マナ「六花!お散歩の時間だよっ!」 (30)
今日の関東は20年ぶりとも言われる大雪……
よりにもよってこんな日に多くの大学の二次試験日が重なってしまい
数年後のことを考えると他人事とは到底思えないけれど……私、菱川六花はさらに深刻な状況に今現在直面していた。
「え、えっとマナ、今日は流石に……」
雪が未だちらつく窓の外の景色を横目にそう言った私の表情は引きつっていただろう。
そして目の前の私の親友であり『飼い主』でもある少女はもう一度言った。
「お 散 歩 の 時 間 だ よ!」
ここは私の家……
だけど両親が不在の時ここは、マナという飼い主によって私という犬が飼われる「犬小屋」へと変わる。
「ねぇマナ……今日も……は、ハダカじゃなきゃダメなの……?」
「モチのロンだよ。あたしが『犬』に服を着せるのがキライだって知ってるでしょ?六花は」
私はマナの犬なんかじゃなくてツバメ……でもなくて友達。
そんな風にマナに訴えるのはもうとっくに諦めていた。
今は私はマナの犬でもかまわない。
それでマナが喜んでくれて、マナの特別になれるのならそれは嬉しいこと。
そんな風にすら思っているけれど、今日のこの状況は話は別。
こんな日に裸で外に出たら大げさじゃなく命にかかわる。
「うーん、嫌ならしょうがないね、まこぴーを代わりにペットにしてお散歩に行くからいいよ!」
「……!?ま、待ってマナ!まこぴーは今病気で仕事も休んで療養中なのよ!?」
マナのその言葉に私は、自分が散歩を告げられた時以上の衝撃を受けて思わず叫んだ。
「今そんなことさせたら本当にまこぴーが死んじゃうわ!……行く……私が行くから!」
でも本当は、まこぴーを守るためなんかじゃない。
私は彼女にマナを取られるのが怖かったから。
マナが自分から離れてしまうのが、自分がマナの特別じゃなくなるのが怖かったから。
そう、私は結局マナから逃れられない。
そんな自分の性を改めて理解させられた私は諦めて、服に手をかけ脱ぎ始めた。
フローリングの床に着ていた物を下着も残さず全て脱ぎ捨てると、屋内でもすでに少し寒い。
「ううっ……」
暖房が効いているはずの家の中でこれでは外に出たらどうなってしまうのか、考えるだけで怖い。
「流石に今日は四つんばいで歩いたら大変なことになりそうだから……これをつけてあげるね」
そう言ってマナが見せたのは、犬の手足を模したようなデザインの肉丘がついたグローブだった。
「……うん」
それを両手、両足にはめさせられると、下着すらつけず上も下も隠すべきところは隠していないのに
そんなものだけ身に着けている倒錯的な感覚に私はさらに羞恥と屈辱を覚えるが、ゆっくりそんな感傷を味わう暇もなくマナは次の命令を下す。
「ほら、早く四つんばいになって!メス犬らしく」
「……ええ」
裸で四つんばいになった私の両手足のグローブを、マナは順番にテーピングでグルグルに巻いて固定してしまった。
私はもう自分でこれを外すことも出来ないしマナがこれを外してくれるまでまるで本当の動物みたいに指が使えなくなってしまう。
それでも屋内でつけている分には暑い位のそれは、私にとって正直ありがたい。
雪の中で長時間四足で歩かされたりしたら私の指は凍傷で腐り落ちて本当に動物のようになってしまいかねないから。
「六花、尻尾つけたげるからお尻をつきだして」
続けてマナはフサフサした大型犬の尻尾のようなものを私に見せる。
この犬扱いも慣れてきた……というか諦めて受け入れるようになってきた私だけれど、この尻尾だけは今だに抵抗が強い。
しかも……
「ね、ねぇマナ……なんだかそれ……前より太くなってない?」
「うん、六花のお尻前より拡がってきた気がしたから、ありすに頼んで3センチの太さのヤツ変えてもらったんだよー!」
しれっとそんなことを言うマナの持つ尻尾の反対側には、先端がわずかに尖り、途中でくびれの出来たプラグという部分があり
それを私の肛門……お尻の穴に入れることでこの尻尾は装着される。
私はお尻の穴に異物を突っ込まれた上に、そこから尻尾を生やした姿にされるという屈辱を強いられるのだ。
医者になれば必然的に患者のそういう部位に触れることもあるわけで……そのことを屈辱であるなどと思うのはいけないと思う……
いや、思うことで心の平静を保とうとしたこともあったけれど、やはりこの上なく恥ずかしく屈辱的な仕打ちであるという気持ちは理屈ではなかった。
「何時見ても六花のお尻の穴は綺麗だね♪」
「あぁ……」
突き出したお尻がマナの手で左右に広げられ、お尻の穴に冷たい空気とマナの視線が触れるのを感じる。
「六花のお尻、もう結構広がってるはずなのに……外から見ると最初に見た時と同じ小さくて綺麗なままなんだから不思議だよね」
「あはっ、あたしが拡げるたびに逆らうみたいにキュッって窄まっちゃって可愛い♪」
「マナ……ヘンなこと言わないで、恥ずかしいよ……ひゃっ!」
私を恥ずかしがらせていじめるようなマナの言葉は途切れたけれど、代わりにマナの唇と舌が私のお尻の穴に触れた。
「ぴちゃ……ぴちゃぴちゃっ……じゅるっ」
マナと私の間から奏でられる、わざと大きくいやらしい音を出しているんじゃないかというそれに私は恥ずかしさのあまり床に突っ伏し身体を震わす。
「ぷはっ……六花?気持ちいい?気持ちいいよね……だって六花のここ、すでにキュンキュンジンジンしてるもの」
「ああっ!!」
不意に私の股間をまさぐるマナの指。
「気持ちいいよね……?答えて」
少し低い声でマナはそう言い……自分の指を私の目の前に見せ付けてきた。
そこは透明な液体で濡れ……テラテラと輝いている。まさにエッチの光……
「……う、うん……」
私は羞恥にますます顔を真っ赤にしながらも認めるしかなかった。
実際、お尻の穴を舐められるという最初は抵抗しか覚えなかったこの仕打ちだけど……今の私は「気持ちいい」と感じてしまっている。
だけどそれ以上に私は「嬉しい」のだ。
マナは自分のこんな場所まで愛してくれている。マナはそれだけ自分を愛してくれている。
そう思うとマナにどんなことをされても全て受け入れなければ……いや、受け入れたいと思ってしまうのだ。
そして束の間の快楽も終わり……マナの口と唾液でほぐされた私のお尻の穴には先ほど見せられた太いプラグの先端が宛がわれる。
「あぁ……怖い……怖いよマナ……!」
お尻にこれを入れられる時は恥ずかしいだけじゃなくいつも怖い。
まして今日は普段よりサイズが大きくなっている。
「大丈夫だよ、六花ならできる!……ね?」
マナの手が私の頬に触れ、彼女の方に顔を向けさせて。
私の目をじっと見つめて……そして。
「ま、マナ……んっ……」
私の唇を塞ぐマナの唇。
マナとキスしている。マナがキスしてくれた。
それだけで私はその事実が全てに優先される。世界の全てになる。自分のお尻と間接キスしてるとかどうでもいい。
「……んむぅっ!!」
そして私の頭がマナのことで一杯になり、お尻の穴の力が抜けたその瞬間を見計らうかのように、私のそこにプラグが突き入れられる。
「……んっ……うぁぁ……」
口から糸を引きながらマナの口が離れると、私の口からはお尻の穴を拡げられる苦悶の声が漏れる。
でもプラグはたっぷり濡らされていたためか、刺激の割りに抵抗は少なく、私の直腸ににゅるんっと潜り込むように埋まる。
「うあっ……あっ……くうぅ……」
そしてプラグのくびれの部分がお尻の穴の入り口に食い込むようにフィットして、返しの要領で簡単には抜けなくなる。
「あ……あぁぁ……」
お尻の中の異物感と、お尻から尻尾を生やされた惨めさに、床に突っ伏したまま情けない声を出す私。
さらに入れられたその直後から私のお尻の中ではムズムズと熱いような感覚が広がっていた。
私のお尻の穴に入る部分にたっぷりと塗られている潤滑剤はいつもグリセリンの原液。
浣腸液に使われていることで有名なその液体が直腸に直接塗りこまれるような形になる私は、必然的に散歩の途中で次第に催す運命が待っているのだった。
「はい、じゃあ仕上げはコレね」
最後にマナは私の首に青い首輪を巻く。首輪にはリードがついていて……もちろんそれを引くのはマナだ。
私は顎を上げて、マナがつけやすい姿勢を取る。もう慣れたものだった。
「……うっ!」
おそらく意図的に、マナはいつも私が少し呻くぐらいキツく首輪を締める。
苦しくて辛い、緩めて欲しいと思う一方で、首輪がキツく食い込むほど私はマナに支配されている、
強く束縛してもらえているという気持ちがこみ上げてきて、自分でも異常だと思うけれど……それに喜びや充実感を得てしまうのだ。
「……」
裸で、四つんばいで、首輪をつけてリードをマナに引かれ、お尻の穴から尻尾まで生やして。
死にたくなるほど恥ずかしい姿にされた私。
「あぁ~!犬になった六花は可愛いよぉ~!キュンキュンだよぉ~」
それでもマナが喜んでくれる。マナが可愛いと言ってくれると嬉しくなってしまうことが何より恥ずかしい。
「じゃあ行くよ……六花?」
しかし今日の私の受難は、恥ずかしいだけで終わりそうはない、ここからが本当の地獄だ。
「あ……あぁ……」
リビングから廊下に出ると暖房の効いていないそこは寒い、すでに凄く寒い。
身体がガクガクと、寒さに、これから待つさらなる寒さへの恐怖に震える。
「うわぁ……今日は雪なだけじゃなくてすっごく寒いね」
「ひ……っ!!」
玄関の扉が開かれると更なる冷気が私の全身を撫でる。
普段の散歩のこの瞬間は、誰かに見られることの恐怖で震える私だけれど今日はその余裕はなかった。
「良かったね六花、今日は誰かに見られる心配は少ないよ。こんな日の夜に外に出る人なんてそうはいないから」
満面の笑顔で振り返ったマナの先には……いつもの家の外の見慣れたはずの風景とは違う
……周囲は暗いのに、白い世界が広がっていた。
廊下でも既に寒すぎて限界と思っていた私の心は……
降り積もった雪と今もまだ降り続ける雪で折れてしまう。
「む、ムリ……やっぱりムリよこんなの……!!マナ……許して」
どうしてもその場から動けない。
だけどマナは歩き出し、そして私の首輪を強引に引っ張る。
「や、やめてマナ……くるしっ……あっ!!」
マナの強い力に引っ張られて、あたしは玄関から引きずり出されると、そのまま勢いで新雪の上に肩から裸の半身をダイブさせる形になった。
「……っっ!!……きゃあああーーーっ!!」
最初は倒れた衝撃そのものに顔をしかめた私は……一瞬後に襲ってきたまさに身を切るような冷たさに悲鳴をあげる。
そしてマナは……私が起き上がるのを待たずそのまま私を引きずって歩く。
結果、裸の身体に、髪に、顔に、冷たい雪がずりずりとこすり付けられるような形になり、私は叫んだ。
「待ってマナ!!……歩く!歩くからまってぇえええ!!……ひぃいいーーーーっ!!」
それは冷たさというよりもはや痛みによる絶叫。
私は無様に雪の中で裸でしばしもがいた後……なんとか立ち上がって四つんばいで必死にマナについて行く。
「うあっ……あぁあああっ……ああああ……」
手足につけたグローブが全て埋まり、露出した手首や足首にまで達する積もった雪の中を私はマナに首輪を引かれて歩く。
寒い、寒すぎる。
あまりの寒さに涙が出てくるけれど、熱かったその涙はあっという間に冷えて凍りそうになる。
寒さに凍え、泣きながら歩く私と対照的に上機嫌なマナ。
「ごな゛ぁぁあ゛あああ!!ゆぎぃい゛いいいい!!」
頭上からいくら大好きなマナのものでもこれだけは受け入れられないと思う酷い歌声が聞こえてくるけれど
今日に限ってははそんなことは大して苦ではなかった。
それは雪は音を吸い取るから……などという化学的な問題ではなく
私が今身に受けている極寒の責め苦がそれを遥かに上回っているからなのは考えるまでも無い。
「ううっ……マナ、もう許して……もう帰りたい……寒い……寒いの……うぐっ!」
そう行って四足の歩みが鈍るあたしをマナは早足で引っ張っていく。
どんどん家は遠くなりその心細さからますます身体が冷えていく気がした。
実際気持ちの問題だけでなく刻一刻と私の全身の体温は奪われていき、身体はどんどん冷えているだろう。
まだ降り続く雪は四つんばいで歩く私の裸の背中へと次々と落ち、そして冷たくなった身体はもはや体温でその雪を溶かすことも出来ず
だんだんと背中や頭の上に雪が積もっていくのを感じた。
「うっ……うぅ……寒い……寒いよぉ……」
寒さのせいか、私はいつもより早く催してきて内股でモジモジと歩くことになる。
「ほら、六花?早く歩かないと本当に凍っちゃうかもよ?」
そんな私の様子に気づいているはずなのに、変わらぬ調子で私の首輪を引くマナ。
「ま……マナ……待って……お、おしっこ」
私はとうとう我慢できなくなって、恥を承知でマナに告げる。
「いいよ、あそこに電信柱があるからあそこでしよっか」
電柱まで引っ張られた私は……大きく片足を上げる。
「うあぁああ……!!」
比較的寒さから守られていた腹部や股間に冷たい空気と風が吹きつけ。上げた脚がガタガタと震える。
同じ外で裸でも四つんばいの姿勢の方がまだ寒くないと身に染みた私は早く放尿することにした。
もはや野外で犬のように排泄をさせられている羞恥すら薄れていた。
「あっ……あぁ……あ……!」
やがて私の股間からじょろじょろと恥辱の雫が迸る。
「ひっ……あぁっ!!」
寒さのせいでいつもより脚を上げて股間を開くのが足りなかったせいか、出始めの尿は勢い良く飛ばず、上げていない方の脚を伝ってしまう。
そしてそのおしっこを暖かいと感じたのはほんの一瞬。あっという間に氷のように冷たくなったそれはますます私を責める。
さらにその時、強い風が吹く。
もともと確実に氷点下は下回っているであろう外気の体感気温は瞬間的にさらに下がって。
「うっ……うあぁああああ……っ!!」
私は犬のポーズで放尿するという傍から見たらこの上なく滑稽な姿で、気を失いそうな寒さに白目を剥きそうになる。
「あははっ、六花のオシッコすっごい湯気が出てるよ!」
寒さと惨めさで泣きながらおしっこをするそんな私をマナは楽しそうに眺め続けた。
「うぅうっ!!」
放尿が終わると、ガタガタと身体が一層震え、これまで以上の寒気が襲ってくる。
暖かいおしっこを体外に出したということは体内の貴重な熱量を消費したに等しい。
「ま、マナ……もう帰ろう……!もうお、おしっこもしたんだからいいでしょ……!私、本当にもうムリ……死んじゃう……」
もはや自分の意思とは無関係に震え続ける身体、ガチガチとなる歯、失神するんじゃないかという寒さの中で必死にマナにそう訴える私。
でもマナは……何やら私がおしっこをした電柱の下にしゃがみこみ……振り返って満面の笑みを浮かべ言う。
「去年の夏祭りを思い出すね!六花特性のスペシャルなスイーツが出来たよ~」
マナが何を言っているのか意味がわからなかった、一瞬寒さのせいで自分の頭が働かなくなっていたのかと思ったが
やっぱり何を言っているのかわからなかった……
でも良く見るとマナの手袋の上にはこんもりと雪が盛られていて……その雪はまるでレモンのカキ氷のように黄色くなっていた。
マナは私がおしっこをかけた雪を両手ですくったのだと理解した次の瞬間。
「しゃくっ」
……マナは笑顔のままそれを食べた。
「うーん、スイーツって言うにはちょっとしょっぱいかな?」
「マ、マナ……なんてことを……!!」
一瞬、ほんの一瞬だけ寒い筈の身体が熱くなるような気がしたが……
次の瞬間私は再び身も心も凍るような目に逢わされることになる。
「ほら……六花も食べて?……ほら?」
マナの手袋に包まれた両手の上にまだ山盛りになっている……私のおしっこで作られた恥辱のフラッペが顔面に突きつけられた。
「……っっ!!」
私はそんなもの食べたくないと必死に首を振った。
今の私にとっては自分のおしっこがかかった雪であることよりも
この極限の寒さの中でさらに雪を食べてさらに身体を内側から冷やすことを絶対に避けたかった。
「なんで食べてくれないの?みんなで食べさせあったかき氷はあんなにおいしかったじゃない」
じゃあマナのおしっこで作ったやつを食べさせて……じゃない!
