かぶるくん「三刀流――」 (4)


それはハム太郎くんにとって初めて見る構えだった。

いや、ハム太郎くんだけじゃない。きっとこうしくんも、下手するとこのムラのみんなも見たことのないものだった。

逃げなければならないとはわかっていたけれど、体は動かなかった。

 ただ、目の前の相手の動きが、恐ろしいはずなのに美しいと思った。

「獅子袈刃武ッ!」

そのハムスターが突然叫んで、とっさにハム太郎くんは床に伏せた。何が起こったかがすぐには理解できなかった。爆発が起こったのかとも思った。それがそのハムスターの持つ三本の爪楊枝から発せられたものだと気付くまでに、大分時間がかかった。


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そのハムスターはハム太郎くんとこうしくんに近づいてきていた。考えてみれば、二匹とも鎖につながれていて、遠くには逃げられないのだ。ハム太郎くんは、せめて痛い思いや怖い思いをして死なないように祈りながら、硬く目をつぶった。

刀を振り下ろす音が聞こえた。かしゃんっ、と金属音が響く。

「は、はむごろしぃー!」

 こうしくんが叫んだ。びくりと体を震わせ、ハム太郎くんはそのハムスターを見上げた。

「おいおい安心しろよ。あいつらは峰打ちだ」

言われてみれば、誰からも血が出ていない。ムラオサのタイショーくんやまいどくん、のっぽくん、めがねくんまでもが床に倒れて呻いているのが目に入って、ハム太郎くんは混乱した。いつも倒れているのはハム太郎くんたちの方だったから。


「…で、お前らいつまでそこに居る気だよ」

 そのハムスターは呆れたようにハム太郎くんとこうしくんを見下ろした。

「連中だってやっつけたし、鎖だって切ってやった。俺はお前らに興味ないからどこ行ったって構わないんだぜ?」

 確かに鎖が切られていた。けれどハム太郎くんにはそれがどういうことかいまいちよくわからなかったから、そのまま黙って座っていた。

「でもぼく達、行くところがありましぇんっ」

 こういう時にずばずばと思ったことを言えるこうしくんに、ハム太郎くんは素直に感心した。
 
「じゃ俺と一緒に来るか?荷物持ち欲しかったんだよ」

「いいですねぇ、行きましょうよ、ハム太郎サン!」

「わ、わかったのだ。こうしくん」

 実をいうとハム太郎くんは、寝る場所とご飯が少しあればそれで十分なタイプだったし、痛いのもそこまで気にしなかったから、別に今までの雑用暮らしにも満足していたのだった。
でも、お友達のこうしくんと一緒に居た方が楽しいだろうなと判断したから、そのハムスターの荷物持ちになることにした。


兄「そしてかぶるくんは、」

妹「…ねえ、お兄ちゃん」

兄「なんだ」

妹「とっとこハム太郎って、そういう話じゃない」

兄「えー。こっちのが面白いだろ?」

妹「うん」

兄「じゃぁ、いいじゃん」

 そういうことになった。

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