勇者「世はまさに大勇者時代!」(111)
勇者「ありったけの~ゼニを~かき集め~♪」
勇者「大魔王倒しに~ゆ~く~の~さぁ~♪」
勇者「勇者!」ドン!
魔法使い「なんだい、その歌?」
勇者「昨日の晩、布団の中でふと思いついたんだ! なかなかいい歌だろ?」
僧侶「“勇者!”のとこだけ、ゴロが悪い気がするわね」
勇者「う~ん、たしかにそうかもしんねェな」
戦士「つうか、そもそも俺ら魔王を倒すのが目的じゃねえしな」
勇者「そういやそうだな!」ユシャッ
魔法使い「ん……」
魔法使い「お、あんなところに村があるよ!」
魔法使い「ほら、王からもらった地図にも載ってない」ペラッ…
戦士「こりゃあ、まさしく穴場だな」
僧侶「久々に楽しめそうね」
勇者「よぉし、みんな行くぞぉっ!」
勇者「冒険の始まりだっ!」バッ
三人「オーッ!!!」
<村>
村人「いやぁ~アンタ力持ちだねえ」
村人「ほとんど一発で木を切り倒して、一度に切り株を10個も運ぶなんて……」
村人「おかげで今日の仕事がもう終わっちまったよ」
木こり「家に泊めさせてもらってんだ。これくらいお安い御用さ!」
村人「!」ハッ
木こり「ん、どうしたんだ?」
村人「勇者だ……“勇者パーティー”が来た!」
木こり「…………」
僧侶「なんかさびれた村ねえ」キョロキョロ…
魔法使い「地図に載ってないぐらいだからね。期待する方が間違いってもんさ」
戦士「おう、そこのデカブツ」
木こり「俺のことか?」
戦士「てめえ以外にだれがいるんだよ。体はでかいが、脳みそは足りねェようだな」
木こり「ごめんごめん。で、なにか用か?」
勇者「この村に酒場はあるか?」
木こり「ああ酒場なら……小さいがあっちにあるよ」
勇者「よし、まずは景気づけにパーッとやるとするか!」
行商人「いらっしゃ~い、いらっしゃ~い」
魔法使い「……ん?」
魔法使い「これは……なかなかいい魔法薬を売ってるじゃないか」ヒョイッ
魔法使い「ボクも魔法を使うから、魔法薬には結構うるさいんだ」
魔法使い「こんな田舎で、いい拾いものをしたもんだ」
行商人「そりゃもう、オイラの魔法薬は特別製でしてね」
魔法使い「ふ~ん、これもらうよ」
行商人「では500ゴールドいただきます」
魔法使い「イヤだよ」
行商人「え?」
行商人「お願いしますよ~……お代を払ってもらわなくちゃ、オイラ困っちゃう」
魔法使い「しつっこいな」チッ
魔法使い「……勇者、頼むよ」
勇者「おい、お前!」
行商人「は、はい」
勇者「俺は勇者だ!」ドン!
勇者「コイツは俺の仲間(パーティー)だ!」ドン!
勇者「だから金は一銭も払わねェ! 分かったか!」チャキッ
行商人「ひぃっ!」
行商人「わ、分かりました! 剣を向けるのはやめて下さい!」
勇者「分かればいいんだ」ユシャッ
ワイワイ…… キャーキャー……
子供「え~いっ」ヒュッ
眼鏡女「あっ、ボールが……」
コロコロ……
戦士「…………」
眼鏡女「すみません。そこの人、ボールを取っていただけませんか?」
戦士「だれにモノ頼んでんだァ、女?」
戦士「俺ァ、勇者パーティーの戦士だぞ!?」
ドカッ!
乱暴にボールを蹴り返す戦士。
バシッ!
眼鏡女「きゃっ!」
眼鏡女「あ、メガネが落ちて……」
眼鏡女「どこにいったのでしょうか……」キョロキョロ
眼鏡女「メガネ、メガネ……」キョロキョロ
子供「お姉ちゃん、落ちてないよ! 額にひっかかってるよ!」
眼鏡女「これは失礼しました」スッ
子供「お姉ちゃん、おっもしろぉ~い!」
アハハ…… ワハハ……
戦士「ケッ、なんだありゃあ」
僧侶「だっさ~い!」
魔法使い「こんな田舎にお笑い芸人がいるなんてね」
勇者「おいみんな、酒場についたぞ。入ろう!」ギィィ…
<酒場>
勇者「勇者パーティーのご登場だァ~~~~~!!!」ドン!
マスター「!」ビクッ
剣士「…………」グビッ…
フード「…………」チビッ…
僧侶「カウンター席に、テーブルが一つっきりか。ホントに小さいわね」
魔法使い「テーブルには先客がいるね。剣を持ってる奴と……フード被った奴が」
戦士「おいそこの二人! テーブル席は俺たちが座るんだ、カウンターに移れや!」
剣士「分かったよ」ガタッ
フード「…………」ガタッ
戦士「へっ、即どくのかよ。だらしねえ剣士もいたもんだ」
戦士「なんならテーブル席賭けて勝負すっか、お?」チャキッ
剣士「いや……やめておくよ。だってアンタら、勇者パーティーなんだろ?」ササッ
戦士「フン、つまんねえ。とんだ腰抜けだぜ」
勇者「よし! 酒をジャンジャン持ってこい!」ドン!
ワイワイ…… ワイワイ……
勇者「世はまさに大勇者時代!」ドン!
