訓練兵1年目からスタート
思春期の入り口に立った何も始まらないエレンとミカサ
地の文注意
「ミカサ、ちょっと」
湯浴みを済ませて部屋に戻る途中、5人ほどの女子に囲まれた。あまり記憶が定かでないけれど、恐らく同期。
よく分からないけど深刻そうな様子の面々。
…私が何かしたのだろうか。……身に覚えは、ない。
馴染みのない面子と空気に戸惑っていると、さっき声を掛けてきた子が一歩私に詰めよる。一瞬、彼女の濡れた長い髪から花のような匂いがした。
「聞きたいことがあるの。いい?」
「ええ」
なんとなく気圧されてしまい、頷くしかなかった。同じ強気な口調と目でも、エレンのそれとは何かが違った。
「エレンの事なんだけど、あなた前に彼は家族だって言ってたじゃない。その言葉は本当?」
険しい顔をしているから何事と思えば、突拍子もない事を尋ねられて、一瞬きょとんとしてしまう。
「…ええ」
胸がざわざわした。
「本当に?」
「ええ」
「信じていい?」
「ええ」
「嘘ついてない?」
「?嘘をつく必要がない」
何度も何度も念を押すかのように同じ事を聞いてくるので、段々煩わしく思えてきた。
彼女は私の返答にあからさまに脱力すると、打って変わり笑みを浮かべてきた。それに続いて周りの子達もほっとしたような顔をする。状況が掴めない。
彼女を含めた女子達はさっきからしきりに目配せし合っている。あまり居心地が良くない。
「そう…じゃあ恋愛感情とかあるわけないよね!」
またもや話が飛躍して言葉に詰まる。
「…ない」
そう言った途端「だよねーっ」と口々に彼女達が騒ぎだす。…眠い。
私の答えでこんなに盛り上がる意味が分からない。さっきから胸がざわざわする。いい加減気分が悪い。早く部屋に戻って明日の訓練に備えて眠りたい。
「どうしてこんなことを聞くの?」
現状から一刻も早く脱したい一心で尋ねると、詰めよって来ていた子は私の右側にいた子の手を引いて輪の中心に導く。
金髪の綺麗な子が目の前に現れた。
「実はね、ニコルがエレンの事好きなの」
ニコルと呼ばれた女の子は、頬を仄かに桃色に染めながらもきっ、とこちらを見つめてくる。彼女も微かに甘い香りを纏っている。
「…」
普段なら例え教官に睨まれようがものともしないが、どういうわけか彼女の青い瞳に見つめられると胸のざわざわが大きくなって言葉が出てこなかった。
沈黙を先破ったのはニコルだった。
「あっあの…私からもひとつ聞きたいんだけど…。『家族』とかの肩書きじゃなくて…ミカサ自身はエレンの事どう思っているの…?」
口を一文字に結んで私が答えるのを待つ彼女の誠実そうな目に、促されるように口を開く。
「エレン、は一番大切な人。なので、守りたい」
「…家族として?」
「そう。エレンはたった一人の家族。」
「…」
ニコルは一瞬こちらを気の毒そうな目で見た。しかしすぐにまた頬を染めて、そっか、良かった、と呟いた。一際強く胸がざわざわして、無意識に指先がぴくっと動いた。
「じ、じゃあ、私がもしエレンと付き合ったとしても許してくれる?」
周りの子達も同調して期待した目を向けてくる。
「じ、じゃあ、私がもしエレンと付き合ったとしても許してくれる?」
周りの子達も同調して期待した目を向けてくる。
ざわざわが限界に達した。そうか、このざわざわの正体は眠さによるイライラだ。早くベッドに入りたい。そうすることによってしか平穏は得られない。
「私に許可を求める意味が分からない。私に、エレンが選んだ人にとやかく言う資格はない。」
自分でも驚くぐらい早口でニコルにそう告げると、おやすみなさい、の言葉と共に輪を押しのけて脱出した。
強い語気に気圧されたのか、彼女達は追ってこなかった。
ごめんミスった↑の上から6行は無しで
部屋に帰るとサシャが声を掛けてきたが、耳に入ってこなかった。
おやすみの挨拶だけして毛布に潜り込む。
あんなに眠かったはずなのに、ベッドに入ってもざわざわは暫く治まることはなかった。
「ミカサ?大丈夫ですか?眠れないんですか?」とサシャが心配してくれたおかげでやっと落ち着くことができた。
ミスったとこは上から6行じゃなくて2行だった…ぐだぐだすまん。
ここまでです。
次は1月後半に来ます。
「エレン」
「…」
「エレン」
「アルミン、昨日読んでた本の話してくれないか」
「え…い、いいけど…うーん。どこから話そうか」
「エレン」
「アルミンに任せる」
「エレン」
「…何だよ」
困った。返事をしてくれた先のことを考えていなかった。
「………さっき唾が散った」
「悪かったよ」
違う。
別に散ってもよかった。
私が新たな言葉を探している間に、アルミンが話しだしてしまった。
結局、エレンと一緒になってアルミンが立体機動の本について持論を織り混ぜながら語るのを聞いた。
途中、いつも通りサシャが余り物を請いに来たので木の実で「どっちだ」をした。
彼女はおそろしく勘が鋭い。
手に入れた木の実(私のを全部)を「木の実って意外とお腹に溜まるんですよね」などと言いながら嬉しそうに食べていた。
身体を解している最中、不意に視線を感じて横を向くと、離れた場所からニコルがこっちを見ていた。
視線は私をすり抜けてエレンだけに向かっている(ような気がする)。
ー『ニコルがエレンの事好きなの』
好き、だと人はあんなかおをするのか。
訓練が始まっても、先程目撃してしまったニコルのかおが頭から離れない。
形容し難い。こちらまでどきっとするようなー…
「!?おいミカサ!どこ行ってんだ!そっちはコース外だぞ!?」
エレンの声にハッとする。
左アンカーを抜き損ねてしまう。
目前まで木が迫った。
「…っ」
直ちに右アンカーを放って遠くの木に突き刺す。
が、どういうわけかうまく刺さらなかったようで体が振れる途中で外れてしまった。
「…!!」
「ミカサ!!」
駄目だ、もう片方の巻き取りが間に合わない。落ちてしまう……!
しかしこの状況ではどちらも煙弾を打ち上げることができない。
エレンもそれに気がついたようで、そのまま黙り込んでしまった。
「私に考えがある」
めいいっぱい手を動かして、なんとかエレンの両脇に手を着く。
そのせいでワイヤーが突っ張って余計に頭部がエレンに密着することとなった。
エレンが苦しそうな声を上げた。
私も苦しい。それに色々思う所もあるが、まずはこの現状を打破しなくては。
「ワイヤーを力尽くで破裂させる」
「は…?それは本気で言ってるのか?どれだけの強度だと思って…っ!?」
あらん限りの力で、頭を上に押し上げる。
「痛くても耐えてエレン、すぐに終わるから…!」
「痛いとかいう問題じゃ…落ち着けっ…~!」
「はぁっ…責任を負うのは私だけだから…!」
「ちっげーよ!そうじゃないんだよっ…クッソ……!!」
エレンの脚が再び絡みつく。
「脚やめて…!」
「お前がやめろ、無茶だ…!!」
「私は…できる…!!」
「やめ…ろぉ…!」
ブチッ!
「「あ」」
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