女子中学生と援/交した話(33)

タイトルに釣られてやってきた人には大変申し訳ないんだけど、
これは警察にやっかいになるような話じゃないってことは分かっておいて欲しい。
パンツを脱いだ人は、速やかに履いてくれ。

その中学生と出会ったのは、蒸し暑くて騒々しい夜の街だったんだ。
俺は酒が苦手だし、アルコールに弱いからあんまり飲まないようにしてたんだけど、
その時は柄にもなく居酒屋何件もはしごしてさ。
まあ、やけ酒の理由はよくあるような失恋。
大学で同じサークルの女の子に告白して、あっけなく撃沈した。
フラれた理由?なんかパッとしないし、タイプじゃないんだってさ。
それもまた、俺が悪酔いする理由の一つだったんだけど。
だって、なんかパッとしない、だぜ?
そんな理由でフラれたのか俺、って考えたらバカらしくなってきたんだよ。
今思えば俺も、たいした理由もなく告白してたから、
フラれるのもしょうがないんだけど。

あの時は自分を正当化して、
決して強くない酒に手を出して愚痴ることの理由にしてたんだ。
そんなわけで俺は、たいていの店のラストオーダーが終わるような時間には
だいぶ意識が混濁しててさ。
近くの植え込みに座り込んで、ひたすら睡魔と格闘してたんだ。
濁流みたいな車の流れを見ながら、このまま飛び出したら死ぬのかな、
そしたらあの娘も俺のことちょっとは気にかけてくれるかな、なんて思いながら。
今思うとゾッとするが、その時の俺にはそれが、車の流れの中に
身を投げ出すことが、最善の選択に思えたんだよ。
もともと俺は生きていることにあんまり執着していなかったんだ。
こんなクソみたいな人生、いつでも辞めてやるよ、ってな。
フラフラおぼつかない足取りで、さあ車道に一歩踏み込もう、としたところで、
ぐいっと誰かに服の裾をひっぱられたんだ。

そんなことを予想もしていなかった俺は、簡単にバランスを崩して
歩道にしりもちをついた。そりゃ驚いたよ、一体誰が?って。
だって、見ず知らずの酔っ払いのことを気にかけるなんて、
よっぽど気のいいやつか、そうじゃなかったら居酒屋のキャッチぐらいなもんだろう。
でも、違ったんだ。
一体俺の自殺をはばんだのは誰だ、って後ろを振り返ると、
間近に女の子の顔があった。幼い顔で、見た感じ高校生みたいだった。
目が合った瞬間、その娘はおもむろにカバンからミネラルウォーターの
ペットボトルを取り出して、俺の顔に向かってぶちまけた。
あっけにとられた俺を見て女の子はにっこり。
そして言った。
「おにいさん、私と援交しませんか?」って。

今ではいわゆる命の恩人ってやつなんだけど、その時は正直、この娘大丈夫か?
って思ったね。いきなり水をかけられて、援交しませんか、なんて言うなんて、
とても正気とは思えないだろ、普通。
でも、驚きと水の冷たさで、酔いはすっかりさめた。
我にかえった俺は、改めて女の子を見た。びしょびしょのままで。
その娘はセーラー服を着てて、学校帰りの学生さんー、って感じだった。
ゲーセンとかによくいるような、ケバいメイクじゃなくて、
ほとんどすっぴんみたいな化粧。制服も着崩さずに、きちんと着てる。
だから、こんな娘が援交?って信じられなかった。
そんなことを考えていると、
「おにいさん、行きましょう。ここじゃちょっと、その、通行する人の
邪魔になりますし。」
そう言って女の子は俺の手を引っ張って立ち上がらせる。
俺はまだ何も言っていないのに、その娘はずんずん歩いていくんだ。
それも、色とりどりのネオンがぴかぴか光ってるようなホテル街に向かって。

本格的にまずいな、と俺は思ったね。今日初めて会った、しかもまともに言葉も交わしたことのない娘とそういう行為をするわけにはいかないし、なにしろ女子校生だ。
うかつに手は出せない、出しちゃいけない。
「あの、君にもいろんな事情があって、それを俺は知らないから、こういうことをするな、
とは言えないんだけど・・・・その、俺はロリコンなんだ。」
もちろん俺がロリコンなんて言うのは嘘だけど、こう言ったら諦めてくれるかな、
って思ったんだ。誰だって自分の手で輝かしい青春真っ最中の女子校生を汚したくはない。
たとえ俺が断ったってその娘がどこかの他の知らない男と行為に及ぶとわかっていても、
自分がその当事者になることは避けたいんだよ、俺は。

「おにいさん、そういった性癖をお持ちの方なんですか、そうですか。」
その娘はふむふむ、といったように頷いた。小動物っぽくてかわいい仕草だったな。
「ああ、そうなんだ。悪いけど、中学生以下になって出直してくれ。」
そう言うと女の子は、目を輝かせて言ったんだよ。
「私中学生なんで、大丈夫ですよ!」

結局そのまま押し切られて、ずるずるとホテルまで連れてこられてしまった。
道中女の子は、
「こういうことを言うのは大変不本意なんですが、もしおにいさんがついてきてくれない
のであれば大声をだして、『酔っ払いに襲われてます!』って叫びますよ」
って笑うから、ついていかないわけにはいかなかったんだよ。
「いたいけな女子中学生を襲ったなんてしれたら、まずいことになりますよね?」
とも。
「・・・で、おにいさん、本当にロリコンなんですか?」
ホテルの一室に入ったとたん、女の子がそう聞いてくる。
もうここまできたら、いくらロリコンだと言い張っても諦めてくれないだろう、
と思った俺は、素直に言うことにした。
「・・・俺にはそういった性癖は無い。さっきのは、嘘だ。」
苦々しく笑いながらも認めると、ほらね、と心なしかすこし得意げな顔をして、
「やっぱり!そうだと思いました」
と、嬉しそうに笑った。

「なあ、なんでこんなことやってんだ?」
俺はずっと思っていた疑問を口にした。
見た感じそういうことをやってそうには思えなかったからな。
聞いてはいけないものかと思っていたが、表情からすると案外そうでもないらしい。
「え、私、あなたがはじめてですよ?」
なんでもないことのようにいうから俺は内心、かなり驚いた。
というか多分顔にも出てた。
それと同時に、すごいチャンスだとも思った。だって、ここでなんとか説得できれば、
この娘は何事も無かったように、これからを送ることができる。一度やってしまったことはもう元には戻せないけど、まだやっていないなら、十分に取り返しがつく。
そう思った俺が、一体どう切り出そうか、と思案しているうちに、
「おにいさん、名前を教えてくれませんか?」と言われた。
ベッドの端に腰掛けていた女の子は立ち上がり、椅子に座っている俺の前までくる。
「教えてくれないんですか?」
そう言いながら顔を覗き込んでくるから、俺は変に意識してしまう。
「ストップストップ!距離感が近い!わかった、教えるから!!」
半歩下がったのを確認してから、なんとなく思いついた偽名を口に出した。
偽物の名前を使うことにとくに意味は無かったけど、
その場の非日常っぽい雰囲気にのせられてたんだろうな、今考えれば。
「・・・・イワサキだ。」

「ふーん、イワサキさん、ですか」
イワサキイワサキ・・・と呪文のように繰り返す姿は、ちょっとかわいい。
「で、お前の名前は?俺だけ言わせておいて、まさか言わないってことはないよな?」
「ヒメハルです、ヒメハル。呼び捨てでいいですよ」
随分と可愛らしいその名前は、その娘によく似合っていた。
「で、本題なんですが、イワサキさん、私と援交しましょう」
「・・・単刀直入だな」
一体どうやって説得したらいいのか、さっきから考えてはいるが、いい案はなかなか
浮かんじゃくれなかった。
いつもそうだ。肝心なときに限って俺は何も言えなくなるんだよ。
告白のときだってそうだった。台詞は考え抜いて、何回も小声で繰り返したのに、
いざ言うってなったら俺はおろおろしてろくに喋れちゃいなかった。
でも、今はそんなことを考えてネガティブになってる場合じゃない。
「俺は、ヒメハルとそういうことをする気はないんだ。」
そう言った途端ヒメハルは吹き出した。

「いや、イワサキさん、私と何をしようと思ってるんですか?」
「何がだ?」
「いや、あの・・・・私が言っている援交って、一般的に言われている、
アルバイト性行為のことではなくですね・・・・」
援交って他の意味あったか?と俺は思ったけど、とにかくハルヒラが
俺としようとしているのはそういうことじゃないらしい。
「・・・俺は、勘違いしてひとりでどう説得しようか悩んでたっていうのか?」
「説得って?」
ハルヒラが不思議そうに首をかしげる。
「いや、俺は・・・お前が援助交際をしようとしてるなら、
なんとかしてとめようと思ったんだ。援交するの、初めてだって言ってたし・・・」
恥ずかしい誤りに顔に熱が集まるのがわかる。何勘違いしてんだ俺。
でも、援交しようって言われて、ホテルに連れてこられたら普通はそう思うだろ?
「ふふ、ふふふ!」
そんな俺を見てハルヒラは笑い出したんだ、とても嬉しそうに。

「イワサキさんは、優しいですね。
見ず知らずの中学生のことを本気で心配して悩むなんて」
その言葉に俺は焦った。今までそんなこと、言われることがなかったからだ。
「いや、俺はそんなにいい人間じゃないはずなんだけど・・・」
ハルヒラはそれでもしきりに
「いいんです、私がそう思うだけなんです」
と言った。ちょっとうれしかった。

「で、お前の言う援交っていうのは、いったいどういうものなんだ?」
と話題を変えた。俺は褒められるとそわそわして、内蔵がこそばゆくなるタイプなんだ。
「じゃあ改めまして、イワサキさん。私と、援助交換ノートをしてくれませんか?」
「援助交換ノート?」
俺がそう聞くと、ハルヒラは「私が考えた造語です」って、ドヤ顔で言った。

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