雪歩「訪夜」 (207)


書き溜めありますのでゆっくり投下していきます。
のんびりお付き合いいただければ幸いです。

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P 「お疲れ様雪歩、すまんなぁ誕生日なのに仕事なんて。」

お仕事が終わって事務所に帰って来た時に、プロデューサーが申し訳なさそうに声を掛けてきました。

雪歩「そんな!気にしないでくださいプロデューサー!」

  「こうして夕方にはあがれるようにしてくれたじゃないですか。」

P 「しかしなぁ…。」

雪歩「お仕事って言ってもラジオの収録だけでしたし、3本録りなんてなかなかできないから楽しかったです。」

  「それにお仕事があるのはいい事なんですから。」

P 「そうか。そう言ってもらえると助かるよ。」

安堵した表情で笑顔を向けてくれるプロデューサー。


雪歩「えへへ、お先に失礼します。」

P 「おう、お疲れ。気をつけて帰れよ。」

プロデューサーに挨拶をして事務所を出ます。

雪歩「ふぅ、今日のお仕事も楽しかったな~。」

  「こうして早く帰してもらえたし…ふふふ。」

ガラガラガラ

ラガラガラガ

ピシャン

雪歩「ただいまぁ~。」

玄関で帰宅の挨拶をし自分の部屋へ移動します。
襖を開き、畳張りの部屋で異彩を放つソファーに腰をかけ一息つく。


雪歩「ふぅ。やっぱり部屋は落ち着きますぅ~。」

  「さてっと…。」

ソファーから立ち上がってタンスの前へ行き引き出しを開けます。

雪歩「えっと、確かタンスの奥に…。あった!」

タンスの奥に隠すようにしまってあるそれを手に取り引っ張り出す。

雪歩「ちょっと恥ずかしいけど着替えなきゃ。」

赤地に白のファーで彩られた衣装に身を包み、同じく赤字に白のファーとぽんぽんが着いた帽子を被ってお着替え完了!

雪歩「雪歩サンタの完成ですぅ!」

どこからどう見てもサンタさんです。
ただ、ズボンじゃなくてミニスカートなのが心許ありません。


雪歩「でも、これを着ると寒さを感じないのは不思議だなぁ…。」

さて、どうして私がこんな格好をしているのか。
それを説明しないといけません。

あれは、去年の私の誕生日でした―――――。



雪歩父「誕生日おめでとう、雪歩!」

雪歩母「おめでとう、雪歩!」

雪歩「えへへ、ありがとうお父さん、お母さん。」

弟子共「「「「お嬢!おめでとうございます!!」」」」

雪歩「ひぅ…!あ、お弟子さん達もありがとうございますぅ…。」

お弟子さん達は皆いい人なんですけどやっぱりちょっと怖かったりします…。

雪歩母「雪歩、貴女は今日で16歳になるわけだけど。」

雪歩父「お前が16歳を迎えた時に打ち明けなければならないことがあったんだ。」

お父さんもお母さんも真剣な表情です…。
うぅ、何だか怖いなぁせっかくの誕生日パーティだっていうのに…。


雪歩母「そんなに怖がらなくてもいいのよ。」

雪歩父「そうだ、そんな大それたことでもないからな。」

雪歩「本当…?」

雪歩父「ああそうだ。」

雪歩母「さぁ、雪歩これを。」

そう言うとお母さんは小さな箱を取り出して私に差し出しました。

雪歩「これは…?」

雪歩母「貴女への誕生日プレゼントよ。」

雪歩父「開けてみなさい。」

言われたとおり箱の蓋を開けると中には真っ赤なお洋服が入っています。
取り出してみるとそれはいわゆるサンタ服と呼ばれるものでした。
しかも普通のサンタ服ではなくミニスカサンタです。


雪歩「これは…?」

雪歩母「見ての通り、サンタ服よ。」

雪歩「う、うん。そうだね。」

雪歩父「いきなりそれを渡されて困惑していることだろう。」

   「でもな、そのサンタ服こそがこれから打ち明ける事に密接に関わってくることなんだ。」

二人は相変わらず真剣な表情で私を見つめてきます。
一体、このサンタ服とどんな関係が…。

雪歩母「覚悟は出来てるかしら?」

大それたことでもないんじゃなかったの…?
でも、ここで逃げたらいけない気がする。
うん、勇気を出して…!


雪歩「お母さん、話して!私、どんな事でも受け入れるから!」

雪歩母「雪歩…!」

雪歩父「強く…なったな…!」

雪歩母「雪歩がそうまで決意してくれたなら今から話すわ。」

うぅ、決心したとは言え一体どんな事なのかとっても緊張します…。

雪歩母「実はね雪歩…。お母さん…」

緊張のあまり喉が渇きを訴える、本当なら美味しいお茶でも淹れて一息つきたいんですけど真剣な表情のお母さんから目を逸らすことができず、ゴクリと唾を飲み込むに留めます。
そして、次に発せられた言葉に私は耳を疑いました。




―――――サンタクロースなの…!


雪歩「…え?」

果たして、実の親から自分がサンタクロースであると聞かされる子供がどのくらいいるでしょうか?

雪歩「え~っと、世間的にはお父さんじゃないのかなぁ…?」

雪歩父「違うんだ雪歩、そうじゃない。」

雪歩「え?」


雪歩母「雪歩が言っているのは世のお父さん達がサンタの代わりになってプレゼントを渡すっていう事でしょう?」

雪歩「う、うん。」

雪歩母「そうじゃないの、お母さんは本物のサンタクロースなの。」

もう、何が何だかわかりません…。
そもそもサンタクロースは白いおヒゲのおじいさんじゃないの?

雪歩父「いいか雪歩、お母さんは代々サンタクロースの家系なんだ。」

サンタクロースの…家系…!?
それってつまり私のおじいちゃんもサンタさんだったってことなのかな…。


雪歩母「私の母、つまり貴女のお婆ちゃんもサンタクロースだったのよ。」

おじいちゃんじゃないんだ…。

雪歩父「そして、代々子共が16歳を迎えた時に親から子へサンタ業が引き継がれるそうだ。」

サンタ業って何なの…!?

雪歩母「貴女に渡したその服は、代々受け継がれてきた由緒正しいサンタ服なのよ。」

雪歩父「母さんの3代前のバア様から使っていたそうだ。」

3代前っていうとひいひいおばあちゃん…!?
下手したら戦時中じゃないのかな!?


雪歩母「そんな訳で雪歩、貴女にはサンタクロースになってもらいます。」

雪歩「えぇぇぇぇ!!!?そ、そんな無理ですぅ!!大体私にはアイドルのお仕事が…!」

雪歩父「そう、そこで母さんと二人で考えたんだが。暫くは研修という形で765プロの皆さんの所に行ってもらう事にした。」

雪歩「事務所の皆の…?」

雪歩母「ええ、そうよ。知らない人の所に行くよりずっといいでしょう?」


雪歩「そ、それは確かにそうだけど…。」

雪歩父「それに、サンタクロースは一人じゃない。このご町内だけでざっと4人はいるんだ。」

雪歩「えぇぇぇ!?そ、そんなに沢山!?」

雪歩母「日本国内だけでも100万人近いサンタクロースがいるのよ。」

そ、そんなに沢山のサンタクロースが…!


雪歩父「その内の一人が母さんってわけだ。」

雪歩「ふえぇぇぇ。」

雪歩母「さぁ雪歩、早速これに着替えてちょうだい。」

雪歩「えぇ!?」

雪歩母「さぁさぁ、あなた。」

雪歩父「む、あぁそうだな。ここにいたら着替えられんか。」

そう言うとお父さんは部屋から出ていきました。
ううぅ、どうやら着ないといけない流れみたいですぅ。
本当に不本意ながらサンタ服を着ます。


雪歩母「まぁまぁ!とっても良く似合ってるわよ雪歩。」

着替え終わりお母さんが感想を述べたところで襖が開きお父さんが戻ってきました。

雪歩父「終わったようだな…おぉ、よく似合っているぞ雪歩。」

雪歩「ううぅ、は、恥ずかしいよぉ~///」

ワンピースタイプのサンタ服はスカート丈が短くてとっても恥ずかしいです…。


雪歩父「本当によくにあっているぞ雪歩、まるで母さんの若い頃みたいだ。」

雪歩「え?じゃあこれってもしかしてお母さんの…?」

雪歩母「ええ、私が親から譲り受けたものよ。」

雪歩「じゃあお母さんは去年までこれを着て…?」

雪歩母「ええ、ご町内にプレゼントを配っていたわ。」

お母さんがこんなミニスカサンタを着ていたなんて…。
正直―――――


雪歩(キッツいですぅ…」

雪歩母「なんですって?」

雪歩「ひぅ!」

どうやら心の声が漏れてしまっていたみたいです…。
気をつけましょう。


雪歩母「さてと、ここでこうして話してるわけにもいかないわね。」

   「さぁ雪歩、早速皆さんの所に行ってきなさい。」

雪歩「うぅ、で、でもどうやって行けば…」

雪歩父「大丈夫だ、弟子共がトナカイになってくれるから。」

雪歩「えぇ!?お、お弟子さんたちが!?」

弟子共「さ、お嬢!こちらへ!」

どこからともなく現れたお弟子さん達に連れられて駐車場まで来ました。
不思議なことにミニスカサンタなのにちっとも寒くありません。
お母さんが言うにはサンタの不思議な力がそうさせているそうなんです。
よくわかりませんけど…。


駐車場には車じゃなくてソリが置いてありました。
ソリの上には大きなズタ袋のようなものとサンタ帽もあります。
お弟子さんに言われるままにソリに乗るとそこだけ暖房のついた部屋のように暖かくなっていました。

こうして私はサンタとして765プロの皆のおウチに行きプレゼントを渡してきたのです。
これがちょうど去年の話。

最初は不安でしょうがなかったけど、やっぱり事務所の皆の所に行くのは楽しいです。
だから今は早く皆の所へプレゼントを配りに行きたいなって。

雪歩「流石にちょっと早かったかな…。まだお夕飯も食べてないし。」

今着たサンタ服を脱ぎ部屋着へと着替えます。
着替え終わった所で襖を叩く音がしました。


弟子共「お嬢!お食事の準備が出来ました!」

雪歩「ひぅ…!わ、わかりましたぁ。今行きますぅ~。」

呼ばれて行くと私の誕生日を祝う準備が整っています。
美味しいお料理と美味しいケーキ、それと素敵なプレゼントも貰っちゃいました。
お弟子さん達の楽しい出し物でたくさん笑ってこの家に生まれて本当に良かったです。

宴会が終わってお風呂に入り自分の部屋に戻る頃にはすっかり遅い時間。
出動するにはもってこいの時間です。


再びサンタ服に袖を通し駐車場に向かいます。
行くと既にお弟子さん達が準備を整えてくれていました。
トナカイ角と鼻を着けて。

弟子共「お嬢!準備は整ってます!」

雪歩「ひぅ…!あ、ありがとうございます。」

お弟子さんが引くソリに乗って駐車場から出ます。
敷地内から空に浮かび最初に目指すのはやよいちゃんのお家です。

あ、お弟子さん達が飛べるのもサンタさんの不思議な力なんだそうです。
サンタさんってすごい。

上空を飛んでいるとあっという間に目的地に着いてしまいます。
やよいちゃんのお家に着きました。


雪歩「お邪魔しま~す。」

小声で挨拶して窓からお部屋に入ります。
お部屋の中では長介くん達がぐっすり眠っています。
ですがやよいちゃんの姿が見えません。

雪歩「う~ん、流石にお家の中を歩き回るのは気が引けるなぁ…。」

どうしようか迷っている時にお部屋の襖が開きました。

やよい「眠いれす…。ん?」

雪歩「あ、やよいちゃん。」


やよい「え?だ、誰ですか…?ど、泥棒!?きゅ、救急車呼ばなきゃ!!」

雪歩「お、落ち着いてやよいちゃん!それに泥棒の時は警察だよ!?」

やよい「ど、どうして私の名前知ってるんですか!?」

雪歩「わ、私はサンタだから!」

やよい「サンタ…さん…?」


雪歩「そう、私はサンタクロースなんだよ。やよいちゃんにプレゼントを届けに来たんです!」

やよい「私に…?え、でもサンタさんってお父さんなんじゃ…?」

雪歩「うん、世間一般的にはそうだよね。でもね、私は本物のサンタクロースなの。」

やよい「ほ、本物?」

雪歩「そう本物。まだ見習いだけどね。」

長介「ん~、やよい姉ちゃん…?どうしたの…?」

あ、長介くんが起きちゃった。
どうしよう…。


やよい「何でもないよ長介。ほら、寝てなさい。」

長介「ん、わかったおやすみ姉ちゃん…。」

そう言うと長介くんは直ぐに寝息を立て始めました。
こういう所、お姉ちゃんなんだなぁって感じます。

やよい「あの、ここじゃ弟達が起きちゃうので居間に来て貰っていいですか?」

う~ん、本当ならプレゼントを配って直ぐに出たかったんだけど仕方ないね。
言われた通り居間に移動します。


やよい「あの、本当にサンタさんなんですか?」

雪歩「うん、そうだよ。」

やよい「……。」

雪歩「やよいちゃん?」

やよい「あの、お願いがあるんです。」

雪歩「お願い?」

やよい「はい、さっき私にプレゼントを届けに来たって言ってましたよね?」

雪歩「あ、うん。そうだね。」


やよい「それ、弟達にしてもらえませんか?」

雪歩「え?」

やよい「うちは貧乏だからお父さんがサンタさんになることもできないし、クリスマスプレゼントとかもあげられなくって…。」

   「それに私はお仕事でよく美味しいものとか食べさせてもらってるから弟達に悪いなって…。」

雪歩「やよいちゃん…。」

やよい「かすみが、3人目が生まれた頃はまだうちも余裕があってクリスマスとかも普通にやってたんですけど」

   「家族が増えてからはそれもできなくて…」

   「だから、私よりも弟達に何かプレゼントをって。」

うぅぅ、やよいちゃんは本当に家族思いでいい子ですぅ。


雪歩「あのねやよいちゃん。」

やよい「あぅ、ダメですか…?」

雪歩「ううん、そうじゃなくってね。本当のサンタクロースが配るプレゼントはね、物じゃないの。」

やよい「え?」

雪歩「お人形とかおもちゃとかそういうのとは違うの。」

やよい「それじゃあ…」

雪歩「本当のサンタさんが配るのはね“夢”なの。」

やよい「夢…?」

雪歩「そう、この袋の中身を見てみて。」

私は白いずた袋の口を広げやよいちゃんに覗き込ませます。


やよい「あれ、空っぽです。」

中身を見たやよいちゃんの感想を聞くと口を再び締めました。

雪歩「そう、この袋の中には“希望”が詰まっていてこれを皆に配ることによって素敵な“夢”を見せることができるんだよ。」

やよい「希望、夢…。」

雪歩「ただ夢を見るだけじゃなくって、サンタが配る夢は頑張れば叶えられる“夢”なの。」

やよい「頑張れば…叶う、夢…?」


雪歩「やよいちゃんが見る“夢”が何かは私にはわからないけど」

  「見た“夢”は、努力で叶えられるもの。」

  「勿論、長介くんやかすみちゃん達にもそれを配るつもりだよ。」

やよい「本当ですか…?」

雪歩「うん!」

やよい「正直に言って、良く分かってないんですけど要は私達が頑張ればいいんですよね?」

雪歩「うん、そうだね。」


やよい「じゃあ、うわ~!って感じに頑張ります!」

雪歩「ふふふ、じゃあそんなやよいちゃんには一足先にプレゼントだよ。」

ずた袋に両手を入れてすくい上げるように手を出します。
手の上には白い光。
これが見えるのはサンタクロースだけなんです。
すくい上げたそれをやよいちゃんの頭から振りかけます。

やよい「あの、今のは…?」

雪歩「今のが“希望”だよ。」


やよい「そうなんですか…。私にはなんにも見えませんでした。」

雪歩「これでやよいちゃんがお部屋で寝るだけで兄妹皆で“夢”を見られるよ。」

やよい「はわ!たったこれだけで夢を見られちゃうんですか!?」

雪歩「うん、やよいちゃん、素敵な“夢”を見てね。」

  「じゃあ、メリークリスマス!」

6人分の希望を振りかけて私はやよいちゃんのお家を後にします。


やよい「ふぁぁ…もう寝なくちゃ…。明日も朝早いし…。」

思いの外時間がかかってしまいました、早速次のお家に向かいましょう。
次に向かうのは響ちゃんのお家です。

お空を飛んでいるのであっという間に着いちゃいます。
響ちゃんの住むマンションの部屋の前にソリをつけてベランダにあがります。

雪歩「お邪魔しま~す。」

小声で挨拶して窓から部屋の中へ。
鍵がかかっていてもサンタクロースの不思議な力のおかげで関係ありません。
不法侵入は気が引けますが…。


上がったところはリビングだったので、恐らく寝ているであろう響ちゃんの寝室を目指します。

雪歩「え~っと、確か前に遊びに来た時は…。」

いぬ美「わん!わん!」

雪歩「ひ、ひぃぃ!犬ぅぅぅ!!!」

そうでした、響ちゃんのお家にはいぬ美ちゃんがいたんでした…。
どどどどどうしよう…。
このままじゃサンタどころじゃないよぅ。


いぬ美「わんわん!」

雪歩「擦り寄ってこないでください~!!」

私がいぬ美ちゃんから逃げているとお部屋の扉が開きました。
あのお部屋は確か…。

響 「んぅ~、いぬ美~?うるさいぞ~。近所迷惑になるから静かにしなきゃだ…め。」

雪歩「あ、響ちゃん。」

やっぱり響ちゃんの寝室でした。


響 「う…」

雪歩「う?」

響 「うぎゃああああああ!ど、泥棒~!」

雪歩「うぇ!?ち、違うよ響ちゃん!」

響 「な、なんで自分の名前を知ってるんだ!!?」

雪歩「それは私が…」

響 「さては変態だな!」


雪歩「ち、違うよ響ちゃん!話を聞いて~!!」

響 「ふん!変態の言う事なんて聞かないぞ!いけ~いぬ美!」

いぬ美「わん!」

雪歩「ひあああああ!!犬ぅぅぅぅ!!!!」

響ちゃんの指示で私の方に駆け寄ってくるいぬ美ちゃん。
こっちにこないでぇぇぇ!!!

飛び上がってそのまま乗っかられちゃいました…。


雪歩「ふにゃあ…。」

響 「へへっよくやったぞいぬ美!」

いぬ美「わん!わんわん!」

響 「ん?何だいぬ美…え?こいつが雪歩だって?」

えぇぇぇ!?どうしてバレちゃったんだろう…?
やっぱり犬は嗅覚が鋭いから匂いとかでバレちゃうのかな。
ちゃんとお風呂に入ってきたのに…。


響 「いぬ美~、雪歩が夜中に人の家に上がり込む変態な訳無いだろ?」

雪歩「うぅぅ、酷い言われようですぅ。」

響 「全く、反省したか?」

雪歩「うぅぅ、しますからいぬ美ちゃんどけてぇぇ。」

響 「何だ、犬が苦手なのか?へぇ~、そこは雪歩に似てるんだな。」

まぁ本人なんですけど…。
サンタ服を着てるから正体が私だってことはバレないんです。


雪歩「はぁ、助かりました…。」

響 「全く、こんな夜中に忍び込んだりしたらいけないんだぞ!」

雪歩「あぅぅ、スミマセン…って違いますぅ!!」

響 「わ!何さ急に大声出して!」

雪歩「私は変態さんなんかじゃありません!私はサンタクロースです!」

響 「サンタクロース…?ってあのヒゲはやしたおじいちゃんだろ?」

  「お前は全然それとは違うぞ!」


雪歩「確かに姿はよくあるサンタ像とは違うかもしれないけど本当にサンタなんだよ!」

響 「まぁ、確かに格好はサンタだけどさ。」

雪歩「そう、それでね。私は響ちゃんにプレゼントを渡しに来たの。」

響 「プ、プレゼント?自分にか?」

雪歩「そう。響ちゃんに。」

響 「う~ん、何だか胡散臭いぞ…。」

怪訝な表情でこちらを見ている響ちゃん。
どうすれば信じてもらえるんだろう…?


響 「プレゼントって具体的には何がもらえるんだ?」

雪歩「“夢”だよ。」

響 「夢?ってあの寝てる時に見る?」

雪歩「うん、そうだよ。」

響 「そっか、てっきり何か欲しい物がもらえるのかと思ったぞ…。」

雪歩「ご、ごめんね…。ん?響ちゃん、私の事信じてくれるの?」

響 「う~ん、いぬ美の言うことを信じる訳じゃないけど少し自分の友達に似てるなって思ってさ」

  「だから、その友達の事を疑うみたいで嫌だったんだ。」

雪歩「響ちゃん…。」


響 「あ、でも完全に信用したわけじゃないからな!」

  「やっぱり勝手に家に入り込んだって事には変わりないんだから!」

雪歩「うん、ありがとう響ちゃん。」

響 「べ、別に、自分完璧だからな!」

照れ隠しのように完璧を主張する響ちゃん。

雪歩「えへへ、それじゃあそんな完璧な響ちゃんにプレゼントだよ。」

ずた袋に両手を入れ、“希望”をすくい上げます。


響 「何してるんだ?何もない袋に手なんか入れて。」

雪歩「これはね、サンタクロースにしか見えない“希望”なの。」

響「希望?」

雪歩「そう、この“希望”が響ちゃんに素敵な“夢”与えてくれるんだよ。」

響「…う~ん、よくわかんないぞ…。」

首をかしげてうんうん唸っている響ちゃんの頭から“希望”振りかけます。


響 「ん?な、何か今一瞬暖かくなったぞ…!」

雪歩「メリークリスマス、響ちゃん。素敵な夢を見てね!」

そう告げてベランダからソリに乗って響ちゃんの部屋を後にします。

響 「な、なんだったんだ…?ふぁ~、ん~、いいや、とりあえず寝よう。」

  「明日も仕事だから…大変…さ~。」

響ちゃんのお部屋を出た私たちは続いて美希ちゃんのお家に向かって飛行中です。


雪歩「はぁ~、まさかいぬ美ちゃんに見つかっちゃうとは思わなかったなぁ…。」

弟子共「お嬢!お怪我はありませんか!?」

雪歩「ひぅ…!だ、大丈夫ですぅ!」

お弟子さん達に心配かけちゃいました…。
去年はこんな事にはならなかったんだけどなぁ。

なんて事を考えてる間にもう美希ちゃんのお家に着いちゃいました。
またベランダにソリをつけて窓から美希ちゃんのお部屋に入ります。


雪歩「お邪魔しまぁ~す…。」

美希「zzz」

あ、やっぱり美希ちゃんは寝てました。

雪歩「ふふ、よく寝てるね美希ちゃん。」

美希「むにゃむにゃ…おにぎりの海なの…。」

一体どんな夢なんでしょうか…?


雪歩「さてと、起きる前に…」

ずた袋に両手を入れて“希望”をすくい上げます。
そのままふりかけようとした時に、眠っていた美希ちゃんの目がすっと開きました。

美希「…なんか寒いの…なんで窓開いてるんだろう…ん?」

雪歩「あ、起きちゃった…。」


美希「‥‥‥‥‥‥誰?」

雪歩「あ、え~っと私は…」

美希「格好からしてサンタさんかな?」

雪歩「そ、そう!私はサンタクロースだよ!」

美希「あは☆当たったの。じゃあ警察呼ぶね?」

雪歩「あ、うん……って待ってぇ!」


美希「わっ。いきなり大声出さないで欲しいって思うな。」

雪歩「あ、ごめんね。」

美希「わかればいいの。じゃあ警察呼ぶね?」

雪歩「だからそれは待ってぇ!」

美希「なんなの?美希もう寝たいんだけど…。」

雪歩「そう!寝よう!寝たら全て解決するよ!」


美希「意味がわかんないの。それに不審者を目の前にして寝れるわけないの。」

雪歩「えっと、それはそうなんだけど…ってちがくて私は不審者じゃありませぇ~ん。」

美希「むぅ~。じゃあ一応聞くけど何しに来たの?」

雪歩「私はサンタクロースだから美希ちゃんにプレゼントを渡しに来たんだよ。」

美希「プレゼント?」

雪歩「そうだよ、今この手に持ってるこの…」

美希「何も持ってないの。」

そうでした、サンタクロースにしか見えないんでした…。


雪歩「えぇ~っと、とにかくプレゼントなんですぅ!」

手に持っていた“希望”を美希ちゃんの頭に振りかけます。

美希「ん?なんか今ふわっと暖かくなったの…。」

雪歩「それが、美希ちゃんへのプレゼントだよ。」

美希「え~、美希おにぎりの方がいいって思うな…。」

雪歩「あ、あはは…。」

美希「これってなんなの?」


雪歩「それは“希望”。サンタクロースが配るのは“夢”なの。」

  「きっと素敵な“夢”が見れるよ、美希ちゃん。」

美希「それって好きな夢が見られるってこと?」

雪歩「う~ん、どんな夢かは私にはわからないけど。」

  「でも、その“夢”は美希ちゃん次第で必ず叶う夢だよ。」

美希「ミキ次第?」


雪歩「そう、サンタクロースが見せる“夢”は正夢に近い夢なの。」

  「でも、何もしなかったらその“夢”は絶対に叶わない。」

美希「ふ~ん、厳しいんだねサンタって。」

雪歩「そ、そうかな…?」

美希「でもミキ、そっちの方が楽しいって思うな。」

  「何にもしないで夢が手に入ったら面白くないもん!」


美希ちゃん…。
本当に変わったね。
出会った頃だったらきっと今と真逆の事を言っていたんじゃないかな?
美希ちゃんが叶えたい夢が何かは分からないけど、きっとその夢に真剣だから。
だからこその今の発言なんだと思う。

雪歩「ふふふ。」

美希「なぁに?」

雪歩「ううん、美希ちゃんらしいなって。」

美希「らしい?ミキの事知ってるの?」

雪歩「あっ!え、え~っと!ほ、ほら、美希ちゃんアイドルだから!」

  「テ、テレビで見かけたんだよ!」

美希「サンタもテレビ見るんだ。」

うう、ボロが出る前に退散しましょう…。


雪歩「じゃ、じゃあそういう訳だから私はこれで!」

  「いい夢見てね!メリークリスマス!」

ベランダからソリに乗って上空へ飛び立ちます。

美希「あ、行っちゃった…。あふぅ…。眠いの…。」

  「窓閉めて寝なくちゃ…。」

雪歩「ふぅ、危なかった~…。」

美希ちゃんのお家を後にして次に目指すのは四条さんのお家です。


雪歩「お弟子さん、よろしくお願いします。」

弟子共「へぃ!任せてくだせぃ!お嬢!!」

雪歩「ひぅ…!あ、ありがとうございます…。」

トナカイの角を付けたお弟子さん達が目を閉じて念じると真っ赤なお鼻が点滅し始めました。

弟子共「お嬢、どうやら西の方角です!」

雪歩「ひぅ…!西ですかぁ。ここからだと町田の方ですね。」

去年もこうやってお弟子さんに探してもらったんですけど、あれから引っ越してしまったようなんです。
真っ赤な鼻を点滅させたお弟子さんが一つのアパートの前に着陸しました。


雪歩「ここなんですね。」

ポストを見ると四条の名前が確かにありました。
とりあえずベランダからお部屋の中に入ります。
電気がついておらず、部屋は真っ暗でした。
寝てるのかな?

貴音「何奴!!」

雪歩「へ?ひぁぁぁぁ!!」

お部屋に入った瞬間に腕を取られて組み伏せられてしまいました。
しかも取られた腕はひねりを入れられてすっごく痛いです…。


雪歩「ひぃぃぃ!い、痛いですぅぅぅ!!!」

貴音「私の部屋に忍び込むなど、恥を知りなさい!」

雪歩「ひぃぃぃん!ご、ごめんなさいぃぃぃ!!!」

貴音「はて、その声は…。」

四条さんは組み伏せていた腕を緩めて私の顔を覗いています。
ち、近い…。


貴音「おや、雪歩ではありませんか。」

雪歩「四条さん、い、痛いですぅ…。」

貴音「しかし雪歩、どうして私の部屋に…?」

雪歩「そ、それは…って四条さん今、何て…?」

貴音「どうして雪歩が私の部屋にいるのか訊ねたのです。」

雪歩「わ、私は萩原雪歩じゃありません!」

貴音「…はて?」


雪歩「私は萩原雪歩じゃなくてサンタクロースです!」

貴音「…さんた、くろぉす…?」

雪歩「そうです、私はサンタクロースとして四条さんにプレゼントを届けに来たんです!」

貴音「ふむ…。もしやこれは“どっきりかめら”なる番組なのでしょうか?」

雪歩「ふぇ?ち、違いますよぉ!!」

貴音「おや。そうなのですか?」

  「その面妖な出で立ちといい、言動といいてっきり…」


雪歩「違います!私は本物のサンタクロースなんです!」

貴音「私にはさんたくろぉすなるものは良く分かりませんが」

  「それが雪歩の使命なのですね。」

雪歩「は……いえ私は萩原雪歩じゃありません。」

貴音「私には、萩原雪歩その人にしか見えないのですが…。」

雪歩「ううぅ、き、きっと他人の空似ですぅ。」

やっぱり四条さんは鋭いというかなんと言うか…。
追求を逃れる為にずた袋に両手を入れて“希望”をすくい上げた時でした。


貴音「空の袋…いえ、なにやら面妖な気配を感じますね…。」

  「その光は…一体?」

雪歩「え?し、四条さん!“希望”が見えるんですかぁ!?」

貴音「え、えぇ。とても淡く暖かな光ですね。」

ど、どういうことだろう?
サンタクロースしか見えないんじゃなかったのかな…?
う~ん、でも四条さんなら何となく見えても不思議じゃない辺りが四条さんらしいというか。


すくい上げた“希望”を四条さんに振りかけます。

貴音「これは…。なにやら暖かみを感じますね。」

  「雪歩…いえ。ふふっ、さんたくろぉす殿。この光は、一体?」

淡い光を纏った四条さんは普段のミステリアスさも相まってとっても幻想的で思わず見とれてしまう程でした。

貴音「雪…さんたくろぉす殿?どうされたのですか?」

雪歩「…はっ。あ、い、いえ。大丈夫ですぅ。」

貴音「そうですか。それで、この光が頂き物だというのは理解したのですがどのような物なのですか?」

  「先ほど希望がどうとか言っていたようですが。」


雪歩「はい、今四条さんが纏っているその光こそが“希望”です。」

貴音「なんと!この光が…!?」

雪歩「この“希望”は“夢”を与えてくれるんです。」

貴音「夢…ですか。」

雪歩「はい、努力すればきっと叶う。そんな“夢”を。」

貴音「成程、努力なくして叶う夢など無く、己を高めた果てに掴む“夢”にこそ価値があるのですね。」

雪歩「う~んと、そうなのかな…?」

四条さんは時々難しい事を言うのでそれが本当に正しいかは分からないですけど、でも四条さんなら絶対に夢を掴める。
私はそう思います。


貴音「さんたくろぉす殿、ありがとうございます。」

  「この先たとえ道に迷う事があっても、今宵の夢を思い返すことで踏み留まる事が出来そうです。」

雪歩「四条さんでも、迷うことがあるんですか?」

貴音「さんたくろぉす殿、それは…」

私の目を見据えてふっと微笑んだ四条さんは立てた人差し指を口元に運び

貴音「とっぷしーくれっと、ですよ。」

窓から差し込む月明かりと、光を纏った四条さんの微笑みはまさに夢の中ように美しく。
この世のどんなものよりも綺麗に見えました。


貴音「さんたくろぉす殿、ありがとうございます。」

  「この先たとえ道に迷う事があっても、今宵の夢を思い返すことで踏み留まる事が出来そうです。」

雪歩「四条さんでも、迷うことがあるんですか?」

貴音「さんたくろぉす殿、それは…」

私の目を見据えてふっと微笑んだ四条さんは立てた人差し指を口元に運び

貴音「とっぷしーくれっと、ですよ。」

窓から差し込む月明かりと、光を纏った四条さんの微笑みはまさに夢の中ように美しく。
この世のどんなものよりも綺麗に見えました。


貴音「さてさんたくろぉす殿、そろそろ行かれた方がいいのでは?」

  「恐らく配るのは私の所だけでは無いのでしょう。」

雪歩「良くわかりましたね。」

貴音「ふふふ、それは…」

2人「とっぷしーくれっと」

雪歩「ですよね?」

貴音「ふふっ。これは一本取られましたね…。」


雪歩「えへへ。それじゃあ私は行きます。」

貴音「はい、道中お気を付けて。」

雪歩「ありがとうございます。じゃあ四条さん良い夢を。」

  「メリークリスマス!」

ベランダからソリに乗り四条さんのお部屋を後にして上空へと昇ります。

貴音「正に夢のような出来事でした。ありがとう、今宵貴女に会えた事、嬉しく思いますよ。」

  「めりぃくりすます、雪歩…。」


上空をソリに乗って飛んでいると街を一望できるんですけど、夜景がすっごく綺麗なんです。
私がサンタ業を楽しめる理由の一つがこれです。
勿論、皆に会えるのが一番嬉しいんですけどね。

さてさてお次の目的地は…。
ここからだと一番近いのは春香ちゃんのお家です。

春香ちゃんは少し離れた所に住んでいていつも2時間かけて通勤してるからとっても大変なんです。
でも、そんな素振りはちっとも見せないのが春香ちゃんの凄い所だって私は思います。


雪歩「飛んでても春香ちゃんのお家は遠いなぁ…。」

一人だけ隣の県だししょうがないよね。

なんてことを考えていたら見えてきました、春香ちゃんのお家です。
春香ちゃんのお部屋のベランダにソリを着けて窓から入ります。

雪歩「お邪魔しまぁ~す。」

お部屋の中は真っ暗ですが春香ちゃんの姿は確認できません。


雪歩「あれ、春香ちゃんいない…?」

寝ているのかとも思いましたが、ベッドにも春香ちゃんはいません。
一体何処に行ってしまったのでしょうか?

もしかして、まだお仕事から帰ってないとか。
ううん、もう日付も変わろうとしてるくらいだしそもそもそんな時間までかかるお仕事だったら間違いなくプロデューサーが断ってるハズだから…。
も、もしかして春香ちゃんってば夜遊びを!?

今日はクリスマスイブだしクラスの男子とかと遊びに行って、誰かがふざけてお酒なんか取り出してそれを春香ちゃんも飲んじゃったりしてそのまま…。


雪歩「だ、だめだよ春香ちゃん!そんな事絶対に!」

よからぬ想像を働かせた時にお部屋の電気が点きました。

雪歩「へ?」

春香「あ~、ほっこりしたぁ。」

雪歩「あ、春香ちゃん…。」

春香「ん?…え、だだだ誰ですか!?」

雪歩「良かった…。良かったよ春香ちゃぁぁぁぁん!!」

春香ちゃんの身に危ない事が起こってなくって安心したらついつい抱きついちゃいました。
ホッとしたせいか少し涙も出ています。


春香「え?え?え?」

雪歩「春香ちゃんが無事で良かったよぉぉ!」

春香「無事…?って何の話?っていうか誰ですかぁ!」

その言葉で我に返りました。

雪歩「あ、ご、ごめんね春香ちゃん…。私はサンタクロースです。」

春香「…は?」

あれ、聞こえなかったのかな?
もう一度言いましょう。


雪歩「私はサンタクロースですよ。」

春香「サンタ…?ってあの?」

雪歩「あの。」

春香「え、本物?」

雪歩「そう、私は本物のサンタクロースだよ。」

春香「サンタって本当にいたんだ…。」

目の前にいる私驚きを隠せない様子の春香ちゃん。


雪歩「今日は春香ちゃんにプレゼントを届けに来たんだよ。」

春香「本当に?わぁ~、ありがとうございます。」

担いでいたずた袋を床に置き、両手を入れます。

春香「何してるんですか?空っぽの袋に手を入れて。」

雪歩「ふふふ、これがプレゼントだよ。」

中に詰まった“希望”をすくい上げます。


春香「何もないじゃないですか?」

雪歩「これはサンタクロースにしか見えないんですよ。それっ。」

すくい上げた“希望”を頭から春香ちゃんに振りかけます。

春香「わっ。な、何今の?何だかほわって…。」

雪歩「それは“希望”って言って、春香ちゃんに“夢”を与えるものなの。」

春香「希望…?夢…?」

雪歩「そう、きっと素敵な“夢”が見られるはずだよ。」


春香「へぇ、夢がプレゼントなんて何だか素敵ですね!」

雪歩「えへへ、そうだねぇ。」

  「その“夢”は、春香ちゃんが頑張ったらきっと叶う。そんな“夢”なの。」

春香「正夢って事ですか?」

雪歩「う~ん、ちょっと違うかな?」

  「正夢は何もしなくてもこの先本当に起こる夢、でもサンタクロースが配る“夢”は何もしなかったら絶対に起こらないし叶わない“夢”なんだ。」


春香「そっかぁ…。努力が肝心なんですね。」

雪歩「うん!だから春香ちゃん。」

  「春香ちゃんがどんな“夢”を見るかは分からないけど、いつかその“夢”を掴んでね。」

春香「ありがとうございます、サンタさん!」

雪歩「えへへ、それじゃあ私はもう行くね。いい“夢”を!」

  「メリークリスマス!」


部屋から出てベランダのソリに乗ります。

春香「ふぁ~。サンタさんって本当にいたんだな~。」

  「ん?もしかして今私すごい体験したんじゃ…!?」

春香ちゃんの部屋を後にして次の目的地である千早ちゃんのお家を目指します。


飛びながら空に目をやるとなんだかどんより曇っています。
なにやら降りそうな天気です。
さっきまでお月様が見えていたのに…。

雪歩「う~ん、サンタの不思議な力で大丈夫だけど雨は嫌ですぅ…。」

折角のクリスマスイブなんだし、降ったらやっぱり残念です。
あ、でも雪だったら降って欲しいかも。
白くてふわふわした雪が私は好きです。
私の名前の一部でもありますし。

天気に思いを馳せていると千早ちゃんのマンションが見えてきました。
やっぱりベランダにソリをつけて窓からお部屋に入ります。


雪歩「お邪魔しま~す。」

真っ暗な部屋には千早ちゃんの姿がありませんでした。

雪歩「千早ちゃんはどこだろう?」

探そうと思った矢先、どこからか歌声が聞こえました。
今いる部屋を出て声のする方へ向かいます。

雪歩「これ、千早ちゃんの歌声…だよね?」

声に導かれるように進んでいくと仏壇に向かい、ケーキにロウソクを立てて歌う千早ちゃんがいました。


千早「ありがとう また今日もキミといられることが

   なによりのプレゼント

   この夢が続けばいいな

   これが大人になった

   私の最初の

   My Wish」

  「ふふっメリークリスマス、優…。」

雪歩「凄い…。」

とっても綺麗な歌声に、思わず声を漏らしてしまいました。


千早「誰!?」

雪歩「はっ!あ、あの…!」

千早「………サンタ…クロー…ス?」

初めてサンタクロースだと思ってもらえました!!
嬉しいですぅ。

雪歩「そうです!私はサンタクロースなんです!」

千早「………………」

雪歩「千早ちゃん?」

千早「わ、私、本物のサンタさんに会うのは、は、初めてで…その…。」

もしかして千早ちゃん、緊張してる…?


千早「ど、どうしよう…何かお願いをしたほうが…?」

  「ああでも…図々しいわよね…。」

雪歩「落ち着いて千早ちゃん。」

千早「はっ。ス、スミマセン…。」

千早ちゃんが赤くなってます。
普段見れない千早ちゃんの姿は新鮮でとっても可愛いです。


雪歩「あ、ううん大丈夫だよ。」

千早「あの、サンタさん…!」

雪歩「なぁに千早ちゃん?」

千早「お、お願いが、あるんですけど…。」

雪歩「お願い?うん、私に出来ることなら何でも言って。」

千早「あの、い、一緒に歌を歌ってもらえませんか!?」

雪歩「え…?えぇぇぇぇ!?」

千早「ダメ…でしょうか…?」

な、何かを下さいってお願いかと思ったら予想外のお願いが来ちゃいましたぁ。


雪歩「だ、ダメじゃないけど何か理由が…?」

千早「あの…弟に、聞かせてあげたら喜ぶんじゃないかって…思って。」

そっか、さっきの歌も弟さんのために…。

千早「私の弟は早くに亡くなってしまったので」

  「こうしてサンタさんに会うことも出来なかったから」

  「だから一緒に歌を届けられたらって…思ったんですけど…。」

千早ちゃん…。
本当に弟さん思いだね。
うん、そういうことなら…!


雪歩「いいよ千早ちゃん、一緒に歌おうか!」

千早「……はい!ありがとうございます!」

雪歩「夜遅いから短めに…ね?」

ごめんね千早ちゃん、本当ならフルコーラスで付き合ってあげたいんだけど。
他にも行かないといけないから…。


千早「大丈夫です、ではサビだけお願いします。」

雪歩「うん!何を歌うの?」

千早「そうですね…。」

何を歌うのか考え込む千早ちゃん。

千早「PEARL WHITE EVE という曲なんですけど、ご存知でしょうか?」

いつだったか千早ちゃんがカバーしていた曲ですね。


雪歩「うん!大丈夫、歌えるよ。」

千早「それではラスサビの手前から歌います。」

軽く息を吸って透き通った綺麗な声が部屋中に響き渡りました。

千早「目覚める頃はプラチナの朝

   汚れひとつない世界

   真珠の雪をリングにして

   指に飾って」

千早ちゃんから目で合図を貰い、私も一緒に歌います。


雪歩「ピンクのパジャマ リボンほどいて
   それが私の贈りものなの」

真似して私も目で合図を送ります。

千早「!…壁のスキーの雪が溶けて
   滑り落ちてく」

雪歩「今夜私はあなたのものよ

   生まれたままで」


二人「こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいの夜」

千早「…」

雪歩「ふぅ、楽しかったね千早ちゃん!」

千早「ふふっ、そうね。」

雪歩「弟さん、喜んでくれてるかなぁ…。」

千早「そうね、きっと喜んでくれてると思うわ。」

  「ありがとう。」

頭を下げる千早ちゃんにずた袋から“希望”をプレゼントです。


二人「粉雪の夜」

千早「…」

雪歩「ふぅ、楽しかったね千早ちゃん!」

千早「ふふっ、そうね。」

雪歩「弟さん、喜んでくれてるかなぁ…。」

千早「そうね、きっと喜んでくれてると思うわ。」

  「ありがとう。」

頭を下げる千早ちゃんにずた袋から“希望”をプレゼントです。


千早「ん…。何か今暖かいものが…?」

雪歩「えへへ、クリスマスプレゼントだよ千早ちゃん!」

千早「一体何が起こったのかしら。」

雪歩「ふふふ、素敵な“夢”を見てね千早ちゃん。」

  「それじゃあメリークリスマス!」

不思議そうな顔の千早ちゃんを背に来た道を戻ってベランダからソリに乗ります。


千早「見た目では分からなかったけれど、歌声ですぐに分かったわ。」

  「ありがとう、萩原さん。」

  「メリークリスマス…。」

えへへ、千早ちゃんとデュエットしちゃった。
プレゼントを配りに来たのに逆に素敵なプレゼントを貰っちゃったな。

さて、次に向かうのは伊織ちゃんのお家です。
相変わらず空はどんより曇っていますが私の気分は晴れ晴れとしています。


伊織ちゃんのお家はとっても警備が厳重なのでスピードが命。
ベランダよりも大きいバルコニーにソリを止めてお部屋の中に入ります。
あ、ちなみにソリを引いてるお弟子さん達は不思議な力で周りからは見えません。

雪歩「お邪魔しま~す。」

大きなお部屋の大きなベッドに伊織ちゃんが眠っているのが見えます。

雪歩「うふふ、よく眠ってる。」

早速ずた袋に両手を入れて“希望”を取り出します。
取り出したそれを伊織ちゃんにプレゼント。


雪歩「メリークリスマス、伊織ちゃん。」

伊織「ん~…兄様ぁ…?」

今日はどうしてこう起きちゃったり気づかれちゃったりするんでしょうか…。

伊織「…………え?」

雪歩「お、おはよう伊織ちゃん…。あ、あはは…。」

伊織「…だ、だだだだ誰よあんたぁ!?」

雪歩「お、落ち着いて伊織ちゃん!」


伊織「落ち着ける訳無いでしょ!大体どうやって屋敷の中に入ってきたのよ!!」

雪歩「え、えっとそこの窓からなんだけど…。」

伊織「窓からぁ!?ここ何階だと思ってんのよ!」

雪歩「私はサンタクロースだから。」

伊織「…あぁ、成程…」

よかった、信じてもらえたよぉ。


伊織「って、んな訳ないでしょうがぁ!!」

雪歩「ひぃ!」

やっぱりダメでした…。

伊織「突然部屋に現れてサンタクロースだぁ!?」

  「嘘吐くにしたってもっとマシな嘘吐きなさいよね!」

雪歩「ううぅ、嘘じゃないんだけど…。」

お部屋に備え付けの電話でどこかに電話する伊織ちゃん。


伊織「新堂!すぐに来て頂戴!」

雪歩「ひぇぇぇ!い、伊織ちゃん!?」

どうしましょう!新堂さんを呼ばれてしまいました…。

伊織「さぁ、もうすぐ使用人が来るわよ!」

ううぅ、どうしよう…。
このままじゃ捕まっちゃうよぉ。
警察に突き出されてお父さんやお母さん、社長やプロデューサーにも迷惑かけちゃうんだ…。


雪歩「ううぅ、どうしよう…どうしよう…。」

伊織「ちょ、ちょっとあんた…何もそんなに思いつめなくても…」

雪歩「ううぅ、こんな私は…」

新堂「お嬢様!どうしました!?ん?…これは…?」

はぅぅ、新堂さん来ちゃいました!
目が合いました、もうダメです、私は逮捕されて牢屋に入れられちゃうんですぅ…。


伊織「…………ごめんなさい新堂、水を持ってきて貰えるかしら?」

新堂「…かしこまりました、お嬢様。」

それで臭いご飯食べさせられて出てきたらお弟子さん達にお勤めご苦労様です!って言われちゃう…ん?
今新堂さんが私にウィンクしたような。
も、もしかして新堂さん気づいて…?
それに伊織ちゃんもお水持ってきてって…。
も、もしかして…。


伊織「…………ごめんなさい新堂、水を持ってきて貰えるかしら?」

新堂「…かしこまりました、お嬢様。」

それで臭いご飯食べさせられて出てきたらお弟子さん達にお勤めご苦労様です!って言われちゃう…ん?
今新堂さんが私にウィンクしたような。
も、もしかして新堂さん気づいて…?
それに伊織ちゃんもお水持ってきてって…。
も、もしかして…。


雪歩「伊織ちゃん…。」

伊織「ふんっ、あんなに思いつめてる奴を突き出すほど鬼じゃないわよ!」

雪歩「伊織ちゃん…!!ううぅ、ありがとう…。」

伊織「別に!なんか見た感じ悪い奴って訳じゃなさそうだし。」

  「で、あんた一体何しに来たのよ?」

雪歩「えっと、サンタクロースとして伊織ちゃんにプレゼントを届けに来たんだよ。」

伊織「その設定引っ張るわけね…。」


雪歩「設定じゃありませぇ~ん!本当に私はサンタクロースなんです!」

伊織「ふぅ~ん、で、そのサンタクロースはどんなプレゼントをくれるのかしら?」

雪歩「えっと、プレゼント自体はもうあげてるんだ。」

伊織「…は?」

雪歩「伊織ちゃんが寝てる時にあげたんだよ。」

伊織「…………なにもないじゃない。」

雪歩「本物のサンタクロースは物じゃなくて“夢”をプレゼントするものだから。」

伊織「夢ねぇ。」


雪歩「きっと今日は素敵な“夢”を見られるよ!」

伊織「期待しないでいるわね。」

雪歩「あはは。」

伊織「さ、もうじき新堂が戻ってくるわ。騒ぎになる前に早く行きなさい。」

やっぱり、お水は時間稼ぎだったんだね。

雪歩「ありがとう、伊織ちゃん。」

伊織「ふんっ。お礼を言うのはあたしの方よ。あんた、サンタクロースなんでしょ?」

  「よく分かんないけどプレゼント貰っちゃったみたいだし、一応感謝しておくわ。にひひっ。」

とっても伊織ちゃんらしい感謝の示し方で思わず顔が綻んじゃいます。


伊織「な、何笑ってるのよ!腹立つわねぇ!」

顔を真っ赤にして怒る伊織ちゃん。
それが照れ隠しだって事は私にもわかります。

雪歩「それじゃあ伊織ちゃん、いい夢見てね!」

  「メリークリスマス!」

窓からバルコニーに出てソリに乗って飛び立ちます。


伊織「何だったのかしら?」

新堂「お嬢様、お水をお持ちしました。」

伊織「あら新堂、遅かったじゃない。隣の部屋から水を持ってくるだけなのに。」

新堂「申し訳ございません、お嬢様。」

伊織「まぁ、いいわ。ねえ新堂、さっきの子、見てたでしょ?」

  「何なの?あいつ?」

新堂「ほっほっほ、サンタクロースですなぁ。私も昔は…おっと。」

伊織「…?」


ふう、危なかったなぁ。
去年は寝てる伊織ちゃんに“希望”渡して直ぐに出れたのに。
スピードが命とはなんだったんでしょうか。
今年は今の所全員に見つかってるよぉ。
後の皆の所では見つからないといいなぁ…。

その時ポツポツと雨が降ってきました。

雪歩「あ、降ってきちゃった。」

嫌だなぁ。
折角のクリスマスイブなのに雨だなんて。


雪歩「お弟子さん達は雨大丈夫ですか?」

弟子共「へい!お嬢の力でへっちゃらです!!」

雪歩「ひぅ…!私達は濡れないけど、この時間まで働いてる人達とか大変だなぁ。」

さてさて雨の中、次に向かうのは亜美ちゃんと真美ちゃんのお家です。
流石にもう日付も変わってるし二人は寝てるよね…?

あっという間に双海邸に到着です。
伊織ちゃんのお家程じゃないですけど、二人のお家もおっきいです。

ベランダにソリをつけて窓からお部屋に入ろうとしたけど何故か電気が点いています。


雪歩「あれ?もしかしてまだ起きてるのかな…?きゃっ!」

そーっと中を覗いてみると急に窓が開き中に引っ張られました。

真美「へっへっへ~!つっかまーえた!観念しろい!今年こそパパサンタを捕まえ…あれ?」

亜美「ねぇ真美、パパサンタじゃないっぽいよ→?」

真美「ありゃ、ホントだ。」


亜美「姉ちゃん誰?」

真美「もしかして本物のサンタさんとか!?」

雪歩「うん。」

亜美「んなわけないっしょー!……って、えぇぇぇ!?」

真美「ホントに本物のサンタさん!?」

雪歩「そうだよ。」

真美「どどど、どうしよう亜美~。何か変な事になったっぽいよ?」

亜美「うあうあ~。亜美に言われても…。何だかゆきぴょんに似てるし。」


真美「あ、でももし本物のサンタなら何かプレゼント貰えるかもよ!?」

亜美「お、早速ゆきぴょんサンタに聞いてみようよ!」

真美「うん!ねーねーゆきぴょんサンタさん!」

ゆ、ゆきぴょんサンタって正体バレちゃってるのかなぁ…。

雪歩「わ、私はただのサンタクロースだからゆきぴょんはやめにしない?」

真美「え~、でも真美達の友達のゆきぴょんにソックリなんだよ→。」

亜美「そうそう、ってことで姉ちゃんはゆきぴょんサンタに決定なのだ~!」

う~ん、バレてる訳じゃなさそうだからまぁいいの…かなぁ?


亜美「ゆきぴょんサンタは本当のサンタさんなんでしょ?」

真美「もしかして、真美達にプレゼントくれるの!?」

雪歩「あ、うん!その為に来たんだよ!」

真美「やった~!」

亜美「亜美は新しいゲームが欲しいな!」

真美「真美は新しいコートが欲しい!」

亜美「おりょ?そうなの?」

真美「うん、ちょっとは大人に見られるような格好したいなって。」

キラキラした目で見られるとこれから告げなくてはいけない事実に胸が押しつぶされそうです…。


雪歩「あ、あのねちょっと聞いて欲しいんだけど…。」

亜美「なになに~?」

雪歩「えっと、プレゼントがあるにはあるんだけど、二人が望んでるような物じゃないんだ…。」

真美「どゆこと?」

雪歩「サンタクロースはね“希望”を届けて皆に“夢”を見せるの。」

亜美「希望?夢?」

雪歩「そう、それは亜美ちゃんと真美ちゃんが一所懸命頑張ったら叶う“夢”。」

  「それがサンタクロースが届けるプレゼントなんだよ。」


真美「じゃあコートは?」

亜美「ゲームは?」

雪歩「う~ん、それはお父さんサンタにお願いしたらいいんじゃないかな?」

亜美真美「「えぇ~、つまんな~い!」」

雪歩「はぅぅ、そんな事言われても…。」

さっきまで賑やかだった二人が急にしょんぼりしちゃってます。
俯いた真美ちゃんが私の所に来ました。


真美「ねぇ、その夢ってさ、そのす、好きな人との夢…とかも、見れるのかな…?」

顔を真っ赤にして耳打ちをしてくる真美ちゃん。

雪歩「え!?う、う~ん…どうだろうねぇ。見る夢は人それぞれだから私には分からないかな。」

真美「そっか…。」

雪歩「ご、ごめんね真美ちゃん…。」

真美「ううん、ゆきぴょんサンタは悪くないよ、真美が欲張りなだけなんだもん。」

雪歩「え、えっとどんな“夢”であってもそれは叶う可能性のある“夢”だから諦めないで!」

  「もしかしたらそんな“夢”も見れるかも知れないし!」


真美「そっか…うん、そうだね!ありがとゆきぴょんサンタ!」

雪歩「えへへ。どういたしまして。」

微笑む真美ちゃんを見てからずた袋に両手をいれて“希望”をすくい上げます。

亜美「何してんの~?亜美も混ぜてよ~。」

置いてけぼりにされた亜美ちゃんがやってきました。
すくい上げた“希望”を二人に振りかけます。


雪歩「それっ。」

亜美「わっ!な、何?なんかぽわ~って暖かくなったよ真美!」

真美「うん!ねえゆきぴょんサンタ!これって?」

雪歩「これが“希望”だよ。」

亜美「ふ~ん。えへへ、暖かいね。」

真美「うん、なんか幸せな気分になったっぽいよ!」

雪歩「えへへ、それじゃあ2人ともいい“夢”見てね。」

  「メリークリスマス!」

ベランダのソリに乗って空へと走り出します。


真美「ゆきぴょんサンタ行っちゃったね。」

亜美「ね。でもホントにそっくりだったね。」

真美「うんうん、案外ホントにゆきぴょんだったりしてね。」

亜美「あっははは、それはないっしょ→!」

真美「だよね→!」

双海父「メリークリスマース…(小声)あれ?」

亜美真美「「あ…。」」


雪歩「ひっくちっ!」

う~、誰か私の噂してるのかなぁ。

弟子共「大丈夫ですかお嬢!!?どっかで、休憩でも挟みますか!!!!!???」

雪歩「ひぅ…!だ、大丈夫ですぅ!」

お弟子さんに心配されちゃいました。
そんな中向かうのは律子さんのお家です。


雪歩「もう日付が変わって大分経つけど流石に律子さんは寝てるよね…?」

そんな事を考えていたらあっさり律子さんのお家に到着です。
これまで通りベランダにソリを着けて窓から入ろうとしましたがお部屋の電気が点いています。
律子さん、まだ起きてるんだ…。

去年はアイドルだったからか早くに寝てたけど今年はプロデューサーになって忙しくなっちゃったからお仕事してるのかな…?
う~ん、どうしよう。

どうやってプレゼントを渡そうか考えていた時でした。


いぬ「ワンワバワンワンワフォーワン!」

雪歩「ひぁああ!い、犬!?」

どこからか聞こえた犬の声に驚いてつい声を上げたら窓が開きました。

律子「な、何!?」

雪歩「あ…。」

やっぱり今回も見つかってしまいました。
ううぅ、どうしてこうなっちゃうんだろう…?


律子「あ、あなた誰!?」

雪歩「あ、あの私は…」

律子「プ、プロデューサーに…いや警察か!」

雪歩「ま、待ってくださぁい!!私は怪しい者じゃありません!」

律子「どこからどう見たって怪しい人じゃない!」

雪歩「私はサンタクロースですぅ!」

律子「そりゃ格好はそうだけど。」


雪歩「本物のサンタなんです!信じてください律子さん!!」

律子「え?なんで私の名前を?」

雪歩「あ…えっと…。」

律子「ますます怪しい…。」

雪歩「あ、ほら律子さんアイドルだったから…!」

律子「嘘!何で知ってるのよ!?」

雪歩「サンタなので…。」

と言う事にしておきましょう、この場は。


律子「凄いのねサンタって…。」

雪歩「あ、あはは…。」

律子「それで、そのサンタが一体何の用なの?」

雪歩「サンタが来る理由は一つしかありません、プレゼントです!」

律子「へぇ。……とりあえず中に入らない?ていうかあなたそんな薄着で寒くないの?」

  「ミニスカートに半袖じゃない。」

雪歩「はい、この服が寒さから身を守ってくれるんです。」

律子「へぇ、やっぱりサンタって凄いのね。」


私にもどういう理屈なのかよくわかりません。
不思議なことが起こっているとしか言い様がないんです。

お部屋に入るとやっぱり律子さんはお仕事中だったみたいです。

律子「それで、サンタさんは一体どんなプレゼントを持って来てくれたのかしら?」

雪歩「あ、えっと物じゃないんですけど…。」

律子「物じゃない?」

雪歩「はい、サンタクロースは“希望”を配り、皆に“夢”を見せるのがお仕事ですから。」


律子「どういうこと?」

雪歩「えっと、この袋を見てください。」

背中に担いでいたずた袋を床に置きます。

律子「大きな袋よね、何だかパンパンに詰まってるみたいだし。」

雪歩「袋を開けますね。」

口を結ぶ紐を解き袋を開きます。


律子「え?空っぽじゃない。」

雪歩「はい、サンタじゃない人が見てもこの中には何も入っていないようにしか見えません。」

律子「じゃあサンタが見たら?」

雪歩「この中は沢山の光で溢れています。」

律子「もしかしてそれがプレゼントなのかしら?」

さすがは律子さん、鋭いです…!


雪歩「正解ですぅ!」

律子「へぇ、私には本当に空っぽの袋にしか見えないんだけどねぇ。」

雪歩「受け取ったら多分わかりますよ。」

律子「そうなの?」

雪歩「はい、受け取った人は皆暖かくなったって言ってくれました。」

  「だから多分律子さんもわかると思います。」

律子「へぇ、楽しみだわ。」

それでは早速ずた袋から“希望”をすくい上げます。
白くて淡い、綺麗な光が両手の上で揺れてとっても綺麗。


雪歩「それっ。」

すくい上げたそれを律子さんに振りかけます。

律子「はっ。本当に暖かくなったわ…。」

雪歩「えへへ、それが“希望”です。」

律子「これが…?」

雪歩「はい、これで素敵な“夢”が見られるはずです。」

律子「へぇ。簡単なのね。」


雪歩「そしてその“夢”は律子さん次第で叶う可能性を持った夢です。」

律子「私次第で…?」

雪歩「はい、“希望”によって見れる“夢”は何もしなければ叶わないけど、努力をすれば叶う。」

  「そんな“夢”なんです。」

律子「努力か…。」

雪歩「私、律子さんなら絶対叶えられるってそう信じています!」

律子「……ふふっ。ありがとう。」


雪歩「えへへ、それじゃあ律子さん良い“夢”を。」

  「メリークリスマス!」

ベランダに出てソリに乗り空へと向かいます。

律子「何だか変な体験しちゃったわね。でも、悪くはないかな…?」

  「努力…か。ふふっ。さーて、もう一頑張りよ~!」

  「…………それにしてもあのサンタ、雪歩に似てたわね。」

  「…ま、気のせいよね。」

律子さんのお家を後にして数分、今度はあずささんのお家を目指します。


雪歩「雨が少し弱くなって来ました、止むといいなぁ。」

  「雪、降らないかなぁ…。」

降ったら明日すっごく寒いけど、朝日を浴びてふわふわの雪がきらきら輝く銀世界の方が素敵ですよね。

そんな雪に思いを巡らせていたらあずささんのマンションが見えてきました。
いつもの通りベランダにソリを着けると…。


あずさ「あら?サンタさん?」

何と言うことでしょう、あずささんがベランダにいました。

あずさ「ホントにソリに乗って飛ぶのねぇ。」

雪歩「あ、あの、えっと…。」

あずさ「これから子供たちの所へ?」

雪歩「い、いえ、その、あずささんの所に来たんですけど…。」

あずさ「まぁ!私に?うふふ、嬉しいわぁ。」

雪歩「あの、あずささんはどうしてこんな時間にベランダにいるんですか?」

もうすぐ草木も眠る丑三つ時になろうかという頃です。


あずさ「綺麗なお月様だったから月見酒をしていたんだけど曇ってきちゃってね。」

   「それでもしかしたら雪になるかもと思って雪見酒の準備をしていたのよ~。」

ベランダに置かれた一人用のテーブルには徳利とお猪口とおでんが置いてあります。
その脇にはお酒の瓶が。
山田さん?


あずさ「でも雨が降ってて全然雪にならないわね~。お酒もそろそろ無くなりそうだし。」

雪歩「それ、一晩で飲んじゃったんですか?」

あずさ「えぇ、熱燗にすると美味しくってついつい~。」

よく見るとあずささんの顔は赤くなってます。

あずさ「サンタさんも一緒に飲みませんか~?」

雪歩「ふぇ!?い、いえ!私は未成年なので!」

あずさ「まぁそうなの、残念ねぇ…。」


雪歩「すみません…。」

あずさ「あ、良いのよ気にしないで、ね?」

雪歩「は、はい…。」

あずさ「あらいけない、サンタさんが来てくれたのにずっとソリに乗ってるのも大変よね。」

   「どうぞ上がってください。」

雪歩「へ?あ、はい。お、お邪魔します。」

今までは勝手に上がっていたのに今回は招かれてしまいました。
あずささんはベランダのお酒を片付けています。
おでんを持ってお部屋に入ってきました。


あずさ「おでんを作ったのだけれど、良かったら食べる?」

雪歩「え、いいんですか?」

あずさ「ええ、せっかくだから一緒に食べましょう。」

雪歩「あ、ありがとうございますぅ。」

あずさ「飲み物持ってくるわね、お茶でいいかしら?」

雪歩「はい、ありがとうございます!」

冷蔵庫からお茶を持ってきてコップに注いでくれました。


あずさ「はい、どうぞ。市販のお茶で申し訳ないのだけれど…。」

雪歩「い、いえ!美味しいですよ。おでんも味が染みてて美味しいです!」

あずさ「まぁ、うふふ。ありがとう。」

大根にはおでんのおつゆが良く染みていて身体が芯から温まります。

あずさ「喜んでもらえて嬉しいわ。」

雪歩「いえいえ、こんなに美味しいおでんは久しぶりに食べました。」

あずさ「あら、前にどこかで?」


雪歩「えっと、以前お仕事でいった静岡…はっ!ってそ、それはいいとして私はあずささんにプレゼントを渡しに来たんです~!」

あずさ「う~ん、私がもらっちゃっていいのかしら?」

   「こういうのはもっと小さな子供達が貰うべきなんじゃ…?」

雪歩「いいえ、この1年あずささんはとっても頑張って来ました!」

  「そんなあずささんが貰っても誰も文句は言えないですよ!」

  「ううん、私はあずささんにもらって欲しいです!!」


そう、あずささんは今年竜宮小町として活動を始めて本当に忙しくなったんです。
同じメンバーの伊織ちゃんと亜美ちゃんよりもお姉さんだから、2人をフォローしなくちゃいけない場面も沢山あるって聞きました。
それに二十歳を過ぎてるから深夜の番組でもソロで出たりと大忙しなんです。
だからあずささんには素敵な“夢”を見てもらいたいって思うんです。

あずさ「あ、あらあら、そう言われると照れちゃうわね…///」

   「私としては迷惑かけてしまうことの方が多いから、少しでも目の前の事を頑張ろうって。」

雪歩「そうだったんですね…。」

あずさ「なんだか少し暗くなっちゃったわね。ごめんなさい。」

雪歩「いえ!大丈夫です!」

暗くなってしまった場をどうにかするためにずた袋の登場です。


あずさ「それは?」

雪歩「これがあずささんに贈るプレゼントです。」

両手を入れて“希望”をすくい上げます。

あずさ「何も…ないわよね?」

雪歩「普通の人には見えません、これはサンタクロースにしか見えない光。“希望”です。」

あずさ「希望?」

雪歩「そうです。それっ。」

手の中で揺らめいている“希望”をあずささんに振りかけます。


あずさ「まぁ…。何だか暖かくなったわ。」

雪歩「えへへ、今“希望”をプレゼントしました。」

あずさ「これがそうなのね…。目には見えないけれど、しっかり暖かさを感じるわ。」

雪歩「今夜はきっと素敵な“夢”が見られますよ。」

あずさ「うふふ、そうね。何だかそんな気がするわね~。」

嬉しそうに、楽しそうに微笑むあずささんに背を向けて窓へ向かいます。
窓の外では雨が止み、ちらちらと雪が降り始めています。


雪歩「わぁ…雪だぁ…。」

  「あずささん!雪です…あれ?」

振り返ると机に突っ伏してあずささんが眠っていました。

雪歩「素敵な夢を見てくださいね、あずささん…。」

  「メリークリスマス…!」

床に置いてあったブランケットをあずささんにかけてベランダからソリに乗ります。
次の目的地は小鳥さんのお家です。


雪歩「雪だぁ…。嬉しいなぁ。えへへ。」

暗くなった街の上空を雪の中飛ぶ。
何だかとってもロマンチックです。
ホワイトクリスマスになりました。
嬉しいな。

さて、もう間もなく小鳥さんのアパートが見えてきます。
ベランダがないので窓から入るのを断念して玄関から入りましょう。


雪歩「お邪魔しま~す。」

小鳥「……!!…!…………っ」

あれ、部屋の中から話し声がします。
はっ。も、もしかして小鳥さん恋人と…!?
ど、どうしましょう!
で、でも今日はクリスマスだしそういう事があっても良いわけで…。
ここは帰ったほうがいいのかな?
で、でもプレゼント渡さなきゃだし…。


そうだ、お部屋の中にパッと投げてサッと退散しましょう!
そうしましょう!

抜き足差し足で進み小鳥さんの声のする方へ進みます。
お部屋の手前で足を止め中の様子を伺うとそこには―――――!


小鳥「チクショー、クリスマスが何だってのよ!こちとら一人酒よ!」

  「なにがぼっちなうよ!どうせ嘘なんでしょ!わかってんのよ!」

  「っていうかコミケの無料配布折本の原稿終わってないからそれどころじゃないのよぉぉぉぉう!!!」

  「誰よ手折りの方が温かみがあっていいって言った奴は!粛清してやるわよ!」

  「ってあたしじゃないのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

―――――飲んだくれてました。


雪歩「………小鳥さん。」

あまりの光景につい声が漏れてしまいました…。

小鳥「ピヨォ!?え、誰!?」

雪歩「あ、サンタクロースです…。」

うぅぅ、何だか違う意味でいけない物を見てしまった気がします…。

小鳥「サンタクロース?」

  「あ~、ヤバ過ぎてついに幻覚見え始めちゃったか…。」

  「あたしももう若くないって事ね。」


雪歩「………小鳥さん。」

あまりの光景につい声が漏れてしまいました…。

小鳥「ピヨォ!?え、誰!?」

雪歩「あ、サンタクロースです…。」

うぅぅ、何だか違う意味でいけない物を見てしまった気がします…。

小鳥「サンタクロース?」

  「あ~、ヤバ過ぎてついに幻覚見え始めちゃったか…。」

  「あたしももう若くないって事ね。」


雪歩「ち、違いますよ小鳥さん!私は本当のサンタクロースなんですぅ!」

小鳥「あら、そうなの…ん?」

なにやら小鳥さんがじっとこちらを見つめています。

小鳥「あなたよく見たら雪歩ちゃんに似てるわね…。」

雪歩「ふぇ!?そそそ、そんなことないですよぉ!」

  「わわ私は萩原雪歩とは別人ですぅ!!!」

小鳥「う~ん、見れば見るほど似てるわね。」

ううぅ、どうしましょう。
完全に怪しまれてますぅ…。


雪歩「ち、違いますよ小鳥さん!私は本当のサンタクロースなんですぅ!」

小鳥「あら、そうなの…ん?」

なにやら小鳥さんがじっとこちらを見つめています。

小鳥「あなたよく見たら雪歩ちゃんに似てるわね…。」

雪歩「ふぇ!?そそそ、そんなことないですよぉ!」

  「わわ私は萩原雪歩とは別人ですぅ!!!」

小鳥「う~ん、見れば見るほど似てるわね。」

ううぅ、どうしましょう。
完全に怪しまれてますぅ…。


小鳥「でもミニスカサンタっていいわねぇ…。」

  「これを着た雪歩ちゃんと真ちゃんの絡みとか…。」

  「ぐっふっふ…。」

  「はっ。ダメよ小鳥!今更原稿のネタを増やしてどうするの!?」

  「でも、何だか行けそうな気もするし…。」

小鳥さんが何を言っているのか分かりません…。


雪歩「あの、小鳥…さん…?」

小鳥「あ、あぁごめんなさいね雪歩ちゃん。」

雪歩「だから私は雪歩じゃなくてサンタクロースですぅ…。」

小鳥「あはは…。似てるからつい…。」

雪歩「あ、あのプレゼントを渡しに来たんですけど。」

小鳥「え!あ、あたしに!?」

雪歩「は、はい…。」


小鳥「それはつまりあたしはまだプレゼントを貰えるくらい若く見えるって事なのね!?」

雪歩「小鳥さんはまだまだお若いと思いますけど…。」

小鳥「いいの!いいのよ無理しなくて!本当は自分が一番わかってるんだから!」

どうしようこの状況、どうしたらいいんだろう…?
と、とりあえずずた袋から“希望”をすくい上げましょう。


小鳥「ん?何してるの?」

雪歩「えっと、これがプレゼントの入った袋で、っしょ。これがプレゼントの“希望”です。」

小鳥「…あ~あ~、希望ね!し、知ってるわよ!うんうん!」

雪歩「え!?こ、小鳥さん知ってるんですか!?」

小鳥「ももも、もちろんよ!もう希望の10個や20個くらいちょちょいのちょいよ!」

雪歩「じゃあこれも見えてるんですね…。」

すごいなぁ小鳥さん、サンタにしか見えない“希望”が見えるなんて。


雪歩「綺麗ですよね。」

小鳥「あぁ、うん、そうね、綺麗よねこう輝いてて!」

雪歩「輝く?いえ、淡い光ですけど…?」

小鳥「え!?あ、こ、今年はそっちのタイプか~!」

雪歩「…去年もそうでしたけど…?」

なんだろう、小鳥さんと話が噛み合ってない気がします。


小鳥「あ~……ごめんなさい、知ったか振りをしてました…。」

雪歩「ふぇ?あ、なんだそうだったんですね。」

どうやら小鳥さんの冗談だったんですね、すっかりハマってしまいました。

小鳥「で、本当にその手の中にえ~っと、希望?があるの?」

雪歩「はい、白くて淡い光の塊がここにあります。えいっ。」

手の中の“希望”を小鳥さんに振りかけます。


小鳥「ピヨ!な、何だかほわっとした暖かさが…。」

雪歩「えへへ、今小鳥さんには“希望”をプレゼントしました。」

小鳥「そうなのね。へぇ、これが。」

雪歩「きっと今なら素敵な“夢”を見られますよ。」

  「だから、お酒の飲み過ぎには気をつけてくださいね?」

小鳥「あ、はい…。気をつけます…。」


雪歩「それじゃあ小鳥さんいい“夢”見てくださいね。」

  「メリークリスマス!」

お別れの挨拶をして玄関に向かいます。
ドアを開け、外に出てソリに乗ったら出発です。

小鳥「うふふ、とっても可愛らしいサンタさんだったわね。」

  「さてと、早速ゆきまこサンタの話を煮詰めなくっちゃ…!!」

  「間に合わせてみせるわよ!!!」

お空から地上を見るとうっすらとですが雪が積もり始めています。
えへへ、朝には沢山積もってるといいな。


弟子共「お嬢!大変です!次の目的地に野郎がいません!!」

雪歩「ひぅ…!って、えぇぇぇ!?ど、どうしよう…?」

次の目的地はプロデューサーのお家だったんですが…。
帰ってないって事はどこかに出かけてる?
トナカイさんレーダーはお弟子さん2人じゃ一晩に1度しか使えないし…。
在宅か不在かしかわからないから…。
…あ、もしかして!


雪歩「あ、あのお弟子さん!事務所に向かってください!」

弟子共「事務所ですか!?了解しやした!!」

雪歩「ひぅ…!お、お願いしますぅぅ!」

そう、プロデューサーは忙しいので家にいないのならまだ事務所でお仕事、もしくは帰れなくなって泊まってる可能性が高いです。
なので事務所に向かいます。

小鳥さんのアパートから事務所はあっという間です。
数分もしたら着いてしまいました。

事務所の電気は点いています、やっぱりプロデューサーはこの中に…!


ビルの脇にソリを停めて事務所の階段を上ります。
こっそりドアを開けて中に入ると話声がしました。
プロデューサーだけじゃない…?

雪歩「おはようございますぅ。」

いつもの癖でおはようございますって言いながら忍び込みます。
何だか変な臭いがします…。
どうやら話し声は応接間から聞こえてくるようです。
こっそり覗いてみるとプロデューサーともう一人、なんと社長の姿が…!


雪歩「へ?しゃ、社長?」

社長「ん?」

P 「え?」

雪歩「あ…。」

ううぅ、またやっちゃいました…。
どうしてこう私は…。


社長「だ、誰かね君は!」

P 「ゆ、雪歩!?どうしたんだお前!」

社長「萩原くん?そ、そうなのかい?」

P 「いや、夕方には雪歩は上がったはずなんですけど…。」

手帳を取り出しスケジュールを確認するプロデューサー。


雪歩「あ、あの違うんです。私は萩原雪歩じゃありません、サンタクロースです!」

P 「は?何言ってんだ、雪歩じゃないか。」

社長「う~む。」

ううぅ、信じてもらえません…。
一体どうしたら?


P 「雪歩、これは何かの撮影なのか?」

雪歩「へぇ!?ちちち違いますぅ!!私はサンタクロースなんですぅ!!」

社長「どうしたものか…。」

P 「別に隠さなくていいんだ、雪歩には被害が行かないように俺がしっかり対処するから。」

  「な?誰に言われた仕事なんだ?」

雪歩「違います…私は…っく…本当に…サン…タ…」

社長「あぁぁキミ、泣いてるじゃないか、抑えて抑えて。」

P 「すみません、社長…。」


雪歩「信じてください、私は本当にサンタクロースなんです…。」

確かに私は萩原雪歩だけど、このサンタ服を着ている間は私はサンタクロースなんです。

P 「…分かった、そこまで言うなら信じるよ。」

社長「うむ。そうしよう。」

雪歩「ありがとうございますぅ…。」

P 「で、雪…あ~、サンタさんはここへ何しに?」


雪歩「あ、はい。プロデューサーにプレゼントを渡そうと思ったんですけど家にはいないみたいだったから」

  「もしかしたらここかもって思って。」

社長「ほほぅ、よかったじゃないかねキミ。」

雪歩「勿論、高木社長にもですよ。」

社長「わ、私にもかね?いや~はっはっは、嬉しいねぇ。」

雪歩「あの、お二人はこんな時間までここで何をしていたんですか?」

P 「ん?あぁ、え~っとだな…。」

社長「ははは…。」

何だか二人の様子がおかしいですね…。


雪歩「あ、はい。プロデューサーにプレゼントを渡そうと思ったんですけど家にはいないみたいだったから」

  「もしかしたらここかもって思って。」

社長「ほほぅ、よかったじゃないかねキミ。」

雪歩「勿論、高木社長にもですよ。」

社長「わ、私にもかね?いや~はっはっは、嬉しいねぇ。」

雪歩「あの、お二人はこんな時間までここで何をしていたんですか?」

P 「ん?あぁ、え~っとだな…。」

社長「ははは…。」

何だか二人の様子がおかしいですね…。


P 「まぁでもサンタさんなんだから言っても問題ないですよね、社長。」

社長「え?あ、あぁそうだな!サンタであれば別にいいだろうな!」

P 「ですよね、雪歩じゃなくてサンタさんなんだから律子にバレるって事はないでしょうし!」

これは…、遠まわしに律子さんには言わないでくれって言ってるんです…ね?

雪歩「い、言いふらしたりなんかしませんよ!サンタですから!」

P 「だ、だよな!」

雪歩「それで、ここで何してたんですかぁ?」


P 「あぁ、年内の仕事ももうじき終わるってんでさ、社長とたるき亭で飲んでたんだけど」

  「ちょっと飲み足りなくてさ、それでコンビニで買ってきて事務所で酒盛りを…。」

よく見るとテーブルの上にはお酒の缶やおつまみが沢山置いてあります。

社長「まぁ、今年一年本当によくやってくれたからね、その労をねぎらおうという」

  「ちょっと早めの忘年会のつもりだったんだが…。」

P 「思いの外盛り上がっちゃいましたね…。」

プロデューサーの頑張りは私達がよく知ってます。
この一年ずっと近くで見てきましたから…。


雪歩「そうだったんですか…。」

社長「一年分の思い出が肴だから話も尽きないものでね。」

P 「えぇ、俺が765プロに来て竜宮小町が出来て、皆がちょっとづつ売れていって。」

憶えています、プロデューサーが来てから皆本当にお仕事が増えました。
最初の頃は失敗もあったけど、それでも乗り越えてきました。

社長「そうだねぇ…。いやー、本当に皆よくやってくれたよ。」

P 「えぇ、皆が本当に頑張ってくれてここまで来れました。」

雪歩「頑張ったのはプロデューサーもですよ。」

P 「え?」


雪歩「プロデューサーがいたから、みんなは頑張れたんだと思います。」

少なくとも、私はそうだったから。

P 「ゆ…。ありがとう、そうだったらいいな。」

社長「自信を持ちたまえ、キミの存在は今や我が765プロには欠かせないものになっているんだ。」

P 「社長…。ありがとうございます!」

プロデューサー、これからも頑張ってくださいね。
私達も精一杯頑張ります。


雪歩「さぁ、プレゼントですよ!」

ずた袋に両手を入れて“希望”をすくい上げます。

P 「何してるんだ?」

雪歩「ふふふ、それっ。」

すくい上げた“希望”をプロデューサーに振りかけます。

P 「お?な、何か暖かくなった…?」


雪歩「えへへ、えいっ。」

今度は社長にも。

社長「むっ。確かに暖かくなったね。」

雪歩「これがプレゼントです。」

P 「へぇ。そうなのか。」

雪歩「はい、サンタクロースは“希望”を配るんです。」

社長「ふむ、素敵だね。」

雪歩「はい!」


P 「ありがとう、サンタさん。」

雪歩「いえ、それじゃあ私はこれで失礼します。」

P 「あぁ、風邪引かないようにな。」

雪歩「大丈夫です!サンタですから。」

P 「…そうか。」

雪歩「それじゃあプロデューサー、社長、良い“夢”を。」

  「おつ…メリークリスマス!」

事務所の扉を開けて階段を降り、ソリに乗って空へと向かいます。


社長「今のは…。」

P 「雪歩…でしょうね。」

社長「うむ…。」

P 「まぁ、悪い事をしているわけでも無いので俺は目を瞑ろうと思っています。」

社長「そう…だな…。」

P 「ありがとうございます。」

社長「何、気にすることはない。さて、まだ少し残ってるし続きと行こうじゃないかね!」

P 「はい!」

事務所から出ると空が大分白んできていました。
雪も足跡が残るくらい積もっています。
それでは行きましょう、最後の目的地。

真ちゃんのお家へ!


雪歩「ふぁ~、もうすぐ朝だよぉ。」

  「でも最後に真ちゃんの所に行けば終わりだし頑張らなくちゃ!」

  「今年は何だか全員起きてて凄く時間かかっちゃったからなぁ…。」

  「来年からは見つからないようにしないと。」

弟子共「お嬢!見えてきました!!菊池さん家です!!!もう一踏ん張り、頑張りやしょう!!!!」

雪歩「ひぅ…!は、はい!お弟子さん達も一晩中ご苦労様ですぅ~!!」

さぁ、見えてきました真ちゃんのお家です。

ベランダにソリを着けて窓からお部屋に入ります。


雪歩「お邪魔しま~す。」

相変わらず可愛らしいお部屋です。
ぬいぐるみとかが沢山置いてあります。

真ちゃんはというとベッドでぐっすり眠っています。
流石にこんな時間まで起きてたら大変です。

起こさないようにそ~っとずた袋から“希望”をすくい上げます。

雪歩「メリークリスマス、真ちゃん…。」

眠る真ちゃんに“希望”を振りかけます。
これで全員にプレゼントを届けられました!
無事サンタクロースのお仕事完了です!


雪歩「ふぅ~。」

安心してその場にへたり込んでしまいました。
ふと目線をベッドの上にやると、白く淡い光を纏った真ちゃんがすやすやと寝息を立てている姿が目に入りました。

雪歩「真ちゃん、良く寝てるなぁ。」

膝立ちになりベッドのそばへ寄ります。
思わず頭を撫でてしまいました。


真 「うぅ~ん…。」

はっ。いけないいけない、起こしたらダメです。

真 「まっ…こ………~ん」

どうやら真ちゃんはよからぬ夢を見ているようです。

雪歩「ふぁ~。うぅ、ぐっすり寝てる真ちゃんを見てたら私も眠くなってきちゃった…。」

  「でも、帰って寝なきゃ…帰って…寝…な…くー。」




――

――――

―――――――


そこはとても煌びやかな空間。
私がいて、皆がいる。
大きな大きなステージに私達は立っている。

前を見ればフロアを埋め尽くすファンの皆さんが。
袖を見ればプロデューサーがいて、小鳥さんがいる。
律子さんは一緒のステージに立っている。
きっと社長は客席にいるのだろう。
社長である前に一人のファンでいたい、いつかそう話してくれました。

ステージの中央に春香ちゃんがいてそこから私達の隊列が広がっています。
観客席は満員のファンの皆さんが振るサイリウムで、まるで光の海のようでした。

広い空間で、私達の歌に、踊りに、一挙手一投足に歓声が上がる。
その声に後押しされるように、私達は歌って、踊って、会場の隅々にまで声を届けます。

金や銀のテープが大きな音と共に会場に乱れ飛び、サイリウムの明かりとと照明とでまるで光が降り注いでいるようでした。
その場にいる誰もが笑顔になって、私たちも、ファンの皆さんも、スタッフさんも皆が楽しんでくれています。

その一つ一つの笑顔が、私には光り輝いているように見えて、それがたまらなく嬉しい。



―――――――


――――


――



おはようございます、菊地真です
突然ですが皆さん質問です。
朝起きたら友達がサンタの格好をしてベッドの脇にいました。
しかもボクの手を握っています。
ボクはどうしたらいいのでしょうか?

え?
ああ、そうですね。
とりあえず起こしましょう。


真 「雪歩。起きてよ雪歩!」

雪歩「むにゃむにゃ…光の洪水~…」

真 「何言ってるの!?ねぇ起きてよ雪歩ってば!」

雪歩「ふぇ?……んぅ~もうなぁに?」

真 「何じゃないよ雪歩!なんでココに居るのさ!?しかもそんな格好で!」

雪歩「へ?…………ああぁぁぁぁぁ!!!」

真 「うわぁ!!お、大きい声出さないでよ!」


雪歩「え、何で!?あ、そ、そっか、寝顔見てたら私も眠くなってそれで…。」

真 「雪歩?」

雪歩「うううぅぅぅ、どうして私はこう…いつもいつも…。」

真 「おーい、雪歩?」

雪歩「こんなダメダメな私は………穴掘って埋まってますぅぅぅぅぅ!!!!!」

真 「うわぁぁぁぁ、や、やめてよ雪歩!ここボクの部屋だから~!!!!!」

雪歩「だって…だって………ん?ちょっとまって真ちゃん、私が分かるの!?」

真 「何言ってんのさ、雪歩。」


雪歩「ど、どうして…?ちゃんとサンタ服…あ、ぼ、帽子が…!」

真 「帽子?あぁ、これのこと?」

ベッドの上には寝ている間に脱げたと思しきサンタ帽が。

雪歩「か、返してぇぇぇ!」

真 「その前に何で雪歩がいきなりウチにいて、そんな格好してるのかって事の説明をしてよ。」

雪歩「ううぅ。そ、それは…。」

真 「別に怒ってるわけじゃないし、笑ったりなんかしないからさ。」

雪歩「真ちゃん…。」


真 「さ、話してみて?」

雪歩「うん、あのねどうしてココにいてこの格好なのかっていうのは私が…。」

真 「雪歩が?」

雪歩「……サンタクロースだから。」

真 「…ん?ゴメン、もう一回言ってもらえるかな。」

  「まだ目が覚めきってないようでさ。」

雪歩「だ、だから私はサンタクロースなんですぅ!!」

真 「雪歩が…サンタ?」


雪歩「うん…。」

真 「本当に?」

雪歩「そうだよ。」

真 「…………分かった、信じるよ。」

そうだよね、信じてもらえないよね…

雪歩「え?」

真 「雪歩の目を見れば、それが冗談や嘘なんかじゃないってことくらいわかるよ。」


雪歩「本当に、信じてくれるの?」

真 「真剣に話す雪歩を信じない訳には行かないじゃないか。」

雪歩「ううぅ、真ちゃああん!」

真ちゃんに信じてもらえたのが嬉しくて思わず抱きついてしまいました。

真 「く、苦しいよ雪歩…。」

雪歩「あ、ご、ごめんね。」


真 「いや、それはいいんだけどサンタクロースってことならボクに何かプレゼントがあったの?」

雪歩「あ、うん。もう渡してあるんだけどね。」

真 「え、嘘!どこどこ?」

雪歩「残念だけど物じゃないんだ。」

真 「物じゃない?」

雪歩「うん、サンタクロースは“希望”をプレゼントするものだから。」

真 「希望?」


雪歩「そう、“希望”を届けて“夢”見てもらうの。」

真 「夢か~。」

雪歩「真ちゃんは、素敵な“夢”は見れた?」

真 「うん…。とっても、いい夢が見れたよ。」

雪歩「どんな“夢”か、聞いてもいい?」

真 「うん。すっごく大きな会場でさ、765プロ全員でステージに立ってるんだ。」

  「客席も会場のどこを見てもキラキラしててさ、それでボクが踊ったり歌ったりすると沸くんだよ、客席が。」

それって…。


雪歩「その“夢”、私も見た…。」

真 「雪歩も?」

雪歩「うん。会場のどこを見ても皆笑顔で…とっても素敵な夢だったなぁ。」

真 「同じ夢を見るなんて、こんな事あるんだね…。」

雪歩「そうだねぇ。」

きっとそれはサンタクロースの見せた夢。
“希望”に溢れた、努力すれば必ず叶う“夢”

多分、一緒に寝てたから、私も同じ“夢”を見れたんだと思う。


雪歩「ふふふ。」

真 「どうしたの?」

雪歩「ううん、案外他の皆も同じ“夢”だったんじゃないかなって。」

真 「ははは、そうかもね。所で雪歩、その格好でウチまで来たの?」

雪歩「そうだよ、サンタだからね。」

真 「どうやって?」

雪歩「飛んで。」

真 「!?」




結局真ちゃんのお父さんに送られてお家に帰るとお父さんとお母さんがすごく心配してました。
そこでわかったのですが、どうやら朝になるとサンタの不思議な力の効力が切れてしまうそうなのです。

お弟子さん達は効力が切れると怪しまれて通報されてしまうので先に帰って来てたみたいです。

雪歩「おはようございますぅ」

お昼頃に事務所に来ると、珍しく皆がいました。
応接間では社長とプロデューサーが律子さんに怒られています。
どうやら朝まで飲み明かしてそのまま寝てしまった所、律子さんに見つかってしまったそうです。


春香「おはよう雪歩!」

雪歩「あ、春香ちゃんおはよう。」

  「何だか嬉しそうだね。」

春香「えへへ、昨日の夜にね、サンタさんに会ったんだ!」

雪歩「あ、そ、そうなんだ!」

春香「皆にも聞いたんだけど皆サンタさんに会ってるんだって!」

雪歩「そうなんだ、すごいねぇ。」


春香「あれ、雪歩は会ってないの?」

雪歩「え!?あ、ううん、会ったよ!!」

春香「やっぱり!」

どうしよう。
何だか大事になっちゃってます。

春香「それでね、サンタさんが夢がどうのって言ってたんだけど事務所の皆が同じ夢を見てたんだよ!」

  「これって凄い事じゃない!?」

雪歩「え!?そうなんだ…。」


やっぱり皆同じ“夢”を見てたんだね…。
嬉しいなぁ。
だって、皆で頑張っていればいつかあの光輝くステージに立てるんだって事で。
事務所の全員が同じ“夢”に向かって突き進めるんだもん。
こんなに素敵な事ってないよね。

雪歩「そっか…うふふ、そっかぁ。」

春香「雪歩?」

雪歩「あ、ううん、何でもないよ。」

  「ねぇ春香ちゃん。」

春香「なぁに?」

そう、“夢”に見たあの煌くステージに立てるその日まで。




雪歩「皆で精一杯、頑張ろうね!!」





Fin

終わりです。

思いの外長くなりました…。
200レス超えたのは初めてです。
深く考えずに書いた結果、こんな感じの作品になりました。

どうして自分は誕生日のキャラを喋らせなかったり動かしまくったりしてしまうんでしょうねぇ…。
ごめんね、悪気は無いんだ…。


さてさて少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。

それではお目汚し失礼いたしました。

言い忘れました。

雪歩誕生日おめでとう!!

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