ひろし(36)「ハニーの嘘つき!」嫁「アホなこと言ってないで起きて!」 (4)

始めましてー。こういうとこに初めて書き込むので細かい作法とかわかんないですが、無礼はないようにテキトーに書き込みます。
一年くらい前に思いつきで書いたオリジナルショートが出てきたんで、それをアナログからデジタルに落としてくスレです。



坂口ひろしは寒かった。否、正確には『寒くなりたくなかった』という方が正確だろう。

彼は今、布団の中にいた。
いつもの彼は早起きである。
毎朝四時半に目が覚める。 
家人の誰よりも早く起きだして飯を炊き、洗濯をし、四本足の犬と散歩に行く。
帰ってきたら妻と自分の分の弁当を作って、自家焙煎のコーヒーで一服してから寝ている妻を起こしに行く。

ここまでが彼の、本来の朝の仕事であり日課だ。

しかし、今朝のひろしは、いつものひろしではなかった。
と、いうのも、彼は南国で生まれ育ち、そしてずっとそこに住んでいたのである。

「布 団 か ら 出 た く な い で ご ざ る ! !」

彼は獅子のごとく叫んだ。
今度移り住む処も、雪が降らない、年間の日照時間も長い、暖かなサイレントヒルだと、彼は妻の香から聞いていた。

 だが、実際越して来ると、なんだ、これは。

「ハニーの嘘つき! 寒いじゃんか! これじゃ着替えもできないでござる!」

 なにせ越してきた家はオンボr……いやいや今流行りの古民家というやつだった。
 ゆえに気密性もへったくれもな……いやいや、建造当時の形をそのまま保ったレトロな建物だった。
 おかげで夏は暑く、冬は寒…………いやいや、香いわく『冬の昼間は、むしろ外にいる方があったかいよっ?』

 ・・・ ねぇそれ、家 と し て ど う な の。

「最悪な家でござる、いくら外があったかくても、こうも中が冷えてちゃ出る気にもなれない! ……あ、『でござる』!」


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あんまり耐え切れなかったひろしは、こうして、朝から今までにやるべき仕事をすべてサボっている。
消耗戦覚悟で飯も食べていない位だ。
ていうかこの布団の中からホントに一歩も出ていない。

おかげで朝っぱらから、妻とはすったもんだの大げんかを繰り広げた。

――『もういい大人なんだから、アホな事言ってないで起きて!』

正論である。

けれどひろしはこう反駁した。

『だってだって! 寒いもん! だからやだもん! ぼく全裸だし、こんな中で布団出て、服着るとかムリ!
 絶対ムリ! おきないもんやだもんやだもんやだやだ絶対やーぁだああああぁぁぁ!!』ジタバタ
それでいいのか36歳。
『……。ひろたんのバカ! 勝手にすればいいわ!』

……そうして妻はその言葉を置き土産に、会社に行ってしまった。
彼女とは布団越しに口論になったので、どんな表情で家を出て行ったかは判らない。でもきっと怒っていたはずだ。

しかしこうなったら、ひろしとて意地である。

「……ハニーが謝るまでは、絶対にここからは出ないでござる!」

……なんてしょうもない男だろうか。

腕に抱えた目覚まし時計に目をやれば、時刻は既に午後六時。
冬の陽はもうとっくに沈んでいる。あれから丁度半日が経過したわけだ。

いつもなら買い物も済ませ、香の帰宅時間に合わせて夕食作りが進んでいる時間帯だったが、もちろん今の彼にはそのような行動、取る気にもなれない。

「しーらないっ、しーらないっ!」

子供か。

「布団に籠ったぼくは、いわば山に籠った山伏。夕ご飯を作るなんてそんな世俗的な事、修行中のぼくにはにつかわしくないでござる!」

真剣にアホな事言いながら寝返りを打つひろし。


その時であった。

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