勇者「いい時代になったもんだ!」
戦士「まったくだぜ」
戦士「あのバカ王のおかげで、こんな気ままな暮らしができるんだからな」
魔法使い「魔王復活の予兆があったとかいって、王が色んな人間に勇者の称号を与えて」
魔法使い「結局魔王なんか現れなかったもんね」
僧侶「結果として、大勢の人間が高額のゴールドや高級武具、地図を始めとした」
僧侶「さまざまな“勇者特権”を手にしただけだったものね。なんのリスクもなく」
勇者「法律上の優遇措置、各種店での割引、国営施設の無料利用、宿屋の無料宿泊……」
勇者「数え切れないくらい、色んな特権があったよなァ」
僧侶「王が勇者称号の乱発が間違いだったと気づいた時には、もう後の祭り」
僧侶「勇者特権を廃止したり、悪事を働く勇者には懸賞金をつけたりしたけど」
僧侶「特権を廃止した時にはもう特権なんて必要ないほど、勇者たちは力をつけたし」
僧侶「今では懸賞金目当てに勇者に挑む人間なんていないもんね」
僧侶「正義ヅラしたバカは、みぃ~んな殺されちゃったんだから。ざまあないわ」ウフッ
勇者「なんたってうだつの上がらないチンピラだった俺たちでさえ」
勇者「勇者特権でこんないい武器を持つことができたからな!」チャキッ
勇者「こんないい剣、まともに働いたところで一生かかっても拝めねえぞ!」ギラッ
勇者「逆に王国は勇者のために、いい武具を放出しまくっちまった」
勇者「もう王国兵だって怖くはねえ!」
勇者「ユゥ~シャッシャッシャッシャッシャ!」
魔法使い「これというのも、大昔の勇者が大活躍してくれたおかげだね」
魔法使い「でなきゃ、勇者の称号はここまで強力なものにはならなかっただろう」
戦士「仮に今の世に魔王が復活したとしても、魔王退治をやる奴ァいねえだろうしな」
戦士「勇者の称号を得て、ゴールドと武器だけ受け取ったら、はいサヨナラ」
戦士「みんな好き放題するだけだろうぜ」
戦士「下手すりゃ魔王と組もうとする奴も出るんじゃねえか?」
僧侶「えぇとたしか……」
僧侶「大昔の勇者とその仲間は、自分を犠牲にして魔王を封じたんだっけ?」
勇者「そうらしいな。魔王が率いる大軍に、たった四人で立ち向かったって話だ」
勇者「いくら強さに自信があったって、なかなかできることじゃねェ……」
勇者「それだけの実力がありながら、世界を救うために犠牲になる、か」
勇者「な、なんて……」
勇者「なんて……」プルプル…
勇者「なんてマヌケなヤツらなんだァ~~~~~!」ドン!
戦士「そりゃそうだ! ハッハッハッハッハ!」バンバンッ
僧侶「キャハハハハッ!」
魔法使い「ハハハッ!」
勇者「ユゥ~ッシャッシャッシャッシャッシャ!!!」
戦士「だがよ、近頃妙なヤツが現れたらしいじゃねえか」
僧侶「ああ……“勇者狩り”ね?」
戦士「おう、次々と名のある勇者を狩りまくり」
戦士「なんでも懸賞金数千万を誇る勇者でさえやられちまったとか」
魔法使い「しょせんウワサだよ。実在すら怪しいっていうじゃないか」
魔法使い「どうせ真相は、猛威を振るう勇者たちを少しでもビビらせるために」
魔法使い「国が流したデマってとこじゃないかな?」
僧侶「なるほどねぇ。“勇者狩り”のウワサが広まれば」
僧侶「狩られることを恐れた勇者たちが、勝手に大人しくなるって寸法ね」
戦士「ったく、実力じゃ勇者を抑えられねェからって、国もこすいマネしやがるぜ」
勇者「仮に実在したところで、俺たちにゃ敵わねェけどな!」ドン!
勇者「さぁ~て、いい感じに酔えたし、そろそろこの村で冒険を楽しむとするか!」スクッ
僧侶「さんせ~!」スクッ
戦士「よっしゃあ!」スクッ
魔法使い「いいねえ!」スクッ
勇者「行くぞ、みんな!」ドン!
マスター「あ、あのう」
勇者「ん?」
マスター「お出かけになられる前に……代金の支払いをお願いできますでしょうか」ピラッ
勇者「ん~?」
勇者「12万ゴールドか」
マスター「ええ、かなりの高級酒もお飲みになられてたので……」
マスター「旅のお方にツケにするってわけにもいきませんし……」
勇者「お前、勇者である俺に金払えっていうのか?」
マスター「いえいえいえ! 勇者かどうかは関係ありませんよ!」
マスター「たとえ勇者様であろうと、お代はいただきませんと……こ、困りますので」
勇者「俺は!」
勇者「勇者だ!」ドン!
勇者「びた一文払うつもりはねェ!」ドドン!
