主人公「ペル…ソナ…!」 (106)
・このスレはペルソナ3、ペルソナ4の設定をもとにして、
作者が好き勝手妄想して描くオリジナルストーリーです。
・オリジナルキャラが物語の中心となります。
・主人公の視点を基本とするため、地の文が非常に多いです。
・公式設定との違い等生じてしまうと思いますがご了承ください。
・初SSのため非常につたない文章だとは思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。
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ーー爆発音に驚き後ろを振り向く。
まず最初に見えたのは黒煙、次に炎。
何が起こったのかわからないまま呆然とその光景を見つめる。
人々が悲鳴をあげ、散り散りになりながら逃げ惑っている。
逃げなくてはいけないのだろう、しかし動けなかった。
煙と炎の中に蠢くものを見つめていた。
それが何なのか僕は知っている。
それは高らかに雄叫びを上げ、漆黒に濡れる体を僕の視界に踊らせた。ーー
4月2日火曜日15時23分(晴れ)
「...い。おい、南戸。大丈夫か?」
「え?あ、うん。」
電車の揺れと久坂の声で現実にもどる。
何だろう。今一瞬夢を見ていた気がする。
「急にボーッとしてから、どうした?珍しいな。」
「いや、何でもないよ。昨日ちょっと遅くて。」
「そうか?ならいいけどよ。」
なんだったんだろう。とても恐ろしい夢だった気がする。
「にしてももう2年になるのか俺たち。はえーよな、そいや知ってるか?」
友人の声に考えを中断して適当な返事を返し、しばらく談笑する。
「そういや、南戸は今日から一人暮らしだっけ?大変だな両親が海外赴任だなんて。」
ふと、久坂が言う。
「んーまあね。けど元々出張の多い人たちだから変わるのは住む場所だけって感覚なんだよね。」
「そうなのか?けどいいよな、一人ぐらしって。自由ってかんじがするよな!」
「そう?いろんな事を一人でしなきゃいけないからたいへんだよ?」
両親は昨日の飛行機でニューヨークに旅立っていった。
父親は海外での仕事を任されたため、母は父をサポートするために二人で向こうで一年過ごすそうだ。
家族で暮らしていた賃貸マンションは一人で住むには大きすぎるため、
そこは引き払って僕は今日から父が用意した学校近くの家に引っ越すのだ。
家具なんかは昨日向こうに送ったので、今日足りないものなどの買い出しだ。
「向こうの家はどんな感じなんだ?」
「それがまだ見てないんだ。父さんが、駅も近いしいいところだ。とは言ってたけど。」
「じゃあ今日は楽しみだな!こんど詳しく聞かせてくれよ?」
ーまもなく、風見ヶ丘。風見ヶ丘ー。ー
「お、ついたか。んー、じゃあ先に俺の買い物済ませていい?」
「新しい服でも見るの?」
「そそ、春物が安いからな今。南戸も何か買えば?」
「うん。丁度新しい服もほしかったんだ。最近おすすめの店とかある?」
「OK。案内するぜ!」
そのあと久坂と一緒にいろんな店を見て回った。
僕は新しい青のパーカーを買った。
久坂とは風見ヶ丘駅で別れ、新しい家に向かうことにした。
上原台駅に着き、
父に教えてもらった住所を携帯に打ち込んで新しい家までのルートを表示させる。
「お、ほんとだ近いな。」
指示に従い道を歩いていく。
日はすっかり落ちて街頭が道を照らしている。
駅から離れるとすれ違う人は少なく、風見ヶ丘のそれよりはかなり低い建物の群れが独特の雰囲気を醸し出す。
そんな道を歩いていているときふと視界の端に何かが写った。
「あれ、何だろうこれ?」
それはこの町の中ではかなり異質な、しかし妙に風景に溶け込む青い扉だった。
建物の間の路地の真ん中に佇んでおり、なぜか知らないが暗闇の中でもよく見える。
怪訝に思い、路地に入りその扉を見つめる。
「?」
観察してみると、どうも建物の入り口というわけではないようだ。
本当に路地につったているだけのようでなんとも無気味だ。
「どうなってんだこの扉...。」
どうも気になり、ドアノブに手をかけゆっくりと回す。
軽い手応えを感じながら扉を押し込んだ。
「え...?」
目の前に現れたのは薄暗い路地の続きではなく青い部屋であった。
現実場馴れした現象だが恐怖よりも好奇心が上回る。
部屋の中へと足を踏み入れる。
「ようこそ、ベルベットルームへ。」
「!」
横から、かん高くしゃがれた声がし思わず身をすくめる。
右に体を向けると異様に長い鼻にギョロりとした目をした小柄な老人、その隣には老人と同じくらい小柄な少女の姿が目に入った。
何の話だろう...。それにここは何の部屋だ...。
部屋の内装を観察してみると、一見書斎のようだが部屋のすべてが青を基調としたものになっており、しかも棚に並ぶ酒類のせいで書斎という印象は薄い。
イゴールと名乗った老人は気味の悪い笑顔を顔に張り付けながらこちらに話かけてくる。
「占いは信用されますかな?」
唐突にイゴールがそんなことを言う。
「その前にお名前を伺いましょう...。」
「えっと、南戸孝平...、ですけど。」
異常な状況であるのにも関わらず、心はなぜか落ちついている。
「常に同じにカードを操っておるはずが、まみえる結果は、そのつど変わる...。
まさに人生のようでございますな...フフ。」
そういってイゴールはカードを繰り始めた。
しばらくして2枚のカードを手に取る。
「ほう...近い未来を示すのは”塔”の正位置。
どうやら大きな災難を被られるようだ。
そして、その先の未来を示しますのは”星”の逆位置。
見つからない理想を示すカード...。これは興味深いですな。
貴方は、これから向かう地にて近く災いを被り、長きに渡る理想への探求を課せられるようだ。」
あまりよろしくない結果のようだ。
よくわからないがそんな印象を受けた。
「フフ...近く、貴方は何らか契約を果たされ、再びこちらへおいでになる事でしょう。
今年、運命は節目にあり、もし貴方が何も見つけられ無かったのなら、貴方の未来は閉ざされてしまうやも知れません。
我々の役目は、お客人がそうならぬよう、手助けをさせて頂く事でございます。」
「手助け?」
「ええ、左様です。」
「おっと、ご紹介が遅れました。
こちらはエイミー。
同じくこの部屋の住人でございます。」
「お客様の旅のお供を務めさせていただく、エイミーと申します。どうかよろしくお願いいたします。」
どこかつたない様子でエイミーが自己紹介をする。
「詳しくは追々と致しましょう...。」
イゴールはエミリアに合図し出口に案内させる。
「では、そのときまで...。ごきげんよう...。」
扉を潜ると後ろからそんな声が聞こえた。
後ろを振り向くとそこには何もなく、薄暗い路地が続いているばかりである。
「なんだったんだ今の...?」
しばらく立ち尽くしていると、携帯に着信が入る。
我に帰り、応答すると電話口から父親の声が聞こえてくる。
「おう、孝平。新しい家には着いたか?」
「あ、今丁度向かっているところなんだ。」
扉についていろんな考えを頭に巡らせたが中断する。
「なんだ、まだついてなかったのか。きっと気に入る、早く行けよ?」
「うん分かった。」
「こっちは時差ぼけで大変だよ。お前も体には気を付けろよ?」
「分かった、ありがとう。母さんにからだ気を付けてねって言ってたって伝えといてね。」
「おう、分かった。それじゃあな。」
「うん、じゃあまたね。」
通話を終了し、時間を確認する。
少し急いで家に向かわなくては、と早足で歩き出す。
10分もしないうちに教えられた住所にたどり着いた。
これは...ずいぶん古くさい洋館である。
イメージしていた建物とはずいぶん違い、少々面食らう。
しかし、汚いと言うわけではなく歴史を感じさせる趣である。
二階建てで横長のデザインだ。
重厚な扉を開け中に入る。
どうやらエントランスのようだ。
分厚いローテーブルに黒いしっかりとしたソファーが入り口右横の開けた場所に置いてある。
左には大きく作られた螺旋階段と管理人室がある。
ここに来る前に部屋の鍵をもらっていた。確か204号室だ。
とりあえず部屋に向かおうと歩き始めたら、階段から白髪の感じの良さそうな老人がおりてきた。
「おや、君は204号室にはいる南戸君かな?」
「はい、南戸孝平です。貴方は...えっと?」
「お父さんから話は聞いているよ。
私はこの洋館の管理人の長久だ。
一年間だけだけど、我が家だと思ってゆっくりしてくれると嬉しい。」
老人は丸メガネの奥の瞳を細めながらそう名乗った。
「はい、よろしくおねがいします。」
「204号室は上がって左だ。それでは失礼するよ。」
長久と別れ、部屋へと向かう。
今日はベットだけ整えて寝てしまおう。
どうもからだが重い。
階段を上がると右から微かにバイオリンの旋律が聞こえてきた。
