シンジ「アスカの噛み癖がなおらない」(243)
シンジ「アスカ、それやめなよ」
アスカ「それってなによ」
シンジ「だから、爪を噛むの」
アスカ「噛んでないわよ」
シンジ「自分の爪見てみろよ。ボロボロじゃないか」
アスカ「……別にいいじゃない」
シンジ「よくないよ」
アスカ「うっさいわね。大体、どうしてアンタに指図されなきゃいけないの?」
シンジ「指図って、僕はそんなつもりじゃ……」
アスカ「ちょっとシンクロテストで良い結果残したからって、調子に乗ってんじゃないわよ」
シンジ「テストのことは今関係ないだろ」
アスカ「どーだか? 優位性を手に入れて、少しも浮かれてないって本当に言い切れる?」
シンジ「それは……」
アスカ「ま、シンジ様は、ミサトも認めたナンバーワンだもんね。私なんかが刃向っちゃいけないわね」
シンジ「……アスカが、勝手に僻んでるだけだろ」ボソッ
アスカ「は?」
シンジ「……」
アスカ「今、なんつったのよ」
アスカ「私が、どうしてバカシンジなんかに僻まなきゃいけないわけ?」
シンジ「……だって、そうじゃないか。僕がテストでアスカを上回ってから、辛辣な態度を取るようになったし」
アスカ「私は変わってない!」
シンジ「爪を噛むようになったのだって、それくらいからだろ」
アスカ「……」
シンジ「八つ当たりするにしても、自分を傷つけないような、もっと賢い方法を選びなよ」
アスカ「……偉そうに言わないでよ」
シンジ「まぁ、そうだよね。アスカは人の言うことなんて聞かないよ」
アスカ「……」
シンジ「そうやって、意固地になって、僕に負け続けるんだろうけど」
アスカ「―――っ!!」
アスカ「っさいのよ!」
バキッ!!
シンジ「……っ!! なにすんだよ!!」
アスカ「うざったいことばっか言うからでしょ!」
シンジ「先に喧嘩売ってきたのはそっちの方だろ!」
アスカ「口出したのはそっちが先!」
シンジ「だからって、殴ることないだろ!」
アスカ「口で言って分かんないバカにお仕置きしてやってんのよ!!」
シンジ「この……!」
ガシッ!!
アスカ「きゃっ!」
アスカ「離してよ!」
シンジ「嫌だ!」
アスカ「どき……な、さいよ……!!」グググ
シンジ「い……や、だ……!!」グググ
アスカ「ぐ、う゛ううう……」グググ
シンジ「単純な腕力なら、僕の方が上だよ」
アスカ「こ……この、この……!!」
アスカ「バカシンジぃいいいいいいいいっっ!!」ガブッ
シンジ「―――い、いたぁああああああああああ!!」
ガチャッ
ミサト「ただいまー」
ミサト「ふいー、ちょっち遅くなっちゃったわね」
ミサト「ま、仕事で疲れてても、ご飯とお風呂ですぐにリフレッシュ出来るけど」
ミサト「今日のご飯はなにかなー」
ギャーギャー!!
ドタバタ!!
ミサト「ん?」
ミサト「なんか、騒がしいわね……?」
シンジ「いた、いたたたたたたた!!」
アスカ「ぐぎぎぎぎぎぎぎ」ガブガブ
シンジ「やめて! 噛むのをやめてよ、アスカ!!」
アスカ「ひや!」
シンジ「そんなぁ」
アスカ「まふは、あやはりなはい」
シンジ「ごめん! ごめんなさい!」
アスカ「もっほ!!」
シンジ「ごめんなさい! ごめんなさい! もう口出ししないからやめてお願い!!」
アスカ「……ゆるはない」ガブッ
シンジ「ぎゃあああああああああああっっ!!」
ミサト「―――で、なにが原因であんなことになってたわけ?」
シンジ「……」
アスカ「……」
ミサト「ちょっと、黙ってちゃわからないでしょ」
シンジ「……アスカがいけないんだ」
アスカ「はぁ!?」
シンジ「だって、そうじゃないか」
アスカ「アンタ、まだ噛まれたりないのね?」
シンジ「噛むなって言ってるだろ!」
ミサト「ふ! た! り! と! も!!」
シンジ「……」
アスカ「……」
ミサト「まぁ、思春期だし、仲違いをすることもあるだろうし」
ミサト「喧嘩が必要な時もあるでしょうから、するなとは言わないわ」
ミサト「でもね、暴力はダメ」
ミサト「男の子が女の子に暴力を振るうなんて、もっての外だし」
ミサト「それを利用して、女の子が男の子を一方的に責めるのもダメ」
ミサト「いい? 二人とも?」
シンジ「はい……」
アスカ「……」
ミサト「アスカは?」
アスカ「……」
アスカ「男だとか、女だとか……くだらない」ボソッ
ミサト「アスカ!」
アスカ「うるさい! 私は悪くない!」
ミサト「うるさいって、アンタねぇ!」
アスカ「知らない知らない知らない! ママでもないくせに、偉そうに説教しないで!!」
ミサト「……!」
アスカ「ふんっ!」スタスタ
ミサト「……」
シンジ「……」
ミサト「……」
シンジ「……」
ミサト「……やっちゃったかしら?」
シンジ「い、いえ、ミサトさんは正しいと思います」
ミサト「だと良いんだけど」
シンジ「むしろ、やっちゃったのは僕の方です」
ミサト「え?」
シンジ「アスカがテストで僕に負けたことを気にしてるのは分かってたのに、神経を逆なでするようなことを言っちゃって」
ミサト「あー。なるほど、それで……」
ミサト「でも、同情なんてしたら、アスカはもっと怒るわよ」
シンジ「……そうですかね」
ミサト「ええ」
シンジ「難しいな、人って」
ミサト「シンジ君はまだ中学生だもの。これから分かっていくようになるわ」
シンジ「大人になれば、分かるものですか?」
ミサト「ほんの少し、だけどね」
シンジ「その程度ですか」
ミサト「まぁね。でも、一つだけ言えることは」
シンジ「?」
ミサト「相手のことを分かりたいと思う心は、大事よ」
シンジ「……なるほど」
―――夜、シンジの部屋
シンジ(ミサトさんの言っていた言葉)
シンジ(相手のことを分かりたいと思う心)
シンジ(僕は、アスカのことを分かりたいのかな)
シンジ(……)
シンジ(そんな気もするけど)
シンジ(でも、それよりも)
シンジ(僕は、分かってもらいたいんじゃないのかな……)
シンジ(まぁ、いいや)
シンジ(もう、寝ないと)
シンジ(……)
―――ガラッ
シンジ(……!)
ヒタヒタ
シンジ(だ、誰?)
シンジ(ミサトさん?)
シンジ(いや……これは……)
シンジ(アスカだ)
アスカ「……」
シンジ(なにしに来たんだろう)
アスカ「……」
シンジ(謝りに来たのかな?)
アスカ「……」
シンジ(いや、アスカに限って、そんなことないか)
シンジ(どうしたんだろう)
アスカ「……」
シンジ(あ、近づい……)
アスカ「あーん」
ガブッ!!
シンジ「〇×△□!?」
シンジ「ぎ、ぎゃぁああああああ―――!」
アスカ「騒ぐな」ガバッ
シンジ「―――っ!」モガッ
アスカ「なによ、寝たふりだったの?」
シンジ「……!」モガモガ
アスカ「起きてるなら、起きてるって言いなさいよ」
シンジ「……!」モガモガ
アスカ「あ、口抑えてたら喋れないか」パッ
シンジ「―――ぷはっ。な、なにすんだよ!」
アスカ「叫ぶから」
シンジ「そうじゃないよ! なんで噛んだんだよ!!」
アスカ「……」
シンジ「さっきの続きのつもり!?」
アスカ「別に、そういうわけじゃないけど」
シンジ「じゃあ、なんなんだよ!」
アスカ「……」
アスカ「ねぇ、シンジ」
シンジ「なんだよ!」
アスカ「アンタさぁ、私が爪噛むの、やめさせたいんでしょ?」
シンジ「……え?」
アスカ「どうなの?」
シンジ「それは……まぁ、そうだけど……」
アスカ「じゃあ、代わりにアンタのこと、噛ませてよ」
シンジ「は、はぁ!?」
アスカ「駄目なの?」
シンジ「……駄目に決まってるだろ、そんなの」
アスカ「あっそ、じゃあいいわ」スッ
シンジ「あ、ちょっと待ってよ!」
アスカ「なによ」
シンジ「いや、その」
アスカ「はっきり言いなさいよ」
シンジ「……本当に、爪を噛むのやめてくれるの?」
アスカ「保証は出来ないけど」
シンジ「ええー」
アスカ「噛ませてくれる気になったの?」
シンジ「……ちょっとくらいなら、まぁ」
アスカ「ちょっとなら、意味ないわ」
シンジ「え、どれくらい噛む気なんだよ」
アスカ「目一杯」
シンジ「そんなに……?」
アスカ「だから、嫌ならいいって言ってんでしょ」
シンジ「……」
シンジ「わ、分かったよ。じゃあ噛んでいいよ!」
アスカ「ほんと?」
シンジ「うん」
アスカ「ふーん……じゃ、遠慮なく」
シンジ「あ、待ってよ!」
アスカ「なに?」
シンジ「どこを噛む気?」
アスカ「……首筋とか?」
シンジ「そ、それはちょっと。痕が目立っちゃいそうだし」
アスカ「どこならいいのよ」
シンジ「えーと……腕とかでもいいの?」
アスカ「構わないけど」
シンジ「あ、なら腕に……ね」
アスカ「じゃ、ほら出して」
シンジ「うん」
アスカ「言っておくけど、本当に思いっきり噛むわよ?」
シンジ「……お手柔らかにお願いしたいけど」
アスカ「ムリ」
シンジ「……ならいいよ、遠慮なくやってよ」
アスカ「わかった、それならいくわよ」
シンジ「……」
アスカ「あーん」
ガブッ
シンジ「……っ!」
シンジ「う゛……」
アスカ「……」
シンジ「ぐ、うう……」
アスカ「……」
シンジ「すーっ、ふーっ……」
アスカ「……」
シンジ「はぁっ、はぁっ……」
アスカ「……」
アスカ「んあっ」パッ
シンジ「つっ……もういいの?」
アスカ「顎が疲れた」
シンジ「そっか」
アスカ「……歯型、ついちゃったわね」
シンジ「歯型くらいならまだいいけど、血が滲んでる」
アスカ「痛い?」
シンジ「そりゃ、すごく痛いよ」
アスカ「そうよね」
シンジ「それで、アスカは?」
アスカ「私がどうかした?」
シンジ「いや……えーと、もう爪を噛まないで済みそう?」
アスカ「ダメだと思う」
シンジ「えっ」
アスカ「あれは癖みたいなもんだもん」
シンジ「ええー……じゃあ、なんで僕を噛んだんだよ」
アスカ「……さっき、喧嘩してるとき」
シンジ「?」
アスカ「シンジのこと、噛んだでしょ。あの時に、ちょっとだけ胸がスッとしたの」
シンジ「どうして?」
アスカ「分かんない」
シンジ「なんだよ、それ」
アスカ「だから、確かめに来たのよ」
シンジ「……ああ、そう」
シンジ「それで、今噛んでどうだったの?」
アスカ「ちょっと良かった」
シンジ「そっか」
アスカ「でも、爪を噛むのは……直らないと思う」
シンジ「まぁ、癖なら、しょうがないかもね」
アスカ「……」
シンジ「あ、じゃあさぁ」
アスカ「なに?」
シンジ「定期的に、僕のことを噛むようにすれば、直るんじゃない?」
アスカ「はぁ?」
シンジ「え、なにか変なこと言ったかな?」
アスカ「だって、そうでしょ。それって、これから先、私が何回も噛むってことなのよ?」
シンジ「うん」
アスカ「アンタって、実はそういう趣味の人?」
シンジ「……? ……あ、ち、違うよ! 僕に被虐的趣味はないよ!」
アスカ「ほんとにぃ?」
シンジ「ほんとだよ! 僕はただ、アスカに……」
アスカ「私に?」
シンジ「その、それくらいで悪い癖が直るなら、別にいいかなって……」
アスカ「……」
アスカ「本気で言ってるのよね?」
シンジ「もちろん」
アスカ「直らなかったら、ずっと噛み続けるわよ?」
シンジ「直るまで、噛んでていいよ」
アスカ「……あっそ」
シンジ「うん」
アスカ「……」
シンジ「……」
アスカ「私、部屋に戻るわ」
シンジ「えっ?」
アスカ「……明日も、これくらいの時間に来るから」
シンジ「……! う、うん」
アスカ「じゃあ……おやすみ」
シンジ「おやすみ」
―――NERV本部
ミサト「それで、今日のシンクロテストもシンジ君が一番だったわけだけど」
アスカ「……」
シンジ「……」
綾波「……」
ミサト「まぁ、他の二人も安定しているから、このままの調子で―――」
アスカ「ミサト」
ミサト「ど、どうかした、アスカ?」
アスカ「なぁーに、気を遣っちゃってくれてんの?」
ミサト「……え?」
アスカ「発破かけたらいいじゃない。シンジみたいにぐんぐんシンクロ率を伸ばしなさいって」
ミサト「……」
アスカ「それとも、私やファーストには無理だって言いたいわけ?」
ミサト「そ、そんなこと言ってないでしょ!」
アスカ「あったりまえよ! この私を誰だと思ってんの?」
ミサト「……」
アスカ「バカシンジも! いつまでもトップでいられると思わないでよね!」
シンジ「うん」
アスカ「ファーストも、なんか言ってやりなさいよ」
綾波「私は特になにも」
アスカ「相っ変わらず、つまんないやつー」
綾波「……」
アスカ「じゃ、私は着替えさせてもらうから」
ミサト「え、ええ」
アスカ「おっさきー」スタスタ
プシュー
ミサト「……」
シンジ「……」
綾波「……」
ミサト「シンジ君」
シンジ「はい?」
ミサト「あの様子はどういうことだと思う?」
シンジ「……」
ミサト「ちょっと前までは、明らかにシンジ君に抜かれているのを悔しがってたように見えたけど」
シンジ「そうですね」
ミサト「今日は、そんな焦燥、微塵も感じさせなかったわね」
シンジ「そうですね」
ミサト「まぁ、かと言って闘争心を失くしたわけでもなさそうだし、良い傾向なんだろうけど……」
シンジ「そうですね」
ミサト「アスカが、ああいう風になった理由、シンジ君はなにか知ってるんじゃないの?」
シンジ「……」
シンジ「僕は、なにも知りませんよ」
ミサト「本当に?」
シンジ「はい」
ミサト「……レイは、なにか知ってる?」
綾波「いいえ」
ミサト「まぁ、同居人の私たちが知らないくらいだもんね」
綾波「……」
ミサト「一体、どうしてなのかしら……」
シンジ「……」
シンジ「そんなに深く悩む必要ないですよ」
ミサト「えっ?」
シンジ「アスカが気力を取り戻してくれて、苛立ってもいないなら、それが一番じゃないですか」
ミサト「そうだけど……」
シンジ「きっと、なにか良いストレス解消法でも見つけたんですよ」
ミサト「ストレス解消、ねぇ……」
シンジ「綾波も、そう思うよね?」
綾波「ええ、碇君がそう言うなら」
シンジ「あはは、そっか」
ミサト「…………」
―――夜、シンジの部屋
シンジ「つっ……」
アスカ「……」
シンジ「ううっ……」
アスカ「……」
シンジ「はぁ、はぁっ……」
アスカ「……」
シンジ「ぐっ、う゛ううう……」
アスカ「……」
アスカ「んあっ……アンタ、生意気」
シンジ「え……?」
アスカ「なんで、順調にシンクロ率伸ばしてるのよ」
シンジ「それは……しょうがないだろ」
アスカ「私のこと、見下してるんでしょ」
シンジ「するわけないだろ」
アスカ「どーだか」
シンジ「ほんとだよ……」
アスカ「……」ガブッ
シンジ「うぐっ……!」
アスカ「……ひはい?」
シンジ「決まってるだろ」
アスカ「はえないほのなのね」
シンジ「こんなの、慣れるわけないじゃないか」
アスカ「ふーん……んっ」パッ
シンジ「あれ、もういいの?」
アスカ「ねぇ、バカシンジ」
シンジ「なに?」
アスカ「服、脱いでよ」
シンジ「……え?」
アスカ「腕だけじゃ物足りない」
アスカ「体中を噛んでやる」
アスカ「体中に、歯型をつけて」
アスカ「人前じゃ、絶対に服を脱げないような醜い体にしてやるわ」
アスカ「どう、嬉しい?」
シンジ「……そんなの、全然嬉しくないよ」
アスカ「じゃあ、断るの?」
シンジ「……」
アスカ「ほら、さっさと脱ぎなさいよ」
シンジ「……うん」
シンジ「……」パサッ
アスカ「貧相な体してるわね」
シンジ「……普通だよ」
アスカ「そうね、ちゃんと筋肉はあるし」ツツー
シンジ「……」
アスカ「肌は白くて、贅肉はほとんどない」
シンジ「……」
アスカ「貧相だけど、そこそこ良い体してるじゃない」サワサワ
シンジ「……」
アスカ「こういう体を汚せると思うと、少し興奮するわ」
シンジ「……そういう趣味があるのは、アスカの方じゃないか」
アスカ「私に嗜虐的趣味があるって言いたいの?」
シンジ「うん」
アスカ「残念。私のはちょっと違うわ」
シンジ「……どういうこと?」
アスカ「さぁ、自分で考えなさいよ」
シンジ「分かんないから、聞いてるんじゃないか」
アスカ「なら、一生分からないままでいれば?」
シンジ「そんな……」
アスカ「もう、黙って」
ガブッ
シンジ「……っ!!」
―――数週間後、居酒屋
ミサト「ぷっはー、このために生きてるぅ!」
リツコ「親父臭いわね」
ミサト「いやねー、まだまだピチピチよ、ピッチピチ!」
リツコ「痛々しいわね」
ミサト「ちょっと……真面目に突っ込むのやめてよ」
リツコ「もしかして、現実逃避してた?」
ミサト「そらー、もうすぐ三十路を迎えると思うと、現実を否定したくもなるわよ」
リツコ「あなた、私の年齢、知ってて言ってるのよね……?」
ミサト「……あ。ご、ごめーん」
リツコ「はぁ……別にいいけれど」
ミサト「でも、最近は本当に良い調子で、お酒も美味しくなるってものよ」
リツコ「なにが?」
ミサト「なにがって……全部?」
リツコ「だから、それを詳しく聞かせて」
ミサト「もー、シンジ君たちのことに決まってるでしょ?」
リツコ「……ああ」
ミサト「シンクロテストは三人とも安定して上昇傾向! 怖いくらい!」
リツコ「一時期は、伸び悩んでいたものね。特にアスカが」
ミサト「そうなのよねー。もう、最近のアスカときたら!」
リツコ「なにかあったの?」
ミサト「なんていうか……すごく良い子になったっていうか」
リツコ「良い子?」
ミサト「あー、良い子って言うのはちょっと違うわね……落ち着いたって言えばいいのかしら」
リツコ「ふーん」
ミサト「シンジ君と無暗に衝突することもなくなったし、指令にも素直に従うし」
リツコ「そう」
ミサト「……ちょっと前の、あの子の爪……見た?」
リツコ「いいえ。どうかしたの?」
ミサト「ボロボロだったのよ。たぶん、ストレスで爪を噛んでたんでしょうけど」
リツコ「……」
ミサト「今はそういうのも無くなったみたいだし、ほんと順風満帆だわ」
リツコ「……」
ミサト「今日も、珍しくリツコの方から飲みに誘ってくれたし。お酒も美味しくなるってものよ」
リツコ「……」
ミサト「……? ちょっと、さっきからどうかしたの?」
リツコ「ミサト」
ミサト「なーにー?」グビグビ
リツコ「シンジ君の裸って、見たことある?」
ミサト「―――ぶふぉっ!」
ミサト「リ、リツコ、いつの間にそんな趣味に目覚めちゃってたの!?」
リツコ「……私は、真面目に聞いてるの」フキフキ
ミサト「そうなの?」
リツコ「ええ」
ミサト「まぁ、そりゃ一緒に住んでるわけだし、不可抗力で見たことがないとは言わないけど」
リツコ「最後に見たのは?」
ミサト「んー……でも、アスカが越して来る前とかになるんじゃないかしら」
リツコ「最近は?」
ミサト「全くないわ」
リツコ「そう」
ミサト「シンジ君の体がどうかしたの?」
リツコ「私はチルドレンの健康管理も仕事の内だから、体を見ることもあるのだけれど」
ミサト「……ま、まさか、病気とか!?」
リツコ「いいえ」
ミサト「……じゃあ、怪我を隠していたとか?」
リツコ「怪我といえば怪我なのかもしれないわね」
ミサト「どういう意味……?」
リツコ「いい? あの子の体にはね―――」
ミサト「―――え?」
―――ミサトの家
ミサト「ただいま」
シンジ「あ、お帰りなさい。ミサトさん」
ミサト「ええ」
シンジ「ご飯は食べてきたんですよね?」
ミサト「ええ」
シンジ「そうですか。でも、もし小腹が空いたようなら、冷蔵庫に残りがあるんで、温めますけど?」
ミサト「いらないわ」
シンジ「そっか。分かりました」
ミサト「……」
ミサト「……ねぇ、アスカは?」
シンジ「部屋にいると思いますけど」
ミサト「そう」
シンジ「あの、どうかしたんですか?」
ミサト「シンジ君」
シンジ「はい?」
ミサト「話があるから、私の部屋に来てちょうだい」
シンジ「え? でも、まだ片付けが終わって」
ミサト「―――いいから! 今すぐ!」
シンジ「は、はい!」ビクッ
―――ミサトの部屋
シンジ「あの、なんでしょうか?」
ミサト「……」
シンジ「どうして、僕だけ……?」
ミサト「シンジ君」
シンジ「はい」
ミサト「服を、脱いでくれる?」
シンジ「……!」
シンジ「……」
ミサト「どうしたの?」
シンジ「脱げません」
ミサト「どうして?」
シンジ「だって、そんな……普通、脱げるわけないじゃないですか」
ミサト「どうして?」
シンジ「恥ずかしい、ですし」
ミサト「……」
シンジ「ミサトさん」
ミサト「……脱げないのは、本当に恥ずかしいから?」
シンジ「!」
ミサト「そうでないなら、四の五の言わずに脱ぎなさい」
シンジ「……」
シンジ「……」パサッ
ミサト「―――!」
ミサト「本当に、こんな状態になっていたのね」
シンジ「……」
ミサト「体中、歯型だらけ」
シンジ「……」
ミサト「人前で、脱げるわけないわよね」
シンジ「……」
ミサト「こんな……痛々しい」
ミサト「やったのは、アスカ?」
シンジ「違います」
ミサト「嘘言わないで」
シンジ「……そうです」
ミサト「やっぱり」
シンジ「……」
ミサト「これは、保護者として、どうしても聞いておかなくてはならないのだけれど」
シンジ「はい」
ミサト「その……二人は、性交渉を行っているの?」
シンジ「……いいえ、アスカと僕は、そういう関係じゃありません」
ミサト「そう……まぁ、だからといって、事態が好転するわけではないわね」
シンジ「……」
ミサト「その……二人は、性交渉を行っているの?」
俺「はい」
ミサト「何故、そうなってしまったの?」
シンジ「……」
ミサト「アスカが、無理やり?」
シンジ「違います」
ミサト「同意の上?」
シンジ「はい」
ミサト「アスカにも後で話を聞くとして、まずはシンジ君に聞くけれど」
シンジ「はい」
ミサト「どうして、こんなことを許しているの?」
シンジ「……」
ミサト「そんなの、痛いだけでしょ? ……それとも、他のなにかがあるの?」
シンジ「……」
シンジ「……たしかに、痛いですよ」
シンジ「痕になるくらい強く噛まれてるんだから、当り前ですよね」
シンジ「でも、この歯型だけじゃ、ミサトさんには分からないと思いますけど……」
シンジ「僕に噛みついている間……アスカは、僕だけのことを見てくれるんです」
シンジ「すごく近くで、一つになりそうなくらい、近くにいるんです」
シンジ「……」
シンジ「僕は、人といるのが怖いです」
シンジ「でも、それくらい近くにいると、今度は安心するんです」
シンジ「体温が、呼吸が、鼓動が……痛みが、安心するんです」
シンジ「この歯型がある限り、僕はずっと、その安心を手に入れられるんです」
シンジ「だから、僕は……」
ミサト「……シンジ君、それは」
シンジ「間違ってるって言うんですか?」
ミサト「!」
シンジ「間違っていても、良いじゃないですか。歪んでいても、良いじゃないですか」
ミサト「……」
シンジ「僕は安心出来ればいいんだ。だって、自分を守るだけで精一杯なんだから」
ミサト「……」
シンジ「エヴァの訓練も、普段の生活も、今まで以上に頑張ります。絶対に不覚を取ったりしません」
ミサト「……」
シンジ「だから、僕から、この痕を……奪わないでください……」
ミサト「……」
―――アスカの部屋
ミサト「……私がこの部屋に来た理由、分かる?」
アスカ「しかめっ面して。皺になるわよ」
ミサト「アスカ」
アスカ「分かってるわよ、バカシンジのことでしょ?」
ミサト「!」
アスカ「あーあ、ついにバレちゃったか……いずれはそうなると思ってたけど」
ミサト「……」
アスカ「で、なんで私だけなの? シンジは被害者だと思ってるわけ?」
ミサト「……いいえ、シンジ君には先に話を済ませました」
アスカ「ふーん。で、なんて?」
ミサト「……」
アスカ「その顔から察するに、あまり芳しい成果は得られなかったようね」
ミサト「……」
アスカ「バカシンジすら説得できないのに、私に説教なんて、するだけ無駄なんじゃない?」
ミサト「そうね。だから、私は話を聞きに来ただけ」
アスカ「へぇ?」
ミサト「シンジ君が何故、されるがままになっているのかは聞いた」
アスカ「……」
ミサト「今度は、何故、アスカがそんなことをしているのかを、聞きに来たのよ」
アスカ「……まぁいいわ。じゃあ、話してあげる」
アスカ「最初はね、単なる八つ当たり」
アスカ「思いっきり噛みついて、傷つけて……それだけでちょっと楽しかったわね」
アスカ「でも、途中から変わってきたわ」
アスカ「……」
アスカ「あのね、私、シンジのことが大っ嫌いなの」
アスカ「ウジウジしてるところとか、ムッツリスケベなところとか、シンクロテストで私を上回るところとか」
アスカ「優しそうな声とか、女の子みたいで綺麗な顔とか、頭を撫でられたくなるような手とか」
アスカ「そういうのがね、ぜーんぶ! 大っ嫌いなの!」
アスカ「でもね。アイツは、私がそんな風に思ってるにも関わらず」
アスカ「酷いことされているにも関わらず」
アスカ「思いっきり噛んだ後、口を離すとね……すごく寂しそうな顔をするのよ?」
アスカ「ふふっ……ほんと、気持ち悪いわ」
アスカ「シンジはちょっと変な子なの」
アスカ「頭のネジが何本か無くなっちゃってるのね」
アスカ「……そんなバカを、許してあげられるのは、私だけ」
アスカ「そして、シンジも、それを求めてる」
アスカ「だからね、私のものだって分からせるために、体に印をつけてあげてるの」
アスカ「あの体中の歯型の一つ一つが、私のものだって証明するための印なのよ」
アスカ「あんな醜い体を見れば、もう誰もシンジを欲しがらないでしょ?」
アスカ「私だけ、私だけのものなのよ」
アスカ「だから、私は……」
アスカ「……話は以上。納得できた?」
ミサト「ええ、でも」
アスカ「間違ってるって、言いたい?」
ミサト「……」
アスカ「間違ってるなんて、なんでミサトが言うの? 他人が決めつけるの?」
ミサト「……」
アスカ「私のことを決めていいのは私だけ。あるいは、私とシンジだけ」
ミサト「……」
アスカ「もしも私からシンジを奪う気なら……シンジから私を奪う気なら」
ミサト「……」
アスカ「―――相手がミサトでも、殺すわよ?」
―――NERV本部
リツコ「……そう。二人はそんな風に言っていたのね」
ミサト「ええ」
リツコ「共依存という言葉が相応しいかしら」
ミサト「そうね」
リツコ「保護者なら、ちゃんと叱ってあげるべきではなくて?」
ミサト「私に、あの子たちを叱る権利はないわ」
リツコ「どうして?」
ミサト「だって……昔の私と、同じだもの」
リツコ「……!」
リツコ「そう、重ねてしまったのね。自分と、あの子たちを」
ミサト「ええ。……似ていると思った時には、もう何も言えなくなっていた」
リツコ「しょうがないわ。トラウマのようなものですもの」
ミサト「それにね」
リツコ「なに?」
ミサト「……」
リツコ「ミサト?」
ミサト「……リツコは前に言ったわよね。依存は、病だって」
リツコ「言ったわね。アルコール依存症、ニコチン依存症……それと同じように、他人に依存するのもまた、病よ」
ミサト「でもね……私はそうは思わなかったの」
リツコ「え?」
ミサト「あの子たちは間違っているし、歪んでいると思う」
ミサト「でも、他の全てを捨ててもいい。そう言いきれるほどに、お互いに相手を求めあっている」
ミサト「それはもう、病でもなんでもなく」
ミサト「なによりも、純粋な―――」
ミサト「……」
ミサト「そんな風に、私は思ってしまったの」
リツコ「……」
ミサト「間違っているかしら?」
リツコ「……」
リツコ「いいえ」
ミサト「……!」
リツコ「そうね。そんな形も、あっていいのかもしれないわね」
ミサト「でしょ?」
リツコ「特に、あの子たちのような辛い運命を背負った子たちなら、余計にね」
ミサト「ええ」
リツコ「あの子たちには、幸せになってもらいたいわ」
ミサト「本当にね」
リツコ「……」
ミサト「……」
エピローグ
シンジ「……」
アスカ「……」
シンジ「……」
アスカ「……」
シンジ「……」
アスカ「……」
シンジ「……」
アスカ「……」
アスカ「んあっ」パッ
シンジ「お終い?」
アスカ「なんで、一言も声出さないのよ」
シンジ「なんでって……」
アスカ「慣れないって言った癖に」
シンジ「……慣れてはないと思う」
アスカ「なるほど、とうとう目覚めたのね」
シンジ「だから、僕にそういう趣味はないってば!!」
アスカ「じゃあ、どうしてよ」
シンジ「言いたくない」
アスカ「はぁ!?」
シンジ「アスカに、自分で考えて欲しいな」
アスカ「……うざっ」
シンジ「あはは。ごめん」
アスカ「ねぇ、シンジ」
シンジ「なに?」
アスカ「はい、これ」
シンジ「―――え? これって……」
アスカ「そう、ナイフ」
シンジ「……どういうこと?」
アスカ「それを、自分のお腹に突き刺して」
シンジ「……」
シンジ「どうして?」
アスカ「シンジが全部欲しいから」
シンジ「……」
アスカ「もしかして、断る気?」
シンジ「……ううん、そんなことないよ」
アスカ「本当に?」
シンジ「もちろん。だって僕も、全部アスカのものになりたい」
アスカ「そっか」
シンジ「うん。だから、さよなら」
アスカ「ええ、さよなら」
シンジ「……んっ」
ドスッ
シンジ「……げほっ」
アスカ「……」
シンジ「アスカ、これって」
アスカ「本物なわけないでしょ。先が引っ込むオモチャ」
シンジ「どういうこと?」
アスカ「私が頼んだら、死んでくれるかなーって思って」
シンジ「酷いや。そんなの、死ぬに決まってるじゃないか」
アスカ「そうね。試してみる必要もなかったわ」
シンジ「でも……出来れば、生きたまま一緒にいたいよ」
アスカ「バカシンジのくせに、贅沢言わないでよ」
シンジ「……ごめん」
シンジ「でも、死ぬまで一緒にいてくれる?」
アスカ「死んだら、離れるつもりなの?」
シンジ「ち、違うよ!」
アスカ「ふふっ、そう」
シンジ「……」
アスカ「―――じゃあ、その体に永遠の証をあげるわ」
シンジ「……うん」
終劇
これでQ後に書いたエヴァSS15個目やで。厳密に言うと、一個は投下中に過疎過ぎて落ちたから14だけど。
書き過ぎわろた状態! ありがとござました。
>>194
過去作教えて
良かった
乙乙
綾波「……碇司令。携帯電話を買ってください」
シンジ「僕と綾波とアスカで遊園地……ですか?」
シンジ「アスカの噛み癖がなおらない」
シンジ「癒し屋シンジ?」
アスカ「メル友募集掲示板……?」
ミサト「シンジ君の寝顔って可愛いのね……」
アスカ「シンジのメールがしょぼくれてる」
アスカ「気持ち悪い」
シンジ「アスカが僕の部屋に入り浸る……」
アスカ「バレンタインデーにチョコ?」
マリ「指令以外のメールって初めて」
シンジ「アスカのドヤ顔がヤバイ」
マリ「わんこ君、これ食べる?」
アスカ「ほらっ、歩きなさいよ!」
>>204
お気に入り順で。落ちたやつは省く。
アスカ「メル友募集掲示板……?」
アスカ「シンジのメールがしょぼくれてる」
これ大好きだ これからもLAS期待してます
I know先生も面白いじゃないか
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