八幡「雪ノ下の脇が臭すぎる」 (105)
雪乃「!?」
八幡「今まで黙ってたけど、どんどん酷くなっていくよな」
雪乃「えっ……えっ?」
結衣「ちょっとヒッキー! 女の子にそういうこと言うのやめなよ!」
八幡「セクハラだ、ってか? 雪ノ下の脇が臭いのは本当のことだろ」
結衣「そういう問題じゃないの! 例えホントでも言っちゃいけないことだってあるよ!」
雪乃「ちょっ……」
結衣「デリカシーのない男ってキモい! マジキモい!」
八幡「お前は重要なことを見落としている、由比ヶ浜」
結衣「じゅ……重要なこと?」
八幡「俺達は仮にも奉仕部だ。身内の問題すら解決できない奉仕部なんて、存在意義がない」
結衣「そ……それは、確かに」
八幡「デリカシーがどうこうなんて話は、部を正常化させてからの話だ。違うか?」
結衣「……そうだね。ごめんヒッキー、あたしが間違ってた!」
八幡「よし。じゃあ俺達で雪ノ下の脇の臭さを解決するぞ」
結衣「おー!」
雪乃「…………」
雪乃「ヒキガエル君。一度、その溝水のような悪臭を放つ汚い口を閉じてくれないかしら」
八幡「へいへい。雪ノ下の脇ノ下ほど臭くはないけどな」
雪乃「…………」
結衣「ゆきのん?」
雪乃「……冗談よね? 私の……わ、脇が臭いだなんて」
八幡「いや、割とマジだ。廊下ですれ違った奴等もよく顔をしかめてるからな」
雪乃「……あなた達も?」
結衣「っていうかあたしもヒッキーも、いま結構我慢してる……」
雪乃「…………」
八幡「自分の体臭って、自分じゃ臭いとは思わないらしいからな」
雪乃「ま、待ちなさい。100歩譲って、私が臭いと仮定するわ」
八幡「事実に仮定も何もないだろ」
雪乃「そもそも、そのニオイの原因がなぜ脇だと分かるのかしら」
八幡「……ほら、以前ボランティアに行った時、水着になったことがあっただろ」
雪乃「ええ。それがどうかした?」
八幡「あの時、雪ノ下が腕を上げる度にえげつない悪臭がしてた」
雪乃「え……」
結衣「酷かったよね。みんなゆきのんが見てないところで吐いてたし」
八幡「川の魚も大量に気絶してたな。可哀想に」
結衣「あ、ヤバ。思い出したら吐きそうになってきた……」
雪乃「…………」
雪乃「ま……まだよ。それだって、もしかしたら他の人の臭いだったのかもしれない」
結衣「確かに水着の子は多かったし、そういう偶然も無いとは言い切れないけど……」
雪乃「今だって、悪臭を放っているのはあなた達のどちらかという可能性もあるわ」
八幡「どちらか、と言いつつ俺の方を見るな」
雪乃「目が腐っている人は体も腐っているかもしれないでしょう」
八幡「……そこまで言うなら証明してやるよ。悪臭の原因は雪ノ下の脇ノ下だって」
雪乃「あなた如きにできるのかしら、クサガヤくん」
結衣「ちょっと窓開けていい? 今日まだ換気してないから……オエッ」
八幡「ということで、暇そうな奴らに集まってもらった」
優美子「あーし忙しいから。いやヒマだけど」
静「なぜ教諭の私まで……確かに暇だが」
小町「小町なんてここの生徒じゃないです。暇ですけど」
八幡「結論から言うと、俺は雪ノ下の脇が臭いことを証明したい」
優美子「は? 証明するまでもなく臭いっしょ」
小町「いまさら何言ってんの?」
静「ああ、この部屋なにか臭いと思ったら雪ノ下がいるのか」
雪乃「…………」
八幡「が、雪ノ下は自分の臭いを断固として認めようとしない」
小町「えぇ? こんなクッサイのに……ウェッ」
八幡「だからここは何人かのニオイを比較して、客観的に雪ノ下が臭いことを示したいんだ」
結衣「ほら、三人ともこないだ水着着てたし……」
優美子「ハァァ? 雪ノ下さん、自分の悪臭を棚にあげてあーし達を疑ってるワケ?」
雪乃「私の悪臭については、あなた達の一方的な言い分でしょう」
静「……なるほど、そういうことか。なら、協力するのもやぶさかではない」
八幡「お手数おかけしてスミマセンね」
八幡「――よし、全員水着に着替え終わったな。ではこれより、脇のニオイ判定を行う」
結衣「判定は全員参加のポイント制で、判定対象1人につき5点まで付けることができます」
八幡「また、臭ければ臭いほど高い点数とする。つまり超絶臭ければ5点、問題なければ0点だ」
静「ここには自分を除くと5人いるから、最悪の場合25点を獲得することになる訳か」
雪乃「これほど不名誉な称号もないわね」
優美子「第一候補が何か言ってるし」
八幡「じゃあ、まずは由比ヶ浜からな」
結衣「あ、あたしから?」
静「言いだしっぺの一人なんだろう。文句を言うんじゃない」
クンクン... クンクン...
