はやり「宮永咲育成計画☆」(200)

 その当時は珍しく、東京の空から深々と雪が落ちる夜だった。

はやり(21歳)「やっほー、健夜ちゃん。おひさー☆ 今帰り?」

健夜(20歳)「あ……瑞原プロ。お久しぶりです。はい、今日の試合は全部終わりましたので」

はやり「もー、そんな他人行儀な挨拶しちゃ嫌だぞ☆ インターハイからの付き合いなんだからさ」

健夜「インターハイからって……み――はやりさんとは私が1年生の時に個人戦で1回試合しただけじゃないですか……」

はやり「私にとってはその一戦がとても思い深いんだぞ☆ あれだけボコボコにされたのは生まれて初めてだったもん」

健夜「うっ、すいません……」

はやり「アハ、気にしないで! 今となってはあの敗北のお陰で天狗にならずにすんだと思ってるんだからさ☆」

健夜「そう言っていただけると」

はやり「――まぁいつかあの恨みははらすけどな」

健夜「!?」

はやり「☆」

はやり「それにしても健夜ちゃんは相変わらずの鬼神っぷりだね☆ プロになっても全戦全勝完全無敗って半端ないよ!」

健夜「運が良かっただけですよ」

はやり「もう謙遜しちゃって☆」

健夜「あはは……」

はやり「殺してぇ☆」

健夜「!?」

はやり「ジョーダン☆」

健夜(うわぁ、相変わらずよくわかんないよこの人……)

健夜「は、はやりさんだってアイドルとしても雀士としても凄い人気ですよね」

はやり「まーね☆ 今度から教育番組であの牌のお姉さんもやるんだぞ☆」

健夜「え、凄いじゃないですか」

はやり「えへへ☆ 子供の頃からずっと夢だったことが叶ったんだよー!」

はやり「はやりは子供が大好きだから、子供と接することが出来る仕事がしたかったの☆」

健夜「うわぁ、嘘くさい……」ボソッ

はやり「――ぁ?」ピキ

健夜「」

はやり「しかし今日は寒いねー☆」

健夜「ええ、雪が振るくらいですから」

はやり「そうだ! 今日はお鍋を食べに行こう☆ 健夜ちゃんも来なよ、ご馳走するよ☆」

健夜「……きょ、今日は急用が」

はやり「お前を具材にしてやってもいいんだぞ☆」

健夜「イカセテイタダキマス」ガタガタガタ

はやり「そうと決まれば私の行きつけのお店へレッツゴー☆」

健夜「今日は厄日だ……」


  ―――ぁ―――


はやり「――」ピタ

健夜「どうしたんですか? いきなり立ち止ま……」

はやり「静かに」

健夜(どうしたんだろう、急に真面目な顔に……)

はやり「……赤ちゃんの泣き声が聞こえる! こっちだ!」

健夜「ちょ、ちょっと!? はやりさん、どこいくんですかー!?」

 ――路地裏


 おぎゃ――おぎゃぁ――


はやり「はぁ、はぁ!」

健夜「ほ、本当だ、こんなとこから赤ちゃんの泣き声が……」

健夜「――あ! あれじゃないですか!? あのダンボールの中から聞こえます!」

健夜(……って、“ダンボール”の中から……? それって、まさか……)

はやり「っ!」ガバッ

はやり「……居た」

赤ちゃん「おぎゃぁ! おぎゃぁ!」

はやり「おーよしよし、寒かったんだね☆ 泣かなくてもいいんだぞー☆」

健夜(はやりさん、赤ちゃんの扱い手馴れてるなぁ……子供好きって本当なのかも)

健夜(ん? ダンボールの中に手紙が……)

健夜(『訳あってこの子を育てられなくなりました、だれか拾ってください』……)

健夜(……)ガタガタガタ

健夜「はっ、はやりさん! こ、この子!」

はやり「――言わないで。わかってるよ、こんな状況……答えは……」




はやり「1つしか、ないから」

赤ちゃん「おぎゃぁ! おぎゃぁ!」

赤ちゃん「すぅ……すぅ……」

はやり「――ふっざけんじゃねえええええええええええぇ!」

はやり「何が『訳あって』だよ! 育てられねぇなら子供なんて産むんじゃねぇよ糞野郎!」

はやり「犬猫飼うんじゃねぇんだぞ!? わかってんのか! 犯罪なんだよ子供を捨てるのは!」

健夜「落ち着いて! せっかく寝たこの子がまた起きちゃいますよ!?」

はやり「っ……畜生、畜生……なんで、子供を捨てる親がいるんだよ……くそぅ」ポロポロ

健夜「……はやりさん」

健夜「これから、どうするんですか?」

はやり「……警察に連れて行くよ」

はやり「そして、絶対にこの子を捨てた親を探して貰う」

はやり「親が見つかったら……死なない程度にぶん殴ってやるんだ」ギリ


 だが、数週間の捜索にも関わらず捨て子の両親は見つからなかった――。

はやり「やっほー! はやりが来たぞー☆」

赤ちゃん「ばぶっ、ばぶっ!」

警察「どうも、お疲れ様です」

はやり「お巡りさん、やっぱり今日も……」

警察「……残念ながら」

はやり「これからこの子は、どうなるんですか?」

警察「里親を探しますが、見つからなかった場合は施設に送られる手筈です」

はやり「……」

赤ちゃん「あうぅ?」

はやり「……ほーら、高い高いー☆」

赤ちゃん「きゃっきゃっ」

――はやりの事務所

社長「……」

プロデューサー「本気、なんだな」

マネージャー「はやりさん……」

はやり「はい。あの赤ちゃんは――私が育てます」

社長「……お前さ、正気か?」

はやり「……」

社長「今が旬のアイドルが、どうやって子供育てんだよ。時間もねぇ、金もねぇ、血も繋がってねぇの三重苦だぞ」

はやり「……」

社長「お前いつも言ってたよな。子供を育てるのはペットを飼うんじゃない、人一人の命を背負うことなんだってよ」

社長「お前、背負えんのか」

はやり「――背負えます」

社長「簡単に抜かしてんじゃねぇよクソガキが!」バン

マネージャー「ひっ!」

社長「同情だけでなぁ! 子供を育てられるわけねぇだろ!」

社長「可哀相だって思うのはわかるぞ!? オレだって同じだよ! 可哀相だとは思う!」

社長「だけど断言してやる! そんな一時の感情だけで血も繋がらない子供を育てられるわけがねぇ!」

はやり「……」

社長「はやり。子供好きで、子供達をずっと見てきたお前ならわかるだろ……自分の乳で育てられない事が、どれほどのものか」

はやり「……」

社長「考えなおせ……はやりよぉ」

はやり「……全世界の子供が、いつでも笑顔でいられたら――」

はやり「そんな、絶対にありえない理想が私の夢でした」

社長「……」

はやり「そんなの無理だって、わかってます。でも、私がテレビや芸能活動で、一人でも多くの子供が笑ってくれるなら」

はやり「そう思って私はプロ雀士になり、芸能界に入りました」

プロデューサー「そうだった、な」

はやり「けど、あの子は……この先、笑顔が少なくなります」

はやり「孤児院に送られたって、きっと幸せを掴むことも出来るでしょう」

はやり「でも、でも――! それでもあの子の笑顔は! 絶対に少なくなる! 私はそれが耐えられない!」

社長「……捨て子なんて、溢れかえるほどいるんだぞ。お前、捨て子見つけたらかたっぱしから自分で育てるつもりか」

はやり「これが偽善なんてわかってる! これが同情なんてわかってる! それでも! それでも!」

はやり「私に向かって笑顔を向けてくれたあの赤ちゃんを!」

はやり「見捨てることなんて、絶対に嫌だ! あの子は一度捨てられた! それをもう一度捨てるなんて絶対に出来ない!」








はやり「あの子は! 私が育てます!」ポロポロ

マネージャー「っ社長! 私からもお願いします!」

プロデューサー「はやりなら、はやりならアイドルと子育ての両立はやり遂げられます!」

社長「……マネージャー、プロデューサー。てめぇら……」








社長「――子守唄の練習しとけよ」

はやり「っ!」

社長「お前の覚悟はわかった。認めてやるよ、クソガキ」

はやり「社長……!」

社長「スケジュールも、出来るだけ赤ちゃんといられるようにしてやるが、死ぬほど忙しくなるぞ。冗談じゃなく寝る暇もねぇ」

はやり「覚悟の上です!」

社長「……出来るだけ事務所に赤ちゃん連れてこい。だれか見ててやらねぇといけねぇからな」

はやり「はいっ……」

社長「そんときゃ、一回くらいオレに赤ちゃんを抱かせろ」

はやり「はいっ!」

社長「いけ……いって、赤ちゃんに会ってこい」

はやり「……社長! 本当に、本当にありがとうございます!」タッタッタッ




社長「……はぁ、頭痛ぇ」

マネージャー「社長、私からもお礼を言います!」

プロデューサー「私からも……!」

社長「お礼はいいからてめぇらも赤ちゃんについて勉強してこい」

2人「はいっ!」タッタッタッ

社長「……子供を育てるには金がいるよな」

社長「その為に、はやりはもっと売れる必要がある。賭けにはなるが、やってみるか」

社長「……子育て系アイドル、瑞原はやり――か」



 ――数年後、子持ちということを包み隠さず活動するアイドルという路線を歩み始める瑞原はやり。
 そんな前代未聞のプロデュースが大成功を収め、はやりの人気を不動のものにすることなど、この時。




