらっしゃいませっ……!」


男(ペットボトルが2本……一番ちっちゃい袋でいいや。さっきの袋……)がさがさ

客「あ、そうだ赤マルソフト1コちょうだい」

男「。。。」

男「!!?」

男(赤……マル……ソフト……!!? 当店ではソフトクリームは取り扱ってませんことよ……っ! それとも採点して欲しいのか……!?)

男(ぱにっくぱにっく)



?「・・・」

?「……タバコのマールボロ。ソフトって言うのはやわらかい入れものの事」

男「……っ!? 君っ……」

?「早く。56番」

男「すっ、すいませんすぐお持ちします……!」


……

男「ありがとうございましたー」

男「……」

男「ふう」

?「……」ちょん

男「君は……っていうかいい加減肩から降りてって……! 他の人に見られちゃうよ……!」



?「……わたしは、レジ袋っ子。そう呼ばれてる」

男「レジ袋……っこ?」

?「そうよ」

男「はっ!」キョロキョロ

?「落ち着いて。わたしの姿はまわりから見えないし、あなたが頭で考えるだけでわたしには伝わる」

男(こう?)

?「そう」


?「純粋な心を持つし……お客様来た」

男「え……じゅん……?」

?「……」べしっ!

男「お、お預かりします……!」(地味に痛い……)ピッ

男「こちらお会計」

?「……ごめんね」
男「100ごめんねで御座います」

男&?&客「!?」

男「すっ、すいません105円です、すいません」

客「あ、ああはいはい」チャリン

男「あ、ありがっと、ございましたっ」


男「うう……」ばくばく

その後コンビニバイトの業務をこなしながら、レジ袋っ子についての説明を聞いていた。

レジ袋っ子というのはレジ袋に宿る日本の精霊みたいなもので、仕事に対して純粋に向きあう心を持つ者の前に現れるらしい。
特に不慣れな新人を気に入って現れる事が多いのだとか。

レジ袋っ子が気に入った人以外には決して見えず、また声も聞こえない。

ちょうど人の十分の一くらいの大きさをした肩乗りの可愛らしい女の子、それがレジ袋っ子なるものらしい。

?「……お箸忘れてる」べしっ

そらっとぼけてると頭はたかれるけど。


男(しかしまあ)

?「……」

男(俺を気に入る所なんかあるのか? 特別マジメにやってるわけじゃないのに)

男(覚えが良いわけでもないし、口も回らないし……)

?「・・・」

?「……それをわたしに聞くのは不粋よ」

男(う、まあ)

?「……でも、その」

?「日は浅いけど、あなたの仕事……ちゃんと見てたわ」

男(し、心配かけました……)


?「……コーヒー切れそう。分からないなら教えるから、淹れておいて」

男(あ、うん。これは一応覚えてる)かちゃかちゃ

男(……なあ、レジ袋っ子って、やっぱり一人一人人格があるのか?)チョキチョキ

?「そうね。外見についてはおおよそレジ袋の大きさに依存するけど」

男(そっか、なら俺は君をなんて呼んだら良いんだ?)サッー

?「……なんでも良いわ」

男(うーん……それもなあ。せっかくちっちゃくて可愛いんだし、何かしか可愛い名前を……そういうののセンスないけど)ジャバジャバ

?「っ……。か、わいいかは個人の感じ方だけど、小さいのは事実ね。一番小さい8号のレジ袋だから、安直にハチで良いんじゃない」

男(タコみたいじゃん。そうだ、『ちは』なら、どうかな……?)ピッピッ


?「。。。」

?「ちは……。それが、わたしの名前?」

男「あ、それはダメだったかな……」

?「いえ……いいえ。初めて、そう……呼ばれたから。わたしが見える人は、だいたい8号やハチって呼んだから」

?「ありがとう……そう呼んで」

男「俺も男って呼んでいいからさ。よろしく、ちは」

ちは「こ、声に出さないで。何もないところで喋ってるというか、他のレジ袋っ子にも聞かれるわ……」

男(だって、仕事教えてくれる先輩に黙ったまま挨拶なんて、そんな無精な事はないじゃないか)

ちは「……ありがとう、男。よろしく」


それが、レジ袋っ子との出会いだった。

分からない人からすりゃあ、そりゃ一笑に付すような話だけど。
俺にとって存在しているということが大事なんだと思うよ。精神病かもったら笑えないけど……。

とにかく、その日は同じ働いてる人……それと、ちはにお疲れ様して家に帰った。

気持ち良く疲れたみたいで、その夜は良く眠れた。


木曜 12:30

男「すいません、お待たせいたしましたっお預かりいたします!」(うーわ、混んできた……!)

