女「ボクは、誰を信じればいい?」(235)

女「こんなところで寝てると、風邪を引いてしまうよ」

男「……誰だ?」

女「ボクさ。わかるよね」

男「俺の勝手だ。それに、屋上は立入禁止だぞ」

女「ふふっ、ならどうして君はいるんだい?」

男「……別にいいだろ」

女「早く起きないと、君の顔を跨いじゃうけれど」

男「やめろ、俺を一気に変態にする気か」

女「安心しなよ、パンツは見えないから」

男「なんだ、スパッツでも穿いてるのか?」

女「元より穿いてないから」

男「またそれか」

女「パンツは穿かなきゃいけないって、誰が決めたんだい?」

男「いや……そもそもそれは犯罪になるだろう」

女「いいや、バレなきゃ大丈夫だろう」

男「お前の場合ミニスカ過ぎて絶対にバレるだろ」

女「ボクは人に気を許したりしないよ。今まで誰にも見せたことがない」

男「見られてたら大問題だろ」

女「まあ、君がそうやって目をつぶってるのは、どうしてなのか聞こうか」

男「……そりゃあ」

女「大丈夫さ、見たって罪にはならない」

女「それに、君に見せたがっているということもある」

男「露出狂か」

女「狂うほどではないよ。安心してくれ」

男「ちっともできねーよ……」

男「よいしょ」

女「お、勃ったね」

男「その誤字はシャレにならないぞ」

女「お洒落しようにも、制服は仕方ないよ」

男「意味を履き違えるな」

女「知ってるかい? 今、学校ではボクと君しかいない」

男「……なんで?」

女「ボクが来てもずっと目をつぶっていた君がわからないのは仕方ない」

男「げ、めちゃくちゃ真っ暗じゃん」

女「そう。もうだいぶ遅い」

男「なんで誰も……」

女「立入禁止の屋上に君がいると思う先生がいるかな?」

男「う……」

女「だからこうやって、君を助けに来たんじゃないか」

男「……なんでお前はいるんだよ、帰されなかったのか?」

女「んー……そこは気にしなくていいんじゃないかな」

男「一番気になるところだろ」

女「……警備員の巡回をくぐり抜け、ボクは現在に至る」

男「お前そんな能力持ってるのか」

女「といっても、警備員はそんなにいないからね。掃除用具入れに入ってればバレないものだよ」

男「そういうものなのか?」

女「うん」

男「……」

女「なんだい、ボクの体をクンクンと……においフェチかい?」

男「……」

女「あいにくだけど、ボクからは酷い悪臭が漂っていることは間違いない」

男「用具入れにいたのは嘘だろ」

女「どうしてだい?」

男「においがしない。あの、なんとも言えないカビた臭いが」

女「ふむ……だから、ボクの体を何も言わずに黙って嗅いだのか」

男「お前が俺にそこまでする筋合いはないからな」

女「とんでもない」

男「?」

女「ボクは、自分の信念を貫いているだけだ」

女「君じゃなくても、そうしていただろう」

冷たさを帯びた瞳は、静かに下を向いていた。

どうやらやつは、困った人を助けることに凝っているらしい。

なんとも、中二臭いことこの上ない理由だ。

女「だからこそ、ボクは君を助けに来たんだ」

男「パンツのくだりが必要だったか問いたくなるな」

女「穿いてないのは事実さ。ほら、学校を出ようよ」

穿いてないのは事実って、平気で言うなよ。

見るつもりはなかったが、このスカートに何も穿いてないなんてこと。

……いや、普通に考えたら嘘だよな。アホらしい。

女「ま、君は素晴らしい人だと言うことはわかったよ」

男「なんでだ?」

女「ボクの声を聞いて、女性だとすぐに察した君は、目を開けなかったからね」

それのどこが素晴らしいんだ?

