エレン「なんだ?みんなソワソワして……」(161)

エレン「何かあったのか?」

ライナー「お前……知らないのか?」

エレン「えっ」

ライナー「今日の夕食だよ」

エレン「夕食……?」

ライナー「今日の夕食にはな」

ライナー「牛肉が出るんだ」

エレン「ぎゅ、牛肉!?」

ライナー「ああ……しかも、とびっきりの良い肉らしい」

エレン「嘘だろ!?ただでさえ肉なんて貴重なのに……」

ライナー「それがな、昔から訓練兵には一度だけ……」

ライナー「そういう行事があるらしいんだ」

エレン「……!」

ライナー「で、今日がその日ってわけさ」

エレン「な、なるほど……」

エレン「それでみんなあんなに……」

ライナー「それだけじゃないぜ」

エレン「?」

ライナー「見ろよ」

サシャ「……ククク」

サシャ「ゲヘ……グヘヘヘ……」

サシャ「ムヒョオォォ……アバババァ……」






エレン「……いつにも増して頭イッてんな」

ライナー「無理もないさ。牛肉なんて滅多にお目にかかれないからな」

ライナー「あいつはその為に入隊したってウワサもあるくらいだ」

エレン「……」

ライナー「ま、お前もせいぜい気をつけろよ」

夕食


教官「いいか、よく聞け!」

教官「今夜、貴様らには特別に!」

教官「牛肉が振舞われる!」

ライナー「……」

ベルトルト「……」

教官「本来、貴様らごときに振る舞うなど!」

教官「もったいことこの上ない!」

アニ「……」

ジャン「……」

教官「ありがたく食せ!」

バタン!


ユミル「……」

クリスタ「……」

コニー「……」

マルコ「……」

トーマス「……」

うおおおおおおおおおおおおお!!!!




ジャン「!!」ガツガツガツガツ

ライナー「うおおおっ!!」ガツガツガツガツ

コニー「おいこらサシャ!こっちくんな!」

サシャ「あひィィィィィィ!!」

ユミル「ん?クリスタ、もう食べたのか?」

クリスタ「え……あ、ああ、いつの間にかなくなっちゃった」

ユミル「……盗られたのか?」

クリスタ「みたいだね……」

ユミル「……」

クリスタ「はは、別にいいよ」

クリスタ「私、そんなにお肉好きじゃないし……」

ホグッ


クリスタ「んぐっ……!?」

ユミル「ちっ……」

クリスタ「ふ、ふいう……?(ユ、ユミル……?)」

ユミル「最後の一口だ」

ユミル「味わって食え」

クリスタ「……!」

クリスタ「あいはほう……(ありがとう……)」

エレン「ん?どうしたんだよミカサ」

エレン「全然食べてないじゃないか」

ミカサ「私はいらない」

ミカサ「エレンにあげる」

エレン「あ、あげるって……牛肉嫌いなのか?」

ミカサ「ううん、好き」

エレン「じゃあ食えよ!またとないチャンスだぞ!」

ミカサ「エレンに食べてほしい」

エレン「は!?何言って……」

ミカサ「私は……」

ミカサ「私はエレンが……」

ぱくっ


エレン「!?」

サシャ「んんんんんんんん!!」モグモグモグモグ モグモグ

エレン「サ、サシャ!?」

サシャ「あひはほおおおお!!(ありがとおおおお!!)」

サシャ「いははいっへいっへはひはほんへ!(要らないって言ってましたもんね!)」

エレン「お、お前な!」

エレン「少しは節操ってもんを……」

ドゴッ


サシャ「!?」

サシャ「ゲフッ……ゲホッゲホッゲホッ……!!」

エレン「……!」

ミカサ「……」

エレン「ミ、ミカサ……!?」

シーン……

ザワザワ……




ライナー「(まずい……)」

ライナー「おい!ミカサ、やめろ!」

ミカサ「……」

ライナー「おわっ!?」ドゴッ

ミカサ「……邪魔しないで」

ライナー「……!」

ジャン「(め、目が……)」

コニー「(本気だ……)」

ミカサ「返して」

サシャ「は、はい……?」

ミカサ「肉を返して」

ホグッ


サシャ「!!?」

ミカサ「返しなさい」

ミカサ「早く」

サシャ「あ、あが……」

サシャ「は、はいは……(は、吐いちゃ……)」

パシン!!


