男「水槽脳は電波の夢を見るか?」 (10)

…………

少女「私たちは、わかりやすいだけの利益を得て、本当に大切なものを失くしてしまったのかもしれない」

少女「幸せも価値観も、人によって違うものだとわかっているけれど、わかっているつもりだったけれど」

少女「私には、誰もが誰も、苦しんでいるように思えてならない」

少女「私は馬鹿だから、お金の価値がわかりません」

少女「お父さんは偉いから、お金の価値を知っていました」

少女「だからお父さんは、悪魔に魂を売りました」

少女「お父さんは満足そうでした」

少女「でもお父さんは、昔の方が幸せそうでした」

少女「『仮面は黙り、鸚鵡は今日も誰かの声で鳴く』」

少女「私には、誰もが誰も、苦しんでいるように思えてならない」

…………

携帯『7:00、男様、朝でございマス』

男「最近、変な夢を見るな。まあ、夢に意味なんかないんだろうけど」

男「夢診断を頼む」

携帯『ハイ、了解デス。どのような夢を見られたのデスカ?』

男「暗闇にひとりの女の子が浮かんでいて、何かを訴えてくるんだ」

携帯『了解デス。現在、調査中……』

携帯『…………』

携帯『その質問にだけは、答えられまセン』

男「……珍しいな、いつもならなんでもすぐ答えてくれるのに」

男「くっそ、なんか腹が立つな……」

男「親父にもらったまだ出回ってない実験途中の最先端AIだってのに、なんでこんな質問の答えが返ってこないんだよ」

男「……まあいいや、学校に行ってくれ」

携帯『了解デス』

携帯『学校を表示しまシタ』

男「まだみんなあんまりログインしてないな」

携帯『メッセージ一件、再生します』

幼馴染『おはよう、男君!』

男「適当に返しといて」

男『ああ、おはよう。お前はホント、朝から元気だな。こっちは寝起きだってのに』

男「……しばらく合法電子ドラッグでも再生してるか。dx08で頼む。何か話しかけられたらオートで答えといて」

携帯『……電子ドラッグdx08は現在、ウイルスチェックしておりマス。今は控えるべきだと』

男「いいから、早く再生の準備しろよ」

携帯『了解しまシタ』

男「ったく、何がウイルスチェックだよ」

携帯『再生を開始しマス。連続30分以上の利用は、健康を害する恐れがありマスので、ご注意くだサイ』

携帯『ガー……ガガガガガガー、ガー』

男「はぁー、このために生きてるようなもんだよな」

男「腹が減ったな。適当に食えるものを頼む」

携帯『ハイ、了解しまシタ。26分後に、玄関でお受け取りくだサイ』

男「さて、次は何の電子ドラッグを……」

携帯『男サン。そろそろ、授業に戻られテハ?』

男「いいよ。後でログ見るから」

携帯『ハイ、了解しまシタ』

男「……このAI、ちょっとウザったいな」

男「しょせんは試作品か。次親父に会ったら、やっぱり前のに戻してもらおうかな」

携帯『…………』

携帯『親友登録されてイル、女サンからメッセージが着ました』

男「うおっつ! さ、再生してくれ!」

女『おはよう男君』

男「おはよう、女さん」

女『……ねぇ、男君』

男「な、何かな?」

携帯『女サンが、非公開トークを希望しておりますが、よろしいでしょうか?』

男「え? ああ、うん、お、オッケーだ」

男(非公開トークだなんて、いったい何の話だろ。俺、悪口とエロ話でしか使ったことないぞ)

女『じっ実は私……その、男君のことが……』

男「ど、どうしたんだよ」

女『あの……えと、今日ね、放課後に見て欲しいものがあるの』

男「え?」

男(今、別のこと言おうとしてただろ絶対)

女『…………』

男「恥ずかしいから、上手くさっきのことを代わりに訊いてくれ」

男『あのさ、さっき、何か言いかけてなかった? そのことはさ、なんだったの?』

女『やっぱり、まだ言えないの。その……あれを見てもらうまでは』

男「…………」

携帯『食事の、配達がきまシタ』

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