八幡「これ…由比ヶ浜…だよな…?」 (193)
八幡「…………」カチカチ
八幡(高校を卒業し、専業主婦になるという目標を捨て就活をしたが職すらも見つからず…。1年が経とうとしている…)
八幡(最近はあまり小町とも話していない、本来ならこれが本当にあるべき兄妹の形なのかもしれないと最近は思い始めていた…)
そんな矢先…。
八幡「……」カチ
八幡「これ…由比ヶ浜じゃないか…?」
そこにはかつて同級生で同じ部に所属していた由比ヶ浜結衣の姿があった。
高校時代から何も変わらない。
唯一変わっていたこととすれば由比ヶ浜が動画の中で男優と性行為をしている、という点だった。
八幡「…………」
タブを閉じる。
八幡「はは…。なんだそれ…」
悲しい。といえば嘘になる。
悲しければ俺は勃起なんてしないはずだ。
八幡「はは…。」
八幡「……」ピッ
八幡(確か連絡先が…あった…。)
連絡先にある由比ヶ浜結衣という名前。
容易に見つけられた。
八幡「って何してんだ俺、」
ふと我にかえる、今更連絡したところでどうというのだ。それにもう連絡先は変わっているだろう。
八幡「………っ」
分かっている、連絡先は変わっているだろう。
だが俺は電話をかけた。
prrrrr…。
八幡「でるな…」
prrrrrr…。
ドクン…ドクン…。
八幡「頼む…出ないでくれ…」
そう思いながらも期待した。
何かが変わるんじゃないかと。
prrrrr…。
汗が流れる。
ッーーー。
『はいはーい、もしもーし?』
八幡「…………」
聞き覚えのある声。
あの頃から全く変わってない。
『あれー?もしもーし?間違い電話かな?』
八幡「ぁ…っ…!」
八幡「ゆ、…由比ヶ浜か…?」
結衣『そうだけど…誰?』
八幡「あ、えーっと…」
結衣『え、もしかして嘘!!その声ヒッキー!?』
八幡「お、おぅ…」
喋り方すら変わっちゃいない、あの頃のままだった。
結衣『うっそー!久しぶり!なになにどうしたの!?』
八幡「あ、いや、ちょっとな…」
結衣『けどなんか嬉しいなー。何年ぶりだろね?』
八幡「あー、1年くらいじゃないか…?」
ここ最近発声をしていないせいか声が震える。
大目に見てください
結衣『そっかー、もうそんなにかー。』
結衣『ところでヒッキーは今なにしてるの?』
うぐっ、痛いところを突いてくる。
八幡「ん、専業主婦だよ専業主婦」
結衣『えっ!?嘘!!誰の!?』
八幡「嘘だよ馬鹿、まぁそれなりにやってんだよ」
我ながら上手い交わし方だ。
八幡「それで?由比ヶ浜はなにやってんだよ?」
言ってから気付いた、自分の失言に。
八幡(あ、やべ…)
結衣『……まぁ、私もそれなりかなっ!』
由比ヶ浜も交わしてくれたのでスムーズに会話が進んだ。
八幡「それなりか…。なるほどね」
結衣『あー!ヒッキー絶対疑ってるでしょ!!』
八幡「はは、悪い悪い」
結衣『もーっ!!』
最初は動画の事が気にかかって緊張したが、気にしなければどうということもなかった。
高校時代の会話のままだ。
八幡「っと、結構話し込んじまったな、すまんかった」
結衣『ううん全然いいよー♪私も久々にヒッキーとお話できて楽しかったしっ!』
八幡「そうか、まぁ、なんだ。俺も頑張るから由比ヶ浜も頑張れよ」
我ながら最後の言葉としては完璧。
内心決まった。と思いつつ切ろうとしたその瞬間由比ヶ浜から思いもよらぬことを言われた。
結衣『ねぇヒッキー、まだこの辺りに住んでる?』
八幡「…え?」
なんだか嫌な予感がした。
八幡「……何でそんなこと聞くんだよ」
結衣『え?何でって…えへへ、私もまだ住んでるんだ、この辺りに』
信じたくなかった。
まさかまだこの辺りに由比ヶ浜が住んでたなんて。
しかも『この』辺りにって
八幡「まさか由比ヶ浜…今…」
結衣『あっうん、今家の方に居るよ』
八幡「………」
結衣『…ヒッキー?』
八幡「い、いや何でもない…余りにも久しぶりだからな、感動して涙が止まらねーんだよ」
結衣『あー!その声のトーンは嘘ついてるでしょー!』
八幡「うるせー」
早く電話を切りたかった。何か適当に理由をつけて逃げたかった。
なぜならこの流れは確実に、確証なんて全く無いが確実に
結衣「それでさヒッキー……久しぶりに、会えないかな?」
このまま再会って流れになるんだろう、きっと。
八幡「出かけてくるわ」
小町「そー…」
八幡「………」
少し前まではどこに行くのかと問い詰めてきた妹も今では大人しいもんだ。
八幡「……行ってきます」
外は春真っ盛りだと聞いていたが寒い、寒すぎる。
最近はコンビニにも行かなくなったが世界はここまで俺に厳しくなっていたのか。
もう少し働け、地球温暖化、人のこと言えないが。
八幡「………」
少しでも考えないようにしても浮かんでくる、由比ヶ浜のあの姿が
八幡「………」
同級生の痴態で元気になったりヘコんだり、俺は未だに妹離れも旧友離れも出来てないらしい。
世界はこんなにも簡単に何度も俺を嫌な現実に突き飛ばすのに。
八幡「………」
自分の部屋に篭っている時と違って外を歩いていると色んなことを思い出す。
ディスプレイの向こう側に広がる世界が見えないせいかここぞとばかりに頭が働く、迷惑な話だ。
そうは思いながらも、浮かんでくる、一年前までの由比ヶ浜の姿。
由比ヶ浜『まっまたっ…ヒッキーとっ…ゆきのんっ…と…三人でまたっ…会おうねっ!』
卒業式が終わった次の日、奉仕部の部室に三人で集まって一人感極まって泣きじゃくった由比ヶ浜。
馴れない状況に二人で必死になだめて、その姿に笑い出す由比ヶ浜。
八幡「………」
誰よりもあの部室を大切に思って、誰よりも俺と雪ノ下と由比ヶ浜…この関係がなくなるのを恐れた彼女は…
八幡「……よう」
結衣「うん、久しぶりだね、ヒッキー」
一段と綺麗になって、あの日のようにまた、笑った。
八幡「………」
結衣「………」
改めて向き合うと電話の時と違って口が全く動いてくれない。
まあ久々の外に久々の家族以外の人間と顔を合わせるんだ、そんなのに対応できるのなんてサイヤ人ぐらいだろ。
八幡「………」
だめだ、チラつく。
男優と体を重ね、聞いたこともない声を出し、蕩けた表情で俺を見た由比ヶ浜が。
結衣「…どうしたの?ヒッキー?」
八幡「…すまん、何でもない」
ダメだ、否定できない。
由比ヶ浜だ、ここにいる由比ヶ浜も、あの由比ヶ浜も
二人共由比ヶ浜だ。
どっちも……あの時に泣いて、笑った、由比ヶ浜だ。
結衣「えへへ…何だかこうやって二人っきりで会うと気まずい感じになるね」
八幡「…そうか?相変わらずぽけーってした由比ヶ浜で俺は安心したが」
結衣「もう!ヒッキーそういう所全然変わってないしっ!」
八幡「はは、お前もその口癖全然変わってないし」
笑うのってこんなに難しかったのかよ。
くっそ、卒業するまえに戸塚からエンジェルスマイル伝授してもらえばよかった。
結衣「ヒッキーだって相変わらず笑顔キモいし!もう!」
八幡「……けど綺麗になったな、一年ですごく」
結衣「っ!」
思わず言ってしまった、こんなこと言うのは葉山辺りの特権なんだろうが。
だがあんな姿を見たんだ、今更恥ずかしくねえよ、こんなセリフぐらい。
あれから二人で喫茶店に入った。外で話をするには寒すぎる、と俺の方から提案した。
店の中は俺と由比ヶ浜以外客はおらず、何とかやっと一息つけると安心した。
そして出来るだけカウンターから一番遠い席をゲッツした。
人の目が気になるからな、白い目で見られるのは身内だけで十分だ。
結衣「えへへ~♪」
八幡「………」
どうも今さっきのセリフが思いのほか効いたのか由比ヶ浜はずっとニヤけ顔だ。
いくらなんでも分かりやすすぎだろ、親戚んちに居る幼女かよ、俺の親戚にそんな幼女いないけど。
結衣「ねえヒッキー」
八幡「ん?」
結衣「……なんでもないっ、すいませーん」
何だ今のは、牽制か?
……ゲームのしすぎだな、流石に。
ホットココア、うまし。
体に染み込んで行く感じがスゴい、あー、カカオ豆すげえ。
八幡「………」
結衣「………」
由比ヶ浜は由比ヶ浜でパフェを突っついている。こんな日にまでアイスがでかでかと乗っかってるの食べて死にたいのかこいつは。
結衣「………」
何だ、今度は俺の顔面をロックオンしやがった、まさかそのキンキンに冷えたフォークで狙撃する気か、おいやめろ。
結衣「えへへ、はいヒッキー、あーん」
八幡「………」
恥ずかしくはないのか、この親戚の幼女(19)は。
八幡「あ、あー…」
――ぁっ…ダメぇっ…――
八幡「………」
――イクっ…いやっ…――
結衣「…どうしたの?ヒッキー?」
――そこはっ…んっ…――
頭の中をぐるぐる回ってる。
今、画面の中でヨガってた女が俺に。
嘘だろ、何だよそれ気持ち悪い、気持ち悪い。
八幡「あっ…あっ…」
何やってんだよ俺、こいつ知らない男に抱かれて喜ぶクズだぞ。
結衣「……ヒッキー?」
でもこいつは由比ヶ浜だ、由比ヶ浜、俺の知ってる由比ヶ浜。
俺の。
八幡「や、やめろよっ!AV女っ!」
結衣「………」
八幡「はぁ……はぁ……」
結衣「え?」
そうだよ何やってんだよ俺は、こいつは自分で望んであんなことをしたんだ。
俺がそれを否定していいわけない、いいわけないだろ何やってんだよ。
でもこいつは汚いオッサンに抱かれたんだぞ、これは事実だろ。
いや違う、俺が由比ヶ浜に自分勝手なイメージを押し付けてただけだ。
だから由比ヶ浜は悪くない。
けど気持ち悪い。
結衣「………」
結衣「……ヒッキー」
呼ぶなよ、今は言うなよ、お願いだから。
結衣「……ごめんね…」
だから言うなよ、何で言うんだよ、何でだよ、足掻けよ、少しは俺の言ってることに対して疑問を持てよ。
私には関係ないって顔しろよ、何言ってんだよこのキモイ男って思えよ。
謝るなよ、謝ったらお前もう認めるんだぞ、自分がAV嬢だって。
あの由比ヶ浜がAV嬢だなんて信じたくねえよ、だから今からでもいいから撤回してくれよ。
私は違うって言えよ、私はそんなことしないって、ヒッキーキモすぎって言えよ。
言えよ、由比ヶ浜。
結衣「………会ってくれてありがと…こんな私なんかに」
言えよぉ、由比ヶ浜。
結衣「お金、置いてくね……ヒッキーそんなに持ってなさそうだし」
八幡「……ゆっ…ゆいっ…」
喋れない。
ダメだ、今になって実感した、俺、何言ってんだよ。
何でこんなこと言っちゃってんだよ俺、少しは冷静になれよ。
あいつは由比ヶ浜だ、それは変わらないだろ。
それなのにオッサンに抱かれたぐらいで俺は何言ってんだよ。
いやぐらいじゃないけど、でもそれぐらいで俺の中の由比ヶ浜が揺らぐわけでもないだろ。
何だよ今の俺、何でこんなに鳥肌立ってんだよ、寒いのかよ、こんなにあったかい日なのに。
結衣「……さよなら、本当に会ってくれてありがとう、ヒッキー」
おい待ってくれよ、違うんだよ由比ヶ浜、こんなこと言いたいんじゃなかったんだよ。
俺はこんな人間じゃないだろ、それぐらいお前も知ってるはずだろ、おい、なあおい。
カランカラーン…
八幡「………」
帰った、由比ヶ浜が。
八幡「………」
まあ別にいいか、いつでもPC立ち上げれば会えるしな。
八幡「………」
……何考えてんだ俺。
八幡「……金」
この金もあいつが自分の体売って稼いだんだよな。
何だよそれ。
八幡「………っ」
そう考えると尚更触れねえじゃねえかよ。
ダメだ、汗が噴出す、自分がやってしまった事も綺麗に頭の中で浮き出る。
嫌だ、何だこれ、マジでなんだこれ。
早く、帰りたい。
帰ってから気づいたがテレビの天気予報のお姉さんの言う通り外は寒くなかったらしい。
きっと喫茶店に入るまでずっと震えていたせいで勘違いしていたんだろう、寒いと。
何故震えていたのかは言わなくてもいいよな、今更、終わったことだし。
『あっ…んあぁっ…中は…だっ…いやっ…』
俺は今日、あの女が出ているビデオを使った。
海外の動画サイトで視聴せず、買ったビデオを。
画質も当然のごとく綺麗で、あの時会った由比ヶ浜がそのままディスプレイの中に入ったみたいだった。
抱きたい。
俺の中では由比ヶ浜はもうその程度の存在になっていた。
あの時、怖かったけど会いたかった、そんな気持ちはもう二度とわかないんだろう。
ただ、抱きたかった。
『あっ…イッちゃうっ……もうダメっ…あっ…あっ…』
「あぁっ!」
男優「ふう……ほら、舐めて」
「んっふう…」
雪ノ下「………」
スタッフ「それにしても友人を迎えるからってわざわざ撮影まで見るなんて」
雪ノ下「………黙りなさい」
スタッフ「あっ…すいませーん…」
「はぁ……はぁ…んっ…はぁ…」
男優「口の中見せて」
結衣「はいっ……んあぁっ…」
雪ノ下「帰るわよ、由比ヶ浜さん」
結衣「………」
雪ノ下「……明日から一週間は何もないんでしょう?さあ、早く帰りましょう」
結衣「…ねえゆきのん」
雪ノ下「何かしら」
結衣「私って……なんでこんなことしちゃってるんだろ」
雪ノ下「………」
雪ノ下「私が聞きたいわよ、本当に」
結衣「……えへへ…そうだよね、ごめんねゆきのん」
雪ノ下「………笑ってないで早く準備しなさい、由比ヶ浜さん」
結衣「ねえゆきのん」
雪ノ下「……何?」
結衣「ゆきのんはああいう仕事に興味ないー?」
雪ノ下「…申し訳ないのだけれど全くないわ」
結衣「だよねー、ゆきのんは私のために毎回来てくれるんだもんね、ごめんね変なこと聞いちゃって」
雪ノ下「………」
結衣「私ねー、ゆきのんが居なかったら多分今頃もっとおかしくなってたかも、ネタみたいな企画のAVに自分から売り込みに言ってかも」
雪ノ下「そうね…何があったのか知らないけれど、きっとおかしくなってたわね」
結衣「……ゆきのんは今の私を見ても嫌いにならない?」
雪ノ下「なるわけないわ……あなたは私にとって唯一の友人なのだから」
結衣「………ありがと、ゆきのん」
雪ノ下「…ええ、こちらこそ」
雪ノ下「……私はここで」
結衣「ごめんね、電車になんて乗らせちゃって」
雪ノ下「気にしなくていいわ、そんなこと……それより」
雪ノ下「その伸ばしている腕は一体何なのかしら?」
結衣「あっ……えへへ…何だかゆきのんに触れたくなちゃって…」
雪ノ下「………」
結衣「で、でも今さっきの男の人の臭い付いてるかもだし……それに汚いから…」
ギュッ
雪ノ下「……とてもいい匂いよ、せっけんと…由比ヶ浜さんの匂いよ」
結衣「………うん…ゆきのんもいい匂いだよ…すごく…すごくっ…いいっ…匂いっ…」
雪ノ下「………」
結衣「ねっ…ねえゆきのんはっ…嫌いにならないよねっ…」
雪ノ下「…ええ」
結衣「ゆきのんはっ…私がどんなに変わっても…整形してもっ…知らない男の人の子供妊娠してもっ…」
雪ノ下「嫌いになるわけないわ……その時は私が全力でサポートするわ」
結衣「わ、私がっ…私がっ…またヒッキーを好きになってもっ……こんな私がヒッキーを好きになってもっ…」
雪ノ下「………ならないわ、もしあの男が由比ヶ浜さんを傷つけるのなら私が許さないわ」
結衣「ゆっ…ゆきのぉん…」
雪ノ下「だから今日は帰りなさい、由比ヶ浜さん」
結衣「うんっ……ありがとっ…大好きだよ…ゆきのん」
雪ノ下「……私も…大好きよ、由比ヶ浜さん」
雪ノ下「………」
雪ノ下「………」
Prrrrr...
雪ノ下「……もしもし、イモ虫生活は順調かしら?比企谷君、いえヒキコモリ」
八幡『……否定できねーな、それは』
雪ノ下「本当に……久しぶりね」
八幡『ああ…まさかお前の方から俺に電話するとは思わなかったがな』
雪ノ下「私もしたくはなかったわ……けどすぐに解決しなくちゃいけないことがあるのよ」
八幡『………』
雪ノ下「あなたが一番よく分かってるはずよ、比企谷八幡……私の親友を泣かした男」
後日
雪ノ下「久しぶりね、比企谷君」
八幡「ああ、久しぶりだな雪ノ下」
八幡「でもまさか学校のこの部室をわざわざ空けてくれるなんてな、驚いたぜ」
雪ノ下「ええ、私の方から先生にお願いしたのよ」
八幡「……そういえば今日は週末だったな」
雪ノ下「ええ、部活動の生徒以外はほとんどこの校舎には居ないわ、だからあなたの本音を全て暴露しなさい」
雪ノ下「由比ヶ浜さんへの気持ちを、ここで、全て」
八幡「………」
雪ノ下「吐き出しなさい、比企谷八幡」
平塚「おっ、来てたのか由比ヶ浜」
結衣「……先生」
平塚「ほら、部室の前で立ち尽くしてないでさっさと入ったらどうだ?ここは寒いだろ」
結衣「……私は」
平塚「入れない理由でもあるのか……まああるんだろうな」
結衣「………」
平塚「なあ由比ヶ浜、卒業してから君自身は今の生活が幸せかい?」
結衣「えっ…」
平塚「だから今の生活は充実しているのかと聞いているんだ」
結衣「……いえ…そんなに」
平塚「そうか」
結衣「…はい」
平塚「……あー…由比ヶ浜、別にチクってもいいから歯は食いしばっておけよ」
結衣「えっ」
パンッ
平塚「………っ」
結衣「………」
平塚「自分の体を自分自身が守らないで誰が守るんだ、この大馬鹿者が」
結衣「………」
平塚「お前はとんでもないことをしたんだ、女として、一番してはいけない恥ずべきことをしたんだからな」
結衣「………」
平塚「簡単に済む話じゃないぞ、もうお前は一生その傷を背負わなくちゃいけないんだ、一生だ、死ぬまでずっと」
結衣「泣いてるんですか…先生…?」
平塚「……泣いてない、だからお前も泣かずにあの男が今から言うことを全て受け入れろ…それだけだ、じゃあな由比ヶ浜」
結衣「……はい、先生」
平塚「…次に会う時は昔みたいに馬鹿みたいに笑ってくれよ、あの二人と一緒に」
結衣「………」
雪ノ下「さあ、好きなだけ吐き出しなさい、比企谷君」
八幡「別に吐くことなんて何もねえよ、ただ強いて言うならエロいなってことくらいだ」
雪ノ下「そう…けれどあなた、以前由比ヶ浜さんに会ったわよね?」
八幡「……それがどうかしたのか」
雪ノ下「私はその時のあなたの気持ちが聞きたいのよ、さあ、言って頂戴」
八幡「何とも思ってねえよ」
雪ノ下「それは嘘ね、あなたのような弱い人間が由比ヶ浜さんの現実を易々と受け入れられるわけがない」
八幡「弱いって何だよ、お前に言われたかねえよ」
雪ノ下「ええその通りよ、私も弱いわ、今の由比ヶ浜さんと一緒に居るといつまで私は親友としていられるのか分からないぐらい不安で、とても弱いわ」
雪ノ下「けれどね、あなたのように現実から逃げて、ひたすら逃げて、あなたを好きで居てくれた彼女からも逃げるような男ほど落ちぶれたつもりはないわ」
八幡「……逃げてねえよ、俺はただ近寄りたくないだけだ、あいつに」
雪ノ下「……そう」
八幡「お前だって知ってるなら分かるだろ、あんな女受け入れろって言うのかよ、男なんだから黙って受け入れろって言うのかよ」
八幡「ふざけんなよ、分かってるよあいつが俺のことを好きなことぐらい、今も一年前も、ずっと、ずっと好きでいてくれたことは俺が一番よく分かっている」
雪ノ下「………」
八幡「けどあいつは本当の馬鹿野郎だよ、なんだよAV嬢って……まさかと思うけどな雪ノ下、そんな女を気持ち優先で考えろなんて頭の良いお前が言うわけないよな?」
雪ノ下「……ええ、そうね、その通りよ」
八幡「分かるだろ?想像してみろよ雪ノ下?オッサンに犯された女が自分に好意を向けてくるんだぞ、体関係の好意じゃない、違う好意をだ」
八幡「そんなの耐えられるわけないだろ、画面の中で猿みたいに腰振ってる女が自分の言葉で喜んで顔がニヤけたりするんだぞ」
雪ノ下「………」
八幡「気持ちがわりぃだろ!!!そんなの!!!」
雪ノ下「……ええ、その通りよ、その通りだわ比企谷君」
八幡「はぁ……はぁ……」
雪ノ下「彼女はとても大きな間違いを犯したわ…取り返しの付かない大きな間違いを」
雪ノ下「でも…でもそれでも…あなただけは彼女と以前のように…全てに目を瞑ってきたあなたなら彼女と…」
八幡「………」
雪ノ下「ここに集まっていたときのように…三人で…」
八幡「……無理だろ、そんなもん」
雪ノ下「…そう……そうね…」
「ごめんね、二人共」
八幡「……居たのか、由比ヶ浜」
結衣「うん、ヒッキーの気持ち……私、ちゃんと分かったから」
八幡「……そうか」
雪ノ下「ごめんなさい由比ヶ浜さん…こんなことしてしまって…余計あなたを…」
結衣「ううん、いいよそんなこと……私、これで色々とスッキリしたから」
八幡「………」
結衣「……ねえヒッキー」
八幡「ん?何だ?」
結衣「私ね…ヒッキーのことが大好きだよ」
八幡「………」
結衣「どれだけ男の人と一緒になっても、ヒッキーのことだけが一番大好きだよ」
八幡「……そうか」
結衣「うん…この気持ちは変わらないから…」
八幡「………俺もだよ、俺もお前への気持ちは、変わんねえよ」
結衣「えへへ、そっか……うん、分かった!」
結衣「よーし!ゆきのん今日はもうゆきのんの家でノンアルコールパーティーだー!」
雪ノ下「えっちょ、ちょっと由比ヶ浜さん!?」
結衣「へっへっへー、ヒッキー後から参加したいって言ったって遅いからねー!」
八幡「わーってるよ、俺はもうこのまま帰ってお前のビデオ見てから寝るわ」
結衣「あっ!ヒッキー買ってくれたんだー!えへへ、またいつか会ったらヒッキーは特別にただで相手してあげる!」
八幡「いらねーよ、お前にやってもらうぐらいなら空気嫁買ったほうがマシだっつーの」
結衣「もー!そうやってすぐ嫌味で返す所ヒッキーキモイ!」
八幡「……悪かったな」
結衣「…ホント……悪いよ、馬鹿」
雪ノ下「……行きましょう、由比ヶ浜さん」
結衣「うん……また、ね…ヒッキー」
八幡「ああ、また、だ…由比ヶ浜」
パタン…
八幡「………」
終わった。
やっと、終わった。
これであの女のことで悩まないで済む。
八幡「………」
気持ちが悪い。
八幡「……うっ…おっ…おえっ」
俺、たった今さっきまであんなことしてる女と普通に喋ってたのかよ。
八幡「んっ…ぐっ…かっ…はぁ……はぁ……」
だめだ、早く帰りたい、早く。
平塚「そう急ぐな比企谷、もう少し大好きな先生と戯れたっていいだろ?」
八幡「……先生…どいてください」
平塚「いやどかんぞ比企谷、なぜならお前は今から由比ヶ浜がどうしてああなったのかを知らなくちゃいけないからな」
八幡「……結構です…そんなこと」
平塚「簡単に言うとだな、全ての原因はお前が進学で失敗した所から始まるんだよ、比企谷」
八幡「………」
言うな。
言わないでくれ、それ以上は。
平塚「由比ヶ浜はお前と同じ志望大学を目指し勉強し、受かった、そしてお前は落ちた……ここまでは知っているな?」
平塚「そこからだ、由比ヶ浜はお前と共に過ごすために志望したはずの大学でお前の居ない意味のないキャンパスライフを送ることになったんだ」
平塚「そしてそこからはスムーズに今の状況に至る」
平塚「お前への思いの不完全燃焼で体目当ての男と付き合い、男が知り合いに由比ヶ浜を推したんだよ、AV女優にどうかってな」
平塚「彼氏と何度か一緒になったあいつは貞操観念が完全に薄れ、軽い気持ち…いや、何も考えずにAV撮影に参加した」
平塚「そこからはお前と会えない日々を体の快楽で埋めるかのように何度も何度も男優と……という感じだな」
八幡「………」
平塚「別にお前が悪いといってるわけじゃない、だが、お前が植えつけた種をお前が見て見ぬ振りして逃げ出したのがいただけんな」
八幡「俺は…そんな気…ありませんでしたから」
平塚「……そうか…」
八幡「…怒らないんすか……俺のこと」
平塚「怒るわけないだろ、お前が責められる点なんてどこもないさ、そう、由比ヶ浜も同様にな」
八幡「………」
平塚「だがな比企谷、お前の考え、気持ち次第で由比ヶ浜は何度だって変われる」
平塚「今回は失敗した、けどお前が動けば由比ヶ浜はまた笑って…」
八幡「……帰らせてもらいます…今日はありがとうございました、先生」
平塚「………私はお前の自分の身を投げ打ってでも現状を変える姿勢、嫌いじゃなかったよ」
八幡「………」
ミス
平塚「別にお前が悪いといってるわけじゃない、だが、お前が植えつけた種をお前が見て見ぬ振りしたのはどうかとは思ったがな」
これで
八幡「さて……由比ヶ浜のでやってから寝るか」
今更何言ってんだよ。
何で俺があんな馬鹿女のために何かしなくちゃならないんだよ。
こうやって道具として使われるんだ、あいつだって本望だろ。
八幡「………」
結衣『うん……また、ね…ヒッキー』
八幡「…使えるかよこんなもん」
八幡「………」
Prrrrr...
八幡「……よう…おいあからさまに嫌そうな声出すなよ」
八幡「そこに由比ヶ浜いるか?……ああ、そうか」
八幡「頼みたいことがある」
由比ヶ浜「………」
八幡「………」
由比ヶ浜「やっはろー」
八幡「おう、やっはろー」
由比ヶ浜「えへへ、ヒッキーがこの挨拶で返すなんて珍しいね」
八幡「うるせえ、今の俺はリア充共と同じくらいノリがいいんだよ」
由比ヶ浜「何それ、意味分かんないし」
八幡「………」
由比ヶ浜「それで…何で呼んだの?」
八幡「……もうさ…お前のビデオじゃ俺のイデオンソードが全く立たなくなったからさ」
八幡「女優、辞めろ」
由比ヶ浜「……は?何言ってんのヒッキー?」
八幡「辞めろって言ってんだよ、お前のその汚い職業を」
由比ヶ浜「い、今更何言ってんの!?訳わかんないし!そんなの不可能だし!今更辞めたって今までの過去は全部…」
八幡「それでもいいから、辞めろ」
由比ヶ浜「っ……で、できないよ…そんなの…もう今更…普通に戻ったって…」
八幡「だったら…だったら…」
だめだ気持ち悪い。
すごく気持ち悪い。
けど、ここで言って後悔しておかないと。
もっと気持ち悪くなる。
八幡「ずっと俺のことを好きで居続けろ!由比ヶ浜ぁっ!」
由比ヶ浜「………」
八幡「普通の由比ヶ浜に戻って!また昔みたいに俺のことを好きで居続けろよ!」
由比ヶ浜「ヒ、ヒッキー何言ってんの…意味分かんないし…」
八幡「俺だってわかんねえよ!今だってお前のこと気持ち悪いと思ってるし出来ればもう会いたくもねえよ!」
八幡「けどな!お前と雪ノ下と俺!あの部室で無駄に時間を潰したあの思い出が!俺の体にもお前のその体にもしみついてるんだよ!」
由比ヶ浜「………」
八幡「だから気持ち悪いけど嫌いにはなれないんだよ!どれだけお前がオッサンとセックスしようが知らない男の子を孕もうが」
八幡「それでも俺は、由比ヶ浜結衣って女を嫌いになれないんだよ!お前と同じでこの気持ちは変わらないんだよ!」
結衣「………」
八幡「はぁ…はぁ…はぁ…」
うわあ、今世界で一番気持ちワリイよ、俺。
結衣「……何それ、人を傷つけたいのか喜ばせたいのか…分かんないし」
八幡「悪かったな…卒業してから国語の授業受けてないせいか日本語が上手くまとまらないんだよ」
結衣「そうだよ、そんなんだから一緒の大学に行けなかったんだよ……ばかっ…ヒッキー…」
八幡「……流石俺だな、一流男優よりも女優を濡らすのが上手いんじゃね?」
結衣「うっさい!キ、キモい下ネタ言うなし!ヒッキーマジキモい!」
八幡「へいへい…」
結衣「ほんとっ……バカヒッキー!」
気持ち悪いはずだった由比ヶ浜が見せた笑顔は。
今までバカみたいにヨガっていたどの由比ヶ浜の表情よりも、興奮した。
って流石に興奮はしねえよ、何綺麗に〆ようとして最後に興奮してんだよ俺は。
笑顔で興奮とか、そんなアブノーマルな性癖じゃ俺のイデオンソード暴発で世界崩壊の危機に陥るわ。
八幡「……はぁ…五月病だ」
小町「ほーら、早く行った行ったー、何度もアタックして砕けないと天下のハローワークからお恵みは出ないぞー」
八幡「うわーん行きたくないよーもう俺妹攻略ゲーの主人公の仕事つくー」
小町「馬鹿言ってないで早く妹のために安定した職業に就・い・て・♪あっ!今のウインクは小町的に
八幡「行ってくるわー」
小町「うわーJKの妹にこんなことさせておいて放置はねーわー」
どうやらうちの妹は兄離れがまだ出来そうにないらしい、やれやれだぜ。
「あっ!ヒッキー!」
八幡「……そんなニヤけていても最初に職を手に入れるのはこの俺だ」
「私のほうが先に決まってるし、ほら、早く行こう!ヒッキー!」キュッ…
八幡「……おう」
何とか手は繋げるようにはなった、さて、じゃあ次は一体どことどこが繋がるんだろうか。
結衣「って最後まで下ネタはやめてよ!ヒッキーマジキモイ!」
終わり
お疲れ
酷いもの見てくれてありがとう
おやすみ
起きたら終わってた
このSSまとめへのコメント
甘々なssの多い俺ガイルssのなかでおすすめできる数少ない作品
こんな2人がうまくいくわけないでしょ、常識的に考えて。
原作もこんな感じになるんじゃない?比企谷と由比ヶ浜はそもそも住む世界が違う事を忘れている読者が多いんじゃない?
この作品も1年もたてば別れてるんじゃないかな。
av女優に対するリスペクトがあってもいいとは思うの。立派な仕事だしね
この雪ノ下は酷いな
由比ヶ浜がav女優になるのを
止めなかったくせに
八幡に逆ギレかよw
途中で読むの止めときゃよかった
元AV女優と付き合うとか
八幡の気持ちがよく分からんw
そもそも由比ヶ浜が行ける大学に
比企谷が行けないわけがないじゃん(マジレス
なんだ、その...見ててあれだけどそれなりに、うん。原作もこれに似たような落ちになると思う。
もっと生々しくしようよ