死神「こんにちは、女さん、今回女さんを担当させていただきます、死神です」
女「こんにちは」
死神「あ、あんまり驚かないんだね。俺こんな見た目だから、かなり驚かれると思ったんだけど」
女「そうですか?私は、かなりびっくりしてますけど...」
死神「全然そんな風には見えないけどね」
※死神の容姿はズダボロのローブを身につけたガイコツです。
死神「まぁ、いいや。とりあえず君に言っておかないといけないことがあるんだけど、いいかな?」
女「はい」
死神「いきなりで信じられないと思うんだけど...」
死神「女さんは明日から数えて、一週間後に非業の死を遂げます」
女「...そうですか」
死神「本当に全っぜん驚かないね、君。普通の人間ならもっとびっくりすると思んだけど」
女「そうですか、でも私の場合、死ぬことは知ってましたし...」
死神「...どうゆうこと?」
死神「まぁ、いいや。とりあえず君に言っておかないといけないことがあるんだけど、いいかな?」
女「はい」
死神「いきなりで信じられないと思うんだけど...」
死神「女さんは明日から数えて、一週間後に非業の死を遂げます」
女「...そうですか」
死神「本当に全っぜん驚かないね、君。普通の人間ならもっとびっくりすると思んだけど」
女「そうですか、でも私の場合、死ぬことは知ってましたし...」
死神「...どうゆうこと?」
女「もう先は長くないって先生が...でも最近は状態が安定してるからって言ってたのになぁ、そうか、あと一週間かぁ...」
死神(.............................................)
死神(俺は非業の死って言ったんだけど...)
死神(俺はこの娘が、どの様な非業の死を遂げるか知っている)
死神(非業の死とは、平たく言うと寿命が尽きる前に死んでしまうことだ)
死神(病死も寿命が尽きることの一つだ。つまり、この娘の死因は病気が原因ではない)
死神(死因については話してはいけないっていう死神内でのルールがあるから、女にはこの事は言えない...)
死神「...ここからが本題なんだけど、女さん、明日から一週間の間で何かやりたいことはないかい?」
女「と、言いますと?」
死神「人間は、未練を残したまま非業の死を遂げると地縛霊とか、そうゆう悪霊になったりするんだよ」
死神「だから、その時までにできるだけやりたかった事の解消を手伝うのが、俺たち死神の仕事なんだ」
女「そうなんですか」
死神「で、なんかない?」
女「そうですね...」
女「特に......ないです」
死神「え......?」
死神界
死神大王「やぁ、死神くん。初出勤どうだった?」
死神「こんにちは、大王様。かなり変わった女性の担当になりました」
死神大王「変わったってどんな?」
死神「まず俺の姿を見ても驚かないんです」
死神大王「ほう、死神の最初の仕事はビビりまくってる人間を落ち着かせるところから始まるからね。珍しいけど、そこは楽だったんじゃないかな?」
死神「まぁそうなんですけどね、で、もう一つは、一週間後に非業の死を遂げる事を伝えても全く驚かないんですよ」
死神大王「最近の人間は、なんだか肝が座ってるんだねぇ」
死神「そして、極め付けは『未練はない』って言い出したんですよ。俺、どうしたらいいんですかね」
死神大王「うん、っていうかそれ、もはや君いらなくない?」
死神「何言ってるんですか、女の担当を俺に決めたの大王様でしょ?そんなわけにはいきませんよ」
死神大王「まぁね、でも君は真面目だなぁ、そこらの死神だったら、普通に一週間待ってるだけだと思うよ?」
死神「まぁ、それでもいいと思うんですけどね」
死神大王「?」
死神「でもこのまま最期の一週間をただ何もなく過ごすのは違うかなって思ったんです」
死神大王「...そうだね、確かに君のしようとしてることは間違いじゃないのかもしれない」
死神大王「でも、その娘にできてしまった未練が大きすぎたらどうするの?」
死神「..............!」
死神大王「一週間で解消できないような未練を持っちゃったら、その娘は確実に悪霊になっちゃうよ?」
死神大王「悪霊になった人間の魂の末路は知ってるよね?」
死神「..............はい」
死神大王「だから、その辺をよく考えて行動するんだよ」
死神「忠告、ありがとうございます。気をつけます」
死神大王「ならいいんだけどね、あと...君はよくわかってるはずだし、余計なお世話かもしれないけど、初めての仕事だから言っておくね...」
死神大王「決してルールは破っちゃいけないよ」
死神「もちろんです。俺も死神になって早々に灰になんてなりたくありませんからね...」
死神「じゃあ、そろそろ行きます」
死神大王「うん、じゃあ気をつけて」
一日目 病室 朝
死神(女は、まだ眠っている)
死神(死神の出勤時間は、担当している人間が朝目覚めてから、夜眠るまでだ)
死神(結構、ハードなように見えるが、案外そうでもない。死神は疲れる肉体を持ち合わせていないからだ。なんせ、骨だけだから)
死神(なので、基本的に24時間ぶっ通しで身体を動かしていても大丈夫。ちなみに、筋肉もないのに何故、体を動かせるのかというと、俺たちも良くわかっていない)
死神(そろそろ女が目覚めそうだ)
女「う、ううん」
死神「おはよう、女」
女「あ、おはようございます。死神さん」
死神「いやさ、君ホント驚かないよね?朝目覚めたらガイコツがいるんだぜ?俺だったら腰抜かすよ」
女「いや、最初に会った時は本当にびっくりしてたんですよ?けどなんだか、不思議と怖いって思いませんでした」
死神「え、なんで?」
女「なんていうか、死神さんって死神っぽくないですよね、喋り方とか」
死神「そうか?死神って基本こんなだぜ?」
女「え、っていうか、死神って死神さん以外にもいるんですか?」
死神「お前な、クリスマスにサンタさんは一人じゃ一日で世界中の子供にプレゼント配れないだろ?それと一緒だよ」
女「サンタさんを例に出すところが死神っぽくないなぁ。なんか、可愛いですよね」アハハ
死神「可愛いとか言うな!こんなガイコツに向かって可愛いとか言うのは、きっとお前だけだぞ...」
コンコン
ナース「女さん、入りますよー」
女「え、あ、はーい」
ナース「あれ、さっきまで誰かとしゃべってた?」
女「え?どうゆうことですか?」
ナース「いや、女さんの元気な話し声が聞こえたから、お見舞いにしては早いなーって思ってたんだけど」
女「お見舞いじゃないけど、ほらそこにいるじゃな...」
死神「言っても無駄だぞ、女。ナースに俺の姿は見えてない」
女「え?それどうゆうことですか?」
死神「返事すんなよ...。俺の姿はお前にしか見えてないから、俺の声も、お前にしか聞こえてないんだ。だから、変に思われるから他人の前では俺に喋りかけない方がいい」
女「うん、わかった」
死神「お前、馬鹿だろ」
ナース「女さん...?だ、誰とおしゃべりしてるのかな?」
死神「あ~あ、ナースさん完全に顔引きつってるよ。見えちゃいけないもんが見えちゃってる人になってるよお前?」
女「見えちゃいけないって、見えちゃいけないでしょ。死神さんは」
死神「なっ!失礼な!人を...ん?いや、死神か...?死神を化け物みたいな言い方...ん?人間からしたら化け物の類なのか?」
死神「???」
看護師「しに...がみさん...?」
女「あぁ!違うんです!これはその...この前見たアニメでこんなのがあってですね!」アセアセ
死神「言い訳下手くそか、お前」
女「それのヒロインになりきってたんですよ!」
死神「ヒロインて、痛いことには変わりねぇ」ハッハッハ
女「」ギロッ
死神「」ビクッ
女「そういえば、ナースさんはどうしたんですか?」
ナース「え、あぁ、朝ごはんを持ってきたのよ。あと、女さんにいいお知らせがあります」
女「なんですか?」
ナース「最近、女さんの身体の調子も良いということなので、今日から6日間の外出許可が出ました!」
女「.......そうですか」
ナース「あれ?あんまり嬉しそうじゃないね」
女「そうですね、もう今更外に出て何かしたいっていうこともないですし」
死神「............................................」
ナース「そう、なんだ。まぁ、無理にとは言わないし、折角の機会だからって思ったんだけど、女さんが気分じゃないっていうんならいいか」
女「はい、このまま病室にいます」
ナース「わかった、じゃあ先生にもそうゆう風に伝えとくから、じゃあ私はこれで失礼するね」
バタン
女「誰 が 痛 い ん で す か ?」
死神「.......え?あぁ、悪い悪い」ハハハ...
女「だいたい先に他人に見えるか、見えないかぐらい教えてくれたらよかったじゃないですか」モー
死神「いやいや、だってさ、聞かれないことにはお答えできないじゃん?」
女「いや、まぁそうですけど...」
死神「それよりさ...」
女「......?」
死神「今日から6日間、外出許可とるぞ」
病院の外
ナース「最初は乗り気じゃなかったみたいだけど、やっぱり外に出たかったのね」
女「いや、私はあんま...ゴホン!そうですね、なんだかんだで楽しみです」
ナース「よかった、よかった。それじゃ私はここまでだけど、存分に羽伸ばしてきなよ。それでも無理は禁物だからね」
ナース「しんどくなったらいつでも病院に戻ってくるんだよ?」
女「わかりました、ありがとうございます」
ナース「うん、行ってらっしゃい」
※
死神「なんかいい感じのナースさんだよな、あの人」
女「やっぱり死神さんもナース服に惹かれたりするんだ」
死神「違うわ。容姿でなく、人格の話をしてるんだよ」
女「ふーん、まぁそんなことはどうでもいいんですけど...」
死神「どうでもいいって、お前から振ってきたんだろうが」
女「どうして外出許可とれって言ったんですか?」
死神「そりゃ、お前。あんな、なんにも無い病室にずっと入ったまま最期の一週間過ごしても仕方ないだろ。どうせなら外に出て、ちょっと遊んだ方が良くないか?」
女「いや、そりゃそうですけど、私、ホントにやりたいこととか無いんですけど...」
死神「やりたいことが無かったら、見つけりゃいいんだよ。それか、片っ端からやってこなかったことをやりゃあいいんだよ」
女「そうですか...?」
女「あ、ここが私の家です」
死神「お、おぉ。これはこれは、かなりのボロアパートだな」
女「失礼ですね、両親が生きてた時は、私だって立派な一軒家に住んでたんですよ?」
死神「そ、そうだったんだ...。じゃあそのまま住んでりゃ良かったのに」
女「流石に1人で一軒家は広すぎますよ。あと、あの家にいると両親のこと思い出しちゃうので...土地ごと売っちゃいました」
死神「そうだったのか...なんか、ごめん」
女「な、なんで謝るんですか?」
死神「いや、なんかズケズケと女に入り込みすぎたかなと...」
女「そんな、気にしませんよ。っていうか、やっぱり死神っぽくないですよね」
死神「そんなにか?」
女「はい、なんだか死神なのに私に気を遣ったりしてて、優しいですよね」
死神「お前ら人間は、俺たち死神を人格破綻者かなんかと勘違いしてないか?」
女「違うんですか?」
死神「違うわ!失礼な」
女「ごめんなさい。でもまぁ、これでおあいこってって事で」アハハ
死神「そ、そうゆう事にしとくか?」
ガチャッ
死神「おじゃましま~すっと、あれ?女の子の部屋の割にはなんにも無いんだな。あるのは、TVと机と本棚だけか」
女「私は、ぬいぐるみとかには興味ないですからねぇ」
死神「ただ、本棚の漫画は豊富だな」
女「そうですね、大好きなんですよ。漫画」
死神「ふーん、それにしてもこの部屋なんか、ほこりっぽいな」
女「帰ってくるのは半年ぶりだし、掃除してくれる人なんていませんからね」
死神「.......死神ならいるけどね」
女「え?」
死神「今から大掃除するぞ。こんな部屋であと、6日も寝られないだろ?」
女「死神さんも掃除したりするんですね」
死神「当たり前だろ」
女「いや、なんか死神さんってジメジメしたすっごい汚いところに住んでるイメージが...」
死神「お前、ほんっと失礼だな!俺のねぐらはここより綺麗だし、俺はめちゃくちゃ綺麗好きだっつーの!」
女「ごめんなさーい」エヘヘ
死神「お前反省してんのか...?まぁいいや、掃除終わったら飯作るから買い物行くぞ」
買い物帰り 昼
死神「俺、作れる飯は基本的に中華オンリーなんだけどいいか?」
女「そうなんだ。ていうか、死神さんはご飯も作れるんですねぇ。なんだか、掃除もできるし主夫って感じ」
死神「そうか?」
女「もはや、死神っていうより、天使的なものな気がします。やってる事とか」
死神「いや、まぁ元は天使だしね」
女「そうなんですか!?」
死神「俺たち死神ってのは、天使派か、悪魔派か、っつったら天使派なんだよ」
死神「まず、前世の行いや、人格が特に良い者が天使になれるのな」
死神「そんでそこから、色んな職業を選べるわけよ。恋のキューピッドだったり、死神だったりな」
女「へぇ~、じゃあ死神の中にはそもそも人格破綻者は居ないんですね」
死神「その通りだ。だから、死神だからって悪者扱いされるから、この仕事は結構、辛いんだよな」
女「死神さんもいろいろ苦労なさってるんですね」
死神「まぁ俺は今回が俺1人での初めての仕事だからな、俺が苦労するのはこれからだ」
死神「今回は、なんにもしなくても良さそうだけどな」
女「そんなぁ、ちゃんと仕事してくださいよぉ」
死神「つっても、未練ないんだろ?」
女「そうなんですよね、けど...とりあえずお腹空きました」
死神「それも立派な未練だ。今日のお昼ご飯は特盛チャーハンだ」
昼食後
死神「ふぃ~食った、食った」
女「死神さん、めちゃくちゃ美味しかったです!」
死神「だろ?最終日はもっと美味いもん食わせてやるよ」
女「やったー!」
死神「未練がまた一つ増えたな」
女「あ、そういえば、死神さんって...」
死神「ん?」
女「食べた物ってどこに行くんですか?」
昼食後
死神「ふぃ~食った、食った」
女「死神さん、めちゃくちゃ美味しかったです!」
死神「だろ?最終日はもっと美味いもん食わせてやるよ」
女「やったー!」
死神「未練がまた一つ増えたな」
女「あ、そういえば、死神さんって...」
死神「ん?」
女「食べた物ってどこに行くんですか?」
死神「どこにって、そりゃお前。胃だろ」
女「骨だけなのに?胃ってあるんですか?」
死神「いや、そんなのあるに決...そういえばないな...」
女「え、じゃあ、死神さんの食べた物ってどこに行くんですか?」
死神「どこ...なんだろうな...」
女「............................................」
死神「............................................」
女「怖っ!なんかそれ怖いですよ、死神さん!」
死神「ちょっ、止めろよ!俺まで怖くなってきたじゃねぇか!」
※
女の部屋 夜
女「私、そろそろ眠たくなってきました」
死神「そうか、お前が眠ったら俺も帰るから」
女「そうですか、死神さんも私みたいな女と、これから後、5日も一緒に居なきゃダメなんだから、大変ですよねぇ」
死神「なんで?」
女「だって、退屈でしょ?私みたいなの」
死神「そうでもないさ」
女「?」
死神「いや、最初は女のこと、すっごい暗い娘かと思ってたんだよ、両親も既に亡くなってるっていうしな」
女「...知ってたん、ですね」
死神「あぁ、ある程度。担当する人間のデータには目を通さないといけないからな。悪いとは思ってるんだけど...」
女「いいですよ。仕事ですもん」
死神「...ならよかった。でも、俺たちってやっぱり損な役回りなんだよ。凄く人間に嫌われるからさ」
死神「でも、女みたいな人間もいると思ったら、こらから先、頑張れる気がするわ」
死神「だから、初めて担当する人間がお前で...」
女「」zzz
死神「って寝てるわ」
死神「帰るか...」
死神界
死神「只今、戻りました」
死神大王「お帰りなさい。死神くん」
死神大王「例の『未練の無い娘』はどうだった?」
死神「相変わらずです、たいした未練はありませんでした」
死神大王「たいしたってことは、少しはあったのかな?」
死神「はい、『ご飯が食べたい』と」
死神大王「可愛いな」ハハハ
死神大王「そんで、死神くんがなんか作ってあげたの?」
死神「はい、チャーハン作りました」
死神大王「死神の仕事じゃねぇ」ハッハッハッ
死神「笑わないでくださいよ、これも立派な未練の解消、立派な仕事ですよ」
死神大王「そんで、他には何したの?」
死神「女の部屋を大掃除しました」
死神大王「君もう一回、人間に転生して主夫かなんかになったら?」ククク
死神「茶化さないでくださいよ。俺だってこの仕事に就いたばっかりなので、もう少し続けたいですよ」
死神大王「それもそうだね」
死神大王「なんだか、君を見ていたら君のお父さんを思い出すよ」
死神「...なんで、ですか?」
死神大王「なんだか、どんな些細な未練も解消しようとする姿勢がとても似てる」
死神「そうですかね...」
死神大王「ああ、君のお父さんはホントに立派な死神だった」
死神「殉職さえ、しなければね...」
死神大王「死神くん...ごめん、私...」
死神「いいですよ、気にしないでください...。親父は仕事ができる死神だったってよく研修中に聞かされました。大王様にそう言って頂いて素直に嬉しいです」
死神大王「そうかい?ならよかったけど...」
死神「はい、ありがとうございます。じゃあ、俺は寝ぐらで休みますんで」
死神大王「あぁ、お疲れ様」
死神大王(............................................)
死神大王(さっきのは私の失言だったな...)
死神大王(口では強がるくせに、どうしてそんなに悲しそうにするんだ?)
死神大王(まぁ、本人は無意識なんだろうけど...。私も言葉には気をつけないとな)
二日目 女の部屋 朝
死神「おはよう、女。飯はできてるぞ」
女「おはようございます」
女「何だか、死神さんに朝ごはん作ってもらってるって、すごいですね」
死神「なんだよ、昨日の朝は全然びっくりしてなかったくせに」
女「いや、びっくりはしてませんけど、ただ、新鮮すぎるなぁと思って」
死神「確かに、そうだな」
女「っていうか、朝ごはんは中華じゃないんですね」
死神「お前、朝からそんな重いもん食えるのか?」
女「いや、食べられないですけど、何だかんだで中華以外も作れるんだぁ、と思って」
死神「まぁ、簡単な物なら作れるよ。それより飯が冷めるから、さっさと食べな」
女「はい、頂きます」
※
死神「やりたいことは?」
女「無いんですよねぇ」
死神「そうか...お前ホントにやりたいことが何も無いんだな」
女「そうですねぇ」
死神「そうゆうのはダメだと思うぞ?」
女「なんでですか?」
死神「なんでって、お前まだ19だろ?よくないよ、そんなの。若くて身体が元気なうちだけにやれることは一杯あるだろう」
女「いや、私、病人ですし」
死神「馬鹿だなお前...ちょっとそこに起立してなさい」
女「はい...って死神さん!?なんでナイフ持って近づいてくるんですか!?」
死神「なんでって、これでお前の身体を刺すんだよ」
女「ちょっ、冗談ですよね?」
死神「馬鹿野郎。冗談でこんなことするか。ナイフはおもちゃじゃないんだぞ」
女「いや、凶器として使うのも間違って......きゃあっ!!」
女「......あれ?刃先が私の身体に刺さる寸前で、止まってる......?」
死神「そうだ」
死神「いいか、お前は五日後に死ぬことが確定してるんだ。だから、それまでの間に死ぬことは絶対にない」
死神「つまり、お前が病人だからって多少身体に負担をかけようが、死ぬことはないってことだよ」
死神「残りの外泊許可が出てる今日を含めた六日間は、病気のことを忘れてはしゃぎまくれ」
女「な、なるほど」
死神「わかった?それを踏まえた上で、なんかやりたいこと無い?」
女「......ないですね」
死神「はぁ~」
死神「じゃあ、今日は天気もいいことだし、ピクニックでも行くか?」
公園 昼
死神「女...お前、私服だと普通に可愛いな」
女「ちょっ、死神さん何言ってるんですか!褒めたって何も出てきませんよ?」
死神「ああ、そんなことはわかってる。だから俺からサンドウィッチ弁当が出てくるのだ」
女「わぁ~美味しそう!......って死神さん、何気に失礼なこと言いませんでした?」
死神「ん?気のせいだろ」
女「そうなんですか......?」
女「......あ、死神さんのそのズダボロのローブ、死神さんに良く似合ってますよ」
死神「それはズダボロだから俺に似合うって言いたいのか?けなしてんのか、お前?あと、ビンテージ物と言いなさい」
女「」アハハ
死神「ったく」ハハ
女「なんだか平和ですね」
死神「だな、そこらへんで遊んでる子供たちも楽しそうだ」
女「そうですね、もし、あの子たちに私の隣にいる死神さんが突然見えたらどうなるんでしょうね」
死神「あぁ、間違いなくドン引きだな。そしてさっきから独り言が激しいお前は現在進行形で周りからドン引きされてる」
女「独り言って...あっ!...ちょっとぉ、なんで教えてくれなかったんですか?」
死神「いや、いつになったら気づくのかなぁと思って」ハハハ
女「死神さん意地悪です...」ムゥー
死神「悪い、悪い。俺より多くサンドウィッチ食っていいから」ハハ
女「私は子供ですか?でも頂きます」
死神「食欲に素直だな、お前は。けど、良いことだ」
女「............................................」
死神「............................................」
女「...私、こんな風な家族団らんな様子をみてると思うんですよ」
死神「ぶち壊したい?」
女「違いますよ。私、性格悪すぎじゃないですか」
死神「」アハハ
女「笑わないでください」モー
死神「悪い、続けて」
女「子供が欲しいなって......」
死神「ブフォッ!!!」
女「え!?死神さん!?」
死神「ゲホッゲホッ...む、無理だぞ!俺には!流石にその未練だけは無理だ!」
女「え、えぇぇぇぇぇ!!ちょっと、勘違いしないでくださいよ!決してそうゆう意味で言ったんじゃありませんからっ」
死神「じ、じゃあどうゆうつもりだよ...!」
女「ただ単に欲しいなって思ってただけです。死神さんにそうゆうことを求めたわけじゃありませんから...」
死神「そ、そうか。俺が深読みしすぎたな...すまなかった」
女「ホントですよ、死神さんのえっち...」
※
死神界
死神大王「なにお前、童貞なの?」
死神「断じて違います!」
死神大王「いや、反応から童貞臭がプンプンするんだけど」
死神「断じて違いますから!不意打ち食らっただけです」
死神大王「そ、にしても子供ねぇ」
死神(絶対信じてねぇな)
死神大王「いくらなんでも無理があるよねぇ...」
死神「そう、ですよね」
死神大王「まぁ、私たちには全ての未練を消化してやることは無理だからね。気負うことないよ」
三日目 女の部屋 朝
女「あの、死神さんですよね?」
死神「さっきから何度もそう言ってるだろ?死神だよ」
女「いや、だってね?昨日までガイコツだった死神さんがね、一日でイケメンさんになってるんですよ?信じられませんよ」
死神「失礼だな、俺の元々の姿がこれなんだよ」
女「冗談ですよね?」
死神「冗談じゃねぇよ、俺は元々天使だっつったろ?死神になる前の姿がこれなんだよ」
女「そうだったんですか、てっきりどっかのイケメンさんを殺して、身体だけのっとったのかと...」
死神「俺は悪魔か!」
女「違うんですか?」
死神「違うわ!」
女「」アハハ
死神「......お前は周りに人がいても普通に俺に話しかけてくるから、周りの人間にも見える身体で来てやったってのに、失礼なやつだな」
女「ごめんなさい、ってことは今日も何処か行くんですか?」
死神「ああ、今日はちょっと街に行こう」
街 昼前
女「死神さんってお金持ってるんですね」
死神「人を一文無しみたいに言うんじゃねぇ。死神は全世界共通通貨ってのを無制限に持ってて、経済に影響を及ぼさない範囲でなら使ってもいいんだよ」
女「そうなんですか、普段の格好がみすぼらしいから、つい」
死神「気づいたんだけど、お前けっこう毒吐くよね」
女「死神さんにだけですよ」
死神「別に嬉しくねぇよ」
女「ところで、今からなにするんですか?」
死神「そうだな、ま、とりあえずベタに映画でも行くか」
映画館
女(うわぁ、ホラー映画かぁ)
女(この映画のポスターのガイコツ《たぶん映画の中の死神》を見て死神さんが「あれっ、俺いつの間に映画デビューしてたんだ?行くぞwww」っていうから見にきたものの...)
女(私ホラー苦手なんだよなぁ...)
女「きゃっ......!」
女(ホラーシーンで思わず声が出てしまった...恥ずかしかったけどそれ以上に怖い...)
女(どうしよう.......)
女(..............え?)
女(死神さん......手を......)ギュッ
女(私が怖がってるの、気づいてくれたのかな?)
女(ありがと......)
女(..............ん?)
女(めっちゃ震えてる...)ガクガクガク
女「死神さん?だいじょ......」
死神「」ヒグッエグッ
女(泣いてる.....)
映画館の外
女「死神さん、大丈夫ですか?」
死神「俺たちの仲間にあんな、恐ろしい奴いねぇよぉ!怖すぎるわ...あぁ、完っぺきにトラウマだわ...」
女「手、握ってくれたのも私のことを気遣ってってわけじゃなかったんですね」ジトー
死神「そんな余裕ねぇよ、誰かの手を握ってなきゃ、俺のメンタルが持たなかったんだよ」ガクブル
死神「人間はホント恐ろしいな。なにが楽しくてあんなもんを作るんだよぉ...」オソロシー
女「見たいって言ったの死神さんじゃないですか。っていうか、ちょっとがっかりです...」
死神「え、なんか言った?」
女「何も言ってませんよ」
洋食屋 昼
死神「ふと気になったんだけどさ、女って小さい頃の夢とかなかったの?」
女「い、いきなりなんですか?」
死神「いやだから、なんとなく気になって、だよ」
女「ちょっと動かないでもらって、いいですか?」
死神「あれ、お前、スケッチブックなんて持ってたんだ」
女「いつも持ち歩いてるんですよ。昨日のピクニックでも持ってきてましたし」
死神「へぇ~」
女「」カキカキ
女「じゃん!」
死神「おぉ、上手いな!俺にそっくりだ」
女「そうでしょ?私の数少ない特技です」
死神「あ、数少ないんだ。でもすげぇよ。この短時間でよく描けたな」
死神「絵が描けるってことは、画家かなんか?」
女「絵を描くってことでは共通してますね...」
女「実は、漫画家になりたかったんです」
死神「そういえば、部屋に漫画いっぱいあったもんな。へぇ~そうだったのか」
死神「それも未練のうちに入ってたりするのか?」
女「小さい頃の夢、ですよ。病気になって長くないってお医者様に言われた時に諦めました」
死神「女...」
女「なんていうか、私、病気になる前の方がやりたいことがあった気がするんですよ...」
女「でも先が長くないってわかった時に、やりたい事ができない事に変わるのが怖かったの、かな...?その辺りからやりたい事がなくなっちゃったんです」
女「今は多少無理しても、死神さんが言った通り死にはしないんでしょうけど、病気になる前にやりたかった事がたくさん、できるはずなのに...」
女「なにをやりたかったのか...わからないんです...」
死神「...............」
女「あ、変な空気になっちゃいましたね!ごめんなさい」
死神「...なんか、俺けっこう押し付けがましかったよな。悪い」
女「何言ってるんですか?」
死神「いや、なんて言うかさ......」
女「気にしないでくださいよ。やりたい事がなくても、やりたくない事はないですから。死神さんといるの、凄く楽しいですよ」
死神「......そう言ってくれると助かるよか」
死神「そのスケッチブック、よかったら見せてくれないか?」
女「いいですよ」
死神(...............)
死神(この前の公園の絵だ...すごく綺麗だ...。絵の中の子供たちも楽しそうだ)ペラッ
死神(これ俺が料理してる時の絵か?今まで自分で見た事なかったからわからなかったけど、エプロン姿のガイコツって酷いな...)ペラッ
死神(病院の色んな人の絵もあるな......あれ...?この絵......)
死神「なぁ、この男の人と女の人って...」
女「私の両親ですよ」
死神「やっぱり」
女「え、なんでわかったんですか?」
死神「お前に似て凄く優しい笑顔をしてる、からかな?なんとなくだけど」
女「私も笑った時こんな顔してるんですか?」
死神「あぁ、そっくりだ」
女「...そうなんだ」
死神「あ、今のその顔」
女「えっ?」
死神「すごく、優しい笑顔だよな...俺、お前のその顔、好きだよ」
女「ち、ちょっ何言ってるんですか...!恥ずかしい...///」
死神「お前はからかい甲斐があるな」ハハハ
女「もうっ、死神さん!」
女「そ、そんな死神さんの子供の頃の夢はなんだったんですか?」
死神「お前、死神に少年時代があると思ってんのか?」
女「え、ないんですか?」
死神「いや、あるんだけど」
女「あるんじゃないですか」
死神「まぁ、俺も元は天使って言ったじゃん?天使も普通に人間と同じように父親と、母親がいて生まれてくるんだよ」
女「そうなんですか」
死神「あぁ、そんでさ、実は俺の親父も死神やっててさ。すごく仕事のできる死神だったんだよ」
死神「だから『親父みたいな死神になりたい』だったな」
女「じゃあ、死神さんと、死神さんのお父さんは二人とも同じ仕事してるんだ。いつか、一緒に仕事するって事もあるかもしれないんですね」
死神「いや、死神は新人の研修期間とか以外は担当の人間に1人だけだから、そりゃあないな」
死神「もし、2人以上で仕事する事になっても、もう...そんな事は絶対にないんだけどね...」
女「それって...まさか...」
死神「...あぁ、死んだよ」
女「...ごめんなさい」
死神「おいおい、謝んないでくれよ。俺もお前に同じような事しちゃったし、気にしてないよ」
女「...じゃあ、どうしてそんな悲しい顔するんですか?」
死神「え...、俺いまそんな顔してる?」
女「」コク
死神「無意識だったな、さっきは気にすんなっつったのに...。悪いんだけど、少し長くなるけど、聞いてくれるか?」
女「」コク
死神「俺の親父さ、俺が住んでるところは天界なんだけど、天界でもかなり有名な仕事のできる死神だったんだよ」
死神「俺さ、そんな親父が誇らしくて、さっきも言ったけど子供の頃は『絶対父さんみたいな死神になってやるんだ~』って思ってたんだ」
死神「けどある日、親父は死んだんだ...。死神のくせにな」
死神「死神ってルールを破って死んだら灰になるんだよ。だから、身体も戻ってこないんだ」
死神「ちなみに、死神には人間との間に、いくつかルールがあって、お前に死因を教えてやれないのもそうなんだけど、最も破ってはいけないルールがあるんだ」
死神「『人間に起こる非業の死を回避してはいけない』このルールを破ったら、灰になっちまうんだ。そして、親父は...このルールを犯した」
死神「つまり仕事を全うできなかったってことだな。親父が死んだあと、天界では親父に『仕事もろくに全う出来ない不出来な死神』っていう、今までの評判とは全く逆のレッテルを貼られた」
死神「もちろんその影響は俺にも及んだよ『不出来な死神のガキ』ってな」
死神「凄く悔しかったんだ。何より親父の事を誇っていた分、悔しくて、悔しくて。『死神になんてなってたまるか!』って、親父が死んでからはそう思っていた。だから死神になる前は別の仕事をしてたんだ」
死神「でもさ、やっぱりレッテルのせいで居心地が悪いんだよ、その仕事先も。それでも死神だけにはなりたくないな、とか思ってたんだ」
死神「そんな時に、死神大王様っていう、死神のなかで一番偉い人なんだけど、そんな人に半ば強制的に死神の研修を受けさせられたんだ」
死神「最初の方はすっごく嫌だったんだ。だけどさ、前の仕事先とは決定的に違う事があったんだ」
死神「親父の事を悪く言う人は一人も居ないんだ。みんな『あの人は立派な死神だった』って」
死神「研修中の時ばっかりは俺も鼻が高かったよ。先輩の死神はみんな寄ってたかって親父の事を褒めるんだからさ」
死神「それで思い始めて、死神大王様に改めて誘われた時に決心したんだ『親父はただ仕事を全うできなかったんじゃない。だったら、どうしてその人間を死なせなかったのか確かめたい』ってな」
死神「だから、こうして死神になったってわけ」
女「そうだったんですか......」
死神「...女?」
女「」ギュッ
死神「なっ、なんだよ?」
女「死神さんは、絶対に立派な死神になってくださいね」
死神「え?」
女「私は、残された時間の中でやりたいことを見つけられるかどうかは、分からないけど...死神さんは、絶対にその目標を達成してください!」
死神「急に変なやつだな...」
死神「でも、あぁ、頑張ってみるわ」
女の家 夜
女「今日の晩御飯は天津飯がいいなぁ」
死神「お前、知ってるか?天津飯は一応中華料理だが発祥は日本なんだぜ」ドヤー
女「そうだったんですか、ってちょっ、そのドヤ顔ウザいんですけど...」
死神「いいだろうが、普段ガイコツだから表情を表しにくい分、色んな表情しときたいの」
女「でもガイコツのままでも、今まで割とどんな気持ちか分かりましたよ?」
死神「え、マジで?」
女「死神さん、分かりやすいから」
死神「無意識だったなぁ」
女「......死神さん」
死神「なんだ?」
女「死神さんって、天使の仲間内なんですよね?」
死神「まぁ、大きなくくりで見ればそうだけど?」
女「そうですよね...」
女「私、実はずっと昔からの未練があるんです」
死神「そうだったのか?どんな未練だ?」
女「死神さんに出会うまで、ずっとできないって思ってたけど、いや、もしかしたら死神さんにも無理かもしれないけど」
女「私、お父さんと、お母さんに会いたいです」
死神界
死神大王「それはちょっと難しいなぁ...」
死神「大王様、どうかお願いします。今のところ、あいつの解消してやれるかもしれない唯一の未練なんです!」
死神大王「いやね、私もその未練を解消してやりたいのは山々なんだけど、私の管轄じゃないからどうにも...」
死神大王「...だけど、一応掛け合ってみるよ」
死神「ホントですか!?」
死神大王「あぁ、かなり時間は限られるかもしれないけど、それでいいなら私も頑張ってみるよ」
死神「ありがとうございます!」
死神大王「ただし、君に一つ言っておかないといけない事がある」
死神大王「最近の君は彼女に思い入れが強すぎないかい?」
死神「......どうゆうことですか?」
死神大王「君が彼女の未練を解消してやってるのは何故だったかな?」
死神「...............!」
死神大王「その事をちゃんと考えておかないと、別れが辛くなるよ」
死神「...............」
死神大王「あと、数日で『その日』は来る、そのつもりの覚悟は持ってなさい」
四日目 女の部屋
「......がみさ~ん、......がみさ~ん」
「......しにがみさ~ん......死神さ~ん」
死神「おっっ」
女「大丈夫ですか?ぼーっとして」
死神「お、おう。万事OKだ」
女「ホントですか?今日なんだかずっとぼーっとしてません?」
死神「あ、あぁ。気をつけるよ」
女「......もしかして、昨日私が言ったことのせいですか?」
死神「え?」
女「あ、いやぁ、あのことなら気にしないでください!言うだけ言ってみようと思っただけですから」
死神「あ、あぁ......」
死神(......女と過ごすのも今日で四日目)
死神(あと三日で女は死ぬのか......)
死神(本人もそうだろうが、何より俺に全く実感がわかない)
死神(いや、昨日たしかに『私が死んでも』と、言っていた。だから女はちゃんと実感しているのか......)
死神(女が死んだら俺の初仕事は晴れて完了となる。だけど、嬉しさなんてこれっぽっちもない)
死神(もはや、複雑なんかでもないな......)
女「イケメンな死神さんは昨日でおしまいなんですか?」
死神「なんだよぉ、ガイコツじゃ不満か?」
女「いえ、そんなことはないです。イケメンな死神さんも、ガイコツの死神さんも私は大好きですよ?」
死神「ちょっ、おまっ!恥ずかし気もなくよくそんな...///」
女「えっ、き、昨日死神さんも言ったじゃないですかぁ...///」
(......がみく~ん、.......てる~)
死神「......えっ、女なんか言った?」
女「何も言ってませんよ?死神さんホントに大丈夫ですか?今日は帰った方が...」
死神「そんな訳にいくか、死神はいかなる理由でも仕事早退したら極刑になるんだよ」
(ぉーぃ......がみく~ん.......)
死神「あれ、さっきから声が頭のなかで...なんでだろ、聞き覚えのある声が......」
(しにがみく~ん、聞こえてるか~い?)
死神「この声は......大王様!?なんで?」
女「だ、大丈夫ですか!?」
死神「お前には聞こえてないの?」
女「何を言ってるんです?」
死神大王(......やっと繋がったね、死神くん。ちゃんと聞こえてるよね?)
死神「はい、聞こえてます」
死神大王(よかった、死神界から人間界はやっぱり繋がるのに時間がかかるなぁ)
女「え、誰かと話してるんですか?」
死神「あぁ、テレパシーみたいなもんだ。今、昨日言ってた死神大王様と話してる」
死神「どうしたんですか、大王様?」
死神大王(いやね、昨日、君が言ってた件なんだけど、その件の管轄の人に掛け合ってみたら10分だけ人間界に下ろしてくれるって!)
死神「ホントですかっ!?」
死神大王(ホントホント!私けっこう頑張ったんだから)
女「な、何があったんですか?」
死神「ありがとうございます!」
死神大王(もうすぐに下ろすから女さんにもちゃんと説明してあげて)
死神「わかりましたっ!」
死神「女っ!今からお前の両親がここにくるぞ!」
女「えっ!えぇっ!?ど、どどどどうゆうことですか!?」
死神「言ったまんまの意味だ。ただ訳あってここには10分しかいられない。だから大事に使うんだぞ!」
女「えっちょっと待って待って......」
ヒュウウウウン!
女「眩しっ......」
死神「くっ......ん?人影が...」
女「え.......?」
ボヤ~
女「おとう...さん...?おかあ...さん...?」
女父「女......?」
女「あっ...嘘...」
女「これ...夢だよね...?」
死神「いや、夢なんかじゃない。正真正銘お前の両親だ。ほらっ10分しかないんだから有意義に使え」
女母「女...!」
女「お父さん、お母さん!」ダキッ
女父「お前、大きくなったな、しかも母さんに似てこんなに美人に......」
女母「お父さんったら...でも本当に....綺麗になったわね、女...」
女「うっ.....ぐぇっ....グスッ....うぇぇぇぇぇぇぇん!!」
女は最初の方こそ泣いていたので上手く喋ることができなかったが、直に喋れるようになっていった
女父「すまなかった、まだ幼いお前を置いて行くような形で私たちが逝ってしまって...」
女母「苦労したでしょう...」
女「苦労はしたし、寂しかった...」グスン
女母「それでも、ここまでよく立派に大きく育ったわね」
女父「あぁ、母さんの言う通りだ。ありがとう、女。」
女父「......そういえば、お前はまだ漫画家になる夢は諦めていないのか?」
女「...............っ!」
女母「女は昔から絵を描くのが得意だったわよねぇ」
女「......ごめんなさい」
女父「なんで謝るんだ?謝っても謝り切れないのはこっちなのに......」
女母「そうよ、あなたが謝る必要なんかない。夢は叶わないことだってあるのよ...?あなたは一生懸命頑張ったはず。だから、謝る必要なんて......」
女「お母さん...違うの...!」
女「私っ.....病気で......!」
死神「ここからの説明は俺が......」
死神は女の両親に女が今おかれている状況を、女とその両親に与えられている限られた時間をできるだけ邪魔しないよう、最小限に説明した。
女父「そんな、ばかな...女の命があと2日しかないなんて...」
女「ごめんなさい...お父さんと....お母さんにせっかく.....産んで....もらったのに....私っ....私っ......!」
女母「大丈夫よ」
女父「母さん......?」
女母「女...今まで辛かったね...」
女「*ん...」
女母「女はもう19歳になったのね、でもまだ19...19歳なのに......早すぎるわね」
女「*ん...」
女母「女、よく聞きなさい。あなたに残された時間は、ほんっとに少ない」
女母「私たちは、今日、この時まであなたを置いてきてしまったという未練があったの。だけど、あなたは私たち無しでもこんなに大きくなった」
女母「あなたには、あの世で受けた、私たちみたいな思いは絶対にさせたくない。だから未練なんて絶対に残しちゃダメ」
女母「残された時間を、全力で生きなさい!」
女「*んっ......!」
女父「そろそろ時間のようだ...いいところを母さんに持っていかれたが、私も伝えたい気持ちは同じだ。女、未練のないよう全力で生きてくれ......!」
女父「死神さん、どうか娘をよろしくお願いします」
死神「もちろんです...任せてください」
女母「それじゃあね、女。あの世で待ってる」
女母「そうゆうわけにもいかないのかもしれないけど、こっちに来るのはもっと後でいいのよ」
女「うん、ありがとう!お父さん、お母さん」
女「......さようなら」
ヒュウウウウン......
死神「...あっという間、だったな」
女「」ヒグッエグッ
死神「......今日のお前は泣き虫だなぁ、しゃあねぇ、ほら、泣け、泣け!俺の胸で泣けー」
女「」ガシッ
死神「」ナデナデ
女「うっ......うぇええええん!うぇぇええええぇん!」
女「うわぁぁああああぁぁぁん」
五日目 早朝 女の部屋
女「ねぇ、死神さん」
死神「なんだ?」
女「今日はいい天気ですよね」
死神「そうだな、ここ最近ずっとそうだ」
女「ねぇ、死神さん」
死神「なんだよ」
女「今日、私を連れて何処かに行ってくれませんか?」
死神「え!?」
女「な、なんですか?」
死神「いや、女から誘って来るなんて思わなくてさ...別にいいんだけど...」
死神「急にどうしたんだ?」
女「うーん、なんていうか...なんとなく、です」
死神「そ、そうか。えらく急だが、まぁいいか!でも、めちゃくちゃハードスケジュールになるけどいいか?」
女「はい!」
※
死神「と、いうわけで水族館に来たわけだが」
女「まさかすぐさま出発するとは思ってませんでした...平日ってのもあるし、まだまだガラガラですよ?」
死神「別にいいんだよ、ほらっ、イルカショー見に行くぞ!」
※
女「やっぱりガラガラですね」
死神「まぁ、その方が見やすくていいんじゃないか?」
ザパァーン!!
インストラクター「こんな風に、イルカに指示を与えたい人は手を挙げてくださーい!」
死神「え、俺もいいんですか!?やった!」
女「ちょっと、死神さん。恥ずかしいですよぉ...」
死神「いいじゃねぇか!こんなことできるの、滅多に無いって!」
女「もう...」
インストラクター「まずは私の動きを真似してくださいね、1、2の3!」
ザパァーン!!!!
死神「おぉぉぉぉ!!」
女「大迫力ですね...!」
インストラクター「じゃあ、次はお二人でやってくださいね、さんはい!」
死神・女「1、2の3!」
ザパァーン!!!!
死神「おおおおお!!」
女「ちょっとこれ楽しいかも!」
死神「すげぇ!俺の指示でイルカがジャンプした!ハハハハッ!」
※
女「次は動物園ですか」
死神「そうだ、さぁ時間もないから早速ふれあいコーナーに行くぞ!」
女「あー、モルモットだ。カワイイー」
死神「おー!これはカワイイな」
飼育員「抱いてもいいですよ」
死神「本当ですか!?」
ダキ
死神「お、おぉ...これは、温かくて、気持ちいいな...うーん、なんて可愛さなんだ...」
女「」カキカキ
死神「あ、お前なに書いてるんだ?」
女「死神さんのうっとり顏、ちゃんと収めさせて頂きました」
死神「うわっ、ちょっやめろよ...///」
※
死神「次は遊園地だ!」
女「まず、どれから乗ります?」
死神「観覧車だろ」
女「いきなりですか!?流石にそれはないですよ」
死神「そうか?じゃあ、メリーゴーランドでどうだ?」
女「それもいいですけど、ちょっとここからじゃ遠くないですか?ここから近いのだと、ジェットコー......」
死神「ゴーカートに乗ろうぜ!ここから一番近いし」
女「それもそうですね、ゴーカート行きましょう!」
※
女「次はどれに行きます?やっぱりジェットコ......」
死神「お化け屋敷に行かないか!?ちょっと離れてるけど今日なんか暑いしさ、ちょっと肝を冷やしに行こうぜ!」
女「えー、私ちょっと怖い系は苦手なんですけど......わかりました、行きましょう」
※
死神「いやぁ、なかなか怖かったな......」
女「本当ですよ!やっぱり入るんじゃなかった......」
死神「お前ビビりまくってたもんな」ハハハ
女「怖い系は苦手って言ったじゃないですかぁ......なんか、死神さんっぽいのもいっぱいいたし......」
死神「それはどうゆう意味だ!?俺と初めて会ったときは全然ビックリしてなかったじゃねぇか」
女「とにかく怖かったんです......」
女「ねぇ、そろそろジェット......」
死神「なんだか、お腹が減ってきたなぁ!そろそろお昼にしないか!?」
女「...............」ジトー
死神「な、なんだよ?」
女「死神さん、さっきから私がジェットコースターに乗ろうって言おうとしてるの、わざと遮ってません?」
死神「えっ!?そ、そんなことねぇよ」
女「そうなんですか~?じゃあ、今から乗りに行きません?私、そこまでお腹空いてないし」
死神「いやいやいやいや!ここからだと遠いからさ!絶対お腹空くって!」
女「死神さん」
死神「なんだよ」
女「もしかして、絶叫系苦手ですか?」
死神「.............................................」
女「どうなんですか?」
死神「少し、だけ......」
女「少しだけなんだ......少しだけなら大丈夫ですよね!行きましょう!」
死神「ちょっ、手引っ張るのやめて!い、嫌だ!行きたくない!」
女「行かないんですか......?」
死神「え......?」
女「私、ここでジェットコースターに乗れなかったら、未練残っちゃうなぁ......」
死神「え!?」
女「はぁ、死神さんとジェットコースター乗りたかったなぁ......」
死神「.............................................」
ジェットコースター
カッタンカッタンカッタンカッタン
女「い、いよいよですね......」
死神「」
女「死神さん?」
死神「あ、あぁ!だっ、大丈夫!万事OKだっ!」
女「本当ですか?声震えてますよ?」
死神「だっだだだだだ大丈夫に決まってんだ.....んガッッッ」
女「きゃああああああああああ!!!」
死神「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
※
女「ハァ...ハァ...死神さん、楽しかったですね!」
死神「どっ、どこがだよ......!」
女「えぇー、なんか、こう......爽快!!って感じがしません?」
死神「恐怖でしかねぇよ......」
女「そうですか......じゃあ、次はあれ乗りません?」
死神「あれって.....んんんっっ!?!?スカイフォール!?!?また絶叫系!?!?」
女「そうです、ただ落ちるだけの」
死神「ただ落ちるだけじゃねぇよ!死ぬわ!」
女「死神さんがそれ言っちゃダメでしょ......それに、アトラクションは安全に作られてるんですから大丈夫ですよ」
死神「いっ、嫌だ!あれだけは嫌だ!」
女「えー」
死神「」ガクガクガクガク
女「私、死神さんと乗りたかったなぁ」
死神「!?」
女「こんなところで未練が残っちゃうなんて......なんだかなぁ......」
死神「」
※
スカイフォール
女「死神さん!だんだん高くなってきましたよ!」
死神「.............................................」
女「これは結構高いですね、私もちょっと怖いかも!」
死神「.............................................」
女「死神さん?」
死神「手っ、手握っていい?」
女「えっ、え!?あ、それは、その......」
死神「頼む...きょっ、きょきょきょ恐怖でどうにかなっちまいそうなんだよぉ......」
女「いっ、いいですよ?仕方ないですね......///」
死神「あっ、ありがとう......」ギュッ!!
カタンッッ
女「あ、止まりましたね......」
死神「あっ、あうあうあうあわわわ......!」
ヒュウウウウウウウウンンン
女「きゃああああああああああ!!」
死神「」
※
女「いっ、一瞬でしたね!ちょっと怖かったけど、すごく気持ちよかったぁ!!ね、死神さん!」
死神「」カクカクカクカクカクカクカクカク
女「死神さん!?!?」
女「大丈夫ですか!?死神さん!?」
死神「う、うううううううんん、ちょっちょちょちょちょっと休憩が必要でございますすす」
※
女「」アッハッハッハ! バンバン!
死神「いっ、いつまで笑ってんだよ......」カァ...
女「だって、だって、死神さんがっ......ぷっ......!」
死神「だから絶叫系は苦手なんだよ......」
女「さっきので最後にしますから、ね?」
死神「あぁ、それで頼む......」
女「じゃあ、そろそろ観覧車に行きましょうか」
※
観覧車
女「死神さんって、高所恐怖症ってわけじゃないんですね」
死神「あぁ、そうだな。絶叫系が苦手なだけであって高いところは案外いけるな」
女「.............................................」
死神「.............................................」
女「なっ、なんか話してくださいよ......」
死神「えぇ!?そんなこと、急に言われても......ん?お前、そういえばさっきから、なんか震えてないか?」
女「え!?」
死神「女って、もしかして閉所恐怖症?」
女「ちっ、違いますよ!これは、その......緊張、してるんです......」
死神「なんで?」
女「いや、その......わかんないです」
死神「ふーん」
女「.............................................」
死神「.............................................」
女「......こんな風に2人で出かけてたりすると、なんだかデートっぽいですよね」
死神「え!?」
女「!?」
死神「いや、悪い......///」
女「だっ、大丈夫です.......私、急に何言ってるんだろう......///」
死神「あ、あぁ......///」
※
帰り道
死神「.............................................」
女「.............................................」
死神(女が変なこと言うから観覧車降りて、遊園地を出てから、なんだか凄く気まずい......)
死神(どうしたものか......?)
女「.............................................」
死神「.............................................」
女「死神さん」
死神「なんだ?」
女「私の命って、本当に2日で終わってしまうんですか?」
死神「え......?」
女「なんていうか、実感がないんです」
女「なんだか、この一週間が終わっても、こうして死神さんと色んなところに行っていられるような、そんな気がするんです」
死神「.............................................」
女「でも、やっぱり私は死ぬんですよね......じゃなかったら、死神さんとも出会えてないんだから......」
女「私、昨日からお父さんと、お母さんに『全力で生きなさい』って言われたこと、ずっと考えてたんです」
女「そうしたら、私、一つだけやりたいことができたんです......」
死神「聞かせてくれないか?」
女「私、漫画を書きたいです」
六日目 女の部屋
死神(俺たちは、昨日、遊園地から女の家に帰宅してからずっと漫画を書いている)
死神(女はどうやら、女の両親から言われた『全力で生きなさい』というのを漫画を書くことで達成しようとしているようだ)
死神(病気をしたがために諦めざるを得なくなった夢だったから、俺も漫画を描くことに乗ったが、とにかく時間と人手が足りない)
死神(俺は今はガイコツモードなので、24時間ぶっ通しで作業ができるし、ある程度こなせるが素人に違いはない。一方女の方も24時間ぶっ通しで描く覚悟はあったのだろうが、しばらくフラフラしていたので、先ほど仮眠をとらせた)
死神(女をそろそろ起こす時間だ)
死神「おい、起きろ」
女「はぅわぁっ!餃子がっ!」ガバッ
死神「何寝ぼけてんだ、餃子パーティーは今晩だろ?」
女「は、そうだった」
死神「大丈夫か?さっきからずっとそんな調子...」
女「大丈夫です!続けましょう!」
死神(女は肉体的にそろそろ限界のようだ。だが、その肉体にムチを打ってなんとか精神で持ちこたえている)
死神(俺も女に応えないと......)
※
女の部屋 夜
死神(女は本日三度目の仮眠をとっている)
死神(そういえば外出許可が出ているのは今日までだった)
死神(本来なら、今日、病院に帰らなければならないのだが、今はそれどころじゃない)
死神(だが、女が非業の死を遂げるのは、女が居たあの病室と決まっている。なので、明日には女を病室に連れていかなければならない)
死神(と、頭では分かっているのだが、女は明日、本当に死ぬのだろうか?)
死神(資料として、女が死ぬ時の前触れなども把握しているが、それを見たとしても女が死ぬことは信じられないだろう)
死神(...............)
死神(もうすぐ、餃子が焼きあがる)
死神「おい、女」
女「はぅわぁ!酢豚がっ」ガバッ
死神「お前、酢豚は昨日食っただろうが」
女「あっ、そうでした」
死神「今晩は餃子パーティーだろ?ほら、できてるぞ」
女「うわぁ、餃子がいっぱい!いただきます」
死神「これ食ったら作業再開するぞ?いただきます」
死神(普通、明日死ぬことがわかっていて、人間はこんなにも食欲全開になれるものなのだろうか?)
死神(女のこんな様子を見ていると、とてもあと1日で死ぬなんて、信じられない)
死神「...............」
女「........どうしたんですか?死神さん」
死神「え?」
女「いや、さっきからずっと黙ってるから......」
死神「いや、なんでもないよ」
女「なにか、考え事ですか?」
死神「なんでもいいだろ?ほらっ、さっさとご飯を食べる!」
女「あっ死神さん誤魔化さないでくださいよぉ」
死神「」ハッハッハッ
死神(......お前はそんなことを気にしなくていい)
死神(お前はその時までただ全力で生きるんだ)
女の部屋 深夜
女「死神さん、アイス買いに行きましょ、アイス」
死神「お前、今の状況分かってんのか?俺たちはそんなことをしてる暇もないくらい時間がないんだぞ?」
女「分かってますけど、今私はどうっっっしてもアイスが食べたいんです」
死神「はぁ?」
女「これも未練ですよ、未練。私、アイスで悪霊なんかになりたくない...」
死神「......わかったよ。ちょっと待ってろ」ハァ
ヒュンッ
女「あっ死神さんが消えっ...」
ヒュッ
死神「ただいま」
女「あ、イケメンな死神さんだ」
死神「この身体になるには一旦、天界に戻らないといけないんだよ」
女「そうだったんですか~」
死神「あぁ、じゃあアイス買いに行くか」
コンビニからの帰り道
女「そういえば、死神さんと初めて買い物に行った日のことなんですけど」
女「死神さん、今は私以外の人にも見える身体だから大丈夫だけど、あの日はガイコツだったじゃないですか」
女「今と同じようにビニール袋持ってましたよね?それってまずくないですか?」
死神「なんで?」
女「なんでって、ガイコツの時の死神さんって私以外の人には見えないんでしょ?そうだったら、私以外の人からしたらビニール袋が浮いてるように見えるんじゃないかって思って」
死神「あぁ、それなら大丈夫だよ。俺がガイコツの姿で物に触れると、その物はお前以外の人間からみると、ガイコツの俺と同じように見えなくなるんだ」
死神「その辺は上手くできてるんだよ」
女「へぇ~そうなんですか」
死神「.............................................」
女「.............................................」
女「死神さん」
死神「なんだ?」
女「漫画描くの、やめません?」
死神「......は?」
女「すみません、勝手なこと言って...」
死神「いやっ...ちょっと待てよ!お前、自分の親と約束したこと忘れたのかよ!」
女「違うんです、死神さん。私...」
死神「何が違うんだよ!その時が来るまで全力で生きるんだろ!?どうして...どうしてそんなこと言うんだよ...」
女「......死神さん、聞いてください。私.....ハァハァ...」
死神「おい、女...?」
女「......ハァハァ......ハァハァ」バタッ
死神「おい!?」
死神(女は苦しそうに胸を押さえ、息を荒げて倒れこんだ)
おっさん「どうしたっ!?大丈夫か!?何があった!?」
死神「わかんねぇよ!喋ってる途中に急に倒れ込んで...」
おっさん「とにかく救急車を呼ぼう!」
死神「ダメだ!そんな事をしたらあの病室に...俺たちはそんなところに行ってる暇なんて...!」
おっさん「何を言ってるんだ!?お前はこの娘の彼氏だろ!?彼氏ならこの娘の命を何よりも優先しろ!」
死神(俺はこの時、女が言った事と、急に息を荒げて倒れこんだのを見て、正常な判断ができなかったんだ)
ピーポーピーポー
おっさん「ほら救急車が来たぞ。お前はこの娘に付き添うんだ」
死神(でも、俺は、この時まで実感すらもなかった事なのに、例の事が急に確信へと変わったんだ)
死神(女は、確実に死へと近づいていっている事を)
七日目 女の病室 朝
死神(女は、昨日、この病院に搬送されたが、今は落ち着いて眠っている)
死神(女は今日、病室で死ぬ。だから、今日の今頃に連れて来ればよかったはずだ)
死神(だが、何故か女は昨日、突然の発作で強制的にここへ連れてこられた)
死神(俺には分かる、あれは偶然なんかじゃない。昨日、救急車でここへ連れて来られたのは、女の死へと結果が収束していっているということだ)
死神(少し...早すぎる...)
コンコン、ガラガラガラ
ナース「君が女さんの彼氏さん、かな?」
死神(昨日のおっさんもそう言っていたな、まぁそうゆうことにしておこう)
ナース「一体、何を考えているの?」
死神「......すみません」
ナース「はぁ...彼女の状態、ちゃんとわかってたんでしょ?だったら、どうしてこんな事したの?」
死神「女と俺には、どうしてもやり遂げないといけないことがあって...」
ナース「それでも、彼女の命の方が大切でしょ?」
死神「はい」
ナース「女さんが大事なら、何を一番優先すべきか、ちゃんと考えなさい。じゃあ私は行くから、女さんが起きたら知らせにきてくれる?」
死神「わかりました」
死神(女は今日、死ぬことが確定している。だから、昨日の発作を、そのままほったらかしにしていても、その場で死ぬことはなかっただろう)
死神(だが、女をちゃんと外出許可が出ているうちに返しておけば、突然の発作と言う形でここに強制的に連れて来られることはなく、無駄に女を苦しませることもなかった)
死神(......俺の責任だ)
女「死神さん...?」
死神「あぁ、起きたのか。ナースさん呼んでくるからちょっと待ってな」
死神(女が目覚めたところで、俺は改めてだが、女とまとめて看護師さんにこっぴどく叱られた)
死神(叱られた後、昨日、女に発作のせいで聞けなかったことを聞いた)
死神「なぁ、昨日言ってたことだけど...」
死神「本気なのか?」
女「...はい」
死神「どうしてだ?お前、両親と約束したろ」
女「...............」
女「...私はお父さんと、お母さんと『全力で生きる』ことを約束したんですけど」
女「実はあの漫画、今日出来上がる見込みはほとんどなかったんです」
死神「それでも...」
女「......私、思えば死神さんと過ごしたこの七日間、すごく楽しかったんです」
女「病気になってやりたいことを見失ってて、死神さんと過ごして、結局見つけたのは漫画を描くことだけだったけど、それでも充実した七日間でした」
死神「でも、せっかく見つけたのに、なんでやめようと思ったんだ?」
女「...実は、私はもうこの七日間を全力で生きてたんですよね」
女「死神さんと色んなことを喋って、死神さんと色んな所に行って、死神さんと色んなことをして...そうしているうちに、なんだか満たされちゃいました」
女「だから、私はもうこの世に未練はないんです」
死神「女...」
女「漫画を描きたいって気持ちは正直、あります。だけど、最期の瞬間まであたふたするより、死神さんとお喋りしながらその時を迎えたかったんです」
女「...私のわがままに、死神さんを付き合わせちゃって、ごめんなさい」
女「こんな私ですけど、最期まで付き合ってくれますか?」
死神「...............」
死神(...俺はこの時、なんて答えればよかったのだろうか)
死神(いや、答えなんて決まっている。だけど、俺から出た言葉は...)
死神「...馬鹿野郎が」
死神(俺は女の病室を出た。昨日、確信に変わった『女が死ぬ』という事実のせいで、昨日から俺は女が死ぬのが怖くて怖くて仕方なくなってしまっていた)
死神(俺は女から、逃げてしまったんだ)
「...彼氏くん?」
死神「...あ、ナースさん」
ナース「ちょっといいかな?」
ナース「女さんの身体のことについてはどれくらい知ってる?」
死神「全部...知ってます。先が長くないことも、全部」
ナース「そっか」
ナース「じゃあ、女さんにドナーが見つかれば助かることも知ってる?」
死神「...え?」
ナース「...この事は知らなかったみたいね」
ナース「彼女ね、心臓の病気で五年間くらい入院してるんだけど、ドナーが見つかれば助かるって事を入院したての頃から知ってるの」
ナース「最初の頃の女さんは、『ドナーさえ見つかれば助かるんだ』って希望を持ってたんだけど...そう簡単に見つかるもんじゃないのよね」
ナース「そんなこんなで、五年たって、いつまでたってもドナーは見つからないし、遂に余命まで宣告されたの」
ナース「その五年の間に、ご両親が亡くなったっていうのもあるのかもしれないけど、女さんは何事にも無気力になってしまった」
死神「...そうだったんですか」
死神「女の余命は...?」
ナース「女さんに直接聞いたほうが...」
死神「お願いします」
ナース「......半年よ」
死神「......短いですね」
ナース「そうね」
ナース「私ね、あなたに聞きたい事があるの」
ナース「あなた、女さんといつから付き合ってるの?」
ナース「......え?」
ナース「いや、今まで一度もお見舞いに来てるの見たことないからさ」
死神「そう...ですね、つい一週間前です(本当は違うけど)」
ナース「外出許可が出た日ね。女さん、最初は乗り気じゃなかったんだけど、後で『やっぱり...』って言い出したの。もしかして、君と関係があったりするのかな?」
死神「さぁ、それは本人に聞いてみないと分からないです」
ナース「ふ~ん、あっそう。まぁ、いいや!私は仕事に戻るけど、あなたは早く女さんの病室にもどってあげな」
死神「...わかりました」
ガラガラガラ
死神「女」
女「わっ死神さん、あれ?イケメンさんじゃなくなってますね...」
死神「ちょっと聞いてくれよ、この前さぁ......」
死神(俺たちは、心底どうでもいい他愛もない話から、割と真剣な話まで色んな事を話した)
死神(それは女が望んだからというわけではなく、俺が望んだからだ)
死神(俺は女に、最初から最期まで押し付けがましかったような気がする)
死神(こんな自己中な俺だけど、許してくれるか...?)
死神「......ワン◯ースって漫画に、喋るガイコツいるじゃん?なんであいつ骨だけなのに動いてんの?」
女「いや、それは死神さんが言っちゃダメでしょ」
死神「だいたいさ、ガイコツって骨じゃん?固形物じゃん?なのに、なんであいつあんなに表情豊かなの!?気に食わないんだけど!」
女「死神さんは表情が豊かってわけじゃないですけど、感情表現は得意ですよね?」
死神「そう?」
女「そうですよ。表情分からないのに死神さんってわかりやすいんですから、きっと得意なんですよ」
死神「自覚はないんだけどなぁ」
コンコン ガラガラガラ
新人「女さん、初めまして~看護師さんに代わりまして、今日は私がお昼ご飯を持ってきました」
女「ありがとうございます。あ、今日のごはんは美味しそうですね」
新人「そうでしょって...わっ!」ガシャン!!!
死神「...............!!!」
新人「あああ、引っくり返しちゃった!すみません。すぐ持ってきます」
死神「...............」
ガラガラガラ
女「なんだか、いつもの看護師さんと違って可愛らしい方でしたね」
女「いつもの方は頼れるお姉さんって感じだけど、なんだかさっきの方はさっきの方で...」
死神「.............................................」
女「.............................................」
死神「.............................................」
女「.............................................」
女「......もうすぐ......なんですね、死神さん」
死神「えっ?」
女「さっきも言ったじゃないですか、死神さんってわかりやすいんですよ。そんなんじゃ、これから先、苦労しますよ?」
死神「そんなこと...」
死神「...............」
女「死神さん、ちょっと私と仲良くしすぎたんじゃないですか?」
死神「は?......なんで、そんなこと言うんだよ...」
女「だって、お別れする時が辛いじゃないですか」
死神「...............っ!」
女「私、今とても辛いです...」
女「ちゃんと...反省、してくださいね?じゃなかったら、私の次の人が可哀想です」
死神「女......」
女「...あっ、ごめんなさい!私、泣かないって決めてたのに......」グスッ
女「ごめんなさい。私、やっぱり死神さんとお別れするのがっ...辛くってっ...」グスン
死神「お前って結構泣き虫なんだな」
女「え......?そう、ですね」
死神「俺も...すごく辛いよ」
死神「俺、やっぱりこの仕事むいてないかもしれないな......こんなにも辛い気持ちになるなら、やらなきゃよかったって、少しだけ、思ってる」
女「でも、少しだけ、なんですね」
死神「あぁ、お前と約束したからな。立派な死神になるって」
女「そうですよ、私、死神さんが立派な死神になれなかったら、未練がましい悪霊になっちゃうかもしれませんよ?」
死神「俺のせいで悪霊になるのか?そりゃ、頑張らないとな......」
女「...............」
死神「...............」
女「死神さん、七日間、本当に、本っっっ当にありがとうございました。死神さんのおかげで、私は未練なく死ねます...物凄く、楽しかったです」
死神「いや、この七日間を全力で生きたのは、俺でも、誰でもない、お前なんだから。俺なんかのおかげじゃない」
死神「...でも、俺も凄く楽しかった」
死神「ありがとう、女」
女「......それはよかったです」
女「私、来世はちゃんと健康な女の子に生まれてくるかな」
死神「当たり前だ!お前は天使に生まれ変わってもいいぐらい良い娘だ、健康そのものに決まってんだろ...」
女「よかったぁ...」
死神「..............」
女「..............」
女「」ウッ グスッ エグッ...
死神「お、おい。どうした、女?」
女「な、なんでもないですから...」エグッ ヒグッ
死神「いいから...大丈夫だから、言ってみろ」
女「ごめんなさい......」グスッ
女「ごめんなさい、死神さん...」
女「...なんだか、私、ものすごくこの世にやり残してるものがある気がしてきました」
死神「...............」
女「今更、本当に未練がましいですよね......でも私、まだ死にたくない...死神さんともっと色んな事を話して、もっと色んな所に行って、もっと色んな事をしたい...!」
死神「............」
女「...ごめんなさい、死神さん...私、こんなこと言っても、死神さんの迷惑になるだけだってわかってるのに...どうしても伝えたいことがあるんです...」
死神「あぁ、ちゃんと聞くから、言ってくれ...」
女「いいですか......?」
死神「もちろん」
女「...............」
死神「...............」
女「死神さん、私、死神さんのことが...好きです」
死神「.....................!」
死神「...............」
女「......私さっきは、あんな風に言いましたけど、なんだか、これを伝えただけでも凄くスッキリしました」
女「聞いてくれて、ありがとう」
コンコン ガラガラガラ
新人「すみませ~ん、お待たせしました~。ちょっと色々手こずって遅くなっちゃいましたって...あれ?」
新人「女さん?」
数刻前
女「これを伝えただけでも凄くスッキリしました」
女「聞いてくれて、ありがとう」
死神「..............」
女「......死神さん?」
死神「......自分だけ...スッキリしてんじゃねぇよ」
女「え?」
死神「え?じゃねぇ。行くぞ」
女「行くって、死神さん、何考えてるんですか?」
死神「...............」
女「あっやだっ、ちょっと、死神さん降ろしてください!」
死神は女を抱えて、病院の屋上へと向かった
現在
女「嫌だ、死神さん!降ろして!」
死神は女の言うことを無視し続け、病院の屋上から、家屋の屋根に飛び移った
死神は家屋の屋根に次々と飛び移る
女「嫌だっ、私を早く病室に戻してください!」ジタバタ
女「お願いだから、死神さん!こんなの、嫌ですっ!」
死神「黙ってろ!」
女「でもっ......!」
死神「.....................」
女「だって、このままだと死神さんが...」
女「死んじゃうよぉ!!」
女「...お願いだから...戻って...!」
※
女の部屋
女「どうして、こんなことするんですか...?」
死神「..................」
女「死神さん、戻りましょっ。まだ間に合いますから、ね...?」
死神「...いや、これでいいんだ」
女「良くない!ちっとも良くないよ!!どうして、死神さんが死ぬ必要があるんですか!?」
女「立派な死神になるって...約束したじゃないですか...」
女「こんなの...あんまりですよ...」
死神「俺さ、バカだからさ...」
女「知ってます」
死神「最後まで聞けよ...」
死神「俺お前に『好きだ』って言われて初めて気付いたんだ」
死神「俺も、お前のことが好きだ...」
女「.........!」
死神「俺、実はお前のことすっごく暗い娘だと思ってたんだってのは言ったよな?」
女「......はい」
死神「実際会ってみたら、女は全然そんな娘じゃなくて。とっても明るくて、魅力的な娘だった」
死神「俺さ、ちょっと押し付けがましい所あるだろ?そのくせ、ピクニックとか街とか、色々連れ出した時、お前が無理してるんじゃないかって気が気で仕方なかったんだ」
死神「だけど、お前はいつでも、どんなとこでも楽しんでくれて、俺が話すことにも笑ってくれて、気づいたらお前に惹かれてたんだ」
死神「......気づかせてくれて、ありがとう」
女「......死神さん」
死神「......女、よく聞け。俺がお前の非業の死を回避したことによって、お前の寿命は、半年は延長されたはずだ」
死神「それでも、一週間より長いだろ?この短い七日間であれだけのことができたんだ。次は非業の死ってわけじゃないから、身体がその時まで元気でいられる保証はないけど、半年あれば、なんだってできる」
女「......でもっ、死神さんがいなきゃ、意味ないよ!」
女「そもそも、私が最後にあんな事言わなかったらこんな事にはなってなかったのに.......」
女「死神さんが死んだら、私はずっと後悔し続ける......」
死神「そのことは心配するな」
女「......どうゆうことですか?」
死神「俺の親父の話はしたろ?俺の親父が非業の死を回避した人間は、なんとお前の病院のナースさんだったんだ」
女「...そうだったんですか」
死神「だけど、ナースさんはお前の口から『死神』って単語が出た時、特にこれといった反応がなかっただろ?」
女「確かに...」
死神「調べてみたところ、非業の死を回避した人間は一ヶ月ほどで死神に関する記憶がなくなるそうだ」
女「そんなっ.......」
女「そんなの、ないよ!」
女「死神さんとの思い出や、死神さんのことを好きな気持ちも全部忘れるなんて、嫌だよ!!」
死神「...それでもお前は今日、死ぬことはない」
死神「確かに、俺の選んだ道は、お前にとっては残酷なことかもしれない」
死神「だけど、それでも、俺はお前に生きていて欲しいんだ」
女「そんなの、自己中過ぎるよ!死神さんが死んだら、私も一緒に...」
死神「それは駄目だ!」
女「............!」
死神「お前、親御さんと約束したことを忘れたのか?『全力で生きる』んだろ!?」
死神「そんなこと言うんじゃない...」
女「...............」ポロポロ
死神「...ごめん、自己中なことを言ってるのはわかってる」
死神「けど、俺と出会う前のお前は、この世に未練なんて、なんにもないやつだったろ?だけど、今は違う」
死神「これからは色んなものを見て、感じて、色んな人に出会って、たくさんのことを学べ」
女「それでも、死神さんが居なきゃ...」
死神「俺もできれば、お前のそばにいてやりたいんだけどな...」
女「...嫌でずっ、これでお別れなんて絶対に嫌だよぉ!死神さん!」
死神「......一つ、最後に言いたいことがあるんだ」
女「...え?」
死神「...俺さ、思ってたことがあるんだ。どうして、人間の非業の死は絶対起こるって決まってるのに、死神だけが、自分の命を犠牲にして回避できるのか」
死神「...それは、死神が自分の命に代えても護りたい命ができた時のためなんだよ」
死神「俺がなんで死神になったか、話したよな?」
死神「俺、やっとわかったよ」
死神「親父は、こんなにも誇らしい気持ちで死んだんだな」
死神「...女、教えてくれてありがとう」
女「死神さん......」ヒグッ エグッ
死神「お前ホント泣き虫だな!ほら、俺の胸で泣けー」
女「うぇぇぇぇぇええん!やだよぉ、死神さんとお別れするなんて、やだよぉ!」
死神「...ごめんな」
女「」ヒグッ エグッ
死神「.............................」ナデナデ
女「.............................」グスッ
女「死神さん...」
死神「......なんだ?」
女「..............」
チュッ
死神「......なっ!!」
女「私の....ファーストキス...です」グスッ
死神「はっ、はっはっは!こりゃとんだ不意打ちを食らったな」
死神「いい、冥土の土産になるよ」
女「......死神さん」
死神「...そろそろ...時間だ」
死神「ありがとう......」
そして死神さんは、灰になって
死んだ。
10年後
アシ1「先生、アニメ化おめでとうございます」
アシ2「おめでとうございます!」
女「ありがとうー!」
アシ2「いやぁ、ホントおめでたいですよ!」
アシ1「僕、この作品に参加できて、光栄です!」
女「そんな大げさな...でも私も、この作品はすっごく大事な作品だったから、ホント嬉しい」
アシ1「もしかして、モデルとかいたりするんですか?」
女「...実は、このヒロインのモデル、私なの」
アシ2「そうだったんですか!?」
女「そうなの、この娘は死んじゃうけど、私はこの娘とだいたい同じくらいの時に奇跡的にドナーが見つかってね」
アシ1「...昔から色々苦労なさってたんですねぇ」
アシ2「この死神のモデルは?」
女「あぁ、それは......誰だったかな?」
アシ2「え~思い出せないんですか?」
女「いやね、確かに昔居た人だと思うんだけど、思い出せないんだよね...」
女「私ね、19の時なんだけど、七日間だけぽっかり記憶が抜けてるのよね。それで、気付けばこの漫画の元となるものが家に置いてあったの」
女「描いたのは確かに私なんだけど、私だけじゃなかったような気がするのよね」
女「その人が、確かこの、死神みたいな感じの人だったような気がするの」
アシ1「なんだか、ホラーですね」
女「ううん、みたいな感じって言ったけど、もしかしたら、この死神まんまの、見た目は怖いけど、すごく優しい人だったかも」
アシ2「先生...」
女「ん?どしたの?」
アシ2「いや、凄く優しい笑顔だなぁと思って」
女「私、今そんな顔してた?」
アシ2「はい」
女「ふふっ、ありがと」
バタンッ
娘「おかあさ~ん!」ヒグッ エグッ
女「あらあら、どうしたのそんな顔して~」
娘「男くんにイジメられた~」フエェン
女「あなた達はホント仲良いのか、悪いのか分からないわね」ハァ
女「ほら、私の胸で泣けー」
娘「うわああぁぁぁぁあああん!」
アシ1「先生の描いた漫画にも出てきますけど、なんですか、それ?」
女「...わかんない。けど、私も泣いた時こうしてもらったら凄く気分が落ち着いたことを思い出して」
アシ1「親御さんにですか?」
女「ううん、違う人、かな?」
私は19歳の頃のとある一週間の記憶が丸々ない。
当時の私は絵を書くぐらいのことしかできなくて、毎日絵を描いていた。
当然、その一週間の間も描かれていたのだが、何故かズダボロのローブを着た死神のようなガイコツが、七日間描かれていた。
途中で何枚か見覚えのないイケメンはいたが、そのスケッチブックにはその日の出来事に基づく事しか描かないので、死神のようなものは描かれるはずがないのだ。
だけど、そこに死神は描かれている。もしかすると、本当に私はその七日間を死神と過ごしたのかもしれない。
色んなものを見て、感じて、色んな人に出会って、たくさんのことを学べ。
私が今も大事にしている言葉だ。
誰かに言われた言葉なのはわかっているのだが、誰に言われたのか、私は思い出せないでいる。
もしかしたら、その死神に言われたのかも
私がさっき娘にした行為も、死神が私にしてくれた行為なのかもしれない。
やりたい事を見失っていた私だが、記憶が丸々ない一週間の後、何故か次々とやりたい事ができて、次々とこなしていった。
だけど、余命は半年だと宣告されていた身体だったので、半年を越えて、一年は持ちこたえたのだが、限界が来た。
だけど、間一髪のところでドナーが見つかったのだ。
そのおかげで、今はこうして長年の夢だった漫画家をやっている。
私のスケッチブックに描かれている死神は、私の妄想なのか、はたまた実際にいたのか、結局のところ私にはわからない。
だが、私の中にある色々なかけがえのない物を、記憶のない一週間の内に、今は居ないその人にもらったと考えると、案外辻褄があったりする。
実際に居たかどうかは本当にわからないのだが、感謝はしてるし、その人をモデルにしている漫画まで出してしまっている。
名前はわからないので、私が描いた漫画のヒロインが呼んでいる名前で感謝の言葉を告げようと思う。
ありがとう、死神さん。
おしまい
このSSまとめへのコメント
なんか素晴らしい!
泣いた
号泣!涙とまらねぇ
リアルにこの女さんが描いた漫画をガチで読みたい!
このssは泣ける!!
漫画家決定
わんわんと泣きました
泣いたこのss見れて良かった
神スレ乙です。
過去作あったら教えて
死神さあん!うわあああああああああ!!
死神の精度っぽいね