佐天「白い部屋? 」 (26)
建て直しです。
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それは丁度、本を読み終えて眠りに着こうとしていた夜の話です。
佐天「うーん、何だか誰も救われない最期だったなー。冒頭で死んじゃうことは書いてあったし、あんまり明るい話ではないって分かってはいたけど......ね」
佐天「親からの暴力を愛と感じるのもあれだったし、自分は人魚だなんて周りに言うもんだから友達も出来なかった訳だし......ただ酷い目に遭ってただけだよね」
佐天「お兄ちゃんだって、折角持ってた神々しさが無くなってただの口下手に成り下がっちゃったしさ」
佐天「結局、実弾は撃てるようになったのかな? ......まあいいや 」
佐天「この本、私にはまだ早かったかも。内容もあんまり理解できなかったしね」
この本を棚に戻すと、この間通販で届いたものを詰めた棚に目を向けます。
佐天「さて、お次はどの本を読もうかな。軽い感じでキケンとか、気合入れてドグラ・マグラに挑戦するか、はたまたサイコに悪の経典か......」
佐天「......いや、今日はこれくらいでいいかな。もう11時だし、早く寝よっと! 」
そんなかんじでベッドに潜り込み、部屋の電気を消したのですが、私はそこで奇妙な感覚に襲われました。
何だか、全身が締め付けられるような気がするのです。締め付け自体はそこまで強くありませんでしたが、身体を動かす事はできませんでした。
しかし、布団の感触は感じられていることから、感覚が麻痺している訳ではなさそうです。
......麻痺していたらどんなに良かったでしょうか。私は、自分の上を何かが通ったような感じを受けました。何だかこう、フワッとする感覚です。
そして、何処からかボソッと呟きが聞こえ、私はさらに縮こまる結果となりました。はっきりとは聞き取れませんでしたが、確かこんな事を言っていたと思います。
『通りますよ』
そして、
『お届けものです』
この二言です。
佐天「(え、え? 何なの一体!? )」
その呟きが聞こえてから暫くすると、辺りが急に光始めました。その光り方というのが、蛍光灯のように目に悪そうな白色のものではなく、ランタンのように橙のものでもなく、今まで見たことのない白さなのです。
と、ここで私は、掛けていた布団が無くなっていることに気が付きました。当然、金縛りの状態も解除されています。
そして何より、光と思っていた白さも、よくよく見てみるとただの白壁であることに気づいたのです。
佐天「え、どゆこと? 」
身体は普通に動かせるようなので辺りを見渡すと、ここは上下左右全てが白塗りされた壁に囲まれている一室であると分かりました。
佐天「お届けものって......これ? 」
こんなところに連れて来られた理由としては、正直先程の謎の呟きが有力な気がします。それ以上の可能性としては、能力者に攻撃を受けたのかという事ですかね。
いや、それとも能力者がわざと金縛り紛いのことをして私をここに連れて来たとも考えられますか。
佐天「......」
佐天「どうするべきか......」
もしも誘拐されたとしたら、この場に居続けるのは大変危険です。即刻逃げ出さなければなりません。
しかし、この部屋に出入り口らしきものは存在しておらず、どこもかしこも真っ白です。上手くカモフラージュされているとしたら、抜け出すのは至難の技でしょう。
佐天「......よし、探すか」
と言っても、いつまでも惚けているわけにはいきません。今後誘拐犯がここに来るのだとしたら、何をされるか分かりません。
完全に出入り口を塞がれているのならゲームオーバーですが、何かをする前に諦めるのではなく、してから後悔するほうが全然いいと思います。
......まぁ、その結果が『死亡』だったら笑えませんがね。
こうして壁伝いに探索を始めた訳ですが、どうにも奇妙な事が起こりました。
いつまで歩いても、二つの壁がくっついている場所、つまり隅に辿り着かないのです。
目で見る感じだとあと5メートルくらいで部屋の端に着くのに、5メートル歩いてもさらに5メートルの所に角が見えるのです。
佐天「......」
私は壁伝いに歩くのを諦めて、適当に部屋の中心の方に向かいました。最初は10メートル四方程の一室だったこの場所も、現在では信じられない程拡がっています。
まさしくホラーです。
佐天「ッ!? 」
と、ここで、あろうことか私は盛大にずっこけてしまいました。何かを足に引っ掛けたようです。
転んだことは勿論、裸足で何かを蹴ってしまった訳なので、なかなか強烈な痛みが走りました。
佐天「い、痛ぁ......」
出血していたら嫌なので、一応パジャマズボンの裾を捲って確かめてみましたが、どうやら怪我はないようです。痣にもなっていませんでした。いつも通りの美脚です。
さて、こうなると何に引っ掛けたのか気になってきますね。転んだ場所も相変わらずの真っ白空間でして、完全に油断していたのですから......
そしてよくよく確かめてみると、私が蹴っつまずいたのは、これまた真っ白なノートパソコンでした。
佐天「......怪我の功名って奴かな? 」
まあ、怪我はしていませんが。
ともかく、一つ目の手掛かりをラッキーな形で見つけることが出来ました。
佐天「このパソコン、実は罠で起動した瞬間ドカンッ! とかないよね......? 」
誰が聞いている訳でもないのにこう言いましたが、正直爆発するとは思っていません。私の為にこんなにも不思議な空間を用意するくらいの人物が、こんなにもあっさりと私を殺す筈がないと思うからです。
そもそも、私を誘拐する為にこんな部屋を使うなんて、コストパフォーマンスが悪すぎる気がします。私なんて、そこらの廃ビルに転がして置けばいいような存在ですし。
とまあ、自虐はこれくらいにして、電源を入れていきましょう。犯人の思惑はどうであれ、何らかの情報が記されている筈です。
佐天「起動完了っと。さて......」
見慣れた起動画面が流れ終わると、普通のパソコンと同じようにデスクトップが表示されました。ただ、同時にこれが他のパソコンとは違うものと悟りました。
無いのです。MyComputerやWindowsmail、インターネットのショートカットが。それだけではなく、スタートボタンやセキュリティ表示もありません。
あるのは、ただ一つのショートカット、『説明1』のみです。
佐天「......開くしか、ないよね? 」
ホラーな体験が続いた所為で耐性がついたのか、単にパソコンの画面がおかしいという事だけでは私を止めることは出来ません。勿論、怖いですが。
そして、恐る恐るファイルを開くと、こんな文面が表れました。
・この部屋の使用方法___その1
・使用難度1
トレーニングルームとして利用してみよう!!
・説明
ここでは、様々なトレーニング活動を行う事が出来ます。腹筋、腕立て伏せといった筋トレや長距離走などの基礎運動に始まり、水泳やサッカー、格闘訓練も可能です(※注1を参照)
また、勉強の場としても利用出来ます。英単語などを覚えたりするには最適です(※注2を参照)
・注意1
一人では行う事が不可能なトレーニングに関しては、今後デスクトップに表示される『ヘルパー』の項目をご覧ください。
・注意2
現在の難度では、課題の持ち込みは不可能です。あくまで、此方で生み出した教材での学習のみとなります。しかし、レベル上昇によってこの規制は解除される可能性があります。
・注意3
トレーニングには、ノルマを設ける事が出来ます。詳しいことは、新しく表示される『部屋』の項目をご覧ください。
この部屋の使用方法___その1 終
佐天「......え? トレーニングルーム? 」
そこにあったのは、私の想像の斜め上をいくものでした。てっきり脱出の為の第一のヒントのようなものが書いてあって、ヒント通りに壁を調べると......みたいな流れかと思っていたので、拍子抜けもいいところです。
トレーニングルーム......ですか。この部屋が......
地味に便利そうなのがムカつきます。
ですが、これでは先程迄の状況と何ら変わりがありません。犯人はここをトレーニングルームと称しているようですが、今は脱出出来なければ意味がありませんし、これも罠という可能性も多いにあります。
文章を読む限り、新しいアイコンが表示されたようなので、そちらを見るとしましょうか。
デスクトップに戻ると、『部屋』、『ヘルパー』のショートカットが追加されていました。どちらも右上にNewの文字が付いており、なかなかの親切設計だと思います。
何故私が読んだタイミングで追加されたのか、そこには深く突っ込まないようにします。下手な好奇心は、身を滅ぼすので。
佐天「さて、重要そうなのはこっちかな」
私は『部屋』という名前のアイコンの方をクリックします。万が一、ここがただのトレーニングルームだとしたら、必ずここに部屋から出る方法が記されている筈ですから。
この部屋について__ .
・この部屋で経つ時間は現実とは異なる為、退場すると入場した時刻に跳ばされる
・入室は、1日2回までとする
・連続滞在時間は、基本的に12時間に設定されている
・この部屋では、『カタログ』に表示されたアイテム、設備の補充が行える
・トレーニングノルマとは、設定した条件をクリアするまで退場を認めないとするものである
・一度自分で設定したノルマは、二度と解消できない
・この部屋でのトレーニングの結果は、現実世界にも反映される
・この部屋では、通常のトレーニングの他に耐久度訓練を受ける事が出来る
・耐久度は、現実世界で反映される
・耐性度テストをクリアする事で、使用難度2(現在、1)の使い方が開放される(注.詳しくは、『耐久度テスト』参照)
・入場、退場には『レーヴェン』と唱える
『部屋』 終
佐天「......え、出られる? 」
こうもあっさりとこの部屋を脱出出来るというのには、違和感を覚えます。寧ろ、違和感しか感じません。
ここで私が『レーヴェン』と唱えて退場し、説明通りに自室へ戻れたとしたら、何の為にこの場を用意したのかが分からなくなります。
何かしらの目的を達成する為にここへ私を呼んだ。しかし、逃げられた。いや、こうやってパソコンが置いてある時点で寧ろ逃げ出すように仕向けている可能性が高いかもしれない。
その裏をかいて私がこの部屋に残った所で、本来の目的を果たす?
ここで私の思考はぐるぐると渦巻いている訳ですが、この説明には他にも気になる点があります。
一つ目は、万が一この内容が本当だとしたら......ということです。
何気無い文章の羅列でしたが、その一つ一つが世の中の常識を覆しかねないようなものですし、何より様々な解釈が出来るような書き方であったことが気になります。
二つ目は、途中で説明文に隙間が開けられていたことです。これについては、耐久度テストとかいうものをクリアする事で閲覧出来るようになるものじゃないかと思います。
ただ、隠された内容に重要な事が書かれていそうなので、注意しなければならないでしょうね。
佐天「......」
佐天「よし、『レーヴェン』! 」
色々と考えた結果、相手の思惑に乗っかってみることにしました。こうしないといつまで経っても部屋から出られないだろうし、相手の敷いたレールの上にいる限りは安全が保障されるだろうという結論に辿り着いたからです。
ともかく、無事に戻れることを祈りましょう。
結果、無事に自室へと戻ることが出来ました。
時刻は夜の11時を回ったところ。部屋の電気を消す前にチラッと確認した時刻と一致しています。
念の為ケータイで日付を確認してみると、入場前との差異はありませんでした。
あのパソコンの記述通りです。
この夜は、電気を付けっ放しにしていた為に一睡もすることが出来ませんでしたが、もう一度金縛りに遭うよりはマシだと思います。
今日はここまでということでお願いします。
これだっけ
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学校!
先生「......であるからして」
佐天「......」
佐天「(ね、眠い)」
初春「(何だか佐天さん、ウトウトしてますね。昨日の夜はよく眠れなかったのでしょうか? )」
先生「だからこの式をここへ代入して......」
佐天「(ちょっとくらいなら、寝てもいいよね? )」
佐天「zzz」
先生「それから......おい佐天、一番前の席で居眠りとはいいご身分だな」
佐天「zzz」
先生「こら、起きなさい」
コンッ
佐天「......え、あ、すみませんでした! 」
先生「まったく......夜更かしも程々にしておけよ」
クスクスクス
初春「(あちゃー、やっちゃいましたね)」
先生「さて、続きだが......」
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初春「今日は災難でしたね、佐天さん。あの後、別の先生にも注意されましたし」
佐天「本当よ......はぁ、とにかく眠い......」
佐天「初春のスカートを捲るのが面倒に感じるなんて、これが初めてよ......」
初春「それに関しては喜ばしいですけど......相当滅入ってますね。何かあったのですか? 」
佐天「あったと言えばあったし、無かったと言えば無かったかな」
初春「何ですかそれ......」
佐天「うーん、どうだろう? 」
佐天「(あの声のこと、白い部屋のことは初春に話していいものなのかな? 出来れば話しておきたいところだけど......)」
佐天「(雰囲気的にあの部屋には何かありそうだし、もし彼処に私を呼び込んだ人が初春にも目を付けて......なんて事にはなってほしくないな)」
初春「佐天さん? 」
佐天「(うん、やっぱり部屋のことは伏せておこう。変なことに巻き込みたくないしね)」
佐天「いやー、実はおととい届いた本を読み漁っていたら夜中の2:00を回っていてね、慌てて寝ようとしたらちょっと変な事があってね......」
初春「変な事? も、もしかして心霊現象か何かですか!? 」
佐天「いや、そういう訳じゃないんだけど......ね」
佐天「そのことの所為で眠れなかったの」
初春「......よく分かりませんでしたが、何かあったらちゃんと相談してくださいね」
初春「目の下に隈を作ってる佐天さんなんて、佐天さんらしくありませんから」
佐天「(初春......)」
佐天「うん、ありがとね」
初春「それじゃあ、私はジャッジメントのお仕事があるのでこの辺りで。帰ったらちゃんと寝てくださいね! 」
佐天「了解了解。愛しの初春にそんなことを言われたんだから、しっかし守らないとね」
初春「なっ、ちょ、調子良いんですから! でも、それでこそ佐天さんです。お大事に」
佐天「それじゃあ、また明日ね」
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佐天「(心配かけちゃったかな? というか、そんなに表に出てたのか......)」
佐天「(昨日の出来事、思ってるよりずっと大きいかも。早めに何とかしないと......)」
美琴「あれ、佐天さん? こんなところで会うなんて奇遇ね」
佐天「あ、御坂さんこんにちわ! こちらこそ奇遇ですね」
美琴「これから暇? もし良かったらお茶でもって......」
美琴「......佐天さん、何だか疲れてる? 目の下の隈、凄いことになってるし」
佐天「え、やっぱり酷いんですか? 」
佐天「(そんなに分かりやすいの、私って)」
美琴「近くで見れば一発で気づくわよ。何かあったのかしら? 」
佐天「えっとですね......」
佐天「(どうしよう、初春の時みたいに適当に誤魔化して......)」
佐天「(いや、問題解決には御坂さんを頼った方がいいかも。端から見ても一発で分かる程疲れている状況なんだから、早く抜け出さないといけないし......)」
佐天「(それに、あの部屋が能力者からの攻撃だったとしたら、何とかしてくれるかもしれないし)」
佐天「......実は、ちょっと変な事がありまして」
美琴「......長くなりそうね。立ち話も何だから、ファミレスにでも入りましょう」
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佐天「......という事がありまして」
佐天「御坂さんはどう思います? 」
美琴「......白い部屋、様々なルール、不思議な声......」
美琴「......常識の範疇を超えてるわ。いくら超能力なんてものが存在するこの街に於いてもね」
佐天「やっぱり......ということは、能力者からの攻撃という線は薄いということですかね? 」
美琴「断言は出来ないけど、概ねそういうことだと思うわ。もしそんな能力を使えるのだとしたら、ソイツは間違いなく絶対能力者よ」
美琴「(絶対能力者をつくる為にあんな実験までする学園都市が、そんな人材を見逃す筈がないわ)」
佐天「そうですか......それじゃあ、本当にお届けもの? 」
美琴「その声っていうのも気になるわね。佐天さんは、確かにその声の持ち主の気配を感じたんでしょう? 」
佐天「はい。確かに跨がれたような感覚がしました」
美琴「じゃあ、その時佐天さんの部屋にいた人物が存在する......」
美琴「......分からないわ。こんな事が出来る人間なんてこの街に存在する筈がないもの」
美琴「それこそ、神の所業にしか思えないし......」
美琴「神? そんなものが本当にいるって言うの? 」
佐天「あのー、御坂さん? 」
美琴「あ......ごめんなさい、つい取り乱して。ところで、この事を他の人には? 」
佐天「......まだ誰にも。というか、あまり話したくないので......」
佐天「特に......初春には」
美琴「そう......心配を掛けたくないのね」
佐天「はい......」
美琴「友達の少ないあたしが言うのもなんだけど、悩み事を話してくれないってのは結構辛いものよ」
美琴「今は無理かもしれないけど、早いうちに話してあげて。今の佐天さんの顔を見たなら、とっても心配してる筈だから」
佐天「......はい、分かりました......」
美琴「あとね、問題を解決するならいっそ飛び込んでみるのも手の内よ」
美琴「今回のケースだと、言い方は悪いかもしれないけど相手の思う通りに行動するしかないわね」
佐天「というと......部屋を使えということですか? 」
美琴「そう。絶対能力者クラスの能力を持つ存在に真正面から挑んでみたって勝ち目はないし、懐に潜り込んで情報を手にいれてやる! みたいな気概も必要だと思うわ」
佐天「......」
美琴「でも、それは自分で決めることだから、これ以上は言わない」
美琴「まあ、相談になら何時でも乗るわ」
佐天「......ありがとうございます」
美琴「いいっていいって。それじゃあ、出ましょうか」
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美琴「それじゃあ、またね」
佐天「はい、さようなら」
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佐天「(迷うくらいなら、飛び込んでみるのも大事......か)」
佐天「(それに......初春......)」
佐天「......」
佐天「よしっ、いっちょやってやりますか! 」
佐天「まあ、先ずは寝よう。いつまでもこんな顔でいる訳にはいかないし」
ここまで。
酉ってどうやって変えるんですかね? 出来れば被っていないやつに変えたいのですが......
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