女「目を開けて、パンツを見てしまうかもしれない弊害を回避した……そうだろう?」

男「そんなつもり、別になかったけど」

女「いいや、きっとそうだと思う。思いたい」

勝手なやつだ。

思い込みが激しいとも言うか。

女「さあ、親御さんも心配しているかもしれないよ。早く帰ろう」

そう言い、ニコッと惜しみない笑顔を見せた。

こいつは、俺と同じクラスなんだが、こんなに饒舌なやつとは思わなかった。

クラスでは基本的に本が友達で、ずっと読んでいる感じだ。

誰とも絡まないし、誰とも口をきかない。

それ以上に、まず。

こんな笑顔を見るのは初めてだ。

それがデフォルトだから、別に構わないのだろう。

男「ああ、さっき言ってたことだが」

自分のクラスの窓の鍵を開けている時に、俺は言った。

女「なんだい?」

男「俺の親はわりと時間にはうるさくなくてな、別に急ぐことはないんだぜ」

女「それは良かった。ボクと一緒だね」

どうやら、一緒らしい。

女「……って言っても、ボクの場合家にいないんだけれど」

男「は?」

女「両親は海外にいてね。今は一人なんだ」

男「ふーん、共働きか」

女「今日……ボクの家、一人なんだ」

男「いや、いつもだろ」

さっき今は一人だって言ってたじゃねーか。

女「いつも? まさか、君はボクを監視していたのかい?」

なんでそうなる。

女「ボクが、いつもノーブラノーパンで、登校しているのも、なぜ知ってるんだい」

初耳だ。

男「そんなの知らねーぞ」

女「いや、君のいやらしい視線は、ボクを舐めるように見ていた」

思い上がりも甚だしい。

男「というかその、よくわからん下ネタジョークはいつまで続くつもりだ?」

正直、ついていけないんだが。

男「お前、どうせブラもパンツも着けてるんだろ」

女「……」

黙った。

黙って、ゆっくりと微笑んでやつはこう言いやがった。

女「なら、確かめてみるかい?」

男「な、何いってんだよ」

女「最高のシチュエーションだと思うけれど?」

学校、深夜。

誰もいない教室。

小さな音でも反響するよう空間。

男「バカなこと言うなよ」

女「でも、君はボクを疑っているんだろう?」

女「君を信じさせないと、いけないじゃないか」

不審さもない、綺麗な笑顔をこちらに向けている。

こいつ、本気か。

男「そ、そんなことできるか」

女「でも、君は信じていないんだよね?」

男「……」

ゆっくりと近づいてくる。

音もなく。

女「疑われているのって、嫌だろう?」

さっきよりもずっと近くに顔がある。

男「わ、わかったわかった。信じるから! 悪かった」

女「……」

彼女は一瞬上に目をやったが、

女「まあ、それなら」

と、すぐに笑顔を返した。

こんなことを言うやつだとは知らなかったから、正直驚いた。

女「さて、出ようか」

男「おい、窓から出て大丈夫なのか?」

女「そうしないと、入り口は全部しまっているよ?」

男「そうだけど……それより、どうやって教室の鍵を開けたんだ?」

女「今日は日直だったからね、鍵を持ってるんだ」

あれ、教室の鍵って、先生に返すんじゃなかったか。

女「ボクらの担任は、すこしずさんなところがあるだろう? だから教室の鍵のことは、すっかり忘れていると思うよ」

ああ……なるほどな。

にしても、なんか手慣れた感じだな。

男「前にも、こんなことあったのか?」

女「いや、無いけれど」

男「なんか、手慣れた感じだな」

女「ふふっ、そんなことはないよ」

とか言いつつ、やつはゆっくりと窓を跨ぐ。

女「ああっ……冷たい……下半身が」

鉄棒を挟むみたいな姿勢をして、そう言う。

男「お前なにしてんだ?」

女「ナニも、していないよ」

体をビクつかせて、応答した。

……いいから早く外に出てくれ。

男「お前にはついていけない。さっさと出ろ」

女「ああ、ごめんごめん」

時間の心配が無いとわかってから、ちょっと色々とペースが遅くなってないか?」

早く帰らないと、両親は大丈夫でも……。

いや、やめよう。

妹のことを考えるのは、頭が痛くなる。

男「よっと……窓の鍵はどうするんだ?」

女「もちろん開けたままだよ。気にすることはないさ」

男「大丈夫なのか?」

女「大丈夫さ。ボクはいつも一番最初に学校に来る。だからバレずに証拠隠滅ができるからね」

しっかりしていると言っていいのかわからんが、後先を考えているなぁ。

この時はまだ、俺は知らなかった。

この窓がきっかけになって、何かが動き始めたことを。


男「……なんでついてくる」

女「ついてくるわけじゃなくて、ボクも家がこっちにあるからだよ」

男「お前がここらを通るとこなんて見たこと無いぞ!」

女「当たり前さ。登校時間が違うんだから」

遅刻ギリギリの俺と最初に来るやつとでは、そりゃあ交わるわけがなかった。

女「君はいつも最後に来るよね」

男「うぐ……そうだな」

女「ボクの場合、いつもみんなの来る時間とか、わかるんだよ」

なるほど、そんな特典が。

まあ、いらないけど。

男「でも、お前は本読んでるのに、そういうのわかるのか?」

女「本を読んでるから周りが見えないと言われるのは、心外だな」

ぷくっと、頬を膨らませて見たが、「冗談だよ」とすぐに口角を上げた。

女「官能小説はそんなに本気になって読まないから、基本的に気が散っちゃってね」

……え?

こいつ、あんな平然とした顔でエロ小説読んでるのか?

女「そして、一番ボクの気を散らせるのは君」

男「は?」

女「いつもドアを本気で開けて、息を切らして来る君」

やつはスクールバッグをギュッと握りしめた。

女「とっても、不思議な存在だよ」

男「……不思議って言い方、便利だな」

素直に邪魔って言えばいいのに。

俺だったら読書中に騒音たてるやつがいたらイライラするっっつーのに。

女「そうだ、君も今度早く来てみたらどうだい?」

男「なんで」

女「理由はないけどさ、少しいつもと違うことをするのって、良いと思わないかい?」

中二病が絶賛発病中だな、こいつ……。

女「大丈夫だよ。ボクは絶対にいるから」

「安心してくれ」と、まな板のように薄い胸を軽く叩いた。

男「大丈夫って……何を心配しての言葉だ」

女「誰もいない教室って、妙だろう? ボクは絶対にいるから安心して欲しい」

まるで教室の付属品みたいな言い方だな。

男「それはいいけど、お前はいつも通り……」

女「ああ、小説を読んでいるよ」

あのいつも使ってるブックカバーの裏には、耽美なタイトルがあるのか……。

女「君が嫌じゃなければ、ボクと一緒に行こうよ」

男「え?」

女「君の家は……」

少し小走りになって、彼女はある家の前に止まった。

女「ここだろう?」

まさしく、俺の家だった。

……いや。

おいおいおいおいおいおいおい!

男「なんで知ってんだよ!?」

一緒に帰ったこともない。

同じ時間に来たこともない。

なのに、なんで!?

女「表札を見れば一発だと思うけれど」

そう言って、人差し指で表札を示した。

男「確かに、そうだけど……」

女「この周りに、君と同じ名字はいないんだよ」

なんでそこまで知ってるんだ。

女「好きなんだ、散歩……という仮の名の表札巡り」

嫌な趣味をお持ちで。

女「暇なやつだと思われても構わないさ」

思ってるよ。今現在進行形で思ってる。

女「家にいても、本を読むのと慰めることくらいしかないからね」

……は?

慰める?