男「ふく……」
ちは「……コーヒー一缶だけなら、わたしはいらないから、袋聞かなくていい」

男「っ、こちらテープで失礼致します。……こちらお先にお品物失礼しますねー」

ちは「……ね。お金出されるより先に間に合ったでしょう」
男(うん)

客「っと、これで」チャリン

男「こちら500円お預り致しまーす。……」

……

男「う、うう。すごかった……」

ちは「……『こちら』は要らないわ。その、何と言ったらいいのか分からないけど……お会計を待ち構えてる感はあまり出さないように。下品だから」

男(はい)


店長「男くん、前はずいぶんどもってたけど、幾分は慣れたかい?」

ちは「……」ちらっ
男「……」ちらっ

男「はい……少しは」

店長「そっか」

……

男(店長、ちょっと苦手だわ)

ちは「……歳が離れているから?」

男(おじさんだからってわけじゃないよ。なんか、苦手)

ちは「わたしばかりじゃなくて、他の人にも色々教えてもらったら良いわ。いずれ、苦手な人でも気にならなくなる」

男(そういうもんかな……)


17:01

ちは「……男。見逃してるわ」

男(あれ、嘘)

ちは「上段の弁当よ……自分で探しなさい」

男(ありがとう……あ、これか。しまった)

男(廃棄取るのって苦手だなー……)

ちは「じきに慣れるわ。ひと月もいれば、そう廃棄漏れなんて皆出さなくなる」

男(うん。ちゃんと手伝ってもらわないでもできるように……)

ちは「……お客様よ」

男「すいません、お待たせ致しました!」だっしゅ

客「えーと、これと、あとタバコが……」


こうして、ちはと出会ってから3日間くらい勤務した日の事だった。

男「お会計3022円でございます。少々お待ちください」(多い多い多いって……)

ちは「」


18:12

こうして、ちはと出会ってから3日間くらい勤務した日の事だった。

男「お会計4022円でございます。少々お待ちください」(多い多いメッチャ多いって……)

ちは「45号を一袋、弁当袋を二袋、12号を一袋。まず缶。次ペット。サラダ。……」

男(うわあああ、後ろすごい待ってるううう!)

ちは「……男、落ち着いて。お箸何膳か聞いた?」

男「お箸は何膳お付けいたしますか?」

客「4膳お願いします」

男「かしこまりました、お弁当と一緒に入れておきますねー」(平常心平常心)ざかざか

ちは「……もうそろそろ弁当あったまる」

ピーッ、ピーッ

男「すいません、失礼致します」おじぎ


男(熱っ! とりあえず入れて……)

ちは「……先、パスタが下」

男「っ」がさがさ

客「ごめんねえ、たくさん買っちゃって……入る?」

男「いえいえ、大丈夫ですよー。入ります入ります」

ちは「……」

男(後ろもうだいぶ待たしてるな……)「申し訳ございません、お待たせしております!」

客2「……」
ちは「……!」

男「大変お待たせ致しました、お会計失礼します! 5022円お預り致しまして……」

……


男「うへえええ……」ぐったり

ちは「……」

男(ちはさん……どうしたらもっと上手くさばけるようになるか教えてください……)

ちは「……男。良くやってるわ」

男「え? でも」

ちは「レジ打つのとかモノ入れるのが遅いのは慣れてないからよ……仕方ないわ。男は、経験が少ないなりに自分で努力してる」

ちは「後ろのお客様がイラついてたの気付いただけじゃなくて、良く声を掛けられたわ。
レジからみるとお客様って一人一人ベルトコンベアーで流れてくるみたいだけど、お客様からすればずっとレジを見ているわけだもの」

ちは「……ぐっじょぶ」なでなで

男「は、はは……」

ちは「……1人で笑わない方が良いわよ。気持ち悪いから。」

男「」


男(じゃあいい加減残業も過ぎるし、レジ袋だけ補充して帰りますかな……)

ちは「そうして。……お疲れ様」

男「いや、これ、レジ袋……なんか膨らんでるような……まさか」

ガサゴソ

?「あっははー、見つかっちゃった!」

ちは「……やっぱり。12号のレジ袋っ子ね」

?「やっほ!」

男(あれ、姿が見える、って事は……?)

?「えへへ、今日はお疲れみたいだったから、また今度挨拶しよっかなって思ってたんだけどね。開けられちゃった」

男(あ、ども……なんか、初めまして)

?「初めまして! ねえねえ兄ちゃん聞いてよー、この子ったら、ちはって名前付けてもらったって散々私にのろk」
ちは「……!? やめ、忘れなさいっ!」

?「ちはちゃんったら、やたら褒めたりとか横顔が良いとか」ぴゅー
ちは「やめ、やめてやめてやめてってぇ……!!」だっしゅ


……

ちは「……忘れなさい。いいですか、忘れなさい」ぷんすか
?「すびばぜん」

?「……でも、ちはちゃんが男兄ちゃんの事を気に入ってるのは、本当なんだよ。
いつもこの子、姿見せられる人ができても、何日かしてすぐまた隠れちゃうのに」

ちは「……」ぷいっ

?「私も見てて良い働きっぷりだなーって。ね、ちはちゃんもそう思うよね?」

ちは「……っ」べしっ

男「ははは……」

?「とにかく、これからよろしくねっ、兄ちゃん!」

男「うん、よろしくね。なんて呼んだら良いのかな?」

?「なんか! 適当じゃない奴! 」


……

ちは「……忘れなさい。いいですか、忘れなさい」ぷんすか
?「すびばぜん」

?「……でも、ちはちゃんが男兄ちゃんの事を気に入ってるのは、本当なんだよ。
いつもこの子、姿見せられる人ができても、何日かしてすぐまた隠れちゃうのに」

ちは「……」ぷいっ

?「私も見てて良い働きっぷりだなーって。ね、ちはちゃんもそう思うよね?」

ちは「……っ」べしっ

男「ははは……」

?「とにかく、これからよろしくねっ、兄ちゃん!」

男「うん、よろしくね。なんて呼んだら良いのかな?」

?「なんか! ちはみたいな、こう、適当じゃない奴!」

男(すぐに浮かばないな……『じゅに』でどうだろう……?)

