煌「月が綺麗ですね」 (43)

 
姫子「はーなだ!」

煌「あ、鶴田さん。おはようございます」

姫子「おはよー、今年から同じクラスやね」

煌「そうですね」

姫子「クラス替えんたびに緊張しとったけど、知っとる人がおってよかった」

煌「??」

煌「鶴田さん、友達多いじゃないですか?」

姫子「友達っちゅうか……」

 「鶴田さんと同じクラスでラッキー」
 「嬉しかね」
 「鶴田さんがおるっちゅうことは白水先輩もこんクラスによう来るわけやし」

煌「……あぁ」

姫子「なんか友達よかファンっちゅうか……」
 

 
煌「でも、どうして私なんです?」

姫子「同じ部活やし、同じクラスやし……同じ寮やし?」

姫子「部活やと今まで沢山喋ったわけやなかけど」

姫子「花田はファンとは違かやろ?話もちゃんと聞いてくれっし……」

姫子「やけん、同じクラスやって分かった瞬間、絶対友達になって決めとった」

煌「……」カァー

姫子「なに顔ば赤くしとーと?そげん顔されよったらこっちまで照れっやろ」

煌「すばら!」

姫子「ちゅうわけでよろしく、花田!」

煌「こちらこそよろしくお願いします、鶴田さん」

姫子「友達やし敬語はなしやろ」

煌「へ?」
 

 
姫子「あと、私、鶴田って呼ばれるん本当は好きやなかと」

姫子「友達には名前で呼んでほしかよ」

煌「え、あぁ、はい」

姫子「ため口で!」

煌「あ、あの……」

姫子「ん?」

煌「ひ、姫子、さんは……私のこと名前で呼んでくれないんでs……呼んでくれないの?」

姫子「あ、そやね!こいからは気付けっと」ニコッ

煌「は、はぁ……」

姫子「あ、さん付けもなしやけんね」

煌「え、あ……はい、いや、うん、ひ、姫子」

姫子「ぷぷ、煌。おもしろかね!」

煌「!」ドキッ
 

 
煌「そんなに笑わないでくださいよ……ため口になれてないんだから」

姫子「徐々に慣れてくれればよかよ」フフフ

煌「……善処します」

姫子「ふふふ……」

煌(……私も本当はファンみたいなものなんですけど)

姫子「ふんふーん♪あ、席も隣やね」

煌(それは言わない方がいいかもですね……)

 キャー キャー キャー

煌「な、何事でしょう!?」

哩「姫子」ヌッ

姫子「部長」

煌「あ、部長、お疲れ様です」
 

 
姫子「どうしてここに?」

哩「姫子はクラス替え苦手やけん、様子ば見に来たと」

姫子「ぶちょー……」

哩「花田もおるんやったら、大丈夫やね」

姫子「ふふ、ですね!」

哩「チャイムが鳴っけん、また後でな」

姫子「はい!」

煌(……仲がいいですね)

姫子「ふふふー♪」

煌「嬉しそうでs……嬉しそうだね」

姫子「言い直す花田、面白か」
 

 
煌「ひ、姫子だって、花田呼びですし」

姫子「花田って呼びやすかやし」

煌「じゃあ無理せずに花田でいいですよ」

姫子「ふむ……」

煌(憧れの方に名前で呼ばれるなんて身に余る幸せですけど)

煌(名前で呼ばれるとなんだか胸のあたりがむず痒いです……)

煌(嬉しいんですけど、体が持たないですね)ハァ

姫子「え?」

煌「え?」
 

 
姫子「もしかして嫌やった?」

煌「え?い、いや、何が、なんで?」

姫子「ため息ついとったし」

姫子「……ため口とか、名前呼びとか……嫌やった?」

煌「い、嫌なんて、そんなこと!」

ガラッ

先生「HR始めるから席つけー」

煌「……」

姫子「……」カタン
 

 
煌(そんなことない。ずっと友達になりたいと思っていたから嬉しい……です)カキカキ

煌(ただちょっと頭がついていかなくて……)カキカキ

煌(ごめんなさい。だから気にしないでください)カキカキ ヒョイッ

煌(同級生で、1年生から白水部長とWエースの姫子……)

煌(かっこよくて、可愛くて、強くて……憧れてて……)

煌(でも遠くて……こうやって近付ける日がくるなんて思ってもなかったから)

