*幼少期のエレンとミカサとアルミンの三人のお話。
*小さいエレンとミカサとアルミンが書きたくて書いてみる。
*一人称に挑戦します。多少変なところは大目に見てね!
自分のマフラーをぐるぐる巻かせてミカサを家に連れ帰ったその日の夜。
とりあえず、ミカサの寝る場所がないので、ミカサは俺のベッドで一緒に寝る事になった。
ついこの間、ようやく自分の部屋を持てるようになったと思ったら、今度は女の子と相部屋になってしまったが、まあ仕方がない。
俺は今日からミカサと一緒の部屋で生活する事になるだろう。
エレン「おい、ミカサ。いいか。ベッドから落っこちないようにして寝るんだぞ」
ミカサ「うん……」
シングルベッドで子供が二人一緒に寝る。大きさで言えば十分、足りるけれども。
その日のミカサは俺にしがみつく様にして目を閉じた。少し震えている。
まだ、今夜の事が尾を引いているようだ。無理もねえな。
冷え切った体を温めるようにして俺はミカサを抱き返した。
俺に出来る事といえば、これくらいの事しかねえし。
するとミカサは小さく目を開けて「ありがとう」と呟いた。
その顔を見て俺は少しだけ安心した。
エレン「今日はもう、寝ろ。いいな」
ミカサ「うん………」
そして俺の新しい生活が、スタートした。
エレン「ミカサがうちにやってきた」
アルミン「え?」
エレン「こいつの名前は『ミカサ・アッカーマン』っていうんだ。昨日から新しい家族になった。よろしくな」
俺は簡潔にアルミンにそう説明した。
アルミンは俺の家の近所に住む、俺と同い年の友達だ。
金髪の碧眼で、体は細いけど、俺より頭が良くて物知りだ。
見た目はなよなよしているけど、結構、はっきり物を言う性格のきついところもある。あと根性もある。
そういう奴だけど、俺はアルミンが好きなので、友達だ。
だからまず、ミカサの事をアルミンに紹介しねえとな、と思って説明したんだが。
アルミンはしばしぽかーんと口を開けてぼーっとしていた。
ミカサは俺の後ろに立って、じーっとアルミンを凝視している。
ミカサとアルミンが不自然に見つめ合っているので俺がついつい、呼び止めた。
エレン「おい、アルミン。あんまじろじろ見るなよ。ミカサも」
アルミン「ご、ごめん。いきなりだったから、びっくりしちゃって」
アルミン「アルミン・アルレルトです。よろしく……」
ミカサ「よろしくおねがいします」
ぺこりを頭を下げ合う二人に俺は満足した。よしよし。
これで仲良くやっていけるだろうと、そう思ったのだが……。
アルミン「あの、エレン」
エレン「ん?」
アルミン「新しい家族ってことは、ミカサは君の妹なの?」
エレン「んー父さんが言うには、そうらしい」
アルミン「そ、そうなんだ。養女ってことになるのかな?」
エレン「まあな。いろいろ事情があって、急な話だけど、そうなったんだ」
アルミン「そ、そっか……」
アルミンはそれ以上、深くは突っ込まなかった。
気遣いをしてくれるアルミンに、俺は「まあ、落ち着いたら詳しく話す」とだけ言った。
今はまだミカサも新しい環境に慣れてねえし、アルミンもそういう話を聞くのは心が重いだろうと思って、俺はそう判断した。
今日は三人で遊ぶ日だ。ミカサとの交流も兼ねて何かしようと思ったが…。
アルミン「ミカサは何が好きなのかな?」
その時、アルミンが先に質問してきた。
そう言えば俺もミカサは何が好きなのか全く知らない。
エレン「さあ? ミカサ、お前、何が好きなんだ?」
ミカサ「エレン」
その時、何故かミカサが即答したのでアルミンは「ぶっ」と吹き出していた。
俺自身はちょっと意味がすぐに理解出来ずに「はあ?」と言ってしまったが。
エレン「そういう話じゃねえよ。今から三人で遊ぶんだから、何したいのかって意味だよ」
ミカサ「ああ……ええっと、うんと……」
しかしそう聞き返すと唸ってすぐに答えられないミカサだった。
それが面倒くさくて、俺は「ああもう、かくれんぼでいいか」と勝手に決めた。
するとミカサは「うん、それでいい」とにっこり笑った。
エレン「じゃあ今日は俺が最初に鬼をやってやるよ。アルミン、ミカサ、街の中を隠れろよ」
アルミン「うん」
ミカサ「う、うん……」
エレン「じゃあ30秒数えるから。いくぞ。いーち」
俺が数を数える間にアルミンとミカサは逃げていった。
エレン「……にじゅうはーち、にじゅうきゅう……さんじゅう!」
数を数え終わって俺は周りを見た。30秒くらいじゃ、そう遠くまではいけない。
だからすぐに追いついて、俺はアルミンとミカサの姿を目に入れたが……。
アルミンは何故かその場でしゃがみこんで呆然としているし、ミカサの頬には血の跡があるし。
その場には、殴り倒されたと思われるいつものいじめっ子の奴らが三人、のされていた。
この数秒の間に一体何があったのか。想像は出来たが、俺はすかさずそこに駆け寄った。
エレン「アルミン! どうした?!」
アルミン「ええっと、ミカサが……」
ミカサ「大丈夫? アルミン」
ミカサはすっと手を伸ばしてアルミンの手を引っ張った。
その力が強かったのか、アルミンはわわわと、驚いている。
アルミン「ミカサ、君って喧嘩が強いんだね」
ミカサ「相手が弱すぎただけ」
アルミン「でも、女の子なのにそんなに乱暴な事しちゃダメだよ」
ミカサ「何故? 戦わなければアルミンが怪我をしていた」
アルミン「そうだけども、でも、ミカサが代わりに頬を怪我したじゃないか」
ミカサ「こんなのはカスリ傷。大した事ない」
ミカサ「それより何? こいつら。ぶつかっただけで何故、難癖つける。こちらは先にちゃんと謝ったのに」
ミカサ「しかも慰謝料とか何とか。ふざけている」
ミカサ「……ので、相応の対処をしたまで」
ミカサは悪いことをしたという自覚がないようだ。
まあ、こいつらはいつもアルミンによくつっかかるから、自業自得だとは思うが。
俺はミカサの頬の擦り傷にそっと触れた。
ミカサ「!」
エレン「染みてるじゃねえか。傷口、洗うぞ。ここからだったらアルミンの家のが近いか。アルミンの家にいったん戻るぞ」
ミカサ「この程度なら別に……」
エレン「バカ! 消毒はちゃんとしろ。アルミン、悪いけど」
アルミン「ううん、いいよ。勿論、そうする。そうさせてよ」
今日は外で遊ぶどころじゃなくなったが、まあいい。今日はアルミンの家の中でまた三人で遊ぼう。
アルミンの家に戻ってミカサの頬をちゃんと消毒させて貰うと、俺たち三人は家の中で遊ぶ事にした。
エレン「アルミン、なんか遊び道具持ってないか?」
アルミン「あ、トランプならあるよ」
エレン「じゃあそれでいいや。ババ抜きしようぜ」
ミカサ「ババぬき?」
アルミン「ジョーカーを最後まで持ってた人が負けっていう、数合わせのゲームだよ」
ミカサ「……やった事がない」
エレン「え? そうなのか? じゃあ、なおさらやってみようぜ」
俺はそれが嬉しくてババ抜きを始めた。
ミカサが知らないことを教えられるっていうのはちょっとだけ気分がいい。
エレン「こうやって、同じ数のカードを捨てていくんだ」
ミカサ「ふむふむ」
エレン「んで、じゃんけんして、勝った奴から時計回りでカードをひいていく」
アルミン「じゃんけんぽん」
エレン「アルミンが勝ったから、アルミン、俺、ミカサの順だ」
アルミン「じゃあカードを引くよ」
アルミン「スペードの1だ。あった」
ミカサ「なるほど。そうやって捨てていくのね」
アルミン「うん。次はエレンの番だよ」
そんなこんなで、最後は俺とミカサが残った。
ミカサは分かりやすくて、すぐ俺が勝っちまったけど……。
この時、何か変な感じがしたので、俺は言ってやった。
エレン「ミカサ、今の勝負、わざと負けただろ」
ミカサ「そ、そんな事ない」
エレン「顔に出すぎなんだよ。全く……もういい。違うのやろうぜ」
アルミン「うーん、じゃあ次は神経衰弱でもやる?」
エレン「おう!」
でも次のゲームでもミカサはまた負けた。
次の他のゲームも、また負けた。
ミカサばっかりが負けるので、やっぱり怪しいと俺は思った。
こいつ、気を遣ってわざと負けてるんじゃなかろうかと。
エレン「おい、ミカサ!」
ミカサ(ビクッ)
アルミン「エレン! もう夕方だよ。帰らなくていいの?」
エレン「う……」
時計を見るとそろそろ家に戻らないといけない時間だった。
俺は渋々カードを片付けてアルミンとお別れした。
道中、ミカサは無言で俯いていた。それがなんとなく、気に食わなかった。
エレン(くそ……なんか、俺、ダメだろ)
折角、ミカサとアルミンと、三人で遊んだのに。
なんかうまくいってない気がして俺は少しだけ、落ち込んだ。
エレン(ミカサが楽しめないなら意味ねえのにな)
昨日、今日では、まだ新しい環境に馴染めないのは仕方ないとは思うけど。
もうちょっと何か、やりようがあったかなあと反省していると……。
ミカサ「エレン」
エレン「あ?」
突然、ミカサの方から俺に話しかけてきたので立ち止まって振り向いた。
ちょっと歩くスピードが早すぎたのかもしれない。
エレン「なんだよ」
ミカサ「また、三人で遊ぼう」
エレン「ん?」
ミカサ「アルミンはとても優しい。だから、また遊ぼう」
エレン「……お、おう。アルミンは優しいもんな」
ミカサの中でアルミンは高評価だったらしい。なら、いいんだが。
ミカサ「アルミンがエレンの友達なのが分かった気がする」
エレン「え? なんでだよ」
ミカサ「アルミンはエレンを理解してたみたいだから」
エレン「???」
ミカサ「とても頭がいい。だからエレンの友達なのね」
アルミンばかり持ち上げられて少しばかり俺はむっとした。
エレン「なんだよ、それ。アルミンばっか褒めやがって」
ミカサ「そんなつもりでは……」
エレン「お前、アルミンの事、好きなのか?」
ミカサ「エレンの方が好き」
エレン「質問の答えになってねえぞ」
そう思ったが、まあ、そう言われて悪い気はしない。
エレン「まあいいや。今日のところはこの辺で。また明日、アルミンと遊ぶぞ」
ミカサ「うん」
そして俺たち二人は手を繋いで、家路に急いだのだった。
そんなこんなで二週間ほどが経過しただろうか。
俺とアルミンとミカサの三人はよく揃って遊んだ。
ミカサがシガンシナ区に慣れるまでは、面倒見てやらねえとな、と俺も思ってたし。
俺は出来るだけ一緒にミカサと行動を共にしていた。
それは当然の事だと思ってたし、だからそれが奴らのからかいのネタにされるなんて、その時の俺は思ってなくて。
いつもの悪ガキ共が俺にその件でけしかけてきたので、つい頭に血が登ってしまった。
エレン「だから、違うっつてるだろ! ミカサは俺の新しい家族なんだよ!」
悪ガキ1「はあ?! 家族が突然増えるなんておかしいだろ?!」
エレン「そうだけど……いろいろ事情があるんだよ!」
悪ガキ2「なんだよその事情って」
エレン「そ、それは言えない」
悪ガキ3「やっぱり、お前、そいつとデキてるんだろ!」
ヒューヒュー!
という、所謂子供地味たからかいに俺は頭にきてぶん殴ろうと、拳を握った。
しかしその直後、俺がけしかける前に、ミカサの方が先に拳を握ってグーパンを放ったので、俺は呆れてしまった。
ミカサもミカサで結構、手が早いなと思った。
ミカサ「エレンを侮辱するのは許さない」
悪ガキ2「ひ、ひいい……」
ミカサ「次はどいつ…? 殴られたいのはどいつ…?」
悪ガキ3「なんだこいつ、女のくせに強いぞ! 逃げろ!」
三人の悪ガキはそれ以来、俺とミカサが二人で歩いていてもからかいに来なくなったが……。
俺としてはまるで女に守られたようで、少々気分が悪かった。
ミカサが手を差し伸べてもそれを振り払い、そっぽを向いてしまったのだ。
エレン「いい。つかお前、先に手出すなよ」
ミカサ「どうして?」
エレン「今のは俺の喧嘩だったろ。お前は関係ないし」
ミカサ「そうでもない。今のは私達二人を揶揄していたから」
エレン「やゆ…? なんだそれ」
ミカサ「からかうという意味とほぼ同じ。アルミンが教えてくれた」
エレン「あ、っそ」
たまにこうやって、アルミンが教えてくれた言葉を自然とミカサが使う時があって。ちょっとだけ嫉妬する。
ミカサはどうやら俺より頭がいいらしい。教えたこともすぐ覚えるし、読み書きだって、アルミンと遜色ないほどだ。
だから最近では、俺がミカサに教えられる事がだんだん少なくなってきて、面白くない。
初めてここに連れてきた時は「エレン、あれは何?」とよく尋ねてきたものなのに。
俺が機嫌悪くしていると、ミカサはしゅんとしていた。
ミカサ「ごめんなさい」
エレン「あ?」
ミカサ「私は手を出さない方が良かったのね。次からは、しない」
エレン「………いや、そうじゃねえけど」
俺はしゅんとしたミカサを見ていたくなくて、否定した。
エレン「悪かった。今の、ミカサもムカついたんなら、やっぱ手出していいわ」
ミカサ「そうなの?」
エレン「ああ。理不尽な事を言われたら反抗していい。泣き寝入りなんかしなくていい」
ミカサ「……分かった」
今思えば俺のこういうところをそのまんま吸収させちまったのは、良くなかったと思ってる。
だけどこの頃の俺はまだてんで子供だったから、ミカサに兄貴風を吹かせたかったんだ。
ミカサ「エレンを侮辱する奴は許さない」
エレン「ん?」
ミカサ「エレンを怒らせる奴、傷つける奴は私の敵」
エレン「んー……いや、ちょっと違うぞ」
ミカサ「?」
エレン「俺はミカサ自身がムカつくなら、反抗していいって思う。俺の事は関係無しに」
ミカサ「? いってる意味が分からない。私は、エレンやアルミンが傷つくのを見たくないだけ」
エレン「……さっき、『私達二人を揶揄したから』って言わなかったか?」
ミカサ「言った。私がからかわれたから、エレンがムカついていると思って、手が出てしまった」
エレン「……………」
ミカサはどうも、俺と感覚がちょっとずれているように感じた。
ミカサ自身がムカついたから手が出たのではなく、俺がムカついているのを見て、それに腹を立てる、いわば「共感」したせいで手が出てしまったらしい。
これってどうなんだ。と、思わなくもなかったが深く考えるのは俺の苦手とするところなので、あまり考え込まないようにした。
エレン「まあいい。今度からあんま先に手を出すな。いくらミカサが強いっつっても、女の子なんだし」
ミカサ「女である事はあまり関係ないのでは?」
エレン「関係あるだろ。そういうもんだよ」
ミカサ「でも、戦わなければ、勝てない」
その時、俺は自身が言った言葉をミカサに言い返されてしまった。
ミカサ「エレンはそう、私に教えてくれた。だから私はもう、躊躇わない」
エレン「…………」
ミカサ「大事な物を奪われるのは嫌だから。私は戦う」
エレン「……………そうか」
自分で言った言葉には責任を持たないといけないと、この時、俺は思った。
エレン「うん。そうだな。でも、あんまり無茶はするなよ」
ミカサ「大丈夫。私はあの時から、強くなった」
エレン「ん?」
ミカサ「エレンが私を強くした。だから大丈夫」
その時のミカサの言葉の意味を当時の俺はまだ完全には理解出来ていなかった。
この時のそれは単に「精神的な意味合い」なのだと思って聞いていたのだが。
まさか、本当に文字通りの意味で「強くなった」のだとは思っていなかったのだ。
それから数ヶ月が経ち、ミカサがすっかりシガンシナ区での生活に慣れた頃。
ミカサは母さんの家事仕事も完璧に手伝えるようになったし、挙句は薪割りまで自分で出来るようになった。
元々、山育ちで家の手伝いはよくしていたそうだが、それでも、薪割りは本来は男の仕事であるし、この年齢の女の子がやるような仕事ではないのだが。
それでもミカサは完璧にそれをこなしたので、母さんが目を丸くして驚いたのを今でも覚えている。
カルラ「まあミカサ、あんたって子は本当に健気ね」
褒めて貰えたと思ったミカサはちょっとだけ嬉しそうだったが、すぐさま母さんは「でもね」と付け加えた。
カルラ「薪割りは、まだちょっと危ないから、もうやらなくてもいいわよ。エレンにやらせるから」
ミカサ「え……」
カルラ「ミカサはそれより皿洗いや掃除を手伝って頂戴。あ、薪拾いは手伝ってもいいけどね。割るのは男の仕事よ」
ミカサはそれを聞いてちょっとだけしゅんとしていたが、それ以後も、母さんがいない時にこっそり薪を割っていた。
はっきり言ってしまえば、俺よりもミカサの方が薪割りはうまい。
その点でも、少し微妙に傷ついてしまう。
でもミカサは自分で割った薪を俺がした事にしてくれていた。
それがまた、俺としては微妙な心地になるので、やめろ、と言ったのだが、あいつもききゃしねえ。
なんでこうも、あいつは頑固なのか。俺が不思議に思ってそう聞くと、
ミカサ「薪割りは楽しい」
と言ってきたので俺はそれ以上、言い返せなかった。
要はミカサにとって薪割りはいいストレス発散の機会になるらしかった。
なんだかなあという思いもあるが、ミカサ自身が本当に楽しそうだったので止めなかった。
ミカサ自身が楽しいならまあ、仕方ねえかと諦めたのだ。
そんな訳で時が経つにつれてミカサはどんどん雄々しく成長していった。
喧嘩は当然、俺よりも強いし、悪ガキ共もミカサに対してだけは一目置くようになり、ミカサがいれば大体の奴は退散していくようになった。
俺一人の時は、喧嘩を仕掛けてくる癖に。こすい奴らだ。
まあでも、奴らに舐められるのは俺自身もムカつくので、たとえ一対多数でも俺は引かなかった。
喧嘩して帰ってきては、母さんに叱られる日々だったけど、俺自身はそれで満足だったが、ある日、俺はミカサに言われてしまった。
ミカサ「エレン」
エレン「何だよ」
ミカサ「私が傍にいない時は喧嘩しないで」
エレン「はあ?」
ミカサ「エレンが一人で戦うのはダメ。私も加勢する」
エレン「馬鹿言うなよ。そんなん、関係あるか。俺は俺自身の為に喧嘩すんだから」
ミカサ「でも……」
エレン「うるせえな! お前に指図されるいわれはねえぞ!」
ミカサ(ビクッ)
しまった。やっちまったと、その時は思った。
ミカサが俺の味方をしてくれるのは嬉しい。でも。
それに甘えてしまって、ミカサの加勢を期待するようになっちまったら、男として終わる気がして。
そんなつまらないプライドの為に、俺はミカサを傷つけてしまった。
でも、そう思った時は遅かった。振り向くと、そこにミカサはいなかった。
ミカサは踵を返して家に先に帰ってしまったようだった。
きっといつものようにしょんぼりとして帰ったのだろう。
エレン「あ………」
何、やってるんだろ。俺。
ここ最近、こういう事が徐々に増えてきた。
俺、ちょっとイライラすると、ミカサに当たってる気がする。
こんなの、子供みてえだ。
こんな風に短気になって癇癪を起こす自分が本当に嫌だった。
俺はすぐに家に帰れなくて其の辺をぶらぶら歩いた。すると、いつものあいつらが俺を見つけるなり、石を投げてきた。
「今日はミカサが傍にいないぞ」「やっちまえ!」
あいつらは、ミカサがいない事ですっかりやる気が出ている。
そんなあいつらを見ているとますますイライラして俺はつい、また手が出てしまった。
悪ガキ1「何すんだよ!」
エレン「それはこっちの台詞だ!!」
理由なんか要らなかった。
俺はただ、なんとなくムシャクシャしてただけだったんだと思う。
だから奴らとまた3対1の喧嘩をしてしまった。いつものように、俺は殴られたけど。
しかしその途中で、屋根の上の方から石が飛んできた。奴らに向かって、何故か。
屋根の上を見やると、そこには何故か、マフラーをした、お面を被った人物が一人。
お面の子供「いじめは、よくない」
悪ガキ2「だ、誰だおめえは!?」
お面の子供「と、通りすがりの正義の味方。その名も……みかりん」
悪ガキ1「みかりん?!」
お面の子供「さっさと退散しろ。でなければ、つ、月に代わっておしおきする!」
何かどこかで聞いたことのあるような台詞を放ってその子供は屋根から飛び降りた。
くるっと空中で一回転をして華麗に着地するその子供に、奴らは既にびびっている。
そんなスゴ技を目の前で見せられたら、そりゃ驚くだろう。
奴らは何も出来ないで、みかりんにグーパンで殴られて気絶した。
俺にはその正体は分かっていたが、みかりんは、「で、ではさらば!」と言って逃げようとする。
エレン「おい、ミカサ! 待てよ」
お面の子供「私の名前はミカサではない。みかりんだ」
エレン「ああ、もう。面倒くせえな。みかりん! ちょっと待て!」
お面の子供(ビクッ!)
俺はみかりんことミカサを捕まえて、説教をした。
エレン「何のつもりか知らんが、何やってんだよ、お前」
お面の子供「い、いじめ撲滅運動を……」
エレン「アホか。そうまでして俺に加勢したいのかよ」
ミカサは暫く黙っていたが、やがてこくりと一回だけ頷いた。
全く、やれやれ、である。
エレン「あのなあ、ミカサ。そこまで頑張らなくてもいいんだぞ?」
お面の子供「頑張っている訳では……」
エレン「面倒臭いから、この女の子の顔のお面、取るぞ」
見覚えのある女の子のお面を剥ぎ取ると、しょんぼりしたミカサの顔が見えた。
ミカサ「ううう…………失敗した。別のお面にすれば良かった」
エレン「いや、お面のせいじゃねえし。正体バレたのは」
ミカサ「ではどうすれば、いい? どうすれば、私はエレンの味方でいられるの?」
エレン「……………」
俺は何だか自分の器が急に小さくなったような錯覚を覚えた。
いや、実際まだ、器なんて小さいんだろうけど。
ミカサのいじらしさを見ていたら、俺の意地が、どうでもいい事のように思えたのだ。
エレン「分かったよ。もう俺も文句は言わん」
ミカサ「!」
エレン「好きにしろ。ミカサがやりたいようにやれ。それでいいな」
ミカサ「………うん!」
やれやれ。俺はどうも、ミカサに対してはちょっと弱いようだ。
そんな風に思わずには居られない。いや、多分、それは事実なんだろうけど。
ミカサは本当に頑固だな、とつくづく思わされたのだった。
しかし数日後、事態は思わぬ展開を見せる事になる。
ミカサがあの時の喧嘩の後遺症からなのか、急に両膝が痛いと後から言いだしたのだ。
慌てて父さんに診せたら、非常に難しい顔をして「これは良くない」と言い出した。
グリシャ「ミカサ、最近どこかで大きなジャンプをしたり、着地をしたりしたかい?」
ミカサ「………してない」
グリシャ「そんな筈はない。これは筋を傷めているよ。暫くは激しい運動は禁止だ」
ミカサ「そんな!」
グリシャ「まだ体が出来上がってない時に無理に体を使うと、関節を傷めたりする事はよくある事なんだ」
父さんはミカサの膝に湿布を貼りつけながら言った。
グリシャ「怪我はその時に気づかなくても、数日後に遅れて痛みがやってくる事も少なくない。脳みそが、そういう風に誤魔化す時があるんだよ」
ミカサ「……………」
グリシャ「だから無理は禁物だからね。暫くはお家の中で遊びなさい」
ミカサ「はい」
ミカサは渋々頷いて、そして暫くはミカサは家の中で大人しくするしかなかった。
毎日ベッドの上でゴロゴロしているミカサに、俺は「やっぱりあの時、無理したんじゃねえか」と言ってやった。
ミカサ「無理してない」
エレン「一階の屋根とはいえ、あんなところから飛び降りて無事である奴がいるか!」
ミカサ「私なら出来ると思った」
エレン「普通なら出来ねえの! そういうのは、小説のヒーローの話なんだよ!」
ミカサ「でも、私はあの時から、出来るようになった」
エレン「あの時って?」
ミカサ「エレンに助けて貰った、あの日」
その時思い出したのは、俺が初めて人を殺したあの日の光景だった。
ミカサ「私はあの日から、今までとは違う自分を知った」
ミカサの目の奥が少しだけ暗かった。
ミカサ「私は、自分の体を100%支配できる」
エレン「………?」
ミカサが良く分からない事を言い出したので俺は素直に首を傾げた。
エレン「何を言ってるんだ?」
ミカサ「理解出来ないならそれでもいい。とにかく私は、自分の力を自分の意志で解放する事が出来るようになった」
エレン「……?」
それでもまだ俺は、ミカサの言い分を半分も理解出来ていなかった。
すると、その話を聞いていたのか、ドアの向こうにいた父さんが部屋に入ってきた。
グリシャ「ミカサ、その話は本当かい?」
ミカサ「おじさん……」
グリシャ「ミカサ、本当なのかい?」
ミカサは驚いた様子で起き上がって頷いた。
すると父さんがミカサの肩を掴んで「それはよくない」と注意した。
グリシャ「ミカサ。君の体はまだ発育途中だ。そんな時期に、そんな風に自身の体を酷使してはいけない」
ミカサ「え……?」
グリシャ「私はずっと不思議だった。あの日、君たち二人がどうやって、人を殺せたのか。エレンの力だけでは説明がつかないとずっと思っていたが……」
ミカサ「お、おじさん?」
グリシャ「あれが君の協力によるものだとしても、それでも説明がつかなかった。でも、今ミカサが言った事が本当なら納得する」
ミカサ「…………」
グリシャ「いいかい? ミカサ。それは簡単に言うなら、所謂「火事場のくそ力」のようなものをずっと使い続けているようなものだよ」
ミカサ「そ、そうなの?」
グリシャ「ああ。常にフルパワーで生活しては、そのうちミカサ自身の体が先に壊れてしまう。ミカサ、君はその力を、コントロールしていかなければいけないよ」
ミカサ「コントロール……」
グリシャ「ああ。ちゃんと手加減して生活するようにしなさい。それが出来るようになるまでは、外に出て遊ぶのは禁止する」
ミカサ「!」
グリシャ「これは命令だよ。ミカサ。君自身の将来の為だ」
ミカサ「わ、分かった」
ミカサはしょんぼりして頷いて、部屋を出て行った父さんを見送った。
俺は二人の会話の半分も理解出来ていなかったが、それでも、何となく、今までのミカサが「異常」だったという事だけは理解出来た。
そしてそれを使い続けたら、ミカサ自身が壊れてしまう可能性があると父さんが判断したことも。
父さんがそう言うならきっとそうなんだろう。だから俺はすぐに納得して、ミカサに向き直った。
エレン「ミカサ、残念だったな」
ミカサ「ううう………」
エレン「暫くは外に出れねえな。ま、怪我してんだから、当然だけど。治ってからもあんまり頻繁に外出るなよ」
ミカサ「え、エレンは……」
エレン「俺は外に出るけどな」
ミカサ「エレンの意地悪~~~」
エレン「にしし……しょうがねえだろー?」
ミカサに対して意地悪が出来る事が面白くてついつい、そう言ってやったら、ミカサは本気で泣き出した。
ミカサ「うあああああ………」
エレン「わわ……馬鹿! 泣くなよ! 母さん、父さんにバレるだろ?!」
ミカサ「あああああ」
わんわん泣き叫び始めたミカサに俺はちょっと驚いた。
まさかこの程度の事でミカサが泣き出すなんて思いもよらなかったのだ。
だから俺は仕方なく「分かった、分かったから!」とついつい宥めた。
エレン「俺もミカサの怪我が落ち着くまで出来る限り家にいるからさ!」
ミカサ「本当? (ピタッ)」
エレン「しょうがねえだろ? ミカサが泣き虫だから」
ミカサ「…………ごめんなさい」
エレン「いや、謝るなら泣くなよ」
ミカサ「ううう………(涙目)」
エレン「だから何で泣くんだよ!?」
ミカサの涙腺の崩壊するポイントがいまいち分からず、俺はオロオロするしかなかったが、それから暫くは(と言っても、二週間程度だったが)俺とミカサは家の中で大人しく過ごす事になったのだった。
それから俺はミカサの言う「100%の力を使うことが出来る」という意味を少しずつ理解していく事になった。
ミカサが一生懸命、例をあげながら俺とアルミンの目の前でりんごを握り潰してみせたのだ。
ぶしゅ…!
ミカサ「これは50%の力…」
ミカサ「100%の時は、こうなる」
ぶしゅぶしゅぶしゅ!
エレン「げ……」
アルミン「うわあ……」
違いを比べれば一目瞭然だった。
手の握力だけで皿の上で粉々に砕け散ったりんごの残骸の差が見事すぎて、俺とアルミンはその哀れなりんごを見つめた。
砕けたりんごの破片はフォークで刺してちゃんとおやつにして食べたけど。
100%の方で砕いたりんごは、ちょっと食べにくい大きさになってしまった。
エレン「なるほどな。今までミカサが喧嘩で負け無しだったのはそのせいだったのか」
アルミン「火事場のバカ力ね。聞いたことはあるけど、それを自分の意志で出し入れ出来るなんて聞いたことがないよ」
ミカサ「でも、私は出来るようになった」
エレン「まあ、今のりんごの残骸を見れば信じるしかねえけどよ」
俺はりんごをむしゃむしゃ食べながら言った。
エレン「父さんの言う通り、あんまりそれを頻繁に使っちゃいけねえよ。ミカサ自身が気がつかないうちに怪我してたら意味ねえよ」
アルミン「多分、ミカサの感覚が普通の人のそれと比べて少し麻痺しているのかもしれないね」
ミカサ「そうなのかしら」
アルミン「うん。ほら、怪我してても、痛みを止める薬を飲んでたら動けるでしょ? あれと同じなんだと思う」
ミカサ「…………なるほど」
アルミン「だからミカサは無理しちゃいけないよ。怪我が治るまでちゃんと大人しくしてようね」
ミカサ「………もうほとんど痛くないのだけども」
エレン「ダメだ。父さんは二週間は外出禁止って言ってただろ? 家の中だけ歩いてろ」
ミカサ「ううう………」
そんな訳で、今のミカサはちょっとだけ可哀想であったが、アルミンが出来るだけ毎日俺の家に来てくれるし、寂しいとは思わなかった。
部屋の中は普通に行き来出来るけども、飛んだり跳ねたりは出来ないし、走るのもダメだと父さんには言われているのでミカサは運動不足で不満そうにしていたが。
俺はそんなミカサを見ているとついついニヤニヤしてしまった。
ミカサ「何故、ニコニコしているの? エレン」
ベッドの上で座ってする事がなくて、ミカサは俺にストレスをぶつけてくるが。
エレン「んー?」
俺はその理由を言ってやるつもりはなかった。
エレン「別にー? 何でもねえよ」
ミカサ「嘘……エレンはすぐ顔に出る」
エレン「そうか? ま、そうだとしても、言わねえよ」
今のミカサは俺を頼らざる負えない。勿論、そういう場面自体は少ないが。
そういう状況だという事が、ちょっとだけ嬉しいのだ。
ミカサ「……ケチ」
エレン「ふふふーん。まあ言ってろよ。今だけだし」
ミカサ「足が治ったらすぐ何処かに出かけたい」
エレン「まあ、治ったらな。あと一週間もすれば落ち着くだろ」
ミカサ「外に出ちゃダメっていうのが、こんなにストレスになるなんて思わなかった」
エレン「……………」
ミカサ「外に出たい。街の中を歩きたい。走りたい。一度知ってしまったら、それが恋しい」
エレン「……………それが普通だろ」
ミカサ「うん。早く体を治したい」
エレン「治るだろ。もう少しの辛抱だ」
ミカサ「うん」
ミカサはそう言って頷いたが、その感覚は俺にも覚えがあった。
以前、母さんに怒られて「暫く外に出るな」と言われた事がある。
一週間くらい、罰として外出禁止になり、家の中に閉じ込められて滅茶苦茶に窮屈だった記憶がある。
自分の意志で外に出られないというのは、本当に歯がゆいことなのだ。
だから俺はミカサの気持ちを理解出来たし、もっと大きな事を言うのなら。
今、この壁の中で生活している今ですら、少し窮屈に感じる事ある。
その胸の内を、ミカサにはまだ伝えた事はないけれど。
いずれ機会があれば、話したいとは思うんだが。
ミカサ「絶対、治す。三日で治す」
エレン「フライングするなよ」
今はまだ、少し早い気もするので、胸の中に仕舞っておくことにした。
そんな訳でミカサは家の中で過ごしていたが、ミカサは「家の中で出来るトレーニングの方法」とかいう小難しい本を読んでいた。
そしてこの日のここから、ミカサの腹筋伝説が始まる。
ミカサ「エレン、お願いがあるの」
エレン「あ? 何だよ突然」
俺はアルミンから借りていた動物図鑑を自分の部屋で読んでいたのだが、それを邪魔してまで俺に話しかけるなんて、珍しいと思った。
ミカサは俺が何かしている時は基本的に邪魔しない。よほどの事がない限り。
つまり、それを遮って声をかけたのは、よほどの事である筈だ。
ミカサ「エレンに協力して欲しいの」
エレン「だから、何を」
ミカサ「私、体をきたえたい」
エレン「え?」
ミカサ「今、出来る範囲内で、部屋の中で体をきたえたいの」
エレン「ええ? それ以上、強くなってどうするんだよ」
ミカサ「そ、それは……け、怪我をしない強い体を作りたいから」
エレン「うーん……」
この時のミカサは、その理由を半分だけしか教えてくれなかった。
後で真実は判明するのだが、まあそれはここでは置いておく。
とにかく、この時のミカサは運動をしたがっていたので俺も深くは考えず「まあ、そこまで言うならいいけどさ」と了解したのだ。
エレン「で? 俺は何すりゃいいんだ?」
ミカサ「私の足首を固定して欲しいの」
エレン「……こうか? (ぎゅっ)」
ミカサ「そう。私が体を起こすので、その数を数えて欲しい」
つまり俺はミカサの腹筋トレーニングの相手をさせられたのである。
ミカサはそこから毎晩、ちょっとずつ回数を増やして腹筋をするようになった。
そしてその数が少しずつ増えて、何と一週間後には、100回をこなせるようになった。
すると、少しずつではあるが、ミカサの体に変化が起きたのだ。
俺は思わずミカサの腹を触った。感触が以前と全く違ったのだ。
エレン「おお……なんだこれ?! でこぼこがちょっと出来てる」
ミカサ「筋肉が少しついたみたい」
エレン「いいなあ! よし、俺も真似してみる」
ミカサ「エレンもやるの?」
エレン「俺もそのでこぼこつけてえもん!」
ミカサ「じゃあ今度は私がエレンの足首を押さえる」
エレン「おう! 頼んだぞ!」
そんな訳で俺達は雨の日や、暇がある日は腹筋のトレーニングをするようになった。
腹筋トレーニングに飽きたら、今度は背筋のトレーニングもやってみた。
それ以外にも、縄跳びや、スクワットと呼ばれる太もものトレーニングや、足上げ、反復横飛び等、室内用のトレーニングを二人でやるようになり、ちょっとずつ、以前よりもお互いに筋肉がついてきたのだった。
それがとても楽しくて、俺達は新しい遊びを覚えたように、暫くそれに夢中になった。
すると、何だか以前より体がすごく軽くなったように思えたのだ。
その事をアルミンにも教えると「ひええ」と驚かれた。
アルミン「凄いね二人共。少したくましくなったよ」
エレン「だろ? アルミンも一緒にやろうぜ!」
アルミン「ええ? 出来るかなあ?」
エレン「腹筋から始めようぜ! 簡単だって! なあ、ミカサ」
ミカサ「難しくはない。私達が出来たのだから、アルミンも出来る」
アルミン「そうかなあ。じゃあ僕もちょっとだけやってみるよ」
そして俺はアルミンの足首を固定して、腹筋のやり方を教えたのだが……
アルミン「ふぬーーーーー!」
エレン「もっと腹に力をこめろ!」
アルミン「ダメだ……全然、起き上がれないよ」
ミカサ「ちょっと失礼」
ミカサはアルミンの腹を触ってみた。
ミカサ「……アルミンのお腹は柔らかい。これではいきなり普通の腹筋は出来ない」
アルミン「ううう……だねえ」
ミカサ「では、もっと簡単な腹筋を教える」
ミカサはそう言って、足首を固定しない方の腹筋をアルミンに教えた。
ミカサ「こうやって、足首を動かしてもいいので、起き上がるだけなら出来る筈」
アルミン「うん、それなら出来る」
ミカサ「まずはそこから始めよう。毎晩、10回ずつ。コツコツすれば、筋肉がつく」
アルミン「本当?」
ミカサ「私も最初は出来なかった。毎日コツコツ続けて今がある」
アルミン「じゃあ僕もやってみる。ありがとう!」
ミカサ「皆で腹筋が出来るようになるといい」
エレン「だな! 腹筋ついてきたら、また触りっこしようぜ!」
そんな風に何故かお互いに、腹筋に対して愛着を持ち始めたのだ。
いいセンスだ支援
ロリミカサペロペロ
ふと、幼い頃の事を思い出した。
何故なら今も目の前で、ミカサが腹筋をしているからだ。
アバラの骨が何本か折れたっつーのに、ミカサは回復し始めた途端、また筋トレを始めた。
小さい頃も今と同じようにやってたなあと、ついついそれを手伝いながら思い出してしまったのだ。
あの日から、ミカサの足首を固定するのは俺の役目だ。
実際、こうやって室内でもトレーニングをする事で回復を早める事が出来るらしいが、それはミカサの持論だ。
父さんはあくまで「無理はするな」って言ってたし、その信憑性は俺には分からんが。
ミカサ「………99、100!」
100回こなしたら、一旦休憩だ。このペースも昔から変わらない。
今は100回×10の1000回が一日のノルマらしい。
それをこなしているからこそ、ミカサの腹筋は今も凸凹を保っている。
久しぶりにちょっと触ってみるか。
つつつ……
ミカサ「ひゃん……! いきなり何をするの?」
エレン「いやー久々に触ろうかと思って」
ミカサ「や、やめて……(ビクンビクン)」
エレン「なんでだよ。昔はしょっちゅう触らせてくれたのに」
ミカサ「む、昔は昔。今は、今、なので」
エレン「ちぇ……ケチだな」
ミカサ「ケチじゃない。ケチとは言わない」
エレン「俺のも触ってみるか?」
ミカサ「……いいの?」
エレン「おう。俺だけ触るのは不公平だしな」
そんな訳で、俺がミカサに腹筋を直に触らせたその瞬間……
何故か部屋にジャンが乱入してきて「お前ら何やってんだあああああ!」と叫ばれた。
ミカサ「何って……エレンの腹筋を触ろうとしてただけ」
エレン「だよな」
ジャン「ミカサ、そもそもお前は怪我人だろうが! 何でトレーニングしてるんだよ!」
ミカサがトレーニングの格好(要は薄着)で居たので、ジャンにツッコミを入れられた。
エレン「俺も最初は止めたんだけどな。アバラ折ってて、筋トレはさすがにと思って。でもこいつ、言う事ききゃしねえし、だったら仕方ねえだろ」
ミカサ「体は動かさないと鈍る一方なので」
ジャン「だからと言って、腹筋を触り合うなよ!!」
ミカサ「何故? 腹筋を触り合うのは昔からやっているので、ジャンに文句を言われる事ではない」
エレン「アルミンとも触り合ってたしな」
ジャン「?! お前らの関係って、なんなの一体?!」
エレン「え? 幼馴染で家族だけど」
素直にそう伝えると何故かジャンは疲れたようにがっくりして部屋をすごすごと出ていった。
ミカサ「……なんだったんだろう?」
エレン「さあな?」
俺は首を傾げて、そしてミカサのアバラを服の上からそっと触った。
エレン「もう痛まないのか?」
ミカサ「全く痛くない訳ではないけれど。でも動けないほどではない」
エレン「……すまなかったな。今回の事は」
ミカサ「ううん。エレンを守れたので、いい」
ミカサは俺を守る為に体を鍛え始めたのだと、後日俺に伝えた。
あの時の筋トレを始めた言い訳は半分だけで、本当はあの時からずっと、そういう思いで体を鍛えていたそうだ。
当時の俺はそれを快く思ってはいなかったし、悔しかったけれど。
でも、ミカサがそうして努力していてくれたおかげで、今の自分がいる訳で。
有難いと思う反面、やはり悔しい思いは拭えなかった。
これから先もきっと多分、ミカサを危険な目に遭わせてしまう場面はあると思う。
でも、俺はミカサがうちにやってきたあの日から、変わらずミカサと一緒にいる。
いつまでも、ずっと一緒にいようと思うから。
エレン「……俺も腹筋するわ。足、固定しててくれ」
ミカサ「うん」
今はこの隠れ家に住んで事態を見守ることしか出来ねえけど。
近いうちに俺はまた、戦場に出ることになるだろう。
その時の為に、俺は強くならないといけないと思った。
ミカサよりも強い腹筋を作りたい。
エレン「………98、99、100!」
でも今の俺は、100回×10セットをする力はねえ。
せいぜい5セットが限界だ。
エレン「くそう……俺もまだまだだな」
ミカサ「そんなことない。徐々に筋肉はついてきてる」
エレン「……だといいけどな」
ミカサに筋肉をチェックされながら、そう強く思うのだった。
(エレン「ミカサがうちにやってきた」おしまい☆)
>>29さん、申し訳ねええええ。
ロリミカサから一転して現代ミカサに変わる瞬間に支援きて吹いた。
これ、全部書き終わってから投下してたんだ……すまんぬ。
たまには短いのもいいかなと思って、書いてみた。腹筋ネタです。
きっと小さい頃から腹筋やってないと、ああはならないと妄想したのだ。
突発ネタでしたが、読んでくれてありがとうサンクス☆
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