結衣「ちょ、ちょっとヒッキー、顔近いって!」
八幡「しょうがないだろ。部屋全体が臭いから、これくらい近付かないと判断できないんだよ」
結衣「むぅ……は、早く済ませてよ……」
優美子「うーん。ちょい汗臭いけど、普通はこんなもんじゃない?」
小町「脇って元々汗かきやすいし……」
静「どのみち、この至近距離でこの程度のニオイなら悪臭の原因とは考えられんな」
雪乃「…………」
■結衣のポイント
八幡 2点
雪乃 3点
優美子 1点
静 2点
小町 1点
合計 9点/25点
八幡「次は三浦だ」
クンクン...
小町「なにこれ、メチャクチャいいニオイする!」
結衣「香水だね。そういえば脇の下につける香水があるって……」
優美子「いいっしょ? 結衣も使ってみ?」
雪乃「香水だとすれば水で洗い流されてしまうわ。つまりあの時は……」
優美子「は? あーし、水で流れる安物なんか使わないんだけど」
静「それにいま香水を付けているのなら、現状この部屋が臭いことについて説明できんな」
雪乃「…………」
■優美子のポイント
八幡 1点
雪乃 2点
結衣 0点
静 1点
小町 0点
合計 4点/25点
八幡「それじゃ、平塚先生」
静「フッ、好きなだけ嗅ぐがいい」
クンクン...
結衣「うわっ」
小町「なにこれ」
優美子「くさっ」
八幡「うげぇ」
雪乃「ひどいわね」
静「……!?」
雪乃「卒倒するほど臭い、とは言わないけど……」
小町「前の二人に比べると酷いねー」
静「そ……そう、なのか……?」
八幡「殴られるの覚悟で言いますけど……加齢臭ですよ、これ」
静「!?」
結衣「しょ、しょうがないよね。人間なんだし、歳とったら……ね」
雪乃「でも少しは手入れをした方が……生えっぱなしは同じ女性としてどうかと」
優美子「そこは大目に見てあげんのが優しさってヤツだし……」
静「…………」
■静のポイント
八幡 3点
雪乃 4点
結衣 3点
優美子 3点
小町 4点
合計 17点/25点
小町「次は小町の番だね!」
優美子「ツルッツルじゃん。フツーに羨ましいわ」
雪乃「平塚先生とは対称的ね」
静「おい、私だってあまり虐められると泣くぞ」
クンクン...
八幡「……あれ? 無臭なんだけど」
小町「それって小町的にはポイント高い……のかな?」
八幡「俺の鼻がバカになったのか? 今日は脇のニオイばかり嗅いでるからな……」
結衣「たぶん妹だからだよ。ほら、いつも身近すぎてニオイに慣れすぎてるとか」
優美子「その辺言い出すとキリないし、思ったまんま点数つけとけばいいっしょ」
■小町のポイント
八幡 0点
雪乃 2点
結衣 1点
優美子 1点
静 2点
合計 6点/25点
優美子「つかヒキオも逃げてないでさっさとしろし。結衣と同じ言いだしっぺっしょ」
八幡「別に逃げてねーよ……」
クンクン... ペロペロ
八幡「ぎゃあぁぁ!! 誰か舐めたぞ、今!」
小町「えへ☆」
静「すまない」
結衣「ごめんごめん」
雪乃「味も見ておこうと思って」
優美子「……アンタら、マジどん引きなんだけど……」
八幡「何が怖いって、何人か悪気のない奴がいるってことだよ……」
静「味は置いといて、ニオイは……普通だな」
雪乃「比企谷くんは性格はともかく、身体的にはキングオブ凡人ですから」
小町「それも合わせてのごみいちゃんだもんね!」
八幡「なんなのこれ、俺のメンタルを削る会? 脇のニオイは?」
優美子「だから普通に臭いって。でも男ならこんなもんっしょ、元々汗臭い生物だし」
小町「んー? でも、小町は全然臭わないかも」
結衣「さっきと同じで、お兄さんだからかな?」
■八幡のポイント
雪乃 3点
結衣 2点
優美子 3点
静 2点
小町 0点
合計 10点/25点
静「最後は雪ノ下だな」
優美子「っていうか、この距離でもう結構臭いんだけど」
雪乃「…………」
結衣「……あたしはゆきのんの友達だから! これくらい全然平気だよ!」
雪乃「ゆ、由比ヶ浜さん……」
ダッ!
優美子「あ、結衣!」
結衣「ウッ……ゴブァッ」バタッ
優美子「ゆ……」
八幡「由比ヶ浜ァァァァァーッッ!」
雪乃「…………」
優美子「雪ノ下さんに近付いた瞬間にブッ倒れたんだけど」
八幡「他人の顔色を伺っていたあの由比ヶ浜が、人前で嘔吐するなんて……」
小町「これ、脇まで辿りつけるの……?」
静「ふむ……もはや一定範囲に入った者を問答無用で昏倒させる、殺戮兵器と化しているな」
優美子「原因は明らかに雪ノ下さんの脇っしょ。雪ノ下さんが25点で終わればよくない?」
八幡「ダメだ。もしかしたら原因は足の裏や尻の間、あるいは口臭なのかもしれない」
小町「ここにきて新たな選択肢が出ちゃうんだ……」
静「……やむをえん。由比ヶ浜のことは残念だったが、これ以上生徒を犠牲にする訳にはいかん」
八幡「平塚先生……」
静「それに、私の加齢臭で雪ノ下の悪臭を相殺できる可能性もある。まあ、私に任せておけ」
ダッ!
雪乃「平塚先生。私、あなたのこと誤解して……」
静「ふ……たまには教師らしくウゲェッ」
バターン
八幡「平塚先生ェェーッッ!!」
小町「いやいや、相殺は無理でしょ……」
雪乃「…………」
八幡「平塚先生までゲロるなんて、いったいどうすれば……う゛っ!?」
小町「な、なにこのニオイ!? まだ近づいてないのに!」
優美子「……んー? これ、酸っぱい臭さってーの?」
八幡「そ、そうか! 雪ノ下の悪臭と二人のゲロが混ざって、よりニオイが強力に……!」
小町「窓もドアも開けてるのにこれってやばオボァァッ」
八幡「小町! うぷっ、やべぇ俺もウボロロロロロロ」
バタバタッ
雪乃「…………」
優美子「…………」
雪乃「そう……本当に私が原因だったのね」
優美子「…………」
カツカツ...
雪乃「!? み、三浦さん、近づいてはダメよ! あなたまで……」
優美子「アンタに指図される覚え無いし」
クンクン...
雪乃「ちょっ……」
優美子「うわ、脇すっごい臭い。やっぱ雪ノ下さんが原因じゃん」
雪乃「三浦さん……あなた、平気なの?」
優美子「いつも汗臭い男共や、やっすい香水の女に囲まれてるから? これくらいヨユーっしょ」
雪乃「…………」
優美子「ま、しゃーなし。努力や才能で体臭がどうにかなったら誰も苦労しないって」
雪乃「……私、どうすれば……由比ヶ浜さんや比企谷くんだけでなく、皆をこんな目に……」
優美子「なにそれ、グチってんの? そういうのほんっとタルいんだけど」
雪乃「だって……」
優美子「はー。ったく、ちょい待ってろし」
雪乃「…………?」
■雪乃のポイント
八幡 0点(リタイア)
結衣 0点(リタイア)
優美子 5点
静 0点(リタイア)
小町 0点(リタイア)
合計 5点/25点
2時間後――
八幡「……ハッ!? お、俺はいったい……」
優美子「ヒキオ、何急に寝てんの? まだ終わってないっての」
八幡「そ、そうだ。さっきまでニオイ判定をしてて……うっ、記憶が……」
小町「頭いたいー。えっと、どうなってたんだっけ?」
結衣「確か、ゆきのんの脇のニオイを嗅ごうとして……」
優美子「は? 何言ってんの、さっき結果出たっしょ。ほら」
■最終結果
八幡 10点
雪乃 5点
結衣 9点
優美子 4点
静 17点
小町 6点
優美子「雪ノ下さんの点数、あーしやヒキオの妹と大差ないみたいだけど?」
八幡「本当だ……ってことは、記憶は無いが結果を見る限り、原因は平塚先生だったのか」
静「えっ」
結衣「先生、よく部室に来るもんね。部室が臭いのはそれが理由だったんだ」
小町「うわぁ、人に罪をなすりつけるのは小町的にはポイント低いなぁ」
静「ち、違う! そ、そんなバカな!」
静「だいたい雪ノ下の点数は不自然だ! 三浦が5点、他は0点などありえんだろう!」
優美子「だってあーし、雪ノ下さん嫌いだし」
結衣「他の皆はゆきのん好きだから、むしろ自然じゃないですか?」
静「な……なぜ、だ……何かがおかしい……!」
八幡「もうやめてください、見苦しい。おかしいのは先生の方だったんです」
静「う…………うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
バターン!!
小町「……出てっちゃった……」
雪乃「……三浦さん、ありがとう」
優美子「は? なにが?」
雪乃「あなたのくれたデオドラントスプレーで、すっかり脇のニオイは消えたわ」
優美子「……勘違いすんなし。雪ノ下さんに悪臭撒き散らされたくないだけだから」
雪乃「それでも……感謝したいの。ただ、平塚先生が……」
優美子「あれは雪ノ下さんと違って、手入れしてないのが大半の原因っしょ」
雪乃「そう……なの?」
優美子「確かに加齢臭もあるっちゃあるけど、ほとんど自業自得みたいなもんだし」
結衣「あ……ヒッキー、そういえばさっきの悪臭が消えてる!」
八幡「……そうか。ニオイの元の先生が部屋を出ていったからだ」
結衣「つまり、ゆきのんはホントに無実だったんだよ!」
クンクン...
結衣「ほら! ゆきのんの脇、ぜんぜん臭くないよ!」
八幡「どれどれ……」クンクン
雪乃「ふ、二人とも、やめなさい……」
八幡「誤解だったとはいえ、俺達は何てことを……雪ノ下、すまん! 疑って悪かった!」
結衣「ごめんねゆきのん! なんでもするから許して!」
雪乃「いいの。あなた達が私を気遣って起こした行動に、罰を与える必要なんて無いわ」
八幡「雪ノ下……」
結衣「ゆきのん……ありがとう!」
優美子「めでたしめでたし、ってね」
静「……加齢臭の消えるスプレーとか、売ってないだろうか……」
おわり
このSSまとめへのコメント
こういうの、だいすきです
とてもシュールやなw
こういうの、とてもシュールでだいすきやなw