やよい「ロス:タイム:ライフ」 (89)

姉は懸命に走った



姉は家族のために走った



姉は家族のために戦った



姉は唯、家族の幸せだけを願っていた



姉は限りある時間の中で、家族のために生きようとした



あなたは最近いつ家族一緒にもやし祭りをしましたか






人生の無駄を清算する  生涯最後のひと時


それが  ロス:タイム:ライフ

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————朝


やよい「うぅ、やっぱりニンジンはちょっと難しいなぁ・・・」

やよい「お米のとぎ汁だけじゃやっぱり育たないのかなぁ・・・」

長介「いってきまーす」

やよい「いってらっしゃーい。あ、長介! 帰りにスーパーでたまご買ってきて! はいお金」

長介「たまご? なんで?」

やよい「えへへ、今日の晩御飯はなんとすきやきだよ!」

長介「あぁ、すきやき・・・・・・・・・・・・すきやき!?」

長介「す、すきやきってあのすきやきだよね!?」

やよい「そう! 4年に一回のすきやきだよ!」

長介「あれ? でもなんで? すきやきにたまごって使うの?」

やよい「春香さんから聞いたんだけど、すきやきって、たまごにつけて食べるんだって!」

長介「し、知らなかった・・・。」

やよい「だから今日は4年前とは違って、'本物の'すきやきだよ!」

長介「ホンモノ・・・」

長介「でもなんで急にそんなゼイタクを?」

やよい「実はね、今月少し余裕あるんだよー。 それに今日の特売、なんと牛肉一パック229円!!」

やよい「これなら私たちでも買えるし、たまにはそういうゼイタクもいいかなーって!」

長介「ちょ、ちょっと待って! 牛肉って言った? 今」

やよい「うん。今日のすきやきは豚肉じゃなくて牛肉だよ!」

長介「本当に本物のすきやきじゃん・・・。俺食べたことないよ・・・」

やよい「えへへ・・・実は私も」

長介「そう・・・姉ちゃんも・・・。わかった、たまご買って帰るよ。10個入りのやつだよね?」

やよい「そう! あ、でもいつものスーパーじゃない方ね」

長介「いつものじゃない・・・?」

やよい「そうだよ。 こらっ、嫌そうな顔しないの!」

長介「だって、それって遠い方じゃん・・・。」

やよい「だめだよ、そっちのスーパーじゃなきゃだめ。そっちの方が10円安いんだから!」

長介「10円って・・・。今月お金持ちなんだから、それくらい・・・」

やよい「そういうところはしっかりしないとめっ! 来月またおかずがおからともやししかなくなっちゃうよ!」

長介「ちぇー細かいなー。いってきまーす」

やよい「高いやつじゃなくていいからねー! 白いやつだよー!」

<わかってるよー

かすみ「お姉ちゃん・・・」

やよい「あれ、かすみ? 学校遅刻しちゃうよ?」

かすみ「お姉ちゃんはいいの?」

やよい「私は今日は開校記念日でお休みだよ。長介も浩太郎も浩司も行っちゃったよ?」

かすみ「あ、あのね、お姉ちゃん・・・」

やよい「なに?」

かすみ「あの・・・えっと・・・」


かすみ「・・・・・・やっぱなんでもない!」ダダダ

やよい「あ、かすみ? いってらっしゃい・・・」

やよい「なんだったんだろう・・・。うーん・・・。あ、回覧板回しとかないと」

やよい「あ、雨! かすみー! かさ!って持ってってるか。ううぅ、洗濯物どうしよう・・・通り雨だといいんだけど・・・」

やよい「やっぱり朝からお父さんもお母さんもいないと大変だなぁ・・・」

やよい「でも家に一人でいるって、なんだか新鮮かも! うっうー! 今日はお掃除頑張っちゃいますよー!」

————夕方

やよい「よーし・・・。お姉ちゃんが本物のすきやきを食べさせてあげますよー・・・」


  興奮プライス!!! 
            豪州産・牛切り落とし<もも・かた・ばら>すきやき用


   今日だけ特価 一パック(200g)  2 2 9 円 !!!!!
                      にっ!にくっ!


