苗木「霧切さん。この軟膏をあげるよ」 (64)

霧切「有難う、苗木君。ただ、今は使う必要が無い物だけれど」

苗木「気が向いた時でいいよ。霧切さんが使いたいと思った時で」

霧切「それは……どういう意味?」

苗木「? そのままの意味だよ?」

霧切「そう……ところで、この軟膏、市販のものではないようだど……どうしたの?」

苗木「僕が作ったんだ。幸い、ここには材料が豊富にあったから」

霧切「……冗談……よね?」

苗木「あはは。霧切さんも変わった事を言うんだね。僕の才能を忘れた?」

苗木「僕は超高校級の薬剤師だよ?」

――

舞園「あっ、あーー」

苗木「舞園さん」

舞園「わっ! な、苗木くん!?」

苗木「歌の練習?」

舞園「え、えぇ。一応……。発声練習くらいはしておかないと、いざって時に困りますから」

苗木「そう。でも、舞園さんの発声の仕方、少し間違ってない?」

舞園「えっと……間違ってますか?」

苗木「腹式呼吸はできてるみたいだけど、舞園さんのやり方じゃ長時間歌うには非効率的だよ」

苗木「体を一周するイメージで呼吸してみてごらん?」

舞園「……まぁ、苗木君がそう言うのなら」

舞園(体を一周……すぅ―……はぁー……)

