ウェイバー「……ウタヒメ…?」 (291)
「閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ」
「 繰り返す都度に五度」
「 ただ、満たされる刻を破却する」
「 ━━━━━ 告げる」
「 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」
「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ 」
「 誓いを此処に」
「 我は常世総ての善と成る者」
「 我は常世総ての悪を敷く者」
「汝三大の言霊を纏う七天、 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ ━━━━ !」
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ウェイバー「……どうして、こうなる?」
ウェイバー(おの傲慢で、嫉妬に染まった憎き師から奪った聖遺物)
ウェイバー(あれで僕はこの聖杯戦争でのサーヴァントを召喚出来る筈だった)
ウェイバー(手順にミスは無い……)
ウェイバー(僕の手際にも、問題は無いはずなんだ……)
ウェイバー(なのに……どうして、喚び出したのが……)
ウェイバー「かのアレキサンダー大王じゃなくて……こんな女の子なんだ」
白髪?「……zzZ」スヤスヤ
ウェイバー「……い、一応サーヴァントではあるんだよな…」
ウェイバー(召喚した時に意識に流れ込んできてはいる)
ウェイバー(クラスは『ライダー』、基礎能力値は……それなりに高い…と思う)
ウェイバー(だけど……これがアレキサンダー大王? )
白髪?「……Zzz」スヤスヤ
ウェイバー「……っ」
ウェイバー「アレキサンダー大王が実は女だった……なんて事、あるわけない……!」
ウェイバー「やっぱりボクの何かがダメだった……それ以外に有り得ない…」
ウェイバー(と、とりあえず……)チラッ
白髪?「……Zzz」スヤスヤ
ウェイバー(このままこんな所で寝られても困る…! 第一、ボクはマスターなんだぞ!?)
ウェイバー(ここは起こしてから一喝してやらなきゃ……例え相手が女の子だとしても、英霊には違いない筈)
ウェイバー(それに、英霊として召喚されたのだから、きっとこいつはボクに喚ばれた例外級の凄い奴だ)
ウェイバー(きっと……たぶん……)
ウェイバー「……」
ウェイバー「おい、起きろ!」
白髪?「……Zzz」スヤスヤ
ウェイバー「お、起きろって言ってるだろ!」
白髪?「……Zzz」
ウェイバー「お前のマスターはぼく…じゃなくて私だ! 私の声が聞こえないのか!?」
ウェイバー「私の名はう、ウェイバー・ベルべべベ…ット…! 誇り高き天才魔術師だだ、だぞっ!」
白髪?「……Zzz」スヤスヤ
ウェイバー「起きろよ!?」
ウェイバー(……起きない)
ウェイバー(これだけ言ってるのに、普通起きないか……?)
ウェイバー(もしかして……)
ウェイバー(この女が召喚されたのが事故なら、その影響で目を覚まさない…とか?)
ウェイバー(冗談じゃない!!)
< ガッシ!
ウェイバー「おい、頼むよ起きてくれ! ボクにはお前が起きてくれないと困るんだよ…!」
< ユサユサ……
ウェイバー「起きろ、起きろってば! 起きてくれよ!」
白髪?「ん……んぅ、う……ぅ」ユサユサ
ウェイバー「おい、起きろ……って…?」
ウェイバー「……っ……」クラッ
ウェイバー(……忘れてた、英霊とは言え受肉して…実体化してるんだ)
ウェイバー(妙に頭がくらくらすると思ったら……この女の近くにいると匂う香りのせい…?)
ウェイバー(しっかりしろウェイバー・ベルベット! たかが女の匂いにやられてちゃ…ッ!!)
ウェイバー「例え相手が真っ白でこれ以上無いほどの美女だとしてもボクは誇り高き…」
白髪?「うるせぇえええええ!!!!」ドゴォッ!!
ウェイバー「ぐほぉっ!?」
< ドサッ
ウェイバー「ヅゥ~~!!?」ゴロゴロゴロ
白髪?「人が良い気持ちで寝てんのに、ゆらゆらと揺さぶりやがって…」
白髪?「ぶっ飛ばすぞクソガキ!」
ウェイバー(な、なんだ……こいつ!?)ズキズキ
ウェイバー(いきなりボクを殴り飛ばしたかと思ったら…逆ギレ?)
ウェイバー(いや、それよりもマスターであるボクの事をなぐっ…)
白髪?「……?」ぴくっ
白髪?「…?………??……」キョロキョロ
ウェイバー「やいっ! よくもマスターであるこのボ…わ、ワタシを!」
白髪?「…おい」ギロッ
ウェイバー「はい」
白髪?「ここは……どこだ…?」
白髪?「お前、何をしたんだ」
ウェイバー「……」
ウェイバー「は!?」
白髪?「はじゃなくて、ここは何処だって聞いてるんだよ」
ウェイバー「いや、ここは……冬木市の…空き地、かな」
白髪?「フユキシ?」
ウェイバー(……)
ウェイバー(まさか、状況そのものが理解できてない?)
ウェイバー(聖杯の力で現代に対する必要な知識が最低限は得られてるんじゃ…)
白髪?「答えろクソガキ、ここはどこだ」
ウェイバー「ここは……お前が戦うべき場所だ」
白髪?「 なに?」
ウェイバー「聖杯戦争、七の英霊を召喚し、闘争の果てにあらゆる願望を叶える聖杯を手にする戦い…」
ウェイバー「ここは、ワタシがお前を喚んだ戦場なんだ」
白髪?「……」
白髪?「お前が私をよんだ?」
ウェイバー「そ、そうだ」
白髪?「………死後の世界、って事か」
ウェイバー(…?)
白髪?「なるほど……」ぺたぺた
ウェイバー(…身体中を触って、何をしてるんだ?)
白髪?「…左目も……花が無いみたいだし…どうやら本当らしい」
白髪?「清々しい気分だ、解放された後なのかは覚えてないけど」
ウェイバー「何が…?」
白髪?「お前が私を喚んだんだったな」
ウェイバー「!」コクリ
白髪?「ミハイルも喚べるのか」
ウェイバー「ミハイル…? いや、これ以上は英霊は召喚出来ない!」
白髪?「何でだ、そもそも私は英霊なんかじゃないだろ」
ウェイバー「何でだ、って……聖杯の力で召喚出来るのは、一体だけってルール何だよ!」
ウェイバー「それに、こうしてぼく…私がお前を召喚して、まだ令呪があるんだから、お前は私の英霊だ!」
< ばっ!
白髪?「れい…じゅ……? その紋章が私を召喚した証になると?」
白髪?「訳がわからないな、面倒くさい」
ウェイバー「面倒だと……っ、私はお前のマスターなのだぞ!」
白髪?「もういい、とりあえずドラゴン探しにいくぞ」
ウェイバー「え……」
白髪?「一緒に来い、そこそこ魔力があるみたいだし、私を召喚したのも事実なんだろ?」
ウェイバー「そうだけど……いや、そうだ!」
白髪?「悪いけど、色々安心出来ないからさ、せめて私を殺せる奴…てか、ドラゴンを探しに…」
ウェイバー「ドラゴンなんているわけないだろ!?」
白髪?「…………」ピタッ
白髪?「いないのか……?」
ウェイバー「当たり前だろ! そんなの、伝説の中だけだ!」
白髪?「……あー」
白髪?「……ちょっと聞きたいんだけどさ、私が誰なのか知ってる?」
ウェイバー「っ……~~、知ってる! 知ってるとも! 」
白髪?「じゃあ問題、私の名前は?」
ウェイバー「…………」
ウェイバー「ライダー」
白髪?「はっちゃけた名前にするなよ…」
ウェイバー「じゃあなんだお前は!」
白髪?「………ウタヒメ様、だろ」
白髪?「名前はゼロ、ウタウタイのゼロだよ」
ウェイバー「……ウタヒメ…?」
ゼロ「そうだよ、知らないならいいさそれで」
ウェイバー「よ、よくない! ボクはお前のマスターで、つまり主人…」
ゼロ「あ?」ギロッ
ウェイバー「はい」
ゼロ「……」
ゼロ「おい」
ウェイバー「な、なんだよ……」
ゼロ「とりあえず夜を過ごせる所に案内しろ、眠いんだよ私は」
ウェイバー「わ、分かったけど……サーヴァントなら霊体化出来るよな? それで移動して欲しいんだけど」
ゼロ「なんで?」
ウェイバー「でないと……その……」
ウェイバー(アンタの着てる服、露出多いから職質されると面倒なんだよ!)
━━━━ 冬木市・某所 ━━━━
龍之介「……何とも可愛らしいのが出たと思ったら」
龍之介「とんでもないの呼んじまったかな…俺……」ゴフッ
< グチャッ!! ビシャァァァッ!!
龍之介「がっ…ぁ……」
女神?「…」グニュルグニュル……
女神?「ァァアアアアアァァァアァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
一度ここで切ります
次は夜に来ます
本スレは
『Fate/zero』
『ドラッグオンドラグーン』シリーズ
のクロスオーバーになります
R指定はつけ忘れましたが、まぁエロもグロも共にR21行かないようにはセーブします
それではまた今夜に
━━━━ 「このような時間にお呼びして申し訳無い、時臣くん」
遠坂「突然どうされた、言峰殿」
璃正「問題が起きました」
遠坂「問題?」
璃正「先程、最後のサーヴァントとしてキャスターが召喚されましてな」
遠坂「ふむ……それが、何か問題だと言うのかな」
璃正「ええ、それも、現在魔術協会が隠蔽と調査に当たる大事になってしまいました」
遠坂「……一体、何が?」
璃正「名も知れぬ若者がマスターとして選ばれ、そして偶然召喚出来た」
璃正「キャスターとは名ばかりの魔物、それがマスターを殺害してからの数分間で数百人の犠牲者を出してしまったのです」
遠坂「何だと……」
遠坂(……待て、魔術協会からの調査?)
璃正「キャスターが消滅するまでの間に、郊外で何らかの『卵』を生み出し、そして残ってしまったのです」
遠坂「卵が……消えずに?」
璃正「魔術的な意味や中身の解析に当たってはいますが、触れられないのが現状のようで」
遠坂「それは…」
遠坂「厄介だな、聖杯戦争に影響しなければ良いが…」
璃正「隠蔽を行う上でガス管事故という事にはしているが、如何せん被害が被害ですからな……」
遠坂「聖堂教会すら気づけないとは、余程の悪霊か何かだったので?」
璃正「…………」
遠坂「……言峰殿?」
璃正「……天使、もしくは……女神のように私には見えましたな」
遠坂「…女神、か」
遠坂(確か先代の三次聖杯戦争でも何らかの例外が起きたらしいが……)
遠坂(私もまた、そういった事に構えねばならないのかもしれないな)
< 「見てきたぞ、時臣」
遠坂「!」
璃正「これはこれは…」
遠坂「何を御覧になられましたか、王よ」
ギルガメッシュ「その女神の卵、とやらだ」
ギルガメッシュ「あれは今の現世の人では手に負えんだろうな? 醜悪極まりない代物だ」
遠坂(……英雄王の身は半分が神、やはりそういった物をも見破れるか)
ギルガメッシュ「我の目が触れる場にある以上、触れるのはやめておくがいい」
ギルガメッシュ「我といえど、アレに関わるのは虫酸が走る」
━━━━━ 「……朝、か」
ウェイバー「…………」ドヨン
ウェイバー「……」チラッ
ゼロ「Zzzz…」スヤスヤ
ウェイバー(……)
ウェイバー(英霊に…自分のサーヴァントに……ヤられるなんて)
ウェイバー(魔術師として、男として……なんて情けないんだ)グスッ
ウェイバー(……いや、むしろ勝ち組なのか?)
ウェイバー(…………)
ウェイバー(何を考えてるんだボクは……っ)ガバッ
ウェイバー(浮かれてる場合じゃない、第一こいつはサーヴァントであって、異性だなんて思うこと自体がおかしいんだ!)
ウェイバー「ボクは聖杯戦争で戦う魔術師なんだ、一晩中英霊と……」
ウェイバー「その……ナニをしてようが、恥ずべき事でも自慢する事でも無いはずだ、うん」
ゼロ「童貞貰われちゃったもんなー?」
ウェイバー「うわぁああああ!! 言うなぁああああああああ!!!」
ゼロ「ふぁあ……ベッドじゃないのが残念だが、旧世界の家も悪くないな」
ウェイバー「旧世界って……ゼロの生きてた時代よりは進んでると思うぞ」
ゼロ「文明の話ならな、だが私が『生きていた頃』の世界では機械にまみれた時代は遥か太古のものだ」
ゼロ「残ったのは一部の残骸と建物、そして人間達の醜い感情くらいなもんだ」
ウェイバー「……」
ウェイバー(やっぱり英霊らしい事を言うじゃないか……)
ウェイバー(昨晩なんて、マッケンジー夫妻を眠らせてからずっとあんなことしてたけど)
ウェイバー(英霊じゃないって否定するのも、よくあるその『物語の最後』が酷かったからかもしれない)
ゼロ「さて、と」バサッ
ウェイバー「うぅわぁ! 服くらい着ろよ!」
ゼロ「何を恥ずかしがってるんだお前は、それなりに大きいの立たせて」
ウェイバー「そして見るなああああああ!!!」
ゼロ「体を水か何かで流したいんだよ、あるだろ?」
ウェイバー「あ、ああ……下に…」
ゼロ「案内しろ、そして背中を流せ」
ウェイバー「なんでだよ!」
ゼロ「私のマスターなんだろう? ならこの肌と体を好きに洗って良いんだぞ?」
ウェイバー「~~っ!!」カアア
< ジャァアア……
ウェイバー(……悔しいけど、正直ゼロに逆らえる気がしない)ゴシゴシ
ウェイバー(ゼロも自分でわかってるみたいだけど、コイツの容姿はもしかしたら他の英霊の中でも一番美しいのかもしれない…)
ウェイバー(癖の1つもない、純白の髪に、傷の1つも汚れもない純白の肌…… )
ウェイバー(体も凄く細いと言うか…まるで作り物みたいで、安易に触れたら壊れそうな気がするくらいだ)
ウェイバー(なのに)
ゼロ「あんまりそうジロジロ体を見られると、したくなるだろ…?」
ウェイバー「う、うるさい! 痒いところはあるか!」
ゼロ「鼻」
ウェイバー「自分で掻けよ!」
ウェイバー(……こんな感じだ)
ゼロ「ジイさん、このパン柔らかすぎないか」フニャフニャ
グレン「そうかい? 慣れればこんなものさ」
ゼロ「そういうものか」モグモグ
ウェイバー(………………こんな感じだ)
ウェイバー(何て言うか…ゼロは、容姿だけじゃなく、何処と無く英霊という感じがしない)
ウェイバー(どれだけの力があるのかは、意識に流れ込んできて分かる)
ウェイバー(ライダーというクラスにしては、高い)
ウェイバー(こんな華奢な体のどこからそこまでの力があるのかは分からないが、ボクの才能のお陰かもしれないな)フフン
ゼロ「……」
< バチーンッ!!
ウェイバー「いだぁっ!?」
ゼロ「なんかイラッときたからデコピンしてやった」
ウェイバー「~~っ」
━━━━━ 同時刻、『遠坂邸』。
< 「凛、あぁ、まさか……そんな…!」
< ガシャーンッ!!
凛「……お母様?」
葵「凛……あなた、その手の痣は…」
凛「分からないの、朝起きたらいつの間にか……」
葵「…………」
葵(綺礼は……いない、今なら、あの人にも……)
葵「……良い? 凛、よく聞いて……」
凛「お母様?……顔色が…」
葵「その令呪は……痣は、お父様にも綺礼にも見せては駄目よ」
葵「いい? 全て終わるまで…決して誰にも見せてはいけないの、絶対に……」
━━━━━ 同じく、『間桐邸』。
臓硯「……」
臓硯(聖杯に何らかの存在が干渉し、それが乱しているのだろうなぁ)
臓硯(でなければ)
< 「ァアァァァアアアアアアア!!!!」 ゴォォォンッ……ドゴォォォンッ……
臓硯(あのような異形の者が『こちら側』に来れる訳もなかろうて……)ニヤリ
臓硯(適当な封印魔術を施してみたが、半日で破って来ようとはの)
臓硯(あれはもはやサーヴァントではないな)
臓硯(さて、あれをどう使おうかのぉ…?)
━━━━━ 場面は戻り、同日の夜・・・
ウェイバー(……つ、疲れた…)
ウェイバー(ゼロが夜まで大人しく待ってられるかって、マッケンジー夫妻から服を借りて外を見回りに行くわ…)
ウェイバー(挙げ句には只でさえボクの所持金が少ないのに服は買わされるし……)
ウェイバー(最後には映画まで……遠坂邸や他のマスター達に遅れを取るわけにはいかないってのに…)
ゼロ「で、約束通り私の宝具を見せてやるんだったな」
ウェイバー「ああ、ぼ…私はお前の力を全て把握している必要がある」
ゼロ「僕でいいよ、無理に直してるとこっちの調子が狂う」
ウェイバー「うっ……」
ゼロ「とりあえず要は武器を見せれば良いんだろう?」
ウェイバー「出来れば全部見せてくれ、ライダーとしてどの程度の力があるのか知りたいんだ」
ゼロ「ライダーね……」
ゼロ「昼間買い物ついでに聞いた話だと、私の伝承、もしくは生前に行っていた事や力がライダーに関係してるんだよな」
ウェイバー「騎兵だからな、つまりそういう事になる」
ゼロ「……だとしたら、私はライダーとして活躍は出来ないな」
ウェイバー「?」
━━━━━ シャンッ
ゼロ「これが私の武器、まずは剣だ」チャキッ
ウェイバー「…え?」
ゼロ「直に触ってみるか? 私はこれが手に馴染んでるんだが」
ウェイバー「いや、いい……」
ウェイバー(宝具……じゃない…)
ウェイバー(にも関わらず、視覚化出来る程の魔力を持ってるのがわかる…)
ウェイバー(宝具としてのランクにするなら…多分、Cはある)
ウェイバー「他にもあるのか?」
ゼロ「ある」
━━━━━ シャンッ
ゼロ「これが、槍」ガシッ
ウェイバー(ランクC、かな)
ウェイバー(無名なんだろうけど、魔力を帯びてるのが気になる…)
ウェイバー「何か、力を帯びているのか? 剣やその槍は」
ゼロ「多少、な」ブンッ
ゼロ「何の耐性も魔力も持たない人間が持てば、武器の纏う魔力に当てられると……ただではすまない」
ゼロ「その程度にはあるよ、それだけだけどな」
ウェイバー(魔剣や魔槍って事じゃないか…)
━━━━━ シャンッ
ウェイバー「!」
ゼロ「んで、これが……」ガシャッ
ゼロ「格闘装具ってところじゃない?」
ウェイバー「……」
ウェイバー「ちょっと待ってくれ、剣に持ち換えてくれ」
ゼロ「?」
ゼロ「まぁいいけど……」
━━━━━ シャンッ
ウェイバー「!!」
ゼロ「ウェイバー、その顔可愛いです」
ウェイバー「うるさい! それより……」
ウェイバー「ゼロがその武器を『取り出したりしまったり』している時、もしかして……」
ゼロ「……?」
ウェイバー「お前……理屈は分からないけど、その、どうやって武器を取り替えてる?」
ゼロ「取り替えてる?……ああ、そういう事」
ゼロ「私はウタの力を使って、武器や道具を召喚陣の中に入れてるんだ」
ゼロ「容易に取り出せるように、音色1つで召喚陣が展開する風になってる」
ウェイバー「へぇ……じゃあ、だからさっきから音がするのか……」
ゼロ「そうだな」
ウェイバー「……」
ウェイバー(本当はもっとゼロがどんな戦い方をするのか見たい……けど)
ウェイバー(ゼロは、ウタヒメだ……どう考えても周囲にどんなサーヴァントがいるか分からない状況で力は使わせる訳にはいかない)
ウェイバー(……くそ、ボクが思い描いていたのは、こんな筈じゃなかったのに…!)
━━━━━ シャンッ
ゼロ「……ふぅん」
━━━ その夜 ━━━
ウェイバー「……」モゾッ
ゼロ(……寝てるな)スッ
ゼロ(ふぅ、気楽なもんだと思ってたんだけどな)
ゼロ(どうも私は…よく分からない世界で、よく分からない事に巻き込まれてるらしい)
ゼロ(……)スタスタ
< ガチャッ‥
< パタン‥‥
< カツッ……カツッ……
ゼロ「月が見えにくいな……空気も薄汚れてるし」スタスタ
ゼロ「これが旧世界か……」スタスタ
ゼロ(……?)
青年?「~~、~っ」オロオロ
男「何だよてめぇその身振り手振りは、なめてんのか!」
男2「ぶつかっておいて謝罪もねぇしよう!」
ゼロ(チンピラ……か)
ゼロ(せめて顔が良ければ遊んでやっても良かったんだけど)
ゼロ(どうもウェイバーも言っていたが、このニホンの国は顔が平たいのしかいない)
ゼロ(まぁ、だから……)
青年?「……!」ピクッ
男2「あ? なんだそのツラ……」
ゼロ「お前らよりはずっと格好いいよ」
男「 ━━━っっ!?」
ドガッッ
< ガラガラガッシャーン!!
男「……ッ」ドサッ
男2「~~~……」ドサッ
ゼロ「……拳一発でこれか、最近の若者は貧弱ですねー」
青年?「……」
青年?「……」
ゼロ「危ない所だったな、私が来なかったらどうなっていた事やら」ハァ…
青年?「……」パクパク
━━━━━ 【ありがとう】
ゼロ「……話せないのか」
青年?「……」パクパク
━━━━━ 【随分昔に声を無くしてしまった】
ゼロ「そうか」
青年?「……」にっ
ゼロ「?」
青年?「……」パクパク
━━━━━ 【いい夜だ、歩かないか】
ゼロ「へぇ? 嫌いじゃないよ、そういうのも」
ゼロ(一部を除いて、ね)
ゼロ「ここは?」
青年?「……」パクパク
━━━━━ 【公園、子供達の遊び場だそうだ】
━━━━━ 【……俺の遠い友人は、よくここに来るらしい】
ゼロ「ふーん…」スタスタ
青年?「……」
青年?「……」トントン
ゼロ「ん?」
青年?「……」パクパク
━━━━━ 【君、名前は?】
ゼロ「……ミハイル」
青年?「……」クスッ
━━━━━ 【いい名前だ】
ゼロ(そりゃどうも、私が名付け親だしな)
ゼロ「さてと、わざわざ名乗らせたんだからそっちの番だよ」
青年?「……」ポリポリ
青年?「……」
ゼロ「なんだ、言えないのか」
青年?「……」パクパク
━━━━━ 【カイム、クラスはバーサーカーだ】
ゼロ「……」
カイム「……」
ゼロ「私はライダー、だそうだ」
カイム「……」コクン
ゼロ「やっぱり英霊か……予想外だったのはそれを隠さずに話しかけてきた事」
ゼロ「そして、拠点のすぐそばに居たこと……か」
カイム「……」ニィィ…
ゼロ「お前の目的が何かは知らない、他の英霊はてっきり私とは違うと思ってた」
カイム「……」
ゼロ「それに、単独で動けるというのも初耳だ」
ゼロ「ほら」ポイッ
カイム「!」パシッ!
ゼロ「その『現代知識』っての、理解できるよな、本当なら」
カイム「……」パラパラ
カイム(……教科書、か)
カイム(こんなものを持ち歩いてるとは随分、勉強家だ)ニィィ
ゼロ「綺麗な顔が台無しだなその笑顔」
カイム「……」パクパク
━━━━━ 【さっぱりだよ、聖杯に知識は貰ってない】
ゼロ「二日目にしてこれか、思ったより早かったよ」
カイム「……?」パクパク
━━━━━ 【どういう意味だ?】
ゼロ「私に似たような英霊を見つけたら言おうと思ってたんだ」
ゼロ「協力しないか、私達だけで」
カイム「……」
カイム「……」パクパク
━━━━━ 【話を聞かせてくれ】
━━ 数日後 ━━
ウェイバー「……はぁ?」
ゼロ「どうだ、これでいいだろう」
ウェイバー「他のマスターの拠点を調べたって……いつの間に…」
ウェイバー(確かにボクも多少は使い魔でアインツベルンや遠坂邸は見張ってたりはしたけど……)
ウェイバー(……)
ウェイバー「これ、本当なのか……?」
ゼロ「勿論」
ウェイバー「ケイネス・エルメロイ・アーチボルト……やっぱりあの男も聖杯戦争に…」
ゼロ「ウェイバー」
ウェイバー「?」
ゼロ「人に何かして貰ったら言うことがあると思うんですが、無いんですか」
ウェイバー「……ぇ…」
ウェイバー「あ、ありがとうゼロ…」
ゼロ「ふん」
ゼロ(思ったよりやるじゃないか、カイム)
ゼロ(いや、それよりも気になる事がここ数日で出来たな)
ゼロ(どうやって奴は、自身のマスターの元を離れて単独で、それも……)
ゼロ(……とくに、私を見つけ出した?)
ゼロ(……)
ゼロ(分からん、もういい)フンッ
ウェイバー「?」
ウェイバー「……そうだ、とりあえずゼロに報告したいことがあったんだ」
ゼロ「報告?」
ウェイバー「アサシンが脱落した、この間の教会からあったキャスター脱落と合わせて二人目、これで残り四人だ」
ゼロ「セイバー、アーチャー、ランサー、バーサーカーだったか」
ウェイバー「ああ」
ゼロ(……まさか、アサシンをやったのはカイムか?)
ウェイバー「その、アーチャーに気をつけないといけないかもしれない……あんなの、反則だ」
ゼロ「なに?」
ウェイバー「アサシンを仕留める時にアーチャーは、多数の宝具を撃ち放っているように見えた」
ウェイバー「ゼロの武器みたいに、使い魔越しの視界だから分からないけど……魔力を帯びてる様子は無かった」
ウェイバー「けどあれは宝具に見えたんだ、全てが、固有の宝具に…!」
ゼロ「落ち着けウェイバー、何をそんなに狼狽える必要があるんだ」
ウェイバー「……ごめん」
ウェイバー「でも、あれはかなり強力な攻撃に見えたんだ…アサシンですら、一瞬で骨も残らなかった」
ゼロ「ふーん…まだ私が弱いと思ってるのか」
ウェイバー「いや、そうじゃなくて…」
ゼロ「気をつけるよ、大丈夫さ」
━━━━━ 【……アサシンはまだ脱落していない】
ゼロ「……」
カイム「……」パクパク
━━━━━ 【これはアサシンのマスターの策略だろうな、こうして裏から叩いてくるつもりなんだ】
ゼロ「だが、ウェイバーはアサシンが倒されるのを見たと言っていたが」
カイム「……」パクパク
━━━━━ 【どんな能力かは分からないが、恐らくアサシンは複数体いるのがデフォなんだろう】
ゼロ「なるほど」
カイム「……」コクン
ゼロ「…いや、納得出来るかそんなアバウトな説明で……」
ゼロ「もっと納得のいく説明をして貰いたい」
カイム「……」パクパク
━━━━━ 【油断はしてはいけない、という事だ】
ゼロ「……」
ゼロ(何かあるな)
これだとセイバーって誰だ?
レグナ~って叫んでいた2の主人公(笑)か?
ゼロ「それにしても、私は自分のマスターを犯し倒してるから来れるが…」
ゼロ「お前はどうなんだ、マスターの元を離れられるものなのかカイム」
カイム「……」フルフル
ゼロ「ん、言えない……という事か」
カイム「……」コクン
ゼロ「へぇ……」
カイム「……」パクパク
━━━━━ 【ゼロは、何に乗って戦うつもりだ?】
ゼロ(……何に乗る、か)
ゼロ「それは私がライダーだからか」
カイム「……」パクパク
━━━━━ 【勿論】
ゼロ「私は乗れないよ、乗る相手がいない」
カイム「……」パクパク
━━━━━ 【現世にいないということかな】
ゼロ「ああそうだ、そもそも私にとって今が『後』なのか『現在』なのか分からないけど」
ゼロ「どちらにせよ……必要ないさ、もう」
カイム「……」クスッ
ゼロ「何がおかしい」
カイム「……」パクパク
━━━━━ 【俺のマスターが、初め会った時に話した『遠い友人』なのには気づいてると思う】
━━━━━ 【彼は言っていたよ、聖杯戦争における『宝具』はサーヴァントにとって唯一信用できる力だってね】
ゼロ「……唯一信用できる力、ね」
カイム「……」クスッ
ゼロ「生憎、私が乗っていたのは生物だからな」
ゼロ「宝具にはならないさ」
カイム「……」パクパク
━━━━━ 【ゼロは、本当によく分からない敵だよ】
ゼロ「…!」
カイム「……」ニィィ…
カイム「……」パクパク
━━━━━ 【殆どのマスターは集結してる】
━━━━━ 【近い内に、本格的な戦いになるだろう】
━━━━━ 【ゼロは……覚悟しておいた方がいい】
ゼロ「……覚悟?」
カイム「……」コクン
カイム「……」スッ…
━━━━━ 【君は俺や、今まで戦ってきた奴等とは違う】
━━━━━ 【剥き出しの殺意や警戒心とは別に、ゼロは心から望んで『殺戮』を求めていた事はきっと無いんだろう 】
ゼロ「……」
カイム「……」パクパク
ゼロ「!」
< ザッザッザッ……
ゼロ「……」
ゼロ(知ったことか)
ゼロ(どうせこの旧世界に『アレ』は無いんだ)
ゼロ「私は、私のやりたいようにやる」
< スタスタ……
ゼロ「……」
ゼロ(ウェイバーの言っていたのが本当なら)
ゼロ(あらゆる願望を叶える事が、聖杯に出来ると言うなら)
ゼロ(試してみても良いかもしれない)
ゼロ(……それにしても、カイムの奴…何が言いたい)
━━━━━━━━ 【お前と俺は、全てにおいて違う】
━━ 後日・F空港 ━━
スーツ?「足元に気をつけて下さい、アイリスフィール」
アイリ「ええ、ありがとうセイバー……」カツッカツッ‥
セイバー「いえ」
アイリ「…ここが切嗣の生まれた国……」
アイリ「……ッ」ズキッ
セイバー「アイリスフィール?」
アイリ「何でもないわ、大丈夫よ」クスッ
アイリ(……)
━━ 同時刻・某一室 ━━
切嗣「……遠坂邸で動きか」
舞弥「はい」
< カチャッ…
舞弥「映像は記録したので確認してください、それと、装備品一式はすべて到着しています」
切嗣「見せてくれ」
舞弥「ええ、切嗣にも見て頂きたかったので…まずは状況から」
切嗣「?」
切嗣(……映像自体は不鮮明だが、状況を確認する分には充分だな)
切嗣(!)
切嗣(舞弥が見せたかったのはこれか、アーチャーの現れるタイミング……)
切嗣「この展開、どう見る?」
舞弥「……」カチッ‥カチッ‥
切嗣「?」
切嗣「舞弥‥‥なんだ?」
舞弥「アーチャーがアサシンを撃破した瞬間、背後の遠坂邸を見てください」カチッ‥‥
切嗣(……遠坂邸?……)
切嗣「……何だ、これは」
舞弥「切嗣にはどう見えますか」
切嗣「…………」
切嗣「龍……いや、これは…『ドラゴン』か……」
舞弥「私にもそう見えました」
切嗣「何か別の物が宝具の発光に照らされた訳ではないのか」
舞弥「……私もそう考えましたが、遠坂邸を覆うだけの大きさになる物体は無いかと」
切嗣「…………」
切嗣(他のマスターが召喚したか……それとも、別の何かか?)
切嗣(これだけのモノにアーチャーが気づかないのも気になる……)
舞弥「切嗣、使い魔越しで見ていましたが……このような影は見えませんでした」
舞弥「もしかすると幻惑系の魔術かもしれません」
切嗣「……」
切嗣「アサシンをいち早く察知したアーチャーがそれを見破れないとは思えない」
切嗣「だが単純な視角では捉えられないが、影には映る……」
舞弥「……気配すら察知させない」
切嗣「…………」
切嗣(…霊体……に近い何かか…?)
━━ 数時間後・冬木市繁華街 ━━
ゼロ「ウェイバー、あっちのは何だ」
ウェイバー「さ、さぁ…? 『中華まん』って書いてあるみたいだけど」
ゼロ「丸いな」
ウェイバー「……」
ゼロ「…………」
ウェイバー「……」
ゼロ「……………………」
ウェイバー「……だ、だめだ」
ゼロ「聞かなかったことにしてやるから買ってこい」
ウェイバー「はい…… 」
ゼロ「はむはむ」
ウェイバー「……」
ゼロ「中に入ってる具が美味しいんだな、うん美味しい」モグモグ
ウェイバー「ん…」
ゼロ「なんだ?」
ウェイバー「ボクにも一口くれ」
ゼロ「嫌です」モグモグ
ウェイバー「なっ、ボクのお金だぞ…!」
ゼロ「冗談だ、ほらあーん」
ウェイバー「あーん…」
ゼロ「嘘です」パクンッ
ウェイバー「~~!!」
< トンッ
ウェイバー「っと、ごめんなさい」
アイリ「いいえ、大丈夫よ」ニッコリ
ゼロ「?」
アイリ「?」
ウェイバー(凄い綺麗な女性だな……いずれは僕もこの聖杯戦争で名を上げて、こんな女性と…)
ウェイバー(っていうか、こんな人と並んでもやっぱりゼロはもっと綺麗だ…)
セイバー「大丈夫ですかアイリスフィール」
アイリ「大丈夫よセイバー、急ぎましょう?」
アイリ「それではごきげんよう」ニッコリ
< スタスタ……
ウェイバー「……」
ゼロ「…………」
ウェイバー「……いた」
ゼロ「いたな」
ウェイバー「全く同じように街を彷徨いてるマスターがいたよ……本当に」
ゼロ「後をつけるぞ、何か急いでいた」
ウェイバー「ま、待てよ! 罠かもしれないだろ!?」
ゼロ「罠ならもっと方法があるだろ?」
ウェイバー「そりゃそうだけど……」
ゼロ「あれはそんな頭の悪い顔はしてなかった、チャンスだぞウェイバー」
ゼロ「人気のないところに出たらそこで奴等を消すぞ」
━━ 某倉庫街 ━━
ウェイバー(明らかに人気の無い場所……)
ウェイバー「ゼロ…… やっぱり罠じゃないか……っ」
ゼロ「静かにしていろ」
ウェイバー「えっ?」
ゼロ「……」
ゼロ(他のサーヴァント……か? あれが本来の英霊…)
ゼロ(……大した事は無さそうだな)
セイバー「その姿、槍の英霊ランサーと見受けるが……違いないな?」
ランサー「如何にも」
ランサー「 今日一日、この街を練り歩いて過ごしたものの、どいつもこいつも穴熊を決め込む腰抜けばかり」
ランサー「……俺の誘いに応じた猛者は、お前だけだ 」
セイバー「……」
< ガタンッ
セイバー「?」
アイリ(何かしら今の)
ランサー「……出てこい、穴熊め」
< ガタッ! ガタタッ!!
< 「ちょ、落ち着けゼロ……っ!」
ゼロ「上等だそこのホクロぉおおおおおおお!!」
ウェイバー(うわああああああもう滅茶苦茶だああああああ・・・)
ランサー「……」
ランサー「どうやら俺の『これ』を見破り、そして何の影響も無いようだな」
ゼロ「るっせぇこのスケコマシ!! 今からそこのマスターとサーヴァント共々ぶっ殺してやるから覚悟しとけ!!」
セイバー「なっ……何だあのサーヴァントは」
アイリ「すっごく怒ってるわね……」
セイバー(……しかし尾行されていたのに気づかないとは…もしもアイリスフィールに危害を加えられていたら……)ギリッ
セイバー「いや、それより……」
アイリ「魅了の魔術……既婚者に随分な非礼ね、槍兵」
セイバー「嘗められたものです」
ランサー「……生まれつきなのだ、許してくれ」
ウェイバー(気の毒に……)
セイバー(……しかし、冷静になればこの状況……)
アイリ(迂闊にセイバーを動かす訳にはいかないわね…)
アイリ(恐らくあそこの少年が白い英霊のマスターでしょうけど、どんな隠し玉があるか分からないわ…)
セイバー(……何より)チラッ
ランサー「さぁ、一体どいつから我が槍の相手となるか……来い」チャキッ
セイバー(奴はともかく、あちらのサーヴァント……恐らく…)
ゼロ「どいつからでもいい…ぶっ飛ばしてやる…」ザッザッ
セイバー(……いや、やっぱり共闘を恐れる事はなさそうだ)フッ
アイリ(あれならとくに策に怯えなくても大丈夫そうね)ホッ…
ウェイバー「……な、嘗められてる…ボクも含めて嘗められてる…多分」
ゼロ「ウェイバー」
ウェイバー「な、なんだよ……」
ゼロ「私がこの世界で戦うのは初めてだ、どうせお前もだろう」
ウェイバー「そんなこと、な……っ」
━━━━━ シャンッ
ゼロ「だから下がって隠れてろ、手加減をする気も、お上品にやるつもりもない」チャキッ
ゼロ「全力で……殺す」
ランサー(瞬間的に宝具を展開した……のか? ならば奴の得物は四つか)
セイバー「下がって下さい、アイリスフィール」ギュオオンッ
アイリ「ええ……私に勝利を、セイバー」
セイバー「必ずや」チャキッ
ここで切ります
倉庫街の続編は今夜投下します
>>77
セイバー、アーチャー、ランサーの御三家だけは原作通りです
今は
━━━━━ 完全なる三つ巴。
ウェイバーが周囲と、30mも無い距離の位置にいる銀髪の貴婦人……アイリスフィールを警戒しながら後退する。
召喚してから見せたことの無い気迫と、言葉に含まれた感情を感じ取った彼は、自身のサーヴァントを信じて見守る事にしたのだ。
先日までの自分なら無謀と、多大なリスクと隣り合わせのこの状況を怖れて撤退すらしていたかもしれない。
だがしかし。
彼が、ウェイバー・ベルベットの召喚したサーヴァントが偶然にもゼロだった事が、この戦場に足を縫い付けるに至る要因となった。
その端麗なる容姿、奏でるように耳を支配する美声、何より。
『マスターとしての彼を受け入れられている事』。
これらの要因が重なり、そして彼の中で積み上げられていく自信と誇りが少年を一人の魔術師に作り上げていったのだ。
ウェイバー「……ゼロ…!」
彼は絞り出すように声を出す。
それに対し自身のサーヴァント、ゼロが振り返らなくとも、聴こえていると信じてウェイバーは続けた。
分かっているのだ、ゼロはそんな適当な者ではないと。
ウェイバー「そいつらを、敵を全員倒せ! 」
横のアイリスフィールが敵意を込めた視線をチラと見せたのに気づいても、構わずに叫ぶ。
その言葉が、勝利をもたらすと彼は疑わなかった。
一陣の風が覆った後に甲冑をその身に纏うと、セイバーは静かに構える。
セイバー(……ランサーの宝具は長槍と短槍…だが、あの『ゼロ』というサーヴァント……)
先程までのダークスーツを身に纏っていた、男装麗人とも呼べるだけの美貌とは一変し、その眼光を瞬時に走らせる。
直前にセイバーは見たのだ、ゼロが僅かな一瞬で四つの宝具らしき武器を展開し、それを……。
セイバー(『悩んでいた』……間違いない、あのサーヴァントは……)
そう、ウェイバーや常人の動体視力では捉えられないが故に、ゼロが持つ特異性に気づけないでいた。
ゼロは『ウタ』の力を使って一定数の武器を召喚していたが、その際に最大の優位性を秘めていたのだ。
尤も、彼女にとっては所詮は『瞬時に武器を交換出来る』程度にしか考えていなかったのだが。
セイバー(もしも先の芸当が戦いの最中に出来るならば、奴に体制も、武器の優位性も関係無い)
セイバー(……ならば、あらゆる攻撃を受け流してみせ、そこへ一刀の下に斬り伏せる…)
魔力によって編まれ構成された鎧の甲内で握られた物が、軋む音を立てる。
揺るぎなき騎士王としての重みを乗せた刃を奮い立たせ、戦場へとその切っ先を向けた。
しかし、それよりも先に動いたのはセイバーではなかった。
ランサー「 ━━━━━ ッ!!」
踏み込んだのと同時に砕かれた路面が巻き上がり、残滓の如く引きながら一直線に駆け抜けていく。
疾風と等しき一閃が真っ直ぐにゼロを穿とうと貫いたのだ。
ランサーの身の丈すら超える2m余りの長槍、その刃が華奢な体躯であるゼロの心の臓を狙う。
斜方向でその足を止めてしまったセイバーに対しても注意を向けながら、ランサーは確信した。
まるで動けなかったように歩みを止めたまま、ゼロはその身に迫っている刃を見ているだけで身動きすらしていない。
恐らくライダーのサーヴァントだったのかもしれない、とランサーはその反応速度の遅さを評価した。
次の瞬間にゼロの体躯がセイバーの懐に移動するまでは、だったが。
ランサー「……ッ!?」
セイバー「なっ……!」
刹那に巻き起こる暴風がそこまでの距離にいないマスター、アイリスフィールを襲う。
アイリ(くっ……!)
アイリ(セイバーやランサーよりも、速いなんて…あの英霊、何者なの…!)
彼女はウェイバーとは違い、セイバーの本来のマスターではない。
故にアイリスフィールには具体的な戦力差や、セイバーがどれ程の実力かを知らないのだ。
そして、ゼロの見せた瞬間的な能力も。
セイバー「 ━━━━━ッ!!」
懐に飛び込んできたゼロを脇から斬り上げるのと同時に数m後ろへ跳ぶ。
しかし、セイバーの表情は曇ったままだ。
セイバー(……防がれた)
セイバー(魔力放出の応用……障壁で私の刃を防いだ……ッ)
咄嗟の迎撃とはいえ、近距離での直撃を防がれた事に、セイバーは歯噛みする。
ゼロ(……今のは剣撃……)
セイバーが咄嗟に斬り上げたその一撃を、初見のゼロが反応出来たのは奇跡だった。
見事ランサーの初撃をかわし、更に迎撃の一太刀をも防ぎ切ったのは経験による反射的行動の産物であったのだ。
そうでなければ、ランサーですら初撃の相手をセイバーではなくゼロにしたのも、全てはセイバーの持つ剣にあるからだ。
不可視の剣。
その謎の真相はセイバーが持つ、魔力放出によって成された神業から起きる現象。
それこそが騎士王たる彼女が誇る宝具、『風王結界』に他ならなかったのだ。
ゼロ「だぁあああああ!!」
しかし、ゼロにとっては得物の視認は問題ではない。
ランサー「受けてみろ、ゼロとやら……!」
寧ろ、ランサーの様な手数と圧倒的な速度によって繰り出される連撃の方こそ彼女にとっては障害なのだ。
軽やかな踏み込みの直後。
舞うような神速の斬り抜きを長槍の穂先で払いのけ、ランサーの短槍がゼロの背を一閃する。
だが、まるでその傷をものともせずに返す刃の如きステップで白銀の剣の柄をランサーに振るう。
ランサー「チッ ━━━!」
腕を使い長槍を高速で振り回す事でゼロの打撃を弾くと、空気を切り裂くかのような蹴りを払う。
その隙を逃すまいとセイバーが間合いへと踏み込み、砕かれた路面から更にコンクリート片が巻き上がる。
剣を振りかぶり、横一文字に一閃を穿つ瞬間に、セイバーは感じた。
久方ぶりの、全力の闘争の感覚。
昂っていくその熱を魂の底から感じながら、セイバーは剣への重みを上乗せするかのように更に踏み込む。
セイバー「セァァッ!!」
ゼロ「だぁああああ!!」
ほぼ同時に、二つの雄叫びが莫大な衝撃波と閃光の中で巻き起こる。
三人のサーヴァントが三つ巴の戦いをしている中、ウェイバーはアイリスフィールからも見えぬ位置で隠れていた。
倉庫と倉庫の隙間から、その激闘を見守っているのだ。
常識を逸した超常的存在による闘争、その余りの猛威に、周囲が次々に破壊されていく。
そんな有り様を見ながら、ウェイバー・ベルベットは気配に気づいた。
ウェイバー「……!!」
カツッ、という音が鳴った。
英霊達の繰り広げる激闘の轟音に掻き消されず、ウェイバーの耳にそれは響き渡った。
振り返り、少年はその目を見開く。
そこに立っている者の侮蔑と憐憫の入り交じった碧眼を、彼は忘れてはいない。
小脇に人間の頭程の壺を持つその男は、悠然と、しかし威圧的なまでに立っていた。
時計塔においての講師であり、自身の才能を認めなかったあの憎き男。
神童とも呼ばれる天才魔術師、『ロードエルメロイ』。
そう。
ウェイバー「……ケイネス・エルメロイ・アーチボルト……!」
ケイネス「……」
ケイネス「よもや貴様が聖杯戦争に出よう等という腹立ったとはな、ウェイバー・ベルベット君」
少年の声を聞くや否や、ケイネスは冷淡な声で告げた。
ウェイバーは、まるで時計塔の時同様に遥か高みから見下されているかのように錯覚してしまう。
今やその関係は完全な敵同士であるのに、だ。
ケイネス「私から奪った聖遺物で何を召喚したのかと思えば、あの小娘は何だ?」
ウェイバー「……っ…」
侮蔑から一転。
その眼には、ウェイバーに対して明確な殺意が込められていた。
征服王を召喚出来なかった事か、それとも非才の少年如きが天才たる自身の目の前に立つ事自体に対してか。
一目でそれと分かるほどに、ケイネスは殺意を発していたのだ。
憎さを覚え、そして殺してやりたいとまで怒りをこの魔術師に覚える事は何度もあった。
しかし、ウェイバーがそれを、ケイネスに向けられたのは初めてであり、実感した後に来る恐怖に震えるのも初めてなのだ。
ウェイバー(震えてる…場合じゃない……っ)
ウェイバー(まともに狙われたら殺される……逃げなきゃダメだ!!)