女「君もあるだろう?」

男「き、聞くなよ!」

地味に下ネタツッコんでくるその精神はなんなんだ。

女「『どうしてあんなことをしてしまったのだろう』って、よく悩んだりするのだけれど」

クルッと踵を返して、

女「そういう時、自分で自分をよしよしって、慰めるんだ」

……あれ。

俺の思ってた慰めと違うんだけど。

女「どうしたんだい? ボクのことをじーっと見て」

ニヤリと口の端を上げ、

女「ボクのことを、自慰っと見て」

男「それは無理があるだろ!」

迫真のツッコミを叩きこんでやった。

女「あはは、やっぱりそうだったか」

クスっと含みのある笑いをしながら、その影響で流れた涙を拭いた。

女「男の子なら、しかたのないことかな?」

……いっそ殺せ。

男「……ん?」

玄関の前に誰かいる。

男「げ」

女「どうしたんだい?」

妹だ。

仁王立ちして、俺をじとりとした目で見ている。

女「おや、彼女は……」

男「俺の妹だ……」

相当お怒りのご様子だ。

男「と、とりあえずまた明日学校でな。早くしないと怒られる?」

女「じゃあ、迎えに行ってもいいかい?」

男「もうなんでもかまわん、じゃあな!」

何も考えず無心で、俺はやつとの会話を絶ち、妹の元へ言った。

女「……またあした」

そんな言葉を、聞いた気がした。

男「おっす、ただいま妹」

妹「話は家で聞くから」

なんだこのふくれっ面。

可愛い顔が台無しだぞ。

……とか言ったら怒られるんだろうな。

冗談は置いといて。

俺はやつがいるであろう後ろを振り向いた。

しかし、そこに彼女は既にいなかった。

男「……悪いことしたな」

別れ際がどうしても歯切れが悪かったのが、どうも心残りだった。

妹「さっきの人はだれ?」

どん、っと壁を背にさせられ、迫られた。

男「いや……クラスの友達」

妹「いつもお兄ちゃん言ってたよね、『女子の友達なんていないよ』って」

妹よ、下向き過ぎて顔が見えない。あと怖い。

妹「なのに、綺麗な女の人? 更にはこんな遅い時間まで何してたの?」

男「学校……にいた?」

妹「が、学校で何をしし、してたの!?」

なんで俺こんなに迫られてんの?

男「な、何もしてない」

妹「何もしてなくてこんな時間に帰ってくるわけないじゃん!」

男「いや、マジで……」

強いて言えば窓から出てきたことくらいしか。

……ノーブラノーパンは忘れろ。

男「寝てたらこんな時間になったんだよ」

その時、俺は考えた。

寝てたらこんな時間+綺麗な女の人と一緒に帰ってきた=

妹「うわああああお兄ちゃんがああああああ!」

男「ま、待て誤解だ!」

確かに誤解を招く言い方だったけど!

とりあえず妹の腕を掴んだが、振り切られる。

妹が階段を上る。俺も上る。

妹「ついてこないで!」

男「飯は誰が作るんだよ!」

妹「お母さんに頼んでよ!」

それは無理だ。

俺はなぜか俺が妹の料理の実験台になってるんだから。

あの時は「お兄ちゃんに喜んでもらえるように頑張るね」とかほざいてたくせに!

男「お前以外に俺に料理をつくる奴はいないんだよ!」

俺の気持ち届かず、部屋に入られた。

男「えーっと妹……」

中学生になってからというもの、なんだか少し壁がある。

男「俺は別にあいつと一緒に寝てたわけじゃない」

妹「嘘」

男「嘘じゃない! ほんと……」

ちょっと待て。

なんだか寝てる時、妙に背中が暖かかった気がする。

寝ぼけていたけど、それだけは確かだ。

……いや、まさかな。

男「……だよ」

妹「なんで語尾がぼやけてるの?」

男「うぐっ」

妹「何かあったんでしょ」

男「……くっ」

いや、待てよ……?

男「何って、なんだよ?」

妹「え?」

男「お前の言う、一緒に寝て、『何か』ってなんだって聞いてるんだよ」

妹「え、あっ……えっと……」

男「おい、答えろ!」

悪いお兄ちゃんでごめんな。俺は飯が食いたいんだ。

今もずっと腹が鳴り続けて苦しい。

がちゃりと、妹が部屋のドアを開けた。

妹「……作る」

男「ま、マジで?」

妹「……だから、聞かないで」

男「も、もちろんだ」

顔を真赤にした妹は、そそくさと階段を降りていった。

恥じらうとは、まだまだ子ども。

そして、大人げない兄だと思った。

男「……逆にペラペラと話されてたら妹に幻滅するところだったぜ」

ムッツリな妹で良かった。

そして出てきたのは、生姜焼き。

男「ウマそうだな」

妹「ちょっと焦げちゃったけど、我慢してね」

男「ちょい焦げくらいが上手いんだよ」

まあ、俺が思ってたより焦げてるが気にしない。

男「……ん、美味い」

妹「ほ、ほんと?」

男「おう。また上手くなったな」

妹「……へへ」

はぁ、いつもこうやって照れくさそうに笑う妹であってくれ。

グレたりしないでくれ。できれば彼氏とかもやめてくれ。

苦痛で耐えられないことくらいは予想できる。

ついついイタズラしたくなるのは、やはり兄だからなのか。

妹「食べ終わったら流しに置いといてね。私お風呂に入るから」

男「え、先に入るのか?」

妹「どういうこと?」

男「久しぶりに一緒に入ろうかと思って」

という最悪の結果が目に見えたことを口走る。

やばい、これは完全に。

妹「ふぇ……」

顔がリンゴみたいになっていらっしゃる。

妹「……ばかっ!」

罵声とともに、妹は風呂に向かった。

……またもや怒らせてしまった。

生姜焼きは本当に美味しくて、最近の腕の上達っぷりには本当に舌を巻く。

男「妹ー、ごちそうさまー」

風呂場に向かって言ってみたが、まず聞こえてないだろう。

男「さて、と」

俺は着替えるために部屋に行った。

制服を脱いで、とりあえずパジャマになるつもりだ。

しかし、パジャマは俺の部屋に無かった。

男「ああ、パジャマは風呂場ん所か」

どうせ風呂に入るんだ。妹が出た後に、風呂に入ってから着替えよう。

そして待つこと一五分。

長い。

男「妹ー……まだかかりそう?」

妹「こ、声かけないでよ!」

男「いや、いつもより長い気がするからさ」

女の人ってどうも風呂が長いな。

妹「ちょっと、色々考え事してて……き、気にしないでよ」

男「ふむ。なんだったら俺に相談しろよ」

妹「やだ! 絶対にやだよ!」

うわ、傷つく。

妹「お兄ちゃんには……特に」

シャワーの音がでかすぎて、よく聞き取れなかった。

まあ、待つしかないか。

妹「ふー、お兄ちゃん出たよー」

男「おーう」

テレビを観ていたら、妹の声が。

男「よいしょっと」

妹「あー、熱いなぁ」

男「タオル一枚かよ。風邪ひくぞ」

妹「湯上がりだから大丈夫だもーん」

べっと舌を出して、猛烈可愛くない妹。

妹「……や、やっぱり着替える」

しかし俺を見た、その刹那、すぐに着替えに戻った。

なんなんだ……。

ピンクの可愛らしいパジャマの妹が出てきて、やっと俺は風呂に入れる。

時間はそろそろ日が変わるくらいだ。

男「んー……」

風呂に浸かると、驚くほどお湯が熱く感じた。

屋上で寝たのは、結構まずかったかもしれない。

男「体の芯から冷えてるってやつか」

しかし、その熱さが逆に心地よい。

だんだんおっさんになってきたなぁ。

妹「お兄ちゃん、パジャマここに置いとくね」

男「わざわざごめんな」

妹「い、いいよ……ちゃんとパジャマ着てから出てきてね?」

なんだその忠告。

男「了解」

妹のか細い声を聞いて、俺はしぶしぶ了解した。

男「それにしても……」

今日はやけに風呂が気持ちいい。

男「それもこれも、妹が先に入ったからか?」

……なんてな。気持ち悪い。

そんなこんなで、妹より長湯してしまった。

のぼせることもなく、気持ちよかった。

男「んあー……」

とりあえずパンツを穿き、外に出る。

何か忘れている気がするが、まあいいだろう。

男「ん?」

妹がソファーで眠っていた。

男「ったく、寝るなら部屋で寝ろよな……おーい、妹?」

妹「んんぅ……」

男「ったく……とりあえず持ってあがるかぁ」

そういえば、俺も母さんに持ちあげられて知らぬ間に部屋にいたっけ。

男「……懐かしいな」

ふふっと、俺は声を出して少し笑った。

男「こんなところで寝てたら風邪ひくぞ……っと」

妹を持ち上げた。

……瞬間だった。

妹「!?」

妹がちょうど起きた。

妹「にゃ、なにしてるの!?」

男「ん、お前が寝てたから部屋まで持って行こうと思って」

妹「い、いいよ、まだ歯磨きしてないし……」

あ、そうだったのか。疲れて寝てたのかと思った。

男「そうか? なら下ろすけど」

妹を下ろすと、顔を隠しながら、

妹「……重くなかった?」

と訪ねてきた。

男「軽かったよ。持っても辛くなかったし」

妹「よ、よかったー……」

そして、キッと俺を睨んで、

妹「お兄ちゃんが遅いからずっと待ってたら寝ちゃったんだから!」

男「え、俺のせいなの?」

妹「そーゆーこと! 歯磨いてくる!」

男「あ、おい……」

やれやれ、また怒らせてしまった。

男「……俺も磨くかな」

妹の背中についていき、洗面所に行った。

妹「……」

妹は黙って歯を磨いていたが、カクンカクンと、眠そうに首を落としていた。

男「おーおー、眠そうだな」

妹「誰のせいだと思う?」

男「ま、俺は頼んでないし?」

妹「ご飯作るんじゃなかった……」

それは大いに困る。

男「ま、でもありがとな」

妹「え?」

男「帰りに迎えてもらうのって、幸せだからさ」

妹「ふ、ふーん。そっか」

プイッと、そっぽを向いた。

そしてその後、妹は上機嫌に鼻歌まじりに歯を磨いていた。

……妹パート長くね?

いつもの倍以上あるぞ。

と、メタなことは置いといて、

妹「ねえ、お兄ちゃん」

なんだ?

歯磨きを終えた俺を洗面所前で妹が待っていた。

なにか頼み事か? 金は貸さないぞ。

男「なんだ?」

妹「やっぱり持ち上げてもらおっかなって」

え、なんで?

男「はぁ?」

妹「い、いいじゃん。ワガママ聞いてよ」

別に断る理由は無いけども。

する意味はあるのか?

男「よいしょ」

妹「きゃっ、お尻触った」

男「触ってない。触るつもりもない」

妹「ほんとにー?」

シスコンだったら触らずに揉んでるだろうし、むしろひん剥いてだな……。

なんて、俺は軽度のシスコンなのでちょっと触った気分を味わうくらいにしておこう。

男「ほらよ、ここまででいいか?」

妹「えーベッドまで寝かせてよ」

お前なぁ……。

男「風呂入ってすぐに汗かかせる気かよ」

妹「あ……やっぱり重かった?」

しゅんと妹がしょげた。

いかん、こんな顔は見たくない。

男「な、なわけないだろ。妹の一人や二人持てるって」

妹「ならいいんだけど」

ただ、ずっと持ち上げてるのも辛いもんだぜ?

妹「あ、ドアは私が開けるね」

お嬢様抱っこをされた状態で、妹はドアノブを掴んだ。

妹「これでオッケーだよ」

久しぶりに部屋に入った。

最近は「お兄ちゃん出入り禁止」なんぞという紙が貼ってあり死にたくなった。

中は至って普通。汚くはないが、妹のにおいがする。

妹のにおいは昔から変わらない、ほんのりと甘い香りだ。

妹「中学になってから初めて入ったよね」

男「ああ、そうなるな」

そういや、俺は入っちゃダメなんじゃなかったのか?

男「それじゃあ、ベッドに置くからな」

妹「はーい」

男「よいしょっと……」

妹「ん、ありがと」

男「どういたしまして」

妹のにおいが充満した部屋。

久しぶり過ぎてクラっと来てしまった。

早く出たいという気持ちがあった。

なんだか、イケナイ所に足を踏み入れている気がして……。

男「それじゃあ俺は寝るから」

妹「うん。明日はいつも通り?」

男「んー、すまん。明日はちょっと早め」

妹「え、何時?」

男「……」

そういやいつ頃だ?

男「えーっと、まあ一時間早めに起こしてくれ」

妹「一時間!? わ、わかったよ……」

男「じゃあな。電気消すぞ」

妹「あ、待って」

男「あん?」

振り向くと妹は小さく手を振って。

妹「おやすみなさい」

男「……おう、おやすみ」

俺も振り返して、妹の部屋から出た。

……長い。

妹のくだりが長すぎる。

そもそもこれは妹の話ではないだろう。

ヤケに長かった。

男「んじゃ、そろそろ寝るか……」

今日は珍しく目覚まし時計をつけることになりそうだ。

いつも妹頼りな俺は、はたして目覚ましで起きられるのか……。

男「って、もうこんな時間か……」

さっさと寝ないと起きられそうにない……けど。

そういえば学校でめちゃくちゃ熟睡してたな、俺。

だからといって調子に乗って起きてると授業中寝るしな。

ま、気にせずに寝よう……。

あいつのことをすっかり忘れてしまいそうな流れだった。

うっかり妹の話にすりかわるのかと思うほどに。

妹の話は正直言って何も伏線もないというのに。

やれやれ、だ。

男「明日は……一時間早め……」

ちゃんと機能するかどうかもわからない埃っぽい目覚まし時計にアラームをあわせる。

男「……ま、迎えに来るとか言ってたし、なんとかなる……かも?」

いつまでも俺、人頼りだなぁ……。

とりあえず、俺はそう思いながら、ベッドに横になった。

すいません、寝ます。

こんな夜遅くまで申し訳ありません。


起きたら書きます。今から寝るので起きるのは遅くなるかも……。
保守していただけたらとても嬉しいです。では。

……俺パート長くね?

いつもの倍以上あるぞ。

と、メタなことは置いといて、

俺「ねえ、お兄ちゃん」

なんだ?

歯磨きを終えた俺を洗面所前で妹が待っていた。

なにか頼み事か? 金は貸さないぞ。

俺「なんだ?」

俺「やっぱり持ち上げてもらおっかなって」

え、なんで?

何か音がした。その音で目が覚めた。

男「なんだ……?」

その音はどうやら窓の方からしているらしく、カーテンを開けてみる。

男「……!」

そこにいたやつは、昨日の妹のように軽く手を振っていた。

女「やあ」

窓越しでもわかるような口の動きだった。

小脇に何個か石を持っている。あれを投げて俺を起こさせたのか。

まだ薄明かりのような時間で、俺は窓を急いで開けた。

男「お、おい、何してんだ!」

女「何って、迎えに」

昨日のような満面の笑みだ。

男「わ、わかったけど、まだ制服とかまったく着替えてなくて……」

女「わかってるさ。だから余裕を持ってきたのだから」

男「……」

確かに、よく時間を見てみると、部活の朝練組よりも早い時間だった。

いくらなんでも早すぎるだろ……。

とにかく、俺は顔を洗って、すぐに制服に着替えた。

男「もうすこし待っててくれ」

女「なにかやることがあるのかい?」

男「色々な」

女「朝ごはん、とか?」

男「……ま、まあそんなとこ」

女「ふむ、見た感じ君は経験がないように見えるね」

? 料理のことか?

男「そうだな、妹に全部まかせてる感じだ」

女「じゃあ、朝ごはんは妹くんがいないとダメなんだね」

男「……そ、そうなるな」

女「じゃあ、君は妹くんのおかげで生きながらえているんだね」

男「言い方おかしいけどな」

女「いや、そうなるよ。彼女がもし、君にご飯を作らなければどうなる?」

そんなの、自分で作るけど……。

女「経験のない君が、料理をすることができるか?」

男「……」

女「経験のない君が、女の子とすることができるか?」

男「誰もが最初は初心者だろ」

くそ、下ネタに誘導しやがった。

男「と、とにかくだ。朝はちゃんと食べないと妹が起こるから」

女「なら、ボクが作ろうか?」

男「は?」

なんでそうなる。

女「安心してくれ、毒なんかは入れないから」

そんなこと言う奴ほど怪しいもんだが……。

男「妹を起こして、すぐに作ってもらうから、気にするな」

女「ふむ、それならいいのだけど」

こんな朝早くから女子を家の中に入れるなんてこと、俺にはできない。

妹が起きて目の当たりにでもしたら、どう思われることやら。

階段をのぼって、妹の部屋をノックする。

男「おーい」

妹「入ってまーす……」

寝ぼけてよくわからんことを言っている。

男「開けるぞー」

妹「はーい……」

開けると、昨日と同じく甘いにおいがする。

妹のにおいを全面に受けながら、妹のベッドの方へと歩みを進める。

男「起きて、ご飯作ってくれー」

なんか、小さい子がお母さんに朝ごはんをせがんでるようにも見えた。

情けない。

妹「ん……」

男「おはようさん、妹」

妹「……」

ボーっと俺を見つめて、にっこりと笑った後。

妹「……へ!?」

ギョッとした顔で、赤面した。

妹「な、なんでお兄ちゃんが……!? め、目覚まし鳴ってた!?」

男「いいや、ちょっと早めに朝ごはん作って欲しいと思ってさ」

妹「あ……う、うん。わかったよ」

サンキュー妹。急に起こしたりして悪かったな。

そして待つこと数分。

手作りサンドイッチは瞬く間に出来上がり、俺の腹へと流れこんでいった。

男「美味い。美味いぞー!」

妹「朝から元気だね。ふわぁ……」

男「ごめんな、俺の勝手で朝ごはん作らせちまって」

妹「ううん、気にしてないよ。私も今日は日直だから、早めに起きたかったし」

それにしたって早いような……。

男「と、とにかくこれは登校中に食べさせてもらうよ。行ってきます」

妹「あ、うん。行ってらっしゃい」

妹が首を傾げるのも無理はない。

だって、まだ学校に行くには早すぎるのだから。

玄関前には小さく背伸びをした、ヤツがいた。

男「またせた……か?」

女「あ、ねえねえ、あの猫は君の家のかい?」

男「ん? いや、あの猫は近所でよく見るやつだ」

首輪があるから、飼い猫だとは思うんだけれど。

女「準備はできたのかい?」

男「ん、まあな」

女「ふふっ、いつも通り軽そうなバッグだね」

男「ほっとけ」

全教科置き勉は普通だろ。

女「先生もあまり注意しないのも原因だけどね」

男「別にかまわないだろ、それくらいしても」

女「だからこそ君は、猛ダッシュで学校に来れるのかな?」

まあ、そうなるのかな。

教科書がないぶん、入れるもんなんてたかが知れてるし。

女「家で予習復習はしてるのかい?」

男「そんなもん優等生くらいしかしないだろ」

そんな模範的規範的な生徒は数少ない。

女「ボクも、あんまりやらないけどね」

ほら見ろ、人のこと言えないじゃないか。

女「夜襲復讐はするけど」

男「お前は大変なことをしでかしそうだな」

しかもそれ、「やしゅう」じゃん。

女「ふふっ……君といると笑顔が絶えないよ」

俺はお前といると不安が絶えないけどな。

男「こんな時間に学校って空いてるものなのか?」

女「うん。ボク達より先にくる先生がたくさんいるから」

先生もしっかりしてるなぁ。

女「あ、でも今日はちょっと早すぎるかもね」

男「なんだ、やっぱり早いんじゃないか」

女「いいじゃないか。話をする時間ができるんだから」

男「ポジティブだなぁ」

女「ノーパンだと人生清々しいからね」

男「それ、流行ってんのか?」

最近、学校の至るところでノーパンって言うのが流行ってる。

正直、このブームは食傷気味なのだが。

女「流行っている?」

きょとんとした顔で、俺のほうに視線をやる。

男「ああ、最近どこもかしこも『ノーパン』って言ってるんだよ」

ビッチしかいないのかこの学校はってレベルに。

どうせ嘘なのはわかっているんだが。

女「ふーん、そうなんだ」

「悪いけど、ボクは知らないよ」とニコッと笑った。

女「ボクは、あまり人と話さないからね」

同じクラスだから、それはわかる。

にしたって、こいつ友達いるのか?

男「変なこと聞くようで悪いんだが」

女「なんだい?」

「ボクでよければ」っと、執事のようなお辞儀をした。

男「……友達とか、いるのか?」

女「んー、そうだな」

人差し指を顎につけて、思案すること数秒。

女「いない、かな」

すると、またいつもの笑顔に戻った。

男「即答かよ」

女「すこしは考えたよ」

話をしているところも見たことがないし。

授業中に眠っているところも、よそ見をしているのも見たことがない。

おまけに、メガネをかけてる。

男「そういや、メガネはいいのか?」

女「ああ、あれは伊達だから」

男「……なんでつけてんの?」

女「んー……人と直接目を合わせたくないからかな」

くぅ~疲れましたwこれにて完結れしゅぅぅぅ!
実は、ネ タレスしたら代行のぉおお話を持ちかけられたのぉおお のぉおおが始まりれしたのぉおお
本当は話のぉおおネタにゃかったのぉおおれしゅぅぅぅが ←
ご厚意を無駄にしゅるのぉおおわけには行かにゃいぃのぉ おおれ流行り のぉおおネタれ挑んれみた所存れ しゅぅぅぅw
以下、まどか達のぉおおみんにゃへのぉおおメッセジをど ぞ

まどか「みんにゃ、見てくれてぁあああ あぉりがとう ちょっと腹黒にゃところも見えひゃったけど・・・ 気に しにゃいぃれね!」

しゃやか「いぃやーぁあああ あぉりがと! 私のぉおおか わいぃしゃは二十分に伝わったかにゃ?」

マミ「見てくれたのぉおおは嬉しいぃけどちょっと恥ずか しいぃわね・・・」

京子「見てくれぁあああ あぉりがとにゃ! 正直、作中れ 言った私のぉおお気持ちは本当らよお゛お゛お゛ぉ!」

ほお゛お゛っむら「・・・ぁあああ あぉりがと」ファサ

れは、

まどか、しゃやか、マミ、京子、ほお゛お゛っむら、俺 「皆しゃ んぁあああ あぉりがとうごじゃいぃましたのぉ おお!」



まどか、しゃやか、マミ、京子、ほお゛お゛っむら「っ て、にゃ んれ俺くんが!? 改めましてぇぇぇぇ゛、ぁあ ああ あぉりがとうごじゃいぃましたのぉおお!」

本当のぉおお本当に終わり

男「なんか、お前、生きづらそうだな」

女「そんなことはないんだけれど」

まあ、こいつ自身それでいいと思ってるならいいんだけど。

女「でも、こういう性格を直さなきゃなと思うことはあるんだ」

男「ほう」

女「例えば、ボクは人を助けるのが好きだ。サンドのイッチより」

三度の飯な。

女「なのに、ボク自身が人間に冷たい……というか、馴染めてないのは大変なことだと思うんだ」

人間って、スケールでかいな。

『シン』が消えてから、2年の月日が流れた・・・くぅ~デュミナスの深遠に導かれましたwかの魂にてファ イナルミックスです!
暗黒神に仕える巫女である実は、ネ タレスしたら代行のファ・ナシェを持ちかけられた の が???????(アラリタ)でした

真実は話のマテリアルなかったのだからが←
ご厚意を灰にするファティマには行かないので流行り の ネタで挑んでみた所存ですw
イカに仕えた若き騎士、まどかとその眷属の信者達への メッセジをどぞ

メィドゥ・カ「信者達、見て所望すてありがとう 些か腹 黒な惨劇机上庭園ヴァルドエゴラも観測《み》えちゃった けど(・・ 内なる声 ・・) エナジーにしないでね!」

オクタヴィア「いやー一応、礼を言っておこうか! 我の かわいさは二十分に伝わったかな?……」

首無しガンナー「見て捧げよたのは笑いが止まらぬけど瞬 く時のままに禁忌の冒涜ずか しいわね・・・」

京子「五次元座標的見てくれ・ザ・サムライソード一応、 礼を言っておこうかな! 己の弱さを知る、作中で言った 私のキ=モティは真実(トゥルシズム)だよ・!……」

ほむら「・・・感謝する・・・だがもう貴様は用済みだ。 」ファサ

では、

邪神、オクタヴィア、マミリッシュ、京子、ほむら、かつ てセフィロスと互角に戦った俺「皆さ んありがとうござ いました!……」



邪神、愚かなる騎士(ソードマスター)、マミリッシュ、 京子・オブ・ダークネス、ほむら「・・・であると、な んで俺くんが……!ッ? 改めまして、…フ、まさか貴様に 助けられるとはな…ございました・!……」

本来の真実(トゥルシズム)に終焉

男「まあ、別にいいんじゃないのか。お前結構人間観察とかしてるみたいだし」

表札巡りなんて普通はしないしな。

女「そうかな」

男「今からお前がベラベラ喋り始めたら、流石にクラスのやつらビビるだろ」

俺もビビってるけどな。

女「ふむ……逆に怖がられてしまうのもいやだね」

男「そういうこと。逆に怪しまれるぞ」

女「ありがとう。人に感謝したのはひさしぶりだ」

すいません、すこし出かけます。

本当にごめんなさい。

案の定、校門は空いてなかった。

女「でも、別に人と付き合うことってどうでもいいと思うんだよね」

男「なんで?」

女「ふふ、君だってそうだろう?」

どういうことだ。

男「言ってる意味がわからないな」

女「放課後、ずっと屋上で眠っているなんて、普通おかしいからね」

男「あれはたまたま……」

女「ボクは知ってるよ」

ニコッと微笑みかけて、

女「君だって、ボクと同じじゃないか」

なんで、そうなる。

女「君にも、あまり友達がいないと思うけれど」

男「そ、そんなわけねーだろ」

女「本当かい? 放課後はいつも誰と一緒に帰っている?」

男「……別に、誰とも」

女「おかしいね。君の家の近くには、クラスメイトはたくさんいるはずだよ」

男「別に、ウマが合わないだけで……」

女「それはつまり、友だちがいないってことだろう?」

見透かすように、俺を眺めつつ。

彼女は続けた。

女「冗談だよ。ボクが言いたいのはさ」

ヤツは顔を俺の耳の近くに持って行って

女「君もボクと同じで、一緒にお昼を食べる人がいないってことさ」

こいつ、地味に観察してやがる。

そうだ、俺はいつも一人で飯を食ってる。

別に移動することなんてどうでもいいことだし。

飯食う時くらい静かにしたいからな。

飯食う時くらい?

違うな。いつも静かだ。

俺が学校に遅刻ギリギリで来たって、誰も笑いもしない。

友達じゃないから。ましてや、クラスメイトとしても認識されてるかどうかわからない。

女「動揺してるね」

やっと一人の先生がやってきて、慌てて校門を開けた。

男「ここまでストレートに言われると思ってなかったからな」

女「ふふっ、そうだね」

なんだか、自分を客観的に見てみると。

……イタイなぁ。

女「そこで、提案なのだけれど」

男「なんだ?」

女「これから、二人でご飯を食べてみないかい?」

男「……え」

つまり、なんだ。

ぼっちの傷の舐め合いってところか。

男「なんだその切ない気分にさせられそうな行動は」

女「無理に、とはいわないよ。ただ君とは仲良くなれそうだと思って」

男「……?」

それって、どういう意味だ?

女「ま、とりあえず教室に行こうよ。ボク自身早く証拠隠滅しておきたいからさ」

男「あ、ああ……」

その言葉に促され、俺は彼女と一緒に学校の中に入っていった。

教室は、鍵がかかっていた。

それはもちろん、内側から閉めたのだから開いていなくて当然だ。

女「よいしょ」

男「お前、一日中持ってたのか?」

女「うん」

鍵をゆっくりと回して、引っこ抜く。

女「さて、窓を……あれ?」

男「どうしたんだ?」

女「いや……窓が」

そう言って、彼女が指し示す、窓を見てみると。

なぜか、全開になっている窓がそこにあった。

男「俺はちゃんと閉めてたはずだけど……」

女「ふむ……」

彼女はゆっくりと近づいて、窓を閉めた。

女「さて、君はどうするんだい?」

男「なにが?」

女「ボクは今から担任の先生が来る前に、この鍵を返しに行こうと思うのだけれど」

男「……ついてこいと?」

女「はは、そんなことは言っていないよ」

そう言ってるように聞こえるのは、俺の妄想なのか。

男「ついてくよ。別に、一人で教室にいてもなんだしな」

女「そうか。じゃあ行こうよ」

……こいつはなんでいつもこうやって笑ってられないのかね。

女「なんだい、ボクの顔に何かついてるかい?」

男「なにも」

女「昨日ちょっと相手が多かったからね……べっとり臭いがついてるかも」

なんの相手したんだ。

男「ほら、行くぞ」

女「む、ツッコんでくれないのか」

男「冗談かよ」

女「あはは、一つテンポが遅いよ」

男「なんでいちいち反応しないといけないんだ」

それに、拾いづらかったし。

女「まあ、それもそうだね」

一度小さなため息を吐いて、俺とヤツは教室を出た。

女「ああ、そういえば」

男「ん?」

女「さっき、君がサンドイッチを食べていただろう?」

ああ、妹のやつか。

女「その時のマヨネーズがまだ口についているよ?」

男「ホントか。そういうことは早く言ってくれよ」

女「あ、待って」

そうして、彼女はすぐに顔を近づけて。

俺の口についていたマヨネーズを取った。

女「しっかりしないと、ね」

その上、舐めた。

何してんのこいつ。

男「そういうことするなよ」

女「おや、恥ずかしかったかな?」

恥ずかしいというか。

なんか、勝手なやつだなと思った。

女「ふふ、じゃあ、ちょっと待ってて」

鍵を返すために、彼女は人の少ない職員室の扉を開けた。

男「ふぅ、本当に人がいないな」

こんな朝早くに来て、何かあるのかねぇ。

明るさと寒さ以外は、特に変わらない。

音が反響して、なんだか寂しさを感じる。

女「お股せ」

男「ツッコまないからな」

女「むしろ突っ込むところだよ」

こいつ、本当に女子か?