 はやり本人を含め、思っていたのは社長以外居なかった。

はやり「私の赤ちゃん☆ 私の娘!」

赤ちゃん「きゃっきゃっ」

健夜「はやりさん! 私、はやりさんのこと誤解してました!」

健夜「こんないい人を、腹黒い人なんて思ってたりしてすいませんでした!」

はやり「健夜、後で屋上な」

健夜「」



はやり「書類を作らなきゃいけないけど、まずは名前を決めないとね☆」

健夜「名前ですか。一生ものですからね、安易にはつけられませんよ」

健夜「……男の子みたいな名前は止めてあげてくださいね」

健夜「……やめて、あげてね」ズーン

はやり「う、うん」

はやり「何がいいかなー☆ 私がはやりだから、はやてなんて……ってのもこの子のイメージにはあわないしー☆」

赤ちゃん「ばぶっ」ガチャガチャ

はやり「こらー☆ 麻雀牌で遊ぶのはまだ早いぞー、飲み込んだら危ないからね―☆」

健夜「でもこの子麻雀牌が好きですよね。さっきからずっと弄ってますよ」

はやり「生まれついての雀士なのかもね☆」

健夜「バラバラだけど手元に十四牌揃えるなんて、凄い偶然……」

赤ちゃん「あうぅ」

 その時、偶然にも赤ちゃんが嶺上牌(っぽい)場所から1つの牌を取り出した。

健夜「あー、だから駄目だって……あ、これ」

はやり「んー? どうしたの☆」

健夜「見てくださいよはやりさん。この四牌で槓したことにして、今赤ちゃんが持ってきた牌を入れると」

はやり「……わぉ☆ 嶺上開花で上がってる!」

健夜「あはは、偶然にしても出来すぎですね」

はやり「凄いぞ私の赤ちゃん☆ ゼロ歳で嶺上開花なんて……そうだ! この子の名前は――!」








はやり「カンちゃんにしよう!」

健夜「やめろ」

はやり「えーなんで☆ 結構可愛いとおも」

健夜「や め ろ」ゴゴゴゴ

はやり「……はい」

健夜「それにするならせめて嶺にしましょうよ」

はやり「……んー☆ それもちょっと安直すぎるかなー☆」

健夜(カンにようとしたお前がいうな)

赤ちゃん「ばぶばぶ」

はやり「……なら、嶺上開花を咲かせる雀士ってことで」





はやり「あなたの名前は、咲! 咲ちゃんだよ☆」

赤ちゃん「ばぶっ!」

はやり「咲! 咲ー☆」

健夜「咲……とってもいい名前だと思います」

赤ちゃん改め咲(0歳)「あう、あぅ」

はやり「咲……はやりはアイドルだから、とっても忙しいんだ☆」

はやり「だけど、どんなに忙しくても、咲のことを放っておいたりなんてしないよ☆」

健夜「私も手伝いますよ、実家暮らしですし」

はやり「ありがとう☆ 事務所のみんなにも迷惑かけると思う……」



はやり「だけど、みんなで頑張って行こうね☆ 乗り越えて行こうね☆」

はやり「咲、あなたは。そして私は――」

はやり「一人じゃないよ!」

 ――2年後

咲(2歳)「りんしゃー、ほー!」キャッキャ

先輩アイドル「咲ちゃん可愛いー!」

後輩アイドル「……先輩、次、次! 私に抱かせてくさい!」

先輩「駄目―! 咲ちゃんは私の!」

後輩「ずるいです先輩!」



社長「すっかり内のアイドルになっちまったなぁ、咲は」

マネージャー「社員みんなに引っ張りだこですもんね」

プロデューサー「人を惹きつけるオーラがありますよ、彼女は」

社長「あれで2歳だもんな……末恐ろしいガキだ……てめえら次はオレが抱く番だろうがあああああああああぁ!」

2人(この人が一番惹かれてるんだよなぁ……)