煌(あぁ……おさまれ、私の心臓)ドキドキ

ヒョイッ

煌「!」

姫子「……」ウインク

煌(そげん言って貰えて嬉しかよ。やけん敬語も名前呼びも本当に徐々に慣れてくれればよかとよ)

煌(私も人んことば名前で呼ぶこと慣れとらんし、花田って呼んどるし……お互いさまやね笑)
 

 
煌「ふふ」

先生「はーなだ!」

煌「は、はい!」アセッ

先生「いつまでも春休み気分でおったらいけんよ」

煌「す、すいません!」

姫子「……」クスッ

煌(もう……姫子のせいですよ……なんて)
 

 


姫子「そいでね!あんとき部長がね……」

煌「えーあの部長が?意外」

姫子「ああ見えて抜けとるとこもあっけん、可愛かよ」

煌「想像できないね」

姫子「普段はかっこよかけど、私にだけそげんとこ見せてくれっけん」

煌「すばら」

姫子「ふふふ、花田もそげん思う?」

煌「思うよ!部長と姫子の関係は本当にすばら!」
 

  


姫子「今日、部長とケンカした」

煌「え、なんで?」

姫子「目玉焼きに何ばかけっかで」

煌「……お醤油?」

姫子「塩やろ」

煌「あ、はぁ……」

姫子「ばってん部長はソースばかけっと」

煌「ふーん……(そ、ソースとは……)」

姫子「ソースのよさがわかっとらんって部長が言って」

煌「うん」

姫子「なんで塩のよさがわからんとですか!?って私が……」

煌(……これは、なんて答えるのが正解なんでしょう)

煌(うぅ……神様、哀れなこの子羊に救いの手を……)
 

 
姫子「なんで部長わかってくれんのやろ」プンスカ

煌「あ、案外ソースで食べたらおいしいかもよ」

姫子「ぶー」

煌「すばらくない……」

姫子「もう部長なんて知らんもん」

煌「意地っ張りだね……姫子も部長も」

姫子「ぶー」
 

 

姫子「おはよー花田♪」

煌「お、おはよー姫子」

姫子「ふんふーん♪」

煌「機嫌いいね」

姫子「ふっふーん♪わかっか?」

煌「もちろん」

姫子「えっへへへー」

煌「仲直りしたんでしょ?」

姫子「うん」
 

 
煌「部活の時はまだケンカ中だったよね」

姫子「そうやったっけ?」

煌「お互いツーンってしてた」

姫子「そうやったかも」

煌「帰りとか?」

姫子「……終わってすぐに帰ろうとしたんやけど」

煌「うん?」

姫子「部長が追っかけてきてくれて……」

煌「おぉ」

姫子「そいで……」
 

 
姫子「ソース派は譲らんばってん、姫子が塩ゆうのも否定せん」

姫子「そげん小さか違い私達の前にはあってなかようなもんやろ」

姫子「朝は言いすぎた……ごめん……って」

煌「それはすばら!」

煌「で、姫子は?」

姫子「私もそげんことで意地ば張ってごめんなさい」

姫子「って言って……手ば繋いで帰ったと」

煌「姫子幸せそう」

姫子「ふふふ」

姫子「幸せたい」
 

 
姫子「やけどいつもより幸せかも」

煌「なんで?」

姫子「それはー……」

煌「それは……?」

姫子「こげんか風に花田が話ば聞いてくれっけん」

姫子「今まで部長と自分の関係ば人に話すことはなかやったし」

姫子「なんだか、嬉しか」

煌「……」ズキッ
 

 
姫子「花田?」

煌「そ、それって惚気たいだけなんじゃ」

姫子「惚気られっ友達がおって私は幸せたい」

煌「も、もう……!」

姫子「これからも仲良か友達でおってね?」

煌「……喜んで」

姫子「やった!」

煌(……何なんでしょう……この気持ち……)

煌(姫子と仲良くなって……沢山話をするようになって……)

煌(なんででしょう……嬉しいのに……)

煌(この気持ちは一体……)
 

 


姫子「いっつも私ばっか話しとっけど」

煌「うん?」

姫子「花田は好きな人おらんの?」

煌「好きな人……か」

姫子「花田ん好きな人知りたか」

煌「……」

煌「みんな好きだよ」

姫子「そげんゆうんやなかで」

姫子「恋愛感情として好いとう人ん話」

煌「……恋愛感情……」
 

 
姫子「恋ばすっとね、ちょっとしたことが嬉しかったり悲しかったりで」

姫子「毎日が楽しくなっけん」

煌「はぁ……」

姫子「もしかして……恋したことなかの?」

煌「どこからが恋なのかなぁ……」

姫子「そげん難しく考えんで、ずっと一緒にいたかーとか誰にも渡したくなかーとか思う人、おらんの?」

煌「ずっと一緒にいたい……誰にも渡したくない……」

煌「……!」

姫子「?」
 

 
煌「あ、いや……すぐ浮かぶ人は今はいないかな」

姫子「そうなんや……ばってん!」

姫子「花田に好きな人が出来たらすぐ教えんね?」

姫子「私、花田の恋ば全力で応援しちゃるけんね!」

姫子「まぁ花田は魅力的やし、きっと花田ん好きな人も花田んこと好きになっとよ」

煌「あー、はは……ありがとう、姫子」

姫子「友達やし、当然やろ」ニコッ
 

 
煌「ずっと一緒にいたい……誰にも渡したくない……」

煌(最近抱えていた気持ちに名前を付けるなら……)

煌「……恋……ですか……」

煌「楽しいも何もないですよね……」

煌「だって姫子は……」

煌(部長のことが好き)

姫子『まぁ花田は魅力的やし、きっと花田ん好きな人も花田んこと好きになっとよ』

煌「……そんなの……」

煌「はぁ……」

煌「恋って切ないですね……」
 

 
姫子「おはよー」

煌「おはよ、姫子」

姫子「週末な、久しかぶりにデートばすっと」

煌「……」

姫子「行先はまだ決めてなかけど今から楽しみ」

煌「……」

姫子「花田は何か……花田?」

煌「……」

姫子「花田ー」ユサユサ

煌「え、は!」
 

 
姫子「目ぇ開けたまま寝とったん?」

煌「え、いや……ごめん」

姫子「よかよか」

煌「……」

姫子「……?」ジー

煌「……はぁ……」

姫子「花田、元気なかね」

煌「えっ!?」

姫子「……」ジー

煌「ふぁぁ……はは、寝不足かな?」

姫子「最近寝れんの?」
 

 
煌「本を読んでいたら夜更かししちゃって……」

姫子「ふーん……私あまり本とか読まんけん」

煌「ちょっとはまっててつい……」

姫子「楽しいことがあっとそいに没頭しちゅうよね」

煌「うん……」

姫子「……?」

煌(……毎日、あなたのことで悩んでいますなんて……言えない)

煌(こんなに近くで見つめても……私達はただの友達で……)

煌「はぁ……」

煌(初恋は実らないなんてよく言いますしね……)

煌(どんなに強く想っていても……伝わることなんて……)
 

 

姫子「はーなだ!一緒に帰らん?」

煌「え?部長は?」

姫子「今日も先生と話があるんやって」

煌「やっぱり部長って大変なんだ」

姫子「部長にも先に帰るって言ってあっし、そこは心配せんでよかよ」

煌「でも……」

姫子「最近の花田元気なかやし、心配やけんね」

煌「……あ、」

煌(ありがとう、なんて素直に言えないですよ……)

姫子「何か悩みがあるんやろ?」

煌「悩みなんて……ないです……」

姫子「……私にも言えん?」

煌(あなただから言えないんです……)
 

 
煌「大丈夫ですから……、本当に大丈夫ですし」

姫子「……友達なんやから、頼ってもよかのに」

煌「……」ズキッ

姫子「……」

煌「大丈夫です!」

姫子「やっぱ、大丈夫やなかね」

煌「え?」

姫子「花田は仲良くなってから、敬語ば使わんくなった」

姫子「使うんは私以外ん人と喋っ時とか他の人がおっ時……あと……」

煌「……」

姫子「焦った時」

煌「……!」
 

 
姫子「……言いたくなかの?」

煌「……」コクリ

姫子「……そっか」

煌「……ごめん」

姫子「よかよ……」

煌「……」チラッ

姫子「……」

煌「……」ドキドキ

煌(あぁ、こんなにドキドキしててバカみたいですね……)

煌(もし、好きだと姫子に伝えたら……)

煌(伝えても……姫子にはもう部長がいて……)

煌(叶わないって分かってるのに……こんなの……)
 

 
姫子「花田?」

煌「は、はい?」

姫子「大丈夫?」ナデナデ

煌「ぅあ……」ドキドキ

煌(優しくしないでください……なんて言えるわけない)

煌(だって姫子は友達として……)

煌「姫子……」

姫子「ん?」

煌「好きでいるのを止める方法ってある?」

姫子「え……」
 

 
煌「……」

姫子「……」

煌「……ごめん」スッ

姫子「はな……」

煌「ごめん、姫子」ウルッ

煌「先、帰ります」ダッ

姫子「花田!」

煌(……今の私は、作り笑いすら……)ポロポロ
 

 
姫子「おはよ、花田」

煌「おはよう、姫子」

姫子「……」

煌「ちょっとトイレ」ダッ

姫子「あっ」


姫子「はな……」

煌「ごめん、ちょっと用事が……」

姫子「えっ、ちょ……」


姫子「花田、部活……」

煌「トイレに寄ってから行くから、先に行ってて」イソイソ

姫子「むぅ……」
 

 
煌「はぁ……」

煌「何してるんだか」

煌「昨日、変なこと聞いちゃったからなぁ……」

煌(部活中は今日の予定だと対局はないから大丈夫だけど……)
 

「お疲れ様です」


煌「お疲れ様です」

姫子「あっ……」

煌「お先に失礼します」スタッ
 

 
煌「はぁ……」トボトボ

煌(明日からはちゃんと……しよ……)

姫子「待って!花田」ダダダッ

煌「!?」

姫子「花田!」ダダダッ

煌「ひ、姫子!?」ダッ

姫子「花田っ」バッ

煌「わっ!」

姫子「逃がさんけんね」ギュッ

煌「……」ドキドキ
 

 
煌「無茶苦茶だよ……」

姫子「花田が私んこと避けっけん」

煌「……ごめん」

姫子「何かあったんやろ」

煌「……」

姫子「好きになったらいけん人ば好きになったと?」

煌「……」

姫子「ごめん、花田」

煌「……」

姫子「……私にはわからんよ……どげんしたら好きを止めれっかなんて……」
 

 
煌「……ごめん、もう大丈夫だから」

煌「そのことはもう忘れて」

姫子「……好きな人って……?」

煌「……ひみつ……」

姫子「……」
 
姫子「何も出来なかでごめんね」

煌「え……」

姫子「ごめん……私、友達やのに……何も力になれんで……」ポロポロ

煌「ど、どうして姫子が泣くんですか」アセッ

姫子「ごめん……」ギュウ

煌「もぅ……」
 

 
煌(涙を流すほど心配してくれる友人……)

姫子「はなだぁ……」

煌(それのどこが不満だと言うのでしょう)

煌(もともと姫子は遠い存在だったから、こうして友達になれたのだって奇跡でしょう)

煌(勝手に好きになった私が悪いんです)

煌「……ごめんね、姫子」ギュッ

煌(好きになって……ごめんね)
 

 
姫子「ごめん、私の方が泣いて……」

煌「ううん、心配掛けてごめんね、ありがとう」

姫子「……」

煌「あ!姫子」

姫子「ん?」

煌「月が綺麗ですね……」

姫子「花田、敬語……」

姫子「やけど、本当に綺麗やね」

煌(……今の言葉に全てを込めたから……)

煌「……」チラッ

姫子「……」
 

 
煌(姫子は夏目漱石を知っているのでしょうか)

煌(たぶんこの様子じゃ知らないでしょう)

煌(だけど、だから、これでいいんです)
 

煌「本当に心配掛けてごめんね」

姫子「ううん」

煌「もう……大丈夫になるから……」

姫子「私に出来っことがあっなら……」

煌「じゃあ……ずっと友達でいてください」

姫子「そげんこと……言われんでも……」

姫子「決まっとうやろ……大事な大事な親友やけん」

煌「ありがとう」
 

 
煌(いくら願ったところで……出会った頃に戻れるわけもなく)

煌(いくら願ったところで……この恋心が消えることはなく)

煌(いくら願ったところで……この想いは伝えられない)


煌(……好きだよ、姫子……)

煌(「月が綺麗ですね」ってI love youの意味なんだ)


姫子「……」トコトコ

煌「……」チラッ

煌(きっと姫子は知らないよね)
 

 

煌(まだ幼い恋心は疼くけど……)

煌(いつかきっとちゃんと……姫子の幸せだけを願うようになりますから)

煌(姫子が部長と一緒にいることが幸せなら、それを願うから)

煌(部長ならきっと姫子を大切にしてくれるから)

煌(この気持ちが落ち着いた時、あなたの1番の友達でいたいな)


おしまい
 

方言わからん
姫子は花田呼びに慣れてしまい、名前で呼べませんでした

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