男「もういい、戻ろうぜ」

女「うん」

男「だんだん明るくなってきたな」

女「そうだね。日が昇ってきた」

窓から朝日が昇っていた。

普段こんな時間に起きることも、学校にいることもないので新鮮だ。

女「君、あんまり眠くなさそうだね」

男「ん、昨日寝てたからかな」

女「よく風邪をひかなかったね」

ああ、それには俺も驚いてる。

男「屋上って寒くないのかも?」

女「だからといって、まさかまたあんなところで寝ようとは思わないよね?」

もちろん。

まさか学校に閉じ込められそうになったなんて。

そんなのはごめんだ。

妹も怒るし、良い事がない。

女「ふふっ、少しは懲りているみたいだね」

男「ご名答」

俺は大きくため息をついた。

結局、この後すこし喋っていたら、少しずつクラスには人が集まってきた。

だんだん増えてきても、俺達は会話を続けていた。

と言っても、半分はヤツの下ネタトークだったのだが……。

まあ、それも悪くない気がした。

女「おっと、そろそろ本鈴だ」

男「そうだな」

そう言って、バッグから小説と伊達メガネを取り出した。

女「じゃあ、またお昼に」

男「もう一緒に食うこと決定なのか?」

女「いやかい?」

男「いいや、かまわねえよ」

俺も、すこしこいつに心を開きかけていたのだった。

事件は、いきなり起きた。

一人の女子が、自分の教科書が無くなったと言った。

それは、どうやら置き勉していたものを、今日見つからなくなったということだ。

その娘はとにかく男子からも人気で、凄く可愛げのある娘だった。

男「……お前、なにか知らないか?」

女「ボクは知らないよ。彼女のことなんか気にかけたこともない」

男「なんでだよ、困ってる人を助けるんじゃないのか?」

女「ボクを嫌っている人は別だよ」

嫌ってる?

男「嫌われてんのか?」

女「まあね」

昼飯を食うってことで、俺の席に来たやつは、不愉快そうに言った。

女「まあ、気にすることはないよ。ボクも彼女のことは苦手だから」

ニコっと、笑っているけれど。

おんな同士のそういう話、怖いんだよなぁ……。

男「まあ、お前がそういうつもりならかまわないけどな……」

俺も、バッグから弁当を……。

男「あ」

しまった……。弁当がない。

女「どうしたんだい?」

男「いやあ、弁当を忘れた」

女「おや、それは不幸だね」

くそ……こいつがこんな早い時間に俺をつれてこなきゃ……。

女「はい」

ヤツは俺の口の前に、卵焼きを持ってきた。

男「なんの真似だ」

女「施しだよ、施し」

何食わぬ顔で、俺に卵焼きを食わせようとしている。

しかもあーんで。

男「……くれるなら普通にくれ」

女「ダメだよ。手にはばい菌がいっぱいなんだから」

男「で、でもよぉ」

女「昨日の夜、ナニかあったかもしれないしね」

くそ……昨日はしてねーよ。

男「悪いが昨日はしてないんでね」

女「何を?」

男「……」

俺、墓穴掘るの上手いのかもなぁ……。

男「わかったよ、もらってやる」

女「ふふっ、もらう側なのに随分と上から目線だね」

ほっとけ。

男「ん……まあ、美味いな」

女「ありがとう。作った甲斐があった」

男「ふーん、弁当はお前が作ってるのか?」

女「流石に全部は無理だよ、こういうのはさ」

男「なんで弁当箱を見てるんだ?」

そこまで作ってたら逆に嫌だよ。

周りがざわついてることに気づく。

男「……?」

どうやら、さっきのあーんを見られていたらしい。

そりゃそうだ、俺とこいつはただでさえいつもぼっち飯をしていたくらいなんだ。

そんなやつらがいきなり仲良くあーんとかしてたら。

俺ですら不審に思う。

女「君は結構、周りのことを気にしてしまう方なのかな?」

男「……まあ、そうかもな」

女「まあ、気にすることないさ」

湯気が出るほどに熱いお茶を水筒から出して、すすっている。

女「ふぅ、美味しい」

男「おばあちゃんみたいだな」

女「はは、よく言われない」

言われないのかよ。

女「言う人なんて、ボクの周りにはいないからね」

男「……いるじゃねえか」

女「?」

男「俺がいるだろ」

彼女の顔はすこし怪訝そうになった。

俺は何を言ってるんだ。

女「そうなるね……はは、いきなり言うから驚いたよ」

弁当をパクパクと食べながら、彼女は言った。

男「えーっと、卵焼きだけか?」

女「それ以上にいるのかい?」

男「お前な……」

女「冗談だよ、はい」

彼女はバッグからすぐに食べられるバランスフードみたいなものを出してきた。

カロリーメ○トだな、これは。

女「これで我慢してくれるかい?」

男「ああ、かまわん。ありがとう」

女「どういたしまして、さ」

微笑んで、彼女は自分の席に戻っていった。

なんともまあ、良い奴。

……なのだが。

何かが引っかかる。

よくわからないんだけど、なんとくなく。

その後、なんにもなく授業は進んだ。

しかし、帰りのHRのこと。

「そういえば昨日の日直は女だった」

という言葉を、教科書を盗まれたと言っている女子が言い始めた。

女「……」

彼女は俯いて、何も言わなかった。

しかし、ヤツに味方するやつはいるわけもなく。

暫定的に、犯人扱いされることとなった。

男「なんで何も言わねーんだよ」

女「はは、何を言ったって無理だよ」

あまり親しくない俺でもわかるような、作り笑いだった。

女「彼女とボクのどちらを信じるかって二択を迫れば、間違いなく彼女だ」

なんだかなあ。

女「今からボクは先生に呼び出されていてね。色々と聞かれることになってる」

男「ちゃんと言い訳できるのか?」

女「まあ、ちゃんと話せばすこしはわかってくれると思うけどね」

「すこしは」っと、もう一度彼女は強調した。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年03月28日 (金) 13:27:45   ID: gEBA8ond

続きはもうないんかな?

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