はやり「たっだいまー☆」

咲「ままー!」

はやり「咲ー☆ ママだぞー☆」

社長「お疲れさん」

先輩「おかえり、はやり」

後輩「おかえりなさい!」

はやり「みんな、いつも咲ちゃんのこと見て貰って本当にありがとうね☆」

先輩「いいってことよ。咲ちゃん可愛いもん」

後輩「仕事の疲れが癒されます!」

社長「まあそういう約束だったしな」プイ

咲「まーま」スリスリ

はやり「えへへ☆ アイドルのアイドルなんて凄いぞ咲ー☆」ギュー

咲「きょーもね、りんしゃーほー、あがった!」

はやり「本当に!? さすが我が娘ー☆」

はやり「目指せ☆ 打討鬼畜生すこやー!」

咲「おにちくしょー! すこやー」

社長「変な言葉覚えさすなよ……」

マネージャー「でも咲ちゃん、麻雀を本当にある程度はわかってるんですよねー」

プロデューサー「本当に日本最強と呼ばれてきた小鍛治プロを超える逸材なのかもしれませんね」

先輩「将来は雀士かなー、ねー咲ちゃん」

咲「まーじゃん、たのしいよ!」

はやり「えー☆ 私、咲は将来アイドルにするつもりなんだけどなー☆」

はやり「咲は麻雀かアイドル、どっちがいい?」

咲「うーんとね」




咲「ままと、いっしょにいれるほう!」

はやり「」

はやり「」ブワ

はやり「わだじもざぎといっじょにいれるほうがいいいいいいいぃ」ポロポロ

先輩「……泣くな泣くな」ナデナデ

後輩「咲はお母さん思いで良い子だねー」ナデナデ

咲「まま、だいすき!」





社長「あー畜生。やべぇな、この唐辛子まじ辛れー。あー、涙が止まらねーわ」ポロポロ

プロデューサー「社長……」

健夜「お邪魔しますー、はやりさんいますか?」

はやり「おや☆ どうしたの健夜ちゃん」

マネージャー「お久ぶりです小鍛治プロ」

健夜「お久しぶりです。いえ、母親が咲ちゃん連れてこいってうるさくて……今度2人で遊びに来ていただけないかと」

はやり「ほんとにー☆」

咲「でたー! おにちくしょーすこやだー!」

健夜「」

 ――更に2年後 テレビ局雀プロ控え室

咲(4歳)「りんしゃんかいほう、3900です」

大沼「うむ、いい打ち筋だ……姿勢も素晴らしい」

咲「ほんとう! ありがとうおじちゃん!」





咏(20歳)「なんで控え室に子供がいんのさ、知らんけど」

靖子(21歳)「ああ、お前は知らなかったっけ。あの子が瑞原プロのお子さんだよ」

咏「おー、あの子があの子育て系アイドル瑞原の子供っすかー。可愛いじゃん」

靖子「……うん、まぁ。可愛いもんだ、見た目と性格はな」

咏「?」ヒラヒラ

咏「やっほー」

咲「あ、こんにちわ! わたし、みずはらさきといいます」

咲「ママがいつもおせわになってます」ペコ

咏「礼儀ただしいねぇ咲ちゃんは。私は三尋木咏だよ、よろしくねん」

咲「よろしくおねがいします!」

咏「そういえば今日は瑞原プロの対局の日だっけ? お母さんを待ってるの?」

咲「はい!」

咏「よっしゃ、私も次の対局まで暇だし、麻雀やらねー? できるんしょ?」

咲「わーい! みひろぎぷろとまーじゃんだー!」

咏「藤田プロもどうっすか?」

靖子「……調整には丁度いいか」

咏「あはは、調整って、おおげさでしょー」

靖子「……1つ言っておくぞ。自信、無くすなよ……」

咏「」

靖子「……」ポン

咲「かてなかったや……」

大沼「気を落とすな。咲はまだ若すぎるほどに若い。次を頑張ればいい」

咲「……うん!」

咏「あは、あはは。か、勝ったには、勝ったけど……さ……」

咏「全力出さざるをえなかったって……? これでも、首位打点王とゴールドハンド、取ったりしてるん、だぜ……?」

咏「こ、この子の麻雀わかんねー」ガタガタ

咲「みひろぎぷろ、ふじたぷろ、おおぬまぷろ――ありがとうございました! とってもたのしかったです!」ペコ

咏「お……おう……」

咏「」ガタガタガタ

靖子「お前は弱くないよ。あの子は、9冠へリーチかかったあの日本最強の小鍛治プロや」

靖子「最強アイドルとまで言われてる瑞原プロと毎日のように麻雀を打ってるらしいから」

咏「あはっ、は。そりゃ強くなるわけだ……」

靖子「……それはもう、満面の笑みでな」

咏「……マジっすかー、私小鍛治プロと対局して笑顔なんてぜってー出来ねー……」




はやり「咲ちゃんー☆」

咲「ママ! おかえりー! まーじゃんかった?」

はやり「咲ちゃんが待っててくれたお陰で勝てたよー!」

咲「ほんとー! ママすごーい! わたしはみんながあそんでくれたけどまけちゃった……」

はやり「それは残念☆ 次頑張ろうね!」

咲「うん!」

 ――更に2年後

咏「いいかい咲ちゃん、満貫以下は点じゃねー。咲ちゃんには嶺上開花があるんだし、とにかく麻雀は火力だぜ」

靖子「いや、麻雀はまくりに限る。オーラスからの華麗な逆転はとにかく目立って気持ちいし」

大沼「防御こそ最大の攻撃といってな……」

健夜「麻雀はトータルバランスだよ。特化型なんて絶対に駄目、対策されたら厳しいし」

はやり「もう! みんな咲ちゃんに変な麻雀教えないでよ☆」プンスカ

咲(6歳)「うーん……」

咏「咲ちゃんはどんな麻雀を目指したい? 私は火力を押すよん」

靖子「まくり、まくり」

大沼「防御率……」

健夜「トータル、トータル!」

はやり「私としてはトータルで防御よりかな☆」

咲「……全部!」

5人「え」

咲「全部出来たら、最強だから全部やれるようになりたいです!」ゴッ

4人「」

はやり「さすが私の娘☆ 言うことが剛気☆」

 ――事務所

社長「なぁはやり」

はやり「なんですか☆」

社長「咲をインタージュニアに出してみないか? 今年で小1だし、出場条件は満たしてるんだろ」

はやり「んー、出してもいいんですけどー☆」

社長「なんか問題あるのか?」

はやり「……めだかの水槽にクジラを入れるのはどうかなーと思います☆」

社長(……え、いま咲ってそんなに強くなってんの?)

 ――インタージュニア

咲「ツモ、嶺上開花! 12000」

淡(6歳)(強い……強い! 強い強い強い強い強い強い強い強い! なにこの子! ちょーいけてんじゃん!)パァー!

淡(やっば……楽しすぎて鳥肌がとまらない――!)

モブ1(11歳)(信じられん……これでホンマに小1なんか!?)

モブ2(10歳)(あかん、メゲそう……)

アナウンサー「信じられません! とんでもないことになりました全国麻雀インタージュニア!」

アナウンサー「小学1年生にして初参加の瑞原咲選手と大星淡選手の独走状態! これが本当に小学一年生なのかー!?」

淡(私は実力から言ったら小学100年生だけどね!)

