シーバス「お前、旨そうだな」(15)
アジ「みんなとはぐれちゃった…」
アジ「この辺はあまり泳いだことないし…」
アジ「どうしよう…」
「おい」
アジ「だ、誰?!」クルッ
シーバス「お前、旨そうだな」ジュルリ
アジ「」
アジ「キャーッ!!」ビューン
シーバス「へへっ、逃げたって無駄だぜ」ズギューン
アジ(速い…追い付かれる…)
アジ(もうダメ…みんな…)
シーバス「へっへっへ…ん?何だ?」
ルアー「」ピューッ
アジ(あれ、急に止まった?)
シーバス「何だあいつ、食ったことねぇな」
シーバス「しかもこの俺様に向かって来るとは、飛んだ馬鹿もいたもんだ」
アジ(あれ…誰か来る)
アジ(誰だろう…見たことないお魚。でも、凄く綺麗)
アジ(…あれ、だけどあっちには…!!)
アジ「待って、そっちは危ない!」
シーバス「よし、気が変わった」
シーバス「今日の昼飯はあいつだな」ズギューン
ルアー「」ピューッ
アジ「待って!あなたも食べられちゃう!」
ルアー「」ピタッ
アジ「ここは危険だわ、一緒に逃げないと!」
ルアー「」…ピューッ
アジ「どうして行っちゃうの!待ってってば!」
シーバス「最後までこっちに来やがる、命知らずめ」
シーバス「じゃあお望み通り食ってやるよ!」バクッ
アジ「あっ…」
アジ(どうしようどうしようあの子が食べられちゃった)
シーバス「いてっ、すげえヒレだなこいつ…ってウオオオオオオ!!!!!」ズガガガガガフィッシュオン!
アジ(あら?様子が変だわ)
シーバス「何だこれ、意味わかんね、ふざけんな待てってぎゃああああああ引っ張んなイタイイタイイタイ!!!」ビューン
アジ「…行っちゃった。どうしたんだろう」
アジ(あの子のおかげで助かっちゃった。でもあの子は…)
アジ(…無事だと良いな)
…1時間後…
アジ「結局あれからあまり泳いでない…怖くてゼイゴが抜けちゃった」
アジ「…あの子大丈夫だったかな」
ボチャン!
アジ「な、何!?何か落ちて…あら?」
ルアー「」プカー
アジ「あなたは…さっきの!無事だったのね!」
ルアー「」…ピューッ
アジ「ま、待って!!」
ルアー「」ピタッ
アジ「私はアジって言うの。さっきは危ない所をありがとう。あなた強いのね!…もしかして、助けに来てくれたの?」
ルアー「」…ピューッ
アジ「待ってってば!何かお礼がしたいの!」
ルアー「」ピューッ
アジ「行かないで!せめて名前だけでも教えて!」
ルアー「」ピューッ
アジ「…行っちゃった。つれない子」
アジ「でも…ちょっとカッコよかったな」
「ふふっ、アイツに話しかけても無駄だよ」
アジ「こ、今度は誰!?」クルッ
タイ「おっと、驚かせてしまったね。大丈夫、君を襲ったりはしないさ」
アジ(お、おっきいお魚さんだ…。さっきの怖い奴位あるかも)マジマジ
タイ「ふふっ、私が怖いかね?」
アジ「いや、その、えーっと…はい」
タイ「ハッハッハ、正直でいい子だ。お嬢ちゃんはアジだね、この辺じゃあまり見ない顔だ」
アジ「はい、遠くまで来たらみんなとはぐれてしまって…」
タイ「それは困ったねえ。ここは物騒だ、仲間に会えるまで私が側にいよう」
アジ「あ、ありがとうございます」ペコリ
アジ(良かった、悪いお魚じゃなさそう)
タイ「さて、お嬢ちゃん、あいつに話しかけてたね」
アジ「はい、危ない所を助けてもらったんです。何かお礼がしたくて、でも話しかけても返事もしてくれなくて、名前すらも…そうだ、何か彼のこと知ってるんでしょうか!?」
タイ「ハハッ、そんなに慌てないでもいいよ。…さてはお嬢ちゃん、奴に惚れたね?」
アジ「えっ!!!そっ、そんなんじゃないですよ!」
タイ「隠さなくてもいい、エラが真っ赤だよ」
アジ「…///」
タイ「奴は決まって週に一度、ここに姿を現すんだ。カラフルでヒレも特徴的だ、すぐに分かるさ」
アジ(確かに、綺麗で、でも少し変わったヒレがあった)
タイ「見た目があれだから珍しく思ってね、みんな話しかけるんだ。私もそうだった」
タイ「でも、誰にも返事のひとつもしないんだ。もしかしたら喋れないのかもしれない、って思わせるほどね」
アジ(だから何も言ってくれなかったんだ)
タイ「それに加えて、奴は凶暴な奴に狙われやすいんだ。いつも自分から向かっていって、飲み込まれてしまう」
アジ「!」
アジ(今日もそうだった…)
タイ「でも、不思議なことに奴は死なない。いつも無傷で戻って来る」
タイ「そして奴を襲った魚が逆に姿を消している、という話だ」
アジ「すごい、きっととても強いんだわ」
タイ「…君はまっすぐで本当に素直だ。でも、みんなは気味悪がってね…今じゃ相手にするのは余所者か世間知らずの馬鹿だけさ」
アジ「そんな…」
タイ「一言でも喋ってくれたらこちらとしてもやり易いんだけどね」
タイ「ずっとあんな調子じゃ、仕方ない」
アジ「…でも、悪いお魚さんじゃないと思います」
アジ「彼は私の命の恩魚です」
アジ「きっと話さないのにも何か理由があるんだと思います。もう一度会ってちゃんと話せば、きっと」
タイ「お嬢ちゃん」
アジ「」ビクッ
タイ「…悪いことは言わない。今後あいつに近付かない方がいい」
アジ「でも…」
タイ「私も伊達に歳を取ってる訳じゃない。奴はあまり関わってはいけない魚種だ」
アジ「…」
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