モバP「鷹富士茄子と自転車屋さんの思い出」 (14)

※作者からの注意書き

このSSは地の文を含みます。台本形式ではありません。

アイドルマスター シンデレラガールズの鷹富士茄子さんのSSです。
今回はのんびりとしたお話。

四日続けての茄子さんSS

気が向いたら書くと言ったな?気が向いたんだ。

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「うわー、マジかよぉ」

正月、神社。
駐輪場の方から悲鳴にも似た声が聞こえてきた。
見てみると高校生くらいの少年がしゃがみ込み、自転車のチェーンをつかみ何やらやっている。
どうやら、外れてしまっている様子だった。

P「大丈夫か?」

俺は同じように高校生の横にしゃがみ込むと、すぐに力押しでチェーンをはめてやった。

「うおー!!ありがとうございます!!」

深々と頭を下げる高校生に、苦笑交じりにまた外れるかも知れないから、近いうちに自転車屋さん行っとけよと言っておく。
元気に走り去る高校生を見ながら冬の空を見上げる。

P「自転車屋さんか……」

懐かしいフレーズに思わず笑みが漏れる。

P「あいつのせいで大変だったよなぁ」

待ち合わせの場所に向かいながら俺はふと昔のことを思い出す。
それこそまだ自分が10代の半ばだった頃のことだ。

中学も3年に入り、いよいよ進路だなんだと騒がしくなってくる。
俺はそこそこの成績を収めていたため、比較的すんなりと志望校の推薦をゲットすることに成功していた。だから、周りが四苦八苦する様をどこか違う世界のように眺めていた。

「茄子ちゃんはどこの学校受けるの?」

そんな中、クラスの端っこからそんな声が聞こえてくる。その瞬間にクラスの男子連中が一斉に耳を立てる。少しでもお近づきになりたいと思う男どもの哀しい性とでもいうのだろうか。

鷹富士茄子。
結構なお金持ちの家のお嬢様で、容姿端麗、頭脳明晰、人当たりも良いと言う、まさに完全無欠な美少女だ。さらにその名に負けず天性の強運を持っており、あまり接点のないクラスメイトの俺でもその並はずれた強運は良く目にする。

盛りの時期の男子からしたら、是非友達になりたい、出来うることなら恋人に、などと言った考えのものも多くいる。
俺自身も仲良くなりたいと思ったりしたが、その高翌嶺の花の具現化とも取れる彼女に近づく度胸は残念ながら存在しなかった。

何よりこれまでも色んな男子が告白してきたらしいが、その全てが玉砕したという話も聞いたことがある。
その断られ方が決まって高校卒業するまでは、色恋には走らない。だという。

P「お高い人だな本当に」

そんなことを考えながら、窓の外に目をやる。葉っぱも散り始め、もうすぐ秋に差し掛かろうとしていた。


家から中学まで自転車で通っていた俺は、学校の帰りに寄り道をするのが日課だった。何よりもう受験戦争からは解放されている身だ。色々と自由が効くのだ。
そんな時だった、彼女を見つけたのは。

茄子「う~」

件の鷹富士茄子だった。一回り小さい自転車を塀に持たれ掛けさせ唸っていた。横目で見なくてもわかる、チェーンが外れたのだろう。
隣にいる小さい子供も困った様子で何やら鷹富士と話している。

逡巡して、俺は鷹富士に話し掛けることにした。

P「チェーン、外れたのか?」

茄子「え?」

突然話しかけられたからか、驚いたようにこちらを見る鷹富士を横目にしゃがみこみ自転車の様子を見る。
チェーンが外れただけのようだ、これだけならすぐに直せる。

茄子「あの~?」

P「少し待っててくれ、すぐに直す」

茄子「Pくん。これ直せるんですか?」

P「ああ」

名前を呼ばれたことに若干胸が高鳴りつつ、俺は黙々と作業をする。
俺は自転車で遠征と称して遠出することがあるため、もしもの時のためにちょっとした工具を持ち歩いている。
それにチェーンが外れたことは何回もあるから、直すのはお手のものだった。

P「良し、直った」

茄子「ええ?もうですか!?」

ものの1~2分だった。慣れてしまえばこんなもんなのだ。

茄子「良かったね僕君♪」

「うん!お兄ちゃんありがとう!」

深々と頭を下げお礼をする小学生に俺は苦笑交じりに言う。

P「ただの応急処置だから、またすぐに外れるかもしれん。だから帰ったらちゃんと自転車屋さんへ持っていくんだぞ」

「はい!わかりました!!」

ピシッと可愛らしく敬礼をし、自転車を漕いでいく小学生を見送ると、鷹富士が興味深いと言わんばかりにこちらに視線を向けていた。

茄子「P君、ありがとうございました。Pくんのおかげで、なんとかあの子を助けることがでました♪」

にっこりとほほ笑む彼女に赤面しそうになりながら、俺はコホンと咳払いする。

P「べ、別に大したことじゃないさ。それに、あの子の運が良かったんだろう」

運。口に出すと不思議なものだった。
今日この道を通りかかったのは本当に偶然だ。寄り道コースは毎日違う。
自転車のチェーンをその場で直せる奴なんて、そう多くはない。
その技術を持つ俺が通りかかったのは、本当にあの子の運があったからなのだろう。

P「鷹富士さんがいたから、あの子の運も上がったのかもね」

だから自然とそんなことを口に出してしまう。言ってすぐに何を言っているんだ俺はと思ったが、その鷹富士は嬉しそうに微笑んだ。

茄子「そうかもしれませんね♪ふふ、ちょっと幸運を分けれました♪」

何がそんなに嬉しいのかわからないが、ニコニコしている鷹富士が可愛かったから俺も内心運が良かったなと思うことにした。おそらくこの先見ることなんてできないだろうから。

茄子「ふふ、でもまるで自転車屋さんみたいですね。あんなに簡単に直せるなんて」

P「いや、自転車屋さんは流石に言いすぎじゃ……」

この後二、三言葉をかわし、鷹富士とは分かれた。
まさか卒業までに鷹富士茄子と会話できるなんて思っていなかったから、本当に幸運だったなと思った。

そんな次の日、ある事件が起こる。
いや、事件と言うほど大したものではないが、俺にとっては大事件だった。

茄子「あ、おはようございます自転車屋さん♪」

教室に入った瞬間、近くにいた鷹富士茄子にそう言われたのだ。
にわかに教室がざわつく。耳に男子どもからの怨嗟の声が入ってくる。

なんでPが!?馬鹿な、奴はノーマークのはずだろう!?自転車屋さんってどういう意味だ!?まさか茄子さんにのられゴパァッ!

一部訳のわからないことになっているが、俺はあわてる心をなだめ落ち着いて返事をする。

P「いや、だから自転車屋さんはやめなさいと」

茄子「えー?良いじゃないですか♪」

ぎゃああと端の方から悲鳴にも似た声が聞こえるが、俺は聞こえないふりをする。

P「はぁ、わかったよ。自転車屋さんでいいよ」

茄子「はい♪」

その日を境に自転車屋さんというあだ名はクラス中に広まっていくことになる。まさか中学最後の半年でこのようなあだ名をもらいうけることになるとは夢にも思わなかった。

その日を境に、何故か俺は鷹富士と関わることが多くなっていった。
鷹富士が俺の何を気に入ったのかわからないが、良く話し掛けて来てくれるようになった。

そして自転車屋さんというあだ名は気が付いたら学年中に広まっており、駐輪場で何かトラブルがあると先生ではなく何故か決まって俺が真っ先に呼び出されたりもした。


そして一度だけ、鷹富士の自転車を直したこともあった。

日が暮れて、冬の風が寒くなってきた頃に偶然入っていった路地裏に彼女はいた。

茄子「あ、自転車屋さん!」

P「鷹富士!?なんでこんな時間にこんなとこに!?」

驚くのも無理はなかった。もう時刻は19時近い。普通の中学生はとっくに下校している時間だ。

茄子「え~っと、冒険しようかなって思ったら、自転車がパンクしちゃったんです。そして道に迷ってしまいここがどこなのかも……」

聞いてはぁっと深くため息を吐く。

P「お前はこんな大事な時期何をやっているんだ一体」

そうなのだ。ある一定の学生以外はまだ受験戦争まっただ中なのだ。
言われた茄子も赤面した様子で捲し立てる。

茄子「だ、だって自転車屋さんのお話聞いてて面白そうだなーって思ったんです」

お話?あぁ、良く俺が自転車で冒険しているって奴か。
まぁ確かに面白言っちゃあ面白いが。

P「全く。自転車で長距離目指すときはそれ相応に準備がいるんだって」

自転車の様子を見ながらあー、これは無理だなぁと思い鷹富士を見る。

P「俺の自転車貸してやるから、今日はこれで帰れ。この道真っ直ぐ行けば学校に着くから、そこからなら家に帰れるだろ」

茄子「え?でも、それじゃ自転車屋さんはどうするんですか?」

P「俺はこっから家近いから大丈夫だ。ほら、門限あるんだろ?帰った帰った」

茄子「で、でも……」

P「運が良かったと思って受け取っておいてくれ。な?」

茄子「……わかりました。お言葉に甘えさせていただきます♪」

ニッコリと微笑み、俺の自転車を駆り鷹富士は去っていく。

茄子「明日!必ず返しますから!」

P「おう」

手を振り見送ると、俺は苦笑交じりにため息を吐く。

P「家が近いから大丈夫、か」

こっから徒歩2時間くらいかかる家に想いを馳せながら、俺は帰路に着くことにした。

結局その後21時くらいまで家に帰らなかった俺を心配して親が警察に通報し、てんやわんやの騒ぎに巻き込まれることになる。
一応自転車が壊れてしまっていたと言い訳をし難を逃れることに成功したが、全く散々な日だった。

でも本当に不思議な話だなと思う。この広い街の中で、しかも偶然にも自転車で困っている彼女に2回も遭遇したのだ。
そして運の良いことに、その問題をしっかり解決できたのだ。

やっぱり鷹富士茄子という少女は、人並み外れて強運なのかもしれない。周りの人間まではそうはいかなかったのだが。

後日、鷹富士はその後菓子折を持ってわざわざ俺の家までやってきた。
その際に家があの場所から遠く離れていたとばれてしまい、後日鷹富士から拗ねてると言うのか、何とも言えない視線を浴びることとなる。

そんな風に仲良くなったが、中学卒業と同時に俺は鷹富士とは離れることになる。なんでも名門の高校に入学するらしく上京してしまうらしい。
またどこかでな、と在り来たりな言葉を最後に交わし、俺たちは卒業をした。
きっともう二度と会うことはないのだろうなと思いながら。

甘酸っぱい青春の1ページの思い出だった。

P「今となっては懐かしいな~。いや、本当に変な話だったなぁ、ほんと。お、いたいた」

待ち合わせをしている人物を見つけ、軽く手を挙げ声をかける。

P「あけましておめでとう、茄子。遅くなってすまない」

茄子「あ、Pさん♪あけましておめでとうございます♪珍しいですね、Pさんが遅れるなんて。何かあったんですか?」

頭にクエスチョンを浮かべる茄子に対し、俺は苦笑交じりに答える。

P「高校生の自転車のチェーンが外れていて、直していたら遅れた」

茄子「え?」

一瞬間の抜けた返事が返ってくるが、次の瞬間には茄子も手で口を押さえて吹き出していた。

茄子「ふふ、懐かしいですね♪自転車屋さんは相変わらずでしたか♪」

P「そのあだ名は辞めなさいって。あの後高校でも言われたんだぞそのあだ名」

茄子「良いじゃないですか♪私にとっては本当に幸運の自転車屋さんだったんですから♪」

P「全くお前は」

茄子「それにPさんだってひどいですよ!あの時家近いなんて嘘ついて!知っていたら、あんなに迷惑かけずに済んだのに」

P「だから、それはもう終わった話だろ?」

茄子「いーえ、駄目です!あの時Pさんを不幸にしてしまったことは私の中で一番の後悔なんですから」

P「あのなぁ……」

茄子「だから」

茄子「私を見つけてくれたPさんのこときっと幸せにしてあげますからっ」

鷹富士茄子、20歳。
現在幸運のアイドルとして売り出し中。

偶然にも5年の時を経て再会した彼女をアイドルとしてプロデュースしている話は、今回とはまた別のお話。

かけ足で書いたけど、今回はこれにて終了。

茄子ssの妄想で幼馴染設定とか作りたいなぁと思って色々模索していたら着地点見失ってこうなりました。


とりあえず茄子さんの「私を見つけてくれたプロデューサー」ってセリフがずっと気になる日々で、何時かこの答えを知りたい気持ちでいっぱいです。


まさかの4夜続けての茄子ssですが、お付き合い、またコメントしてくださった方々は本当にありがとうございました!

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