穏乃「おかしい。さっきまでインハイの準決勝を戦っていたハズなのに、気が付いたら阿知賀の部室にいるなんて……」
穏乃「しかも微妙に部室が新しい。卓もたくさん置いてあるし……」
穏乃「どういう事……?」
穏乃「あ、麻雀の雑誌がある」パラパラ
穏乃「『熊倉トシ、またしてもタイトル防衛!』って、熊倉さん? この写真では随分若いけど……」
穏乃「あれ? この雑誌の日付……」
穏乃「一〇年前!?」
穏乃「……状況だけで考えれば、一〇年前に来ちゃったって事?」
穏乃「和が聞いたら『そんなオカルトありえません』って言われるだろうけど……」
ガヤガヤ
穏乃「誰か来た……」
ドア「ガラ!」
晴絵「あれ? 誰かいる」
望「あ、ホントだ」
穏乃「赤土さん、望さん……」
穏乃(本当に一〇年前に来てしまったんだとしたら、二人共私と同い年、なんだよね……)
晴絵「どうして私達の名前を……」
望「もしかして前に会った事ある?」
穏乃「前にといいますか、後にといいますか……」
晴絵「なに言ってるんだ?」
穏乃「気にしないでください、こちらの話しですから」
晴絵「そうなのか?」
望「それより、キミの名前は? 入部希望者?」
穏乃「私は……」
穏乃(まずい、望さんはこの時から私の事知ってるから、本名は名乗れない……)
穏乃(あれ? そもそも素性を隠す必要あるの? むしろ事情を話した方がいいんじゃないか?)
穏乃(……いや、信じてもらえるワケないか。それにタイムパラドックスとかって話しも聞いた事あるし、黙っているが吉か)
望「キミ?」
穏乃「……和。私の名前は原村和です」
晴絵「よろしくな、和」
穏乃「はい」
望「それと、私らも一年だからタメ口でいいよ?」
穏乃「そう……なんだ」
穏乃(赤土さんと望さんにタメ口きくって、すごい違和感がある……)
晴絵「でも日が悪かったな」
穏乃「え? どういう事?」
望「今日は先輩達がいないの。見学に来てくれたのに、ゴメンね?」
穏乃(ああ、そういえばそういう設定だっけ……)
穏乃「それじゃあ今日のところは帰って、また今度出直す事にするよ」
晴絵「せっかく来たんだ、ちょっと打ってかないか?」
穏乃「残念だけど、このあと用事があるんだ」
望「そうなんだ。でも必ずまた来てね?」
穏乃「……それじゃあ、また」
晴絵「なあ、一つだけいいか?」
穏乃「なに?」
晴絵「裸ジャージはどうかと思うぞ?」
穏乃「放っておいて!」
穏乃「……部室を出たはいいけど、さてどうしたものか……」
穏乃「この時代で行くあてなんてないし……兎に角、元の時代に帰る方法を探さないと」
郁乃「あ、やっと見付けた~」
穏乃「え? 私ですか?」
郁乃「せやで~。困っとるやろ~思うてな~」
穏乃「なんでその事を……アナタは一体……」
郁乃「私は赤阪郁乃言うてな~、この阿知賀女子麻雀部の顧問をやっとるよ~」
穏乃「赤……阪さん?」
郁乃「よろしゅうな~、高鴨穏乃ちゃん?」
穏乃「え?」
穏乃(この人、どうして私の名前を……それに見付けたって……。まさか……)
穏乃「……この状況について、説明してもらえませんか?」
郁乃「賢しい子やね~。嫌いやないよ~」
穏乃「私の質問に答えてください」
郁乃「でも、せっかちな子供は嫌いやで~?」
穏乃「話しをはぐらかす大人も嫌いです」
郁乃「恐い顔しないで~な~。立ち話もあれやし~、場所を変えよか~」
穏乃(掴みどころのない人だな……)
~赤阪家~
郁乃「一人暮らしやから遠慮せずにあがってな~」
穏乃「おじゃまします……」
穏乃(こんな大きな一軒家で一人暮らし?)
郁乃「まあ、すぐに二人暮らしになるけどな~」
穏乃「誰か引っ越してくるんですか?」
郁乃「アンタやで~、穏乃ちゃん」
穏乃「え? どういう意味ですか?」
郁乃「この時代で行くあてなんかないやろ~? せやからうちに住めばええよ~」
穏乃「……素性も知らない人の下に身を寄せろと?」
穏乃「それに私は身寄せできる場所よりも、元の時代に戻る方法が知りたいのですが」
郁乃「戻れない、って言うたらどないする~?」
穏乃「もど……れない……?」
郁乃「今のままでは、が付くけどな~」
穏乃「どういう意味ですか? いや、それ以前にアナタはなぜそんな事を知っているんですか?」
郁乃「私の事は取り合えず横に置いといて~」
郁乃「アンタ、どうしてこの時代に来たか覚えとる~?」
穏乃「覚えてるもなにも、私はただインハイの準決勝を戦っていただけで……」
郁乃「インハイの準決勝を戦っていたら一〇年前にタイムスリップしていた、という事は、またインハイの準決勝に行けばタイムスリップできるかも。そう思わん?」
穏乃「『インハイの準決勝』がタイムマシンになっているとでも言いたいんですか?」
郁乃「そんなワケないや~ん。そもそもアンタをこの時代に飛ばしたんは私やし~」
穏乃「……今なんと?」
郁乃「せやから、私がアンタをこの時代に飛ばしたんよ~」
穏乃「そんな! どうやって!?」
郁乃「私の能力みたいなものやよ~。まあ、いろいろと条件があるけど~」
穏乃「……つまり、『インハイの準決勝』がその条件、という事ですか?」
郁乃「察しがええなあ~。でもそれじゃあ半分やで~」
穏乃「半分?」
郁乃「『インハイの準決勝』は場所の条件。もう半分はタイムトラベルする人間の条件や~」
穏乃「……今のままでは、場所の条件を満たしても元の時代に戻れない?」
郁乃「その通りや~」
穏乃「ならその、人間の条件というのはなんなのですか?」
郁乃「アンタ、麻雀弱いやろ~?」
穏乃「……」
郁乃「あ、気ぃ悪くせんといてな~。あくまで、魔物クラスと比べたらの話しやで~?」
穏乃「いえ、私が弱いのは事実ですから……」