ミカサ「!!」

エレン「いい加減にしろ!!」

エレン「たかが牛肉で何やってんだ!」

ジャン「……!」

アルミン「エ、エレン……!」

エレン「サシャもサシャだ!」

エレン「お前はもう少しわきまえろ!」

部下「……予想はしてましたが」

部下「まさかここまでになるとは……」

教官「ああ……」

部下「この行事……本当に意味があるんですか?」

教官「……欲望を制限される環境に」

教官「あえて欲望を増長させるものを放り込む」

教官「そうすることで、その者の隠れた一面を見ることができる」

部下「……」

教官「お前も見ただろう」

教官「他人の肉を狙うもの」

教官「他人に取られる前にそそくさと平らげる者」

教官「自分の肉を分け与える者」

教官「実に多種多様だ」

部下「……」

教官「普段の訓練では見えないものが、ここでは見える」

部下「しかしこのままでは……大変なことに……」

教官「それもこの行事の狙いだ」

部下「はっ……?」

教官「この行事の目的はもう一つある」

教官「あのような事態に陥ったときに、自分たちの力で乗り越えることだ」

部下「……」

教官「先ほどエレン・イェーガーも言ったが」

教官「たかが牛肉だ」

教官「こんな状態では、巨人には太刀打ちできない」

部下「乗り越えられるでしょうか……彼らに」

教官「奴らはこれまで、想像を絶する苦行に耐えてきた」

教官「きっと乗り越えられる」

部下「教官……」

教官「……いや、乗り越えてもらわなければ困る」

教官「奴らは全員、私が育てたのだからな」

翌日


ミカサ「……」

サシャ「……」




アルミン「あの二人……ずっとあんな感じだね」

エレン「ああ……」

アルミン「久しぶりに見たよ……ミカサがあんなに怒ってるところ」

エレン「……俺もだ」

教官「よし!次は軍隊格闘術の訓練だ!」

教官「全員すみやかに開始しろ!」


「はっ!!」




ミカサ「……」

サシャ「……」

ミカサ「……サシャ」

サシャ「……な、なんですか」

ミカサ「今日は一緒に組もう」

サシャ「えっ……」

ミカサ「……」

ミカサ「仲直り」

ミカサ「昨日の……」

サシャ「ミカサ……」

アルミン「……あれ?昨日はあんなに怒ってたのに」

アルミン「意外とあっさりだね」

エレン「心配しすぎだ、アルミン」

アルミン「えっ……」

エレン「あいつはいつまでも根にもつタイプじゃねえよ」

エレン「ずっと一緒に暮らしてきたからわかる」

サシャ「よし!」

サシャ「どっちからやります?」

ミカサ「じゃあ」

ミカサ「私が暴漢役」

サシャ「いいですよ~」

サシャ「かかってらっしゃい!」

ヒュン!!


サシャ「!?」


ガシィッ!!


サシャ「ちょっ……」

ミカサ「……」

エレン「なっ……!?」

アルミン「エ、エレン!やっぱり根にもってるよ!」


サシャ「ぐぬぬ……」

ミカサ「……」


エレン「あのバカ……サシャを殺す気かよ!」

サシャ「ミ、ミカサ……」

ミカサ「……」

サシャ「や、やめ……」

ミカサ「……」

サシャ「ミカサ……」

エレン「ミカサ!」


ドゴッ


エレン「おい!ミカサ!」

ミカサ「離して」

エレン「お前!昨日言ったことがわからないのかよ!」

ミカサ「わかってる」

エレン「わかってない!」

ミカサ「……」

エレン「なあ、どうしちまったんだよ」

エレン「こんなのお前らしくな……」

バッ


エレン「なっ……」


ドゴッ


エレン「お、おいミカサ!離せ!」

ミカサ「離さない」

エレン「どうしたんだよ!やっぱりお前普通じゃないぞ!」

ミカサ「……」

エレン「……ミカサ?」

ミカサ「エレン……」

エレン「……?」

ミカサ「私は……」

ミカサ「私はただ……」


ミカサ「エレンに幸せになってほしいだけ」

エレン「……!」

ミカサ「私はエレンに幸せになってほしい」

ミカサ「本当にそれだけ」

ミカサ「あとは何もいらない」

エレン「ミカサ……」

ミカサ「エレンが幸せになるためなら何でもする」

ミカサ「だから私は……」

バッ


ミカサ「!」


バサッ


ミカサ「……っ」

アニ「いい加減にしなよ」

エレン「ア、アニ……?」

アニ「エレンも言ってたけど」

アニ「やっぱりあんた普通じゃないね」

アニ「こんなに簡単に技にかかるなんて」

ミカサ「……」

エレン「アニ……?」

アニ「別にあんたらの関係なんかどうでもいいし」

アニ「馴れ合うつもりは毛頭ない」

ミカサ「……」

アニ「でもさ……もっと周りを見なよ」

アルミン「……!」

アニ「あんたもサシャも」

アニ「結局は自分の欲のために動いてる」

エレン「……」

アニ「私に言わせれば」

アニ「あんたらは……巨人とそう変わらない」

ミカサ「……」

サシャ「……」

アニ「……私たちはこれまで」

アニ「文字通り血反吐を吐いてきた」

アニ「逃げ出したやつもいたけど」

アニ「それでも耐えた」

アニ「違う?」

エレン「アニ……」

アニ「そういう意味では、あんたらのことは認めてるんだ」

アニ「こんなことで無駄にしないでよ」

部下「……思わぬ人物が収めましたね」

教官「……そうだな」

部下「彼女、元からああでしたっけ?」

教官「あれも隠れた一面だ」

教官「普段の訓練では見られない」

部下「なるほど……」

教官「……まあ何にせよ、一応は乗り越えたようだ」

部下「ええ」

教官「あとは卒業まで、みっちり鍛えるだけだ」

エレン「……なあ、ミカサ」

ミカサ「なに?」

エレン「さっきのやつだけど……」

ミカサ「……?」

エレン「一応礼は言っとくよ」

エレン「ありがとな」

ミカサ「……」

エレン「でも俺は」

エレン「お前を犠牲にした幸せなんていらねえよ」

ミカサ「私は別に……」

エレン「お前はよくても俺はダメだ」

エレン「そんなんで俺が喜ぶと思ってんなら」

エレン「お前もまだまだだな」

ミカサ「……」

サシャ「ミカサ……」

ミカサ「……!」

サシャ「昨日は……本当にごめんなさい」

ミカサ「……いや」

ミカサ「私も悪かった」

ミカサ「どうかしていた」

コニー「よっ!」

エレン「コ、コニー!?」

クリスタ「仲直りはできた?」

ベルトルト「もう肉なんかでケンカしないでくれよ?」

ジャン「ったく……全くだぜ」

エレン「お前ら……」

ライナー「よし!それじゃあ元通りになったところで!」

ライナー「訓練再開だっ!」


「おおーーっ!」










部下「大丈夫ですね……彼らなら」

教官「うむ……そうだな」


おわり

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