雪乃「比企谷くん、バレンタインね」 (51)
八幡「は?」
雪乃「だからバレンタインよ。……あ、ごめんなさい、比企谷くんには縁のないイベントだったわね」
八幡「最初からそれが言いたかっただけだろ……。だが残念だったな、俺は毎年k」
雪乃「小町さんからの分はノーカウントよ」
八幡「そんな殺生な……」
雪乃「やっぱりね、そんなことだろうと思ったわ」
八幡「……つーかなんで今さらバレンタインなんだよ。とっくに終わったっつーの」
雪乃「いえ、私も先週の金曜日に由比ヶ浜さんからチョコを貰った時に気づいたのよ」
八幡(え……、俺貰ってねーんだけど。……べ、別に欲しくなんてないんだから)
八幡「へ、へぇ、にしてもあれだな、バレンタインに気づかない女子高生ってのもすごいよな」
雪乃「仕方ないじゃない。今までこういった行事に参加したことがなかったのだから」
八幡「悲しすぎる……。俺も似たようなもんだけど」
雪乃「違うわ。あなたは参加したくてもできなかっただけでしょう。私は自分の意思で参加しなかったのよ」
八幡「……いやでも、貰うだけなら自分の意思なんて関係ないだろ。由比ヶ浜から貰ったのだってそうじゃん」
雪乃「ち、違うわ。私の意思よ」
八幡「ふーん、へぇー」
雪乃「……貰う方はともかくとして、……あげるほうの話よ」
八幡「あー、確かに色々めんどくさそうではあるしな。女子同士の場合は特に」
雪乃「はぁ……、まぁいいわ」
八幡「え、なにそのゴミを見るような目」
雪乃「そんなゴミ谷くんのことだから、どうせ今年もチョコをもらえなかったのでしょう?」
八幡「言葉の端々がすげぇトゲトゲしてんだけど……」
雪乃「で、どうなのよ」
八幡「……さっき小町の分ノーカンにされちゃったからなー」
八幡「ま、気を使ってくれるくらいなら、チョコなんていらないけどな」
雪乃「へぇ、そういうものなの。私はてっきりもっと深刻なダメージを受けているものだと思っていたのだけれど」
八幡「そう思うなら掘り返すなよ……。俺レベルになるとノーチョコが基本だし、最初から変な期待してないからな」
雪乃「かわいそうに」
八幡「お前が言わせたんだろ……」
八幡(思えば今回だってそうだ)
八幡(葉山が気まずそうにチョコを分けようとしてくれやがったことも――)
八幡(戸塚が『はちまーん、こんなにいっぱい食べられないよー』と可愛く言ってきたことも――)
八幡(材木座が得意気にチロルチョコを見せびらかしてきたことも、あ、こいつはどうでもいいや)
八幡(とにかく、全部バレンタインとかいうチョコレート会社の陰謀が悪い。クソが)
八幡(……あれ、俺としたことが結構ダメージ受けてんのかな。無意識に期待してたんだろうか……。わかんね)
雪乃「そんな恵まれない比企谷くんに、はい、これあげるわ」
八幡「は? えっ……、それってチョコ?」
雪乃「ええ、そうだけれど」
八幡「えっ、お、俺にくれんの?」
雪乃「そう言ってるじゃない。あ……、もしかして、チョコは嫌い、かしら」
八幡「い、いや、そういうわけじゃないが……」
八幡(なんだ、なんのトラップだ? よりによって雪ノ下が……、毒でも盛ってんの? それとも呪いの類?)
八幡(いや、同じ部活の部員なんだし、これくらい普通なのか? 悲しいことにサンプル不足過ぎて分からん)
雪乃「あの、受け取ってもらえるかしら」
八幡「あ、ああ」
雪乃「そう……、はい、どうぞ」
八幡「お、おう、さんきゅ」
雪乃「……ふふ」
八幡「な、なんだよ」
雪乃「さっきからあなたがおろおろしてるのが面白くて」
八幡「うるせー、慣れてないんだよ」
雪乃「……私だってそうよ。さっき言ったでしょう。バレンタインには参加したことがないって」
雪乃「だから……、あなたにあげるのが初めてよ」
八幡「そ、そうか」
雪乃「……」
八幡「……」
ガラッ
結衣「やっはろー!」
雪乃「……こんにちは、由比ヶ浜さん」
結衣「あれ? 二人で何してるの?」
八幡「こここ、ここれはだな、あ、ああれだ、に、日本経済の今後について」
雪乃「比企谷くんにチョコを渡していたところよ」
八幡(あぁ、めんどくさいことになりそうな予感)
結衣「え!? ゆきのんがヒッキーにあげたの?」
雪乃「ええ」
八幡「…じゃあ食べるわ」
パク
八幡「この味は…納豆?チョコに納豆ってどう考えても罰ゲームの域だが、自然と美味しい」
雪ノ下「それは水戸産の納豆よ。そこらの納豆と一緒にしないでくれるかしら」
八幡「いや、水戸の納豆が美味しいのはしってるがチョコと合うとは思わなかった」
雪ノ下「私が納豆がチョコと合うように試行錯誤を重ねたのよ」
八幡「流石茨城県民だな」
雪ノ下「とはいえ日立製の電化製品を使えば容易に作れたわ」
