春香「プロデューサーさんのいじわるっ♪」(115)

アイマスのssです。
AC版か箱マスの春香endと、アニマス23~25話をご存じないと余計に訳が分からないssです。
ご注意ください。

撮影スタジオ。

カメラマン「目線こっちに下さ~い」

春香「あ、はい」

パシャッ!パシャッ!

カメラマン「OKで~す」

春香「ありがとうございました!」ペコリ

スタッフ「天海さん、この後時間ある?次回の打ち合わせしたいんだけど」

春香「ごめんなさい。この後はすぐに移動しないといけなくて……」

スタッフ「ありゃ、そうなんだ」

春香「すみません……」

スタッフ「いやいや、こっちの都合で言っただけだから。それにしても忙しいよねぇ」

カメラマン「お疲れ様、天海さん」

春香「あ、お疲れさまです」

カメラマン「今の話だけど、本当にちょっと前まで皆で選材写真撮りに来てたのにね」

スタッフ「あっという間に人気アイドルだもんなぁ~」

春香「い、いえいえっ、みんなはともかく、私なんかまだまだです」

スタッフ「ははっ、何言ってるの。今年の好感度調査でも1位だったじゃない」

カメラマン「ああ、そうでしたよね。2位に大差を付けて、文句無しの1位だもんなぁ」

春香「あはは……」

スタッフ「あれ、どうしたの?」

春香「えっと、その1位ってピンと来なくって……」

スタッフ「あははは! 案外本人はそんなもんなのかな」

カメラマン「あれ、天海さん、時間は大丈夫なの?」

春香「え……あああっ!そっ、それじゃあ私っ――!」

スタッフ「ああ、引き止めちゃって悪かったね」

カメラマン「次回もよろしく頼むよ、天海さん」

春香「はいっ!次回もよろしくお願いします!失礼しまーす!」タッタッタッ!

――バタン。

カメラマン「………どう思います?」

スタッフ「良い子なんだけど、アイドルとしては今一つかな」

カメラマン「ですよねぇ。ランキングとかにも、あんまり興味なさそうですし」

スタッフ「案外きっかけさえあれば、あっさり引退しちゃうかもしれないなぁ」

「えっと、次はCM撮影で、その後はTV収録……」


765プロ初のライブが成功して。

ファンからも覚えてもらえるようになって。

やりたかった仕事にも、少しずつ挑戦できるようになって。

みんな、すごく充実しています。


――でも、そんな中、私は……。


「今週も、ずっと一人のお仕事かぁ……」


ライブの惰性でお仕事をしているような、そんな感覚を引きずっていました。

「なんでこんなに、力が入らないんだろ……?」


少し前までは、あんなに張り切っていたのに。

せっかく、目指していたアイドルになれたのに。


「ううん。今年は年越しライブもあるんだし」


思い出すのは前回のライブ。

竜宮小町が到着するまで、みんなで必死に場を繋いで……。


「そうだよ。また、みんなで頑張らないと」


そう思うと、少しだけ力が湧いてくるような気がしました。

From:春香
『年越しライブの練習来れそう?よかったら来てね(^^)/』

雪歩「うぅ、今日も行けそうにないよぉ~」

真「どうしたの?」

雪歩「あ、真ちゃん。年越しライブの練習なんだけど……」

真「あ~……今日もちょっと、参加するの難しそうだよね?」

雪歩「わ、私っ!このお仕事ずっとやってみたくて、それでっ!」

真「雪歩。自分のやりたい仕事があるのは、みんな一緒だからさ」

雪歩「うん……ごめんね、変なこと言い出して……」

From:春香
『午後からライブの練習します!来れそうですか?』

あずさ「あらあら、年越しライブの練習ですって、どうしようかしら~」

伊織「ちょっ!これから歌番組の収録なのよ!?」

あずさ「えっと~、時間は午後からみたいだけど……」

亜美「無理だYO! ここの収録って、いっつも長引くじゃんかぁ!」

伊織「今日は私達がメインなんだし、目の前の仕事に集中すんのよ!」

あずさ「それもそうよね。今日のところは仕方ないかしら~」

From:春香
『今日はみんなお仕事早く終わるし、ちょっとだけ合わせてみない?』

やよい「あぅ~、今日は早く帰って夕ご飯を作らないと……」

真美「あー、それなら仕方ないっしょ」

やよい「で、でもぉ……」

真美「亜美からのメールで、竜宮小町も欠席だって言ってたし」

やよい「え、伊織ちゃん達も欠席なんだ~」

真美「うん。だから、行ってもみんなでは合わせらんないっしょ」

From:春香
『美希と真と練習してます!これたら来てね^^』

響「うあぁん!今日も無理だぞぉ~!」

貴音「年越しライブの練習、如何ともし難いですね」

響「自分、このあと取材が入っちゃって、それはどうしても受けたいんだ」

貴音「わたくしも、急遽こまーしゃるそんぐの収録が前倒しになったので」

響「仕方、ないよね……」

貴音「致し方ないでしょう……」

数日後、ダンススタジオ。

春香「おはようございまーす!」

シーン……。

春香「わ、私ったら、恥ずかし……」カァ~

――priri!piriri!

