代行 ID:XffTsP/60
―――――――9月、新道寺女子高校麻雀部部室前廊下
哩「よーお」
煌「あ、部長。お久しぶりです」
哩「おいおい、もう部長はお前やろうが」
哩「わたしはもう引退した身ぞ」
煌「そ、そうでした……まだ慣れないものでつい」
煌「ですが、本当に部長は私なんかでよろしかったので?」
哩「何を言っとんの。宮永相手に2戦続けてあれだけの健闘。十分よ」
哩「おかげで最後まで腐らずに戦えた。その働きは監督も評価しとる」
煌「ですが、実力からいえば……」
哩「んー……まぁ、そのうちわかるやろ。部長にお前を選んだ理由が」
哩「エースと部長は必ずしも同じって事は無い」
煌「それはそうですが」
哩「はぁ、歯切れが悪いな。しゃんとしい」
哩「そこまで言うんやったら教えちゃるけどな」
哩「部長というのは全部員を統率し、その責任を一手に引き受けなくてはならん」
哩「たとえ自分が悪いわけではなくても……な」
哩「ここまで言えば姫子でなくお前を選んだ理由がわかるやろ」
哩「エースと部長が必ずしも同じ人って事は無い、どころかエースがエースであるためには部長と兼ねるべきではない」
哩「姫子ではその重圧に耐えきれんやろーね。だからこそ芯の強いお前を推薦した」
煌「それは私を買いかぶりすぎでは?私だってへし折れるときはへし折れますよ」
哩「はっはっは!どの口が言う」
哩「なんにせよ、後のことは頼んだぞ」
煌「任された以上はやり通すつもりですが」
哩「ならばよし。……で、姫子は?」
煌「秋の大会に向けて第2対局室で監督とお話してますよ」
哩「そうか……なら待たせてもらっても?」
煌「みんな喜ぶと思いますよ」
ガラッ
煌「あ、そうだ白水先輩」
哩「何?」
煌「この間の、阿知賀の松実玄さんからお葉書が届いています」
哩「ふーん……あん時もそうやったけど、細やかな気遣いをするお嬢さんやね」
煌「ええ。姉の宥さんは変わった方でしたけど」
哩「あー、暑かったなああの部屋」
煌「和も驚いていましたねぇ」
哩「いや実際あれは非科学的な体質やろ……」
哩「して、葉書には何と?」
煌「この間のお礼と、お近くにお越しの際はぜひ松実館をと」
哩「……本当にしっかりした子やね」
哩「で、それをわたしに告げた理由は?」
煌「お返事を書かなければいけないでしょう」
哩「任せた」
煌「ええ!?」
哩「もとはと言えばお前のお客さんやろ……」
煌「ですが、宛名は白水先輩宛ですし」
哩「お前のほうが字がきれい」
煌「わかりましたよ……」
支援でー
.
哩「しかしまぁ、それにしてもすることがないな」
煌「どこの卓もついさっき始まったばかりのようですね」
煌「言えば変わってくれるかもしれませんが」
哩「邪魔はしたくない」
煌「白水先輩と打てて喜ぶんじゃないですかね」
哩「3人はともかく抜ける1人はちょっとそうはいかんやろ」
煌「じゃあ葉書の返事を書いてくださればよろしいのでは……」
哩「却下」
煌「では、ここしばらくの牌譜でも見ていては?」
哩「そうすっか」
哩「♪~」
哩「む」
.
煌「どうかなさいました?」
哩「いや、なんでも」
哩(これ、この成績……)
ガチャ
姫子「はぁ~疲れた~」
姫子「およ?」
哩「………」
姫子「哩さ~ん」
哩「おわ!?ひ、姫子か……」
姫子「なんでそげん驚きよっとですか」
哩「いや、なんでも」
姫子「はー、ちょっとしか離れてないのに久しぶりに会った気がしますね」
哩「アホ、昨日も会ったやろ」
姫子「でしたね」
哩「そしたら、ちょっと打っていくか」
煌「監督と私と姫子でちょうど卓が立ちますね」
姫子「哩さんと打つのは久しぶりですね」
哩「手加減せんぞ?」
姫子「望むところです」
・
姫子「わたしの勝ちですね~」
煌「す……すば……」
哩「……」
「大分調子がいいみたいやね、鶴田」
姫子「はい!」
姫子「それにしてもどうしたとですか?哩さん」
哩「い、いやー牌を触るのインハイぶりやけんかな、はは」
姫子「ダメですよ哩さん、大学入学後もきちんと成績出さんと麻雀特待ば外さるーらしいですよ!」
哩「そ、そうやな、はは」
姫子「せっかくだから秋の大会も出ましょうよー」
「無茶を言うな鶴田、秋期大会の出場要項は2年生までと決まっている」
姫子「ええー」
哩「そ、そーゆーことで姫子、勉強があるからわたしはもう帰るけんね」
姫子「え、一緒に帰りましょうよー」
哩「じゃあな!」ダッ
煌「き、気を付けてくださいね」
哩「ああ!」
ガラッ
スタタタタタタタ…
煌「ど、どうしたんでしょうか」
姫子「わたしにもわからんよ……」
支援でー
哩「はっ……はっ……」
哩(やはり、牌譜で見ただけでなく……)
哩(実際に打ってみて、わかった)
哩(姫子は、もう……)
哩(わたしよりも……強いっ……)
哩(それも、リザベーションによるボーナスを上回るレベルで!)
ズルッ
哩「っと、わあっ」
哩「ったたたた……」
哩(めっちゃ擦り剥いて痛い)
哩「泣きたい……」
「そんなところで座り込んで何しようと?」
哩「ん……美子か」
美子「あ、膝すげー擦り傷やん」
美子「ちょっと待っとって、水買ってくる」
美子「これでよかろ」
哩「すまんな」
美子「転んだの?」
哩「ああ」
美子「高3にもなって」
哩「ああ……」
美子「姫ちゃんとなんかあったと?」
哩「んな!?なんでそれを」
美子「わかるよぉ、そんくらい」
美子「仮にも3年間一緒やったっちゃけん」
哩「そうか……」
哩「姫子がな、強くなっとった」
美子「……それは良いことやないと?」
哩「わたしが縛らんでもいいぐらいに」
美子「あー」
美子「哩ちゃんは哩ちゃんでプライド高いけんなー」
哩「そんなことはない」
美子「そんなことある」
哩「はあ……」
美子「別にいいやろ、自分より強くなったって」
哩「……美子にはわからんやろ」
哩「中2の頃から一生懸命ずっとふたりで支えあって来たとよ」
哩「それが私の支えを必要としなくなって巣立って行くなんて」
哩「悲しくってたまらんっちゃ」
美子(親馬鹿か)
哩「新道寺に進んだ後も姫子は佐賀から福岡くんだりまで着いて来てくれたとに」
美子「その『くんだり』の使い方おかしいからね」
哩「それなのに……それなのに……」
美子「別に支えが要らんっちゃあ一言も」
哩「うわああああああああああん!」ダダダダダッ
美子「行っちゃった……」
―――――――10月、哩の自室
哩「……んー、そろそろ休憩にすっか」
哩「テレビでも……と」ピ
哩「お、今日は秋選抜の県予選か」
哩「しかもちょうど姫子が出とーやん」
姫子『ツモ、4000オールです』
姫子『ロン、18300』
哩「………………」
「新道寺女子、福岡女子をトビ圏内に蹴落とします!南2局、勝負の行方は決まったかー!?」
ボス
哩「はーあ……」
哩「やっぱし、お払い箱かな……」
・
姫子「―――――――っ」
姫子「哩さん……?」
「ロン 2600です」
姫子「は、はい」
姫子「…ツモ。6000-12000です」
「ここで鶴田選手の3倍満ツモ!福岡女子、平尾台商業をまとめてハコらせたーっ!」
「試合終了ー!秋季高校生麻雀大会、福岡県代表は夏のインターハイに続き新道寺女子です!」
「解説の早良さん、この結果をどう思われますか?」
「近年の新道寺といえば、白水選手と鶴田選手の2枚看板が鮮烈な印象を残すチームでした」
「白水選手の引退によって開いた穴がどうなるかと思われましたが、鶴田選手の仕上がりは上々のようですね」
「夏の新道寺は3年生3人と2年生2人というオーソドックスな編成でしたが、新規参入のメンバーも―――――――――――」
rrrrrrrrr
哩「……ん、寝とったんか」
哩「電話……」
哩(目元がひりひりする)
哩「よっこいせ、っと」
哩「……もしもし」
哩「ああ、お母さん」
哩「冬休みには一旦そっち戻るけん」
哩「進路?ああ」
哩「……なあ」
哩「まだ今のところ話半分に聞いてもらえればいいんやけど」
哩「東京行くっつったら怒る?」
哩「え?うん、まあちょっとね」
哩「……ん、ありがと」
支援でー
―――――――新道寺女子高校、3年教室
仁美「進路希望、なー」
美子「……もう推薦入試は始まるとに?」
仁美「いや、どこに行こうかなーって」
美子「まあ、わたしは福岡に戻るよ」
仁美「うちは市立大かなー」
美子「やっぱ一般で?」
仁美「まあなー、インハイベスト8とはいえ活躍したとは言い難い成績で推薦もらうのは申し訳ないけ」
美子「1回戦ではまぁまぁだったと思うっちゃけど」
