男「うわー!!壁ジジイが出たぞ!!逃げろ!!」
女「だからやめよって言ったのに!!ごめんなさい!!」
友「うるせー!!とにかく走れ!!」
爺「待て!!毎日毎日我が家の壁に落書きしよって!!今日という今日は許さん!!」
男「待たないよーだ!明日はうんこ描いてやる!!」
爺「くそ....全く、あいつらの親の顔が見てみたいわい」
婆「まあまあ、いいじゃありませんか。子供たちも遊び場がなくて退屈なんですよ」
爺「何を言っている婆さん。ここはワシとお前の家なんだぞ!何処ぞのガキに荒らされてたまるかってもんだ!」
婆「そう言わずに素直になればいいのに...本当は賑やかで嬉しいんでしょ?」
爺「嬉しいことあるか。誰がこの壁の落書きを消していると思っているんだ!」
婆「消してる時に絵を見て笑ってるじゃないですか。全く、素直じゃないんですから」
爺「んなことないわい。いいからとっとと落書きを消すぞ。忌々しいことこの上ない」
婆「はいはい」
翌日
爺「ん?気配がする。ちょっと行ってくる」
婆「はいはい。相変わらずそういう勘だけは鋭いんだから」
爺「こらー!!またお前らか....ん?」
母「申し訳ございません!うちの息子が御宅の壁に落書きしていたそうで!」
男「....」
爺「....うむ」
母「本日学校から連絡がありまして、そちらに伺わせていただきました。誠に申し訳ございません!」
男「ごめんなさい....」
爺「うむ....後の二人はどうした」
母「友くんと女ちゃんは後ほど伺うと聞いております」
爺「そうか....だがもういい」
母「....」
爺「もうしないと言うのであれば許そうと言っている。各々親に叱られたことだろうし反省の色は見えた」
母「ありがとうございます」
爺「二人にもそう伝えておいてくれ。わざわざうちに来なくていいと」
母「はい、分かりました」
爺「それじゃ...またな、坊主」
男「....」
母「失礼します」
爺「というわけだ。清々したわい」
婆「そう....寂しくなりますね」
爺「...んなことないわい」
婆「また強がって...明日からは退屈な日々に戻っちゃいますね」
爺「....今まで通り二人で過ごす事に変わりはないだろう」
婆「そりゃそうですけど。賑やかじゃなくなるなーって...」
爺「.....」
婆「....夕飯にしましょうか」
爺「そうだな...そうしよう」
十年後
男「懐かしいなーこの家。覚えてるか?」
女「覚えてるも何も近所だし。三人で通るのは久しぶりだけど」
友「よく落書きしたよなー。ここが遊び場だったもんな」
男「そうそう。あ、この壁だよな。今は落書きの面影もないほど綺麗になってる」
爺「こらー!!またお前らかー!!」
男「!」
女「え!!」
友「げっ、あの時の爺さんだ!」
爺「毎日毎日いい加減にしろ!!ワシの目が黒い内は壁に落書きはさせん!今日こそとっ捕まえてやるわ!!」
孫「爺ちゃん!何を興奮してるんだよ!」
男「!」
孫「すみません。爺ちゃんが急に叫んで....気にしないでください。ほら、爺ちゃん行くよ」
爺「待てっ!!あいつらを捕まえんといかんのだ!人の話を聞け!」
男「....」
女「....」
友「....行くか」
男「何だったんだろうな....」
女「...あのお爺さんはお婆さんが亡くなってから呆けてきちゃったらしいわ。だから今は家族と同居してるんだって...」
友「そうだったんだ...なんか悲しいな」
男「でも俺たちのことは忘れてなかったんだ。嬉しいじゃないか」
女「まるで変わってなかったものね。昔並みの迫力があったわ」
友「それに十年経っても顔の見分けが直ぐにつくなんて呆けてないんじゃないのか?」
男「かもしれない、というかそうだといいな」
女「でも毎日毎日って言ってたよ」
友「...じゃあ昔のまま記憶が止まってるってことか」
男「....」
女「....」
男「なぁ、帰りにもう一回あの家に寄ってみないか?」
女「何しに?」
男「ちょっと孫と話してみたいなって...後、できれば爺さんとも」
友「やめとけよ。また怒られるぞ」
女「私はいいと思う。ご近所さんだし面識はあるよ」
男「できればもう一回ちゃんと謝りたいんだ」
友「分かった分かった。んじゃ夕方寄って帰るとするか」
夕方
男「ごめんください」
孫「はい、あ。昼間の...どうかされましたか?」
男「あのー、その。何というか...」
女「私たち実は昼間見たお爺さんと面識があるんです。それでお話がしたいなって思いまして...」
孫「爺ちゃんとですか?うーん...」
友「やっぱりダメですかね?」
孫「ダメ....というか最近爺ちゃんは殆ど誰とも話さないんですよ。ずっとボーッとしてて...だから今日はビックリしました」
男「そうだったんですか...」
女「今お爺さんは何をしているんですか?」
孫「さぁ...多分部屋でボーッとしてると思いますけど...会うだけ会ってみますか?」
男「是非お願いします」
孫「分かりました。それじゃお上がりください」
孫「爺ちゃーん、お客さんだよ」
爺「....」
男「お久しぶりです。覚えてますか?」
爺「....」
男「俺は男って言います。今日はその、十年前の謝罪をしたくてお伺いしました」
爺「....」
友「ダメか....」
爺「....」
女「覚えてませんか?私たちのこと。その...言いにくいんですけど毎日壁に落書きしていた者どもです。あの時はすみませんでした」
爺「....」
孫「やっぱり爺ちゃん今はダメみたいですね...」
男「そうですか...あ、帰る前に孫さんに相談したいことがあるんですけど」
孫「相談?私に?」
男「はい、実は...」
翌日
友「本当にやるつもりかよ。もう何歳だと思ってんだ」
女「いいじゃない。私だってちゃんとお爺さんには謝りたいと思ってたし」
友「でもよー...」
男「まあまあ、爺さんが出て来たら謝る。出て来なかったらこれを見てもらう。それでいいじゃないか」
友「分かったよ。ったく、爺さんが出て来なかったら本当に最低な人間なだけじゃないか...」
女「お孫さんに許可もらったんだしダメだったら私たちで掃除しちゃいましょ。それでいいじゃない」
男「昔は一番お前が率先してやってたじゃん。多分俺たちが爺さんとまともに話すにはこれしかないと思うんだ」
友「はいはい、やればいいんでしょ。やれば」
女「それじゃ思いっきりやりましょ。妥協は許さないんだから」
男「あ、お前その絵昔も描いてたよな。懐かしいな」
友「これは俺が好きだったアニメのキャラだよ。昔の方が上手く描けたんだがな」
男「いや今でも衰えてないよ。ところで女は何を描いてるんだ?」
女「私はお爺さんがこれを見た時に私たちが反省してることが分かるように"ごめんなさい"って書こうとしてるの」
友「壁に書いて謝るなんて矛盾し過ぎだろ。でも俺も念のために書いとくか。爺さんが現れなかった時に落書きだけだと後味悪いもんな」
男「じゃあ三人で分担して書こうぜ」
女「分かった。私は最初の二文字ね」
友「じゃあ俺は真ん中。男が最後の二文字。一番伝えたい気持ちなんだから大きく書こうぜ」
男「おっけー」
男「....できたな」
友「あぁ、完璧だ」
女「昔通りだわ...」
男「今思うととんでもないことしてたんだな俺たちって。他人の家に落書きするなんて警察に突き出されても文句言えなかったはずだ」
女「子供だから許してくれたんでしょうね。あのお爺さん怒ってるようでそんな風に見えなかったもの」
友「そうか?俺はいつも目くじら立てて怒ってるイメージだったけどなー」
爺「こらー!!!!またお前たちか!!!!!今日こそはとっ捕まえてやるわ!!!!」
友「うわ!爺さんだ!やっぱどう見ても怒ってるじゃん逃げるぞ!!」
男「待て待て、逃げてどうする。今日は謝りに来たんだぞ」
女「お爺さんごめんなさい!!私たちずっと謝りたかったんです!!」
男「ごめんなさい!!」
友「ごめんなさい!!」
爺「....」
爺「お前たち、今いくつになった」
男「三人とも今年で二十歳を迎えました」
爺「そうか...もうそんなに経っていたのか...」
友「....」
爺「来なさい。久しぶりに会ったことだし話をしようじゃないか」
男「はい、ありがとうございます」
爺「三人とも楽にして座りなさい。遠慮はいらん」
男「はい、分かりました」
爺「懐かしいのう。十年ほど前か。ワシには昨日のことのように感じる」
友(昨日も怒鳴ってたからあながち間違いではない)
爺「ワシはな、君たちのことを初めは煩わしい存在だと思っていた」
女「....ごめんなさい」
爺「毎日毎日落書きを描いては逃げてを繰り返し、反省するつもりはまるでない。ワシは絶対に取っ捕まえて警察に突き出してやるつもりでいた」
男「....」
爺「だがな、婆さんはそうではなかった。婆さんはまるでお前たちが来るのを楽しみにしているようだった」
友「....」
爺「だからワシは婆さんに聞いた。何をそんなに楽しそうにしているんだ。我が家の家の壁が汚されているんだぞと」
女「....」
爺「すると婆さんはこう言った。あなたが久しぶりに楽しそうにしてるから嬉しいの。退職して以来腑抜けていたあなたの生き甲斐ねと」
男「....」
爺「それを聞いた時ワシは頭に血が上ったのを覚えている。敵でこそあれお前たちの存在を嬉々としているつもりは全くなかった」
女「....」
爺「だかな、婆さんの言った通りだった。ワシは壁の落書きを消しながらお前たちの上達っぷりを微笑ましく思っていた」
友「....」
爺「だからワシは端からお前たちのことを怒ってなどない。お前の母親が尋ねてきた時に許すと言っただろ。いつまでも気にする必要はない」
男「本当に申し訳ありませんでした」
爺「それにワシも昔は何度か似たようなことをやっておったし人のことは言えん」
女「そうなんですか!」
爺「あぁ、壁ではなく地面に石で描いてた程度だがな。どれ一つ腕比べしてみるか」
友「腕比べ?」
爺「ワシも童心に返ろうということだ」
爺「どうだ!ワシの絵も劣ってはいないだろ!」
女「凄い!迫力ある落書きですね!」
友「壁に戦艦描く人初めて見た。でもうめぇ...」
男「消すのが勿体ないぐらいだな...」
爺「こんなものではない。まだまだこれからが本番だ。お前たちもどんどん描きなさい」
男「よし、じゃあ俺は昔よく描いてた担任の似顔絵だ!」
女「私はクラスのみんなを描くわ!」
友「じゃあ俺は俺たち三人と爺ちゃんの似顔絵だ」
爺「お前たちもワシの家の壁で練習していただけある。上手いぞ
男「.....」
女「.....」
友「.....」
爺「.....」
男「もう描けるスペースないですね...」
爺「あぁ、これ以上描くと隣の敷居に入ってしまう。ここまでだな」
女「今日は本当にありがとうございました。おかげで胸のつかえが取れました」
友「ありがとうございました」
爺「気にするな。だが悪いが掃除はお前たちだけでやってくれ。そろそろ婆さんが話したがっているようだ」
男「勿論です。気にしないで遠慮なくお話ください」
爺「そうか、すまんの。最後に一つだけお前たちに言っておきたいことがある」
女「なんですか?」
爺「子供心を忘れるなよ。いつまでも少年少女のように好奇心旺盛な方が世の中は楽しい。それじゃあな」
友「....さようなら」
女「そうか...あのお爺さん呆けてるんじゃなくてずっとお婆さんとお話してたのね...素敵だわ」
男「そうだな...いつまでもお婆さんを忘れずにいるなんて...当たり前だけど泣けるよ」
友「それに人って話してみると印象変わるんだな。俺の中で爺さんの評価が急上昇したよ」
男「今日はいい一日だったな。後はこの掃除をして帰るとするか」
女「お孫さんにもお話してあげましょう。きっと喜ぶわ」
友「そうだな、ついでに掃除も手伝ってくれるとありがたいんだけど」
男「それとこれとは別だ!」
女「そうよ、全部終わってから話すんだから」
友「こりゃ厳しい。じゃっ、さっさと掃除始めますか」
終わりです。ありがとうございました
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