春香「あれ、美希からだ……もしもーし?」

美希『もしもし春香ぁ? 今日ね、舞台の練習あるんだけど、一緒に行かない?』

春香「え? 今日の舞台練習はスケジュールに入ってないよね?」

美希『うん。だから自主参加なの!』

春香「え! でもっ、今日は年越しライブの練習が……」

美希『そうだっけ? でも、ハニーからはOK出たよ?』

春香「ええっ!そんなぁっ!?」

美希『あとね、律子…さんが、今日もでこちゃん達来れない~って』

春香「え……そうなんだ……」

美希『うん。そのうちメールも回って来るんじゃないかな?』

春香「だっ、だったら!私達だけでも練習しようよ!」

美希『ん~……ミキ的には、春香はもうライブの練習しなくても大丈夫って思うな』

春香「そんなことないよぉ!」

美希『そんなことあるの。ミキ、みんなの練習見たけど春香が一番上手だよ?』

春香「そんなっ……それに、みんなで合わせなきゃ意味ないよ!」

美希『んーん、春香はもう曲に合わせて動けるから、あとはミキ達が合わせれば良いの』

春香「でもっ!」

美希『それにミキね、今度の舞台の主役、絶対にやりたいんだ』

美希『これは、ハニーがくれたチャンスだって思うから』

春香「美希……」

美希『主役のミキを、ハニーに見てもらいたいの!』

春香(そっか……今度の舞台は、美希にとってのチャンスなんだ……)

美希『だからね、今は舞台の方に集中したいんだ』

春香「うん、そっか………ごめん美希……私は、行けないや……ごめん」ピ!

ブツッ…ツーツー…。

春香「やっぱり、みんなの邪魔しちゃってるのかな……」

ガチャ!

千早「おはようございます!」

春香「ッ!! ち、千早ちゃん………おはよう!」

千早「ごめんなさい春香」ペコリ

春香「いきなりどうしたの!?」

千早「今日の練習だけど、急に海外レコーディングの打合せが入ってしまって」

春香「えっ!こんなところに居て大丈夫なの?」

千早「タクシーを拾えればなんとか……」

            ノヘ,_
    ,へ_ _, ,-==し/:. 入
  ノ"ミメ/".::::::::::::::::. ゙ヮ-‐ミ

  // ̄ソ .::::::::::: lヾlヽ::ヽ:::::zU
  |.:./:7(.:::::|:::|ヽ」lLH:_::::i::::: ゙l   いぇい!
 ノ:::|:::l{::.|」ム‐ ゛ ,,-、|::|:|:::: ノ   道端に生えてる草は食べられる草です!

 ヽ::::::人::l. f´`  _  |:|リ:ζ    畑に生えている草は美味しく食べられる草です!
 ,ゝ:冫 |:ハ、 <´ノ /ソ:::丿
 ヽ(_  lt|゙'ゝ┬ イ (τ"      ホント 貧乏は地獄です! うっう~~はいたーっち!!!

       r⌒ヘ__>ト、
      |:  ヾ   ゞ\ノヽ:    __  .      ri                   ri
      彳 ゝMarl| r‐ヽ_|_⊂////;`ゞ--―─-r| |                   / |
       ゞ  \  | [,|゙゙''―ll_l,,l,|,iノ二二二二│`""""""""""""|二;;二二;;二二二i≡二三三l
        /\   ゞ| |  _|_  _High To

春香「それなら早く!っていうか何で来ちゃったの!?」

千早「私、昨日の練習もドタキャンしちゃったから……」

春香「嬉しいけど、メールで大丈夫だよ?」

千早(本当は春香が心配で……なんて、余計に気を遣わせちゃうわよね)

春香「とにかく急がなきゃ!せっかくのチャンス――なん、だから……」

千早「は、春香?」

春香「……ううん、なんでもない。ほら、急がないと!」

千早「ええ。本当にごめんなさい。それじゃあ――」タタッ…

――バタン。

春香「…………えへへ、そうだよね」カチカチ…

From:雪歩
『ごめんね。練習行けそうにないよ…>_<。このお仕事は納得行くまでやりたくて…』

From:あずさ
『ごめんなさいね。今日は竜宮小町がメインだし、収録が長引いちゃいそうだから』

From:やよい
『ごめんなさい~;_; 今日は早く帰って晩ご飯を作らないといけないんです…』

From:響
『ごめん!このあと取材が入っちゃって、地元の情報誌に載る記事だし受けたいんだ』

春香(みんな、アイドルになった目的があって、目標があって、夢があって……)

春香「そうだよ。いつだったか、美希や千早ちゃんだって……」

――アイドルって何かしら。

春香「私は……」

――ミキ的には、キラキラ輝いてる人だと思うな!見た人みんながドキドキしちゃう感じ!