201号室のようだ。明日はこの洋館の住民に挨拶をしなければ。
ここはどうやら洋館を改築して各部屋を人に貸し出しているらしい。
廊下端の204号室の扉をみつけ、もらった鍵を回して中に入る。
ベットの台座と机と椅子以外に段ボールがころがる部屋の間取りは、入り口すぐに3点ユニットと洗濯機置き場、その奥に6畳の部屋といった感じだ。
部屋の内装は玄関正面と左に外開きの窓。
カーテンはどうやらそなえ付けのようだ。
右にはクローゼットがある。
肩にかけていた鞄を机の上に置き、椅子に腰かける。
部屋を見渡し寝具の段ボールを探し、ベットのセットに取りかかる。
シーツを広げながら、ふとあの青い扉の中での事を思い出した。
「契約、って言ってたっけか。
何だったんだろうあれは。」
あれは夢だったのだろうか。
今一現実感がない。
ベットメイキングが終わり、横になる。
春休みは明後日までだ。
明日には荷物を片付けきらなきゃな...。
そんなことを考えながら目を閉じ、まどろみの中に身を委ねた。
「おや、君は珍しい運命の色をしているね。」
ーだれだ?ー
「今は知るべきではないよ。
それより僕は君が気にいったよ。
こんなにも複雑な運命を抱えた人間は始めてみた。」
ーなにを言ってるんだ。だれだ君は。ー
「フフ、まだ知るべきではないよ。
しかるべき時が来たら教えてあげるよ。」
ーなんだ。君は何を知っているんだ。ー
「全て知っている。
いや知っていたと言うべきかな。
君に出会ったことで知らないことができた。いや、知っているんだけど知らないといったほうがいかな。」
ー言葉遊びがしたい訳じゃないよ。質問に答えてくれ。ー
「今のが答えさ。
全て知っているのさ。
ああ、あと君が欲しがっている返事も知っているけど今は教えられない。
フフ、然るべき時が来たら、だよ。」
ーよくわからない奴だな、君は。ー
「そうだとも、しかし君も似たようなものなんだよ。愛しい愚者よ。」
ー僕は何にも知らないよ。ー
「そうだとも、零の数字たる君は何も知らないのさ。」
ーよくわからない。ー
「それでいいんだよ。
ああ、そろそろ夜が明ける。
そうだ、君の新たなる旅立ちを祝して僕から贈り物を授けよう。
君の選択、君の意思、君の全てに祝福を。ではまた会おう。」
ー出来ればもう会いたくはないな。ー
「フフ、冷たいなあ。ほら夜が明けたよ。」
4月3日水曜日7時20分(晴れ)
ジリジリジリ!
「!」
凄まじい音量の目覚ましに飛び起きる。
どうやら設定を変えずに段ボールに詰めたらしい。
どこから鳴っているのかわからない。
探さないといけないな...。
何か夢を見ていた気がするが、よく思い出せない。
とりあえず時計を探さなくては。
探し始めてみると、以外とすぐ見つかった。
探している途中で食器や調理器具も出てきたのでキッチンに運び、適当に片付ける。
そのあと、時計を探す段階で外に出したものなども片付けるとお腹が減ってきた。
「さて、朝ごはんどうしようかな。」
時間を確認すると9時40分だ。
ここへ来るときにスーパーが近くにあることは確認していた。
「確か10時開店だったよな。もう少ししたら買い出しに行くか。」
そう決めて、昨日買った青いパーカーを着て外出の支度を始めた。
「ん、今から出れば丁度開店時間だな。」
携帯で時刻を確認して、そう呟く。
机の上のバッグを肩にかけ、扉を回して廊下に出る。
一階に降りるとエントランスのソファーに腰掛けコーヒーを飲んでいる長久老人を見つけた。
「おはよう、南戸君。
おや、お出かけかね?」
「おはようございます。ええ、ちょっと食料の買い出しに。」
「そうかね。
近くのスーパーの回りには変わった店もいくつかある。
気が向いたら散策でもしてきなさい。」
「はい。あ、ここに住んでいる方に挨拶をしたいんですが失礼でない時間帯は分かりませんか?」
「ふむ、なるほど。ここに君の他に住んでいるのは102号室、201号室、202号室だ。皆学生だから生活の時間帯はいっしょだろう。こんなもので参考になるかな?」
「ありがとうございます。」
「君の高校は狩野原高校かね?」
「ええ、今年から二年になります。」
「おお。なら皆君と同じ高校だよ。仲良くできるんじゃないかな。」
「そうなんですか?よかった。
では、行ってきます。」
「ああ、行ってらっしゃい。」
エントランスを出てスーパーに向かう。
そういえばエントランスの扉のデザインはあの青い扉に少しにている。
しばらく歩いていると昨日は気づかなかったが確かに変わった店がいくつかある。
伊原商店、イノハラ武具店、霞屋。などなど...。
武具店は言わずもがな、それぞれ店先に並ぶ商品を見ただけでも普通の店でないことがわかる。
機会が会ったら入ってみよう...。
スーパーに着いた。
ーエブリデイヤングライフジュネス〜♪ー
聞きなれたBGMが店内に流れている。
調味料なんかも買わなくてはいけない。
とりあえず朝食は軽く食べれるものにしよう。
「オムレツとトーストでいいか...。」
食品売り場に向かい、必要なものを探す。
全国に展開しているスーパーなので品揃えはそこそこいい。
ちょっと変わった調味料なんかも置いてあって見てて面白い。
ゆっくりと見て回って、買い物を済ませ自宅に向かった。
「ふう。」
部屋に戻り食材を冷蔵庫にいれる。
少し時間を掛けすぎた。
時刻は11時をちょっと過ぎている。
とりあえずお腹を満たすために調理に取りかかる。
食パンを一枚トースターにいれタイマーを2分にセットし焼き始める。
ボールに卵を2つ割り、そのなかにバターを少々、塩胡椒で味付けし、かき混ぜる。
卵の粘度が弱くなりすぎないように気を付け、ほどよくかき混ぜたら、次は一人暮らし用に新調した小さなフライパンを強火にかけ、油を垂らし、馴染ませる。
いらない油を切り、卵を一滴垂らしてフライパンの状態を確認する。
「ほいっと。」
いい状態だったので卵をを一気に流し入れ、
ふんわりさせるため激しくかき混ぜる。
まとめられる固さになったら手早く卵をはしに寄せ、フライパンを根本を叩きながら振り、綺麗にまとめていく。
「よし、綺麗にできた。」
皿にトーストとオムレツをのせ、料理の完成だ。
ケチャップをかけ、机で食事を開始する。
「うん、おいしい。」
食事を終え、食器を片付ける。
洗いものを済まして部屋を見渡す。
今朝のうちに多少片付けていたのもあって仕事量はそこまでは無さそうだ。
ここの住民に挨拶もしなくてはいけないので早めに片付けなければ。
「よし、やるか。」
手始めにと、口から衣類を覗かせている段ボールに取りかかった。
「さてと、こんなもんかな。」
段ボールの中身は全て空になっており、部屋のなかには生活感が生まれていた。
壁にかけた時計を見て時刻を確認する。
「4時半か。次はここの人たちに挨拶に行くか。」
そう決めて廊下に出る。
「ん?」
廊下に出て201号室に向かおうとすると、
丁度その扉の前に立つ人の姿が見えた。
「女の子か。」
背は自分より少し低く、
整った綺麗な長い黒髪も相まって凛とした印象を受ける。
こちらには気づかなかったのかそのまま中に入ってしまった。
廊下を進み201号室に向かう。
「すいません。」
声をかけながら扉をノックする。
はい、と涼しげな声がして部屋の中から足音がする。
扉が開き、顔を覗かせた女の子はとてつもない美少女であった。
遠目ではよくわからなかったが、
近づくとよりいっそう彼女が纏う雰囲気を感じられ、少し見とれてしまった。
「あの、何か御用ですか?」
「あ、失礼しました。僕は昨日から204号室に越してきた南戸孝平と言います。引っ越しのご挨拶に来ました。」
彼女の声に我に帰り、引っ越しの挨拶をした。
少し、早口になってしまった気がするが気にしないでおこう。
「あ、君が南戸君か。長久さんから聞いたよ。
ふふ、そんなに固い挨拶でなくてもいいよ?同い年さんなんだし。」
ふっと彼女の纏う空気の質が柔らかい物に変わる。
「あれ、そうなの?いや、雰囲気が大人っぽいから先輩かと思ったんだ。」
その変化に戸惑いつつも返事をする。
「そう?友達からはそんなこと言われたことは無いんだけどなあ...。
おっと自己紹介がまだだったね。私は篠ノ井楓です。」
「よろしく、篠ノ井さん。」
「うん、よろしく!」
しばらく談笑したあと
それじゃあ、と楓の部屋をはなれてとなりの202号室ドアをノックする。
「すいません。」
しかし、部屋には人の気配を感じない。
「あれ、いないのか。」
すると201号室の扉が開き楓が顔を出す。
「あ、南戸君。その部屋の子、桐原ちゃんっていうんだけど、彼女アルバイトたくさんやっててなかなか部屋にいないよ!」
「そうなの?」
「特に休みの期間中はね、
明後日から学校だからそのときにでも紹介してあげるよ!」
「うん、ありがとう。なんか大変そうだね。」
「あー、いや彼女は趣味でバイトしてるんだよ。何て言うの?