仁美「どっちみちプロでやってけるとは思えんし」
美子「わたしも一般かな」
仁美「美子は頭いいからいいよなー」
美子「一応努力はしとるからね……」
哩「…………………」ブツブツブツブツ
仁美「で、さっきからこいつは頭抱えて何をブツブツ呻いとるん?」
美子「さあ?傷口から変な黴菌拾ったんじゃない」
仁美「傷口?」
美子「そう。昨日哩ちゃんてば道路でコケてうずくまっとったとよ」
仁美「なんそれ……ちょーおもしろ」
ガバッ
哩「……決めた」
仁美「おぉう!?ビビらすなよ」
美子「何を決めたと?哩ちゃん」
哩「東京へ行く」
美子「ええええええぇ~!?」
仁美「マジかお前」
哩「ああ」
仁美「ふ~ん……特待も推薦も蹴って?」
哩「ああ」
仁美「姫子ほっぽって?」
哩「……っ、ああ」
仁美(あー、この反応、これ関係か)
仁美「まぁ哩の進路やし哩の好きにしたらいいと思うが」
美子「ずいぶん思い切ったねぇ」
美子(それでも姫ちゃん普通についてくるような気がするけど)
仁美「……一つだけ言わせてもらうぞ」
哩「何?」
仁美「方言なおさな、ハブにされっぞ」
哩「は?」
仁美「トーキョーもんは冷たいきね。カッペ丸出しの方言なんか使いよったらあっというまにムラハチよ」
哩「な……それほんとなん?」
仁美「そーらそうよ。おととし上京した従姉妹の友達の妹さんが自殺したっちゃけん」
哩「そ、そんな……」
仁美「コンクリートジャングルが棺桶にならんよう気を付けりいよ、はっはっは」ヒラヒラ
美子(絶対適当だ)
哩(なんかそんな話を聞いたことがあるような気もする)
哩「そういえば佐賀からこっちへ出てきた時も方言の違いをからかわれた覚えがある……!」
美子(それ確かからかってたの仁美ちゃんじゃ……)
哩「一般入試の勉強をしながら標準語の勉強もせないかんな」
美子(しなくていいと思う)
哩「……なあ、美子」
美子「なに?」
哩「姫子には、このこと」
美子「ちゃんと黙っとっちゃあよ」
哩「ありがとう」
美子「わたしより、仁美ちゃんを口止めせな」
仁美「みんなみんな聞いて~~~~!」
哩「……そうだな」
哩「仁美!それ以上口開いたらぶっ飛ばす!」
・
前スレはれや
姫子「哩さん、哩さん」
哩「ん、ああ」
姫子「どうしたとですか?ぼーっとして」
哩「何でもない」
姫子「そうですか?じゃあ明日8時でいいですかね」
哩「ごめん、何が?」
姫子「もー、やっぱり聞いとらんやないですか!電車ですよ、電車」
哩「あ、そうやったな……」
姫子「模試やらの関係で1週間くらいしか佐賀におらんとでしょ?」
姫子「だったら帰りくらい一緒の電車がいいやないですか」
哩「そうやね……23に向こう行って30にはこっちに戻らないかん」
姫子「受験生は大変ですねー」
姫子「あれ……でも特待やらの話は来んかったとですか?」
>>38
ごめんなさい
照「内緒のはなしは…」宥「あいるてるゆーわっと!」 - SSまとめ速報
(http://www.logsoku.com/r/news4vip/1360413310/)
哩「いや、行きたい大学があってな。そこからは来んかったけん」
姫子「へぇー、九州全域の大学の特待やら総ナメやと思ってました」
姫子「って、あ……」
姫子「すみません」
哩「何が?」
姫子「わ、わたしが、あそこでもっと上手くやれとったら……」
姫子「もっとインハイで活躍できとったら……」
哩「ばーか」
姫子「でも、ぶちょーはあんなにキーをくださったのにそれを」
哩「止めぇ」
姫子「は、はいっ」
哩「そんくらい自分で勝ち取って見せる」
哩「……それと、わたしはもう部長じゃない」
姫子「えへへ、まだ慣れなくて。名前呼ぶの」
哩「お前が中3とわたしが高1ん時は何か遠慮して『先輩』やら呼びよったからな。好きなだけ呼べ」
姫子「それは、まだ哩さんとわたしが……じゃなかったから」
哩「んー?何て?聞こえんかった」
姫子「哩さんのいじわる」
哩「くくっ……」
哩「それと、姫子」
姫子「何ですか?」
哩「過去を悔やむヒマがあったら、これから先のことを考えぇ」
哩「来年は気張らな、お前ん頭じゃわたしの行くとこ来れんぞ」
哩(全然そんなことないとこやけど)
姫子「はいっ!頑張りますとも」
哩(ああ……)
哩(姫子の笑顔が胸に痛い……)
・
―――――――哩の実家
「ほい」
哩「……そげん食いきらんわ」
「大晦日も正月もウチで過ごさんっちゃろ?この親不孝もんが」
哩「模試とかそんな関係やけん仕方ないやろ」
「だいたいあんた痩せたっちゃないと?」
哩「ストレスかなあ」
「なん言いいよん、こんバカタレが」
「お父さんなんかあんたが東京行くって話してからロクにご飯食べんちゃけん」
哩「え……」
「ウソよ。もう酒しこたま飲んでイビキかいとるわ」
哩「嘘かい」
「……ちゃんと話して許可貰わなよ」
哩「わかってる。それに、許してもらえんで飛び出したとしても、自分一人じゃ何もできんし」
「ほんとアンタはいじっぱりなんかいじけ虫なんかよーわからんわ」
哩「お父さんに似たんでしょ」
「……そうやね、わたしもお父さんと会ったのは東京やったしたぶん――――――」
哩(すげー長くなりそう……)
哩「お風呂入ってくる」
――――――3月、新道寺3年教室
仁美「どうやった?」
哩「ああ、ばっちりよ」
仁美「美子は?」
美子「わたしは私大だからもう決まってたよ」
仁美「かー!羨ましいこって」
仁美「わたしなんてここ3日はろくに寝れんやったのに」
哩「これでまあ、無事進路決定というわけだな」
美子「……本当によかったと?」
哩「今更取り返しはつかんよ」
美子「そう」
仁美「……」
仁美「それにしても、この制服を着ることもなくなるっちゅう訳か……」
美子「ちょっと寂しいね」
ガラッ
哩「む?」
姫子「……あの、哩さん」
哩「どうしたん?3年の教室まで」
姫子「今のうちに、ブレザーの第一ボタン貰っておこうかなって。卒業式の後じゃもう無くなってそうなんで」
哩「………」
哩「ばーか、ほかのヤツにやるわけないやろ」パチ
哩(そんな慣習、気にも留めてなかった。あぶねー)
哩「にしても、今更そんなもんで満足なんか?」
姫子「へ?」
哩「こっちのほうがよくない?」チュッ
姫子「……!」
姫子「んなななななな、な……ひ、人前で」
>>39
照「内緒のはなしは…」宥「あいるてるゆーわっと!」
の作者だったのか
「今のアレ、見た?」
「哩と鶴姫のコンビは永久に不滅やねぇ」
姫子「あ、ありがとうございましたぁっ!」
美子「かわいー」
仁美「……なぁ、お前ほんとにアレを置いていくんか?」
哩「くどい。この決意は揺るがん」
哩(……許せ、姫子)
美子「まぁいいけど、そんなだらしない着方で卒業式出たら怒られるよ」
哩「………!」
哩「安ピン持ってない?」
仁美「ない」
美子「ない」
哩「購買行ってくる」
――――――5月、新道寺3年教室
煌「今日はインハイのメンバー発表だね」
姫子「わたしらもついに3年生かあ」
煌「最後の夏、インハイはぜひとも頑張らなければ」
姫子「ヘーキヘーキって!春の大会の成績見たやろ?九州で個人3位!」
煌「神代さんはさすがに強敵だったね……」
姫子「花田も成績よかったやろ。これなら今年もインハイにオーダーされるっちゃない」
煌「うん。今年は実力で……」
姫子「実力で……って」
煌「あ」
煌「ごめん。去年の作戦については既に耳にしていたの」
姫子「そっか……」
>>51
今回のは姫子側の話と、前回さるがうざすぎて投下するのをやめた3、4年生編です
前スレ貼らなかったのは荒れるかもしれないからだったんで許しておくれ
煌「いいよ。今年は胸を張ってレギュラーだって言えるから」
姫子「それもそやね」
煌「先生に呼ばれてるから、先に部室行ってて」
姫子「うん」
ガラッ
姫子「お疲れ様ですー」
姫子「って、安河内先輩。コンタクトにしたとですね」
美子「久しぶりやね」
仁美「おー、おじゃまー」
姫子「……と、どちらさまです!?」
仁美「ふふん、縮毛矯正あててみた。なかなかのゆるふわパーマやろ」
姫子「うわー!うわー!めっちゃかわいいですね!」
仁美「大学には服装や髪型規定なんか無いけんな」
仁美「今はリア充ライフを謳歌させてもらっとる」
美子「わたしはバンド始めたんよ~」
姫子「かっこいいですねー」
姫子「そういえば、哩さんは来とらんとですか?」
仁美「あー、あいつは遠いけん―――――」
姫子「へ?」
仁美(しまった!)