じゅに「うん、ありがとー! じゃ、また明日ねー!」ぴゅー


こうして、俺はこれから2人のレジ袋っ子と一緒に働くことになった。

タルパ?とかだっけ、そういう症状が進行してるんじゃなければ、願ったり叶ったりだ。

どうも、ちはの言ってた事は正しかったらしい。今にして思えば、ちはの体格は人間でいうところの小学生くらいしかないんじゃないだろうか。
じゅには大体高校1年生といったところか。

袖に小さな穴の空いたパジャマを纏い、レジ袋そのもののように白く綺麗な髪のちは。
髪は栗毛なんだけど、白地に緑のラインというレジ袋カラーなジャージを着たじゅに。


ちはは無表情、じゅには破天荒が過ぎるところこそあれど、2人とも甲乙付け難いくらいに可愛らしい。
きっとそれが気にならないのは仕事中だからだろう。普段ならあんなに顔を近付けられたものじゃない。

今度もっと仲良くなってみたい、なんていう青少年ながらのちょっとしたそわそわとかを感じながら、明日に向けて眠りについた。

今回はここまで


水曜 20:12

男「……ふわぁ」

ちは「……暇してるくらいなら掃除」

じゅに「いいじゃないち~はちゃん。兄ちゃんはもう良く働いたよー?」

男(いや、やるよ。ありがとな、じゅに)ふきふき

男(そういえばさ、レジ袋っ子の……なんだろう、原動力というか、栄養みたいなものってどうしてるんだ? 廃棄品?)

ちは「……それじゃ都市伝説だわ。教えてあげても良いのだけど……」

じゅに「えー、いいじゃん。大した事じゃないし教えてあげよーよ」

ちは「……今は余計な話じゃないかしら」

じゅに「うーん? そうかな?」

男(いや、ちはがそう言うんだったら良いよ)

ちは「……そうして。男が仕事をひとしきり覚えた頃に……教えてあげても良いわ」


22:02

じゅに「兄ちゃん兄ちゃん、交代の人も来たし、そろそろ上がろうよう! お休みするの!」

男(この辺のゴミだけ片付けたらなー、っと。うわーなんだこれ!?)

バラララララッ!!

男「あちゃー、散らかっちゃった……って、あれ?」

?「ふわふわふー」「ふわふわふー」「ふわふわふー」

男「な、なんじゃこりゃ……」

ちは「……この子たちは小さなレジ袋っ子のようなもの。レジ袋を引っ掛けておいた場所の根元にあったゴミよ」

男(目だけついてる。ちっちゃくてひらひらしててかわいい)

じゅに「この子たち何しても怒らないから良い子なんだよー! ほら見て兄ちゃん!」びよーん
?「ふにゃふにゃふ~」

男(あーあー、引っ張っらないの。伸びちゃうでしょ……)

じゅに「えっへへー、ごめんねー」ポイ


男(にしても、これ名前はなんて言うんだ)
ちは「特に決まっていないけれど……」

?「ふわふわふー」

じゅに「ふーっ」

?「ふわふわふわふわふわふわふー……」ひらひら

男(おーい、店の外には飛ばすなよー。もういいや、わふで)

ちは「やっぱり安直ね」

じゅに「いいんじゃない、可愛くて。えいえい」つんつんつん

わふ「ふにゅ。ふにゅ。ふにゅ。…」

男(楽しいのか)

じゅに「うん」こねこね


男「いらっしゃいませ、お預かりいたします!……」

レジ袋娘の事を意識するようになってから、彼女たちの顔色も相まってレジ袋の使い分けに随分気を使うようになった気がする。

それも、普通の人が業務上気をつけている風ではなくて、どこか、何だろう、擬人化した形で。

男「お会計476円でございます」

8号、ちはのレジ袋はオールタイムの斬り込み隊長。
おにぎりからパン、缶コーヒーからタバコまで、どんなに混む時間帯でもスマートに切り抜けてこられたのは、いつも彼女のおかげだった。

男「お会計840円でございます。袋はご一緒でよろしかったでしょうか?」

12号、じゅにのレジ袋は細かいところで気の利く袋。
飲み物4本や長いパン、サラダに惣菜に箱菓子と、8号や25号じゃしっくり来ない時、いつもそばに居てくれる。45号の補佐だって、二つ返事でやってくれる。

男「お会計4400円ですね、ライターはお付けいたしますか?」

25号は、困ったらコレ!な頼れるエース級の袋。
小ぶりな弁当、紙パック、2Lペット。カップ麺、タバコのカートン、6缶ビール。
ビッグサイズの袋菓子も、微妙に小さい週刊誌も、あたしに任せればお茶の子さいさい。そんな声が聴こえてきそうなピンチヒッター。


男「ありがとうごさいましたー」

まだ45号と弁当袋についてはどこか掴み切れていない感じがあったけど、上の3つの袋には相棒に近しい心強さを抱いていたんだ。


客「いつもありがとうねぇ」

男「いえ、こちらこそ。いつもありがとうございます」

……

S山「男くん男くん、もう随分慣れてきたんじゃない?」

男(この人はS山さんと言って、よく平日にパートで入っている主婦の人だ。ちょっと騒がしいけど基本的には良い人である)

男「いえいえ、まだいっぱいいっぱいですよ。いろんな人が教えてくれるから何とか……」

S山「えー? でも誰も教えてないのによくできるって店長が言ってたのよぉ?」

男「あ。それは、えっと……」

じゅに「ぶい!」
ちは「……」

男「その、先輩に」

S山「ふーん?」


月曜 7:02

じゅに「兄ちゃん、眠そう」

男(うーん。昨日夜更かししちゃった)

ちは「……そうなるって分かっているんだから、早く寝なさい」

男(その通りです)

ちは「……そろそろ混み出すわ。一度気合を入れなさい」

じゅに「ふぁいとー!」

男(おー)

客「」「」「」「」「」ぞろぞろ

男「いらっしゃいませ、おはようございます!」


男「おタバコご一緒でよろしかったでしょうか?」がさごそ

客「あー持ってくわ。ちょうだい」

男「はいどうも。お会計1010円お預かりいたします。……」にっこり

……

じゅに「兄ちゃんの接客、見てて気持ちいいね」

男(そうかなぁ……)

ちは「まだそこに悩むのは早いわ……素直に受け取っておきなさい」

男(ありがとう、じゅに)

じゅに「えへへぇ。照れる~☆」ぷにぷに

男(ほっぺをつつくなー。ちはも、いつもありがとうな)

ちは「えっ……? え、あ、ええ……ありがとう……」


水曜 14:21

じゅに「」すやすや

男(お昼寝か)

ちは「……見ての通りね」

男(レジ袋娘も風邪は引くのか?)

ちは「さあ……どうかしら。考えた事なかったわ」

男(うーん、なんか目立たなくてあったかいところ……)

男「じゅに、起きろー。こっちでなら寝てていいから」ひそひそ

じゅに「ん、にゅ……?」

……

ちは「男……そこ、一応ゴミ入れなんだけれど」

男(良いだろ、どうせ使わないレシートしか入ってないんだし)

じゅに「」すやすや

大きさはチハ<じゅになのかな?


>>34
ちは:13.5cm 359g
じゅに:15.5cm 452g


金曜 18:49

男「お会計1804円でごさいます。袋お分けいたしますか?」

客「あーと……これと、コーヒーと、あとアイスだけ別にして」

男「かしこまりました。アイスの方溶けないうちにお召し上がりくださいねー」がさごそ

客「あいよあいよ。ありがとな」

男「いえいえ!」がさごそ

……

じゅに「おつかれ兄ちゃん!」
ちは「急に駆け込んできたわね……」

男(そうだなー。2人ともありがとな)


?「……ちょっとー。誰かさんへのお礼を忘れてるんじゃない?」

男&ちは&じゅに「!?」

?「よっと、初めまして。男で良かったかな?」すとん

男(え、えと、君は?)

?「日頃あんたが、すごーくお世話になっている25号のレジ袋っ子よ!」


腰に手を当てて立っている勝ち気な女の子は、まるでマンガのように目を細めて笑っていた。

男(あ、あの……)

?「ちょっと、頼りないなぁもう。あんまりにもお客さんにお礼言われてるから出てきてあげたってのに」

男(そうなの……?)

?「すっとぼけないの。今日だけで10は言われてるんじゃない?」

じゅに「ねっ!」
ちは「まあ、それくらいになるわね」

男()


腰に手を当てて立っている勝ち気な女の子は、まるでマンガのように目を細めて笑っていた。

男(あ、あの……)

?「ちょっと、頼りないなぁもう。あんまりにもお客さんにお礼言われてるから出てきてあげたってのに」

男(そうなの……?)

?「すっとぼけないの。今日だけで10は言われてるんじゃない?」

じゅに「ねっ!」
ちは「まあ、それくらいになるわね」

男(なんか意外……)


その子はやっぱり嬉しそうに笑い、びしっと俺を指差して勢い良く話し出した。

?「さ、とにかく! あたしが出てきてあげたってんだから、意味は分かるわよね。もし期待を裏切ったりしたら、ただじゃおかないんだから」

男(わ、分かった。善処する)

?「よし、約束したわよ! んじゃ、ほいっと」ぴょん

男(っとと……)

赤いポニーテールをなびかせ、彼女は俺の左肩に飛び乗った。

?「んじゃ、その、早速であれだけど……」

男(???)

?「あたしに、噂の名前つけてくれないかなー、って。いいでしょ? いいよね?」


男(……)

?「……」

男(噂になってんのか……)

じゅに「……」

ちは「……この子よ。この子」つんつん

じゅに「……えへへー、ごめんね兄ちゃん! つい!」

?「まあ、とにかく、そういうことだから……お願いしても良いかなーって……」

男(いや、別に構わないけどさー)

男(……)

男(にこ、でどうだろうか……)


ちは「……」

じゅに「良いんじゃないかなー、すごく良く笑ってるし」

?「まあ、なんかそんな気はしてたよ」

男(じゃあ別の何か……)

?「いーのいーの、及第点!」


にこ「それじゃ、改めてよろしくね、男!」

男「おう、よろしくな、にこ」



こうして、新しくにこと知り合うことになった。バイトを始めてからおよそひと月経った時のことになる。

俺にはなぜ見えなかったのだろう。控えの切取線は定規で押さえてから破るぐらい真面目で純粋だったのに。


じゅに「>>43さんもレジ袋を定規で押さえて取るくらい真面目なら見えるかもよ~☆」
ちは「……面倒が過ぎないかしら」

男(何の話?)

にこ「あー、いいのいいの。ほっときなさい」


にこ「さて、とりあえず横で見させてもらうからね。ほら来たわよ!」
ちは(わたしの特等席……)

……

男「いらっしゃいませ、お預かりいたします!」
にこ「煩いわよ! 柔らかく!」

男「お先にお品物失礼します」
にこ「失礼って意味分かってんの! 失礼って言うくらいなら詰め込むタイミング合わせなさい!」

男「ありがとうございましたー!」にっこり
にこ「圧倒的に笑顔が足りなーい!! こうよ、こうっ!」にぱー

……

男「OH……スパルタン……」

じゅに「に、兄ちゃーん。しっかりー」


じゅに「>>43さんもレジ袋を定規で押さえて取るくらい真面目なら見えるかもよ~☆」
ちは「……面倒が過ぎないかしら」

男(何の話?)

にこ「あー、いいのいいの。ほっときなさい」


にこ「さて、とりあえず横で見させてもらうからね。ほら来たわよ!」
ちは(わたしの特等席……)

……

男「いらっしゃいませ、お預かりいたします!」
にこ「煩いわよ! 柔らかく!」

男「お先にお品物失礼します」
にこ「失礼って意味分かってんの! 失礼って言うくらいなら詰め込むタイミング合わせなさい!」

男「ありがとうございましたー!」にっこり
にこ「圧倒的に笑顔が足りなーい!! こうよ、こうっ!」にぱー

……

男「OH……スパルタン……」

じゅに「に、兄ちゃーん。しっかりー」


店長「お疲れさまー」
男「お、お疲れさまです……お先に失礼します……」

……

じゅに「兄ちゃーんっ! お疲れさまー!」ぱたぱた
男「ありがとねー、じゅに。お疲れさま」

にこ「ふんっ」
男「今日はありがとうございました……失礼します」
にこ「……めげんじゃないわよ。あたしが言うのも何だけど。お疲れ」

ちは「……」ふりふり……
男「お疲れさま、ちは」
ちは「……お疲れさま。また明日、ね」


オフ編
日曜 12:42

S山「あら、いらっしゃいませ。ご飯買いにきたの?」

男「あ、お疲れさまです。ちょっと自分で作るのめんどくさくなっちゃいまして」

S山「あら、ダメよぉ、若いんだからいっぱい食べないと! おばちゃんが廃棄取ってきてあげようか?」

男「あ、いえいえ。お気持ちだけー……」

S山「いいのよっ、ほらっ! 今日は廃棄いっぱい出てるんだから、おばちゃんに欲しいの言いなさいっ!」ずいっ

男「で、でもそれってダメなことじゃ、あのっ、大丈夫ですからっ、あのっ!」

男(は、早く買わないと何か握らされる! 誰か助けて!
……はっ、そうだっ! まずそもそも廃棄が出ないようなものを買えば……!)

>>48
1.もちもち贅沢ロールケーキ
2.こだわり冷凍ペペロンチーノ
3.ジャンボおばさんのスティックパン

クレアおばさんのクリームシチュー


>>48
箱に入ったシチュールーとして扱うぞ

男(でも、そう咄嗟に思いつくものじゃ……! そもそもS山さん近いって! )

S山「ほら、軽く食べたいならおにぎりもあるからっ! ほらこんなにいっぱい!」どっちゃり

男(ぱにっくぱにっく)







ちは「・・・」

じゅに「あはは、ちはちゃんウズウズしてる」

ちは「……まったく。いい加減見てられないわ」ふーわふーわ

じゅに「もー、素直じゃないんだから」


ちは「……男、そのシチューなら良いんじゃないかしら」

男(ちは!? ごめん仕事中なのに)

ちは「良いから。さっさとなさい」

男「ごめんなさい、その、このシチューにしようかと思います」

S山「あら、でもそれルーじゃない。今から作るにももうお昼よ」
男「え、あのっ、その……」

ちは「『もうお昼は食べていて、夕ご飯を買いにきたんです。廃棄のものだと時間が遅くなってしまうんで、せっかくだけどすみません』」

ちは「……はぁ、これで良かったかしら? 良いなら早く復唱なさい」

男(ちは……ありがとう)


男「もうお昼は食べていて……」


……

男(まったく、えらい目にあったよ。なんでオフの日に疲れなくちゃいけないんだか……)

男(袋にシチューのルーだけ入れて帰るなんていうおかしな事になっちゃったし)

男「結局昼飯も買えてないし……缶詰でも食うかな」

?「……あら」

男「?? 誰の声……?」

ぽんっ!