ワーカーホリック?バイト戦士?
まあ、いつ帰ってくるか分かんないんだ。」
「へえ、なんか変わってる人だね。
じゃあ学校で会ったときよろしく。」
「おうよー。それじゃあね!」
今度こそ楓と別れ、次は102号室に向かう。
篠ノ井...そういえば昨日久坂から彼女の話を聞いた覚えがある。
2月に転校してきて、その容姿から主に学年の男子の人気を泊しているそうだ。
凍てつくその美しさは女子からの人気も集めているとか。
実際に会ったことは無かったから気がつかなかった。
しかし会話してみると美人というよりは、普通の可愛い女の子といった印象だ。
螺旋階段を降り、エントランスの奥にある廊下に進む。
一階はどうやら管理人室を除くと
二部屋しかないようだ。
廊下を挟んで101号室と102号室が並んでいる。
102号室の前に立ちドアをノックしようよすると後ろから声をかけられた。
「あ?誰だてめえ。」
後ろを振り向くと、短く刈り込んだ茶髪が印象的な男がいた。
確か同学年だったはずだ。
去年一年生の廊下で何回か見かけた覚えがある。
「204号室に引っ越してきた南戸孝平です。よろしく。君は102号室の人?」
「お、ああ、そいやジーさんが何か言ってたな。102号室の戸口龍之介だ。
なんか此処辺で分からんことがあったら聞け。
おなじ建物にすんでんだ、遠慮はいらねえ。お前確か俺とタメだよな。学校でもよろしく頼むぜ。」
どうやら向こうも僕の顔は知っているらしい。
「うん、ありがとう。見かけによらず親切な人だね。」
予想外の言葉が彼の口から出たので、つい本音を口にしてしまう。
「あ?そうか?お前もなんか変わった奴だな。おっと、そこ退いてくれ。こいつを冷蔵庫に入れなきゃならん。」
手に下げていたビニール袋を掲げそういった。
少しひやっとしたが、特に気分を悪くさせてしまった様子はない。
やはり見かけと口調とは裏腹な性格をしているらしい。
さて、とりあえず桐原以外の住人には顔合わせをしたし、どうしようか。
桐原はいつ帰ってくるかわからないみたいようだから今日は洋館付近の散策をでもしてみようか。
「それに、あの青い扉...。」
ふと思いだし、呟く。
夢か現実か。今一確証が持てない。
「探してみるか。」
好奇心に誘われ、街に繰り出すことにした。
洋館から上原台駅までは歩いて10分かからない距離にある。
前の家では駅まで自転車で10分かかっていたので非常に便がいい。
しかし上原台の街は夜になると少し暗さが目立つ。
街頭の整備が不十分で路地なんかは真っ黒になってしまう。
それもそのはずで、街を構成するほとんどの建物は商売を目的としておらず、ビジネスビルが多くを占める。
さすがに駅前には飲食店は見られるが、
道を一本挟むだけでその姿を見ることは稀になる。
薄暗い道を歩いていると前方が何やら騒がしい。
「赤色灯...?」
どうやらパトカーや救急車が止まっており、人だかりが出来ている。
警察官の怒号やら野次馬の声が飛び交っている。
気になったので近づいて様子を見てみることにした。
近づくと野次馬の声が耳に入ってくる。
「おい、どうも殺人事件らしいぞ。」
「え、マジかよ。勘弁してくれ。」
「しかも、死体の状態が酷いらしい。」
「なんだよそれ。」
「動物に食いちぎられたみたいに死体がバラバラなんだそうだ。
さっき警官が話しているのが聞こえた。
あそこの路地一面血の海だってよ。」
「かー、参ったね。
只でさえ会社が早く帰してくれないのに、そんなことあったら怖いじゃないか。」
どうやら殺人事件があったようだ...。
何だろう嫌な予感がする。
気分が悪くなったので、来たばかりだが洋館に帰ることにした。
洋館に戻るとエントランスに入るとソファで楓と見知らぬ女の子がしゃべっている。
「あ、南戸くん。こちら桐原瑞希ちゃん。
202号室の住民さんだよ。」
楓がらんらんと説明してくる。
「始めまして。204号室に越してきた南戸孝平です。」
「202号室の桐原瑞希です。
ほほう、お話に聞いていた通りの爽やか先輩さんではないですか楓さん。」
「え!何で私にふるのかな瑞希ちゃん!」
「いえ、ここで先輩に話を振ればワタワタする可愛い先輩が見られそうでしたので。
南戸先輩、どうですこの可愛い生き物!可愛くないですか!」
「え、あ、うん。」
とても会話のペースが早い少女である。
金髪に色の薄い肌。
日本人離れした容姿は楓と共に並ぶととても絵になる。
「ちょっとなに言ってんのこの後輩!」
「どうですか、ヤバイくらいの可愛いさじゃないですか?
私、先輩をペロペロできるなら何でもしちゃうくらいの勢いで可愛いと思うんですけど南戸先輩はどうですか?」
「はは...。」
ただ、色々と残念な子のようだ。
「ちょっと!」
楓が飛びはね瑞希を引き剥がしにかかる。
「やめてください先輩!、
やめて!ちょ!脇さわらないで!うひゃあ!」
「うるさい!聞き分けのない後輩にはお仕置きよ!」
なにやら二人でじゃれ始めた。
もうこれ以上ここにいても仕方が無さそうだ。
「それじゃあ、僕はそろそろ夕食を作らなきゃ。
お休み、二人とも。」
「ああ、南戸さん!質問に答えてもらってませんよ!」
「まだ言うか!今夜はひたすらお仕置き!