アナウンサー「先ほどからの上がり役が嶺上開花とダブリーの大嵐!」

アナウンサー「異常です! もしも麻雀の神様がいるのならば、間違いなくこの2人はその神様の寵愛を受けているでしょう!」

淡「ダブリー、一発!」

咲「嶺上開花!」

淡「ダブリー、一発! ジュンチャン、三色、一盃口!」

咲「嶺上開花! 三槓子! 三暗刻!」

淡「ダブリー! 嶺上開花! ドラ8! 小三元!」

咲(この子、嶺上開花まで!? 凄いよ、強いよ――けど!)




咲(プロの皆は、もっと強かった!)ゴッ

アナウンサー「試合終了おおおおおおおおおおおおおぉ!」

アナウンサー「激闘を制したのは瑞原咲選手だー!」

アナウンサー「インタージュニア至上初! 6歳時のチャンピオンの誕生だー!」



淡「……」

咲「……」

淡「おめでとう!」ダキシメ

咲「ありがとう!」ダキシメ

淡「負けたのは、悔しいけど」ポロポロ

淡「こんなに、ワクワクして、ゾクゾクして、楽しかったの、初めてだったよ!」ギュッ

咲「私も……楽しかった! 同年代の子にこんなに強い子がいるなんて思わなかった!」ポロポロ

咲「ママ達が聞いたら、きっと大喜びするよ! 日本麻雀界の未来は明るいって!」ギュッ



アナウンサー「全力を出し、全力で戦ったからこそ生まれた友情!」

アナウンサー「なんという美しい姿なのでしょうか、不肖ながら私、涙がとまりません!」ブワッ

アナウンサー「まさにベストオブベスト! 伝説に残るであろう試合に相応しい閉幕です!」



モブ1「」

モブ2「」

はやり「咲ちゃああああああああああん! おめでとおおおおおおおお!」

咲「ママー! 勝ったよ! 日本ジュニアのチャンピオンだよ!」ワーイ

はやり「今夜はごちそうだよー☆」



咏「咲ちゃんの大楽勝かと思ってたけど、あの淡って子凄いねぇ」

靖子「全く、大した奴らだよ。私達の次の世代は……」

大沼「……これで悔いなく死ねる」

健夜「それはちょっと冗談にならないんで止めてください……」

 ――長野

照(8歳)「……」

数絵(6歳)「なにを読んでるの? 照ちゃん」

照「麻雀の雑誌」

数絵「……漢字だらけでわかんない」

照「この前のインタージュニアでね、瑞原咲って子が優勝したんだって。数絵と同じ歳だよ」

数絵「へー、凄い。でもさ、照ちゃんが出たら優勝したの照ちゃんじゃないの?」

照「さあ……私は、大会とか興味ないから」

数絵「勿体無いー。お爺ちゃんも凄く照ちゃんの麻雀褒めてるのにー」

照(……咲、か)

照(私と父さんを置いて、生まれたばかりの妹と一緒に消えてしまった母さん)

照(……妹の名前は、咲にする予定だったって、父さんはいってたっけ)

照(この子が、私の本物の妹の咲だったらな――)

照(……そんな偶然、あるわけないか……)

――更に2年後 再びテレビ局雀プロ控え室

咲(8歳)「ツモ、嶺上開花」

良子(20)「オーマイゴッド……」

理沙(20)「強すぎ!」プンスカ





咏「もはや名物だねぇ、控え室での咲ちゃん洗礼」

靖子「私達もあんな時期があったなぁ……」

健夜「私も油断してると順位負けしちゃうようになってきたからなぁ」

咏「うっはぁ、マジっすか」

靖子「……名実共に日本最強も近いかもな」

淡「むっー! 相変わらずサッキーやるなぁ! けど負けないよ! V3は私が阻止しちゃうから!」

咲「今度も負けないよ! 淡ちゃん!」

良子「――ソロモン王憑依!」

理沙「本気プンスカモード!」プンスカ




咏「淡ちゃんも馴染んでんなぁ」

大沼「……今のところ、咲についていけるのは淡くらいだ」

靖子「まぁ大会に出てないだけで、とんでもない子ってのはまだいるんでしょうけどね」

健夜「……いつか、あの子達が世界を相手に勝てる日が来るといいな」

咏「すこやん……」

健夜「その呼び方止めて……」

靖子「……リオデジャネイロは、惜しかったな」

健夜「天狗になってた気は無かったけどさ……強かったよ、世界は」

大沼「健夜くんでも、世界は厚かった……か」

健夜「金メダルを取った世界ランク一位……正直言って、人を相手にしてる気がしなかった」

咏(私達がすこやんを相手にしてる時いつもそう思ってんだけどねー)

健夜「私が地位も家族も友達も仲間も全てを捨てて、麻雀だけに打ち込んでも……多分、勝てない。それくらいの、強さだった……」

大沼「……」



咲「ロン!」

淡「残念! 頭ハネ!」



健夜「けど……きっと、あの子達なら……」

大沼「……ふっ。私から見れば、君たちもまだまだ若いがな」

健夜「あはは、もうそんなことも言ってられないかも……」

靖子「……アラフォーですもんねぇ」

健夜「アラサーだよ!? まだアラサーだよ!」

咏(まだってところに余裕の無さを感じるぜすこやん。私も人のこと言ってられないけどねぇ)

はやり「なれるもん☆ 私の娘なら、世界一にだって☆」

健夜「あ、お疲れさまですはやりさん。どうでした?」

はやり「――聞かないで☆」

4人(負けたのか……)

 ――7年後

アナウンサー「インターミドル終了ー!」

アナウンサー「やはり強かった瑞原咲! インタージュニアから数えて7度目の日本一! おめでとう!」

アナウンサー「無念大星淡! 3度目の勝利ならず! 原村和と二条泉も惜しかった!」

淡「くっそー! 負けた―! おめでとう、咲!」

和「……参りました。流石です、瑞原さん」

泉「ま、まぁ……東最強は譲るけど、西日本最強は私やし」ガタガタガタ

咲「みんな、ありがとう!」





咲「これで中学生活も終わりなんだね……」

淡「小学生の時は咲以外楽しめる相手が居なかったけど、中学は中々歯ごたえあったかな」

咲「うん、みんな強かった……」

淡「その全員に勝ってる咲はもっと胸を張ってもいいと思うけどなー」

淡「もうプロでも咲に勝てる相手、すこやんくらいじゃん」

咲「ううん、まだまだだよ。この程度じゃ、世界の足元にも及ばないと思うから」

淡「世界ねぇ。すこやんですら勝てないっていうんだから、相当なんだろうなー」

淡「すこやんにリオで勝った世界一位、未だに無敗だし」

咲「世界で無敗……怖いけど、戦ってみたいなぁ」

淡「私も! ――ところで咲は高校どこいくの?」

咲「うーん、やっぱり地元の東京かな。お母さんと離れたくないし」

淡「相変わらず咲ってマザコンだよね」

咲「マザコンでいいもーん。はやりお母さんは世界一のお母さんだから」

淡「うっはー、重傷ー」

咲「ふふん」

淡「東京か……じゃあ白糸台?」

咲「うん、偏差値も良いしね」

淡「じゃあ私も白糸台いこーっと」

咲「え!?」

淡「咲の敵になるのもいいけど、3年くらいは咲を味方にするのもいいかなって思ってさ」

淡「見せてやろうよ日本最強タッグ」

淡「天和でもトリプル役満でも、いくらでもくれてやる」

咲「……いや、というかね……淡ちゃん、入試受かるの?」

淡「……す、推薦があるから」ガタガタガタ

 ――1年後

アナウンサー「さあ始まりますインターハイ決勝戦! 注目するのは勿論、おそらくプロすら含めての日本最強雀士、瑞原咲と!」

アナウンサー「圧倒的な実力で勝ち抜いて来ました宮永照!」

アナウンサー「さあ、どのような熱く血潮を滾らせる戦いを繰り広げるのでしょうかー!」




照「……」

咲(どうしたんだろ、この人、じっと私を見つめて……)

照「……やっぱり」

咲「?」

照「――お願いします」ゴッ

咲「っ」ゾク

咲「――お願いします!」ゴッ

 ――先鋒戦終了後 渡り廊下

咲「うー、まだ鳥肌が止まらないよ……!」

咲「あの宮永さん、本当に強かった! あー、楽しかったなぁ」

咲「宮永さんは3年だから、もうインターハイで会うことは出来ないけど……プロになってくれないかな……」

照「――待って」

咲「」ビク

咲「み、宮永さん?」

照「大切な話がある。ついてきて欲しい」

咲「……? わ、わかりました」




淡「サッキーお疲れー……ってあれ? 居ない? ……また迷子かな」

咲「あの、話って……」

照「……咲っ!」ギュ

咲(え、ええ!? きゅ、急に抱きしめられたー!?)

照「間違いない……咲は、咲だ。私の、大切な……! 麻雀を通して、ようやくわかった……!」

咲「ちょ、ちょっと待ってください!? な、なんの話ですか!?」

照「あ……ご、ごめん」

咲(し、心臓がまだバクバクしてる……)

照「……私には、生き別れの妹が居る」

咲「……」

照「16年前、私のお母さんが生まれたばかりの妹を連れて家を出て行った」

咲「……」

照「私と父さんは必死で2人の行方を探したけど、何年たっても見つかることはなかった」

咲「……」ドク

照「――酷い話とは思うけど、数年たって私達は探すのを諦めた」

照「警察にも頼んだ、使えるものは全部使った……けどこれだけ探しても見つからないのなら、もう見つかるはずがないと」

咲「……だ、だから、だから、なんだって、いうんですか」ドクドク

照「……だけど、あなたがインタージュニアで優勝した時の雑誌を見た時、私はひょっとしてと思った」

照「ありえないとは思った。他人のそら似なだけなのだと思った」

照「あの事の私とお父さんは、心を暗く覆わせて居たから、僅かな希望も信じられなかった……」

咲「……」ドクドクドク

照「でも、知り合いの記事に調べて貰って判明したことがある」

照「貴女の母親、子育て系アイドルとして有名な瑞原はやりには――」




照「妊娠していた、時期がない」

咲「――」

照「いくら調べても、なかったって。だから貴女は……養子として瑞原はやりに育てられたはず」

咲「――だ」

照「貴女の年齢と私のお母さんが連れて行ってしまった妹の年齢は一致する。正直こんなことをいいたくないし、考えたくもないけど」

照「多分お母さんは何らかの理由があって、東京に行った時、貴女を捨てた」

咲「――そだ」

照「いや、捨てたかどうかはわからない。ひょっとしたら瑞原はやりにお母さんが貴女を育てるように託したのかもしれない」

咲「嘘だ! 違う! 違うもん! 私はお母さんの! 瑞原はやりの――子供だよ!」





照「――違わない。DNA鑑定をすれば判明すると思うけど……貴女の本当の家族は、私。貴女の本当の名前は――宮永、咲」

咲「嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だだ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! そんなの、嘘だああああぁ!」