やよい「うっうー! なんだか体の内側がメラメラーって燃えてきたかも!」


やよい「雨もやんだし、お金も持ったし」

やよい「よーし、いくぞー!」ダッ



やよい「あ、猫」ピタッ

タッタッタッ

やよい「猫さん触ってたら、特売まで時間なくなっちゃいました!」


やよい「うぅ、すきやきが食べられなくなっちゃう!」

やよい「あ! こっちの方が近道かも!」

やよい「あんまり通ったことないけど・・・すきやきのためですー!」ダッ

やよい「にっにくー!」ダダダッ



やよい「あ、階段」

やよい「結構急な下りだけど・・・・・・急がないと!」タンッタンッ

やよい「急げー急げー!」タンッタンッ




ツルッ


やよい「あっ」



フラッ



やよい「えっ・・・・・・・・・・・・」



・・・・・・・・・・・・・・・。












ピピ—————————!!!



やよい「・・・・・・あれっ?」


主審「・・・。」

副審1「・・・。」

副審2「・・・。」

第4審判「・・・。」2:29


  高槻やよい 13歳 O型 おひつじ座
        145cm 37kg
    職 業:アイドル
    趣 味:オセロ・野球・家庭菜園
    死 因:転落死


青嶋『さぁ表示されました。高槻やよいのロスタイムは2時間29分です!』

折場『雨上がりの石段は特に滑りやすくなっていますから、注意してくださいね』

青嶋『えぇ、まったく同感です。さぁ高槻やよいはロスタイムを使って人生の一体何を清算するつもりなのでしょうか!?』

青嶋『実況は私青嶋達也が、解説は折場寛さんでお送りいたします。よろしくお願いします』

折場『よろしくお願いします』


やよい「あれっ? あの・・・?」


青嶋『彼女は普段から家庭の仕事をよくこなすと手元の資料にある訳ですが』

折場『はい。ですから、普段の生活の知恵などを駆使した彼女らしいプレーを期待したいですね』

青嶋『そうですねー』

やよい「あの・・・、だれですか・・・?」

主審「・・・。」ピッ!

副審1「・・・。」バッ


青嶋『おお、主審が高槻を促します』


やよい「えっ? えっと・・・・・・」


青嶋『これは・・・どうやら状況を理解しきれていないようですね』

折場『無理もないですよ。死というものは簡単に受け入れられるものではないですからね』

やよい「あのー・・・。助けてくれたんですか・・・?」

主審「・・・。」

やよい「私、どうなっちゃってるんですか・・・?」

副審1「・・・。」

やよい「うぅ・・・なんで何も言ってくれないんですか・・・」

副審2「・・・。」


やよい「もしかして・・・・・・、私、死んじゃったんですか・・・?」

主審「・・・。」

やよい「だっ、だって! ここで転んだはずなのに・・・。おりてるときに滑ってそれで・・・。それなのに痛くないし、怪我してないし・・・。おばけになっちゃったんですか・・・?」

副審2「・・・。」バッ

第4審判「・・・。」2:29

やよい「にじかんにじゅうきゅうふん・・・。もしかしてあとこれだけしか・・・?」


青嶋『折場さん、この2時間29分というのにはどのような意味があるのでしょうか?

折場『これは牛肉の値段ですね。1パック229円、にっ肉、という語呂合わせだと考えられます』

青嶋『これは・・・かなり苦しい語呂合わせのようにも感じますが』

折場『なんで肉って言うのにつまるんだよって話ですよね』


やよい「にじかん・・・にじゅうきゅう・・・。にーにーきゅう・・・。ににく・・・」


やよい「・・・ってあ゛っ! い、今何時ですか!?」

主審「・・・。」トケイバッ

やよい「あと5分! 肉が! 特売急がないとー!!」ダッ


青嶋『さぁ、高槻やよいが動きました!!』

折場『軽快なフットワークですね。調子のよさが感じられて好印象です』


やよい「うっうー!!」ダダダダダッ


青嶋『それにしても、死に直面しても特売に急ぐというのは』

折場『とても彼女らしいですね。彼女にとってのすきやきとは4年に一度のフェスティバルですからね』

青嶋『もしかしたら、まだよくわかっていないという可能性は?』

折場『十分に考えられますね』

青嶋『さぁピッチには続々と選手が集まってまいりました!』

<うっうー!

