モバP「偏ってません?」 (77)

ちひろ「――そういうわけで、病気で入院してしまった前任のプロデューサーに代わって、
あなたにしばらくの間、このユニットのアイドルの面倒を見てほしいんです!」

P「大体わかりました。――だけど、俺にも担当アイドルがいるんですよね。これ以上は……」

ちひろ「そこを何とか! あなたのアイドルのマネジメントには私も色々協力しますからっ」

P「…いや、それは普段からそうですし…」

ちひろ「ドリンク幾らかサービスしますからっ、ねっ? お願いします!!」

P「うーん……そこまで言われてしまっては……」

ちひろ「ありがとうございますっ! じゃあ、早速あの子たちに伝えておきますから!」ピポパポパ

ちひろ「もしもし? 後任の件ですが…」

P「…」


P「(実は、掛け持ち自体は問題ない)」ピラ

P「…(ちひろさんから、ユニットに関するファイルを見せてもらったのだが、このデータが正しいのなら……)」パラパラ


P「(前任Pのチョイス……偏ってるんじゃあないのか…?)」パタン

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次の日

P「…だから、何度もごめんって言っているのに。プロデューサーが一人欠けちゃっている状態なんだ。

例えば、もし俺が倒れちゃったら……お前も代わりの担当がいないと、活動に支障がでるだろう…

…え、そういう問題じゃないのか? じゃあ、どういう事だよ、っておい、もしもーし?」


P「切られちゃったか…うーん…アイドルと言っても、そういう気難しい年頃の女の子に代わりないもんなぁ…」ピッ

P「おはようございま――」ガチャ

蘭子「煩わしい太陽ね!!」

P「えっ?!」ビクッ

あれ、これまさかあれの続編?

蘭子「…」

P「…ええと」

蘭子「わ、煩わしい太陽ね!」


P「…」

蘭子「…」ソワソワ

P「…(な、何だコレ……もしかして……挨拶なのかな……)わ、わずらわしい、たいよう…ですね」ボソ

蘭子「!!」パアァ

P「(お、通じたの…かな?)」


蘭子「汝が大病に伏し我がともに代わる、新たな下僕か? せいぜい私の力に焼かれぬよう、気を付けることね」ククク

P「」

P「(突然すぎて、気後れしてしまったが……ファイルによれば彼女は神崎蘭子。14とこのユニットの中では、若い一人なのだが、リーダーを務めている」

P「(言葉使いは凄く独特なのだけど……根は真面目で良い子です by前任)」

蘭子「あの…下僕?」ドキドキ

P「あっ……そ、そうだよ。少しの間だけどな」


蘭子「!! 今こそ創世の時(よろしくお願いしますね)!!」

P「うん。何言っているのかあんまりわからないけど…頑張ろうな!」

蘭子「はいっ! 頑張りま…あっ!?」ハッ

蘭子「――クククっ、魂が猛るわッ(が、頑張ります)!!」

P「…(やや油断気味なところアリ…)」

P「これからの仕事に支障をきたさぬ為にも……彼女に関する言葉は、前任Pから、ちひろさんを通じて譲り受けた、

この『悪姫言語辞典(ブリュンヒル=ディクショナリー)』を読みながら覚えていくとしよう」パラ

P「…」パラパラ

P「…結構読み応えあるな、コレ」パラリ


のあ「貴方が新しいプロデューサー?」

P「! はい…そうですが」パタン

のあ「私は高峯のあ……貴方は私の力を引き出してくれるのかしら? あまり『素質』はなさそうに見えるけど……これはこれで新しい刺激ね、よろしく」


P「は、はあ…よろしく……」

P「(高峯のあ。蘭子と比べれば言葉は理解できるものの……やはり口調は独特だ)」

P「ククッ、造作もない…」ボソ

P「これでOkかな……」ピラ

飛鳥「…」

P「えっ、これイントネーションもあるのか? 案外細かいのな……じゃあ…ククッ! 造作もな――」

飛鳥「…」ジーッ

P「――はっ?!」


飛鳥「…」

P「(うわあ……み、見られたあぁ…っ)」

飛鳥「――ふーん、キミがボクらの新しいプロデューサーかい?」

P「…そうだけど(めっちゃニヤついているこの子…)」


飛鳥「まあ、悪くないかな。ボクはアスカ、二宮飛鳥。――今日からよろしくね」

P「…あ、うん……飛鳥…その、今のはさ…」

飛鳥「ふふっ、そう赤くならなくても良いんだよ? 最近の人なら、誰しも通る道さ。

――かく言うボクも…今まさに、その時期真っ只中でね…」フフッ


P「…」

飛鳥「新しい、と言ってもボクもつい最近"卒業"した先輩に代わる形で入ったばかりの身だから…

お互い、本当のパートナーになったつもりで頑張ろうか…それじゃあ、また後で…ね?」

P「…よろしく」


P「(二宮飛鳥……のあさんに比べれば、とっつきやすい話し方だが、やはり彼女にも独自の世界があるよな)」

P「…とにかく、見られないように気をつけなきゃな…うぅ」



P「(そうそう…『世界』と言えば)」

ヘレン「(呼んだかしら)」ニュッ

P「(いや、呼んでません)」

ヘレン「そう…それは残念ね」ハァ

P「…まあまあそうガッカリなさらずに……って…」

ヘレン「…」

P「…」

P「えっ?!」

ヘレン「そう、私がヘレンよ」スッ

P「…」

ヘレン「知っていると思うけど……歌でもダンスでも、世界レベルでなければ意味はない。

そして私にはその素質がある。そう、私はアイドルにおいても頂点に立つ女よ、覚えておきなさい」


P「よ、よろしくお願いします」

ヘレン「果たして貴方は、世界に通用するほどの腕前かしら。しばらく様子見させてもらうわ」タタッ

P「…」

P「(…えっ…いや……何で…何であの人、机の下に入っていたんだろうか)」

P「ふぃー。ヘレンも強烈だけど……ファイルによれば、あれも仕事に対するプライドの表れらしいんだよな」ピラ

P「や、やみのまーっ……上手くやっていけるかなぁ……」パラパラ

音葉「…成程…あなたの仕事に対する姿勢は分かりました」

P「! いたのか、梅木さん」パタン


音葉「音葉で、いいわ。如何だったかしら、私達のユニットの奏でる音は…」

P「…就いたばかりだから、正直まだ何とも言えないよ? 結構、皆個性的で……」

音葉「…」

P「だけど、頼まれた以上は最後まで。…前任のプロデューサーが戻ってくるまで、どうにか…するつもりっ」


音葉「それは言うなれば…アンダンテ、かしら」

P「…?」

音葉「…分かりました、私も可能な限り協力しましょう。これから、よろしくお願いしますね?」ニコ

P「…あ、ああ…よろしく」

P「(最後の一人は梅木音葉。5人の中では一番大人しいのだが……やっぱり言葉は時折…リリカルだ)」

ちひろ「どうでしたか、Pさん。ユニットの子たちの雰囲気は」

P「全部Co系アイドルなのは、彼の専門領域ですから、分かりますが……かなりキャラの雰囲気が偏ってませんか?

被っているわけではないのですが……かと言って、円滑にコミュニケーションを進めるには……結構苦労しそうです」


ちひろ「ですよね」

P「…詳しい話は聞いていませんが……もしかして、前任の入院って、その心労で…」

ちひろ「それはノーコメントで」

P「…」


ちひろ「とにかく、改めて……彼が戻ってくるまでの間、彼女たちのプロデュース、よろしくお願いしますね」

P「……善処します」

その次の日


P「ああ、歌の方も中々上手くなってきたと思うぞ……いや、お世辞じゃないぞ? 本当だってば。

別に顔色伺ってなんか……いや、悪かったって。次はちゃんと最後まで見てやるかr――あっ……ったく」ピッ

P「……まだ始まったばかりだし。仕事に大事なのは根気、負けん気、されど短気は損気っ……粘り続けないとな」


P「おはようごz――」ガチャ

蘭子「あっ! ぷっ…プロデューサー、じゃなくて下僕!」ビクッ

P「!」

P「煩わしい太陽…ですね!」ビッ

蘭子「!! 煩わしい太陽ねっ!! クックック…さすが我が下僕……しかしまだ序の口……地獄はこれからぞ!!
(おはようございますっ。プロデューサーすごい…もう私の言葉、覚えてくれたんですね…うれしい! 次も期待しています!)」

P「う、うん……これしき造作もない(…まだ頑張らないといかんな)」

・・・
・・


蘭子「…」

のあ「全員揃ったわ」

飛鳥「ヘレンさんがいないよ」

ヘレン「…ここにいるわ」ニュッ

音葉「それで…今日はどうされるんですか?」


P「引き継ぎ時に、ちひろさんから聞いたが……次にちょっとした規模だが、ライブがあるようだな。

 前任の指導の下では、皆の動きは今のところ、どんな様子なのか……まずはこのレッスンで見せてもらうよ」ガチャ


ルーキートレーナー「闇に飲まれよ(お疲れ様です)!」ビッ!

P「」

ルキトレ「あっ…えっ……何でPさん……が…?」

P「予期せぬ嵐が来た。次なる旅立ちへ、いざ行かん」バタン

ルキトレ「ま、待ってくださいPさん、これはいつものやり取りで…!」ガチャ

ルキトレ「じゃあ……トレーニング始めますね」

ベテトレ「? 何を赤くなっているんだ?」

ルキトレ「なな、何でもありませんっ!」

~♪~

蘭子「♪」

P「…蘭子は……さすがリーダー張っているだけあるな。普段から練習していたんだろうか。
歌も踊りもそつなくこなしている感じで、まだ余裕も見られる」カリカリ


のあ「…」クルクル

P「のあさんは……歌はともかく、踊りが独特の動き入っているな……周りに合わせてもらうべきか…
 いや、彼女のソロパートみたいなのを入れたほうが良いかも」サラサラ


飛鳥「はっ…んっ…」

P「飛鳥は最近入ったばかりでまだぎこちなさそうだけど……でも、あの斜に構えた口調に反して、結構根性はあるようだ。
 みんなに追いつくのも、きっと時間の問題だな」カリカリ


音葉「~♪」

P「音葉さんは、踊りもさることながら、やはり歌が素晴らしいな……他の子達も教えてもらっているのだろうか」サララ


P「最後にヘレンは…」

ヘレン「…」ズンチャッズンチャッズンチャカドンドコ♪

P「…」カリカリカッカッカ

『 ヘレン、ダンサブル 』ッターン!

P「や…闇に飲まれよ!

――ということで、簡単にだけど次のライブでの演技方針…それと、それぞれのレッスンメニューと目標を書いておいたぞっ」ピラ

蘭子「新たなる預言の書っ(これ、前のメニューとちょっと違うんですね)!」ピラ

のあ「なるほど……担当プロデューサーが変わると、ここまで変わるのね。これは…興味深い」ピラ


飛鳥「…ねえプロデューサー、これ……ボクだけトレーニング量が少なくない?」ハァ

P「おっと…一人だけ早いうちから息が上がってたくせに…」

飛鳥「! 気づいて……いたんだ」

P「最初のライブだから、焦る気持ちも分かるけど……それと同じくらい、今後のアイドル活動だって大切だぞ?

…お前なら、そのメニューでも十分出来るさ……体は大事にしないと、な?」

音葉「そうですね。私も…お手伝いしますよ?」

飛鳥「…ありがとう、音葉さん。プロデューサーも凄いな……そんな出会って間もないのにさ…」


ヘレン「プロデューサー、このレッスンで本当に大丈夫かしら? こんな調子で果たして頂点になんて――」

P「大丈夫だ、ヘレン。裏に何て書いてある?」

ヘレン「…」ピラ


『ヘレン専用レッスン…難易度(レベル)/世界』


ヘレン「…」

ヘレン「――私はあなたの事を見くびっていたようね。いいわ……好きになさい」フッ

ルキトレ「(そんなんで良いんだ?!)」

・・・約1週間後


P「やっぱ、お前ダンス上手いんだな……家でも褒められているんだろ? そうかそうか……え、何?

――はは、何だよ急に…別に謝らなくたって良いってば。むしろ俺の方が…申し訳ないと思ってる。埋め合わせはいつかするから…」


音葉「Pさん…」

P「! 悪いけどまた仕事。それじゃあな、やみのま」ピッ

音葉「! もしかしてお電話でしたか?」

P「まあ気にしないで。それで…俺に何か用?」


音葉「Pさんが担当になってから約1週間……自分の担当アイドルがいるにも関わらず、

時間を割いてご指導を頂いているというのに…私…何もPさんにしてないから…これを」

P「! そのバスケットは…」

音葉「お昼…まだですよね? 作ってきたんです。…拙いですが…よろしければ……召し上がってください」サッ


P「本当に? 丁度、魔りょk…腹が減ってきてたんだ」

音葉「あっ…」

P「どうした?」

音葉「……サンドウィッチ…偏ってしまったようです…ごめんなさい」シュン…

P「ああ……はは、確かに…たまにやっちゃうよな……でも」ヒョイ

音葉「!」

P「うん…美味しいよ、音葉さん」

音葉「ありがとうございます…私…家事とか苦手だから、どうなるかと…」


P「えっ、そうなんだ。へえ……音葉さんって完璧なイメージがあったから、ちょっと意外だなあ」

音葉「えっ…?!」ジワ

P「?!」


音葉「やっぱり…Pさんは…パーフェクトもハーモニーもない……家事の出来ない人は…駄目ですか?」ホロリ

P「え?! ち、違う…そういう意味じゃあないッ!」

音葉「なら、どういう意味だと言うのですか…」


P「ほら、音葉さんってレッスンは歌でもダンスでも何でも完璧にこなしていたから…

正直、今までは絶対に近寄れない、壁みたいなものを感じていたんだけど。

そういう苦手もあるんだな、って知ったら……急にグッと親しみが持てたから、ね?」


音葉「…!」ホロリ

P「ま、また涙!」

音葉「…そんな風に言われるなんて…私…うれしい…」ポロポロ

P「…」

ガチャ

蘭子「闇に飲まれよ! 下僕…もとい我が友よ、魔力補給の時は来たり!

(お疲れ様です! プロデューサー…じゃなくってPさん!! あの…お昼ご飯一緒に食べませんか?)」

蘭子「って…えっ?」


音葉「…ああ、私…幸せ」ポロポロ

P「あっ…蘭子…これは」

蘭子「下僕! 何事か?! ふふふ不埒な!! 紅蓮の炎に焼かれよ!!」

P「歴史の闇(誤解だ!)!」


のあ「モググ…形はアレだけどムシャムシャ…味はイケるわ。良い妻になれるわねングング、音葉」ゴックン

音葉「ああ…私が…Pさんの…? 良いんですか、私なんかが」ホロッ

蘭子「…!」

P「のあさん…いたのなら、呑気に食っていないで、蘭子に分かりやすく説明を…」


のあ「蘭子…」ヒョイッ

蘭子「?」

のあ「この人、短時間で二回も泣かせたわ」パクッ、モグモグ

蘭子「~ッッ?! 下僕~ッ!!」

P「それ簡潔すぎ!!」

また1週間後


ちひろ「――と、言うわけです。理解はして頂けましたか?」

P「……ええ、ですが……さすがに、あまり良い気分はしないです」

ちひろ「その気持ちも分かります。でも、彼女にも説明済みで、ちゃんと理解してくれているようですよ」

P「そ、そうでしたか……アイツも大人になったなあ」

蘭子「我が友?」キィ…


P「蘭子か。――煩わしい太陽ですねっ」ビシ

蘭子「そ、その…何か…あったんですか…?」

P「蘭子、お前…いや、何でもないよ? そんなに重大な事じゃないから…ちょっと席外すぞ」ガチャ

蘭子「…」


バタン

音葉「おは――煩わしい太陽ですね」

のあ「煩わしい太陽ね」ビッ

ヘレン「煩わしい世界ね。どうしたの? 蘭子…」

蘭子「い、いえ何でも…」

ヘレン「…」

P「…」ピポパ…

P「……」

P「やっぱ、出てくれないか。そりゃそうだよな」

prrr


P「あれ、…ちひろさんから? もしもし?」ピッ

ちひろ『Pさん、飛鳥ちゃんがまだ来てないんです! 家の人にも連絡したんですが、もう出かけた後だったようで…』


P「飛鳥が? ――分かりました。俺が探しますから…蘭子たちにはいつも通り練習をさせるように伝えてください!」

ちひろ『すみません、お願いします』ピッ

飛鳥「…」

ブロロロ…バタン


飛鳥「!」

P「見つけた」

飛鳥「プロデューサー……よくボクの居るところが分かったね」

P「『キミとボクは通じるものがある気がするんだ』って以前言ってなかったか?

だから何となく……きっと、今の飛鳥もそういう気分だと思ったから、俺もここに来たんだよ」


飛鳥「えっ……プロデューサーも……なのかい?」

P「そうさ、ちょっとな……隣、座るぞ」

飛鳥「…どうぞ」


飛鳥「――別に練習が、チームの皆が嫌いって訳じゃないんだ。でも実力や経験差は明らかで。

なのに…いつまで経っても余裕ぶった態度をとろうとして……そんな自分に嫌気がさして。

最初に『無理するな』って言ってもらったけど……そういうのを我慢するのも無理なんだ」


P「そっか」

飛鳥「プロデューサーは、どうして逃げたかったの?」

P「今朝聞いたんだが、今担当しているアイドルな……担当Pが変わって…しかも次のライブバトルのお前たちの相手だ」

飛鳥「えっ」


P「勝負に関しては良いんだ。――ただ、元よりお前たちの面倒を見ると決めた時に、
きっちりと担当を変えてもらおうと思っていたのに……どこか、そいつの事も諦めきれなかった。

だから、俺もお前と同じ。出来ないくせに、変な意地張り続けて、一人惨めな思いして……」


飛鳥「! そんなことない!! プロデューサーはこんなボクでもちゃんと向き合ってくれて…今だって…」

P「ありがとう。でも、それは俺も同じ。

俺も、飛鳥は駄目じゃないと思ってる。だからこうして連れ戻しに来たんだ」


飛鳥「うー、結局連れ戻しに来たわけか……プロデューサーの…いじわる」

P「はいはい。その代わり、俺が不貞腐れてどこか行ってしまった時には……今度は飛鳥が、俺を連れ戻しに来てくれ」

飛鳥「プロデューサー…!」

P「頼んだからな?」

飛鳥「……分かったよ。ふふっ、仕方ない人だなあ…」

P「(そんなこんなで飛鳥はようやくレッスンへ戻った)」


――同い年で似た者同士だから、幾分か気持ちが通じるのだろう。

蘭子は飛鳥を心配し、自分なりの、出来る限りの応援の言葉をかけてやった…いつもの口調で。


――のあさんは何も言わなかった。

というより、音葉さんの作ったサンドイッチを口いっぱいに頬張ったままなので、何を言っているのかわからなかった。


――音葉さんも、飛鳥の歌い方と踊り方に関するアドバイスで、彼女なりのフォローをした。


――そして何よりヘレンは……ダンサブルだった。



P「(結局、飛鳥は、斜に構えた態度こそは崩さなかったが……どこか吹っ切れたらしい)」

P「(こうして本番に向けて、ようやくだが、ユニットの心が一つにまとまったような気がする)」

ライブ当日


ちひろ「皆さん! いよいよ勝負ですね。私は…同じプロダクション同士での試合という事もあるので、贔屓はできませんが…Pさんたちも、頑張ってくださいね」


P「うむ…ついに狩りの時間だ……死地に向かう手前、まずは皆の心意気を見せてもらうッ!

(ここまでよく頑張ったな……あと、もうひと踏ん張りだ。今の調子はどうだ、みんな?)」バサッ

ちひろ「」

ちひろ「えっ…?」


蘭子「我らが真の力を見よ(私たち…もう、やる気まんまんです)!!」グッ

のあ「我、血と肉を欲している…(ライブが終わったら…とりあえず、ご飯を食べに行くわよ)」

飛鳥「この身朽ち果てようとも、彼奴の首は必ず…取る(ベストを尽くすよ)!」

音葉「パーフェクト・ハーモニー!」

ヘレン「Oh,ダンサボー」ズンドコドコドコ


P「フハハハハ!! そうそう!それよ、そうこなくてはな!! ――ではいざ…戦ぞ!!!

  (やる気満々だなっ……じゃあ、最後の最後まで、頑張って来いよっ!!)」バサッバサッ

5人「了解!!」タタタ


ちひろ「…」

ワーワー

財前時子「まさか…怖気づいたわけじゃないわよね?」

麗奈「冗談、3対5だろうと…アタシ達に負ける理由なんてないわ、そうよね梨沙?」

梨沙「ええ……奴らを…思いっきり、叩きのめしてやるわ!」パシッパシッ

梨沙「特にっ! アタシをトップアイドルにする約束を放り出した…アイツのユニットは……ね!」


時子「(あらら……この子、気合い入っているわね)」

麗奈「(あら、時子は知らなかったんだっけ? 相手が元担当プロデューサーらしいわ)」


ワーワー

時子「! 来たみたいね……!」

梨沙・麗奈「!!」

蘭子「我ら、降臨っ…遥かなる時を超えて!(お待たせしましたっ!!)」シュタッ

飛鳥「些細なる…反抗!!(3人で挑もうなんて…舐められたものだね、ボクたち)」

のあ「ライトニング・ノア!!(果たして我々の『絆』の強さに勝てるかしら?)」

音葉「うふふ……暗きプロムナードは如何かしら?(二度と立ち上がれないようにしてさしあげましょうか)」

ヘレン「Yeah,ウンバボー」ズンチャッズンチャッ♪


麗奈「」

時子「」

梨沙「なっ……うそ……でしょ……?! これがあのPのプロデュースの結果だというの…ッ?!」ガクガク

麗奈「クッ……」

時子「わ、私たちを本気にさせるなんて……面白い」

梨沙「その意気だわ! プロデューサーがどんな形で攻めてこようとアタシたちは…」

「それでこそ元・我が相棒よ!!」

梨沙「?! 今の声は…」

麗奈「あ、観客席を見て!」

時子「……何、あのマントの男…」


P「クククッ」クルクル

梨沙「えっ」

P「フハハハハ!!」バサァッ!!

梨沙「…えっ?」


P「それがお前の真の姿か、梨沙!! ……こちらも魂が滾るわっ!!

(梨沙…この短期間で、見違えるほど立派になったなあ……だけど、ライブはライブだからな、全力で来いよ?)」バサバサバサーッ!!

ちひろ「Pさん、だから…出ちゃダメですってば…!!」グイグイ

梨沙「」

・・・ライブバトル終了後。


蘭子「闇に飲まれよ!」

のあ「やみのまー」

飛鳥「やみのまー」

音葉「やみのまー」

ヘレン「ボンバヘッ」ジャカジャカ


P「闇に飲まれよ! 聞こえる…聞こえるぞ、勝利のファンファーレが!
(お疲れ様。どうにか、勝てたようだな)」

蘭子「ククッ…造作もない」

P「ゆめゆめ忘れるな、だがしばしの安息を汝らに…
(そうだな……まだまだこれからだもんな。だけど本当に、お疲れs――)」


P「」ビターン!


5人「「「「「!?」」」」」」

ちひろ「ああ、やっぱり――」タタッ

蘭子「ぷ、プロデューサー! プロデューサー!」ユサユサ

飛鳥「えっ…プロデューサー…嘘だろう……ねえ…」

のあ「…落ち着いて蘭子、飛鳥」

音葉「これは…どういうことですか…ちひろさん」

ヘレン「ポッシボー?」

ちひろ「……これを」スッ


蘭子「それは旧き友の遺産……悪姫言語辞典!
(前任Pさんが作った……ブリュンヒル=ディクショナリー)」

ちひろ「Pさんはこの短期間で、蘭子ちゃんを始めとする『独自の世界観』を持つアイドル達の
あなた達とコミュニケーションをとろうとすべく、ひそかに努力してきました…」

飛鳥「! 確かに、ボクが最初にプロデューサーを見つけた時も…」

のあ「……私の時も」

音葉「そうでした…」

ヘレン「私が机の下に隠れていた時も…読んでいたわね、それ」


ちひろ「(あ、治った)結果として、蘭子ちゃんのソレをベースに……各自のキャラが、
Pさんの精神に影響を及ぼし、混沌としたものと化していったの」

ちひろ「…つまり…」

5人「」ゴクリ…


ちひろ「闇に飲まれすぎたんです(過労です)」

P「……あのぅ……お話し中すいません……せめて楽屋の方まで……運んでもらえないでしょうか」ピクピク

・・・
・・


P「前任のプロデューサーも同じように倒れたんですか?」

ちひろ「前任Pさんは……Pさんと違って、親和性が高すぎて…」

P「えっ」

ちひろ「病院に運び込まれるまでは……常時、さっきのPさんみたいな状態でした」

P「ええぇ…」

ちひろ「Pさんの場合は、飽くまでも無理した結果ですからね…。
それじゃ、先に蘭子ちゃん達を送ってきますから…ゆっくりしていてくださいね」バタン

P「は~い」


ガチャ

P「?」

梨沙「は、はろー…」

P「梨沙!」

梨沙「あの……P…」

P「やみのm…お疲れ様、梨沙」

梨沙「! 戻ったんだ!!」

P「あ、ああ…あとライブだけど……残念だったな」

梨沙「ちょっ……それ、倒した側が言う言葉?!」

P「あはは。……でも、よかったよ。かなり練習したんだろう?」

梨沙「…うん」


梨沙「…」

P「…」

梨沙「あのね……担当プロデューサー変えてもらったの…アタシから言いだしたことなんだ」

梨沙「いつまでもPに甘えてばっかりじゃ……パパに示しがつかないからって……ね?」

P「…そっか」

梨沙「ごめん……時間ないのにアタシの事も見てくれて……それなのに」

P「良いんだよ。俺も……あれから色々考えて…今担当のアイドルにも相談もした」


P「あいつらは自分の世界を強く持っていて崩さないけど……それでいて…仲間の為なら、その心をちょっとだけ開ける。

ちょっとだから伝わりにくい、ってのが悩みどころだけども…それでも凄いことだと思うんだ」


P「だから、俺も……もうちょっとだけ、わがまま言うのを続けてみようと思うんだ」

梨沙「P…」



P「梨沙……またお前の事、プロデュースさせてくれ……いいかな?」



お し ま い

Pが蘭子達の担当になってから約1か月・・・


ちひろ「結構時間かかりましたね」

P「そうですね……でも、これでようやく前任Pの復帰ってわけか。俺もお役目御免だな」

蘭子「しばしの別れ(ちょっと寂しいです)」

飛鳥「そうだね……」

のあ「あら、悲しむことなんて……ないわ」

音葉「ええ、そうですよ。担当が変わってしまうと、互いに会える事も少なくなりますが」

ヘレン「世界はひとつ。まして同じプロダクション内なのだから……離れ離れなんて事、大袈裟よ」

ちひろ「そうですね…あら」prrr

タタタッ

P「お、廊下の方から足音が…これは」

ちひろ「もしもし? ああ前任Pさんの担当の…
このたびは、プロデューサーがお世話になりまし――え、病気の件ですか? 治ったけど……『けど』?」


ガチャ

前任P「…」

ちひろ「!」

ちひろ「前任Pさん! もう頭…じゃなかった、身体の方は大丈夫なんですか?」

前任P「うん、大丈夫大丈夫。……ああ、だけど…」

ちひろ「?」

P「――だけど?」


前任P「いやー、実は昨日、再引き継ぎの関係で3時間しか寝てないんスよねー。マジ辛いわー。

 病み上がりなのにマジ辛えわー。やっぱプロデューサー業って大変っすねー、ちひろさーん?」


ちひろ「…」

P「…」


ちひろ・P「「(治るどころか……何か別の方向に着地してるッ!!)」」

その後…

【傷ついた悪姫】神崎蘭子
 ユニットのリーダーとしてのみならず、ソロでも活躍。
飛鳥と共に同世代の男女から絶大な支持を得る。


【永遠の思春期】二宮飛鳥
 蘭子とはまた違った方向性のキャラは根強い人気を誇る。
彼女のヘアスタイルは、変わるたびに女の子の間でしばしばブームとなった。


【ウルティメイト・ノア】高峯のあ
 口を開けば歯に衣着せぬ物言いというキャラが、
容姿とのギャップもあって、バラエティ方面でヒットする。


【完全調和】梅木音葉
 Pに欠点について言われたことを結構気にしていたのか、
料理系アイドルという路線を開拓。本人の想いは引退後までは明らかにはならなかった。


【世界レベルを目指して】ヘレン
 他メンバーとの方向性の違いからユニットを脱退。
「世界レベルとは何か?」を求め、インドへ旅立つ。


【財布の破壊者】千川ちひろ
 悲願である無課金ユーザーの撲滅を達成するも、直後に会社での横領が発覚し、警察に追われる身に。


【漆黒の伝道師】P
 前任Pが再び病院送りになった為、梨沙と共に蘭子たちの面倒を見ることに。
その後、梨沙の結婚式へ向かう途中、ルンペンに刺されるが、それはまた別のお話…


<めでたしめでたし>

訂正
>>4
×:汝が大病に伏し我がともに代わる
○:汝が大病に伏し我が友に代わる

>>19
×:P「う、うん……これしき
○:P「う、うむ……これしき

>>60
×:『独自の世界観』を持つアイドル達の
○:『独自の世界観』を持つアイドルの


>>3
続編ではなく、単なる別のお話です。


短い話を長々続けましたが、異常で終わりです。
お付き合い頂き、ありがとうございました。

HTML化も依頼しておきます。

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