無理。今は雪や氷を食べるなんて絶対にムリ。
「うぶっ!!」
泣きながら首を振る私の顔面に……マナが持っていたカキ氷が押し付けられる。
「んっ!!んんーーーー!!」
逃げようとしたが首輪が動かない、おそらくマナがリードを踏んでいるのだろう。
顔面に押し付けられるアンモニア臭のする雪。
私はそれを、すでにほとんど熱を失った顔面で全て溶かすか……食べるかの二択を迫られる。
「ううっ……べしゃっ……びちゃびちゃ……うぐぅううう……っ!!」
結果私は……顔面の冷たさ、否、痛さに耐えかね。食べることを選ばされた。
冷たい、口の中まで冷たい。
あの頭がキーンとなる感覚が絶え間なく襲ってくる。しかも頭だけじゃなく、五臓六腑までが悲鳴を上げている。
「うぐぅぅぅ……!!」
不意に、身体がまた別種の寒気を訴えてきた。
「……お腹が……痛い……!!」
元々じわじわと腸壁を蝕んでいたグリセリンに加え、お腹が冷やされたことで私は急激な便意に襲われた。
「六花……うんちしたいの?」
今度はマナは直ぐにそう言ってくれたので私はコクコクと頷く。
「そう、でも六花、もうちょっと我慢して?」
しかし、許可なく排泄する自由は私にはなかった。
「マナお願い……我慢できない……お腹が痛い……痛いのぉ……」
マナの脚にすがり付いて、靴を舐めかねない勢いで懇願する私。
「じゃあね六花……上手に『とってこい』が出来たらいいよ?」
するとマナはピエロの鼻のような赤いボールを何時の間にか手にしてそう言った。
私達の目の前には空き地が広がっていた。
車も誰も通らないそこは深い雪がしんしんと降り積もっていて……
「とうっ!」
その中にマナはボールを投げ、真っ白な雪の中に赤いボールが目印のように軽く埋まる。
「あ……あぁぁ……」
それを私は今から四つんばいで取りに行き、口に咥えて戻ってこなければいけない。
思えばこの「とってこい」では何度も泣きたい目に逢わされた。
公園で子供達の遊んでいる砂場に今と同じ格好で取りに行かされたこともあった。
夏の流星群の下……藪の中にボールを投げられ、中々見つからず全身が切り傷と蚊に刺された跡だらけになったこともあった。
でも……今以上の絶望はなかった。
だけど、排泄の許可をもらうため。
何よりマナの命令だから……私は新雪の中に四つんばいで踏み込んでいく。
「ひっ!!」
新雪は肘や膝まで埋まってしまう深さ。冷たさもあるが這っていくのも一苦労で。
十数メートル先のボールが遥か遠くに思えた。
「ううっ……うわぁああっ!!」
私は何度も手足を取られ、全身を雪に突っ伏すように倒れた。
「ぐぅぅ……ぎいぃぃい……!!」
「うぶっ……んんっ!」
そして何とかボールの所までたどり着くと、顔面を雪に埋めるようにしてボールを咥えると、私は今這ってきたのと同じ道のりを再び戻る。
「うん、いい子いい子」
口に咥えたボールをマナに手渡すとマナは笑って私の頭を、積もった雪を払うように撫でてくれる。
寒いけど、辛いけど、苦しいけど……マナが笑って、マナに褒められると嬉しくて私も笑顔になる。
でも……マナの腕が再びボールを放り投げるのを見て私はまた愕然とした。
……とってこいは一回で終わるわけがないのだ。
その後も雪の中にボールを取りに行き、全身雪まみれになりなる私。
お腹はどんどん痛くなって、尻尾が栓になっていなければ確実に漏らしている。
もはや栓があっても意識して締め付けていなければ漏れてしまいそうで……マナから許可を貰う前に粗相の出来ない私はお尻の穴に力を懸命に込め続ける。
もう気を抜くと漏らしてしまうどころか。その場に倒れて二度と起き上がれなくなりそうで、私は気力を振り絞って玉を取りに行き続けた。
何度ももう無理、もう限界だと思うのに、戻ってマナに頭を撫でられるたび、ほんの少しだけ元気が戻って頑張れる気がした。
気がつくと私は……四葉病院のベッドの上にいた。
私が極度の停体温症で倒れて入院したこと。
セバスチャンさんが問題になりそうなことは全部内密に処理してくれたこと。
……そしてマナは私の意識が戻るまでずっと傍にいてくれたことをありすから聞いた。
マナはやりすぎてしまった事を私に泣きながら謝っていたけれど、私は全然そんなこと気にしてないよ。
私だからマナはここまで全てをぶつけてくれたんだよね?
みんなに愛を振りまくマナは……私にだけは逆に自分のしたいことを全てぶつけてくれるんだよね?
本当に愛している私にだから。
わかってる。わかってるから私は……それで幸せなの。
「マナちゃん……真琴さんに続いて六花ちゃんまで、少しは手心というものを……」
「うん、六花は身体はあんまり強くないって忘れてたよ」
「ありすはこのぐらいじゃ壊れないよね……さ、服脱いで?」
おわり
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