舞園「あ――――」

舞園「あっ、少し楽になった気がします」

苗木「まだプラシーボの段階だとは思うけど、練習すれば本当に身に付くよ」

舞園「でも、どうして苗木君がこんな事を? 昔、習っていたんですか?」

苗木「あれ? 舞園さんには言って無かった?」

苗木「僕が超高校級のボイストレーナーだって」

――

大神「ふんっ、ふんっ」

苗木「大神さん」

大神「苗木か……どうした? 我に何か用か?」

苗木「今日もトレーニング? 毎日毎日精が出るね」

大神「特にやる事もないのでな。それにいざという時のために、鍛えておかねば何も守れん」

苗木「ふふ。僕、大神さんのそういう所、尊敬するよ」

大神「ふっ……たとえ世辞だとしても嬉しいぞ、苗木よ」

苗木「勿論、本心さ」

苗木「だから、今日はそんな大神さんの手伝いをしようと思ってね」

大神「我の手伝いだと?」

苗木「うん。それで……女の子に対して申し訳ないんだけど……ちょっと体を触ってもいいかな?」

大神「うむ。苗木が他意を持って動く人間ではない事は分かっている。それに、お主の気持ちを無碍にはしたくはない。素直に従おう」スッ

苗木「有難う」スッ

苗木「…………分かったよ。大神さん」

大神「何が分かったのだ?」

苗木「大神さんの体のズレだよ」

大神「体のズレだと?」

苗木「うん。大神さんは体の右側の筋量が左側よりも多いんだ。効き腕だから、無意識に鍛えすぎちゃったんだと思う」

苗木「対比が無い方がいいのは知ってるよね?」

大神「うむ……成るべく気を付けてはいたのだが……」

苗木「大丈夫。このくらいなら……えぃ」グッ

大神「むっ!」

苗木「……うん。これで大丈夫じゃないかな」

大神「確かに……体のキレが僅かだが向上している……しかし、苗木よ」

苗木「また何かあったら聞かせてね? 超高校級の整体師の僕にさ」

苗木「やーまーだ君!」

山田「苗木殿ですか。何用でしょう?」

苗木「山田君はどんな本を書いているのかなってさ。よかったら見せてくれない?」

山田「おぉ! 苗木殿は同人誌に興味がおありですか!」

苗木「うん! 大好きだよ!」

山田「ど、同士よー!」ダキッ

苗木「く、苦しいよ」

山田「おぉ! 失敬失敬! あまりにもテンションが上がりすぎてしまって」

山田「ささっ、私の部屋にどうぞ。今夜は思う存分語りつくしましょう!」

山田「さぁ、これが私の書いた結晶の汗ですぞ!」

苗木「あれ? 思ったより少ないんだね。もっと沢山あると思ってたのに……」

山田「確かに私は超高校級の同人作家などとは呼ばれていますが、天才というわけではありません」

山田「考えを絵に起こし、それで終了ではなく、幾度となく推敲を重ねて、作品を作り上げるのです」

山田「納得した作品しか残さないようにしてますので、その数になってしまったというわけですな」

苗木「そっか。凄いんだね、山田君は」

山田「いえいえ、この業界では当たり前の事ですから」

苗木「でも、ここは直した方がいいんじゃない?」

山田「む? どこをでしょう?」

苗木「ほら、ここ。前後で繋がっているように見えるけど、哲学っぽさが出てて、冷める人もいるんじゃないかな」

苗木「大衆向けにするなら直した方がいいと思うよ?」

山田「うーむ……あまり他人の意見には耳を傾けないのですが……そうした方がいいように思えてきましたぞ」

苗木「間違いないよ。だって、超高校級の編集者である僕が言ってるんだからね」

――

苗木「セレスさん」

セレス「苗木君。どうしたのですか?」

苗木「暇だから、一緒にカードゲームでもしようかなってさ」

セレス「うふふ、いいですわよ。ただやるのもつまらないですから、何か賭けてやりましょうか」

苗木「いいよ。賭けよう」

セレス「あら……てっきり断ると思っていたのですが……」

苗木「断った方が良かった?」

セレス「ふふ。いいえ、苗木君がそうおっしゃるのなら。そうですね……勝った方が相手を1日自由にできる」

セレス「というのはどうでしょう。勿論、良心の範囲で」

苗木「うん。大丈夫。でも、ゲームは僕が決めていいかな?」

セレス「ええ。超高校級のギャンブラーとして、それくらいのハンデは差し上げますわ」

苗木「なら、ババ抜きはどう? これならギャンブルの要素も少ないから僕も勝てるかもしれないし」

セレス「単純なゲームほど心理戦の要素が強くなってきます。つまり、私の得意分野になってしまいますが、それでもいいんですか?」

苗木「うっ……うん。他のじゃ勝てる気すらしないし……」

セレス「あらあら、随分と弱気なんですね。苗木君は幸運ではありませんでしたか?」

苗木「あはは、僕は運なんて持ち合わせてないって」

セレス「うふふ、それもそうでしたわね」

苗木「じゃあ、始めるよ?」

――

苗木「やった。僕がババじゃない」

苗木「これで僕の勝ちだね」

セレス「そういうゲームでしたの?」

苗木「それは違うよ。ただ、僕がババを引く事はもうないからね」

苗木「だから、僕の勝ちって言ったんだ」スッ

セレス「? どうして今サングラスを?」

苗木「このサングラスは魔よけのサングラスでね? 悪い物は避けてくれるんだよ」

苗木「つまり、僕がババを引く事はもうないって事さ」

セレス「……私は構いませんが」

セレス(……私の動揺を誘っているのでしょうか……まぁ、意味のない事ですが)

セレス(……それにサングラスに苗木君のカードが写っていますし、止める理由はありません……しかし、本当に信じているのならお粗末としか言えませんわね)

――

スッ

苗木「これで後2枚だね! 僕の勝ちも目前だよ!」

セレス「……」

セレス(適当に引いているのでしょうか……それとなく誘導しているつもりではあるのですが……)

セレス「いいえ。2人で行うババ抜きでは最後の2枚になってからが本当の勝負ですから」スッ

苗木「……セレスさん。まだ気づいてないの?」

セレス「何がですか?」

苗木「僕があんな事を信じてサングラスをかけたと、本当に思ってるの?」

セレス「いいえ……私の動揺を誘うためではなかったのですか?」

苗木「……ババ抜きでね、自分がババを持っていない時、どうすれば絶対に相手に勝てると思う?」

セレス「それは…………あっ」

苗木「そう、相手のカードが見えれば絶対に勝てるよね?」

セレス「まさかその眼鏡で……」

苗木「そっ、トランプにも細工をしてるよ。だから、こうやって」スッ

セレス「あっ!」

苗木「はい、あがりー」

セレス「……言い訳はしません。見抜けなかった私に責任はありますから」

苗木「セレスさん。平和ボケしちゃってるんじゃない? 僕の普段の振る舞いでこんな事はしないと思ってたんでしょ?」

苗木「駄目だよ。セレスさんみたいな人がそんなんじゃ、いいカモにされるよ?」

セレス「……言い返す言葉もありませんわ。そんな人を何人も見てきましたのに……ただ、苗木君は正々堂々と勝負して来ると思ってた私のミスです」

苗木「さて、勝った方は負けた方を1日好きにできるんだったね」

セレス「自由にですが……まぁ、大して違いはありません」

セレス「ただ、飽く迄も良識の範囲でお願いします」

苗木「分かってるって。なら、このサングラスを掛けてよ。これなら問題ないでしょ?」

セレス「まぁ、それくらいなら……」スッ

セレス「……あれ……いえ、そんなはずは……」

苗木「ふふ、どうかした?」

セレス「……苗木君。嘘を付きましたわね」

苗木「嘘?」

セレス「このカードも、サングラスも、どちらも細工なんてされてないではありませんか」

苗木「……ごめんね? セレスさんに気づいてもらおうと思ってこんな手段を取っちゃたんだ」

セレス「私に……?」

苗木「セレスさんは確かに呼称に違わぬ強さがあるよ。どんな事にも動揺しないポーカーフェイスが何よりの証拠さ」

苗木「でも、そのせいで癖ができちゃってる。とても微かで気づきにくいものだけど」

苗木「今まで気づいた人はいなかったかもしれないけど、これからは気づく人が出てくるかもしれない。現に僕がそうだったようにね」

セレス「そんな癖が……でも、どうすれば……」

苗木「擬態すればいいのさ」

セレス「擬態?」

苗木「そう。強い相手には弱く見せて油断を与えて、逆に弱い相手には今までのように振舞って威圧する。まぁ、この見極めが難しいんだけど」

苗木「でも、セレスさんならきっとできるよ」

セレス「……とても有難いご忠告なのですが……どうして、苗木君はそんな事を?……それに、イカサマではないのなら、先ほどの勝負は」

苗木「いいや。さっき勝てたのは僕の得意分野だったからだよ。心理戦の要素しかなかったからね」

セレス「得意……分野?」

苗木「うん。向かい合ってる相手の心理を読み取るなんて、超高校級の心理学者にとっては朝飯前だよ」

――

苗木「珍しいね。今日は十神君と一緒じゃないの?」

腐川「き、今日は小説を書く日って決めてるのよ」

苗木「ね、良かったらその小説を見せてよ」

苗木「こう見えても僕、物を見る目はあるんだ」

腐川「そ、そうやって私の事を馬鹿にする気でしょ!」

苗木「それは違うよ!」

苗木「僕はこんな状況でも自分の作品を書き続ける腐川さんを尊敬して言ったんだ! 他意は無いよ!」

腐川「うっ……。わ、分かったわ。読んだら感想聞かせなさいよね」

苗木「うん。勿論」

苗木「……」

腐川「ど、どう?」

苗木「……これ、モデルは十神くんと腐川さん?」

腐川「ぐっ。そ、そうよ! 何か文句ある!?」

苗木「いいや。問題はそこじゃない」

苗木「腐川さんって、純文学を書いてるんでしょ?」

苗木「この作風は明らかに違う。人に読ませるために作ったものだ」

腐川「……仕方ないじゃない。どうせ私と白夜様は結ばれる運命にない」

腐川「だったらせめて小説の中だけでも! 人に認めてもらうぐらいいいじゃない!」

苗木「……そう? 本当にそう思ってる?」

腐川「……わ、私だって……自分勝手に書きたいわよ。だ、だけど、そんなの」

苗木「怖いの?」

腐川「……」

苗木「今まで恋愛をしてこなかった君が初めて恋をして、その心情をありのままに書き表すのが怖い?」

腐川「……怖いに決まってるじゃない……だからこうして」

苗木「大丈夫。腐川さんなら気持ちを素直に書いても……誰もが、十神君だって認めてくれる作品になるよ」

腐川「ほ、ほんとぉ?」

苗木「うん。この超高校級の感性のお墨付きだよ。絶対に大丈夫」

――

朝日奈「ふぅ。気持ち良かったー」

朝日奈「やっぱり泳ぐのは……うん?」

朝日奈「何かすっごく良い匂いが……」スタスタ

苗木「あっ、朝日奈さん」

朝日奈「苗木? それ、すっごく良い匂いするけど……何持ってるの?」

苗木「これ? ふふ、何だと思う?」

朝日奈「えー、何だろ……」

苗木「ヒント。朝日奈さんの大好物です」

朝日奈「私の好物……? あっ! ドーナツだ!」

苗木「うん。正解」

朝日奈「ほ、本当!?」

苗木「そろそろ上がってくると思って作ってたんだ」

苗木「疲れてる時は甘い物って言うし」

苗木「沢山あるから遠慮なく食べてよ」

朝日奈「……っっ」

苗木「ん? どうしたの?」

朝日奈「な、なえぎー!!」ダキッ

苗木「わっ!」

朝日奈「うわーん! ありがとー!」

苗木「あ、朝日奈さん危ないって」

――

朝日奈「えへへ、それじゃあ、頂くね?」

苗木「うん。どうぞ」

朝日奈「はむっ……!? お、おいしー!!」

苗木「えへへ。それは良かった」

朝日奈「こんな美味しいドーナツ食べた事ないよ!」

苗木「まだまだあるから、沢山おかわりしてね?」

朝日奈「そ、そうしたいのは山々なんだけど……」

苗木「? お腹いっぱいになっちゃった?」

朝日奈「ううん……その……最近太ってきちゃって……」

苗木「だと思って、このドーナツは朝日奈さんがいつも食べてる物の10分の1くらいのカロリーしかないから大丈夫だよ」

朝日奈「えぇ! それ本当!?」

苗木「ふふ。僕は超高校級の菓子職人だよ? お菓子の事なら何でもできるさ」

――

苗木「大和田君の服の背中に書いてあるのって、暴走族のマーク?」

大和田「ん? おぉ、苗木か」

苗木「そのマークの旗を持って走ってたんだよね?」

大和田「そうだなぁ……まっ、今となっては懐かしい思い出だがな」

苗木「その旗、もし、手に入るのなら欲しい?」

大和田「んー。あって困るものではないのは確かだがな」

大和田「でも、そんな事聞いてどうすんだ? まさか、作ってくれるって言い出すんじゃねえだろうな」

苗木「勿論、僕が作るさ。それで大和田君に希望が与えられるのならね」

大和田「おいおい、気持ちは嬉しいけどよ。ありゃ、本職の人に頼んで作ってもらった奴だ。お前にゃできねぇって」

苗木「もー。大和田君も忘れたの? 僕の才能は超高校級の手芸士だって」

苗木「桑田君は、どうして野球を止めようと思ったの?」

桑田「どうしてって……練習めんどくさいし。それに、ミュージシャンにもなりたかったしな」

苗木「にも? それって、野球選手にもなりたかったって事?」

桑田「あ、いや……ミュ、ミュージシャンになりたかったんだ!」

苗木「どうして、ミュージシャンになりたいの?」

桑田「どうしてって……目立つし、カッコいいだろ? それにモテるじゃねえか」

苗木「目立ってカッコよくて、モテたいのなら野球選手でもいいんじゃない?」

桑田「野球はダサいし、華がねぇ。ミュージシャンなら脚光を浴びれるだろ?」

苗木「脚光を浴びる事が君の目的なの?」

桑田「違う! 俺の……俺の目的は……」

桑田「てか! 何で苗木にこんな誘導尋問みたいな事されなくちゃならねぇんだ!」ガタッ

苗木「何で? そんなの超高校級のカウンセラーとして君を希望に導く必用があるからだよ」

苗木「さぁ、座って? 僕はまだ君に希望を与える事ができてない」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年03月25日 (金) 11:38:56   ID: y3lfkiDX

苗木

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom