冬馬「俺たちって……ジュピターっぽいことしたか?」(69)

翔太「……?突然どうしたの、冬馬くん」

冬馬「いや、だって……おかしくないか?」

翔太「何が?」

冬馬「俺たち、ジュピターなのに……アースで活動してんじゃねぇか」

翔太「……はい?」

冬馬「それって大丈夫なのか?看板に偽りありって奴じゃないのか?」

翔太「いや……何それ……」

北斗「冬馬っ!」ガタッ

冬馬「どうした!?」


北斗「俺も……お前に賛成だ」


翔太「北斗くん?」

北斗「確かにおかしいと思っていたんだ……何故俺たちはジュピターなのにアースで活動しているのか」

翔太「その話さっきしたから」

冬馬「北斗……」


翔太(やばい、これすごいめんどくさい奴だ)

翔太「大体さぁ、二人とも」

冬馬「なんだ?」

翔太「グループの名前なんかにいちいちこだわらなくていいと思うよ?」

北斗「……どういうことだ?」


翔太「例えば、あの嵐だって嵐の中で活動してる訳じゃない」

翔太「AKB48だって、48人以上いるしね」


冬馬「ほう……つまり、ジュピターがアースで活動しても問題ないと」

翔太「そうそう」

北斗「いや、ちょっと待て」

翔太「どうしたの?」

北斗「翔太、お前はさっき嵐を引き合いに出したが……」


北斗「……嵐って、結成ライブを嵐の中でやってなかったか?」


翔太「……そうだったっけ?」

冬馬「なるほど……だとすると、俺たちはジュピターでライブしなくちゃいけないな」

翔太「いや、無理だから」

冬馬「翔太、さっきお前が言ったAKBだって秋葉原に劇場があるよな?」

翔太「え?あぁ、うん」

冬馬「つまり……俺たちは、木星に劇場を作らなくてはならないっ!」ドン

翔太「何で?何でそうなるの!?」

北斗「いや……待て、冬馬」

冬馬「どうした?」

北斗「木星を拠点に活動するとして……地球のファンはどうするんだ?」

冬馬「地球の……ファン……?」

北斗「木星なんて、そうそう行けるところじゃないからな」

翔太「そもそも木星のファンができるの?」

北斗「……そういえば、木星ってどうやって行くんだ?直通列車か?」

翔太「銀河鉄道かな、それは」

冬馬「おいおい何言ってんだ、ロケットに決まってんだろ」

翔太「……冗談だよね?」


冬馬「翔太、お前木星行ったことあるか?」

翔太「無いよ……というか、人類はまだ到達していないよ……」

冬馬「何……だと……」


翔太(もう疲れた)

北斗「なるほど……翔太の説明が正しいとすると」

冬馬「木星は遥か遠い星で、俺たちは恐らく一生行けない……と」

翔太「まぁ、そうだね」

冬馬「だとしたら……分からないことが一つある」

翔太「……?」



冬馬「どうして……黒井のオッサンは、俺たちの名前をジュピターにしたんだ?」

翔太「どうして、って……」

北斗「木星でライブして死ねってことなんじゃないか?」

翔太「……いやいや……」

翔太「何?アイドルユニットの名前の意味が死ねって何?」

冬馬「いや……ありえるかもしれない」

翔太「え?」


冬馬「俺たちが不要になったとき……黒井のオッサンは、きっと木星ライブを企画する」

冬馬「そして……俺たちは死ぬ」


北斗「……消されるって訳か」

翔太「何?木星ライブを企画するって何?」

冬馬「……こうしちゃいられねぇ!」バッ

翔太「ちょっ、冬馬くん!?」

北斗「どこへ行く気だ!」

冬馬「オッサンに会いに行く……話をつけてくる」

北斗「やめろ冬馬、無茶だ!」

冬馬「無茶でも行く!」

北斗「消されるぞ!」

冬馬「消されねえ!」

北斗「木星に飛ばされるかも……」

翔太「飛ばせないよ」

バタン


冬馬「おいオッサン!」

黒井「む……どうした、いきなり」

冬馬「どうして……どうして俺たちはジュピターなんだ!?」

北斗「木星に送って殺す気なのか!?」

翔太(うわぁ……本当に言っちゃったよ)


黒井「何だ貴様ら、そんなものは適と……いや」

冬馬「?」


黒井「そういえばまだ話していなかったな……ジュピターの誕生秘話を」

冬馬「……なに……?」

黒井「そうだな……太陽系の惑星、言えるか?」


北斗「すいません」

冬馬「アレだ、地球と月」

翔太「……水金地火木土天海」

黒井「ウィ」


黒井「そして――木星とは、その中で最も大きく、質量のある星なのだ」

冬馬「……!」

黒井「貴様ら三人を見つけたとき、私は確信した」


黒井「この三人はスターになれる――木星のような、大スターになれると」


黒井「だから私は……貴様らの名をジュピターとしたのだ」


冬馬「オッサン……」

北斗「……ヒグッ……グスッ……」


翔太「……」

冬馬「ジュピターには……そんな意味が込められていたのか……」

北斗「グスッ……ッグ」

翔太(ちょっと泣きすぎじゃない?)


冬馬「こうしちゃいられねぇ!行くぞ!」

北斗「おうっ!」

バタン


翔太「……」

黒井「……」

黒井「……どうした、お前は行かないのか?」

翔太「……社長」

黒井「む?」

翔太「今の話……絶対適当に考えましたよね……」

黒井「……クク、即興にしてはなかなかだっただろう?」


翔太(あれで騙されるっていうのもなかなかだよね)

翔太「……失礼しました」

バタン


黒井「…………ふむ」

翔太(結局、二人はどこ行ったんだろう)


冬馬「だから!そこで俺たちが手を差し伸べてやるべきじゃねーのかよ!?」

北斗「そんなことしてる暇は無いだろ、日本の地方を回るぐらいで十分だ」

冬馬「なんだと!?」

北斗「……文句あるのか?」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ



翔太「……なんで?」

北斗「……」ガタッ

冬馬「お、やんのか?」

翔太「ちょっ、二人とも落ち着いて!」

冬馬「止めるな、これは俺の戦いだ」

北斗「……ふん」

翔太「なんで!?さっきの感動からどうしてこの雰囲気になってるの!?」

冬馬「だって……」

翔太「だってじゃない!」

北斗「……音楽の方向性の違いってやつだ」

翔太「……」

冬馬「まず、俺たちは新生ジュピターとしてやっていくことにした」

翔太「新せ……え、何それ」

北斗「社長の話で、俺たちは目覚めたんだ」

冬馬「これからは、木星のように大きなトップアイドルを目指す」

翔太「へぇ……」



翔太「……で、具体的には?」

冬馬「それを今話し合っていたところだ」

北斗「俺としては、特別な何かをする必要はないと思っている」

北斗「いつもの活動をいつも以上に頑張る……そうすれば、自然とトップアイドルへの道も開けてくるはずだ」

冬馬「だから、それじゃ甘いんだよ!」

翔太「甘い、って?」

冬馬「俺たちはジュピターだ。太陽系最大の惑星なんだ」


冬馬「よって―――地球規模での活動を提案するッ!」ドン


翔太「…………」

翔太「地球規模、って……」

冬馬「世界を股にかけた活動だ」

北斗「いきなりそれは無理だ、まずは日本でだな……」

冬馬「無理?無理って決め付けてんじゃねぇ!やればできるんだよ!」

北斗「現実を見ろ!」

冬馬「何だと!?お前それでもジュピターか!」

翔太「……」


翔太(めんどくさい方向にヒートアップしてる)

翔太「……冬馬くん、世界を股にかけた活動って何?ワールドツアーでもする?」

冬馬「それもいい……が、それだけじゃない」

翔太「っていうと?」

冬馬「発展途上国を回り、支援するんだ。俺たちの歌で」

北斗「綺麗事だな」

冬馬「あ?」

翔太「はいはい落ち着いて……」

冬馬「日本だけで細々とやってくか?それもいいかもな」

冬馬「だけど……俺たちはジュピターなんだ」


冬馬「世界に羽ばたく!地球を救う!その必要があるっ!」バン


北斗「冬馬……」

翔太「……ねぇ、冬馬くん」

冬馬「ん?」

翔太「なんか勘違いしてない?ジュピターについて……木星について」

冬馬「……どういうことだ」

翔太「確かに、クロちゃんの言うように、木星は太陽系最大の惑星だ」

冬馬「あぁ」

翔太「だけど……それだけだ」

北斗「……」

翔太「木星は、ただの惑星なんだよ」

冬馬「……何が言いたい?」

翔太「ただの惑星が、別の惑星の小さな民族をわざわざ救おうなんて思う?」

北斗「……!」

翔太「……木星は、そんなことしないよ」

冬馬「バカな……俺は間違っていたのか……」

翔太「分かってくれればいいんだよ、うん」

翔太(世界回るとか面倒だし……)

北斗「……なぁ、翔太」

翔太「なに?」

北斗「お前の話が正しいとしたら……俺たちは何をすればいいんだ?」


翔太「…………え?」

冬馬「確かに……木星が、地球でアイドル活動っていうのもおかしいな」

北斗「ずっと回ってたらいいのか?」

翔太「い……いやいや……」


冬馬「そもそも、木星って何やってんだ?」

北斗「めっちゃでかいんだろ?確か」

冬馬「じゃあ……俺たちもでかくなるか」


翔太(別の方向にヒートアップさせてしまった)

北斗「……今の時点で結構身長あるけどなぁ」

冬馬「でも、木星って最大なんだろ?それぐらいまで伸ばさねーと」

北斗「最大……何mだろうな」

冬馬「60m級とかいなかったか?」

翔太「それは漫画の世界だよ」

北斗「……」カチカチ

冬馬「そうなると……ドーピング検査が面倒だな」

翔太「何する気なのさ……」

北斗「……おい、冬馬!」

冬馬「ん、どうした?」


北斗「木星って……ガスでできてるらしいぞ」


冬馬「なん……だと……」

北斗「どうする?ガスになるか?」

翔太「何?ガスになるって何?」

冬馬「それは…………いや、待て」


冬馬「蒸発すればいけるんじゃねーか?」

翔太(もうやだ)

北斗「……まとめると」

冬馬「最大級の身長を目指し、なおかつ蒸発してガスになる……と」

翔太「早くもいろいろ矛盾してるけどね」

北斗「難しいな……」

冬馬「あぁ……いや、待て」

北斗「?」


冬馬「……全部iPS細胞で解決するんじゃねーか?」

翔太「ノーベル賞を何だと思ってるの?」

冬馬「話は……決まったな」

北斗「あぁ」

翔太「え?何が?」

冬馬「…………行くぞ」

翔太「……どこに?」


冬馬「黒井のオッ……黒井社長のところだ」

北斗「あの人なら、iPS細胞だって持っているかもしれない」

翔太「クロちゃんを何だと思ってるの?」

ガチャッ


冬馬「失礼します」

黒井「む……どうした?話はさっき……」


冬馬「……社長は、iPS細胞を持ってないですか?」

黒井「……」

北斗「俺たちがジュピターになるためには……必要なんです」

翔太「……」





黒井「貴様ら全員、そこに正座しろ」

冬馬「……はい?」

冬馬「ちょっ……え?正座?」

黒井「早くしろ」

冬馬「……はい……」ザッ

北斗「……」ザッ

翔太「……」ザッ


黒井「悪いが、話は全て聞かせてもらっていた」

冬馬「なっ……」

黒井「実に下らん……失望したぞ」

冬馬「全部……聞かれてたってのか……」

北斗(社長って耳いいんだ……)

翔太(説教長そうだなぁ……)


黒井「……確かに、私は木星のようなスターを目指せと言ったが」

黒井「木星そのものになれと誰が言った?ん?」

冬馬「はい……」

黒井「巨大化し?ガスになる?そのためにiPS細胞だと……?」


黒井「ふざけるなッ!」バン


翔太(……そういや、さっきは悪ノリしてなかった?クロちゃん)

黒井「そもそも、名前そのものになるというのは不可能だ」

黒井「例えば……冬馬、お前は馬になれるのか?」

冬馬「馬?えっと、iPS細胞があれば」

黒井「だろうな」

翔太(頑張って!もっとツッコミ頑張って!)


黒井「…………とにかく」

黒井「お前達はアイドルであり、偶像だ」

黒井「木星になるのではない。木星『のような』憧れの存在を目指せ」

翔太「えっと……それなんだけど」

黒井「どうした?」

冬馬「さっき、俺たちも一時はそういう方針だったんだ」

北斗「でも、方向性が定まらなかった」

黒井「……」

冬馬「『ジュピター』として……何をすればいいのか……」


黒井「……そんなことか」

冬馬「えっ?」

黒井「お前達が目指すものは、当然トップアイドルだろう」

黒井「私の言うことを聞き、修練に励めば十分可能だ……新曲もあることだしな」

―――――


翔太(色々あったけど、僕たちはトップアイドルを目指して歩き始めた)

翔太(クロちゃんが用意したっていう新曲も……ジュピターらしい良い曲だ)

翔太(もう、冬馬くんや北斗くんが訳の分からないことを言い出すことはなかった)


冬馬「お前ら……準備はいいか?」

北斗「ああ」

翔太「もちろんだよ」


翔太(今日は……新生ジュピターとなって初めての、歌番組だ)



冬馬「―――――行くぞ」

伊織「君がくーれたから~七彩ボータン~」

あずさ「伊織ちゃん、気合い入ってるわね~」

亜美「いおりん、もうすぐ誕生日だもんね→」

伊織「は、はぁ!?それは関係ないでしょ!」

亜美「んっふっふ~、亜美の目はごまかせないYO!」

伊織「まったく……集中しなさい、本番もうすぐなんだから!」


コツ コツ コツ コツ


冬馬「……」

北斗「……」

翔太「……」


あずさ「あっ……」

伊織「あれは……ジュピター……!」

冬馬「お前らは確か……765プロの、浦島太郎だったっけか?」

伊織「竜宮小町よ!」

亜美「うろ覚えにも程があるYO!」

翔太「……」

冬馬「いや……悪いな、気にしてなかったもんだから」

伊織「何ですって?」

あずさ「まぁまぁ、伊織ちゃん……」


北斗「……まぁ、俺たち新生ジュピターの敵じゃないな」

伊織「新生……ジュピター?」

黒井「お前達……油を売るな、行くぞ」

冬馬「ああ、分かった」

北斗「……」

翔太「……」


伊織「……ちょっと待ちなさい!」

冬馬「……」

伊織「新生ジュピターって……どういうこと?」

冬馬「……」



冬馬「お前らは……竜宮小町っぽいことをしたのか?」


伊織「……は?」


――――

――

アナ「ジュピターの皆さんは、新生ジュピターとなって1枚目のシングルだそうですが」

司会「新生ってどういうことなの?」


冬馬「……俺たちは、なんでジュピターなんだろうって思ったんです」

司会「へぇ」

翔太「木星みたいな……みんなの憧れの存在になるんだ、と…………」



伊織(ジュピター……一体何をしてくるのかしら)

伊織(961プロだし、何か卑怯な手でも使うのかも……)

冬馬「正々堂々、精一杯やるので、よろしくお願いします!」

ワーワー ワーワー

司会「それじゃ、スタンバイお願いしまーす」


伊織(どう思う?亜美)ヒソヒソ

亜美(さぁ……)ヒソヒソ



アナ「それではジュピターの皆さんで、『さよなら人類』です。どうぞ!」

冬馬「今日~人類が初めて~」



翔太「木星に着いたよ~」





北斗「着いたあああああああああああああああああああああああああああああ」





おわり

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