ちは「まったく……恩人に対しての謝辞がないというのは、どういうこと?」ふーわふーわ

男「ちは!? おい、ここ外だぞ! なんで居るんだ!?」

ちは「あら、居たらいけないのかしら」カチン

男「だって外くるの初めて……」
ちは「ちょっと前見て!! ぶつかるわよっ!!」


……

男「いてて……」

ちは「馬鹿っ!! 自転車なんだから、前見て走りなさいよ、もう!! もうっ!!」


……

それから、ちはの怒りが収まるまでに30分くらいかかってしまい、その頃には俺たちはラーメン屋ののれんをくぐっているところだった。

店「へいらっしゃーい!!」

男(ごめんってば……S山さんの事も、車の事も、感謝してるよ)

ちは「……もう、これっきりにして。あんなに心臓に悪い事なんて、ないわ……」

男(本当、ありがとな。ちは……会ったときから助けてもらってばかりだ)

ちは「だから、良いのよ。もう。幸いに何事もなかったんだし……それで帳消し」

男「ありがとう」


……

それから、ちはの怒りが収まるまでに30分くらいかかってしまい、その頃には俺たちはラーメン屋ののれんをくぐっているところだった。

店「へいらっしゃーい!!」

男(ごめんってば……S山さんの事も、車の事も、感謝してるよ)

ちは「……もう、これっきりにして。あんなに心臓に悪い事なんて、ないわ……」

男(本当、ありがとな。ちは……会ったときから助けてもらってばかりだ)

ちは「だから、良いのよ。もう。幸いに何事もなかったんだし……それで帳消し」

男「ありがとう」

ちは「いいから、もう声は出さないで。外よ、ここ」


それから席について、ちははラーメン屋の景色を物珍しそうに見渡していた。

男(ラーメン屋は初めてなのか?)

ちは「いえ……こうしてキチンと外に出ること自体初めてだから……」

男(そうだったのか。そもそも、なんで今日は外に出れてるんだ? 店に居ないとダメじゃないのか?)

ちは「それは……レジ袋があるからよ」

男(レジ袋? ああ、シチュー入ってるやつか)

ちは「そうよ。もっとも、それだけじゃわたしたちレジ袋っ子は外で活動できないんだけど……その話はあとにしましょう。男、お腹空いたでしょ?」

男(ああ。……オフの時って、ちははそんな感じなんだな)

ちは「ふふふ、どうかしらね? まあ、会話から少しは察して頂戴……」


……

店「はいお待ち! 岩のりラーメン一丁!」ごとっ

男「はいどうも、いただきます!」ぱきっ

ちは「わ……」

男(あそこに勤めだしてから、他所でも良いお客さんになろうと思うようになったよ)はふはふ

ちは「……ふふ、それはきっといいことよ。先輩としてじゃなく、わたし個人の意見だから参考にはならないけれど」

男(いや、そんなことじゃないんだよ。ありがとう)ずるずる

ちは「……美味しい?」

男(うん、ここのラーメン好きなんだ)もぐもぐ

ちは「へえ……」

男(岩のり、ちょっと食べる?)

ちは「えっ、良いの!? も、もらってもいいかしら!」

男(ははは、食い付きいいなぁ)


ちは「ひと口で良いのっ。だから……」

男(慌てないでも良いよ。ほれ)

ちは「いただきます……もむもむ」

男(どう?)

ちは「うん。うん……美味しい。ちょ、ちょっとスープもいいかしら……?」ふわふわ

男(こらこら、頭突っ込まないの……髪茹だるよ。レンゲにすくうから、ほれ)

ちは「ありがとう……っくん」


ちは「……美味しい。外には、こんな美味しいものがあるのね……」

男(良かった。お気に召して)

ちは「ありがとう……あっ。ごめんなさい、みっともなくがっついて!」

男(全然気にしてないよ)


男(んー、んまい)ずるずる

ちは「……」

男(ん……どうしたのさ、じっと見て。もう少し食うか?)

ちは「ふふ……いいえ。ずいぶん美味しそうに食べるから、見ていて飽きないの」

男(そうかね?)

ちは「そうよ」

男(ウチでカップ麺買ってったお客さんも、どこかでこうやって食ってるんかね……)ずるずる

ちは「きっとそうね……男みたいに美味しそうな顔で頬張ってるんじゃないかしら」

男(もうよしてくれ。恥ずかしい)


……

男「うす、ごちそうさんでした」ちゃりん

店「ありあしたーっい!!」

がらがら

ちは「……すごい活気というか、すごい熱気の店だったわね」

男(新鮮か?)