マスター「そ、そんなぁ……」
戦士「おいてめぇ、そんなに払って欲しいのか?」
マスター「え、ええ。私にも生活がありますから……」
戦士「安心しな」ニヤッ
戦士「今からこの村の家々荒らしまくって、金作ってきてやるからよ!」
マスター「えぇ!?」
魔法使い「大丈夫、すぐ終わるよ。ボクたちこういうの慣れてんだ」
魔法使い「家に堂々と入り込んで、金品を巻き上げるってのをね」
魔法使い「もちろん、抵抗したら命の保証はないけどさ」アハッ
僧侶「恨むなら酒場の主人を恨め、といっておくわね」ウフッ
勇者「そういうことだ!」ユシャッ
勇者「じゃあ、みんな行くぞぉ!」
勇者「俺たちの冒険──村荒らしの始まりだ!」バッ
三人「オーッ!!!」
マスター「あ……あ……」
剣士「──その辺にしとけよ」
魔法使い「!」
僧侶「!」
戦士「!」
勇者「!」
戦士「だれかと思えば、さっきの腰抜けじゃねえか。今なんつった?」
剣士「お前らのシケた酒代くらいは、俺が肩代わりしといてやる」
剣士「その代わり、とっととこの村から消え失せろ」
剣士「目障りなんだよ、お前ら」
戦士「…………」ピクピクッ
ガシャァンッ!
戦士「ナメたこと抜かすじゃねェか!」
戦士「俺たちゃ、勇者パーティーなんだぜ!?」
剣士「さっき聞いたよ」
戦士「ケッ、俺らをそんじょそこらのザコ勇者パーティーと思ってナメてんだろ」
戦士「俺たちのリーダーである、コイツの懸賞金を教えといてやろうか!」
戦士「通称“村荒らし”、懸賞金はなんと600万ゴールドだ!」
勇者「そうだ!」ドン!
シ~ン……
剣士「…………」
僧侶「あらあら、ビビって声も出ないみたい」
魔法使い「ケンカを売る相手をまちがえたね、気の毒に」
勇者「俺たちは勇者特権で手に入れた世界地図を使って」
勇者「小さな村だけを狙い、50を超える村を荒らし回ってきた!」
~
勇者『あるじゃねえかよ、コインと剣がよ!』ドン!
戦士『そこのねえちゃん、キスしてくれよ~! させねえと斬っちまうぞ?』
魔法使い『あちゃ~……新しい魔法を試したら、豚小屋全焼させちゃった』
僧侶『このお洋服いいわぁ~……もらってくわね』
~
勇者「今までずっとそうやって生きてきた!」
勇者「もちろん、これからもそうやって生きる!」ドン!
勇者「ジャマする奴ァ、許さねェ!」ドドン!
戦士「勇者、俺にやらせてくれよ」
戦士「俺の剣も、お前と同じく勇者特権でゲットした超高級品だからな」ギラッ
戦士「たまには人を斬ってやんなきゃ、可哀想だ」チャキッ
勇者「いいぞ!」
剣士「…………」チャキッ
僧侶「キャハハ、なにあれ!」
魔法使い「その辺で買える、安物の剣じゃないか」
魔法使い「ま、今のご時世、高級武具は勇者称号の持ち主に独占されてるけどさ」
勇者「あんな剣で戦士とやるつもりか?」
勇者「とんだマヌケがいたもんだ! ユ~ッシャッシャッシャッシャッシャ!」
剣士「これ、預かっててくれ」スッ
フード「分かった」チャキッ
戦士「……は?」
剣士「よし、やろう」サッ
戦士「てめえ、なんで剣を持たねえんだ! どういう意味だ!」
剣士「どういう意味って……察しが悪いな」
剣士「お前如き、素手で十分だって意味だよ」
戦士「…………」ブチッ
戦士「ぶった斬ってやる、このクソヤロウが!」
怒りの形相で、剣士に斬りかかる戦士。
戦士「──オラァッ!」ブンッ
スカッ
戦士(き、消え……!?)キョロキョロ
剣士「こっちだ」
戦士「!?」
ドゴォッ!
剣士の拳で、戦士は酒場の外までふっ飛んだ。
ドザァッ……!
戦士「あ、ぐ……が……」ピクピク…
僧侶「ウ、ウソでしょ!?」
魔法使い「戦士が一撃で……!?」
魔法使い(勇者でもないのにこの強さ……ま、まさか!)
魔法使い「お前、まさか……“勇者狩り”か?」
剣士「正解」
剣士「お前ら、さっきから俺のことウワサしてくれてたな。クシャミは出なかったが」
剣士「もっともお前らみたいな小物、狩るにも値しないがな」
剣士「次はリーダーの“村荒らし”さんが来るか? それとも消えてくれるか?」
勇者「う、ぐっ……!」
勇者(はっきりいって、戦士は俺よりも強いんだよな……)ゴクッ…
勇者「分かった!」
勇者「この場は……見逃してやる!」ドドン!
剣士「……次会ったら容赦しねえぞ」ギロッ
勇者は気絶した戦士を抱えると、仲間たちを連れ、一目散に村から逃げ出した。
マスター「ありがとうございました……!」
マスター「しかも、本当にあの人たちのお代まで払っていただけるなんて……」
剣士「いや、いいさ」
剣士「俺も久々にいい酒が飲めたから、そのお礼ってことで」
フード「おい」
剣士「ん?」
フード「さっきのゴミども……捕えるなり、殺すなりしなくてよかったのか?」
剣士「あんなのをいくら狩ってもキリがないし、平和は訪れない」
剣士「それに俺らの経験上、ああいう奴らはああして放してやった方が──」
剣士「さらに大きな敵に出会えるからな」
剣士「もしかしたら、とんでもない大物を呼び寄せてくれるかもしれない」
フード「フッ……なるほど」
<山道>
勇者「ハァ、ハァ、ハァ……」
勇者「ここまで来れば、もう大丈夫だ」
勇者(まさか、追いかけてきてないよな?)チラッ
魔法使い「あんな田舎の村で“勇者狩り”に出くわすとはね……ついてないな」
僧侶「次会ったら容赦しないとかいってたし……」
僧侶「しばらく村荒らしは控えた方がいいかもしれないわね」
僧侶「ほら起きて!」パァァ…
戦士「う、うう……」
魔法使い「大丈夫かい?」
戦士「いでで……くそっ! あのヤロウ……!」
僧侶「ちょっと、リベンジなんて考えないでよ! あんなのにとても敵わないわよ」
戦士「……分かってら!」
すると──
ザッ……
黒勇者「やぁ」
黒勇者「君たちも、勇者パーティーかい?」
勇者「ん?」
戦士「あァ!? なんだてめえらは!?」
黒勇者「今、非常に興味深い言葉を口にしてたね」
黒勇者「たしか“勇者狩り”だとか……」
僧侶「なんなのよ、いきなり!?」
魔法使い「アンタたちには関係ないだろ!」
戦士「俺たちの勇者は通称“村荒らし”、懸賞金は600万だ!」
戦士「見逃してやっから、ぶっ殺されたくなきゃ、とっとと失せ──」
勇者「あ、あなたがたは……ま、まさか……」ガタガタ…
勇者「四人全員が黒い鎧やローブに身を包み」
勇者「ゲーム感覚で殺戮と略奪を繰り返しているという──」
勇者「“黒勇者パーティー”!」
勇者「パーティーのリーダーである黒勇者の懸賞金は……たしか──」
勇者「2億7000万ゴールド……!」
黒勇者「おぉ~、ボクらのこと知ってるのかい? 嬉しいなぁ」
戦士(マ、マジかよ……!? “勇者狩り”の次は“黒勇者”!?)
魔法使い(懸賞金億超えの勇者なんていったらそれこそ)
僧侶(国が捕まえるのを諦めてるどころか、へりくだるレベルじゃないのよ……!)
黒勇者「よかったら、“勇者狩り”について教えてもらえるかな?」
勇者「お、教えます! もちろん教えます!」ヘコヘコ
黒勇者「──なるほど」
黒勇者「外見的特徴といい、君らを一蹴してみせた強さといい……」
黒勇者「ボクらの知っている情報と合致してるね」
黒勇者「どうやら、そいつが“勇者狩り”ってことで間違いなさそうだ」
黒勇者「で、そいつはここから西にある地図に載ってない村にいるんだね?」
勇者「そ、そうです! ろくな酒場もない、チンケな村でして……」
黒勇者「よぉ~し、さっき都市を一つ壊滅させてきたばかりだけど」
黒勇者「もういっちょ運動してみようか! なぁ、みんな?」
黒戦士「吾輩はかまわぬ」
黒魔法使い「久々に楽しめそうだねェ~!」
黒僧侶「戦いは好きじゃありませんのに、仕方ないですわね」
黒勇者「で、その村に行くにあたって、君たちに頼みがあるんだけど」
勇者「そりゃもう、案内でもなんでもやりますよ! ユ~ッシャッシャッシャ!」
黒勇者「通り道のジャマだからさ、死んでくれる?」ニコッ
勇者「え」
ザシュッ!
勇者「げあっ……!?」グラッ…
ドザァッ……!
鎧ごと胸をバッサリと斬られ、勇者は絶命した。
戦士「あ、あわわ……な、なんでだよ!? なんでだよ!?」
魔法使い「え、え……え……!?」
僧侶「ひぃぃ……っ!」
黒勇者「ん~……よく考えたら、なにも斬ることはなかったかな」
黒戦士「全くなにをやっておるか、黒勇者。無駄なことをするな」
戦士(よ、よかった……どうやら俺たちは殺されずに済みそうだ……)ホッ…
黒戦士「断末魔など上げさせる暇もなく、殺らなくてはな」ブオンッ
ドバンッ!
次の瞬間、戦士の体は縦に真っ二つになっていた。
ドチャッ……
< “一刀両断” 黒戦士 懸賞金1億4000万ゴールド >
魔法使い「う、う……うぅ……うぅぅ……」ガチガチ…
魔法使い「うわぁ~~~~~っ!」ダダダッ
黒魔法使い「おっと逃さないよォ~!」ボッ
黒魔法使いの放った光球が、逃げる魔法使いに触れるや否や──
ドッグワァァァンッ!!!
