■半荘一回目

咲「……」ﾀﾝ

淡「ふんふんふーん♪」ﾀﾝ

穏乃（宮永さん、打ち方綺麗だなぁ）ﾀﾝ

和（全くの素人、というわけではないようですが……）ﾀﾝ

泉（……うーん、これは）

咲「ツモ。3900です」

泉（……び、微妙や……）

泉（確かに全くの素人ってわけやないんやろうけど）

咲「……」ｽｯ

穏乃「ロン！　5200！」

咲「……はい」

和（え？　穏乃には悪いですが、そんな見え見えの待ちに振り込んだ……？）

泉（素人に毛が生えたもんやん）

泉（わけわからん上がりと振り込みが多すぎる……）

泉（前の中学に居た後輩の方がまだマシやで？）

泉（今、半荘が終わったけど……穏乃を抑えての3位。点数はプラマイゼロ、か）

泉（今回は穏乃が荒れてて運が良かっただけやろうし）

泉（次は多分、最下位やろなぁ）

淡「ふんふふふーん♪」ﾆｺﾆｺ

■半荘二回目

咲「ツモ。1200、2300」

和「むっ……私が最下位ですか……」

穏乃「珍しいね」

泉（……またプラマイゼロで、3位。けど今回は和がミスりまくってただけやし）

泉（和もちょっと安定せん時あるなー。インターミドルの時もそうやったけど）

泉（……まあ私も人のことはいえんけどな）

淡「サッキーやるねー！　えへへ、燃えてきた！」

咲「ええぇ……」

泉（……なんで淡はあんなに楽しそうなんやろ？）

■半荘三回目

咲「ロン――1000です」

穏乃「うう。また最下位……」

和「そんな日もありますよ」

泉（……ちょ、ちょっと待て。なんやこのスコア……）

泉（偶然やろ？　いや、偶然以外、あるはずない）ｶﾞﾀｶﾞﾀ

泉（半荘を三連続で、プラマイゼロ――！？）

泉（そんなもん……故意に出来るはずないんや！）

泉（麻雀って運の絡む競技で、針の穴に糸を通し続けるような点数調整なんて……！）

淡「――ふふっ。そろそろ、私も本気で行こうかな」ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ

■半荘4回目

淡「ダブルリーチ――！」

穏乃（淡の親でダブルリーチ！　ついに来たっ……！）

和（ダブルリーチ後、暗槓したら数順で確実にロンかツモ上がり。しかもその場合カン裏のドラが必ず乗る）

和（そんなオカルトありえません！　と、いいたいところですが……）

和（こう何度もこのようなダブリーを見せられれると、今まで信じて来た麻雀理論が壊れてしまいそうですね……）

咲「――」ﾋﾟｸｯ

淡「……んー？　わぁ、珍しい」

穏乃「え？」

淡「サッキーと打ってるからかな？　こんなこと始めてだよ……もう一回、カン！」

和「二度目の、暗槓！？」

穏乃「まさか、これも裏ドラ乗るの……！？」

泉（淡がダブリー後のカンの後にもう一度カンなんて始めて見た！）

泉（このカンもカン裏が乗るとしたら……ダブリードラ8で親の倍満確定！）

泉（こいつ、ホンマめちゃくちゃな――！）

咲「――」ﾀﾝ

淡「ロン！　裏ドラは――」ﾆﾔ

淡「当然乗って――ダブリードラ8、24000！　――だよ、サッキー」ｱﾊﾊ

咲「……うん」

泉（乗せよった……恐ろしいヤツやで大星淡。しかしギリギリ飛ばんかったけど、これで宮永の残りの点数は1000点しかない）

泉（さすがに今回はマイナスで終わりやろ……いや、普通だったらハコりだって）

咲「……」ﾎﾞｿｯ

穏乃「え？　宮永さん、何かいった？」

咲「……ううん、なんでもない」




咲「なんでも、ないよ――」ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ



穏乃「！」ｿﾞｸｯ

和「！」ｿﾞｸｯ

淡「ッ――！」ｿﾞﾜｿﾞﾜｿﾞﾜ

穏乃（な、なにか今――！？）

和（背筋に、冷たい氷のようなものが走って――！？）

淡「……やっぱり、強いよ。サッキーは――！」ﾀﾝ

咲「カン！」

咲「もいっこ、カン！」

和（宮永さんも二連続カン！？　しかも先ほどの大星さんと違って、1順で――！）」

咲「――もいっこ、カン！」

穏乃「三連続――！？」



咲「ツモ。チンイツ、対々、三暗刻、三槓子、ドラ1」

咲「嶺上開花――32000」



泉「っ！」ｶﾞﾀｯ

泉「数え、役満――！？　しかも、嶺上開花なんて超レア役……！」



咲「……そういえばこれ、責任払いはありですか？」ﾆｺ

咲「……」タン

穏乃「あっ、ろ、ロン。3000……です」

咲「はい」

淡「あちゃー、ラスかー。私が最下位なんて何年ぶりだっけ」ﾆｺﾆｺ

穏乃「……」ﾎﾞｰｾﾞﾝ

和「……」ﾎﾞｰｾﾞﾝ



泉「は、あははは、ははは、はは……」

泉「倍満振り込んで……数え役満ぶち込んで……その後、安目の振り込みを繰り返しての4連続、プラマイゼロ……？」

泉（こいつ、こいつ――！　間違いなく！）



咲「ふぅ……今日はこれで終わりですよね？　お疲れ様でした」ﾍﾟｯｺﾘﾝ



泉（化け物や――！）

■翌日

淡「」ﾄﾞﾝﾖﾘ

和「」ｼｮﾎﾞﾝ

穏乃「和と淡が死んでる……」

泉「和は淡に次いでの異常な麻雀を見せられて消沈」

泉「淡は宮永に麻雀部の勧誘を普通に断られて絶望」

泉「なんて有様や……いや、私も結構ヘコンでるんやけどな……2人と一緒で」

泉（和と同じく、違う次元のとてつもない麻雀を見せられたこと……）

泉（淡と同じく、宮永が麻雀部に入ってくれんかったこと……ホンマヘコむなぁ、このダブルパンチ）

泉（あー。新設校で一年生だけしかないって厳しい状況の中、淡、和、穏乃って上玉が呆気無く揃ったから忘れてたわ……）

泉（世の中は、麻雀と同じで思い通りに上手くいかんもんなんや、って）

穏乃「それにしても、宮永さん……なんで……」



淡『サッキーはやっぱり強い！　サッキー合わせて、私達5人の高一最強クインテットなら！　全国優勝間違いなしだよー！』

咲『え……？　あの、私は麻雀部に入る気はないですよ……？』

淡『へ？』

咲『まだよくわかんないんだけど、大星さんがいうように私はちょっとくらいは麻雀が出来るかも知れない』

咲『けど、今日麻雀を打ちに来たのは、あくまで大星さんが私なんかを探し回るのが可哀相で、それを止めてもらう為だから……』

淡『』

和『宮永さん……4連続プラマイゼロ、ワザとですか……？』

咲『……私が打つと、いつもあんな風になっちゃうんです』

和『なんでそんな打ち方、してるんですか……？』

咲『家族麻雀で……お年玉巻き上げられないように負けないことを覚えて』

咲『勝っても怒られたから、勝たないことを覚えました』

和『っ……麻雀部に入れとは言いません！　でも、明日また、もう一回！　もう1局打ってくれませんか！？』

咲『……ごめんなさい。私は麻雀……』

咲『それほど好きじゃないんです――それでは、失礼しました』ｶﾞﾁｬ

和『……』



穏乃「プラマイゼロ調整なんて凄いこと出来るのに、麻雀が好きじゃないなんて……」

泉「きっと賭け麻雀で、麻雀そのものにうんざりしてもたんやろな。しっかし家族で本気の賭け麻雀してお年玉巻き上げるってどんなアカン親や」

穏乃「下手すると宮永さんグレてたかもしれないよ」

泉「ひょっとしたら宮永のあの尖った角は少しグレてもた証なのかもしれんなぁ」

淡「……られない」

泉「お？」

淡「諦められないよ！　サッキーを！」

穏乃「淡……」

淡「私の感じた運命が！　私が出会った運命があの半荘4回だけで終わるなんて、絶対にやだ！」

淡「サッキーは私のだもん！」

おう猿、さっさと制服に着替えてもう一人としての威厳を見せろ

泉「私のライバルだもん、やないんか？」

穏乃「私のって……それだと変な意味に……」

淡「そんなのどっちでもいい！」ﾊﾞﾝ

和「……私も！　私も宮永さんともう1度だけ、どうしても打ちたいです！」ｶﾞﾀｯ

泉「和まで……せや！　ただでさえ満足な部員も設備も実績もなんもない新設校の麻雀部なんや！」

泉「受け身のままやったらあかん！　ホンマに全国へ行くなら多少無茶しても攻めなな！」

泉（……宮永の、淡と和すら覆せなかったプラマイゼロ。それは勝てもせんし負けもせん現状維持の技にみえるけど）

泉（“団体戦”で考えればとんでもない力や。麻雀の団体戦に置けるセオリーは1番強いエースを先鋒に置くこと）

泉（そこに宮永を投入する！　もしも宮永が全国の魔物達ですらプラマイゼロに出来るというのなら）

泉（群雄割拠の先鋒戦を無傷ですり抜けられるということや！　今までずっと先鋒は私達の中で一番強い淡がベストって考えとったけど）

泉（宮永さえいれば淡はもっと点を稼げる位置に置いとける！）

泉（先鋒、プラマイゼロの宮永咲！）

泉（次鋒、ダブリーの怪物大星淡！）

泉（中堅、高一最強の私！）

泉（副将、鋼のメンタルを持つ高鴨穏乃！）

泉（大将、インターミドルチャンピオン原村和！）

泉（一先ずの布陣やけど、これなら――全国優勝だって夢やないかもしれん！）

泉「せや、私達の目標は全国に行くことなんてこじんまりしたもんやない！」

和「ええ、目指すものは全国優勝」

穏乃「その為には――！」

淡「サッキーが欲しい！　私には、私達にはサッキーが必要なんだ！」

このメンツでなお高一最強を名乗れる泉こそ鋼のメンタルと言えるのではないだろうか

泉「よっしゃー！　なら今からもう1度宮永を勧誘しにいくでー！」

3人「「「おー！」」」




咲「」

咲（き、昨日ここに忘れものしちゃって、取りに来たら凄いこと聞いちゃった……）ｶﾞｸｶﾞｸ

咲（私が入れば全国優勝……？　そ、そんなのありえないよー！）

咲（なんであの人達はみんな私を過大評価するの……？）ﾅﾐﾀﾞﾒ



4人「」ﾜｲﾜｲｶﾞﾀｶﾞﾀ



咲（わわ、こっちにくる……に、逃げちゃえ）ﾀｯﾀｯﾀ

■屋上

咲「はっ、はっ、はっ……」ｾﾞｪｾﾞｪ

咲「……はぁー」

咲（何してるんだろう、私）

咲（私を必要としてくれている人達がいるのに……逃げてばっかりで）



淡『サッキーが欲しい！　私には、私達にはサッキーが必要なんだ！』



咲（……こんなにも誰かから必要とされたこと、今まであったっけ……）

咲（でも、麻雀は……）



？『――もういい。もう咲とは打ちたくない……咲の麻雀なんて――大っ嫌い』

咲「……お姉ちゃん」

　ﾀｯﾀｯﾀ

　　　ｶﾞﾁｬ、ﾄﾞﾝ


穏乃「こっちだ！　こっちから宮永さんの匂いがする！」ｸﾝｶｸﾝｶ

咲「っ！？」ﾋﾞｸｯ

泉「おおホンマにいた！　山育ちすげぇ！」

和「さすがです穏乃！」

咲「み、みんな……」

淡「サッキー……昨日は断られちゃったけど、それでも私はサッキーともっと麻雀を打ちたい！」

和「お願いします宮永さん。私も、もう一度あなたと打ちたい！」

泉「宮永が入ってくれれば、全国優勝が狙えるんや！」

穏乃「一緒に行こう！　全国へ！」

咲は足が臭い(確信)

咲「……私は昔、大切な人から言われたことがあるんです」

咲「私の麻雀なんて、大っ嫌いだって」

咲「プラスマイナスゼロしか出来ない私なんか大会に出たって……」

泉「そんなもん、関係あらへん！」

咲「えっ……？」

泉「その大切な人ってのは宮永のプラマイゼロの価値を知らんだけやないか！」

泉「私はプラマイゼロを思いのままにするスーパー雀士、宮永咲が欲しいんや！」

泉「そのままんまのお前が欲しい！」

咲「っ！」ｼﾞﾜｯ

咲「……いいの？　私で……」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

淡「当然！」

淡「サッキーと打つのは、とっても楽しいんだからさ！」

淡「これから三年間――そのあともずっとずっと！」

淡「私と一緒にいて！」

咲「……」

咲「うん……！」

淡「あはっ！」ﾆﾊﾟｰ

咲「私なんかでよかったら、ぜひ麻雀部にいれてください！」

穏乃「やったあああああぁ！」

和「ありがとうございます、宮永さん！」

淡「これで5人、揃ったよー！」

泉「しゃぁ！　行くで！　目指すは――全国優勝や！」

全員「おー！」

■数週間後

咲「ツモ。嶺上開花」

和「……さすがですね。ですが、今日こそ止めて見せますよ、プラマイゼロ……！」

淡「残念！　サッキーのプラマイゼロを先に超えるのは、私だから！」

咲「えへへ、簡単にはさせないよ！」

穏乃「私も咲や和、淡や泉に負けてられない！」ｺﾞｯ


　ﾛﾝ！　　　　　ﾎﾟﾝ！
　　　　　
　　　　　ｶﾝ！
　　　　　　　　　ﾁｰ！
　　ﾂﾓ！
　　　　　　　SOA！


泉「うん、咲も大分部に馴染んで来たな」

泉（しかし、和がプラマイゼロに肯定的なのはちょっと意外やったな）

泉（和の性格から考えるとあんま気に入らなさそうやったんやけどな。まあええか、順風やし）

この頭が残念な面子じゃあ1000と仮定してプラマイゼロを目指すって発想には至らないか
やっぱりムーミンって偉大だわ

和（宮永さんが入部を決めたあの後、もう一度打って、全力で立ち向かった）

和（それでもプラマイゼロは止められなかった）

和（最初は……プラマイゼロを続ける宮永さんが気に入らなかった）

和（プラマイゼロなんて調整が出来るのなら、普通にやればいくらでも点をとれるはずだから）

淡「ダブルリーチ！」

和（けど、大星さんを見てて思いました）

和（大星さんのダブルリーチ。本人はそれを“能力”と断言した）

和（――そんなオカルト、ありえませんと昔の私なら憤怒したでしょう）

咲「カン！　もいっこカン！　嶺上開花！」ｺﾞｯ

淡「ぐぬぬ」

和（……けど、オカルトはある。この2人がその証明）

和ちゃんはオカルト信じないことが能力に通じるじゃなかった？

>>59
モモ以外には－でしかない
決勝で言うとマタンゴはツモ限定だからいいけどあらたその多面張には鴨だろ

なお、聖域のため勝つ模様

和（きっと……宮永さんのプラマイゼロは“能力”なのでしょう）

和（相手を舐めているのではなく、手加減をしているのではなく）

和（本気で麻雀を打っているからこそプラスマイナスゼロという能力を可能としている）

和（私は舐められてない。手加減をされているんじゃない）

和（そう思うと、宮永さんのプラスマイナスゼロへの憤りはいつの間にか消えて）

和（今は、超えるべき壁となった――目指すべき壁となった）

和（……きっと宮永さんを超える為に、今の私に必要なのは、オカルトを認める器量）

和（そんなオカルトありえませんと初っ端から目を背けるのではなく）


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
和（真正面からオカルトにぶつかり、活目し！　その上でそんなオカルト通じませんという勇気！）

和（私は――もっと、強くなりたい――！）

和「ロン！　12600――！」

咲「っ！」

淡「ひゅぅ！　イケてんじゃん和！」



泉（さすがは和……私がインターミドルで稼ぎ負けた相手）

泉（私も、高一最強を名乗るからにはもっともっと強くならなあかんな！）ｷﾘｯ

泉（……けど部員はなんとかなったけど、他にも問題は山ずみや）

泉（一個一個どうにかせんとな。まず一つ目の問題は――監督の不在）

泉（顧問の先生は付いてもろたけど、その顧問の先生は麻雀を知らん普通の人）

泉（……まあこれは仕方ない。実績のない新設校やし、そんなとこの監督をしてくれる奇特なコーチは滅多におらんしな）

泉（むしろ変なコーチにあたるよりはええやろ。監督いんくても大会には出れるしな）

泉（自分達の練習方法は、自分達で確立してけばええ）

泉（2つ目は部費。新設校やからどこの部活も実績ないし、どこが強くてどこが弱いかは最初の一年間が終わらんとわからへん）

泉（私らの麻雀部は5人。これは部としての規定の最低数で、同じ最低数の部活は14個）

泉（せやから当初は最低限の部費を均等に振り分けていく方針やったんやけど、部費に関してはやはりどこもうるさい）

泉（いろいろ言い争ってる内に部費の振り分けで決まったことが……）

泉（まさかじゃんけん大会を開いてその順位で部費の振り分けを決めるとは）ﾊｧ

泉（ええんかそれで？　まあじゃんけんは33.3…％の運ゲーやからそれはそれで平等なんやろうけどな）

泉（これに関してはなんやら穏乃が）



穏乃『ジャンケンなら任せてよ！　必勝法があるんだ！』



泉（っていっとったから、穏乃に任せよう）

泉（次に、かなり問題なのが牌譜や）

泉（対戦者や対戦校の研究は絶対に必要不可欠）

泉（さすがに咲や淡がどれだけ強くても、ある程度は相手を知っとかんとまずい）

泉（特に私と和はデジタル派。データは多ければ多いほどいい）

泉（全国区の有名校はネットとかで牌譜が手にはいらんこともないけど、地方の強豪はネットにも牌譜がない）

泉（去年の大阪の県大会とかなら録画してあるんやけど、さすがに奈良の県大会のビデオなんてないで）

泉（穏乃も録画なんてしてないらしいし……唯一、晩成高校ってところが凄まじく強いらしい、ってことしか知らんみたいや）

泉（私と淡と咲は奈良に知り合いなんておらんしなぁ。これも穏乃のツテでどうにかするしかないやろな）

泉（……まだまだ問題あるけど、とにかくやるべきことは多いということや）

泉（大会まで残り三ヶ月……私達が目指すものは全国優勝）

泉（やれるだけのことを、やり続けるだけやな……！）

泉（頑張ろ！　部長任されとるし！）

和「……そういえば、憧や玄さんはどうしてますか？」

穏乃「……」ﾋﾟｸｯ

和「せっかく奈良に戻って来たんですから、またみんなに会いたい……」

淡「誰それ？」

和「私が奈良に居た頃、子供麻雀クラブという場所で知り合った友達です」

咲「へー」

穏乃「和……阿知賀の麻雀クラブは……」

穏乃「……阿知賀の麻雀クラブは、もう、ないんだ……」

和「――ええ！？　そ、そうなんですか……残念ですね……けど、皆と会えないわけじゃ」

穏乃「うん。晩成に行った憧なら会えないこともないと思うけど……」

穏乃「……玄さんには……」

和「……？」

■数日後

憧「シズ！　和！　久しぶりじゃない！」ｷﾞｭｰ

穏乃「わふっ！」

和「あ、憧、苦しいです……」

憧「見てたわよー、インターミドル優勝おめでとう」

和「ありがとうございます、ちょっと照れますね」


　ｷｬｯｷｬ

　　　ﾜｲﾜｲ



憧「穏乃はさ、和と全国で遊ぶんだーって言ってたのに、まさかその和が新設校に転校してくるなんて……神様もイタズラがすぎるわね」

和「ええ、本当に」

穏乃「憧はどうなの？　晩成、レギュラー取れそう？」

憧「無理無理。さすがに中学生レベルじゃベンチだってキツイわ」

穏乃「そっか……憧とも県大で遊びたかったのにな」

憧「ふふ、ごめんね。けど晩成高校は本当に強いわよ。余裕かましてると一発でハコっちゃうんだから」

穏乃「そうかもしれない。けど、私達だって強いから！　絶対に負けないよ！　絶対に全国に行って！」

和「全国で、優勝します」

憧「……」ﾆｶｯ

憧「それ無理――とは言わない。でも私は晩成高校麻雀部の人間だから、晩成を応援するわ」

憧「頑張りましょう！　お互いにね！」

穏乃「うん！」

和「はい」

憧（……玄……私達は違う道を歩んでるけど）

憧（どうやら、目指す場所は同じみたい）

憧（玄……リツベ女子か晩成、どちらかがきっと全国にいくから）

憧（会おうね、また……）

良かった、松実姉妹死んでなかった

■？

玄「へくしゅっ！」

？「ん？　風邪でも引いたんか玄ちゃん？」

？「気をつけやー。玄ちゃんはうちの秘密兵器なんやからなー」

玄「はっ、はい」

玄（誰か噂でもしてたのかな……？）

玄（ひょっとしたら……穏乃ちゃんたちだったりして……）

玄（お姉ちゃん、穏乃ちゃん、憧ちゃん、和ちゃん、先生、子供クラブのみんな）

玄（私、頑張ってるよ！）

玄「ツモ！　12000オール！」

■数カ月後

淡「わーい、新品の自動卓だー！」

咲「新しい雀牌も……わー、ピカピカ」

泉「これも部費を決めるじゃんけん大会で優勝した穏乃のお陰やな。ありがとな、穏乃」

穏乃「いやぁーそれほどでも」ﾃﾚﾃﾚ

和「けど本当にどうやったんですか？　じゃんけん必勝法とは一体……」

穏乃「うん、とある漫画の受け売りなんだけど」

穏乃「最初はグーで拳を前にださせて置いて、振り上げた瞬間と振り下ろす瞬間を見やすくする」

穏乃「大体どんな人でも振り下ろす瞬間には手を出す形を整えているから、それをじっくり観察すれば簡単に何を出すか読めるんだよ！」

和「」

泉（山育ち、すげぇ――！）

すいません間違えました　■数ヶ月後×　■数週間後

???｢私、山育ちで目はいいの｣

■さらに数週間後

泉「……」ﾀﾝ

咲「……」ﾋﾟｸｯ

咲「……」ﾀﾝ

泉（ん？）

穏乃「通れ！」ﾀﾝ

和「それが通るのなら」ﾀﾝ

泉「……」ﾀﾝ

咲「ロン、2600」

泉「ぐはっ！？　ってその待ち、さっきの私の捨て牌でも上がれてたんか」

咲「うん。でもさっきので上がっちゃうと、点数が高くて調整が難しくなるから」

泉「あかん、どうしてもプラマイゼロが止められん……」ｶﾞｸｯ

泉「……って、そういえば咲」

咲「はい？」

泉「咲はプラマイゼロを安目の上がりと振り込みで調整しとるけど」

泉「それ高目でも出来るんやんな？　最初の時に淡相手でもやってたし」

咲「うーん……序盤の局なら出来ないこともないと思うけど……」

咲「高目で上がるのはともかく、高目で振り込むのは相手が狙ってくれないと」

泉「……ふむ」

泉「なあ咲。ならこういう練習してみんか？」

咲「？」

泉「これが出来るようになれば、更に咲のプラマイゼロは上の次元にいけるかもしれん」

泉「名付けて、プラスマイナスゼロバリエーション2――“宮永スペシャル”！」

咲「み、宮永スペシャル……？」

淡「……名前ダサッ」

泉「は！？」

■さらにさらに数週間後

穏乃「いけー！」

和「残念ですが、通りません。ロン」

穏乃「がふっ」



泉「うーん、穏乃は少し思慮が浅い感じあるなぁ」

泉「メンタルとか動体視力とかは物凄いものあるけど、なんとかせんと」

淡「んー、確かに今の穏乃は少し微妙かもだけど」

淡「案外さ、私達の中で一番伸びしろがあるの――多分、穏乃じゃないかな」

泉「そうなんか？」

淡「うん。前は気のせいかなーって思ってたけど、最近はそれが徐々に強くなってきた」

淡「穏乃は――私と咲の天敵かも」ﾆﾔｯ

泉「穏乃が、淡と咲の天敵……？」


穏乃「くっそー！　まだだ、まだ諦めない！」

■もっと数週間後

和「……」ﾀﾝ

淡「悪いね、ロン」

和

すみませんミス

■もっと数週間後

和「……」ﾀﾝ

淡「悪いね、ロン」

和「くっ……」

泉「んー。なんでか和は実技でミスが多いな……」

泉「この前たまたま和がネット麻雀界で伝説になってるプレイヤーのどっちだって知った時はどっか納得してたんやけど」

泉「のどっちの時と現実世界の和ではどこかが違う……」

和「自分のことながら、何故でしょうね……」

泉「ひょっとすると、家でパソコン打ってる時ってなんか特殊なことしとるんか？」

和「いえ、特に……っ」ﾊｯ

泉「ん？」

和「……そういえば、家でネット麻雀をするときは大抵……」



和「私服ですね」

泉「私服……？　それは関係あるんやろか」

穏乃「でも、和の私服って結構独特なんだよね」

淡「へー、そうなんだ。独特？」

咲「見てみたいな、原村さんの私服……」

泉「もうこの際可能性は全部試そう。和、明日の部活は私服でやってくれんか？」

和「……わかりました」




和（私服）「ツモ……何故でしょう。今日は調子がいいですね」

咲「」

淡「」

泉「」

穏乃「……相変わらず、なんというか凄い……」

泉「」

泉「」ﾊｯ

泉（私服のセンスにはビビったけど、和のミスがめちゃくちゃ減少しとる……）

泉（ホンマに私服が和を安定させとるんか……？）

泉（やったら、和はこれからずっと私服で打ってもらって）

泉（いや駄目だ。大会規定ではたしか制服を来なアカンはず）

泉（けど改造制服で出てた奴は結構おる）

泉（……この制服を和の趣味に改造するなら、ええんかもしれん）

泉（まだ部費は余っとるし……よし）

泉「和、新しい制服一着買ったるからそれを趣味で改造してええで」

和「本当ですか？」

泉「うん。その改造制服を来てその調子を出せるよう訓練して欲しい」

和「わかりました」

■そして時は流れ、大会前日

泉「それじゃ、オーダーを発表するで。まず先鋒は淡」

淡「はいはーい」

泉「本当は淡は相手のエースと当たらんとこに置いて点を稼いで欲しかったんやけど……」

淡「弱いものいじめなんてやだ！　私は強い人と麻雀が打ちたいの！」

泉「ってことやから……」ﾊｧ

咲「けど淡ちゃんなら」

穏乃「どんな相手にも負けない！」

泉「……ふぅー、頼んだでうちのわがままエース！」

淡「りょーかい！」

泉「続いて、次逢は私。淡でついた勢いを潰さないように頑張るわ」

和「インターミドルの立役者がインターハイでも通じるところを見せましょう、泉さん」

泉「おう！」

泉「続いて中堅は咲」

咲「は、はい！」

泉「中盤までくれば流れがいいんか悪いんかがはっきりしてくる」

泉「私はデジタル派やけど、試合全体の流れはあると思っとるからな」

泉「雰囲気が良かったらそのまま例の宮永スペシャルで蹂躙してさらに勢いつかせてまえ」

泉「雰囲気が悪かったらそのまま例の宮永スペシャルで蹂躙して相手の勢い止めてまえ」

淡「どっちにしても蹂躙だね！」

泉「重要な役目や。頼んだで！　淡がエースなら咲はうちの裏エースなんやから！」

咲「が、頑張る！」

泉「続いて副将は和」

和「はい」

泉「副将はラストに繋ぐ重要な立ち位置」

泉「ここがコケたら後ろの大将は相当なプレッシャーや」

和「はい……！」

泉「インターミドルチャンピオンの底力見せてな！」

和「はい！」

泉「そして最後……大将穏乃！」

穏乃「うん！」

泉「大将の役割は言わずもがな」

泉「穏乃の精神力はここにいる誰もが知っとる」

泉「どんなに点差が開いても絶対に諦めないその意思！」

泉「私たちの命運、託した！」

穏乃「……！」ﾌﾞﾙﾌﾞﾙ

穏乃「託された！　よーし、やるぞおおおぉ！」

泉「私達は全員中学あがりの1年や」

泉「けど、証明してやろう――全国に！」

泉「最強は私達一年やと！　行くでー！　目指すは全国優勝や！」

全員「おー！」

■大会当日

泉「マジか……」

穏乃「所詮でいきなり！」

咲「40年間で39回もインターハイに行ってる超強豪……」

和「晩成高校と、ぶつかる」

淡「――はっ、上等」


　ｷｬｰ
　　　　ﾜｰ　ﾊﾞﾝｾｲｶﾞｷﾀｿﾞｰ


紀子「初戦は……っと」

日菜「荒薪高校に春日野高校……それにリツベ女子」

良子「リツベ女子ってあの新設校？　一年しかいないんでしょ？」

由華「でも油断大敵ですよ、上田先輩」

やえ「ふっ、にわかは相手にならんよ」

淡が全力出せばモブ高先鋒で飛ぶ

泉「……まぁ、いつかは当る相手なんや」

和「それが早いか遅いかの違いです」

咲「あの人達に勝てなきゃ、全国は行けない」

淡「むしろ美味しい相手だよ。無敵の王者なんてさ」

淡「引き立て役には、打ってつけ」ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ

穏乃（そうだっ。全国優勝が目標なのにここで臆してどうする！）

穏乃（気持ちを強く――！）

穏乃「倒そう！　晩成高校を！」



実況「それでは――県予選一回戦、スタートです！」


　――この時、誰も知るよしは無かった。

　麻雀の神様が、本当に実在するとしたのなら。

　この日、麻雀の神様に最も愛されていた存在が――そこに居たということを。


やえ「……にわかじゃなくても、相手にならんよ」ｺﾞｺﾞｺﾞｺﾞ

ファッ!?

実況「……せ、先鋒戦終了ー！　信じられない事態が起きましたー！」

解説「こんな試合展開は、現在女子高生最強と言われている宮永照以外――滅多にありません」



泉「……嘘、やろ？」

咲「……そんな……」

和「こんな、こんなオカルト……！」

穏乃「あ、淡……」



荒薪高校先鋒「うっ、うっ……うあああああぁ……っ！」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

荒薪高校　持ち点43000（-57000）

春日野高校先鋒「もうやだぁ……麻雀が、麻雀が……怖いっ！」

春日野高校　持ち点31000（-69000）

淡「嘘……嘘だよ……こんなの……」ｶﾞﾀｶﾞﾀ

淡「私が……この私が……最、下位なんて――！」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

リツベ女子　持ち点19000（-81000）

やえ「全く、どうしたことか――今日は少し」ｽｯ





やえ「牌に、愛されすぎた」

晩成高校　持ち点307000（+207000）




実況「王者晩成！　奈良県最強雀士小走やえ！」

実況「わずか半荘で！　207000点を稼ぎ尽くしたああああああぁ！」

次は泉……
あっ(お察し

■少し遡り、一回戦途中

淡（こい、つ――！）

やえ「ツモ――三倍満、12000オール」

淡（尋常じゃない――！）



実況「三倍満ツモオオオォ！」

実況「止まらない！　小走やえの親番が止まらない！」

実況「先ほどから満貫、跳満、倍満のオンパレード！」

実況「ドラとレア役が織りなす超高得点の縦横無尽！」

実況「こんな麻雀がありえるのか！？　これは本当に麻雀なのか！」


淡（サッキーみたいなオーラを感じないのに！）

淡（なんなの！？　この馬鹿げた麻雀！）

やえ「……」ﾌｯ

淡（私の絶対安全圏はちゃんと通じてるのに！）

淡（何かの能力者なの！？　それにしたって、こんなめちゃくちゃな能力は――！）

やえ「心配なさんな。これはただの運だけ……ちょっとばかし、ツキすぎてるが、な」

淡（思考を、読まれた――！？）

淡（……強い相手と打つのは、楽しいけど――！）

淡（これ以上、暴れさせとくのは全然面白く無い！）

淡（120％、全力出さなきゃ――負ける！）ﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞﾄﾞ

淡「ダブルリーチ！」


実況「大星選手、再びダブルリーチ！」

実況「止められるかこの無慈悲な蹂躙をー！」


やえ「ダブリーなんぞ、私には通じんよ――！」ｺﾞｯ

やえ「チー！」

淡（鳴いた――！？）

やえ「ポン！」

淡（また！？）

やえ「それもチー」

淡（えっ！？　何を……狙っ――！？）

やえ「……ポン」

淡（単騎待ち――！？　それも！）

　？　　　　1　　2　3　　　　　6　　6　　6　　8　　8　　8　　　7　　8　　9
　□　　　萬　萬　萬　　　　萬　萬　萬　　萬　萬　萬　　　萬　萬　萬

淡（あからさまな！　清一色か混一狙い――！　な、舐められてる――！）

荒薪高校先鋒（しかも8萬はドラ！）

春日野高校先鋒（あれが清一色だとすると、あがったらまた倍満！？）

荒薪高校先鋒（萬子と字牌は、だせるわけない――！）

やえ「ダブリーをかけなければ、下りれたのにな」ﾌｯ

淡「……！」

淡（……私のツモ番……）ｽｯ

淡（くっ……なんでこんな時に萬子かなぁ！　しかも超危険！）　つ5萬

淡（通れ――！）ﾀﾝ

やえ「悪いが、通らんよ――ツモ。清一色ドラ3、24000」

淡「そん……な……」


　こうして、やえは上がり続けた……。


■先鋒戦　終了後、廊下

淡「……」ﾌﾗﾌﾗ

泉「……淡、大丈夫か？」

淡「……」ﾎﾟﾛﾎﾟﾛ

淡「……」ｾｲﾌｸﾇｷﾞﾇｷﾞ

泉「淡っ！？　なんで制服を脱いで……！？」

淡「ごめん、ごめんなさいっ！」ﾀｯﾀｯﾀ

泉「淡！　……淡…………」

泉（淡が脱いだこの制服……涙で、濡れてる……）

泉（――）

咲「泉ちゃん！　淡ちゃんは！？」ﾀｯﾀｯﾀ

泉「さっき、泣いて走ってってもた」

咲「淡ちゃん……さっきの試合でショックを……」

泉「……！」ﾇｷﾞﾇｷﾞ

泉「咲、私の制服、預かっといて！　それと淡のことよろしく！」

咲「え！？　制服どうするの！？」

泉「淡のを、着る――！」

泉（淡の制服、ちょっと小さいな……）

荒薪高校次逢（どうするのさ、こんな点差……）ｶﾞﾀｶﾞﾀ

春日野高校次逢（無理だよ、もう……）

紀子（おいおい、下手すりゃ私で飛び終了あるぞ……）

紀子（どうしたんだよ今日のやえさん。あんな異常なの始めてみたぞ……）


実況「さあ、まもなく次鋒戦が始まります！」

実況「他を突き放した晩成高校！　他高はその絶望的なまでの点差を覆せるのか――！」


泉（……淡が負けたのは、しょうがない。試合で、真剣勝負や）

泉（私達が一番削られたのは、淡がダブリーをかけてってそこを狙われてたから……）

泉（……それは、それは文句をいわん。けどなぁ――！）ｷﾞﾘｯ

紀子（に、睨まれてる……）ﾋﾞｸｯ

泉（うちのエースを泣かせたのは、絶対に許さへん！）

泉（晩成との点差は288000――ははっ、笑えるくらいや）

泉（けどなぁ――絶対に覆す！）

泉（点がなくならん限り負けやないんや！　穏乃がよく言ってることや！）

泉（淡――任せとけ。お前のせいで負けたなんて――！）

泉（他の奴らに！　絶対に言わせんからな！）ｺﾞｯ


実況「それは！」

実況「次鋒戦、スタートです！」

つづく

一先ず終わりです
淡は全く強くないです。本編並の強さです
ただやえさんにムダヅモ並の幸運が取り憑いただけです。萎えた人はすみません

×
ミスです

淡は全く弱くないです。本編並の強さです
ただやえさんにムダヅモ並の幸運が取り憑いただけです。萎えた人はすみません