照「内緒のはなしは…」宥「あいるてるゆーわっと!」(569)

代行ID:bQNSjjRO0

>>1
代行ありがとうです

カランカラン

「いらっしゃい」

「ご注文は?」


宥「おまかせ」

「はいはい」

照「宥」

宥「照ちゃん」

照「こんな風にしてお酒を飲む事になるとはね」

宥「わたしも想像だにしなかったな」

照「宥と初めて会ったのは、大学1年の春だったっけ?」

宥「高3の夏じゃないかな?」

照「そうだっけ……?」

照宥?かどうか分からないけど支援

宥「インハイで会ったじゃない」

照「あれは会った内に入るのかな」

宥「厳密に言えばそうだと思うけど」

照「そうだけどさ」

照「ただまぁ、私の時間が動き出したのは」

照「あの1年の夏の日からなんだよね……」

宥「照ちゃんってたまに詩人だよね」

照「まぁ、文学少女ですんで」

宥「ちょっともう少女っていう年じゃないと思うけど」

照「宥はけっこう細かいよね……」

宥「まあ」

宥「たまには昔を振り返るのも」

照「悪くはないでしょ」

照「そういえば宥、あのね…」

宥「うん」




―――――――松実宥、大学1年の春



宥「あ、あの」

照「ん?えっと、あなたは」

宥「宮永照、さんですよね」

照「はい。そうですけど」

宥「あの、わたし、松実宥です」

宥「もと、阿知賀女子の」

照「あちが……ああ」

照「菫と戦ったひと」

宥「はい。宮永さんも同じ大学だったんですね」

照「うん」

宥「……」

照「……」

宥「あ、あの」

照「あ」

照「次の講義に遅れるから……」パタン

照「じゃあまた」

宥「は、はい」

宥(『菫と戦ったひと』……まぁ、実際その程度の認識だよね)

宥(本読んでたみたいだし、迷惑だったかなぁ)

宥「お昼ご飯、どうしよーかなぁ」

宥「……」モグモグ

「おい」

「おーい」

宥「はぇ!?わ、わたしですか」

「そうだよ。阿知賀の松実姉(あね)さん」

宥「えっと、どこかで…って、あ」

宥「白水さん」

哩「おお。覚えてくれとっ……てたんだね」

宥「玄ちゃんのお友達の、和ちゃん?の繋がりで新道寺のみなさんとちょっとした会合をしたんでしたっけ」

哩「そうそう。インハイの時にね」

宥「あの。半年前と、その、雰囲気がちょっと」

哩「え、そりゃ女子三日会わざればっちゅ……ってやつですよ」

宥「具体的には、喋り方が」

哩「うっ」

哩「わ、笑わないで聞いちゃ…てくれますか」

宥「う、うん」

哩「ひ、仁美がな」

宥(あ、あのあったかそうな人)

哩「『東京の大学なんかに行くんやったら方言なおさな皆にハブにされるらしーぞ』っちゅうから……」

哩「それはそれは頑張ってふつうに喋ろうとしたっちゃけど」

哩「今んとみたいにもう噛んで噛んでどーしょーもなくて」

宥(いまいち何言ってるか伝わらないなぁ)

哩「結局オリエンテーリングであった人は離れてしまうし」

哩「もうどうしたらいいか分からんくて」ポロポロ

宥(泣き始めちゃった……)

宥「あ、あの」

宥「大丈夫ですよ」ギュッ

宥「わたしも似たような感じですから…」

哩「……」

哩「んっと……すまんな」

哩「いきなりこんなかっこ悪いところ見せて」パッ

宥「いえ」

哩「そういやあ…なしこんな日差しキツいとこでお弁当食べよん?」

宥「春といってもまだまだ寒いので…ここが一番あったかいんです」

哩(そういえばそんな属性もっとったね)

哩(前の会合ん時も……)

哩(やば、思い出したら汗かいてきた)

宥「わたしも、お友達をアパートに呼んだんですけど」

哩(ああ……結果が想像できる)

宥「それ以来なんとなく疎遠に。できたばっかりのお友達だったんですけどねぇ」

哩「しょせんそれだけの奴らやったっちゅう事よ」

宥「喋り方、戻りましたね」

哩「しまっ……まぁいいか、もう」

宥「あれだけのものを見ちゃったら」

哩「う……存外イジワルやねあんた」

哩「ということで!」

宥「なに?」ビク

哩「一緒にお昼ご飯食べよう」

宥「……」

宥「うん、いいよ」ニコ




哩「姉さんはさ…」モグモグ

宥「宥でいいよ。知らない間柄じゃないんだし」

哩「そんならうちも哩で」

哩「んーと、なん言おうとしたんかな」

哩「あ、そうそう。どこ学部?」

宥「経営だよ」

哩「あー」

哩「やっぱ実家関係なん?」

宥「うん。わたしはすぐにでもお仕事に入るつもりだったんだけど…」

宥「お父さんがいまどき高校出てすぐ働くってのもあれだからって」

宥「ここでは経理のお勉強をするつもり」

哩「なるほどね」

宥「哩ちゃんは?」

哩「法。まぁここに来た理由は特にない」

哩「大半が地元で進学するから……知り合いがおらんのは不安やったけど」

宥「わたしも。哩ちゃんがいてよかった」

哩「なんか照れんな」

宥「サークルかなにかは?」

哩「いや、あんまりしっくりくるもんが無かったけん」

宥「わたしも……あまり興味をひくものがなくて」

哩「競技麻雀からは離れるつもりやったけん特にインカレ強いわけでもないここにしたんやけどね」

哩「まさかしたいことがなんも見つからんとはね」

宥「ゆっくり考えればいいよ」

哩「うん」

宥「久しく牌にも触ってないな」

哩「うちもやね」

哩「……」

哩「そっか……経営か。まぁ1年の間は一般教養で授業かぶることもあるやろ」

哩「専門も多少は被せられるとこあるやろうしね」

宥「そうだね」

哩「これからよろしくな」

宥「うん。よろしくね」

哩「じゃ、これメアド」

宥「わたしのも」

哩「…ん。次授業だから」

宥「それじゃ、また」

哩「ああ」



宥「はじめて知り合いに会っちゃった」

宥「って、宮永さんもそうか」

宥「今日はなんだか幸せだから、晩御飯のお惣菜奮発しちゃおう」

宥(あ……)

宥(きょうは、空が青いなぁ)

―――――――宥の部屋

宥「あのね、玄ちゃん!今日は新道寺の白水さんにあったの」

玄『へぇ……』

玄『花田さんにもまた会いたいなぁ』

宥「うん、そうだね」

玄『そういえばお父さんがなんか宅配送ってたよ』

宥「なんだろう」

玄『食べ物じゃないかな~?』

宥「そうかもね……はやくバイトもはじめないと」

玄『楽しんでるようで何よりだよ』

玄『最初は一人暮らしなんて絶対無理だと思ってた』

宥「あはは……おねえちゃんだってやるときはやるんだから」

宥「はじめはちょっと大変だったけどね」

玄『インスタントものばっかり食べてちゃだめだよ~?』

宥「はーい」

玄『じゃ、わたしお勉強に戻るから』

宥「うん、頑張ってね」

玄『おねえちゃんも体に気を付けてね?あったかくして寝なきゃだめだよ』

宥「大丈夫だよー」

玄『じゃあね』


ツーツーツー

―――――――1週間くらいして



哩「おーう」

宥「おはよう」

哩「おはよう。いやこんにちは?」

宥「大学生になってからお昼でもおはようっていう癖がついちゃった」

哩「高校の時に比べたら活動時間帯が遅くなるけんな」

宥「うん。次はかぶってたよね?」

哩「ああ。出席の比率高いのはめんどいなー」

宥「交互に出るようにする?」

哩「それはいい考えやね」

哩「……」


哩「やっぱやめた」

宥「どうしたの?」

哩「数少ない共通の講義やけんなー」

哩「宥と一緒におりたい」

宥「もう」

哩「ふふ」



宥(とはいえ)

哩(授業中はお互い言葉を交わさんのやけど)

宥(……なんか)

哩(隣に知ってる人がいるってのは)

宥(いいな)

哩「バイト?」モグモグ

宥「うん、あんまり仕送りに頼るわけにもいかないし」

哩「普通にコンビニとかスーパーじゃいかんの?」

宥「その二つは…ほら…」

哩「あー、冷房ガンガンやけんな」

哩「うーん」


哩「あ」

宥「いいのがありそう?」

哩「おう。この後はヒマ?」

宥「もう授業はないけど」

哩「よーし、そんならちょっと付いてきい」

宥「?」

哩「ここ」

宥「雀荘?」

哩「そう。例の人らと連絡つかんごとなった時にむしゃくしゃしてここに来た」

宥「………」

哩「で、ここの女主人なんやけど」

宥「うん」

哩「宥ほどじゃないけど冷え症やけん冷房はナシ、冬は暖房はあるらしい」

哩「しかも健麻」

宥「へぇー」

哩「まぁダメもとで聞いてみりぃ」

宥「う、うん」

宥「ごめんください」

「はいいらっしゃい」

宥「あの、メンバー募集とかしてないですか?」

「まぁ、もうひとりくらい増えてもいいけど」

宥「本当ですか?」

「一応面接はやるけど。麻雀の経験は?」

宥「昨年のインターハイで団体戦ベスト4です」

「ベスト4ね……あー、その恰好は あ、あ…」

宥「阿知賀女子の松実宥です」

「あー、はいはい。そっちは問題なさそうね」

哩「こん人の実力は私が保証しちゃあよ」

「誰かと思えばこの間の泣き虫か…」

宥「泣いてたの?」

哩「う、うるさい///」

「じゃあ明日履歴書持ってここに来てね」

宥「は、はい!」

哩「良かったな」

宥「ありがとう、哩ちゃん」

哩「礼は受かってからにしいよ」

―――――――夏、雀荘




哩「よっ」

宥「哩ちゃん」

哩「バイトはもう慣れたか?」

宥「それなりにね」

哩「そろそろテストやね」

宥「ちょっとドキドキするね…アイスコーヒーでよかった?」

哩「ありがとう」


カランカラン


宥「いらっしゃいませ」

照「すぐ打てる?」

宥「あっ……はい大丈夫ですよ」

宥「こちらへ」

照「うん」


哩「ん……やっと卓が立つな」チュー

哩「よろしくお願いします」

照「よろしくお願いします」

哩「って、宮永」

照「? あ、新道寺の」

照「しろみずさん」

照「久しぶり」

哩「白水です」

哩「もう…3年間一緒やったのに忘れんとってよ」

照「うっかり」

宥「宮永さん……お久しぶりです」

照「って、あなたもよく見たら松実さんか」

照「この間はごめん。出席のある授業だったから」

宥「いえ」

哩「ん?宮永もおんなじ大学なん?」

宥「そうだよ」

照「『も』ということは、しろみずさんも?」

哩「お前もう哩って呼べ」

照「? いいけど」

宥「そろそろ始めますね」

「いや~、お嬢さんたちみんな女子大生なんだ?おじさんは強いよ?」

哩(……それは、冗談で)

照(言っているのかな?)

宥「ありがとうございました~」

哩「いやーやっぱ現役でインカレの奴にはかなわんな」

哩「しかも元インハイチャンピオン」

照「麻雀部には入っていない……」

宥「えっ」

哩「勿体な!」

宥「どうしてですか?」

照「……」

照「麻雀から離れてみるのもいいかと思って」

哩「本当は?」

照「………」

照「体育会系のノリについていけなくて辞めた」

宥「あー」

哩「っぽいな」

照「なかなか失礼だね二人とも」

哩「というか、そもそもなんでこんなインカレの成績微妙なとこに?」

照「もともと白糸台だってすさまじく強かったわけじゃない」

照「何もないところから始めるほうが性に合っている」

哩「ほー、フロンティア精神やね」

照「失敗したけどね」

哩「まあな」

哩「でももっととんでもない挫折するよりよかったんやない?」

照「そうかも」

哩「…せっかくこんなとこで会ったんやし、このあとちょっと宮永ウチにきーよ」

照「いいけど」

哩「宥ももうすぐあがりやし来るよな?」

宥「うん、終わったらすぐ行くよ」

哩「そしたら行くぞ」

照「はいはい…」

哩「でももっととんでもない挫折するよりよかったんやない?」

照「そうかも」

哩「…せっかくこんなとこで会ったんやし、このあとちょっと宮永ウチにきーよ」

照「いいけど」

哩「宥ももうすぐあがりやし来るよな?」

宥「うん、終わったらすぐ行くよ」

哩「そしたら行くぞ」

照「はいはい…」

―――――――哩の家

宥「おじゃましまーす」

哩「おーきたきた」

宥「頼まれたもの買ってきたけど……」ドサ

哩「その辺置いとって」

照「何するの?」

哩「ふっふっふ……」

哩「大学生と言ったら酒盛りやろ!」ドン

宥「え」

哩「まぁまぁ細かいことは気にしなさんなって」トクトク

宥(よく見たら部屋の隅にビンが結構ころがってる)

宥(もしかしたら避けられた理由って方言だけじゃないんじゃ…)

照「飲まなきゃだめなの?」

哩「うん」

照「わたしこういうのが嫌で麻雀部やめたんだけど」

哩「ジョーダンジョーダン!別にお菓子だけ食べてていいけん」

照「あ、でもあんまりイヤな匂いじゃない」

哩「そらまぁアホ学生が勢いだけで飲むような安酒じゃないけんね」

哩「女性にも飲みやすい奴をチョイスしてある」

宥(既にそこまでの域なんだ)

哩「ほい、宥も」

宥「う、うん」

哩「カンパーイ!」

宥「か、乾杯」

照「いただきます」ゴクゴク

哩「なんね、結構いい飲みっぷりやんか」

照「思ったよりおいしい」ゴクゴク

哩「特別いいのをキンキンに冷やしてあるけんね」

宥「さ、寒い…これもういらない」

哩「燗のがよかったらこっちにある」

宥「あ、あったか~い」

宥「これならいけそうな気がする」クピ

哩「何事もなぁ、克服したいときはちーと良いヤツを買うんよ」

哩「損することを恐れるあまり安いのを試して苦手意識作っとったらいかん」

照「ちーと良い七対子」ボソッ

哩(……面白くな)

宥「あはははははははは!」

哩「!?」ビクッ

宥「照ちゃん面白ーい!」ペシペシ

照「そ、そう?」

宥「うん、すっごくセンスあるよぉ!」

照「ありがとう」

照「麻雀部やめてからさ……ずっとひとりぼっちで」ウル

照「今日哩に誘ってもらって嬉しかった」グスグス

宥「うんうん」ナデナデ

哩(これは………)

宥「わたしも春先ひとりぼっちで寂しかったよぉ~」

宥「あははははは!一緒だねぇ~」

照「うん、一緒……」

宥「わたしも照ちゃんと一緒にお酒のめて嬉しい~」

照「ほんと、嬉しい…嬉しすぎて涙が出てくる」

宥「あ、哩ちゃんお酒おかわりー」

哩「あ、ああ」

宥「んー」ゴクッゴクッゴクッゴクッ

哩「徳利ごと!?」

照「うわーんさびしかったよー」シクシク

哩(一度にとんでもない地雷を二つも踏みぬいたっちゃなかろうか……)

宥「なんか眠くなってきた~」ドサ

照「わたしもねる~」ゴソゴソ

哩「お、おいこら宥の服を剥ぐな」

照「Zzz…」

哩「あぁもう……手のかかる奴ら」

哩(まぁわたしが飲ませたっちゃけど)

哩「もし吐いた物がのどに詰まっても困るし」

哩「今日は寝ずの番かいな……」



哩(飲み足りんしもう一本開けよ)

.



宥「ほにゃ?」パチリ

宥「さ、さむ……」

哩「おはよう」

哩「まぁそんな格好やったらそら寒いやろうけど」

哩「わざわざ毛布ば出して掛けたとよ?」

宥「あ、ありがとう」

照「ん~……」

哩「こっちもお目覚めか」

照「あたまいたい」

哩「そりゃアテも無しに酒だけ飲み続ければね」

哩「ほれ、しじみの味噌汁」

照「お母さんの味と違う……」

哩「文句言うな」

宥「あはは」

照「……」

照「なんか、昨日はかなり恥ずかしいことを言った気がする」

哩「ああ」

哩「ぼっちで寂しかったよーとか」

哩「ちなみにその宥の服を剥いだのもお前」

照「ご、ごめん松実さん」

照「わたし枕カバーの隙間に手を入れて寝るから……」

宥「い、いいよぉ」

哩「訳の分からん言い訳やね」

照「言い訳じゃない」

哩「はいはい」

哩「照ちゃんは人肌恋しかったんやもんね~?」

照「怒るよ」

哩「ふーん……確かにそのオニんごたー髪で怒ったら怖そうやね」

照「え」

宥「髪の毛ツノみたいにはねてるよ」

照「恥ずかしいなぁ……もう」

哩「何をいまさら」

宥「ふふっ」

照「あっ」

哩「どしたん?」

照「そういえば今日何曜日?」

宥「火曜日だよ」

照「しまった……今日1限からだ」

哩「1回くらい休んでもヘーキやろ」

照「それもそうか」

哩「どっちにしてもこっから徒歩じゃ間に合わんし」

照「うーん……」

宥「宮永さんて真面目なんだねぇ」

照「そんなことはない」

照(……?)

哩「どうかしたん?渋い顔して」

照「いや、なんでも」

照「どちらにしても続いて講義があるから私はもう出るよ」

照「洗面台だけ借りるね」タッ

哩「おう、そっか」


照「ごちそうさま」

宥「また飲めるといいねぇ」

照「うん」ガチャ

哩(こいつらには……もう酒は飲まさんっ!)

哩(や……慣れるまでは私がコントロールしちゃればいいか)

哩「またな」


バタン

宥「じゃあ私も家に」グー

哩「………」

哩「とりあえず朝飯にすっか」

宥「ごちそうになります」

哩「うむ」




宥「ダシのきいたお味噌汁飲むの久しぶり~」

哩「そうなん?」

宥「もっと言えばお味噌汁が久しぶりかも」

哩「ふーん」

哩(洋食が主なんかな?)

哩「あ、その醤油取っちゃらん?」

宥「はい」

哩「どーも」

宥「………」

哩「………」

宥「そういえばだれかとご飯食べるのも久しぶりだな」

哩「わたしもやね」

宥「こういうの、なんかいいね」

哩「ぽい、よな」

宥「うん」

哩「家に帰りたくなった?」

宥「ちょっとだけ」

哩「わたしも」

宥「玄ちゃんとはもう半年くらい電話でしか話してないし」

哩「妹さんやったか」

宥「うん」

宥「玄ちゃんもきっと進学するんだろうけど」

宥「そういえばあの、仲の良かった」

哩「……」

哩「おかわり、要る?」

宥「ううん」


哩「それはあいつの気持ち次第やね」

哩「や、努力次第かもな?存外アホやし」

宥「……そうかもね」

宥「ところで哩ちゃんはバイトはしてないの?」

哩「んー?しとるよ」

宥「どんなところ?」

哩「あー、うーん」

哩「来年になったら連れてってやるけん」

宥「えー」

哩「いろいろ事情があるんよ……」コポポ

宥「あ、ティーポットかわいい」

哩「そうか?ほいお茶」

宥「ありがとう」

哩「よーそんな熱いお茶飲むよな……」

宥「そう?もう飲めるよ?」

哩「そういう意味じゃなく」


哩「普通はこの季節に熱いお茶は飲まん」

宥「そうかなぁ」

哩「そうよ」


宥「あ、そろそろ私も出ないと」

哩「ああ、またな」



宥「あ、宮永さん」

照「ああ、松実さんか」

宥「お昼ご飯?」

照「うん。さっきのでテストは終わったから」

照「ごはん食べて帰る」

宥「学食久しぶりに来たよ」

照「あまり美味しいものじゃない」

宥「お弁当よりはマシだよぉ」

照(お弁当?ああ……)

照「ご飯が冷えて固くなるもんね」

宥「もともと冷えてるよ?」

照「そうなの?」

宥「うん」

照(……炊飯器の故障?)

照(ま、どうでもいいか)

照「松実さんはテスト終わり?」

宥「うん、わたしもさっきので終わり」

照「じゃあ夏休みスタートなわけだ」

宥「うん」

宥「宮永さんって実家通いだっけ」

宥「わざわざ帰省しなくていいのはいいよね」

照「そうでもない」

宥「えっ?」

照「実家が……」

照「まぁ、東京と長野と両方にあるから」

宥「……あまり突っ込まれたくない?」

照「いや」

照「わたしのほうはともかく、お母さんがね」

照「わたし自身は咲に会いに長野に行くことも普通にある」

宥「じゃあこれから長野に?」

照「そのつもり」

.



哩「おーい、何しよんぞ二人とも」

宥「哩ちゃん」

哩「テストどうやったー?」

宥「まぁ、普通かな」

照「特に問題はないはず」

哩「そうか……まぁそらそうよな」

宥「何か駄目だったの?」

哩「ん、一つだけな」

哩「すごく難しい問題だった」

宥「いきなりだね」

哩「だが、毎年問題は変わっていないらしい」

哩「いわゆる過去問があれば楽勝というやつだな」

照「……」

宥「……」

哩「事実上学部内ぼっちであるわたしは成す術なく撃沈したっちゅう訳」

宥「今はともかく、これから先は結構重要な問題になりそうだね」

照「過ぎたことを悔やんでも仕方ない……」

哩「そ、そうやね!せっかく夏休みに入ったんやし」

哩「宥はどうすんの?」

宥「1週間くらいバイトのおやすみ貰って実家に帰るよ」

哩「照は?」

照「似たようなものかな……」

哩「え、照って通いじゃなかったと?」

照「長野にも実家がある」

哩「そうか、なんか事情があるっちゅーことか」

照「たいしたコトじゃない」

哩「ならいいっちゃけど」

哩「ってことは全員里帰りかぁ」

宥「でも大学の夏休みはすごく長いから」

哩「ん、こっちに戻ったらどっか旅行でも行こうな」

宥「いい考えだね」

照「賛成」

哩「ああ、じゃあな」スタスタ

照「またね」

.


宥「あ、あのね」

照「何?」

宥「宮永さんは」

照「ああ!」

宥「ど、どうしたの?」

照「いや、違和感の正体がわかっただけ」

宥「違和感?」

照「呼称のだよ」

宥「胡椒?」

照「哩はわたしを照と呼ぶしわたしも哩と呼ぶ」


照「でも」

照「もう結構一緒に居るのに」

宥「わたしも!」

宥「わたしも照ちゃん、て呼んでいいかな」

照「もちろん」

宥「一度呼び始めてしまうと後から切り出しにくくて」

宥「ずっとそう呼びたかったんだけどね」

照「そう?」

宥「うん」

照「わたしが違和、だと思ったのは」

照(一度そう呼ばれたのに、元に戻ってしまったからだと思う)

照(……ような、気がするだけ?)

照「いや、なんでもない」

宥「じゃあ、照ちゃん」

照「なに?宥」

宥「……照ちゃんは、実家へのお土産なんにするのかなって」

照「……うーん」

照「ひよ子?」

宥「……哩ちゃんが居なくてよかったね」

照「なんで?」

宥「なんでもないよ」

照「それだけ?」

宥「うん」

宥「じゃあ」

.


照「宥」

宥「どうしたの」

照「宥は何にするの?お土産」

宥「東京ばな奈?」

照「そう」

照「じゃあわたしもそれにする」

宥「ふふっ」

宥「照ちゃん!」

宥「また今度、ゆっくりお話ししようね」

照「うん」




宥(さすがに)

宥(長野経由で帰るってのは意味わかんないよねぇ……)

―――――――松実館


宥「ただいまぁ」

玄「あー!おかえりなさいおねえちゃん」

宥「ただいま玄ちゃん」

玄「電話してくれたら車出したのに」

宥「玄ちゃん免許取ったの?」

玄「……お父さんが」

宥「なーんだ」

玄「でも、駅までくらい迎えに行ったのに」

宥「大丈夫だよぉ」

玄「半年ちょっとぶりだね」

宥「うん」ギュッ

玄「わ」

玄(暑い~~~っ)

玄(でも今はこの暑さが懐かしい)

宥「お父さんは?」

玄「居間にいると思うけど」

宥「ちょっと挨拶してくる」

玄「うん」




宥「ただいま戻りました」

松実父「ああ……戻ったか宥」

宥「はい」

松実父「大学のほうはどうだ?」

宥「ええ。友達もできましたし、それなりに楽しんでいます」

松実父「それならいいけど。仕送りのほうは足りてるか?」

宥「十分です。バイトも始めましたし」

松実父「そうか。何をやっている?」

宥「雀荘のメンバーを。健麻なので大丈夫ですよ」

松実父「別にろくでもないことでなければ口出しをするつもりはない」

松実父「その点については玄もお前も心配はしてないが」

宥「そうですか?」

松実父「そうでなければ東京に単身送ったりはしないだろう」

宥「それもそうですね」

松実父「玄も……いや、これは本人に聞いてくれ」

松実父「1週間くらいは居るんだろう?今日は休むなりなんなりして明日あたりにでも学校に顔を出せばいい」

宥「うん。ありがとうお父さん」

宥「いただきます」

玄「いただきます」

松実父「いただきます」


宥「ふふっ」

玄「どうしたのおねえちゃん」

宥「いや、この三人でテーブル囲むのって久しぶりだなって」

玄「もっと頻繁に帰ってきてもいいんだよ?」

宥「それはムリだよ……授業だってあるし」

玄「お父さんてば昨日からソワソワして予約の人数を間違えちゃうくらいなんだから」

松実父「こ、こら玄」

玄「愛されてるね~おねえちゃん」

宥「もう……」

宥「あ、おいしい」

宥「また腕を上げたんだね、玄ちゃん」

玄「そりゃだって……あぅ」

宥「?」

玄「なんでもないよ!早く食べちゃおう」

宥「へんなの」

玄「えへへへ~」

.




宥「あふ……」

宥「もう寝ちゃおうかな」


ガチャ


玄「おねえちゃ~ん?」

宥「どうしたの玄ちゃん」

玄「あのね……」

玄「一緒に寝てもいいかなぁ」

宥「ふふ、半年たっても玄ちゃんは甘えんぼだね」

玄「だってぇ~」

宥「いいよ、久しぶりだもんね」

玄「ありがとう!枕持ってくるね」

宥「うん」



玄「よいしょっと」

宥「あったか~い」

玄「じ、自分から頼んでおいてあれだけど夏はやっぱり暑いや……」

宥「もう」

玄「でもせっかくだからもっと引っ付いちゃうよ」ギュー

宥「わたしもー」ギュー

―――――――阿知賀女子学院麻雀部部室


憧「で、玄は寝汗で風邪ひいて来てないってわけ?」

宥「そうみたい」

穏乃「せっかく宥さんが帰ってきてるのに残念ですね」

穏乃「久しぶりに5人で打てると思ったのになー」

灼「でも宥さんは全く腕落ちてないですね」

宥「いちおう雀荘のメンバーやってるから」

穏乃「そうなんですねぇ、なんかカッコイイ!」

憧「玄もずいぶん腕が上がっちゃって大変よぉ」

宥「へぇ……どんな風に?」

憧「なんともタチが悪いことに、引きたいときにドラを引けるようになった」

宥「え!?」

宥「つまりドラで待ってたら簡単に上がれるってこと?」

憧「ドラのうちどれが来るかはわかんないから槓してたり赤がまだ眠ってれば分からないけど」

穏乃「リーチかけられたら絶望ですねー」

灼「リーチ一発ツモ、赤4とドラ1以上がほぼ確定だからね」

灼「逆にずっとドラを引かないこともできるんで、戦略の幅も広がりましたね」

宥「そう……すごいんだね」

宥「そういえばインターハイには?」

穏乃「あ……」

憧「……」

灼「やっぱり生徒数の少ない阿知賀では……」

憧「ベスト4とはいえやっぱりたった2度のインハイ出場くらいでは晩成ブランドは揺るがないみたい」

灼「あっちには十分な設備が整っているし、新しいコーチも迎えたとかで」

憧「進学も圧倒的に有利だしねぇ」

穏乃「もっとも去年目的は達成できちゃったんで躍起になって部員を探す必要はないんですけど」

憧「個人戦でそれなりには成績を残せたけどね。シズは奈良代表としてインハイの個人戦に出るわ」

宥「そう……ちょっと寂しいな」

憧「まぁ、華々しく散る伝説のほうがうちららしくてそれでもいいけどね」

穏乃「あ、もうこんな時間」

憧「晴絵がもうすぐ会議が終わると思うから、帰りに職員室寄っていきなよ」

宥「うん」





.

「――――とう、お菓子に、お飲み物はいかがですか」


宥(……ん)

宥(寝てたんだ)


宥「すいません、お茶ください。あったかいのを」

「申し訳ありません、ホットでしたら紅茶かコーヒーしか」

宥「あ……じゃあ紅茶で」チャリ

「お買い上げありがとうございます」

宥「玄ちゃんが作ってくれたお弁当」カパ

宥「おいしい」モグモグ

宥「まだ静岡かぁ、もう一眠りしよう」

宥(ひざ掛けを鞄の中に入れたはず……)ガサゴソ




宥「あ」

―――――――哩の家

哩「で、お茶ウケがこの東京ばな奈っちゅーわけか」

宥「ううぅ……」

照「おいしいよ?」モムモム

哩「そういうことを言ってるわけじゃないやろ」

宥「ありがとう照ちゃん……」

照「どういたしまして?」

哩「わたしからはイカシューマイやるわ。ほい」

宥「ありがとう」

宥「あ、でもお土産は別に買ったんだよ?はい奈良漬け」

哩「おー、すげー嬉しいわ」

宥「照ちゃんには鹿クッキー」

照「ありがとう、大切に食べる」

照「わたしからは蕎麦あげるよ」

哩「おーおー、二人ともわたしの好みにバッチリやんか」

照「そう?それならよかった」

宥「うん」

宥「ところで哩ちゃん、あのね」

哩「うん?」

宥「あのはち切れそうなバックは何かなぁ……?」

哩「や、せっかく九州に戻ったんやし試せる地酒は全部試したいやんか!?」

宥「はいはい」

照「わたしはこれがいいと思う」

哩「なかなかのセンスやね!これはな……」

哩「って、なんで飲む流れになってんの!?」

宥「わたしスーパーいってくるね~」ガチャ

哩「しゃーないな!出血大サービスやけんね!」

哩「照!お湯沸かしてくれ」

照「わかった」

宥(『なんで飲む流れに』って…)

照(蕎麦と)

宥(奈良漬け貰ったあたりからソワソワしてたし)

照(今なお言葉とは裏腹に表情緩みっぱなしだし)


照(ほんと、わかりやすっ)
宥(ほんと、わかりやすっ)

.




照「はふ~~~」ゴト

哩(ちょっと顔が赤らんできたな)

哩「照。水飲んどけ」

照「んー」コク

哩「宥もちゃんと食べ物入れときいよー」

宥「奈良漬けおいひー」ポリポリ

哩「……こっちはそげん心配なかったな」

哩「飲めば酒に強くなるなんてこたーそうそうない」

哩「酒に強くなるっちゅーんは酔わない飲み方を身に着けるっちゅう事よ」

哩「そこをわきまえてない阿呆が多くて困る」

宥「あははははは!哩ちゃん説教くさーい」

哩(ダメじゃん……!)

照「哩の下へいざまいるぅ~~~」ボフッ

宥「あはははははははははは!」ドーン

哩「おい、ちょっ、こぼれるやろーが」

哩「第一、今日は旅行の予定立てるのに集まったんやろ」

哩「全くその話しとらんやん!」

照「えー……それなら」

宥「はいはーい!わたし沖縄がいいな!あったかいから」

哩「沖縄かー」

照「シーズンまっさかりだね、いいんじゃない?」

哩「2泊3日くらいにしとくか。8月の第4週の予定は?」

宥「土曜から火曜にかけてなら」

照「わたしは問題ない」

哩「ちょ、叫ぶな」

照「あ、急に酔いが回ってきた」ドタ

哩「言わんこっちゃない」

宥「沖縄……楽しみだなぁ」

哩「わたしは中学の修学旅行で行った事あるけんね」

照「じゃあ案内は一任する」

哩「ま、任しときい」



宥(旅行後、哩ちゃんの部屋から大量のガイドブックが発掘されて笑いものになるのは別の話)





あ、>>131の前にこれが先でした

哩「じゃあそれに合わせて休みとるか……」

宥「旅券の手配はしておくよ」

哩「頼んだ」

照「集合は?」

哩「ウチでいいやろ」

照「わかった」

哩「おいおい、今露骨にほっとしたやろ……まさかまだ迷子になるんか?」

照「うるさい」

宥「迷子?」

哩「おう。1年の時のインハイで自分の控室わからんくなってな……」

照「わーわー」

―――――――那覇空港


照「おええええぇぇぇぇぇ……」

宥「すごい揺れだったねぇ」サスサス

哩「まったく、なんもこんなタイミングで天気荒れんでもよかろーに」

哩「おい照、お前のアレで雲吹き飛ばさんかい」バンバン

照「ちょ、やめ、出ちゃうぅ……」ゲッソリ

宥「明日は普通に晴れるみたいだよ」

哩「そんなら今日は先にお土産とか買って、観光と海は明日にするか」

照「もう横になりたい」

哩「はぁ……まずはホテルか」

宥「国際通り近くでとってあるから、体調がよくなったらすぐに行けるよ」

哩「宥はできる子やな」

宥「これくらいはね」

照「歩きたくない……」

哩「バス停までぐらい我慢しい」

宥「荷物持つよ」

照「ありがとう……」






照「はあー」ボスッ

哩「すげー明るいし広いなー」

宥「これで1泊7000円は安いね……」

哩「やっぱそうなんか」

939 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/10(日) 01:09:01.74 ID:e/vsAMD/0 [3/3]
げ……さるったっす

どなたか 照「内緒のはなしは…」宥「あいるてるゆーわっと!」

にさる報告お願いできないですか

すまぬ・・・

宥「うん、うちではちょっと無理」

哩「ほほう」

宥「ちょっとホテルの中いろいろ見てくるね」

哩「勉強熱心やねー」

宥「おでかけしたくなったら携帯で呼んでね」ガチャ

哩「おーう」


バタン


哩「………」

哩「照、気分はどう?」

照「………」

照「飛行機降りた時よりはマシ」


書きあがってるからサクサクいきたいけど夜中にさる報告何回もしてもらうの申し訳ないからクッソ遅くなるけど勘弁してくれよなー
あと、既に気づかれてるみたいだけどタイトルは間違ってないです

支援

哩「そうか」

哩「冷蔵庫なんかあっかな」パタ

哩「お、照、水飲むか?」

照「少し」

哩「ほい」ポーン

ゴッ

照「いたい」

哩「ふっ、顔面にクリーンヒット」

照「病人いじめ反対」

哩「誰が病人か」

照「罰として」

哩「おう」

照「水飲ませて」

支援

哩「わたしを小間使いにするたあ……」パキ キリキリ

哩「ほれ」

照「んく……ありがと」

哩「もう要らんの?」

照「うん」

哩「ふーん」ゴクゴク



哩「照はお土産買いに行く?」

照「宥が戻ってくるまでには行けると思う」

照「あと30分くらいはかかるだろうし」

哩「お前が出て行ったら日が暮れても戻ってこないだろうがな」

照「うるさいな」

哩「くくっ……」

.

照「仕返しついでに」

哩「ん?」

照「鶴田さんと何か」

哩「おい」

哩「その話は止めろ」

照「あのとき雀荘で打って妙だと思った」

照「打ち筋が彼女に託すための打牌から、力任せに鎖を引き千切るような打牌に変わっていたから」

哩「止めろって言いよるやろ」

照「相手が嫌がらなければ仕返しの意味がない」

哩「もう聞かんぞ」ボフッ

照「別にいい……これは独り言」

照「“鏡”で見て分かった」

照「もうあのリンクは必要ないことが」

哩「…………」

哩「………」

哩「……」

哩「素の実力で」

哩「もうアイツはわたしを上回っとる」

哩「確かに2倍の翻数をアガるってのはすさまじいけど」

哩「でもそれはほとんどわたしに依存するものになる」

哩「もし縛りをかけてアガれなかったらそれは文字通りアイツにとって枷になる」

哩「縛りを用いた得点とアイツが素で打った場合の得点」

哩「その期待値が逆転した時、わたしはこの力を使うのをやめた」

照「……」

哩「枷としかならんのやったら、わたしが傍にいる意味はない」

照「東京に進学したのも、そのため?」

哩「ああ」

哩「もうほぼ1年、連絡も取ってない」

照「逃げたんだね」

哩「好きなように笑いーよ」

照「笑わないよ」

照「わたしも……咲のことで一度は逃げたんだから」

哩「……」

哩「そーか」

照「うん」

照「人を繋ぐ糸が解けても、千切れたとしても」

照「その糸を結んだ“跡”が残るの」

照「絆、と言う名のね」

照「きっと、彼女は待っているはず」


哩「………」

哩「お前今かなり恥ずいこと言ったな」

照「うるさい。言ってて自分でも恥ずかしかった」

哩「ふっ!わたしに仕返しなんざ20年早いっちゅーことよ」

照「もう寝る」

哩「勝った」

照「ばーか」

哩「………照」

哩「ありがとな」

照「ふん」



ガチャ

宥「ただいま~」

哩「おかえり」

宥「照ちゃんもう出られそう?」

照「うん」

宥「じゃあいこっか」

哩「表のコンビニで傘買ってからな」





宥「うわあ……これ通りがぜんぶお土産のお店なんだ」

哩「奥に進むほど安いんやってさ」

照「お菓子がいっぱい……」

宥「のんびり見ながら行こうよ」

照「うん」

宥「あ、あの果物美味しそう」

哩「いや、南国っぽいってだけで味は全然よ」

哩「普通にマンゴーとかパイナップル食べたがよか」

宥「そうなの……」

照「おいしくない……」

哩「ってもう買っとるんかい」

宥「ちょっと貰ってもいい?」

照「全部あげる」


哩「お」

宥「どうしたの?」

哩「いや、ちょっとな」

哩「なあ、ここで一旦自由行動にせん?」

照「いいけど」

哩「照は宥と一緒に決まっとるやろ」

宥「ここで迷子になったら大変だしね」

照「宥まで……!」

哩「じゃ、5時にここで!」スタスタ

宥「どうしたんだろ」

照「たぶん……あれ」スッ


泡盛


宥「ああ……」



宥「照ちゃんは何買うの?」

照「やっぱりお菓子かなぁ」

宥「定番だもんね、ちんすこう」

照「牛乳と一緒に食べるとまたおいしい」

宥「へぇ」

照「宥は?」

宥「海産物をちょっと見たいな」

照「……持って帰れないよ?」

宥「ちょっと見るだけ」

照「美ら海水族館行くように頼もうか」

宥「え、うん!ありがとう」

宥「じゃあ海産物はもういいや」

照(やっぱり)

照「沖縄の魚はあんまり好きじゃない」

宥「どうして?」

照「水が温かいからかな……身が締まってなくて」

宥(そっち!?)


宥「あ、琉球硝子のお店」

照「綺麗だね」

宥「ちょっと見ていこうよ」

.

宥「おまたせ」

照「いや、わたしも見てたから待ってはない」

宥「そう?」

照「もうすぐ5時になる」

宥「ほんとだ!急がないと」

照「焦らなくてもいい……たぶん哩は確実に遅れてくる」

宥「どうして?」

照「カン、かな」

宥「ふーん」


宥「ほんとだ、5時を10分過ぎても来ない」

照「ほらね」

宥「すごいね……あ、そうだ」

宥「照ちゃん、あのね」

照「何?」

宥「これ」

照「さっきの店の袋?」ガサゴソ

宥「うん。照ちゃんに」

照「わ、ネックレス?」

宥「とっても似合いそうだったから」

照「そうだね、気に入ったよ」

照「ありがとう、大切にする」

宥「ふふ、どういたしまして」


ガッシャガッシャ

照「ん?」

哩「おーい、照、宥ー!」ガッシャガッシャ

照「うわ……」

宥「ちょっと……」

哩「あーもうばり重いっちゃけど!」

照「当たり前でしょ」

宥「1本1キロで見積もったら20キロはあるよ」

照「いくらなんでも買いすぎ」

哩「しょうがないやろ!沖縄なんてめったに来んっちゃけん」

宥「これはホテルでアパートまで送ってもらおう」

哩「そやね……こんなん飛行機に持ち込めんわ」

宥「傘もほとんどさせてないし、濡れてるじゃない」

哩「両手塞がっとるけんなー」

照「一袋持つよ」

哩「割らんようにな」

照「はいはい」

宥「買い物は終わったし、ホテルに戻ろう」









哩「もうビッショビショや」

照「わたしもだいぶ濡れた……」

宥「ここ普通よりはあったかいから風邪はひかないと思うけど、はやくお風呂に入って」グイグイ

哩「ふたりまとめてか!?」

宥「しょうがないよ」

照「はーい」ヌギヌギ

哩「くっ」

ザーーーーーー

照「あったかい」

哩「おい、もっとそっち詰めろ」

照「これ以上はムリ」

哩「ムダのないお前の体なら成せばなる」

照「哩もあんまり変わらない」

哩「何を!」

照「事実」

哩「ふん」



照「上がったよ」

哩「次、宥も入ってきい」

宥「うん」カチャ

照「さすが沖縄、チャンネルが3つしかない」ピッピ

哩「おい、服着りぃよ」

照「めんどくさい」

哩「ここ窓多いから周りから丸見えやぞ」

照「……」パッパッ

哩「冗談よ。ここは4階」

照「謀ったな!」

哩「もし見えても誰も喜ばんわ」

照「このっ」

哩「やるか?」


ドスンバタン

カチャ

宥「ふー、いいお湯だったよ」


照「………!」
哩「………!」

照「すみません」

哩「調子乗ってました」

宥「?」




哩「晩飯どうする?」

照「市街まで出るのめんどくさい」

宥「1階のテナントに沖縄居酒屋っていうのが入ってたよ」

照「いいね」

哩「宥の探索のおかげやね」

宥「じゃあお財布だけ持って出ようか」

照「うん」

.



宥「ソーキ美味しかったね~」

照「ニガウリって嫌いだったんだけど、ここだと普通に食べられたよ」

宥「思ったほど苦くなかったね」

照「で、珍しく哩がダウンしてるね」

哩「うっ……ふう。ちょっとトバしすぎた」

哩「甘く見過ぎたか、泡盛……」

照「だから宥もわたしも旅行先だから飲まないほうがいいって言ったのに」

哩「面目ない」

宥「はやく横になって」

哩「ううぅ」

照「お水」

哩「ありがと」ゴクゴク

哩「ぷは、おやすみ」グテー

照「おやすみ」

宥「おやすみなさい」


照「わたしたちももう寝る?」

宥「ううん」

宥「あのね、照ちゃん」

宥「照ちゃんとお話ししたいなって」

照「いいけど」ギシ

宥「お茶入れるね」コポポ

照「うん」

宥「はい」

照「ありがとう。でも、話といっても……」

宥「何でもいいの」

照「そう?じゃあ、まずは高校の時の話でも」

宥「うん」

.




宥「でね、その時玄ちゃんがね……」

照「ふふ、宥は本当に玄さんと仲がいいんだね」

宥「うん、ずっと仲良しだよ」

照「羨ましい」

宥「照ちゃん?」

照「今は、まあおおむね元通りだけど」

照「跡は残るんだよね……」

宥「えっと……咲さんのこと?」

照「うん」

照「哩に偉そうなこと言って、結局わたしだってまだ解決できてなんかいないんだ」

照「ふとした時に……疼くんだ、跡は」

照「昔なら気に留めなかった言葉、態度」

照「そういう形となって、表れてしまう」

宥「何があったのかはわたしにはわからないけど」

宥「大丈夫だよ、きっと」

照「ありがとう……あふ」

宥「もう寝ちゃう?」

照「いや」

照「まだこうしていたい」

宥「そう」

照「もうすこしそっちに行ってもいい?」

宥「いいよ」

照「宥はいいよね……女の子らしくて」

宥「ふふ、なにそれ」

照「なんでもない」

照「………」

照「……」

照「Zzz…」

宥「……おやすみなさい、照ちゃん」









哩「で、こいつらは同衾かい」

哩「照の奴はほんとに枕カバーに手ぇ突っ込んどるし」

哩「あん時のは、ごまかしではなかったみたいやね」

哩「……朝飯にはまだ早いか」


哩「なにより、こいつらを起こすのがかわいそう、か」

哩「日ものぼったし、朝の散歩でも行ってくっかね」

―――――――冬の初め、大学構内



哩「おう」

照「哩……」

哩「最近宥を見たか?」

照「いや、後期は可能な限り取れる授業は被せてあるけど」

照「ここ1週間は全く」

哩「うん。それはわたしも同じだから」

哩「これはひょっとするかもな」

照「家に行ってみる?」

哩「ああ」




ピンポーン

宥「開いてますよー」

哩「お邪魔します」ガチャ

照「します」

哩「うお、暑」

照「こないだの沖縄みたい」

哩「つーか汚ッ!?」

宥「いらっしゃーい」

哩「なんだこの部屋……」

宥「うう…隠してたんだけど、わたしお料理とか全然だめで」

照「意外だね」

哩「ああ……」

哩「転がってるのもインスタント食品とビニ弁の箱ばっかだな」

照「それよりも、どうして学校へ来ないの?」

宥「だ、だってぇ!すごく寒いんだもの」

宥「玄関までは行くんだけど、外に出られなくって」

哩「はぁ」

照「高校までと違って律する人がいないからね」

哩「しょうがないな」

哩「かといって、後期の単位は全部落とすだなんてことをやってたら卒業に8年かかる」

照「その前に除籍されるよ」

哩「こうなったら照、お前同じ方向だろ?冬の間朝迎えに来てやりい」

照「科目が違っても時制は合わせてあるからいいけど……」

宥「ごめんねぇ」

哩「決まりだな」

哩「それではただいまよりお片付けを開始する」

オネーチャン、メールナノデス!

宥「あ、玄ちゃんからメールだ」

哩「妹の着ボイス!?」

照「普通じゃないの?」

哩「……さようで」

宥「『今から行きます』って、え?」


ガチャ


玄「おねぇちゃーん」

哩「!?」

宥「玄ちゃん……」

玄「あ、お久しぶりです白水さん」

哩「お、おお」

照「こんにちは」

玄「宮永さんもいらっしゃったんですか。おねえちゃんからお話はよく聞いています」

宥「どうしてここに玄ちゃんが?」

玄「進学先の下見だよ!そんなことより何このお部屋!?」

宥「あうぅ」

哩「進学先、とは?妹さんもうちの大学に?」

玄「いえ、わたしは調理の専門に。大阪にもあるんですけど、せっかくなのでおねえちゃんと同じ東京に」

照「お目付け役ってこと?」

玄「そこまでのつもりはなかったんですけど、この分ではそうなるかもですね」

玄「それで、お二人はどうしてここへ?見たところ遊んでたって感じではなさそうですけど」

哩「いや、最近宥が大学に顔を出しとらんけん……」

玄「おねえちゃん!!?」

宥「ご、ごめんなさいぃ」

玄「とりあえず、このお部屋を片付けましょう!さぁおねえちゃんも早く」

宥「はーい」

照「玄さん、インハイの時とは印象が違うな」

哩「存外、姉妹のパワーバランスはこっちが本当なんかもしれんね」

.



哩「はー、おいしかった」

玄「お粗末様です」

照「本当に。これならわざわざ調理の専門なんて行かなくても十分だよ」

玄「いえ、まだまだ学ぶことはたくさんありますから」

玄「これくらい片づけを手伝っていただいたお礼です」

宥「ごちそうさま」

玄「おねえちゃんも少しは料理を覚えなきゃね?」

宥「はい……」

玄「じゃ、わたしは大家さんに言って契約書類貰って帰るから」

宥「泊まっていかないの?」

玄「学校があるから。今日は見学のために公欠もらっただけだよ」

宥「そう、気を付けてね」

玄「おねえちゃんこそ、今度来る時までに散らかしてたら怒るからね?」

宥「気を付けます」

哩「宥も妹さんの前ではタジタジだな」

照「しっかりしてるんだね、玄さんは」

宥「自慢の妹だよ」

照「ほんとにね」

―――――――1週間後



照「……」


ポツーン


照「あれ?今日って講義休みだっけ」


照「休講情報にも載ってない」

照「おかしいなぁ」


オネェチャン、メールダヨ


照「ん」

照「ん」

照「もしもし?」


哩『おー、照、今どこ?』

照「大学だけど」

哩『は?』

照「どうしたの」

哩『今日は学祭の片付けで休みやぞ』

照「え……!?」

哩『今は運営委員と業者しかおらんはずやけど』

哩『って、まさか土日の学祭も来んかったと?』

照「知らなかった」

哩『あー、道理で探しても居らんはずやわ』

照「泣いていい?」

哩『どーぞ、誘いのメール入れるべきやったな』

照「ぐす……で、要件は」

哩『宥ん家で鍋パ。すぐ来い』

照「すぐ行く」




照「おじゃまします」

宥「いらっしゃい照ちゃん」

照「今日は片付いてるね」

哩「あれからまだ1週間ぞ?散らかってたほうが困る」

宥「うっ」

宥「そんなことより今日はカニ鍋だよ?」

哩「ほお」

照「ずいぶん豪華だね、どうしたの?」

宥「雀荘のお客さんがくれたんだよ」

哩「奇特な人間もおったもんやね」

照「わたしは美味しいものが食べられれば文句はない」

哩「で、照はなんか持ってきたん?」

照「え?」

哩「宥はカニ。わたしは酒。照だけタダで鍋が食えると思ったら大間違い!」

宥「べつにわたしは気にしな」

哩「ノー!宥は黙っときぃ!」

宥「はいぃ」

哩「さあ!さあ!さあ!」


照「………………」スッ

照「あ、アルフォート……」

哩「アホか」パコン

照「あいた」



照「第一、急に呼んだのは哩じゃない」

哩「それくらい想定しとけよ」

照「わたし一人さびしく教室に座ってたのに……」

哩「あ」

照「少しくらい優しくてしてくれてもいいじゃない」グス

哩「そうやね、すまん」

照「では気を取り直していただきます」パキ

哩「嘘泣きかい!?」

宥「照ちゃんお猪口空だよ~」トクトク

照「あ、ありがと」

哩「しっかし宥も大酒飲みになったな」

宥「こんな体にしたのは誰ですか~」

哩「妙な言い方をすんな」

照「酔った時の性格のブレが一番大きいのは宥だよね」

哩「お前もたいがいやけどな」

照「そう?」

哩「覚えとらんならいいよ」

照「気になる」

哩「じゃ、ちょっと耳貸せ」


哩「毎回最近会った悲しいことを泣きながら宥に慰めてもらいよる」ヒソヒソ

照「……そうなの?」ヒソヒソ

哩「ああ」

照(そうなんだ……)

宥「二人とも~、締めは何がいいかなあ」


哩「うどん!」
照「雑炊!」

哩「お?」

照「は?」


哩「鍋の締めはうどんやろ」

照「ダシが効いた雑炊こそ至高と決まってる」


宥「鍋二つに分けてどっちも作るねー」


哩「よっしゃ」
照「ありがとう」

―――――春休みの始まり



宥「疲れたぁ」

哩「お疲れさん」

照「テストどうだった?」

宥「わたしは大丈夫」

哩「今回は万全。テストを協力するくらいの知人はできたし」

宥「よかったね」

照「ちっ」

哩「なんね照その舌打ちは」

照「お前に宮永先輩と呼ばせたかったんだがな」

哩「おあいにく様やね」

宥「もう」

照「春が近づいたら宥もちゃんと活動できるようになるだろうしな」

宥「そのことは言わないでぇ」

照「これで朝のお迎えも必要ないかな」

宥「え……」

照「?」

宥「あ、あのね照ちゃん」

宥「照ちゃんさえよければこれからもお願いしたいなって」

照「そう?わたしはいいけど」

哩「お熱いこって」

哩「で、春休みはやっぱし帰省するんか?」

宥「わたしはね」

照「今回はいいかな……」

哩「そうなん?まあわたしもバイトがあるけん帰らんけど」

哩「照は別に用事があるわけじゃないっちゃろ?」

照「うん」

哩「なら宥の実家に遊びに行けば?」

照「え」

照「そんな、宥に迷惑でしょ」

宥「わたしは、そんなことないけど」

宥「お部屋だって余ってるし」

哩「余ってないほうがいいと思うけどな」

宥「も、もう哩ちゃん!」

照「?」

哩「ふふ、照」

照「なに」

哩「お前の“鏡”も大したコトないな」

照「どういう意味?」

哩「自分で考えりぃ」

哩「じゃ、二人とも。テスト終了祝いに、夜になったらこの住所のとこにきい」

照「どこここ」

哩「来てみてのお楽しみ」

宥「そう、じゃあ楽しみにしてるね」

哩「ああ」






宥「ここだね」

照「waxing moon……満ちていく月、か」

宥「何のお店?」

照「これ、たぶん…」キィ


哩「いらっしゃいませ」


照「いわゆる、バーってやつかな」

哩「そん通り」

哩「うちのバイトはここの調理補助。ドリンクに関しては見習い」

宥「それで来年になったら教えてあげる、って訳」

哩「ま、建前上な」

哩「とりあえず掛けて」

宥「うん」

照「意外というか、そうでもないというか」

宥「どっちが先だったの?」

哩「え?」

宥「ここで働くうちにお酒にはまったのか、お酒に関わるバイトをしたいと思ったのか」

哩「……後者」

照「まぁ、そりゃそうか」

哩「そろそろ二人も別のに手を出してみんかなーと思って」

照「むしろ日本酒ってラスボスな気がしたけど」

哩「細かいことは気にしなさんなって」

照「じゃ……乾杯」

宥「乾杯」





―――――――翌日、駅


照「はぁ……慣れない奴だとやっぱ効く」

宥「最近やっと慣れてきたとこだもんね」

照「宥の実家って、どんなところ?」

宥「うーん、東京と比べたら何にもないよ」

照「長野だってそうだよ」

宥「あ、桜がきれいかな」

宥「今はまだ季節じゃないけど」

照「そう、それはちょっと残念」

宥「もう少し春になったらお花見に行こうよ。哩ちゃんも誘って」

照「うん」

照「ちょっとお手洗い」フラ

宥「やっぱりまだ残ってるみたいね」

照「うん、車内じゃ寝ることにする」

照「退屈させて悪いけど」

宥「ううん、そんなことないよ」

宥「一人で帰るより、ずっと」

照「そう?」

照「あ」

宥「どうかした?」

照「ついでに駅弁一緒に選ぼう」

宥「うん」

照「ここが……」

宥「松実館。わたしのおうち」

照「ほんとに旅館なんだね」

宥「ウソだと思ってたの?」

照「そういう訳じゃないけど」


宥「ただいまー!」

玄「あ、お帰りなさいおねえちゃん、……と、宮永さん?」

照「しばらくお世話になります」

宥「一緒に帰ってきちゃった」

宥「大丈夫かな?」

玄「別に大丈夫だと思うけど。部屋はお母さんの部屋も客間も空いてるし」

玄「荷物運んどくよ」

宥「うん、ありがとう」

照「すまないな」

玄「いーえ、これも仕事の一環ですから」

玄「ここがお母さんの部屋。そんなに広くはないけどどうぞ」

照「いや、十分だよ」

照「それしても、勝手に使っていいのか?」

宥「うちは父子家庭だから」

照「そう……」

照(さっき下に仏壇があったけど、そういうことか)

玄「お風呂は大浴場のほうを使ってくださいね。お家のお風呂ってのは嫌かもしれませんので」

照「特に気にしないけど」

玄「そうですか?まぁうちの大浴場はアピールポイントの一つでもあるので是非どうぞ」

玄「あ、0時から5時までは清掃なんで気を付けてください」

玄「汚れ物はこの籠に入れてくれて置いたらお昼には持って行って洗っちゃいます」

照「何もかもすまないな」

玄「ご飯は私たちと一緒でいいですかね?お父さんと一緒というのは居心地悪いかもですけど」

照「大丈夫だけど。気難しい人なの?」

玄「特にそんなことは。少々躾に厳しいので憧ちゃんなんかは敬遠してますね」

照「ああ……中堅の」

玄「後で浴衣を持ってきますね。説明は以上です。ごゆっくり」

照「ずいぶん仲居業が板についてるんだな」

宥「もう昔からずっとだからね。あれでも厨房のほうが得意なんだよ」

照「宥はやらないの?」

宥「わたしは裏方ばっかりかなぁ……少し人見知りしちゃうし」

照「人それぞれ得意、不得意があるから」

宥「そうだよね」

宥「じゃあ、わたしもお手伝いしなきゃ」

照「頑張って」

宥「うん、ご飯できたら呼びに来るから」

照「わかった」

.


照「ふう……」チャポン

カラカラ

宥「お湯加減はどう?」

照「宥!?」

宥「なんで驚いてるの?」

照「いや、なんでも」

宥「そう?」

宥「お父さんとは普通に話してたね」

照「うん。いい人だったよ」

照「これからも仲良くしてやってくれってさ」

宥「お父さんってば……」

照「確かにいいお風呂だな」

宥「露天風呂のほうには行ってみた?」

照「うん、今日はちょうど満月が浮かんでたよ。綺麗だった」

宥「桜の時期は夜もお昼もすごい景色だよ」

照「つくづく咲いていないのが悔やまれるね」

宥「わたしは桜が咲いててもあんまり行かないけどね」

照「外が寒いから?」

宥「うん」

照「本当に宥は寒がりだね」

宥「だってぇ」

照「ふふ」

宥「あのね、サウナもあるんだけど」

照「いや、今日はもう既にのぼせかけなんだ」

照「遠慮しておく」

宥「そう……」

照「明日は玄さんと奈良を案内してくれるんだっけ?」

宥「そうだよ」

照「じゃ、もうあがるね」ザパ

宥「うん」


カラカラカラ ピシャン



宥「………」ブクブクブク


宥「サウナでおしゃべりしたかったなぁ……」



ガラガラ!


玄「おねえちゃん!せっかくだから久しぶりに背中を流します!」


宥「玄ちゃん!?」

.


宥「ここかな?」

照「ん、く、宥……きっつぅ……」

照「っつあ!」


照「痛い痛い痛い!やめてってば!」

宥「やめないよ~」

照「ちょっ、ほんとに痛いって」

宥「気持ちいいでしょ~」

照「それは、そうだけどっ」

照「はっ、はっ」

照「ほんとにおかしくなるー!」

宥「大丈夫だってば」

.


宥「はい、おしまい」

照「痛かった~」

宥「でもだいぶ楽になったでしょ」

照「ああ……よかったよ」

宥「ふふ」

照「宥のマッサージ」

宥「少しは自信あるんだよ?」

照「というかマッサージ師の免許持ってるの?」

宥「持ってないよ?」

照「ダメじゃない」

宥「友人だからセーフだよ」

照「だいたい、なんで宥が来るの」

宥「フロントで電話番してたらマッサージのお願いがあったから~」

照「普通担当の人に取り次ぐでしょ!?」

宥「もう……そんなに嫌だった?」

照「………そんなこと、ないけど」

宥「じゃあ、おやすみなさい」

照「うん」

照「宥」

宥「何?」

照「やっぱりもうちょっとお話ししよう」

宥「うんっ」

―――――――哩の部屋


哩「へー、そら楽しそうな帰省やったね」

照「家でゴロゴロしてるよりは万倍有意義だった」

照「阿知賀の子たちと麻雀するのも割と楽しかったし」

哩「そうか、わたしもあん子らと久しぶりに会いたいわ」

照「そういえば宥が桜が咲いたら花見に行こうってさ」

哩「ほぉ、そりゃいいな」

哩「お弁当と酒もって花見酒と洒落込むか」

照「相変わらずだね」

哩「わたしの血はアルコールで出来ている」キリッ

照「死ぬから」

哩「にしても、宥からイベントを計画するとは珍しいな」

照「そう?鍋の時は違ったの?」

哩「いや、アイツ蟹まるごとなんて調理しきらんけんわたしにあげるっつって」

哩「それはもったいないからとみんなで鍋することにしたんやけど」

照「人は変わるってことじゃない」

哩「また小難しい話をする気か」

照「また、って」

オネェチャン、メールダヨ

照「ちょっと失礼」

哩「ああ、メール?どうぞ」


照「もしもし」

哩「って、電話なんかい!」

照「哩うるさい」

照「うん、わかった」

照「じゃ」ピッ

哩「ホントわけわからんなお前」

照「電話とメールで2種類録ったんだけど設定の仕方がわからなくて」

哩「はあ……そういうことじゃないんだが」

哩「ちょっと貸してみりぃ」

照「はい」


哩「ほいできた」

照「これで咲ちゃんの声が2種類も楽しめる」

照「はやく電話かかってこないかな」

哩「ふーん……」

オネェチャン、デンワ ブチッ

哩「おい」

照「わざわざ電話で哩の声を聴きたくはない」

哩「死ね」

照「嘘だよ。ありがと」

哩「はいはい」

哩「あとこれやるわ」ガサ

照「なにこれ」

哩「梨」

照「ありがとう。今夜お母さんに剥いてもらう」

哩「そろそろ自分でやれよ」

照「善処する」

宥「いらっしゃい、照ちゃん。どうしたの」

照「哩に梨をもらったからお裾分け」

宥「そう、ありがとう」

照「いや、この間はこちらこそ」

宥「いえいえ」

宥「照ちゃんはこっちの友達とは連絡取らないの?」

宥「弘世さんとか」

照「……………」

ポイッ

宥「あうっ」

宥「もう……何するの」

照「梨の礫」

宥「照ちゃんってオヤジギャグ好きだよね」

照「初めての時はあんなに笑ってくれたのに」シクシク

宥「ご、ごめんね」

照「冗談だけど」ケロッ

宥「…………」

照「菫は理系だからとても忙しいらしい」

照「休みのたびに遊ぼうと誘ってはいるんだけど」

宥「ふーん……」

照「もともとストイックだし、しかも今は勉強することが楽しくて仕方ないんだと思う」

宥「ちょっと残念だね」

照「高校にはたまに顔を出すけど当時のレギュラーは麻雀特待で進学するからここには来ないだろうね」

宥「人は変わっていっちゃうものなのかなぁ」

照「そうかもね」

宥「うちの麻雀部も来年廃部になる可能性もあるみたいだし」

照「入部希望者は増えなかったの?」

宥「うん。夏ごろからそんな話はしていたんだけど」

照「そうなんだ」

照「……人が抱えて歩ける物には限度があるから」

照「わたしも長野にいたころの友人とはもう連絡も取らない」

照「その時その時で持っている物が変わっていくのは仕方ないことなのかも」

照「あれだけ高校時代仲の良かった菫とも今はこんな有様だし」

宥「……!」

照「そんな物なのかもね」



宥「ね、ねえ」

照「何?」

宥「あのね……」

宥「………」

照「………」

宥(どうしよう)

宥(聞きたいけど、聞けない)



宥「照ちゃんは、これからもわたしの傍にいてくれるかな?」

宥(って、何言ってるのわたし!?これじゃまるで)


照「……わからないよ」

宥「………」

宥「そう、だよね」

照「少なくとも」

照「今は傍にいるよ」

宥「……じゃあ」

宥「抱きしめてほしいな、って」

照「……いいよ」

―――――松実宥、大学二年の春


哩「やっぱ妹さんの作る料理うまいなー」モグモグ

玄「いえ、白水さんにも手伝ってもらいましたし」

照「お母さんもこれくらい料理が上手ければいいのに」モグモグ

宥「み、みんな……少しは桜も見ようよぉ」

哩「見てる見てる」グビグビ

照「花より団子」モグモグ

宥「もぅ」

哩「かぁ……っ」

宥「ほんとにお酒好きだね」

哩「わたしの血は」

照「それはもういい」

哩「そういや、妹さんは」

玄「名前呼び捨てでいいですよ?」

哩「そうか」

照「玄さんもこいつのことは呼び捨てにしていいから」

哩「おい」

玄「あはは……」

哩「玄は結局宥の隣の部屋に?」

玄「はい。運よく隣が開いてましたので」

哩「なるほどね」

照「哩、スルメとって」

哩「ほい」

哩「玄も飲まん?」

玄「いえ、わたしは……」

哩「そう」

照「珍しくあっさり引き下がるね」

哩「姉と同じく地雷の匂いがしたけんかな」

照「じゃあそもそも勧めるべきじゃないでしょ」

哩「怖いもの見たさの一種よ」

照「はいはい」




宥「急に雲が出てきたね」

哩「今日は一日晴れって言いよったっちゃけどなー」

照「もう少し降り始めてるよ」

哩「あちゃー」

照「お弁当食べ終わったし、もう撤収で」

玄「片付けますねー」


宥「結局ほとんど桜見てない……」

哩「見た見た」

照「まぁ雨が降って散っちゃう前に来れてよかったよ」

哩「そうそう」

玄「準備完了です!」

哩「よっしゃ解散」

宥「はぁ」







哩「友達以上に踏み出したいのに~♪」



哩「む」

哩(アパートの前に誰かおる……?)

哩(って)




哩「おい、傘も差さんとなんしよん」

姫子「………ッ」

哩「とりあえずシャワー浴びれ。濡れたままの知り合いをシカトするほど薄情じゃない」

姫子「……お邪魔します」




哩「おー。上がったか」

姫子「……」

姫子「そんだけですか」

哩「なんね。言いたいことがあるんならはっきり言いーよ」

姫子「人を置いてけぼりにしとって……!」

哩「そんなんお前が勝手に付いて着よっただけやろ」

哩「着いて来いとも、待っていろとも言っとらん。あるべき形に戻っただけ」


姫子「そんな……」ポロ

姫子「二人のあの積み重ねは何やったとですか!?」

哩「………」

姫子「ただ、能力のためだけやったと?」

姫子「答えてください!」

哩「……………」

哩「…………」

哩「………」

哩「……」

哩「すまんかった」

哩「本当はもう単なる意地なんよ」

哩「この力ももはやお前を縛るだけのものでしかなくなっとった」

哩「そん事がはがいかって……」

哩「もうお前んこと支えきらんっちゅうことに気付いて、やけん逃げた」

哩「許してくれ」


姫子「………」パッ

キリキリ

ゴクッゴクッゴクッゴクッ


哩「お、おい、それは40度の……」


姫子「ふ、はーーーーーっ」


ガバッ


姫子「許さんです」チュ

ガチッ

哩「ったあ……勢いつけすぎ」


姫子「マジすみませんです。既にちょっと力加減わからんくなっとって」

哩「イマイチ締まらんな……もう後は任しときい」

姫子「ふふ、まだまだ支えきるとこ残っとったやないですか」

哩「ばーか、茶化すな」


姫子「別に、支えてくれんくたって、どこまで逃げたって、一生探し出してついていきます」

哩「勝手にしい」

姫子「勝手にします」


哩(結んだ跡が残る、ねぇ)

哩(こいつは他の奴らんごと糸ちぎったら終わり、っちゅう訳にはいかんかったか)

哩(ちょっと強く結びすぎたかな、はは)

.



哩「よーお」

照「哩か、おはよう」

照「……なんだか、機嫌がいいね」

哩「そうか?」

照「うん、そのまま飛んでいきそうなくらい浮かれてる」

哩「そうかねー?」

照「うん」

哩「それにしても人が多いなー」キョロキョロ

照「そりゃ新入生が居るんだからあたりまえ」

哩「そうやなー」キョロキョロ

哩「お」

哩「すまんな照、また後で」タッ

照「あ、うん……」




照「……そういうこと」

照「よかったね、哩」

――――――照と哩の共通の講義中

哩「そんでな、姫子のやつがなー」

照「わかったから、その辺にしておかないと」

哩「なんね照。付き合いの悪――――」


「そこのあなた。起立」


哩「ひゃいっ!?」ガタ


「早く学部と名前を」


哩「ぶ、文学部の鶴田英里です」


「はい。退席してください」


哩「す、すみませんです……」スタスタ


「当講義は私語厳禁ですので。皆さんも気を付けてくださいね」

照(だから言ったのに)

照「えりさーん」ニヤニヤ

照「つるたえりさーん」ニヤニヤ

哩「……」ムスッ

照「だから止めたらって言ったのに」

哩「ちっ」

哩「アレ必修なんになー」

照「偽名がスッと出てくるあたりは相変わらずキレてるね。まさか他でもやったの?」

哩「まさか。こんなん褒められても嬉しくない」

照「代返はしておいてあげるからテストだけ受けなよ」

照「そのころにはあの教授も顔なんて忘れてるはず」

哩「……恩に着る」

照「貸しひとつね」

哩「向こうひと月、この講義の後の昼飯で勘弁しちゃらん?」

照「学食はまずいから嫌だよ?」

哩「贅沢もんが」

照「鶴田さんと同学年になるってのも悪くないかもよ?」

哩「なにとぞよろしくお願いします!」

照「よろしい」

照「じゃあ早速……」



姫子「……」キョロキョロ


照「哩、行ってあげなよ」

哩「お、おお」



照「……やっぱ代返やめようかな」

.


宥「へぇ、哩ちゃん鶴田さんと仲直りしたんだ」

玄「そもそも喧嘩していたんですか?」

照「そうみたい」

宥「わたしも詳しくは聞いてないけど、結構悩んでたみたいだよ」

玄「それが晴れて同じ大学で再開、めでたく仲直りって事ですか」

照「仲直り自体は入学より前だったような感じだけどね」

玄「ふぅ~む、なるほど」


宥「じゃあ、今日は二人も晩御飯に呼ぼうか」

照「いいけど。何するの?」

玄「今日はすき焼きですよ」

照「それは楽しみ」

.



哩「お邪魔ー」

姫子「お邪魔します」

宥「いらっしゃい、鶴田さんもお久しぶり」

姫子「ええ。阿知賀のみなさんも元気にしとーですか?」

照「元気いっぱいだったな、高鴨さんとか特に」

宥「みんな元気だよ」

姫子「わたしまでお呼ばれしてしまって」

玄「みんなで食べたほうがおいしいですからね」

哩「こんだけおったら食べた後みんなで麻雀すっか」

宥「うるさくないかな?」

哩「隣人はここにおるんやけん大丈夫やろ」

宥「それもそうだね」

.
照「おいしかった」

姫子「ずいぶん良いお肉でしたね」

玄「おねえちゃんが貰ってきたんだよ」

宥「そうなの」

哩「前カニくれた人?」

宥「違う人だよ」

哩「なんというか、宥はこう餌付けしたくなる感じなんかいな」

姫子「失礼ですよ」

哩「これくらいの冗談は許される関係よ?なあ宥」

宥「どうかなぁ?」

哩「えっ」

照「餌付けしたくなるのはどっちかというと玄さんかな……」

玄「もう!ひどいです照さん」

照「ふふ」

哩「お前も餌付けされる側やけどな」

玄「みんな、締めは何にしますか?」


哩「ちゃんぽん!」
姫子「ちゃんぽん麺ですかね」
宥「うどんがいいな」
照「うどん」


照「は?」

哩「お?」


哩「九州じゃもつ鍋とすき焼きの最後はちゃんぽんと決まっとんのやけど?」

照「すき焼きは鍋焼きうどん風にするのは常識」


玄「どっちも買ってきてるから、順番にやっていくよ」


哩「さすが」

照「できたお嬢さんだ」

姫子「ずいぶん大学生活楽しんどんですねぇ、みなさん」

照「姫子さんもちゃんと友達作っておかないと哩みたいになるよ?」

姫子「えっ、なんですかそれは」

哩「余計なこと言うな」

宥「同じ学部の先輩なんだし哩ちゃんが居れば大丈夫なんじゃないの?」

哩「そうそう」

照「それがほんとに頼りになるんならね」

姫子「大丈夫ですよぉ」

哩「まあ、わたしより人当たり良いけんな、姫子は」

玄「そろそろ麻雀始めますか?」

照「そうしよっか」



.

玄「リーチ」トン

照「……」トン

宥「ほんとに一発ツモできるの……?」トン

玄「うん」

哩「なんかすげー会話しよんな」トン

玄「はい、来ました!ツモ、6000-12000です」

哩「親っかぶりー」チャリリ

照「ずいぶんとんでもないことになってるね」チャラ

玄「ドラ愛の力です」

哩「愛なら仕方ないな」

照「インハイの時より圧倒的だね」

玄「頑張りましたから」

姫子「そのオーラス終わったらラスと交代で入りますねー」ニヤニヤ

哩「……」ムカッ


哩「……」パタ

哩「リザベーションサーティーン!」

姫子「ちょっ、邪魔せんのってくださいよ!そんなんアガれる訳ないやないですか」

哩「冗談よ」




哩「勝った……!ナイス国士」

玄「あうぅ、それに振り込むなんて」

照「2着か、運が悪かったな」

宥「それでも10000差を付けておいてよく言うよね」

姫子(使ってもろーとけばよかった……)

哩「さて、久しぶりにお手並み拝見と行こうか?」

姫子「望むところです」

照「誰を差し置いて話をしてるの?」

宥(自宅なのにこのアウェー感……)



哩「ツモ、6000オール」


哩「ツモ、4100オール」


姫子「哩さんそれロンです。18600」

照「何このバ火力プレイヤーたち」

宥「懐が寒い……」

哩「ロン。24000。宥のトビ終了やね」


宥「め、メンバーやめようかなぁ……ぐす」

照「所詮この流れは一時的なもの。自信を無くす必要はないよ」

宥「照ちゃ~~ん」ギュッ

照「よしよし」

哩「ふふん、まだまだ負けんからな」

姫子「さすがに一筋縄ではいかんですね」

哩「はっはっは」


.

―――――――5月初め、宥の家近くの道路



プップー


宥「?」

哩「おーい、宥ー」

宥「あれ……哩ちゃん車なんていつの間に?」

哩「ちょっと前に。買ったというか、譲ってもらったようなもんやけど」

宥「へぇ、免許は?」

哩「春休みの間にな。ちょっとドライブでも行こうや」

宥「いいけど……いいの?」

哩「なんが?」

宥「初めて人を乗せてあげるんだったら姫子ちゃんがいいんじゃないかなあ」

哩「ふっ、そんなみみっちいこと気にするような奴じゃなかろう」

哩「それに隣に乗しとくだけやったらわたしの初ドライブはとっくに教官と済ませとる」

宥「それは違うと思うけど……」

宥「そこまで言うんだったら」

哩「おう」



宥「どこ行くの?」

哩「海?」

宥「やっぱりそうなんだ」

哩「なんかこういうときは海な感じがするよな」

哩「宥とはやっぱフィールが合うかも」

宥「もう……からかわないで」

哩「くくっ」



宥「ずいぶん運転上手いんだね」

哩「たぐいまれなるセンスの賜物」

宥「はいはい」

哩「お前もこの一年でだいぶ変わったな」

宥「そうかな?」

哩「ああ。おどおどした感じが消えとるし」

哩「前は今みたいに軽く相手をいなすなんてことはできんかったと思う」

宥「自分ではわからないよ」

哩「そんなもんよ」




宥「空気に潮の香りが混じってきたね」

哩「鼻いいな」

宥「穏乃ちゃんには負けるけどね」

哩「はは、あの子はまさに野生って感じやけんな」



哩「お、わたしにもわかった。潮の香り」

哩「着いたぞ」

宥「さ、寒い……」

哩「そこは相変わらずか」

宥「こればっかりは」

哩「そらそうか」



宥「結構東京の海もきれいだね」

哩「この時間はな」

宥「夕焼けっていいよね」

哩「郷愁というか、懐かしい気持ちになるな」

宥「あったかい気持ちになれるよ」

哩「そうやな」


哩「……あんさ、宥」

宥「なに?」

哩「照とは……」

.



バタバタバタバタバタバタッ

宥「あわ、わ……すごい風」

宥「髪の毛乱れちゃった」


宥「ごめん。何?」

哩「いや、今日の晩御飯何にしようかなぁって」

宥「うちは麻婆豆腐にするよ」

哩「ふーん。じゃうちも姫子に中華にしてもらお」

宥「どっちが料理うまいの?」

哩「手早い作業は経験の分わたしかな。味付けは姫子のが上手い」

宥「いいコンビだね」

哩「料理に関しては、玄におんぶにだっこの宥たちよりはな」

宥「ひどいなぁ」

哩「カレーが限度のお前に口答えは許されん」

宥「最近はシチューもいけるよ」

哩「……どの辺が違うと?」

宥「これからもっと頑張ります」


宥「……日が沈んでさらに寒くなってきたね」

哩「ああ。戻るか」

哩「本格的に夏になったら海水浴行こうな」

宥「うん」





哩(はいはい)


哩(自分の力で決着つけさせろ……ってことね)




哩(肝心な時は無視するくせに、神様っつーのはお節介やね)

―――――――夏真っ盛りのある日


哩「しゃあ!テスト終わり!」

哩「おいお前ら!海いくぞ海!」

照「パ、パス……」

照「とりあえず今日は寝させて……」

哩「ノー!思い立ったら即行動!はい」

宥「また照ちゃん試験勉強一夜漬け?」

照「文系の大学生なんてそんなもんだよ」

哩「わたしは事前に解答作って流れを覚える感じやけんな」

哩「一夜漬けだけではほとんど意味がない」

宥「法学部みたいに論述が多いとそうなるよね」

照「終わったテストの話はしなくていいよ……」

哩「はいはい、さっさと車に乗れ乗れ。姫子呼んでくる」

哩「玄を拾いつつ各自の家に寄って水着を用意。オーケー?」

宥「元気だね哩ちゃん」

哩「元気出さなやっとられんぞぉー!?」

照(今期の単位全部落とせ)

.


玄「あ、海が見えてきましたよ!」

姫子「ずいぶん人多いみたいやね……」

照「うえええええぇぇぇぇ……」

宥「大丈夫?寝不足で車乗ると辛いよね」サスサス

哩「吐きなさんなよ?」

玄「酔い止めあげましょうか」

照「ありがと……」

姫子「そういやぁ哩さん、あのテスト大丈夫でした?すげー難しかったですよね」

姫子「過去問なかったらムリやったと思いますよ」

哩「ああ、たぶんな」

照「あれぇ?なんで哩は1年生と同じ授業を履修してるのかなぁ」

哩「お前気分悪い癖にこういうのは欠かさんのな」

姫子「え?1年次から履修できる科目は多いからやないんですか?」

姫子「履修上限に引っかかる分は後に残す人もおるって友達が……」

照「取『れ』なかったんだよ」

姫子「あー」

哩「…………」

哩「宥~照がいじめる~」

宥「よしよし」

玄「大学の制度のことはよくわかんないなぁ」

.


哩「しゃおら!泳ぐぞー!」

玄「おー!」



姫子「哩さんて大学入ってからはあげんあるとですか?」

照「いや、いつもはもっと落ち着いてるよ」

照「あれはかなりダメな感じのテストがいくつかあったんじゃないかな」

姫子「はあ」

姫子「思ったより仲が良いんですね」

照「そうかもね」

姫子「……少なくとも1年と少し分、照さんと宥さんはわたしの知らない哩さんの顔を知っている」

姫子「それだけでちょっと妬けてしまいます」

照「取るつもりはさらさら無いよ?」

照「あなたたちを引き剥がすのはこれから先ずっと常に天和を出し続けるより難しそう」

姫子「ですかね」

照「喧嘩別れして1年音信不通だった相手を追いかけて上京してる時点で並じゃない」

姫子「……そこまで知ってるだなんて、やっぱり妬けてしまいますねぇ」




照「わたしはまだ気分悪いし、荷物みてるから」

宥「じゃ、わたしも」

照「いいのに」

宥「ううん、もっとお日様が照ってからじゃないと泳ぐのは寒いから」

哩「じゃ玄、姫子!行くぞ!」ダッ

玄「はーい」タッ

姫子「ビーチボール膨らませたらすぐ行きますね」

照「はあ」

照「哩のバイタリティには呆れる」

宥「ちょっと羨ましいけどね」

照「……ん」

照「ちょっと寝る」

宥「じゃあ」ポンポン

照「?」

宥「膝枕」

照「いいの?」

宥「おいで」

照「じゃ、失礼します」

.


照「思ってたより良いものだね、これ」

宥「そうかな?初めてするんだけど」

照「うん。寝心地最高」

宥「昔は玄ちゃんと二人でお母さんの膝枕で寝てたなぁ」

照「すごく和む光景が浮かんだ」

宥「あはは」

照「ねえ、宥」

照「宥はやっぱり卒業したら実家を?」

宥「うん、それはたぶん確実」

照「そうだよね」

照「わたしは……どうしようかなぁ」

照「今まではただ好きな麻雀を打っていて、そしてなまじ才能があったからそれだけでどうにかなった」

照「でも、これからは?と考えた時に、ふと他には何も持っていないことに気が付いたんだ」

宥「………」

照「高3のお正月にあった小鍛冶健夜の対局を知ってる?」

宥「あ、照ちゃんと小鍛冶さんが戦ったやつだよね」

宥「見てたよ?」

照「あれはエキシビションですらなかったよ。ただのバラエティのおふざけ企画だった」

照「残り2家はただの芸人だった。小鍛冶さんはまるでやる気なんかなかった」


照「それでも」


照「わたしは、そんな小鍛冶さんにさえ勝てなかった」


照「この道を進むべきなのか、そうでないのか、今のわたしには決められない」


照「だから、宥に」

宥「………」

宥「少なくとも私は、麻雀に真剣に打ち込む照ちゃんの姿が好きだよ」


照「宥ならそういってくれると思った」

照「少し肩の荷が下りた気分」


宥「うん、安心した顔になったよ」

照「さすがに眠気がもう限界……」


照「……さっきのは寝言。そう思ってほしい」


宥「寝言に返事したから死んじゃうよ」


照「このまま死ねるなら本望かも」


宥「もう」


照「……おやすみ」


宥「おやすみなさい、照ちゃん」

姫子「トース」ポン


哩「アタックじゃあああああ!」バチーン


ボスッ

玄「ぷえっ!」


哩「あー、顔面当ててしもーた。すまんすまん」


玄「もう、痛いです」

姫子「じゃ、サーブ行きますよー」

姫子「そーれ」

.


哩「とうっ!」


玄「えい」


姫子「ナイスパス!」



玄(……それにしても)


哩「そりゃ!」





玄(……………………揺れないなぁ)

照「ふぁ……」

宥「あ、起きた?」

照「今何時くらい?」


宥「ちょうど1時だよ。3人はついさっき海の家に行ったとこ」

照「そう……お昼食べたら海行こうか。せっかくだし」

宥「うん」

照「じゃ、行こう」




哩「いやー、海の家で食べるラーメンっちゅーんは特別な感じがすんな」

姫子「普段だったらこんなマズいのは食べきれんですね」

玄「縁日の焼きそばみたいなものですかね」

照「どこで食べても安定してるカレーが一番いいと思うけど」

宥「たこ焼きおいしい」

哩「さて、午後の部開始!」

玄「哩さん!砂に埋めるのやりたいです」


哩「おう、どっからでも埋めんかい」

玄「わーい」



照「……わたしは波打ち際で遊んでるよ」

宥「沖縄でもそうだったけど、やっぱり照ちゃん泳げないんだね」

照「うん」


宥「浮き輪つけてもいいからちょっと泳ごうよ」

照「そこまで言うなら……」

照「わかった。手、離さないでね」

宥「う、うん」

哩「なあ玄、今どんな感じ?どんな感じ?」

玄「とってもマーベラスな感じになってますよ!」

哩「そうか!玄は芸術の才能があるなー」

玄「えへへ」


玄(ほんとにマーベラスな感じだよ!本物もこのくらいあればなぁー)


哩(ああ!全身圧迫拘束される砂の感じもなかなかすばら!)



姫子「な、なんなんやろーね、あの砂の胸部分の大きさは」



宥「結構バタ足うまいね」

照「うん、泳ぐための技術がないわけじゃない」

宥「じゃあどうして泳げないの?」


照「水に浮かないから」

宥「あぁ……」

照「なんか言ってて悲しくなった」

宥「うん……」



照「海ってのは、広いね」

宥「ほんとうだね」

照「月並みだけど、わたしの悩みなんてちっぽけに思えてくる」



照「あのね、宥」


宥「なに?」


照「わたし、頑張るよ」



宥「……」

宥「うん、わたしも頑張ってみることにするよ」

支援

照「すっかり遅くなっちゃったね」

哩「まぁ、砂まみれのまま車に乗っけるわけにはいかんけんな」

照「あのホテルのバイキング、なかなか美味しかった」

哩「夏は宿泊客だけじゃなくてもあのビーチは海水浴客でにぎわうみたいやからね」

哩「食事と風呂だけの利用もできたのは正直助かった」

哩「ジャグジーもなかなかやったし」

照「おかげで懐が寒いけどね」

哩「ふっ、バイトしてない実家暮らしにはな」

照「……なんか始めようかな」


照「………」

哩「………」


哩「みんな寝とんの?姫子は寝とるみたいやけど」

照「うん。両脇の二人も」


哩「……そうか」

哩「なあ、照」


照「何?」



哩「いつまで知らん振り決め込むつもりなん?」


照「それは、どういう」


哩「みなまで言わせんな。宥のことに決まっとろうが」


照「やっぱり、そうなの?」


哩「そらもうそうやろ。本気で気付いとらん訳?」


照「……いや」

照「もしかして、と思うことは多々あった」

照「でも、今までそういう事が無かったから」

哩「天下の白糸台エース様が?」

照「大半はその肩書きあってだよ。わたしの本質を見ようとしていた人は少ない」

哩「ふーん、てっきりわたしは弘世のやつとはそういう関係だと」

照「当たらずとも遠からず。といっても、菫は背中を任せられる親友といった感じだけど」

哩「味付けはシュガーじゃなくてペッパー、ということか」

照「よく意味が分からないけど、刺激し合える関係ということなら間違ってない」

哩「じゃあ、宥が告白してきたら受け入れる?」


照「……」

照「わからな―――」


照「……いや、そうするよ」


照「正直、宥と居るときほど心休まる時はないから」


照「自分でも、この気持ちに結論を出さなきゃとは思ってたんだ」

哩「なら良し。そのまま『わからない』と言っとったらスマキにして海に沈するところやった」

哩「にしても、待っとるだけじゃ進展しそうにはないぞ。宥の場合は特にな」

照「きっと、カタはつけて見せるよ」

哩「そうしろ」






宥(………………………)

―――――――夏休み明け、哩の家

哩「さて諸君、学祭が1ヶ月後に迫っとるわけだが」

照「あまり思い出したくない……」ズーン

宥「まあまあ、今年は参加すればいいよ」

姫子「楽しみやね」

玄「どんな感じなんだろう」


哩「ま、実状は内輪の縁日みたいなものでもあるが」

哩「せっかくなので今回は出店者側でやってみようと思う」

宥「そんなことできるの?」

哩「ああ。出店要件はサークル・ゼミ・その他事前に申請した当学学生が所属する団体」

哩「ちなみに、新規客の獲得のためにここの学生がバイトしてる大学周辺の飲食店が、その学生に頼んで出店することもあるそうだ」

照「ルールの抜け道ってことだね」

哩「まあ、学祭は生徒の自主性に任せるということで、明らかな営利行為だが大学側も黙認しているらしい」

玄「レベルが高い出店があったほうが盛り上がるでしょうしね」

哩「そう!そして今回広場の一等地を確保できた」

姫子「ああ……昨日朝早く出てったのは申請の為っちゅうことですか」

哩「ああ。申請が今日から開始やからな」

宥「すごーい」


照「まだやるとも言ってないのにずいぶんな勇み足」

哩「やるやろ?」

照「やる」


哩「まあ、最悪辞退すればほかの団体が繰り上げになるだけやったから」

宥「それで、なにをするの?」

哩「玄さんという強力な助っ人もおることやし、ビアガーデンをやろうと思う」

照「学祭って11月の第2週だよ?寒いのにビール飲む人いるの?」

哩「その辺は去年リサーチ済み。祭とあって缶ビールが400円でも飛ぶように売れる」

哩「そして、立ち食いになることが多くて困っとる人が見受けられた」

照「去年……」シクシク

姫子「なんとも大学生って感じでよかですねぇ」

玄「なるほど、わたしも参加できるわけですか」


哩「じゃ、その他手続きは済ませておくから。メニューとかそういうのを考えていこう」

宥「はーい」

哩「おっし、開店ぞ」

玄「二人ともギャルソン衣装似合ってるねー」

照「そうかな、ありがとう」

宥「ちょっと寒い……」

玄「その恰好にマフラーはおかしいから我慢してね」

玄「かわりに貼るカイロ持ってきたから」

姫子「頑張りましょうね玄さん、哩さん」

哩「おう」



「こっちビール3つと料理おねがーい」

宥「かしこまりましたー」

「こっちはビール2つでー」

照「すぐにお持ちします」

玄「なかなかに盛況ですね」

哩「ああ。ほかの店で買ったものを持ち込む客もおるが、それでちょうどよく回るペースになっとる」

姫子「儲けのためってわけじゃないですけど、ビールだけだと楽ですけんねぇ」

宥「オーダー入ったよ。モツ煮込みと唐揚げ」

哩「あいよー」

玄「ここからステージの大道芸とかショーも見れるし、最高のポジションですね」

哩「もっと褒めろ褒めろ」

姫子「手ぇ止まっとりますよ!」


玄「すみません」
哩「すみません」

.


照「はぁ……疲れた」

哩「お疲れさん。大成功やったな」

宥「売り上げ……諸経費を引いて5万3000円ですね」

姫子「1日でこれはすごいですね」

玄「明日はどうするんですか?」

哩「いや、ここはいい場所やけん1日しか使えんのよ」

哩「明日は普通に参加しようと思っとる」

玄「なるほど、両方楽しもうってことですね」

姫子「そうですね、わたしもその方がいいと思います」

宥「照ちゃん、飲み物買ってきたよ」

照「ありがとう……」


哩「よっしゃ、とりあえず今日は売り上げでパーっと飲みに行くぞ!」


「おー!」

.

宥「んむ……」パチ


宥「今何時かな……」

19:48

宥「あぁ~」


宥「これはつまり2日目まるっと寝過ごしたってことだよね」

宥「昨日は2次会哩ちゃん家になったんだっけ」



宥(視界の端に映るのは大量の茶色いビン……)




宥(そして)


照「ん……」


宥(わたしを抱きしめる形で寝ている照ちゃん)

892 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/02/10(日) 19:10:24.48 ID:e/vsAMD/0 [20/20]
おっふ……どなたか

照「内緒のはなしは…」宥「あいるてるゆーわっと!」
照「内緒のはなしは…」宥「あいるてるゆーわっと!」 - SSまとめ速報
(http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1360413310/)

にさる報告お願いできませんか

宥(二度寝……できるわけないよね)




宥(まつげ長いなぁ)



宥(……………)ドキドキ



宥(こんなにも、わたしは……)




宥(決めたよ、照ちゃん)




宥(わたしは、もう―――――)

―――――――松実宥、大学4年の春


照「もう卒業か」


宥「あっという間だったねえ」


照「特にこの1年は短かった気がするな」


宥「そうだね」


照「楽しいときは瞬く間に過ぎる、ってことかな」


宥「もう、照ちゃんったら」


照「ほんとうだよ、宥と居て人生で一番楽しい4年間だった」


宥「わたしも」


宥「そういえば、去年はあんまり哩ちゃんと会ってないなぁ」

照「旅行とか、イベントごとでは一緒に居たけどね」


照「あいつなりに、理由があるんだよ」


宥「へぇ……」


宥「なんだか照ちゃんは、わたしの知らない哩ちゃんを知ってるよね」


照「でも、哩の知らない宥の顔のほうがたくさん知ってるよ」


宥「……恥ずかしいな」


宥「でも、嬉しい」


哩「おーい、お前らー」


宥「あ、哩ちゃん」


哩「式終わったし、これから飲みに行こうや」

照「最後まで哩は……」


宥「でも、そのほうが哩ちゃんらしいよね」


哩「そーそー、酒抜きに聞けないこと全部聞いてからお別れにすっぞ」


照「うちは姫子さんと哩のところみたいに爛れてないから……」


照「それに、これはお別れなんかじゃないよ」


宥「そうだね、きっとまたすぐに会える」


哩「そやねー、じゃ、糸をもっぺん結び直しとこーか?」


宥「糸?」


哩「あとで照に聞いて」


哩「にしても、照はプロで宥は実家。就活せんでいい奴らはちゃきいよなー」

支援

照「哩だって、してなかったじゃない」


哩「ばれたか」


宥「え」


照「したいこと、見つけたんでしょ?」


哩「まーな」


宥「そういうことなら、大丈夫そうだね」


哩「んじゃ、そろそろ行くぞ。車に乗れ」


宥「はーい」

―――――――現在


照「奈良のチームへの移籍が決まったから、これからは一緒に居られるよ」

宥「ほんと!?」


カランカラン

「む」



「あ、すみません……今日は営業してないんですよ」

「はい、申し訳ないです。またよろしくお願いします」




哩「はあ、看板をCLOSEにすんの忘れとった」

宥「だめだよ哩ちゃん」

哩「すまん。しかしまあ、宥もよく頑張ったな」

哩「もっというと、新婚なのに3年もほったらかされてよく頑張った」

照「わたしはどこかの誰かと違って可能な限り奈良に居たから」

哩「ぐっ」

宥「わたしたちを引き剥がすのは、これから先ずっと九蓮宝燈で和了りつづけるより難しいよ」

哩「宥も言うようになったなあ」


哩「ほい、じゃあ3人分の飲み物がそろったところで」

照「うん」

宥「はい」


哩「宥と照の結婚記念日と」

照「哩のお店のオープン2周年を祝って」
宥「哩ちゃんのお店のオープン2周年を祝って」



「乾杯!」

―――――――松実宥、大学2年の冬

オネェチャン、デンワダヨ


照「ん」

照「もしもし」

宥『あ、照ちゃん、今大丈夫?』

照「うん」

宥『来週の金曜日って何か予定あるかなぁ』

照「金曜日って……クリスマスじゃない。いいよ」

宥『えへへ』

照「わたしのバイトは学校やってる時しかやってないから」

宥『図書館のお手伝いだっけ、ぴったりだね』

照「まぁお給料は大したことないけど」

宥『わたしも、クリスマスに雀荘に来るお客さんって少ないから、お休みなんだ』

宥『じゃあ、24日に』

照「うん、楽しみにしてる」

――――――――――――――――――――――

哩『いつまで知らん振り決め込むつもりなん?』

――――――――――――――――――――――

照「……それも来週まで」

――――――――――――――――――――――

哩『じゃあ、宥が告白してきたら受け入れる?』

――――――――――――――――――――――

照「……いや、それには及ばない」



照「わたしから告白する!」



「宮永さん、仕事中よ。しかもここは図書館」



照「あ」


照「すみませんでした……」ズーン

――――――12月24日


照「お待たせ」

宥「そんなに待ってないよ」

照「でも、寒かったでしょ。ほら、こんなに手が冷たくなってる」

宥「わ」

照「さ、行こう」

宥(な、なんだか今日の照ちゃん、いつもより積極的な気がする)

照「宥は寒さに弱いんだから……屋内で待っててくれたらよかったのに」

宥「ううん」

宥「すぐに見つけて欲しかったから……一番目立つ場所で待ってたの」

照「もう……風邪ひいても知らないよ?」

宥「看病してくれないの?」

照「……まさか」

照「わたしが40度の熱出してても一晩中看病するよ」

宥「ふふ」

.



姫子「哩さん、結局あのふたりどげんなるとでしょーかね?」

哩「まあ、あんだけハッパかけりゃあ今日動くやろ」

姫子「ですかねぇ」

哩「ほんなら、どっちがコクるか賭けてみるか?」

姫子「えー、じゃあ、照さんからに1万円」

哩「なら宥からに1万円かな」

姫子「もしどっちも外れたらどうします?」

姫子「告白できずに終わった!とか」

哩「うーん……あいつらに1万円ずつやろう」

姫子「ですかー」




.

照(き、切り出せないまま宥のアパートについてしまった)


照(はあぁぁぁ……)


照「じゃ、じゃあ宥。この辺で。また初詣にもいこう」


宥「照ちゃん」


照「!」


照「何?」


宥「今日出かける前に、決めてきたことがあるの」


宥「ううん、決めたのは学祭の時。ほんとうはもっと前だったかも」


宥「わたしはもう、ほんとうの気持ちから目をそらして逃げたりしないよ」


照「…………」

照「うん」


照「わたしも決めてきたことがあった」


照「でももう少しでその決意を仕舞ってしまうところだった」


照「宥は優柔不断なようでいてしっかりとこういう時決断できるよね」


宥「照ちゃんこそ、いつだって必要な時に欲しい言葉をかけてくれるよね」


照「家事ダメダメ炬燵バカだったのに」


宥「仏頂面で本だけが友達だったのに」


宥「って、家事ダメダメは照ちゃんもでしょ!?」


照「ふふっ、ばれたか」


宥「あははははは!」

宥「……ねえ、照ちゃん、ナイショの話があるんだけど」


照「奇遇だね、実はわたしも」




照「あのね……」
宥「あのね……」



「大好きだよ!」




カン

大学モノ書きたかっただけのSS


上のほうでも言われてましたが、タイトルは

I'll tell you what(あのね、話がある)と まいる てる ゆう のシャレです



じゃあの

乙乙

あ、ちなみに洋胡・憧白の人とは関係ないです

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