モバP「夢を叶えたシンデレラストーリー」 (42)
・モバマスssです
・地の分、会話文、半々ほど
・前作→モバP「夢を見ているシンデレラストーリー」
話は連続しているので、読んでいただけると幸いです
それではサクサクいきます
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ふと気付くと何もない空間に立ちすくんでいた
現実のものではないと言うことに気付くのには、時間はかからなかった
「ここは…」
どこなんだ
声に出して呟く
その時に目の前に人影が見えたような気がした
目を凝らすと、確かにそこには少女がいた
「君は…」
「…」
少女はニコッと微笑んだ…ように見えた
『あの子』がそこにいた
「ここは夢の世界なの?」
「…」コクリ
『あの子』は小さく首を縦に振った
どうやらまた不思議体験をしているらしい
「…だれの夢なのかな?」
「…」フリフリ
今度は首を横に振った
「それは、だれの夢でもないってこと?」
「…」
『あの子』は首をかしげていた
よく分からないが、よく分からない所に来てしまったらしい
何でまた夢の世界に…
「…」クイクイ
「ん?」
『あの子』がスーツの袖を引っ張って見上げてきていた
「…」クイクイ
「…着いてこいってこと?」
「…」コクリ
やはり何かしら目的があって連れてこられたのだろうか
いく宛もないし着いていくしかあるまい
「そういえば、小梅は?」
「…」フリフリ
今回は居ないらしい
『あの子』に袖を引かれながら何もない空間を歩く
何処に行くつもりなんだろうか…
自分の足音だけがあたりを満たしていた
しばらく歩いたところで、まわりに景色が有ることに気付く
いつの間にかあの変なところを抜け出していたようだ
「ここは…」
どんよりと曇った空
木々に囲まれた見通しの悪い道が目の前に続いていた
「誰かの夢に入ったの?」
「…」コクリ
黙って頷いた
「誰の夢なの?」
「…」
『あの子』はその問いかけには答えず、歩き出した
その後をついて、畦道を歩き続けた
どのくらい歩いただろうか
少しずつ道が開けてくるとそこには小さく脆そうな小屋があった
木製の古びた扉はすぐに壊れてしまいそうだ
…しかし、扉は鍵がかかっているのか開かない
備え付けられている郵便受けは足元からポッキリと折れて倒れていた
「…」クイクイ
「ん?」
小屋を眺めていると『あの子』が袖を引いてきた
「…」ペシペシ
何やらスーツの腰の辺りを叩きながら何かを訴えて来た
……かわいいのでとりあえずナデナデしとくか
「…!」パシッ
手を払いのけられてしまった…
「…!…!」ペシペシ
それでもなお何かを訴えて来る
「ん?」
ふと叩かれているスーツのポケットの中に何かが入っていることに気付く
取り出してみると…
「携帯電話…」
いつも仕事で使うスマートフォンがそこにあった
「…!」コクコク
どうやらこれの事だったようだ
携帯の電源はついていた
ご丁寧にもバッテリーは100%だ
「…これは、電話しろってこと?」
「…」コクコク
ご明察だったようだ
でも誰に?
携帯の電話帳を立ち上げた時にその疑問は解決された
一人のアイドルの名前しかそこにはなかったからだ
そして、どうして俺が呼ばれたのかもそこで合点がいった
電話帳で彼女の名前を選択し、電話をかける
何回かのコール音の後に、少し緊張した声が聞こえた
『…プロデューサーさん?』
「…そうだ」
『…どうしたんですか?』
「小屋の前まで来た。扉を開けてくれ」
『……空いてますよ。どうぞ、入ってきてください』
扉のノブを回すと、大きな音をたてて、あっさりと扉は開く
『…待ってます』
ガチャっと音がして電話は切れた
警告音を出しながら事切れた携帯をポケットに仕舞いながら扉の前に立つ
扉を大きく開けて中を覗くと、暗い廊下が続いていた
「…」フリフリ
『あの子』が手を振っている
「着いてきてくれないのかい?」
「…」コクリ
微笑みながら頷いたように見えた
「…それじゃあ」
手を振り返しながら小屋の中に入った
ギィィィィ
扉は大きな音をたてながら
ガチャン
閉じた
ギシギシと床を踏み鳴らしながら
薄暗い廊下をゆっくりと歩いていく
廊下の壁には沢山の絵が掛かっていた
ライブをしている絵
収録をしている絵
…スカイダイビングをしている絵
どれも一人のアイドルが描かれていた
ようやく廊下の突き当たりにたどり着く
襖を開けると、中から薄ぼんやりとした光が漏れ出した
「…プロデューサーさん?」
声につられて襖を大きく開けると…
「プロデューサーさん……」
「……幸子」
乱雑な部屋のなかには自分が担当するアイドルがいた
「…お久しぶりですね。プロデューサーさん」
「お久しぶり……か」
お互いに沈黙する
その通りであった
実に5日ぶりである
夢の中でのことを再会としていいのかはわからないが…
「どうぞ、座ってください」
幸子は自分が座っている大きな長椅子の隣を叩きながら言った
「…ああ」
腰かけると椅子にゆっくりと体がしずんだ
目の前には大型の液晶テレビがある
笑顔の幸子が歌を歌っている所のようだ
隣にいる幸子は黙ったままだ
「…幸子」
「はい?」
「幸子は俺が来ることが分かっていたのか?」
空気をまぎらわそうと、質問を投げかける
「…ええ、分かっていました」
「それは…どうしてだ?」
「小梅さんが…教えてくれたからです」
……なるほどな
俺の所に『あの子』がナビゲーターとして来たように
幸子の所には小梅がナビゲーターとして居たという訳か…
「プロデューサーさんがこの部屋に入ってくる少し前に帰ってしまいましたが…」
そう言って幸子はたった今プロデューサーが入ってきた襖に視線を送った
「会いませんでしたか?」
「ああ…」
廊下は一本道だったはずだが…
「そうですか…」
……また沈黙
こんなことを言いたいのでは無いはずだ
話さなければならない事があるじゃあないか
意を決して重い口を開く
「…なあ、幸子」
「な…なんですか?」
「……」
「…プロデューサーさん?」
「…どうして、事務所に来てくれないんだ?」
輿水幸子は
5日前から事務所に来ていなかった
「…」
投げかけた質問に、幸子はうつむいて何も答えない
「…幸子」
言葉を続ける
「5日前のライブの、失敗のこと…だよな…」
……幸子は5日前、テレビの生出演の際に大失敗をした
幸子と輝子、それに小梅の3人での出演だった
どの程度の失敗かと言うと、端的に言えば
…3人のアイドルランクアップが大幅に遅れる程度の失敗だ
それはもちろん事故であったし、幸子だけに責任がある訳ではない
「…失敗なんて誰にでもある」
「…取り返しのつかないようなものではないさ」
「…俺の管理も甘かった。幸子の責任ではないよ」
思い付く限り慰めの言葉をかける
幸子はうつむいたまま、顔を上げなかった
「幸子、俺は…」
心から思っていることを、ただ口に出す
「…まったく気にしてないからな?」
「………………………か」ボソッ
「ん?」
幸子が何かを言った気がした
「…ボクは!もうアイドルなんてやりたくありません!」
突然、声を張り上げながら幸子は顔を上げた
「ボクは!とんでもない失敗をしたんです!」
「取り返しのつくことだなんて嘘です!」
「ボクはもう!あんな…」
絞り出すように言った
「…あんな惨めな思いはしたくありません」
「ボクは……アイドルをやめたいです」
幸子は惨めな思いをするのが嫌だと言った
アイドルをやめたいと言った
……プロデューサーとして、幸子の色々な面を見てきた
だから、分かる
幸子は今ーーーー
ーーーー嘘をついている
「幸子」
「…なんですか」
「そんなことは、嘘でも言わないでくれ」
「…そんなこと、とはなんですか?」
「アイドルを……やめたいと言う嘘だ」
「……え?」
きょとんとした顔をする幸子
「幸子は、少なくとも惨めな思いをしたくないなんて言う理由で…」
「…アイドルをやめたいなんて言わないよ」
確信を持って言えることだ
「幸子はそんなことでは夢を諦めたりなんかしない」
「夢を…」
「そうだ」
大きく頷いてみせる
「幸子の夢は…アイドルになった目的は…何だ?」
「ボクの…アイドルになった…目的は…」
幸子は突然の質問に虚をつかれているようだったが
「…ボクがカワイイことを…証明することです…」
戸惑いながらそう答えた
「その通りだ」
幸子がシンデレラプロに入った時、一番最初に聞かされた事だった
「そうか、幸子の夢は今でも変わっていないんだな」
「そ、それは…」
「まだ、叶っていないはずだろ?」
「……はい」
幸子は再びうつむいてしまった
「…俺はさ、幸子」
「…はい?」
「…幸子をフロデュース出来ることを嬉しく思っているよ」
「え…」
「こんなに有望な子のフロデュースが出来るんだ。こんなに幸せな事はない」
「プロデューサーさん…」
「だから、幸子…」
俺はまた心からの言葉を繰り返す
「…俺はまったく気にしてない」
「………どうして…ボクを怒らないんですか……」
今度ははっきりと聞き取れた
さっきと違って涙声だったが…
「責めたりなんかするもんか」
「もちろん、小梅や輝子だってそのはずだ」
二人はこの5日間、幸子のことを心配してばかりいた
それでもしっかりと仕事をこなしていたあたり、彼女達も成長したのだろう
「…さっき、小梅さんもそう言ってくれました」
「そうだろ?だから…」
「でも!」
幸子と目が合う
目が潤んでいた
「ボクが嫌なんです!」
「ボクのせいでプロデューサーさんが謝っているのを見るのが!」
「ボクのせいでプロデューサーさんが迷惑してるような気がして…」
「こんな、迷惑ばかりかけているようなボクなんて…」
「…ボクなんて!全然かわいくなんかーーーっ!」
気がつけば、幸子を抱き締めていた
「ぷ、プロデューサーさん!?」
「幸子」
「は、はい…」
「幸子は、カワイイよ」
「…………え?」
「幸子はカワイイ、俺の自慢のアイドルだ」
幸子に自分を否定しないで欲しい
自分を信じていて欲しい
幸子なら、夢を叶えることができるはずだと思うから
「…プロデューサーさん」
「ん?」
「…ボク、カワイイですか?」
幸子はスーツに顔を押しあてながら、くぐもった声できいてきた
「…ああ」
幸子の頭を撫でながら答えた
「…カワイイよ」
「…ヒグッ……あ…りがとう…ございます…」
幸子は顔をうずめたまま、声をあげて涙をながし続けた
幸子は不安だったのだろう
……自惚れでなければだが、おそらく俺にダメなやつだと思われるのではないかと
俺に……見捨てられるのではないかと
……そんなことはあり得ないと言うのに
なんてことを考えながら幸子の頭を撫で続けた
……なでなで
「……」
「…落ち着いたか?」
「…は、はい」
あれからいくらかの時分が経って、幸子は我にかえったようだ
眼と頬を赤くしながらもじもじとしていた
「…プロデューサーさん」
「なんだ?」
「…ボク、やっぱりアイドル続けたいです」
「そうか…」
それはよかった
わざわざ夢の中にまで出張に来たかいがあったというものだ
「ここ、出ましょうか」
「ん?ああ…」
幸子はテレビの電源を消して、立ち上がった
そして、部屋の正面にある大きな襖の前に立って…
一気に襖を開け放った
途端に、爽やかな風と、眩しい陽光が部屋になだれ込んで来る
「プロデューサーさん!」
暖かい光に照らされて幸子の身体が輝きを帯びていく
「あ、ああ……」
美しい光景に心を奪われて、生返事をかえす
「ボクはここで宣言します!」
天使のような微笑と強い決意の籠った眼差しで幸子は言い渡した
「ボクはトップアイドルになります!」
「これが今からのボクの新しい夢です!」
「プロデューサーさん」
「一緒に叶えてくれますか?」
……無論、答えは決まっている
「ああ!もちろんだ!」
幸子は手をこちらに差し伸べてきた
…その手をしっかりと握りしめる
「行きましょう!プロデューサーさん!」
可憐な天使の笑みは輝きを増して……
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ……
アラーム音が鳴り響く
体を起こし、目覚まし時計代わりの携帯電話を止めながら思い出す
そういえば昨夜は仕事が長引いて事務所の仮眠室に泊まっていったのだった
とても気持ちよく眠る事が出来た
心なしか、体の疲れもとれているようだ
……あの子の夢にはそんな効果もあるのだろうか
ともあれ、早速お仕事に取りかかることにしよう
身だしなみを整えて仮眠室を出た
すると…
「やっとお目覚めですか?」
少し懐かしいような、それでいてついさっき聞いたかのような声が聞こえた
「おはようございます。プロデューサーさん」
「…おはよう、幸子。来てくれたんだな」
「ええ!カワイイボクが帰ってきましたよ!」
フフン、と笑いながら幸子は答える
……小梅とあの子に感謝しなくてはならないな
またこの笑顔を見ることが出来たのだから…
「あ……そういえば幸子」
「なんですか?」
一つだけ気になる事があった
「自分がカワイイことを証明するって言う夢は、どうなったんだ?」
目的地が一緒とは言え、新しい夢を追うことになったのだが…
「ああ、それでしたらもういいんです」
幸子は臆面なく答えた
「もう、その夢は叶えてしまいましたから」
「叶えた?いつのまに?」
何をもって叶えたと言うことになっているのだろうか
「ええ、だって…」
「…プロデューサーさんがカワイイって言ってくれましたから!」
「ボクはそれが…一番です!」
…それは喜ばしいことだな
「…プロデューサーさん、照れてます?」
「いや…」
て、照れてねぇし…
「フフーン!カワイイボクに魅了されてしまったようですね!」
満面の笑みで幸子は言って見せた
「…行きましょうプロデューサーさん」
「ちひろさんがコーヒーをいれてくれたみたいですよ」
……そうだな、今までも、これからも
一緒に行こう
夢を…叶えよう
差し伸べられた手をとって歩き出す…
ガチャ
と、背後のドアが開く音がした
「フ、フヒッ……おはよう…ございます…」
「お、おはよう…ございます」
振り返ると二人のアイドルの姿があった
俺の隣にいる人影に気づいて、1人は吃驚した顔をしていた
そしてもう1人は優しい微笑みを浮かべていた
二人の影にまた少女の姿があった
こちらの方をじっと見ている
……いや、可愛いんだけどさ
影から手をふるのはやめておくれよ
怖いよ…なんか……
おわり
という訳で、終わりです
続き物にしたいので、またいずれその時に…
ありがとうございました
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