P「聖なる夜、俺と音無さんは」(224)

「ありがとうございましたー」



P「あ」


小鳥「え?」



P「………」

小鳥「………」


P「お……音無さんもここのケーキ屋で……?」

小鳥「ぷ、プロデューサーさんも?」

P「……」チラッ

小鳥「あっ」

P「……ケ、ケーキ買われたんですね」

小鳥「はい……こんな日くらいは奮発しちゃおうかなー、なんて!」

小鳥「お祝いムードに当てられちゃったのかも」

P「ここのケーキおいしいですもんね」

小鳥「はい、ふふっ」

P「……」

小鳥「……」


P(どう見てもワンホール……どういうことだ)

小鳥(見栄張って大きいサイズ買っちゃったなんて言えない……)

小鳥(だってだって! しょうがないじゃない)

小鳥(私の前がカップル三連続ってどういうことなのよぅ!)

小鳥(あの流れで1ピースとか確実にさびしい人じゃない!)

小鳥(あの若い女の子の店員さんに独り身だってバレちゃうじゃない!!)


P(このサイズ……家族に買って帰るのかな)

P(いやでも、確か音無さんは一人暮らしだったよな?)

P(もしかして……彼氏とか?)

ズキ

P「っ」

小鳥(どうしよう、これ一人で食べるって思われてたら)


P『どうりでぶよぶよムチムチしてるわけですね、ちょっと無理ですごめんなさい』


小鳥(いやぁああそんなのいやぁああああ)

小鳥「……」ダラダラダラダラ

P「お、音無さん? 大丈夫ですか!?」

小鳥「ひゃい! あやっ、平気ですとも! ええ!」

P「………」

小鳥「プロデューサーさんもケーキ、買われるんじゃ?」

P「っと、そうでした! はは、忘れてました」

小鳥「じゃあ私、待ってますね」

P「え?」

P「……」

小鳥「……」


P・小鳥((待ってるって何で!?))


小鳥(わわ私今っ、自然に口に出してた!? プロデューサーさんの恋人でもないのに)

小鳥(恋人……って違う落ち着きなさい小鳥! 同僚なんだし普通よ普通っ)

P(今の流れで『はいサヨナラ』は不義理ってことだろう、うん)

P(別に他意はないはず!)


P「っ、じゃあ、さっさと買ってきますね」

小鳥「いえいえ、ゆっくりでいいですよ」

タタッ


小鳥「……ふぅ」


「いらっしゃいませー」


ガヤガヤ


小鳥(混んでるわねぇ、そりゃイヴだものねえ)

小鳥(くそぅリア充どもめ……何よあのポスター、カップル限定キャンペーン!? あぁん!?)

小鳥(っていけないいけない。そんな風に毒づいてちゃダメよね)

小鳥(お祝いの日なんだから)

小鳥「……」

小鳥(ケーキ重い……)

小鳥(失敗したわこれ……うぅ、肩も凝ってるし腰もイタい)

小鳥(年末なんて疲れることばかりで……)

小鳥(どこかに寄っかかっちゃおうかしら)


トスッ


小鳥(あぁ、これ楽かも)

小鳥「………」

小鳥(ここは戦場! 背中を見せれば殺られるんだ、小鳥隊員!)

小鳥(了解しましたP長官! 貴殿が戻られるまで、この状態で前線を死守するであります!)


小鳥「……うふふっ」


 ママー、アノヒトノケーキオッキー

 コラッ、ミチャダメヨ!

小鳥(プロデューサーさん)

小鳥(……プロデューサーさんは、どんなケーキを買うのかしら)


P「―――」


小鳥(店員さんと話してる)

小鳥(ああ、いろいろ勧められちゃってるんだわ)

小鳥(すごい親近感湧くわぁ、あの店員の子グイグイくるから慌てちゃうのよね、まるで――)

小鳥(……あれ?)

P「あはは、いえいえ」


小鳥(なんか……笑ってる?)


P「―――」

「―――」


ズキ

小鳥「っ」


小鳥(ちょっとちょっと! プロデューサーさん、なに店員さんと話し込んじゃってるの!)

小鳥(あの女の子も何うれしそうに笑っちゃってるのよぅっ!)