ちは「ええ……見るもの全部、正直珍しくて仕方ないわ」

男(店じゃ廃棄品つまみ食いするくらいしかなかっただろうしなー)

ちは「乞食か何かみたいに言わないで頂戴。……その通りではあるけれど」

男(美味そうに食ってたな、ちはも。まあでも栄養源は別だって言ってたし……)

ちは「あら……ちょうど良いし、その話してあげようかしら」


……

男「うす、ごちそうさんでした」ちゃりん

店「ありあしたーっい!!」

がらがら

ちは「……すごい活気というか、すごい熱気の店だったわね。正直……見るもの全部、珍しくて仕方ないわ」

男(店じゃ廃棄品つまみ食いするくらいしかなかっただろうしなー)

ちは「乞食か何かみたいに言わないで頂戴。……その通りではあるけれど」

男(美味そうに食ってたな、ちはも。まあでも栄養源は別だって言ってたし……)

ちは「あら……ちょうど良いし、その話してあげようかしら。立ち話もなんだし、どこか落ち着ける場所に行ってからで構わないけれど……」

男(あれ、もういいのか? 一人前がどうたらこうたら言ってた気がする)

ちは「良いのよ、少なくともわたしは教えてしまっても構わないと思うから……。男はこれからどうするつもりだったの?」

男(いや、元はそのまま帰るつもりだったけど……茶店みたいなとこでも行くか?)

ちは「あ、ああ、そうなのね。いいの、そんな気を使わなくて。家に招いてもらって、良かったー…………かしら?」

男(え? あ、ああ、大丈夫、だけど……)

ちは「そ、そう……なら行きましょう。わたしは気にして、ないから……」ふーわふーわ


男「……」

ちは「……」

男「ふわぁ、ねむ……」

ちは「っ! んぅ……」

男(……何、緊張してんのさ?)

ちは「しっ、失礼ね……してないわ」

男(そうか……)

ちは「そうよ……黙って漕ぎなさい……」

男「……」

ちは「……もう」


男(着いた着いた……ほれ、行くぞ)

ちは「ず、ずいぶん大きい家に住んでいるのね」

男(なーに言ってんだ……これはアパート。集合住宅。俺の住んでるところはここの一室だけだ)

ちは「そ、そう……」

男(まあ独り暮らしだから他に誰も居ないし、ゆっくりくつろいで……ちは?)ガチャ

ちは「………………」かちこち

男(ちはさーん。大丈夫ですかー)ギィ

ちは「……」ごくり

男(あのー?)

ちは「おっ、おじゃまします……!!」ぴゅー

男(おい、ちはー!?)