照「っ!? 待って、咲!」

淡「咲ー、咲ー! ……もう、どこいっちゃったんだろ」



咲「……」フラフラ

淡「お、いたいた。もー、探したよさ……き……?」

咲「……淡、ちゃん」

淡「どうしたの!? そんなに苦しそうにして……!?」

咲「淡ちゃん、私、私……瑞原はやりの……はやりお母さんの、子供だよ、ね……?」

淡「なにいってるの!? そんなの当たり前でしょ!?」

咲「よ、かっ……た……」ドサ

淡「咲!? 咲いいいいい!」

照「咲!?」

淡「――お前か!? お前が咲をこんなにしたのか!?」

照「違う! ――っいや、違わないけど、とにかくお医者さん!」

淡「くっ、咲! しっかりして、咲――!」

 ――病院

咲「……ぁ」

はやり「――っ!? 咲、気づいたんだね」

咲「お母さん……? お母さん! お母さあああん!」

はやり「よかった、よかったよぉ」ナデナデ






咲「……お母さん、宮永さんって人が、酷い嘘をいうの」

咲「……私がね、お母さんの本当の子供じゃないって」

咲「……そんなわけないよね。お母さんは、私のお母さんだもんね」

はやり「――――」

咲「……お母さん?」ガタガタガタ

咲「なんで、なにも言ってくれないの……?」ガタガタガタ

はやり「――」

咲「お母さん、何か、何かいってよ……」

はやり「……本当は、まだ話すつもりはなかった」

咲「っ」

はやり「咲ちゃんがもう少し大人になるまで、言わないでおこうと思ってた」

咲「あ、ぁぁ……」

はやり「でも……もう、咲は……知っちゃった、から……本当の事、いうね」ポロポロ

咲「いやぁ、いやぁ……聞きたくない、聞きたくないよ……お母さん……」

はやり「咲と私は、血の繋がりが――」




はやり「ない、の」

咲「――って!」

はやり「でもね! 咲! 私は!」

咲「出て行って! ここから! 出て行ってえええええぇ!」

はやり「……咲が落ち着いたら、また、来るね……」ガチャ…



咲「あはは、そうだ、これは夢だ……」

咲「全部、悪い夢なんだよ……」

咲「そうだよね、そうに決まってるよね……あは、ははははは……うぁ、ぁぁぁ……!」









咲「うあああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!」

「――開けるぞ」ガチャ

咲「……」

「湿気た面してんじゃねぇよ、咲」

咲「……社、長」

社長「横、座るな。腹減ってるだろ、リンゴ剥いてやるよ」



咲「……」

社長「……」シャリシャリ

咲「……」

社長「……」シャリシャリ

咲「社長は、知ってたんですよね。私が、お母さんの本当の子供じゃないってこと」

社長「……ああ、知ってた」

咲「なんで、なんで教えてくれなかったんですか……」

社長「こうなるのが目に見えてたからだ。まっ、オレはもっと早い段階で知ることになる思ってたがな、以外だったよ」

咲「……うっ、うううぅ」

社長「……あいつな、お前を拾っきた時、アイドルオーディションに受かったときよりも泣いてたんだぜ」

咲「……」

社長「なんで子供を捨てる親がいるんだよ! 畜生、畜生ってよ。当時はただの赤の他人だぜ? ダンボールに入ってたガキの為にそこまで泣けるもんかね」

咲「……」

社長「――お前が悲しいのは、痛いほどわかるよ。オレも……捨て子だったからな」

咲「!?」

社長「まぁオレの場合はもっと悲惨だったが、そんなことはどうでもいい。大好きな母親だから、血の繋がりだって欲しかった」

社長「お前はそう思ってんだろ?」

咲「……はい」

社長「オレは気の利いたことはいえねぇ。言えたとしてもありきたりに、血よりももっと大切なもんがあるだろ、なんてことしかいえねぇ」

社長「……けどまぁ、結局さ、周りからどんなこと言われても、答えはお前の中でとっくに決まってるだろ」

社長「今はちょっと混乱してるだけで、お前の中で大切な答えはとっくに決まってる」

社長「オレは、お前とはやりをずっと見てきた。オレは結婚もしなかったから、ガキも作れてねぇシワクチャの“ババア”だけどさ」

社長「まぁ、こんな喋り方で、こんな風だからそうも見えねぇだろうけどさ」

社長「オレは――はやりを自分の娘のように思っていたし、お前を孫のように思ってた」

社長「お前らの、おばあちゃんになってやりたかった」

咲「……しゃ、ちょう……!」ポロポロ

社長「やっぱ、血の繋がりがねぇと、オレをばあちゃんと思えねぇか?」

咲「……」フルフル

社長「……だったら、答えは決まってんじゃ――」

社長「ねぇか!」ガラガラ!




