ミカサ「ありがとう、エレン」(61)

おそらく51話までのネタバレが含まれる
気をつけて

───そんなもん何度でも巻いてやる。

───これからもずっと。

───オレが何度でも。

ミカサ「ん……」パチ

ミカサ「ここは……」

ミカサ「あ……」

ミカサ「エレン」

エレン「……………」

ミカサ「寝てるの?」

エレン「すー……すー……」

 ガチャ

アルミン「あ、ミカサ! 目が覚めたんだね!」

アルミン「っと……! エレンが寝てるんだった」

ミカサ「私は……」

アルミン「帰ってきてから気を失って、ずっと寝込んでたんだ」

アルミン「なにせ肋骨が大変なことになってたからね」

ミカサ「そうなの……」

アルミン「巨人に握りつぶされそうになったんでしょ?」

アルミン「俺が守ったんだってジャンが言ってたよ」

ミカサ「そういえば、そうだった気がする」

アルミン「逆に動けてたのが不思議なくらいだよ」

アルミン「ベルトルトが取り落としたエレンを見事にキャッチしたっていうのも聞いたし……」

ミカサ「あの時は必死だったから」

アルミン「ミカサはすごいや」

ミカサ「あの時はどちらかというとアルミンが機転を利かせたおかげ」

アルミン「僕は……彼らの弱みに付け込んだだけさ。 褒められたことじゃないよ」

ミカサ「……………」

アルミン「……とりあえずこれ、痛み止めの薬と果物だよ」

ミカサ「ありがとう」

アルミン「しばらくは安静にしてないといけないよ? 運動は絶対ダメ」

アルミン「何日も寝込んでたんだから……」

ミカサ「でも、体がなまってしまう」

アルミン「ダメなものはダメだよミカサ」

アルミン「君は自分の体に鞭を打ち過ぎだ。 ……君も、エレンも」

アルミン「ミカサ……君が訓練兵の頃から訓練の他に自主的にトレーニングをしてたのは知ってる」

ミカサ「そうなの?」

アルミン「エレンだって知ってる」

ミカサ「……………」

アルミン「エレンのことだから君ががんばってる姿を見て自分も負けたくないって思ったんだろう」

アルミン「点数の低い対人格闘術であんなに頑張ってたのだってそういう理由だよ」

ミカサ「アルミン……」

アルミン「い、いやっ、別にそれが悪いというわけじゃなくてね?」

アルミン「ただ、君たちは僕の大事な親友なんだ……。 し、心配なんだよ……」

ミカサ「アルミン」

アルミン「え?」

ミカサ「親友ではなくて、私たちは家族」

アルミン「ミカサ……」

ガチャ

 「あーあ、外で聞いてりゃ……。 お前らってホントこんな状況でも余裕綽々だよな」

アルミン「ジャン」

ミカサ「……………」

アルミン「あ、こんなこと言ってるけどジャンはミカサの心配し過ぎでご飯もろくに食べれなかったんだよ」

ジャン「おま、アルミンバカ野郎! そんなこといちいち言う必要ないだろ!」

ミカサ「……ジャン、ありがとう」

ジャン「べっ、別になんてこたぁねーよ!」

ミカサ「あの時助けてくれなければ私は死んでいた」

ジャン「仲間を助けるのは当たり前のことだろ……。 仲間を失うのはもうゴメンだ」

アルミン(ジャン……)

アルミン「ジャンって最近性格変わってきたよね」

ジャン「うるせえよ。 俺はもともと優しいやつなんだ」

アルミン「あははっ。 自分で言うか!」

ジャン「う、うるせえな!」

ミカサ「ふふっ」

ジャン「……!!」

ジャン「……………」ジー

アルミン(さすがに見すぎだよジャン……)

ミカサ「……? なに?」

ジャン「えっ!? い、いやなんでもねえよ……」

ミカサ「そうなの?」

ジャン「とっ……! とにかく! 意識が戻ってよかったぜミカサ」

ジャン「お、お前がいねえと俺はここにいる意味が……」ボソボソ

ミカサ「ごめんなさい、聞こえなかった」

ジャン「いや! いいんだ! とりあえずゆっくり休めよな!」バタン

アルミン「あはは。 ジャンも照れ屋だなあ」

ミカサ「どういうこと?」

アルミン「ん? ふふ、なんでもないさ」

ミカサ「……? 変なアルミン」

アルミン「変なって……もう」

アルミン「……それじゃあ、薬飲んだらまたしばらく寝てた方がいいよ」

ミカサ「うん」

アルミン「あ、そうだ。 エレンを寝室に連れて行かないと」

ミカサ「……………」

ミカサ「エレン」

ミカサ「ありがとう」ナデナデ

エレン「すぅ……すぅ……」



 ダダダダダ



コニー「復活したかミカサ!」

サシャ「おがえりなざいミガザ~~~」

アルミン「ちょっと、コニーもサシャも……ミカサは病人なんだから」

コニー「おお、そうだったな! 悪い悪い」

サシャ「よがっだでずう~~~」

アルミン「あはは。 泣き過ぎだよサシャ」

ジャン「ったく、なんでお前らはいつもそう元気いっぱいなんだよ……」

アルミン「あ、ジャン。 エレンを寝室に運びたいから肩を片方持ってほしいんだ」

ジャン「こいつもいつまで寝てんだ。 ……おい、エレン! 起きろ死に急ぎヘタレ野郎!」

ミカサ「……ジャン?」ジト

ジャン「……っていうのは冗談に決まってるだろ? おーい起きておくれよエレン君~」

エレン「……んぁ」

エレン「……………」ボー

エレン「……ミカサ? お前……目が覚めたのか」

ミカサ「おかげさまで」

エレン「そうか、良かった……」

ジャン「はいはい。 感動の再会はそこまでな。 お前は大事な大事な実験計画を忘れてないだろうな?」

エレン「忘れてねえよ……」

ジャン「じゃあ寝ろ。 今すぐにだ」

アルミン「ほら、肩貸してあげるからさ、エレン」

エレン「アルミンか。 悪いな」

アルミン「よいしょ……っと」

コニー「なあサシャ……お前いくらなんでも泣きすぎだぞ」ジト

サシャ「しょうがないじゃないですかあ!」ワーン

コニー「オレはむしろお前がそんなに泣けることに驚きが隠せねえ……」

サシャ「それはちょっとひどくないですか!?」



ミカサ「……ふふ」ニコ

 ──その夜──



 コンコン

 「オレだ。 入るぞ……」ガチャ

ミカサ「……どうかしたの? エレン」

エレン「起きてたのか」

ミカサ「起きてないと思ったの?」

エレン「別にそんなことはねえよ」

ミカサ「……それで、どうかしたの?」

エレン「いや、昼間は眠すぎてお前とまともに話してなかったからな」

エレン「ミカサが寝込んでる間にいろいろと決まったこともあってさ。 何か聞きたいことあるか?」

ミカサ「……今は、まだいい」

エレン「……そうか」

ミカサ「……………」

エレン「……………」

ミカサ「……………」

エレン「……………」

ミカサ「……………」

エレン「……あ、あのさ」

ミカサ「なに?」

エレン「怪我の具合はどうだ?」

ミカサ「……平気。 もうなんともない」

エレン「ミカサ……」

ミカサ「大丈夫」ニコ

エレン「嘘つけ」ジト

ミカサ「えっ?」ギク

エレン「何年一緒にいるって思ってんだ。 バレバレだ」

ミカサ「……大丈夫。 もう動ける」

エレン「お前なあ……。 じっとしてろ」スク

ミカサ「え……?」

エレン「痛かったら言えよ……?」スッ

ミカサ「ひゃ……っ!?」

エレン「お前なあ……包帯の上から分かるくらいあばらのところが腫れてるぞ」

エレン「これじゃまだ痛みも引かねえだろ」

ミカサ「い、痛み止めを飲んでいる……。 それよりエレン」

エレン「痛み止めって言ってもなあ~……ん? どうした?」

ミカサ「できれば手を服から出してほしい……恥ずかしい、ので」

エレン「ああ、わりい」

ミカサ「……ふぅ、びっくりした」ボソ

エレン「とりあえず良くなるまではさすがのお前でも絶対安静だからな」

ミカサ「……ふふ」

エレン「なんだよ」

ミカサ「それはアルミンの入れ知恵?」

エレン「そ、そうとも……言う……」

ミカサ「アルミンにも同じことを言われた」

エレン「アルミンはかなり心配してたからなあ」

ミカサ「エレンも、でしょう?」

エレン「当たり前だろ」

エレン「……本当はさ」

ミカサ「?」

エレン「あの時の礼を言いに来たんだ」

ミカサ「あの時?」

エレン「ミカサが『マフラーを巻いてくれてありがとう』って言ってくれた時だ」

ミカサ「……………」

エレン「それだけじゃない……他にも俺を助けてくれた」

エレン「ミカサがいなかったら、オレはダメな奴のままあいつに食われて死んでた」

エレン「アルミンや、他のみんな……オレのせいで死んでいった人たちも……」

ミカサ「エレン」

ミカサ「そんなに気負わないで」

ミカサ「ジャンはエレンにプレッシャーをかけるけど」

ミカサ「私はエレンのそばにいられればそれでいい」

ミカサ「ううん、エレンとアルミンと三人で一緒にいられればそれでいい」

エレン「ミカサ……」

エレン「ありがとな」

ミカサ「だから、エレンはエレンのやりたいようにやっていい」

ミカサ「邪魔者は私が全て排除するから」

エレン「はは。 本当はオレがミカサやアルミンを守ってやりたいんだけどな」

エレン「思えば、ミカサにありがとうって言ったことなかったな」

ミカサ「そんなことはない」

エレン「……まあ、俺は負けず嫌いで不器用だから──これもアルミンに言われたことだけ

どよ」

エレン「たまには素直になってみるよ」

ミカサ「……………」

エレン「ありがとな、ミカサ」

ミカサ「……エレン」

ミカサ「エレンは、いい子」ナデナデ

エレン「っ!? おい、よせよ!」

エレン「オレはミカサの子供でも弟でもねえぞ!」

ミカサ「さっき素直になるって言った」

エレン「そういう意味じゃねえよ!」

ミカサ「それじゃあ私とエレンの関係はなに?」

エレン「関係って……家族だろ」

ミカサ「家族って?」

エレン「家族は家族だよ」

ミカサ「つまり、どういうこと?」

エレン「は……? 何が言いたいんだお前は……」

ミカサ「……むぅ」プクー

エレン「なんだよ。 急に撫でてきたり怒ったり」

エレン「ほっぺた膨らませてもその顔じゃ怖くねえぞ」

ミカサ「その顔って?」

エレン「な、なんだよ……ぐいぐい来るな今日は」

ミカサ「私は怒ってる。 怖くないの?」プクー

エレン「…………よ」

ミカサ「なに?」

エレン「お前がほっぺた膨らませても可愛いだけだよって言ってんだよ」

ミカサ「……!!」

ミカサ「……そう」

エレン「なんだよ。 今度は急に上機嫌になりやがって」

エレン「……でも」スッ

ミカサ「んっ」

エレン「このキズ……オレのせいなんだよな」

ミカサ「今日のエレンは少しネガティブ」

エレン「いや、この綺麗な顔に傷を付けちまったと思うとな……」

ミカサ「……たまにはネガティブなのもいいかもしれない」ボソ

エレン「ん?」

ミカサ「いえ、エレンが気にする必要はない。 むしろ嬉……なんでもない」

エレン「なんだよ、変な奴だな」

ミカサ「と、とにかくこの傷は気にしなくていい。 エレンが責任を取ってくれればそれで

いい」

エレン「ああ、なんでも取るさ」

ミカサ「……………」ジト

エレン「どうした? なんでそんな渋い顔してんだよ」

ミカサ「もういい。 ……そういえば、アルミンは?」

エレン「ああ、アルミンも連れてこようかと思ったんだが、外でサシャと……ヒストリアと

三人で話してるのが見えてさ」

ミカサ「そう」

エレン「なんというか、立て込んだ話……って言うのか、そんな感じだったし」

ミカサ「空気を読んだの?」

エレン「ああ、まあな」

ミカサ「エレンが?」

エレン「……それはどういう意味だミカサ」

ミカサ「さっきは空気を読んでくれなかったのに」

エレン「……何のことかさっぱり分からないぞ」

ミカサ「はぁ……」

エレン「かわいそうな子を見るような目でオレを見るなよ!」

ミカサ「ふふ」

エレン「なんだよ……今日はやけに突っかかってくるな」

エレン「ってこれさっきも同じようなこと言ったか」

ミカサ「楽しい」

エレン「え?」

ミカサ「エレンとこんな風にお喋りできて、楽しい」

エレン「そりゃよかった」

エレン「とはいえ、結構話したな」

ミカサ「こんなに話したのは久しぶり。 エレンが連れて行かれた時は本当に心臓が止まるかと思った」

エレン「そういえばそうだったな」

ミカサ「……エレン」

エレン「なんだ?」

ミカサ「……もう二度と、私たちの……私の前からいなくならないでほしい」

エレン「ミカサ……」

エレン「分かった。 約束する」

ミカサ「約束」

エレン「ああ、約束だ」

ミカサ「……よかった」

エレン「……………」

ミカサ「……………」

エレン「……さっ、今日はもう寝るか! ミカサも早く治さないとだめだしな」

エレン「それじゃオレは戻る」

ミカサ「エレン」

エレン「どうした?」

ミカサ「エレンは今日はここで寝よう」

エレン「ここって……」

ミカサ「ここ」ポンポン

エレン「お前なあ、俺たち今何歳だと思って」

ミカサ「さっき私の前からいなくならないって約束したのに」

エレン「ええっ!? あれってそういうことなのか!?」

ミカサ「もしかすると私の容態が急に悪化するかもしれない」

エレン「………」

ミカサ「そして死んでしまうかもしれない」

エレン「ねえよ」

ミカサ「……むぅ」

エレン「……ったく、しょうがねえな。 今日だけだぞ」

ミカサ「ほんと?」

エレン「なんだ、今のは冗談か?」

ミカサ「本気。 だからここ」ポンポン

エレン「はいはい。 そういえばミカサ風呂入ったのか?」

ミカサ「体を拭かないといけない……ので、手伝ってほしい」

エレン「はいはい分かってるって」

エレン「あ、それとこれ」

ミカサ「あ……」

エレン「マフラーな。 洗っといたから」

ミカサ「……うん!」

ミカサ「……エレン?」

エレン「なんだ?」



ミカサ「ありがとう、エレン」



おわり。

すこしついか。

───────

────

───

サシャ「こんなにゆっくりとした夜は久しぶりな気がします!」

アルミン「そうだね~」

ヒストリア「……でも、そんなにゆっくりしておけない」

アルミン「分かってる。 でもこんな状況だからこそ慎重に動くべきだということも分かってほしい」

ヒストリア「……………」

サシャ「だ、大丈夫ですよ! きっとユミルは大丈夫です!」

アルミン「ああ。 必ず助けよう。 命がけでヒストリアを守ることができる人が悪い人なわけがない」

アルミン「けど、一体何がどうなってるのか……」

サシャ「アルミンよろしく頼みますよ~!」

アルミン「そのためにはヒストリアにも協力してもらわないといけないんだけどね……」

アルミン「でも、辛いことは無理に思い出さなくていいんだよ?」

ヒストリア「……アルミンは優しいね」

ヒストリア「でも、私は大丈夫。 ユミルが生きてるって信じてる限り心は折れないよ」

アルミン「ヒストリア……」

サシャ「……………」ポン

ヒストリア「……サシャ」

サシャ「クリスタ……じゃなくてヒストリア、辛そうですよ?」

ヒストリア「……………」

サシャ「心配しなくても私達三人はいつでも一緒ですよ?」

アルミン「………」

サシャ「それに、ヒストリアには命を救っていただいたご恩がありますからね!」

ヒストリア「……サシャ」

サシャ「だから、一人で無茶したりせんのよ?」

ヒストリア「………」

サシャ「私達がいますから」

サシャ「ね?」

ヒストリア「……ありがとう」

アルミン「そういうことだよ、ヒストリア」

アルミン「こんな状況だけど──いや、こんな状況だからこそかな」

アルミン「僕らは一人じゃ何もできないってことを嫌でも自覚しないといけない」

アルミン「そして、力を合わせたらなんでもできるってことを」

アルミン(だから、僕の命を捨ててでもエレンとヒストリアは守り切らないと……!)

ヒストリア「………」

サシャ「せっかく私がいいこと言ったのに全部アルミンに持ってかれちゃいましたね」

アルミン「え……? あ、いやそんなことないよ!」

ヒストリア「………」クス

アルミン「じゃあ、僕は寝室あっちだから」

サシャ「ええ。 おやすみなさいアルミン」

アルミン「おやすみ。 サシャ、ヒストリア」

ヒストリア「………」コク

アルミン「……ふぅ」

アルミン(これからまた大変になりそうだ……──ん?)

 「……で……かと……」

アルミン(なんだ……? 暗くてよく見えない)

 「……の……ろう……る……!」

アルミン「だ、誰かいるの?」

アルミン(あそこは確かミカサの……)

 「ぅぉぉぉぉ」

アルミン「わっ!?」

 「なんで……なんでだよ……」

アルミン「ジ、ジャン!? なんでこんなところに……」

アルミン(まさかミカサになにかしようと……)

ジャン「エレンガ……ミカサノフクノナカニ……」

ジャン「ミカサ……カラダフイテッテ……」

アルミン「……気絶、してるのか……」

アルミン(なるほど。 エレンとミカサの逢引きを見てしまったわけか)

アルミン「ほら、ジャン。 こんなところで寝てたら風邪ひくよ?」

ジャン「ナンテ……コノセカイハ……ザンコク……」

アルミン「あはは。 行こう、ジャン」ズルズル

アルミン(おやすみ、エレンとミカサ。 いい夜を)



エレン「スー……スー……」

ミカサ「すー……エレン……すー……」



おわり。

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