ごめんね南戸くん!たまにこの子こうなの!」
「ああ!やめて!謝るから!」
「うるせえぞ!お前らまたか!」
階段を上っていると龍之介の怒鳴り声も聞こえてきた。
しばらく収集が着かなそうだ。
そっとしておこう...。
「ふう...。」
部屋に戻りベットに腰かける。
「殺人事件か。」
どうも自分の周りで何か起こっている。
そんな根拠のない想像に不安になる。
したの階から三人の声が聞こえてくる。
交流を深めるためにもあの場に残っているべきだったのだろうが、
昨日からの出来事に不吉なものを感じて、それどころではない。
ー貴方は、これから向かう地にて近く災いを被り、長きに渡る理想への探求を課せられるようだ。ー
ただの占いなのだが、しかも現実かどうかも怪しい。
しかし、イゴールのあの確信に満ちた表情が忘れられない。
「理想、ね。」
考えても始まらないか。
今日は少し疲れた。
もう寝てしまおう。
そのまま横になり、まぶたを閉じる。
朝から働いてたお陰か眠りに入るのに時間はそう掛からなかった。
「おや、また会えたね。」
ーまた君か。ー
「フフ、そう冷たくしないでくれよ。
そういえば旅の出だしはどうだい?
なかなかいい演出だったろう?」
ーなんのことだ。ー
「おや、気づいてないか。まあいいや。
君の旅は始まっているよ。
君の運命の輝きを存分に発揮するといい。」
ー君の言うことはよくわからない。ー
「君の物語は君の意思に関係なく君を巻き込む。ああ、楽しみだなあ。」
ー...。もう君と会話をするのは諦めた。ー
「そうかい?フフ、そろそろ僕は傍観者に徹していよう。君とお話しすることは好きなんだけど、まあ、仕方ないか。」
ーそうか。ー
「では、またいつの日か出会える日を祈って。ごきげんよう。」
ー...。ああ。ー
4月4日木曜日9時20分(曇り)
トントントン
何かの物音で目を覚ました。
「南戸くん、起きてる?」
どうやら楓が訪ねてきたらしい。
ふと時計を見るといつもよりかなり遅い時間の起床だ。
「ああ、起きてる。ちょっと待ってね、今開けるから。」
扉を開けると昨日とは違って髪をアップで結んだ楓の姿があった。
「おはよ、南戸くん。」
「おはよう、篠ノ井。今日は一段と可愛いな。」
寝起きのぼんやりした頭のせいで本音が口に出た。
「え!ちょっと、え!?」
...なんだかワタワタしていて面白い。
とりあえずごまかしておく。
「ああ、ごめん。今起きたところなんだ。
寝ぼけて変なこと言っちゃった。」
「え!あ、うん!そうよね!
はは、私ったら、ハハハ!」
「それで、どうしたの?何かあった?」
「あ、うん。(かわいい顔してるのに意外と…。)」
「え?なに?」
何か楓が呟く。
「あ、ううん!何でもない!
それでね、用事ってのは今日は春休み最終日だし、
南戸くんの歓迎パーティーでも開こうかなーって、昨日他の二人と話したんだ。それで、どうかな今日の予定は空いてる?」
「嬉しいな。今日は何にも予定はないよ。」
「そうなんだ!へへ、じゃあ二人にも伝えてくるね!
三人で準備してびっくりさせたいから南戸くんは街で時間でも潰してて!準備できたら電話するね!」
そういって楓は駆けていった。
楓と連絡先を交換した覚えはない...。
街か...。昨日の事件のこともあるし、気は進まないが...。
青い扉のこともある、行ってみよう。
そういえば昨日は部屋に戻ってそのまま寝てしまったんだ。
外出の支度をしよう。
「そういえば...。」
昨日も何かの夢を見てた気がする。
何だろう、青い扉に繋がっている夢のような気がするが...。
朝食を済ませて、服を着替える。
「よし。」
鞄を持ってドアを開け、エントランスに向かう。
あ、南戸くん。私、連絡先交換してなかったよね。」
照れた様子ではにかみながら楓が声をかけてくる。
「うん、じゃあ交換しよっか。」
携帯の赤外線通信の画面を開き、送信モードにする。
「ん、完了、私のも送るね。」
画面に受信完了の文字を確認した。
「あれ、先輩。朝から逆ナンですか?」
楓の後ろから瑞希がひょこっと顔をだす。
「瑞希。またお仕置き?」
「あ、冗談デス。」
昨日、あのあと何があったのだろう...。
「あ、南戸先輩。私ともメアド交換してれますか?」
「ん、了解。」
瑞希とも連絡先を交換する。
「南戸先輩のアドレスゲット!」
「よし、じゃあ僕は街にいくね。楽しみにしてるよ。」
「まっかせてください先輩!」
テンションの高い二人を後に、昨日の事件現場へと向かう。
ー君の旅はもうはじまっているよ。ー
誰の言葉だっただろうか。
なんにせよ何かが始まろうとしている予感がある。
自分は確かめなくてはいけない。
なぜか確信めいた心境で道を歩く。
確かここだ。
「あれ?」
そこには何もなかった。
「どういうことなんだ...?」
警察が片付けたのか?
いや、たしか現場は酷い惨状だったはずだ。
ーあそこの路地一面血の海だってよ。ー
しかし、自分の目で見たわけではない...。
どうも引っ掛かるが疑問を解消する術はない。
路地の奥をじっと見つめるがそこには相変わらず何もない。
「なんなんだ...。」
これ以上ここにいても仕方が無さそうだ。
駅前を離れ、商店街に向かった。
「いっらっしゃい。」
霞屋に入った。
怪しげな置物が沢山置いてある...。
店主は三日月型の目をした不気味なおばあさんである。
膝の上に猫を抱えてレジ横のテレビから目を離さない。
商品をよくみるとアクセサリーもいくつか置いてある。
「3000円ね。」
何も買わないのも気が引けるので"豆絞り"を買って外に出た。
心なしか力がわいてくるような気がする...。
どうやらここの商品には不思議な力がある...のかもしれない。
次は伊原商店に入った。
「いっらっしゃ〜いませ〜。」
間延びした声の主は50歳くらいの初老の女性だった。
ここは菓子類や飲み物、薬を販売している。
ただその全てが珍妙なものだ。
ここでは肉ガムを3個買った。
久坂にでもあげれば面白そうだ。
イノハラ武具店に入った。
名前の通り、武器鎧などが売られている。
...しかし、年代、国境を無視した品揃えのため店内は混沌としている。
「よお、坊主。」
店をみて回ってたら店主に声をかけられた。
金髪にグラサン、格好はタンクトップとこれまた印象的な店主である。
年齢は20歳後半と思われるがサングラスのせいでよくわからない。
「初めて見る顔だな。何か探しもんかい?」
「あ、いえ。自宅に帰る途中に見かけて気になったもので。」
「んー?ということは最近越して来たのかい?結構長いことここに住んでるが君ははじめてみたよ。」
「ええ、そこの洋館に一昨日越してきました。
というか、この町に住んでいる人全員覚えてるんですか...?」
「ははっ、客も来ねーし暇だからよ、外ばっか眺めてんだ。
住民全員の名前まではわからねーが街の外から来たやつくらいは判断できるぜ。」
ふふん、と店主が自慢気に言う。
少し返答に困り、曖昧な笑みを返す。
「お、そうだ。ちょっとそれもってこっち来てくれ。」
棚の上の大型ナイフを指差し、店主が言う。
これですか?、とナイフを持って店主の元に行く。
店主は鞘からナイフを引き抜き、目に前に掲げる。
よくみると柄の上部に不思議な仕掛けが施されている。
「こいつはWASPナイフって言ってよ、もともとは水中で鮫と戦うために作られたゲテモノナイフだ。敵に刺したあと刃先から炭酸ガスを噴出させて相手に大ダメージを与えるナイフなんだ。ただこれの大本はガスを一発打つ度にリロードが必要な代物でよ、実に実用性が薄い。」
店主はなにやら嬉しそうに語り始めた。
「どうにか出来ないかと考えた俺はガスのカートリッジを小型化してグリップにシリンダーを取り付けて戦闘可能時間の延長をすることにした。