結衣「ヒッキー! どういうこと!?」
八幡「矛先俺かよ!」
結衣「だって、貰ったんでしょ!?」
八幡「べ、別に俺が誰から貰おうが勝手だろ!」
結衣「それはそうだけど……」
八幡「ああ、この話は終わりだ」
結衣「ま、まって!」
八幡「あ?」
結衣「……あたしからもあげる」
八幡「えっ」
結衣「あ、あのね、本当はバレンタインに渡すつもりだったんだけど……」
結衣「頑張って作ってたら、間に合わなくて……。ごめんね?」
八幡「い、いや、それはいいんだが……、ってことは手作り?」
結衣「う、うん」
八幡(マジかよ……、変なもん入ってないだろうな)
結衣「はい! 食べたら感想きかせてね」
八幡「あ、ああ、さんきゅ」
雪乃「比企谷くん比企谷くん、私のも手作りよ」
八幡「お、おう」
八幡「お、おう。すまねぇな」
結衣「今食べて!」
八幡「え、いや俺今雪ノ下のチョコ食べて、お腹いっぱいだったり…」
結衣「そんな訳ねぇーーぺよーーー!!」
八幡「分かった!分かったから茨城弁でキレるな!怖い」
結衣「全く」
八幡「じゃ、食べるかな…」
パク
八幡「こ、これは茨城の特産品、あんこう!美味しいけどチョコとは全く合ってない、帰れ!茨城の漁師さんに謝れ!」
平塚「さっきから貴様は人様のssで何をしているのだバカモン」
バシッ
八幡「ぐふっ…い、茨城の魅力を伝えようと……」
平塚「だからって他にやり方があるだろ。お前は本当にどうしようもないやつだ」
雪ノ下「あなたのやり方…嫌いよ」
結衣「他の人のことも考えなよ」
八幡「この度はご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでしたー!!」
八幡は土下座をした
川崎「な、何してるのあんた?」
八幡「……黒のレース」
川崎は八幡の顔面を前蹴りした
完
結衣「でもでも、あたしの方が時間たっぷりかけて作ったんだからね!」
雪乃「由比ヶ浜さん、時間と味は比例しないのよ」
結衣「む、確かにゆきのんのよりは美味しくないかもだけど、その分愛情たっぷりだもん!」
雪乃「その言い方だと、私に愛情が足りないみたいじゃない!」
結衣「違うっていうの!? 時間と味は平井しないかもしれないけど、時間と愛情は平井するもんね!」
雪乃「由比ヶ浜さん! 比例よ!」
結衣「あ! そうそうそれ! 間違えちゃった!」
雪乃「そもそも愛情というのは量ではなくて質が大事なのよ」
結衣「質……」
八幡(さて、ジャンプでも買って帰るか)ガラッ
雪乃「そうよ、その点、私の愛は――」
―自宅―
小町「お兄ちゃん、バレンタインは終わったよ?」
八幡「ああ、俺もそう思う」
小町「でも良かったね、雪乃さんからも結衣さんからもちゃーんともらえて」
小町「先週は手ぶらで帰ってきちゃってさー、一晩枕を濡らしたんだから」
八幡「……そりゃ悪かったな」
八幡(なにこの悲しすぎる謝罪)
小町「で、チョコを貰った感想をどうぞ」
八幡「……そうだな、まぁ悪い気はしないな」
小町「おお! これは内心すごく喜んでるよ! 小町にはお兄ちゃんのことだったらなんだってお見通しなんだから! あ、今の小町的にポイント高い!」
八幡「うぜぇ、いつもの五割増しくらいでうぜぇ」
小町「まぁまぁ、で、なんで今日もらってきたの? 詳しく聞かせて」
八幡「……しょうがないな」
小町「ふーん、へぇー」
八幡「ニヤニヤすんな」
小町「だって~、小町が思ってた以上に順調そうだから、嬉しくなっちゃったのです」
八幡「は? 何言ってんだこいつ」
小町「またまた~、お兄ちゃんは鈍感さんじゃないから分かってるでしょ?」
八幡「……さぁな」
小町「えー、なにそれー」
八幡「肝心なことは目に見えないから分かりにくい。現実がクソゲーと言われる所以だな」
小町「いやー、小町的にはかなーり分かりやすいと思うけどなー。雪乃さんも結衣さんも」
八幡「……」
八幡「……ああ、そうかもな」
小町「ふふ、なら安心。お兄ちゃんは捻くれてるからねぇ、今はその言葉で十分だよ」
八幡「そうかい、生意気な妹だな」
小町「でも可愛いでしょ?」
八幡「あーそーだなー、せかいいちかわいいよー」
小町「わーい! 適当な返事もらっちゃったー!」
八幡(ほんとテンション高いな)
小町「今度はホワイトデーのお返し考えないとね」
八幡「そういやそんなシステムだったな……。なんか男に厳しいよな」
小町「ちゃんと考えてあげないとダメだよ。あ、小町の分もよろしくね」
八幡「はいはい、分かってるよ」
小町「よーし、じゃ、ご飯食べようか。お赤飯炊いちゃう?」
八幡「今日、カレーだろ……」
このSSまとめへのコメント
茨城じゃなくて千葉じゃね
何故茨城県民
千葉では?