男「ほい、ただいま帰りましたっと。やっと声出せるよ。お茶は……コップじゃ大きいか?」ガチャ

ちは「い、いえ……お構いなく……」

男「はいはい。おちょこ無いからペットボトルのふたで許してくれーな。適当にその辺座っててくれ」とぽとぽ

ちは「あっ、あの。大丈夫、だから……」

男「家主なんだから茶くらい入れさせろや」

……

男「ほれ。緑茶」

ちは「あ、ありがとう」

男「コタツの上に正座なんて、礼儀正しいのか正しくないのか分からんなもう……ははは」

ちは「え、ええと……??」

男「いいよ、好きにして。いつもみたいにふわふわしてても気にしないから」ごくごく


ちは「じゃ、いただきます……っぷは」

男「どーよ。売られてるのは散々見たけど飲むのは初めてだもんな」

ちは「ん……サッパリするわね」

男「だろ? すぐに注げるから気にしないで飲めよ」

ちは「あ、いえ……ありがとう」



男「さて、とりあえずひと心地ついたところで」

ちは「わたしたちレジ袋っ子の栄養の話ね……まあ、大したことじゃないけれど、順に話すわ」


ちは「わたしと初めて会った時、レジ袋っ子は精霊のようなもの……と話したわ。覚えているかしら」

男「ああ、一応」

ちは「だから栄養も原動力も必要ないのだけれど……わたしたちの力を決める指標として魔力というものがあるの」

男「魔力……? 胡散臭い気もするが」

ちは「……皆そう言うわね。けど本当のことよ」

男「女の子が浮いてる時点で常識は捨てたよ。それで?」

ちは「……レジ袋っ子の魔力」











ちは「それは、宿り主に感謝の気持ちが送られることで高まるの……男、あなたのことよ」


男「感謝の気持ち……」

ちは「そう。特に、そのレジ袋っ子が宿る袋において強くなるの」

男「じゃあ、俺が8号の袋を使って応対した時にお礼を貰うと、ちはの魔力が高まるって事か?」

ちは「理解が早いわね……そうよ」


ちは「今みたいに、店から一時的に離れられるようになったのは男がわたしの魔力を高めてくれたおかげよ。
レジ袋を拠り所にするという制約はあるのだけれど」

男「そうだったのか……」



ちは「……感謝してる。うまく、言えないけれど」

男「いや、俺も……こっちこそありがとう。ちはにお世話になってばかりなのに……」

ちは「ふふ、良いのよ……宿り主に気持ち良く働いてもらうことが、わたしたちの存在意義なんだから」


ちは「さ、さて。まあ、これも一応、レジ袋っ子の魔力の力なんだけれど」

ちは「一応……その、精霊だから超常的な力を使うことも、できるわ」

男「超常的……?」

ちは「わたしばかり、力をもらっていたら悪い、から……。そ、その、おとこっ。右手の人差し指を出して、くれるかしら?」ふわふわ


男「お、おう……これで良いのか?」




ちはは俺が差し出した指にそっと近寄り、その小さな手でそっと触れた。
俺をじっと見つめ、ちはの頬が桜色に染まる。

ちは「おかしな……意味じゃ、なくて。魔法に必要な、儀式だから……」

意を決したような表情と共に、その小さな身体が淡く光り出した。

俺の指が、斜めに向いたちはの顔に、そっと……




ちは「……ちゅっ」



男「っ、ちは……」

ちは「はふ……ちゅう、ちゅう」

ちは「ちゅう……あ、むっ。れろ……」

ちは「くちゅ、くちゅくちゅ……。ちゅぱ」

男「ちょ、ちょっ、ちは……」

ちは「はぁっ、はぁっ……男の指、少し太すぎて……口に入り、きらないわ……」ぎゅうっ

男「お、おいおい……!」

添えるようだったちはの手が、指のくびれにきゅっ、と回され、温かく柔らかいちはの感触が締めつけてきて。

全神経が、指先に持っていかれる……。


ちは「陣を、舌で描ききらないといけない、から……」

ちは「もう少し……我慢して、男?」

男「だっ、おま……」

ちは「ん……にゅ、ちゅう……れる」

ちは「れる、れる、れるる……」

ちは「男の、指……れろ……」

紅潮した顔で、愛おしそうに俺の指をなぞっていくちは。まるで恋人と濃厚な口付けを交わす時のように、その身体を俺の指にしなだれかからせて。

小さいと思っていた身体……しかし、指に当たる小さな胸や滑らかな太ももが、小さな少女という倒錯感と共に俺の呼吸を乱す。

ちは「へは……っ。ふふ……よだれ垂れちゃった」

当たり前だが、とうに下は膨らんでいた。ちはは良かれと思ってやっている事ということと、この右腕のしびれをもっと味わいたいという気持ちとが、はやる気持ちを抑える。

ちは「んっ、れる、つぅ……っ」

その倒錯した甘い時間は、1分ほどか、10分ほどか、続いた……。


………

男「……///」ぞくぞく

ちは「……///」ぼーっ

男「あ、のさ。ちは」

ちは「な、なにかしら……」

男「余計に舐めてた、よな……?」

ちは「~~!」がばっ

男「おいこら、コタツの中に隠れんなー。事情聴取は終わってないぞー」

ちは「っ……」

男「ちはー? のぼせるぞー」

寝る
またしばらく空く
あいぽんは誤爆が多くていけねえなぁ……


……

ちは「……」ふらふら

男「言わんこっちゃない」

男「んで、その、あれは、なんだったんだよ……急に。超常的な力とか言ってたけど」

ちは「え、そうね、あれは……あれは、コンビニ店員なら誰もが欲しがるレジ打ち垂涎の異能よ……」



ちは「さっき、シチューのルーを買ったでしょう。それを袋から出して……袋をたたんでからもう一度入れ直してみて。普段商品を入れる時みたいに」

男「へ? わ、分かったよ」がさがさ


男「んじゃ失礼して……あれ!?」

ちは「……ふふ、気付いた?」

男「これ……」

ちは「これが『信頼の証』。男の右指に刻まれた紋章は、わたしのレジ袋と引き合う……男が、望む形で」


男「望む形……」

ちは「もう……男にならわたしを、使いこなすことができるはず。レジ下から取る時もすべらないし、重ねて2枚取れてしまう事もない。
わたしを開くときも……あなたの指先に、わたしはついて行くから。
手さげ部分が絡まることもないし、バランスの悪い場所にも入れさせない。静電気だって……わたしがなんとかしてみせる」





ちは「わたしの身体……預けた、から」

男「ちは……」

ちは「……」ぴと

男「改めて……よろしくな」

ちは「……ええ」


ちは「……」すり…

男「……」

ちは(胸が、切ない……)ぎゅ

男「」


ちは「……」すり…

男「……」

ちは(男……)ぎゅ

男(なんか……良い雰囲気だな……)

ちは「……男?」

男「ん、なんだ?」

ちは「……良いの。気にしないで」
ちは(考えが透けてること……忘れてるのかしら)

ちは「ねえ、いつもの場所に行っていい……?」

男「いつもの……?」

ちは「男の、左肩」

男「別にいいけど……面白いかよ?」

ちは「……」ふーわふーわ


ちは「よっ、と」ぽすん

男「……」

ちは「・・・ふふ。ここ、好きよ」

男「落ち着かねーよ……」

ちは「そうね……耳が赤くて、首筋の脈がとても早い……」

男「おい、やめろ恥ずかしい」

ちは「恥ずかしくないわ……わたしもずっと胸がうるさくて、仕方ないの」

ちは「わたしに……これがどんな気持ちかを、教えて」ちゅ


男「っ、首……」

ちは「……」

男「……」

ちは「……どこまでわたしにリードさせる気よ。わたしの身体は預けた……と言ったでしょう」

男「ちは……」

ちは「その……ちいさい、けれど。二重の意味で……」

男「そんなこと気にしない。ちははちはだ」


男「正直、仕事仲間だと思ってて、そういう目で見るのは今まで失礼だと」

男「……でも、ずっとかわいいなと思ってた」

ちは「かわ、いい……」かああ

男「うん……かわいい、今も。ちは、おいで」スッ

左肩の前に右手のひらを広げると、温かい重りが静かに乗っかった。


男「ひょっとして、手に乗せたのは初めてかもしれないな……」

ちは「当たり前よ……普段は仕事中なんだから」

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