小鳥(そりゃ……そりゃ確かにプロデューサーさんはさわやかで、人当たりも良くて)

小鳥(いつも笑顔で一生懸命で自分のことは後回しで頑張りすぎちゃって)

小鳥(顔が見れたらすごく嬉しいしたまに夢に出てきたりもするけど)


小鳥「うぅ……」チラッ


P「―――」チラッ


小鳥「!」

小鳥(目、合った……こっちの方見てた?)

小鳥「~~~」

小鳥(なによ、なんなのよぅ)

ツカツカ


P「ち、違いますって! 彼女はそんなんじゃ……」


クイクイ

P「っ?」

小鳥「ちょっとプロデューサーさん……お店混んでますし早く出た方が」キュッ

店員「わわっ! すみませんっ、私がつい話し込んじゃって! また店長に怒られる~!」

店員「ケーキこちらです、お会計ちょうどです!」

P「あ、はい、音無さん出ましょう」

小鳥「はぇっ、えっ?」


「ありがとうございました~!」

ウィーン


P「……ふぅ」

小鳥「……」

P「すみません、お待たせしちゃって」

小鳥「……すごい盛り上がってたみたいですけど、何をお話になってたんですか?」

小鳥「誰とでも仲良くなれちゃいますよね、プロデューサーさんは」

P「いや、その」

小鳥(……私、何を言って)

小鳥「……」

小鳥(やっぱり若い女の子の方が……)ギュッ

P「あの、これ……」

小鳥「へ?」


小鳥「これっ、て」

小鳥「クリーニングの割引券……美容院の会員カード……ってぇえ!?」

小鳥「あ~~わわわわ!! へ、へぇえ!? プロデューサーさんこれどこでっ……!?」


P「あはは、さっきのケーキ屋ですよ」

P「音無さん、会計のとき慌ててました? 店員の子が、『お札に混じってた』って」

小鳥「」

P「気づいて渡そうと思ったら、そこに俺が入ってきてたみたいで」

P「『お知り合いなら渡してあげてください』って言ってくれたので、こうして」

小鳥「……」

P「音無さん?」


小鳥(それを勝手に、変な方向に勘違いして嫉妬して……)

小鳥(私……わたし……ダサすぎるぅう……)


小鳥「ううぅ」

P「音無さん、あの」

小鳥「プロデューサーさぁん……」

P「袖、つかんだままで」


小鳥「わっひゃぁあい!!///」パッ





ドシャッ


小鳥「あ」


P「あ」

小鳥「………」

P「………」


スタスタ


P「……」


スタスタスタ

P「……あの、音無さん、ケーキ持ちましょうか」

小鳥「……」ピタッ


小鳥「っ……グシャグシャになっだゲーキをですか……?」クルッ


P(泣きべそかいてる!)

P「いやっ、確認したけど全然きれいでしたよ! 味は変わりませんし!」

小鳥「……うぅ……そうなんですけど……」グスッ

P(弱った……俺が余計なこと言わなければ)

P(ケーキを持ってる方の手でつかんでたとは……)


P「すみませんでした音無さん……」

小鳥「……プロデューサーさんが謝ること、ないです」

P「あの、戻って買いに行きましょうか! 俺も足りないなぁって思ってたし小さいの一個くらい」

小鳥「……」

小鳥「……」グゥ~

小鳥「っ!?」

P「あ」


小鳥「~~~~!!」スタスタスタスタスタ


P「ま、待ってください音無さん! そっち駅っ、歩くの早いっ」

P「気にしないで……落ち込まないでください!」

小鳥(違うんですそうじゃないんです、私、自分が情けなくてっ)スタスタスタ

P「っ、そんなに早く歩いたら!」


ガッ


小鳥「――っ!?」

小鳥(つまづい――)


ガシッ!!