青嶋『そして、高槻も今、到着したようです!』


やよい「なんとか・・・、なんとか間に合った!」

主審「・・・。」ゼェゼェ

副審1「・・・。」ゼェゼェ

副審2「・・・。」フラフラ

第4審判「・・・。」バタッ


青嶋『おっと、審判団はやけに疲れていますね』

折場『始まったばかりでこれですからね。もうちょっと体力をつけた方がいいですね』


ワイワイ・・・ガヤガヤ・・・


やよい「はわっ、すごい人・・・」

やよい「うぅ・・・でも負けられません!」

やよい「あの、すみません!ちょっとだけ・・・」ギュウギュウ


青嶋『激しい鬩ぎ合いです!』

折場『さながらフリーキックのゴール前における様相ですね』

青嶋『やはりここでのポジショニングは重要ですよね?』

折場『そうですね。ここの位置取りは後々点数に大きく影響してくると思いますよ』


やよい「あぅぅ・・・ちょっとだけですからー・・・」ギュウギュウ


青嶋『しかし高槻、いまいち前に出てこれません!』

折場『やはり体格差がありますからね。この場ではその分不利になりますよ』


やよい「あうぅぅ・・・全然前に行けない・・・」


折場『あ、店長が笛を咥えましたよ』

ピ——!
ワァァァァァァッッ


やよい「あ゛あっ!? もう始まっちゃったんですか!?」


青嶋『さぁ笛が吹かれました! 試合開始です!』

青嶋『各選手、精肉コーナーへまっしぐらです!』

青嶋『注目の高槻は?』

折場『かなり後ろの方にいますね。もうすこし上がってきてもいいと思います』


やよい「うぅぅ、出遅れちゃった・・・」


青嶋『さぁしかしここは切り替えていきたいところ』

折場『まだチャンスはありますからね。踏ん張りどころです』


\お一人様三パックまでです!/
ワァァァッキャァァァ


やよい「あっあの! 肉っ! 牛っくださいぃ〜」


青嶋『精肉コーナーの前には分厚い壁が立ちはだかっています!』

折場『恐れてはだめですよ。なんとしてでもセーブしてやるんだという気持ちです』


やよい「あぅぅ押さないでくださいぃ、私にも肉をください〜」


青嶋『しかし高槻のマークが激しく前に進めません!』

折場『ねちっこく付いてきますね〜。肉に近づけさせないですからね〜』


\数はお守りください!三パックまでです!/


<本当にお買い得ねぇ!

絶好のチャンスね!>

<今夜はすきやき三昧よ!

ギャーギャー!!ワァァァッ!!


やよい「あの! ちょっとだけっ! 肉〜!」

ドン!

やよい「わあっ!」ドテッ


青嶋『あぁっとこれは危険なプレー!!』

折場『カードが出てもおかしくないですよ』


青嶋『だがしかし、審判がいません!』

折場『さっき入口で休んでましたね』


やよい「ううぅぅ・・・でも買って帰らないと・・・。みんなすきやき楽しみにしてるし・・・」

やよい「うっうー! どいてくださいー!」バッ


青嶋『高槻、果敢に飛び込んで行ったー!』


ドン!

やよい「はわっ!」ドテッ


青嶋『しかしすぐに押し返されてしまった!』

折場『ちびっこ相撲みたいになってますね』


青嶋『そして、ここでやっと審判団が到着したようです!』


主審「・・・。」ピッ!

やよい「ううぅ、わかってますよー・・・でも・・・」

主審「・・・。」ピッピッ!


やよい「うぅぅ・・・あの、ちょっとだけ変わってもらってもいいですか?」

主審「・・・。」!? ピッ!

副審1「・・・。」!? ビシッ

副審2「・・・。」!!!??


青嶋『これは?』

折場『責任を押し付け合ってますね。ここは男らしく名乗り出てほしいものです。まぁ僕も嫌ですけど』


主審「・・・。」ピピー! ビシッ


青嶋『ああっと! ここでカードが出されました! 副審2にイエローカードです!』

折場『ちょっとこれは理解できないですね』


副審2「・・・。」ガーン

副審1「・・・。」バッ

副審2「・・・。」オズオズ


副審2「・・・。」ダッ

<アタァ!!

副審2「・・・。」アベシッ!


青嶋『そして副審2もはじき返されてしまった!』

折場『主婦の体をあまり甘く見ない方がいいですよ。火事場の馬鹿力ってやつで、戦闘値が上がってますから』


やよい「やっぱり私が頑張らないと・・・!」

やよい「どいてくださいー!」バッ

ブンッ!

やよい「!!」クルッ


青嶋『おお! ここで高槻が魅せます!』

折場『ダンスやってますからね』

青嶋『ジャクソンもびっくりな華麗なターン! もう牛肉は目の前だ!』


やよい「うっうー! そこだっ!」

ヒュッ!バシッ! 