大爆発が起こった。
ビチャッ…… ビチャチャッ……
黒勇者「コラコラ、血や肉がこっちまで飛んできたじゃないか~」パッパッ
黒魔法使い「ゴメンゴメン、小生って派手好きなものだからさァ~。つい……」
< “爆破魔” 黒魔法使い 懸賞金8000万ゴールド >
僧侶「ひ、ひぃ……!」ガタガタ…
黒僧侶「あらあら、そんなに怯えないで下さいまし」
僧侶「お、お願い……!」ガタガタ…
僧侶「殺さないで……」ガタガタ…
僧侶「何でもしますから……命だけは助けて……っ!」ガタガタ…
黒僧侶「大丈夫、わたくしは他の三人とはちがいますわ」
黒僧侶「あなたのお命、助けてさしあげましょう」
黒僧侶「どうかご安心を」ニコッ
僧侶「あ、ありがとうございますぅ……!」グスッ…
村に向かう黒勇者一行。
ザッザッザッ……
黒勇者「──やれやれ、黒僧侶の“アレ”はいつ見ても食欲がなくなるよ」
黒勇者「生かさず殺さずの極みってやつだね」
黒戦士「うむ」
黒戦士「あんな状態で生かされるぐらいなら、死んだ方がよほどマシというもの」
黒魔法使い「ホントだよ。彼女も気の毒にねェ~」
黒魔法使い「黒僧侶に比べたら、小生ら三人はどれだけ慈悲深いか……」
黒僧侶「わたくし……殺生は好みませんので」
< “悪魔の使い” 黒僧侶 懸賞金6700万ゴールド >
黒戦士「村が見えてきたぞ」
黒僧侶「あらら、ホントに小さな村ですわね。地図に載らないわけですわ」
黒魔法使い「ねぇ……」
黒魔法使い「とりあえず小生が魔法を放って、村を全壊させるってのはどうだい?」
黒魔法使い「“勇者狩り”がウワサ通りの実力なら、それぐらいじゃ死なないはずさ」
黒魔法使い「生き残ってた人を小生らで殺ればいい」
黒勇者「いいね、それ! よし、それでいこう!」ワクワク
黒魔法使い「任せてくれよォ~!」ブゥゥン…
黒魔法使いは掌に光球を作り出した。
サイズは、先ほど魔法使いを爆破した時のおよそ五倍。
黒魔法使い「派手に爆発してくれよォ~……いっけェ~!」
ブオンッ!
黒魔法使いは、村めがけて光球を投げつけた。
ところが──
バシュンッ!
黒魔法使い「!?」
黒魔法使い「小生の魔法が……村に届く前にかき消された……!?」
黒僧侶「村を包み込むように、強力な結界が張られているようですわ」
黒僧侶「あれを破るのは、わたくしや黒魔法使いさんでも骨ですわよ」
黒戦士「ふむ……これだけの結界、一瞬で張れるわけがない」
黒勇者「なるほど、どうやら“勇者狩り”は──」
黒勇者「ボクらが来るってことを予測してたみたいだね」ニコッ
<村の外>
結界の外で黒勇者パーティーを待ち受ける、一人の男。
剣士「……来たか」
黒勇者「君が“勇者狩り”かい?」
剣士「そうだ」
剣士「その黒い鎧……お前たちは悪名高い“黒勇者パーティー”だな?」
黒勇者「そのとおり!」
黒勇者「村を守るあのぶ厚い結界……君の仕業だろう?」
黒勇者「よくボクらがここに来るって分かったね」
剣士「不気味な殺気が四つも迫ってくるんだ」
剣士「それを何の対策もせず待ち構えるほど、俺は自信家じゃないんでな!」チャッ
黒勇者「なるほど、やる気満々のようだ」チャッ
黒勇者「じゃあさっそく、ボクとお手合わせ願おうか! 狩れるもんなら狩ってみな!」
ガキィンッ!
ギィンッ! キィンッ! キンッ! ギンッ! キンッ!
黒勇者「へえ、やるね!」
剣士(さすが億超え……武器だけでなく、剣術も超一流だ!)
黒戦士「ほう……」
黒僧侶「あの黒勇者さんとまともに打ち合えるなんて……」
黒魔法使い「へぇ……“勇者狩り”をするだけのウデはあるようだねェ~」
ギィンッ! キンッ! ガキンッ! キィンッ! キンッ!
黒勇者「やれやれ、ボクも勇者としてはかなりいいセンいってると思ってたけど」キンッ
黒勇者「プライドが傷ついちゃうなぁ」ギィンッ
剣士「…………」キンッ
黒勇者「でもさ、“一人”でボクらを狩ろうってのはさすがにムシが良すぎだよね」ギンッ
黒勇者「なんたって、ボクには頼もしい仲間がついてるんだもんね!」
黒勇者「黒戦士! 黒魔法使い! 援護を頼んだよ!」
黒戦士「よかろう」チャキッ
黒魔法使い「オォ~ケェイ」ブウゥン…
剣士に斬りかかる黒戦士、光球を放つ黒魔法使い。
だが──
ガゴォンッ!
黒戦士「吾輩の剣を弾いた!? ──何者だっ!?」
バシュッ!
黒魔法使い「小生の魔法が相殺された!? ──だれだっ!?」
木こり「お前の相手は俺がする!」ズイッ
黒戦士「む……!」
黒戦士(あんな伐採用の斧で、我が剣を弾き飛ばしたというのか!)
行商人「ふう……危ない危ない」シュウウ…
黒魔法使い「小生の援護をジャマしてくれたのは……お前かァ~」
黒魔法使い(かなり強めに放ったのに……コイツ、やる!)
黒僧侶「あらあら、“勇者狩り”さんにも、ちゃんとお仲間がいらっしゃったのね」
黒僧侶「ではわたくしも参戦──」スッ…
ザッ……!
眼鏡女「あなたは私が抑えます」
黒僧侶「あら、まだお仲間がいらっしゃったの? わたくし戦いは嫌いなのに……」
黒僧侶「ですので──」
黒僧侶「呪法で動けなくしてから、じっくり料理してあげますわ」スッ…
バチバチッ……!
眼鏡女「はあっ!」
パキィンッ!
黒僧侶「なっ……!」
黒僧侶(象をも動けなくする、わたくしの緊縛呪法をあっさりと解除した!?)
眼鏡女「補助呪文の使い手同士、正々堂々戦いましょう」
黒僧侶「……お断りしますわ。さっきもいったように、わたくし戦いは嫌いなの」
黒僧侶「わたくしが大好きなのは……弱いものいじめですので」ニタァ…
黒勇者「君たちも四人パーティーだったのか、こりゃ面白くなってきた!」シュッ
剣士「全然面白くない!」シュバッ
キィンッ! キンッ! ギンッ! カキンッ! キンッ!
木こり「うおりゃあああっ!」ブオンッ
黒戦士「ぬうっ!」ブウンッ
ドカァンッ! ガギンッ! ガツンッ! ゴッ! ガキィンッ!
黒魔法使い「派手に爆破してあげるよォ~!」ボゥッ
行商人「生憎オイラ、死ぬ時はベッドの上と決めてるもんで!」バシュッ
ズガァンッ! ドゴォンッ! バゴォォォンッ!
眼鏡女「これは……先に気を抜いた方が呪文の餌食ですね」パァァ…
黒僧侶「このわたくしと、呪法で張り合うつもりですの……!?」パァァ…
バチバチバチバチ……!
黒勇者「すごい……君たち、すごいよ!」
黒勇者「勇者でもないのに、ボクらとここまでやり合える奴がいたとはね」
黒勇者「だけど、君たちは絶対にボクらに勝てない! 決定的な差があるのさ!」
剣士「……なんだ?」
黒勇者「それは──装備さ!」シュッ
バキィィン……!
剣士「!」
剣士の剣が折れ、刃が半分ほどになってしまった。
黒勇者「純粋なウデでは、もしかしたら君たちに分があったのかもしれない」
黒勇者「だけど、それは時の運とかで左右されるような些細な差さ」
黒勇者「一方、勇者特権のおかげで国宝級の武具を身につけてるボクらと」チャキッ
黒勇者「そこら辺で買えるような既製品を装備してる君ら」
黒勇者「この差はどうしようもない……決定的だよォ!」シュバァッ
バキンッ!
黒戦士「斧が折れたな。もはや打つ手はあるまい」
黒戦士「いや、そんな斧にここまで手こずった吾輩自身を恥ずるべきか」
木こり「……くっ!」
ズガァァァンッ!
黒魔法使い「だいぶ、魔法にキレがなくなってきたね。そろそろ魔力切れかい?」
黒魔法使い「一方、小生の黒いローブは、術者の魔力を自動回復してくれるからねェ~」
行商人「そんなのアリかよ……まいったな、こりゃ」ハァハァ…
バチバチッ!
黒僧侶「ついにわたくしの呪法が、あなたをとらえ始めましたね」
黒僧侶「もう少しで、あなたにもとっておきの生き地獄を味わわせてあげられますのね」
眼鏡女(うまく解除できなくなってきましたね……!)ビリビリ…
ザシィッ!
剣士「ぐ……っ!」グラッ…
黒勇者「あ~っと、惜しい! 急所だけはなかなか斬らせてくれないね、さすがだ」
黒勇者「だけど、その長さ半分の剣じゃ、もうどうしようもないよね」ニコッ
剣士「ふふ……どうしようもない、か……」
黒勇者「?」
剣士「俺たちの戦いはいつだって、“どうしようもない”の連続だった」
剣士「だけどそのたび、知恵を絞ったり、根性を出したり、運が良かったりして」
剣士「どうにかこうにか打ち勝ってきた」
剣士「俺たちにとって、どうしようもないってのはほぼ日常だったんだ」
黒勇者「……なにをいってるんだ?」
剣士「まだまだ勝負はこれからってことだ!」ダッ
黒勇者「へぇ~、死にかけだってのに、まだ目は死んでないね!」ダッ
ビュアッ!
キンッ! ギンッ! ガキンッ!
黒勇者「安物の剣にもかかわらず、うまく角度を調節して、ボクの剣を受けてるけど」
黒勇者「君の剣はもはやヒビだらけ!」
黒勇者「もう小突くだけでぶっ壊れる!」
剣士「…………」
黒勇者(目をつぶった? ──やっと諦めたか!)
黒勇者「そらぁっ!」シュバッ
パキィィィンッ……!
剣士の生命線──残り半分の刃が、ついに砕け散った。
黒勇者「!」
グサササッ!
派手に飛び散った破片が、黒勇者と剣士の顔面に突き刺さる。
剣士「ぐっ……!」ブシュウ…
黒剣士「ギャアアアッ! 目に、目にィ~~~~~ッ!」ブシュウウ…
木こり「くそっ……!」
黒戦士「刃を失った斧では、もはや勝機はないぞ──木こりッ!」ジャキッ
二つ名の“一刀両断”を成そうと、剣を大きく振りかぶる黒戦士。
木こり(そこだっ!)ビュッ
ズボォッ!
黒戦士「──がふっ!?」
柄だけになった斧、いうなれば棒が──黒戦士のノドに深々とめり込んでいた。
黒戦士「つ、突き……だ、と……」ゴボォッ…
木こり「俺は斧を失ったんじゃなく、槍を手に入れたんだ」
木こり「めったなことじゃ壊れない高価な剣をずっと手にしてたお前じゃ」
木こり「こんな発想できないだろうけどさ……!」
行商人「うぐっ……」ハァハァ…
黒魔法使い「さぁ、あとは魔力切れになった敵をじっくりと──」スッ…
行商人「…………」グッ…
ドシュンッ!
行商人の放った小さな光球が、一瞬にして黒魔法使いの胸を貫いた。
黒魔法使い「ぐぇ……っ!?」
黒魔法使い「な、なんで……あんな小さな……球、が……!」ゴフッ
行商人「オイラの残り少ない魔力の全てを、凝縮して発射したんだ」ハァハァ…
行商人「勝ちを確信したアンタが、ほんのわずか魔法防御を緩めた瞬間を狙ってね」ハァハァ…
行商人「魔法対決は魔力を多く持つ方が勝つんじゃない」ハァハァ…
行商人「うまく使える方が勝つんだよ……!」ハァハァ…
黒僧侶(三人とも劣勢だなんて、なんてことなの!)
黒僧侶(でも、わたくしの回復呪文ならたとえ瀕死の状態からでも──)スッ…
ところが──
バチバチバチッ……!
黒僧侶(う、動けない……ですって……!? このわたくし、が……!)
眼鏡女「……ふぅ。危ないところでした」
眼鏡女「緊縛呪法が完全に極まっていないのに、集中を逸らしてはいけませんよ」
眼鏡女「中途半端な呪法は、術を使った本人にハネ返されてしまいます」
眼鏡女「今のあなたは肉体も魔力も封じられ、もはやどんな術からも逃れられません」
黒僧侶「…………!」ググッ…
眼鏡女「安心しなさい。私にいたぶる趣味はないから」
眼鏡女「あなたの言動から、今も大勢の人が生殺しにされてることが推測できます」
眼鏡女「術者であるあなたの命を絶って、その方々を解放してあげなければね」スッ…
眼鏡女は黒僧侶に向けて、即死呪文を唱えた。
視力を失い、やみくもに剣を振り回す黒勇者。
黒勇者「があああっ! くそっ、くそっ! ──どこだ、どこいったッ!?」
ブンッ! ブオンッ! ビュアッ!
剣士は背後からそっと近寄り、黒勇者の首に両腕をかける。
ガシィッ……!
黒勇者「ぐうっ……!」ミシミシ…
剣士「敗因を教えてやろう」
剣士「お前たちは強い。装備品だけじゃない、剣術も魔法も一級品だ」
剣士「だけど、俺たちは追い詰められれば追い詰められるほど、強くなれる」
剣士「お前たちはピンチってやつを知らなさすぎたんだ」
剣士「もしお前たちが俺たちぐらい、“どうしようもない”を乗り越えていたら──」
剣士「今日勝ってたのは、多分お前たちだ」
黒勇者「ぐ、うっ……!」ギリギリ…
剣士「……じゃあな」グイッ
ボキィッ!
黒勇者(あ~あ、負けちゃった、か……)
黒勇者(まぁ、いいや……十分、楽しめ、た……)
黒勇者(それにしても、この人たち……)
黒勇者(何者……なんだろうか……?)
黒勇者(まぁ……もうどうでもいいことだけどさ……)
黒勇者(ところで……)
黒勇者(村を包むように張られたあの結界……解けてないな……)
黒勇者(向こうの行商や……メガネをかけた女に……)
黒勇者(あれを維持しながら戦う……余裕は……なかった、はず……)
黒勇者(なんで……解けて……ないんだ……?)
黒勇者(まぁ……もう……)
黒勇者(どうでも……いいこと、だけど……)
黒勇者(…………)
そして──
<村>
剣士「終わったよ」
フード「……そうか。ワシが出るまでもなかったということだな」
剣士「いや、お前の結界がなければ、村は破壊されていたし」
剣士「そうでなくとも、村に侵入されて、村人を人質に取られたりする危険があった」
剣士「もしそうなったら、俺たちは負けていた」
木こり「……さすがに億超えの勇者パーティーは手強かったな」
行商人「オイラも冷やっとしたよ。油断してくれなきゃ、やられてたかもね」
眼鏡女「まったくです。まだ呪法の影響が体に残っていますよ」ズキッ…
フード「フッ……」
フード「今の勇者は、カツカツで戦ってきた昔の勇者とはちがい」
フード「豊富な資金に強力な装備、部下を大勢持つ者もいると聞く」
フード「そんな怪物どもを相手にろくな装備もなしに、“勇者狩り”を挑むとは──」
フード「まったく酔狂な奴らだよ、キサマたちは」
フード「さすがは──」
フード「かつて魔王を命を賭して封じた四人組“勇者パーティー”といったところか」
剣士「俺たちはもう……勇者でも、戦士でも、魔法使いでも、僧侶でもない」
剣士「酒飲みの剣士、のんきな木こり、商売下手な行商人、子供好きの眼鏡女、だ」
剣士「それに──」
剣士「一番酔狂なのはアンタだろ……魔王さんよ」
剣士「俺たちと一緒に封印が解けて、どうするかと思いきや」
剣士「なぜか俺たちの力になりたい、といいだしてきやがった」
フード「……大昔の魔界は、力こそ全ての荒れ果てた大地だった」
フード「だからこそ、ワシはこの豊かな人間の大地を手に入れるため」
フード「かつて人間界に攻め入り……キサマらと相討ちになった」
フード「だが、ワシが封じられてから数百年で、魔界も大きく変わった……」
フード「ワシが不在となったためか、かえって魔族の自立心が高まり」
フード「異種族同士、互いに協力し合うようになり、荒れた大地を耕し」
フード「政治は民主制となり、今や人間界に攻め入る必要もないほど発展している」
フード「魔界をよりよくしようとしたワシがいなくなったことで」
フード「かえって魔界がよくなるとは……皮肉な話だ」
フード「キサマらがもう勇者パーティーでないというなら──」
フード「ワシももう、魔王ではないのだ」
剣士「…………」
フード「もはやワシは魔界には無用の長物……あとは静かに朽ちるのみ」
フード「しかし、そんなワシにも譲れぬものはある!」
フード「それはかつてのキサマらとの死闘だ!」
フード「ワシはあの血湧き肉躍る死闘を強く胸に刻みつけ」
フード「我が身を犠牲にワシを封じてみせたキサマらには、尊敬の念すら抱いておる!」
フード「だからこそ許せんのだ!」
フード「我が宿敵“勇者”の名を悪用する紛い物がのさばり」
フード「英雄である宿敵の名が、恐怖の象徴となり果てている今の人間界が!」
フード「先ほど酒場でゴミどもが、キサマらを“マヌケ”呼ばわりした時など」
フード「ハラワタが煮えくり返る思いであったわ!」
剣士「ハハ、かつての敵とはいえ、そうまでベタ褒めさせると悪い気はしないな」
剣士「……だけど俺たちだって、そう立派なもんじゃないさ」
剣士「かつての戦い……お前を戦闘不能にしたが、トドメを刺す力は残っていない」
剣士「残る手段は俺たち四人ごとお前を封印するしかないって分かった時──」
剣士「俺たちもけっこう悩んだんだよな?」
木こり「ああ、悩んだな。人生で一番悩んだ瞬間だった」
行商人「うん、オイラも正直いって家のベッドで眠りたかったし」
眼鏡女「私もあそこまでやったのだから十分では、と思っていました」
剣士「だけど、どっちが後悔しない選択か……って四人で多数決を取ったら」
剣士「みんな一致で“封印する”になったわけだ」
剣士「ここまでやったんだ、勇者パーティーとしてきちんと最後を飾ろうって」
剣士「もちろん永久に封印できるわけじゃないけれど」
剣士「あとはもう、後の世に出るだろう英雄に託そうって」
フード「うむ……そしてキサマらはワシとともに封印された」
剣士「あれから数百年、俺たち四人は、運命のイタズラかこうして蘇ってしまった」
剣士「しかも、同じく蘇ったお前には、もう人間と敵対する意志はないときた」
剣士「それならもう、俺たちも静かに暮らすだけ、と思っていたが──」
剣士「人間界は“勇者”によって、魔王がいた時よりひどい地獄になってしまっていた」
剣士「だから俺はまがりなりにも元勇者として、“勇者狩り”となって」
剣士「この荒んだ時代を終わらせようと決意した!」
剣士「きっとそれが、俺……俺たちに残された最後の仕事なんだろう」
木こり「そうだな!」
行商人「よくいったよ!」
眼鏡女「そのとおりです」
フード「さすが勇者だ」
フード「ワシは目立てぬゆえ、なるべく直接手を下すマネはせぬが」
フード「全力でバックアップさせてもらう」
フード「そして全てが終わった時、ワシは名もなき魔族として魔界へ帰還するつもりだ」
剣士「……ありがとう、魔王」
剣士「──ところで、めぼしい凶悪勇者はあとどんなのが残ってる?」
眼鏡女「そうですね。先ほど倒した黒勇者は除外しまして、えぇと……」
眼鏡女「三度の食事より殺しが好きな“殺勇者”懸賞金5億7000万ゴールド」
眼鏡女「スラム街の手下を率いて勇者になった“スラム勇者”懸賞金3億ゴールド」
眼鏡女「闇魔法のエキスパート“闇勇者”懸賞金1億1000万ゴールド」
眼鏡女「氷漬けにした人間を収集する“冬勇者”懸賞金3億5000万ゴールド」
眼鏡女「剣を使わず素手での殺戮を好む“格闘勇者”懸賞金3億2000万ゴールド」
眼鏡女「私兵を率いて各地を暴れ回る“貴族勇者”懸賞金2億8000万ゴールド」
眼鏡女「人でありながら魔王の子孫を名乗る“魔王勇者”懸賞金2億ゴールド」
眼鏡女「罠や策を練るのが得意な“罠勇者”懸賞金1億4000万ゴールド」
眼鏡女「女の大悪党“色勇者”懸賞金2億2000万ゴールド」
眼鏡女「大海原を縄張りに船で略奪を行う“海勇者”懸賞金4億ゴールド」
眼鏡女「──といったところでしょうか」
剣士「……先は長いな」
フード「ワシは子供など作っていないというのに……」
剣士「でもまぁ、泣きごとはいってられないな」
木こり「おうともっ! 俺たちがやらなきゃ、だれがやるんだ!」
行商人「そうさ! オイラたちならやれるさ!」
眼鏡女「ええ、今回の戦闘での反省点を生かし、次はもっとスマートに狩りましょう」
フード「うむ! さすがワシが見込んだ者どもだ!」
剣士「行くぞ!」
剣士「この“大勇者時代”を終わらせに!」
暴力と絶望が支配する大勇者時代に挑む、ほんのわずかな希望。
それはかつて宿敵同士であった、元“勇者パーティー”と元“魔王”であった──
<おわり>
空島に行く直前の町の次から次に変な奴や危ない奴が出てくる雰囲気が好きでした
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