小鳥「ぁ……」

P「~~~、危ないあぶない」

小鳥「っ、っぷ、プロデューサーさん……」

P「………」

小鳥「ありがとうございます……」

P「音無さん……疲れてるんじゃないですか?」

小鳥「……」

P「仕事にかまけて、ご飯もあんまり食べれてないんじゃ」

P「その……俺の責任でもあるんですけど」

小鳥「そんなこと」

P「これ、さっき渡すの忘れてて。これもお札に混じってたみたいで」

P「ごめんなさい、見てしまいました」

小鳥「……」

P「コンビニのレシート、栄養ドリンクばっかりじゃないですか」

P(だからといって……)

P(俺が音無さんにできることなんてあるのだろうか)


小鳥「……そういうプロデューサーさんだって」

小鳥「目の下、隈ができてますよ」

P「っ、よく見えますね、一応夜なのに」

小鳥「プロデューサーさんのことはいつも見てますから」

P「―――」

小鳥「そんなのすぐにわかります……どうかしましたか?」

P「い、いえ……」


小鳥「?」

P(すごいこと言われた気がするけど……本人は普通なんだよな)


P「とにかく、ゆっくり歩きましょう、ね?」

P「今日は……せっかくのクリスマスなんですから」

P「……」

小鳥「……」


スタスタ


P(……何を話せばいいんだろう)


P(どこか店に入ろうとか、誘ったほうがいいかな……でも)

P(イヴだからどこも満杯だろうし、音無さんも疲れてるみたいだし)

P「……」チラッ

P(音無さんを待ってる人が……いるのかもしれないし)

スタスタ


小鳥(必死に慰めようとしてくれてたのに……私のバカ)

小鳥(ばかばかばかっ! ダメ女! 何よあのつっけんどんな態度はっ)

小鳥(そんなだからこの年まで色恋にも無縁で……)

小鳥「……」

小鳥(プロデューサーさん、私なんかといて楽しいのかな)

小鳥(嫌われてない……?)

小鳥(そんなの……想像しただけで、胸がはりさけそう)


小鳥「……」チラッ

P「……」チラッ


P・小鳥「「~~~~!!」」ババッ!

すまん ちょっと風呂

P「っ……あの」

小鳥「は、はい」

P「えぇと、そうだ」

P「……ほら、さっきのケーキ屋、女の子の店員さんがいたじゃないですか?」


小鳥「………」


P(うぅっ!? すっごい睨まれてる! またやっちゃったか俺!?)

P「いや、話してる時もずっと思ってたんですけど、あの子……似てませんでした?」

小鳥「あっ! 私もずっとそれ感じてて!」

P「ほんとですか!? もうなんだろ、あの動きとか空気とか」


P・小鳥「「春香(ちゃん)にそっくり!」」


小鳥「顔は全然違うのに不思議で」

P「いやぁ、やっぱりあの貪欲で猪突猛進な感じかな? 話し方まで似てて」

小鳥「なんですかそれ、ふふっ……おんなじこと思ってたなんて」

小鳥「……もしかして、私もプロデューサーになれちゃったり?」

P「どうでしょうかねぇ、プロデュース業は『似たもの探し』じゃありませんから」

小鳥「お、さすがプロデューサーさんっ」

P「はは……」

P「でも、似ててもやっぱりティンとこなかったですし、アイドルになるにはまだ」ヴヴーッ!

P「おっと、メール……」

小鳥「……」

P「あ」

小鳥「?」

P「噂をすれば……ほら」

小鳥「あ……」


 From 春香
 件名 イヴですよ、イヴ!

 千早ちゃん、真、雪歩とホームパーティ中(*^-^*)
 お鍋美味しそうでしょう? たべたいですか~?

P「言いつけ通り、楽しくやってくれてるみたいだな、うんうん」

小鳥「……春香ちゃんと、よくメールするんですか?」

P「ええ、たまにですけどね。ほとんどはこういう他愛のないことで」

小鳥「………」

P「でもなんだろう、ささいなことでもこんな風にメールをくれたりすると」

P「年甲斐もなく、うれしくなっちゃいますね……」

小鳥「ふふっ」


小鳥(不思議……)

小鳥(こういう時は、全然嫉妬したりしないものなのね……)

小鳥(プロデューサーさんの笑顔が、愛しい)

ヴヴーッ!


小鳥「! 私も……」パカッ


 From 響ちゃん
 件名 うがー

 ピヨ子たすけてくれ~!
 高級フランス料理ともやしとラーメン食べ放題の店しらないか!?
 貴音と伊織がケンカしちゃってやよいがちゅうさいで


小鳥「うふふっ、なんだかんだで楽しそうね」

P「うぇっ!? 今度は電話……もしもし律子?」

P「え、何? あずささんが!?」


P「えぇっとそういう時は水を飲ませてしばらく……」

P「ちょっ、亜美と真美を黙らせてくれ! うるさくて聞こえない!」


P「おい美希……お前酔っ払ってないよな?」


P「わかったわかった! それはまた今度な!」



小鳥「………」


小鳥「……あ」



「雪……」

P「ん? ……いや、律子がかしこまるなよ。こうしたいって言いだしたのは俺だろ?」

P「俺の方も終わったから大丈夫だよ、安心してくれ」

P「音無さん? 一応、今一緒だけど」

P「え!? ちがっ、誘ったわけじゃなくてたまたま……冷やかすなって!」

P「電話も別に平気だよ……わかった、伝えておく」

P「うん……メリークリスマス」


ピッ


小鳥「律子さんは何て……?」

P「その、『小鳥さんにまで押しつけるみたいになってごめんなさい』って」

小鳥「そんな……律子さんだってギリギリまで仕事してたはずなのに」

小鳥「それに私、こういう日に仕事するのだって慣れちゃってますから!」

P「……そ、そうですか」

小鳥「もう! 今のは笑うところですよ? プロデューサーさん」


小鳥(みんなと一緒にいると、少しさびしくなっちゃうのよね……)

小鳥(子供みたいだって、わかってるけど)


P「もともとは俺が言い出したことですし……」

P「でも、全員一緒にってわけにはいかなかったけど、楽しんでくれてるみたいでよかった」

小鳥「プロデューサーさんの念願、でしたものね」

小鳥「『せめてイヴの夜だけでも、アイドルの子たちに時間をあげたい』って」

P「ええ……なんだか寝ても覚めてもアイドルのことばっかりですね、俺」

小鳥「ふふっ、プロデューサーさんらしいと思います」

小鳥「……」

小鳥(年末は、疲れることばかりだけど)


P「彼女たちが幸せだと、疲れも吹っ飛んじゃいますよね?」


小鳥「! ……はい」 

P「お、またメール……春香からか」

ピッ


 From 春香
 件名 メリークリスマス!

 素敵なクリスマスをありがとうございます、プロデューサーさん!

P「っ」

P「~~~」



小鳥(プロデューサーさん)

小鳥(……あなたは、私と同じことに、幸せを感じてくれるんですね)

小鳥(涙もろいところまで一緒、だなんて……)


P「っ……」


小鳥(泣いていいんですよ)

小鳥(あなたのその涙は、とても貴いものなんですから)

小鳥(こうして、ずっとそばで分かち合いたいって思うくらいに……)

P「……アイドルたちのこともそうですけど」

小鳥「?」

P「俺は……」

P「こうして音無さんに会えて……俺はうれしいです」


小鳥「―――」


P「今日はもう会えないって思ってたから、楽しくて、うれしい」

小鳥「……」

P「な、なんて! はは……恥ずかしいですよね、こんなこと言われても」

小鳥「~~……」

P「音無さん?」

小鳥(私のほしかった言葉を……簡単にくれちゃうんだから)

小鳥「っ、なんでもないです。雪が目に入っちゃったかも」

小鳥(……なに今の台詞)

P「なんだか、ドラマみたいですね」

小鳥「……」

P「……」

小鳥「ぷっ」

P「ふふっ、あはは」

小鳥「もう、笑わせないでくださいよプロデューサーさんっ」

P「お、音無さんが先に言ったんじゃないですか……くふふっ」

P「あ……」

小鳥「……」


P(もう駅か……)


小鳥「今日は、ありがとうございました。たくさん、いろいろ」

小鳥「さっきの言葉……とってもうれしかったです」


P(まだ、一緒にいたい)

P(俺のつまらない言葉にも、そばで笑ってくれて)

P(音無さんと一緒にいると、安心して、ドキドキする)


小鳥「プロデューサーさんと話していると……すごく安心します」

P「え……」

小鳥「私の心を包んでくれるみたいで、すごく、あったかい」

小鳥「それで、その……」


小鳥「まだ……いっしょにいたいな、なんて……」


P「あ……」

P「お、俺も!」

小鳥「えっ?」

P「俺もちょうど! 音無さんと一緒にいたいなって!」

小鳥「ふふっ、なんだか今日は……気が合いますね?」

P「っ、はい! はは……」

小鳥「……こ、小鳥」


小鳥「『小鳥』って……呼んでくれて平気ですから……」




P「――小鳥さん、ついてきてください」

小鳥「で、でも」

P「こっちです、こっち」

小鳥「そっち、住宅街ですけど……?」

小鳥「……ここって」

P「たぶん音な……小鳥さんが思ってるので正解ですよ」


小鳥「すごい……神社ですか!?」


P「はい、ちーーっちゃいやつです」

小鳥「こんなところに神社があるだなんて知らなかった……」

小鳥「おうちと、おうちのあいだに……」

P「面白いでしょう?」

小鳥「ええ! なんだかわくわくしますね、秘密基地みたいで!」

P「あっ、足元に気をつけてくださいね、暗いですし!」

P「こうしてここで、密かにお参りするのが俺の中では恒例で」

小鳥「……」

P「大晦日は大晦日で忙しいですから……前借り初詣、みたいな」

小鳥「どうして私に……この場所を教えてくれたんですか?」

P「俺も小鳥さんといると、安心するから」

P「……」

小鳥「……」

P「お、お参りしましょうかっ、せっかくだし!///」

小鳥「そ、そそっ、そうですね、せっかくですから!///」

パン パン


P「……」

小鳥「……」


P「……小鳥さん、何をお願いしたんですか」

小鳥「……そういうプロデューサーさんは?」


P「こ、小鳥さんから先に言ってくださいよ」

小鳥「ぷ、プロデューサーさんが言ってくれたら考えてあげますぅー」

P「強情ですね」

小鳥「そっちこそ」

P「……俺は」

P「小鳥さんと、事務所の皆が、来年も健康に、幸福に過ごせますようにって……」

小鳥「………」

P「小鳥さん?」

小鳥「はい……小鳥ですよ?」

P「ちょっと、教えてくれるって」


小鳥「おんなじ」


P「え」

小鳥「おんなじですよー、ふふっ♪」

P「ははっ……」

小鳥「プロデューサーさーん」

P「なんですかー音無さん」

小鳥「……むっ! 違いますよ、小鳥です、小鳥!」


小鳥「プロデューサーさーん」

P「なんですかー小鳥さん」

小鳥「なんでもないでーす」

P「もう……」


小鳥「プロデューサーさーん」

P「なんですか小鳥さん」

小鳥「ちゅーしてもいいですかー?」

P「なっ!?」


小鳥「ふふ、冗談ですよ?」

P「このっ……」

小鳥「じゃあ、スキップしてもいいですか?」

P「どうしてですか……」

小鳥「何回も『小鳥』って呼んでくれるからうれしくなっちゃって……」

P「っ、酔っぱらってないですよね小鳥さん……って!!」

P「本当にスキップしたら危なっ――足元!」

小鳥「へ? ぁっ、きゃあっ!」ズルッ


P「――っ」

小鳥「プロデューサーさっ」



チュッ



P・小鳥「「!!??」」

小鳥「………」

P(い、今)

P(小鳥さんのくちびるが、かすめなかったか、俺の)

P(唇を……)


小鳥「……に」

小鳥「二回もコケちゃうなんて、おばさんねー、私……わたし……いま……」


P(……攻めてきたかと思ったら、引っこんじゃうんだもんな)

P「ほら、手、つかまってください」

ギュッ


小鳥「……」

P「小鳥さん、どこも痛めたりしてないですよね?」

小鳥「はい……」


サッ サッ

P「あ、ありがとうございます、肩に何かついてました?」

小鳥「……」

小鳥「雪……止んじゃいましたね、いつの間にか……」

P「そうですね……」

小鳥「ふふ、これじゃあケーキも完全にぐしゃぐしゃね……」

P「……」


P(もう少し、まだちょっとだけ)


小鳥(できるなら、もっと)


(……一緒にいたい)



小鳥「……もう、やっちゃいましょうか、プロデューサーさん」


P「え!?」

・・・



小鳥「わぁっ! すごい懐かしい~、こうして中に入るの久しぶり!」

小鳥「見てくださいプロデューサーさん、ブランコ、あっ、あっちにジャングルジム!」


P(小鳥さんが『やっちゃおう』と言い出したのは)

P(どうやらクリスマスパーティのことだったらしく)


P「もう遅いんですから騒がないでくださいよー」


P(やってきたのは近場の、これまた小さな公園)


小鳥「……わかってますよぅ、最初だけです。まったくブスイですねープロデューサー君は」

P「またコケられたりしたら大変ですから」

小鳥「その時はあなたが支えてくれますよねー?」

P「ぐっ」

小鳥「ふふん」



小鳥「それじゃ、ケーキの箱はそっちに置いて……うひゃぁあ、ベンチつめたぁ~」

P「大丈夫ですかね、通報とかされませんかね」

小鳥「だぁーいじょうぶですって! 二人でひっそりやってるだけじゃないですかぁ」

小鳥「サツにパクられそうになったらダッシュですよ」

P「……」

小鳥「フォークを出して……飲み物は持ちました?」

P「いつもの安い缶ビールなら……あの」

小鳥「?」

P「この手は……」

小鳥「……」

P「握ったままでいいですよね?」

小鳥「!」

小鳥「……はい……おねがいします……」


P(結局、神社を出てからここまで)

P(途中コンビニでいろいろと調達しているあいだも)

P(俺たちはずっと、手を握ったままだった)


P(手を離した方が効率がいいのに、二人でぎこちなく準備を進めて)


P「乾杯……」

小鳥「ふふっ、かんぱーい」

小鳥「プロデューサーさんはどんなケーキを買ったんですか?」

P「俺は昔から、クリスマスに食べるケーキは一つに決まってるんです」

小鳥「おっ、奇遇ですねえ私もですよ! これ以外は邪道ですもん!」

P「……」

小鳥「……」


P・小鳥「「せぇーーのっ!」」

バッ


P「……あ」

小鳥「やっぱり、いちごのショート」

P「ふふっ、はは……」

小鳥「うふふっ」

P(夢のような時間だった)

P(この一年のこととか、仕事や家族のこと、いろいろな話をした)


小鳥「それでヒドいんですよウチの親! そろそろ勝負決めないと行き遅れるだとか」

P「あーウチも似たようなもんですよ、今日なんか朝に電話してきて『イヴだけど』とか遠回しに」


・・・


P「ちょっそれ、俺のイチゴ!」

小鳥「へっへーん、油断大敵」

P「太りますよ?」

小鳥「プロデューサーさんキライですだいっきらい!」


・・・


小鳥「うぷ、吐きそう……」

P「嘘だろぉっ!?」

すまん なんかID変わってる

小鳥「くしゅんっ」

P「……やっぱり、そうなりますよね」

小鳥「うぅ……」ズズッ


P(それでも話題は徐々に尽きて)

P(騙しだまし耐えていた寒さも、限界に近づいて)


P「小鳥さん、そろそろ……」

小鳥「……」

小鳥「私、こんなに楽しいクリスマス、初めてです」

小鳥「誰かと一緒に過ごすこの日が、こんなにうれしいだなんて知らなかった」

P「小鳥さん……」

小鳥「今日は二回もずっこけちゃいましたけど」

小鳥「これ……新しいヒールなんです」

P「……」

小鳥「いっつも、毎年、何かが起こるかもって思って、期待して家を出るんです」

小鳥「口では『クリスマスなんて』って言っておきながら、内心では少しウキウキして」

小鳥「それで何も起こらなかったら、勝手に落胆して」


小鳥「……でも、それも今日までの話なんです」


小鳥「プロデューサーさんが、私のクリスマス、塗りかえちゃったんです」

小鳥「責任、取ってください」

小鳥「私にこんなに楽しい思いをさせた責任、取ってください……」


小鳥「プロデューサーさん」


小鳥「プロデューサーさんっ……」


P「……」

P「俺が、毎年クリスマスの日に思うのは」

P「たくさんの人たちのことです」

P「通りですれ違う、イルミネーションに照らされた、たくさんの人たち」

P「それぞれにとってのクリスマスがあって、でもそれが交わる確率はわずかで」

P「つまり、その……」

P「今日、小鳥さんに会えてうれしかった」

P「ほかの誰でもない、あなたと一緒にこの日をすごせて、これ以上ないくらい幸せでした」

小鳥「―――」


P「小鳥さん、手を出してください」

小鳥「え……?」

P「クリスマスプレゼントです」

小鳥「これって……」

P「……」

小鳥「クッキー?」

P「今日、小鳥さんと出会ったケーキ屋が、カップル限定キャンペーンっていうのをやってたみたいで」

P「それであの店員の子、俺たちがカップルだって勘違いしたらしくて」

P「そのクッキーが袋の中に……」

小鳥「……」

P「おみくじクッキー。クッキーの中に、運勢を書いた紙が入ってるものなんですけど」

P「小鳥さん」

小鳥「……はい」

P「もし、その運勢がとびっきりいいものだったら、俺と付き合ってくれませんか」


小鳥「……」


小鳥「もし、いいものじゃなかったら」


P「その場合は……」

P「えぇと」



P「俺と交際してくれませんか……とか」



小鳥「~~~っ」

P(我ながらキザすぎたかもしれないな、とか)


P(こういうのに入ってるのなんて大抵、大吉だろとか)


P(その時はごちゃごちゃ考えてたかもしれないけど)


P「……っ」

小鳥「ぷはぁっ、はぁ……」


P(唇を覆った小鳥さんの感触が、全部吹き飛ばしてしまった)


P「……なんだか、ドラマみたいだ」

小鳥「言いたいことはそれだけですかっ?」

P「先に言わせてしまって、すみませんでした」

小鳥「それだけっ?」


P「大好きです、小鳥さん」

小鳥「わたしもですよぉっ、ばかぁっ!!」

小鳥「んぅ……」

P「っは……」


小鳥「すきです、大好きですプロデューサーさんっ」

P「俺も、あなたが好きです小鳥さん」

小鳥「ずっと……ずっと前からあなたのことを想っていました」

P「俺だって、ずっと」

小鳥「これからもそばにいてくださいね……」

小鳥「絶対ですよ、ぜったい……」

P「約束します、小鳥さん」


小鳥「さっきの、神社みたいなのじゃ……足りませんから」

小鳥「もっと、キスしてください……」

P「あ……」

小鳥「?」

P「日付、変わっちゃいましたね……」

小鳥「……ふふっ」

P「はは……」


P「言い忘れてたけど……」


P「メリークリスマス、小鳥さん」

小鳥「メリークリスマス、プロデューサーさんっ」

・・・





P(こうして)

P(聖なる夜、俺と音無さんは……恋人どうしになった)


「プロデューサーさんっ」


P「あ……」

小鳥「ど、どうですかね……」

P「……すごく似合ってます……私服も」

小鳥「うふふっ」

小鳥「そのクッキー……結局、食べませんでしたね」

P「ええ……」

小鳥「じーっと見つめてましたけど、何か考えごとですか?」

P「ええ……って! 見てたんなら声かけてくださいよ!」

小鳥「ふふ、真剣な眼差しがかっこよかったので」

P「まったく……」


小鳥「あの……」

小鳥「確かめてみますか? 中身の運勢」

P「そうしてみたい気持ちも山々ですけど」


P「もう、俺たちには必要ないかなって」

小鳥「ええ……そうですねっっ」


P(あの夜、俺たちを結び付けてくれた、いくつもの運命には感謝をしているけど)

P(夜は終わって、日が昇った)

P(俺たちはもう、気持ちを確かめ合ったのだから)


小鳥「お守りにして取っておくとか?」

P「腐っちゃいますって!」

小鳥「それで、プロデューサーさんっ、今日はどこに連れて行ってくれるんですかー?」

P「甘えてはダメです、一緒に考えましょう」

小鳥「えぇっ!? ま、まあ……プロデューサーさんと一緒ならどこでも……」

P「ぶっちゃけ昨日今日で考えられなかっただけです」

小鳥「ぶっちゃけすぎですよぅっ!」


P(先のことはまだわからない)

P(でも、とりあえず今日……聖なる夜の次の日)


P(俺と小鳥さんは……これからデートだ)






                                                おしまい

読んでくれた方、支援してくれた方ありがとうございました
クッキーは俺が紙ごとまとめて嚥下しました

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