春香「私の……」

――人の心に、幸せを届けることができる人のことなのかもしれない。私はそれを歌でしたい。

春香「私の、夢は……」

――。

事務所。

春香「お疲れさまです……」

小鳥「あら、春香ちゃん。お疲れ様~」

春香「あの、プロデューサーさんは……?」

小鳥「今あっちで電話中なの。ほら、聞こえるでしょ?」

『はい。そこはお客さんの反応を見て……』

『そうです!それが皆で作り上げる765プロのライブなんですよ!』

春香(みんなで、作り上げる――)

小鳥「年越しライブの打ち合わせだから、少し長くなっちゃうと思うけど」

春香「………」

小鳥「春香ちゃん?」

春香「あ、いえ、今日はもう帰りますね」

小鳥「え、でも、何か用事があったんじゃ……」

春香「えへへ、もう大丈夫になりました!お疲れさまでしたー!」タッタッタッ!

バタン。

春香(そうだよ。やっぱり“みんなで”やらなくちゃ!)

――。

翌日、ダンススタジオ。

真「今日も全員では集まれなかったね」

響「仕方ないさー。自分も一時間後には出ないといけないし」

雪歩「私も、次のお仕事があるから長くいられないよぉ」

千早「こんな調子で大丈夫なのかしら……」

春香「………」

千早「春香?」

春香「これじゃ、ダメだよ……」

真「え……」

春香「このままじゃ、みんなバラバラで、ライブもダメになっちゃうよ!」

雪歩「で、でもぉ、みんなお仕事があるし……」

春香「今は、今だけは、年越しライブに集中できないかな!?」

貴音「春香……それはわがままというものです」

響「そっ、そうだぞ! 自分だってもっと練習したいけど、仕事が……」

春香「でも!前みたいにみんなで頑張らないと!」

真「今と前とじゃ状況が違うよ……」

春香「でも……それでもっ!」

律子「そこまでよ」

春香「ッ――律子、さん?」

律子「はぁ、プロデューサーに頼まれて迎えに来てみれば……春香、行くわよ」

春香「え……どこにですか?」

律子「舞台の練習よ。美希はちゃんと自主参加してるわよ」

春香「そんな!今日は年越しライブの練習をみんなでって!」

律子「分ってる。でも、これは春香にとってチャンスなの」

律子「それに、プロデューサーの意向でもあるわ」

春香「ッ!! そんなっ………だって、プロデューサーさんは……」

千早「は、春香……」

律子「良い?さっき春香は、今だけはライブの練習をって言ったけど」

春香「はい……」

律子「お願いだから、今だけは舞台の方に集中して」

春香(――私、ほんと何やってるんだろ………)

――。

数日後、舞台練習。

美希「ねぇ、春香。最近はライブ練習のお知らせメールしてないの?」

春香「うん……しばらくは控えるように言われちゃって……えへへ」

美希「そーなんだ……」

春香「あ、えっと、話は変わるけど、この舞台、美希と一緒で良かったよ」

美希「そうなの?」

春香「うん。私一人だったら心細くて……一緒に頑張ろうね!」

美希「うーん、それはやなの」

春香「え……」

美希「前にも言ったよね。ミキ、絶対に主役をやりたいんだ」

春香「う、うん、でもさ……」

美希「だから、一緒に頑張るっていうのは違うんじゃないかな」

春香「み、美希……」

美希「だからね春香――」

スタッフ「すみませーん。次、星井さんからでお願いしまーす!」

支援

春香「…………」トボトボ…


――だからね春香、ミキ、負けないよ。


春香(私だけ、そういう覚悟ができてないのかな……)トボトボ…

 「おーい、美希~、春香~」

 「ハニッ……プロデューサー♪」

春香「プロデューサーさん……そうだ、プロデューサーさんに相談すればっ」クルッ

グラッ――。

春香「あれ?」フラッ…

 「ッ!! 春香ぁあっ!!」バッ!

――ドォンッ!!


スタッフ「オ、オイッ!誰か落ちたぞ!!」

スタッフ「なんでセリが下がってるんだよ!?」

美希「はっ、ハ――~ッ!!」ドタドタ

スタッフ「星井さんっ!危ないですから下がって!」

監督「救急車だ!早くしろ!」

春香(ぷろ、でゅーさ……さん……?)

――

病院。

亜美・真美「「りっちゃん!」」ドタドタ!

千早「律子!」タッタッタッ!

律子「しーっ…!気持ちは分かるけど、静かに……!」

雪歩「あのねっ、さっきお医者さんが来て、治療は終わったって!」

千早「そう……なら、もう大丈夫なのね?」

貴音「それが、頭を打っているようで……」

響「お医者さんは、いつ意識が戻るか分からないって言ってたぞ……」

伊織「もし目を覚まさなかったら、この病院潰してやるんだから……」

真「い、伊織ぃ……って、あれ、そういえば美希は?」

小鳥「美希ちゃんは、現場からずっと付き添っていたから……」

律子「ずっと気を張ってたし、今は受付のところで休ませてるわ」

あずさ「一人で大丈夫でしょうか?」

小鳥「いえ、一応一人ではないんですけど……」

律子「でも、もう一人もあの様子じゃ……」

小鳥「私、ちょっと見てきますね」

千早(春香……)

――。

後日、事務所。

ガチャ。

律子「お疲れ様です」

小鳥「あ、お帰りなさい律子さん」

律子「ふぅ、伊織達は現場から直帰させました」

小鳥「みんなは大丈夫そうですか?」

律子「あの子達の方がよっぽど強いです。私なんか、力が抜けちゃって……」

小鳥「そうですね、私も同じです……」

小鳥「今日は病院には?」

律子「朝行って来ました」

小鳥「じゃあ、プロデューサーさんもまだ……?」

律子「はい……」

小鳥「そうですか……」

律子「そのプロデューサーの担当の子達はどうですか?」

小鳥「社長が頑張ってくれてます。ふふっ、現役の頃を思い出すって」

律子「それなら安心ですね」

律子「それと、年越しライブの練習はどんな感じでしょう?」

小鳥「えっと、私も直接は知らないんですけど……」

律子「あ、そうですよね。私ったら……すみません」

小鳥「い、いえいえっ、今日は真ちゃんと響ちゃんが来てたみたいですよ?」

律子「二人だけ……やっぱり、出席率が悪いですね」

小鳥「春香ちゃんも心配してましたけど、全体練習がなくて大丈夫でしょうか」

律子「みんな、今は自分達の仕事を一生懸命やってますから、仕方ないですよ」

――。

病室。

春香「ごめんなさい…グスッ…ごめんなさい……っ」

P「春香が謝ることなんて、何にもないんだぞ?」

春香「ひッ、ぅ……ふぇぇ…ぶろ゛でゅーざッ…ざ、ん」ポロポロ…

P「おいおい……ほら、こっちおいで」

春香「うっ…っ…ぅわあぁあぁああぁあん!!」

P「よしよし」ナデナデ

春香(ぷろでゅーさーさん、ぷろでゅーさーさんっ……!)

春香「ひっ…うぅ……ぐすっ……」

P「少しは落ち着いたか?」

春香「あ゛ぃ…ごぇん、なざぃ……」

P「あはは、何謝ってるんだよ」

春香「わた…ひっ、の……せぇ、で……」

P「ほら、アイドルが泣いて良いのは、ライブの終わりと引退のときだぞ?」

春香「ふぁい……」

P「とにかく、今は春香もゆっくり休むんだ」ポムポム

――

翌日、ダンススタジオ。

千早「やっぱり、人数が集まらないわね」

貴音「致し方ないでしょう。皆、それぞれの仕事があります」

真「それにさ、今日はまだ来てる方だよ」

雪歩「そうだよね。春香ちゃんがいたら、喜んだかな……」

真美「はるるん……」

全員「「「「…………」」」」

真「ボク達大丈夫かな……。今はプロデューサーもいないし……」

貴音「なればこそ、今はわたくし達だけでも精一杯練習すべきです」

真美「はるるんが復活したとき、すぐに合わせられるようにしなきゃね!」

雪歩「私、初ライブの練習のとき足引っ張っちゃったし、今度こそやりますぅ!」

千早(春香。私達頑張るから……)

真美「んじゃ、曲かけるYO!」

千早(だから、あなたも早く戻って来て――)

――。

病室。

春香「あの、こんにちは……」

P「ん? やぁ、春香」

春香「え、えっと……」

春香(うぅ、昨日あんなに縋り付いて泣いちゃったし、恥ずかしぃ……)

P「どうしたんだ、入らないのか?」

春香「あ、いえ、失礼しマスっ!」

P「ははっ、何緊張してるんだよ」

春香「キ、緊張してないですヨ?」

P「う~ん……あ、わかったぞ!」

春香「ふぇ!?」

P「昨日あんなに泣いちゃったからなぁ~?」ニヤニヤ

春香「プ、プロデューサーさんっ、いじわるですよぉ!」

P「あはははっ!」

春香「うぅ~」ジトー

P「おっと、そんな可愛い上目遣いで睨まないでくれヨ」ニヤニヤ

春香「た、性質が悪いですよぉ~!」カァ~

P「ははっ、じゃあ、お詫びに緊張を解くおまじないをしよう」

春香「おまじないですか?」

P「ああ、前にもやったろ? まずは手を出してぇ~」

春香「は、はい」

P「人という字を書いてぇ~」

春香「く、くすぐったいです……プロデューサーさんっ」

P「そして今書いた人の字を~~飲み込む!!」

春香「ふぇ!?い、いきなり飲み込めませんよぉ~」

P「おいおい、あの時と同じだなぁ……ほら、お水」

春香「あ、どうも……んぐんぐ……」

春香(…………ん?)

――

翌日、収録現場。

スタッフ「ねぇねぇ、天海さんってお休み中なんでしょ?大丈夫なの?」

亜美「えっ!?あ、あぁ~、えっとぉ~」

亜美「(ど→しよ、いおりん!?)」ヒソヒソ

伊織「(あんま言っちゃダメって、律子に言われてるんだからね!)」ヒソヒソ

あずさ「あの、すみません。私達も詳しいことは……」

スタッフ「あ、そうだよねぇ。これだけ別々に仕事してたら分かるわけないよねぇ」

伊織「なっ! ち、ちがっ……!」

あずさ「いえ、そういう訳では、ないんですけど……」

ロケ現場。

スタッフ「同じ事務所って言っても、ファン獲得のライバルでもあるわけだし」

響「えっ!?」

スタッフ「自分達の仕事もある訳だから、お互いの状況なんて分かんないよね」

やよい「えっと、そのぉ……」

スタッフ「まぁ、個人で売れてるんだし、765プロってことに拘らなくてもねぇ」

響「そ、そんなことっ!」

やよい「ない、です……」

――。

病室。

春香「こんにちは、プロデューサーさん」

P「やぁ、春香」

春香「えへへ、今日はお菓子を作って来たんです」

P「おお!って、嬉しいけど、そんなに気を使わなくて良いんだぞ?」

春香「好きでやってることですから。じゃ~ん、今日はフルーツケーキですよ♪」

P「おっ、フルーツケーキといえば――」

春香「どうかしましたか?」

P「いやさ、前に春香が寝不足になるくらいレシピで悩んでたな~って」

春香「え?」

P「ちょっと思い出してな。それじゃ、早速いただきまーす!」

春香「あ、どうぞどうぞ」

P「モグモグ……うん!相変わらず、春香のお菓子は美味しいな!」

春香「えへへ、お菓子作りなら任せてください!」エッヘン!

P「あとは、たまにやるドジを直せば完璧だな~」ニヤニヤ

春香「うっ……それは自信ないですよぉ」

P「おいおい、自信ないのかよ」

春香「だって、私ドジですし……」

P「いつだったか、間違えて焦げた方のクッキー持って来ちゃったしな~」

春香「うぅ~、プロデューサーさぁん……」

P「あはは、ごめんごめん、いじめすぎたかな?」ナデナデ

春香「そ、そうですよぉ………えへへ」

春香(――って、あれ?)

――

翌日、社長室。

社長「どうかね律子君。アイドル達の様子は?」

律子「仕事はなんとか……ですが、やっぱり全体的に沈んでいますね」

社長「そうか、今は彼も天海君も不在だからね」

律子「はい。特に春香は、前回のライブでもムードメーカーでしたから」

社長「うむ。吉澤君も指摘していたが、彼女の明るさには随分救われた」

律子「吉澤記者が……ええ。本当にその通りですよ」

社長「だから、それだけに残念な知らせがあるのだよ」

社長「天海君の出演している番組側から、出演者変更の連絡が来た」

律子「そっ、それって!春香は降板っていうことですか!?」

社長「そこまではっきりとは言わなかったが、事実上の降板だろう」

律子「そんな……」

社長「今のところ先方は、代わりのアイドルを765プロからと言ってくれている」

律子「そう、ですか………仕方ないこと、なんですよね……?」

社長「厳しいかもしれないが、この世界では至極当然のことだ」

律子(春香……)

――。

病室。

春香「こんにちは、プロデューサーさん」

P「やぁ、春香。お疲れ様」

春香「ぁ……」

P「ん、どうした?」

春香「な、なんでもないです……アハハ」

P「そうか?」

春香「それよりも、今日はクッキーを焼いて来ました!どうぞ!」

P「お、おお。それじゃあ、早速頂こうかな。あ~…む」

P「ムグムグ……うん、いつも通り美味いよ」

春香「へへっ、良かったぁ~♪」

P「春香って、小さい頃はお菓子職人になるのが夢だったんだもんな」

春香「え……」

P「どうかしたか?」

春香(私、プロデューサーさんにそんな話したかなぁ?)

P「お~い、春香ぁ~」

春香「あっ、すみません」

P「いやいや……そういえば、ここ最近、仕事の方はどうだなんだ?」

春香「えっと……一人のお仕事が多いですけど、なんとか……」

P「ふむ、春香は皆とする仕事が好きかい?」

春香「それは…………好き、ですけど……」

P「うん、そうかそうか」

春香(でも、元はと言えば、私がそのことで悩んでた所為で……)

P「それはすごく良いことだ。春香の魅力の一つだな」

春香「魅力、ですか?」

P「ああ。皆との時間を大切に思えるんだ、春香は優しいよ」

春香「そんなこと……」

P「そういえば、春香が皆で歌うのが好きなのって、歌のお姉さんとの思い出だったよな」

春香「歌の、お姉さん……?」

P「小さい頃に、公園で知り合ったお姉さんと友達と、皆で歌を歌ったって」

春香(っ――…………)

P「それで、通りがかった人達が聞いて拍手をしてくれたんだよな」


(あぁ……そっか……)

(そういうことだったんだ……)


たとえば、初めてのミーティング。

一緒に繁華街を歩いて、ケーキやお菓子、小さい頃の夢の話をした。


『パティシエになるのが、夢だったりしたこともあったんです』

『今からでもなれるさ。どうだ春香、職人を目指したら?』

『ええっ!今からですか!?でも私、今は歌が大事だし……』

『いやいや、歌のパティシエを目指すっていうのはどうかな?』


ちょっぴりキザな言い回しだったけど、嬉しくて舞い上がったのを覚えてる。

(他にも……)


たとえば、昼の公園。

歌を頑張る理由を聞かれて、はじめて他人に話した。


『お姉さんと友達とみんなで歌ってると、周りに人が集まって来て』

『もしかして、褒められた?』

『はい!みんなに拍手してもらえて、ふふふっ』

『それが、春香が歌を頑張るきっかけになったんだな』


あなたに話して、自分がアイドルを目指した理由を、自覚したのを覚えてる。

少し無理して頑張ったCDショップの店頭販売も。

いきなり好きな男性を聞かれた雑誌取材の練習も。

ひたすら走り抜いたPV撮影も。

はじめてドラマに出演させてもらうことになったレコーディングも。

そして、最後のドーム公演も。

どの時にも、私の側には、プロデューサーさんが居てくれたのを覚えてる。


(そうだよ。アイドルランキングが上がる度に喜んで、二人で新しい目標を立てたっけ)


……。

P「つまりさ、アイドルを目指した理由が“皆で歌いたい”っていう――」

春香「ふふっ」

P「春香?」

春香「でも結局、そのことで悩んで、みんなに迷惑掛けちゃいました」

P「そうか?」

春香「はい、心配も掛けちゃってます。今も、こうしてる間にも」

P「……ははっ、気付いたのか?」

春香「気付いちゃいました」

春香「これは、私の夢なんですね」


P「ああ、その通りだ」

P「春香は、舞台から落ちて病院に運ばれたんだ」

春香「そして、私は今もベッドの上なんですね」

P「ああ。でも、どうして気が付いたんだ?」

春香「だって、小さい頃の話なんて、プロデューサーさんにしたことないですから」

P「そうだな。ここでの春香は、担当プロデューサーとそんな話はしていない」

春香「でも不思議です」

P「うん?」

春香「体験していないのに、あなたとの思い出は、ずっと側にあったんですね」

P「俺との記憶は、天海春香のルーツでもあるからな、きっとどこかで覚えてるのさ」

春香「うふっ、ちょっとキザですよ、プロデューサーさん♪」

P「本当だな、確かにキザだ、あはははは!」

春香「もう、プロデューサーさんったら……」

P「いやぁ、あははっ!」

春香「うふふっ」

P「ふぅ………なぁ、春香」

春香「………はい」

P「一つ、わがままを言わせてくれるか?」

春香「はい」

P「俺は、春香にトップアイドルになってほしい」

春香「はい」

P「他の誰でもない。春香になってほしいんだ」

春香「………」

P「聞き届けてくれるかい?」

春香「もう……本当にわがままですよ、プロデューサーさん」

春香「でも、聞いちゃいます。ちょっとシャクですけど!」

P「え、癪?」

春香「だって、自分を振った人のわがままを聞くんですよ?」

P「なっ!……は、春香?」

春香「全部思い出しちゃいました。よくも振ってくれましたね?」

P「いやっ!あれは春香の将来を思ってだなぁ!」

春香「むぅ~っ………ふふっ、わかってますよ」

春香「だから、今度もプロデューサーさんの言うこと聞いちゃいます」

P「良いのか? それはきっと、ここの春香が望む“皆で”じゃないぞ」

春香「そうですね……うふふっ」

P「春香?」

春香「前に、美希と千早ちゃんと、アイドルってなんだろうって話したんです」

春香「そのとき、二人はちゃんと答えを持っていたのに、私は答えられませんでした」

P「アイドルとは……か。二人はなんて答えたんだ?」

春香「美希はキラキラ輝いてる人。千早ちゃんは幸せを届ける人。あと、それを歌でしたいとも」

P「なるほど。言い換えれば、アイドルとしての夢や目標ってことだもんな」

春香「はい。そして私の夢は、“みんなで楽しく歌うこと”でした」

P「春香の夢は、前回のライブで実現していたわけだ」

春香「でも、思いがけず夢が形になって、そのあとは力が抜けちゃってましたけど」

P「仕方ないさ。それに、周りの変化もあって戸惑もあったんだろう」

春香「えへへ、白状すると、競争とかランキングとか、ついて行けてませんでした」

P「ははっ、正直だな。今も同じ気持ちかい?」

春香「いいえ。おかげさまで、新しい夢を見つけましたから」

春香「私の夢は、思い描くアイドルは、あなたの理想のアイドルです」

P「あぁ――………ありがとう、春香」

春香「いいえ、こちらこそです」

P「やり方は分るか?」

春香「あなたから教わりましたから」

P「そうか、じゃあ……」


“行っておいで、春香。”


春香「っ……はい!行ってきますっ、プロデューサーさん!」

――

病室。

春香「う…ぅ……」

赤羽根P「は、春香? 春香っ!?」

春香「うぅ……?」

赤羽根P「春香っ!目を覚ましたのかっ!?」

春香「ぷろでゅーさ、さん?」

赤羽根P「ちょ、ちょっと待ってろ!今お医者さん呼ぶからな!」

春香(……私、頑張りますよ、プロデューサーさん)

――。

数週間後。

年越しライブ当日、控え室。

響「いよいよだな、年越しライブ!」

真「うん。歌もダンスもなんとか形になったし」

雪歩「でも、あんまり練習できなかったし、ちょっと不安だよぉ」

貴音「確かに、前回のらいぶに比べ、練習量が少なかったですね」

真美「そんなのへ→きだYO!ステージに立っちゃえばなんとかなるって!」

あずさ「それもそうよね。ここまで来たら、頑張るしかないわよね」

亜美「ってゆ→か、はるるんが出られないのはイタイYO!」

美希「まったくなの。春香が一番上手なのにぃ……」

春香「うぅ……めんぼくないです……」

伊織「ま、今回は伊織ちゃんの華麗なステージを見てることね!」

千早「私達、春香の分まで頑張ってくるから」

やよい「うっうー!がんばりますよー!」

春香「えへへ、ありがとう……」

赤羽根P「春香……」

春香「あ、お疲れ様です、プロデューサーさん」

赤羽根P「改めてすまなかった」

春香「へ?」

赤羽根P「今回のこと、俺がちゃんとしていれば、こんなことには……」

春香「なっ、何言ってるんですか! 舞台から落ちたのは、完全に私のドジですよ!?」

律子「いや、それも違うから、あれは完全に舞台側の不備よ」

赤羽根P「それだけじゃないんだ。事故の後、俺はプロデューサーの仕事まで放棄していた」

真「でも、それこそずっと春香の付き添いだったわけですし」

雪歩「そうですよぉ~」

赤羽根P「いや、皆にもたくさん迷惑を掛けた。本当にすまなかった!」

伊織「べ、別に、あんた一人抜けたくらい、どってことなかったわよ!」

響「そうだぞ! 自分は完璧だし、なんくるなかったさー!」

貴音「どうか気に病まれないよう、プロデューサー」

赤羽根P「み、皆……」

真美「あれあれぇ~、兄ちゃん涙目ぇ→?」

亜美「え→!見せて見せてぇ~!」

赤羽根P「うわっ!?ちょっ!やめっ……!!」

やよい「あ、プロデューサー赤くなってますー」

あずさ「あらあら、可愛らしいですね~」

貴音「ふふっ、まことその通りですね」

赤羽根P「か、勘弁してくれ……」

律子「はいはい、遊んでないで、ちゃんと身体をほぐしておくのよー」

小鳥「あと、今の内に何かお腹の中に入れておいてねー」

全員「「「「はーい!」」」」

美希「ミキ、おにぎり食べたいの!」

律子「あ、食べ物も飲み物も、今は別の控え室に置いてあるんだったわ」

美希「えぇー」

春香「私が案内するよ。行こう、美希」

美希「うん!」

別室。

美希「もぐもぐ……」

春香「はい、飲み物もどうぞ」

美希「ありがとなの」

春香「いよいよだね、年越しライブ」

美希「うん。いっぱいキラキラしたミキを、みんなに見てもらうの!」

春香「そうだね。お客さん全員の記憶に残るライブになると良いよね」

美希「………春香?」

春香「ん、なに?」

美希「春香、なんだか変わったの」

春香「え?」

美希「落ち着いてるって言うか、すごくまっすぐ~ってカンジ」

春香「そうかな……」

美希「うん。なにかあったの?」

春香「……前に、アイドルってなんだろうって、話したことあったよね」

美希「あ、うん」

春香「私もね、答えを見つけたんだ」

美希「ふぅん、ぜひ教えてほしいの!」

春香「それはヒミツです♪」

美希「えぇー、そんなのってないの~」

春香「ごめんね。でも……」

美希「春香?」

春香「私、負けないよ」

美希「……うんっ、ミキも負けないの!」

――。

765プロ初の年越しライブ。

みんな練習不足を心配してたけど、そんなこと全然なくって。

最後までしっかりと、最高のステージを見せてくれました。

律子さんは、『プロなんだから当然!』って言ってたけど。

お客さんも喜んでくれて。

ファンもたくさん増えて。

メディアにも注目されて。

私には、みんなが眩し過ぎるくらい輝いて見えました。

新年になって。

年越しライブの評判もあって、765プロがますます忙しくなる中。

私はというと、怪我の治療やら検査やらで、しばらくお仕事はお休み。

お仕事は減ってくし、ファンからは忘れられちゃうし、置いてけぼりです。

それに、再起ってすごくすごく大変で、正直へこたれちゃいそうでした……。


「……でも、約束ですからね――

61週後、ドーム公演。


――私、ここまで来ましたよ、プロデューサーさん」


かつて訪れた夢のステージ。

前と違うのは、彼が隣にいないこと。


(あなたとやったことを思い出しながら、一つ一つ登って来たんです)


営業、取材、撮影、レコーディング、ライブ……。

本来ならば知りえない、天海春香の原初の記憶。


(私は、あなたの理想のアイドルになれましたか?)


“………。”


「ちぇ、まだダメですかぁ~……ふふっ」


そうして、今日も答えは得られない。――ステージの幕が上がる。

ドーム公演、ゲスト控室。

千早「すごい歓声ね、地響きがしてる……」

美希「相変わらず、春香さんのライブはすごいの!」

赤羽根P「春香のライブは、遠い席のお客さんも楽しめるように工夫されてるからな」

千早「だから、いつも春香は、顔を少し上げて声が通る歌い方をしているんですね」

赤羽根P「ああ。実に春香らしい気遣いだよ」

美希「うーん……ミキ、それはちょっと違うって思うな」

千早「どういうことなの?」

美希「春香さんはね、もっと遠くにいる誰かに向けて歌ってるの」

千早「遠くにいる、誰か?」

美希「そうなの。いろんな気持ちを込めてね、歌ってるの」

千早「なんだか、少し悲しい感じね……」

美希「でもね、だからこそ、みんな応援したくなっちゃうんだって思うな」

千早「春香を応援したくなるのは、歌の表現効果なんじゃなくて、ただ純粋に一生懸命だから……」

美希「うん!ミキね、春香さんに負けないよって言ったのに、すっかりファンになっちゃったの!」

千早「そうね。私も同じようなものかしら、ふふっ」

スタッフ「如月さん、星井さん、準備の方お願いしまーす!」

ステージ。

春香『みんなー!今日は、765プロから特別ゲストが来てるんですよー!』

春香『早速呼んじゃいますね~……千早ちゃーん!美希ぃー!』

千早『皆さんっ、こんばんわ!』

美希『みんなよろしくねっ☆ そして春香さん、会いたかったのー!!』ダキッ

春香『うわわ!?って、やっぱり“さん”付けは変だよぉ~』

美希『いーの!ミキ、春香さんのこと尊敬してるんだから♪』

千早『二人とも、お客さんに笑われてるわよ?』

春香『うぅ……つ、次の曲!次の曲行きますよーっ!』

――。

春、昼の公園。

満開の桜に彩られた公園には、子供達の元気な歌声が響いていた。


「楽しそうだなぁ~♪」


以前の自分だったら、一体どんな風に見えていただろう。

夢や目標を失ったまま、もしかしたら幼い頃の幻覚でも見ていたかもしれない。

そして、失意の私は、幼い頃の自分に向けこう尋ねるのだ。


 『ねぇ、私はどうしてアイドルになりたかったの?』

 『あいどるになってね、みんなでたのしく、おうたをうたうの!』


きっとこれも一つの答えで、一つの結末に辿り着けたに違いない。

「でも、もう思い出しちゃったから……」


歌のお姉さん。一緒に歌った友達。拍手してくれた人々。

そして、それを思い出させてくれた、あの人のこと。


「プロデューサーさん……」


私はこれからも、色々な場所でアイドルをするでしょう。

そして、その場所では、あなたを思い出すことはないのかもしれない。

でも、それでも、『天海春香』が最後に戻る場所は――。

「いつか、アイドルを辞めたときは、あなたのところへ戻っても良いですよね……」


“ああ。そのときは、あの話の続きをしよう。

 春香の気持ちが、変わっていなければね――”


「うふふっ♪」


天を仰げば、私を照らす、あの人の笑顔みたいな太陽が輝いている。

私は目を細め、遥か彼方のあなたに向けて。


春香「プロデューサーさんのいじわるっ♪」


――。

epilogue

長い長い時が経ち、誰もが一人の少女がアイドルであったことを忘れ去った頃。


「色んなことがあったなぁ~」


一人の少女が、街灯に照らし出された夜道を歩いていた。


「最初は、765プロってアイドル9人だったんだよねぇ」


懐かしい夜風を頬に感じ、遠い昔に思いを馳せる。


「そこに、美希や響、貴音さんが加わって――」

「そういえば、美希が961プロに移籍しちゃったこともあったなぁ」

「律子さんがプロデューサーで、伊織達とフェスで競争したりもしたっけ」


それらは、全てが終わらなければ見ることのできない、思い出の俯瞰風景。

「長かったけど、やっと戻って来れたんだ」


街灯に照らし出された夜道。

ここはかつて、彼女が大切な人と歩き、別れた場所。


「ここで終わって、始まったんだよね……」


多くの思い出が色褪せる中、それだけは鮮明に覚えている。

天海春香のルーツ。

大切な人と歩んだ、光り輝く61週間。

彼女が生まれ、アイドルとなった、一番最初の物語。

「やぁ、春香。お疲れ様」


待ち望んだ声。


「ふふっ、お疲れさまです、プロデューサーさん♪」


長い長い時を繋ぐ挨拶。


「私……トップアイドルになれてましたか?」

「ああ、もちろんだ。春香はトップアイドルだった!」


会話は、昨日まで一緒だったかのように軽やかだった。

「えへへ、私なんかでも、トップアイドルになれたんですね」

「当然だよ。何せ春香は、俺が唯一、感情を押し殺してでも業界に残したアイドルなんだから」

「え……? あの、それって――」

「俺と春香の物語だけは、あの時に終わってないからな」

「プロデューサーさん?」

「だから、今度は俺から言わせてもらうよ」


向き合った二人は、あの時と全く同じ姿で。

違うとするなら、それは話の結末。

遠い昔に始まった物語は、


「春香」


長い長い時を経て、


「は、はい」


忘れ去られたこの場所で、


「俺さ、ずっと春香のことが――」


ようやく終わりを迎える。



アイドルだった少女の、初恋の成就によって――。


END

おわりです。お目汚し大変失礼しました。

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