P「真美の人生を滅茶苦茶にしてしまった」 (43)
目の前には仰向けで苦しむ真美。
まるで悪夢を見ているかのように
歯を食いしばりながら痛みに耐えている。
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目を覆いたくなるほど、生々しく滲んだ赤い血。
どれほどの痛みが真美の細い身体に襲いかかっているのだろうか。
真美の乱れた呼吸に混じる、うめき声。
それでも俺にはどうすることも出来ない。
どんどんと荒くなる真美の呼吸が
『終わり』に向かっているのだと確信させてくれた。
俺みたいなロリコンに目を付けられなきゃ
こんな事にはならなかったのにな。
真美「ねえ……兄ちゃん……兄ちゃんは覚えてる……かな……?」
P「…………?」
真美「真美は……覚えてるよ……兄ちゃんと初めて会った日のこと」
P「……どんな感じだった?」
真美「兄ちゃんは……笑って握手して、くれたんだよ……」
P「……そうだったかな」
真美「うん……絶対にトップアイドルにしてやる……って……」
それ以上、真美は何も言わなかった。
いや、気を失いそうな激しい痛みで
半ば理性を失いかけているのかもしれない。
どんどんと近づいてくる終わり。
いや、双海真美としての人生はとっくの昔に終わっている。
俺が終わらせたんだ。
ささやかな引退ライブを最後に
双海真美は芸能界から、その姿を消した。
それなりの知名度を得ていた真美には
当然、ゴシップ記事が大半を埋め尽くすような
三流雑誌の記者から執拗なまでの追求もあった。
真美の実家に乗り込んでくる輩も居たが
真美には俺の住むマンションに身を隠すように
指示していたので二ヶ月もすれば諦めてくれた。
その間も真美は、ずっと気丈に振舞っていた。
もし俺と出会わなければ、こんな事にはならなかったのに。
全ては俺が馬鹿なせいだ。
いつも真美を泣かせて。
そして今、俺の目の前で痛み、苦しんでいる。
俺は真美を苦しめたりしない。
そう誓ったはずなのに心の底では
この状況に興奮し、歓喜に震えているのだ。
どうしようもないな、俺は。
出来ることなら、もう少しだけ二人で居たかった。
だけどそれも、もう終わり。
始まりがあれば、やがて終わりが来る。
真美「ねえ、兄ちゃん……真美、ずっと謝ろうと思ってたんだ……」
P「……ん?」
真美「お仕事の邪魔ばっかりして……ごめんなさい……」
P「お、おい……何もこんな時に謝らなくても……」
真美「そうだよね……でもっ……こんな時じゃないと、なかなか踏ん切りがつかなくってさ……」
P「俺の方こそ、真美に辛い思いばかりさせて、すまん」
口を衝いて出たのは謝罪の言葉。
真美は少しだけ顔を歪めたあと。
柔らかく微笑んだ。
今も痛みに苦しんでいるはずなのに。
突然、ぼやけた視界に驚き
思わず手で押さえると、温かいものが指先に触れる。
溢れては、こぼれていく涙を
止める術は無かった。
真美「なんで泣いてるの……? 真美の……せい?」
P「まさか」
真美「ごめんね……わがままばかり言って……いつも兄ちゃんを困らせて……真美、本当に悪い子だよね……」
P「真美……」
真美「これもワガママになっちゃうかも知れないけど兄ちゃんには……ずっと笑っていて欲しいな……」
だって、しようがないじゃないか。
溢れて止まらないんだ。
真美への想いが。
真美との思い出が。
いつも、気づくと視界の隅に
真美のポニーテールが揺れていた。
いつも仕事の邪魔をしにきてくれて、ありがとう。
悲鳴の様な真美の声が聞こえ慌てて涙を拭う。
俺に向かって精一杯、その手を伸ばす真美。
言葉も無く、すがる様な眼差しを向けられ瞬時に理解した。
しっかりと両手で握り締めた真美の手は。
初めて出会った時と、変わらぬ大きさのままだった。
真美「真美ね……ホント言うと、もう少しだけアイドル続けたかったんだ……」
P「すまん。俺のせいだ……俺が……」
P「真美の人生を滅茶苦茶にしてしまった」
P「本当なら今頃、きっとトップアイドルとして有名になって」
P「TVにも引っ張りだこで―――」
真美「兄ちゃん!!」
P「―――っ!?」
真美「真美、後悔なんかしてないよ!」
真美「そりゃ今は、痛くって苦しくって辛いけど……」
真美「真美が望んだ事だし……だから―――」
真美「絶対に、元気な赤ちゃん産むかんね!!」
いつまでたっても子供のままだと思っていたのに。
俺は生粋のロリコンだと思っていたけど、違うのかもしれない。
今なら分かる。
きっと、真美だから好きになったんだ。
さあ、もうすぐだ。
終わりが訪れ、新しい日々が始まる。
今まで二人で過ごしてきた日々を懐かしむと同時に。
真美の頑張る姿を見て
ようやく、新しい命を迎える決心が付いた気がする。
頑張れ、真美。
いつだって、俺は応援する事しか出来ないけど。
真美の悲痛な叫びが分娩室に響き
次に大きな産声が響き渡った。
だけどこれで終わりじゃない。
苦しみが二倍なら、喜びも二倍。
遅れること数十分。
産まれ落ちた愛の結晶がもう一人に負けない様に泣いた所で。
俺も。
真美も。
我慢しきれずに泣いた。
初めて、家族四人で泣いた。
これからは四人で歩いて行こう。
P「お疲れ様、真美。よく頑張ったな」
真美「んじゃあ、ご褒美ちょ→だい?」
P「何がいい?」
真美「……真美の頭……撫でて?」
P「やっぱり真美は子供だな」
真美「子供じゃないよ! もうお母さんだもん!」
ひとしきり真美の頭を撫でたあと。
二人の我が子を抱く真美を
そっと包み込むように抱きしめる。
この腕の中にある温もりだけは
何があっても守り抜こうと思った。
真美「ねえ、兄ちゃん……?」
P「うん?」
真美「真美は今、無茶苦茶幸せだよ」
【P「真美の人生を無茶苦茶にしてしまった」】改め。
【P「真美の人生を滅茶苦茶幸せにしてしまった」】終わり。
以上で投下終了です。
ここまで読んで戴いた方が居ましたらありがとうございました。
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