郁乃「も~、だから気ぃ悪くせんといてって言っとるや~ん。それに、強くなる為にこの時代に来たんやから~」
穏乃「強く? それがもう一つの条件ですか?」
郁乃「せやで~。私のタイムスリップが発動するのは『弱い人』が『負けられない戦いに挑む時』なんよ~」
穏乃「そして、『強くなってもう一度同じ舞台に立つ』。そうすれば、元の時代に戻れる……。そういう事ですね?」
郁乃「今度は満点正解やね~」
穏乃「でもその為にはまず、この時代の阿知賀の生徒にならくちゃいけない……」
郁乃「そういう細かい事は心配無用やよ~」
穏乃「本当ですか?」
郁乃「この時代の私は阿知賀の教師やから、穏乃ちゃん一人ぐらいなら転校生としてねじ込めるで~」
穏乃「ねじ込むって言い方はどうかと思いますけど……そういう事でしたらお願いします」
郁乃「おまかせや~」
穏乃「それで、私の名前なんですけど……」
郁乃「名前がどうかした~?」
穏乃「この町には一〇年前の私かすでにいるんです。ですから、この時代では『原村和』と名乗っておきたいんです」
郁乃「判ったで~。それと、登校は明日からやからな~」
穏乃「そんなに早く転入の手続きなんてできるんですか?」
郁乃「善は急げやからな~」
郁乃「でも、一つだけええか~?」
穏乃「なんですか?」
郁乃「裸ジャージはどうかと思うわ~」
穏乃「放っておいてください!」
~翌日~
穏乃「初めまして。今日からこのクラスでお世話になる事になりました、原村和です。よろしくお願いします」ペコリン
穏乃(本当に翌日にねじ込むとは……。しかも赤阪さん、担任だし)
郁乃「それじゃあ和ちゃんは晴絵ちゃんの隣の席な~」
晴絵「まさか転入生だったとは、ビックリしたよ」
穏乃「赤土さん……」
晴絵「晴絵でいいよ、和」
穏乃「判ったよ、晴絵」
穏乃(正直違和感しかないけど……)
~放課後 麻雀部 部室~
郁乃「というワケで~、新入部員の原村和ちゃんで~す」
穏乃「よろしくおねがいします」
晴絵「こちらこそ」
望「改めて、よろしくね」
郁乃「それじゃあ所信表明でもしてもらおか~」
穏乃「所信表明ですか?」
郁乃「まあ、目標でもええけど~」
穏乃「……目標は、インターハイ優勝です!」
部員全員「「「お~お」」」
晴絵「インハイ優勝とは、大きくでたな」
望「でも、奈良には三〇年間連続でインハイに出場している晩成高校がいるのよ?」
穏乃「だったらその晩成を倒せばいい、それだけだよ」
晴絵「へ~、言うじゃないか。気に入ったよ」
郁乃「ええ感じに志気が上がってきたな~。さあ、地区予選に向けて練習しよか~」
部員全員「「「はい!」」」
~部活中~
晴絵「和、デカイ口きくだけあってなかなか強いじゃないか」
穏乃「私なんてまだまだだよ。晴絵には勝ててないし」
望「晴絵はうちで一番強いからね、仕方ないよ」
穏乃「でも、今のままじゃインハイ優勝なんて夢のまた夢……」
望「本当に狙ってるんだ」
穏乃「私にはインハイに行かなきゃならない理由があるから……」
晴絵「理由?」
穏乃「……とある人と、インハイの決勝で会おうって約束したんだ」
晴絵「約束……か」
望「その人は和にとってどんな人なの?」
穏乃「……とても大切な友達、かな」
晴絵「そうか……。なら、絶対に行かなきゃな、インハイ」
穏乃「うん……必ず」
~部活終了後~
郁乃「の~ど~か~ちゃ~ん♪ 帰りましょ~♪」
穏乃「あ、はい」
望「なになに? どういう事?」
郁乃「和ちゃんと私は同棲しとるんよ~」
晴絵「マジで?」
穏乃「まあ、ね」
望「二人って親戚なの?」
郁乃「人類皆兄弟やで~」
晴絵「さすが先生! 心が広い!」
望「いいのかそんなんで!?」
穏乃「私は居座らせてもらってる立場だからなんとも……」
郁乃「細かい事は気にせんように~」ニッコリ
望「は、はい……」
~帰宅道中~
郁乃「なあ~、穏乃ちゃ~ん?」
穏乃「なんですか?」
郁乃「お料理できる~?」
穏乃「できますよ。人並み程度になら、ですけど」
郁乃「よしよし、今日から穏乃ちゃんをお料理担当に任命しま~す♪」
穏乃「料理担当、ですか?」
郁乃「二人暮らしなんやから~、家事を分担した方がええやろ~?」
穏乃「ああ、そういう事ですか。だったら分担なんて言わずに、私に一任してもらえませんか?」
郁乃「え?」
穏乃「私は居座らせてもらっている立場ですから、それぐらいはやらせてください」
郁乃「それは助かるけど~、全部押し付けるんは心苦しいなぁ~」
穏乃「なら、手の空いている時には手伝ってもらう、という事でどうでしょう?」
郁乃「了解やで~」
穏乃「それじゃあスーパーに買い物に行くので、さっそく手伝ってもらえますか?」
郁乃「おまかせあれや~」
~スーパー阿知賀~
穏乃「なにか夕飯のリクエストはありますか?」
郁乃「そ~やね~、フグ刺しがええ~な~」
穏乃「スーパーでフグなんて売ってるワケないでしょ」
郁乃「その言い方なら~、フグが売ってたらフグにしてくれるん~?」
穏乃「まあ、フグのさばき方ぐらいなら知ってますけど……」
郁乃「なんで!?」
穏乃「あ、新ジャガが売ってますね。今日は肉じゃがにしましょう」
郁乃「ねえなんで!?」
~赤阪家 台所~
郁乃「ほえ~、穏乃ちゃんは手慣れてるんやね~」
穏乃「人並みですよ……って、摘み食いしないでください」
郁乃「味見や味見~。うん、おいしい~」
穏乃「お口に合ったのなら幸いですが、邪魔をするならテレビでも見て大人しく待っていてください」
穏乃「もう少しでできあがりますから」
郁乃「はいは~い」
穏乃「返事は一回ですよ」
郁乃「は~い」
~夕食~
穏乃「はい、できあがりましたよ」
郁乃「ありがと~な。う~ん、食欲をそそるいい匂いやね~」
郁乃「いただきま~す」
穏乃「どうぞ召し上がれ」
パクパク
郁乃「やっぱり穏乃ちゃんはええ腕しとるよ~。こりゃ将来はええお嫁さんになるな~」
穏乃「相手がいませんよ」
郁乃「そうな~ん? 穏乃ちゃんかわええから相手ぐらいおりそうやけど~」
穏乃「そういうのは私じゃなく、憧や玄さんでしょうね。それに、今はそれよりも重要な事がありますから」
郁乃「そういうもんなんか~?」
穏乃「そういうものです」
郁乃「ごちそうさ~ん」
穏乃「お粗末様でした」
郁乃「なあ穏乃ちゃ~ん、お風呂入ろ~?」
穏乃「ダメですよ、食器の片付けがあります。先に入っちゃってください」
郁乃「え~、一緒に入りたいや~ん」
穏乃「そもそも、この家のお風呂じゃあ二人は入れないでしょう?」
郁乃「なら待ってるから松実館の温泉に行こうや~。あそこは温泉だけでもオーケーやったはずやし~」
穏乃「松実館……」
郁乃「……温泉関係なく、行ってみる?」
穏乃「そう……ですね……」
郁乃「あれ? でもこの時代やったら、まだ松実姉妹ちゃんは知り合いやないんやないの~?」
穏乃「宥さんと玄さんとはまだですけど、お二人のお母さんとは少し面識があるんです」
穏乃「……あと一年、だったかな」
郁乃「一年?」
穏乃「松実さん、亡くなられるんです」
郁乃「そう……なん……」
穏乃「でも、悲しい事ばかりでもないんです。別れがあれば出会いもある」
穏乃「玄さんと知り合ったのは、松実さんのお葬式の時でしたから」
郁乃「……松実さんが、二人を引き合わせてくれたんかね~」
穏乃「そう思っています」
穏乃「さて、洗い物も終わりましたし、行きましょうか」
郁乃「お~!」
~松実館~
郁乃「温泉貸してくださいな~」
松実母「いらっしゃいませ。温泉ですね? あちらの通路の奥にございますので、ご利用ください」
穏乃「……ありがとうございます」
穏乃(松実さん、まだ元気そうだ……)
松実母「あれ? 貴女……」
穏乃「……」
松実母「もしかして……穏乃ちゃん?」
穏乃「!?」
穏乃「……判るんですか?」
松実母「やっぱり。大きくなったわね、高校生くらいかしら?」
穏乃「高校一年です。……驚かないんですか? この時代の私は、まだ六歳なのに……」
松実母「長く生きていると、不思議な出来事にも出会うものよ。これぐらいじゃあ驚かないわ」
穏乃「はあ……」
松実母「納得できない? でも今、その不思議な出来事の中心にいるのは貴女なんじゃない?」
穏乃「それはそうなんですけど……どうしても釈然としません」
松実母「フフ、大人の余裕だと思って許してね?」
穏乃「……変わりませんね、松実さん」
松実母「そういう穏乃ちゃんは変わったわね。一〇年経っているだから当たり前だけど……」
松実母「取り合えず温泉入ってくれば? お友達も待ってるみたいだし」
穏乃「そうさせてもらいます」
松実母「それと、一つだけいいかしら?」
穏乃「なんですか?」
松実母「裸ジャージはどうかと思うわ」
穏乃「放っておいてください!」
確かに『穏乃』と『郁乃』は見づらいですね・・・
『穏乃』は『シズ』という表記にした方がいいでしょうか?
レスありがとうございます
一応『穏乃』表記で続けようと思います
~松実館 温泉~
郁乃「ああ~、ええお湯やね~」
穏乃「そうですね。ここの温泉はいつの時代でも変わらない……」
郁乃「それよりも、穏乃ちゃん」
穏乃「なんですか?」
郁乃「『原村和』を名乗るには、些か以上に貧相やないか? 胸が」
穏乃「あれとは比べないでください! それに和に比べれば赤阪さんだって貧相でしょう!」
郁乃「私は平均はあるからええんよ~」
穏乃「クッ!」
~赤阪家~
郁乃「温泉、楽しかったな~」
穏乃「……もうお嫁に行けない」
郁乃「そんな大げさな~」
穏乃「あの後松実さんまでやって来て……二人してあんな事を……」
郁乃「まあまあ~、本物の原村和に近づく為やと思うてあきらめ~や~」
穏乃「揉んで大きくなるなら今頃悩んでなんか……あ」
郁乃「へぇ~。試した事あるんや~?」
穏乃「うぅ……」
郁乃「別に引け目を感じる事はないや~ん。自分の身体にコンプレックスを抱えるのは至極当然の事や~」
郁乃「そういう涙ぐましい努力もな~」
穏乃「涙ぐましいとか言わないでください!」
郁乃「また手伝ってあげよか~?」
穏乃「結構です!」
穏乃「それより、強くなる為の手伝いをしてもらえませんか?」
郁乃「いきなり本題やね~」
穏乃「強くならないと……なにも始まりませんから」
郁乃「せやね~。でも、急いては事をし損じると言うで~」
穏乃「……私はインハイまでできる限りの努力をして来たつもりでした」
穏乃「でも、それじゃあ足りなかった。本当に強い人達の前ではどうしようもなかった……」
穏乃「だから、急ぎすぎるなんて事はないんです」
郁乃「穏乃ちゃんは元気やな~。でも、私はもう疲れたわ~」
穏乃「ちょっと赤阪さん!」
郁乃「大丈夫~。明日はちゃんと修行に付き合ってあげるから~」
穏乃「本当ですか……」
郁乃「ホントやホント~。私はウソは吐かんよ~」
穏乃「でしょうね」
郁乃「判ってくれた~?」
穏乃「貴女はウソは吐かない。けどその代わり真実も話さない。そういう人ですもんね」
郁乃「よくご存じで~」
穏乃「では、明日はサプライズのような物があると思っていいんですね?」
郁乃「それじゃあサプライズにならんや~ん」
穏乃「もうその反応がサプライズですよ」
郁乃「え~?」
穏乃「まあ、今日は色々あって疲れました。私ももう寝かせてもらいます」
郁乃「だったら~」ギュッ
穏乃「なんで急に抱きついてくるんですか?」
郁乃「判っとるクセに~」
穏乃「子供じゃないんですから一人で寝てください」
郁乃「でも穏乃ちゃんはまだ子供やろ~?」
穏乃「なら大人になる為にも、一人で寝る練習をしなくてはいけませんね」
郁乃「も~! 穏乃ちゃんのいけず~!」
~翌朝 赤阪家~
郁乃「おはよ~……」ネムネム
穏乃「おはようございます、赤阪さん。もう少しで朝食できますからね」
郁乃「ありがと~……。穏乃ちゃんは早起きさんなんやね~」
穏乃「赤阪さんがお寝坊さんなだけです。結局、昨夜私の布団に忍び込んでくるからですよ」
郁乃「なら条件は穏乃ちゃんと一緒やないか~。どうして穏乃ちゃんだけ早く起きられるん~?」
穏乃「気の持ちようです。常に緊張感を持って生活していれば、寝坊なんかしませんよ」
郁乃「え~、穏乃ちゃんも寝坊してそうやのに~」
穏乃「べ、別にインハイ当日に寝坊しそうになったとかはありませんよ……」
郁乃「それはそれですごい事やな……」
穏乃「できましたよ」
郁乃「朝はアジの開きやね~、美味しそうや~。いただきま~す」
穏乃「はい、召し上がれ」
パクパク
郁乃「う~ん、やっぱ日本人の朝食はこうでないとな~」
穏乃「赤阪さんは、朝食は和食派なんですか?」
郁乃「別に和食やないとダメって事はないで~。パンがいいと思う日もあるしな~」
穏乃「それでは朝食はランダムでいいですね。前日に安かった物、という事で」
郁乃「穏乃ちゃんに任せるで~」
穏乃「はい、任されました」
穏乃「そうそう。お弁当も作っておきましたから、持って行ってくださいね」
郁乃「……」
穏乃「あれ? もしかして余計でしたか?」
郁乃「いや、そうやないんよ~。ただ、お弁当なんて学生の時以来やから、ちょっと感慨深くてな~……」
穏乃「喜んでい頂けたのなら幸いです」
郁乃「毎日作ってくれるん~? 大変やない~?」
穏乃「朝食を作るついでに作れますから、問題ありませんよ」
郁乃「穏乃ちゃん、ホンマに女子力高いな~。惚れてまうわ~」
穏乃「惚れる前に学校へ行く支度をしてください。ほら、髪の毛まだ跳ねてますよ」
郁乃「穏乃ちゃん髪とかして~」
穏乃「はぁ、判りましたよ」
郁乃「ありがとうなぁ~♪」
~教室 朝のHR~
郁乃「さあ、出席確認するで~♪」
晴絵「先生、今朝はやけにご機嫌ですね。なにかいい事でもあったんですか?」
郁乃「まあ~ねえ~♪」
望「今日は髪がサラサラみたいですけど、それですか?」
郁乃「あ、判っちゃう~? 実は~、今日の髪は和ちゃんがセットしてくれたんよ~♪」
クラス全員「「「!?」」」
穏乃「あ、赤阪さん! 学校でそういう事を――」
クラス全員「「「キマシタワー!!!」」」
穏乃「!?」
穏乃(そ、そうか。阿知賀ってお嬢様学校だから、こういう話しに敏感なんだ……)
穏乃「へ、変な誤解をしないように! 赤阪さんも学校でプライベートの話しをしないでください!!」
郁乃「え~、昨夜の話もしちゃいかんの~?」
穏乃「なんですか昨夜の話って!」
ざわ……ざわ……
キマシ……キマシ……
穏乃(クッ! 根の葉もないウワサでもこの人たちにはいい栄養という事か……)
穏乃「と、兎に角、HRを続けてください」
郁乃「……昨夜はあんなに愛し合ったのに」
穏乃「ちょ!?」
クラス全員「「「キマシツリー!!!」」」
晴絵「せ、先生、昨夜の事を詳しく」
穏乃「晴絵!?」
郁乃「昨夜、急に和ちゃんが私の布団に入り込んできて、嫌がる私を無理矢理……」
穏乃「それは赤阪さんでしょう! 住居費だからって……」
クラス全員「「「攻守逆!?」」」
穏乃「あ、いや……」
望「あれ? 今度は否定しないの?」
穏乃「そ、その……」
郁乃「ホントの事やもんね~」
穏乃「……はい」
クラス全員「「「すばらっ!!!」」」
~お昼休み~
郁乃「の~ど~か~ちゃ~ん♪ お昼にしましょう♪」
穏乃「悪いですけど、晴絵たちとの先約がありますから」
郁乃「え~」
望「いいじゃない、先生が一緒でも。ねえ、晴絵?」
晴絵「もちろん。先生にはいろいろと訊きたい事もあるし」
郁乃「ありがとうな~、二人とも~」
穏乃「……」
郁乃「なんや、穏乃ちゃんは私と一緒は嫌なんか?」
穏乃「べつにそういうワケじゃありませんけど……」
望「HRでの事をまだ気にしてるの?」
穏乃「……」
晴絵「なら、仲直りする為にも一緒に食べないとね」
~屋上~
穏乃「……」パクパク
郁乃「ねえ~、和ちゃ~ん。食べさせっこしよ~」
穏乃「お弁当の中身は同じなんですから意味ないでしょう」
郁乃「食べさせ合うからええんや~ん」
穏乃「そんな事言って、嫌いなものを私に食べさせようとしてるだけでしょう?」
郁乃「だ、だってピーマン苦いんだも~ん」
穏乃「ピーマンは栄養があるんです。ちゃんと食べてください」
郁乃「だって~」
穏乃「はぁ、しょうがないですね……。はい、あーんしてください」
郁乃「え……?」
穏乃「食べさせてあげます。ただし、赤阪さんの嫌いなものだけですけど」
郁乃「和ちゃん……」
穏乃「食べるんですか? 食べないんですか?」
郁乃「食べるに決まっとるや~ん!」パク
晴絵「……なんか、私ら邪魔者みたいだな」
望「いいんじゃない? ラブラブな二人が見られたんだし」
晴絵「でも、見せつけられるだけっていうのもなぁ~」
望「ならこっちも見せつけてやる?」
晴絵「え?」
望「はい、あーん」
晴絵「あ、あーん……」パク
望「美味しい?」
晴絵「う、うん……」
望「よかった」
晴絵「……」カアァァ
穏乃「……熱いですね」
郁乃「……熱いな~」
郁乃「それで和ちゃ~ん」
穏乃「なんですか?」
郁乃「その~、HRではごめんな。私、舞い上がってしもうて……」
穏乃「……もういいですよ。べつに気にしてませんし」
郁乃「ホンマ~?」
穏乃「本当です」
郁乃「じゃあ今日も夜這いしてもええ?」
穏乃「ダメです!」
郁乃「やっぱりまだ怒ってるや~ん」
穏乃「当たり前です! 昨夜だって嫌だって言ってるのに結局最後まで……」
郁乃「だって和ちゃんがかわええからつい~」
穏乃「と、兎に角今日はなしですからね!」
郁乃「う~……」
晴絵「……なんだ、今の会話は」
望「聞かなかった事にしよう。教師と生徒の交際なんてなかった」
晴絵「い、いいのか?」
望「リークしてもいけど、麻雀部はなくなるよ?」
晴絵「よし、私はなにも見なかった、聞かなかった」
望「聞き分けがいいのは美徳だ」
晴絵「……アンタは一体なにキャラなの?」
望「気にしな~い気にしな~い」
晴絵「なんだかな~」
~放課後 麻雀部~
郁乃「さあ~て、部活を始めるで~♪」
部員全員「「「はい!」」」
穏乃「赤阪さん」
郁乃「なあ~に?」
穏乃「強くなる為のサプライズっていうのは、なんですか?」
郁乃「せっかちさんやね~」
穏乃「言ったハズです。急ぎすぎるという事はないと」
郁乃「家に帰ってからな~」
穏乃「……」
麻雀部員①「今の聞きました?」ヒソヒソ
麻雀部員②「もちろんですわ。家に帰ってから……意味深ですわね」ヒソヒソ
麻雀部員③「いえいえ、むしろストレート過ぎますわ」ヒソヒソ
麻雀部員④「皆さん、少し興奮しすぎではありませんか?」ヒソヒソ
麻雀部員⑤「あら、ご自分が一番聞き耳を立てていたクセに」ヒソヒソ
麻雀部部員⑥「まあ、なんにしてもすばらですよ!」ヒソヒソ
穏乃「……部内にまで変なウワサが」
晴絵「事実だからしょうがない」
望「そうだね」
郁乃「そうやで~」
穏乃「……いいのかこれ?」
~帰路~
穏乃「本当に部活中はなにもないんですね……」
郁乃「特訓するんは穏乃ちゃんだけでええからな~」
穏乃「チーム全体の底上げをすればいいじゃないですか」
郁乃「それができれば一番なんやけど~、多分他の子には耐えられんと思うんよ~」
穏乃「耐えられない?」
郁乃「私が直々に相手してあげるからな~」
穏乃「……変な意味じゃないでしょうね?」
郁乃「信頼ないな~。それとも期待しとる~?」
穏乃「強くなれるならなんでもいいですけどね」
郁乃「なんでも~?」
穏乃「肉体関係はなしですよ」
郁乃「なら、今日の夕飯はハンバーグを所望します~!」
穏乃「なぜ夕飯の話になるんですか……。まあ、考える手間が省けていいですけど」
郁乃「わ~い♪」
~夕食後 赤阪家~
郁乃「ごちそうさま~。穏乃ちゃんが作ってくれたハンバーグ、美味かったな~」
穏乃「お粗末様でした。よろこんでいただけたのならなによりです」
郁乃「空腹も満たしたし、練習と行こか~」
穏乃「ようやく本題ですね。なにをすればいいんですか?」
郁乃「私と二人打ちやで~」
穏乃「それだけですか?」
郁乃「打ってみれば判るで~」
穏乃「はあ……」
~対局~
郁乃「ロン」
郁乃「ロン」
郁乃「ロン」
郁乃「ロン」
郁乃「ロン」
郁乃「ロン」
郁乃「ロン」
郁乃「ロン」
穏乃「勝てない……。全部振り込まされた……」レイプメ
郁乃「あ~、ちょっとやり過ぎちゃった~?」
穏乃「もう一回お願いします!」キラキラ
郁乃「そうこなくっちゃな~」
郁乃「せやけどもう一回打つ前に、なぜ全部振り込まされたのか、考える必要があるやろ~?」
穏乃「そ、そうですね。それで、どうやったんですか? 私は最善と思う打ち方をしたハズですけど……」
郁乃「ホントにそう~?」
穏乃「え?」
郁乃「ホントに最善やったら振り込んどらんハズやろ~?」
穏乃「それは、そうですけど……」
郁乃「じゃあ最後のドラ切りはなんや~? 私はリーチかけてて、しかもしかもドラはスジやったろ~?」
穏乃「今までの赤阪さんの待ちはスジと見せかけて、こちらが逃げる手を狙われたので、突っ張ってみようと思って」
郁乃「でも結局当たり牌やったろ~?」
穏乃「う……」
郁乃「ちょっとイジワルやったかな~? つまり、穏乃ちゃんをそうやって打つように誘導したんよ」
穏乃「そ、そんな事ができるんですか!?」
郁乃「今やってみせたやろ~。まあ、そんな簡単にできる事やないけどな~」
~二時間後~
穏乃「……一度も和了れなかった」レイプメ
郁乃「ゴメンな~。でも本気にさせる穏乃ちゃんが悪いんやで~?」
穏乃「……お風呂入って来ます」
郁乃「あ~、それなら松実館行こうや~。また一緒に入りたいし~」
穏乃「……」
郁乃「松実さんにも会えるで~?」
穏乃「……行きます」
郁乃「それはそれでなんか妬けるわ~」ボソ
穏乃「なにか言いましたか?」
郁乃「なんでもあらへんよ~」
ごめんなさい、夕飯食べて来ます
~松実館 温泉~
郁乃「ふぅ~、やっぱり広い風呂はええな~」
穏乃「それで、さっきの特訓にはどんな意味があったんですか?」
郁乃「ん~? 意味~?」
穏乃「それを意識しながら打てば、効率も上がると思うんですけど」
郁乃「準決勝に行く頃には判るかもな~」
穏乃「なんですか、それは?」
郁乃「自分で考えなさいって事やで~」
穏乃「はあ……」
郁乃「それよりも~」ワキワキ
穏乃「ま、まさか……」
郁乃「昨日の続きや!」ガバッ
穏乃「いやー!」
~松実館 玄関ホール~
穏乃「うぅ~……」
松実母「あら、また郁乃さんに変な事されたの?」
郁乃「私がいつも穏乃ちゃんに変な事しているみたいな言い方やめてくださいよ~」
松実母「違うの?」
郁乃「違いません!」
松実母「いい返事ね」
穏乃「そもそも変な事をしなければいいんですよ!」
郁乃&松実母「え~」
穏乃「『え~』じゃないでしょうが、もう!」
?赤阪家 夜?
郁乃「なあ?、穏乃ちゃ?ん」
穏乃「今夜は絶対にダメですからね」
郁乃「穏乃ちゃんのドケチ?」
穏乃「赤阪さんが節操がないだけです」
郁乃「ぷ?う」
穏乃「むくれて見せたってダメです。私はもう寝ますからね」
郁乃「せ、せやったらせめて同じ布団で寝んか?」
穏乃「……」
郁乃「ダメめ……?」ウルウル
穏乃「まあ、妥協点としは妥当なところですか」
郁乃「わ?い!」
穏乃(まったく、一緒に寝るかどうかでこんなに一喜一憂すてもらえるなら、安いものですよ)
郁乃「ん? なんや、人の顔ジィ?と見て。私の顔になんか付いとる??」
穏乃「いえ、なにも」
?翌日 阿智賀女子?
晴絵「な、なあ和、昨夜はなにかあったか?」
穏乃「開口一番なに言ってるのさ……」
望「昨日、和と先生の話聞いてからずっとこんな感じなんだよ」
穏乃(そう言えば赤土さんの浮いた話とか聞いた事なかったけど、まさか……)
晴絵「なあ、どうなんだ!?」
穏乃「昨夜はなにもなかったよ」
晴絵「本当か……?」
穏乃「本当だよ」
晴絵「な?んだ」
望「失礼でしょう」
穏乃「いいよ。晴絵がそういう人だって認識したから」
晴絵「ち、違う!?」
穏乃「いいんだよ、晴絵。晴絵だって年頃の女の子なんだから、そういう事に興味があってもおかしくないもんね」
晴絵「そ、そんな慈愛の眼差しをむけるなー!!」
あれ?文字化けしてる?
~放課後 麻雀部~
郁乃「さあ~、今日も始めるで~」
部員全員「「「はい!!!」」」
晴絵「あれ? 和、打ち方ちょっと変じゃない?」
穏乃「そ、そう?」
晴絵「うん。なんか昨日と打ち方が違う。昨日はもうちょっと突っ張ってたと思うけど……」
穏乃「わ、私だって降りる時には降りるよ?」
晴絵「まあ、そうかも知れないけど……」
穏乃(昨日の赤阪さんとの修行でひよってるなんて言えない……)
望「やっぱり昨夜なにかあったの?」
穏乃「な、なんでそう思うの?」
望「だって、部活が始まったら急に表情が固くなったし」
穏乃(うぅ……。望さん、この頃から人の気持ちに敏感だなぁ)
穏乃(昔憧とケンカした時も、なにも言ってないのに望さんがいち早く察知してくれて、アドバイスしてくれたし)
望「ねえ、どうなの?」
穏乃「本当になんでもないよ」
望「そう? ならいいんだけど、悩みがあったら言ってね? 微力ながら力になるわよ?」
穏乃「なにかあったら相談する事にするよ。ありがとう」
穏乃(……なんだか、こういうのもいいなぁ)
~帰路~
郁乃「穏乃ちゃ~ん、今日の部活はどうやった~?」
穏乃「昨日と特に違いはありませんでしたけど……って、赤阪さんもいたじゃないですか」
郁乃「そうやのうて~、麻雀の方や~」
穏乃「麻雀、ですか?」
郁乃「昨日と打ち方変わったんやない~」
穏乃「う……。さすがに鋭いですね」
郁乃「これでもアンタの師匠やからね~。それで、どうやった~?」
穏乃「……ひよっていつも通りの打ち方ができませんでした」
郁乃「さよか~。やっぱり穏乃ちゃんは私の見込み通りの子やね~」
穏乃「……バカにしてるんですか?」
郁乃「そんな事ないよ~。普通の子はね、昨夜みたいな打ち方されたら牌すら触りたくなくなるんよ~」
穏乃「昨日言っていた『耐えられない』って、そういう意味だったんですか……」
郁乃「せやで~。でも、穏乃ちゃんは大丈夫みたいやし、問題あらへんな~」
穏乃「あの修行を続けるって事ですか?」
郁乃「その通りやで~。その内成果が出てくると思うしな~」
穏乃「まあ、私に選択肢はないワケですが……」
郁乃「私を信じてや~」
穏乃「その一言で信頼しきれなくなりました」
郁乃「なんで!?」
~一週間後 麻雀部~
穏乃「ロン」
望「あちゃ~、また和にやられちゃったか~」
晴絵「最近調子がいいな、和」
晴絵「突っ張ってるのになかなか振り込まないし、降りる時はキレイに降りるし」
望「なんか吹っ切れたって感じよね~」
穏乃「まあね」
穏乃(ようやく修行の成果が出て来たってとこかな)
望「ねえ、なにか秘訣でもあるの?」
穏乃「なにもないよ。でも、強いて言うなら努力かな」
晴絵「は! 言うようになったじゃないか!」
穏乃「お陰様で、ね」
~帰路~
郁乃「穏乃ちゃん、最近調子ええらしいな~」
穏乃「ええ、まあ。修行の成果ですかね」
郁乃「なにか判ってきたんか~?」
穏乃「少し……牌の声が聞こえるようになりました」
郁乃「お~、穏乃ちゃんは私の見込み以上かも知れんね~。もう牌の声が判るようになったか~」
穏乃「まだノイズってレベルですし、赤阪さん相手だとまるで聞こえなくなっちゃいますけど」
郁乃「十分や~。続けていればもっとよく聞こえるようになるハズやで~」
穏乃「それでも赤阪さんに勝てる気がしませんよ」
郁乃「師匠に勝とうなんて一〇年早いで~」
~二ヶ月後 地区大会~
晴絵「つ、ついにこの日が来たな……」
望「晴絵、もしかして緊張してるの?」
晴絵「わ、私だって緊張ぐらいするさ。そういう望はどうなんだよ」
望「……実はガクガクです」
穏乃「ふふ」
晴絵「な、なに笑ってるんだよ、和」
穏乃「緊張してる二人、かわいいなぁ~って思っただけだよ」
望「なによー、和は緊張してないって言うの?」
穏乃「二人よりは、ね」
晴絵「和のクセに~!」
穏乃「悔しかったら緊張を解す事だね」
晴絵「わ、判ってるよ」
~トーナメント発表~
晴絵「一回戦からいきなり晩成と……」
穏乃「関係ないよ。勝ち続ければいつかは当たるんだから。それが少し早まっただけ」
望「そうだけど……」
郁乃「和ちゃんの言う通りやで~」
晴絵「先生……」
郁乃「大丈夫や。今のアンタらなら晩成にだって勝てる」
望「だけど、晩成はこの三〇年間一回もインハイ出場を逃してないんですよ? そんな強豪校に……」
穏乃「だったら、私たちがその『一回』をつくればいいんだよ」
晴絵「……そう、だよね。うん、そうだ!」
望「晴絵?」
晴絵「燃えてきたッ!」
望「単純だなぁ」
郁乃「うんうん。それでこそやで~」
阿知賀のオーダー
先鋒:赤土晴絵
次鋒:モブ①
中堅:新子望
副将:モブ②
大将:原村和(高鴨穏乃)
~地区予選 一回戦 先鋒戦~
晩成先鋒「キングの闘牌はエンターテイメントなければならない! リーチ!」
晴絵「ロン!」
晩成先鋒「待って!!」
~地区予選 一回戦 中堅戦~
望「ポン!」
晩成中堅「三副露晒して満貫まであるじゃねえか! インチキ麻雀もいい加減にしやがれ!」
望「ツモ!」
~地区大会 一回戦 大将戦~
穏乃「ロン!」
晩成大将「こちらの待ちをキレイに躱して七対子? おい、普通の麻雀しろよ」
晴絵&望「一回戦突破!」
穏乃「やったね」
郁乃「なんや~、一番意欲のあった和ちゃんが一番反応が薄いな~」
穏乃「喜んではいますよ。でもインハイ決勝までの道のりは遠い。まだまだ気を抜けませんからね」
郁乃「和ちゃんは真面目さんやね~」
穏乃「浮かれて勝てるのなら、いくらでも浮かれますよ」
晴絵&望「……ゴメンナサイ」
穏乃「あ、いや、喜ぶ事がいけないって事じゃないよ?」
郁乃「真面目さんは空気が読めなくていかんな~」
穏乃「う……。と、兎に角勝てばいいんですよ!」
郁乃「そういう言い方もどうかと思うけどな~」
穏乃「うぅ……」
~以下キンクリ 地区大会終了~
晴絵&望「優勝したぞー!!」
穏乃「インハイ出場だね」
郁乃「やっぱりあんまり喜んでないな~」
穏乃「喜んでますって。ただ、緊張が解けて安堵してるだけです」
郁乃「さよか~?」
穏乃「それよりも祝賀会の話を」
郁乃「あ~、そやったね~」
晴絵「祝賀会あるんですか!?」
郁乃「当たり前や~ん。みんな、このあと時間あるよな~」
望「ありますけど、一応両親に連絡を入れとかないと……」
郁乃「それならもうしておいたで~。というかみんなに拒否権はないで~」
望「さすがというか、横暴というか……」
晴絵「それで、どこでやるんですか?」
郁乃「松実館やで~」
~松実館~
郁乃「お邪魔します~」
松実母「いらっしゃいませ……ううん、お帰りなさい、かしら」
穏乃「宣言通り、インハイの出場権を持って帰って来ましたよ」
松実母「テレビで見てたわ。さすがね、穏乃ちゃん」
望「穏乃?」
穏乃「み、みんなの前では『和』って呼んでくださいって言ったでしょう!」ヒソヒソ
松実母「あ、そうだったわね、和ちゃん」
望「ねえ、今聞き覚えのある名前が聞こえたんだけど」
穏乃「き、気のせいじゃない?」
望「そういえば、最初に会った時も思ったけど、和って誰かに似てる気がするんだよね……」
望「具体的に言えばそう……穏乃に」
穏乃(や、やっぱり望は鋭い……でも)
穏乃「穏乃って?」
望「前に話した事あるでしょう? 私の妹の友達」
穏乃「そうなんだ。それで、その子と私が似てるの?」
望「似てるって言っても、雰囲気、というか、感覚がっていうか……すごく曖昧な部分で、っていう話なんだけど」
穏乃「そういう人っているよね。ぱっと見の印象が他の人と被る人」
望「うん、まあね」
穏乃(こういう時はヘタに否定しないが吉)
郁乃「もうバラしてもいいんちゃうの~、穏乃ちゃん」
穏乃「な!?」
穏乃「な、なに言ってるんですか!?」
望「やっぱり穏乃、だよね」
郁乃「そうやで~。実はこの穏乃ちゃんは一〇年後の未来から来たんや~」
晴絵「へぇ~」
穏乃「……反応それだけ?」
望「先生は変な事は言うけど、決してウソは言わないからね。少なくともウソだとは思ってないよ」
望「それに、和……ううん、穏乃の言動も少しこの時代とはずれていたしね」
穏乃「でも、証拠もないのに……」
晴絵「お前のその反応が証拠みたいなものじゃないか」
穏乃「……」
晴絵「なあ、一つ訊いていいか?」
穏乃「なに……?」
晴絵「一〇年後では裸ジャージが流行ってるのか?」
穏乃「マイノリティだよ!」
~状況説明~
晴絵「ふ~ん、だからインハイ出場を目指してたんだ」
穏乃「ゴメン……」
望「なんで謝るの?」
穏乃「……みんなに、ウソ吐いていたから」
晴絵「でも大切な人との約束は本当なんでしょう?」
穏乃「うん……」
望「なら、頑張らないとね」
穏乃「……ありがとう」
郁乃「うんうん。謝るぐらいなら感謝した方がえええで~」
穏乃「誰のせいでこうなったと思ってるんですか……」
郁乃「悪い事ばかりやなかったろ~?」
穏乃「それはそうですけど……。赤阪さんに言われるとどうも釈然としません」
~いろいろキンクリしてさらに二ヶ月後 インターハイ~
晴絵「……ついに来たね、インターハイ」
望「穏乃は二回目?」
穏乃「うん……」
郁乃「今回はどんな気持ち~?」
穏乃「……前回よりは緊張してない、ですかね」
郁乃「勝てそう~?」
穏乃「そればっかりは実際に対局してみないと……」
晴絵「なんだよ。『勝ちます』ぐらい言ってみろよ」
穏乃「……」
望「ひよってる?」
穏乃「……かもね。でも、私は勝たなくちゃいけないから……」
郁乃「『私たちは』やろ~?」
穏乃「……はい」
~インターハイ 準決勝 先鋒戦~
晴絵(これが最強との呼び声高い土浦女子の先鋒……小鍛治健夜)
晴絵(気弱そうな顔をして、その実恐ろしい麻雀を打つ……)
晴絵(そういえば穏乃が言っていたな)
晴絵「……アラサーだって」ボソ
健夜「ティーンだよ!」トン
晴絵「あ、それロン」
健夜「へ?」
晴絵「跳満、12000」
健夜「……許さない」ゴゴゴゴゴ
晴絵「!?」ビクッ
~控え室~
穏乃「……伝説はこうやって作られたのか」
望「伝説って?」
穏乃「ああ!」
望「え?」
郁乃「未来ジョークやね~」
~先鋒戦終了~
晴絵「ゴメン……」
望「あんな麻雀されたんじゃ仕方ないよ」
晴絵「でも……」
穏乃「大丈夫。後ろには私たちがいるから」
望「そうだよ。なんの為のチームメイトさ」
晴絵「二人共……ありがとう」
郁乃(でも、穏乃ちゃんは大将戦が始まったらもう……)
~インターハイ 準決勝 大将戦~
穏乃「さて、私の出番だね」
晴絵「……行くのか?」
穏乃「うん」
望「また会える?」
穏乃「うまく行けば一〇年後に、ね」
晴絵「そうか……長いな」
穏乃「気長に待っててよ。必ず、また会えるから」
望「うん、待ってるよ」
穏乃「赤阪さん……」
郁乃「うん?」
穏乃「今まで、お世話になりました。この四ヶ月弱、いらいろありましたけど、楽しかったです」
郁乃「それはお互い様や~。私も穏乃ちゃんと一緒で楽しかったで~」
穏乃「……」
郁乃「……」
穏乃「……行ってきます」
郁乃「行ってらっしゃい」
~現在~
穏乃「ん? ……戻ってきた?」
晴絵「どうしたシズ? こんな大切な時にボーッとして」
穏乃「……晴絵?」
晴絵「え?」
穏乃「あ、ごめんなさい。なんでもないです。次、大将戦ですよね」
晴絵「穏乃……?」
穏乃「……うん」
晴絵「……本当に一〇年なんだな」
穏乃「待った?」
晴絵「きっかり一〇年待たせてもらったよ」
穏乃「……ゴメン」
晴絵「悪いと思うんだったら、今度こそ決勝進出を決めてみせろ」
穏乃「うん。必ず勝ってくるよ」
晴絵「よし、なら行ってこい。そして試合が終わったら赤阪先生のところに挨拶に行けよ」
穏乃「赤阪さん、来てるの?」
晴絵「姫松の監督代行をやってる。姫松も明日準決勝だよ」
穏乃「なら、吉報を持って行かないとね!」
憧&灼「なに、あの二人の空気感は!?」
~姫松の宿泊するホテル~
恭子「代行、お客さんです」
郁乃「お客さん?」
恭子「どうぞ」
穏乃「失礼します」
郁乃「……穏乃ちゃん」
穏乃「お久しぶりです……と言っても私としてはたかだか数時間ぶりの再会ですけど」
郁乃「感動の再会にそういう事を言うのはなしやで~」
穏乃「そうですよね……」
郁乃「……」
穏乃「……」
郁乃「……おかえり、穏乃ちゃん」
穏乃「はい、ただいまもどりました」
郁乃「それと決勝進出、おめでとう~」
穏乃「情報が早いですね。ビックリさせようと思ったんですけど」
郁乃「うちと当たるかも知れない相手やからな~。情報はちゃんとチェックしとるよ~?」
穏乃「光栄ですね」
郁乃「ちょ~っと寂しい気もするけどな~……」
郁乃「せや、紹介しとこか~。末原ちゃん、この子は高鴨穏乃ちゃん。阿知賀の大将をしとる子やで~」
恭子「末原恭子です。私も姫松の大将をしとります」
郁乃「穏乃ちゃんはね~、末原ちゃんの兄弟子に当たる子なんやで~」
穏乃「そうなんですか……」
恭子「兄弟子?」
郁乃「その内判るで~」
恭子「はぁ……」
穏乃「……それじゃあ私はこれで失礼します」
郁乃「なんや、もう帰るんか~? 明日は試合ないんやろ~? ゆっくりしていけばええや~ん」
穏乃「明日はそっちの試合があるでしょう? それに他校の私がいたらマズイですし」
郁乃「私はべつに構へんで~? それに、一〇年ぶりの穏乃ちゃんを感じたいし、な?」
穏乃「浮気はよくないですよ。今は末原さんがいるんでしょう?」
郁乃「私はこの一〇年、穏乃ちゃん一筋やで?」
穏乃「え……?」
郁乃「穏乃ちゃん」ギュッ
穏乃「あ……」
郁乃「今日、泊っていってくれるやろ?」
穏乃「……はい」
カン!
正直な話、アラフォーに「ティーンだよ!」というセリフを言わせたかっただけなんです、はい。
いや、ウソです。
でも、一〇年前とういう設定だからこそできるネタとかはあると思うんです。
このSSではあまりそういう設定は生かせてませんでしたけど。
ちなみにオレの中で代行は、妖怪のような設定になってます。
最後の方はグダグダになってしまいましたが、こんなSSに長らくお付き合いいただき、本当にすばらでした!
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