やよい「!?」スカッ

ポーン・・・

やよい「あっ! 肉が!」


<ホッ!
ナイストラップ!>


青嶋『ああっと! ここで連係プレー炸裂! 一人がパックを弾き飛ばしてもう一人が胸で買い物かごに押し込んだ!』

折場『正につないで取るプレーですね。素晴らしい連携です』

青嶋『さぁこれですべての特売パックが主婦の手に渡りました! 試合終了です!』


やよい「うぅぅ・・・すきやき・・・すきやき・・・」


青嶋『がっくりと項垂れます高槻!』

折場『2010年のワールドカップを彷彿とさせますね』


やよい「うぅ・・・なんで・・・」


<おほほ、あらあの子買えなかったみたいよ

やだ、あたし悪い事しちゃったかしら?>

<そんなことないわよ〜

でもやっぱりあれかしら。世の中勝ち組と負け組に別れちゃうのかしらね>

<あらやだ! そんなホントの事言ったら悪いわよ!おほほ!


やよい「お肉・・・なくなっちゃった・・・」

やよい「死ぬ前に食べてみたかったなぁ・・・本物のすきやき・・・」


やよい「すきやき・・・すきやき・・・牛・・・」

やよい「うぅぅ・・・肉・・・にく・・・」ユラッ


青嶋『おっとここで高槻がゆっくりと立ち上がります!』


やよい「にく・・・こんなところに・・・にくが・・・」フラフラ


折場『ちょっと危ないですよこの動きは!』



やよい「にく・・・にく・・・」

やよい「おいしそう・・・和牛・・・」


青嶋『ああっとこれは!!』

折場『黒毛和牛だっ! えぇっ!? 買っちゃうの!?』


やよい「かすみも長介も浩太郎も浩司もお父さんもお母さんも・・・。みんな喜ぶだろうなぁ・・・」

やよい「値段もお手頃・・・」



特選黒毛和牛肩ロースうす切り(すきやき用) 
            
       一パック(200g)  1890円



やよい「・・・。」


やよい「お値段もお手頃・・・」


      一パック(200g)  1890円



やよい「うぅぅ・・・三パックで・・・ぜろ・・・なな・・・」


やよい「5670円・・・・・・」





やよい「・・・・・・買えます」


やよい「買えます・・・買えるんです!!」

やよい「私死んじゃうから・・・だから今日は特別に買えるんです・・・!」

やよい「死んじゃう前に一回ぐらい・・・! 一回ぐらいおいしいおいしいお肉が食べたいです!!」

やよい「うっうー!!」バッ


青嶋『黒毛和牛を手に取った!』

折場『歴史的瞬間だ!!』

青嶋『そしてそのままカゴの中へ入れ・・・・・・ない! 止まってしまった!』

青嶋『高槻、パックを手にしたまま微動だにしなくなってしまった!』


やよい「うぅぅ買うんです・・・! 黒毛和牛を買っていいんです・・・!」


やよい「買ったら・・・家帰って・・・すきやきを食べて・・・」

やよい「そしたらお腹いっぱいになって・・・」

やよい「そしたら来月のお金なくなっちゃって・・・」

やよい「みんなお腹がすいちゃって・・・そしたら・・・そしたら・・・」


青嶋『折場さん、高槻の手が戻ってませんか?』

折場『ふと正気に戻ったんでしょうね。良心の呵責ってやつです。今彼女は一瞬でもいい思いをするか、後々の事を考えてここは我慢するか、その狭間で葛藤していますよ』


やよい「うぅぅ・・・本物のすきやき・・・」

やよい「食べたい・・・だけど・・・」

やよい「うぅぅ・・・ぐすっ・・・すきやきぃ・・・」




やよい「ぐすっ・・・ばいばい、すきやき・・・」


青嶋『そして今! 特選黒毛和牛を置いたぁ!!』

折場『寸での所で堪えましたね』


青嶋『高槻! 未来の糧となるために泣く泣く精肉コーナーを離れます!』

青嶋『そして高槻は青果コーナーへと向かいます!』


青嶋『手に取ったのは・・・もやしですか?』

折場『1袋12円のもやしですね。安いですねー』

青嶋『あぁ、そして今もやしを買い物かごにかき集めます!』

青嶋『それはまるで甲子園の砂を集める高校球児のよう! 一心不乱に涙で顔を歪ませながらかごにもやしを詰め込みます! 牛肉を手にしないまま去りぬれど もやしの栄冠は君に輝く!』


やよい「うぅ・・・えっぐ・・・ぐすっ・・・」ゴソゴソ


ガラガラ

やよい「・・・。」

長介「あ、姉ちゃんおかえりー。遅かったじゃん」

やよい「・・・。」

長介「・・・姉ちゃん?」

やよい「・・・長介、ごめんね」

長介「え?」

やよい「牛・・・買えなかった・・・」

長介「・・・・・・えっ?」


長介「えっ!? ど、どういうこと!?」

やよい「ごめんね・・・お姉ちゃんお肉買えなかったよ・・・」

長介「買えなかった!? じゃあこの袋は?」

やよい「・・・もやし」

長介「まじかよ・・・」


長介「あの・・・すきやきは・・・?」

やよい「うぅぅ、ごめんね・・・」

長介「いや、別に謝らなくても・・・」

やよい「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」トボトボ

長介「あちょっと、姉ちゃん? どこ行くの?」

やよい「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」ガラガラピシャッ


かすみ「あれ?お姉ちゃんは?」

長介「なんか部屋入っちゃった・・・」


やよい「嘘ついちゃいました・・・」

やよい「ごめんねみんな・・・。お姉ちゃんもっと頑張ればよかったね・・・」

やよい「でも、次はきっと本物のすきやき食べさせてあげるから・・・」


やよい「・・・。」


やよい「私、死んじゃうんでした・・・」


やよい「死んだらどうなるんだろう・・・。おばけになるのかな・・・星になるのかな・・・?」

やよい「天国に行くのかな・・・それとも地獄かな・・・」

やよい「私が死んでも、みんな生活できるかな・・・」

やよい「かすみはお料理できるかな? 長介は弟の面倒見れるかな? お父さんお仕事見つかるかな・・・」


やよい「・・・。」


やよい「・・・どうせ死んじゃうんだからそんなこと私には関係ないかな」


やよい「もうわかんないや・・・」

やよい「はぁー」パタン

やよい「私は・・・きっとこのまま・・・」


やよい「・・・。」



やよい「・・・あれ?」

やよい「本だなに知らない本が・・・」


やよい「じぇい、えす・・・?」


やよい「はわっ、すごいおしゃれな人。ファッション雑誌かな?」

やよい「11才・・・。年下・・・?」

やよい「誰のだろう? 長介の・・・じゃないよね。女の子向けの服だし・・・」

やよい「ということは、かすみの・・・?」


<おねーちゃん? 入っていい?