仁美「よ、予定が合わんくって」
姫子「江崎先輩、何を隠してるんですか?」
仁美「な、なんも……」
美子「はぁ」
美子「もう無理やろ、仁美ちゃん」
仁美「そうかもな……」
姫子「教えてください!何があったとです?」
仁美「あいつは、東京へ行った」
姫子「…………」
仁美「ただそれには訳があってだな……」
姫子「――――――っ」ポロポロ
仁美「お、おい。ちゃんと説明してやるから泣くな…」
仁美「なんやらお前が一人立ちしたからもうわたしは不要とかなんとか」
ダッ
仁美「あーあー、最後まで聞かんと」
美子「あーいうとこ哩ちゃんそっくり」
仁美「ま、心配なかろう。多分」
ドン
「すばっ!?」
仁美「……煌にぶつかったんか」
煌「あいたたた……あ、先輩方。姫子はいったいどうかしたんですか」
仁美「いや、たいしたことじゃ……」
煌「大したことないってことはないでしょう!姫子泣いてましたよ」
仁美「あー、しょうがないか。実はな……」
煌「はぁ、白水先輩が東京に、ですか」
美子「詳しいことはよくわからないけど」
仁美「美子が聞いた限りでは、そういうことらしい」
煌「それにしても、姫子が強くなったから……ですか」
煌「きっとあの二人にしかわからない何かがあるのでしょうね」
仁美「うむ。ほんとに意味わからんのやったら姫子はうちらを問い詰めるやろうしな」
美子「最後まで聞かずに飛び出したってことは、姫ちゃんにはなんとなく真意がわかってるってことやね」
煌「どちらにせよ、早く仲直りしてほしいですね……」
仁美「まーな。そっちは当人らに任せて、うちらは久しぶりに打ってくか」
煌「そういえば江崎先輩、雰囲気変わりましたね」
仁美「おう。今頃は案外哩の奴も既に新しいパートナー見つけて大学生活エンジョイしとったりしてな」
煌「止めてくださいよ縁起でもない」
仁美「縁起でもないっちゅー事は無いやろ」
煌「それはそうですが……」
――――――その頃の哩さんは
哩「さあ、あがってくれ」
「おじゃましま~す」
「おじゃまします」
「あ、白水さんてお酒飲むんだ……ね?」
哩「うん」
「そういえば何するの?」
哩「大学生といえば、酒盛りに決まっと……ているでしょ」
「え、マジ?」
哩「スーパーで食べ物買ってくるけ……くるから、テーブルの上の物適当になおしといて」
「う、うん」
カチャ
「ちょっと、これ見て」
「全部日本酒だね……こんなの飲めないよ」
「メールしてチューハイも買ってきてもらおう」
「きゃあ!しかも何これ」
「え、これ……手錠?」
「しかもこっちのほうには///」
「白水さんてもしかして……かなりヤバい趣味の人!?」
「家に誘っていきなりお酒を勧めるなんて……」
「隠しもせずこんなものが置いてあるなんて」
「これはもう間違いない!」
「……ゴクリ」
「逃げよう!」
「逃げよう!」
趣味にヒかれオリエンテーリングで仲良くなった人に逃げられていた
――――――姫子の自室
プルルルルルル
ツーツーツー
姫子(2時間たっても話し中……)
姫子(これは、つまり)
姫子「はぁ……」
姫子「哩さん……」
姫子「いったいわたしは、どうしたらいいとですか……」
――――――7月、新道寺女子高校、3年教室
煌「姫子、ついに最後の夏が始まるよ」
姫子「う、うん」
煌「インハイ、頑張ろうね」
姫子「花田は元気やなあ……」
煌「そういえば……なんで姫子は私を花田って呼ぶの?」
姫子「えっ……花田って苗字、なんかいいやん」
姫子「わたしは小学生の時鶴田って苗字をつるっぱげー、とかからかわれて」
煌「それで名前呼びを強制してたの」
姫子「ま、まあ」
煌「そういうことなら、私のことも名前で呼んでくださいよ」
煌「私姫子にあまり良く思われてないのかとばかり」
姫子「そ、そんなことない!」
姫子「じ、じゃあ……き、煌」
煌「な、なんか恥ずかしいね」
姫子「あはは……」
煌「さあ、部活行きましょう」
姫子「うん」
「鶴田ー、ちょっと職員室来い」
姫子「だってさ」
煌「じゃあ、せっかくだし待ってるよ」
姫子「わかった」
.
煌「あ、おかえり」
姫子「……煌、ごめん」
煌「どうしたの?」
姫子「インハイでれんかも」
煌「んなっ!?」
姫子「赤点取って、校則に引っかかった」
煌「あ、あの部活禁止の校則ですか……」
姫子「あはは、スラムダンクみちょーなことになったね」
煌「笑い事じゃないでしょ!」
煌「というか、姫子そんなに頭悪かったっけ!?」
姫子「ん……最近全く勉強が手につかんくて」
煌「もう……とりあえず先生に直訴しに行きますよ」
姫子「え、ちょっ、煌!」
煌「なんですか!?うちに追試の制度はありません。だったら先生を説得するしかないでしょう!」
スタタタタタ
・
姫子「何も、わたしのためにあそこまでせんだって……」
煌「何言ってるの、私たちは一蓮托生ですよ」
煌「それに、あーいうのは勢いが大切だし」
煌「しかし……うちには追試がなくても提出課題という救済手段があるのは忘れてました」
姫子「あはは、おっかしぃ」
煌「だから笑い事じゃないって!課題にしてもそれだけ練習時間が削れるってことだよ」
姫子「そうやねぇ」
姫子「ふふっ」
煌「?」
姫子「煌ぇ……ありがとね!」
煌「もう……さっさと課題終わらせてね」
姫子「手伝ってくれんの?」
煌「それは自分でやって」
姫子「ちぇー」
――――――8月、インターハイ会場、新道寺女子高校控室
カチャ
煌「ご苦労様」
姫子「うん……」
ドサ
姫子「友清とか、ほかの部員らはどこいっとん?」
煌「席を外してますよ」
姫子「そっか……」
コテン
姫子「う、あ―――――」
姫子「うわああああああああああああん!」
煌「姫子はよく頑張った、頑張ったよ」
姫子「でも、だって……」グス
煌「いいんだよ。みんな全力を尽くした結果だから」
姫子「これでもう、煌とも、最後なのに……」
煌「最後じゃありませんよ!」
煌「最後なんかじゃないよ……絶対に」
煌「インターハイが終わっても、それで終わりじゃない」
煌「インカレに、プロリーグ……」
煌「いえ、麻雀の道ではなくても、これからも先はまだまだ長いんです」
煌「私は……姫子のそばに、いますよ」
姫子「ほんとに?」
煌「はい」
姫子「勝手にどっか行ったりせん?」
煌「ええ」
姫子「ん、わかった」
煌「だから、前を向いて」
姫子「うん」
姫子「でも、今だけ……」
姫子「今だけ、胸貸して」
煌「……私のなんかで良ければ」
煌(白水先輩……)
煌(あなたが私を部長に選んだ理由、今何となくわかりました)
煌(ですが)
煌(ほんとうにこれでよろしいのでしょうか……)
――――――その頃の哩さんは
哩「は、う、あ………」
哩(こ、これが授業中誰かの噂話をちらっと耳にした『過去問があれば通る試験』か)
哩(いったい何が書いてあるのかわからん)チラッ
カリカリカリカリカリカリ
哩(みんな回答の文量もすさまじい!?)
哩(こらテキトー書いても通らんな)
哩(はーあ……)
哩(メゲそう)
過去問が手に入らず試験でメゲていた
――――――9月、煌の自室
煌「どうぞ」
姫子「おじゃましま~す」
煌「お茶菓子持ってくるね」
姫子「んー」
煌「お待たせ」
姫子「おかえりぃ~」ゴロゴロ
煌(リラックスしすぎじゃないですか!?)
姫子「んん~、このお布団、すげー煌の匂いがするっちゃけど~」
煌「は、恥ずかしいからやめてよ」
煌「それと、お菓子食べるんだったら汚さないように布団から降りてね」
姫子「えぇー」
姫子「じゃ、こぼれないように4つに割って食べさせて~」
煌「姫子って、そんなに甘えたがりだったっけ」
姫子「んー、煌にだけ見せる特別な顔、よ」
煌「そんなの嬉しく―――」
姫子「ないと?」
煌「―――ないことは、ないですけど」
姫子「照れちゃって~」
煌「はいはい」
姫子「あーん」
煌「……」ヒョイ
姫子「んー」ボリボリ
姫子「これ……プロ麻雀せんべい?」
煌「そうだよ」
姫子「へー、煌もカード集めとんやね」
煌「ううん、おいしいから買ってるだけ」
煌「カードは別に欲しくないから開けてもないけど」
姫子「もったいな」
姫子「結構いい値段するのもあるのに」
煌「そうなの?」
姫子「ね、ね。開けてみらん?」
煌「まぁ、捨てずに取ってはあるけど」ドサ
姫子「いっぱいあるね」
姫子「煌もこっちにきいよ」
煌「うん」ギシ
姫子「じゃ、一袋目……」バリ
煌「こういうのって、ハサミで綺麗に開けるんじゃ」
姫子「そやっけ。次からはそうする……あ、藤田プロか。まぁはずれでよかったね」
煌「いいのかな……」
・
姫子「んー……藤田プロ、8枚目……」
煌「ここまででよさげなのは?」
姫子「これ。スターカード第2弾の三尋木プロ」
姫子「今まだ1000円くらいかなぁ」
姫子「あとは2、300円付くのが2枚くらい」
煌「ずいぶん詳しいね、姫子も集めてるの?」
姫子「いや、他校の友達にやたらマニアな奴がおって自慢してくるけんね」
煌「ふーん」
姫子「次で最後かー」
煌「これ第一弾の時のやつみたいね」
姫子「なんかいいの当たれー」チョキ
姫子「お!瑞原プロの警官コス!?これプレミアで5000円くらいするやつやん」
煌「おせんべいが30袋くらい買えるね」
煌「お宝大発見です」
姫子「あははははは、すげー!」バタバタ
煌「ちょ、姫子、狭いんだから暴れないで」
ゴロン
ドタン
煌「ったたたたたた」
煌「姫子、だいじょうぶ……」
姫子「……」
煌「ひ、姫子……顔、近……」
姫子「ごめん、今降りるね」
煌「…………ぁ…………」
煌(なぜ声が出たんでしょう)
煌(今、離れてほしくない、と思った?)
姫子「……」
姫子「なあ、煌ぇ」
姫子「わたし、もう我慢できそうにない」
煌「何を、言って」
姫子「あの日から」
姫子「あの人がわたしを捨てて行ってから」
姫子「傷が疼いて仕方ないんよ」スルリ
煌「傷?傷なんてどこにも……って、それよりなんで脱いでるの」
姫子「見えなくても、そこにあるの」
姫子「やけん、さ……」
姫子「滅茶苦茶にしてよ、わたしを」
煌「…………」ゴクリ
姫子「嫌?」
煌「嫌じゃ……ないよ」
煌「でも、どうしたら」
姫子「しょうがない……今日のところはわたしに任せて」
姫子(ほんとは責められるほうが好きなんだけど)
煌「わ、わかった……」
・
姫子「そういえば煌さ、なんで髪結んどんの?」
煌「えっ……」
煌「特に理由はないけど、中学からこうだったから」
姫子「ふーん……解いてるほうが可愛いのに」
煌「そ、そう?」
ガチャ
煌「!」
姫子「家族の人が帰ってきたんかな」
煌「い、急いで服を着て」
姫子「えー、もうちょっと余韻を楽しまんの?」
煌「お願いだからっ」
姫子「はーい。じゃあ、また明日ね」
煌「う、うん」
・
――――――翌日
姫子「きーらめっ」
煌「あ」ビクッ
姫子「ふふ、わたしの言った通り髪解いてきたっちゃね」
煌「……だって、姫子が可愛いって言ってくれたから」
姫子「ふぅん、煌は相手に服装の趣味とか合わせるタイプなんや」
煌「そ、そういうわけじゃ」
姫子「………………放課後、寮のわたしの部屋に行こう?」
煌「………」
煌「お邪魔します」
姫子「どーぞー」
姫子「じゃ一緒にシャワー浴びよっか」
煌「そんな、いきなり」
姫子「でも着いてきたってことは多少の期待はしとったやろ?」
姫子「別に今更恥ずかしがることじゃないやん」
姫子「さ、はやく」
煌「……………」
姫子「ここ壁薄いけん、頑張って声出さんようにしてねぇ」サワッ
煌「――――――――ぁ」
姫子(なかなか、いい声で)
姫子(思ったより、こっちも楽しいかも)
姫子(でも………)
姫子(そのうち、責めを覚えて貰わなね♪)
――――――10月、新道寺女子高校近くの道路
姫子「えーっと、今日は木曜日だから……」
煌「うちだね」
姫子「あはは、もうスケジュール管理もバッチリになっとんね」
煌「そりゃあ、まあ」
姫子「煌んとこのお風呂場めっちゃ広くていいよねーぇ」
煌「そういうと思って、今日は出かける前に湯船にお湯張ってあるよ」
姫子「マジで!?気がきくぅ」
煌「いっつもシャワーばっかりだったから」
姫子「へぇ……でも、わたしは煌のベッドのほうが好きやけどね」
煌「なんで?」
姫子「だって、煌の匂いがするし」
姫子「あと、そうせな落っこちそうになるからめっちゃくっつけるし」
煌「もう……」
煌(などと言いながら、口角が上がっている自分が恥ずかしい)
煌(あれからひと月……ほぼ毎日のことです)
煌(最初は驚きましたが、今では私もこうして受け入れてしまっている始末)
煌(姫子には……人をこんな風にさせる何かがあるのでしょうか?)
煌(昔話の怪物が、そうせずにはいられないように……)
煌(私もまた流されるまま、お姫さまにひどいことをしてしまっているのでした)
姫子「はぁ、はぁ」
姫子「あー、それいいよぉ、煌」
姫子「次は、眼にキスして」
煌「眼に?」
姫子「うん」
煌「……」チュ
煌(姫子が言った『傷』とは……部長が残したものなんでしょう)
煌(それは無形の、目に映らないものですが)
煌(舌を這わせるべき場所が、指を擦るべき場所が……)
煌(姫子の言う『傷』が『見える』気がします)
煌「まったく、とんでもない置き土産ですね」
姫子「?」
姫子「……ねぇ、今日はもーちょいハードなのやってみらん?」
煌「まだ、上があるの……? ひっぱたくだけでも結構良心の呵責が」
姫子「まだまだ、序の口よ?」
姫子「首、絞めてみて。こう」
煌「……わかった」
姫子「もーちょいキツく」
姫子「まだ」
姫子「もっと」
姫子「…………」
姫子「ごめん、煌」
煌「うん」
姫子「だから……そげん泣きそうな顔やめて」
煌「だって、私には、こんな」
姫子「あー、そらそうよね」
姫子「いや、全面的にわたしが悪い。そもそもこんな趣味を押し付けるんが間違っとるし」
姫子「もうこーいうんやめにしようや」
煌「首に手をかけた時、やっぱり私には駄目だと思った」
姫子「わたしも」
姫子「吹っ切れたつもりやったけど……煌の姿が哩さんに重なって」
姫子「でも、かけられた手の感覚が、違ごーとって」
姫子「ごめんね、こんな歪んだ女で」
煌「ううん。姫子と付き合って、こうしてきちんと最後まで知っておけてよかった」
煌「あのままなあなあにして卒業したら、ずっと引きずったままだった気がする」
姫子「でもまぁ、やっぱ……」
煌「はい。白水先輩を追ってください」
姫子「やっぱそうよねー」
煌「江崎先輩に、白水先輩の住所を預かってます」
煌「あと、安河内先輩から大学と学科も。もしもの時のために、ということで」
煌「安河内先輩は『もしも』ではなく『まぁ絶対必要になるやろ』と言ってましたが」
姫子「ありがとう。先輩方」
姫子「……で、どこ?」
煌「○○大の法学部です」
姫子「………」
姫子「やっぱ煌が責めの悦びに目覚めらな」
煌「頑張って」
――――――3月下旬、新道寺女子高校近く
煌「ちゃんと受かってよかったね」
姫子「うん。ありがとうね」
姫子「後期やったけんマジギリやったわー」
煌「あれだけ毎日爛れた生活を送ってたら成績も落ちるよね」
姫子「まぁまぁ、終わりよければ全て良しってね」
姫子「煌は安河内先輩と同じとこ?」
煌「うん」
姫子「そっか……ほんと、3年間ありがとね」
煌「……いつか、言ったでしょう。別に卒業しても終わりじゃないって」
姫子「そうやったねー。まぁ夏には帰ってくるけん」
姫子「あと、ここ半年のことはほかの人にはナイショでね!」
煌「わかってるよ」
姫子「じゃ、いざ東京へ」
煌「行ってらっしゃい。明日は雨らしいから気を付けてね」
姫子「……とはいえ、どんな顔して会えばいいっちゃろうか」
煌「私たちの事を秘密にするのなら、姫子を放って東京に行ったことを本気で怒るふりすれば?」
姫子「お、いいねそれ。採用」
煌(まぁ、この提案は私の恨み半分ですが)
姫子「じゃね」
煌「お元気で」
ヒラ
煌(綺麗な桜ですねぇ)
煌「燦然と咲き誇り、瞬く間に散りゆく花、ですか」
煌(私は、まだまだちっぽけな存在ですが……)
煌(初恋の思い出くらいこの立派な桜に例えたって、バチは当たらないでしょう)
姫子「夜明けまで2万マイル」、カン
――――――BAR NAUTILUS
照「ねえ、宥」
宥「何?」
照「宥は蜥蜴のしっぽを見たことある?」
宥「うん。しっぱだけでもしばらくうねうね動いてて面白いよね」
照「じゃあ、蛇の足は?」
宥「……そんなもの在るの?」
哩「はい宥。おかわり」コト
宥「哩ちゃん。わたしはテキーラにレモン要らないよ?」
哩「それが、蛇の足」
宥「?」
ここからは 照「内緒のはなしは…」宥「あいるてるゆーわっと!」
の、さるがうざくて投下をあきらめた3、4年生編です。2年の冬に宥と照が付き合い始めた直後から再開です
蛇足ですが、もうしばらくお付き合い下さい
―――――――松実宥、大学2年の12月28日、宥の家
照「と、いうわけで」
宥「わたしたち、付き合うことになりました」
姫子「どっちからコクったとですか?」
哩「どっちからコクったん」
照「え、えーと」
宥「同時?」
哩「…………」
姫子「…………」
姫子「これは、どげんなるとですかね」
哩「……どっちも負け?」
姫子「ですかー」
哩「まぁ、ご祝儀と思って」
姫子「……はい」
スッ
スッ
照「なにこの1万円」
哩「お祝い?」
宥「負け、とか聞こえたけど」
哩「……どっちがコクるか賭けしてました」
姫子「すみませんです」
宥「……罰として」
宥「買い出し行ってきてもらおうかなぁ」
哩「はい」
姫子「行ってきまーす」
支援でー
玄「それにしても、照さんとおねえちゃんが付き合うことになるなんてねぇ」
照「わたしも、最初はこうなるなんて思わなかったよ」
玄「おねえちゃんを泣かせるようなことがあったら許しませんよ?」
照「努力する」
玄「でも、恋人かぁ」
玄「ちょっと憧れちゃうな」
照「玄さんならすぐにできるよ」
玄「だといいんですけどね」
ガチャ
宥「あ、帰ってきたみたい」
哩「ただいまー」
宥「じゃ、初詣の計画立てつつ」
照「酒盛りと行きますか」
玄「買ってきた材料貰っていきますねー」
.
哩「……というわけ」
照「うわあ……」
宥「交際4日目のカップルの前でそういうドギツいのやめてくれないかな」
照「酔いが一気に吹っ飛んだよ」
姫子「やーん!それはは他の人には秘密ですよぉ哩さん」
哩「あの夜は燃えたなー」
哩「次は去年の花見の後で姫子が追っかけてきた時の話にするか」
哩「こいつずぶ濡れのままアパートの階段で6時間もなー」
姫子「それもやめてくださいー!」
哩「いやーあん時は1年振りやったけんなー」
照「………宥」
宥「なに?」
照「わたしたちは、わたしたちのペースでやっていこうね」
宥「……うん」
―――――――元旦、神社
哩「おまたせ……って」
照「遅い」ババーン
哩「おぉう……振袖かい」
照「成人式用に買ったやつ。というか初詣って振袖じゃないの?」
哩「いや、そうかもしれんけど」
哩「普通、一人暮らしの学生の家には振袖持ってきてない」
哩(つーかそれ、レンタルじゃなくて自前なんかい)
宥「あはは……」
哩「って、宥も振袖!?」
宥「照ちゃんがどうしてもっていうから、照ちゃんのお母さんに一緒に着つけてもらったの」
哩「すげーなお前ら」
姫子「じゃ、そろそろお参りいきましょうか」
玄「終わったら露店めぐりしましょうねー」
・
照「……」
照「ごめんみんな、ちょっと適当に見てて」
哩「んー」
姫子「哩さん、たこ焼き買ってきましたよー」
宥「玄ちゃん、わたあめ口についてるよ……」
玄「べったべた……」
照「久しぶり、菫」
菫「!」
菫「驚いたな……照か。お前も初詣なのか?」
照「そうだよ、わたしの遊びの誘いに乗ってくれない菫さん。奇遇だね」
菫「悪かったよ……本当にうちの大学忙しいんだ」
照「まぁ、留年も珍しくないって聞いた」
菫「ああ。だが毎日充実している」
照「少し、痩せた?」
菫「かもな」
照「そのくせここは大きくなってるし」ムニムニ
菫「やめろ」
菫「しかし照、お前はなんだか大人っぽくなったな」
照「そう?」
菫「ああ。高校の時みたいな危うさが無くなった」
照「実は先日彼女ができた。だからかも」
菫「うえっ!?そ、それほんとか……」
照「うん。もと阿知賀の松実宥さん」
菫「あの子か……庇護欲を煽る感じだし、お前の成長のためにはぴったりかもな」
照「なにそれ」
菫「しかしまあ、お前は絵に描いたようなキャンパスライフを楽しんでるみたいだな」
照「授業では半ばぼっち気味だけどね」
菫「そ、そうなのか」
菫「でも、そのロマンスは羨ましいな。私なんて見つめあう相手は研究室のシャーレぐらいだから」
照「ふふーん」
菫「その顔やめろ」
菫「第一、彼女がいるんだったらなおさらさっきみたいな行為は慎むんだな。いつか殴られるぞ」
照「あんなことするのは宥のほかには菫だけ」
照「……それに、わたしは昔みたいに菫とも遊びたいよ」
菫「考えておくよ」
照「……成人式、行くんでしょ?」
菫「まあ、通過儀礼に参加するくらいの暇はあるからな」
照「じゃ、当日に高校の前で」
菫「あぁ」
照「あと、在学中に1回くらいは遊んでくれないと本気で怒る」
菫「わかったよ」
菫「やっぱりお前は、宮永照のまんまだよ……」
照「当たり前でしょ。じゃあ、人を待たせてるから」
菫「あぁ、またな」
―――――――松実宥、大学2年の春休み、奈良
宥「3人で帰省するのって、なんか変な感じだね」
玄「わたしはお姉ちゃんがもう一人増えたみたいで楽しいよ?」
照「そういってくれると嬉しい」
玄「では、今回はお客さんではなくお姉ちゃんとしての訪問なのでお仕事を手伝ってもらいまーす」
照「えっ」
玄「安心してください!旅館の一般的なお仕事ではないです」
玄「宿泊客限定での宮永照握手会&サイン会ですよ!もう3日前からツイッターで宣伝しまくりです」
玄「なんと現時点で13000リツイート突破ですよー」
照「ゆ、宥」
宥「う、うん」
照「宥より経営の才能もズバ抜けてるんじゃないかな……」
宥「言わないで……」
玄「そうだ!肩たたきサービスもやっちゃいましょう」
照「それはダメー!」
宥「警察のお世話になっちゃう!」
カポーン
照「ふう……」
宥「お疲れ様、照ちゃん」
照「うん、ほんとに」
宥「まさか帰るなり玄関に握手ブースが出来てるなんて思わなかったよぉ」
照「お客さんも本当に多いね」
宥「女性のお客さんでこんな時間にお風呂に入る人はいないみたいだけど……」
照「そういえば、宥が露天風呂のほうに来るのって珍しいね」
宥「それは照ちゃんがいるから……」
照「そ、そう」
照「それにしても宥は胸おっきくていいよね……羨ましい」
宥「あ、あんまり見ないで欲しいな」
照「こればっかりはどうしようもないよね」プニプニ
宥「つ、突っつかないで」
照「いいじゃない……付き合ってるんだし、これくらい」
宥「ダメだってば」
照「お願い」
宥「こ、このあと麻雀で勝てたら、いいよ」
照「それはOKサインとみなすけど?」
玄「立直一発ツモタンヤオドラ6、裏……3ですね。お父さんがトビです」
宥「東2の、私の中ホンイツがあるから順位は玄ちゃん、わたし、照ちゃん、お父さんだね」
照「……………………………」ズーン
玄「?」
・
――――――阿知賀女子学院
穏乃「玄さん、宥さん」
玄「久しぶり穏乃ちゃん」
宥「元気そうだね」
穏乃「はい!宮永さんも」
照「うん……でも、わたしまで、よかったの?」
照「その、阿知賀の閉部式に参加して」
憧「元インハイチャンピオンが来て打って行ってくれるなんて、ここの雀卓たちもきっと喜ぶわ」
晴絵「そうそう!名誉なことだよ」
玄「穏乃ちゃんと憧ちゃんは進路決まったの?」
憧「うん。二人で大阪の大学に進学する」
穏乃「わたしは普通に実家で働くつもりなんですけど……母が大学生活くらいは楽しんでおけって」
玄「灼ちゃんは、進学しなかったんだね」
灼「わたしはまあ、お婆ちゃんのこともあるし、長い間家を留守にするわけにはいかないから」
玄「そっか……」
憧「ほらほら!湿っぽいことやってないで速く始めよう!」
憧「はじめの半荘は……わたしと、シズと、玄と、晴絵ね」
玄「うん」
晴絵「ああ」
・
.
晴絵「……じゃ、そろそろ夕暮れだし、終わりにしようか」
穏乃「待ってください」ポロポロ
穏乃「私は……ここが無くなるなんて、嫌です」
穏乃「もうここでみんなと会えないなんて」
憧「シズ……」
晴絵「私だってっ……」
灼「ハルちゃん……」
照「………」
――――――鐘楼
宥「ここにいたんだ」
照「……うん」
照「やっぱり、来るべきじゃなかったかも」
宥「さすがにみんなの気持ちを共有しないまま、あの空気の中にいるってのは、無理だよね」
宥「わたしも思い出深い場所ではあるけれど」
宥「あの4人と比べると……やっぱりね」
宥「赤土さんは、来年度からプロに行くんだって」
宥「灼ちゃんもそのことで結構悩んだみたい」
照「……誰が相手でも」
照「わたしは、負けないよ」
宥「うん」
宥「それでこそ、わたしの照ちゃんだよ」
照「それよりも、ここ寒いでしょ?下に戻ろう」
宥「ううん……くっついてれば、寒くないよ」
照「……そうだね」
――――――成田空港
哩「さあ!いざゆかん北海道」
照「いつもより人数少なくない?」
哩「玄は日程が合わず欠席!」
照「専門だから、大学に比べて休みが短いのは仕方ない」
照「でも、宥は?」
哩「北海道は寒いけんパスやってさ」
照「えぇ!?」
宥「ちゃんといるよぉ」モコッ
照「誰!?」
宥「ゴーグル掛けてるだけだよ~」カチャ
照「ゆ、宥……ちょっと見ない間に太ったね」
宥「もう!これは防寒着だよ!」
姫子「あはは、完全防備ですねー」
哩「と、いうわけで北海道旅行はこの4名でお送りする」
哩「では、いざ搭乗ゲートへ!」
ピー ピー ピー
宥「あわわわわわわわ……」
照(前途多難だ……)
・
宥「さ、さむい……飛行機から降りたくない……」
哩「おいおい、これはホテル直行コースか?」
照「旅行の時いつも誰か体調悪いよね」
姫子「って、これは体調がどうとかゆーんじゃじゃないと思いますけど」
照「というか、なんで宥が寒がりって知ってて北海道を旅行先にしたんだっけ」
宥「南端は制覇したから、次は北端を制覇しようって……」
照「哩が?」
宥「ううん、わたしが」
照「えっ」
宥「飲み会の時に」
照「ああ……」
哩「流れでその場で全員分チケット取ったんよな」
照「宥はホテルで待機しとく?」
宥「ううん、頑張る……」
姫子(歩ける寝袋みたい)
哩「えーと、まずは何すんの?」
照「北海道大学に行く」
照「で、少年よ大志を抱けごっこやる」
宥「動物のお医者さん~」
姫子「な、なんかよーわからんチョイスですね」
――――――北海道大学
照「着いた……」
哩「これが案内板か」
照「………」
照「広っ!?」
姫子「あ、ここクラーク像って書いてますよ」
照「これほんとに大学?自然公園の間違いじゃない?」
哩「こんなん普段の学園生活で困りそうやな」
宥「照ちゃん教室移動できなくてその辺で行き倒れてそう」
照「ひどい」
哩「宥も動けなくなって春に死体で見つかりそうやけど……」
哩「えーと……これがクラーク像」
照「これ大志を抱いてない……偽物だよ」
「あら?」
「もしかして、そちらの方は麻雀のインハイチャンピオンではないですか?」
宥「照ちゃーん、呼ばれてるよー」
照「はい、そうでしたけど……」
成香「はじめまして。私、有珠山高校出身の本内成香と申します」
照「うすざん……わたしたちが高3の年にBブロック側で初参加した高校だっけ」
成香「はい。一昨年先鋒を務めさせていただきました。今はこの大学の1回生です」
照「へえ……」
成香「それで、皆さんここで何をしてるんですか?宮永照が北海道大学に進学したという噂は聞いていませんけど」
姫子「わたしらは観光で来たんですよー」
成香「観光で大学に……ですか。ずいぶん変わってるんですね」
照「ここには少年よ大志を抱けごっこをしに来た」
成香「少年よ大志を抱けごっこ……? ああ、クラーク像のことですか」
成香「全身像はここじゃなくて羊ヶ丘展望台にあるんですよ」
照「……」ガーン
宥「あ、あの……動物、見せてもらえませんか?シベリアンハスキーとか」
成香「私は学部が違うのでなんとも言えませんけど、その格好では動物たちが怯えてしまうので無理だと思います」
宥「……」ガーン
成香「ここが羊ヶ丘展望台ですよ」
照「おお、ほんとにあった」
照「少年よ大志を抱け」キリッ
宥「似てる似てる」
照「そ、そうかな///」
哩「なんで照れとんの」
成香「えーと、今スノーパークってのがあって、雪遊びができ」
宥「いいです」
成香「あ、そうですか……」
姫子「すいませんねえ、わがままな人ばっかで」
成香「いえいえ」
・
照「あ、そうだ!お菓子!お菓子!」
成香「お菓子……ですか」
照「クッキーに白いチョコのやつ」
姫子「白い恋人ですか。ただのクッキーじゃなくてラングドシャですよ」
成香「あー、だったらイシヤの工場行きますか」
姫子「運転代わりますよ」
成香「いいですか?ありがとうございます」
・
照「……」サクサクサクサクサク
哩「お土産を今食うな」ビシッ
照「痛っ」
姫子「今日はありがとうございました」
成香「いえいえ、私も楽しかったです」
成香「またいらしてくださいね」
照「ありがと」
・
宥「はふ~~~~~」
哩「結局どこいっても宥はフロ入っとる時が一番幸せそうだな」
宥「こればっかりは照ちゃんでも勝てないかも~」
照「わたし温泉以下!?」
宥「冗談だよー」
――――――松実宥、大学3年の夏、大学構内図書館
哩「てーるー」
照「図書館内では私語厳禁でお願いします」
哩「つれないなー」
照「私語については苦い思い出があるでしょ。図書館であんなことにはならないと思うけど」
哩「くっ」
照「……て、うわ」
哩「ん?」
照「哩、煙草臭い」
哩「あー、すまんなー」
哩「ウチのゼミの教授ヘビースモーカーで研究室出た後も服がめっちゃ臭いとよ」
照「なんだ……哩が吸ってるのかと」
哩「酒はやるけどタバコはなー」
照「似合いそうではあるけど」
哩「そうか?」
照「うん」
哩「似合うといえば、お前もここのバイト似合うよな」
照「そうかな///」
哩(嬉しいのか?)
照「それにしても、哩が図書館に来るの珍しいよね」
哩「今日は、レポートの参考文献を借りにな」
照「あぁ……テスト期間前にしか来ないタイプの人か」
哩「そそ。このカードスキャンしてみ」
照「?」ピッ
照「……」
照「3年間、見事に利用日が全部テスト前2週間だけ」
哩「大半の学生はそんなもんよー」
照「面白い本、いっぱいあるのに」
哩「そんなん読みたい奴が読めばいいとよ」
哩「あ、そうだ」
哩「昨日お客さんにミュージカルのチケットを貰ったっちゃけど」
照「へー」
哩「なにぶん姫子もわたしもこういうのに興味がないけんな。宥と二人で行って来たら?」
照「いいの?」
哩「お客さんに感想を伝えなければならんからな」
哩「感想を1600字以上のレポートにして来週の金曜日までに提出せよ」
照「まあ、それくらいなら」
哩「いや、やっぱりかいつまんで教えてくれるだけでいいや」ピラ
照「ありがとう」
哩「代わりと言ってはなんだが」
哩「このリストにある書籍を探して持ってきて」
照「それ職務の範疇外なんだけど……」
哩「ケチ」
照「はいはい……」
――――――照の家
宥『ミュージカル?』
照「うん。哩がチケットくれた」
宥『う、うーん』
照「あまり興味ない?」
宥『そういうことじゃないんだけど』
宥『あぁいう暗い所に行くと眠くなっちゃうんだよねぇ』
照「そう?じゃあやめにしようか」
宥『ううん、せっかくだし行こうよ』
照「わかった。じゃあ明日駅前に10時で」
宥『うん』
ブツッ
照「うーん、何着ていこうかな」
照「せっかくだしこの間宥と買ったこれにしようかな」
照「冬はともかくとして、夏服を宥に選んでもらうと暑いんだよね……」
照「あ、そうだ。このネックレスもしていこうっと」
・
宥「お待たせ」
照「いや、待ってないよ」
照「でも、そういえば遅刻しなくなったね?」
宥「うっ」
照「2回目のデートをすっぽかされたときは何事かと思ったけど」
宥「も、もう……それは何回も謝ったじゃない」
宥「わたし冬は朝起きられないんだもん……」
照「責めてるわけじゃないよ。仕方ないことだし」
宥「う、うん。この話はおしまいね。ところで、今日見るのはどんなの?」
照「うーん……市民ミュージカルみたい。劇団四紀みたいな大きなところではないよ」
宥「こういうのって初めてかも」
照「つまんなかったら、寝ちゃってていいよ」
宥「えー……?一応最後まで見るよ」
照「そう?」
宥「売店でポップコーンとか売ってるかな?」
照「映画じゃないんだから……持ち込んじゃダメって事は無いけど」
宥「そうなんだ」シュン
宥「こんなど真ん中で見るの?」
照「ここなら空調が当たらないから」
宥「ふふ……ありがと」
照「普段だったら、真ん中からすこし左に逸れた席に座るかな」
宥「あ、なんかわかるかも」
照「そろそろ始まるみたい……」
・
・
哩「で、どうだったん」
照「まぁ、普通かなあ。大道具の類は結構凝ってたと思う」
照「でも歌の声量とかはイマイチだったな」
哩「ふーん。そういう方向で感想言っとくわ」
哩「デートとしてはどうだった?」
照「まあ、案の定というか、宥は寝てた」
哩「そうか。闇に紛れて手を握るくらいのことはしたんか?」
照「え?あ、ああ。うん」
哩「初い奴らよなー。それくらいのこと前々からしよったやろ」
照「改めて恋人として意識するとすごく恥ずかしいんだ」
哩「なーんだ、そんならまだやってないんか」
照「ちょ」
哩「あの手のやつは一回はまると底なしのタイプぞきっと」
照「や、やめて。そういう目で宥を見ないで……」
哩「そんなこと言って。照自身はどうなん」
照「この間奈良に行ったときに……その、致そうと思ったんだけど」
哩「ほほう。というかいきなり相手の実家でとかお前なかなかのチャレンジャーやな」
照「なんであそこで負けちゃうかなぁ」
哩「よーわからんがお前も大変っちゅうことか」
姫子「どうでもいいですけど、お昼間から人の部屋で猥談まがいの話するのは止めちゃらんですか」
照「ごめんね」
哩「すみません」
哩「にしてもまあ、姫子も結構キツいこというようになったな」
姫子「えっ、そうですか」
哩「この間も『たまにはわたしが攻めやりたい』とか言っとったし」
姫子「あ、あはは」
照「結局猥談から離れないんだ」
姫子「で、ですよ!猥談終わりッ」
哩「……ま、いいけど」
照「それで、わざわざ私を呼んだ理由ってなに」
哩「人生相談?」
照「はあ」
哩「結局のところ、この大学に進学したのは単に姫子から逃げて東京へ行くため」
照「今となっては、何の意味もなかったね」
哩「照と会えたやない」
照「そういうのいいから、続き」
哩「今日はえらい辛辣やね……」
哩「で、就職とか、ここで学んだものを活かす感じにはならんと思う」
照「ほとんどの学生はそんなものじゃないの」
哩「……さらに、サークルで何かを成し遂げたとか、そういう経験も無い」
照「そもそも所属してないでしょ」
哩「…………………なお悪いことに、活かせるような趣味とかも無い」
照「……女王様にでもなったら?」
姫子「やー!そんなんダメですよ哩さん!」
哩「わかっとる」
姫子「やけん哩さんも中免取ってツーリングしましょうよー」
哩「バイクは転倒が怖いから嫌」
姫子「えー」
照「……お酒?」
哩「何?」
照「哩といえば、というもの。お酒」
哩「……ふむ」
照「お店でも出せば、今のバイトの経験、活かせるんじゃない」
哩「身近すぎて気が付かんかったが、そういうのもありか」
姫子「ほあー……哩さんバーテンさんになるんですか」
哩「候補の一つに入れておこう。ありがとな」
照「それはどうも」
・
玄「ロンです 18000」
哩「くっ」
照「玄さんが同卓だと高火力コンビもかたなしだね」
姫子「こすいです~」
哩「そういえば玄……専門の友人で卒業後店を出す人とか知らん?」
玄「お、お店ですか?」
哩「そう。資本となる金とか、手続きとか知りたい」
玄「うーん、今度学校と、地元の知り合いに当たってみますね」
哩「頼む」
照「ふーん……そういう方向に進むんだ」
哩「まあ、考えてみるだけ」
ピロリロリーン
姫子「あ、電話やね、ちょい失礼」
哩「休憩にするか」
照「コーヒーおかわり要る?」
哩「いる」
玄「あ、わたし行きますよ」
照「ううん、座ってて」
姫子「はーい、じゃあね」ピ
哩「どちらさん?」
姫子「あ、ほら春の北海道旅行の時の。成香ですよ」
照「聞いた?哩」
哩「成香やってさ」
照「なんだろうこの後輩たちのコミュ力の高さ」
哩「言わんとって……悲しくなるけん」
ガチャ
宥「ただいまー」
哩「お、帰ってきた」
宥「けっこういっぱい買ってきたけど」
哩「そりゃまあ、今日は記念すべき」
照「玄さんの飲み会初参加だからね」
玄「さ、参加はしてましたよ!」
哩「いつも料理ごちそうさんです」
照「お酒飲むのは初めてでしょ。学祭おわりの時も1人先に1次会で帰っちゃうし」
玄「だ、だってそれは」
哩「真面目やなー玄は」ナデリナデリ
玄「も、もう」
姫子「じゃーみんなグラスいきわたりましたー?」
照「はーい」
「かんぱーい」
・
哩「あいつら二人が地雷なら、玄は……そう。核弾頭」
哩「最悪の『絡み酒』を発動した玄は手早く4人を潰した後」
哩「うちにある酒のほぼ2/5を飲み干して眠りについた」
哩「全員が目覚めたのは、2日後の朝だった……」
姫子「そういうのいいから、お掃除手伝ってください!」
―――――――松実宥、大学3年の秋
照「宥、どうだった?」
宥「うん。これで卒業単位はだいたい揃ったよ」
照「わたしもあとは楽な授業をいくつか入れたら終わり」
宥「就活しないとなると、もうこの時期の大学生ってヒマだねぇ」
照「そうだね。週のうち1回しか学校には来なくていい」
宥「今年の冬はずっとお家で過ごせるね」
照「いや、そんなもったいないことするのは宥だけだよ……」
宥「ねえ、今日は天気もいいし、みんなでピクニックに行かない?」
照「まあ、まだ9時半だし、お弁当作ってから行く時間もあるね」
宥「ちょっと、電話で二人を呼ぶね」
照「わかった。わたしは玄さんを」
哩『悪いな。わたしと姫子はもう今日の予定を立ててしまっている』
宥「そっか……」
哩『まあ、せっかく宥が提案してくれたのに悪いが、また誘ってくれ』
宥「うん」 ブツッ
照「どうだった?」
宥「ダメだって」
照「そう、じゃあ3人で行こうか」
宥「電車乗るの久しぶりだったねー」
玄「遊びに行くときはずっと哩さんの車だったもんね」
照「免許だけなら持ってるんだけどね」
宥「え、そうなんだ」
照「教習所行ってるって話したじゃない」
宥「そ、そうだったかな……」
玄「あ、着いたよ!」
宥「結構歩きやすい山道だね」
玄「だね、おねえちゃん」
照「はぁ……はひ……」
宥「あ」
宥「やっぱり、照ちゃんにはちょっときつかったかなぁ」
玄「大学ってもう体育の授業無いんでしょ?山道に慣れてなくて、運動不足だとつらいかもね」
照「もうだめ」ゼイゼイ
宥「ほら、照ちゃんこれ見てみて」ピラ
照「ムササビに……会おう…?」
宥「うん、この先で見れるかもだって」
照「よし、行こうか」スタスタ
玄「わ、手慣れてるねおねえちゃん」
宥「うふふ」
宥「ちなみにムササビは夜行性だよ」
玄「ひどいねおねえちゃん」
照「いなかった……」ズーン
宥「あ……とろろそばのお店だって。あったかそう」
玄「いや、お弁当作ってきたんだよ!?」
玄「頂上に到着ー」
照「」
宥「綺麗な景色だねー」
玄「さて、お待ちかねのお弁当タイムですよ」カパ
宥「わーい」
照「相変わらずおいしそう」
照「……」モグモグ
玄「はいおねえちゃん、あ~ん」
宥「あーん」
照「……」ハグハグ
照(なんだろう、この気持ち)
照(……構ってもらえなくて寂しい?)
宥「おいしーい」
照「ねね、玄さん」
玄「はい?」
照「わたしにも」
玄「いいですよ、はいあーん」
照「あー」
照「……」モグモグ
玄「おいしいですか?」
照「……うん、ごちそうさま」
照(違った)
照(玄さんとも距離が近すぎて今までわからなかったけど、わたしは玄さんに嫉妬してるのか)
照「ねえ、宥」
宥「ふぁ~あ……うん?」
照「膝の上、おいでよ」
照「朝早かったし、眠いんでしょ」
宥「ふぁい……」Zzz...
玄「あ、お邪魔ですね」
照「ううん、そんなことない」
.
玄「……いえ、わたしもそろそろ姉離れしなきゃいけないと思います。その逆も」
玄「でも別にそれは、わたしとおねえちゃんとの関係がなくなるって事ではないですけど」
照「それはもちろんそうだよ」
玄「これから先おねえちゃんのそばにいる人が照さんで良かったと思います」
玄「かなり抜けてるところがあるので大変だとは思いますけど、支えてあげてください」
照「もちろん、約束するけど」
照「でも、わたしのほうが支えられてるかも」
玄「ふふっ」
玄「あ、ひとつお願いがあります」
照「何?」
玄「照おねえちゃん、って呼んでもいいですか?照さんのこと」
照「それくらい、どうぞ」
玄「あと、わたしの事も玄って呼んでください」
照「わかった」
玄「ええ。じゃ、お散歩行ってきますね。照おねえちゃん」
照「うん、気を付けて、玄」
照「……今日はいい天気だな」
―――――――松実宥、大学3年の冬
ピンポーン
宥「ん……あふ……」
宥「うわ、ベッドの外寒いなぁ」
宥「出たくない~」
照「……別に、出なくてもいいんじゃない。新聞の勧誘かなんかでしょ」
宥「そうだね」
照「はぁ、でも目が覚めてすぐそばに宥の寝顔があるのって幸せ」
宥「もう」
宥「あー、でも照ちゃんあったかい……離れたくないなぁ」
照「今日はこのままずっとだらだらしてよっか」
宥「ふふ……でも、いいのかなぁ。平日のお昼間なのに」
照「大学生の特権、でしょ」
宥「そうかなぁ」
.
哩「ろ、廊下寒すぎやろ……」クシュン
玄「どうかしたんですか?」
哩「あぁ、玄」
玄「とりあえず、お部屋にどうぞ」
哩「すまん」
玄「はぁ、おねえちゃんに相談を、ですか」
哩「大したことじゃないっちゃけど」
玄「わたしでもよければ聞きますけど」
哩「ん?そうか……それもありだな」
哩「相談というのは、これからの私の人生についてだ」
玄(すごく大したコトだよ!)
哩「起業……と呼んでいいのかどうかはわからんが、わたしと違い多くの同輩たちは会社に就職する」
哩「店を出す、という生き方をする奴は多くない」
玄「それで、旅館経営をするおねえちゃんに相談、ですか」
哩「ああ。玄たちは中学、高校時代からそういうことに関わってきたっちゃろ?」
哩「見通しの立てやすい水面で生きるか、先の見えない水底へと進むか」
玄「……何かに影響されてます?」
哩「え、ああ、実は夏ごろに図書館に行ったとき、照の奴に本を押し付けられてな」
哩「これが意外と面白くって」
玄「真面目にやってください」
哩「す、すまんな」
玄「……今までだって、ちゃんとやってこれたんでしょう?姫子さんと、2人で」
哩「あ、ああ」
玄「わたしも、そうでした。おねえちゃんとなら何だって乗り越えられた」
玄「つらいことも、楽しいことも」
玄「だから哩さんも、大丈夫です」
哩「………」
哩「ありがとう」
哩「本当はただ、背中を押してもらいたかっただけ、なのかもな」
玄「こういう相談をするとき、心はもう決まってるんですよ」
玄「おねえちゃんはいつも優柔不断だったから、わかります」
哩「……玄に相談して、良かったよ」
玄「どういたしまして」
・
―――――――松実宥、大学4年の春、BAR waxing moon
哩「いらっしゃい……およ、照に弘世嬢」
菫「ずいぶん他人行儀だな白水。インターハイで鎬を削った仲じゃないか」
哩「じゃあ、今後ファーストネーム呼び捨てっちゅうことで」
哩「しかし……わたしの名前をすっかり忘れてたインハイチャンピオン様たー出来が違うな」
照「それは言わない約束」
哩「してないけんな」
菫「それにしても、照に酒を嗜むような趣味があったとはな」
照「嗜む……?」
哩「おいおい、そんな生易しいもんじゃないっちゃけど」
照「もしかして菫、お酒飲むの初めて?」
菫「正月に屠蘇とか、御神酒を飲むくらいだ。常習的には飲まない」
哩「ほほう……良いことを聞いた。明日のお花見参加決定だな」
照「元よりそのつもりではあったんだけど……」
哩「ま、今日は邪魔する気はない。旧友2人でゆっくり語らっときぃ」
照「おごってくれたりはしないの?」
哩「アホ。今のわたしにはお金が必要なんやけんそんなことできるか」
照「そう。じゃあわたし適当にバーボンで。菫には軽い奴で」
菫「結構慣れてるんだな」
照「シンガポールにマーライオン像として就職できるくらいには」
菫「それは言い過ぎだろう……食道ガンになるぞ」
哩「ほーいお待ち。ごゆっくり」ゴト
照「就職……といえば」
菫「うん?」コク
照「菫はどうするの?就活」
菫「私はまだ院に進むつもりだから、3年後だな」
照「あー、研究者なんだねぇ……」
菫「私としては、お前の就職はかなりの懸念事項なんだが」
照「プロに進む」
菫「……今更か?公式大会には1度も出てないだろう?雑誌でも全く見ないぞ」
照「あの時の私は、プロ入りしてやっていける強さがなかった」
菫「お前がそうなら、江口や愛宕はとっくに引退してるだろうさ」
照「違う。そういう強さじゃない」
菫「高3のお正月の対局のことか?」
照「……やっぱり、気付いてたの」
菫「電話では、新しい麻雀部の空気が合わなくて辞めた、と言っていたが」
菫「まがりなりにも高校生の頂点だったお前がそんなことで辞めるはずはない」
菫「実力で黙らせていたはずだ……違うか?」
照「さすがは菫だね。麻雀部にはそもそも入部してない」
菫「小鍛冶健夜……か」
照「うん。あんなお遊びの対局だったけど、手も足も出なかった」
照「麻雀自体をやめるつもりだった」
菫「ま、進学先を急に変えた時点でおおよその察しはついていたけどな」
菫「ただ、お前が特待を蹴ったせいでその後始末は大変だったんだぞ。白糸台の今後に関わるし」
照「……そのことは、悪いと思ってる」
照「でも今は、宥がいるから大丈夫」
菫「……………」
菫「結局、惚気話になるのか」
照「いいじゃない。幸せのお裾分け」
菫「けっこう辛いんだぞ」
カタン
照「哩、次はワイルドターキーをダブルストレートで」
菫「やっぱりお前変わったな……」
・
哩「さて、今年も無事花見の季節を迎えることができたな」
宥「場所取りお疲れ様、照ちゃん、弘世さん」
菫「まさか店を出た後そのまま場所取り直行とは思わなかったぞ……」
照「言ってなかったからね」シレッ
姫子「相変わらずむちゃくちゃしとりますね……」
淡「テルー!」ガバッ
照「うわっ」
淡「菫先輩から聞いて来ちゃった!」
哩「ほほう……大星か。賑やかしにはちょうどいいな」
宥「……」ムッ
哩(しかもなんか面白そうなことになりよるし)
玄「一晩中待ってた人たちもいますし、お弁当にしましょうか」
照「待ってました!」
淡「むっ……テルーは久しぶりに会う愛しの後輩よりお弁当なの?」
照「うん」キッパリ
淡「そんなのやだやだー!」
照「それに……悪いけど淡、わたしの一番はそこにいる……」
宥「ほぇ?」
照「宥だから」
淡「なっ……」
淡「そ、そんな……」ガックリ
宥「ねえ、淡ちゃん。せっかくのお花見なんだから落ち込んでないで、一緒にお弁当食べよう」
哩(おお……正妻の余裕!)
淡「うん!」
菫(こっちはこっちでこの立ち直りの速さは何なんだ)
照(淡の将来が心配だ)
菫「そういえば、誠子と尭深は」
淡「亦の先パイとタカミーはふたりそろって静岡に進学したよ」
菫「そうか……高校にはほとんど顔を出せてなかったがそんなことになってるのか」
玄「はい弘世さん。取り皿どうぞ」
菫「あ、ああ……この料理は、全部君が作ったのか?」
玄「大体はそうですよ?わたし、都内の調理学校に通ってるんです」
菫「そうなのか。……いただきます」
玄「どうぞ召し上がれ~」
淡「なにこれ!めちゃくちゃ美味しいよ!」
菫「…………」ポロポロ
照「わ、菫が泣き始めた」
玄「ど、どうしたんですか」
菫「いや、ここ半年というもの……研究室と自宅を往復するばかりの毎日で、こんな美味しい料理を食べたのは久しぶりだったから」
照「泊まり込みも多いって聞くしね」
菫「美味しい!美味しいよ松実さん!」
玄「よ、よかったです」
哩「猪口に桜を浮かべて花見酒~」
姫子「風流ですねー」
宥「哩ちゃんってこういうとこロマンチストだよね」
哩「もっと言ってもっと言って」
宥「普段は変態代表みたいなのに」
哩「ひどい……」
・
―――――――松実宥、大学4年の夏、福岡
哩「おっす」
美子「ずいぶん久しぶりやね」
仁美「ほんとにな。3年ぶり?」
哩「あぁ」
仁美「けどまぁ、やっぱ思った通りになったんやね」
哩「あぁ……」
美子「だから逃げても意味ないって言ったやん」
哩「お前らには敵わんな」
哩「そういやお前ら、就活のほうは?」
美子「私はもう決まったよ」
仁美「この前内定貰ったけ終わり」
哩「そうか……」
美子「まだ、決まってないの?」
哩「いや、そういう訳じゃないっちゃけど」
美子「じゃあ何?」
哩「店を、出そうと思う」
美子「えええぇ~」
仁美「マジかお前」
哩「割と、マジ。今更変更は効かんし」
仁美「くくっ。お前とおるとやっぱ退屈せんでいいわ」
美子「へぇー、資金とか大丈夫なん?」
哩「そこは、まあ。おかげで友達と遊ぶ時間は減ったけど」
美子「大事にせないかんよー、数少ない友達は」
哩「なっ、なんでそれを」
美子「姫ちゃんは毎年ちゃんと帰ってきてくれてるもんねぇ」
哩「あ、あいつ……」
仁美「アホ、あんないい子もっぺん手放したら二度と見つからんぞ」
美子「今回の帰省の宿も、少しでも金銭的負担を減らそうとYHを手配してくれたらしいやない」
仁美「ほー、ホステリングやるんかあいつ」
哩「そういや長期休暇の時はバイクで日本中駆けまわっとるな」
仁美「充実してますなー」
美子「それで、今回はそのお友達と?」
哩「ああ。まぁ1回くらいは全員の地元にな」
美子「そう、でも東京の人って福岡に来てやることあるとかいな」
仁美「男ならまぁ歓楽街まわってりゃ楽しいかも知らんが」
哩「まぁ……最悪ラーメン食べときゃ何とかなるやろ」
仁美「この適当感」
美子「そういえば、姫ちゃんは?」
哩「花田の奴と会うとかで出かけた」
美子「じゃあ、今日は久々に3人で遊びますか」
仁美「まずは腹ごしらえ……」
・
哩「と、いうわけで福岡ラーメンめぐり、いかがだっただろうか」
照「体重計に乗るのが怖い」
玄「わたしもです……」
宥「屋台ラーメンは寒かった」
哩「いまいちな評価だな……」
玄「穏乃ちゃんだったら大喜びだったかもねぇ」
―――――――松実宥、大学4年の秋
照「はい。わかりました。ええ、よろしくお願いします」
ピ
宥「誰?」
照「プロチームのスカウトの人」
宥「へぇ~、大学に入って公式大会一度も出てないのにねぇ」
照「ありがたいことだよ」
宥「奈良からは……オファー来てる?」
照「いや」
照「実際この4年表舞台から姿を消したことは大きかった」
照「オファーが来たのはいくつかだけだよ」
宥「相変わらず強いのにねぇ」
照「いずれわたしの強さを証明してみせる」
宥「そうすれば、一緒に居られる?」
照「うん。小鍛冶さんがそうしてるように」
照「でも、わたしは小鍛冶さんも超えるつもり」
宥「うん。きっとできるよ」
宥「でも……少なくともそれだけの発言力を得るまでに、何年かかるかな?」
照「契約は大体2,3年スパンだから……」
宥「それまでは、離れ離れになっちゃうのかな」
照「…………」
照「いや、離れ離れになんかしないよ」
照「大学を卒業したら――――――」
照「―――――結婚しよう、宥」
宥「………」
宥「はい。喜んで。照ちゃん」
―――――――松実宥、大学4年の春
照「もう、卒業か」
宥「あっという間だったねえ」
照「特にこの1年は短かった気がするな」
宥「そうだね」
照「楽しいときは瞬く間に過ぎる、ってことかな」
宥「もう、照ちゃんったら」
照「ほんとうだよ、宥と居て人生で一番楽しい4年間だった」
宥「わたしも」
宥「そういえば、去年はあんまり哩ちゃんと会ってないなぁ」
照「旅行とか、イベントごとでは一緒に居たけどね」
照「あいつなりに、理由があるんだよ」
宥「へぇ……」
宥「なんだか照ちゃんは、わたしの知らない哩ちゃんを知ってるよね」
照「でも、哩の知らない宥の顔のほうがたくさん知ってるよ」
宥「……恥ずかしいな」
宥「でも、嬉しい」
哩「おーい、お前らー」
宥「あ、哩ちゃん」
哩「式終わったし、これから飲みに行こうや」
照「最後まで哩は……」
宥「でも、そのほうが哩ちゃんらしいよね」
哩「そーそー、酒抜きに聞けないこと全部聞いてからお別れにすっぞ」
照「うちは姫子さんと哩のところみたいに爛れてないから……」
照「それに、これはお別れなんかじゃないよ」
宥「そうだね、きっとまたすぐに会える」
哩「そやねー、じゃ、糸をもっぺん結び直しとこーか?」
宥「糸?」
哩「あとで照に聞いて」
哩「にしても、照はプロで宥は実家。就活せんでいい奴らはちゃきいよなー」
照「哩だって、してなかったじゃない」
哩「ばれたか」
宥「え」
照「したいこと、見つけたんでしょ?」
哩「まーな」
宥「そういうことなら、大丈夫そうだね」
哩「んじゃ、そろそろ行くぞ。車に乗れ」
宥「はーい」
―――――――現在 BAR NAUTILUS
照「奈良のチームへの移籍が決まったから、これからは一緒に居られるよ」
宥「ほんと!?」
カランカラン
哩「む」
哩「あ、すみません……今日は営業してないんですよ」
哩「はい、申し訳ないです。またよろしくお願いします」
哩「はあ、看板をCLOSEにすんの忘れとった」
宥「だめだよ哩ちゃん」
哩「すまん。しかしまあ、宥もよく頑張ったな」
哩「もっというと、新婚なのに3年もほったらかされてよく頑張った」
照「わたしはどこかの誰かと違って可能な限り奈良に居たから」
哩「ぐっ」
宥「わたしたちを引き剥がすのは、これから先ずっと九蓮宝燈で和了りつづけるより難しいよ」
哩「宥も言うようになったなあ」
哩「ほい、じゃあ3人分の飲み物がそろったところで」
照「うん」
宥「はい」
哩「宥と照の結婚記念日と」
照「哩のお店のオープン2周年を祝って」
宥「哩ちゃんのお店のオープン2周年を祝って」
「乾杯!」
哩「海底2万マイルを往く」 カン
煌姫書きたかっただけのSS
後半は無理やりにでも前回のうちに投下すればよかったなぁ
統一感がいまいち……
じゃあの
乙
これ姫子結局どうなったの?
>>347
ハッピーエンドですよ?
照「内緒のはなしは…」宥「あいるてるゆーわっと!」
照「内緒のはなしは…」宥「あいるてるゆーわっと!」 - SSまとめ速報
(http://www.logsoku.com/r/news4vip/1360413310/)
>>348
哩さんの店で一緒に働いてるのかなと思って
あ、よくみたら>>211の後がぬけてる
宥「……」ガーン
照「がっかりだ」
宥「帰ろう……」
哩「おいおい」
成香「あ、あの。よろしければ北海道の観光案内をいたしましょうか?」
姫子「ホントにいいとですか?助かります」
成香「はい。今日は所用でちょっと学校に来ただけなので」
成香「じゃあまずはクラーク全身像があるところに行きましょうか」
・
>>351
そのへんあんまり考えてないや……
幸せな専業主婦でいいんじゃない?(適当)
このSSまとめへのコメント
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