八幡「うーっす」雪ノ下「…」 (73)
雪ノ下「…」
八幡「…」
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雪ノ下雪乃は開いている本から目を離さず全く微動だにしない。
八幡「無視かよ」
雪ノ下「…」
八幡「…こ、こんにちわ」
初めて雪ノ下と出会ったときに挨拶を指摘されたことを思い出し、今度は日本国民の基本的な言葉で挨拶をした。
雪ノ下「…」
また無視だ。
何か怒らせるようなことをしたかなと思いつつ、これ以上は不毛だと悟った俺は、いつもの定位置に腰掛け、読書をしようとした。
続けてイイ?
八幡「…」
イスがない。
いつもなら定位置にあるはずであるマイベストプレイスが無いのだ。
八幡「オイッ」ボソッ
さすがにぼっちプロの俺でも自分の席を抹消されるような仕打ちは受けたことはないぞ。
思ってもみなかった出来事に少し目を熱くしながら(泣いてなんかないからねっ)
部室の後ろに並んでいるイスのひとつに腰を下ろした。
八幡「はぁ」ギィ
雪ノ下「!?」ビクッ!
イスに腰掛けた音で雪ノ下は小動物のように身体をビクッとさせた。
そんなに驚くなよ…
一瞬目があった気がしたが、雪ノ下はすぐに文庫本へと目を戻した。
そうですか。無視ですか。
誰も使わないこの教室なので、イスをどこかへやったのは雪ノ下だと思うのだが、だが果たして雪ノ下雪乃はこんな陰湿な嫌がらせをする人間なのかと疑問に思いながら、俺は鞄からしおりを挟んでいた文庫を取り出して開いた。
× × ×
不意に窓の外を見ると、辺りは日が既に暮れかけ、薄暗くなっていた。
冬至を過ぎ、一ヶ月ほど経ったが、やはりまだ日は短いなと感じた。
雪ノ下「…ふぅ」パタン
突然雪ノ下は開いていた本を閉じ、立ち上がったと思うと、迷うこと無くある場所へと向かった。
本人なんで大丈夫です^_^
ある場所とは…まぁいつもと変わらないティースペースな訳だが、机とイスしか置かれていないこの殺風景な教室に、生活感のあるものがあると少し違和感を感じた。
雪ノ下が湯を沸かし始めたということは…ガラッーーー
「やっはろー!」
聞き慣れたアホらしい挨拶の主は、由比ヶ浜だ。
ほんと雪ノ下は由比ヶ浜センサーを校内中に張り巡らせているかもしれないと思いました。怖い。
八幡「うす」
由比ヶ浜「…」
雪ノ下「…」ぷぃ
由比ヶ浜「ん?ゆきのん?」
雪ノ下「あ、ああ 由比ヶ浜さん、こんにちわ」
…
こいつもサラリと俺を無視しやがった。
もう、二人してなんなんだよ。
ついに俺も"ザ・空気"へと昇華したのかもしれない…
一瞬、案外イイのかもしれないと思ってしまったが、やっぱりやめだ。みんなの肺を出入りしたりするなんてお断りしたい。
由比ヶ浜「ゆきのんどうしたの?なんか顔色悪いよ?」
雪ノ下「え、ええ。すこし寒気がするのよ」
由比ヶ浜「そうなの?風邪?顔も熱いし…」
なんのためらいもなしに額に手を当てられた雪ノ下は、青白い顔なのに頬はすこし紅潮し、カオスな状態になっていた。
顔が火照る原因はほかにありそうなんですが由比ヶ浜さん?
百合百合しい展開もこうしょっちゅう見ていると、見慣れてしまい微笑ましく見えてくる。
どこか間違えてるような気がする今日この頃です。
雪ノ下「ち、違うわ、すこし疲れているのかしら…さっき変なことがあったのよ」
由比ヶ浜「変なこと?」
雪ノ下「え、ええ。"そこ"のイスが勝手に動いたりーーーーー
突然の事に目の前が真っ白になった。
雪ノ下の言葉が、今までのどんな罵倒よりも鋭く深く胸に突き刺さる。
俺の存在すべてが世界に否定されたように思えた。
俺だけが、何も知らない世界に取り残されるようだった。
由比ヶ浜は懐疑の目で"そこ"を見た…
じ、冗談だろ?…嫌だ、やめてくれっ
いつの間にか腐った両目には、大粒の涙があふれていた。瞳からこぼれ落ちそうな熱い何かを、決して落とすまいと、勢いよく二人の間を駆け抜け、俺は部室をあとにしたーーー
× × ×
既に日は暮れ、辺りはもう真っ暗だった。熱くなった瞳は、冷え込んだ空気のおかげですっかり冷め、興奮した気持ちも次第に落ち着いていった…
涙を流すなんていつぶりだろう…
中学のときにフられた以来か。もう泣かない、惨めな思いはしないと誓ったはずだった。先ほどの事を思い出すと恥ずかしくなるが、こんな腐った目にも、まだ涙を流す事ができるのだと思うと、すこしうれしくなった。
× × ×
既に日は暮れ、辺りはもう真っ暗だった。熱くなった瞳は、冷え込んだ空気のおかげですっかり冷め、興奮した気持ちも次第に落ち着いていった…
涙を流すなんていつぶりだろう…
中学のときにフられた以来か。もう泣かない、惨めな思いはしないと誓ったはずだった。先ほどの事を思い出すと恥ずかしくなるが、こんな腐った目にも、まだ涙を流す事ができるのだと思うと、すこしうれしくなった。
すまん
× × ×
八幡「ただいま」
…返事はない。
リビングへのドアを開け、中に入ると、テーブルを囲んだ3人が夕食を食べていた。
今日は仕事が早く片付いたのか、珍しく両親は、夕食時には帰っていた。
何も変わらない。
使いこまれた対のソファーも、
その上で丸くなるカマクラも、
やたらと大きな本棚も…
でも、その中でひとつだけ、たったひとつ、見慣れないもの…
それは、不気味な笑みと、腐った目、それ以外はまあまあ整っていであろう男の写真が立てられていた…
…そうだ。
この家は俺の居場所だったのだ。でも、今はもう違う、もうどこにも俺の居場所はない。
知っている。既に知っていることだった…
× × ×
ーー去年のクリスマス。
由比ヶ浜との約束だったハニトーをおごるため、駅前に2時に待ち合わせた。
30分前に着いた俺と同時に、由比ヶ浜はサブレを連れてやって来た。
道を挟んで由比ヶ浜は、俺を見つけるや否や、
両手をあげて手を振った。
そして由比ヶ浜は気づかなかった、手元から離れたサブレが、道へ飛び出した事に…
そのときだった。
どことなく既視感を感じながら、身体が反応し、サブレを抱えていた俺は、目の前に迫るトラックにきづかなかった…
ーー女の人の悲鳴と、舌に広がる鉄の味…
思い出せるのはここまでだった。
でも、だれだってわかるだろう、
俺は死んでいるのだ。つまりもうこの世にいない。
周りから見える事はないし、存在しない。
わかっている、わかっているつもりだったが、
なぜか、認めることが出来なかった…
× × ×
雨だった。
冬の雨は、好きじゃない。
物理的にも精神的にも人の温もりを奪うからだ。
そうやって誰に求められる事も無く、ただ静かに降り続ける雨は、
まるでどこかの誰かのようだと思った。
「ヒ、ヒッキー…」
不意に後ろから声をかけられ、
振り向くと、赤い傘をさした由比ヶ浜が立っていた。
八幡「ゆ…由比ヶ浜?…見えるのか?!」
由比ヶ浜「…よ、よかった、勘違いじゃ…グスッ…ないんだっ…」
八幡「わ、わかったから!な、泣くなっ、な?」
由比ヶ浜「あの後から…私にだけヒッキーが…見えて…グスッ…私の勝手な幻なんじゃないかって…私があの日に遊ぼ…って言ったから…!」
由比ヶ浜「ずっと…!グスッ…ずっと謝りたかったっ!だって…グスッ…ヒッキーは…!あたしのせいで…!」
八幡「もう…いいんだ。由比ヶ浜、お前のせいじゃない…」
由比ヶ浜が落ち着くまでの間、俺は彼女の隣で慰め続けた。
そして、ふと自分はなぜ成仏しなかったのか、わかった気がした…
由比ヶ浜が泣き止むまで、一体どれくらいの時間が過ぎたのだろう…
ーー由比ヶ浜「ヒッキーにね…ずっと伝えたかったことがあるの」
白い綺麗な頬を紅く染め、由比ヶ浜が話しはじめた。
八幡「…俺もだ」
由比ヶ浜「ヒッキーも?」
八幡「ああ…俺から先言わせてくれ…」
自分の顔が湯気が出そうなほど熱くなるのがわかった。
八幡「ずっと由比ヶ浜が好きだった。これからもずっと…ずっと由比ヶ浜を愛してる」
由比ヶ浜「………はい。」ニコッ
ーー長い…とてつもなく長い夢から覚めたような…そんな心地よさだった…
× × ×
八幡「…雪ノ下」
雪ノ下「ひ、比企谷君なの?」
比企谷「ああ…」
雪ノ下「なぜ、こんなところに?」
八幡「わからん…でももうすぐお別れだ」
雪ノ下「…そう、死んでからもこうして会いに来るなんて、呆れを通り越して尊敬するわ」
八幡「そりゃ、どーも。それでも最後の最後まで俺への罵倒はやめないのな」
雪ノ下「当たり前でしょ、あなたと馴れ合うなんてあり得ないもの…」
八幡「そうだな…
…なぁ雪ノ下」
雪ノ下「何かしら?」
八幡「由比ヶ浜を…頼む」
雪ノ下「ふっ、もちろんよ」
そう答えた雪ノ下の顔は、今まで俺に見せたことのないとても優しい笑顔だったーーー
ーーーふと空を見上げると、
冷たく降り注いでいた雨は、いつの間にか上がり、
雲の隙間から暖かい太陽の光が優しく注いでいたーー
× × ×
ー完ー
くぅ?疲れましたw これにて完結です!
はじめてのssでしたが、自分的には結構自信ありましたw←調子乗り
つたない文章だったと思いますがみていただきありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
乙
サブレww
まじかよサブレ最低だな
何も学習しない飼い主であった
〜Fin〜
が抜けてんぞ