やよい「あ、かすみ」

かすみ「お姉ちゃん何かあったの?」

やよい「あ、うん・・・。大丈夫だけど・・・」

かすみ「ほんとに? 元気ないよ?」

やよい「うん・・・。ごめんね? それより・・・これ」

かすみ「!」


やよい「この本、かすみの・・・?」


かすみ「あぅそれは・・・」

やよい「あっ別にこういう本持っててもいいんだよ! でも、どこで買ったのかなーって・・・」

かすみ「その、えっと・・・友達からもらったやつだよ」

やよい「もらったの? 借りたんじゃなくて?」

かすみ「うん。同じの二つ買っちゃったらしくて・・・」

かすみ「それに、前に似たような特集やってたから、いらないって」

やよい「ほぇー・・・」


かすみ「そのっ、ごめんねお姉ちゃん! やっぱりこんなのジャマだよね! 明日返してくるよ」バッ

やよい「あっ、かすみ・・・」


かすみ「やっぱり変だよね・・・。こんなの私には似合わないよね」

やよい「そ、そんなことないよ! ・・・たぶん」

かすみ「私もこんなの似合わないと思ってたんだ。こんなのモデルさんが着るやつだよね」

やよい「うぅ、ごめんねかすみ・・・。でも、私もこんな服着たことないから・・・」

かすみ「ううん、いいんだ。気にしないでお姉ちゃん。そんなことより、ご飯できたよ!」


やよい「えっ・・・かすみが作ったの・・・?」


かすみ「えへへ、上手くできてるかわかんないけど」

やよい「大丈夫!? 指とか切ってない?」

かすみ「大丈夫だよー。お姉ちゃんがお料理しているとこいつも後ろからみてたもん」

やよい「でも・・・」

かすみ「いいんだよお姉ちゃん。お姉ちゃんいつもがんばってるから、できるだけお手伝いしたいし!」

やよい「かすみ・・・ごめんね?」

かすみ「もー謝らないでよー。食べよ! お姉ちゃん!」


やよい「えーっと、その・・・。まずはすきやきじゃなくてごめんなさい」


長介「別にいいよそんなこと! これもおいしいから!」

浩太郎「べつにいいよそんなこと! これもおいしいから!」

長介「こらっまねするな」

浩太郎「してないよーだ!」

長介「してたじゃないかさっき!」

かすみ「もーケンカしないでよー」


浩司「ねぇねぇこれってすきやき?」

かすみ「違うよ。もやしだよ」

浩太郎「ゆきぐにもやしっていうんだぜ!」

長介「ばかそんな高いやつじゃないし」

かすみ「雪国もやしって本当は高くないよ?」

長介「え? あ・・・し、知ってるし! そんなことジョーシキだし!」


かすみ「えーホントに知ってたの?」

長介「あたりまえだろ! 細かいことをさっきからうるさい!」

かすみ「えー? 絶対知らなかったよー」

長介「知ってるって言ってるだろ! いい加減にしろ!」

浩太郎「ねーはやくしよーよー」

浩司「そーだー」

かすみ「そうだよ長介。ね、お姉ちゃん?」



やよい「・・・・・・・・・・・・えっ、う、うん! そうだね!」

かすみ「お姉ちゃん・・・?」


やよい「うん! じゃあもやし祭り開催しまーす!」

かすみ「お姉ちゃん・・・泣いてるの・・・?」

やよい「大丈夫! けむりがね!」

かすみ「けむり、そんなに出てないけど・・・」

やよい「あっと、えっと・・・、長介! たれ入れて!」

長介「えっ? う、うん。それっ」

やよい「このお味噌汁、かすみが作ったの?」

かすみ「それは長介といっしょに作ったけど・・・」

やよい「へー、いい匂いだね、よくできてるよ!」

かすみ「あ、うん・・・。ありがとう・・・」

やよい「長介も。ありがとね!」

長介「う、うん・・・」


やよい「みんなが手伝ってくれたからお姉ちゃん安心しちゃった!」

長介「当たり前だろー。俺だってもう色々できるし」

やよい「長介頼もしい! だから・・・これからは私がいなくても家のことはできるよね?」

長介「え? う、うん、がんばる・・・」


やよい「かすみも。かすみも長介と協力して、お料理したり、お洗濯したり、あとお買い物したりできよるね?」

かすみ「うん、できるけど・・・どうしてそんなこと言うの?」

やよい「どうしてって?」

かすみ「なんだか・・・お姉ちゃんいなくなっちゃうみたいな言いかたで・・・」

やよい「もしもの話だよ! もしもの話!」

かすみ「もしも・・・」


やよい「そう! 深い意味はないから気にしなくてもいいんだよ?」

かすみ「・・・そっか」


やよい「浩太郎も。お手伝いできるよね?」

浩太郎「うん! できる! 長介にーちゃん、宿題おしえてあげよーか?」

長介「なんだと!? 生意気だぞお前!」

やよい「こーら。長介もそうやってすぐに怒らないの」

長介「だってこいつが・・・!」

かすみ「長介って浩太郎とあんまりかわんないよねー」

やよい「ねー」

長介「うっうるさい!」


やよい「長介が浩太郎ぐらいの時、すっごく大変だったんだよ?」

長介「うぐっ、いつの話だよ・・・」

やよい「長介、いつも私に意地悪するし。それなのに叱るとすぐ泣いちゃうんだから」

かすみ「あーそんな感じだったかもねー」

