馬「干支に物申す」 (43)


馬「おかしいとは思いませんか」

羊「何がでしょうか?」

馬「馬とは優れた脚力を持っている動物です」

羊「まあそうですね」

馬「しかし! なぜか干支の一番ではないのです!」

羊「はぁ」


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馬「あ! あなた、なぜ足の速さが干支の順番に関係するのかわかっていませんね!」

羊「いえ、さすがにそれはわかります」

馬「では、何をどうすれば牛やうさぎやヘビごときが私に勝てるのか、理解に苦しみませんか!?」

羊「ネズミは?」

馬「あれは脚力関係ないじゃないですか」

羊「まあそうですね」


馬「ここはひとつ、物言いをかけるべきだと思うのです」

羊「誰に」

馬「神です」

羊「!?」


馬「はっきり言って、初代干支レースはルールも何もありゃしません
  これは神の怠慢と言ってもいいでしょう」

羊「いや、あれはそもそもレースというわけでも無いでしょう…
  神様は新年早く挨拶に来いと言っただけです」

馬「それをレースと言うのです!」

羊「……そうですか」


馬「と、いうわけで
  是非ともこの第二回干支決定レース署名活動に協力して欲しいんです」

羊「まあ、署名だけならいいですが」

馬「いえ! 一万名分の署名を集めて欲しいのです!」

羊「」


羊「何故私に頼むのですか」

馬「え、いや、ねえ?
  順番があれじゃないですか」

羊「干支があなたの直下だから、と?」

馬「まあそういうことです」

羊「舐めてるんですか」

馬「すいません」


羊「こういうのは龍さんに頼みましょう」

馬「龍さんにそんな権限があるのですか?」

羊「龍さんは神の獣ですよ」

馬「虎どころかうさぎにも負けていますがね」

羊「あ、龍さん」

馬「これはこれはお日柄よろしゅうございます!」

龍「なんの用だ」


羊「じつは、斯く斯く然然で」

龍「……別に干支は序列というわけじゃないだろう
  一番だからえらいとかではなく、12種の中に選ばれた事が光栄なのだぞ」

馬「しかしですね、馬と言ったら足の速さが売りではないですか
  それが七番目なんて、アイデンティティを失ったも同然です」

龍「しかしな」

馬「なんですか?」

龍「馬が一番ではなんとなくパッとしない気がしないか?」







羊「いじけちゃったではないですか」

龍「……すまん」


龍「だが、干支の物語は小さく非力なネズミが賢さを活かして一番になる所が面白いんじゃないか」

馬「なんですか! 私達はネズミの引き立て役ですか!」

羊「その余裕! いろんな物語に引っ張りだこだからって調子に乗ってませんか!?」

龍「!?」


龍「……わかったわかった、私から神様にお伺いを立ててみる」

馬「おお」

羊「さすが龍さん」

龍「期待はするなよ」


龍「……と、いうことです」

神「……」

龍「一応、考えるフリでもしていただければ」

神「それだ……」

龍「え」

神「それだよ龍! 私が新年に求めていたのは!」

龍「」


神「もうぶっちゃけ、今の干支には飽きた!」

龍「飽きないでください」

神「よし、そうと決まれば新しい干支を決める競争をやろうじゃないか!」

龍「落ち着いてください」





ザワザワ

神「集まったな、全世界の動物諸君!」





龍「……(止められなかった……)」

虎「どうした、浮かない顔して」

龍「……別に……」


神「さて、前回のレースでは、私がルールの取り決めを怠ったために皆から不満が出たことと思う
  今回はそれを見直し、わかりやすさを求めたルールを採用した」

神「ルールはバトルロイヤル!
  最後の12匹になるまで、君たちには命をかけて戦ってもらう!」

龍「!?」

馬「!?」

羊「!?」



馬「い、一体何を言っているんですか!?」

神「足の速さではそのものの「格」などわからんものだ!
  自然界においては生き残り、子を残す事こそ動物の「格」!
  強きものは追い、弱き者は逃げろ!
  不満は言わせん、そのためにお前たちの体はできているのだから!」

龍「……」

虎「どうした」

龍「背後から冷水ぶっかけてくる」

虎「いいじゃねぇか、私達に有利だぜ」

龍「……聞いてしまったんだよ」

虎「? 何を」


神「さて、今回は特別ゲストを呼んである!」

神「無敵の獣、リヴァイアサン!」

リヴァイアサン「よろしく」

神「これまた無敵、有角馬ユニコーン!」

ユニコーン「どうもです」

神「何人いるのか! 無敵の怪鳥、ガルーダ!」

ガルーダ「ども」

神「まだまだいるぞ! 無敵の獣ベヒモス!」

ベヒモス「どうも」

神「超級ボディ! 巨蛇ウロボロス!」

ウロボロス「こんちゃす」

神「これまた超ヘビー級、怪魚バハムート!」

バハムート「オッス」

神「神殺し! 魔狼フェンリス!」

フェンリス「頑張ります」

神「言わずと知れた、地獄の番犬ケルベロス!」

ケルベロス「仕事があるんで早く帰りたいんですが」

神「まだまだいるぞ!」




虎「………」

龍「な?」



神「戦闘開始は元日の午前0時! 遅刻はその時点で失格だ!」



・・・・・・・



蛇「さあやってまいりました第二回干支決定戦!
  実況は私、冬眠中に無理矢理起こされて不機嫌な蛇と」

鼠「前レース優勝の鼠が解説でお送りします」

蛇「さて鼠さん、前回優勝者から何か試合でのアドバイスはあるでしょうか!」

鼠「ええ、簡単なことですが
  試合開始は次の日になった、と参加選手に伝えることですね」

蛇「おお、流石は外道だ!」

鼠「ふふ、今年もやらせていただきましたよ
  今回は開会前スタッフとしても参加したので、説得力も9割増しです」

蛇「なるほど! だから選手がほとんど来てないんですね!」

鼠「そういうことです」

蛇「なめとんのか」

鼠「すいませ」

バクリ!


龍「結局、集まったのは元の12匹だけか」

猫「あの、私いますけど……」

馬「まあ、私達は鼠の手口を知っていましたからね」

猫「私……」

羊「空気を読んでください」

猫「……」

虎「猫なら私がいるんだからいいじゃねぇか」

猫「」クスン



羊「文句を言わないんですか?」

馬「私がやりたかったのはレースです、命懸けの戦いじゃありません」

羊「ふふ、頭が冷えたようですね」



神「私は認めんぞ! こんな結末は!」

龍「……しかし、参加者が定員以外いないのではどうしようも」

神「ならば、私が参加する!」

龍「!?」


神「ルールは簡単!
  お前たちが勝てば十二支はそのまま!
  しかし私が勝ったら! 再び私が呼び寄せた幻獣チームを交えた十二支バトルロイヤルを開始する!」

馬「なぜ!?」

龍「……なるほど、そういうことか」

虎「ど、どうした?」

龍「神は常々言っていた、最近は初詣に来る人間も減り、十二支グッズも売上が芳しくないと」

虎「なんだその生生しい話」

龍「恐らく、目的は十二支ビジュアルの一新!
  海外のビジュアル系モンスターを揃えた新十二支で巻き返しを狙うつもりだ!」

猫「場末の芸能事務所みたいな発想……」

羊「しかもロクなビジュアル系が集まらないんですよね、大体」



牛「……どうする?」

猪「あんな化け物たちと戦う……いや、皆とだって戦いたくない」

馬「決まりですね」

虎「ああ、神を倒すしか無い! そうだろ龍!」

龍「止むをえん……私も覚悟を決めた!」

猫「私も戦います!」



神「さあ来い!」

十二支「うおおおおお!」


十二支「」ボコボコ…

神「弱い! 弱すぎる!」

虎「ち、チクショウ、歯が立たねぇ…」

龍「当然といえば、当然、だな……」

馬「このままでは……!」


鼠「諦めるな!!」





虎「いいか皆! 私と龍はなんとしても奴の首にかぶりつく!
  死ぬ気で援護してくれ!」

鶏「それしかないようですね」

牛「私と馬が全力で突撃すれば、一瞬くらいは止められます」

龍「……危険な役目だ、すまん」




鼠「ちょっと!!」



虎「何だお前」

猫「さっきの一斉攻撃の時もいなかったけど」

鼠「私が一斉攻撃に協力したって何の意味もないからな!」

猫「ふんぞりかえるな」

鼠「へっ」

猫「(うわぁ殺したい)」ウズウズ



虎「ほっとけ! さっさと行くぞ!」

一同「おう!」


10秒後


一同「」ボロボロ……

神「口ほどにもない!」





龍「ググ……」

神「ほう、まだ動けるのか……
  さすがと言っておこうか、だが、私には勝てん!」

ズム!


龍「カハァ!!」

鼠「止めろ!」

龍「!?」


神「誰かと思えば……小賢しい知恵で十二支となった鼠か」

鼠「……」

神「お前は昔から気に入らなかったよ……
  弱きが強きを倒す物語が好まれる、弱者の代表である貴様が最後に勝つ物語を、私は飽きるほど見てきた」

鼠「……」

神「果てにはテーマパークだと!? 営業利益300億だと!? ふざけるんじゃあないぞ!」

龍「(なんだこの神)」


神「目障りな貴様を倒し、栄えある十二支一番の座は、私がもらう!」

鼠「く、そんな大層な事を考えていたのか!
  確かに十二支一番の座は、神にも勝る栄光!!」

龍「(なんだこいつら)」


鼠「とう!」ピョン!

神「」

パシン!

鼠「アウチ!」ベチン!

龍「(そりゃそうだ……)」


神「ククク……これは物語ではない、紛れもない現実!
  鼠が神に勝てるはずがなかろう!」

鼠「……フフ」

神「!? な、何がおかしい!」

鼠「まだ気付かないのか……」


神「!! 鼠のノミが俺の血を吸っている!?」

鼠「知っているな……鼠とノミの間をめぐる、ある細菌が他の動物の体に入ると……」

神「こ、黒死病!」

鼠「苦労したぜ……今どき、ペスト菌を保有してる鼠なんてなかなかいないからな」

神「き、貴様! 貴様ああ!」

馬「説明しよう!
  ペストはネズミの血を吸ったノミが感染経路となる場合が多いのだ!」

羊「だからって空気中の浮遊物質や傷口などから汚染されないってわけじゃないよ!
  皆も、鼠に触れる際は十分な注意をしようね!」

龍「……」


神「ば、バカな! 私の体が……」ガク!

鼠「終わりだ、神」

神「な、舐めるな……私は神だ……今は倒れる、だが、必ずいつか甦る!
  その時こそ、十二支の最後だ!」

鼠「……あばよ」

神「ぐおおおおおおおおお!」ドシュウゥゥ!


鼠「……見ろ、初日の出だ」




馬「終わったな……」

羊「一つの戦いが、な……」

鼠「だが、戦いはまた起こるだろう……神が甦るその日までに、強き子が育つことをあの太陽に願おう」


虎「あいつら何やってんだ?」

龍「私に聞くな」





おしまい

最後まで読んでいただき、ありがとうございました
「場末の芸能事務所みたいな発想」は、適当なことを書いただけなので真に受けないでください
少しでも面白いと感じてもらえたのなら幸いです、では

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