しかしカートリッジの格納場所をシリンダーにしたせいで本家よりは密閉性と威力が落ちちまったが、しかし威力はそれでも申し分ない。あと一発撃ったあとは刃がすげえ冷たくなるから気を付けろ。
あとは柄に追加したギミックの大きさにあわせて刃を大きくして完成だ。」
「あなたが作ったんですか?」
「おうよ、すげーだろ。」
店主は満面の笑みで言う。
「ほれ、ここにトリガーがある。刺したあとにこれを引き絞るんだ。ダブルアクションだから引くだけでいいからな。あ、刺したあとじゃないとダメだからな。効果がほとんど無くなっちまう。リロードはシリンダーをこうやって引きだして、ロッドを操作して空カートリッジを捨てて、そのあと新しいのを入れろ。」
「はあ。」
店主はこちらにナイフの各部の説明と操作を事細かに説明してくる。
「そこでだ坊主。」
店主はニヤニヤ笑いながらこちらに向き直る。
「このナイフを引っ越し祝いとしてお前にプレゼントしよう。カートリッジも持ってけ。」
「え!いや、いいですよ。」
どうしよう、こんなもの貰っても持て余すだけだ。
持ってるだけで警察のお世話になりそうな代物だ。
刃渡りは約30センチ。柄も含めると全体の大きさは45センチほどもある。
しかも凶悪なギミック付き。
「遠慮すんなって。今年初めて店に来てくれた客だ、サービスさせてくれ。
それにお前みたいな優男にはごつい武器が似合う。」
そのあと、なんとか断ろうとしたが店主に押しきられてしまった。
「またなんかあったら来てくれよな!ああ、俺の名前は幡多高次だ。お巡りにそれ持ってんの見つかったら俺に貰ったって言ってみろ!なんとかなるぜ!」
「僕は南戸孝平です...。どうもありがとうございました。」
とりあえずそう言って店をでる。なんかどっと疲れてしまった。
店の前でふう、と一息ついていると電話に着信があった。
携帯の画面をつけ、電話に応答する。
「あ、南戸くん。準備が出来たから戻ってきていいよ!」
「あ、わかった。今商店街にいるんだ。
すぐ戻るね。」
「えへへ、わかった。皆にも伝えておくね!」
通話を終了し、洋館に向かう。
ゴツいナイフはなんとかカバンに入った。
時刻を確認すると13時をまわったところであった。
お腹も空いたし急いで向かおう。
パンパン!
エントランスの扉を開けるとクラッカーの音が出迎えてくれた。
「「ようこそ!莇荘へ!」」
楓と瑞希の二人が声を揃えて言う。
「おう、来たか。」
龍之介はソファーから出迎えてくれた。
「ははっ、ありがとう。うわ、なんかすごいね。」
ローテーブルの上には色とろどりの豪華な食事が並んでいる。
ずっしりとした作りの洋館の内部にもカラフルな飾り付けがされている。
「ところであざみそうって?」
ソファーに案内されながら二人に尋ねる。
「この洋館の名前ですよ、先輩。」
「ここはもともと長久さんのおじいさんのお家だったんだけど、その時に莇邸って呼ばれてたそうで、そこから名前を貰ったんだって。長久さんに教えてもらったの。」
「へえ、それじゃあやっぱりこの洋館は随分古いんだね。」
「内装を改築したのは2年前らしいですけど、建物自体は70年経ってるそうです」
「へえ。」
洋館の説明を受けながらソファーに座る。
「皆で作ったんだよ、これ!」
「おお、すごいね。」
テーブルの上の料理を見渡す。
色とりどりで美味しそう...だ?
...いや、よく見てみると二皿だけ異彩を放っている物がある。
「なに言ってんだよお前ら...。それぞれ一品ずつしか作ってないのによく言うぜ...。それに、」
「なに言ってんのかな戸口くん!」
「そうですよ、ヤンキー先輩!」
「あ?誰がヤンキーだこのクソ後輩!」
龍之介の話から予想すると、どうやらあの二皿は楓と瑞希が作った物のようだ...。
一皿は真っ赤、もう一皿は真っ黒。
回りの料理が美味しそうなだけにその際立った存在が目立っている。
赤い皿どうやら肉らしきものと何かの野菜の姿が見える。
黒い皿は形自体はまともで焦げてもいないのだがその彩度を零にまで落とされている。
「さ、さあ!食べましょう!も、もう私お腹ペコペコ!」
「そ、そうですね先輩!食べましょう!さあ食べましょう!」
そう言って二人は赤いのと黒いのをよそってこちらによこしてきた。
...やばい。
「さあ、乾杯しましょう!」
「かんぱい!」
「お前らな...。」
パーティーが始まってしまった...。
龍之介が気の毒そうな顔でこちらを見てくる。
そして楓と瑞希が期待の目でこちらをじっと見つめている。
食べるしかないようだ...。
フォークを手に取りまずは真っ赤な皿に挑戦する。
「!?」
口に含んだ瞬間、燃え盛る火炎が舌を焼いた。
味も何もわからない。
あわててコップについであったオレンジジュースで流し込む。
「どうですか!?美味しいですか、先輩!?」
瑞希が尋ねてくる。
その期待と不安が入り混じった無垢な表情に正直に言うことに対して罪悪感を抱かせる。
「う、うん、おいひいよ。」
そう答えるも顔が口内の痛さでひきつってしまう。
「そうですか!よかった、唐辛子とジョロキアを間違えてしまってしまったんですけど、先輩辛いのお好きなんですね!」
「ははは...。」
冷や汗なのか、辛さによるものなのかよくわからない汗と涙を流しながら曖昧に笑う。
心なしか龍之介から尊敬に満ちた視線を感じる。
龍之介の顔をよくみると口の回りのが赤くなっている...。
オレンジジュースをもう一杯飲み、次は黒い皿に向かい合う。
メモ帳にしまってた分が無くなったので今日はここで投下を終わります。
主人公がペルソナに目覚めるところまではテンポよく投下できると思いますが、
基本的に週に一回を目標として投下していきたいと思ってます。
あとエイミーの表記が一部エミリアになってしまっていますが
初期にベルベットルームのキャラ名の由来を知らなくて勝手につけてしまったものなので
脳内変換してくださると助かります。
その他誤字脱字目立ちますと思いますがご容赦ください。
おもったより筆が進んだので書けた分投下します。
その容姿は正に混沌。
形がきれいなぶんたちが悪い。
「おい、南戸...。」
「いや、大丈夫だよ戸口くん。」
口のなかはまだヒリヒリしている。
というよりは感覚がほとんどない。
この分なら味のよしあしはわからないはずだ。
意を決してフォークを手に取る。
形からして恐らくこれは肉じゃが。
パーティーに肉じゃがとはなかなかのセンスだが、
そんなことよりも今は生き残れるかどうかが重要だ。
これは肉じゃがだ、
ほらこんなにもほくほくとして美味しそうなじゃがいもをだ。
つやつやのお肉はなんとも食欲をさそい、
味のアクセントとして優秀な人参、糸コンニャクが全体のシェルエットをグッと引き締める、はずだ。
ああ、これは肉じゃがだ、肉じゃがなんだ。
色がないように見えるのはさっきの辛さに視覚をやられたからだ。
さあ、食べるぞ、よし...。
皿を持ち上げ、戦闘体制に入る。
まずはじゃがいも、と思われる物を口に運ぶ。
そして恐る恐る咀嚼を開始する。
「ん...?」
舌が麻痺しているのか味を感じない。
次に肉を食べる、やはり味を感じない。
人参糸コンニャクと続くが先程と同じ。
そのまま食べ続けていると不意に頭の奥から声がする。
「...ん、南戸くん!」
「はっ!」
楓の声に我に帰る。
あれ、もしかして気を失っていたのか...?
「大丈夫ですか...先輩?」
「あ、う、うん」
「その正体不明Xを口にしたとたん、
先輩、虚ろな目をして動かなくなったんです。」
「ごっごめんね、南戸くん!私、料理すっごく苦手でさ...。
今日はいつもと違って形が残ってる料理が出来たから大丈夫かなって思ったんだけど、やっぱり失敗だったね...。」
楓が項垂れる。
...!
なにも悪いことをしていないのに物凄い罪悪感が沸き上がってくる!
「う、うん、今回はちょっと失敗だったね。
次にがんばればいいよ、ほら僕も手伝うからさ。」
「本当...?」グスッ
「...ああ。」
「南戸先輩...。」
「南戸...。」
何だか二人から尊敬の眼差しで見られている気がする。
「南戸...。今度から俺のことは龍之介と呼べ。」
「え、うん。わかった。あ、じゃあ僕のことも名前で呼んでよ。」
「いや...。俺は南戸の方が呼びやすい。」
「そう?わかった。あ、そうだ他の料理食べようよ!
パーティーだし、パーっとやろう!」
しばらく莇荘のみんなと騒ぎあった。
自室に帰り、ベットに横になる。
龍之介の料理がおいしくてたくさん食べてしまった。
夕食は無くてもよさそうだ。
明日からは学校だ。
今日は早めに寝よう。
4月5日金曜日7時20分(曇り)
目覚ましの音で目をさます。
今日から新年度、2年生だ。
学校に向かわなくては。
支度をし、莇荘をでる。
駅に向かって歩いているとちらほら同じ制服を見つける。
女子生徒たちの話し声聞こえてくる...。
「ねえねえ知ってる?例の狭間の路地!」
「ああ、知ってるよ。
何でもその路地に入った人はみんな行方不明になって一週間以内に死体になって発見されるって言うやつでしょ?」
「そうそう、それ!それでねその路地がどうやらこの街にも現れたみたいなんだよ!」
「またあんたはそんな適当な噂を信じて。」
「まあ、噂なんだけどね。
でも、この間ここら辺でたくさんのパトカーを見たよ。
だけどこの街で何か大きな事件が起きたーっていうニュースは見なかったんだ。なんか不気味じゃない?」
「まあね。それよりあんた、今年からめっちゃウザイ先公が転勤してくるって噂知ってる?」
女子生徒たちは違う話を始めた...。
狭間の路地...。
いわゆる都市伝説の類いだろうがあの青い扉もパトカーが集まっていたのも路地だった。
何か繋がりを感じる。
しばらくこの街の路地を調べてみよう。
何か手がかりがあるかもしれない。
電車にのって狩野原駅に向かう。
つり革につかまっていると久坂が声をかけてきた。
「よう、南戸!お前もこの電車だったか!」
「お早う、久坂。偶然だね。」
「あ、そうだ南戸。新しい家はどんな感じ?一人暮らしはどうよ?」
「ああ、思ってたより楽しいよ。
新しい家...というよりちょっとした寮みたいな感じなんだ。
前の家で一人でいたときよりも楽しい。」
「ん、もう知り合いでも出来たのか?」
「ああ、そこに住んでる人たちみんな狩野原の生徒でさ。
昨日歓迎会をしてもらったんだ。」
「おおー、なんかいいなそういうの!
今度遊びに行かせてくれよ。」
「んーどうだろ?篠ノ井さんたちに良いかどうか聞かなきゃ。」
「...ちょっとまて、南戸。篠ノ井さんとはあの篠ノ井楓さんのことでございますかな...?」
「え、あ、うん。彼女有名人なんだって?
話は聞いてたけど予想よりも可愛くてビックリしちゃった。」
「おい、どういうことだ。なぜそんなに裏山けしからんことになってるんだ?篠ノ井さんとパーティーだと...!行く!絶対にお前んち
行くからな!」
「あ、うん...許可がとれたらね...?」
久坂のあまりの食い付きのよさにかなり引きながら答える。
「あ、そうだ。」
久坂が真面目な顔になって言う。
「彼女と同じ寮住んでるとか、あんまし言わないほうがいいぜ。」
「え?」
「彼女ほら、あの人気で転校生だろ?
結構敵が多いみたいでな。
女の世界は俺らじゃ想像できないくらいドロドロしてるらしいからな。
家の場所とかばれると彼女に迷惑がかかるぞ。」
「...わかった。」
人気者だ、とだけ聞いていたからそういうことに頭が回らなかった。
そうか、人気があると言うことはそれ以上に敵が多いのか。
最初に感じた彼女の凛とした、いやはりつめた空気はそういうところから来ていたのか。
「いや、けどよ、俺は敵には絶対ならんから、家によんでくれよな!」
久坂が明るい調子で言う。
「はは、わかった。今のも含めて頼んでみる。」
「ちょ、まってまって!さすがにそれは恥ずかしいから!」
そうこうしているうちに狩野原駅に着いた。
学校に到着し、掲示板を確認する。
クラス分けの紙を見るためだ。
「おお、南戸!また一緒になれたな!よかったぜ!」
「ああ、知り合いが一人もいないとかならなくてよかった。」
掲示されている紙をよく見る。
どうやら楓と龍之介も同じクラスのようだ。
「おう南戸か。」
後ろから龍之介が声をかけてきた。
「あ、龍之介。僕ら一緒のクラスだよ。」
「ん?ほんとだ、まあ、よろしく頼むぜ。」
「あのあの南戸さん。こちらは...?」
ビクビクとした様子で久坂が声をかけてくる。
「ん?おれは戸口龍之介。お前はなんだ?
南戸のダチか?」
「久坂、例の洋館の住民だよ。
顔に見会わずいいやつだから大丈夫だよ。
「え、あ、おう。
俺は久坂涼っていうんだ。南戸と一緒のとこすんでんだってな!
よろしく頼むぜ。
俺も南戸と一緒のクラスだからよ。仲良くしようぜ!」
若干声を震わせながら久坂が言う。
「おう、そうか。どうやら今年は楽しくやれそうだ。
よろしく頼むぜ。」
龍之介が手を出し、握手を求める。
「お、おう!よろしくな!」
久坂がその手をとり握手をする。
「本当だな!戸口、お前結構いいやつな感じがするぜ。」
「またそれか...。そんなに俺は恐く見えるのか...?」
三人で喋りながら教室へ向かう。
2年5組の教室についた。
教室へ入ると、友達と思われる生徒たちとお喋りをしている楓の姿が目に入った。
楓はこちらに気づくとてを降ってくる。
彼女たちに軽くごめんねのポーズをしたあと、
てってってーとこちらに向かってくる。
「ウィっス!君たち同じクラスだね!」
よくわからないテンションで話しかけてくる。
「うん、何だか不思議だね、
まさかクラスまで一緒になるとは思わなかった。」
「まあ、よろしく頼むぜ。」
「ん、あれ?そっちの人は?」
久坂の方を向き、楓が尋ねてくる。
「ああ、僕の友達の久坂だよ。
紳士なやつだから仲良くしてやってくれるといいな。」
「おい!南戸!何で上から目線なんだよ!
あと紳士はやめれ!なんか恥ずかしいから!」
「ふふ、面白い人だね。よろしくね、久坂くん。」
「あ、お、おう。よろしく頼むぜ!」
どこか照れた様子で久坂が答える。
「あー席につけお前ら。」
教室の扉が開き、教師が入ってくる。
「今年のお前らのの担任の江島大輔だ。担当強化は物理。
成績は全てテストの出来できめる。まあそれ以外のことに関しては適当にやれ。自己紹介はこんなもんかな。んじゃ、いまからかったるい始業式だ。ほれ行くぞ。」
独特な先生だ...。
始業式に出席するために講堂へ向かった。
やたら長い校長の話を聞き終え、教室に戻る。
つつがなくホームルームも終えて放課後になった。
「んじゃ、南戸。俺今から仕事なんだわ。先帰るぜ!」
「仕事?」
「そそ、親父の工場の手伝い。
去年からやってたけど今年は受注が多くて忙しいらしくてね。
なるだけ手伝ってんだ。」
「そうか、じゃあ頑張れよ。」
「おうよ!」
そういって久坂は教室を出ていった。
さて、楓は友達と帰ったようだ。
龍之介の姿は見当たらない。
時刻を確認すると1時半だ。
上原台で昼御飯でも食べよう。
そうきめて学校を後にした。
上原台に着き駅前の食堂に入る。
「いらっしゃい!」
この時間帯はスーツに身を包んだサラリーマンで溢れ帰っている。
「肉丼一つ。」
「はいよ!」
この店の値段設定はどれも良心的だ。
これで味もよかったら行きつけにしよう...。
「はいお待たせ!」
五分と待たずに料理が運ばれてきた。
値段の割にはかなりずっしりとしたどんぶりが出てきた。
これは、赤字じゃないのかこの店...。
割りばしを割り、食事を開始する。
これは...!
値段、スピード、量、味とそろってるじゃないか、この店は!
かなり美味しいのであっという間に完食した。
「380円ねー」
店を出て一息つく。
さて、このあとはどうするか。
時刻は3時ちょっと前だ。
狭間の路地について調べてみよう。
ひとまず駅前を離れ、ビル街に向かった。
「やっぱり都市伝説だよな...。」
二時間ほど歩き回ったが、特になにもない。
日も傾き初め、辺りは少し薄暗くなっている。
うっかり青い扉も見つかるんじゃないかと期待をしていたが、
やはり、あれは夢だったのだろう。
「これ以上ここにいても仕方がなさそうだな。」
探索を切り上げ、莇荘に帰ることにした。
「そういえば...。」
青い扉があった路地は確かここだった。
ふと足を止め、その路地を見る。
「まさかね。」
なにもないのを確認して頭をふる。
やはりあれは夢だ。
過去や理想なんて僕には何のことだかわからない。
「ウヴォオオオオオオオオオ..........。」
そう自分を言い聞かせて立ち去ろうとしたときに、
路地の奥から不気味な音が響いた。
「っ!?なんだ!?」
ビル鳴りか?
いやそれにしても音が不自然だ。
路地の奥にじっと目をこらす。
「...なんだ?あれ...。」
先ほどは気づかなかったが、
よく見てみると路地の奥が不自然に暗くなっている。
得たいの知れない暗闇が路地を飲み込んでいるのだ。
「ははっ、もしかしてビンゴかな...。」
狭間の路地の噂を思い出す。
入ったものは出てこられない。
一週間後に死体となって発見される。
本当にこれは噂なのか?
いや違う、一昨日の騒ぎは路地での事件だ。
こういう噂は何もないところからは生まれない。
何か不自然なことがそこにあるんだ。
ーさあ、旅は始まった。
今までの世界から飛び出し、新しい一歩を踏み出せ。ー
誰かの声を聞いた気がする。
ああ、僕は新しい世界に行けるのか。
ーそれは君次第だ。さあ君の運命を見せてくれ。ー
言われなくてもそうする。
幻聴との会話を打ちきり、暗闇へと向かって足を踏み出す。
どうやら自分は興奮しているらしい。
押さえられない笑顔と共に僕は狭間の世界に飲み込まれた。
「南戸くん...?」
友達と別れたあと、
私は上原台にもどって今日の夕飯の材料を買っていた。
駅前専門店で魚醤とイカスミ、黒みそ、黒酢、トリュフ、キャビアに黒にんにく、他にも沢山黒い食べ物を買ってさっきお店から出てきたところだった。
黒い食べ物は体に良いってお母さんが言ってたからね。
いや、そんなことはどうでもいいわ。
莇荘に帰ろうとしたら前に南戸くんがいたから一緒に帰ろうと思ったんだ。
けど南戸くんは急に脇道にそれてしまった。
ちょっとあせって追いかけてみたら、見通しのいい路地なのにさっき曲がっていったはずの南戸くんの姿がみえない。
「どういうこと...?」
さっきのは見間違いかな...。
でも確かに南戸くんだとおもったんだけどな...。
とりあえず家に帰って南戸くんの部屋を訪ねてみよう。
何だかいやな予感がしたけど、とりあえず莇荘で南戸くんを待つことにした。
けど、その日は南戸くんは帰って来なかった。
路地の先に進めば進むほど辺りは暗くなっていく。
さっきからかなりの距離を歩いたはずだが一向に景色が変わらない。
おそらく今自分が歩いているところは普通の場所ではないのだろう。
もう足先すら見えなくなるほど進むと、
前方がなにやらうっすらと明るい。
少し歩調を早めてその明かりに近づく。
「ん、なんだこれ。」
明かりの招待はドアの隙間から漏れる光だった。
そういえばさっきからドアは一度も見ていない。
歩いてきた道を振り替える。
入ってきた入り口は見えず、そこには暗闇が広がるばかりである。
「入ってみるか...。」
ノブを回して扉を開く。
一瞬漏れ出す光に顔をしかめるが直ぐに目がなれる。
「すごいなこれ。」
そこにあったのは上下逆さまの遊園地であった。
もう、いまさら驚けなかった。
すべてのアトラクションは天井に張り付いており、
それぞれがまぶしいイルミネーションで飾られている。
床と天井まではかなりの距離があり、壁は遠近感を失わせる白黒のドッグトゥースチェックでおおわれている。
「目がチカチカする。」
しばらく歩いていると、
何やら前方に今までのものとは雰囲気の異なる物が現れた。
なんだ、いやな予感がする...。
辺りにはなにやら気持ちの悪い水音が響いている。
鼻につくのは今まで嗅いだことのない嫌な臭いだ。
グチュ、ニチャ、グチュ、グチュ
前方のそれをよく観察する。
黒く、ゼリー状の物体は何かを一心にむさぼっているように見える。
しばらく観察しているとそれらの中心から何か球状ものがでてきた。
そして、
何の心構えもないままそれと目があってしまった。
「うっ...か、っは...。」
胃の奥から昼間に食べた物が逆流する。
その場にうずくまり全て吐き出す。
「なんだよ...。なんなんだよ...。」
立ち上がり、一歩二歩と後ろにさがる。
ー動物に食いちぎられたように死体がバラバラだそうだ。ー
そうだ、このままでは喰われる。
逃げなくては。
そいつらはまだ捕らえた獲物に夢中のようだ。
今なら逃げられる。
そう思っ後ろに下がろうとしたところ、
「え...?」
ふっと、無重力を感じる。
なにが起こっているのかわからなかった。
足がもつれて転んだらしい。
尻餅をつく間抜けな形で地面に倒れる。
同時に辺りに甲高い金属音が響く。
「...あ。」
昨日もらったナイフだ。
視線を奴らに向ける。
3つの仮面がこちらを見ていた。
「っ...!?」
気づかれた!
くそ、どうすれば!
ー楽しませてくれよ。贈り物は持っているんだろう?ー
死ぬわけには行かない。
僕はまだ何も見つけていない。
ー君は知っているはずだよ。ー
まだ駄目だ、まだ何も見つけていない!
死ぬわけにはいかない!
僕の邪魔をするな!
邪魔をするな!
邪魔をするな!
邪魔をするな!
ーさもないと?ー
また、殺してしまうじゃないか。
落ちていたナイフを拾い、立ち上がる。
左の順手に獲物をもち、トリガーに指をかける。
体を半身に構え、相手と対峙する。
獲物を構えたとたん、
シャドウの一匹がこちらに飛びかかって来た。
相手の動きは直線的だ。
体を左にひねり力を蓄える。
刃先を敵に向けたまま、そしてタイミングを合わせて一気に体を回しながらナイフを突きだす。
「グギャアアアアアアアアア!」
耳障りな声が辺りに響く。
ナイフの刃は人形シャドウ腹部に4分の3まで突き刺さっている。
粘度の高い液体が傷口からあふれだしている。
「爆ぜろ。」
トリガーを引いたとたんシャドウの体が爆散する。
それらは床に落ちる前に全て霧となって消えていく。
「やっぱりこれじゃ殺しきれないか...。」
体の半分を失ったシャドウは腕だけを使って残り二匹のもとへと逃げ出す。
ああ、なんて醜い。
ああ、楽しいな。
早く僕を壊してくれ。
「ふふふ...。」
ーなんだつまらないな。そっちがかくせいするのか?ー
「!」
脳内の声にはっと気づく。
まて、今僕は何をした!
なんでシャドウを倒せた!
自分が自分で無くなったような感覚を覚え、鳥肌が立つ。
その前に大体なんで僕はコイツらがシャドウってことを知ってるんだ...!
これの大本は人の悪意だと...!
これは僕の知識じゃないぞ...!
三匹のシャドウはこちらを取り囲むように移動している。
なんだこれは...。
何が起こっている...。
シャドウの方を向き、ナイフを構える。
先程とは違い、攻撃してくる様子はない。
「くそ...。」
このままでは...。
もう先程のように戦える自信はない。
どうする!手がないぞ…!
ー君が君であることはただ一つ証明できる真実だろう?何を迷っているんだ。ー
あれは僕なのか?
暴力の快楽に身を溺れさせるあれが。
いや、違うか。
あのとき感じた感情は悲しみだ。
それと同時に嬉しさも感じていた。
そうか、あれは罰なのだ。
守りきれなかった罰なのだ。
ああそうか、君は僕だ。
頭の中に女性の声が響く。
『我は汝、汝は我...我は汝の心の海より出でし者...。』
僕はこの感覚を知っている。
『恒久の復讐と争いの担い手、アナトなり...。』
共に戦ってくれ...。
「ペル...ソナ...!」
今日の分は以上です。
戦闘シーンばっかり書きたいの。
では。
投下します。
4月6日土曜日4時20分(雨)
「ん、ああ?」
戸口龍之介はアルバイトを終え、洋館に帰って来た。
彼には両親はおらず、自分の生活費、学費はアルバイトと奨学金で賄っている。
「どうしたんだ、篠ノ井?」
ラウンジにはうつむき加減で座る楓の姿があった。
「あ、戸口くん。お帰りなさい。」
「ん、おお。どうした、何かあったのか?」
「ううん。何でもないの。」
「なんでもないわけないだろ。
この時間にお前を見るのは初めてだ。」
「ははっ...。まあそうだよね。」
そう言って楓は逡巡する様子を見せ、しばらくして口を開いた。
「実はね、南戸くんを待ってるんだ。」
「あ、南戸?あいつまだ帰ってきてないのか?」
「うん。」
「深夜に徘徊するような奴には見えないが...。
あいつに何かあったのか...?」
「何かあった訳じゃないの。
街で南戸くんを見かけてね、声をかけようと思ったら急に見失っちゃってね。
...なんだかね、そのとき南戸くんが消えちゃった気がして。
しかもそのあとずっと帰って来なくて不安になっちゃって。」
神妙な面持ちで楓が言う。
こういうのは苦手だ。
「...そうか。だがもう寝ろ。
明日になっても帰って来なかったら一緒に探してやる。
そのためにも寝て体力つけてろ。」
「ふふ、戸口くんそういうとこ優しいよね。」
少し元気を取り戻したのか、先ほどよりは明るい顔で楓が冗談を言う。
「うっせ、早く寝ろ。」
楓は自室に向かった。
ソファーに腰掛け思案する。
「何があった...?」
南戸とは出会って3日の仲だがあいつのことは何だか気に入っている。
何か問題を抱えているのなら助けになってやりたいが...。
今は考えても仕方がない。
朝になったらどうするか決めよう。
「ペル...ソナ...!」
辺り一面に青い光の奔流が起こる。
光が収まった時、
そこに現れたのは全身を赤黒く光る鎧に身を包んだ女騎士であった。
禍々しく光る鎧の各所には黄金の鷲のレリーフがある。
そしてその左手に掲げるのは全ての光を吸い込むかのように黒い直剣である。
赤と黒のコントラストは対峙する者を畏怖させ、
その芸術と言っていい造形は全ての者を感激させる。
シャドウたちは突然現れた彼女を警戒しているのか、動きを止めてこちらの様子を伺っている。
ナイフの切っ先を半身のシャドウに向ける。
「アナト!アギ!」
兜の奥が光り、黒剣の先端に火球が生まれる。
「やれ!」
剣を無造作に降り下ろし、火球を飛ばす。
物凄い勢いで飛んでいくそれはシャドウの顔面に直撃する。
「グギャ...。」
仮面が砕け、シャドウが爆散する。
黒く濁った体はやはり地面につく前に塵になる。
「後二匹...!」
しかし、ペルソナの攻撃力に安心して一瞬気を抜いてしまう。
その隙をついてか、次の瞬間、二匹のシャドウはそれぞれ違う方向から同時に飛びかかって来た。
「...!」
くそ...。
こいつらは知性があるのか...!
なんともタイミングのいい攻撃に戸惑いながらも状況を瞬時に判断する。
相手との距離は8Mほど。
「切り裂け!」
アナトに二匹のうち一匹への攻撃指示をだす。
位置の関係で彼女に二匹同時に対応してもらうのは無理だ。
となると、もう一匹は自分でどうにかしなくてはならない。
倒すまではしなくても一瞬時間を稼がなくては。
左手を腰だめに構え右手でそれを軽く包む。
右肩を相手に向けて、左手に力が入れやすい形で突進する。
相手にぶつかる直前、体重を利用しながらナイフをつき出す。
ズブッ...。
嫌な手応えを確認したら、
直ぐ様トリガーを引き絞って圧縮ガスを敵の体内に送る。
バフッ、という間抜けな音と共に敵シャドウの左脇腹に大きな穴が開く。
が、しかし。
はいりが甘かった...!?
「っく...!」
シャドウが右手を振り上げて攻撃モーションにはいる。
...!?
背筋が冷え、とっさの判断で左膝を相手の腹部に叩き込む。
「グギ...!?」
シャドウは驚いたかにような声を上げ、2メートルほど吹っ飛ぶ。
なんだ...?体の力まで上がっているのか?
アナトを召喚してから体が軽い。
後方に一瞬意識を飛ばすと、あちらはどうやら既に敵を片付けたようだ。
「行ける...。」
前に向き直るとシャドウは丁度立ち上がろうとしている所だった。
「アナト!ブフだ、氷漬けにしろ!」
シャドウの足元から氷柱が発生し、そのまま全体を包み込み瞬時に凍らせる。
氷のオブジェクトとなったそれに近づき、両手でナイフを思いっきり突き刺しトリガーを引く。
一瞬で氷は粉々に砕け散り、イルミネーションの光を反射しながら空気に溶けて行った。
戦闘が終わり、床にへたりこんで深呼吸をする。
「はあ...。」
アナトの姿は既に消えているが、彼女の存在を心の中に感じる。
周りを見渡すと部屋を構成するすべてが徐々に黒い霧になって消えていく。
早く部屋を出なければ...。
床に落ちた鞄を拾い上げ、ナイフを無造作にしまう。
先程の戦闘でいくつかわかったことがある。
さっきの相手はシャドウといい、人の悪意の塊だということ。
なぜだか知らないが理解した。思い出したと言ってもいい。
そして僕のペルソナ...アナト、僕は彼女を召喚するのは初めてではない。
召喚するときのあの感覚、確かに覚えがある。
赤い部屋...。
「...っ!」
思い出そうとすると頭に痛みが走った。
「くそっ...。」
これ以上は思い出せない。
ドアの前にたどり着いた。
ふと後ろを振り返ると、部屋の半分が消滅していた。
穴の空いた壁から除くのは底の見えない虚無である。
死体があったであろう場所はもうすでに飲み込まれており、
ほっとしつつもあの目を思い出して気分が悪くなる。
帰らなくては。
ドアを明け、暗闇路地に出る。
左から淡く青く光る蝶が飛んできて僕の手に止まる。
「綺麗な蝶だな...。」
しばらく眺めていると蝶が強く輝く。
眩しくて目をつぶる。
再び目を開いたときには、僕は見覚えのある路地に立っていた。
投下おーわり。
先の展開を煮詰めたいのでこっからは週一のペースになるかと思います。
ゆっくり完結できるよう頑張りますので支援していただけると幸いです。
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