長介「そ・・・そんなことしてねぇし・・・。おぼえてねぇし・・・」

やよい「でもね、浩司ぐらいの時は、すっっっっごくかわいかったんだよ!」


長介「姉ちゃん! もういいよ!」

浩司「おしえて! おしえて!」

やよい「小さい頃の長介はね、カルガモさんみたいだったんだ!」

浩太郎「かるがもさん?」

かすみ「カルガモってあのカルガモ? なんで?」

やよい「いっつも後ろをついてきたからだよ。おねーちゃんおねーちゃんって」

かすみ「えー! かわいー!」


やよい「どこに行っても絶対はなれなかったよ。ころんだ時も泣きながらついてきたんだ!」

長介「うぅぅ・・・知らない・・・断じておぼえてないそんなこと・・・」

浩司「ちょーすけおにーちゃんかるがもさんなの?」

かすみ「長介が浩司ぐらいの年のはなしだよ」

浩司「ぼくがかるがもさん?」


やよい「あの頃の長介は浩司みたいでかわいかったなぁ」

長介「姉ちゃん!! いい加減にしてよ!! 大体その話、姉ちゃんが保育園の頃のだろ!!」

やよい「えへへ・・・」


長介「ふん! もうやよい姉ちゃんのことなんか知るか! いただきまーすっ!」バッ

浩太郎「あっ! ずりーよ! 長介にーちゃん!」

やよい「いただきまーす!」パクパク

かすみ「お姉ちゃんまで!」

やよい「ほらみんな、早く食べないとなくなっちゃうよ?」

浩太郎「いただきまーす! ここからここまで僕のじんち!」

かすみ「もー、いただきまーす」

浩司「いただきまーす!」


やよい「浩司、おいしい?」

浩司「うん!」

やよい「よかった! ・・・・・・これからも一人で脱走しちゃだめだからね?」

浩司「わかった!」

かすみ「びっくりしたよねーあの時」

やよい「そうだねー。しかも理由がお姉ちゃん探してただったから」

かすみ「長介みたいだね!」

長介「俺は脱走なんかしてねーよ!」


浩太郎「うまい! いきててよかったー!」

長介「それは大げさすぎるだろー。うまいけどさ」

かすみ「浩司、もやし落ちたよ?」

浩司「えーどこー?」


やよい「・・・ねぇみんな」


やよい「私が大変だなーってとき、どうする?」

長介「そんなの、決まってるさ。みんなで姉ちゃんの代わりをして、姉ちゃんに楽させてあげる」

やよい「どうして?」

長介「どうして・・・?」

やよい「だって、みんなもやりたいことあるのに・・・。自分の好きな事やっててもいいんだよ? なんで私を助けてくれるの?」


かすみ「そんなの、家族だからに決まってるよー」


浩太郎「やよい姉ちゃんは家族!」

浩司「かぞく!かぞく!」

長介「家族だからな。というより、なんで今さらそんなこと聞くの?」


やよい「・・・。」


やよい「・・・・・・ううん、なんでもない。じゃあ! 第二弾投下しまーす!」

かすみ「えっもう入れちゃうの?」

やよい「うん! 今日はゴーカにじゃんじゃん入れちゃいますよー!」


長介「あ、こら、お前ここまでが陣地なんだろ? なんでこっちの取るんだよ」

浩太郎「そんなことしらないよーだ!」

浩司「とっちゃだめなの?」

かすみ「そんなのべつにいいよー」


やよい「すきやき、食べたかったけど」

やよい「今日はもやしで大正解だったかも!」

やよい「やっぱりみんなで食べるのが、一番楽しいなーって」

やよい「ねっ! おいしいね! みんな!」


主審「・・・。」

副審1「・・・。」

副審2「・・・。」

第4審判「・・・。」0:08

やよい「はわっ! 長介達が審判さんに!」


やよい「あのー・・・、いきなり出てくるとちょっと困るかなーって・・・」

主審「・・・。」ピッピッ

やよい「えっ? 立つんですか?」

主審「・・・。」ピッ

第4審判「・・・。」0:08


やよい「あぅ・・・そういうことですか・・・。もう時間なんですね・・・」

副審1「・・・。」バッ

やよい「あのっ! 急いでいきますからあと少しだけ!」

主審「・・・。」フルフル


やよい「だめですか・・・」


やよい「あのっ、どうしてもだめですか?」

主審「・・・。」コクッ


やよい「うぅ・・・・・・じゃあ・・・・・・わかりました・・・行きましょう」スッ

副審1「・・・。」ゾロゾロ

副審2「・・・。」ゾロゾロ

第4審判「・・・。」0:07


ガラガラ

やよい「この家を見るのも最後になるんですよね・・・」


やよい「あっ、窓がよごれてる・・・。お掃除し忘れちゃったなぁ・・・それに開けっぱなしだし・・・」

主審「・・・。」ピッ

やよい「はい・・・。行きましょう・・・」



やよい「・・・。」



やよい「・・・・・・あのっ、忘れてたことがあったんで、ほんのちょっとだけ戻ってもいいですか?」

主審「・・・。」ピピピピッ

やよい「あぅ・・・じゃあ、せめて手紙だけでも!」


主審「・・・。」ピピッー イエロカードビシッ

やよい「あっ、そのカードを使っていいんですね! ありがとうございますー!」バッ

主審「・・・。」!?

やよい「ペンも借りますねー。よっと」

主審「・・・。」ピッピッピ!

副審1「・・・。」ヒソヒソ

副審2「・・・。」ヒソヒソ

第4審判「・・・。」ヒソヤバクネ?ヒソ


やよい「できた! えーと、これをそこの窓に・・・えいっ」

主審「・・・。」ピョロロロ・・・

やよい「はい! もう大丈夫ですよ!」


長介「ん? なんだこれ? 黄色いカード?」

かすみ「なにそれ?」

長介「窓から入ってきたみたい・・・」

かすみ「なにか書いてあるの?」

長介「うん。えーっと、おしいれにざいほう?」

かすみ「押し入れ?」


やよい「かすみの服って、いつもお下がりなんですよ」

やよい「私は安売りしてる服とか、バザーとか、あと手作りとかでもいいんです。最初から自分の服ですから」

やよい「だけどかすみは・・・・・・」

主審「・・・。」

副審1「・・・。」

副審2「・・・。」

第4審判「・・・。」0:04


ガラガラッ


かすみ「うーん暗くてみえないよぉ」

長介「えーと、懐中電灯は・・・あった。はい」パッ

かすみ「あれ? 奥の方に何かある?」


長介「よっ、って重っ!」ズシッ

かすみ「ペットボトル? なんで押し入れにペットボトルが?」

長介「ってこれ中に入ってるの全部1円玉じゃないか!? あっ! まだある!」


やよい「ちっちゃいころからためてるって言っても5000円あるかなーってぐらいなんですけどね」

やよい「きっとかすみもそういうことが気になる年だろうから」

やよい「少ないけど、あれで自分の好きな物買ってくれたらなーって」

やよい「あ、かすみだけじゃないですよ。みんなです」

やよい「私、元気だけが取り柄で、それ以外何もないから・・・」

やよい「私をお姉ちゃんでいさせてくれたみんなに、少しでも恩返ししたくて・・・」

やよい「でもやっぱり・・・あれだけじゃ・・・。みんなは家族って言ってくれたけど・・・」

やよい「最後が1円玉って・・・。なんだか申しわけないです・・・こんなお姉ちゃんで・・・」


・・・・・・・・・・・・
・・・・・・

主審「・・・。」

副審1「・・・。」

副審2「・・・。」

第4審判「・・・。」0:02

やよい「ついちゃいましたね・・・」


やよい「・・・・・・あの、私本当に死んじゃうんでしょうか?」

主審「・・・。」コクッ

やよい「そうですか・・・。えへへ・・・なんだか実感ないですー・・・」

副審1「・・・。」バッ

やよい「階段降りればいいんですね。そしたら・・・私は・・・」


やよい「・・・。」タンッ…タンッ…

やよい「・・・お父さんとお母さんに会いたかったなぁ。いきなりいなくなっちゃうなんて怒られちゃいます・・・」

やよい「それに、事務所のみんなにもあいさつしておきたかったです・・・」タンッ

やよい「伊織ちゃん、なんて言うかな。怒るかな。それとも泣いちゃうのかな」タンッ

やよい「プロデューサーも。もっと一緒にもやし祭りしたかったな」タンッ

やよい「春香さんのおかしまた食べたいな。あ、私がいなくなったら事務所の掃除は誰がやるんでしょうか」タンッ


やよい「まだまだやること沢山です・・・」タンッ


やよい「それなのに・・・・・・。やっぱり私は・・・だめな・・・」タンッ



主審「・・・。」トントン

やよい「・・・えっ?」ピタッ


主審「・・・。」

やよい「審判さん・・・?」

主審「・・・。」


やよい「・・・・・・私って、だめなお姉ちゃんでしたか?」


主審「・・・。」フルフル


やよい「じゃあ・・・・・・」


主審「・・・。」コクッ


やよい「・・・。」



やよい「・・・えへへ、ありがとうございますー」


やよい「それじゃあ・・・・・・行きますね」タンッ

主審「・・・。」


やよい「・・・。」タンッ



タンッ・・・タンッ・・・


副審1「・・・。」

副審2「・・・。」

第4審判「・・・。」0:01


タンッ・・・タンッ・・・



やよい「・・・。」タンッ



タンッ・・・タンッ・・・





やよい「ありがとう・・・・・・」


タンッ・・・






0:00



ピ————ピ————ピ————————————!!!




・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



ED:ORANGE RANGE  君station


終わりですよ!終わり!

元ネタは、ロスタイムライフ3話スキヤキ編より

ロスタイムライフって当時は恐ろしい印象しかなかったが、今みたらなかなか泣ける

ありがとうございます!


やよい「痛っ!」

響「ここが新宿駅かぁ」

響「問題!」

春香「問題!」

響「自分、完璧だぞ」


ざっとこんな感じです

次回予告

第4節 事務員編


小鳥「もう何もかもが嫌になりました」

社長「心中!? 君と私がかい!?」


死んだ女と


小鳥「あたしはここがいいんです!! というかここが現場なんですよ!!」

社長「何を言うか!! 私だってここで死ぬつもりだ!!」


死にたい男の


小鳥「で、会社のお金、いくら盗んだんですか?」

社長「魔がさしたんだ・・・。済まない・・・」


ちょっと短い珍道中!


小鳥「許せない・・・あの男・・・」

社長「男性に振られたぐらいで死ぬなど・・・」


次節も応援よろしく!


小鳥「結婚したいピヨ・・・」


                    つづかない

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