即座にケイネスに背を向け、走り出すウェイバー。
それを冷ややかな視線で追いながら、静かに息を吐いたのはケイネスだ。
ケイネス「……決闘する勇気も無いか、未熟な子供だったな所詮は」
━━━━━ セイバーはこの時初めて、相手が騎士道とはかけ離れた武人だと理解した。
セイバー「ッ……、これは予想外でした……」
後方からのアイリスフィールが行使する治癒魔術によって、肩の傷が塞がるのを感じながらセイバーは驚嘆する。
ランサーの変幻自在な槍捌きを不可視の剣による攻めと後退でもって弾き、ゼロが薙ぎ払った礫を『風王結界』で吹き飛ばす。
それだけの乱戦で、僅かに見せる隙が最も大きかったゼロを斬り伏せんとばかりに一閃したセイバーを襲ったのは、カウンターだった。
そう、文字通りのカウンターだ。
ゼロ「余所見してる暇はねぇぞこの[ピーー]が!!」
路面に亀裂を走らせ、ゼロはその『装具』に包まれた爆発的な脚力で突貫する。
ゼロが持つ近接戦武器の中でも最強を誇る物。
『格闘装具』を、乱戦の最中で身に纏ったのだ。
ランサー(セイバーとは違って、また別の意味で卦体な得物を使ってくれる ━━━━!!)
三者が距離を取った事で生まれた一騎討ちに、ランサーはゼロを待ち構える。
DOD3(Aエンド)→DOD1→分岐→(Aエンドで)DOD2
↓
(Eエンドで)ニーア
だったか?
設定集だとDOD2のDエンド後、カイムたちの住む大陸(ミッドガルドだったかな?北欧神話関係の名前)から他の大陸への移民が増えて世界中に拡散。後々の世界史は現代のものとほとんどが同じ(1100年ぐらいから現代まで)。大きな違いはキリスト教が普及しているのではなく、天使の協会による「ウタヒメ」の崇拝が普及。(のちに「協会」と名称が短縮。)
日本に伝来した宣教師も天使の協会の司祭。歴史の節目に「赤目」の以上に強い人間が現れている。織田信長が「魔法銃」を使っている、また赤目。
でもこの期間は点線で囲まれていたから、もしかしたら並行世界の歴史かもしれんね。
>>120
DOD3はDエンドまでだよ
花ごとゼロ封印して終わり
>>122
分かってるけど
DOD3(Aエンド)
↓
DOD1
↓
分岐→(Eエンドで)ニーア
↓
(Aエンドで)DOD2
って風にしようとしたら改行でおかしくなっただけです
今夜からのんびり投下しますが、ゼロとカイムの元の世界の設定として
DOD3(全ルートの一部を経て)→(尚、アコールは『DOD世界の』科学文明の遺産)
↓
DOD1(全ルートの一部を経て)→ニーア(DOD世界とは完全に異なる世界であり、↑のアコールとは関係無し)
↓
DOD2
といった設定です
>>121でもあるような設定もありますが、
アコールの記録を見た方もわかる通りDOD世界にはそもそも並行世界が幾つもあるのが普通みたいなので……
(下手したらニーア世界もまた同じく、キリが無いと思われます)
片腕、片脚のみに纏ったその装具は、セイバー達サーヴァントからしてみれば大した魔力量は秘めていない。
しかし、それにも拘わらずセイバーが一撃を加えられたのは偶然や何らかの能力ではなかった。
ゼロの動きが極端に変わったのだ。
それまでとは圧倒的に違う、より速くより強烈な打撃を打ってきたのだ。
鮮血によってそれまで純白を誇っていたマントを僅かに深紅で染めながら、ゼロの体躯がランサーの足元へ滑り込む。
ランサー(速い……ッ)
長槍の穂先を突き立て、その衝撃波でゼロを吹き飛ばそうとする。
が、ゼロはランサーの長槍から逃れようとはせず、その強固な籠手を交差させるように打ち込んだのだ。
ランサー「ヅゥ……!!」
魔貌を持った端麗な顔が歪み、壮絶な炸裂音がランサーの耳を襲い、一時的に視界すら奪う。
否、ランサーは自身がゼロの滑り込ませてきた翔拳によって打ち上げられたのだと知る。
ランサー(この女……どうやらただの騎兵ではないらしい…!)
高揚、そして。
ランサー(何より、両手に華とは言い難いモノだな……!)
ゼロを飛び越え、あくまでも正面から剣を振るうセイバーを見てランサーは地に足を着けるよりも先に体制を立て直す。
爪先が路面を削る刹那。
躍り狂う長槍と短槍の穂先が、兜割りの如く叩きつけてくるセイバーの剣戟を牽制。
巻き上がる路面の礫の影にフェイントで長槍の刺突を繰り出すランサー。
そのフェイントを見るよりも先に、渾身の正拳突きを路面にゼロが叩き込む。
セイバー「ッ……!!」
挟み込まれた自身の状況を把握したセイバーが、轟音が空気を揺さぶるその瞬間までに四肢を纏う魔力では避け切れぬと察する。
彼女が即座に行ったのは、凄まじい槍術を斬り上げと同様の動作によって弾く事で僅かにその連撃を逸らす事。
そして、斬り上げから円弧状に剣戟を放つ事でゼロが打ち放った瓦礫の全てを斬り伏せたのだ。
……直後に一瞬の出来事が過ぎ去った様に周囲を轟音と爆風が吹き荒れる。
三人のサーヴァントは、その一瞬を終えて尚も止まることは無かった。
然り。
その程度で止まる様な者はこの場には存在しなかったのだから当然だろう。
ランサー(これは、流石に我が宝具を使わずして勝利は無理か……)
ランサー(まだ余興は始まったばかりだと言うのに、この戦いに巡り会えた事に感謝したい…!)
高まる闘志を握り潰すように、柄から刃先に渡って呪符を巻き付けられた長槍と短槍を構える。
まだだ、と。
ランサーはその呪符を引き剥がすには、まだ早すぎると笑った。
彼の主君はそのような早計からの勝利は望んでいないのだから。
三者の姿がその場に留まっていたのはその僅かな間だけだ。
再び、三度と、激しい闘いが行われていく。
ゼロ「ハァアアアア ━━━━ッ!!」
既に肩や太股を浅く切り裂かれているにも拘わらず、凄まじい膂力を発揮するゼロ。
セイバー「ッ!」
ランサー「フッ ━━!!」
純白の閃光が乱舞する度に、見えざる刃が、真紅と黄の穂先が、それらを上回るべく斬舞する。
セイバーの不可視の剣が一閃を放つよりも先に、長槍によるランサーの払いが牽制し、その下から短槍が更なる動きを封じる。
しかしランサーがそれでセイバーをリード出来ないのは、それらが圧倒的に手傷を負わされる可能性を孕んでいたからだ。
他でもない、ゼロの存在によって。
その細く華奢な体躯からは想像もつかないような膂力で繰り出されるブロウが礫を塵と化し、続く鉄槌打が更なる一撃を穿つ。
明らかに魔力を放出しながらの殴打は、格闘の心得が多少あるセイバーやランサーでさえ脅威的だった。
何よりも、ゼロの戦い方は余りにも特殊極まりないのだ。
宝具ですらない武器に加えて、その武器を展開する刹那。
その一瞬のみ、ゼロにとっては周囲の時間の流れが緩やかになったかに見えるほど、『加速していた』のだ。
━━━━━ シャンッ
一鈴の音が鳴ったのと同時に、ゼロの四方に彼女が愛用する武具が展開される。
ゼロ(……どうする)
慣れ親しんだ固有時空間の中で、ゼロは意識だけ自由となっていた。
武具を展開する召喚の瞬間、ゼロが行使していたウタの力は効率的に武具を戦闘中に選択出来るように変質を遂げていた。
彼女がかつて、自身が生み出した者達を狩る旅に出ていた中で身につけた。
云わば、ゼロの中にいた別の意思が作り出した『安全装置』だったのだ。
ゼロを含め、周囲がスローで再生されるかのような感覚に陥る。
しかしゼロだけは他の者とは違い、意識のみ通常の速度で状況から武具を選択出来るのだ。
自身が放った打撃がセイバーとランサーを後退させている最中で、ゼロの四方に浮かぶ武具を見る。
眼前に浮かぶのは、彼女が最も使い慣れた『竜牙の剣』。
純白の刀身とは対極的に、その刃先は漆黒の光を放っているが、そこには鈍さも鋭さといった質感も感じさせない。
だが、と。
ゼロはその時首を振り、眼前で怯むセイバーを見る。
膂力と魔力放出による力の差なら、僅差でゼロの方が競り勝つだろう。
しかし、セイバーの剣技はその差を大きく埋めるだけの能力があるのだ。
何度かこの三つ巴の乱戦で、セイバーこそがゼロによって窮地とも言える状況に立たされて、それを踏み越えている。
どう考えても、剣は無しだとゼロは頷いた。
ゼロ(槍は論外だな……)
当然、ランサーに対しても力技で勝てるとは思えない。
現に彼女の体を切り刻んでいるのはランサーだった。
召喚陣を解いた瞬間に格闘装具のまま体制を立て直し、即座に追撃を仕掛けても構わない。
それをせず、こうして陣を展開したのはランサーが原因だった。
ゼロ(何か、気にしている目だった)
ゼロ(…………)
ランサーが手にしている長槍、そして短槍。
巻き付けられた布に、何かしらの記号や文字が刻まれているのが見える。
恐らく、あれがウェイバーの言う『宝具 』に違いなかった。
ゼロ(余り慣れてないから使うのは控えていたが……)
サーヴァント達が本来の力を発揮した場合、英霊としての勝手が分からない以上、不利なのはゼロだ。
ウェイバーが言うには、必ずゼロも宝具を1つは持っているらしいと。
ならば、彼等サーヴァントも等しく持ち合わせ、そしてその切り札で勝てると見込んでの戦いなのだろう。
そうなる前に決しなくてはならない。
何か手を打たれるよりも、先に、速く、確実に、殺さなければならない。
薄紅の瞳が背後を映し出し、微かに思い出す。
かつて五感が以上に発達し、僅かな空気の流れを感じ取る事で圧倒的な戦術を駆使してきた『赤い瞳』の女を。
彼の者はこの武器を愛用していた。
『圧倒的な腕力』でも『脅威的な爪』でもなく、恐るべき超感覚を頼りに中遠距離武器をゼロと互角になるまでにした、あの技術。
ゼロは手を伸ばす。
既に『陣』の外ではセイバー達が怯んでいた所から体制を立て直すべく、緩やかな時間の中で動いている。
迷っている暇はない。
元より、彼女にはどんな時もそんな時は無かったのだから。
ゼロ「……行くぞ、『ワン』」
それを手に取ったゼロは静かにそう告げると、直後に陣を消滅させて飛び出した。
━━━━ 瞬間、セイバーはまたもや見ていた。
サーヴァントの超人的な動体視力によって、僅か一瞬のゼロが行った動作を目で追っていたのだ。
セイバー(あれは……!?)
遅れて耳に届く一鈴の音と同時に、ゼロが手にしたそれを警戒する。
が、そこでセイバーは思わず眉を潜めてしまう。
それは隣のランサーも同様だっただろう。
しかし彼等は直後に何が起きたか知ることとなる、何故なら。
ランサー「ッ!!」
鮮血が胸元から横一文字に一閃を描かれ、ランサーの体が明らかに後方へ吹き飛ばされたのだ。
僅か数歩の差。
瞬時に追撃の気配を感じたセイバーは全力で後退しながら斬り上げる。
だが、それを逃さないとばかりにセイバーが追撃を防ぐ剣に、鋭い衝撃が走った。
歯噛みするセイバーがゼロへ眼光を向ける。
セイバー(奴の武器が……見えない!?)
ランサーを見事に一撃で後退させ、追撃を放った筈の武器が、見えない。
既に相当の距離を空けてしまっても、全く問題にならない程の視力を有するが、それでも視界にそれらしい物はない。
と、セイバーがゼロの動きを観察していた時だ。
轟音と風切り音に混ざり、異質な、金属が擦れ合う音。
それはどこか鎖が唸りを上げるようにも聴こえたのだ。
つまり、そう。
気づいた瞬間、セイバーはやむを得ず自らの宝具を解放する事を決意した。
それは、ゼロが何かをした音だったのかもしれない。
ウェイバー「っ……うわぁ!」
その時のウェイバー・ベルベットにとって、誰がどうした音だろうが、どちらにせよ恐怖の音色だった。
既に何度かケイネスの追撃を受け、左手の甲を僅かに切り裂かれて袖口ごと赤く染めている。
彼は自分には才能があると信じてやまない。
どんな事でも、彼が考える論と努力を駆使すれば、不可能は無いと。
絶対の自信があった彼は今、それらとは全く別で『経験』の差を感じていた。
「情けない、本当に情けないねぇ」
冷淡に、侮蔑を込めた声が木霊する。
それなりに距離を離していても、何らかの魔術で声を送っているからだ。
ウェイバーを精神的に追い詰める意図を込めて、だ。
「私の聖遺物を奪い、身の程を弁えもせずに聖杯戦争に参加さえしなければ」
「平凡で平和な人生が送れたのにねぇ」
「ウェイバー・ベルベット君」
直後。
高らかにウェイバーの名を呼んだ直後に、彼の背中を何かが突き飛ばした。
ウェイバー「~~~っ!!?」
驚きと恐怖で過呼吸になり、肺に上手く酸素が入らない事にパニックになる。
固く冷たい路面に顔からぶつかり、唇から鈍い痛みが広がる。
そして、背中の中心が嫌な熱と、疼くような痛みも。
『斬られた』。
そう感じるのが先か、後か、とにかくウェイバーは初めて涙を浮かべながら叫んだ。
寒気がする程の痛みがウェイバーの足から力を奪い、倉庫の陰から歩いてくる足音から逃れる術をも奪う。
涙が頬を微かに濡らし、手の甲と背中に当てた手を血が濡らす。
圧倒的な恐怖を前に、令呪の存在を忘れてしまう。
ケイネス「何とも無様な……魔術師として戦いに参じたならば、恥を知るのだな」
ウェイバー「ぅ……ぐ…っ、あぁぁ!」
太股を、何かが貫いた感触。
傷口を押さえようにも、銀色に光を反射する杭のような物が抜けずにいた。
水銀。
魔力が込められた、ケイネスの礼装だった。
それは数mの距離を離れたケイネスの右腕を螺旋状に漂い、指先の先端からウェイバーに向かって伸びていた。
ケイネス「時計塔に居た時、君は私に妙な論文を提出したな」
ケイネス「才能とは何たるか、そして魔力と魔術の才とは、と」
ウェイバー「ぅぐ…っ……」
苦痛と恐怖で、ただ喘ぐ事しか出来ないウェイバーはケイネスを見上げていた。
今まで、どれだけの怒りや、憤りを覚えたのかは数え切れない。
だが、どのような時でも想像した事すら無かった。
講師であった筈の彼が知る男に、こんな路面に転がって死ぬなど、殺されるなど、想像出来なかった。
ケイネス「……馬鹿馬鹿しい、才能など魔術師ならば持って当然に決まっている」
ケイネス「ましてや聖杯戦争に参加するならば……このケイネスと真に魔術にて雌雄を決する者でなければなるまい」
ケイネス「それを君はこんな所で醜態を晒し、挙げ句には魔術の1つも使えないとは……」
かつての時計塔講師の言葉を最後まで聴くよりも先に、ウェイバーは押し殺した悲鳴を上げた。
そして、自身の首に迫る水銀の刃を見た。
━━━━━ 「そんなにも誇れるのか、お前たち魔術師は」
ケイネス「ヌッ……!?」
刹那に虚空から響き渡ったその声に、ケイネスが驚愕する。
違う。
直後に頬を熱風で撫でるのと同時に、空気が渦を巻くかの如き轟音が鼓膜を叩く。
それまでウェイバーの身体を切り刻み、貫き、痛めつけていた水銀の杭も無い。
涙で霞んだ目を動かして彼は見上げた。
ウェイバー「……!」
砂利を踏み締め、少年の前に立つ者。
後ろからでは白髪の男という事しか分からない、黒のパーカーに紺のズボンといった所しか、特徴を見出だせない。
他に彼の視界に入ったのは、一本の『長剣』だけだった。
━━━━━ 僅かに時は遡り、ゼロへと至る。
セイバー「爆ぜよ、風王結界!!」
瞬間、僅かに黄金の輝きを垣間見せた直後に莫大な魔力の風がセイバーの周囲で爆ぜた。
一瞬にして爆撃のように瓦礫を土砂ごと巻き上げ、地を揺るがす程の衝撃が走る。
灰色の煙が立ち込む中で、セイバーは煙幕を切り裂き、地を這うように駆け抜ける。
セイバー(やはり……飛び道具…いや、武器!)
柄を握り締め、地をセイバー以上に這うように迫ってくる『それ』を踏み込みと同時に一閃の下に弾き返す。
後方から同じく並走しようと追ってくるランサーの気配を感じながらも、セイバーは振り返る余裕がなかった。
ゼロを中心に斬撃の風が円を幾度と描き、その度にセイバーの足を止められるからだ。
ゼロ(……!!)
見えた、と。
この時ゼロは初めてこの戦いの最中で笑みを浮かべた。
彼女が超感覚を頼りに振り回す『戦輪』を、全力の一撃を、セイバーが相殺させる瞬間。
その一瞬、セイバーの宝具が何らかの術を行使した際に黄金の輝きを放つ剣が見えたのだ。
そして、僅かな間で切っ先も、刃幅も、長さ大きさ厚さ、その全てを記憶した。
セイバー「せァアアアアッ━━━━!!」
ゼロ「来やがれこの野郎!!」
既に剣の形状を把握したゼロは、振り回している漆黒の円刃を操る鎖から伝わる震動、そして空気の流れを五感で把握すると。
超高速で針の穴に糸を通すかのように、その手を引き、持ち得る膂力を流し込む。
そして、円刃に込められた魔力もまた、赤いオーラを帯びる。
セイバーの剣先が暴風を纏い、斬撃の嵐を生む円刃を穿つ。
そして刺突からの踏み込んでの、唸り上げる追撃を上空へ斬り上げる。
だが、セイバーの持つ直感のスキルが予知させる。
背後からの奇襲、即ち。
セイバー(その様な操作も可能とするか ━━━━━ )
セイバー(このサーヴァント、推測が正しければライダーの筈…)
剣戟で抉られた路面を更に穿つと同時。
破壊され爆ぜ立った土柱が上空から急速に撃ち込まれた円刃の軌道を逸らす。
セイバー(宝具頼りなだけではない…どう考えても私やランサーに匹敵するとしか思えない)
距離にして10m弱。
瞬時に手元へと戻した円刃を手にしたゼロと、セイバーは対峙する。
炸裂音、指先に伝わってくる風を切り裂いて進む感触。
神速の剣戟から繰り出される一閃の洗礼を円刃を高速で回転させる事で弾くと、セイバーに向かって跳躍する。
ゼロ(これで‥…!)
五感の全てで状況を鮮明に見据えるゼロは、確信する。
この一撃でセイバーを細切れにし、肉塊の如く踏み潰せると。
そして円刃をほぼセイバーと同格の速度で操り、竜巻のように斬撃の渦を巻いたその瞬間。
ゼロの刃は届かなかった。
ゼロ「ッ!?」
目を閉じたまま。
セイバーが誇る第六感がゼロの五感を上回り、完封し、彼女の眼前にまで辿り着いたのだ。
剣先で襲い来る円刃の悉くを弾き、受け流し、軌道をゼロの予期せぬ方向へ逸らしたのだ。
あらゆる死角をゼロが持ち得る感覚によって計算され、限り無く一撃必殺に匹敵するものを。
超感覚の更に上を、セイバーが誇る『直感スキル』が越えたのだ。
まるで、瞼の裏でゼロの放った円刃が描く軌道を見るかのような。
そんなヴィジョンを基にセイバーは見事切り抜けたのだった。
危機が去った事を察したセイバーが、その眼光をゼロに鋭く差し向けた。
ゼロ(……ッ)
見覚えがあった。
かつて、彼女はその正義や使命感とは別の眼を見たことがある。
このセイバーという女は、『犬』だ。
遠い過去で、こんな眼をした騎士達を何人も見てきた。
戦いの最中で何らかの信条を胸に秘め、相手の物語を気にすることも無く剣を振るった者達。
例えセイバーとは違って彼等の仕えていた主君が外道の者達であったとしても。
・・・その、『騎士という犬の眼』が、ゼロに言い様のない怒りを覚えさせていた。
咆哮がその身を叩いた事に、セイバーは怯む。
間違いなく必当させたと謀っていた攻撃を受け流された事に対する声ではなかった。
ましてや、当のセイバーはそれまで乱戦といえどもこれ迄に無い高揚すら覚えていた。
しかし、ライダーと推測するこのサーヴァントが、セイバーには思わずバーサーカーなのではないか。
そう彼女が疑わずにはいられない程に、ゼロが発した声には怒りが込められていたのだ。
セイバー(……それだけではない)
セイバー(今、あの者が放った咆哮……僅かながら魔力が混ざっていた)
明らかにそれまでとは違う気迫に距離を取ろうと、セイバーは後ろへ跳躍する。
セイバー(…………)
小声で、セイバーは初めてアイリスフィールに囁く。
それなりに離れた位置でその戦いを見守っているであろうマスターの『代わり』たる女が、驚愕した。
何故なら。
セイバー(……出来る限り逃げて下さいアイリスフィール、あのサーヴァント……)
セイバー(『 あの肉体は本体ではない 』……私の切り札を以てしても止められる相手ではありません)
真に、セイバーは自身が未だかつてない危機に直面しているのを理解していたからだ。
ゼロ(下がった……)
手に握り締める円刃が軋むのを無視して、セイバーの眼を薄紅色の瞳が覗き込む。
翡翠色の瞳。
その美貌からは一切の穢れが無いと、容易に想像できる。
……本来の彼女ならば、そこで異変に気づけたのかもしれなかった。
だがしかし気づかない。
━━━━━ 気づけないのだ。
ゼロ(仕留めてやる……)
ゼロ「必ずそのツラを爪で剥いで焼いて犬畜生のエサにしてやるからな……」
セイバー「……やってみるといい」
手にした不可視の剣をセイバーは見る、英霊であるからこそ、彼女には分かるのだ。
相手の持つ『本質的な狂気』が。
……それでも、自身が誇る宝具がそれだけの存在に通じるのか分からなかった。
セイバーがゼロと衝突せんとする瞬間。
後方から追いついてきたランサーは脂汗が滲み出ているのに気づかず、その場で立ち尽くしていた。
そして。
━━━━━ ・・・ッ
現界していられるだけの魔力が端から解れ、ついには足元から光となって散っていく。
ランサーはその時、マスターの身に何かが起きたのだと知った。
同時に、それが一体『どの』サーヴァントのマスターなのかすら知ったのだ。
ランサー「……ッ、グ……に、逃げ…」
凄まじい速度で失っていく魔力。
マスターが死亡しただけでは無い、ランサーを襲っていたのは『魔力抵抗』による体内魔力の減少なのだ。
原因は、彼の視線の先にいる者の存在だろう。
ランサーが今だかつてない恐怖に直面しているのも、恐らく。
ランサー(ぁ…… )
抵抗するだけの魔力を失い、現界していたランサーの体が消滅する瞬間。
彼の瞳に映ったのは・・・。
━━━━━ 莫大な宝光が周囲一体を照らし、黄金の輝きがセイバーの手の許に集束する。
ゼロ「おぉぉぉおおおおおおおおおお!!」
雄叫びのそれに等しき咆哮と同時、その利き手には巨大な十字架を模した剣が召喚される。
セイバーやランサーを翻弄し、圧倒した膂力で突き進む。
華奢な見た目からは想像もつかないような轟音、そして衝撃波を撒き散らしながら踏み込んだのだ。
息を呑むよりも速く、セイバーは自身の宝具である真名を告げる。
セイバー「エクス ━━(約束された)━━ 」
振り上げ、彼女が持つ全力を以てその名を、黄金の閃光を爆発させる。
セイバー「 カリバ ━━━━ ッ!! ━━(勝利の剣)━━ 」
━━━━━ 「例えば、もし他のマスター陣営の事が分かれば教え合うとかな」
━━━━━ 【なら、ゼロに聞きたい】
━━━━━ 「なんだ」
━━━━━ 【君の宝具は、なんだ】
━━━━━ 「さぁな……言ったろ、私は他の英霊とは違うらしい」
━━━━━ 【俺は自分の宝具が言える、大体は武器みたいなものだ 】
━━━━━ 「なら私の手の内は全て教える、代わりに他のことを教えてくれ」
━━━━━ 【・・・なら、俺は他のマスター陣営について少しだけ教えるよ】
━━━━━ 「少しだけ、か」
━━━━━ 【その代わりに、もしもゼロがピンチになったらその時は助ける】
━━━━━ 【例えその相手が俺だとしても】
━━━━━ 「……協力はしても、敵なのは変わらずか」
━━━━━ 「で? どう助けてくれるんだ?」
━━━━━ 【ああ、それは……俺の宝具で助けるのさ】
━━━━━ 「へぇ、名前とかあるのか?」
━━━━━━━━ 「アンヘル 」 ━━━━━━━━
たった一声。
セイバーの許へ駆け抜けたゼロの遥か後方で、宝光が爆発したのと同時に言い放たれた。
そしてそれに続いて露となったのは、セイバーの放つ宝光に匹敵する閃光。
驚愕していたのは、そのすぐ傍にあった倉庫から戦況を覗いていた者。
セイバーの真のマスター、『衛宮切嗣』である。
切嗣(……なんだ、あれは…)
切嗣(一体何が起きている)
手にある令呪から、僅かに感じる熱が彼を焦らせる。
一体何がどうなれば、最高のサーヴァントと呼ばれるセイバーが瀕死になるのだ、と。
セイバー「ッ……ヒュー…ヒュー…………」
魔力を編んで作られた鎧は既に無い。
視線を上げる力が削ぎ落とされているのか、翡翠の瞳もまた濁っていた。
地面に滴り落ちる自身の血液が、死を刻んでいるようだ。
と……セイバーは不意に感じていた。
なかなか死なないのは、未だに離れないアイリスフィールの治癒魔術の影響なのだろう。
一体何が起きたのか、それは今こうして危機に瀕して徐々に状況が把握出来てくる。
恐らく、セイバーの『約束された勝利の剣』をも相殺し、致命傷を与えたのはランサーを倒した者なのだ。
気づくのが遅すぎた。
先程までいたはずのランサーはその気配すら無くし、ましてやゼロの味方の出現。
セイバー「ヒュー……いたのか、他にも、…ヒュー…サーヴァント………が……ヒュー…ヒュー…」
血で濡れた地面を踏むゼロに、セイバーは掠れた声で問い掛けた。
鮮血に染まった金髪を掴み、ゼロの眼前へと持ち上げられる。
セイバーの瞳に重ねられるように、薄紅色の瞳が映る。
そこに込められた物に、再びセイバーは違和感を感じたが、それを追求する余力は既に残されていなかった。
ゼロの美しい白髪が揺れる。
セイバー「ッ……」
殴られた感触がした。
ゼロ「お前、名前は?」
ゼロ「英雄サマなんだろう、セイバーじゃない、本来の名がある筈だ」
セイバー「……アルトリア・ペンドラゴン……」
何故だか不思議とセイバーは己が真名を口にしていた。
それはどこか、ゼロに対する最後の騎士としての剣だったのかもしれない。
セイバーは静かに笑う。
この戦った女は、救われるべき存在だったのだと。
騎士王の名を冠するが故に、その刹那。
彼女はゼロの正体を見破ったのだ。
ゼロ「そうか」
身体を強く揺さぶられ、中心部から広がる死の感触。
セイバーの身体を純白の剣が貫いたのだ。
それまでの怒りが冷めたように落ち着いた声を聞いて、セイバーは口を開いた。
セイバー「あなたの……名前は…?」
ゼロ「……」
ゼロ「何もない、名前はないよ」
納得したようにセイバーは笑い、涙を浮かべた。
遂にその体が消滅を始めた直後。
セイバーは哀れむように、否、哀れだと言った。
セイバー「だから……何もない『無』だから、貴女はゼロを名乗っていたのですね」
ゼロ「…………」
光の残滓を残し、消えていくセイバーを見ながら、ゼロは背後を振り返る。
そこには、セイバーの最強の宝具を打ち破った者の姿があった。
真紅の……『竜』。
カイム「こうして声を聴かせるのは、初めてだな」
その横には協力をしていた同じサーヴァント、カイムの姿。
同時にその手には一本の剣が握られていた。
つまり。
ゼロ「喋れたなら何故今まで喋らなかった」
カイム「俺は特殊な方法を使っているからな、それと……」
━━━━━━━━━ 「何故、未だ現界していられるんだ……?」
ゼロ「……は?」
カイムの瞳を、ゼロは見た。
今までも何度か彼の眼を見ることはあった、だがしかし……今の彼の眼は、余りにも。
『漆黒』。
カイム「マスターの『声』の話ならば、たった今ゼロのマスターは死んだ」
淡々と、ゼロに告げながらカイムは歩いていく。
黒すぎるその眼をゼロは視線から外せなくなっていた。
何かがカイムの中から消えていると、彼女は見た瞬間から気づいた。
カイム「……それとも」
カイム「俺の『魔眼』が効いていない…のか?」ニィィ…
狂気。
否、それは狂喜。
紛れもなく今のカイムは、『バーサーカー』の狂化を受け入れているのがゼロでも分かった。
━━━━━ 『ォォォォオオオオオオオオオオッッ!!!』
ゼロ「……」
カイム「……」
カイム「アンヘル……遠慮はいらない」ニィィ…
背後に佇んでいた真紅の竜、アンヘルがその咆哮と同時に閃光を膨らませた。
先のセイバーを致命傷たらせた、魔力の込められた……否、魔法に違いなかった。
ゼロには見覚えがあった、懐かしくすら思える程に。
ゼロ「ドラゴン……?」
ゼロ「ウェイバーが……いや…お前がウェイバーを、殺したのか……?」
何か取り返しのつかない後悔がゼロの喉まで出掛かる。
まるでこの感覚は、ゼロが変えたかった『あの結末』のようだったのだ。
ゼロの問い掛けに、カイムは反応すら見せない。
だがしかし、瞬時にカイムは手に握る長剣を躍らせたのだ。
その漆黒の瞳が捉えるのは、倉庫街の街灯のポールの頂上に立つ者。
その金色の輝く甲冑を纏った主は、この場の誰もが知る眩さでもあった。
ギルガメッシュ「忌まわしいにも程があるぞ、害虫共」
真紅の竜が莫大な閃光を撃ち放つよりも速く、数本の装飾をされた槍が、剣が、膨大な魔力を迸らせる。
刹那、神速の投擲が真紅の竜を横薙ぎに弾いたのだとゼロは数瞬遅れて気づいた。
同時にゼロ自身にも二挺の宝剣が射出されたと認識する頃には、魔力放出と結界にも似た障壁を築き防ぐ。
殆ど一瞬の攻防を、途切れさせまいと一閃が『アーチャー』たるギルガメッシュの足下の街灯を斬り倒す。
━━━━━ 『・・・!!』
カイム「アンヘル……?」
粉塵を巻き上げて怒りを露にする竜を、宥めるように首元を撫でる。
アーチャーが放った宝具は『それなりの』ダメージは与えた様だが、真紅の竜への致命傷にはならなかったようだった。
それどころか、その竜からは目に見えて『狂化』の黒きオーラが噴き出していたのである。
ゼロにはそれが、明らかに『アンヘル』に苦痛をもたらしているのが分かった。
ギルガメッシュ「……聞こえているんだろう、時臣よ」
依然として無傷でいるカイムとゼロを見て、アーチャーが虚空へと声を投げ掛ける。
カイムはそれを聞き逃さなかった、時臣とは、つまりマスターである遠坂時臣の事に違いない。
だがそこでカイムが浮かべたのは嘲笑。
そして、殺意を滲ませた笑みだけだった。
カイム「マスターに確認を出さなければ切り札は使えないか、アーチャー」
ギルガメッシュ「忌々しい『箱庭』の人形風情がこの我を侮辱するか」
ギルガメッシュ「良い……ならばそこの悪臭を放つ花共々、ここで散れ…!!」
新たにアーチャーの背後で眩い黄金の宝光を放ちながら、虚空から二十挺もの宝剣と宝槍が顕現する。
明らかな怒りの殺意がその場に溢れ、魔力の奔流が吹き荒れる。
しかし、もはやその場に居るのはアーチャーの能力に驚くような者ではなかった。
カイム(今夜全て終わる、そして何もかも終わらせる……)
カイム(急げよ『雁夜』、俺が死ねばお前も死ぬ事になる……終わらせるんだ)
━━━━━ その時、遠坂邸で間桐雁夜は声なき笑いを挙げていた。
次々とあらゆる影から、闇から現れる……敗退した筈の『アサシン』。
本来の英霊は複数の個体を持つ事は無いにも拘わらず、そのかつての生涯での彼を写し出した宝具『妄想幻像』。
即ち、生前の多重人格から生まれた無数の『彼』こそがこの数十以上のアサシンなのだ。
彼等は群にして個のサーヴァント。
『ハサン・サッバーハ』。
雁夜「 ━━━━━ !!」
しかし、無数のアサシン達は一様に驚愕していた。
彼等は最大まで分身すべきなのか、迷っているのだ。
何故なら他でもない、間桐雁夜の驚異的な強さにある。
通常の人間ならば、まともに反応すら出来ない速度から繰り出される回蹴。
それを雁夜の左腕が難無く受け止めた直後、アサシンの屈強な肉体が長剣によって肩口から両断される。
8人目のアサシンが消える寸前に、雁夜の舌に何らかの紋章が刻まれているのを見たが、それの意味を理解できた者はいない。
サーヴァントを、それもアサシンを蹂躙する人間。
果たしてこの状況をどう判断すべきなのかアサシンは量りかねていた。
女アサシン(……強すぎる)
女アサシン(実力だけならば、間違いなくBランクのサーヴァント……或いはそれ以上)
女アサシン(魔術師ですらここまでの人間が居るのかどうか……信じられない…ッ)
ダークを投擲するも、尋常ではない反応速度で避けられ、一瞬にして距離を詰められるアサシン。
仲間の、『他のハサン』が足下から、上から、死角となり得るような陰から一撃を繰り出す。
が、視覚化できる程に濃密な魔力が迸ったと思った時には爆炎に消し飛ばされているのだ。
アサシン達を殲滅しながら駆け抜けてくる雁夜に、一人の女アサシンは呆然と立ち尽くすしかない。
そして。
眼前に迫ってきた雁夜のその表情は、歪んだように笑っていた。
時臣「サーヴァントに拮抗……信じ難い話だな」
『しかしアサシン達を既に半数以下にまで倒しています、そこから逃走すべきでは?』
暗闇の中、淡く発光している宝石を針金の弦で支える、真鍮の朝顔のような蓄音機から声が響く。
今は聖堂教会の地下にて時臣が渡した通信装置に語りかける、言峰綺礼の声である。
先日、カイムが予測した通りアーチャーとの一騎討ちを演じアサシンを聖杯戦争の裏で暗躍させんとする、マスターだ。
その彼は今、父である言峰璃正から協力するよう話を聞き、聖杯戦争開始より以前からこの計画を立てていたのだが。
現在の彼は、アサシンを通して見える間桐雁夜に心底畏怖するしかなかった。
だが、それを見ていない遠坂時臣はそうではないらしい。
時臣「何らかの強化魔術……恐らく間桐が用意した物かもしれないな」
時臣「できる限り、もしくはそのまま間桐雁夜を排除して構わない」
時臣「それと……私は逃げない、そんなものは魔術師の恥だ」
『……そろそろアサシン達が全て倒されます、それでも尚?』
優雅ではない。
そう時臣は家訓を重んじての判断と、相手が自身の屋敷内に侵入している事が要因となり、退かないと応えた。
真鍮の朝顔を前にして、綺礼は空気振動を通信装置に拾われないように溜め息を吐いた。
最後のアサシンを凄まじい膂力によって叩き斬ってから、辺りに流れる空気が一瞬で熱を持った事に雁夜は察知する。
それなりに整えられ、骨董品めいた品や家具が屋敷内に置かれていたのだが。
既にそれらは雁夜の剣戟によって粉砕され、両断されていた。
雁夜は残骸の一部を見る。
雁夜「……」
古めかしい机の裏に、紅く刻まれたルーン文字。
雁夜にはそれが何を意味するのか理解は出来なかったが、部屋に起きた現象の説明はつくと考えた。
そう、遠坂時臣。
憎き魔術師を、今こそ自身の手で切り裂いて見せる。
……雁夜は笑っていた。
それがまさか『狂化』の影響が彼のサーヴァントであるカイムから流れてきているものとは知らず。
ひたすらに、時臣の血はどれだけ出るのかを妄想する事で彼は笑っていた。
━━━━━ 呆気なく、何の飾り気もなく、勝負は決していた。
縦横無尽に倉庫街に張られた宝光を纏った『鎖』。
それらはまるで何かを追おうとしていたように、あちこちで散らばり、突き刺さっていた。
その正体はアーチャーであるギルガメッシュの宝具、『天の鎖』 ━━エルキドウ ━━ である。
数十の鎖達の先には、蜘蛛に捕らえられた羽虫のように動けずにいる真紅の竜がいた。
━━━━『グルルルルル・・・ッッ』
巻き付き、一切の動きを赦さない鎖達によって口を開く事も出来ない。
真紅の竜は黒く塗り潰すような『狂化』のオーラに苛まれながら、カイムを見ていた。
カイム「はぁ……はぁ……ッ」
ギルガメッシュ「随分と足掻いたな…人形よ」
ギルガメッシュ「流石の我も貴様のような者に左腕を奪られるとは思わなかったぞ」
彼等の周囲には倉庫など存在しない。
既に激闘の余波で粉砕され、塵芥と化していたのだ。
黄金の宝光を纏った宝剣、宝槍、宝斧、あらゆる宝具を湯水の如く投擲してきたアーチャーは紛れもなく最強の英霊だったのだろう。
それに対しカイムは自身の力と数少ない宝具のみで見事その英雄王から左腕を斬り落としたのだ。
一本の宝剣を向けながら、英雄王たる男は問い掛ける。
ギルガメッシュ「……異界の地にて何を願おうとした、人形」
カイム「…………『無かった事にさせる』、ただそれだけだ」
その言葉に、眉を潜めた。
英雄王はとある存在に気づかない。
カイム「俺がこちらに来たのは……聖杯とやらの意思もあれど、己の衝動の為でもない」
カイム「……アサシンは消えた、後は俺とお前…そして」
カイム「『敵』、だ」
ギルガメッシュ「どういう意味だ、応えろ人形」
身体を支えていた剣を手放し、カイムは英雄王に続けた。
それはまるで、頼んでいる様にすら見える。
カイム「聖杯を早く手に入れろ……っ、ゼロは……アイツはお前の手に負えるような存在じゃない」
カイム「俺は一度だけ、『とあるルートの世界』でこちらの世界に来た……!」
カイム「その時は『敵』を倒せたが、今も、それ以外の世界でも、倒せた事は無かった」
ギルガメッシュ「……花の女か」
振り向き、倉庫街の奥を見据える。
カイムには見えないが、恐らくゼロの気配を探っているのだろう。
だが、直後に彼の様子が変わる。
それはカイムも同じだった。
ゼロ「……ここに居たのか」
倉庫街の中心部での激闘が決する数分前、ゼロは倉庫の壁に寄り掛かっているウェイバーを見つけていた。
近くにはセイバーのマスターを名乗っていた銀髪の女も居たが、カイムの何らかの能力によって精神崩壊を起こしていた。
冷たい壁に寄り添い、手に握っているのは瓦礫の一部か。
何れにせよ……ウェイバーは胸を貫かれたらしく、死んでいた。
ゼロ「…………」
頬に一本の薄い筋があるのは、涙だろうか。
傍に座り、そっと彼女は手を伸ばした。
ゼロ(前にも……似たような事があったな)
少年の細腕から手をなぞる様に撫で、手の甲が切り裂かれているのを指で触れた。
彼女は気づかない。
いつの間にか、暗い倉庫に囲まれた中でウェイバーの隣で誰かが歌っている事に。
数日の間で一度か二度、ウェイバーにデコピンや平手をした事はあった。
その度にわなわなと震えながら抗議をしてきたが、何となくウェイバーは怖いと思っていたのだろう。
いつだって彼の手は震え、ドキドキしていたのをゼロは知っていた。
ウェイバーは分かりやすい暴力を受けた事が無いに違いなかった。
聖杯戦争などと言う分かりやすい闘争に挑んだのも、全ては自身を認めて貰いたかったと言っていた。
ゼロ(なぁ……ウェイバー…)
ゼロ(怖かったろう…殺される瞬間は)
血と涙に汚れた頬を撫で、自然と唇が言葉を紡いでいくのに気づかない。
果たしてウェイバーの生きてきたこの世界は、ゼロの世界の様に命を落とさねばならなかったのだろうか。
果たして、彼はこの闘争に挑む必要はあったのか。
静かに紡がれる『ウタ』は、優しくウェイバーの身体を癒して……傷を塞ぎ、汚れを消していく。
しかし、失われた命を取り戻す事は無かった。
純潔も、人の命すら、金や欲望1つで何もかも奪われ、殺される。
そんな世界だった。
それが、ゼロがウェイバーと共に冬木の街を歩き過ごした時に思い出した事だ。
ウェイバーの住む世界はゼロが見てきた悲劇も理不尽な悪も無い、寧ろ飢える事すら殆ど無い。
彼等の世界を作ろうと奔走した異形の少女達をゼロは知っている、だからこそ、ウェイバーの世界に『居ようとした』。
ゼロ「…………」
ゼロ「本当はわかっていたんだ」
しかし、それが出来ないとも分かっていたのにカイムとも手を組んでもこの期に及んで聖杯戦争を終わらせようとはしなかった。
本当ならば、全てを終わらせる力すらあったのに、彼女はそれをしなかった。
故に、途中で考えついたのが……『聖杯』に願う事だったのだ。
ゼロ「『ウタ』の力が使えてる時点で……私はこの世界に存在しちゃいけなかった」
ゼロ「私はウェイバーの世界を壊す所だったんだよ……」
自身の完全なる死、そして『花自身の完全なる消滅』を願おうと。
ウェイバーの体が元の通り綺麗になっても、歌は辺りを取り囲んでいた。
いつしかゼロは気づいた。
この悲しい、何もかもを諦めた歌を紡ぎ続けて涙を流すのは、自分だと。
ゼロ「だけど……もう良いよな…?」
ゼロ「……もう、私は……」
ウェイバーの体が傷つかぬよう、守護の魔法陣でその肉体を保護する。
それらを見届けたゼロは咄嗟に嘔吐した。
英霊ならば有り得ない現象に、彼女は泣きながら笑う。
思い出したのだ。
あの少年に召喚される直前の自分を、変えたかった『結末』とは何なのかを。
ゼロ「疲れ、た・・・ァ"…ッ」
結局。
彼女は最期まで自分は何をしたかったのか分からないままだった。
━━━━━ その時、間桐蔵硯は落胆していた。
二百近い封印術式で固めた上で、彼は『女神』を蟲で調教しようとしていた。
だが、つい先程に地下へ来てみると消えていたのだ。
封印が破られた形跡も無いのを見ると、恐らく何らかの要因が重なって体内の魔力が枯渇した事による消滅だろうと考えた。
蔵硯「元はマスターなきサーヴァント……消えるのは仕方あるまい」
笑いを堪えるようにしてそう呟くと、蔵硯はもう一つの地下へ向かう。
そちらでは幼き少女を調教する蟲達の筈だ、仕上がりを見るべくして老人の姿をした化け物は歩いていく。
が、それも僅か数歩で歩みを止めた。
蔵硯「……誰かのぉ?」
明らかな殺気に、肩を竦めて見せる。
しかしそこに畏怖や緊張は無い、彼にとっては大した敵ではない事は分かっていた。
後ろを振り向くまでは、だったが。
そこに立っていたのは、簡素な白い衣服と枷を思わせる様な装飾品を腰に身に付けた女だった。
━━━━━ ボンッ。
肉が凄まじい圧力で潰れる。
血飛沫すら足元に叩きつけられており、その現象を起こした張本人は一切の汚れを受けなかった。
フリアエ「………………」ギョロッ…ギョロッ…
不規則に動く眼球は、獲物が確実に死んだ事を確認する。
ペタリと座り込んだ白い女は、柔らかく揺れる髪の毛を片手で軽く掻き上げながら足元の冷たいコンクリート面に広がった血を舐めとる。
一度、二度。
何度か舐めてから、即座に貪るかの如く肉片も舐めとっていった……。
その時、唇の端から緩やかに流れ落ちた髪の毛に世界の誰もが気づく事はない。
幼い少女が不用意に『女神』に近付き、何となしに渡した食事が、その少女だけでなく世界を食い尽くす事になるとは、誰も知らない。
生きて過ごす者のいない中で、かつてフリアエと呼ばれていた『女神』は肉片を啜って笑っていた。
悲鳴が聴こえた気がした。
手に持った長剣を何度もとある男の体に突き立てているうちに、雁夜は何者かの接近に気づけなかったのだ。
振り向かずに、最後にもう一度だけ剣を遠坂時臣だったものに突き立てる。
背後では喘ぐように啜り泣く音が鳴っていた。
雁夜は剣を取り、振り返る。
凛「ぇ…っひぐ……お父様…? ねっぇ…おとうざま"ぁ…?」
雁夜「……呼び掛けてもコイツならもう起きないよ」
口が、裂けるようにニヤけてしまう。
否。
その笑う口は裂けていた。
殺戮の衝動を抑え切れる自信などある筈もなく、間桐雁夜は長剣を幼いツインテールの少女に向ける。
嗚咽を漏らしながらも後ずさる少女を、雁夜は首を傾げながら一閃によって腰元を切り裂いた。
また挙がる悲鳴が合図となり、雁夜の剣は再び肉塊にすべく降り下ろされる。
━━━━━ 空を埋め尽くす異形の天使を見ながら、衛宮切嗣は愛していた妻の額を撃ち抜いた。
倉庫街のアーチャーとバーサーカーの戦いを見る暇もなく、アイリスフィールを探しに来た彼が見たのは、怯える妻だった。
バーサーカーの眼には何らかの能力が備わっていたのか、切嗣は自分を撃ってきた久宇舞弥という相棒すら殺す結果になってしまった。
そして今、切嗣は最早どうしようもできなくなった妻を抱いて、キャレコで撃ち抜いたのだ。
切嗣「……アイリ」
白い『天使』達を眺めながら、切嗣は迎えが来たのだと悟った。
彼はアイリスフィールの亡骸を天に差し出すようにして、笑っていた。
せめて、愛する妻だけは安らかに逝かせてやってくれ、と。
切嗣がそうして掲げた瞬間、背後の倉庫影から世界中に響き渡るかのような鐘の音が鳴った。
美しき音色に、切嗣は目を閉じる。
音色は次第に鳴り続け、一際大きく鐘が荒ぶる様に鳴った。
━━━━━ 白い、無機質な『花』が咲く。
凄まじい衝撃波が吹き荒れ、切嗣の身体が吹き飛ばされる。
瓦礫も、倉庫も、埃の如く粉塵を挙げて吹き荒れる奔流に飛ばされていったのだ。
四肢が砕け、耳が千切れ、下唇が削られる激痛に悲鳴を挙げながら、切嗣は抱えていた筈の妻が腕の中にいない事に気づいた。
……そして、傍らに上空まで飛ばされたコンテナが降り注いできたのに彼は驚き見る。
コンテナの下から潰れたトマトの様に銀髪に混じって内臓を撒き散らす物が、見えた。
切嗣「……は、は…」
切嗣「ぁは、はははっ……ぁはあはははははははっっ……」
彼は笑う。
人は、笑う。
切嗣「あははははははっ…… ははははっ、ひっひは、ぁはぁぁはっはははははは……」
大空へ宝具に乗って戦おうとする黄金のサーヴァントが飛び、瞬時に群がってきた天使達に大地を揺るがすような魔法で撃ち落とされる。
地上で拘束されていた真紅の竜は黒きサーヴァントと共に数体の天使の触手に貫かれ。
そして、黒きサーヴァントはまるで犯されるように天使達に弄ばれていた。
その際にサーヴァントも笑っていた様な気がした。
切嗣「あははははははは! ぁっははっはぁぁぁはははははははぁっ!!」
近づいてきた天使は笑っていた。
切嗣も笑っていた。
上空に突如現れた『花』でさえ、その中心部から生まれた女の姿をした無機質な『何か』が笑うように歌い出していた。
人は笑う。
花は歌う。
音色を模した魔法陣のようなサークルが広がり、周囲の空間も、時間も、世界も壊していく。
切嗣は笑う。
この世界は何もかもが笑顔に包まれていると、彼は思った。
━━━━━ 聖杯に混ざりし神の欠片が喚ぶ。
━━━━━ 喚ばれし者、箱庭の外で笑う。
━━━━━ 聖杯に仇成す黒き花は笑いながら破滅の唄を歌った。
第一部『Aルート:召喚されしその花はCの結末』
完結です
今日か明日からBルートを始めます
そろそろチートな主人公も出す予定
お尽きる
怒涛の一部完結おめでとうございます。
自分の国語力の無いせいか何が何やら訳がわからんくなった…
後でもいいからアコールさん解説ください
>>194>>195様
ありがとうございます
>>196
Bルートの開始前に……と思いましたが、アコールさんは下手すると色々ぶっ壊れ設定になりかねないので……
要点を摘まみますと
倉庫街で三つ巴
↓
しかし途中でカイム出現、ランサー&セイバー敗退
(この際にカイムの目を直視してアイリスフィールと舞弥は精神崩壊、ちなみにランサーも消える寸前に同じ目に)
↓
この間にケイネスとウェイバーが雁夜に殺害される
↓
見かねた英雄王が登場、カイムVSギルガメッシュ
↓
雁夜がアサシン殺戮したり時臣瞬殺したり凛殺したりゾォルケンがフリアエに喰われたり桜も喰われたり
↓
いつの間にかゼロがウェイバーを探しに来て原作Cエンドの続きを辿る
↓
女神フリアエ&花によって人類滅亡
と言った感じです、他に分からない点がございましたら「これから明かされるのかもしれない」と言ったふうにご理解下さい
「閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ」
「 繰り返す都度に五度」
「 ただ、満たされる刻を破却する」
「 ━━━━━ 告げる」
「 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」
「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ 」
「 誓いを此処に」
「 我は常世総ての善と成る者」
「 我は常世総ての悪を敷く者」
「汝三大の言霊を纏う七天、 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ ━━━━ !」
━━━━━ その日の朝、僕は夢を見た。
ウェイバー「……」
ウェイバー(なん…だろう、さっきまでの夢は……)
肉体が死ぬ感触。
白髪の男。
長剣から放たれた業火に焼かれて死んだ時計塔の講師。
自身の決意。
信頼。
初めて見る戦い。
情報網。
後悔。
そして……。
ウェイバー「白髪の……白い……」
ウェイバー「……ゼロ、そうだ……名前はゼロ…」
ウェイバー「……ウタヒメ…?」
手に遂に現れた令呪である痣を眺めながら、僕は鮮明に覚えている夢に首を傾げた。
その日の朝はマッケンジー夫妻と共に朝食を食べる。
この老夫婦には僕が暗示をかけ、日本に滞在の間だけでも僕が孫だという様に思い込ませる事にしてある。
この僕が暗示をかけたのだから、間違いなく破られる事は無い。
と、食パンに塗る為のジャムはあったのに、肝心な物が無いことに気づいた。
ウェイバー「お爺さん、ピーナッツバターは?」
僕の問いに、グレン老人は首を傾げた。
グレン「何を言ってるんだね、そんな物買ってないよウェイバー」
ウェイバー「……え?」
その日はどこか、おかしい感覚がした。
何度も朝のような出来事を繰り返していた。
ウェイバー(……今夜、あの忌々しい鶏どもを贄にするとして)
ウェイバー(まだお昼過ぎか……)
ウェイバー「街に行くか?」クルッ
誰もいない部屋で、自然と誰かに問い掛けてしまったり。
それだけではない、よく考えてみれば聖杯戦争の地をブラブラ歩いて良いわけが……。
と、そこまで考えても、どうしても何故か良い考えに思えてしまう。
僕は……どうしたと言うのだろうか。
ウェイバー(……何となく街に出てきちゃったじゃないか…)
何をしているのだろう、とは思いつつも。
僕はどこか、気分が良かった。
これからあの聖杯戦争に参戦し、時計塔の連中を見返そうとか、そんな考えは消えていた。
何故かは分からなかった。
でも、僕は少しだけ一人で過ごしてみて気づいた。
ウェイバー(誰か……僕の前をいつも、好きに歩いていた)
ウェイバー(そしていつも……)
その『誰か』は、令呪のある手をいつも握っていた。
白く、美しい……細い手だったのを覚えている。
ウェイバー(……覚えている?)
僕はその時初めて、これは偶然の錯覚が繰り返し続いているのではないと考え始めた。
その確証を得られたのは結局……その日の夜だったのだが。
「閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ」
まるで、デジャヴではなく。
「 繰り返す都度に五度」
『過去』と重なる様に、僕は唱える。
「 ただ、満たされる刻を破却する」
ケイネス講師から奪ったあの聖遺物は使わなかった。
「 ━━━━━ 告げる」
例えそれによって最弱のサーヴァントが僕の英霊となったとしても。
「 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」
僕は、ただひたすらに会いたかった。
「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ 」
もしかすると本当に僕はおかしくなったのかもしれない。
「 誓いを此処に」
だが。
「 我は常世総ての善と成る者」
それでも。
「 我は常世総ての悪を敷く者」
僕は彼女を必ず召喚する、そう決めたのだ。
「汝三大の言霊を纏う七天、 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ ━━━━ !」
━━━━━ 同日、ほぼ全てのサーヴァントがその夜に召喚される事となる。
ある者は伝説の鞘を媒介にセイバーを召喚し。
またある者は狂化の詠唱を唱えて召喚し。
そして、ある者は奇妙な縁で結ばれた者を召喚した。
だがしかし。
それぞれの決意とは別に、純粋に父からの愛情と栄誉を受けたいがために。
この夜、拙いながらも召喚詠唱を成功させ、見事自身の英霊を喚び出した者がいた。
「…………」
「ここは、何処なのか教えてくれないかな」
「キミ」
凛「こ…ここは私の屋敷よ」
「……そうか、それならば失礼した」
「えー? もう帰っちゃうの?」
「それより、どうして私達……」
凛「ちょ、ちょっと! 聞いてよ!」
凛「私の名前は遠坂凛、あなた『達』のマスターなのよ!?」
「……マスター?」
凛「そうよ! あなたの名前は? 名乗りなさい!」
「…………」
< スッ
凛(な、なに? この手は……)ビクッ
「私の名前は『ワン』」
< ナデナデ……
凛「ひゃぅ……ワン?」
ワン「ええ、『ウタウタイ』のワン」
ワン「それが私の名前」ニコッ
凛「じゃあ……『他』の人は?」
< 「うーん?」チラッ
ワン「大丈夫よ」
< 「……ん! 分かったワンねえちゃん!」
━━ 翌朝 ━━
ゼロ「……夢で私の事をね」
ウェイバー「うん、それに実際にゼロはこうして召喚出来たんだ」
ゼロ「……」
ゼロ「お医者さんに診て貰う事をお勧めします」
ウェイバー「僕は正気だぁ!」
ゼロ「……」ハァ
ゼロ「冗談だ、今のお前の話には幾つか心当たりもある」
ウェイバー「!」
ゼロ「ただ……少しだけ整理させろ」スッ
ウェイバー「どこ行くんだ……?」
ゼロ「少し陽を浴びる、ついてくるな」スタスタ
< バタンッ…
ウェイバー「ゼロ……」
ウェイバー(……)チラッ
ウェイバー(何て顔をしてるんだ僕は……)
ウェイバー(それにしても……これで、もし本当に夢の通りだとするなら)
ウェイバー(ゼロは、僕が死んだ後に……あの『花』になっていた)
ウェイバー(いったいアレがどんな姿なのかは分からないけど……)
ウェイバー(ゼロはサーヴァントじゃない、何らかの形で本当の意味で召喚された……『何か』なんだ)
ウェイバー(……いや、待て)
ウェイバー「そうか!」
< ゴソゴソ…
ウェイバー(使い魔をもっと多機能にできないか……)
ウェイバー(僕の見た夢の通りなら、多分あと二日でアサシンとアーチャーが一騎討ちを演じる)
ウェイバー(もっと詳しく見れれば…ゼロをもっとサポート出来るかもしれない!)
ウェイバー(『今度』は必ず勝つんだ……)
ウェイバー(絶対に)
━━ 遠坂邸・書庫 ━━
凛「ねぇ……早くしてよ、いつお父様に気づかれちゃうか分かんないんだから」
ワン「……大丈夫よ、表の魔術トラップはキチンと避けて来たんだから」ペラッ…
凛「うぅ……平然と言われちゃうと…」
< 「はぅん、ワンお姉様が信用出来ないのかしら?」
ワン「無理も無いわファイブ、リンはまだ魔術や魔法の技術は無いのだから」ペラッ…
ファイブ「そうですわね、まぁ私もお姉様に比べるとそういうのは全然ですものね」
ファイブ(特にお姉様は耳が良いですし……ね)
< 「ちょっと! なんで寝てるのよ!」
ワン「……?」
ファイブ「どうせスリイお姉様だと思いますの」ペラペラッ
凛「フォウ、起こしなさいよぉ……」
フォウ「ごめんね? スリイ姉様は私でも中々起こせないから……」
スリイ「……Zzz」
凛「もう……」
凛「只でさえトウって英霊をお母様の所に置いてきちゃって不安なのに……」
フォウ(……)
フォウ(ワン姉様はこの子にいつ話すつもりなの?)
フォウ(私達の『正体』を…)
ワン「……」ペラッ…
ワン「?」ペラッ…
凛「どうかしたの、ワン」
ワン「…………」
ワン「私達の知る魔術とは別に、効率の良い使用法が書かれてはいるけれど」
凛「ま、まぁ……お父様の書庫だしね」
ワン「詠唱の簡略化も何も……感覚で魔法を使えないのかしら?」
フォウ「それは私も思ったわ、どれも『魔術』の事ばかりで回りくどいというか……」
凛「……え?」
ワン「……でも」
凛「でも?」
ワン「目当ての本は何冊か見つけられた、今日の所は帰りましょうか」パタムッ
ファイブ「私はこの本を借りますわん♪」
フォウ「流石は私達のマスターのお父様なのね、高名な魔術師らしいけれど」
フォウ「この本も、前半はやっぱり回りくどいけれど、それでも書いてある『五大元素』とか、色々興味深いかも」パラパラ
凛「役立ちそうなら持ってっていいけど、あなた達……大丈夫なの?」
ファイブ「あら、昨夜も言った筈ですわ」
━━━━━ シャンッ
ファイブ「多少の持ち物ですら、武器含めて『ウタ』の力で何とかなるの」
凛「……凄い」
凛(五人も一度に召喚出来て……その上、こんな凄い英霊を喚べた)
凛(これだけでもお父様に喜んで貰えるかもしれない、だけど……)
ワン「スリイ……ほら…」ユサユサ
スリイ「……ZzZzz…」ゴゴゴゴ
凛(お父様が本当に喜んで頂けるのは、きっとお父様の敵を倒してから)
凛(それからお父様に、味方である事を教えれば…)
ワン「起きない…わね、案の定」
ファイブ「トウお姉様が居れば楽でしたのにね、はぅん」
フォウ「仕方無いわね……外のトラップを避けながら出るとなると」スッ
フォウ「私がスリイ姉様を連れてくしかないかっ」ガッシッ
凛「まずはお母様の待つ家に戻ってから、どうにかお父様の近くに居られないか相談しなきゃ」
凛「お母様を戦いに巻き込む訳にもいかないからね」
ワン「ならまずは出よう」
ワン(……おかしな気配を感じる、まさか……)
━━ 遠坂葵家・周辺 ━━
凛(うぅ……どうにかしてワンやフォウ、スリイはともかく、後でトウとファイブの服を手にいれないと……)
< 「何かしら……外人?」
< 「コスプレかしらねぇ……」ヒソヒソ
ワン(まぁ人目に付くのが普通ね)スタスタ
フォウ(あんな肉の塊ぶら下げてるからよ)スタスタ
ファイブ(人目に付くのはやっぱりワン姉様が一番お胸が無いからかしらねぇ…)スタスタ
凛(ああああああもう!! 何でこの人たち堂々と歩いてるの!?)
━━ 場面は再び変わり・聖堂教会 ━━
璃正「……異例だ」
綺礼「やはり、ですか」
時臣「俄には信じ難いが、綺礼君の令呪が消えた代わりに……」
綺礼「……」
璃正「何者かの手に渡った、という事でしょうな」
璃正「しかしこの様な事は本来ならば不可能な筈……一体何が…」
時臣「『霊器盤』の反応は?」
璃正「……あと一組、しかし…残ったのは『キャスター』の座のみですな」
時臣「実は一時的に令呪が見えておらず、そのキャスターの担い手こそが綺礼君……」
時臣「そう考える事も出来るが…聖杯が果たしてその様な誤作動を起こすとも考え難い」
璃正「一先ず暫くの間、様子を見るしかありませんな……」
時臣「……ふむ」
綺礼「!」ピクッ
< 「ほう、何やらお困りのようだな」
ギルガメッシュ「時臣…賊が我の庭に入り込み、挙げ句には書庫から本すら持ち出していたぞ?」
時臣「!!」
ギルガメッシュ「面白いものも見れたので見逃してはやったが、な」
時臣「王よ、どうかその賊が何者なのかお教え頂きたい……!」
ギルガメッシュ「貴様の子だ、時臣」
時臣「……なん…だと」
時臣「……」
綺礼「どうされますか、時臣師」
時臣「すまないが綺礼……」
時臣「念の為に確認を取っては貰えないか、凛が学校に行ってないなど……」
綺礼「分かりました」
璃正「……」
ギルガメッシュ「くっく……まぁ待て時臣よ」
時臣「何でしょうか、我が王よ」
ギルガメッシュ「この我が見てきてやろう……万が一何か異変があれば、我に任せてはどうだ」
時臣「なんと…!」
綺礼(……どういう風の吹き回しだ)
ゼロ「……」
ゼロ(随分……静かなんだな…この街は)
ゼロ(………)
ゼロ「居るんだろう、アコール」
< ・・・
ゼロ「………」
ゼロ「この辺り一体を荒らすぞ」
< ヒョコッ
アコール「それ、ぜぇーったいここでやっちゃ駄目ですからね?」
ゼロ「……」
ゼロ「えー」
アコール「えーって何ですか、えーって」
ゼロ「お前……私に首落とされてたよな」
アコール「それ言ったらゼロは封印されていたと記録しています」
ゼロ「これはやっぱりお前の仕業なのか?」
アコール「まさか」
アコール「……強いて言えば、ここが何処なのか、それだけならばお答えはできます」
ゼロ「へぇ……どこなの?」
アコール「ここは私達が暮らしていた世界とは別次元、或いは『過去』……」
アコール「つまり、旧世界か異世界かの違いです」
ゼロ「……」
アコール「あれ、パッとしないですか」
ゼロ「当たり前だろ」
ゼロ「話が見えないし繋がらない、尚更私とお前がここで話せてるのか意味不明だ」
アコール「確かな事はありますよ」
ゼロ「?」
ゼロ「確かな事、あるんだ」
アコール「はいありますよ?」
ゼロ「……それ、最初に言うべきだろ」
アコール「まぁまぁ」
アコール「コホン、つまりですね……」
アコール「どうやら私、実体が無いようなんですよ」
ゼロ「は?」
アコール「私が呼ばれる距離にいたのも、今まで傍にいたのにウェイバーさんに気づかれなかったのも」
アコール「実体が無いから……じゃないですかね」
ゼロ「なんだそれ、だったら何でいまこうして話せてるんだ」
アコール「呼ばれたからじゃないですかねぇ」
ゼロ「………なるほど」
ゼロ「じゃあ……どうやったら消せるんだお前」
アコール「え、消しちゃうんですか」
ゼロ「一応」
アコール「……」
ゼロ「………」
< 「ゼロ…!」
ゼロ「ん、ウェイバーか……」
ウェイバー「ここにいたのか、探したんだぞ!」
ゼロ「ついてくるな、と言った筈なんだけど」
ウェイバー「それでもやっぱりマスターの僕がいないと危ないだろ!」
ゼロ「私がお前みたいな子供より弱いとでも? 」
ウェイバー「僕がだよ」
ゼロ「知るか」
ウェイバー「……で、誰と話してたんだ?」
ゼロ「ああ、アコールっていうウザい眼鏡なんだが……」
ゼロ「……っ」
ウェイバー「何処にもいないじゃないか」
ゼロ「……」
ゼロ(まさか本当に、アコールの奴……消えたのか)
ウェイバー「そうだ、ゼロ」
ゼロ「なんだ」
ウェイバー「街を見に歩かないか、店とかさ」
━━━━━ パタンッ
トウ「ワンねえちゃん! 私ちゃんとリンのお家守ってたよ?」
ワン「分かってる」
< 「~~!」
< 「~っ、~~?」
ワン「……無理もないな」
ファイブ「どうかしたんですの?」
ワン「ガッコウ…勉強をする場所らしい、学舎に無断欠席した事を叱られているようだ」
フォウ「住んでる所からして貴族みたいだものね」
ワン「……さて、やっとリンが離れたところなんだ」
ワン「皆の覚えている事を、全て教えて貰いたい」
フォウ「……私が覚えているのは、ゼロ姉様と…ううん、その前に…」
ワン「『ウタの力』そのものに呑まれた、そうだな?」
フォウ「!……じゃあ、ワン姉様も?」
ワン「私はそうはならなかったが…」
ファイブ「はぅん、なら良かった」
ファイブ「てっきりあの時の事を覚えているのは私だけかと思いましたもの」
スリイ「……」
ワン「スリイは?」
スリイ「………覚えてる」
ワン(やっぱりか……)
ワン(だが、そうなると……)チラッ
トウ「……」
トウ「あ、あはは……皆、何の話をしてるのかな?」
ワン「トウ?」
トウ「ほらぁ……あれでしょ? ゼロねえちゃんが逃げた後からみーんな覚えてないって話だよね?」
トウ「……だよね?」
フォウ「………」
ファイブ「トウお姉様だけ記憶が、私達より過去のままですの?」
ワン「有り得なくはない、そもそも昨夜から今日にかけて私達が見た通りだ」
ワン「ここはどこか別の世界だと考えた方が楽かもしれない」
フォウ「トウ姉様の場合、この世界に召喚される過程で記憶を失った、とか?」
ワン「それ以外に考えられないが……」
トウ「?」
ワン「トウは、召喚された時に何か感じなかったか」
トウ「違和感ってこと? ううん、なんにも!」
ワン「そうか…」
ワン(トウは例の孤児院で心を病んでいたと聞いたが……)
ワン(……記憶が無いのは、それが関係しているのだろうか)
トウ「そうそう、留守番してる時にね…… 凄いの見つけたんだよ!」
ファイブ「なんですの? 凄いのって」
< ゴトンッ
ワン「……何だ? この、四角い箱は」
トウ「テレビって言うんだって、丸いの押すと色んなのが映るの」
フォウ「似たような事をする魔術師がいたわ、確か砂の国かしら」
トウ「うん、みんな凄いよねー」
ワン「トウ、さっそく映してくれ」
トウ「いっくよー?」カチッ
< ・・・
トウ「………」
ワン「……映らないが」
トウ「あれ? なんでだろ」カチッカチッ
ファイブ「トウ姉様の馬鹿力で壊れたんじゃないですの?」クスクス
トウ「うーん……加減してたんだけどなぁ」
ワン「リンの家の物だ、壊れると困るだろう…」
ワン(………)ピクン
ワン「……来るぞ」
フォウ「くる?」
< ガチャッ
葵「………」
フォウ(もしかして……リンのお母様?)
ファイブ(ああ、なるほど)
葵「……本当に、貴方達…は」
ワン「英霊かどうかは置いても、私達はリンに召喚された」
ワン「それが私達が説明できる事実よ」
葵「……まさか、そんな…」
凛「お母様…ごめんなさい、でも私選ばれたの」
凛「お父様が今、戦っている目的である聖杯に」
ワン(……聖杯?)
スリイ「ワン姉さん」
< クイッ
ワン「?……どうしたの、スリイ」
スリイ「………」
スリイ「風が吹くと芽を開いて、水をかけると目を開けるモノ……」
ワン「……」
凛「どういう意味なの?」
ワン「いや、私にも分からない……かな」
ファイブ「スリイお姉様はよくこんな事を言うけれど…はぅん」
ファイブ「特に深い意味は無いですわ?」
凛「な、なにそれ…… 」
葵「……」
━━ 同日……冬木市・某所 ━━
極限の最中、間桐雁夜は息も絶え絶えに自身のサーヴァントを地に縫い付けた。
雁夜「はぁ……は…げほっ、ガッ……!!」
喉奥で絡む血を吐き出し、その場で彼は座り込んだ。
今、彼の目前で剣戟の打ち合いの末に倒れ伏せた英霊は二画の令呪と壮絶なダメージによって瀕死となっていた。
否。
紛れもなく雁夜が喚び出したサーヴァントは英霊ではなかった。
しかしその本質は見えず、只ひたすらに曖昧なイメージしか浮かばない。
雁夜は、サーヴァントの男を地に縫い付ける長剣を眺める。
雁夜(……召喚した直後に襲われた上に、『前回』とは全く違う英霊……)
強大な力を持つ筈のサーヴァントを返り討ちにし、宝具級の長剣を彼が振るえていたのには理由があった。
全く別の場所にいる同じくマスター、ウェイバー・ベルベットが見た『夢』である。
雁夜(くそ、昨夜から戦い続けたせいか……ッ)
膝から崩れ落ち、静寂に包まれ始めてみて彼は凄まじい激痛を覚えた。
体内の刻印虫が蠢き、雁夜の血肉を食い破らんとしているのだ。
本来の、『昨夜までの』雁夜だったならば、同じ芸当を行えば数分でショック死していたかもしれない。
昨夜、『バーサーカー』を召喚する前にとった仮眠。
それは僅か二時間あまりの間の夢でしかなかったというのに、まるで実体験の様に身体に染み付いていたのだ。
そして現に、雁夜は夢の続きかの如く『契約者』としての力を振るえていた。
鎌の使い手だったサーヴァントを貫き、地に縫い付ける長剣。
その長剣は、かつてカイムという真名のサーヴァントが渡した宝具『ブレイジングウイング』である。
雁夜(……夢のアレが事実なら、どうして俺は生きている…)
雁夜(契約相手の『カイム』は何らかの理由で、いや……もしかしたらアーチャーに敗れたのか)
雁夜(何にせよ……)
彼は地に縫い付けられたサーヴァントを見下ろしながら、苦々しく呟いた。
雁夜「……彼とも、契約出来るのなら……」
彼が喚び出したサーヴァントの能力は余りにも魅力的過ぎる。
刻印虫を無視して戦いに身を投じるならば、例え自身の大切な物を喪うとしても、絶対に力を手にしなければならない。
彼は、間桐雁夜は、そう決意してから静かに剣をサーヴァントから引き抜いた……。
━━━ ・遠坂葵宅・ ━━━
ワン「……あらゆる願いを叶える願望器」
ワン「それが聖杯なのね」
凛「ええ……とはいっても、お父様の書庫にある本でしか詳細は知らないわ」
フォウ「そうみたいね、『根源』とか…何かしらこっちの…」ペラペラ
ワン「ガブリエラから一度だけ聞いた、『大いなる時間』に近いものかしら……?」ペラ
凛「『根源』が何なのか、それを追求し続けるのが魔術師だと私は聞いたわ」
スリイ「……Zzz」
ワン(……)
ワン(この書物では限界があるな…後でフォウと共にもう一度書庫へ行くか?)
他所でも遂にDODの作品が増えた今日この日、
この勢いで鬱と狂乱のブームがSS速報に訪れればいいなと思う
再開
━━━ 深夜 ━━━
ワン「……さて、とりあえずリンは寝たな」
ファイブ「私とフォウお姉様の子守唄なら即イキでしたわぁ、はぅん」
フォウ「ワン姉様、どうしてトウ姉様やスリイ姉様も連れて行かなかったの?」
ワン「トウ達にはリンと、その母親を守って貰う」
ワン「何があるとも限らない……それに」チラッ
ファイブ「はぅん?」
ワン「……そこの男以外に身を潜めて近付くような者がいても、スリイなら察知できる」
ファイブ「!」
フォウ(背後……!?)
< コォォォォ…!
ギルガメッシュ「気配に気づいたか、いや……『見えていた』な? 女」
ワン「霊体に近い類いのものでも、私には見えてしまうし気配も感じる」
ワン「私達がリンの家に到着してからの夕食時には居たな」
ワン「何者だ」
ギルガメッシュ「クク……つくづく珍妙な花よ」
ワン「……なに?」
ギルガメッシュ「貴様ら『箱庭』の毒花が、どういう了見で此方に来たかは知らぬ」
ギルガメッシュ「だが……我の前で醜悪な真似をするようなら、殺す」ギロッ
フォウ(コイツ、私達の正体が分かるの……ッ?)
ファイブ(凄い金ピカじゃない……しかも良い男……はぅん! 欲しくなってきちゃう!)ゾクゾク
ワン「…………」
ワン「分かるのか、私達の花が」
ギルガメッシュ「太古にそれに近い物を見た、が……神によって枯らされていた」
フォウ「枯らす…?」
ワン(出来るのか、そんなことが)
ギルガメッシュ「貴様ら毒花がもたらす破滅には我と言えど断じて赦せる醜悪さではない」
ギルガメッシュ「答えてみろ、女」
ワン「私の名はワン、貴方の言う通り私達の体……」
ワン「……違うな、『私達そのもの』は確かに花だ」
ファイブ「素敵よねぇ、色々あったのは覚えてるけど私のこの体もぜーんぶ花なのよぉ?」ハゥン!
フォウ「黙っててファイブ」
ワン「貴方は最後に見たのが以前の事だと言うなら、余り知らないだろう」
ワン「私達の『花』は、ある種の呪いだ」
ワン「どれだけ抗おうと、どれだけ平静を保とうと、最後には花である限り自我を乗っ取られ、狂い咲く」
ワン「ここにいる全員、そしてリンの傍にいる二人の妹達も……皆一度『花』の一部として覚醒してる」
フォウ(…………)
ファイブ(………そうだったわね)
ギルガメッシュ「それで?」
ワン「私達は花の力を極力使わずに生き残り、『聖杯』を掴み取る」
フォウ「え……?」
ワン「私は、私達は …… 必ず聖杯を手にして花を消して見せる……!」
ギルガメッシュ「痴れ者が……我が宝に手を出すというのか」
ワン「! 貴方の持ち物だと言うなら、私達に譲って欲しい!」
ワン「さっき、貴方は私達を殺すと、そう言った! だがダメだ、私達をただ殺せるとしても花は咲いてしまう」
ワン「そうなれば、相当の力を持ったドラゴンでもなければ咲いたばかりの私達すら封印も出来ない!」
ギルガメッシュ「……ほう?」
ワン「頼む……ッ、聖杯を私達に譲ってくれ!」ガバッ
フォウ「ワン姉様…!」
ファイブ「お洋服が汚れちゃうわよぉ?」
フォウ「黙っててファイブ」
ゼロ「私の邪王真眼は全てを見通す力がある」
ディト「わー、本当にありそうだ」
……ありだな、厨二恋×DOD3というのも
ギルガメッシュ「……フン」
ギルガメッシュ「聖杯は我の宝に違いない、だが……これは聖杯戦争に勝たねば手には入らん」
ワン「……」
ファイブ「あら、それって貴方でも自由に出来ないって事ですわぁ?」
フォウ「ちょっ、ファイブ…!」
ギルガメッシュ「黙れ」
フォウ「ッ」ビクッ
ファイブ「その荘厳な立ち振舞い、キラキラして、気品のある容姿端麗の完璧な男……」
ファイブ「てっきり、ここの世界の王様かと思ってたんですもの…はぅん?」
ギルガメッシュ「……」
フォウ(もう! これじゃ、ワン姉様が頭を下げた意味が……)
ギルガメッシュ「我の偉大さを一目で見抜き、敬うその意気…褒めてやろう」
フォウ(えっ)
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません