シンジ「エヴァ最終号機?」 (337)

エヴァSS
新劇「Q」前方補外その2

その1(前スレ)
シンジ「何ですか? これ」ミサト「教科書よ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1380811845/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1385772751

〔免責事項〕
 アヤナミタイプの呼び方にオリ設定あり
 前スレ134あたり参照
 肌に合わない方はそっ閉じ または脳内変換推奨 

(月夜の雲上を飛ぶAAAヴンダー)

==== ヴンダー艦内 とある観測室 ====

(窓際に腰掛け外を見ているシンジ
 毛布を羽織りS-DATを聴いている)

ゴォンゴォンゴォン……

シンジ「……」

  「碇くん」

シンジ「……綾波?」

レイ「眠れないの?」

シンジ「何となく、ね」

レイ「そう」

シンジ「……ねえ、半袖で寒くない?」

レイ「へいき」

シンジ「風邪ひくよ。……ほら」

  (立ち上がり羽織っていた毛布をかけてやる)

レイ「……ありがとう」

シンジ「ううん」

レイ「でも、これでは碇くんの方が寒いわ」

シンジ「大丈夫だよ」

  (シンジの傍らにきて毛布をシンジの方に開くレイ)

シンジ「……いいの?」

レイ「構わないわ」

シンジ「……なんか、照れくさいね」

レイ「そう?……でも、暖かいわ」

シンジ「そうだね」クスッ

レイ「……」

シンジ「久しぶりだね」

レイ「そうね」

シンジ「……」

レイ「碇くん」

シンジ「なに?」

レイ「『学校』は楽しい?」

シンジ「うん……そうだね、楽しいと思う」

レイ「……」

シンジ「トウジたちはちゃんと先生しているし、この間からC子とD子も入ったんだ」

レイ「そう」

シンジ「……」

レイ「花……」

シンジ「え?」

レイ「ありがとう」

シンジ「ああ、あれ」

レイ「嬉しかった」

シンジ「そっか、そう言ってもらえると、僕もうれしいよ」ニコ

レイ「……」

シンジ「……」

レイ「……」

シンジ「ああ、あしたは調理実習なんだ」

レイ「調理実習?」

シンジ「委員長がミサトさんにかけあって、調理場を借りてくれたんだって」

レイ「碇くんが教えるの?」

シンジ「ハハ……僕も習うんだよ。委員長、すごいんだ」

レイ「そう」

シンジ「『学校』……綾波も……来られればいいのに」

レイ「ごめんなさい」

シンジ「ううん、仕方ないよ」

レイ「……」

シンジ「……」

レイ「……」スッ

シンジ「もう行くの?」

レイ「ええ」

シンジ「……ちょっと残念だな」

レイ「仕方ないわ」

シンジ「そうだね」

レイ「……」

シンジ「そうだ、これ」

レイ「なに?」

  (S-DATプレーヤーを差し出すシンジ)

シンジ「助けたとき、持っててくれただろ?」

レイ「……」

シンジ「ずっとお礼を言いたかったんだ――ありがとう」

レイ「いいの。私が、勝手にしたことだから」

シンジ「そんなことないよ」

レイ「……」

シンジ「また、持っていてくれるかな」

レイ「……いいの?」

シンジ「綾波に、持っていてほしいんだ」

レイ「わかった」

シンジ「……また会える?」

レイ「ええ……待ってる」

シンジ「え?」

レイ「もうすぐ、始まるから」

シンジ「始まる?」

レイ「ええ」

シンジ「……」

レイ「待ってるから」

シンジ「……そう」

レイ「じゃあ、また」

シンジ「うん、また――」

  :
  :

==== 翌日 ====

シンジ「……」ハッ

   「……」ペラッ

シンジ「B子?」

別レイ「……碇くん」

シンジ「ここは?」

別レイ「医務室よ」

サクラ「あっ、碇さん、目が覚めましたね」

シンジ「サクラさん?」

サクラ「気分はどないですか?」

シンジ「ええと、特に悪くないですけど……僕は、なんでここに?」

サクラ「碇さんはゆうべ、第4観測室で倒れてはったんですよ」

シンジ「えっ?」

サクラ「兄が見つけて、ここへ運んできたんです」

シンジ「トウジが?」

サクラ「――覚えてへんのですか?」

シンジ「すみません……」

別レイ「じゃあ、私、行くから」

シンジ「B子……」

別レイ「ご飯」

シンジ「え?」

別レイ「私たちで作ったの。もって来たから」

シンジ「作ったって……もう実習終わったの?」

別レイ「ええ。もう、お昼だもの」

シンジ「そっか……残念だな」

別レイ「……」

シンジ「でも……ありがとう。僕の分まで」

別レイ「構わないわ」

サクラ「碇さん、食事、できそうですか?熱もないみたいやし」

シンジ「そういえば……お腹すいたかな」

サクラ「じゃあ、そっちにテーブル用意しますから」

シンジ「ありがとうございます」

別レイ「……」

シンジ「?」

   (アヤナミレイ(仮)の指に目を留めるシンジ)

別レイ「どうしたの?」

シンジ「……」ジワッ

別レイ「碇くん?」

シンジ「ごめん……」グスッ

別レイ「……」

シンジ「絆創膏……」

別レイ「これ?」

シンジ「包丁……だよね」

別レイ「ええ、少し」

シンジ「その、綾波が……A子がやっぱり巻いてことがあったから……」

別レイ「そう……」

シンジ「ごめん、また君に嫌な思いをさせてしまった」

別レイ「いいの。気にしないで」

シンジ「……」

別レイ「C子とD子は、もっとひどかったわ」

シンジ「そうなの?」クス

別レイ「……」

シンジ「?……どうしたの?」

別レイ(……笑ってくれた……)

別レイ「いいえ……私、行くから」

シンジ「うん、ありがとう」

プシュー

ミサト「お邪魔するわよ」

サクラ「あ、艦長」

ミサト「あら、B子。こんにちは」

別レイ「……こんにちは」

ミサト「シンちゃん、目が覚めたのね」

別レイ「はい――私はこれで」

ミサト「ええ、お疲れ様」

プシュー

ミサト「驚いたわよ、夜中に担ぎ込まれたって聞いて」

シンジ「心配かけてすみません」

ミサト「いいのよ」

シンジ「?……船、止まってるんですか?訓練飛行って明日までじゃ……」

ミサト「ちょっとトラブルがあって急遽切り上げたのよ。午前中に戻ったばっかり」

シンジ「そうですか」

ミサト「あら、それは?」

シンジ「B子が持ってきてくれたんです。きょう、調理実習で」

ミサト「それはそれは。おいしそうじゃない」

シンジ「そうですね」

ミサト「こんどシンちゃんが具合悪くなったら、あたしがご飯つくってあげようかしら」

シンジ「ミサトさん、料理できるんですか?」

ミサト「しっつれいねー、あたしだってできるわよ」

シンジ「すみません、見たことなかったから」アハハ

ミサト「まあ、いいわ」

ミサト「さて、と。シンちゃんの顔も見られたし、私もお昼食べに行こうかな」

シンジ「ありがとうございました」

ミサト「じゃあ、またね」

シンジ「あ……ミサトさ――艦長」

ミサト「なに?改まって」

シンジ「あの……」

ミサト「どうしたの?」

シンジ「また……シンクロテストを受けさせてもらえませんか?」

ミサト「……どうしたの?急に」

シンジ「すみません……あの……」

ミサト「……」

シンジ「……夢を……見たんです」

ミサト「夢?」

シンジ「だと思うんですけど……」

ミサト「……」

シンジ「綾波に会ったんです」

ミサト「レイに?」

シンジ「前みたいに、壱中の制服を着てて……」

ミサト「……」

シンジ「びっくりするはずなんですけど……僕も綾波も、どうしてか普通に話をして」

ミサト「どんな話?」

シンジ「たいした話じゃないんですけど……学校のこととか……」

ミサト「……」

シンジ「別れ際に、綾波が『もうすぐ始まるから、待ってる』って」

ミサト「……」

シンジ「それってやっぱり、初号機のことを言ってるのかなって」

ミサト「……」

シンジ「ミサトさん?」

ミサト「それ――夢じゃないのかもしれないわ」

シンジ「えっ?」

ミサト「やっぱりレイは、あそこにいて――何かを感じ取っているのかもしれない。これまで確信をもってたわけじゃなかったけど」

シンジ「……」

ミサト「訓練を切り上げたのは、ゆうべ主機に……初号機に異常が見つかったからなの」

シンジ「異常……ですか?」

ミサト「夜中に突然、原因不明の温度上昇がみられたの。ほんの数分だけど」

シンジ「夜中?」

ミサト「ええ、そうよ。あなたがここへ担ぎ込まれる少し前」

シンジ「それって……」

ミサト「大した変化じゃなかったんだけど、今までそんなことは一度もなかったのよ」

シンジ「……」

ミサト「ちょうどシンちゃんがレイにあう夢を見ていたころだわ」

シンジ「……」

ミサト「それとシンジくん。近いうちに説明をするから、当面内密にしてほしいんだけど」

シンジ「……」

ミサト「……『始まる』というのはどうやら本当らしいわ」

シンジ「……」

ミサト「その時には、またあなたの力が必要になると思ってる」

シンジ「必要って……それは――」

ミサト「今はまだ詳しいことは言えない。でも、必要になる」

シンジ「……」

ミサト「だから、こちらからもお願いするわ」

シンジ「えっ?」

ミサト「レイが……『待ってる』って言ったんでしょ?」

シンジ「はい」


ミサト「シンクロできることがわかったら、訓練にも参加してもらうから。できれば実際に初号機を使って」

シンジ「でも、初号機は――」

ミサト「ええ、この船の主機として使ってきたわ。でも、このあいだ手に入れたマーク09のうち一つを主機に転用する準備をしているの。」

シンジ「マーク09を?」

ミサト「本来は、マーク09――アダムスの器の方がこの船と相性がいいの。ただ、安全に制御する方法がわからなかった。無傷で停止状態の機体が手に入ったことで、やっと実現したのよ。これでまた初号機を動かせるようになるわ」

シンジ「……」

ミサト「もちろん、長い間動かして無かったから、いろいろテストが必要だけど――専属パイロットも含めてね」

シンジ「……」

ミサト「引き受けてくれるかしら?」

シンジ「……はい」

ミサト「よかった。じゃあ、近いうちに連絡するから」

シンジ「はい」

ミサト「それまでは、ちゃんと勉強しなさい。ああ、その前に腹ごしらえもね」

シンジ「ハハ……そうですね」

ミサト「じゃあね。サクラちゃん、よろしく」

サクラ「はい、艦長」

シンジ「ありがとうございました」

プシュー

サクラ「さあ、碇さん、ごはん、あっためましたよ」

シンジ「ありがとうございます。――いただきます」

サクラ「上手にできてますね」

シンジ「はい」モグモク「……おいしい」゙

サクラ「碇さんが起きたこと、兄には連絡しときましたから」

シンジ「すみません」

サクラ「B子さん――」

シンジ「え?」

サクラ「休み時間のたびに碇さんの様子、見に来てくれたんですよ」

シンジ「……」

サクラ「クラスに戻ったら、ちゃんとお礼を言ってあげてくださいね」

シンジ「……はい」

  :
  :

とりあえずここまで。

==== 午後 小会議室(仮教室)====

トウジ「――じゃあ、今日はこのへんにしとこか。あ、今日のところはテストに出すからな」

シンジ「えー!?」

トウジ「しっかり復習しとき。ほな、終わりや」

別レイ3(D子)「起立」

一同 ガタガタッ

D子「礼」

一同「ありがとうございました」

トウジ「はい、お疲れさん」

ケンスケ「じゃ俺から連絡事項。昨日やったとこの工場、再来週、見学させてもらえることになったから。みんなその

つもりでいてくれよな」

一同「はい」

トウジ「なんや、小さいながらも教室っぽくなってきよったなあ」

シンジ「ハハ……人数も増えたもんね」

トウジ「さて、と。センセ、もう平気か?」

シンジ「うん。面倒かけてごめん」

トウジ「まったく、夜更かしもホドホドにしとき」

シンジ「気を付けるよ」

シンジ(そっか……さっきミサトさんに話したこと、トウジは知らされてないんだ。サクラさんもヴィレの人だもんな…)

シンジ「……あれっ?」

トウジ「どないしたんや」

シンジ(あのとき僕……音楽聴いてたよな……プレーヤーどうしたんだろ)

シンジ(もしかして、ホントに……)

シンジ「ううん……なんでもないよ」

コンコン

リツコ「洞木先生、ちょっといいかしら」

ヒカリ「あ、副長。どうぞ、終わったとこですから」

リツコ「ごめんなさいね。――C子、D子」

別レイ2(C子)・D子「はい」

リツコ「急で悪いんだけど、このあと1600からシンクロテストをするから、支度をしてケージに来て頂戴」

C子・D子「はい」

リツコ「それからシンジ君」

シンジ「は、はい?」

リツコ「ミサトから聞いてるとは思うけど、続けてあなたのテストをするので、1700までにケージへ」

シンジ「きょうですか?」

リツコ「ごめんなさい、シンジ君の方も準備がだいぶ前倒しになってるの」

シンジ「……わかりました」

リツコ「シンジ君は、今夜のテストがうまくいったら、すぐ訓練にも参加してもらうようになるから、そのつもりでね」

シンジ「はい」

リツコ「予定が早まって申し訳ないけど、よろしくお願いしますね。訓練は当面、原則として放課後に行いますから」

ヒカリ「お聞きしてます」

リツコ「それじゃ」

プシュー

シンジ(ミサトさんは「近いうち」って言ってたけど、まさかその日のうちとは思わなかったな…)

シンジ(何だか色んなことが急に動き出してるように感じる……)

C子「行きましょう」

D子「ええ」

スタスタ…プシュー

一同「……」

トウジ「……そうか、センセもいよいよパイロット復帰か」

シンジ「トウジ?」

トウジ「いや、だいたいの話は予め聞いとったんやけどな」

シンジ「そうだったんだ……」

トウジ「シンジ――お前らはエヴァを扱える、貴重な人材や」

シンジ・別レイ「……」

トウジ「お前がニアサーのおかげで疎まれて悩んどることも、それを自分の手で、よう埋め合わせんで苦しんどることも知っとる。せやから、またお前が、自分でも納得してエヴァに乗れるのは、ええことなんやと思う」

シンジ「……」

トウジ「せやけど、こういうケッタイな立場になってみるとなあ。いくら『適格者』言うてもお前ら中学生がドンパチに駆り出されるのを見るのは、やっぱしな……」

シンジ「トウジ――」

トウジ「せやかて、ワシらには、こればっかりは、どうすることもできん」

ヒカリ・ケンスケ「……」

シンジ「……」

トウジ「せやから、せめてお前らに少しでも充実した中学生生活を送らせてやるんが、ワシらの役目やと思うとる」

シンジ「うん……」


トウジ「――スマン、辛気臭いこと言うてしもたな。決まったからには、パイロットの仕事も、ベンキョも頑張りや」

シンジ「ありがとう、トウジ……ケンスケに委員長も」

ケンスケ「おい、碇。綾波は初号機の中にいるんだろ?」

シンジ「えっ?」

別レイ「……」

ケンスケ「せっかくまた乗るんだったら、授業に出るようにお前から言ったらどうだ? 綾波だけ落第させるわけにもいかないしな」

ヒカリ「あなたねえ……」

シンジ「どうやったらそんなことができるか、こっちが聞きたいよ……」ハァ

アハハハ

  :
  :

==== 夕方 ケージ 管制室 ====

技師A「接続、完了しました」

マヤ「了解」

カチッ

マヤ「シンジ君」

シンジ『はい』

マヤ「始めるわよ、用意はいい?』

シンジ『はい』

マヤ「今回はまだ、マギを介しての接続だから、リスクは最小限におさえられてるけど、異常を感じたらすぐに知らせてね。あなたが直接アボートスイッチを回しても構わないわ」

シンジ『了解です』

カチッ

マヤ「じゃあ、始めてちょうだい」

技師A「了解。リストA307から再開します」

ブウウウウウゥン……

==== 初号機エントリープラグ内 ====

シンジ(……)

シンジ(まただ……何か……懐かしい感じがする)

シンジ(でも……前とちょっと違うかな……)

シンジ(綾波の匂い……母さんの匂い?……いや……)

シンジ(綾波の……髪の匂い……)

シンジ(そうか……あのときの……)

シンジ(綾波……細っこかったな……)

シンジ(……)ドキドキ

ハッ!

シンジ(な……何考えてるんだ、僕は……)

==== 管制室 ====

技師A「パイロット、心拍数上昇しています」

マヤ「変ね……」

アスカ「……」

技師A「どうします? 続けますか?」

アスカ「ちょっとマイク貸して」

技師A「大尉?」

カチッ

アスカ「くぉらバカシンジ!!」

シンジ『な……なに?』

アスカ「あんた、神聖なるテスト中にイヤらしいこと考えてるんじゃないわよ!」

シンジ『か、考えてないよ!』

アスカ「――どうせエコヒイキを助けたときのことでも思い出してたんでしょ」

マヤ「えっ?」

シンジ『ちちちち違うよ! 何言ってんだよ!』

カチッ

アスカ「図星ね……」

マヤ「そ、そうなの?」

ピッ

技師A「整備長」

マヤ「どうしたの?」

技師A「初号機、コアの温度上昇を検知」

マヤ「何ですって?」

技師A「立ち上がりが昨夜のパターンに――」

カチッ

アスカ「エコヒイキも反応すんなっ!」

技師A「あ……少し下がりました」

マヤ「ウソ……」

アスカ「まったく……」

別レイ「大尉」

アスカ「何よ」

別レイ「イヤらしいことって……何」

アスカ「あんたねぇ……」

マリ「君はまだ知らなくていいヨ」

別レイ「?」

マヤ「やれやれね……」

技師A「ハハハ」

マヤ「肝心のデータの方はどう?」

技師A「良好です。起動レベルは十分にクリアしてます。ハーモニクス正常。暴走の兆候なし。DSSセンサ、検出限界以下です」

マヤ「第一関門クリアね」

カチッ

マヤ「いいわ、シンジ君。あがってちょうだい」

シンジ『りょ……了解』

アスカ「――で?」

マヤ「C子とD子はマーク09の臨界前運用をクリア。シンジ君は初号機とのシンクロに成功。だから――」

アスカ「ヴィレ側の編成は確定ってわけね」

マヤ「ええ」

別レイ「……」

   (一同、プラグから降りてくるシンジを見ている)

アスカ「忙しくなりそうね……」

  :
  :

とりあえずここまで

乙!舞ってるぜ

>>44 >>45 ありがとう

>>43から続きます

==== その週末 朝 ====

 (天候・晴れ 見渡す限りの荒野に浮かぶヴンダー)

 (甲板の縁に並んで立つ4機のエヴァ)

リツコ『――降下ポイントに到達。いつでもいいわよ、アスカ』

アスカ「8+2号機、了解」

アスカ「――さて、手順を確認するわよ。まずマリが降下」

マリ「ほ~い」

  (ピンク色に塗り替えられた改13号機)

アスカ「マリの合図でアタシ、シンジ、B子が続いて降下」

シンジ「うん」

別レイ「はい」

  (初号機、青色に塗り替えられたマーク09=改9号機)

アスカ「着地したら、ただちに目標のビルまで全力疾走。いいわね?」

シンジ・別レイ「了解」

マリ「りょうか~い」

アスカ「基本的にはきのうまでのシミュレーションといっしょ。でも落下の感覚は実際に落ちてみないとわからないから、きょうの訓練で基本動作をマスターすること。いい?――特にシンジ!」

シンジ「えっ?」

アスカ「シミュレーションで2回も初号機壊してるんだから、気を抜くんじゃないわよ!」

シンジ「だ……だって突然スラスターが止まるから――」

アスカ「あったりまえでしょ、緊急対応訓練なんだから。今回は意図的なトラップはないけど、実機じゃ何が起こるか分からないから、着地するまでは高度計と噴射ボタンから目と指を離すんじゃないわよ」

シンジ「わ……わかったよ」

アスカ「じゃあ行くわよ。マリ!」

マリ「らじゃ!――きゃっほう!」

  (飛び降りる改13号機)

マリ「あーらよっと!」

  (地表付近で逆噴射して減速し、着地する)

ズシャッ

マリ「『L結界密度、基準値以下を確認』っと。いいよー!」

アスカ「行くわよ! ……とりゃああああ!」

   (続く8+2号機、初号機、改9号機)

シンジ(は……速い!)

アスカ「シンジ! 姿勢を保ちなさい!」

シンジ「りょ……了解」

   (モニタ上、急速に地表が迫る)

   (インダクションレバーの手動噴射スイッチ上を指がさまよう)

   (予定高度で逆噴射が作動、数秒で自動停止)

シンジ「くっ!」

   (残りの距離を落下して着地する初号機)

ズシャッ

シンジ「――やった!」

アスカ「まだ終わりじゃない! 走れ!」

シンジ「う、うん!」

   (廃墟を飛び越えながら走る4機のエヴァ)

マリ「きょうび、こういう特大運動場にはことかかないよねー」

アスカ「しゃべるなっ! 舌噛むわよ!」

シンジ(ここも元は畑や住宅地だったのかな……)

シンジ(これも……僕たちのせいなのか?……)

改9号機「……」ガツッ

別レイ「きゃっ!」

ズシャッ

シンジ「B子!」

初号機「……」ザザーーーッ

シンジ「大丈夫!?」

別レイ「ええ、へいき」

シンジ「起こすよ――」

    (改9号機の腕をとる初号機)

別レイ「!」パッ

シンジ「わっ」ガクン

シンジ「――きゅ……急に動かないでよ」

別レイ「ご……ごめんなさい」

アスカ「こらぁ! 早く起きて走れっ!」

シンジ「ごめん! ――行くよ、B子」

別レイ「え、ええ」

  :
  :

   (目標の廃ビルに到達する改13号機)

   (続く3機のエヴァ)

マリ「いっちば~ん!」

アスカ「浮かれてんな、バカメガネ!」

シンジ「はあぁ……緊張した……」

別レイ「……」

アスカ「B子! ちゃんと足元に気を付けて走りなさい!」

別レイ「ごめんなさい、大尉……」

アスカ「転んだら転んだでちゃっちゃと起きる! アンタらしくないわよ、B子」

別レイ「すみません……」

アスカ「……」

別レイ「?……何ですか?」

アスカ「まあいいわ……シンジ!」

シンジ「な、なに?」

アスカ「アンタも! 冷たいようだけど、人のことはいいから走りなさい」

シンジ「う……うん、気を付ける」

アスカ「まあ、シンジもB子も、初めてにしちゃ上出来だったわ。……ブリッジ、各機の状態は?」

リツコ『問題ないわ』

アスカ「了解。――じゃあ、10分休憩したら、船に戻ってもう1回やるわよ」

シンジ「ええ~~っ!」

別レイ「……」

アスカ「仕方ないでしょ。平日はアンタら『学校』なんだから」

シンジ「それはそうだけど……」

アスカ「きょうは機体のチェックを挟んで、あと3回はやるからね」

シンジ「ねえ……これって何の練習なの? 前にエヴァに乗ってた頃は、こんなのやらなかったじゃないか」

アスカ「愚問ね。全ては基本動作の反復練習からよ」

シンジ「そ、そう……」

==== ヴンダー ブリッジ ====

リツコ「シンジ君とB子の実機訓練、滑り出しはまずますね」

ミサト「そう、よかった。――高雄くん、主機の方は?」

高雄「良好です。現在、C子がリモートプラグに搭乗して制御中。テレメトリは安定してます」

カチッ

高雄「どうだC子?」

C子『問題、ありません』

高雄「オーケー。30分したら、D子と交代してみてくれ」

C子『はい』

高雄「降下訓練の後半は船を動かしながら行うことになってる。主機の応答に注意するんだぞ」

C子・D子『了解』

高雄「ふう、主機の前にお嬢ちゃん方のご機嫌伺いですわ……」

ミサト「作戦行動中だけよ。アダムスの器の手綱を自分で引くよりは楽でしょ」

高雄「へいへい」

ミサト「頑張んなさい、機関長殿」フフフ

==== 地表 目標ビル付近 ====

マリ「おーい、だいじょぶ? わんこくん」

シンジ「正直、きつかった……アスカも真希波も、ずっとこんなのやってるの?」

マリ「う~ん、ここ半月くらいかにゃあ」

シンジ「え? じゃあ、割と最近なんだ」

マリ「でもこういうタイミングで途中から始めるんじゃ、わんこくんもB子くんも大変だよねー」

アスカ「言っとくけど、こんなのはまだ序の口よ。最終的には、今と同じ動作を火の海の真っただ中でやるんですからね」

シンジ「……ホント!?」

アスカ「何よ。アタシがウソついてるってぇの?」

シンジ「ち、違うよ」

アスカ「まあ、覚悟しときなさい」

シンジ「はあ……」

シンジ(だから人に構わず走れって言ったのか……)

シンジ「ん?」

   (ふと地平線上の土煙に目が止まる)

   (モニタ上のウインドウ内にズーム画像 人型の機械らしきものが動いている)

シンジ「ねえアスカ! あれ!」

アスカ「なに」

シンジ「あれ何!?……まさか――ネルフのエヴァ!?」

アスカ「違う――国連軍の機体よ」

シンジ「へっ?」

アスカ「『トライデント改』」

シンジ「……何それ」

アスカ「改2号機用の機械部品を寄せ集めて、旧戦自がニアサー前に開発していた操縦系を組み合わせた、ロボットみたいなものよ」

シンジ「そ……そんなのがあるんだ……」

アスカ「アタシも実物を見るのははじめて」

シンジ「ふーん……でも、なんであんなところに?」

アスカ「そのうちアンタも間近で見られるわよ」

シンジ「えっ?」

アスカ「よーし時間ね。休憩終わり。行くわよ」

マリ「合点承知ぃ」

シンジ・別レイ「了解」

   (着地しているヴンダーに向かって移動を始めるエヴァ)

別レイ「……」

   (地平線上、街の方を見ている改9号機)

シンジ「――B子、何見てるの?」

別レイ「樹……」

シンジ「えっ?」

別レイ「実習で行った――」

シンジ「え?……あ、ここから見えるんだ」

別レイ「ええ」

シンジ「……」

   (ズームしてみるシンジ)

シンジ「ふーん、そっか。意外に近いんだね」

別レイ「そうね」

シンジ「うーん、水辺までは見えないな……樹に囲まれてるから――」

アスカ「こらあ! アンタたち、早くしなさい! ピクニックじゃないわよ!」

シンジ「ご……ごめん! 今行くよ!」

別レイ「すみません……」

 :
 :

==== 週明け とある夕方 ヴンダー艦内 会議室(仮職員室) ====

リツコ「……」

トウジ「……」

ケンスケ「……」

ヒカリ「……わかりました」

リツコ「ごめんなさい。あなた達には、本当に感謝しているわ」

ヒカリ「そんな――最初から……わかっていたことですから」

トウジ・ケンスケ「……」

ヒカリ「子供たちには……明日の帰りのホームルームで伝えます」

リツコ「よろしくお願いします。その後のことは、私から通達するわ」

ヒカリ「はい」

プシュー

ヒカリ「……」

トウジ「イインチョ?」

ヒカリ「……」ポタッ

ケンスケ「……」

トウジ「泣くなや、イインチョ……」

ヒカリ「わかってる……でも……」

ケンスケ「そうだよ。これで終わりって決まったわけじゃないだろ?」

トウジ「そうや。ワシらがやっとるんは、そない目先のことやあらへんで」

ヒカリ「うん……」

ケンスケ「それに、あいつらは、あいつらにしか出来ないことをしようとしてる。俺たち全部のために、だぜ」

ヒカリ「そう……そうね」

トウジ「……」

ヒカリ「私たちがこれじゃあ駄目よね」

ケンスケ「――さあ、そうと決まったら、ひと仕事しちまおうぜ」

トウジ「何や?」

ケンスケ「決まってるだろ?」

ヒカリ「え?」

ケンスケ「――まさかこんな早く書かなきゃらならないとは思ってなかったけどな」

ヒカリ「そ、そうね。気が付かなかった。相田くん、見直したわよ」フフ

  :
  :

==== 翌日 ヴンダー艦内 仮教室 6限後 ====

別レイ「――起立」

   ガタガタッ

別レイ「礼――着席――」

   ガタガタッ

ヒカリ「ええと……じゃあ私から連絡です」

シンジ(なんだろ?……)

シンジ(トウジもケンスケも委員長も……今日は何かテンション高かったな……)

ヒカリ「急で申し訳ないんだけど……この教室は、明日から臨時休業することになりました」

シンジ「えっ!?」

ヒカリ「――だから、このホームルームが終業式みたいなものね」

別レイ・C子・D子「……」

ヒカリ「期間は未定だけど、『全て順調にいけば』、来月には再開できると思います」

生徒たち「……」

ヒカリ「そのときは、今みたいな形になるかもしれないし、普通の学校に編入してもらうことになるかもしれない。それはまた、改めて連絡します」

シンジ「あの……」

ヒカリ「なあに?」

シンジ「それって、どういう――」

トウジ「まあ、ちょっと早めの夏休みと思っとき。きょうの宿題は、休み明けに提出や。問題集は各自、すすめとくんやで」

生徒たち「……」

ケンスケ「ああ、それから、来週予定してた工場見学は、休み明けに延期な」

生徒たち「……」

ヒカリ「休み中のあなたたちの予定については、副長から説明があります」

スッ

リツコ「……」

シンジ「え?」

シンジ(それじゃあ……)

ヒカリ「お願いします、副長――」

リツコ「ありがとう、洞木先生」

ヒカリ「いいえ」

リツコ「――ごめんなさいね、先生方、それにみんな……」

トウジ・ケンスケ「……」

リツコ「この船は、あす出発します」

シンジ「!」

リツコ「先生方には、明朝、下船してもらうことになっています。先生方だけじゃない、その他、一部の食堂スタッフや整備士、甲板員など、民間から来ている人たちは全てよ」

C子・D子「……」

リツコ「その後の予定や目的地については、出発後にあらためて説明を行います」

一同「……」

リツコ「本当にごめんなさい。予定が前倒しになっているせいもあるけど、機密保持の都合もあって直前まで明かすわけにいかなかったの。――あんまり慰めにはならないとは思うけど――この船の乗員のほとんどにも知らせていなかったのよ」

一同「……」

リツコ「埋め合わせと言ってはなんだけど――このあと1800から食堂で、ちょっとしたお別れ会を予定してるわ」

一同「……」

リツコ「先生方も支度ができたら来てくださいね。――あなたたちもよ」

生徒たち「……」

リツコ「私からは以上よ」

ヒカリ「はい」

プシュー

ヒカリ「いいかしら?――それじゃあ、これから通知票を配ります」

シンジ「通知票……」

ヒカリ「ええ。――アヤナミさんは3人いるから、B子さんからね」

別レイ「はい」ガタッ

ヒカリ「C子さん……はい……D子さん……碇くん」

シンジ「はい」ガタッ

ヒカリ「碇くんは、綾波さんの……A子さんの分もお願い」

シンジ「え?」

ヒカリ「ずっと休みだったから、出席状況しか書いてないけど……ちゃんと渡してね」

シンジ「……うん」

ヒカリ「まだ中間テストもしてないし、正式なものじゃないけど、わかる限りのことは記したつもりよ」

生徒たち「……」

トウジ「失くしたらあかんで。お前たちのここまでの受講証みたいなもんやからな」

シンジ「受講証?」

トウジ「そうや。失くしたら、もう一回最初から受け直しやからな」

シンジ「ええ~っ!!」

ケンスケ「冗談だよ」ハハ

シンジ「何だよもう……」

ヒカリ「――質問がなければ終わりにします」ニコ

生徒たち「……」

ヒカリ「休みが終わって……またみんなの元気な顔を見られるのを……」

シンジ(委員長?)

ヒカリ「楽しみに……してるわ……」グシャ……

一同「……」

ヒカリ「ごめんなさい……」ポタポタポタ

B子「先生……」

ヒカリ「みんな……ちゃんと帰ってくるのよ!」ポタポタポタ

一同「……」グスッ

  :
  :

==== 翌朝 船体下部 乗降口 ====

ケンスケ「じゃあ、みんな元気でな」

トウジ「勉強、さぼるんやないで」

シンジ「わかってるよ」

ケンスケ「泣くなよ、碇」

シンジ「だって……」

トウジ「しんみりするのも今のうちやぞ。休み明けたら、きっちり取り戻すからな」パンパン

シンジ「うん……トウジ、サクラさんは、いいの?」

トウジ「ああ。昨日のうちに会うたさかいな」

シンジ「そっか」

トウジ「頼んだで、シンジ」

シンジ「うん」

食堂のおばさん「あんたたち、気を付けてね」

C子・D子「はい」

おばさん「あたしは、この下の工場にいるから。終わったら食べに来てね」

C子・D子「はい」

おばさん「それから……これはあたしから。サービス券よ」

    (ニンニクラーメンの食券 「チャーシュー抜き」とペン書き)

C子・D子「……」

おばさん「期間限定、来月までだからね。絶対来るのよ」

C子・D子「ありがとう」

ミサト「ヒカリちゃん、今まで本当にありがとう」

ヒカリ「いいえ、私の方こそ。――子供たちをお願いします」

ミサト「わかってるわ」

リツコ「あなたたちも体に気を付けて」

ヒカリ「はい」

シンジ「委員長……」

ヒカリ「気を付けてね、碇くん」

シンジ「委員長も」

ヒカリ「さよなら、みんな」

別レイ「先生……」

ヒカリ「なに?」

別レイ「……」

ヒカリ「……そうね、ごめんなさい」クスッ

別レイ「……」

ヒカリ「――行ってらっしゃい」ギュッ

別レイ「……行ってきます」ギュッ

甲板員「いいですか?」

ミサト「ヒカリちゃん――」

ヒカリ「すみません、艦長」

別レイ「……」

ミサト「いいのよ。――お願い」

甲板員「了解。……艦長」

ミサト「ええ」

甲板員「……ご無事で」スッ

   (敬礼する甲板員)

ミサト「あなたたちも」

   (答礼するミサト)

ギイイイィィ――

一同「……」

――ガシャアン……

グウウウゥン

  (後退するボーディングブリッジ)

  (舷窓から見守るシンジ達)

トゥルルルル……ピッ

ミサト「私です」

ミドリ『乗員の点呼完了。民間人の下船、完了を確認しました』

ミサト「ありがとう」

カチッ

ミサト「長良」

スミレ『はい、艦長』

ミサト「浮上、半速」

スミレ『了解。浮上します』

フイイイイイィン……

  (浮上するヴンダー)

  (乗降棟で手を振っているトウジ達)

==== 地上 ====

トウジ・ケンスケ・ヒカリ「……」

  (頭上を一度旋回してから急速に高度を上げ去っていくヴンダー)

とりあえずここまで。

今更だけど最終号機とかトライデントとか名前だけで既存のアレとは関係ないので悪しからず

少し時間をさかのぼる(>>80のあと)

==== 降下訓練後 夕方 ハンガーデッキ ====

アスカ「――じゃあ、今日のところはここまで。解散」

マリ「お疲れ~」

シンジ「はあ、しんど……」

アスカ「整備長?」

マヤ「わかったわ」

アスカ「んじゃ、アタシはこれで」

マヤ「お疲れさま。――B子、あとでちょっと私の部屋へ」

別レイ「はい」

シンジ「?」

==== 整備長室 ====

マヤ「悪いわね……はい、これ。熱いから気を付けて」

別レイ「ありがとうございます……」

マヤ「さて、と……アスカが訓練中のあなたの様子を気にかけてたんだけど……」

別レイ「はい」

マヤ「気がかりなことでもある?」

別レイ「……」

マヤ「シンジくんのことかしら?」

別レイ「!」

マヤ「そう……」

別レイ「……」

マヤ「……」

別レイ「あの……」

マヤ「……」

別レイ「私が碇くんのことを考えるのは――」

マヤ「……」

別レイ「私がアヤナミタイプだから……ですか?」

マヤ「!」

別レイ「……」

マヤ「確かにあなたたちは、シンジくんのお母さんの情報を元に作られた存在よ」

別レイ「……」

マヤ「だから基本的なモノの考え方や感じ方まで似通ってる可能性はあるわ、人間もミクロに見たら機械ですからね」

別レイ「……」

マヤ「でも、碇ユイは生まれながらにシンジくんの母親だったわけではないわ」

別レイ「……」ハッ

マヤ「だから、あなたの気持ちは、あなたの生まれとは何の関係もないと思うの」

別レイ「でも……」

マヤ「だいいち、レイが……A子自身がそうじゃなかった」

別レイ「でも、A子は――」

マヤ「ううん、最初に働きかけたのはシンジ君のほう」

別レイ「……」

マヤ「それから少しずつ、A子は変わっていったのよ。最初からそうだったわけじゃないの」

別レイ「……」

マヤ「それに、C子やD子も、シンジくんに関心があるように見えないけど」

別レイ「……」

マヤ「あなたが、なぜシンジくんに惹かれたのかはわからない。でも、それはあなた自身の気持ちだと思う」

別レイ「碇くんは……私を見て、A子を思い出して苦しんで……いました」

マヤ「……」

別レイ「だから、私は――」

マヤ「それはシンジくんが決めることだと思うの」

別レイ「……」

マヤ「あなたは、自分の気持ちをちゃんと見つめるべきだわ」

別レイ「……よく、わかりません」

マヤ「あなたはシンジくんのことを考えてる。シンジくんにも、自分のことを考えていてほしい――まずは、そんなと

ころでしょ?」

別レイ「……でも……」

マヤ「焦ることはないわ」

別レイ「……この戦いが終わったら」

マヤ「えっ?」

別レイ「そのときA子が戻ってこなかったら……その時は……」

マヤ「……そう」

別レイ「……」

マヤ「どっちにしても、あなた自身が決めることよ。時間がかかってもいい。よく考えてね」

別レイ「……はい」

マヤ「少しは気がかりが減ったかしら?」

別レイ「そう……かもしれません」

マヤ「そう、よかった。じゃあ、きょうはよく休んで、明日からまた、頑張ってね」

別レイ「はい」

  :
  :

==== 夜 隔離区画 シンジの部屋 ====

シンジ「……」カキカキ

シンジ(うーん……)ハァ

   「碇くん」

シンジ「……綾波?」

レイ「何をしてるの」

シンジ「トウジの宿題がね……試験に出すって言われたんだけど――」

レイ「……ここをこうして――」

シンジ「えっ?」

レイ「――こうすれば解きやすいわ」

シンジ「……ほんとだ……なんで気が付かなかったんだろ」

レイ「……」

シンジ「ケンスケのやつ、綾波を落第させたくないから呼んで来いなんて言うんだよ。全然そんな心配、なさそうだね」

レイ「そう……」

シンジ「……」カキカキ

レイ「……」

シンジ「?……どうしたの?」

レイ「……」

シンジ「……」

レイ「碇くん」

シンジ「うん」

レイ「碇くんは……」

シンジ「うん」

レイ「私が……すき?」

シンジ「……」ハッ

レイ「……」

シンジ「……」

レイ「私は……碇くんといると暖かい気持ちになる」

シンジ「え?」

レイ「それは『すき』という気持ちだと……あのとき葛城一佐が……」

シンジ「……」

レイ「碇くんは――」

シンジ「すきだよ」

レイ「……」ハッ

シンジ「……」

レイ「……本当?」

シンジ「うん」

レイ「いいの?私は――」

シンジ「副司令から聞いた」

レイ「……」

シンジ「それでもいい」

レイ「……」

シンジ「あのとき――あの話を聞いたあとでも――綾波を助けられたんだったら、それでもいいと思ったんだ」

レイ「……」

シンジ「結局、僕が綾波だと思ってたのはB子だったんだけど」

レイ「……」

シンジ「僕は……綾波に、そばにいてほしい」

レイ「……」

シンジ「……」

レイ「……よかった……」

シンジ「うん……僕も、よかった」コツ……

レイ「……」

シンジ「でも……どうしたの?急に」

レイ「わからない……でも……」

シンジ「……」

レイ「不安に……なったの」

シンジ「え?」

レイ「そう……こういうのを『不安』というのね」

シンジ「……」

レイ「でも、もうへいき」

シンジ「そう……よかった」

レイ「宿題……」

シンジ「ああ、そうだった」

レイ「……」

シンジ「……綾波?」

  「……」

  :
  :

――ピピピピピピピ

シンジ「……」カチッ

ピ……

シンジ(朝……?)

シンジ(宿題……終わらせなきゃ)

シンジ(しまった……ノートによだれが……)ムク

    パサ……

シンジ(あれ?)

シンジ(毛布なんて……かけてたかな……)

  :
  :

==== 朝 ハンガーデッキ 管制室 ====

アスカ「おはよ、整備長」

マヤ「ああ、おはよう、大尉どの。――はい、これ。熱いわよ」

アスカ「あんがと」ズズ……

マヤ「子供たちは、きょうは放課後ね」

アスカ「そうよ。それまでにシミュレーターの調整、たのむわよ」

マヤ「わかってる。昨日の降下中の応答も組み込んだから、こんどは実機並みの恐怖が味わえるわよ、あの子たち」

アスカ「悪趣味ね……リツコに似てきたんじゃないの?」

マヤ「それは光栄だわ」

マヤ「アスカこそ、葛城大佐に似てきたんじゃない?」

アスカ「うげっ……それ、全っ然、光栄じゃないわ」

マヤ「もっと素直になった方がいいわよ」

アスカ「うっさいわねー。それより、きのうのアレ、どうだった?」

マヤ「あなたの言うとおりだったわ」

アスカ「やっぱし……」

マヤ「……アスカもそうだったんじゃないの?」

アスカ「違うわよ。アタシは柄にもなく名脇役と決めてたの!」

マヤ「ハイハイ」

アスカ「……アイツがあんまりストレートだったから、なんか張り合うのがバカみたいでさ」

マヤ「そう」

アスカ「おかげでこのザマだけどね」

マヤ「そうだったわね……ごめんなさい」

アスカ「アンタがあやまんなくてもいいっつうの。それに14年も前の話よ」

マヤ「それでも、ごめんなさい」

アスカ「いいわよ」

マヤ「ありがと――ところで、これ」ピッ

アスカ「何?」

マヤ「どう思う?」ピッピッ……

アスカ「……」

マヤ「……」

アスカ「……アイツ……抜け駆けしたわね」

マヤ「やっぱり?」

アスカ「本人に自覚がないのが恐ろしいわね。そういうヤツだけど」

マヤ「フフ……」

アスカ「何よ」

マヤ「こんなことでデータの説明が付いちゃうのがおかしかっただけ」

アスカ「まさか日誌に書いてないでしょうね」

マヤ「書けないわよ、こんな非科学的な話」

アスカ「エヴァだってこの船だって十分非科学的だと思うけど」

マヤ「それとこれとは別。十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかないのよ」

アスカ「都合のいい話ね」ズズ……

マヤ「まあ、シンジくんに聞いてみる価値はあるわね」

アスカ「いいけど、――B子のいないところでやってよね」

マヤ「わかってる」

アスカ「あー、ハンガーもやめた方がいいわね」

マヤ「忘れてた。気を付けるわ」

アスカ「……」ズズ……

マヤ「……あの子――」

アスカ「えっ?」

マヤ「この戦いが終わったらって言ってた」

アスカ「……」

マヤ「……」

アスカ「……終わるわ」

マヤ「アスカ……」

アスカ「終わらせる」

マヤ「……」

アスカ「勝つのよ。絶対に」

マヤ「…そうね」

  :
  ;


(>>81に続く)

とりあえずここまで

>>111から続く

==== 夜 国連軍の基地のひとつ ====

 (着陸しているヴンダー 周囲におびただしい航空機)

==== 講堂 ====

ザワザワザワ……

マヤ「それでは、『消防士作戦』の概要を説明します」

ピッ

マヤ「これは、ニア・フォースインパクトのとき、ネルフ本部地下から出現した物体の外観です。――『死海文書外典』で『黒き月』と呼ばれているものです」

ピッ

マヤ「巨大な回転体形状を呈しています。球体と杯状のものをくっつけたものと言えばいいかしら。最大直径約25キロ、軸方向の長さは約40キロ。本体の大半は成層圏に達しています。――私たちはこれを、ある種の宇宙船と考えています」

シンジ「宇宙船!?」

別レイ「静かに――」

ピッ

マヤ「これは、その『黒き月』内部のミューダーによる透視図に、SS干渉計による活動度を重ねたものです。活動が高いのは2か所。球体と、杯状の部分の、それぞれ中心付近です。私たちは、『杯』が推進機関、『球体』が本体と考えています」

ピッ

マヤ「これが2か所の活動度の推移。私たちは、『黒き月』が出現して以降、ずっと監視を続けてきました。その結果、ここ数週間のうちに、活動が急速に高まっていることがわかったの。一方――」

ピッ

マヤ「これは、月――お月様のことだけど、その超高解像度トモグラフィ画像です。ニアサー前の時代に取得された月震計のデータをマギで再解析したものよ。わかるかしら、ここ――」

(画像が拡大される)

マヤ「『黒き月』に似た構造が埋まっているのがわかります。これは恐らく、『白き月』――『黒き月』と対になる存在と考えられています。さらに、『黒き月』の出現以降、『白き月』付近の地震活動が増えていて、かつ震源が次第に浅くなっています」

ピッ

マヤ「これらのことから、私たちはファイナル・インパクトの危険が迫っていると考えています。今回の『作戦』の目的は、ファイナルインパクトを阻止し、人類の滅亡を防ぐことよ」

ピッ

マヤ「活動の高まりから見て、『黒き月』は、いつ飛び立ってもおかしくない状況にあります。また、仮に飛び立つのを阻止できても、『白き月』の方からの融合を許せば、インパクトを引き起こす恐れがある。このため、『作戦』では、『黒き月』の『中心核』と『機関部』の両方を破壊する必要があります」

ピッ

マヤ「『機関部』は、中央部のくびれた部分を、AA弾により敵A.T.フィールドを中和しつつ、N2弾道弾を集中投下して分断します。弾道弾はヴンダーが現地にて精密誘導します。――ああ、ちなみに、今回の作戦では、AA弾を初めて本格的に実戦投入します」

ピッ

マヤ「『中心核』は、本体の奥深くにあるため、外からの爆撃による破壊が困難です。このため、エヴァとトライデント改からなる工作隊が侵入し、破壊します」

シンジ「シミュレーションでやった洞窟って、これだったんだ……」

マリ「おっ、わんこくん、気が付いたねー。えらいえらい」ナデナデ

シンジ「ちょっ……ちょっと!」

別レイ「……」

ピッ

マヤ「周辺にはネーメズィス・シリーズおよび敵エヴァが展開していると考えられます。これらは、第一次攻撃のN2弾道弾とAAクラスター弾により殲滅し、制空権を確保します。『消防隊』は、その後、超低空から接近、作戦区域に突入します」

マヤ「最後に、攻撃隊の態勢を説明します。攻撃隊総司令として、ヴィレ・AAAヴンダー艦長、葛城大佐」

ミサト「よろしく」

マヤ「工作隊隊長は、現・ヴンダー副長、赤木中佐」

リツコ「よろしく」

シンジ「えっ? リツコさんも行くの?」

マリ「わんこくんが乗せるにゃ」

シンジ「えっ?」

マリ「初号機のプラグ、複座になってたの、気付かなかった?」

シンジ「あ……」


マヤ「『消防隊』副隊長兼エヴァンゲリオン分隊長に、ヴィレの式波大尉」

アスカ「よろしく」ガタン

リツコ「エヴァ分隊はL結界の中和および工作班の護衛を行います。同じく副隊長兼トライデント改分隊長、国連軍のキリシマ中尉」

キリシマ「キリシマです」

シンジ「女のヒトなんだ……」

マリ「あたし達と同級だよ」

シンジ「え?だって――」

マリ「呪縛、受けてないからねー」

シンジ「あ、そっか」

マリ「残念だったねー、わんこくん」

シンジ「そ、そんなこと……」

別レイ「……」

マヤ「トライデント改分隊は、主に破壊工作と補給を担当します。次に、ヴンダー副長として、現・整備長の私、伊吹。後任の整備長として、現・本部技術長、ヨシダ中尉。エヴァ、トライデント改及びキャリアの最終調整指揮を担当。――ヨシダくん――」

ヨシダ「はい、センパイ。本部のヨシダです。よろしくお願いします」

マリ「あっ」

シンジ「どうしたの、真希波」

マリ「ヨシAじゃん」

シンジ「えっ?」

別レイ「……」

マリ「世間は狭いにゃー」ポリポリ

マヤ「その他、第一次攻撃隊として、『黒き月』の可視限界周辺、半径500キロの太平洋上および日本海に、マクラウド提督き下の国連軍機動部隊が展開中です。我々本隊は、最終の統合訓練を行った上で、作戦行動に移ります。概要は以上です。艦長――」

ミサト「ありがとう。――この戦いは文字通り人類初の総力戦となるわ。……みんな、必ず勝つわよ」

パチパチパチパチ

マヤ「詳細の打ち合わせは、この後、部隊のごとに集合して行ってください」

マヤ「では、解散」

==== 数日後 朝 国連軍基地 駐機場 ====

キイイイイイイィィン

シンジ「よいしょ……と……」キュッ

アスカ「シンジ、用意はいい?」

シンジ「いいよ。――このスカーフ、今回はパイロットも巻くんだね」

アスカ「気持ちの問題よ」

シンジ「そうかな……あ、一枚余ったんだけど」

アスカ「バカね。一枚多いのはアンタだけよ」

シンジ「え?それって――」

アスカ「シートの邪魔にならなそうなところにでも結んどきなさい」

シンジ「う、うん」

アスカ「エコヒイキに言っときなさい。手ぇ抜いたら承知しないわよって」

シンジ「そんなこと言われても……」

別レイ「……」

シンジ「そ、そう言えば、今回はエヴァの腕のここんところも、同じ色でペイントするんだね」

   (各機、左上腕部をスカーフと同じ色あいで帯状にペイントされている)

シンジ「このスカーフって、何か謂れがあるの?」

マリ「あるよ。――ヴィレ設立に至った、悲しい物語がね」

シンジ「そうなんだ……」

マリ「北上のお父さんの話にゃ」

シンジ「えっ……」

マリ「アイツ、別に訳もなくわんこくんやB子くんに冷たいわけじゃないんだよ」

シンジ「そうか……僕は……」

別レイ「……」


ヨシダ「ほらぁっ!そこっ!モタモタするなっ!」

マヤ「ヨシAのヤツ、とばしてるにゃー……」

リツコ「おはよう、みんな」

シンジ「おはようございます、リツコさん」

リツコ「よろしくお願いするわ、シンジくん」

シンジ「こちらこそ――あの、リツコさんもプラグスーツなんですか?」

リツコ「私のは、ただのウエットスーツよ」

シンジ「リツコさん、あの――」

リツコ「ええ」スッ

シンジ「ありがとうございます」

リツコ「……本当にいいの?」

シンジ「はい……エヴァにまた乗るって決めたときから……覚悟はしてましたから」

リツコ「……」

シンジ「またエヴァを覚醒させるわけには……いきませんから」カシャ

リツコ「シンジくん……」

シンジ「リツコさんが初号機に乗るのも……そのためなんですよね?」

リツコ「ええ、そうよ。それもあるわね……」

リツコ「パイロットとしてのあなたは、今回の作戦に欠かせない。でも、あなたをファイナルインパクトのトリガーにするわけにもいかない。……許してね」

シンジ「構いません。――いざというときは、遠慮はいりませんから」

リツコ「……」ピッピッピッ

カシャン

リツコ「そのときは……私が見届けるから」

シンジ「お願いします」

アスカ「みんな、用意はいいわね?」

シンジ「いいよ」

マリ「いつでもいいにゃ」

別レイ「問題、ありません」

アスカ「じゃあ、搭乗!」

   (BGM 4EM01_EM20)


キイイイイイイィィン

ガシャン……

シンジ「エヴァ初号機、搭乗完了」

オペレータ『了解。シンクロスタート』

シュオーン……シュオーン……ピキーン

ヴォ―――……

リツコ「各機、状況報告」

アスカ『8+2号機、スタンディングバイ』

マリ『改13号機、スタンディングバイ』

別レイ『改9号機、スタンディングバイ』

キリシマ『トライデント改各機、スタンディングバイ』

リツコ「了解。――司令、『消防隊』発進スタンディングバイ」

ミサト『了解。「消防士作戦」、スタート』

リツコ「了解。――キャリア各機、発進」

ヨシズミ『了解。各機、滑走路へ』

グオオオオオオオオオォォン

シンジ「……」

ゴロゴロゴロ……

シンジ「……」

フイイイイイイイイイィィン……

ヨシズミ『キャリア「ネレイド」、テイクオフ』

ゴオオオオオオオォォ

シンジ(行こう! 綾波……)

ガタガタガタガタ……フッ

キイイイイイイィィン

  :
  :

とりあえずここまで

>>143 投下ミス 以下に差し替え

マヤ「トライデント改分隊は、主に破壊工作と補給を担当します。続いて『消防隊』を現地まで運搬するウイングキャリア隊隊長兼1番機『ネレイド』機長、ヨシズミ中尉」

ヨシズミ「よろしく」

マヤ「次に、ヴンダー副長として、現・整備長の私、伊吹。後任の整備長として、現・本部技術長、ヨシダ中尉。エヴァ、トライデント改及びキャリアの最終調整指揮を担当。――ヨシダくん――」

ヨシダ「はい、センパイ。本部のヨシダです。よろしくお願いします」

マリ「あっ」

シンジ「どうしたの、真希波」

マリ「ヨシAじゃん」

シンジ「えっ?」

別レイ「……」

マリ「世間は狭いにゃー」ポリポリ

>>148

>ヨシダ「ほらぁっ!そこっ!モタモタするなっ!」

>マヤ「ヨシAのヤツ、とばしてるにゃー……」
マヤさんwww

>>159

指摘ありがとう
なんたるイージーミス……

【正誤表】
>>148

× マヤ「ヨシAのヤツ、とばしてるにゃー……」

○ マリ「ヨシAのヤツ、とばしてるにゃー……」

>>156 続きから

==== 数時間後 AAAヴンダー ブリッジ =====

(垂れ込める雨雲の下を飛ぶヴンダーとキャリア・随伴機編隊)

(艦体に打ち付ける雨 時折、稲妻と雷鳴)

ヒデキ「間もなく宇都宮上空」

ミサト「了解。八王子から足柄山地を経て目標へ突入する。全機、低空を維持」

ビーッ

マコト「前方に閃光を確認。ミサイル第一波、着弾しました」

ミサト「消防隊、降下体制」

リツコ『了解。アルファ隊、空対地攻撃ならびに改13号機、降下用意』

機長A『アルファ隊、了解』

マコト「衝撃波、来ます!」

(衝撃波でリング状に薙ぎ払われていく雨雲)

(全容を現す「黒き月」)

ミサト「消防隊はそのまま『本体』へ。本艦は上昇、『機関部』へ向かう」

シゲル「全艦、与圧チェック」

スミレ「上げ舵20」

高雄「機関、全速」

別レイ3(D子)『了解。機関、全速』

==== 新第三東京市 跡地付近 ====

(山地を越えて出現する編隊)

==== 消防隊ベータ隊 エヴァ初号機エントリープラグ内 ====

機長A『キャリア「ガラテア」より「ネレイド」。改13号機、正常に分離』

ヨシズミ『「ネレイド」了解』

マリ『改13号機、着! 中和開始!』

ピキーーーーン …… グワッ

(改13号機から広がる衝撃波)

ピッピッピッ……

マリ『中和完了、結界密度、基準値マイナス0.15!』

リツコ「ベータ隊全機、降下!――頼んだわよ、シンジくん」

シンジ「はい」

ヨシズミ『分離』

ガシュン

シンジ「!」

(眼下に開ける火の海)

シンジ(こんな……)

(燃え盛る瓦礫に交じって巨大な人型がのぞく)

シンジ(これは……みんなエヴァ……なのか?)

ブオオオオオオオオォォ……ガシャン

リツコ「各機、前進!」

(炎の中を駆け抜けるエヴァ、トライデント改 銃器を構え大型のバックパックを装着している)

シンジ「リツコさん」

リツコ「何?」

シンジ「あのエヴァ……ダミーシステム……ですよね?」

リツコ「……そうとは限らないわ」

シンジ「でも!……それじゃあ」

リツコ「あなたの言いたいことはわかるわ。でも、私たちに選択の余地はないの」

シンジ「でも……」

リツコ「消防隊よりヴンダー、外壁に到達。これより爆破し侵入する」

マヤ『ヴンダー了解』

キリシマ『隊長、工作班、準備完了』

マリ『内部に動体反応! パターン青、コード04-F!』

アスカ『トライデントは下がって! 出てくるわよ』

キリシマ『了解。全機後退』

リツコ「起爆!」

ゴッ!

(爆炎を突いて飛来するネーメズィスシリーズ 発砲するエヴァ)

マリ『こんのおおおおぉ!』ダララララララ

別レイ『……』ダララララララ

バキッ ドカッ ガシャン ……

アスカ『……これで全部みたいね、ここは』

リツコ「そのようね。――では、突入!」

マリ『合点承知ぃ!』

リツコ「内部は常に『船尾』が下になるよう重力制御が働いているわ。こことは『下』がほぼ90度違うから注意して」

アスカ『めんどくさいわねー!』

==== 黒き月内部 ====

(開口部からなだれ込むエヴァ)

(内部はほのかに自発光している)

(姿勢を低くし銃器を構えて走るエヴァ、続くトライデント改)

==== 高度15キロ 黒き月『機関部』基部 ヴンダー ブリッジ ====

(黒き月のくびれた部分 焼け爛れ煙を上げる『傷口』)

(おびただしい血のような液体が滴る)

リツコ『消防隊よりヴンダー。予定通り第8層より侵入、「昇降口」を確認。下層へ侵攻する』

マヤ「ヴンダー了解」

ヒデキ「『ヘル・ランス』第2波、来ます!」

ミサト「撃ち方やめ! 安全距離まで緊急退避」

スミレ「了解」

ミサト「ミサイルに位置補正情報を送信。引張応力が最大となる点に誘導」

マコト「了解」

(雲間から上昇してくる巡航ミサイル群)

ミサト「総員、耐ショック、耐閃光防御!」

カッ!

==== 黒き月内部 ====

(通路内を走るエヴァ、トライデント改)

シンジ「天井、高いんですね」

リツコ「そうね。エヴァの活動を前提に作られていると考えてよさそうね」

シンジ「それって、どういう――」

リツコ「これを作った種族がエヴァのようなものを使っていたか、あるいは――」

シンジ「あるいは?」

リツコ「……彼ら自身がエヴァのようなものだったか」

シンジ「!」

ビーーーッ

マリ『動体反応! どこにゃ!?』

(側面の壁の一部、前衛の8+2号機、改13号機が通過したところで崩れ出現するネーメズィスシリーズ)

アスカ『しまった! マナ!』ダラララララ

キリシマ『トライデント、各個に応戦!』

ガガガガガガ……バシュッ バシュッ

ゴッ!

アスカ『――危なかったわね』

キリシマ『大丈夫。各機、損傷ありません』

リツコ「いいわ。前進!」

アスカ・キリシマ『了解』

シンジ「すごかったですね、今の」

リツコ「そうね。AA弾を効果的に使って応戦していた」

シンジ「はい」

リツコ「さすがは旧戦自のエリート部隊ね。彼らを敵に回して防戦する側でなくてよかったわ」

シンジ「確かに……」

==== 太平洋上 青ヶ島近海 ====

(艦艇から射出されるミサイル群)


==== 日本海 佐渡沖 ====

(同様に射出されるミサイル群)


==== ヴンダー ブリッジ ====

ミサト「状況を確認!」

シゲル「了解――主モニターに回します」

(「黒き月」くびれの部分からもうもうとたなびく黒煙 基部にちらちらと赤い炎)

(時折、焼け焦げた肉塊が落下していく)

シゲル「第2波攻撃により、表層の約30%が消失。さらに熱により強度低下が進んでいる模様」

(損傷した壁の断面が泡状に盛り上がり増殖している)

シゲル「傷口を再生しようとしているようです」

ミサト「第3波着弾までの時間は?」

マコト「あと5分」

ミサト「再生の時間を与えてはいけない。主砲塔、発射用意」

ミドリ「発射用意よし」

ミサト「撃ち方、はじめ!」

==== 黒き月内部 ====

(柱から柱へ身を隠しながら前進するエヴァ、トライデント改 時折発砲)

シンジ「このっ!」ダラララララ

シンジ(くそっ……これも……そうなのか!?)

リツコ「シンジくん!」

シンジ「えっ!?」

エヴァ(ネルフ)「……」ドカッ

シンジ「うわっ!」

リツコ「きゃっ!」

改9号機「……」バスッ バスッ

シンジ「B子!」

エヴァ(ネルフ)「……」ガシャアァン

シンジ「ありがとう、B子」

別レイ『躊躇してはダメ』

シンジ「でも……」

(視界の端に動くものを検知し別ウィンドウが開く)

(倒れたエヴァのプラグから、ぐったりしたアヤナミタイプを助け出している別のアヤナミタイプ)

(不安そうにこちらを見上げる)

シンジ「B子は……平気なの!?」

別レイ『平気じゃない……でも、やらなければ、あなたたちが傷つくわ』

シンジ「だけど……」

別レイ『私は私。あの子たちとは違う』

シンジ「……」

別レイ『私は、私にできることをやるだけ』

シンジ「B子……」

リツコ「――シンジくん」

シンジ「……はい」

シンジ(くそっ! どれだけこんなことをすれば気が済むんだ……父さん!)

==== ヴンダー ブリッジ ====

(モニタに走る閃光)

ヒデキ「第3波、命中!」

シゲル「目標周辺に亀裂発生、拡大します」

ミサト「破断するわ、消防隊に警告!」

マヤ「了解。ヴンダーより消防隊――」

==== 黒き月内部 ====

リツコ「――了解。各機、作業を一時中断。衝撃に備えて!」

(爆雷接地作業を中断するトライデント 周囲を警戒しつつ姿勢を低くするエヴァ)

==== 黒き月 遠望 ====

(もうもうと黒煙を上げる「くびれ」部)

(突然「くびれ」部が逆「へ」の字に折れ曲がり、黒煙を引きながら落ちていく)

(破断部を下にするように倒れこむ「黒き月」 すさまじい土埃が舞い上がる)

==== 黒き月 内部 ====

ズズズズズズ……

リツコ「――おさまったようね」

シンジ「思ったより揺れませんでしたね」

リツコ「それだけ重力制御が完璧ということ、そしてその駆動部はまだ生きているということね」

シンジ「はい……」

キリシマ『準備完了。トライデント全機、後退します』

リツコ「いいわ。起爆!」

ゴッ

リツコ「前進!」

==== ヴンダー ブリッジ ====

シゲル「目標、完全に破断しました」

マヤ「予定より早かったですね」

マコト「ああ。爆薬量に5倍の安全率を見込んだだけのことはあったな」

ミサト「それでも、推算値の2倍近い強度があったことになるわ。――『白き月』の状況は?」

ミドリ「引き続き月震が断続的に観測されています。震源は上昇中。ですが、地表に到達するにはまだ数十分から数時間かかる見込み」

ミサト「あとは消防隊次第ね。引き続き周囲を警戒――」

マコト「哨戒機より入電、破断した『機関部』基部に動くものあり」

ミサト「どういうこと?」

ビーーーッ

ヒデキ「動体反応多数! 基部からです! 主モニターに回します」

(亀裂から次々に這い出す白いエヴァ)

マヤ「これは……」

(目はなく赤い唇から歯がむき出している 両刃の剣のようなものを持っている)

マヤ「いままでのネルフのエヴァとは違う――」

(地表に降り立つと背中から鳥のような翼が出現 試すように数回羽ばたく)

カチッ

ミサト「全機、攻撃用意! 目標、白いエヴァ!」

(散開していたVTOL群、『機関部』基部へ転進)

ミサト「長良、緊急離脱! 目標から距離をとって」

スミレ「了解」

ミサト(嫌な予感がする――)

ミサト「『ヘル・ランス』は?」

マコト「第4波接近中」

ミサト「『基部』へ誘導して。艦隊に第5波の発射を要請」

マコト「了解――第4波、着弾します!」

(一斉に舞い上がる白いエヴァ)

(背後で炸裂するミサイル群 末尾のエヴァ数体が巻き込まれる)

ミサト「各砲塔、銃座、迎撃用意!」

(上昇するエヴァ 一直線にヴンダーを目指しているのがわかる)

ヒデキ「白いエヴァ接近、散開します!」

(ヴンダーに群がる白いエヴァ 次々に上昇してきて輪に加わる)

ミサト「対空防御! 艦載機部隊は本艦の射線から待避!」

(一斉に発砲する砲塔銃座)

(主砲を浴びバラバラになりながら落下する白いエヴァ)

マコト「……多すぎる!」

カチッ

マヤ「左舷、弾幕が薄いわ! 何やってるの!」

ガクン!

ミドリ「きゃあ!」

ミサト「状況報告!」

ヒデキ「中央部です! 1機衝突しました!……いえ」

マヤ「……とりついたの? 主機に?」

ミサト「まずい!」

ヴヴヴヴヴヴヴ……

マコト「主機制御システムに未確認データが侵入! 前とは全く別のタイプです!」

シゲル「艦のコントロールが……乗っ取られていきます!……速い!」

ガクン! ガクン!

ヒデキ「さらに2機!」

ブヒュウウウウウン

(ブラックアウトするモニタ群 非常灯の赤い光で満たされるブリッジ)

マヤ「戦闘艦橋からタワーをイジェクト、コントロールをメインから非生体のサブに切り替え! 早く!」

ビーーーーーッ

高雄「どうした!」

別レイ2(C子)『不正なパルスが侵入、主機リモートプラグが強制イジェクト』

高雄「何だと? D子は!?」

C子『気を失っています。呼吸、脈拍は正常』

ミサト「サブから主機の制御は?」

マコト「やってます。ですが――」

(舷窓を眩い光が満たす)

マヤ「――何?」

シゲル「観測室より報告! 翼のようなものが……」

ミサト「何? はっきりおっしゃい!」

シゲル「本艦から……光の翼のようなものが周囲に向かって展開しているそうです……」

ミサト「なんですって……」

(広がる何枚もの翼の先端に取り付く白いエヴァ)

(艦載機からのAA弾で撃ち落とされる白いエヴァ すぐに遊弋している別のエヴァが代わる)

(剣に両断され落ちていく艦載機))

(黒き月『本体』上部へ拘引されていくヴンダー)

とりあえずここまで

>>179の続きから

(巨大な十字架のようなヴンダー 黒き月本体の直上へ)

ミサト「何を始めるというの……」

ガクン!

一同「きゃあ!」「うわっ!」

==== 黒き月 内部 ====

リツコ「本艦とのリンクが切れたわ……」

シンジ「……どういうことですか?」

リツコ「わからない。通信系のトラブルだとしても、重大な事故だわ。あの船の冗長性を考えれば」

シンジ「重大って……」

リツコ「わからないって言ったでしょ。私たちは私たちで任務の遂行あるのみ、よ」

シンジ「そ……そうですね……」

グラッ

シンジ「うわっ!」

リツコ「!……」

アスカ『今の何!?』

リツコ「わからない……でも、急いだ方がよさそうね……」

==== ヴンダー ブリッジ ====

ミドリ「止まった……」

ヒデキ「いや……違う……」

(軋む艦体 ゆっくりと上昇を始める)

(追随してゆっくりと持ち上がる黒き月本体)

マコト「そんな……」

シゲル「この船に……こんな力が……」

ミサト「『ヴンダー』……」

マヤ「えっ?」

ミサト「まさしく『希望の船』だったわけね……『彼ら』にとっては」

一同「……」

(先端部を上にして地表から離れる黒き月 破断した傷口から血のような液体が滴る)

(見えないワイヤに吊られるように安定を求めて揺れる)

ミサト「多摩くん」

ヒデキ「はい」

ミサト「残ってるターゲットマーカーを起動できる? ただし投下せずに」

ヒデキ「できますが……しかし!」

ミサト「みんなごめんなさい。でも、もう時間がない。ミサイル第5波を本艦に誘導するのよ」

ヒデキ「……了解」カチャカチャ

一同「……」

(雲間から上昇してくるミサイル)

一同「……」

マヤ「……あっ……」

(ヴンダーの周囲にいた白いエヴァの一部がミサイルの前に立ちはだかる)

白いエヴァ「……」グシャッ

(ミサイルを正面から受け飛び散る白いエヴァ)

マヤ「自分を……盾にしてるの?……」

マコト「ミサイル、全弾破壊……」

ミサト「くっ!……まだよ! 主機を内部から破壊して――」

高雄「そいつも難しそうですぜ」

ミサト「何?」

(入ってくるC子と数人の技師 その一人に背負われているD子)

ミサト「……あなたたち?」

技師B「すみません……主機の周辺が、植物の根のようなものに覆われて、それで……」

ミサト「追い払われたってわけね」

技師B「はい……」

シゲル「間もなく成層圏を離脱します……」

一同「……」

ミサト「副長」

マヤ「はい」

ミサト「全艦に通達。総員、減圧に備えて与圧服を着用」

マヤ「了解」

ミサト「高雄くん、人手を集めて、主機を破壊する方法を探して」

高雄「了解です。おい、お前ら、行くぞ」

ミサト「日向君は通信の復旧にあたって」

マコト「了解」

ミサト「消防隊だけに頼るわけにはいかない。何としてもファイナルインパクトを防ぐのよ!」

一同「はい」

==== 黒き月 内部 ====

(通路を進むエヴァ、トライデント改)

ピッ

パイロットA「動体反応!」

シンジ「!」

キリシマ「どこ!?」

パイロットA「……下」

キリシマ「えっ?」

パイロットA「下です!地面の……フロアの中にいます!」

ビーッ

[ Blood Type : BLUE ]

 [   WARNING   ]

 [ Possible 16th Angel Verification ]

マリ「使徒!?無いはずの16番目!?」

リツコ「なぜ……」

グオッ

アスカ「何よこれ……」

シンジ「蛇!?」

ビュン

アスカ「くっ!」

バキィン

アスカ「ライフルが!」

ドンッ ドンッ

キリシマ「こいつ……AA弾が効かない!?」

リツコ「トライデントは後退して!」

キリシマ「了解、全機、後退!」

アスカ「一時退却する!距離をとって」

マリ「だめ……来るよ!」

アスカ「分裂した……触手!?」

シンジ「アスカ!」

アスカ(――間に合わない!)

ドカッ

アスカ「きゃっ!――えっ?」

改9号機「……」ズシャッ

シンジ「……B子!」

ドスッ ドスッ

アスカ「B子!」グッ

ビキビキビキ

リツコ「まずい!侵食型だわ!」

ビキビキビキ

別レイ「くっ……うう……」

アスカ「B子!」

―――――
―――


別レイ「……」ハァ…ハァ…

   「……」

別レイ「誰?」

   「……」

別レイ「あなた……誰」

   「……」ニヤリ

別レイ「使徒……私たちが使徒と呼んでいるヒト?」

   「私と……ひとつにならない?」

別レイ「いいえ。私は私。あなたじゃないわ」

   「そう……でもダメ。もう遅いわ」

別レイ「……」

   「私の心をあなたにも分けてあげる」

別レイ「!」

   「ほら……痛いでしょ? 心が痛いでしょ?」

別レイ「痛い……」

   「……」

別レイ「いえ……違う」

   「……」

別レイ「サミシイ……そう、寂しいのね」

   「わからない……でも、それはあなたの心」

別レイ「!」

   「一人でいるのが嫌なんでしょう? あなたたちはたくさんいるのに」

別レイ「……」

   「気付いていたはずよ。自分が何者なのか知ったときから。でもあなたは気付かないフリをしていた」

別レイ「……」

   「大尉や真希波さんや洞木先生と――みんなと、つながっていたいんでしょう?」

別レイ「……」

   「……つながっていられると……思っているんでしょう?」

別レイ「何を……言うの……」

   「気付いていたはずよ」

別レイ「……」

   「そして……もっと醜い心にも」

別レイ「醜い……?」

   「碇くんが初号機に……愛おしそうに触れるのを見て……あなたはどう思った?」

別レイ「!」

   「イヤだと思ったでしょう? A子が憎いと思ったでしょう?」

別レイ「違う……私は……」

   「それがあなたの心」

別レイ「……」

   「悲しみと憎しみと切なさに満ち満ちている……あなた自身の心よ」

別レイ「……」ポタポタポタッ

別レイ「?」

別レイ(また……あのときと同じ)

別レイ(泣いているのは……私……)

―――――
―――


ズシュウウウウッ

マリ「な……何これ!?」

アスカ「B子を!」ダッ

別レイ(大尉!)

ビュッ ガシッ

アスカ「きゃっ!」

ビュッ

マリ「にゃっ!」

ギリギリギリ

アスカ「こいつ……!」

別レイ(あれは……私の心?)

別レイ(みんなとつながっていたい、私の心……)

マリ「姫!ナイフを!」

アスカ「わぁかってるっつぅの!」

ジャキィン

アスカ「くっ!」

ブシュッ

触手「……」キアアアアアアァァ

アスカ「なっ! なんでB子の形に!」

触手「……」シュルシュルシュル……

アスカ(ダメ……やらなきゃ共倒れだわ……!)ワナワナ

ビュッ……ドカッ

シンジ「わっ!」

リツコ「きゃっ!」

別レイ(ダメ……)

シュルッ……

シンジ「……えっ……」

マリ「改9号機のA.T.フィールドが……」

リツコ「使徒を抑え込むつもり!?」

ビュウウウウゥゥ

アスカ「B子! 機体を捨てて逃げなさい!」

別レイ「ダメ……」

アスカ「ダメって、アンタ――」

別レイ「私がここからいなくなったら、A.T.フィールドが消えてしまう……だからダメ」ガシュン フイイイイィン

ピッ

シンジ「リツコさん! これ!」

  [ STATUS:UNIT 09-M ]

  [ MODE-D Activated ]

リツコ「B子……死ぬ気!?」

シンジ「えっ?」

ボコッ ボコッ

マリ「機体が!」

別レイ(あ……)

  :
  :

ピピピ…… チチチ……

別レイ(……鳥?)

別レイ(ここは――)

  :
  :

別レイ『……オタマジャクシ?』

トウジ『そうや。――ホラ、足が生えとるんもおるやろ?』

別レイ『……』

トウジ『そんでな、しまいにシッポがのうなって、カエルになるんや』

別レイ『カエル……』

ケンスケ『あっ、ほらB子、お前の足元』

別レイ『?』

ケンスケ『そこの石の上』

別レイ『……』オソルオソル

カエル『……』ピョン……パシャッ

別レイ『きゃっ』

カエル『……』スイ スイ

別レイ『……』ポタポタポタ

トウジ『わはは……残念やったな。ほれ、手ぬぐい』

別レイ(……)クスッ

ケンスケ『おーい!碇ぃ――!』

別レイ(碇くん?)

ケンスケ『来いよー! 面白いのがいるぜ―――!』

ヒカリ『……。……』

シンジ『……?……。……』

別レイ(そういえば……私……)

シンジ『……、……』

ヒカリ『……』フフフ

別レイ(碇くんに……伝えたいことが……)

―――――
―――

 
カッ……

==== 補給基地の街 あるアパート(職員仮宿舎) ====

ケンスケ「おはよう、委員長」

ヒカリ「あら相田くん、おはよう」

ケンスケ「トウジは?」

ヒカリ「見てないわ。一緒じゃなかったの?」

ケンスケ「俺は今起きたとこだよ。……ところで、それ……アップリケか?」

ヒカリ「ええ。エプロンよ、あの娘たちの」

ケンスケ「へえ。器用だなあ、委員長は」

ヒカリ「あの娘たち、外見が良く似てるから、せめて身に着けるものくらいと思って」

ケンスケ「ふーん。これは鍋にお玉に……」

ヒカリ「D子の。一番、お料理がんばってたから。それに食いしん坊だし」

ケンスケ「ハハハ……このネコはC子だろ?」

ヒカリ「里親探すのが大変だったわね」

ケンスケ「じゃあこれは……」

ヒカリ「ええ」

ケンスケ「あいつらしいな」

ヒカリ「早く……帰ってこないかしら……」

  :
  :

==== 黒き月 内部 ====

ドオオオオオオオオオオオオオォォォ……

リツコ「……」

アスカ『……隊長……』

リツコ「……」

アスカ『リツコ!』

リツコ「……各機、状況報告」

アスカ『エヴァ8+2号機、異常なし』

マリ『エヴァ改13号機、異常なし』

シンジ「……」

アスカ『バカシンジ!』

シンジ「……エヴァ初号機……異常なし」

キリシマ『トライデント改、4号機が脚部に損傷。付いていくのは難しいわ。ほか各機異常なし』

リツコ「了解。4号機は進入口まで後退して待機させて」

キリシマ『了解』

リツコ「――前進」

>>200の続き

==== ヴンダー ブリッジ ====

シゲル「静止衛星高度を通過、なおも加速中」

ミサト「どうやら本当にお月様に向かってるみたいね……。高雄くん、そっちはどう?」

高雄『非常用工具の類は、そこそこ集まってます。与圧服を着て扱うようにできてないのが問題ですが』

ミサト「了解。北上、軍のヒトで宇宙服での作業経験者を至急さがして、高雄くんのところへ」

ミドリ「了解」

マコト「国連防空司令部との通信、つながりました。アンテナを押さえられてるので不安定ですが」

ミサト「よかった! 副長、国連本部を通じて各国に警告。本艦は現在制御不能。消防隊の状況不明。ファイナルイン

パクト発生の恐れあり。全市民は直ちに最寄りのシェルターに待避されたし」

マヤ「了解。……攻撃隊より防空司令部――」

ミサト「消防隊との通信は?」

マコト「まだだめです。侵入口から二つ目の中継器までは信号が通ってますから、その奥のヤツがやられたか、何らか

の妨害があるのかもしれません」

ミサト「そこまで解かっただけでも上出来だわ。引き続き試してみて。ハッキングには気を付けて」

マコト「了解」

==== 地球 ====

(トウジ達が滞在する補給基地の街 鳴り響くサイレン)

(各国の生き残った都市 鳴り響くサイレン 不安げに見上げる人々)

==== 黒き月 内部 ====

(改9号機の爆発による開口部から最下層へ降下する各機)

マリ『全機、降下完了』

リツコ「いよいよね。『中心核』は、このフロアの中心部直下にある。行くわよ」

アスカ・キリシマ『了解』

(周囲を警戒しつつ走るエヴァ、トライデント各機)

(出撃前に取得した透視図を確認しているリツコ)

ピッピッピッ……

リツコ「この辺りね……」

リツコ「『中心核』への進入路は外部からの調査では判明していないわ。ここから中心部までは分厚い多孔質構造になっている。――中尉、センサで弱部を探して爆破用意」

キリシマ『了解』

リツコ「警備がいないのが気になる――周囲の警戒を怠らないで」

アスカ『了解。コネメガネは『北』を、シンジは『南東』を警戒して』

マリ『りょーかい』

シンジ『……了解』

リツコ「――シンジくん、大丈夫?」

シンジ「はい……」

リツコ「気持ちはわかるけど、今は集中力を切らさないで。また犠牲を出すわけにはいかないわ」

シンジ「はい……わかってます。……すみません」

キリシマ『隊長、c-12から下方40度方向に弱線を確認。これより爆雷のセットを開始します』

リツコ「お願い――」

フウッ……

(周囲の照明が、息を着くように何度か暗くなったあと、突然闇に包まれる)

(フロアに、わずかに脈打つような震動があり、静かになる)

アスカ『なっ……なに!?』

キリシマ『トライデント各機、その場で待機!』

アスカ『……』

キリシマ『……』

マリ『……』

アスカ『……リツコ?』

(暗視モードに切り替わるプラグ内)

アスカ『!……初号機はどこ!?』

マリ『……消えた?』

キリシマ『……』

(銃を構えて周囲を見渡すエヴァ、トライデント)

アスカ『……』

ピピピピ……

キリシマ『ど……動体反応!』

アスカ『マナ、爆破作業、一時中断。周囲に警戒しつつ後退』

マリ『どんどん増えるみたいにゃ……』

アスカ『止まるな! 囲まれないように退路を確保!』

マリ『姫! 左!』

アスカ『くっ!』ガガガガガガ

エヴァ(白)「……」ズシャッ

マリ『なに、コイツ……』

アスカ『知るか! マナ、エヴァで援護するからトライデントは移動しながら進入口を探索して。こんなトコであきらめるわけにいかないわ』

キリシマ『了解!』

  :
  :

==== 黒き月 内部 初号機プラグ内 ====

リツコ「うう……」

シンジ「リツコさん! 大丈夫ですか!?」

リツコ「シンジくん……どうなったの?」

シンジ「わかりません……何かにがっちり捕まってるみたいで……」

(周囲の壁が周期的に圧迫してくる 蠕動運動のようにどこかに運ばれている)

リツコ「!」ハッ

リツコ「アスカ!? 中尉!?」

   『……』

リツコ「他のみんなはどうしたの!?」

(突然、機体の自由が戻る 暗赤色の空間を落ちている初号機)

シンジ「うわっ!」

リツコ「きゃっ!」

シンジ(落ちる!)

(周囲は腸か血管内部のような肉質の壁や構造物 眼下に同質の床が迫る)

シンジ「くっ!」カチッ

ブオオオオォッ ……ズシャッ

(スラスタを逆噴射して減速し着地する初号機)

シンジ「……ここが……『中心核』?」

リツコ「……」ピッピッピッ……

(計器で位置と活動度を照合しているリツコ)

リツコ「……そのようね……」

シンジ(ミサトさんとリリスを見に行く途中の景色に似ている……)

リツコ「そうすると……あれが『中心核』なのかしら」

(巨大な半球状の物体 表面に葉脈のような模様 わずかに脈打っている)

シンジ(何かに似ている?……)

リツコ「……繭?」

シンジ「!」ハッ!

シンジ「13号機……」

リツコ「え?」

シンジ「ネルフに捕まってるとき……これに似たものの中で、13号機が……」

リツコ「何ですって!?」

ガクン

リツコ「きゃっ!」

シンジ「うわっ……」

(突然、糸が切れたように跪き、続いて横倒しになる初号機)

ズシャッ

シンジ「つっ……リツコさん?」

リツコ「え、ええ。大丈夫よ」

バシュッ!

シンジ「わっ!」

ガコオオォン

(排除される胸部装甲)

シンジ「ど……どうなってるんだ?……」

リツコ「起き上がれる?」

シンジ「……ダメです、力が入らない感じっていうか……」

リツコ「……」

シンジ「くそっ!どうなっちゃったんだよ?」

リツコ「……シンジくん……」

シンジ「何ですか?……!」

(モニタの端に映る人影 機体近くの床にうつ伏せに倒れている)

(周囲にLCLの水たまり 遠目にもわかる青い髪 第壱中学校の制服)

シンジ「あ……綾波!?」

リツコ「……」

シンジ「……ですよね?……」

リツコ「わからない……少なくともアヤナミタイプみたいだけど」

シンジ「でも!……」

==== 中心核 フロア ====

ドクン…ドクン…ドクン… 

ガシュン

(イジェクトされるエントリープラグ 降りてくるシンジ、リツコ)

(むき出しになった初号機のコアのそばに倒れているレイらしき人物に駆け寄る二人)

タタタタタ……

シンジ「……」ハァハァ

リツコ「……」ハァハァ

シンジ「……綾波?」ソッ

(人物を仰向けにさせ、背中をささえて上体を少し起こしてやる)

リツコ「レイ……なの?」

レイ?「う……」

(少し目を開ける)

レイ?「あかぎ……はかせ?」

リツコ「レイ!」

シンジ「綾波!」

レイ「……いかりくん……」

シンジ「綾波!大丈夫!?」

レイ「う……」

リツコ「外傷は無いようね……」

レイ「わた……しは?……」

シンジ「無理してしゃべらないで。もう大丈夫だから」

リツコ(でも……なぜ?)

パシャ……

(シンジ、リツコの背後で響く水音)

リツコ「え……」

(思わず振り返るリツコとシンジ)

(全身からLCLを滴らせながらコアに片手を預けて立つプラグスーツの女性)

リツコ・シンジ「!」

シンジ(この人……たしか副司令の写真の……)

リツコ「あなたは……碇博士?」

ユイ「ええ……」

リツコ「そんな……だって……」

ユイ「あなたは赤木先生の娘さんね?」

リツコ「!」

シンジ「……」

ユイ「久しぶりね、シンジ」

シンジ「あ……」

(少し後ずさるシンジ)

ユイ「……どうしたの?」

シンジ「い、いや……あの……」

ユイ「……無理もないわね……あなたの記憶は封じ込められているから」

シンジ「……」

ユイ「これなら……どうかしら?」

(シンジの目の前でゆっくりと手をかざすユイ)

シンジ「!」

ユイ「……」

シンジ「かあ……さん?」

リツコ「シンジくん?」

ユイ「……」ニコ

リツコ「あなた! シンジくんに何を――」

シンジ「母さん!」ダダダダ……ヒシッ

ユイ「……」ギュッ

シンジ「うう……母さん……」ポロポロポロ

ユイ「ごめんね……」

リツコ「……シンジくん……」

シンジ「あのとき……母さんがいなくなって……僕は!」ポロポロポロ

ユイ「私も会いたかった……でも、やっと会えた」

シンジ「うう……」ポロポロポロ

ユイ「この時を……待っていたのよ」ソッ

シンジ「……」グスッ……グスッ……

ユイ「シンジ……」

シンジ「かあさん?」

ユイ「……始めましょう」

シンジ「……え?」

ユイ「あなたにしか、できないことがあるの」

シンジ「僕にしか……できない?」

レイ「う……」

リツコ「!……レイ!」

シンジ「……綾波?」

レイ「いかり……くん……」

リツコ「大丈夫!? レイ」

(起き上がろうとするレイを支えてやるリツコ)

レイ「ダメ……」ハァ…ハァ…

リツコ「え?」

レイ「そのひとの……言うことをきいてはダメ」

シンジ「な……何言ってるんだよ、綾波! この人は……僕の母さんなんだよ!?」

ユイ「……」

レイ「…いかくだから……」

シンジ「えっ?」

レイ「ぜんぶ……そのひとの……計画だから……」

シンジ「……え?」

ユイ「……」

  「そうだ」

(奥の暗がりから響く声)

シンジ・リツコ「!」

ユイ「あなた……」

(暗がりから進み出る数多くのアヤナミレイ)

(その奥から進み出るゲンドウと冬月)

シンジ「……父さん!?」

(続いて進みでる人物)

リツコ「か……加地くん!?」

加持「よぉ……元気そうだな、りっちゃん」

(ネルフの制服 相変わらず髪を後ろで束ねている リツコの記憶にあるより額が後退している)

リツコ「何故!?……あなたは!」

加持「……前にも言ったろう? 俺は真実を知りたかっただけさ」

シンジ「加持さん……」

ゲンドウ「私は……この時を待っていた……長いことな」

(少しユイに歩み寄り止まる)

ユイ「シンジ……」

シンジ「……」

ユイ「すべての魂は浄化され、人類はより神に近い存在へと統合されるの」

シンジ「浄化って……何をしようとしてるの!? 母さん!」

  :
  :

==== ヴンダー ブリッジ ====

シゲル「依然加速中……間もなく月への中間点です」

ミサト「もし月面でのランデブーを目指しているなら――」

シゲル「!……加速停止、減速に転じました!」

ミサト「――やはり、か……」

シゲル「この率で減速を続けると、月面で相対速度がほぼゼロになります」

ミサト「思った通り……当たってほしくなかったわね。もう一つの『月』のほうは?」

ミドリ「震源、さらに上昇中。旧タブハベースの月震計は先ほどから振り切れてます」

ミサト「まっすぐ上がってくるのね……」

マヤ「防空司令部より入電。推計で全住民の14%が避難を完了。なおも増加中」

ミサト「この時間で1割の大台に乗るとは、驚異的ね」

ヒデキ「あの……避難して……助かるんですか?」

ミサト「……」

ヒデキ「そもそも、ファイナルインパクトって、いままでと何が違うんです?」

ミサト「……規模、ね」

ヒデキ「規模? でも、シェルターに避難って――」

一同「……」

ミサト「多摩くん……ファーストインパクトがどんなものだったかは、知ってるわね」

ヒデキ「?……はい」

ミサト「あれと……逆のことが起こるのよ」

ヒデキ「逆って……まさか!」

ミサト「……」

ヒデキ「でも……それじゃあ!」

ミサト「上部マントルより上に、形のあるものは残らないでしょうね」

ヒデキ「だったら、何のために!」

ミサト「落ち着きなさい。……物事は、すべてがシナリオ通りに行くとは限らない」

ヒデキ「……」

ミサト「生きるか死ぬかの瀬戸際で生き残るのは、最後まで生き抜こうとする者だけなのよ」

ヒデキ「……はい」

一同「……」

  :
  :

とりあえずここまで

==== 黒き月 中心核 ====

ドクン…ドクン…ドクン…

シンジ「母さん!」

ユイ「この日を待っていたわ……約束の時を」

ゲンドウ「そう……約束の時……そして」

(ユイに相対する)

ゲンドウ「最後の……選択の時だ」

リツコ「選択?」

ユイ「……あなた?」

(少し歩み寄るゲンドウ)

ゲンドウ「終わりにしよう、ユイ」

ユイ「!」


ゲンドウ「人類の補完……しかし、それは群体としてのヒトの滅亡に他ならない」

ユイ「……」

ゲンドウ「もう、終わりにしよう……そして帰ろう」

ユイ「……」

ゲンドウ「裁きを受け、償おう」

ユイ「……」

ゲンドウ「そしてもし、許されるのなら……まだ時が残されていたなら……」

ユイ「……」

(バイザーをはずすゲンドウ 目には疲れと老いの影)

ゲンドウ「もう一度……シンジと……三人で暮らそう」

シンジ「!」

リツコ「……司令……」

(リツコに支えられて立ち上がっているレイ)

レイ「……」

シンジ「父さん……」

ユイ「……それは……できない」

シンジ「……母さん?」

(目を見開くシンジ)

ユイ「後戻りすることは……いいえ、立ち止まることさえ、私たちヒトにとっては死を意味する」

ゲンドウ「……」

ユイ「『計画』を成し遂げることだけが……未来に続く道」

ゲンドウ「……」

一同「……」


ゲンドウ「どうしても行うのか……『計画』を」

ユイ「あなたにも、わかっているはずよ」

ゲンドウ「……」

ユイ「……」

ゲンドウ「……残念だ」スッ

カチャ

リツコ・シンジ「!」

レイ「……」

(ユイに銃を向けるゲンドウ)

ゲンドウ「こうするしかないと、わかっていた」

ユイ「……」

ゲンドウ「お前が初号機のコアに消えた日……『計画』は、もう後戻りができないところまで来てしまっていることを

知った」

ユイ「……」

ゲンドウ「途中でやめるわけには行かなかった。やめれば、そのために人類が滅んでしまう恐れさえあった」

ユイ「……」

ゲンドウ「あとはこの日に、お前と相見えることだけが……残された選択の機会だった」

ユイ「……」

ゲンドウ「シンジ……レイ……すまなかったな」

シンジ「!」ハッ

レイ「……」

ゲンドウ「……ユイ、今一度問う」

ユイ「……」

ゲンドウ「……」

ユイ「……ごめんなさい、あなた」

ゲンドウ「そうか……」

ユイ「……」

一同「……」

ゲンドウ「さらばだ、ユイ…」

ユイ「……」

ゲンドウ「次の世があるなら……また会おう」カチッ

(ポケットの中の何かを押すゲンドウ)

ユイ「……」

ゲンドウ「……!?」

ユイ「……」

冬月「コードは変えさせてもらったよ」

ゲンドウ「冬月……」

冬月「碇……残念だ」

パン!

……ドサッ

シンジ「父さん!?」

ゲンドウ「……ふゆ……つき……」

(ゲンドウの腹部に広がる血だまり))

ユイ「……」

冬月「お前の考えはわかっていたよ。――始めからな」

ゲンドウ「ユイ……残念……だ……」

ユイ「あなた……」

ゲンドウ「……」

ユイ「あなたは……受け入れられないとわかっていた……」

(ゲンドウの傍らに跪くユイ)

ユイ「あなたは……優しいから……」

(暗い顔でゲンドウの亡骸を見下ろすユイ)

シンジ「父さん……」ワナワナ

リツコ・レイ「……」

  :
  :

==== ヴンダー ブリッジ ====

ピッピッピッ…… カタカタカタ……

ミドリ「!……艦長!」

ミサト「どうしたの」

ミドリ「月震の震源、ごく浅く……」

ミサト「どういうこと?」

ミドリ「計算上は、深さゼロキロメートル、タブハ観測所、信号途絶!」

ミサト「――お出ましね」



==== 月面 旧タブハベース ====

(無音の月面)

(地表の岩盤が十字に割れてめくれ上がる)

(おびただしい岩屑を弾き出しながら出現する『白き月』。『黒き月』と同一形状、同一規模)

(全長が浮かび上がったところで空中に静止する『白き月』)

==== 黒き月 中心核 ====

ドクン…ドクン…ドクン…

ユイ「もう時間がない……」

シンジ「……」

ユイ「最後の儀式、そしてファイナルインパクト」

シンジ「……」ハッ

ユイ「あなたにしか、できないことよ」

シンジ「母さん……何言って――」

ユイ「二つの『月』、そして、エヴァ『最終号機』によって――」

シンジ「エヴァ最終号機?」

ユイ「そう――」

プシュウウウウウウゥゥゥ……

(背後の巨大な繭がはじけ、LCLが雨のように降り注ぐ)

(中から姿を現す巨大な白い人型)

==== 黒き月 中心核 ====

ドクン…ドクン…ドクン…

ユイ「もう時間がない……」

シンジ「……」

ユイ「最後の儀式、そしてファイナルインパクト」

シンジ「……」ハッ

ユイ「あなたにしか、できないことよ」

シンジ「母さん……何言って――」

ユイ「二つの『月』、そして、エヴァ『最終号機』によって――」

シンジ「エヴァ最終号機?」

ユイ「そう――」

プシュウウウウウウゥゥゥ……

(背後の巨大な繭がはじけ、LCLが雨のように降り注ぐ)

(中から姿を現す巨大な白い人型)

>>227 投下ミス

ユイ「あなたが乗るのよ」

シンジ「で……でも!これは……」

シュウウウウゥゥ……

シンジ(まるで……綾波じゃないか!)

(上半身を半ば仰向けにそびえている白い巨体)

(装甲をまとわない素体 その姿はレイ)

==== 月面 白き月 中心核 ====

(黒き月と同様の繭 同様にはじけLCLをまき散らす)

(現れたのは巨大なカヲル)

==== 黒き月 中心核 ====

シュウウウウゥゥ……

シンジ「……」

ユイ「あなたが乗るのよ。……その子と一緒に」

シンジ「えっ?」

ユイ「その子が……約束の地へ導いてくれる。――ここへ導いてくれたように」

レイ「!」ハッ

シンジ「あ……綾波!?」

レイ「……」

(目を見開くレイ)

シンジ「綾波……『待ってる』って……」

レイ「違う……」

ユイ「その子を責めてはダメ。その子自身も知らなかったことよ」

シンジ「綾波……」

レイ「……」

(力なく首を振る)


リツコ「そんなことは、させないわ!」

シンジ「リツコさん!」ハッ

ユイ「……」

リツコ「そんなことは、させない。もしシンジくんがエヴァを――」

ユイ「その『首輪』のことを言っているの?」

リツコ「!」

(シンジの背後からシンジの首元に延びる指)

ピッ……カシャン……

シンジ「なっ……!」

(思わず首元を抑えるシンジ 取り外されるDSSチョーカー)

(振り返るシンジ 目を見開く)

リツコ「な……渚くん!?」

シンジ「カヲルくん!……どうして!?」

カヲル「……」

(手の中の首輪を見つめるカヲル)

カヲル「これは僕を恐れたリリンが作ったものだからね……」カシャン

(首輪を自分の首にはめるカヲル)

シンジ「そうじゃなくて!……君は……あの時……」

カヲル「……あの時?」

シンジ「……」

カヲル「何?」

シンジ「死んだんじゃ……なかったの?」

カヲル「……知らないな」

シンジ「えっ……」

カヲル「用事がないなら、僕はこれで」スッ……

シンジ「カヲルくん!!」グイッ

カヲル「……」ジロッ

シンジ「!」ビクッ

カヲル「気安く触らないで欲しいな……」パッ

(冬月たちの方へ歩み去るカヲル)

(呆然と見送るしかないシンジたち)


ユイ「シンジ……あなたにも、わかるはずよ」

シンジ「……」

ユイ「『彼ら』は、わかっていた。命がいかに稀なものかを。知性がいかに儚いものかを。そして、知性こそが、真に
受け継がれるべきものであることを」

シンジ「……」

ユイ「私たちには時間がない。資源とエネルギーをほしいままにして、知性を謳歌できる時代は終わろうとしている。『彼ら』もそうだった」

シンジ「……」

ユイ「『彼ら』は、わかっていた。でも、成し遂げられなかった――だから、私たちに託したの」

シンジ「……」

ユイ「これは、私たち人類にとって――いえ、地球の生命にとって、ただ一度のチャンスなの」

シンジ「……」

ユイ「人を超えた神に近い存在へと、その姿を変える――この宇宙の終焉すら超越した存在――『彼ら』が望んだ悠久の知性へと」

シンジ「……」


ユイ「あなたにしか、できないことなのよ」

シンジ「わからない……わからないよっ!」

ユイ「逃げてはだめ。ヒトの危機から。何より自分から」

シンジ「どうして……どうしてなんだよ!」

ユイ「……」

レイ「……」ニギッ

シンジ「!」

レイ「碇くんの……思うようにすればいい」

シンジ「……」

レイ「碇くんが……どんな答えを出しても……私は、助けるから」

シンジ「綾波……」

レイ「助けるから」

シンジ「……」

レイ「……」

ユイ「シンジ?」

(ゆっくりとユイを振り返るシンジ)

シンジ「僕は……乗らないよ」

ユイ「……」

シンジ「母さんの言ってることは正しいんだと思う……でも……僕は嫌だ」

ユイ「……」

シンジ「母さんは平気なの? そんな神様みたいになることが、いいことなの?」

ユイ「……」

シンジ「父さんを死なせてまで……」

ユイ「シンジ……」

シンジ「僕は帰るよ……僕がトリガーなら、僕が望みさえしなければいい」

ユイ「……」

冬月「ユイくんがいなければ、初号機は動かんぞ」

リツコ「……いいえ」

冬月「赤木君……」

リツコ「初号機は、戦自の……トライデントの制御システムを応用した強化外骨格モードがある。現在のバッテリー残量なら、5分は活動できる」

冬月「……」

リツコ「少ないけど、N2爆雷もある。ここを半壊させて……それから本隊に合流するには十分ですわ」

冬月「……」

シンジ「副司令と加持さんも、早く逃げてください。そこのアヤナミたちも――」

レイたち「……」

シンジ「……ありがとう、綾波」ニギッ

レイ「碇くんなら、こうするだろうと思っていた」

シンジ「ありがとう」

レイ「……」

ユイ「……」

シンジ「リツコさん、行きましょう」

リツコ「ええ」

冬月「……」

リツコ「これで……いいのね?」

シンジ「はい」

(レイの手を握る手に少し力がこもる)

レイ「……」

(初号機に向かって歩き出す3人)

冬月(第三の少年……)

(歩いていく3人)

冬月(その娘が……君の希望か…)カチャ…

パン!

……ドサッ

シンジ「……?」

レイ「……」ゴトッ

リツコ「レイ!」

シンジ「あ……あやなみ?」

レイ「……」

(脇腹に広がる赤い染み)

シンジ「綾波!……リツコさん! 血が……」

リツコ「……副司令!」

冬月「……」

シンジ「綾波!?……ねえ!……どうして――」

ユイ「……」

シンジ「やっと会えたのに……こんなのってないよ……」

リツコ「!?」

ズズズズズズ……

冬月「……これ程とはな……ユイ君……」

ユイ「はい」

(最終号機の胸がゆっくり上下する 瞼が少し開く)

シュオオオオオオオオォォ

(最終号機の息遣いが深く大きくなる)

カヲル「……」

(何かを感じて天井を見上げるカヲル)




==== 月面 白き月 中心核 ====

シュオオオオオオオオォォ

(息づき、目を開ける巨大なカヲル)

==== 黒き月 内部 ====

ピッ!……バシュッ

(突然、DSSチョーカーが作動し、首をはねられるカヲル)

ドサッ……ゴトッ

リツコ「!」

冬月「向こうも目覚めたようだな……」

シュオオオオオオオオォォ

グググググ……

(最終号機の胸郭が開き、赤い球体がシンジ達の目前に露出する 少し粘液質のLCLが滴る)

シンジ「うっ……うう……」

レイ「……」

リツコ「シンジ君……」

ユイ「シンジ……私がおこなった、コアへのダイレクトエントリー」

シンジ「……」

ユイ「こんどは、あなたの番よ」

シンジ「嫌だ……」

ユイ「私にもできた。あなたにも、きっとできるわ」

シンジ「嫌だ!」

冬月「最終号機は起動した」

シンジ「!」ハッ

冬月「君が……起動させたんだよ」

(おそるおそる巨大なレイを見上げるシンジ)

ユイ「もう、あなたが乗らなくても、ファイナルインパクトだけは起きる。――補完が行われないだけ」

リツコ「そんな!」

ユイ「補完を成し遂げるには……あなたが乗る必要があるのよ」

シンジ「……」

冬月「その娘も――」

シンジ「……」

冬月「息があるうちに最終号機に乗せれば――ともに補完される望みはある」

シンジ「えっ?」

冬月「代わりはいる――どちらでも、君の好きにすればいい」

シンジ「そんな……」

レイたち「……」

冬月「加持君……『鍵』を」

加持「はい」

(進み出る加持 ゲンドウの亡骸の衣服をさぐり『鍵』を取り出す)

(シンジ達のところへ歩み寄る加持)


リツコ「加地君!……あなたって人は!!」

加持「……」

シンジ「加地さん……」

加持「『ネブカドネザルの鍵』だ、シンジ君」

シンジ「鍵……」

加持「これを持って乗りたまえ。あとは……エヴァがやってくれる」

シンジ「もうイヤだ……加持さんまで……僕にどうしろって言うんですか!」

レイ「う……」

シンジ「! 綾波!」

レイ(わかって……いるから……)

シンジ「しゃべっちゃ駄目だよ、綾波!」

レイ(その……ひとは……)

シンジ「えっ?……」

(加持に向き直るシンジ)

(表情を変えずに一瞬片目をつぶる加持)

シンジ「加持さん……」

加持「これは俺にはできない……君にしかできないことだ」

シンジ「……」

加持「……頼む」

(『鍵』を差し出す加持 おずおずと受け取るシンジ)

シンジ「……」

(手の中の『鍵』を見つめるシンジ)


加持「……?」

(ふと、レイの傷を見咎める加持)

加持「……シンジくん」

シンジ「?……はい」

加持「レイちゃんは……俺たちが預かってもいい。君は、あそこにいる誰かに案内を頼むこともできる」

シンジ「え?……」

レイたち「……」

加持「君次第だ」

シンジ「……」

(レイの血に染まった自分の掌を見つめるシンジ)

シンジ「……はい……綾波を……お願いしま――」

(ふと、シンジの腰にすがるレイの右手に力がこもるのを感じるシンジ)

(はっとして、苦しみにゆがむレイの顔を見やる)

レイ「……」

加持「シンジ君」

シンジ「……やっぱりいいです」

加持「……」

シンジ「綾波に……頼みます」

加持「そうか」

リツコ「シンジくん……」

シンジ「すみません、リツコさん――加持さん、お願いします」

加持「ああ」

(立ち上がるシンジ レイを抱き起す加持)

(最終号機のコアの前に立つ、レイを抱えた加持)

(ぐったりと抱かれたレイの手を握っているシンジ)

(レイをコアに押し当てる加持 飲み込まれていくレイ)

シンジ「さようなら、リツコさん、加持さん……母さん」

(コアに体を押し当てるシンジ ずぶずぶともぐりこんでいく)

(少し脈打つコア 胸郭が閉じていく)

リツコ「……」

加持「……」

ユイ「……」

冬月「……」

コオオオオオオオォォ 

(目を見開き咆哮する最終号機 体を起こす)

(背中から伸び上がる光の翼)

==== 月面 白き月 中心核 ====

(巨大なカヲルのコアに飲み込まれていくカヲルたち)

(胸郭が閉じ、巨大なカヲルが咆哮する)

(背中から伸び上がる光の翼)



==== 白い光の中 ====

シンジ「……」

シンジ(ここは?)

シンジ(綾波……そうだ! 綾波!?)

(近くに倒れた姿勢で浮かんでいるレイ 抱き起そうとするシンジ)

(ふと気配を感じ見上げる 光に包まれたヒトが立っている)

シンジ「……」

   「『鍵』を……」

シンジ「!」



シンジ(この感じ……母さん? ……綾波?……いや……)

シンジ「あなたは?」

(長い髪が風に揺れているようだがはっきりしない)

   「『鍵』を……」

シンジ「でも……これは……」

   「いいの」

シンジ「……」

   「……」

シンジ「……」スッ

   「……ありがとう」ニコ

シンジ「!」

(光を増し、砕け散る人物)

パアアアアァァン……
  : 
  :


==== 黒き月 中心核 ====

コオオオオオオォォォ

(繭から這い出す最終号機)

ズルッ……ズシャ

(と、突いた左腕が肩口からはずれ脱落する)

冬月「……」

(眉をひそめる冬月)

オオオオオオオオオォォ

(のけぞる最終号機 残った右手で顔を押さえる)

(顔の皮膚がずるりと剥けて筋肉組織が露わになる)

ウオオオオオオオオオォォン……ブワッ

(咆哮しながら、突如、真上に飛び立つ最終号機)

ドガッ……バキバキバキ

(天井を突き破って飛び去る)

==== その一つ上の階層 ====

ゴゴゴゴゴゴ……

アスカ「な……なに!?」

バガアアアァン……バキバキバキ……

(組み合うエヴァ、トライデントの背後を突き抜けていく巨大な白い影)

アスカ「な……何なのよ、アレ……」

マリ「姫~!!」

アスカ「何よ!……あ……」

(目の前で崩壊していくネーメズィス・シリーズ、白いエヴァ)

キリシマ「……どういうこと?」

アスカ「知らないわよ……」ハッ!

アスカ「マナ! コネメガネ!」

キリシマ「何?」

マリ「何にゃ?」

アスカ「にゃって……バカ! その穴から『中心核』に降りるわよ!」

マリ「おー、すっかり忘れてたにゃ」

キリシマ「りょ……了解。 でも……」

アスカ「わかってる! でも確かめなきゃいけないでしょ!? それに……」

マリ「わんこくんたちが待ってるかも?」

アスカ「そういうこと! 行くわよ!」

マリ「らじゃ!」

キリシマ「トライデント全機、突入!」

==== ヴンダー ブリッジ ====

(黒き月 頂部中央付近を突き破って飛びすぎる白い人影)

ミサト「……なに?あれ!?」

マコト「ヒト!?……いや……エヴァ!?」

マヤ「でも、あの翼は!」

シゲル「なんか……レイちゃんに似てないか!?」

別レイ2(C子)「……」

(まっしぐらに月に向かう最終号機 首に入った亀裂がひろがり頭部が脱落する)

(くるくると回りながら加速に取り残され次第に離れていく頭部)

(なおも飛ぶ最終号機)

==== 黒き月 中心核 ====

冬月「……どういうことだ……」

ユイ「……『鍵』……ですね……」

冬月「なに?」

加持「……」

ユイ「『鍵』に……何をしたの?」

加持「何も」

冬月・ユイ「……」

加持「碇司令は、考え抜いておられた……それだけのことです」

ユイ「そう……」

(寂しげにゲンドウの遺体を見下ろすユイ)

リツコ「……?」ザザ…

アスカ『リツコ!? リツコ、聞こえる!? バカシンジ――』

リツコ「アスカ! こちら赤木。感度良好」

グシャッ!

(閉じかかっていた天井の穴をこじ開け、降下してくるエヴァとトライデント)

ブオオオオオオォォ……ズシャッ

アスカ『リツコ! よかった!』

リツコ「……」

アスカ『ねえ……バカシンジは!?』

リツコ「……行って……しまったわ」

アスカ『行ってしまったって……アンタ何言って――』

リツコ「あなたも……見たんじゃないの?」

アスカ『見たって……え?……』

リツコ「……」

アスカ『そんな……』

グラグラグラ……

アスカ『!』

(一瞬、照明がゆらぎ、人工重力が弱くなる)

マリ『姫! 気圧がさがってるよ!』

リツコ「そろそろまずいわね。脱出するわよ。救命ポッドと……遺体袋を」

アスカ『了解……マナ!』

キリシマ『了解』

ゴソッ……バシュウウウウウウウゥ

(展開する円筒形の救命ポッド)

リツコ「さあ、あなたたち」

レイたち「……」ゾロゾロゾロ・・・

(立ち尽くす冬月の手から銃を抜き取る加持)

加持「……行きましょう」

冬月・ユイ「……」

加持「あなたたちには、最後まで……見届ける責任がありますから」

冬月「……そうだな」

ユイ「……」

(レイたちに続くユイ、冬月)

グラグラグラ…

(震動が収まり、人工重力が消え自由落下状態となる 周囲のものが浮かび上がる)、

加持「……」

(ゲンドウ、続いてカヲルの遺体を袋に収める加持)

(遺体袋をポッドに収め、エアロックを閉じる)

(無重力の中、床を蹴って初号機に向かう加持、リツコ)

加持「りっちゃん! 動かせるのか!?」

リツコ「飛ばすだけならね」

(前席に加持、後席にリツコ)

ピッピッピッ……グオオオオオォン……

リツコ「いいわ、アスカ。道中、アヤナミタイプの生き残りがいたらできるだけ救助して」

アスカ『責任持てないわよ――出発!』

マリ『ちょっと待った、姫!』

アスカ『何よ』

マリ『敵のエヴァは勝手にバラバラになっちゃったよ? アタシらのはなんで平気なの? 乗ってても大丈夫?』

アスカ『知らないわよ、そんなこと。アタシたちのは、「純正」じゃないからじゃない?』

マリ『わお、姫、あったまいい!』

アスカ『バカ言ってないで、こんなところにはサッサとおさらばするわよ!』

マリ『りょうか~い』

==== ヴンダー ブリッジ ====

シゲル「減速が……止まりました。現在、慣性飛行中」

ヒデキ「白いエヴァが!」

(窓外、もがきながら崩壊していく白いエヴァ)

ミサト「どうなってるの……」

シゲル「『黒き月』の外層でも崩壊が起きているようです。外壁が剥離していきます」

ミサト「アポトーシス……」

シゲル「えっ?」

ミサト「……と、言っていいものかしらね……」

フイイイイイイィン

マヤ「コントロールが戻った!」

ミサト「いいわ、全艦、緊急発進! 消防隊の救助に向かう!」


C子「艦長――」

ミサト「何?」

ザザ……

高雄『艦長! やっと根っこを取っ払いましたよ! これから主機をぶっとばして――』

ミサト「ストーーーーップ!!」

高雄『へっ!?』

ミサト「たったいま船のコントロールが戻ったわ。爆破は中止! 各自持ち場に戻ってちょうだい」

高雄『りょ……了解。……なんだよ、もうちょっとだったのになあ』ワハハ

シゲル「艦長! 減速が中断したので、本艦は『黒き月』もろとも月面に衝突するコースに乗ってます。軌道変更しないと――」

ミサト「わかってるわ。でも、消防隊の救出が先よ」

シゲル「しかし――」

ミサト「C子、すぐ主機に向かって。消防隊を救出したらフルパワーで軌道変更するわ」

C子「はい」タッタッタッ……

ミサト「高雄くん、いまC子を向かわせたわ。リモートプラグ再接続準備」

高雄『了解!』

ピーーーーーッ

マコト「消防隊のテレメトリが復旧!」

ミサト「外壁が壊れたせいね。副長、呼びかけてみてちょうだい」

マヤ「了解。――ヴンダーより消防隊――」

カチッ

ミサト「ヨシダくん」

ヨシダ『はい、艦長』

ミサト「消防隊の収容準備。ハンガーデッキの空気とLCLを回収。急いで!」

ヨシダ『了解!――ほらっ! 急げ!』

==== 月面 ====

(タブハベースの残骸を頂部からふるい落としながら上昇する『白き月』)

(真上から飛来する最終号機 『白き月』中心部を突き破って侵入する)




==== 白き月 中心核 ====

(光の翼を広げて起き上がる巨大なカヲル)

(と、突如、左半身が切り裂かれ消失する)

(笑みを浮かべたままくずおれる巨大カヲルの右半身 断面からおびただしいLCL)




==== 月面 白き月 下部 ====

(『白き月』の最下部中央を突き破って、そのまま地中へ飛び込む最終号機)

(上昇が止まり 上下に貫通した傷口から 水風船がはじけるように崩壊する『白き月』)

(バラバラになりながら地表に落下する)


==== ヴンダー ブリッジ ====

(ついに外壁が崩壊する『黒き月』 組織間の結合が切れ、内圧で無数の破片に壊れながらゆっくりと飛び散る)

リツコ『……ダー、こちら消防隊』ザザ……

マヤ「センパイ!……こちらヴンダー、感度良好」

リツコ『ありがとう、マヤ。ビーコンを捉えたわ。そっちに向かいます』

カチッ

ミサト「リツコ! そっちの信号もよくとれてるわ。こちらからも回収に向かいます」

リツコ『了解。それと、捕虜がいるの。救命ポッドの収容準備を』

ミサト「わかったわ……長良! 発信源に向かって」

スミレ「了解」

  :
  :

==== 月の裏側 ====

(おびただしい岩屑を伴って地中から飛び出す最終号機)

(そのまま一直線に宇宙へ飛び上がっていく)



==== ヴンダー ====

(破片をかいくぐって『黒き月』本体へ接近するヴンダー)

マリ『見えた! おーい!ここだよー!』

ミサト「あれだわ!船を寄せて」

スミレ「了解」

ミサト「ヨシダくん、ハンガーデッキのドアを開放して」

ヨシダ『ですが、空気とLCLのリサイクルがまだ――』

ミサト「時間がない。残りは、やむを得ないわ。やって」

ヨシダ『りょ……了解』

ミサト「リツコ! エヴァは右舷、トライデントは左舷のハンガーに入って」

リツコ『了解』

(開いていくハンガーデッキの外部ドア)

(残っていた空気が吐き出され、何かの紙片がくるくると回りながら宇宙空間へ漂いだす)

(LCLが沸騰しながら凍りつく)

(それぞれのハンガーに泳ぎ着くエヴァとトライデント)

ミサト「リツコ?改9号機は?」

リツコ『……艦長……』

ミサト「……」

リツコ『改9号機を――未帰還機として報告します』

ミサト「……そう……」

一同「……」

マヤ「……そんな……」

ミサト「……感傷に浸るのは早いわ。ここを脱出できなければ私たちも同じよ」

マヤ「……はい」

ミサト「リツコ? ハンガーの気密をチェックする時間がないわ。ポッドを固定したらパイロットはコックピットで待機」

リツコ『了解』

ミサト「エヴァもトライデントもしっかりつかまって。長良! 進路変更、マイナス110!」

スミレ「了解!」

ドオオオオオオオオオオォォ……

(急速に迫る月面 地平線に向かって艦首を起こすヴンダー)

シゲル「月面との交角、84度……81度……」

ミサト「くっ! さっきまで、あんなに重いものをぶら下げて飛んでたくせに……」

(減速するヴンダーの背後を月面に向かって落下していく『黒き月』の破片の雲)

==== 主機制御室 ====

ピピピピ……

技師C「機関長!」

高雄「どうした」

技師C「プラグ深度増大……このままでは危険です!」

高雄「何だと!? おいC子!」

C子『問題ありません……まだ行けます』

高雄「しかし!」

==== ブリッジ ====

ドオオオオオオオォォ……

シゲル「高度20……17……」

スミレ「ぐううううううっ!」

(我知らずペンダントを握り締めるミサト)

ミサト(……お父さん!)

==== 主機制御室 ====

ピピピピ……

技師C「プラグ深度、110をオーバー! もう危険です!」

高雄「C子! おい、C子!」

C子『……』




==== ブリッジ ====

シゲル「高度5000……4500……4200……」

ミサト「……降下が……止まった?」

==== 月面 ====

(数十キロ四方に降り注ぐ『黒き月』の残骸)

(無数のクレーターが穿たれ、膨大な放出物が空に投げ上げられる)

(放出物を背景に月面すれすれを飛び過ぎるヴンダー)




==== ヴンダー ブリッジ ====

ミドリ「……助かった?」

シゲル「高度3800……現在、月面に沿って慣性飛行中」

スミレ「やった……」ハァ…ハァ……

ミサト「ありがとう、みんな……」

==== 主機制御室 ====

プシュ―――

技師C「C子! しっかりしろC子!」

別レイ2(C子)「……う……」

高雄「C子!」

C子「……機関長……」

高雄「よかった! どうなることかと思ったぞ!」

C子「船は……」

高雄「ああ」ニコ

C子「そう……よかった……」

高雄「よく頑張ったな、C子」

C子「……ありがとう……」ニコ

==== ブリッジ ====

スミレ「軌道修正、終了」

シゲル「地球への自由帰還軌道に乗りました。放っておいても月を半周して地球に戻ります」

ミサト「ありがとう。副長、今のうちに各部の点検。地球への帰還に備えて」

マヤ「はい、艦長」

ビーーーッ

ミサト「私です」

ヨシダ『こちらハンガーデッキ。格納庫の与圧完了。各パイロットを収容します』

ミサト「わかったわ。攻撃隊長が下りてきたらブリッジに寄越して」

ヨシダ『了解』

【正誤表】

>>276

×ミサト「わかったわ。攻撃隊長が下りてきたらブリッジに寄越して」

○ミサト「わかったわ。消防隊長が下りてきたらブリッジに寄越して」

(月の裏側へ回り込むヴンダー 地平線に『黒き月』の物とは別の放出物の柱がせりあがってくる)

(伸びていく柱の延長線上を遠ざかっていく光)

マコト「あれは……」

リツコ「『エヴァ最終号機』よ」

ミサト「リツコ!」

リツコ「……シンジくんは、あそこよ。……レイも」

ミサト「何ですって……」

一同「……」

リツコ「『人類補完計画』……」

ミサト「えっ?」

リツコ「私たちにとって、最初で最後のチャンスだったと……碇博士は」

ミサト「碇……博士って……」

リツコ「私たちがしてきたことは正しかったのか間違っていたのか……でも……それを知る機会は永遠に失われた」

ミサト「……」

(眼下を行き過ぎる月面 大小無数のクレーター)

(地平線から昇る三日月状の地球)

マコト「ブラックアウト終了。艦長、防空司令部とつながりました」

ミサト「了解。……副長、本部へ状況報告。ファイナルインパクトは回避。『黒き月』は破壊。現場にてネルフ関係者24名を逮捕。当方、エヴァ1機とパイロット1名をロスト」

マヤ「了解――あの……1名……ですか?」

ミサト「ああ、そうね。……では、付け加えて。『行方不明者 2名』」

マヤ「艦長……」

一同「……」

(赤い地球を見上げるミサト)

ミサト「帰りましょう……」

一同「……」

ミサト「もう、あの大地を赤く染め続けるものは、いないわ」

リツコ「ミサト……」

ミサト「海も……地球も……いずれ青さを取り戻すでしょう」

(侘しく笑うミサト)

リツコ「そうね……」

(自由帰還軌道を離脱、地球に向け加速するヴンダー)

  :
  :
  :
  :

とりあえずここまで

==== 白い光の中 ====

パアアアアアアァァン……

シンジ「!」

(砕け散る人物、思わず腕で頭をかばうシンジ)

シンジ「……」

(おそるおそる体をほどくシンジ)

シンジ(え?……)

シンジ(これで……終わり?)

シンジ「……」ハッ

シンジ「綾波!」

レイ「……」ハッ… ハッ…


シンジ(くそっ! 僕も綾波も助からないと思ったのに……)

シンジ(これじゃあ綾波が……)

シンジ(こんなことなら、加持さんに預けていればよかった……)

シンジ(どうすればいいんだ……)

シンジ「……?」

(かすかに周囲の空気が震えるのを感じるシンジ)

シンジ(な……なんだ?)

カッ!

シンジ「うっ!」

シンジ「……」

(徐々に薄れていく光)

シンジ「……え?……」

  :
  :

==== 地球 小田原付近 ====

(街の一角 ボール遊びをしている女の子)

(見守っている母親らしき中年の女性)

少女「あっ……おばちゃん!」

アスカ「こんにちは」

少女「こんにちは!」

アスカ「アンタ、うまいじゃない」

少女「えへへ……すごいでしょ」

母親「……あらアスカ、ずいぶん早かったわね」

アスカ「ちょっち手違いがあってね。……久しぶりね、ヒカリ」

母親(ヒカリ)「あなたも元気そうね。あがってちょうだい」

アスカ「ええ」

  :
  :

==== 居間 ====

アスカ「……」

(トウジの遺影に手をあわせるアスカ)

アスカ「さて、と……」

ヒカリ「ありがとう。……お砂糖、いる?」コト……

アスカ「いいわ。……ケンスケは?」

ヒカリ「きょうは朝から平塚。もう帰ってくると思うわ」

アスカ「休みだってのに……相変わらず忙しそうね」ズズ…

ヒカリ「仕方ないわ。私だって似たようなものだし」

アスカ「アンタ、そんなのんきなこと言ってていいの? 2回もダンナに先立たれたらシャレになんないわよ」

ヒカリ「あのねぇ……縁起でもないこと言わないでよ」

アスカ「じょ……冗談よ」

トトトト……

少年「おかん、ほな、そろそろ行ってくるわ……あっ」

アスカ「こんにちは。お邪魔してるわよ」

少年「こっこんにちは」

アスカ「部活?」

少年「うん」

アスカ「がんばんなさい」

少年「うん……行ってきます」

ヒカリ「気を付けてね」

トトトト……バタン

アスカ「……さっきの、バカジャージの真似してるつもり?」

ヒカリ「中学にあがってからよ」

アスカ「ふーん。……やっぱり意識するのかしらね」

ヒカリ「本人は全然覚えてないはずなんだけどね。亡くなったとき、まだ赤ん坊だったから」

アスカ「……ケンスケは何も言わないの?」

ヒカリ「見守ってくれてる。やっと実の親子になれたと思えるようになってきたところだったから、はじめはショック受けてたけど」

アスカ「そりゃそうよね。……それにしても、あの子が中学生かあ。早いわね」

ヒカリ「そうね……」

  :
  :

======== 

♪――あなたが護った街の どこかで

(再建が進む街の一角 休みなく働く重機の一団)

 今日も響く 健やかな産声を

(産院 新生児を取り上げているサクラ)

 聴けたなら きっとよろこぶでしょう

(中学校のグラウンド ボールを追いかける子供たち)

 私たちの 続きの足音――

(息を切らして立ち止まるヒカリの息子)

  :
  :

==== ヒカリの家 居間 ====

ズシン……ビリビリビリ……

(重低音に続いて窓ガラスを揺らす空震)

ヒカリ「きゃっ!」

アスカ「なっ……何!?」



==== 家の前 ====

ガチャン……バタバタバタ……

ヒカリ「大丈夫!?」

少女「お母さん! あれ!」

(山の方に立ち上る土煙)

アスカ「箱根の方だわ――」


トゥルルルルル……ピッ

アスカ「どうしたの!?」

士官A『お休みのところ申し訳ありません、大佐。先ほど、芦ノ湖の北方に隕石が落下――』

アスカ「隕石? スペースガードの連中は何やってんのよ!」

士官A『小さいのと、太陽の方角から真っ直ぐ接近したので発見が遅れたようです』

アスカ「小さいって……どのくらいのことを言ってんの? 何であんな衝撃があんのよ?」

士官A『――ちょっとお待ちを……どうした? ボソボソ』

ヒカリ「隕石?」

アスカ「そうらしいわ」

士官A『ボソボソ……何?』

アスカ「どうしたの?」

士官A『――わかった、すぐ解析に回せ――すみません。一台だけ、落下の瞬間を捉えてたんですが、その……』

アスカ「何よ」

士官A『一瞬なんですが……多角形状に光が拡がる様子が写っており――』

アスカ「何ですって!?」

士官A『……』

アスカ「A.T.フィールド……」

ヒカリ「えっ?」

アスカ「ただちに報道管制。アタシが行くわ。河川敷に降りられると思うから、そこへお願い」

士官A「了解」

アスカ「ケガ人がいるかもしれない。救護班を同乗させて。――ええ、それでいいわ。アタシが行くまで不用意に近づかないように。半径10キロを飛行禁止区域を設定。部外者を近づけないで。いいわね?」

ピッ

ヒカリ「アスカ?」

アスカ「ごめん、アタシ行かなきゃ。ケンスケによろしく言っといて」

ヒカリ「……気を付けてね」

少女「おばちゃん、バイバイ!」

アスカ「バイバイ。また今度ね」タタタッ……

  :
  :

==== 芦ノ湖(跡地)北岸 ====

キイイイイイイイィィン……

(落下地点を旋回するVTOL 機体にUNのマーキング)

(下方に目をこらすアスカ達)

(北方には『黒き月』下半部の残骸)

(北西には、馬蹄形カルデラの中央丘から白煙を棚引かせる崩壊した富士山)

(真っ青な駿河湾まで続く泥流堆積物 あちこちに緑が芽吹いている)

アスカ「よりによって『爆心地』の真ん中に落ちるとはね……」

救護員A「大佐、あれ……」

アスカ「なに……あっ」

(小クレーターの中心に人 こちらを見上げて両手を大きく振っている)

(その隣に倒れている別の人影)

アスカ「何であんなところに……降りるわよ!」

パイロット「了解」

キイイイイイイイィィン……

(降下する機体)

(駆け寄ってくる人物 銀髪、プラグスーツ)

救護員A「あれは……」

アスカ「なっ……」

アスカ(……渚カヲル!?)

(奥に倒れている人物 髪が蒼いのがわかる 目を見張るアスカ)

アスカ「エコヒイキ!?……でも……」

救護員A・B「……」

(土埃を巻き上げ降下するVTOL)

アスカ「……どうして?……」

(着地するVTOL ハッチを開け飛び降りるアスカ)

(VTOLに駆け寄ってきた人物、立ち止まり目を見張る)

   「ミサト……さん?」

アスカ「ばっ……バカシンジ!?」

シンジ「アスカ!?」

アスカ「アンタ……どうしたのよ、その髪!」

シンジ「え……えっ」

(頭に手をやり、続いて前髪を引っ張って凝視するシンジ)

シンジ「な……なんだこれ!?」

アスカ「それに目も!」

シンジ「えっ?」

(瞳が赤いが本人はわからない)

シンジ「あっ……アスカこそ、どうして!?」

アスカ「ハァ……またこれを言わなきゃならないとはね……」

シンジ「……アスカ?」

アスカ「あれから14年たってるってことよ」

シンジ「じゅう……よねん?」

アスカ「もうエヴァもなければエヴァの呪縛もない」

シンジ「……」

アスカ「どうでもいいけど、アタシをあんな大酒のみと勘違いしないでくれる!?」

シンジ「ごっ……ごめん!……でも……」

アスカ「で?エコヒイキは?」

シンジ「えっ?……そっ、そうだ! 綾波を助けて!」

アスカ「助ける?」

シンジ「さっき副司令に撃たれて……それで……」

アスカ「さっき?……っと、そんなこと言ってる場合じゃないわね。C子! D子!」

シンジ「C……子?」

救護員A(別レイ2・C子)「ええ」

シンジ「あの……ホントに?」

アスカ「ああもう! そういうのは後! 早く!」

シンジ「う、うん」

C子「行きましょう」ガタン

  :
  :

レイ「……」ハッ… ハッ…

シンジ「綾波!」

アスカ「驚いたわね……」

C子「ちょっと見せて……?」

(跪き、血に染まった制服の腹部を調べるC子)

ガシャ……

レイ「うっ……」

シンジ「C子! 何して――」

C子「これ……」

(銃痕のある制服のポケットから取り出されるS-DATプレーヤーの残骸)

シンジ「えっ?」

C子「これが致命傷を防いでくれたみたいね」

シンジ「え……あっ……」

(加持がレイを引き取ろうとした理由に思い当たるシンジ)

C子「それでも、出血が多いから、早く手当をするに越したことはないわ。D子――」

D子「いいわ」

(ストレッチャーを展開するD子)

(レイを乗せるC子、D子)

(少し離れたところで何か連絡を取っているアスカ)

D子「あなたもよ」

(別のストレッチャーを展開するD子)

シンジ「僕はいいよ……」フラッ

シンジ「……っと……」

アスカ「馬鹿ね、医者の言うことは聞きなさい」

D子「無理しないで」ニコッ

シンジ「ごめん……」

   :
   :

(一同を収容し上昇するVTOL)

キイイイイイイイィィン……ドオオオオオオォォ

(高度を上げながら小田原方面に飛び去る)

(遠巻きに旋回していた随伴機、合流して飛び去る)

とりあえずここまで。

【正誤表】

>>142

× リツコ「エヴァ分隊はL結界の中和および工作班の護衛を行います。同じく副隊長兼トライデント改分隊長、国連軍のキリシマ中尉」

○ マヤ「エヴァ分隊はL結界の中和および工作班の護衛を行います。同じく副隊長兼トライデント改分隊長、国連軍のキリシマ中尉」

==== 午後 国連軍の関連病院 ====

コンコン

シンジ「はい」

ガチャッ

(入ってくるC子)

C子「どう?碇くん」

シンジ「うん、僕はもう大丈夫」

C子「そう」

(シンジの口内や下まぶたを診察するC子)

C子「……」

シンジ「なに?」

C子「瞳の色が戻ったのね」

シンジ「えっ?」

(思わず目のあたりに手をやるシンジ)

C子「髪の毛はどうかしら」サワ……

(シンジの毛髪をかき分けてみるC子 根元が黒くなっている)

C子「こっちも、しばらくすれば元に戻りそうね」

シンジ「そっか」ホッ

C子「残念?」

シンジ「……なんで?」

C子「せっかくA子とお揃いになったのに」

シンジ「なっ何言ってるんだよ!」

レイ「?」

C子「フフフ……A子はどう? 痛みは?」

レイ「大丈夫」

C子「そう……よかった。思ったより傷が浅かったし、直りも早いと思うわ。もっとも、傷は少し残ってしまうと思うけれど」

レイ「問題ないわ」

C子「――不思議ね」

シンジ「何が?」

C子「あのころ、碇くんとはほとんど話をしたことがなったのに。A子はもちろんだけど」

シンジ「そういえばそうだね」

レイ「……」

シンジ「……C子もD子も……お医者さんなんだよね?」

C子「ええ」

シンジ「すごいな、と思って」

C子「……」

シンジ「C子?」

C子「みんな先生たちのおかげ」

シンジ「先生?」

C子「トウジ先生、ヒカリ先生、相田先生……」

シンジ「……」

C子「あのとき保護された子たちも含めて、私たち24人のアヤナミレイのために、あやゆることをしてくれた」

シンジ・レイ「……」

C子「授業だけじゃない。中学を卒業した後も、進学のこと、人権の確立、社会への適応――おかげで、私たちのほとんどが仕事を得て、あるいは家庭をもつことができた」

シンジ「そっか……」

レイ「……」

C子「あなたたちも、またお世話になると――」

コンコン

C子「――どうぞ」

ガチャッ

D子「お客さんよ」

アスカ「お邪魔するわよ」

マリ「おっひさー、わんこくん」

シンジ「真希波!」

マリ「ちっちっちっ、今は真希波じゃないんだな」

シンジ「……って、あの…」

アスカ「今はヨシダよ」

マリ「姫から聞いてないの? ここにいる元パイロットは全員既婚者だよ」

シンジ「そっ…そうだったんだ……」

マリ「姫んとこの嬢ちゃんなんて別嬪さんだよ~」

シンジ「えっ?……そ、そう……」

アスカ「……なに赤くなってんのよ、バカシンジ」

シンジ「えっ?」

アスカ「うちの娘に手ぇ出したら殺すわよ」

シンジ「出さないよ!」

マリ「ほらほら姫~、レイくんが睨んでるよ~」

アスカ「えっ?」ドキッ

レイ「?」

マリ「ウソウソ」クスクス

アスカ「人をからかうんじゃないわよ、バカメガネ!」

シンジ「真希波がヨシダ……ヨシダって……え?……もしかして」

マリ「もしかしなくてもヨシAだよ」

シンジ「ホント?」

アスカ「まったく……嫁も嫁ならダンナもダンナよね。未だに会う人会う人に若女房って自慢してんだから」

シンジ「若女房?」

マリ「だって歳より14は若く見えるんだもーん」

シンジ「あ……あはは」

アスカ「初めのころなんて『奥さまは16歳』とか抜かしてたのよ、あのバカ」

マリ「あー! 人のダンナをバカって言うなー!」

一同「……」クスクス……

シンジ「そういえばさ、みんなこの辺に住んでるの?」

アスカ「なんで」

シンジ「違うの? だって14年も経ってるっていうのに――」

アスカ「……きょうは特別」

シンジ「特別?」

アスカ「きょうというか、まあ明日だったんだけど」

一同「……」

アスカ「14年目に集まろうと決めていたの。――ミサトの発案でね」

シンジ「ふーん、そうなんだ……。すごい偶然だね」

アスカ「……そうね」

シンジ「そうだ、ミサトさんは?」

一同「……」

シンジ(あ……あれ?)

アスカ「……会いに行く?」

シンジ「えっ?」

アスカ「ミサトに」

シンジ「う、うん……」

レイ「私も行く」

アスカ「アンタは安静にしてなさい。よくなったら連れていくから――」

C子「無理に体を動かさなければ大丈夫よ。車いすを用意するわ。リクライニングできるのを」

アスカ「ホントに大丈夫?」

C子「ええ」

アスカ「――ならいいわ。行きましょ」

シンジ「うん……」

シンジ(でも……どこへ?)

  :
  :

==== 夕暮れ 共同墓地 ====

(見渡す限りの墓標の群れ)

(花を供えるシンジ)

(花をもった手を車いすから伸ばすレイ 花を受け取って代わりに供えてやるシンジ

シンジ「ミサト……さん……」

プシュッ トクトクトク……

(ミサトの墓標に缶ビールを注ぐアスカ)

アスカ「ほら、ミサト……シンジとエコヒイキが帰ってきたわよ」

(レイの車いすを押しているC子)

(居並ぶリツコ、マヤ、マコト、シゲル、D子)

アスカ「アンタの言った通りになったわね……」

シンジ・レイ「……」

アスカ「ミサトはね、死んだのを誰も見てないと言って、アンタ達のお墓を建てさせなかったの」

シンジ・レイ「……」

アスカ「ミサトと加持さんは、世界中を飛び回ってたわ。復興の支援のためにね。――ふたりが事故で亡くなったのが、つい半年前」

シンジ・レイ「……」

アスカ「アンタ達が帰ってくるって、本気で信じてたかわからないけど……実際、アンタ達はいつまでたっても帰ってこなかったし……」

シンジ・レイ「……」

アスカ「でも、楽しみにしてたのよ、ミサトは。14年目には、ネルフ時代からの仲間と集まってぱぁっとやりましょうって……前にアンタと再会したのが14年目だったからって……」

一同「……」

(ミサトの墓の近くには、加持、別レイ、トウジ、ゲンドウ、冬月、カヲルの墓)

(それらにも花を供えていくシンジ、レイ)

シンジ「あの……母さんは……」

リツコ「拘置所よ」

シンジ「……」

リツコ「副司令と碇博士は、殺人罪と殺人予備罪に問われて……最終的に死刑判決を受けたの。副司令は間もなく亡くなったけど、碇博士は『計画』の全容解明のために、今も――」

シンジ「そうですか……」

リツコ「会いに行ってみる?……お母さんに」

シンジ「……はい…」

リツコ「……」

シンジ「たった一人の……肉親ですから」

リツコ「わかったわ。手配してあげる――そのうちね」

シンジ「……はい」

レイ「……」

(花を供え終わって空を見上げるシンジ)

シンジ「やっと……終わったんだね……」

レイ「……いいえ」

シンジ「……」

レイ「やっと……始まるの」

シンジ「綾波……」

リツコ「そうね」

シンジ「リツコさん?」

リツコ「大変なのはこれから」

リツコ「もしかしたら、補完計画が正解だったのかもしれない」

一同「……」

リツコ「私たちは、沈みかけている船に乗っていて、船底から湧いてくる水に、見て見ぬ振りをしているだけなのかもしれない」

一同「……」

リツコ「それでも私たちは、この人の世を未来へつないでいかなければならないのよ」

一同「……」

シンジ「……最終号機の中で――」

リツコ「えっ?」

シンジ「『ヒト』に……会ったんです。光に包まれていて……よく見えなかったんですけど」

リツコ「ヒト?」

シンジ「『鍵』が……細工されているとわかっていたみたいで……なのに、これでいいと言ったんです」

リツコ「もしかしたら、『彼ら』も、最後まで迷っていたのかもしれないわね」

シンジ「……」

リツコ「今となってはわからないけれど」

一同「……」

(ふとB子の墓碑銘に目が留まるシンジ)

 [ REI AYANAMI ]

 [    ― 2029   ]

シンジ(そっか……)

シンジ(……とうとう、ちゃんと名前を呼んであげることができなかったな……)

シンジ「……」ハッ

シンジ(『レイ・アヤナミ』……)

(そっとシンジの手を握るレイ はっとして振り返るシンジ)

レイ「……どうしたの?」

シンジ「ごめん……」

レイ「……」

シンジ「あのとき君が撃たれて……死んじゃってたら、どうしようと……」

レイ「……」

シンジ「そうならなくてよかった」

レイ「そう……」

シンジ「……ごめん」

レイ「ううん……いいの」

アスカ「アンタ、なんで急にそんなことを――」

(シンジがB子の墓標を見ているのに気づくアスカ)

アスカ「――ふーん」

シンジ「……」

アスカ「アンタ、別姓希望なんだ」

シンジ「えっ?」

アスカ「……ちゃんとしなさいよ?アンタ」

シンジ「なっ……何言ってるんだよ!」

レイ「……なに?」

シンジ「べっ別に……」

アスカ「冗談よ」クスッ

シンジ「あ……アスカ!」

アスカ「だいいち、そういうこと決めるには早いでしょ、アンタは」

マリ「そうそう、レイくんにもうちのダンナみたいなナイスガイが現れるかもしれないしねー」

シンジ「真希波まで!」

アスカ「まあ、何を決めるにしても、いろんなこと経験して、いっぱい勉強して、いろいろ悩んで、よーく考えて決めなさい。わーかいんだから!」

シンジ・レイ「……」

リツコ・マヤ「……」クスクス……

アスカ「な……何よ?」

マヤ「ううん、別に」クスクス

リツコ「自覚がないみたいね……」クスクス

(吹きすぎる一陣の風)

C子「帰りましょう。……冷えてきたわ」

リツコ「そうね…」

(墓地の一角に駐機したVTOLに向かう一同)

==== VTOL機内 ====

フイイイイイイィィン

(VTOLに乗り込む一同 レイの車いすを固定しているC子とD子)

(操縦席で計器をチェックしているアスカ 何か交信しているマリ)

リツコ「そういえば、あなたたちの帰還祝いをしなくちゃね」

(後席でベルトの上からレイの車いすに毛布を掛けてやっていたシンジ)

シンジ「えっ?」

レイ「……」

マヤ「そうですね」

アスカ「そうだ、エコヒイキ?どうせだから、アンタが料理作りなさいよ」

レイ「……私が?」

アスカ「28年前にできなかった食事会」

レイ「……」

シゲル「そりゃいい考えだ」

D子「でも、祝う相手に作ってもらうんじゃあべこべね」

マリ「そんなことないにゃ」

D子「……」

マリ「あたしの仲間うちじゃ、誕生日の人がみんなにおごることになってるよ」

D子「……なぜ?」

マリ「そうすれば周りが絶対に忘れないからだよ。『お前、今度誕生日だったよなー?』ってな感じで」

リツコ「フフフ……それは合理的ね」

アスカ「ま、どっちにしろ、すぐには無理ね。アンタの快気祝いと一緒か……ねっ、エコヒイキ?」

レイ「……」

アスカ「エコヒイキ?」

(眠っているレイ その隣席で少し口を開けて眠っているシンジ)

マリ「……早っ!」

アスカ「よく寝られるわねー、こんなうるさいトコで……」

マコト「仕方ないよ。何せ14年分だったからな」

アスカ「そういえばそうね」

マヤ「アスカ」ヒソ……

アスカ「なに」

マヤ「B子のこと……シンジ君には」

アスカ「……もっと落ち着いてからにしましょ、そういうことは」

マヤ「そうね……」

リツコ「B子がどうしたの?」

アスカ「ううん、こっちのこと。――みんなベルトした? 出発するわよ」

リツコ「ええ」

キイイイイイイイイィィン

(ED:『Beautiful World』)

――もしも願い 一つだけ 叶うなら

 君の側で眠らせて――

(離陸するVTOL)

(眠っているシンジとレイ 手は繋がれたまま)

  :
  :
  :
  :

おしまい

MEMO2

【元ネタとなった既存SS】

・前スレ(シンジ「何ですか? これ」ミサト「教科書よ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1380811845/))222~224あたりの元ネタ
 http://home.att.ne.jp/theta/nac/novel/contribution/snif05.html

・本スレ115~116あたりの元ネタ
 http://ayanamiten.web.fc2.com/salvage_site/low/ra/ra10.html

【その他】

既存の新劇場版「Q」後日談SS(本スレとは無関係)
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1702391

激しく乙

>>328
ありがとう

【正誤表】

>>15

×(アヤナミレイ(仮)の指に目を留めるシンジ)

?(アヤナミレイ(仮)の指が目に止まるシンジ)



>>72

×(ふと地平線上の土煙に目が止まる)

?(地平線上の土煙が目に留まる)



>>292

×
アスカ「(中略)半径1 0キロを飛行禁止区域を設定。部外者を近づけ ないで。いいわね?」

?
アスカ「(中略)半径1 0キロを飛行禁止区域に設定。部外者を近づけ ないで。いいわね?」



>>306

×
C子「(中略)私 たち24人のアヤナミレイのために、あやゆる ことをしてくれた」

?
C子「(中略)私 たち24人のアヤナミレイのために、あらゆる ことをしてくれた」



>>315

×
(ミサトの墓の近くには、加持、別レイ、トウ ジ、ゲンドウ、冬月、カヲルの墓)

?
(ミサトの墓の近くには、加持、別レイ(アヤナミレイ(仮)

【修正】
>>319

(修正前)
アスカ「アンタ、別姓希望なんだ」
シンジ「えっ?」
アスカ「……ちゃんとしなさいよ?アンタ」
シンジ「なっ……何言ってるんだよ!」
レイ「……なに?」


(修正後)
アスカ「アンタ、別姓希望なんだ」
シンジ「えっ?」
アスカ「だってエコヒイキのお墓に「アヤナミ」って書かせるんでしょ」
シンジ「えっ?いや、その……」
アスカ「ちゃんとしなさいよ?アンタ」
シンジ「なっ……何言ってるんだよ!」
レイ「……なに?」

【修正】
>>275

(修正前)
高翌雄「よく頑張ったな、C子」

C子「……ありがとう……」ニコ



(修正後)
高翌雄「よく頑張ったな、C子」

C子「……あの……」

高翌雄「どうした?」

C子「こんなとき……どんな顔をしたらいいか、わからないんです」

高翌雄「難しく考えるなって。嬉しかったら笑やぁいいんだよ!」ポンポン

C子「……」

高翌雄「さて、と。立てるか?」

(C子に手を差し出す高翌雄 おずおずとその手を握るC子)

C子「……」

(ふと、その手を見つめるC子)

高翌雄「何だよ、ちゃんとそういう顔、出来るじゃねえか」

C子「えっ?」

高翌雄「ハハ……ほら、起こすぞ?」

C子「はい」

saga忘れたので再修正orz

【修正】
>>275

(修正前)
高雄「よく頑張ったな、C子」

C子「……ありがとう……」ニコ

(修正後)
高雄「よく頑張ったな、C子」

C子「……あの……」

高雄「どうした?」

C子「こんなとき……どんな顔をしたらいいか、わからないんです」

高雄「バカだな。難しく考えるなって。嬉しかったら笑やぁいいんだよ!」ポンポン

C子「……」

高雄「さて、と。立てるか?」

(C子に手を差し出す高雄 おずおずとその手を握るC子)

C子「……」

(ふと、その手を見つめるC子)

高雄「何だよ、ちゃんとそういう顔、出来るじゃねえか」

C子「?」

高雄「ハハ……ほら、起こすぞ?」

C子「はい」

正誤表が表示不正だったので再掲orz

【正誤表】

>>15

(誤)(アヤナミレイ(仮)の指に目を留めるシンジ)

(正)(アヤナミレイ(仮)の指が目に止まるシンジ)

>>72

(誤)(ふと地平線上の土煙に目が止まる)

(正)(地平線上の土煙が目に留まる)



>>292

(誤)
アスカ「(中略)半径10キロを飛行禁止区域を設定。部外者を近づけ ないで。いいわね?」

(正)
アスカ「(中略)半径10キロを飛行禁止区域に設定。部外者を近づけ ないで。いいわね?」

【正誤表】前回切れてしまった分

>>306

(誤)
C子「(中略)私 たち24人のアヤナミレイのために、あやゆる ことをしてくれた」

(正)
C子「(中略)私 たち24人のアヤナミレイのために、あらゆる ことをしてくれた」

>>315

(誤)
(ミサトの墓の近くには、加持、別レイ、トウ ジ、ゲンドウ、冬月、カヲルの墓)

(正)
(ミサトの墓の近くには、加持、別レイ(アヤナミレイ(仮)

【正誤表】前回切れてしまった分

>>318

(誤)(ふとB子の墓碑銘に目が留まるシンジ)

(正)(アヤナミレイ(仮)

【正誤表】イコール記号が悪さしてるのかな……orz

>>315

(正)
(ミサトの墓の近くには、加持、別レイ(アヤナミレイ(仮)=B子)、トウ ジ、ゲンドウ、冬月、カヲルの墓)

>>318

(正)(アヤナミレイ(仮)=B子の墓碑銘が目に留まるシンジ)

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom