冬馬「うぅ……緊張するぜ」
冬馬「歌も踊りも自信あるが……ヴィジュアルっていまいちピンと……」
冬馬「……」
冬馬「これに合格したら……アイドルの道が切り拓ける」
冬馬「大丈夫だ!俺は今日この日のために必死に努力してきたんだ」
冬馬「これで落ちるわけがねえ!」
冬馬「……」
冬馬「いける、絶対いけるんだ。アイドルになるんだ……!」
黒井「ウィ、私が961プロ社長の黒井だ。まあ知らない者がこの場にいるとは思えんがね」
冬馬(テレビで修正入ってるだけかと思ったけどマジで顔が真っ黒だな、オイ)
黒井「今日はこの私が直々にお前たちを評価してやる」
黒井「私は実力でのみ評価する。誤魔化しなど一切無意味だ」
冬馬(しゃ、社長が直接……)ゴクリ
黒井「……どうした、貴様。顔が青くなってるようだがお家に帰るか?」
冬馬「そ、そんなことねえy……あ!」
黒井「……」
冬馬「す、すいません!」
黒井「フン……それで芸能界を生きていくつもりか。底抜けの愚か者と見た」
冬馬「……」
冬馬(1人ずつオーディションしていくのか……てっきり複数まとめてだと思ったぜ)
冬馬(だが……思ったよりレベルの低い連中ばかりだ。本当にやる気あんのか?)
翔太「それじゃよろしくお願いしま~す!」
冬馬(何だ、あのチビの舐めた態度……)
冬馬(ウソだろ!?あの身のこなし……!次々とんでもねえ技を決めてやがる……)
翔太「それじゃ、お疲れさまでーす」
冬馬「……」
冬馬(あいつ……動きはカニみてえだが俺には無い何かを感じるぜ)
北斗「ふぅ……ありがとうございました」
黒井「何をボサッとしている。次は貴様の番だ」
冬馬「は、はい!!」
冬馬(……大丈夫。俺を信じろ)
冬馬(後悔なんて絶対しないように……)
冬馬(俺の……俺の全てを今この瞬間に!!)
冬馬「ふぅ……」
「何あいつ……必死すぎねえ?」ヒソヒソ
「なんつーか暑苦しいよな。もっと落ち着いてやれよヒソヒソ
「てかあいつ社長に口応えしてたよな……ばっかじゃねぇの」ヒソヒソ
冬馬(何とでも言えよ。勝つのは俺だ!)
冬馬(……名前呼ばれたのは10人……あのチビとでかいのもやっぱりいるな)
黒井「知っての通り我が961プロにはプロジェクト・フェアリーというユニットが存在した」
冬馬(あの星井美希、我那覇響、四条貴音の……)
黒井「しかし765プロの姑息で卑怯で下劣な手段で解散になり……」
黒井「揚句の果てに私の駒を奪われたのだ!!」
冬馬(765プロ……そんなに汚ねえ真似するのか)
黒井「忌々しい765プロを今度こそ完全に叩き潰すのだ!!」
黒井「そのための新ユニット、セカンド・フェアリーに相応しいかどうかの最終試験を行う!」
黒井「今見せたのはセカンド・フェアリーのデビュー曲だ」
冬馬(へぇ……歌もダンスもかなりイケてるじゃねえか)
黒井「貴様らに今見たデビュー曲をこの場で歌ってもらう。もちろん振り付けもな」
冬馬(はぁ!?今一回映像見せただけじゃねえか!!)
黒井「まあ、私も鬼では無い。今から10分間この映像を流し続ける」
冬馬(その間にマスターしろってか!?)
黒井「それでは10分後にまた会おう。アデュー」
「ちょ、ちょっと無茶苦茶すぎねえ?」ヒソヒソ
「流石に無理だっての……」ヒソヒソ
冬馬(……やってやろうじゃねえか)
冬馬「……」ジーッ
翔太「ねえ、お兄さん。そんなに見てたら疲れない?」
冬馬「んだよ……俺は今集中してるんだ」
翔太「ちぇっ、つまんないのー。あ、そっちのお兄さん!」
冬馬(えっとここで飛んで……音程は……腕を……)
冬馬(それから……ここを……最後にこのポーズか……時間的にあと一度しか全部見れねえな……)
冬馬(クソッ!絶対受かってやるぜ!そして俺の曲にしてやる!)
黒井「御手洗翔太」
翔太「まあ当然かな!皆悪いね」
冬馬(くっ、やっぱりあいつか……だが実力は認めるぜ)
黒井「伊集院北斗」
北斗「はい、皆お疲れ☆」
冬馬(……まあ、何か良く分からねえが人を惹き付ける力ってのがあったからな)
黒井「天ヶ瀬冬馬」
冬馬「……え?」
黒井「聞こえなかったのか?どうやら耳が腐ってるようだな」
冬馬「す、すいません!」
黒井「合格者は以上だ」
冬馬(や、やった!!やったぞ!!ついに……ついに俺もアイドルに……なれるんだ……!!)
黒井「翔太、貴様にはダンス担当となってもらう」
翔太「任せてよ。僕ならどんな相手でも楽勝だと想うし」
黒井「北斗、貴様はヴィジュアルだ」
北斗「分かりました。俺が全ての人を魅了してみせますよ」
黒井「冬馬、貴様は宣伝部長だ」
冬馬「はい!俺が宣伝しまくって……え?」
黒井「もちろん歌や踊りのレッスンに参加する権利など無い」
冬馬「……えっ」
「ぶふっ」
「ははっ、そんな役になるんだったら落とされた方がマシだぜ」
冬馬「ウソ……だろ……?」ガクッ
「うわっ、人がこんなに綺麗に崩れ落ちるの初めて見た」
北斗「……えっと、今のは冗談なんですよね?」
黒井「私はジョークを言ったつもりはないが。そう聞こえたかね?」
翔太「だ、だってフェアリーって3人でやってたし、僕達も……」
黒井「何を呆けた事を。きっちり3人で役割が分かれているではないか」
翔太「ほ、本気?」
冬馬(俺は……この日のために……)
冬馬(一体……何だったんだよ……!!今まで俺がやってきたことは……)
冬馬(宣伝するためにアイドルになりたかったんじゃ……ねえんだよ!!)
冬馬「……」
北斗「君……冬馬って言ったっけ」
冬馬「ああ……」
翔太「多分、社長も本気じゃないと思うよ?」
冬馬「ははっ……だと良いけどよ」
北斗「俺たちは今から同じユニットの仲間だ。よろしく」
翔太「まあ、のんびり気楽にやってこうよ」
北斗「それじゃ俺はここで、チャオ☆」
翔太「あ、僕も!まったねー!」
冬馬「……じゃあな」
冬馬「くっそおおお!!ちくしょおおおおおお!!」
冬馬「ちくしょう……ちくしょう!!」
冬馬「ふざけんなよ……何が……宣伝部長だ……」
冬馬「人が死ぬ気で……必死にやってんのを嘲笑ってんのかよ……」
冬馬「死にたく……なるぜ。イヤ……いっそ殺せって感じだな」
冬馬「ばかみたいじゃねえか……」
冬馬「夢……俺の夢だったんだろ……?それがこれか……ははっ」
冬馬「この出来事が……夢であってほしいぜ……」
冬馬「……もう、何も考えねえ」
冬馬「俺の仕事は……新ユニットの宣伝」
冬馬「……これもアイドルにとって必要なことなんだ……!」
冬馬「全力でやるんだ……!」
冬馬「……徳島!?いきなり遠すぎねえか!?」
黒井「貴様は私の指示に従っていれば良いのだ」
冬馬「ぐっ……わかりました」
北斗「社長……冬馬がまだ来てないんですが」
黒井「フン、奴なら今頃必死に宣伝してるはずだが」
北斗「えっ……ほ、本当にやらせてるんですか?」
黒井「当然だ」
翔太「いい加減きずけよ!そんなことしちゃダメだって……!」」
黒井「黙れ。私の方針に口を出す事は許さん」
黒井「今度は福岡に行け」
冬馬「マジかよ」
黒井「マジだ。セレブな私は貧乏人の諸経費ぐらいは出してやるがな。這いつくばって感謝する事だ」
冬馬「……ありがとうございます」
黒井「おぉっと、更に優しい私は貴様に良い物をやろう」
冬馬「……?」
黒井「デビュー曲の映像だ。精々移動中に眺めてどう宣伝すれば良いか考えるのだな」
冬馬「は、はい」
冬馬(ここで……こう動くのか)
冬馬(ここが良く分かんねえな……別の角度からも見ねえと……)
冬馬(あっ、この映像いろんなアングルから撮ってるんだな。へぇ……)
冬馬(曲も耳に馴染んできたぜ)
冬馬(到着まで……まだ時間があるな。もう一度最初から見てみるか)
冬馬「ゆ、夕方までにフォローを50000にしろだと!?」
冬馬「ふざけやがって……!どうすりゃいいんだよ!!」
冬馬「とりあえず、何かつぶやいて……」
冬馬「誰か……フォローしてくれよ!!」
冬馬「別に何かしろって言ってるわけじゃねえんだ!だから……」
冬馬「頼むよ……」
冬馬「……ははっ、これが……アイドルの仕事か」
黒井「使えんゴミめ、達成出来なかっただと?」
冬馬「で、でも一応これだけの人数は……」
黒井「ノンノン、言い訳など負け犬の戯言。聞く価値など無い」
冬馬「……」
黒井「結果がすべて、貴様の力量はこの程度と言うわけだ」
冬馬「お、俺も踊りや歌なら……もっと上を……!」
黒井「黙れ、貴様には罰を用意している」
冬馬「……」
冬馬「これは……クリームソーダ?」
黒井「貴様のような使えんゴミの晩餐にピッタリな餌だと思ってな、フハハハハ」
冬馬「……」
冬馬「あはは、クリームソーダうまいわー」
冬馬「……」モグモグ
冬馬「やべっ、マジでうめえ」
冬馬「全然罰になってねえぞ、社長」
冬馬「……でも、やっぱり俺はアイドルとして勝負してえんだよ」
冬馬(制限時間内に……スタジオに着いたら宣伝してもオッケーって……)ハァハァ
冬馬(何だよこの距離……冗談じゃねえぞ!!)ハァハァ
冬馬(もう……スタミナが……)ハァハァ
冬馬(クソッ……諦めねえぞ!!)ダダダ
冬馬「ハァハァ……間に合った……」
千早「……今から1分宣伝しても良いそうです」
冬馬「え!?今から!?それに1分!?」
冬馬「あ、え……961プロ新ユニットが近いうちデビューします!」ハァハァ
冬馬「それで、……あの」ハァハァ
冬馬(あー、しんど……でも最近体力がついてきた気がするな。ついでに忍耐力ってやつも)
千早「……ちょっと良いかしら」
冬馬(……765プロの如月千早)
千早「あなた……本当にアイドルなのよね」
冬馬「……そうだ」
千早「なら、何でいつも今日みたいなことばかりしてるの?」
冬馬「俺が宣伝部長だからだ。後の2人はレッスンで忙しいんだよ」
千早「あなたは……それで良いの?」
冬馬「……仕方ねえだろ」
千早「えっ、オーディションまでやったのに……今やってるのは……」
冬馬「そうだよ、笑えよ」
千早「……最低、酷過ぎるわ。どうしてそんなことが出来るのかしら……」
冬馬「いつか、おっさんに俺もアイドルって事認めさせてやる。それまでの辛抱だ」
千早「……そう」
冬馬「ああ」
千早「……私も本当は歌の仕事だけがやりたかった。グラビアなんて本当に嫌だったわ」
冬馬「……」
千早「だけどプロデューサーは私の事を想ってやってくれた。無名の私が歌えるように」
冬馬「良いプロデューサーじゃねえか。……で、何でそんな話俺にするんだよ」
千早「……なんとなく、少しだけ似たような境遇だから。あなたの社長が何を考えてるかは分からないけど」
冬馬「俺も分かんねえ。けど俺も、お前みたいになれたら……」
千早「……なら、そのまま突き抜けてやるぐらいの方が良いかもしれないわね」
冬馬「……」
千早「全力でやって、黒井社長が驚くぐらいに」
冬馬「言われなくても分かってるっつーの」
千早「そう……あなたならきっと大丈夫だと思う。根拠は無いけど」
冬馬「……そうか」
千早「お節介でごめんなさい、誰かの真似をしてみたんだけど迷惑だったかもしれないわ」
冬馬「いや、何か少し楽になった。ありがとよ」
冬馬(本当に765プロって……汚ねえ事務所なのか……?)
翔太「冬馬君、これ。ダンスちょっと修正入ったから」
冬馬「おう、いつもいつも悪いな」
北斗「……それは俺達の台詞だよ。世話になりっぱなしだ」
冬馬「お前らは何も考えず必死にレッスンしとけば良いんだ。こっちの事は気にすんな」
北斗「冬馬……」
翔太「絶対、絶対僕達三人でステージに立つよ!」
冬馬「……当たり前だろ。トップアイドルになるんだからな」
北斗「社長、あなたは一体何を考えてるんですか?」
翔太「冬馬君は宣伝の合間にも必死に練習を……」
黒井「フン、その程度の事私が気付かないとでも?」
北斗「では何故……冬馬の能力を知っていながら」
黒井「……前にも言ったな。貴様らが私に意見するなど100年早いわ!」
翔太「くっ……」
黒井「明日は遂に新ユニットの披露だ。良いか、絶対にしくじるな!」
北斗「はい」
翔太「いつも通りやれば大丈夫だよね」
黒井「貴様は何時も通り大声で宣伝しておけ。以上だ」
冬馬「……はい」
黒井「お前はもう帰って良い。残りの二人は明日の事についてまだ話がある」
冬馬「……分かった」スッ
翔太「冬馬君……」
北斗「……」
冬馬「どうも、宣伝部長の天ヶ瀬冬馬です。本日は重大な発表があります。961プロ社長お願いします」
黒井「私が黒井です。以後お見知りおきを」
黒井「本日は我が961プロ所属の新ユニットをご紹介いたしましょう」
黒井「と……その前に皆さまにお見せしたいものがあります」
冬馬「……え?」
黒井「この映像をご覧に!この天ヶ瀬冬馬のオーディション風景です」カチッ
冬馬(い、いつの間に……全く気付かなかった……)
黒井「なんと愚かなのでしょう。所詮オーディションにも過ぎないのにこの形相。余裕が全く感じられない」
冬馬「……」ガクッ
黒井「……と、見事オーディションに勝ち残り宣伝部長としての役割を果たしてくれました」
冬馬「……」
黒井「しかし、ただいまを持って宣伝部長を引退してもらう事になります」
冬馬「は?」
黒井「それでは紹介しましょう!!961プロ新ユニット、ジュピター!!」
冬馬「……じゅぴたー?」
黒井「伊集院北斗!」
北斗「初めまして、お嬢さんたち。俺は伊集院北斗。俺達から一瞬たりとも目を離さないでね?」
黒井「御手洗翔太!!」
翔太「どうも、御手洗翔太です!がんばるから、皆よろしくねっ!」
冬馬「え?え?」
黒井「宣伝部長改めジュピターのリーダー、天ヶ瀬冬馬!」
冬馬「……はああああ!?」
翔太「冬馬君挨拶!ほら!」
北斗「俺達のリーダーだろ?しっかりしてくれよ」
冬馬「どういうこと……だ……?セカンド・フェアリーは?」
黒井「セカンド・フェアリー?そんなもの存在しない。ありもしないユニットのオーディションを受けてたのか?」
冬馬「!?」
黒井「いつまでも過去の遺産に縋っているはず無かろう。……おっと失礼しました」
黒井「あのオーディションをご覧の皆さまには……」
黒井「冬馬がジュピターのリーダーに相応しい事が十二分に理解していただけたと思います」
黒井「歌唱力、身体能力、ヴィジュアルその全てが一流。先ほどの映像のように少々熱くなりすぎる所もありますが」
冬馬「俺が……リーダー……?ゆ、夢じゃないのか?」
北斗「おっとリーダーはまだ寝ぼけてるみたいだね。今まで身体を張って頑張ってたから許してあげてほしいな」
翔太「信じられないなら僕がつねってあげるよ、冬馬君」ギュウゥ
冬馬「いてええええ!!!……はは、ははは……マジ……かよ……」グスッ
北斗「おっと、泣いてる暇は無いよ。今から歌うんだから」
冬馬「い、今から!?……へっ、上等じゃねえか!皆聞いてくれ!!」
冬馬「……今でもあれは酷いと思うぜ」
北斗「ほんと、やりすぎですよ。いくら冬馬のしつけのためとはいえ」
黒井「何を言ってるか。この世界の厳しさを教育してやっただけだ」
翔太「たしかにいきなりため口で反抗したからね」
冬馬「お前も似たような態度だったじゃねえか!!」
北斗「でもジュピター発表の時無事に歌を披露出来て良かったよ」
翔太「本当、あの時は何も考えずにやったけどぶっつけ本番でよく息が合ったよね。正直僕達凄いんじゃない?」
黒井「フン、うぬぼれるな。あの程度の事もこなせんようではトップアイドルになる資格など無い」
翔太「だってさぁ、僕達はともかく冬馬君泣いちゃってたじゃん?歌えるかどうかも怪しかったし」
冬馬「うるせえ!!泣いてねえ!!目にまつ毛が入ってただけだ!」
北斗「はいはい」
冬馬「ま、おかげで多少の事じゃ動じなくなったけどな」
翔太「あれ~?前、えーっと……そう!あずささんと共演した時ガチガチだったよね?」
黒井「何!?貴様765プロ相手に浮ついているとは……!」
冬馬「ち、違う!あれは別にそういうのじゃ……」
北斗「まともに目を見て話せて無かったじゃないか」
冬馬「ぐっ……」
翔太「冬馬君にはそっち方面もちゃんとしつけないといけないかもよ?黒ちゃん!」
黒井「ウィ」
冬馬「やめてくれよ……」
終われ
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