「「「「「「「うわあああああああぁ!?」」」」」」」ドンガラガッシャーン

咲「み、みんな……」

はやり「ざぎぃ、わだじ、ぢは、づながってないげどざぁ……! ざぎの、ざぎのままで、いたいよぉ……!」ポロポロ

咏「おま、お前らが、ホントの親子じゃねーなら! この世に本当の親子なんていねーんだよ……!」ブワ

靖子「血が、血がどうした! お前は血よりも大切なもん貰ってただろ!」ヒッグヒッグ

健夜「そうだよぉ! はやりさんが、咲ちゃんのママじゃなかったら、なんなのさ……!」グシグシ

大沼「……うむ」グス

良子「ソートフル!」ウルウル

理沙「親子愛!」プンスカポロポロ

淡「私だっで、咲と血が繋がってないけど、仲良し姉妹だって、思ってるんだよ!」ボロボロ

照「ごめん、咲! 私、自分の都合ばっかりで、咲の都合なんて考えもしないで……!」ウアァ

咲「みんな……みんな……! お母さん! お母さん、出てけなんて、酷いこといって、ごめんなさいぃ!」

はやり「咲ぃ! いいかなぁ、私、咲のお母さんで、いいかなっ……!」

咲「うん、うん! 血なんて繋がってなくても、私のお母さんは――」



咲「瑞原はやりだよ――!」

――4年後

咲(20歳)「……ついに、ここまで来た……」

アナウンサー「さあ、まもなく始まります! 世界が注目するこのワールド・マージャン・グランプリ!」

アナウンサー「不動の世界ランク一位が不敗神話を成し遂げるのか、それとも若干20歳という若さで世界の頂点の一歩前まで上り詰めたランク二位が新たな伝説を刻むのか!」

アナウンサー「闘牌開始まであと20分! 皆様! どうかお待ちください!」



咲「……はじめまして」

世界一位「……ええ、初めまして。ふふ、貴女のその自身に満ち溢れた目――思い出すわね」

世界一位「そう、忘れもしないあの熱き闘志を秘めた日本人、小鍛治健夜を……」

咲「健夜さんを、覚えていてくれたんですね」

世界一位「いままで数えきれないくらい麻雀を打ってきたけど、私を一番熱くさせたのは、あの子だったもの」

咲「健夜さんが聞いたら、きっと喜ぶと思います」

世界一位「だけど、貴女はあの子を――超えているわね」

咲「少し、勝ち越し出来るようになったくらいですけど」アハハ

世界一位「――今日は、いい試合をしましょう。見せてもらうわ、貴女の、宮永咲だけが出来る麻雀を」

咲「……いいえ、私が見せるのは、私だけの麻雀ではありません。私の麻雀は――」

咏『がんばー、咲ちゃん! 咲ちゃんが勝つって、私知ってっからね』

靖子『世界に刻みつけてやれ、お前の名前を』

健夜『私が出来なかったこと、咲ちゃんに託すね』

大沼『冥土の土産に、いいものを見せてくれ』

良子『レジェンドになって来てください!』

理沙『負けるな!』プンスカ

淡『私以外に負けたら承知しないぞ!』

照『精一杯!』

はやり『咲ちゃんならやれる☆ だって咲ちゃんは、私の自慢の娘だもん☆』




咲「――日本の麻雀、そのものです」ゴッ!

世界一位「そう……良い人達に、恵まれたのね」

咲「はい、最高の仲間で、最高のライバルで――最高の、家族です」

世界一位「――負けないわ」

咲「――負けません」

咲「……それと、1つだけ聞いてもいいですか」

世界一位「なに?」

咲「どうして貴女は、いつも仮面を付けているんですか?」

世界一位「……昔、火事にあって顔に酷い火傷を覆ってしまったの』

世界一位「顔を見せないのは失礼だと思うけど、勘弁してね」

咲「いえ、私も失礼なことを聞いて、すみませんでした」ペコ

咲「では、20分後に」

世界一位「ええ、また後で」




咲父「……やあ、久しぶり」

世界一位「……他人の振りは、無理そうね」カメンハズシ

咲母「……元気そうで、何よりだわ……咲も、照も……」

咲母「はやりさんと、再婚したのね。嬉しいわ……ずっと、貴女が私のことを気がかりにしているんじゃないかって思ってたから……」

咲父「あはは……咲も照も、喜んでくれたよ。僕自身も、はやりさんのファンだったし、凄く幸せだ……」

咲母「……なら、よかった」

咲父「咲に、正体を明かすつもりはないのかい?」

咲母「私は麻雀の為に全てを捨てた女。今頃現れても、あの子達が迷惑するだけよ。それにはやりさんに死なない程度に殴られそうだし」フフ

咲父「そう、か……なら最後にこれだけは言わせてくれ」

咲父「愛してた」

咲母「――私もよ」カメンツケ

アナウンサー「時間がやって来ました!」

アナウンサー「ついに、世界最強の雀士を決める決戦の幕が上がろうとしています!」

アナウンサー「勝つのは果たして、誰なのかあああああああああああぁ!」





咲「――はやりお母さん! みんな!」






咲「世界一に! なってきます!」





カン!

つかれた
保守してくださった皆様ありがとうございました
おやすみっす

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